体制転換期のロシア繊維産業:...

28
120 体制転換期のロシア繊維産業 : 生産低下の実態 と要因* は じめ に 3 企業行動の違い 1 危機の要因 4 企業グループ 2 企業パフォーマンスの差異 ソ連邦崩壊 と市場経済化過程のもとでロシア経済は, 「戦時共産主義」期や第=次世界大戦 期 に匹敵す るはどの深刻 な打撃 を受 けた.表 1 によると 1995 年の GDP1990 年のほぼ半分の 水準 (53 %)にまで低落 している 。GDP 低下率は減少傾向にあるが,96 年度 も依然 として対 前年比 6 %の低下を記録 してお り,危機的状況が継続 しているといえる。次に鉱工業の部門別 生産量では,物量単位で生産の落ち込みが最 も少ないのは電力業,落ち込みの最 も救 しいのが 軽工業,ついで機械工業,木材加工 ・パルプ工業である。建設資材工業の生産低下 も厳 しい。 特 に近年の軽工業の落ち込みは,その他の産業部門で低下率の減少が見 られる中で際だ ってお 也,95 年の生産高は90 年の僅か19% である。 しか しなが ら軽工業,特 に繊維産業の壊滅的状況に関 してはエ ピソー ド的な記事はあ って も 包括的に産業の実態を救 った研究はまだ少な く,当該産業の崩壊の実像 も将来の予測 も明確 な ものは存在 しない0本稲では,連邦崩壊以降,96 年までの軽工業の生産崩落の実情 と原因につ いて, この部門の大半 を占める広義のテキスタイル産業を中心に検討 したい。なお 「軽工業はロシア国家統計委員会の統計上は,テキス タイル,縫製,皮革 ・毛皮 ・靴 (その他雑貨.陶 器 を含む)の三つ に分類 され,テキスタイルは織物,靴下,メリヤス.練敬を含んでいる1). しか し林蔵か ら最終加工製品までを含む広義のテキス タイ)i,(繊維産業) を考えるならば,軽 〔キー・ワ-ズ〕 ロシア繊維産業.体制転換,企業行動,企業グループ * 本箱執筆にあたり,本学田畑理一教授,本誌レフェT)-より有益なコメントを賜りましたことを. 感謝します。 1) 化学繊維は,化学 ・石油化学工業に分類されるC

Upload: others

Post on 23-Jan-2021

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

120

体制転換期のロシア繊維産業 :

生産低下の実態と要因*

藤 原 克 美

は じめ に 3 企業行動の違い

1 危機の要因 4 企業グループ

2 企業パフォーマンスの差異 む す ぴ

は じ め に

ソ連邦崩壊と市場経済化過程のもとでロシア経済は,「戦時共産主義」期や第=次世界大戦

期に匹敵するはどの深刻な打撃を受けた.表1によると1995年のGDPは1990年のほぼ半分の

水準 (53%)にまで低落している。GDP低下率は減少傾向にあるが,96年度も依然として対

前年比6%の低下を記録しており,危機的状況が継続しているといえる。次に鉱工業の部門別

生産量では,物量単位で生産の落ち込みが最も少ないのは電力業,落ち込みの最も救しいのが

軽工業,ついで機械工業,木材加工 ・パルプ工業である。建設資材工業の生産低下も厳しい。

特に近年の軽工業の落ち込みは,その他の産業部門で低下率の減少が見られる中で際だってお

也,95年の生産高は90年の僅か19%である。

しかしながら軽工業,特に繊維産業の壊滅的状況に関してはエピソード的な記事はあっても

包括的に産業の実態を救った研究はまだ少なく,当該産業の崩壊の実像も将来の予測も明確な

ものは存在しない0本稲では,連邦崩壊以降,96年までの軽工業の生産崩落の実情と原因につ

いて, この部門の大半を占める広義のテキスタイル産業を中心に検討したい。なお 「軽工業」

はロシア国家統計委員会の統計上は,テキスタイル,縫製,皮革 ・毛皮 ・靴 (その他雑貨 .陶

器を含む)の三つに分類され,テキスタイルは織物,靴下,メリヤス.練敬を含んでいる1).

しかし林蔵から最終加工製品までを含む広義のテキスタイ)i,(繊維産業)を考えるならば,軽

〔キー・ワ-ズ〕

ロシア繊維産業.体制転換,企業行動,企業グループ

* 本箱執筆にあたり,本学田畑理一教授,本誌レフェT)-より有益なコメントを賜りましたことを.

感謝します。

1) 化学繊維は,化学・石油化学工業に分類されるC

Page 2: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制も換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要El 121

表1 ロシアのQDPと部門別生産丑の推移 (1990-loo)

実 質 GD P 74 65 55 53

鉱 工 業 7596 65 5183 5080電 力 業 91

燃 料 工 業鉄 飼 葉 8777 7765 6953 6858

非鉄金属工業化学.石油化学工業横 機 工 薫 687377 595865 534445 544740

木材加工り ルヾプ工業 78 6365 4447 4245建設資材工業 78

軽 工 業 64 49 26 19

テキスタイル 63 48 26 19

経 基隻皮革.毛皮.礼 7070 5955 3328 1919

出所) rloEiFEONC・rATPo00JZE,PocOM A ZtJZ4IPAX 1998. 0EZIAZZCZdECTA℡EE)・PEX&.NocrL8,1996.C281

工業はその大部分が広義のテキスタイルで占められていることになる。したがって本稿では,

資料の制約も考慮 したうえで,繊維産業を示すものとして軽工業の指標をしばしば代用する。

また,狭義の紡織産業に 「テキスタイル産業」,広義のテキスタイル産業に 「繊維産業」の語

を用いる.なお,テキスタイル部門はロシア共和国工業省内部のテキスタイル部によって,港

製,皮革 ・靴 ・雑貨 ・陶器部門は軽工業部によって管轄されている。

まず繊維産業の壊滅的状況を数字によって確認しておこうo

第-に,すでに指摘したように軽工業の生産の低下は著しい。鉱工業に占める軽工業の比重

は生産額ベースで91年の7.02%から95年には2.38%にまで低下しており2),1990年には国家財

政収入の26.4%を占めていた繊維産業は現在はわずか2%を収めるにすぎない3)。また図 1は,

一部生産品目について1928年以降の生産量の推移を指数化したものであるが,いずれも五ヶ年

計画開始以前の1928年水準に近づきつつあり,第二次大戦以来の落込みであることがわかるo

表 1にもどると体制崩壊後の期間では94年以降の落ち込みが特に激しいが,生産停止の頻度も

これに呼応して上昇している。95年中に操業を停止した企業は40%にのぼり全産業平均の2倍

であったという4)Cまた同表からは,体制崩壊直後にはテキスタイルの生産低下が顕著である

が,ここ1-2年は縫製,皮革 ・毛皮 ・靴の低下率が高いことが読みとれる。

次に雇用状況に日を転じると (表 2),工業生産人月捻数の低下とともに,鉱工業部門に占

2) TheMarketoLLlghtIndustryProducts,Fo'ytg打TTlade,Moscow,1995/ll,p.29.

3) くT8XOTⅡjILZlaJtEPOMHmIeEE○○℡Z,).JVi44996,C.3.およびm31998,86

4) くTexoT7lJIE.ElAEⅡPOMZdLElJIeZtZlOGTZ,),JVi9-101994,0 4

Page 3: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

122

(00

1=叶斡

6T)叫瑚廿

経済学雑誌 第98巻 第2号

図1 鞍維製品の生産量の推移

表2 部門別年平均工集生産人員数

・・-●一 綿織物

-」■一 毛良撫

ー 亜麻布

(人貞数:千 .̂都合.%)

1990 1993 1995

鉱 工 業 20.998 100 18,864 100 89.8 16,037 100 76.4

重 工 業 17,084 81.4 15.520 82.3 90.8 704850726522 4.45.34.53.3 129.2106.192.5107.2電 力 業燃 料 工 業R J t非鉄金属工業 545801785487 23326873 666886788542 34425729 1221101001112643

機 械 工 葦木材加工.パルプ工業建設資材工菜 9,6521,1301,7921,097 465850452 7.9331.1091,6411.095 425851978 829891992268 962i.402994 6.08.76.2 85.178.290.6

軽 工 業 2,288 10.9 1,699 9.0 74.3 1.368 8.5 59.8

出所) rooKOMO・PA℡ Poooxx.PoooEFlB叩OpAエ1996,OyIEW CAl耳CTJm CYXZIEL.LloDXBA.1998.C37.2881808をもとに作成。なお.鉱工業には建設は含まれない。

める軽工業部門の人点の比重の低下が観察される。また年次別推移をとると,1995年の対1990

年比率は軽=業では約60%で,他産業の水準を大きく下回っている。すでに92年において隠れ

た失業は70%,24万人にのぼるといわれていたが5),経済条件が悪化する中で,このような余

剰人貞の一部が自発的または非自発的に当産業を去ったことがうかがえる。失業の脅威は深刻

で,特に繊維の街イヴァノヴォ州の公式失業率は96年初頭に13.3%となっており,他の地域よ

り23%も高い6)。 このように失業の顕在化が徐々に進行しているが,潜在的な失業者も依然と

して多い。操業率の低下によって,繊維工業労働者のうち約半数が不完全就業の状態にあると

5) くTeztc・p甘瓜m穴ZlPOhfHⅢJlBmOC・Ph),mll1992,0.3.

6) くtlenoDeM TpyA),州81998.0.18-19

Page 4: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要EB 123

黄3 部門別工業生産人見平均月給 (ループ71,)

鉱 工 業 310.9 7,064 63,447 228,528 528.829

重 工 業 319.0 7,230 64.508 450.973 985,846電 力 業 366.4 13,248 122.899

車 ≠ 工 や 447.2 17,368 149477 521,246I.210351

鉄 鋼 業非鉄金属工業 353.1440.3 10,20014,991 83126948949 266.600433,974 6431,060333131

機 械 工 業化学.石油化学工業 305.3292.5 5,2277,678 4859440383 175.902207.111 403508244294

木材.パルプ工業 307.7 6.589 52585 183.638 450586

建設資材工業 316.1 6,927 67669 250.337 522933

軽 工 業 248.6(80.0)' 5,109(72.3)● 41(654133)■ 118,037(51.7)● 265(50583○l l-

テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

縫 製 232.4 3ー957 37810 107.616 206799

皮革.毛皮.戟 269.4 6,137 47587 137.124 403,164

出所) r'o¢JtOMOT&TPo¢¢M.nPOhlNJme附OCでhPoocEX.MocmA.1996.C 81-8B

*括弧内は砿=兼平均に対する比率。

いわれている7)。同時に,このような潜在的失業は,労働者の賃金水準の低下にも寄与してい

る。表3に見るように軽工業の平均賃金は鉱工業のうちで最低水準にあり,鉱工業平均の半分

程度にしかならない。

さらに企業の資金状況を示す一つの手がかりとして赤字企業の割合をみると,軽工業の赤字

企業の比率は上昇傾向にあり,しかも鉱工業のうちでは石炭業と木材加工 ・パルプ工業につい

で高い (表4)O-部の推計では 「公式の基準でほぼ80%が潜在的倒産状況にある,つまり非

常に危険な資産状況にある」と言われている8)。1994-1995年にかけて連邦倒産局によって支

払不能 (倒産)と宣告され,処理の具体的検討がはかられている連邦所有企業は20企業以上に

のぼる。企業の処遇が所有主体である国家や自治体で具体的に検討されるケースはまだ限られ

ているなかで,この数字は他の産業と比軟して多い9)0

このような状況から,繊維産業は産業としての死滅の危掛 こ瀕しているとさえしばしば言わ

れているo体制崩壊直後には,厳しい状況の中でも比較的楽観的な論調であった業界誌.rテキスタイル工業J(TozEc・pH∬柑Afr叩 OMZJElnOEEOOVL)や r縫製工業Jl(ⅢELe血&JZⅡpOJdpmneE-

EOOVZ') でさえも次第に深刻な トーンを吐露してきており,政府に対する要求にも変化がみち

7) TaM He.

8) TAM Xe 公式倒産基準の主要3指標は.(》流動比率,(参自己資本比率.⑨当座比率である。

くTeztoTFJIZ,ZlAE叩 OZdZdⅢJIeEm CVZ,),此11996,0.6.

9) (mBO血 eJ" PO7dhlm AeEEO¢Th),JG51995.G.2.

Page 5: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

124 推消羊Il在 中98も 申3号

表4 赤字企業の割合 (港)

% % 15.3 14.0 32.5 36.0

鉱 工 業 7.2 7.8 22.6 26.8

電 力 業燃 料 工 秦 61461 52120 73459 10.835.8

(う ち 石 炭) 208 305 494 49.2

it + a非鉄金属工業 2386 2626 92268 14.135.9

化学一石油化学工業 22 25 129 14.1

機 械 工 業{ 49 52 206 24.9

建設資材工業 5101214 ll942 362308 38.328.5せ エ * 8 123 305 36.4

食 品 工 業 56 58 173 21.4

& # 14.7 10.0 58.7 57.2

建 設 7.6 5.9 14.5 19.7

運 輸 20.7 16.6 28.8 36.4

出所) rocfn)NC℡A℡Pocom,P00oM b岬Opヱ1紳6,O KKAtlOu HOTAm Om&,NooMA,1998.c別0

れる。以前は原料確保を中心とした国家支援の要求が中心であったが,近年では 「構造の変化,

倒産に際して労働者の労働権を守ることおよび社会保障の維持」10)や見込みのあるプロジェク

トへの選択的支横を求めている11)。このような全体的な状況の悪化傾向を考慮した上で,次節

でまず,危機の原因を分析し,つづく二つの節では個別企業のパフォーマンスを決定する要田

を検討する。内容を先取りすれば,三節では個別企業の活動と共に,産業包括的な企業グルー

プの動きが観察される。最後の節で,これらの企業グループが産菜のなかで果たしている機能

を別個に考察する。

1 危横の要因

絶維産業の生産低下に関しては,大きく分けて二通りの解釈がある。第-は,俄維産業の生

産低下繰ドラスチックな産業構造変化を伴う,非効率産業または比較劣位産業のリストラの進

行の-局面を示しており,ロシア社会にとって回避することのできない負担であるという理解

である。第二は,繊維産業の生産低下は,体制転換期に固有の国民経済的不況の一環であり.

したがって一時的現象であるという見方である。筆者の考えでは,構造的 ・歴史的要因と体制

転換によって生じた短期的 ・政策的要因がともに作用しているが,両者の関係および比重は,

体制崩壊直後と現時点では異なっている。

10) (TE'KCTⅡJTゝ ⅡAJt叩 OZdHⅢneEmOCTL).JG9-101994,C3.

ll) (ⅢBO血的叩 OMHmAOZlMCTb).JQ51995,C.5.など。

Page 6: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要田 125

図2 生産停止をもたらす緒軍国

繊維産業の危株の具体的要Eqとしては,原材料コストの上昇,燃料 .エネルギー価格の上昇,

投入財の不足,販売難,運転資金の不足,社会福祉負担の過重などの諸点が一般的にあげられ

ている12)。これらは他産業にも多かれ少なかれ共通する要因であるが,繊維産業においては,

原材料の対外依存度の高さや,大部分が最終消費財およびそれに近い財であるという事情のゆえ

に,その作用の程度が他産業に比べてきわめて深刻であったと考えることができようO

また,生産低下 ・停止をもたらす上記の諸要因は,単に並列的に作用しているわけではなく,

図 2のような因果的な連関をもっている.企業の活動を根底で脅かしているのは,外的障書と

いうよりも低効率 ・低品質をもたらしているところの設備 ・マネージメントを含めた企業のケ

イパビリティである。設備更新のサイクルが長く,全産業にわたって老朽化した設備が多いこ

とは旧体制の特徴であるが,とりわけ繊維産業のような消費財部門は投資優先度が長期にわた

り低かった。1990年の調査によると570台の樺械設備の内20.4%が据えつけ後20年以上を経過

したものであったという13)oまた資本主義的企業経営のノウハウは,一朝一夕に獲得 ・移植で

きるものではないため,資源利用における効率性が依然として低いことは容易に想像できる。

このような事情から,ロシアの繊維産業は晶質やデザイン,価格などの面で国内消費者が満足

しうる商品を供給できず,輸入品との厳しい競争にさらされている。現在の危機は,旧体制か

ら引き継いだこのような否定的特徴と,体制崩壊に伴って発生ないし顕在化した諸要因が複合

的に重なり合って生じたと理解すべきであろう。

つぎに,これまで企業によって生産低下の直濃的要因と認識されてきた(1)原料不足,(2)販売

難,(3)資金難を立ち入って考察したい。

(1)原料不足

ソ連時代の原糸供給地を大別すると,綿のほとんどと毛の大部分を中央アジア連邦共和国,

麻および化繊原料の一部をウクライナ,ベロルシアで産出し,寿削よその原料の多くを外国から

12) (○叩 AEOOBHe E8ZIOCTm ),JG55,19-25JIOJ16pJ7,1083,0.4.

13) くT帥OT即hf'&J" PCNLlmTefmOCVL),JGll1992,0 10.-枚的に20%の役億が設置後20年以上のものだ

と言われている。くTolE〇・p冗払 fl8丹叩 OM4EZJIBTZZO¢TE,),bG7-81994.0.4等。

Page 7: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

126 経済学雑誌 第98巻 第2号

表5 C AS諸国からロシア共和国への棉および毛原料の輸入 (千トン,%)

1991 1992 1993 1994 1995

実境 実績 前年比 i+ 前年此 実績 前年比 実績 前年比

綿原料 1126.7 507.2 45.02 654.2 128.98 440 67.26 219,6 49.91

出所) rooztoNCTAVPooBJLE.PoocJlAcEE卓〇・r抑耳BmOOm食exopoJIHEX1994.MocxzL&,19940430 およびro¢ⅩoMOTBTPo00W,PoccLJ" WOp&エ1996,0mAIJOl 1 CTATJlCTJIm.MooKm,1帥6.C,153.をもとに作成。

の輸入に頼っていた。そのためコメコンの解体とソ連邦崩壊の過程でそれまでの資源配分機構

が統制力を失い,原材料供給網が漸次分断されると,ロシア繊維企業は凍刻な原材料不足に直

面するDロシア繊維企葉が国内で調達することができるのは必要な原料のうちわずか23-28%

といわれている14)O原斜調達を巡る経緯を綿についてやや詳細にみてみよう15)。

ロシアの紡親企業は90%以上の原綿を旧ソ連中央アジア諸国,特にウズベキスタンとトルク

メニスタンに頼っていたが,1992年には CIS諦Blからの輸入は対前年比45%に激減した (表

5)01993年にはロシア政府は,中央7ジア藷共和国との主要産物供給を巡る政府間協定の一

つとして原綿調達契約を結んでいる。その内容はロシアの石油を世界市場価格より安く供給す

る代わりに中央アジアから綿花を輸入するというバーター取引である。この契約の実行に当

たっては,かつてのゴススナプ (国家資材技術供給垂貞会)のメンバーの一部によって設立さ

れた国営企業 「ロスコントラクト」が窓口となることになった。

表 5によると1993年には僅かながら原綿の輸入が増えており,この契約が幾らかの成果を生

みだした可能性はある。しかしながらこの制度には幾つかの重要な欠陥があった。まず初めに,

契約は国家的な利益には適ったものかも知れないが,中央アジアの綿花供給企業にとっては必

ずしも魅力的なものではなかった。「綿花王」と呼ばれる綿花取引の有力組織は中国など他国

の企業へ販売し,ハードカレンシーや食糧,家電製品を受け取ることに,より魅力を感じてい

た。従って国家の企業統制力の低下のもとで結果的には,93,94年ともにトルクメニスタン,

ウズベキスタン両国は政府間協定で定められた量の綿花供給を保証することに失敗した16)。ウ

ズベキスタン政府は95年には,ロシアとの相互調達契約の更新を拒否し,さらにロシアへの綿

輸出を禁止したという17)。

14) (TexcTEJlZ,ZlA月叩07dHDJIOEmCrE,),JG51992,C4

15) 以下の記述は特に,CommeTSanE.12May,1993,p.12,Commersant,19May.1993,ppll112,Com・

menanL,18SeptembeJ・,1993,pp.2ト22,Commersant,29September,1993,pp20-21.を参照。

16) 93年度のロシア政府調達丑は夷約の61.4%であったQ(ToKO和正tH8JHZPOMFmOFE㈱℡ゝ).JG9110

1992,0.7.

17) TheMarketofLlghtIndustryProducts,ForelenTryzde,Moscow,1995/ll,p.31 その一つの要EB

としては,1995年には綿花の国際市場価格が過去11年間で最高のレヴェJi,であったことが考えられる。

ただし(IhehtLq叩OZdmⅡJleEflOOn),湘51995,ら.3.では350トンの契約が成立したとされ,(ToxoTXJI/

Page 8: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要田 127

さらに重要な閉息は輸入綿花の再輸出という現象である。「ロスコントラクト」は1994年に

32万 トンの綿花をウズベキスタンから購入したが,同年に12万 6千 トンの綿花がロシアから輸

出されているのである18)。政府の補助金によりロシア企業は世界市場価格の2/3の価格 (1994

年当時)で原綿を購入することができる。したがって,その綿花を外国に販売することによっ

て1トンあたり400ドルの利益が得られる.このような輸出には,ロスコントラクトやその他

の生産企業の関与が疑われている19)。

またロスコントラクトを通じての原材料購入は,ロスコントラクトへの発注 (前払い)から

原材料到着までの期間が長期にわたるため,運転資金がそれだけ多く必要となり,企業の資金

不足の一要因となる。発注から受け取 りには時として50-60日が必要であり20),現在では本来

的な原料不足よりも,このような制度上の欠陥による供給の断続に批判は移っているようであ

る。

政府間協定の不効率と限界が明らかとなったが,企業のその他の原材料調達手段としては,

取引所や伸介業者の利用の可能性がある。しかしロシアの私的流通機構は全般的に未発達であ

るため,生産者間の直接的な喪約の締結がめざされている。ところが綿花調達は主として

CIS諸国からの輸入に頼らざるを得ないことから2つの制約があった。一つは電話やファッ

クスなどの通信手段の未発達である。そのため,企業が直接中央アジアへ赴き契約を結ぶこと

が望ましいが,それが可能なのは資金的余裕のある企業に限定される。もう一つは制度的な不

備であり,連邦崩壊後,企業間決済は困難をきわめた21)。この点をやや詳しく述べると,1991

年には戦略的製品について政府間でバーター契約が締結されたが92年にはCTS諸国が一斉に

自国通貨を導入し統一ルーブル経済圏は崩壊した.各国間の取引には世界市場価格に基づいて

中央銀行間で取引勘定を相互決済する相互支払バランスの方法がとられたが,決済手続きには

最高 3ケ月を要したという。民間商業銀行がCIS諸国において口座を開設しそれを通じた取

引が許可されるのは,92年後半から93年のことであり,93年末までは実際に機能しなかった。

このような決済制度は時間や手続きの面で共和国間取引を減少させるに十分な要素を含んでい

たと言えよう,

もちろん外貨取引は認められており,企業はハードカレンシー獲得の機会を与えられてい

る22)。したがって世界市場価格で原材料を騰入する余裕が企業にないことは,ロシア繊維産業

\ t.ElAJtlPOHHⅢ皿E'ZIOCm),J6ll1995,C.10.でも,政府間契約は掛fれたという記述がある。1995年末

時点で何らかの契約が締結されていたかどうかは兼確酸である0

18) ロシアテキスタイル・軽工業労働者労働組合中央委貞会議長によると,336千トンの輸入綿花のうち

200千トン以上が海外へ輸出され,80%の毛が海外に流出している。くTpyA).25MALT.1995.C.2.

19) くHEI)CCTEJT),70oIpAJIJt,1995.°.5 尚96年には頼経原料の輸出の禁止措置がとられている。

20) XAOEJtOZ)H血EyvJ,.(9f(0),J631996.C.33-34.

21) 以下の記述はhtemat10Tn)MonetaryFund(1994)等を参照。

22) しかし,輸出獲得外貨の一部弘制穎金は維持されている。

Page 9: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

128 経済学雑誌 弟98巻 第2号

が現在の状況下では,世界市場価格で競争力を持たないことを開溝的に示すものであろう.し

かし,1990年代初旗のテキスタイル産業の原材料調達問題は,それ以前に調整機構の未発達や

制度的な欠陥によるところが大きかったと考えられる。繊維産業は原材料の村 CIS依存度が

高く,ソ連邦の崩壊によ・>て最も探刻な原材料不足に直面した産業の一つであるOしかし近年

では対 CIS諸国を初めとする貿易制皮の整備や私的取引の拡大に伴って,鉱工業全般にわ

たって観察されるのと同様に,生産の制約条件の供給サイドから需要サイドへの移行が観察さ

れる。原材料不足の問題は現在でも少なくない企業によって指摘されており,原材料確保は企

業経営における重要な関心事であることには変わりはないが,個別企業によってより強く認識

されているのは,低い競争力によってもたらされる諸困難,特に販売難と運転資金難である。

関係者の問でも 「もはや原材料不足を理由にできない」という認識になりつつある23)。

(2)販 売 柾

販売のEfl幸削ま,①有効需要の低下と②輸入品の増大の2つに分けて考える必要があろう。

(D 所得 ・生活水準の低下による需要の低下

繊維製品に対する正確な需要を測定することはできないが, 1995年には実質可処分所得は前

年より13%低下した。また実質月平均賃金は26%,年金は19%の低下であった24)。各商品ごと

に需要の所得弾力性には幅があり,所得水準の低下がもたらす影響は一棟ではないが,このよ

うな実質所得の低下は,全般的には繊維製品に対する需要を制約していると考えられる。

また所得格差に関する数字をあげると,20%の高所得者が全所得の45.8%を占め,下層の

20%はわずか6%を占めるに過ぎない25).高所得者層が相対的に低品質の国内製晶の購買者と

なる可能性は他の層に比べて少なく,低所得者層では,公共サービス料金の相対的に激しい上

昇とあわせて,非食料品の最終消費需要は制限されている。したがって1億4800万人弱の人口

を擁し潜在的に巨大な市場の可能性を持ちながらも,現在のロシア繊維需要,特に質的に国内

企業が満たしうるゾーンにある製品の需要は相当制限されているといえる。

(参 輸入品の増大

さらに国内企業を厳しい状況においているのは輸入品の氾濫である。

国家統計委員会によると (表6),既製品輸入額はドル換算で年次減少している。しかしな

がら現実の輸入ルー トには,統計的把纏の困難な 「チェルノーキ」(qeJltl0柑)と呼ばれる担ぎ

23) くToⅨC℡JLJlhZlAJIJ)POMHJEJIOEE00Th),JA31995,0.3. その他の原料について補足をすれば,麻や羊毛は

静達価格が低いためロシア国内で拝を両帝や飼育頭数の減少傾向が叔られ,根本的な改善の兆しはな

い。化学繊維については,ベロJI,シアが化俄原料の供給を拒み,体制崩壊当初輸入のほとんどがス

トップしたが現在は改善の徴候がある。

24) (ⅢzLehaJT叩OMqtElJIOEEOCTL),鵬 21996,0.3. 1996年には.わずかながら実質賃金率は上昇してい

る。

25) rlocRONOVA℡Pooox甘,E-f'OZlOMEⅨAPooOxf'J'Z'B&Ph-N8色19的p.MooxfLA,4996,0.155-156.

Page 10: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要田 129

表6 海外からの重要製品の輸入 (CISを除く) (単位 ;百万米 ドル)

皮 革 衣 類 385 390(101.3) 32.5( 8.4) 16.3( 4.2)

メリヤス衣類 896 845(94.3) 377(42.1) 226(25.2)

出所)rocfECMOで81Po〇〇m,PoooyJtIZPか ■z1996.OmAEOLlEC℡ATEOTmEA,M(IomA.1996,cL152をもとに作成。括弧内は対1992年比 (形)。

図3 ニット軸晶の生産と輪ttl入

輸出人生(単位 :100万着)

生産量(単位 :100万着)

500

400

300

200

loo

輸入 CISCB 輸入 CISCB 輸入 CISCIS

以外 以牡_ 以外

輸出 輸出 輸出

1992* 1993* 1994*出所)TheMarketoLLighthdustryProducts,FwElgnTrade,MoBeOW,1995′11,

p35より作成。

屋式の取引の割合が多いため,この数字が実態を十分に反映したものかどうかは疑問である。

また図3に一例を示したように,別の輸出入統計では,わずか3年間の資料ということもあり,

年次ごとの垂直比軟,あるいは同期水平比軌 生産量との比較ともに明確で有意味な特徴を兄

いだすことはできなかった。繊維製晶の貿易動向は,今後の資料補足を待って再検討をする必

要があろう26)。

このように直接的な数字での裏付けは困難であるが,輸入製品の氾濃は多くの資料の伝える

ところである。『縫製工業J95/7-8号によると織物で40%,ニット製品で50%,靴下で30%が

輸入である27)。さらにより具体的な既製品を調査 した表7によれば,輸入品の割合は漸次増加

傾向にあり.商品によっては1995年末で65-70%にものぼっている。国内市場におけるロシア

製品の駆逐は,ロシア企業の低い生産性,低品質を物蘇っているだろうCヨーロッパから輸入

26) 繊維原料の輸出入についても,同様の課題が残されている。

27) くⅢ玉e虫EW 叩OMuDZleTFOCTh),沌7184995.04

Page 11: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

130 経済学雑誌 第98巻 第2号

表7 販売量に占める輸入品の割合

(サンプル粥査資料による %)

出所) (Ⅲ朋 血AFlTTpozdtdZZMOEEZK・OTZ,),沌21908,04.

黄8 主要剰晶販売における滋争の影曹

出所) ATldreyYakovlev(1996),lndustrlalEnterprlSeSJntheMarketsNewMarketITtgRelatIOnS,Statusand

PerSPeCtjyesofCompetltlOn,JIASA,WP-961048,May,p27内鉢評価は次の4段階評価によって得られた。大

変憩い影等力:4,強い●3,弱い:1,全くなし.0。

されたウールおよびウールタイプ製品はロシア製品よりも2-3ランク晶質が高いといわれる28)O

また,中国, トルコなどからの輸入 も多 く.低価格ゾーンの競争でもシェアを失いつつある。

個別企業 レベルの調査 (表 8)で も,消費財部門である軽工業,食品工業部門の企業は,他

産業と比較 してより強 く競争圧力を感 じている。特に軽工業では CIS以外の諸外国との競争

の影響が大きい。

このような状況を反映 して1995年末より持ち上がったのがロシアとEU 間の繊維戦争であ

る29)01993年以来 EU は MFA30)の代わ りにロシアとの個別契約によってロシアからの繊維

製品の輸入を制限していた。実際のロシアの輸出は,ほとんどの項目で割当量の 3分の 1程度

であったが,EU からの輸入はロシアの輸出額の4倍であったOそのため国内市場における輸

入品の氾濃に直面 し,1996年の更新を前にしてロシア側はこの制限に強 く反擬を示し,EU製

品に対する翰入射当の導入削 まのめかしていた31).

28) (Koh(NOPCaEm).20か 叩4相,1996,C.55.

29) 以下の経掛 こついては,Commenant.25August,1993,くXoMMOPO8EVb).204)eBP AJl,4996,C.54-55.,

くHEXeE叩EAJr8aeVa),沌128(730)耳OJt6ph,1995,C3くJhRBEOPE18Er・Aaem).JG18(755)如 叩 aJ'b,1996.

6.3.などを参照。

30) MFA(Multl-FlberAJTangement,「多国間繊維取櫨」)はGATTの例外親走として,毛,棉,化学

繊維,麻,絹製品の国際貿易を秩序化するため,参加Bl(現41ケBlとEU)で取り決めたもの。1974

年1月から実施。日本化学繊維協会 (1994).398貢o現在,2005年の廃止-向けて調整段階にある。

ロシアは加盟国ではない。

31) 西欧からの輸入だけでなく中国や トルコ,インドからの製品流入が多いこと,ロシアの最恵国待遇

国を通じた輸出など逃げ道がいくつもあること.政府の行政能力の問題等から,輸入割当の効果は疑

問視きれていた。最終的には.EU側の当該部門構造改革支援の複素により,交渉決裂には至らな

かった模様であるOただし96年4月の政府決定により繊維製品輸入関税が大幅に引き上げられている。

Page 12: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要因 131

(3) 資金#

企業にとって現在最も緊要な課題は資金不足である。r縫製工業」96/2号によると1995年の

生産停止のうち68-72%が運転資金の不足によるもの,24-27%が販売掛 こよるものであった32)。

運転資金の不足に基本的に影響を与えるのは販売難であるが,たとえ密接な関係があるとして

も販売困難は必ずしも運転資金の不足をもたらさない.従って,資金の用途と源泉を検討する

必要があろう。

まずコストを構成する諸費用をみてみよう。表9によると,部門内でも支出構成は企業ごと

に格差があるが,一般的傾向としてほ,体制崩壊前後では投入原材料の高騰に見舞われ原料費

の割合が高いが,最近では燃料 ・エネルギー価格の上昇が企業のコストを引き上げていること

がわかる。

企業に課せられる税金は非常に高く,時に利潤の90%以上にものぼるといわれた33)。このよ

うな高い税率は明らかに正常な企業経営を阻害する。しかしながら企業側は税の未払いによっ

て対抗したり,個別的な優遇策を求めるので,実効的な税率の企業間のばらつきは大きい34).

また企業の社会福祉負担の地方自治体予算への移管は依然として完了していない。一般には社

会福祉支出全体の1/4,軽工業では95年60億ルーブルを企業が負担している35)。燃料 ・エネル

ギー価格の上昇や税 ・社会福祉負担の問題は,企業の収入を制約する作用を持つが.工業全般

でみられる課題であること,地域および企業間での格差を念涙におく必要がある。

次に,未払い間蓮を検討しなければならない.第-は連邦政府,地方政府による軍服や医療

用晶など-の支払および賃金の遅滞がある。『テキスタイル工業】96/1号によると国家からの

未払いは2350億ルーブルに達するが36),政府サイドの未払いは,受注企業をしてその財政的国

表9 原価に占める原料および燃料・エネルギー支出の割合 (%)

庶科支出の割合 燃料.エネルギー支出の割合

企業1 88.26 78.91 52.04 49.76 1.41 4.42 8.66 10.64

企業2 78,1 73.1 55.6 49.9 1.06 4.4 10.9 13.7

企業3 90.42 85.85 60.7 42.8 1.98 6.99 14.05 16.15

企業4 84.6 83.9 75.4 63.5 1.31 5.7 7.9 10.3

出所) (ToxcTXdhXAJⅡPNLtEM OtlZ100m).311-21995,C

32) くⅢBe血山Jt叩OZdHⅢJIOEIZlOCVb).JG21996,0,3.

33) (KoMMePO8ETb),365.204Ie8p8DA,1996.cS5.によると.連邦予算,地方予算を含め利潤の92-97%

を納めなければならないという。

34) 1996年にも1月19日大統領令65号で税の支払猶予兼が発表された。くIIhLOh8fl叩OM耶memOC℡b).此

21996,6.5

35) くToErCTZubmR叩OMHtEIJIemOCTJ,),湘41996,C.4.

36) (T8XC・r月JIE.EM uPOMLZⅢJIemOCTJ,).JQ14998.6.6.

Page 13: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

132 経済学雑誌 第98巻 弟2号

衰10 企業の期限切れ債務 (1996.1.1,現在)

企 業 数(##^%) 企 業 数(村納入者) 全企葉に対する全企業に対する都合(対購入者) 割合(対納入者)

低 音 50.064 42.689 69.2 59.0

鉱 工 業 16.050315 13.234 68.6 56.665.1電 力 業 254 808

燃 料 工 業 443 422 859 81843430236

鉄 鋼 葉 211 193 770 70

非鉄金属工業 219483 168415 627691 4865

機 械 工 業 4.454 3.BOO 7181 612.238 1.944 77 67

建設資材工業軽 工 業 1.7421.807 1,5151.574 726466 6356

食 品 工 業 3.090 2.186 602 42

農 業 20.152 18.945 73.5 69.1

ヰ 10.038 7.991 66.7 53.I

運 輪 3.824 2,519 59.2 39.0

出所) r'00 甘OHCTATF'ooOEE,P。ccEJtZHtFllp比1906.OkELAnObl1CT&Ⅶ ○↑耶4,hhcx-,1996.〇・別Sl

難の責任転換を可能にする。国家支援を受ける際には,国家の未払いが企業の交渉の切 り札と

して利用される37)0

第二は,企業レベ)I,での賃金未払いで,政肝の諸法令,規制も効果をあげていない。繊維産

業では95年初の貸金未払いは540億ルーブルであったが10月には1390億ルーブル (2.57倍)に

のぼっている。また1/3の労働者が2-3ケ月給料を受け取っていないといわれている38).

第三は,企業間未払いである。表10によると,線維産業の期限切れ債務保有企業の割合は対

購入者,対納入者ともに全産業の平均を下回っており,数字で見る限り企業間未払いの問題は

他産業と比較して特別溌刻ではない。その原Egは明らかではないが,一つは繊維産業では最終

消章者 (家計)との即時現金決済の比重が高いこと,および前払いがかなり広まっていると言

われることと関係するかもしれない39)。このことは,資材調達者,購買者としての企業に,絶

えず流動資金を確保することを余儀なくさせるとともに,未収金,不良債権の増大を抑制する

だろう。

37) このように.JKomaiによって指摘された社会主義体制での国家と企業の 「温情主義」的関係が,

部分的には依然として存在していることが確認されるO

38) (ToKCTM Z'EM tTPCNLZⅢ JIeEl1lOCTb).沌11996.0.7.

39) 残念ながら, このことを裏付けるような数字は現在手許にないが,次のような例を挙げておこう。

「ロスレフプロム」グループの社長ビりエーコ7によると,全般的に挿前払いを要求するケースが多く.

企業間契約が拡大しないが,ロスレフプロムでは後払いをグループが保証することによって,グJt,-

プ内の葵約締結を進めているという。(IJhleB加 JHlpOMmlJIeW OOTh).N31996.C.3.

Page 14: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊維産業:生産低下の実感と要因 133

企業にとっての販売以外の可能な資金源としては,余剰な設備や土地のリース,販売等があ

るD全産業を包括したイーゴリ・フィラトチェフらの調査では40),37.9%の企業が土地の賃貸

杏,44.9%が余剰設備の販売を行っている。

さらに,企業はいくつものルー トによって国家および地方政府の財政支援を受けている。工

業企業への国家財政支援のうち繊維産業への援助の割合は多くはなく,予算の全額が実際に実

現するわけでもない41)。しかし政府支援は個別企業にとっては,生産量を左右しうる重要な資

金源である42).国家支援のうち主要なものとしては,国家予算より配分される季節的な原材料

猿人のための優遇信用で,1995年には1.1兆ルーブルが決定され,1996年には1.5兆ルーブルが

見込まれている。また賃金支払い等への支出として,1995年には捻額4000億ルーブルが支出さ

れたO

銀行信用は,市場経済では企業の重要な資金源であり,経済成長のテコであるが,ロシアで

はその役割は制限されている。銀行の利子率は非常に高く, 3ケ月信用で実質利子率が年40-

80%にのぼり43),また短期信用が中心的であるo

専門家研究所の分析によると繊維企業の流動資産に占める負債の割合は化学工業,機械工業

企業に比べ1993,94年ともに低 く (耽動比率が高く),低下率 も大きい44)。繊維企業の銀行信

用の比率が少ないという仮定は,期限切れ債務を持つ企業の割合が産業平均と比べて見劣りの

しない事実と照応する (表 9)。「繊維産業の企業は,最終需要 (とりわけ消費者)と向かい

あっているために他の産業よりも早く重要な局面に直面し,従ってより厳しい危糠を経験した

ために,より合理的な経営計画を見つけようと,他の産業よりも早期にその経済行動の論理を

変更し始めた」と彼らは推論している。

しかし,第-に銀行信用の半分以上が不履行である。これは借用取り立てに係わる法制度の

未発達以外に,銀行信用の半数が指定された国家信用であること (したがって多くの負債が繰

り延べされる可能性を持つ),および多くの企業が信用を受ける銀行の株主であるという事情

に由来する45)。いかに利子率が高くとも,こうした状況下では企業の銀行信用回避への強力な

動機を兄いだすことは困難である。

40) 1gorFllatotchevetal.(1996),p.94.サンプル数は168企業6

41) 1995年度国家予算からの鉱工業・エネルギー・建築への支出は,決定ペースで32,4兆ルーブル.実

行ペースで25.7兆ルーブルであった。r'ooMMOTaでPooc叫 axoJIONEm PoccE) JtJIZLaPb-b'd 1996P..

Moolt)8,4996.C.120.

42) A C.8oMJIflZt018(1996).C,7-8.によると,政府援助が実際に生産,雇用へ影響しているという0

43) PeterRutland(1996),p29.

44) aztollePTEd EECTfLTy・PPcccf[加KOrOCODaA叩OMZJmIOtlEmOBETlPOJltIPmqMA・lene血(1995) 同様の論

旨がくTeBcTEJIJ,tlaJ" PO74H皿 JtOJLEl0CTh),.Nm-101998.でも見られる。同じ調査に基づいていると思われ

るイーゴリ・リブシγツは,枕維産業の蔑つかの指標は機械工業や化学工業よりも悪く,ほとんどの

指標が徐々に悪化していることを認めている。IgorLipsllz(1996).

45) PRuthnd(1996),p29.

Page 15: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

134 経済学雑誌 第98巻 第2早

第二に,激しい生産低下という状況下では,繊維産業内部からの資金調達は著しく制約され

ているし,外部の投資家や銀行からの融資も多くはない。繊維産業企業は有力な銀行,金融機

関の支援をもたず,そのため国家財政からの信用供与を除けば,商業銀行からの信用享受の機

会は比較的少ない.この事情が負債の比重を低めている可能性がある。

短い回転期間という繊維産業の特徴も,流動比率の高さに作用していると考えられる。繊維

産業の生産の極端な落ち込みや,生産停止の70%が資金不足であることをみても,負債の比重

の低さを企業の行動がより合理的になっていることの反映と見なすことは私しい。

企業の資金状況の検討では,高いコストや税率,政府の未払いなど企業の財務を圧迫する要

因とあわせて,企業による税や賃金の未払い,資産の売却,国家援助などの支出削減と資金調

達方法もみられた。しかし,こうした方法のほとんどは.企業の資金運用を容易にしていると

いうよりも,財務状況の困牡の結果として生じたものであり,企業の資金不足を根本的に解消

しうるものではない。

2 企業パフォーマンスの差異

繊維産業の状況が深刻化するなかで,産業界も国家及び地方政府の選択的な救済策 (可能性

のある企業およびプロジェクトのみを支援)を支持する方向に向かっている。そこで本節と次

節では,個別企業のパフォーマンスの差異について考察しよう。

アイクスとリターマンは体制転換期の企業の特徴を 「生存志向型」企業と呼んだ46)。転換期

企業の行動には社会主義的な特徴と市場志向的な行動が共存しており,彼らはこのような企業

を社会主義的企業 (enterprlSe)から市場経済における会社 (血m)への過渡的形態としてと

らえた。しかし最近の研究によると,個々の企業の内にこっの側面があるというよりは,成功

企業と倒産に近い企業への二痩化が進展している。専門家研究所グループによると,最も停滞

した産業に入る繊維産業においても,良好なパフォーマンスを示す 「リーダー」企業と,倒産

の危機に瀕している 「アウトサイダー」企業の分極化がみられるという47).

それでは,良好な企業とそうでない企業を決定づける要素は何であろうか。イ-ゴリ・リブ

シグッの報告をまとめて.ピーター ・ルトランドは次のように述べている。「全ての成功企業

は積極的に顧客を求めるエネルギッシュな経営者を擁している.規模や立地,生産の分類と

いった他の要素は,なぜ一部の企業が壁にぶつかっている時に,ある企業は繁栄をしているの

かを説明するのにほとんど役に立たない」48)。まず本節では,規模,立地,生産品臥 および

(ルトランドは挙げていないが)所有形態がどの程度企業パフォーマンスに影響を与えている

のかを検討しておこう。

46) Barrylckes&RandlRyterman(1994)

47) axoⅡ叩VElZA点FZlOVEVyTPocoE血oxopoBox)8A叩OMHⅢnOELErElKOBE叩叫叩m EMAVeJZeI=1994).(1995).48) PRutland(1996)

Page 16: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要因 135

(1) 企業規模

ロシアの繊維産業において規模の経済が働いているかどうかは明らかではないが,企業の規

模によって業寮の差が存在する可能性は高い49)。

計画経済の下では多数の従業点を擁する大企業は,上級機関との交渉においてより大きな

力を持つことができたoそして,このような優位は積極的な投資による設備の充実や潤沢な

フォンドのかたちで蓄棟されてきた。この設備更新が,現在の企業パフォーマンスにも大き

く影響しているor縫製工業」1995/5号によると企業活動の好ましい候向の一部は,1987-

1988年の新技術および設備の輸入のための国家購入予算による技術更新の導入の結果によ19て

説明されるという50)。また,コンツェルン 「ロステキステイル」の優良企業には,「カミシイ

ンスキー棉コンビナート」,「トレフゴールナヤ ・マヌ77タトゥーラ」,「ペテルプルグ・テキ

ステイル」等,かつてから技術更新が相対的に進み,輸出経験 もある伝統企業が名を連ねてい

た51)。

ただし,旧体制から多くの余剰人員を抱えていた大企業では,労働資源の不効率な利用に

よってそれが経営の負担へと転嫁 している可能性と,後に触れるように,技術集約的なテキス

タイルと労働集約型産業と言われる縫製工業では,企業の適正規模に格差があることも考慮し

なければならない。

(2) 立 地

企業のパフォーマンスはその立地によっても変化しうる。この場合自然的な条件だけでなく,

人工的に形成された地域の経済条件も考慮する必要がある。

一般的には運輸 ・通信システムの不備により輸送コストは高く,原料供給地,消費地との距

離が企業経営に影響するO首都モスクワは,特に有利な経済環境にある.ニットの生産はロシ

ア全体で1995年第1Eg半期には対前年比51.6%であったにもかかわらず,モスクワ市とモスク

ワ州の幾らかの企業はその生産を増やしている52)。

49) 規模の経済に対する反証として中小企業の多いイタリア繊維産葉の例がしばしばあげられる。俄雄

産業の停滞を経廉している他の先進国と対比してイタリアの繊維企業は依然として世界繊維市場に大

きな影響力を持ちテキスタイル,7′(レル共に貿易黒字を示している。

50) (Ⅲ8ehaJt叩 OhIZAⅡ瓜eZlEDCVh),沌51995,C.2.A.Wersun(1994)ち.消費財部門へのテコ入れがな

されたゴルバチョフ時代の技術更新が大きな意義を持っていると指摘している0

51) (TeztcTEJIt.m JlrlPOD相即OmOCTL),此9-101994,C.4. しかしこれらの多くも1995年には困難を経顔

しているという記述がみられる。くTemTmZ,F'AA叩OMBTlllJteftr00・Ph),JQ54995,¢ 11112 また破産企業

の中にも「ダニ一口7スカヤ・コンビナート」や 「バプロヴオ・ロサブッキー・テキスチル」等の有

名企業も含まれている。

52) 例えば㈱カラーは133.3%,㈱タオブ (ナロフォミンクス)は135.7%,㈱赤い星 (イエゴレジェス

ク)は117.6%であった。その一方でノヴオシビルスク.イルクーツク,スモレンスケ等ほとんどの地

方では生産が減少し,対前年比15135%にまで落ち込んでいる。Foretg,zTnaLie,1995/ll,p35・

Page 17: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

136 経済学雑誌 第98巻 弟2号

繊維産業は掛 こボルガ川沿岸の中央経済地域に集中しており,多くの企業はそれが唯一の主

力企業であるような小都市に立地している53).この地帯は伝統的に繊維工業地帯であったもの

が,政府の政策によってますます当該産業に特化した歴史を持つO企業は,地域の社会福祉政

策などとも密接に関わっており,今なお地域から独立して企業の将来を考えることはできない。

モスクワの東約300キロにあるイヴァノヴォ州は繊維の街として約200年の歴史を誇り,州労働

人口の約2/3が繊維産業に直接従事しているが,生産の落ち込みは著しい。失業率は他の地域

と比較して異常に高く,イヴァノヴオ州の公式の失業率は1996年初めで13.3%であり,年末に

は楽観的に見肴もっても18.8%に上昇すると予測されている54)。さらに繊維産業就業者の87%

が不完全就業の状態にあが 5)。ILOの調査 ・政策提言では,繊維産業のみでは到底成り立た

す,他産業の育成を含めた稔合的な地域政策が必要であると結論している56)0

(3)産出品目

ソ連邦では需要と生産力との関係は各品目ごとに大きなばらつきがあったC綿紡織工業への

生産の集中が顕著で,二ブトや靴下市場では恒常的な不足がみられた。また化学繊維の発展は

特に遅れていた。ソ連時代に形成された生産品目構成のかたよりほ57),連邦崩壊によってさら

に顕著になる。例えば綿工業においてロシア共和国に残されたのは,わずかに3つの製糸工場

と13の織布工場のみであったという58)0

次に,テキスタイル工業と縫製工業の現在の状況の比較を試みよう。ロシア繊維産業を世界

市場の中で見た場合に,次の2点が潜在的に有利な条件である.

まず第一に,インフレと不況に基づく全般的な購買力低下のために現在切り詰められてほい

るものの,潜在的に巨大な国内市場である59)。

もう一つの利点は比較的熟練度の高い労働者の存在と,低賃金率である。既述 (表4)のよ

うに繊維産業の平均賃金率はロシア国内において際立って低く,格差は拡大傾向にある。ルー

プ)I,の下落に加えて,国内でも相対的に低い賃金はBl際競争力をさらに高めている。ジョセ

53) このような都市が中央潅済地域に約120存在しており,特に綿布の83%はこの地域で生産されている。

(ToxoTEJILEALHtpOJdLZⅢJIO叩007t,),JG9-101994,09

54) くtlenoB印 Ⅱ叩yA),J681996,C.18-19.また公式失業率は国際的な計測基準よりも低くなるため.

幾つかの暫定的計測の読みがなされている。Transtl10n,28April,1995,p49.では1995年で35.36%と

予測されている。

55) TANXO,0.4. その他イヴァノヴォ州の状況については,A.C∈IeMuJTXOBA(1996).O.6-7.などを参照。

56) T紬 加 ,C 8

57) ソ連時代の繊維部門の生産構造についてはNeilHoodandStephenYoung(1986)が,概観を与えて

くれる。

58) ForeignTrade(1995),p.34

59) もちろん巨大市場は必ずしも国内産業に寄与するわけではない。企業の困難を幾分か積和する方向

に作用すれば,それだけ企業経営の適切な調整も遅れよう。

Page 18: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア洗練産業 :生産低下の実態と要因 137

秦12 血軌部門の1分間あたりの費用の比較 :1995年

1分間あたりの費用 変化率1995/92

東ヨーロッパスロヴユニア 0.266 16.3

エ ス トニ ア● 0.255 21.2

ポ ー ラ ン ド 0.233 19.4

エ ス トニ ア* 0.225 21.2

チェコ共和国プ レガ リ ア 0.2220205 31.3196

)ス ロ バ キ ア 0.202 18.4

ル ー.マ ニ ア 0,198 23.6

ロシア;都市部 0.198 m/a

ロシア ;地方 0,163 n/a′

140人の甚#生産者を有するモrル企巣の製品および輸送コストの比軟に基づく。書下記引用文献のまま。出所) Jo之eEdeCoster,̀TextlleandClothmg

inEastem Europe BusinessOpporttln1-tLeSNottobcMLSSed',Textth O〟tbo点ZnLemabondLNovember,1995,pp.10-29.

原典) KSA,DtlSSeldorL,1995

フ ・コスターによる発展途上国とのコスト比故では (表12)60),ロシアの縫製工業は潜在的な

競争力を持っている。

ここで筆者が指摘 したいのは,これら2つのメリットは主に縫製部門に関わるため,縫製企

業の方が利潤獲得の可能性が高いという点である。まず,縫製部門は労働集約型産業であるが,

テキスタイル部門はどちらかというと技術集約型産業であり,労働投入量の多い縫製部門のほ

うが低賃金率による恩恵を受けやすい。前述の J.コスターの労働コス ト指標 も縫製部門であ

ることは重要であるo次に,巨大な消費市場は直接的には主に縫製部門に影響を与えるoロシ

アの既製服化率は低いが.市場の成熟とライフスタイルの変化にともなう既製品の比重の増大

という一般的傾向を考慮すると,テキスタイル部門が直接最終消費市場に接する機会は次第に

減少する.ところが最終消費の拡大を支える縫製品の生産は,もし国内半製品が国際的な分業

の下で非効率であるとすれば半製品の輸入によって達成されうる。事実,外国投資や委託加工

は縫製工業に集中する傾向がある。少し古い数字であるが,1991年 1月1日におけるソ連-の

外国投資は,19のテキスタイル企業へ2.360万 ドル,74の縫製企業へ4,360万 ドルであった61).

したがって,巨大な国内市場は,既袈晶の輸入による充足の進行が阻止された場合にも,縫製

部門にのみ寄与する可能性がある。

また,政府プログラム 「1995-1997年ロシア経済の改革及び発展」では,構造転換政策とし

60) アレック・ワースンもインドネシア,モロッコ,トルコ,フィリピン,タイとの比較を行い同様の

結果を得ているoA.Wer8un(1994)

61) Echo(1991),p27 ただしEU諸国からみれば他国と比軟してロシアはまだ魅力的な投資先ではな

く.OPT(011tWardprocesslngtrade)(委託加工取引)等の形態での相互経済交流の急速な進展の見込

みは.当面少ないであろう。TeJCLlh,HorlZOnS.October,1996,p36

Page 19: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

138 経済学報徒 第98巻 第2号

て 「遊休設備のニットと練製品製造への転換」,「紡溝企業の紡糸からニット既製品への転換の

組織」,「軽工業の製品構成の拡大,広幅綿布,脂,毛布および家具向けの新種の布地,子供用

縫製 ・ニット製品,麻利用の新技術を応用した靴の供給拡大」,の諸点が挙げられており62),

ニットを中心とする既製品へ可能性を兄いだしていることは明白である。現実にロシアの綿布

の3分の1を生産していると言われるイヴ7ノヴオ州の構造転換プログラムでも27の綿工業企

業のうち10社でニット,11杜で縫製企業への転換が検討されている63)。

生産品日の変更は体制転換過程で広く見られた現象である。例えば,利益の薄い医療用品や

子供用品を切り捨て,利益の高い製品への転換が図られた。しかし本質的な転換,たとえば綿

紡織からニット,あるいは縫製工業への転換は巨額投資と技術を必要とする,より複雑で困難

な過程である。そのため,ソ連時代に形成された綿紡織中心の構造と産業内部での一般的性格

の違いにより生じる亜部門間の条件格差を,短期的に解消することは不可能である。

(4)所有形態

繊維産業では1995年初頭で97.4%の企業が民営化されており64),その約70%は労働者が支配

株を保有する第2ヴアリアントを採用した。また,それまでにアレンダ (賃貸)していたもの

を (漸次的にあるいは一度に)買取ったケースが比軟的E]立つ65)0

表11の生産量と工業生産人月数によって,大まかに労働生産性をはかると,合弁企業と国営

企業が相対的に高く,適にとりわけ地方自治体所有企業では低い。都市所有企業の業積が芳し

くないことは,rテキスタイル工業』1996/3号でも指摘されている66)a

表11 企葉形離別比重 (%)

軽 工 業 100 1007.71.01.144.8 10063

国 家地 方 2.45.9 35

社 会 的 粗 放私 的∠ゝ 1.479.1 14975

出所) rlobMhlO,PAVPcoB叫 PM M Z'tLLlOpl19g6,○甘ErAZI¢VX CT■TECTEM,MooM)8,1996,c389

62) nporpAm AⅡpAZI五・rOJZJ,¢TZlAPoc¢n如 xo丘0叫eP叫ZlE.(丑o叩OCH∂XOl10MJtRH)tI995),0.125

63) くTQrOTZrJTLEA兄叩0yVⅢJIetlTOOTt.),JH 11995.014

64) (ⅢJIO丘EAAllPOMHZDJI叩EOCTL),~51995,6.2

65) Commenant,19May,1993や くTeROT耶hEM tlPOMⅦ皿TeEEOOTt,),ぷ11-121993,05に基づく.

66) (TexcTmbZIaFl叩OMHⅢJEeflrOCTh),Jd31996.C.4 前述の倒産企業 「ダニ一口7スカヤ・コンビナー

ト」も都市所有企業である。

Page 20: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊推産業:生産低下の実態と栗田 139

また,Ⅰフィラトチェフらは 「リース企業と直接従業月購入企業は第2バリアントによって

民営化された大衆従業貞所有企業と比べて積極的である」という結果を得た67)。マーク・

シャッ77は民営化は企業の調整を刺激したと評価しているが,アイクスらは民営化企業と非

民営化企業とのあいだでそのパフォーマンスに決定的差異はないとみている68)。

このように所有形態による差異を指摘する調査がいくらかあるが,暫定的であれ結静を下す

には,資料は不十分である。ただし筆者は,所有形態が企業の効率やパフォーマンスにそもそ

も全く影響しないという可能性を考えているわけではない。所有形態の制度上の多様化が進展

しても,国家との関係の実質的な変化,実質的脱国家化や,そのパフォーマンスへの影響があ

らわれるには時間がかかるため,現段階で結論を求めるのは早計であろう。

3 企業行動の違い

本節では企業が体制崩壊後の困難にどのように対処したかを中心に企業行動を検討する。

(1)原材料調達

政府間契約の失敗に直面し.綿紡続企業の一部は中央アジアの原綿生産者との直凍奏約を求

めた。例えば1993年5月にトレフゴールナヤ ・マヌファタトゥーラ社長は協議のためにトルク

メニスタンに赴いている69)。同様の例が多数みられる一方,中央アジアへ代表を派遣する金銭

的余裕がないことを訴える企業もある70)。

さらに,中央アジア諸国が十分な麻花を供給できないと判断し,世界市場の中で綿花供給契

約を掛 どうとする動きもある。すでに1993年半ばにはアメ7)カの CCI(CottonCounciltnter-

natlOnal)とコンツェルン 「イヴ7テクスト」やコンツェルン 「ロステキステイル」が交渉に

入っている71)。

「ロステキステイル」とCCIとの交渉内容は以下の通りであった。アメリカの綿花価格は

1トンあたり$1,500 (プラス付加価値税),ウズベキスタン綿花価格は $300-400であった

(当時)。従って本来アメリカ綿花購入のためにはこれまでの4-5倍の資金が必要であるが,

CCIは2通りのルートでアメリカの借用供与を利用して,従来価格の50%で購入する案を捷

供したoアメリカ綿花の輸入はロシア繊維産業の原料不足の膚和をもたらすとともに,アメリ

67) IFlkLtOtChevet.al(1996).

68) PRutland(1996)

69) G〉mmerSaTZL,12May.1993.p.12.

70) (TpyA).25如月,1995,0.2.

71) この種過については(9JfOfrONTlJt&E流X8Eb).JA2iHZD恥 1998,8.23.,CommenanL,12May,1993.p.

12,G〉mmersanE,2June,1993,p.15.,Commersd叫 8September,1993,p.22.,Comw TanE,29Septem-

ber,1993,p.20.,7TaLzkHoT立川S,October,1994.p8.を参照。なお TaEzLeHoTWOnSによるとCC1

は年間生産量の40%を輸出するアメリカ綿花産業の倫出経営の片腕である。

Page 21: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

140 経済学雑誌 第98巷 第2号

力側にも綿花輸出 (ビジネスチャンス)の拡大という動機が働いており,相互利益に基づくも

のであった。 この契約はアメリカ農務省の支渡決定によって実現を見るが,その過程では両国

産業界のロビー活動が観察された。

麻業界も連邦蔑会と連邦政府に困難への対応を求めた.繊維企業に麻原科を保証することを

目的に,1993年 8月25日 「1993-1995年連邦改称取引プログラム」の一環として 「ロシア麻産

業の復活」が採択された72)。しかしながら播種面積も杜布生産量も減少を続けており,プログ

ラムはさしたる効果を持たなかった73)o

(2)販 売

表13は販売を改善するために企業が採用した手段を示しており,それによると消費財部門

の企業のうち89%が何らかの対策を行っている。価格上昇の断念,製品コンビネーションの変

更,伸介業者との協力の順で高い数字を示しているOここでは次の2つを補足 しておこう。

1993年頃には既存の流通網の断絶により滞貸した商品を労働者が各自売 りさばき,窮地を逃

れるケースがみられた74)。現在でも,仲介業の未発達や,仲介業者にとっては輸入品の取扱い

の方が魅力的であることなどから,生産企業は直接的 ・固定的販売ルー トを開拓 している。直

営店の設立や特定店舗とのダイレクトの葵約,あるいはコンツェルンなどの細.織を通じた販売

も行われている。

体制転換の初期には,販売量の減少を価格上昇で補う行動がみられた。ロステキステイルの

蓑13 1995年に企業によって採用された版売改善手段 (調査企業に占める%)

品目の変更 6 3 13 4

45 52 49 40

価格上昇をやめる 65 70 56 71

積極的な広告 24 18 31 27

仲介薫者との積極的活動 29 26 38 29

外国市場へ進出 5 5 7 4

国家発注を求める 5 2 7 6

何もしない.今では何も役に立たない 4 8 4 2

出所) TatianaDolgopLatOVa.lTheTransltjon&lModeloftheBehavlOEOLRussianlndustnal

EnterpLISeS(ontheba8LSOfregul打SuEVey8dLLrlnB1991-1995)JIZASAWp-96-057,May

1996,p23ロシア経済′<ロメ-クーサンプル(1995年11月187企葉への調査)にもとづく.

72) b6p&flEe &kVO)EPO8q OflTe H 叩 atE℡e∬hOV88Flo(1993).oT8850

73) そのためロステキステイル,「ロシア麻業」および幾つかの科学および農業団体によって1995年に準

備された次期のプログラムは連邦政府によって拒否きている。r日本紡績月報J,1995/2,43貫。

74) Commersant,8September,1993,p,22.

Page 22: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制乾換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要田 141

1993年第1匹l半期報告によると 「かなりの生産低下にもかかわらず,ロシアのテキスタイル企

業は基本的に自由な生産者価格の導入によって利益をあげ続けている」75)。しかし,輸入品が

氾渡し競争圧力の強い近年では特に最終消費財の価格上昇は困難となってきており,表13でも

価格引き上げを断念する企業が目立つ。繊維産業でも生産低下と価格上昇の同時進行が続いて

いるが,最近では小売価格よりも卸売価格上昇率の方が高い76)。

(3)財務状況

財務状況を改善するために企業がとっている戦略のうち,重要と思われる点を以下4点に整

理しよう。

かつては投入材不足の対応策として,企業間バーター取引が広くみられたが,現在では運転

資金の不足のために,バーター取引が行われている。その普及率は調査によって異なるが,全

産業を対象とした T.ドll,ゴビャトバの調査によると,1995年で62%の企業がある種のバー

ター取引を行っている77)。

外資の導入も有力な資金源であるが,繊維産業では外国投資を惹きつける魅力は,市場にも

生産租織にも少ない。加えてロシアの繊維企業の70.2%は民営化の際に第二ヴァリアントを選

択しており,株式の取得を通じての資本 ・経営参加には現状では限界がある。企業内部には外

部からの支配に対する啓戒が依然として強い78)。一例を挙げると,モスクワの伝統的縫製企業

「ポリシェビチカ」は英国のイリングワース ・モリス社と投資契約を結んでいたにも係わらず,

後者からの100万 ドルの投資を拒否した79)。イリングワース .モリス社はポリシェビチカの株

の49%を既に所有しており,投資計画が実現されれば近いうちにそのシェアは過半数を超える

見込みであるが,実質的に42%の自社株を確保しているポリシェビチカの経営陣が,経営権の

確保を狙って引き起こした紛争と rフイナンサヴイエ ・イズベスチヤ』の記者は見ている。た

だし,ポリシェビチカ社は生産停止も経験しており,経営状態は決して良いわけではない。こ

のケ-スは外資導入という恵まれたチャンスに直面しながら.その効果的利用に失敗している

例といえよう。

専門家研究所は繊維企業の財務状況について次のように鋭明している80)。稔負債比率,資産

75) Co7nmerSa7ZL.19May.1993,p ll.

76) くⅡ'○丘加F'叩Ob(HⅡはemOCVt'),沌 51995.ら.8.その他,価格動向の検討 は, (TeKCm Z,reJt

IIPOZdJJE)neLELOOrh).祁 111992,0.8や (Tl)EtCTJuZ,E'8E叩OHJdtIlJ)eFlElOO・rh).JQ1-21995.C.5-7.等でもな

されている。

77) T DolgoplatOVa(1996),p21 イープリ・グ)I,コフの推計では若干低い。1gorGufkov(1996).

78) くTemTⅡ瓜EA月叩OI■pⅢJIeEZZOOt・b).朋 11996,06

79) くq)EEuCOZIpOEBZIOCTXJ7),24M&A,1998,C'.1..くm8DeCTEJt).27AJlpOJJt.1996,C.2. 結局この紛争は民

営化過程と契約締結の合法性の問題まで遡ることとなる。

80) 9KBTTepTELZ血 EECTmyTPoocdcxopocoDaA叩OblLltW叩FmOtF叩 OAEpm M&TOnO丑(1994).C.35126.

Page 23: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

142 経済学雑誌 幕98巻 第2号

回転率,自己資本比率,バランス利潤による利益率,稔資産利益率の5つの財務指標を基準と

して企業をクラス分けすると,企業の階層分化が観察される。掃標の良好な 「リーダー」企業

紘,たとえ (特に長期の)投資を削減しても資金をまず第-に運転資金に充当したが,金融シ

ステムが未発達な条件下ではこれは合理的行動である.他方で.平均的企業は投資拡張性向と

いう古い視野を持ち続け,指標の芳しくないアウトサイダー企業は運転資金の不足のために投

資を削減 した。さらにリーダー企業は,インフレの下でも,資本を投入財ではなく最も流動的

な資本,つまり現金で所有する性向が強かった。

リーダー企業が資本を運転資金として運用 し,できるだけ外部からの負債を削減しようと努

力 したという指摘は, 1節(3)運転資金の不足の箇所で紹介 した彼らの論点と共通する。M.

シャツ77も 「健全な企業は利益を再投資して敬遠し,運転資金のために高利の銀行信用を受

けざるを得ないのは赤字企業である」と,類似の指摘を行っている81)。ただし,銀行信用は企

業の長期的発展のた桝 こは不可欠であり,とくに巨額投資には長期の大規模な借用が必要とさ

れる。従ってこのような行動は,借用 (取引の安定性や継続性)の欠如の反映として銀行の利

率が非常に高い水準にある現在のロシアの状況においてのみ合理的であるが,将来,固定資本

と生産にダメージを与えることになろう。現在のところは合理的な 「生存指向型」企業行動を

探っているといえる。

最後に,金融資本を産業界に効率的に配分することを目的とした,金融 ・産業グループの設

立の動きがある。投資不足の将来の生産への影響や,テキスタイル,縫製部門間の相互交流の

不足が憂慮される中,1996年 5月に繊維産業の新しい金融 ・産業グループ,「コンソーシアム

「ルースキー ・テキステイル」の設立が発表された82)。ロスプロム (メナテプ銀行グループ83))

が中核となるこの金融 ・産業グ)i,-プは,繊維産業に関連する全過程をカバーし,産業の垂直

的統合をめざすと伝えられている。

以上の危機への対応のなかでは,個別企業だけでなくより包括的なグループによる活動がみ

られた。多数の企業を統合 しているこれらの企業グループは,現在株式会社の形態をとってい

るが,かつての省の後継とみなしうる歴史的形成過程と機能を持つロシアに特有の企業結合で

ある。従って通常の企業とは別個の独立した考察が必要であろう。

4 企業グループ

指命経済システムの崩壊過程で,ソヴェト軽工業省のスタッフの一部が1990年 8月に 「コン

センサス」という名称の株式会社を設立した.一方ロ-iァ軽工業省は1990年5月にアソシエー

ション 「ロスレフプロム」を形成 し,テキスタイルグループは独自のコンツ ェルン 「ロステ

81) PRutlazld(1996),p.27.

82) (血 EaECOBNlBq8800m冗),6EDRFr,1998,02.

83) メナテプ銀行はかつてから庸雄業界への信用供与の経験を持つ.Comme'Ta')も2June,1993,p15等。

Page 24: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要因 143

キステイル」を設立した84)Dこれら以外にも類似のグループは存在するが,かつての省の後継

とみなされる当該産業の主力企業グループは上記の3組織である。特にロステキステイルとロ

スレフプロムはそれぞれテキスタイル,その他軽工業企業の70%以上をカバーすると自称して

いる.これら組織の主たる活動内容は,傘下企業の原料 ・資材の保証 .調達から受注の配分,

見本市や直営店の開設を含む製品販売網の確立,グループ内の企業-の融資である。

一見これらの組織は,企業にとって,あるいは産業全体にとって必要または少なくとも有益

であるとみなすことが可能である。例えばその主な活動の一つに,生産に必要な資源の配分が

あり,流通組織の未発達と原材料不足のなかで企業の生産活動を円滑化する役割を果たしてい

る。また,国内および国際市場におけるパー トナーの斡旋も積極的に行っている芯)0

しかしこれらの組織の機能を肯定的にのみ評価することはできない。例えば,資源や受注の

各企業への配分,販売網の提供といった活動の中で,これらの組織が企業の自立性を損なう可

能性がある。また,各種の圧力団体の中ではその力は弱いとはいえ,企業グループは経済支援

を求めて連邦および地方政府へのロビー活動も積極的に行っている。これらの組織によって獲

得された政府の支援や決定がはたして産業全体にとって望ましいかどうかの判断を別にしても,

ロビー活動の成果が当組織を通じて優先的に配分されているとすれば,この点からも個別企業

を束縛する可能性があろう。

これらの組織に対する批判は,組織の内外からしばしば聞かれる。まず参加企業の利害関心

からして,その魅力は薄れているようである。T.ドルゴビャトバによれば工業全般において

コンツェルンやアソシエーションへの加入の意義の低下傾向が観察される (表14)。テキスタ

イル,産業でもA.ワースンが1992年にロスレフプロムから離脱した企業を紹介している86)Oま

た政府官僚からも 「コンツェルンおよびアソシエーションを通じた生産安定化,企業活動の調

塞,および規制の改善の課蓮を解決する試みは,連邦経営観敗の不在のために本質的には帝極

的成果は得られないだろう」87)という声がきかれるCデュポン社がロステキステイルの仲介を

経ずに直接パー トナーを求めたように,外国投資家からもしばしば敬遠されている88)o

む す び

ソ連崩壊直後に劇的な生産低下を引き起こした直濃的要因は,制度的な空白 ・混乱や CIS

諸国間の経済的切断によって原材料の調達が困難となったことにある0CIS諸国への原材料

84) 以下の記述は.A Wersun(1994),(皿)○由払叩ON皿JXe紺OCVt).JG61993,(Ⅲ80豆耳的叩ONHmnek・

fr0¢TB),瀬 11996,(Ⅲ30h8flⅡpOblLIロJIeEtlOCTh),祁 31996.くToECTFJthEALt叩OTdLZmIemOCTt,),∬ 31994,

を参照。これらのグループは1992年には民営化され,その構造も徐々に変化している。

85) r日本紡藩月報11995/2,41-42貢.

86) A Wersun(1994)

87) くEIz(ozIOXEm 九&(且8山).此64IeBPAJIb,1995.0.4.

88) CommenanL,29September,1993,p20

Page 25: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

144 経済学雑誌 帝98巷 第2号

泰14 企業のアソシエーションへの加入:現夷と希望 偶査企業数に占める%)

現在メンバーである

どのアソシューシすンにも参加しない 4.8 34.4 10.9 43.0

省.部局,グラフクへの報告 6.2 13.2 4,6 6.0

3.1 4.6 6.2 2.6

かつての省,グラフクから形成暮れた産業組織 57.8 34.4 34.4 S.6

企業の自発的アソシエーション:特定製品の生産者 25.0 12.6 48.4 25.8

出所) TatlLlnaDolgoplatOY8,̀TheTransit10maLModeloEtheBehayioEOIRu88はrLllldugEnalEn・IerpFi8e8(onthebas180freguhrsurveysdurlng199111995)I,IIASAWp-96-057,May1996.p20

の依存度がきわめて高い繊維産業では,とりわけ深刻な原材料不足を経験した。

現在の販売難,資金不足は,旧体制下の経済制度の周知の内在的欠陥に起因する本来的に低

い生産 ・経営効率と,契約や借用に関わるルールの欠如といった市場経済 ・資本主義的諸制皮

の欠落または未成熟という,ロシア経済全般が抱える課麓に由来する89).叔維産業が鉱工業の

うちで最も激しい生産低下にみまわれたのは,消費財部門という産業の特徴と関連する。まず,

ソ連の計画経済制度の下での消費財部門の地位は低く,資本 ・技術装備の面での立ち後れが深

刻であったOまた,消費財部門は体制転換期の不況や混乱の波及が早 く,不況のあおりを直接

受けたのである。

このような田姓な状況の下で,企業間では成長する少数の企業と,依然として生産低下を綬

ける大部分の企業への分化が進行しているO長期的には個々の企業の戦略が企業パフォーマン

スの決め手となるが.規模や立地,産出品目などの体制崩壊時における初期条件も,少なくと

も短 ・中期的には企業の重大な制約条件となる。成功企業は,旧体制下で設備投資の面で相対

的に優過されていた大規模企業に多い。また繊維産業への特化が政策的に進められた地域では,

地域経済における企業の役割の大きさから,企業の立地の変更は容易ではない。同じように,

ソ連時代に政令によって指定された産出品目によって,各企業の直面 している諸条件に格差が

生 じている。

88) CommeTYa鴫 29September,1993,p.20.

89) 市場の未発達という場合に札 経済主体にとって与件となる諸制度の未発達に加え,経済主体間で

の市場的習慣の浸透度が浅い点も考慮する必要がある。特に銀行借用の未発達には,各終溝主体問で

相互に信頼関係が形成されず,したがって貸出リスクが高いことが,インフレ傾向という不確定要素

に加えて.高金利に影響を与えていると思われる。

Page 26: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシア繊維産業:生産低下の実態と要因 145

このように,現在のロシアの企業行動とその外的環境には,旧体制下で形成された諸要因の

作用が色濃く見られる。ソ連時代の生産企業は集権的計画経済機構の一部として機能するよう

設計されていたため,企業がこの機構を離れて自立可能な条件は,企業の内部にも,経済構造

の内にも十分用意されていなかった。そのため,各経済主体の側では,様々な局面での国家依

存傾向といった慣習的行動が維持されている。また企業の外部で決定されていた産業構造は,

市場による検証を経てきたものでないため,市場経済化による国際的な構造調整圧力の下で,

その硬直性と適応力の欠如を尊皇している。体制崩壊後も部分的に引き継がれた旧体制の遺産

が,着果的に市場経済化による危機への企業の対応を遅らせていると言えよう。

以上の分析から判断する限り,繊維産業の将来について楽観的な展望を導くことは難しい。

繊維産業の今後の構造転換において重要と思われる視点を,いくつか示しておこう。

一つは,繊維産業全体ではなく縫製部門のみの発展の可能性である。輸入品の氾艦によって

競争が激化したため,実際の統計データではテキスタイルよりも縫製工業の低下率が近年は大

きい。輸入品に対する国家規制が実施されない,あるいは効力を発揮し得ない場合には,現在

のような状況を改善する見通しは暗く,産業自体の死滅の可能性もありえよう。しかしながら

縫製部門の相対的な活発化とテキスタイル部門の遅れの傾向を指摘する声は専門家の間でも強

い98)o

次に,ソ連時代にはテキスタイルと他の軽工業が管理系統において明確に区別されていた。

そして,それを引き継ぐ形でテキスタイルに 「ロステキステイル」,その他の部門に 「ロスレ

フプロム」という企業グループが形成された。このような組織的分断紘,縫製工業からテキス

タイル部門-需要を伝達し,相互に生産を刺激するような連関の形成を阻害している可能性が

ある。

最後に,繊維産業ではロスレフプロムやロステキステイルといった企業グループが,ソ連時

代に省が果たしていた機能の多くを継希した.空間的 .時間的な広がりをもつ企業間ネット

ワークはソ連時代には省によって調整されていた領域であり,企業サイドからの自発的な形成

に委ねようとしても,個々の企業の現在の活動能力では不十分である。従って,高次の知識 ・

情報を有するこれらの企業グループによる調整活動には積庵的に評価しうる側面がある。しか

し一方で,長期的には生産の割当や販売網の確立といった企業グループの活動は参加企業の自

立性を制約し,そのイニシアチヴをそぐ恐れがある。また業界の代表としてのロビー活動を通

じて,国家との温情主義的関係が継続されている点も問題である。現在,生産活動全般にわた

90) このことは中国の経験を想起させようD中国では最終製品の翰出拡大に伴って,原材料 (例えば化

繊原料)や半戟晶の輸入も増大している。この現象は主に中国におけるテキスタイ)L,部門の大半が現

在でも大国営企業であり,縫製部門の需要に応えることができないことによって説明される。ロシア

と中国では康雄産業の経済全体に占める比重や発展の度合い.あるいは産業を取り巻く環境が異なる

が,今後同様の課題がロシアにおいても観察されうるだろう.この点は,辻美代 (1996)を参冊o

Page 27: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

146 経済学雑誌 第98巷 第2号

る知識 ・情報の独占が崩れる中で,企業グループの存在意義は しだいに低下 している。また,

企業グループの管理部からも組織構造の変革を求める声があ り,これ らの企業グJt,-プにおい

て今後何 らかの構造的変化が進むものと予想されるo このような企業結合についてはさらに検

討の余地があろう91)。

参 考 文 献

日本化学繊維協会 (1994).r繊維ハンドブック1995J,日本化学繊維協会資料頒布会。

辻 美代 (1996),「中Blの偉済発展と繊維産業- 「-粂龍」の行方- 」,r現代中国j,El本現代中国

学会第45会全国学術大会報告要旨,第70号,114-125頁。

AlecWersuT'(1994),̀EmerglngtntemationalisatlOTIPatterT)SlnTheRusslanClothinglndustry',SGBS

WorktngPaperSb・zeS

AlexanderSBlm (1996),̀Ownership,ControlOvertheEnterprlSeSandStrategiesofStockholders'.IIA且4(InLernaLLOnallnsEZtWeforAj・j・ltedSySおmsAnaLysIS).WP-96-050.

Alfandan,G也M E Schaffer(1995),On''ArTeaT5"inRuss】a,AJoz〝ECOnferenEeOftheWorldBank

andEkeM棚SLT3JOfEcoT20myOftheRussFanFede和Lzo札

BarryW IckesandRandiRytem&n(1994),̀FromEnterprisetoFin .NotestoraTheoryoLtheEn・

terpriselnTransltlOn',TheposEcommzLnZStEconomzcTrams/OrmaLzon,EssaysLnHonorofGTrgOTy

GrosSman,ed.byRobeJtW Campbell,WestvleWPress,Bo血der.

AndreyYakovlev(1996),'TndustrialEnterprlSeSintheMarketsNewMarketlngRelatlOnS,Statusand

PerspectlVe$ OLCompetltion'.∫ll.SA (1〝EeT7WEIOnaLt'zst伽Lefor4秒ILed SyskmsA7ZLZlyszs),WP-96-048

DavidMoms(1986),'TheFit)reandTextileIndustriesOFEastem EuropeandtheUSSR',TexLLLeOat-

loohIntenlLZLLO乃aLJuly,pp21-62.

Echo(1991),̀TextileandClothlnglnEastem Europe IndustneslrlCJisis'.TerLLk O祉ElookInlet-na-

honaL,November,pp9-29

[gorFihtotchevetal(1996),̀CoTpOrateRestructuringimRussianPrlVatizatユOnS.lmphcatlOnSforU.S.

Investors●,GILEfm laMLZnagmenLR仇,letL・,ReprintSeries,Volume38,2November.

]gorGurkov(1996),̀TypologyoERtJSSlanEnterpnses'AdaptatlOntONewEconomicRealities',IIASA

(ITZternatrOnaItnsIztuEefor4秒ZEedSystemsAnaZysIS),WP-96-083.

IgorLipsitz(1996),̀TheDynamicsofRussianlndustTialErlterPTises'FinanelalSituat10n(199211994)',

IIASA(It2ter71al10naLITF3LLluLeforAppltedSySkmsAnaLyszs),WP-96-064

TntematlonalMonetaryFund(1994),ⅠMFEcorLOmlCReviews・TradePollLyRefom znLheCountries

oftheF omerSovzeEUnion.Febrtlafy

JozefdeCoster(1995),.TextlleandClothlnginEasternEILrOpe BusinessOpportllnltteSNottobe

Missed',TbLILeO〝EEoo点InLErnational,Noverrlber,pp10-29

NellHood也StephenYoung(1986),'MultinationalActivitleSlntheEasternBloc◆,TeェEzEeOut/Ook

lnlenZat10naLJuly,pp.8-62

91) 金融 ・産業グループ 「コンソーシアム」「ルースキー ・テキステイル」は新たな銀行資本の投入に

よって産業の垂直的統合を目指しており,従来のタイプの企業結合への挑戦として捕らえることも可

能であるOこのグループは設立間もなく,具体的情報はまだ少ないが.どのような溝鼠 機能を有す

る組織であるかが注目されよう。

Page 28: 体制転換期のロシア繊維産業: 生産低下の実態と要因*dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB...テキスタイル 258.0 5,612 41827 118,481 258896

体制転換期のロシ7繊維産業 :生産低下の実態と要因 147

PeterRutland(1996),-FIJlnSTrappedBetweenthePastandtheFuture',TrLZ7ZSttEOn,22March,pp.

26-32

TatlanaDolgopiatova(1996),̀TheTransltlOnalModeloftheBellaV10rOfRusslanhdustrlalEnterprises

(onthebasISOfregularsurveysdtLring1991-1995)',JLASA(InLernaLJOnalZがLzEuEeforA押EtedSys・

LemsjlnLZLyiZ'S),WP-96-057.

rlocKONCT81 Po∞ Hft(1996),PoccェS- LttEOpA11996.中- 8加HE CTAサ甘CN A,Mocxzl&・

rl)OTrONCT&TPo∞ ftE(1996),aTEO7lOM7rKAPocc7rF :mB叩b-ZLfA免1998P..blocmA.

atCⅡeT)1・fIBZ虫 mcTyTyTPoccH触TEOm COZDaA叩OMpD JIetlZTVXCZlⅡ叩OAl)pmHNATeJZe丘(1904),PoooE丘cm e

peoopMH 】8ErOPOPe EOBOr・08でAm.(06lZteCT807latEOElOMEKa),畑 5-8.087-114

DPOMLldl∬OEFOCTh・mOP叩○TM EyeT)bepO叩 7・8汀CB(06tqeemOI8KOl10NKXA),沌 3.C87-114

A C.aeMJTJIXOBa,T I; AoJrOJl& (1996), 托ccJl即10ZLaZlue 4IOpN は 叩 HltEE OZ(PZTO血 6oap860TqH D

voKOTE瓜 EO丑 叩OMm相関 El00℡EHz'LtozM'Ft0虫06JTaCV7[.くToIZIOJIOrM TOm でm ht・0免叩ONuZm eZIEOC,℡),

J屯2.C6-9.

rtporpaNN&nP88meALOTBJLPoccE如7(0由 q)eAOpq fm,PelOPNZJ冗PA8Z)甘TFO PoCoⅡ丘ctOB87(0110耶XE Z1

1995-1997roAAⅩ(1995).く80叩00hZaXOE10MmE),.Nu.C87-160

Co6pazlEoAKTOB叩ea甘AOmAIllPGBETOJIhCTBAP0,兆 35,3088ryOT8.1093.OTl3350