行政作用法総論講義資料() 文献紹介 1 行政作用法総論講義資料()...

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-1- ( ) 1 ( ) 2 ( ) か( 3 ( ) 4 ( ) 5 ( ) 6 ( ) き) 7 ( ) 8 ( ) 9 ( ) 10 ( ) 11 ( ) 12 ( ) 13 ( ) 14 ( ) 15 ( ) 16 ( ) 17 ( ) 18

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行政作用法総論講義資料( ) 文献紹介1

行政作用法総論講義資料( ) 行政法の概念2

行政作用法総論講義資料( ) 誰が行政を行うのか(行政団体と行政機関)3

行政作用法総論講義資料( ) 現代行政法の基本原理4

行政作用法総論講義資料( ) 情報公開制度5

行政作用法総論講義資料( ) 行政立法6

行政作用法総論講義資料( ) 指導要綱・行政内規(続き)7

行政作用法総論講義資料( ) 行政計画8

行政作用法総論講義資料( ) 行政処分① (行政処分の概念と種類)9

行政作用法総論講義資料( ) 行政処分② (行政処分手続)10

行政作用法総論講義資料( ) 行政処分③ (行政処分の効力)11

行政作用法総論講義資料( ) 行政処分④ (行政処分と裁量)12

行政作用法総論講義資料( ) 行政処分⑤ (行政処分の瑕疵)13

行政作用法総論講義資料( ) 行政処分⑥ (撤回と職権取消)14

行政作用法総論講義資料( ) 行政処分⑦ (行政処分の附款)15

行政作用法総論講義資料( ) 行政上の強制措置16

行政作用法総論講義資料( ) 即時強制・行政調査17

行政作用法総論講義資料( ) 非権力的行政18

試験問題と解説

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行政作用法総論(行政法Ⅰ)講義資料( ) 文献紹介1

石崎2003.4.11

行政法総論の教科書は少なくないが、最近のもの及び代表的なものを紹介する。

行政法入門書として山本順一・西鳥羽和明・池村好道・高橋雅夫・春日修

『市民のための行政法入門』 勉誠出版( )2001

見上崇洋・小山正善・久保茂樹・米丸恒治『レクチャー行政法』 法律文化社( )2001

藤田宙靖 『行政法入門(第2版補訂 』 有斐閣( )) 2001

最近の比較的分かりやすい教科書として大橋洋一 『行政法 現代行政過程論』 有斐閣( )2001

原田尚彦 『行政法要論(全訂第4版増補版 』 学陽書房( )) 2000

芝池義一 『行政法総論講義(第3版増補 』 有斐閣( )) 1999

本格的な教科書・体系書(あるいは伝統的体系を批判するもの)として塩野宏 『行政法Ⅰ(第3版 』 有斐閣( )) 2003

藤田宙靖 『行政法Ⅰ(総論) 第4版』 青林書院( )2003

小早川光朗 『行政法 上 『行政法講義下Ⅰ』 弘文堂( ・ )』 1999 2003

阿部泰隆 『行政の法システム(新版 』 有斐閣( )) 1997

戦後行政法学の重要な体系書として田中二郎 『新版 行政法(全訂第2版 』 弘文堂( )) 1974

教材用判例集として芝池義一 『判例行政法入門(第3版 』 有斐閣( )) 2001

塩野宏・小早川光朗・宇賀克也編『別冊ジュリスト 行政判例百選Ⅰ・同Ⅱ (第4版) 有斐閣( )』 1999

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行政作用法総論講義資料( )2

行政法の概念石崎2002.4.11

1、行政とは(1)行政法学の対象としての行政の意味

①一応、国家(国・自治体)の活動のうち、国会における立法と裁判所における司法以外のものを「行政」ということにしよう。このような定義の仕方を「控除説」といい、多数はこの見解をとっている。※「三権分立」という時の三権→立法、行政、司法

②学説には、積極的に行政の概念を定義すべきであるという見解もある(積極説) 田中二郎、手島孝など

(2)どんな行政活動(行政作用)があるのか。行政作用は無数にあるので、いろいろな視点からの分類ができるだろう。例えば○国によって行われる行政、自治体によって行われる行政、特殊法人によるものなど

、 、 ( )○外交とか 教育とか 各種の行政領域 現在の省庁を考えて見よ○国民の行動を規制する行政、国民の行動を援助・助成する行政、及び公共の財産や施設を管理する行政

○法規範関係を見ようとするとき、法的行為と事実的行為という分け方もできる

(3)権力的行政作用と非権力的行政作用①権力的行政作用・行政作用には、権力的性質を有するものが少なくない(公権力の行使 。ここで権力的作用とは、国民に対して、一方的に権)利を制限したり義務を課す行為や、相手方の同意なしに国民の身体や財産に対して強制力を行使する行政活動をいうものとする 勿論 行政作用がこのような公権力を行使するのは国家 国。 、 (・自治体)の統治権に基づくものであり、その統治権は国民の総意に基礎づけられるものとするのが、国民主権の考え方である。

・権力的な行政作用には次のようなものがある。立法的行為(政令、省令、規則等の制定)a.

計画・基準の設定(都市計画や環境基準など)b.

裁判的行為(国税不服審判所の不服審査や公害等調整委員会c.

の裁定など)行政処分 (営業許可、運転免許、違法建築物の除去命令、d.

免許取消などの行政処分 「行政行為」ともい、う)

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権力的事実行為(行政権の行使としての強制措置:行政代執e.

行、破壊消防や感染症予防法による強制入院などの即時強制、強制的行政調査など)

・行政作用の権力性は、一般に民事法関係には見られないものであり、行政法に特徴的なものである。従って、伝統的に行政法の考察の対象は、主にこの権力的行政作用となっていた。

②非権力的行政作用・しかし、行政活動はすべて権力的性質を持つものではない。行政活動に必要な資源は契約によって調達されているし、教育行政や福祉行政は非権力的なサービスの提供という方法でなされることが多い。さらに、国民の活動を規制すべき分野でも、権力的手法をとるより、協定・行政指導・アドバイスなどの非権力手法で、国民の同意や支持をえながら行政活動を行う方が行政活動を円滑に進めていく上で有効である。そのため、実際には非権力的な行政活動が多用されている。

・非権力的な行政作用には次のようなものがある。契約(通常の国民が行うのと同じ私法上の契約が多いが、行a.

政に特有の契約も少なくない。近年は環境保全協定のように協定という手法も少なくない )。

( 「 」b.行政指導・アドバイス 行政指導は現実には相当の 強制力を有しているが、本来は相手方の任意の同意を前提とするものである )。金銭やサービスの提供(この教室で私が講義をするのも、こc.

れに含まれる)施設等を建設したり管理したりする行為(但し、管理行為にd.

は権力的手法をとる場合もある)

2、行政法とは→行政の組織や活動に特有の法のことをいう。①行政に特有の法・行政の活動の多くは、民法など通常の市民生活を規律する法に則って行われる。しかし、行政活動のなかには公権力を行使したり、公共的役務を実施したり、公の財産を管理するという点で、一般国民とは違う行政特有のものもある。これらの行政活動は、通常の市民とは異なる行政に特有の法的規律を受けることになる。

・このように行政に特有の法が行政法学の対象となる行政法である。(もし道路を建設するための用地取得を通常の売買契約で行えば、一般国民の取

引と同じであり民法等で処理できるが、土地を強制収用するとなると土地収

用法などの行政法が適用されることになる )。

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②統一的法典の欠如以上の意味での行政法には 「憲法」とか「民法」というよう、に「行政法」という名前を持った一つの法律があるわけではない (生活保護法、大気汚染防止法、警察官職務執行法など、。行政に関して規律する法律は無数にある。そこに行政の活動を規律する共通の法理が行政法学の対象とされてきた )。

③行政法総論と行政法各論・このように見ると行政法学の対象は様々な分野にわたり、その内容も一律ではない。そこで、伝統的に、行政法学は行政活動全体に共通する法理論を解明しようとする行政法総論と各行政分野のそれぞれの法理論を研究する行政法各論に分けられていた。

・しかし、各行政分野にはそれぞれ特有の法原理があり、それを必ずしも行政に関する法として論じることの問題性が意識され(逆に教育法のように私立学校を含めて教育における法のあり方を論じる方が重要な場合もある 、伝統的な行政法各論の存)在に疑問をもつ見解も現れた(特殊法論など 。)

④公法と私法の区別について・憲法や行政法のように、国家機関と国民との関係を規律する法分野を公法といい、それに対して、民法や商法のように国民や企業相互の法関係を規律する法分野を私法という。

・ドイツ公法学の影響を受けた伝統的な学説は、公法と私法を完、 、全に区別して 私法を対等な市民相互間の法関係と捉える一方

公法を支配服従関係の公権力関係と捉え、両者を基本的に異なる法の体系に属するものと考えていた。しかし、このような峻別論は、第二次大戦後強い批判を浴び、今日ではこのような峻別論は克服されている。そして「公法・私法」という概念を立てること自体に批判的な立場をとる人もいる。しかし、多数の

、 。論者は 公法と私法を法領域としては区別しているようであるその場合、完全な峻別論に立つのではないが、行政活動に関わる法には、公共性・公益性の要請からくる特有の法原則が存在するとしている。

3、行政法の分類行政法は様々な観点から分類できるが、近年は行政法総論を次の三つに分ける見解が多い。

①行政作用法(行政活動の手続や要件、活動の内容、効果などの規律に関する法 。)これらは各個別法律に規定されているが、行政活動に共通する

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法理を解明が総論の課題。

②行政救済法(行政活動に対する国民の権利救済に関する法)行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法など。

( )③行政組織法 行政組織や行政機関の設立・編成・権限等を定める法国家行政組織法や内閣法、地方自治法、地方公務員法……など。

、 ( )4 行政法を形成するもの 行政法の法源①制定法が中心的である(制定法中心主義 。)・それは、行政活動を議会(法律)の統制下におこうとする法治主義の現れでもあるし、行政権限の濫用を防止するためにも明文化された法のもとにおくことが重要であるためであろう。

・国の段階では、憲法、法律(国会制定法 、条約があり、また)行政機関が制定するもの(行政立法)に政令や省令(総称して命令という 、規則がある。現憲法の下では、行政立法が認め)られるのは法律に基づくものだけであり、法律の委任なくして行政機関が独自に命令を制定することはできない。

・自治体では議会立法である条例と、長や委員会などが制定する規則がある。

( ) 。②慣習や条理 ものごとの道理 も行政活動の基準となる法となりうる例えば、河川の水利権(慣習法)や、行政法の一般原則としての信頼保護の原則や比例原則など重要なものが少なくない。

③判例行政法においても判例の果たす役割は大きく、その後の裁判の基準となり、ひいては行政や国民の活動をも規律する機能を持つ。その意味で、判例も重要な行政法の法源といえる。

※行政内規について・行政機関内部の組織を編成したり、行政事務処理基準を定めたり、上級行政機関からの指示を示す内部的規則が数多く存在する(訓令・通達・規程・要綱などの名称で呼ばれる 。それら)は、公務員を拘束することはあっても、直ちに国民や裁判所を拘束するという意味での「法 (法規という)ではない。もし、」通達等が違法であれば、裁判所は通達に基づく行政の活動が違法であると判決できる。

・しかし、行政活動の基準となっている行政内規が国民の権利に大きく影響することは明かであるし(例えば、税務通達 、ま)た内部規程を無視した恣意的な(勝手気ままな)行政が違法となることもありうる。つまり、行政内規もそれが公正行政の基準となるという意味では、行政活動を規律する法としての性格も持つであろう。

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行政作用法総論講義資料( )3

(行政団体と行政機関)誰が行政を行うのか石崎2003.4.18

1.行政団体(行政主体)(1)行政団体とは:

①行政権を有する団体である (国、新潟県、新潟市など)。②行政団体は法人である。財産は団体に帰属し、国民や他の団体との間の法律関係(契約等)の当事者となる。例えば、新大生の在学関係は、学生と国(日本国)との間の在学関係であって、法関係の当事者は学生と国である(新潟大学ではない。新潟大学は、文部科学省に置かれる施設機関である 。授)業料は国庫に帰属する。

、 。あるいは 租税関係は国又は自治体と国民や企業との関係である税務署長や県知事は、国や自治体を代表して、具体的な課税処分を行うにすぎない。

(2)行政団体の種類①一般行政主体(憲法に基づく統治団体)

国、地方公共団体(都道府県・市町村・特別地方公共団体)

②特別行政主体独立行政法人(新しい制度)政府関係法人(公団、事業団など、いわゆる特殊法人)公共組合(土地改良区、土地区画整理組合、健康保険組合など)地方公社(地方住宅供給公社、地方道路公社、土地開発公社)

※現在国会上程中の「国立大学法人法案」が成立すると、新潟大学は国の機関ではなく、独立した法人となる。その場合、在学関係の当事者は「国立大学法人新潟大学」となる。新潟大学法人は固有の財産を有し、授業料等は新潟大学法人に帰属することになる。

(3)委任行政行政権の行使やその他の行政作用が、個別に行政主体以外の個人や団体に委任されることがある。給与支払者の源泉徴収・納付義務、指定法人(認可法人)による国家検定や試験、審査(火薬取締法 条の4以下など 、そ45 )の他(医師会による人工妊娠中絶を行う医師の指定など)

2.行政機関(1)行政機関の意味

( )・行政団体の意思の決定と執行を行う組織上の構成要素 職・ポストを行政機関という(大臣、評議会、学長、学部長、事務長、主査な

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ど自然人=公務員によって構成される 。独任制機関と合議制機関)がある。

・行政機関は、あくまでも行政団体内部の機関であって、それが対外的に法律関係の当事者となる訳ではない。行政機関がどのような権限を有するかは、法律・条例または行政団体の内部規則等によって決定される。

(2)行政機関の種類①行政庁(官庁 :行政主体の意思を決定し、これを外部に表示する)

権限を有する行政機関例 各省大臣・庁の長官・委員会、知事・市町村長・委員会a.

地方支分局長、税務署長、保健所長、建築主事のように、b.

法律によって処分権限をもった職員権限ある行政機関の決定とその表示は、対外的には行政団体の意思となる。例えば、任命権者である知事がある者を公務員に任命することによって その者と県との間に公務員関係が成立する こ、 (の場合、任用を決定し表示するのは知事だが、公務員関係における権利義務関係の当事者は、県と公務員である 。)

②参与機関・議事機関:行政庁の意思決定に参与する機関や行政庁の表示する意思を決定する機関。この議決は行政庁の意思決定を法的に拘束する(電波管理審議会、教授会)

③諮問機関:行政庁の諮問に応じて審議・答申する機関(文化財保護審議会など)

④補助機関:行政庁の権限行使の補助機関(副知事、大学ならば事務局長、その他職員など)

⑤執行機関:行政作用(特に権力的行政作用)を実際に執行する機関(警察職員、消防職員など)

(3)国家行政組織法の用法国家行政組織法は、上記の意味と異なり、省・庁・委員会を国の行政機関という。つまり、一定の所掌事務を持ち、多くの公務員によって構成される組織体を行政機関としている。

3、公務員行政団体に雇用されている職員で、それぞれいずれかの機関に配属され、実際の行政活動を行う自然人。

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行政作用法総論講義資料( )4

現代行政法の基本原理石崎2003.4.25

1、行政法の基本原理としての法治主義(1)法治主義とは

①法治主義の原理は、今日の行政法の基本原理である。すなわち、行政は法によって基礎づけられ、法に適合したものでなければならない。

②特に、権力的行為(国民の自由や財産を規制する行為や行政処分という形式で行われる行為)は、それぞれ法律又は条例に根拠規定がなければならない。これを「法律の留保」という。但し、法律の留保が妥当する範囲については論争がある。

③戦後の重要な改革として、国や自治体の違法な活動によって被害を17受けた国民は損害賠償を請求できるようになったことと(憲法

条 、すべての行政活動に対する裁判所の裁判権が認められたこと)(憲法 条)が挙げられる。これによって、行政の適法性が確保さ76

れる。

法治主義という考え方は、もともとはドイツ公法学の生み出したものであり、行政は法律

(議会制定法)に適合しなければならないという意味での行政の統制原理であったが、法律

の内容自体に対する統制原理ではなかった(形式的法治主義 。しかし、第二次世界大戦後、)

ドイツにおいては「形式的法治主義」の批判の上に 「人権保障を目的とし、そのための手段、

を体系的に提示するもの」として、法治主義を再構成することとなった。この原理を実質 的

法治主義と称している。

他方 「法の支配」ということもある。この概念はイギリス法の基本原理として形成され、

たものであり 「政府も通常の法に服す。法とは理性に基づく法、殊に基本的人権を保障する、

法であり、権力者が勝手に作るものではない。公務員も一般の国民と同じように通常裁判所の

裁判権に服す 」という原理である。。

今日では「法治主義」も「法律の支配」も同じような意味で用いられている。これらは、

国や自治体の活動は法に適合するものでなければならないという意味である ( 国民は法。 「

律を守らなければならない」ということは、法治主義の本来の意味ではない )。

(2)法律の留保をめぐる問題①(ある種の)行政権限の行使は、その根拠が法律に具体的に定められていなければならないとする考え方を法律の留保という。つまり、法律(=国会制定法)だけが行政権の根拠となるのであり(法律の留保 、法律以外は根拠法とならないという考え。)

②ただし、現在では、条例(自治体の議会立法)も法律と同様に根拠法となると考えられている。

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③もっとも、いかなる行政作用に「法律の留保」が妥当するかについては、見解が分かれている。侵害留保説:国民の権利(特に自由と財産)を侵害または制限a.

する権力作用に法律の留保が妥当する。社会留保説:生存権保障のための行政作用は、給付行政であっb.

ても法律の根拠を要する。権力留保説:侵害行為の他、利益的行為であっても公権力作用c.

といえるもの(行政処分)には法律の留保が妥当する。

重要事項留保説:侵害行政や権力行政に限らず、国土総合開発d.

計画のような行政上の重要な事項や、国民の権利に重大な影響を及ぼす行為は、非権力的性格のものでも法律の留保が妥当する。

全部留保説:すべての行政作用に法律の留保が妥当する。e.

④行政実務は侵害留保説によると言っているようだが、実際には行政処分という形式をとる場合、原則として法律または条例の根拠が求められているので、実質的には権力留保説に近い運用がなされているように思う。なお、最近の学説では重要事項留保説が有力になっている。

⑤憲法と法律の留保「 」 、 ( )、憲法が 法律で定める 旨を規定しているのは 財産権 条29

刑罰( 条 、租税( 条)である。しかし、これらはいずれも31 83)狭義の法律(国会制定法)に限定されるのではなく、条例(自治体の議会制定法)も含むとするのが最高裁の判例であり、通説でもある。

(3)行政に関する「法の一般原則」法治主義原理の一環として、行政法関係には次のような一般法理が妥当すると考えられている。

①信頼保護の原則在日韓国人の国民年金に関する区の国民年金勧誘員から指導を受け、国民年金保険料を納入していたにもかかわらず、当時の国籍条項を理由に国民年金支給裁定が拒否された事件で、東京高裁 判決(判時 )は、信頼保護の要請を根拠にS.58.10.20 1092-31

拒否処分を取消した。自治体の企業誘致を進出準備をしていた企業が村長改選で工場建設が不可能になった事件で、信頼保護法理に基づき損害賠償責任を認めた事例として、最高裁 判決(判時 。S.56.1.27 994-26)

②権利濫用禁止の原則風俗営業の進出を阻止するために児童公園を急拠認可した措置

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が裁量権の濫用であるとされた例として、最高裁 判決S.53.5.26

(民集 。32-3-689)

③平等原則(租税関係や公共施設利用関係など多くの領域で実定化されているが、行政活動一般に及ぶ原則 。)

④比例原則(規制対象の社会的害悪と規制措置には均衡が保たれていなければならず、過剰な規制措置は許されないという考え。警察官職務執行法に規定があるが、これも規制行政一般に妥当する法理であると考えられている )。

(5) 行政活動における私法の適用、 、①既に述べた 今日の行政活動は非権力的な手法でなされることが多く

その場合、法律上特別の規定のない限り民法等が適用される。

②行政に特有の作用であっても、民法等の適用が当然に排除されるわけではない。

、 ( )例:滞納処分による差押の関係につき 民法177条 登記の対抗力が適用されるとした事例として、最高裁 判決(民集S.31.4.24

。同じく、供用開始処分のあった道路敷地につき、最高10-4-417)裁 判決(民集 。公営住宅の使用関係に民法・S.44.12.4 23-12-2407)借家法及び契約法上の信頼関係の法理の適用があるとしたものに、最高裁 判決(民集 。S.59.12.13 38-12-1411)

③しかし、当該行政作用の性質(権力性や公益性など)や行政活動の適、 。正性・公平性確保の要請から 民法等の適用が制約される場合もある

例:自作農創設特別措置法の農地買収処分に民法177条の適用を排除したものに、最高裁 判決(民集 。公営住宅使S28.2.18 7-2-157)用権の承継について「相続人が公営住宅を使用する権利を当然に承継すると解する余地はない」としたものに最高裁 判決S.2.10.18

(民集 、判時 。44-7-1021 1398-64)

2、現代行政の特徴(1)伝統的な行政観の変容

世紀的な自由主義的国家観に立てば、行政はできるだけその権19

限行使を控え、外交・国防という対外的な行政は別にして、国内的には法秩序に違反する行為を取り締まることを主眼とすべきものと考えられていた。

(2)積極国家・福祉国家しかし、現代国家は国民の生存権保障を目的とした積極的な行政

活動が求められるようになっている。生存権とは、国や自治体の積極的施策によって、すべての国民に健康で文化的な生活を保障しようとするものである(福祉国家 。)

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そこで、伝統的な警察行政(規制行政)に加えて、国民や住民の生活基礎条件整備というサービス行政(給付行政)が増大している。また、社会的・経済的弱者保護のために企業などに対する規制権限を積極的に行使することの必要なケースも増えている。

(3)法治主義の危機積極行政の必要性は、行政活動を質量ともに増大させ、行政法に

も新しい問題を投げかけている。例えば、膨大でしかも専門的な行政活動は、行政立法を増大させ、行政裁量の余地を拡大し、法治主義を空洞化させる可能性を持っている。

(4)参加と公開このような行政活動領域の拡大に対して、第二次世界大戦後、行

政活動に対する司法審査が各国で強化されたが、さらに、今日では行政の決定過程や執行過程への市民参加と行政情報の公開が重要視されている。最近の行政手続法や情報公開法の議論では 「行政の、公正・透明」がキーワードとなっている。

(5)二重効果的行政の増大上記のように生存権を保障しようとする福祉国家(積極国家)の

行政では、行政権限が経済的・社会的弱者を保護する観点から行使されるものが少なくない。このような状況を背景に、行政活動の二重効果性が注目されてきた。二重効果とは、ある者にとっては利益的効果を持つが、同時に他者に対して不利益的効果を持つような行政活動である。例えば、消費者や付近住民の安全を目的として企業活動を規制する行政の場合、規制権限の行使は企業にとっては不利益的であるが、消費者等にとっては利益的である。逆に、開発許可などは企業にとっては利益的であるが、公害や災害を心配する付近住民には不利益的である。この二重効果行政の問題は、開発行為や原発設置など災害の危険

性を有する行為の許可に対する周辺住民らの取消訴訟などでよく問( 、 )。題となる 出訴資格を持つかや いかなる場合に勝訴できるかなど

その他、行政が有効な公害防止措置をとらなかった場合、行政が被害者に対して損害賠償責任を負うかということでも問題となった 薬(品公害裁判や水俣病裁判など 。勿論、すべての行政活動が二重効)果性を持つものではないが、二重効果性を持つと行政活動が増大していることも現代行政の特徴である。

3、現代行政法の基本原理以上を踏まえると、日本国憲法下での行政法の基本原理は、次のように考えることができると思う。

①法治主義(行政の適法性の要請と行政活動に対する司法審査)②生存権を保障する積極行政③公正・透明な行政(情報公開・参加・説明責任)

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④地方自治を基礎とする行政

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(補足)行政法の基本原理について

行政法の基本原理や現代行政法の特徴をどのように捉えるかは、勿論、論者によって異なる。例えは、いくつかの見解をあげると、田中二郎『行政法上巻』①地方分権の原理②民主主義の原理③法治国家・福祉国家の原理④司法国家の原理

塩野宏『行政法Ⅰ(第3版 』( 年)) 2003

①法律による行政の原理②行政のコントロールシステムの充実

裁判上の救済と公正な行政手続③法の一般原則

信義誠実の原則、比例原則、平等原則、公正・透明原則、説明責任原則

大橋洋一氏(九州大学)は、最近の教科書で、行政法の一般原則及び現代型一般原則を次のように整理し、行政の補完性や効率性を基本原則に入れている(同著『行政法』 年 。2001 )

1.法律による行政2.法律の留保(重要事項留保説をとる)3.行政に関する法の一般原則4.現代型一般原則 ①市民参加原則

②説明責任原則③透明性原則④補完性原則(行政は民間でできない分野の

補完)⑤効率性原則

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行政作用法総論講義資料( )5

情報公開制度石崎2003.5.9

1、情報公開法制の基礎と目的(1)知る権利と情報公開法制

①知る権利の多義性表現物を入手する権利としての知る権利(表現の自由)a.

公的情報を入手する権利(国民主権・住民自治)b.

( )c.他者の保有する自己に関する情報を知る権利 プライバシー権この他にも、生存権に基づく知る権利もあると思う(住民や消d.

費者が、企業の保有する情報で自己の安全等にかかわる情報を知る権利)

※このうち、aは表現物を入手する自由を制限されないという権利なので、特別の法律は必要とせず、憲法21条によって保障される。しかし、bからdは他者(行政団体や企業など)が保有・保管する情報なので、原則として、それに対し開示請求手続を具体的に定める法律や条例が必要であろうし、その場合には情報保管者の権利や権限との調整も必要になる。

( )②行政情報に対する知る権利の根拠 国民主権・地方自治=住民自治③情報公開法・条例の必要性(①の※で述べたとおり)

(2)行政情報公開制度の機能①行政の公正・透明性の要請と行政の説明責任(市民の直接的行政監視)②市民の権利保護③市民の政策決定への参加機能→情報公開は行政を正す、情報公開は市民を保護する、情報公開は思考を豊かにする。

(3)行政情報公開法制の特徴①一般的情報公開制度(自己の利害に関係なく開示請求できる)②開示に関する決定の行政処分性→行政不服審査と行政訴訟(取消訴訟)による救済が可能。

(4)我が国における行政情報公開法制の展開①70年代の「知る権利」論の提唱②80年代の自治体情報公開条例(90年代末までに殆どの自治体で条例化)③情報公開訴訟の展開と情報公開に関する法理論の進展(特に90年代)④行政機関の保有する情報の公開に関する法律(情報公開法)の制定

公布、 施行1999.5.14 2001.4.1

※独立行政法人や特殊法人に関する情報公開法も 年 月に施2002 10

行されている。

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2、情報公開法の概要(1)対象機関

①国の行政機関を対象とする(国会・裁判所・地方自治体の機関・特殊法人等は除かれる)→独立行政法人・特殊法人については立法作業中

②国の行政機関はすべて対象となる(国家公安委員会・警察庁・防衛庁も対象)

③行政機関(法2条)の種別内閣におかれる機関及び内閣の所轄の下にある機関1.

内閣府・内閣官房・安全保障会議・人事院など国家行政組織法3条2項に規定する「国の行政機関 (省・庁・委2. 」員会)国家行政組織法8条の2の施設等機関及び8条の3の特別の機関3.

で、政令で定めるもの→国立大学・検察庁・警察庁など会計検査院4.

※これらの行政機関が情報公開に関する権限を行使する。つまり、、 、国立大学の場合は 国立大学長が情報公開に関する行政庁であり

文部科学大臣ではない。開示に関する決定に不服があれば、国立大学長を相手に行政不服審査や取消訴訟を行うことになる。

(2)情報公開の対象文書としての「行政文書」定義:行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電

、 、磁的記録であって 当該機関の職員が組織的に用いるものとして当該機関が保有しているもの

①情報そのものではなく、なんらかの媒体に記録されている情報②電磁的記録( や などのコンピュータ情報や録音テープの情報FD HD

も含む)③組織共用情報であること(個人的メモは対象外)

以前の条例が採用した決裁・供覧済み文書より広い(条例も法律のように改正している 。)

④職務上作成又は取得し、当該行政機関が保有していること。作成者が誰であるかは問わない。情報公開法施行前に作成・取得された情報も対象。

⑤例外:販売目的文書、学術研究用で特別の管理がされているもの

(3)情報開示請求権と行政文書開示義務①請求権者は「何人 も。」(なんぴと)

自然人・法人を問わない。国籍も問わない。当該情報に利害関係を有するかどうかも関係ない。

②開示請求は行政機関の長に書面で行う。③行政機関の長は、不開示事由に該当しない限り行政文書を開示しなければならない。

(4)不開示情報①個人識別情報は原則不開示

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「プライバシー保護型」ではなく「個人識別型規定」を採用1.

他の情報と照合することで個人が特定されるものを含む(モザイク2.

・アプローチ)個人識別情報でなくとも、公開することにより個人の権利利益3.

( )を害しうるものも不開示 保護すべきアイデアが知られるなど例外的に開示される個人情報4.

イ 法令または慣行により公にされるもの.

ロ 人の生命・健康・生活又は財産を保護するため、公にするこ.

とが必要なものハ 職務遂行上の公務員の個人情報.

②法人情報は原則公開としつつ、例外的不開示理由を規定不開示情報は1.

イ 開示することにより法人又は個人の正当な利益を害するおそ.

れのあるものロ 不開示条件での任意提出情報.

不開示事由に該当する場合でも、人の生命・健康・生活又は財2.

産を保護するために必要な情報は開示できる。③国の安全及び外交に関する情報

国の安全を害し、外国との信頼関係を損ない、又は外交交渉に不利益を与えると行政機関の長が認めるにつき相当の理由があるもの

④刑事司法情報(公共の安全に関する情報)犯罪の予防・鎮圧・捜査、公訴の維持、刑の執行その他公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めるにつき相当の理由があるもの(※③と④に見られる行政機関の広い裁量性→条例でも導入)

⑤行政機関内部の審議・検討・協議に関する情報開示することにより率直な意見交換や意思決定の中立性を損ない、国民に混乱を引き起こし、又は特定の者に不当に有利・不利となる情報

⑥行政機関の一定の事務事業の遂行に支障を及ぼすおそれのあるもの

(5)不開示情報の取り扱いに関する特例①非開示部分を除く部分開示が可能な場合は、それを行う。②非開示事由に該当していても、公益上の理由による裁量的開示が可能。③行政文書の存否自体についても答えないことができる場合がある い(わゆるグローマー拒否 。)

(6)開示の手続①開示請求に対する措置:書面による通知②開示決定の期限: 日以内(+正当な理由があれば 日迄延長可)30 30

③第三者の意見書提出・第三者に関する情報が含まれている場合は、行政機関の長は当該第三者に通知し 意見書提出の機会を与えることができる 与、 (えなければならない場合もある 。)

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・第三者が開示反対の意見書を提出した時は、開示決定と開示実施の間に二週間を置かなければならない

④開示の実施(閲覧・写しの交付・電磁的記録情報は 等で交付しFD

てもよい )。⑤手数料:開示請求手数料は行政文書一件につき 円。300

100 100開示手数料は政令で定める。例:文書閲覧 枚毎に円。文書コピー1枚 円。光ディスクコピー1枚 円+ 迄毎20 200 0.5MG

円。220

(7)争訟(不服申立てと取消訴訟)①不服申立て(異議申立てや審査請求)の場合の情報公開審査会への諮問義務例外:不適法却下の場合、請求全部認容の場合(第三者からの意

見がある場合を除く)②情報公開審査会の構成

。 。 。9人の審査委員 両議院の承認を得て内閣総理大臣が任命 任期3年通常は委員3名の合議体で事案を調査審理する。必要な場合は委員全員で合議することがある。

③情報公開審査会の審査手続諮問庁に対する文書提出請求権(諮問庁の提出義務)インカメラ審理ができる(審査会委員は非開示となった文書を見て判断することができる 。)不服申立人及び利害関係第三者の意見陳述権、資料閲覧請求権審理は非公開で行う

④訴訟取消訴訟を提起する

情報開示請求に対して不服を有する国民は、まず行政機関に対し不服申立てを行い、その結果に不服があったら、さらに裁判所に訴えてもよいし、不服申立てを行うことなく直ちに裁判所に情報開示に関する決定の取消を請求してもよい。しかし、実際には、殆どのケースで不服申立てがなされているようだ。

裁判管轄の特例取消訴訟は情報開示に関する決定を行った行政機関の置かれている所の地方裁判所に提起することになるが、それだと多くは東京地裁となってしまうため、地方の国民にとっては大変は負担である。そこで高等裁判所の置かれている所の地方裁判所に提訴しても良いことになった。例えば青森の人は仙台地裁にも出訴できる。もっとも新潟の場合はどのみち東京地裁である。

インカメラ審理は規定せず

(8)著作権との調整(著作権法)①著作権者の特段の意思表示がない限り、開示について合意があった

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ものとする。②一定の場合(生命等に危険がある場合の開示など)には、著作権者の意見の有無に関わらず開示できる

3、情報公開条例(略)4、情報公開訴訟(略)

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行政作用法総論 講義資料( )6

行政立法・指導要綱・行政内規石崎2003.5.16

0.言葉の問題(1)法規とは→国民の権利義務関係を形成する成文法規範であって、国

民や国家機関-行政機関や裁判所など-を拘束する。・議会の制定する法規(議会立法 :法律、条例)

( ) 、 、・行政機関の制定する法規 行政立法 :政令 府省令規則など

・その他、最高裁判所規則などもある。※このうち行政組織や行政活動に関する法規を「行政法規」という。

(2)法規命令と行政規則①行政機関の制定する法規を法規命令という。国民や裁判所も拘束する。

②行政規則は行政機関内部の規範であり、国民や裁判所を直接拘束するものではない。訓令・通達・規程など。行政内規という方が分かりやすい。

(3)指導要綱について指導要綱(例:宅地開発指導要綱)は、多数人(事業者)に対して

行う共通の行政指導内容を成文化したもので、元来は法規としての効力を持つものではない。しかし、告示として公表され、市民や事業者がそれを遵守することが期待されているので、行政内規のひとつであるというのにも躊躇する。そこで、本講義では、法規命令及び行政内規とは分けて説明する。

(4)行政立法①広い意味では、行政規則(行政内規)を含む。②狭い意味では、行政機関の制定する行政法規(法規命令)をいう。※伝統的には広い意味で用いられてきたが、最近は②の意味で用いる例が増えている。このレジュメでは、②の意味で用いる。

1.行政立法(法規命令)(1)種類

①政令(憲法§ 、内閣法§ 、国家行政組織法§ :内閣73 11 11)②府省令(内閣府設置法国家行政組織法§ :内閣府令は内閣総理12)

大臣、省令は各省大臣③規則(国家行政組織法§ :外局(庁の長官、委員会 、13) )

独立機関(人事院など)④自治体の行政機関の制定する規則(自治法§ ①)15

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(2)行政立法権の存在理由①専門的・技術的判断を要するもの②迅速な対応の必要なもの③地域の特殊性に則した定めを要するもの※行政国家現象としての行政立法の増大という問題もある。

(3)行政立法権の根拠①委任命令と執行命令

憲法 条 号73 6

②独立命令の禁止③委任の限界(白紙委任の禁止)

法律の法規創造力を失わせるような委任は禁止国家公務員法 条の合憲性が問題となるが、判例はそれに基づ102

く人事院規則を適法なものとしている。最高裁 判決、刑集 (人事院規則)1958.5.1 12-7-1272

最高裁 判決(猿仏事件 、刑集 (人事院規則)1974.11.6 28-11-6)

(4)行政立法権の限界①委任の範囲内であること②法律に違反しないこと(適法性の要請)※最高裁で法規命令の適法性が争われた主な事例

最高裁 判決(判例自治 )2002.1.31 233-43

児童扶養手当法施行令の支給対象児童に関する規定→違法無効1991.7.9 45-6-1049最高裁 判決(民集

監獄法施行規則 条(14歳未満の接見禁止)→違法無効120

最高裁 判決(民集 )1971.1.20 25-1-1

農地法施行令 条(政府保有農地売払い認定基準)→違法無16

効最高裁 判決(民集 )1990.2.1 44-2-369

銃砲刀剣類登録規則で日本刀とサーベルを区別したこと→適法

(5)行政立法の手続①一般的な手続を定めた法律はない(行政手続法も行政立法手続は規定せず 。)個別法で公聴会や審議会諮問を義務づけたものがある。最近は、行政改革の議論を踏まえ、パブリック・コメントとして国民の意見を聞くようにしている。

②行政立法は、権限ある行政機関が制定し、官報または自治体の公報で公布する。

(6)違法な行政立法に対する救済①現在の裁判は、法律で特別の定めがない限り、具体的事件を前提とするので、抽象的に行政立法の違法無効の確認を求めることはできない。そのため、具体的事件において、行政活動の根拠となった行政立法の違法無効を主張し、それを前提として行政処分の取消等や国家賠償を求めることになる。

②但し、行政立法がその後の行政上の措置を待たずに、それだけで特定の国民の権利義務を具体的に確定するような場合には、例外的に

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取消訴訟や無効確認訴訟が認められることがある。

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行政作用法総論 講義資料( )7

行政立法・指導要綱・行政内規(続き)石崎2003.5.23

2.行政内規(行政規則)(1)種類

①形式による分類訓令、通達、規程、要項・要領、基準※告示について→公示の形式であって、法的拘束力を持つかどう

かとは直接関係ない。

②規律内容からの分類・行政内部組織に関する定め・業務の分掌に関する定め・文書等の管理に関する定め・財産の管理等に関する定め・職員の規律に関する定め・施設利用などに関する定め

これは利用者に対する関係で法規性を持つものがあるので、単純に行政内規と考えてよいかが問題となる場合もある。

・行政機関の行動基準・事務処理基準これも、実際には市民の権利義務に決定的な影響を及ぼす。

(2)権限行使基準・裁量基準としての機能を持つもの①種類 ・訓令・通達等

・法定受託事務に関する事務処理基準・行政手続法に基づく審査基準・処分基準

②内部規範の外部効果これらはたしかに行政内規であり、行政機関の権限行使基準(公務員の執務基準)であるが、それは市民の権利に直接関係する。そのため、単純に内部基準と言い切れるかどうかについては問題のあるところであろう。これを内部規範の外部化(外部効果)と言っている。これらの統制や権利救済は、現代行政法学の課題である。→伊方原発訴訟最高裁 判決(判例時報 )1992.10.29 1441-37

(3)行政規則と司法審査①原則通達に違反した行政活動が直ちに違法となるわけではない。逆に、指揮監督に従ったからといって、それだけで行政活動が適法となるというものでもない。・最高裁 判決(民集 )墓地埋葬法に関する通達S.43.12.24 22-13-3147

「 、 、 、 、元来 通達は 原則として 法規の性質をもつものではなく上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務

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権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから……一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりを持つようなものである場合においても別段異なるところはない。通達は、元来、法規の性質を持つものではないから、行政機

関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。また、裁判所は、法令の解釈適用にあたっては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取扱いが法の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合いである 」。

②違法な通達に対する権利保護勿論、違法な通達に基づく行政活動で権利を侵害された場合は、訴訟によって救済を求めることが可能である。・最高裁 判決(民集 )S.35.10.7 14-12-2420

通達に従った課税処分が違法であるとして取り消された事例。なお、本判決後、原告から国家賠償請求訴訟も提起されたが、税務当局の公務員に過失はなかったとして、請求が棄却されている。最高裁 判決(訟月 )S.43.4.19 14-7-765

・東京高裁 判決(判時 ) 産廃処理業許可通知事件H.5.10.28 1483-17

厚生省産業廃棄物対策室長通知が法の解釈を誤った違法なものであり、これに基づき県知事らの行った行政指導も違法なものであるとして、業者の国家賠償請求を認めた事例。

③行政規則の適法性が問われた最近の事例・最高裁 判決(判例時報 )H.11.2.26 1682-12

3、指導要綱(1)指導要綱とは

①地方自治体の制定する開発指導要綱等は、都市部における急速な宅地開発やそれに伴う住環境や生活の破壊あるいは自治体財政の深刻化に対処するものとして、1960年代に登場し、その後多くの自治体に普及していった。それは、開発を適切に規制する法制度の不備(特に市町村の権限の欠如)を補うものとして機能するだけでなく、自治体の地域環境整備行政を積極的に推進する機能も果たすようになっている。しかし、その法的性質をめぐっては様々な議論がある。

②要綱は、組織要綱、指導要綱(紛争調整のための要綱も含む 、負)担金要綱、給付・助成要綱、に分けるのが一般的であるが、このう

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ち組織要綱は「行政内規」に含めたい。

③私は、本来的には国民を拘束するという意味での法規範性はもたないが、国民や企業がそれを遵守することを目的として外部に対して発されているので、行政立法とも行政内規とも異なる第三のカテゴリーとした。しかし、後に述べるように、状況によって何らかの法規範性を獲得する可能性を否定するものではない。

(2)指導要綱の経緯①登場 年 川崎市団地造成事業施行基準S.40

年 兵庫県川西市開発指導要綱S.42

年 横浜市宅地開発指導要綱S.45

②普及 年 市町村 要綱S.56 1007 1104

元年 市町村 要綱H. 1294 1409

その背景法律の不備(特に市町村の権限の欠如)と事態の緊急性1.

条例制定の困難性(法律と条例の関係、議会の承認)2.

( 、 、3.行政指導的性格から来る要綱のメリット 迅速性 柔軟性先駆性)

③裁判 昭和 年代より、要綱違反の給水制限、申請の受理拒否や50

許認可の留保、負担金義務などをめぐって、要綱による市町村の措置をめぐる裁判が生じた 。。特に武蔵野市給水拒否事件最高裁 判決(判例時報H1.11.8

)1328-16

④抑制 建設省「宅地開発指導要綱による行政指導の積極的な見直しの徹底について ( 年)などで、住民同意義務づけや違」 S.60

反に対する制裁を抑制⑤立法 行政手続法( 年)・行政手続条例の制定H.6

行政指導に対する行政手続法 行政手続条例で 行政指導 指、 、 (導要綱を含む)に対する規定が設けられた。

⑥現在

(3)指導要綱の機能①法的規制の不備の補完機能を持つもの②行政指導基準の柔軟性に基づく先駆性・実験性という機能を持つもの③行政権限行使基準としての機能を持つもの

(4)指導要綱の法的性質をめぐる議論本来、要綱は行政内部的規範(行政内規)にとどまるものであったが、

①今日の一般的見解は、要綱は「正規の法 (完全な拘束力を持つ成」文法規)ではないとしている。その限りでは要綱に直接強制力を持たせたり、要綱による措置を行政処分として取消訴訟を提起することはできない。

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②しかし、法規範性が全面的に否定されるべきでもないとも考えられている。要綱は行政指導基準として住民や企業が遵守することを期待し、1.

予定して制定されている(単なる行政内部規範ではない 。)要綱に基づく行政指導自体は一般に否定されているものではな2.

い。むしろ、判決においても要綱や要綱に基づく行政指導の重要性は評価されている。要綱は行政の権限行使基準としての機能を持つ(裁判でも権限行3.

使の適法性審査の評価基準となりうる 。)・助成要綱にあっては、要綱は給付(補助金支給やサービス提供など)を実施するかどうかの基準であり、要綱の要件を満たしているときは、給付を求める権利があると考えるべき場合もある。

・許認可の際の権限行使基準としての意義を持つ要綱もある。

③そこで、上記のような要綱の普及とその機能から、積極的に法的効力を認める見解が出された(自治体慣習法説、都市法説、条理法説など 。)

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行政作用法総論 講義資料( )8

行政計画石崎2003.5.23

1、行政計画の概念(1)意義: 行政権が一定の公の目的の実現のために目標を設定し、そ「

の目標を達成するための手段を総合的に提示するもの 塩」(野・行政法Ⅰ、 )p.176

(2)分類①法的効力により

ex.・市民に対する法的効果・拘束力(外部効果)を有するもの(都市計画における区域区分-市街化区域と市街化調整区域-の決定、地域地区の決定、地区計画の決定。土地区画整理法による土地区画整理事業の策定・認可)

・市民に対する法的拘束力は持たないが、行政機関を拘束するもの( 高速自動車国道法の整備計画)ex.

・国または自治体の行政上の指針を示すもので、法的拘束力は持たないもの( 国土総合開発法の全国総合開発計画、環境基本法ex.

の環境基本計画)②計画の多層性・重畳性により・基本計画、実施計画、詳細計画・全国計画、地域計画、都道府県計画、市町村計画、地区計画・長期計画、中期計画、年次計画

③計画の対象、行政領域によりetc.土地利用計画、福祉計画、環境計画、エネルギー計画、……

2、行政計画と法律の根拠の必要性①外部効果を有するものは、法律の根拠が必要②外部効果を有しないものでも法律に根拠規定を持つものが多いが、一概に法律の根拠が必要であるとはいえないであろう。しかし、重要性留保説の立場からは法律の根拠を必要とする場合もあるとする。例えば 「国土総合開発計画の核をなす、公共事業関連計画・、土地利用計画・総合計画……となると……たとえそれぞれ指針的計

、 、画であるとしても 将来の国土のあり方が全体として方向づけられ、 、規定されるということになると わが国の民主的統治構造からして

法律の根拠を要すると考えるべき (塩野・行政法Ⅰ、 )」 p.178

3、行政計画策定手続①行政計画策定手続を一般的に定める法律はない。②個別法律で、策定手続を規定するものがある。

特に外部効果を持つ計画では重要(都市計画についての公聴会や)。 、 、縦覧と意見書提出など また 外部効果を持つものだけでなく

その他の法定計画で、計画策定に審議会の審議を要求するものが

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少なくない(都市計画:都市計画審議会、国土総合計画についての国土審議会など 。)

③行政手続条例で特別の規定をする例④その他、パブリック・コメントなどがある。※利害関係者や市民の参加手続の保障・整備が必要である。

4、計画と救済制度これは行政救済法で扱う問題であるが、簡単に記す。ここでは、( )1

外部効果を持つ行政計画に対する関係市民の救済と、( )行政計画を信4

頼して事業活動等を行った者の保護が考えらる。(1)外部効果を持つ行政計画に対する関係市民の救済

①まず取消訴訟による救済が考えられるが、問題は行政計画が取消訴訟の対象となる行政処分と言えるかどうかである。判例は行政計画(都市計画、土地区画整理事業の事業認可など)の処分性を認めることには消極的である。土地区画整理事業認可につき、最高裁 判決(判時 )S.41.2.23 436-13

都市計画法上の地区決定につき、最高裁 判決(判時 )H6.4.22 1499-63

②但し、計画決定に対して不服申立ができるとするなど、法律が行政処分性を認めていると解されるときは、処分性を認めている。土地改良事業の知事認可につき、最高裁 判決(判時 )S.61.2.13 1185-9

③都市計画に基づく土地利用制限に対する損失補償はないが、都市計画が長期間にわたって実施されず、そのため特別の損失を被ったとして損失補償を求めるケースがあるが、判例は損失補償請求を認めるのに消極的である。最近の例として、岡山地裁 判決(判例自治 )H14.2.19 230-90

④行政計画の結果予想される将来の不利益を避けるための訴訟は、行政処分義務づけ訴訟や行政処分差止訴訟が制度化されていない状況の下では、困難であろう。

(2)行政計画を信頼する利益の保護①ここでは、第1に損害賠償による救済が考えられる。これは、行政法における信頼保護が適用される場面である(計画担保責任ということもある 。)・村の工場誘致政策が村長の交代により中止となった事例で、村の誘致に応えて進出準備をしていた事業者に対する村の損害賠償責任を認めた事例として、最高裁 判決(民集 )。S.56.1.27 35-1-35

②都市計画等において、当該都市計画の趣旨に反する開発行為や建築行為に対する許可等を、居住者が争えないかという問題もある。しかし、判例は、都市計画等の土地利用規制の目的は特定居住者の個人的利益の保護ではなく、健全な都市環境の整備という一般的・公共的利益であるとして、住民に取消訴訟を提起する原告適格を認めることには消極的である。・住居専用地域境界でのパチンコ店の営業許可に対する住民の取消

H.10.12.17請求に関し、住民の原告適格を否定したものに最高裁判決(判時 )1663-82

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行政作用法総論 講義資料( )9

(行政処分の概念と種類)行政処分①石崎2003.5.30

1、行政処分(行政行為)とは①行政庁が 法律・条例に基づき 国民の権利義務を具体的に形成 設、 、 (定・変更・廃止)する行為。各法律では、許可、免許、保護決定、

、 「 」除去命令など様々な用語が用いられているが 総称して 行政処分又は「行政行為」といっている。・権利・義務関係を形成するという法的行為なので、強制執行や行政指導などの事実的行為と異なる。

・法律・条例を適用して個々具体的な権利義務を定める行為なので、国民一般の権利義務を形成する立法行為と異なる。

・国民の権利義務を形成する行為なので、職務命令のような行政組織内部の行為と異なる。

・行政庁の判断(決定)とその外部への表示(相手方への通知や交付など)によって法関係の形成がなされるものであり、双方の意思の合致によって成立する契約とは異なる(一方性と表現されることがある 。)

②行政処分に不服がある場合、国民は行政不服審査や取消訴訟でしか争えず、それ以外の手段で国民が行政処分の効力を否定することは原則としてできない(取消訴訟の対象としての行政処分、取消訴訟の排他的管轄 。)

。 、 、③行政処分を行う権限を持った行政機関を行政庁という 大臣 知事警察署長、委員会などがある。取消訴訟では行政庁を被告にする。特殊法人や民間団体、民間人が行政処分を行うこともある。

2、行政処分の種類(1)法的効果の内容に基づく分類(通説の分類法とは異なっている)

①設権処分(国民や住民に権利を付与する処分)許可(禁止されていた自由を回復する処分)a.

自動車運転免許付与、営業許可、建築確認など免除(法律上の義務を免れさせる処分)b.

納税免除や猶予など、国立学校の授業料の減免特許(新しい包括的な権利義務関係を形成する処分)c.

漁業権の設定、学校法人の設立認可、公務員任命行為など生活保護の給付決定もここにいれておく

認可(国民相互の契約や事業行為を有効なものとさせる行為。d.

補充行為ともいう。農地売買の許可、公共料金変更の認可など

確認(法律関係や事実関係を確認・証明する行為)e.

車庫証明、印鑑証明、選挙の当選人決定など

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※許可と特許と認可の違いは何だろう→補足参照

②拒否処分(許認可の申請や給付の申請を拒否する処分)この中には、申請の形式要件を欠くため、実質審査を拒否する処分(不受理処分)と、実質審査をして申請を拒否する処分がある。

③命令的処分下命(国民や住民に作為義務-何かをなす義務-や受忍義務をa.

課すもの)違法建築物の除却命令、課税処分、受診命令など

禁止(国民や住民に不作為義務-しない義務-を課すもの)b.

建築物の使用禁止、営業停止など通知(行政代執行など強制措置権の発動要件となる)c.

④ 剥権処分(国民や住民の権利を剥奪するもの).

全面的な剥権処分(権利や資格等を消滅させる処分)a.

生活保護廃止決定、公務員免職処分、運転免許取消処分など※既存の行政処分を職権取消や撤回も行政処分である。

部分的な剥権処分(権利の一部を剥奪したり、法的地位を低下b.

させる処分)生活保護の不利益的変更、公務員の降格・減給処分など

公用収用処分、公用換地処分、公用権利変換処分などc.

これらは、土地所有権を剥奪したり、他の土地と強制的に交換したり、他の権利(地上権→賃借権)などに強制的に変換したりする処分である。

※伝統的な行政法学での分類(ア)法律行為的行政行為

命令的処分(下命、禁止、許可、免除)1.

形成処分(特許、認可、代理、変更、剥権など)2.

(イ)準法律行為的行政行為確認、 公証、 受理、 通知1. 2. 3. 4.

※今日、この「準法律行為的行政行為」という概念を設定することには批判が強まっている。

※近年流行っている区分(例:塩野宏。ドイツの主流 )。(ア)命令的行為(下命、禁止)(イ)形成的行為(許可、特許、認可、剥権など) 許可も入っていることに注意。(ウ)確認的行為(確認、公証、裁決など)

(2)行政手続法の分類①申請に対する処分(上記の①と②がほぼ対応する)②不利益処分(上記の③と④がほぼ対応する)

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特に上記の④の は、聴聞手続が必要な処分である。a.

(3)その他の区分概念として①二重効果的処分(複効的処分)

一つの行政処分が、ある人には利益効果を持ち、同時に別の人( 、には不利益的効果をもたらすような処分 現代行政の性格から

近年特に重視されている 。原発許可(電力会社と周辺住民))や競願関係にある場合の許可など。

②混合処分一つの行政処分が相手方にとって利益的側面と不利益側面を持つ。条件付き許可など。

③一般処分道路の公用開始や公用廃止のように、不特定多数の者を相手になされる行政処分

3、行政処分の特徴(公権力性)①法律又は条例の根拠が必要

行政処分は行政庁が勝手に行えるものではなく、その要件・内容・手続が法律や条例によって決められている。その際、判断余地(裁量)の殆どないもの、狭いもの、広いものがある→根拠となる法律や条例の規定の解釈による。

②行政庁の判断によって、行政処分は行なわれる。特に不利益的な処分には、相手方国民の意思を無視して、一方的に行なわれるものが多い。これを、行政処分の一方性とか規律力ということがある。

③違反に対して行政上の強制執行が行なわれたり、罰則が規定されているものが少なくない。

④原則として行政不服審査か取消訴訟でしか争えない。不服審査や取消訴訟は、一定期間内にしなければならない(その期間が経過して、国民の側から取消を求めることができなくなる効力を不可争力という)

⑤違法であっても正式に取り消されるまでは有効である(公定力 。)不服審査や取消訴訟を提起しても、処分は有効である(執行不停止原則 。)正式に取り消せるのは、処分行政庁、上級行政庁、不服審査行政庁、取消訴訟の裁判所である。但し、あまりにも違法性の強いものは(重大かつ明白な違法という)無効である→取消と無効の違いは、後に瑕疵論で説明する。

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【補足】 いくつかの用語・概念について

(1)行政処分と行政行為法律(行政不服審査法・行政事件訴訟法・行政手続法)では 「行政庁の処分」と、いう用語を用いており、通常それを「行政処分」と言っている。それに対し 「行、政行為」とは、1①( )のような特質を持つ行政庁の法的行為を示す学問上の概p.25念である(ドイツから輸入 。しかし、行政不服審査や行政訴訟の対象としての処)分には、継続的性質を持つ権力的事実行為(物の留置や人の収容など)も含まれるし、救済の見地からさらに処分性を広げて考える場合もあるので、行政処分を訴訟法の観点から定義し、行政行為を上記のような法的行為に限定すると、概念としては 「行政処分」の方が「行政行為」より広くなる。、

(2)法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為①法律行為的行政行為とは、ある法的効果を発生させるという行政庁の意思(効果意思)を含む行政行為をいい、準法律行為的行政行為とは、行政庁が事実関係または法律関係を確認する(要件認定)にとどまるものをいう。

②例えば 「建築確認」を許可(=法律行為的行政行為)と理解すれば、それは建築、行為を許すという意思を表明するものと説明されるが 「建築確認」を確認(=準、法律行為的行政行為)と理解すれば、それは申請された建築計画が法律に適合していることの確認にとどまり、建築してもよいという効果は、この確認の結果、建築基準法の規定により当然に発生すると説明する。

③この区別は、行政庁に裁量が認められるか(準法律行為的行政行為の場合、建築してもよいという効果は法律によって発生するので、行政庁の裁量の余地はない 、)あるいは条件を付すことができるか(許可の場合、ある条件で許可するという余地があるが、確認だと効果発生は法律に基づくので条件を付す余地はない)ということに関係すると説明されてきた。

(3)命令的行政行為と形成的行政行為①命令的行政行為は、人や団体の行動の自由を規制したり(下命・禁止 、あるいは)その規制を解除し自由を回復させる(許可・免除)だけの行為と説明される。つまり、私人が本来持つ「自然の自由」に関わるものであって、それ以上の資格や特権を付与するものではないということになる。

②形成的行為は、新たな法関係を形成(設定・変更・廃止)するものであり、自然の自由の回復を超える法律上の地位・資格・能力を付与(あるいは剥奪)するものと説明される。

③例えば、単なる営業許可は命令的行為の許可であるが、独占的地位を付与する事業認可は形成的行為の特許である。

④命令的行為は自然の自由に対する規制(あるいはその回復)であるから行政庁の裁量余地がなく、形成的行為(特に特許)は新たな権利の付与であるから行政庁の裁量余地があると説明されてきた。

(4)許可と特許と認可①許可は自由を回復するだけであって、排他的・独占的地位を保障するものではない(運転免許など 。)

②特許は、排他的・独占的地位を与えたり権利(物権など)を発生させる効果を持つ。 。ものである また包括的な法律関係を形成する行為も特許のグループに入れている

③認可は、私人の法律行為(契約など)の効力を発生させる行政行為である。例えば公共料金の値上げの認可や農地売買の許可など。

、 、 、 、 、※法律上は 免許 許可 認可 確認などいろいろな用語が不統一に使われているが効果の性質に応じて分類する。

※発明の特許は、最新の発明であることの確認であり、特許権は法律によって発生すると解されている。つまり発明の特許は確認であるということになる。

※以上のような説明がなされるが、このような分類論から、条件の可否や裁量権の有無が。 、 、自動的に決まるものではない また 準法律行為的行政行為といわれるものであっても

、 。国民の側から見れば この行為の結果として権利や義務が発生することに変わりはないつまり、許可が命令的行為で、特許が形成的行為であるとすることに、いかほどの意義があるのだろう。どちらも権利を付与されることに変わりはない。

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行政作用法総論講義資料( )10

行政処分� (行政処分手続)石崎2003.6.6

1、行政手続法(1993.11.12公布、1994.10.1施行)(0)概要

①法律は6章 ヶ条からできている。38

章立ては、 総則、 申請に対する処分、 不利益処分、1. 2. 3.

行政指導、 届出、 補則、である。4. 5. 6.

②行政手続法の特徴行政処分手続と行政指導手続を規定する。基本的には処分や指導の相手方の権利を規定するにとどまる。(公聴会や参加人の制度など相手方以外の利害関係者が参加できる規定もあるが、充分な規定ではない )。

③行政手続法制定の背景

(1)総則①目的→行政運営の公正の確保と透明性の向上を図り、それによっ

て国民の権利利益の保護に資する。公正とは→客観的基準(恣意性の排除 、平等、聴聞・)

弁明、関係書類の閲覧権、判定者の中立性など

透明とは→「行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること (1」

) 、 、条1項 :判断基準の公開 判断過程の公開判断理由の開示など

②一般法的性格→処分や行政指導に関し、個別法律に特別の規定がある場合は、それが優先する。それ以外はこの行政手続法による。

③適用除外ア 特殊な行政庁が行なったり、特殊な性格の処分や行政指導であ.

るため、行政手続法の規定を適用しないとされているもの(法3条1項に列挙)

イ 地方自治体(地方公共団体)の処分や行政指導について.

自治体の条例や規則に根拠を持つ処分に対しては、適用さa.

れない。他方、自治体の機関が行なう処分で、法律にその根拠があるものは、自治事務・法定受託事務を問わず手続法の適用対象(法3条2項 。)

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、 、b.自治体が行なう行政指導は 自治事務に関わるものであれ法定受託事務に関わるものであれ 一般に適用されない 同、 (上 。)しかし、地方自治体は、3条2項で適用対象外とされたもc.

のについては、この法律の趣旨にのっとり、必要な措置を講ずるよう努めなければならない(法 条 。38 )

ウ 国の機関等に対する処分等の適用除外(4条).

エ 個別法律に基づく適用除外→結構多い(生活保護法など).

(2)申請に対する処分①審査基準の策定

行政庁は、許認可等を行なうかどうかの審査基準を定め、公にする。※「公表」と「公にする」との違い

②標準処理期間の策定行政庁は、申請に対する処分をするまでの標準処理期間を定めるよう努めなければならない(決めたときは公にする 。)

③申請に対する審査、応答補正要求義務

④理由の提示申請を拒否するときは、申請者に対し拒否理由を示さなければならない。

⑤情報提供義務

⑥公聴会の開催法律上、申請者以外の者の利害を考慮すべきこととなっている処分を行なう場合には、公聴会の開催等の方法で、かかる利害関係者の意見を聞く機会を設けるよう務めなければならない。

※申請拒否時の申請者の聴聞は規定されていない。

(3)不利益処分①処分基準の策定

行政庁は不利益処分を行なう場合の判断基準を定め、公にするよう努めなければならない。

②不利益処分の理由の提示(法 条)14

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③不利益処分の相手方に対する聴聞または弁明の機会の付与ア 聴聞.

聴聞の必要な不利益処分(法 条 項 号)1. 13 1 1

、 、 、許認可の取消 資格又は地位の剥奪 法人の役員の解任等その他行政庁が相当と認めるとき

聴聞の通知とその記載事項(法 条)2. 15

聴聞の手続(法 条から 条まで)3. 16 28

、 、 。文書閲覧請求権 利害関係人の参加規定 審理方式規定等聴聞主宰者と聴聞報告書4.

行政庁は、聴聞主宰者の意見を十分に参酌しなければならない。

聴聞を経てした処分に対する不服申立ての制限5.

イ 弁明.

聴聞を行なわない不利益処分に対しては、弁明の機会が付与1.

されなければならない。弁明の方式(法 条から 条まで)2. 29 31

基本は書面主義(但し、行政庁は口頭による弁明を認めることができる)

(4)行政指導(法32条から36条まで)①行政指導の一般原則

当該行政期間の任務又は所掌事務範囲を逸脱してはならない。あくまでも相手方の任意の協力によるものであること行政指導に従わないことを理由とする不利益取扱の禁止

②行政指導の方式、 、 、 。相手方に対し 行政指導の趣旨 内容 責任者を明確に示す

相手方は行政指導の趣旨、内容、責任者等を記載した書面の公布を求めることができる。複数の者を対象とする同一の行政指導は、あらかじめその共通の内容を定め公表する。

(5)届出届出は、形式的要件を満たしている限り、提出先の行政機関に到達したときに届出の義務は履行されものとする(つまり、不受理という概念はない 。)

2、個別法律による手続規定例①相手方の意見書の提出や公開による意見の聴取、聴聞、弁明

酒税法§ (非公開)15

生活保護法§ ④ 弁明 非公開62

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森林法§ (保安林指定や解除)32

道路交通法§ (免許取消、 日以上の停止)公開制104 90

②利害関係者の意見書提出、聴聞等32森林法§

河川法§ (水利使用許可)39

道路運送車両法§ ①③103

火薬類取締法§ ①③54

③申請拒否の場合の意見聴取薬事法§ (更新拒否の弁明)76

建築基準法§ ⑨48

④理由付記89国家公務員法§

⑤公聴会16都市計画法§

宅建業法§ ①(公開聴聞)69

風営法§ ①(公開聴聞)5

53火薬類取締法§

3、行政手続条例行政手続法制定後、各地方自治体(都道府県・市町村)で行政手続条例が定められた。基本的には行政手続法と同じ構成・内容だが、一部に特色のある規定をおいている例が少なくない(特に行政指導の部分 。)

4、行政手続に関する重要判例(1)行政手続法制定前

最高裁 判決(判時 )成田新法事件H.4.7.1 1425-45

→憲法 条と行政の適法手続との関係についての重要判例31

最高裁 判決(判時 )群馬中央バス事件S.50.5.29 779-21

最高裁 判決(判時 )個人タクシー事件S.46.10.28 647-22

(2)行政手続法制定後①行政手続法違反により、処分を取り消した事例・東京高裁 判決(判時 )H.13.6.14 1756-51

本判決は、審査基準を公にする義務及び理由提示義務に違反するとして、処分を違法とした。

②行政手続法の違反はないとした事例・東京高裁 判決(判時 ) 放送局開設免許基準H.10.5.28 1666-38

・奈良地裁 判決(判例自治 )審査基準の策定H.12.3.29 204-16

・鹿児島地裁 判決(判時 )理由付記H.11.6.14 1717-78

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行政作用法総論講義資料( )11

行政処分� (行政処分の効力)石崎2003.6.13

1、行政処分の成立要件と効力発生要件:行政庁によって、行政処分が対外的に表示(表(1)行政処分の成立明)されること

:行政処分が相手方に到達すること(2)行政処分の効力の発生最高裁昭 判決(刑集 :公務員免職処分29.8.24 8-8-1372)最高裁平 判決(民集 判例時報 )11.10.22 53-7-1270, 1693-133

:医薬品の製造・輸入承認※相手方の所在が不明の時→一般的な規定はない。行政処分の性質に従って個別に判断することになる。最高裁 判決(判例自治 :失踪公務員に対すH.11.7.15 195-45)る懲戒免職処分の通知方法と効力発生時期

※一般処分の時→公示等の方法による(例:道路法 条)18

(一般処分とは、道路の公用開始や公用廃止のように、不特定多数の者を相手になされる行政処分)

2、行政処分の効力(1)行政処分は、それぞれその内容に従って、相手方国民に対する一

定の法的効果を及ぼす→行政処分の拘束力。

(2)同時に、行政処分には、私人の行う法律行為(契約など)とは異なる特殊な効力がある。そのなかでも重要なものは、①公定力、②不可争力、③執行力、④不可変更力である。このうち①公定力と②不可争力は行政処分一般に発生する可能性があり、③執行力と④不可変更力は特別な行政処分にのみ発生する。

3、公定力(1)公定力の意義

行政処分は、仮に違法であっても、無効でない限り、正式に取り消されるまで有効なものとして扱われる。このような行政処分の通用力を「公定力」という。

(2)公定力はどのような効果として現れるか①仮に違法であっても(たとえ行政不服審査や取消訴訟が提起されていたとしても 、当該処分を前提として手続を続行できる。)

②特に、行政強制手続の根拠法律の要件に適合する場合は、強制執行もなしうる。

③他の行政機関も当該行政処分の効力を否定することができない。

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④通常の民事訴訟でも、裁判官は行政処分の効力を否定できない。つまり、行政処分が有効であることを前提として判断しなければならない。最高裁昭 判決(民集 )30.12.26 9-14-2070

(3)公定力の根拠:取消訴訟の排他的管轄①伝統的な行政法学説は、行政処分(行政行為)は行政機関の権威ある決定であるので、適法性が推定されるという理由を挙げていた(適法性推定説)

②しかし、このように行政処分にア・プリオリ(先験的)に適法性の推定を認めることに対しては強い批判が出され、今日では、現行法制度が取消訴訟制度を設けていることがその根拠であるという考えが多数の支持を得ている(取消訴訟の排他的管轄)

③なぜ、取消訴訟の排他的管轄が公定力の根拠となるのか・行政処分の取消権者は限定されている。

職権取消の場合:処分行政庁とその上級行政庁(上級庁の場合、法律の根拠が必要かどうかは見解が分かれている)

争訟取消の場合:行政不服審査の場合は、審査機関(上級行政庁か特別の審査庁)又は処分庁。取消訴訟の場合は裁判所。

・これ以外の行政機関や裁判所は、行政処分を取り消したり、その効力を勝手に否定することはできないとされている。

・従って、行政処分が正式に取り消されない限り、行政処分はその通用力を持つ。

・公定力のもっとも強い力は、取消訴訟以外では司法裁判所ですら、その効力を否定できないというところに現れている。これを「取消訴訟の排他的管轄」という言葉で表現している。

④取消訴訟の排他的管轄の他に、公定力を支えるしくみ執行不停止原則:日本の現行法制度は、不服申立てや取消訴訟a.

が提起されても、行政処分の効力は妨げられないとしているので(執行不停止原則 、公定力は非常に強い。)※ドイツ行政法も行政行為は取り消されるまでは有効であるとしているが、不服審査請求や取消訴訟が提起されれば、原則として執行が停止される(自動的停止効制度 。つま)、 。り 公定力が必然的に執行不停止制度を伴うものではない

公権力の行使に関する仮処分の排除b.

取消訴訟の短期的出訴期間制度c.

義務づけ訴訟制度の不備(出訴期間後に違法性が判明したり、d.

違法状態となったとしても職権取消の義務づけ請求は困難)行政処分の自力執行を認める法律の存在e.

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⑤公定力制度は、法治主義原則から見れば不思議な制度である。なぜ公定力(すなわち取消訴訟制度の排他的管轄制度)は認められるのか。一般的に行政処分をめぐる法関係の画一的確定の要請行政処分に対する信頼保護の必要性行政処分の内容の早期実現の必要性

などがあげられている。※このような問いかけがなされるようになったのは、公定力の根拠に関し排他的管轄

説が有力となったからである。つまり、排他的管轄制度を採用する立法の合憲性

・合理性が問われるわけである。適法性推定説ではこのような問いかけは論理的

になされない。もっとも現行行政事件訴訟法が排他的管轄を明文で定めているわ

けではない。ここには伝統的な行政法の制度理解がそのまま受け継がれている側

面がある。なお、現行法制下で「行政処分に関する取消訴訟の排他的管轄」が認

められる根拠は、取消訴訟の短期的出訴期間の制度であると言われている。つま

り、取消訴訟には短い出訴期間を課しておきながら、その後他の訴訟で当該処分

の効力を否定することが可能となれば、出訴期間制度の意味がなくなるからであ

る。

(4)公定力の限界と範囲①無効の行政処分に公定力は生じない

行政処分の違法性(瑕疵)の程度があまりに高い場合には、行政処分は無効と考えられるので、公定力は生じない。つまり、誰でも行政処分の効力を否定してよい。行政処分の瑕疵には、取消理由となる瑕疵と無効原因となる瑕疵の二つのレベルがあることになる。無効原因となる瑕疵は、一般に「重大かつ明白な瑕疵」とされているが、詳しくは後の「行政処分の瑕疵」のところで説明する。

②国家賠償訴訟に公定力は及ばない。公定力は国家賠償訴訟には及ばないとされている。しかし、国家賠償訴訟で行政処分の違法性が認められたとしても、行政行為の効力は否定されない。損害賠償を得るだけである。

③刑事訴訟に公定力は及ばない。行政処分に違反した場合に刑事罰を課されることがある。しかし、公定力はこの場合の刑事訴訟には及ばないとするのが学説の基本的傾向である。つまり、犯罪構成要件の審査は人権保障に関わるものであり、刑事裁判官は行政処分が違法かどうかを独自に判断し、違反行為の有罪・無罪を判断すべきと考えられている。最高裁昭 判決(刑集 )53.6.16 32-4-605

但し、最高裁昭 判決(刑集 )は、刑事訴訟に63.10.28 42-8-1239

も公定力が及ぶとしているように読める。

④先行行為と後行行為との間に「違法性の承継」が認められるもの

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例えば、土地収用の事業認定と収用裁決などは、後行処分の取消訴訟で先行処分の違法を主張することができる。その場合には、先行行為の公定力は後行行為に及ばないことになる。

⑤許認可に基づく私人の行為が第三者の権利を侵害する場合許認可を受けて私人が行う行為が私法上も適法となるものではない。従って、許認可を受けて行う私人の行為に対し、他人が差し止めなどの民事訴訟を提起することはなんら妨げられない。

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4.不可争力(1)意義

①行政処分は出訴期間を過ぎたら、国民の側からその取消を求めることはもはやできなくなるという効力。

②これによって、公定力はほぼ恒久的なものとなる。③取消訴訟の短い出訴期間の制度は、ドイツや日本などで採用されており、我が国行政法制度の重要な特徴である。

④適法な行政不服審査や取消訴訟が提起されている限り、不可争力は発生しない。

(2)不可争力の限界①無効確認訴訟は出訴期間の制約を受けない。無効の行政処分に不可争力は発生しない。

②行政庁が職権で行政処分を取消すことは、出訴期間経過後でも可能である。

5.執行力(1)意義

行政処分の中には、裁判所の判決を待たずに、行政庁自ら強制執行できるものがある。このような効力を執行力という。但し、行政処分に一般的に認められる効力ではなく、法律の根拠がある場合にのみ認められるものである(以前の学説は、行政行為に一般的に認められるとしていた 。)

(2)強制執行を認める法律①行政代執行法②国税徴収法による滞納処分(本法を準用する法律も少なくない)

6.不可変更力(1)意義

行政処分の中には、行政庁自らも、もはや取消や撤回のできないものがあると考えられる。これを不可変更力という。

(2)不可変更力の認められる行政処分①不服審査手続による裁決や決定など②利害関係者の参加で慎重な手続で行われる処分(土地収用裁決、土地利用権設定に関する農地委員会の裁定、公正取引委員会の裁決など)

③その他、行為の性質上、法的効果を確定させるべき行為(当選人決定など)最高裁昭 判決(民集 )29.1.21 8-1-102

最高裁昭 判決(民集 )42.9.26 21-7-1887

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行政作用法総論 講義資料( )12

行政処分� (行政処分と裁量)石崎2003.6.20

1、覊束処分と裁量処分①覊束処分→行政処分は法律・条例に基づいて行なわれるが、法律

等がその要件を一義的に(一通りの判断しかできないように明確に)定めているようなものを覊束(キソク)処分という。

②裁量処分→しかし、多くの法律は、ある程度の判断余地を行政庁に委ねている( 公益上の必要があるとき」とか「災「害発生の危険があるとき」のような規定や「することができる」というような規定など 。このように行政)庁にある程度の判断余地のある行政処分を裁量処分という。

・裁量権の範囲内で行なわれた処分は、不当(行政目的に照) ( )、らし適切ではない判断 ではありえても 当不当の問題

違法ではない。しかし、裁量権を濫用したり、その裁量余地を逸脱して行なわれた処分は違法である。

・行政権限の濫用を防ぎ法律による行政を実現するためには、できるかぎり法律で要件や効果を明確に定める(覊束する)ことが必要であろうが、他方、立法技術的な問題、日々生起する諸問題に弾力的・効果的に対処する必要性、政策的判断の余地の必要性等を考えると、ある程度の裁量余地は必要である。

・特に最近の行政は、高度に技術的・専門的な活動であるものが多く、議会で予め明確に規律することが不可能で、行政機関の専門的判断に委ねる事項が多くなっている。そこで、行政の裁量権をどう監視・統制するかが行政法学の重要な問題となっている。

2、伝統的な裁量論戦前以来の伝統的な行政法学は、裁量行為を覊束裁量行為と自由裁量行為に区別していた。伝統的な考えでは自由裁量はおよそ裁判所の審査の対象とならないとされていたので、この二つの区分は重要であった。

(1)覊束裁量と自由裁量①覊束裁量(法規裁量)法文上は不確定概念が使われているが、本来、そこには法の予定する一定の意味が存在すると考える。従って、行政庁が裁量判断

、 。 、を誤ったときは 法を正しく適用していないことになる 従って裁判所の審査で覆される。つまり、覊束裁量とは、裁判所が全面的に審査できるような裁量である。

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②自由裁量(便宜裁量)法が公益判断に関わるものとして、判断を行政庁に委ねたもの。従って、法の与えた範囲内で裁量判断を誤っても、それはせいぜ

( )、い行政目的に適合するかどうかの問題であって 当不当の問題適法か違法かという問題ではない。従って、自由裁量に関しては裁判所は審査できない。

(2)要件裁量と効果裁量の問題上述のように覊束裁量と効果裁量の区別は裁判審査対象となるか

、 。どうかという問題であったので その区別の基準も重要であった①効果裁量説(効果で区別する説)

、 、美濃部博士など東京学派は 要件の認定には自由裁量はないとし権利を制限する行為は覊束裁量、権利を付与する行為は自由裁量というように、行政行為を行うかどうかの点で覊束裁量行為と自由裁量行為に分かれるとした。

②要件裁量説(要件規定の仕方で区別する説)佐々木博士など京都学派は、法律の要件の規定の仕方に着目し、要件が法的意味を持つ概念の時は覊束裁量、要件を規定しなかったり公益目的を掲げる場合は自由裁量とした。

3、現行行政事件訴訟法下での覊束裁量と自由裁量の相対化(1)行政事件訴訟法30条の意義

①いかなる行政処分であっても、司法審査の対象となる。

( )②司法審査範囲としての裁量権行使の逸脱と濫用の審査 行訴法§ 30

③覊束裁量と自由裁量の相対化とは現在では裁量権行使の踰越や濫用については常に司法審査の対象となるので、今日では覊束裁量と自由裁量の差は相対的なものとなっている。つまり自由裁量といっても裁量域が相対的に広いだけであり、司法審査の対象外となるものでもない。

(2)現代社会と行政裁量の拡大①現代国家の行政作用の質的・量的拡大特に高度の科学的・専門的判断を要する行為

②立法政策として行政の政策的判断に委ねる事項の増大

(3)裁量判断はどこに現れるか(要件裁量・手続裁量・効果裁量)①要件裁量(処分要件の認定に関する裁量)

S.33.7.1 12-11-1612 157-14最高裁 判決(温泉法事件)民集 、判時S.53.10.4 32-2-1223 903-3最高裁 判決(マクリーン事件)民集 、判時

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②手続裁量(手続の選択)H.4.7.1 46-5-437 1425-45最高裁 判決(成田新法事件)民集 、判時

③効果裁量(処分をするか、いかなる内容か、いつ行うか、の裁量)処分を行うかどうか(行為裁量)

H.1.11.24 43-10-1169 1337-48最高裁 判決(宅建業者監督事件)民集 、判時いかなる内容の処分を行うか(効果裁量)

S.52.12.20 31-7-1101最高裁 判決(神戸税関事件)民集いつ処分を行うか(時の裁量)

S.57.4.23 36-4-727最高裁 判決(特殊車両通行認定留保事件)民集

4、裁量権の踰越(逸脱)と濫用(1)裁量権の限界

どういう場合に裁量権を逸脱し、あるいは濫用したことになるのか①事実誤認

一般論として、上記のマクリーン事件最高裁判決H.5.3.17 1458-3東京地裁 判決(一般旅券返納命令事件)判時

②平等原則違反H.7.2.22 1537-15東京高裁 判決(全税関組合員昇格差別事件)判時

③比例原則違反S.59.12.18 443-23最高裁 判決(山口学力テスト事件)労働判例

H.10.5.26 1678-72福岡地裁 判決(生活保護取消事件)判時

④目的ないし動機の不正、他事考慮S.53.6.16 32-4-605 880-3最高裁 判決(山形 事件)刑集 、判時ソープランド

⑤要考慮事項の考慮不尽S.48.7.13 24-6 7-533東京高裁 判決(日光太郎杉事件)行裁例集 ・

札幌地裁 判決(二風谷ダム事件)H.9.3.27

⑥適正手続の要請S.46.10.28 647-22最高裁 判決(個人タクシー事件)判時

S.59.3.29 35-4-476東京地裁 判決(公務員懲戒免職事件)行裁例集

(2)裁量基準の重要性①上記個人タクシー事件最高裁判決の判示②行政手続法の審査基準と処分基準( 条、 条)5 14

5、裁量処分に対する司法審査のあり方(1)司法審査のあり方

①社会通念上著しく合理性を欠くというものを裁量濫用とする方式②判断過程(考慮要素・判断方法・手続)の合理性を審査する方式

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③全面的に審査し、司法判断を代置する方式(従来の覊束裁量行為)※どれか唯一の正しい司法審査方式があるのではなく、行政処分の性質・根拠規定の定め方などを含めて、それぞれに司法審査の密度が決まることになると思われる。

(2)参考となる最高裁判例S.46.10.28 647-22①最高裁 判決(個人タクシー事件)判時S.52.12.20 31-7-1101②最高裁 判決(神戸税関事件)民集S.53.10.4 903-3③最高裁 判決(マクリーン事件)判時H.4.10.29 46-7-1174④最高裁 判決(伊方原発事件)民集H.8.3.8 50-3-469⑤最高裁 判決(神戸高専事件)民集

(3)裁量権審査に関する最高裁の考え①政治的・政策的裁量の認められるものについては (1)①の方、式をとっており、判断代置方式は明確に否定していた。しかし、神戸高専事件のように、要考慮事項審査の方式なども取り入れており (1)②の要素も取り入れるようになっている。、

②専門的・技術的裁量の認められるものについては、単純に(1)①の方式はとらない。伊方原発訴訟最高裁判決は、許可の際の具体的審査基準の合理性とその具体的な適用過程の合理性(看過しがたい過誤欠落があったか)を審査するものとしている。

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【補論】 裁量権収縮の理論

(1)裁量権収縮の理論とは①一定の状況の下で、裁量権の範囲が収縮し、ある特定の判断しか行政庁は許されなくなること(それ以外の判断は違法ということになるので、結局、覊束行為と同じことになる 。)

②この理論は、ドイツの判例学説として発展してきたものであるが、わが国においてもこの考えを支持する学説や判例がある。日本では、一連の公害事件(薬害、カネミ油症事件、水俣病)を通して、この理論に関する学説や判例が展開した。すなわち、主に行政権の不行使の違法性が問われた問題である。

③この理論の背景に、行政便宜主義という伝統的な考えを克服する必要性行政便宜主義→規制権限行使の要件が充足していたとしても、その権限を行使するか否かは原則として行政庁の自由裁量に委ねられているという考え方(権限を行使しなくても違法ではない) 刑事上の起訴便宜主義cf.

(2)裁量権収縮の考えを採用した判例S.52.11.17 875-17東京高裁 判決(千葉県野犬咬死事件)判時S.53.8.3 899-48東京地裁 判決(東京スモン訴訟)判時S.62.3.30 1235熊本地裁 判決(熊本水俣病第3次訴訟第1陣)判時

など数多い。

(3)裁量権収縮の要件例えば上記熊本地裁判決は、以下の5要件をあげる。

国民の生命、健康に対する重大な具体的危険が切迫しており、1.

行政庁が右危険を知りまたは容易に知りうる状態にあり、2.

規制権限を行使しなければ結果発生を防止しえないことが予想され、3.

国民が規制権限の行使を要請し期待しうる事情にあり、4.

行政庁において、規制権限を行使すれば、容易に結果発生の防止をすることが5.

できる

(4)裁量の消極的濫用論について①行政権限不行使の違法性が問われた裁判では 「裁量権の消極的濫用」という理論、が用いられることもある。

裁量権消極的濫用論→一定の要件の下では、権限を行使しないことが「著しく不合理なもの」となり、権限不行使が裁量権の濫用となるという考え

H.7.6.23 49-6-1600最高裁 判決(クロロキン事件)民集※裁量権の消極的濫用論と裁量権収縮理論とに本質的な差はないが、傾向的に、裁量権消極的濫用論の方が、権限を行使するかどうかについての行政庁の裁量を広く認めているようである。

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(5)最高裁判例の状況行政上の規制権限行使義務に関する最高裁判決には、次のようなものがある。

S.57.1.19 36-1-19・最高裁 判決(淡路駅前スナック事件)民集警察官がナイフの一時保管を怠った事例(責任肯定)

S.59.3.23 38-5-475・最高裁 (新島不発弾事件)民集海岸に打ち上げられた旧陸軍の砲弾の回収等の措置をとらなかった事例(責任肯定)

・最高裁 判決(宅建業者監督事件)民集 、判時 )H.1.11.24 43-10-1169 1337-48

宅地建物取引業者に対する知事の監督権限を行使しなかった事例(責任否定)

H.7.6.23 49-6-1600・最高裁 判決(クロロキン事件)民集クロロキン製剤について、厚生大臣が製造承認取消しの措置を採らなかったことが著しく合理性を欠くとはいえないとした事例(責任否定)

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行政作用法総論 講義資料( )13

行政処分� (行政処分の瑕疵)石崎2003.7.11

1、瑕疵とは行政行為が不当であったり違法であったりすると、それは取消の理由となる。このような取消原因となる不当性や違法性を行政行為の瑕疵という(瑕疵とはキズあるいは欠陥という意味である 。)・不当→法律の要件から見れば違法ではないが、行政目的から

みれば不適切な処分ということ・違法→法律上の要件に適合せず、本来有効な処分となりえな

いもの。※両者の違い

不当な処分は、行政庁が職権で取り消したり、行政不服審査で取消すことができるが、裁判所が取消訴訟で取消すことはできない。違法な処分は、行政庁も裁判所も取り消すことができる(国民から行政不服審査や取消訴訟が提起されたときは、取消さなければならない 。)

2、取消理由となる違法(瑕疵)と無効理由となる違法(瑕疵)(1)区別の意義

①行政処分はたとえ違法であっても、それが正式に取り消されるまでは有効である。しかし、その違法の程度が余りにひどく誰が見ても違法という場合には、そもそも効力は発生しなかったと考えるべきである。このような処分は「無効」である。

②取り消しうる処分と無効の処分との違い取り消しうる処分 無効の処分

・公定力がある(取り消される ・公定力はない(最初から効力までは有効で、それまでは国 が発生せず、国民も行政庁も民も行政庁も裁判所もその効 裁判所もそれを無視してよい)力に服すことになる )。

・不可争力が生じる(不服申し ・不可争力は生じない(国民は、立て期間経過後や出訴期間経 必要があればいつでも無効確認過後は、もはや国民の側から 訴訟を提起することができる)取消を求めることはできなくなる)

※ 頁は欠番42

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(2)区別の基準に関する諸見解①通説:重大明白説(通説)重大かつ明白な違法が無効原因となるという見解・明白性の意味について最高裁 判決(民集 )→処分成立の当初から瑕疵でS.36.3.7 15-3-381

( )あることが外形上客観的に明白であること 外見上一見明白説東京高裁 判決(行集 )→職務上要求される調査S.34.7.7 10-7-1265

義務を履行すれば容易に判明できるような過誤も明白の範囲にいれる(調査義務説)

②その他の見解:・明白性補充説

一般には重大性と明白性を要求しつつも、特に明白性を必要としない状況下では重大な違法だけで無効が認められるという見解(無効の本質的要件は重大な違法であり、明白性は法的安定性や第三者保護の見地から補充的に求められる要件であると考える)最高裁 判決(民集 )S.48.4.26 27-3-629

これは、最高裁が①の重大明白説を放棄したものではなく、例外的状況下では、根幹的要素に関する瑕疵が無効原因となり得ることを示したものと考えられている。

・重大説重大な違法が無効原因となるという見解もんじゅ無効確認訴訟差戻後控訴審判決名古屋高裁金沢支部 判決(判例時報 )2003.1.27 1818-3

・具体的価値衡量説違法の程度・違法な行政行為によって発生する不利益・無効を認定したときに生じる不利益を総合的に衡量して判断する。

3、瑕疵の諸類型(1)主体に関する瑕疵(2)手続に関する瑕疵(3)形式に関する瑕疵(4)内容に関する瑕疵(実体的違法)

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行政作用法総論 講義資料( )14

行政処分�(撤回と職権取消)石崎2003.7.18

1、撤回と職権取消(1)撤回とは①適法に成立した行政処分を後に発生した理由によって取り消すこと②撤回は、・処分を維持する必要がなくなったため、・受給資格など欠くようになったため、・違法行為や許可条件違反があったため(制裁機能 、)・新たな行政上の必要が生じたためなどの理由で行なわれる。

③撤回権者は、処分庁である。④撤回の効果は、将来に向かってのみ発生する。

(2)職権取消とは①行政処分が違法であることを理由に、行政機関が職権で処分を取り消すこと(たんに「取消」ともいう 。その目的は、違法状態の除)去である。

②処分庁は取消権を持つ。法律に特別の規定がない場合に、上級庁が取消権を持つかどうかは見解が分かれる (伝統的には上級行政庁も当然に取消権を有。するとしていたが、近年、法律に根拠のない場合は上級行政庁といえども取消権を有しないという見解が出されている )。

③原則として取消の効果は遡る。つまり最初から処分の効果は否定される。

2、撤回や取消の制限(1)撤回及び職権取消と法律の根拠①撤回や取消は法律上の根拠がなくても行えるとするのが多数説である。つまり原処分の根拠規定の中に撤回権や取消権も内在すると考える。※実際に問題となるのは、利益処分や二重効果的処分の取消や撤回であろう。しかし、このように、行政処分の撤回や職権取消が行政庁によって一方的になしうるところに、行政処分の権力性の一端が現れている。

②利益的行政処分の撤回については異論(即ち法律上の根拠が必要であるとする見解)も少なくない。しかし、最高裁は行政処分を取り消すことにつき公益上の必要性が強い場合は、撤回の根拠規定がなくとも撤回が可能であるとした。

S.63.6.17 1289-39最高裁 判決(優性保護指定医取消事件)判時

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(2)撤回権・取消権の制限①不利益処分の場合は、撤回事由が発生したり、不当・違法性が判明すれば、その撤回や職権取消は原則として制限されない。職権取消の場合は、その義務が発生することもありえよう。しかし、行政処分によって作られた法律関係を安定させるために撤回が制限されることがある。

②利益的処分の場合、国民の既得利益や信頼を保護するため、状況によっては、撤回権や取消権が制限される場合があるとするのが学説の大勢である。特に私法上の法律関係を形成する行為や継続的な資格や受給権を基礎づける処分に、撤回権等の制限の要請が強い。(職権取消)福岡地裁 判決(在日韓国人永住許可取消事件)S.53.4.14

24-6-1267訟務月報永住許可以前の不法出入国が仮にあったとしても、被処分者の許可取消による重大な不利益に比べ、取消の公益上の必要性がないとした事例

H.10.5.26 1678-72(撤回)福岡地裁 判決(生活保護廃止事件)判時自動車の所有及び借用を理由とする保護廃止処分が取り消された事例(比例原則)

※資格要件を欠くことが判明した年金給付決定を取り消した事件で 将来にわたる給付についてだけ取消しを認めた事例がある 松、 (山地裁宇和島支部 判決、行集 。しかし、控S.43.12.10 19-12-1986)訴審はこの判断を否定。同様に東京地裁 判決(老齢年金S.57.9.22

支給裁定取消事件・行集 )も過去に遡る取消を認めた。33-9-1846

③撤回権や職権取消権を行使できる場合でも、それを行使するかどうかは行政庁の裁量に委ねられる。しかし、不利益処分や二重効果的行政処分で撤回や取消義務が生じる場合がある(裁量権の収縮)

S.53.8.3 899-48東京地裁 判決(東京スモン訴訟)判時S.57.2.1 1044-19東京地裁 判決(クロロキン薬害訴訟)判時

④不可変更力のある処分の撤回や職権取消は許されない。S.30.12.26 9-14-2070最高裁 判決(訴願棄却裁決取消事件)民集

3、撤回や職権取消の処分性撤回や職権取消も一つの行政処分である。つまり、撤回や職権取消に不服があるときは、行政不服審査や取消訴訟を提起することができる。

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行政作用法総論 講義資料( )15

行政処分� (行政処分の附款)石崎2003.7.18

1、附款とは条件など行政処分の主たる効果に付された従たる効果(以前に配布した行政財産使用許可書を参照のこと 。法律では「条件」という)用語が用いられることが多いが、学説では次(2)のように区別している。

2、附款の種類(1)条件(停止条件と解除条件)

行政処分の効力の発生又は成立を、発生の不確実な事実にかからしめること。①停止条件とは、条件成立の時まで効力の発生を停止する。

例:会社の設立を条件に道路の占用許可を出す。②解除条件とは、条件成立の時に効力を消滅させる。

例:一定期間に工事に着手しなければ許可の効力を失効させる。

(2)期限行政処分の効力の発生又は成立を、発生の確実な事実にかからしめること。①始期とは、事実発生の時に効力が生じる。②終期とは、事実発生の時に効力が消滅する。

(3)負担負担とは行政処分の主たる効果に付加して、義務(作為、不作為)を課すこと。負担の不履行があったからといって、自動的に行政処分の効力を消滅させるのではない (ここが条件と違うところ)。但し、負担の不履行が撤回の事由となることはありうる。

(4)撤回権の留保行政処分をするにあたって、行政庁が当該処分を撤回をすることを予め宣言しておくこと。但し、撤回権発動のためには、それを正当とする具体的理由が必要であって、単なる撤回権の留保は法的意味を持たない「例文」とされることがある。

(5)法律効果の一部除外①法律効果の一部除外(例えば、限定運転免許など)も、従来は附款の一種であるとされていたが、最近は、行政処分の効果そのものであって、附款ではないと解しているようである。

②法律効果の一部除外は、法律の明文の根拠が必要であるとされて

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いる。

3、法定附款行政庁の意思としてなされる附款ではなく、法律自体が条件や負担を課していることがある。これを法定附款という。従来は、附款の一種として説明してきたが、正確には附款というより、行政処分の法律効果そのものである。(例)土地収用法 条:事業認定の告示があった日から1年以29

内に収用裁決の申請をしないときは、事業認定は将来に向かって失効する。

4、附款の限界①法律の根拠の要否:通説は、行政庁はその裁量の範囲内で附款を付すことができると解している。但し、附款(法令用語としては「条」) 。 、件 を付すことができる旨規定している例は少なくない 例えば

廃棄物処理場許可に関する廃棄物処理法の8条の2④、 条の215

④など。②処分の性質上、あるいは当該処分に関する法制度上、附款を付すことのできない処分もある。帰化の許可に条件は付せられないと解される。また、通説は建築確認を講学上の「確認行為」と解しているので条件は付せられないことになる。

③法律の趣旨に反したり、裁量権の濫用となる附款(比例原則に違反する附款など)は、違法である。

5、附款と争訟附款を行政処分本体と可分であるときは、附款だけの取消を求めることができるが、附款と行政処分本体が不可分一体の場合は、附款のみの取消は許されないと解されている(後者の例として、6①判決)

6、附款が違法とされた事例①労働委員会が救済命令をするに当たり、労働者に一定の行為をすることを条件とすることはできない。東京地裁 判決(労民 )S.46.8.6 22-4-731

これは公共企業体等労働委員会が、労働組合側にも行きすぎた行為があったことを認定して、組合が遺憾の意を表明することを停止条件として救済命令を出した事件。判決は、本条件は違法であり、それは救済命令全体の違法を招来するとして、救済命令それ自体を取り消した 但し 控訴審である東京高裁 判決(行。) 、 S.53.4.27

集 9は本件条件を適法とした。29-2-262

②消防法の危険物取扱所変更許可処分について、隣接住民の同意書を提出することを附款とすることは許されないとした事例。神戸地裁

判 決 ( 行 集 ) 、 大 阪 高 裁 判 決 ( 行 集S.50.9.12 26-9-983 S.52.10.28

)。28-10-1190

③デモ行進の許可に付された条件(ジグザグ行進禁止や進路変更)を違法とした事例は少なくないが、例えば東京高裁 判決(行S.51.3.25

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集 )27-3-375

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行政作用法総論 講義資料( )16

行政上の強制措置石崎2003.9.25

1、行政上の強制執行(1)種類①代執行②執行罰③直接強制④行政上の強制徴収

(2)行政上の強制執行の特徴としての自力救済①行政上の強制執行は、裁判を経ないで行うことができる。強制執行を阻止するためには国民の側が裁判を提起しなければならない。自力救済を禁止する民事法との大きな違いである。

②行政上の強制執行が予定されていない義務については、司法裁判所の判決によって実現することも可能である。

③しかし、行政上の強制執行が可能な義務については、行政側が司法裁判所に訴えを起こして、義務の実現を図ろうとすることはできないとされている( 訴えの利益を欠く 。∵ )

最高裁昭和 判決(民集 )41.2.23 20-2-320

最近の最高裁平成 判決(宝塚市パチンコ店等建築規制条14.7.9

例事件:判例自治 号 頁)では 「国又は地方公共団体が232 93 、専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらず……」として訴えそのものを不適法なものとした。

(3)根拠規範、 。義務を命ずる法律とは別に 強制執行のためにも法律の根拠が必要

条例で強制執行の制度を作ることはできないとされている (なお、。公表等の措置は、ここでいう強制執行の制度には含まれないし、これら措置を条例で規定することは一概に不可能とはいえない )。

(根拠法→行政代執行法)2、行政代執行(1)要件①代替的作為義務であること(他人が代わって履行できる作為義務 。)

・不作為義務は含まれない。例えば、庁舎の使用許可取消処分は代執行の根拠とはならない(大阪高裁昭和 決定=行集40.10.5

。16-10-1765)( )・非代替的作為義務 本人が履行しなければ意味をなさない義務

も含まれない(庁舎の明け渡し命令や立ち退き命令など 。)大阪高裁昭和 決定(行集 )40.10.5 16-10-1765

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横浜地裁昭和 判決(判例時報 )は、義務者の53.9.27 920-95

占有の排除は直接強制によってのみ実現可能な義務であって、行政代執行により実現しうる代替的作為義務ではないとする。但し、札幌地裁昭和 判決(訟務月報 )抵抗54.5.10 25-9-2418

の排除は代執行に随伴する権能として必要最小限の実力行使を是認している。

・一定の義務履行のための方法が選択的に存在する場合は、代替的といえるかどうかの判断が困難な場合もある(公害発生施設の改善命令など 。)

②義務不履行の状態義務→ 法律・政省令・条例により直接成立する義務1.

行政処分によって具体的に発生した義務2.

③他の手段によってその履行を確保することが困難であること

④義務の不履行を放置することが著しく公益に反すること

(2)行政代執行の裁量性①上記要件が存在したとしても、行政代執行を行うかどうかは、行政庁の裁量判断に委ねられる。岡山地裁昭和 判決(訟務月報54.2.23

、広島高裁岡山支部昭和 判決(訟務月報 )25-6-1542 55.9.16 27-1-160)

②しかし、生命・健康・財産を保護するために必要があるときは、代執行をしないことが違法となることがあり得る。土地区画整理事業で仮換地の建物除去をしなかったことが違法とされた事例として最高裁 判決(民集 )。S.46.11.30 25-3-1389

③漁港管理者である町が、漁港水域内の不法設置にかかるヨット係留杭を法規に基づかず、強制撤去した措置が、行政代執行としては違法であるが、緊急の必要性があったため、その違法性が阻却されるとした事例。最高裁平成 判決(判例時報 )3.3.8 1393-83

(3)手続①戒告(履行期限を定める)②代執行令書の通知(代執行をなすべき時期、責任者、費用)③代執行の実施④費用の徴収(滞納処分による強制徴収が可能)

(4)救済手続①戒告や代執行令書の通知は行政処分であると考えられている。

戒告や通知の行政処分性(取消訴訟の対象性)を認めるのが一般的(東京地裁昭和 判決=行集 ・ 。48.9.10 24-8 9-976)執行停止を申し立てることもできる。

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なお、行政代執行が完了すると、これらに対する取消訴訟はできなくなる。

②国家賠償の請求

3、直接強制①義務者の身体または財産に直接実力を行使して、義務履行のあった状態を実現すること。

予め行政処分で作為ないし不作為義務が課せられている点で、即時執行と異なる。しかし、どちらに分類すべきか不明確なものが少なくない。

②直接強制に関する一般法は存在せず、個別に規定するにとどまっている。従前は性病予防用などに規定例があったが、感染症予防法の制定により今では殆どこの制度がなくなった。

4、執行罰①義務の不履行に対して、義務履行まで一定額の過料を課す(間接強制 。義務履行まで金銭的負担を課すことによって、義務の履行を)促す点で、後に述べる行政罰と異なる。

②現在は砂防法に残るのみであるが、公害防止協定で類似の制度

5、行政上の強制徴収(1)行政上の金銭の強制徴収制度

国税徴収法上の滞納処分が唯一の立法例であるが、これを準用する法律が少なくない(地方税法、河川法、行政代執行法など 。)

(2)手続①納税通知→ ②督促→ ③財産の差押さえ→ ④財産の換価(公売処分)→ ⑤換価代金の配当

(3)救済差押えや公売処分も行政処分であって、取消訴訟を提起できる。

(行政上の義務懈怠に対する制裁)6、行政罰(1)行政刑罰(行政法規規範に対する刑罰)

①刑法総則の適用を受け、刑事訴訟によって科刑される。基本的には刑法上の刑罰と同じだが、両罰規定などが認められる場合がある(水質汚濁防止法 条 。34 )

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②反則金制度について

(行政法規に対する軽微な違反や手続違反などに対(2)行政上の秩序罰して課される制裁で過料の形で課される)

①国の法令違反に対する過料は、法律で特段の規定がない限り、地方裁判所が課す(非訟事件手続法 条 。206 )

②法律による過料の例としては、廃棄物処理法でも無登録で「登録廃棄物再生事業者」と名乗った者に 万円の過料。独占禁止法で10

97の審決違反に対する過料は最高50万円とするものがあり(条 、これは東京高裁の管轄。)

③地方公共団体の条例・規則に違反する過料は、長が課し、不履行に対しては滞納処分の例による(最高5万円 。)

7、その他の措置(1)違反事実や違反者の公表

①法律で定める例→国土利用計画法 条、国民生活安定緊急措置法26

条2項17

②条例や指導要綱で制裁として公表措置を取る例が多い。東京都公害防止条例、鎌倉市開発事業指導要綱(但し、要綱で公表を定めたものは多くはない 。)

③違反者等の公表は重大な不利益的効果が強いので、要綱で可能かや、相手方の手続的権利の不備が問題となる。

(2)給水等の拒否①水道法による正当な理由に基づく給水の拒否②指導要綱による給水拒否が違法とされた事例

最高裁平成 判決(判例時報 )1.11.8 1328-16

(3)課徴金その他の経済的負担法律で定める例として、独占禁止法7条の2①(不当な取引制限による売上に対する課徴金)や国民生活安定緊急措置法 条(便乗値11

上げや売り惜しみ対策として、特定物資については主務大臣が特定標準価格を設定し、これを越える超過利潤に対して課徴金を課す)

(4)許認可等の撤回による制裁法律上の用語としては「取消」が用いられることが多い。

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行政作用法総論講義資料( )17

即時強制・行政調査石崎2003.9.25

1、即時強制(即時執行)とは(1)概念

即時強制とは、差し迫った人身・財産等への危険を回避するためなど、国民に命令を発して自発的対応を待っていては事柄の性質上目的を達しえない場合に、行政が直ちに国民の身体や財産に対して実力を行使して、行政上必要な状態を実現すること。

(2)特質①行政権の作用としての強制措置の一つ(権力的事実行為)②行政処分による義務づけを前提としないで実施される点で、直接強制と異なる。

③公権力の行使であるから法律の根拠が必要。条例も根拠法たりうる。

④比例原則の適用

2、即時強制の種類(1)身体に対する即時強制の例

①警察官職務執行法によるもの保護、避難等の措置、犯罪の予防・制止、立入り、武器の使用※警職法による職務質問は任意性を基本とする。※なお、所持品検査と自動車検問について

②感染症予防法等による即時強制・健康診断の実施(知事が職員に感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者について健康診断を行わせる。感染症予防法§ ③)この場合、予め健康診断を勧告し、従わない17

場合に健康診断の実施通知をしなければならない。但し、差し迫った必要がある場合は通知なしで健康診断を行わせることができる。但書き以下の場合は明らかに即時強制であるが、通知による健康診断の実施は即時強制というべきか直接強制というべきか難しいところ。

・入院(同法§ 、§ )19 20

一類感染症患者の入院( 時間以内)この場合も予め入院の勧72

告が必要。さらに 日以内で入院させることができる(この場10

合感染症の審査に関する協議会の協議が必要 。)( 、・精神保健法による診察と措置入院・緊急入院 精神保健法§ 27

§ 、§ の )29 29 2

39③出入国管理法による収容と退去強制について(出入国管理法§以下、§ 以下)51

(2)財産に対する即時強制の例

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①消防法による消火対象物の利用・処分(§ ② 、29 )他人の土地家屋の利用(§ ③ 損失補償)29

②感染症予防法による衣服や建物等の処分()③食品衛生法による不衛生食品等の廃棄(§ )22

④銃刀法による銃刀類の一時保管(§ )や仮領置(§ )24 25

( ) ( )⑤道路交通法によるレッカー移動 § ②⑥ や違法工作物の除去等 § ②51 81

(3)放置自転車問題放置自転車条例による撤去・保管も、即時強制・仮領置と解しうる。

4、行政調査について以前は、強制的性格性をもった行政調査も即時強制の一つとして論じられることが多かったが、今日では行政調査は行政処分の事前手続の一つとして位置づけられている。

(1)行政調査の種類①報告の要求(消防法§ ①、食品衛生法§ ①など)4 17

( 、 、 )②土地への立入調査 文化財保護法§ 河川法§ 宅地造成規制法§ など83 89 4

③家屋への立入調査(消防法§ ①、建築基準法§ ④など)4 12

④立入による帳簿等の調査(食品衛生法§ ①、再生資源利用促進法§ など)17 21

⑤立入による質問(消防法§ ①、建築基準法§ ④など)4 12

(2)強制性①検査や立ち入りの拒否、虚偽の報告等に対して罰則が予定されている。

消防法§ 、再生資源利用促進法§ 、食品衛生法§ 、44 27 32

、 ( )罰則がおかれている場合は 罰則の威嚇による強制 間接強制にとどまり、一般に実力で立ち入りや検査をすることはできないと解されている。最高裁昭和 判決(刑集 )=川崎民商事件47.11.22 26-9-554

②実力行使が認められる場合裁判所の許可が必要とされる場合(出入国管理法§ )31

国税徴収法§ 以下のように、調査の対象物「捜査」の性質から142

(この場合、拒否や妨害に対する国税徴収法の罰則規定はないが、公務執行妨害罪が適用される)

その他、人命に関わる場合(警職法§ ①など)にも実力によ6

る立ち入りが認められるという見解がある、 、③強制的措置であり 拒否に対する罰則や実力行使がありうるので

法律や条例の根拠が必要。

(3)手続的規律①事前通知②職員の身分証明書の携帯と提示③調査時間の制約

質屋営業法§ は営業時間、国税徴収法§ は、原則夜間禁24 143

止④令状について

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※最高裁昭和 判決(刑集 )=川崎民商事件参照47.11.22 26-9-554

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行政作用法総論 講義資料( )18

非権力的行政石崎2003.9.26

0.非権力的行政活動(1)概念

①契約のように相手方と対等の立場で法律関係を形成し、通常の民事訴訟で紛争が解決されるもの(公定力を有しないもの)や事実行為であって相手方に受忍を強いる法的効果を有しない行為を非権力的行政活動ということにする。

②これまでは、権力的な行政活動(国民の権利義務関係を一方的に形成する行為、あるいは相手側国民の同意を得ずに強制力を行使する行為)に関する法の仕組みを説明してきたが、日常の行政活動の多くは非権力的なものであろう。国立大学で国家公務員たる教員が講義をするのも非権力的な事実行為(教育活動であるから、非権力的・文化的活動である)である。

(2)種類行政活動が多様であるので、非権力的行政活動も多種・多様であろうが、非権力的行政活動には次のようなものがある。

①契約・協定・合同行為②行政指導③非権力的事実行為

(3)法的特徴について①非権力的行政活動は、常に法律の根拠を要するとは言えない。②法律の留保論との関係では、重要事項留保説は非権力的行政活動であっても、法律の根拠規定が必要な場合のあることを認める。

③非権力的行政活動に対しては、通常の民事法理が適用される。しかし、非権力的行政活動も、福祉行政や教育行政のように行政目的を達成するために公的資源を行使してなされるものであるので、当該行政分野の法的規律に服し、また財政法・公共施設法上の制約を受ける。また「非権力的」といってもそれが行政活動として行われる場合は、事実上の強制力を有することが多いので、国民の権利を保護するための明文・不文の法的規律に服す。例えば行政指導に関する行政手続法の規定や、信頼保護の法理、平等原則の法理の適用など。

④非権力的行政活動をめぐる紛争は通常の民事訴訟で解決される。損害賠償の場合は、国家賠償法が適用されるが、訴訟形態は通常の民事訴訟である。公法上の契約が問題となる場合、公法上の当事者訴訟をいうこともできようが、実際上は通常の民事訴訟手続で審理される。(行政処分ではないので、取消訴訟では争えない。但し、救済の見地から非権力的行政活動を形式的に行政処分と見なし、取消訴訟でも争える場合があるとする学説も少ない。この議論は 「行、

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政救済法」で扱う予定 )。

1、行政上の契約・協定(1)公法契約と行政契約

①行政活動において締結される契約には、物品の購入契約や請負契約のように民間の場合と同様の契約(私法契約)も存在するが、他方で、公行政に特有の契約もある。このような契約を伝統的に「公法契約」と称してきた。そして、公法契約は私法契約とはその性質が異なるものとして、公法契約の法理(法的根拠・法的限界等)を考察することに行政法上の関心があった。しかし、両者を区別するこ

、 、とが困難なこと 公法と私法との峻別論に疑問が出されてきたことまた紛争は民事訴訟で処理されることなどから、今日では「公法契」 「 」 。約 と 私法契約 をことさらに区別する見解は少なくなっている

②それに代わって、行政手段として締結される契約を一括して「行政契約」と称する見解が有力になってきている。

(2)行政契約の種類①行政活動の性質からは、給付行政における行政契約、規制行政における行政契約に大きく分かれるが、その他に、準備行政(調達行政:行政活動の人的・物的手段の確保)における契約をあげる見解もある(塩野Ⅰ 。)

、 、②契約当事者から見ると 行政主体と私人との間で締結される契約と行政主体相互間の間で契約されるものがある。以下に扱うものは主に前者の例。後者の例としては、自治体間の事務委託契約(自治法§ の 学校教育法§ ① や道路や河川の費用負担契約 道252 14 31、 ) (路法§ 、河川法§ )がある。さらに、私人相互間の契約であ54 65

るが、行政目的実現のためのものもある(建築基準法による建築協定など 。)

③法律の根拠という視点からは、法律に根拠のある行政契約と法律上の根拠規定のない行政契約がある。

前者の例:消防庁と水利権者が締結する水利使用協定(消防法§ ②)30

保育所と利用者の契約(児童福祉法§ )24

※多くは措置入所だが、例外的に契約入所がある後者の例:環境保全協定、宅地開発協定など

(3)給付行政と行政契約①給付行政は本来的には権力的作用でないので、契約方式が多く採用される。例えば、水道使用、公営住宅利用などは契約による。日本育英会の奨学金も消費貸借契約である。要綱に基づき自治体が実施するヘルパーの派遣なども契約であると考えられる。※但し、給付行政であっても、行政処分の形式をとる場合が少なくない(例えば、公共施設利用許可など 。)

②これらの契約には、公共資源の利用であり、生存権保障の目的を持つものであるため、法的制限がある。例えば、平等利用・機会均等

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の原則、契約締結強制(水道法など)やサービス提供義務などであり、契約内容(利用条件)も特定されている場合が少なくない。

(4)規制行政と行政契約①規制行政の領域では、法律による行政の原理が強く要請され、行政立法・行政処分という形式が多く採用されるが、行政契約という方式も重要な役割を果たしている。

②特に法律規定が欠如あるいは不十分な場合や、法律規定を越える規制や先進的規制をする場合などに行政契約(行政協定)の方式が採用されることがある。

③このような行政契約の例として、公害防止協定・環境保全協定・原子力発電所等における電力会社と自治体との安全協定などがある。契約の当事者に自治体だけでなく、町内会が加わることもある。

④このような行政協定は有効な契約としてその法的効力が承認される(契約の性質については、民事契約説・行政契約説・混合契約説・特殊法契約説などが出されている 。また民事訴訟を通じて履行を)強制することができると解されている。

(5)行政契約の限界について①上述のように、行政契約にあっては、当該行政目的からの限界があり、それに違反することはできない。

②法律上の権限主体を変更する契約(行政主体間の契約に見られる)には法律上の根拠が必要である。

③公権力行使(特に行政処分)の要件を行政契約で変更したり、公権力行使に制限を課すことは、法律の根拠なしにはできない。

④契約の締結にあたって、その手続が法定されている場合がある。例えば、議会の承認(自治法§ ①)や随意契約が排除される場合96

(つまり競争入札)など。

2.行政指導(1)行政指導の概念

①行政手続法の定義→同法§2、六号を参照すること②行政指導は厳密には非権力的事実行為である(行政機関のアドバイス 。しかし、行政指導は特定の行政目的実現の手段として実)施され、実際には行政の優位性のもとに強い影響力(事実上の拘束力)を有しており、また違反事実の公表など事実上の制裁措置と結びつくことが多い。この点で、PR(広報)活動などの単なる情報提供と異なっている。

(2)行政手続法による行政指導の統制(法32条から36条まで)①行政指導の一般原則

当該行政期間の任務又は所掌事務範囲を逸脱してはならない。あくまでも相手方の任意の協力によるものであること

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行政指導に従わないことを理由とする不利益取扱の禁止②行政指導の方式

、 、 、 。相手方に対し 行政指導の趣旨 内容 責任者を明確に示す相手方は行政指導の趣旨、内容、責任者等を記載した書面の公布を求めることができる。複数の者を対象とする同一の行政指導は、あらかじめその共通の内容を定め公表する。

(3)行政指導の裁判的統制①行政指導の違法性は、国家賠償訴訟で争われることが多い。(国家賠償法の「公権力の行使」の概念は、取消訴訟の「公権力の行使」より広い概念である )。

②同時に、行政指導を継続していたために建築確認等が遅延した場合、不作為の違法確認訴訟が提起されることもある。

③行政指導に関する判例の動向については、西埜章先生の『国家賠償法』青林書院( 年) 頁以下に詳しい。西埜先生は、判例の1997 83

状況を概観した上で 「①行政指導には必ずしも法令の根拠を必、要としないとしていること、②行政指導の有効性・必要性を認めていること、③行政指導は法令に違反してはならないこと、④行政指導への服従の「任意性」を主たる違法性判断基準にしていること、などが裁判例に共通する違法性の判断基準である 」と述。べている。

(4)行政指導に関する基本的な判例①最高裁 判決(判時 )品川マンション事件S.60.7.16 1168-45

行政指導の限界について、相手側の任意性②最高裁 判決(刑集 )石油カルテル事件S.59.2.24 38-4-1287

行政指導は制定法の趣旨目的に反することはできない。③最高裁 判決(労働判例 )公務員退職勧奨事件S.55.7.10 345-20

程度を超えた過度の指導・勧奨は違法となりうる。④最高裁 判決(民集 )工場誘致施策変更事件S.56.1.27 35-1-35

行政指導における信頼保護の法理

(5)その他行政指導が違法とされた事例甲府地裁 判決(判例時報 )H.4.2.24 1457-85

行政指導に従わないことを理由とする建築確認処分留保が違法とされた事例(不作為違法確認訴訟)

大阪地裁 判決(判例時報 )H.4.9.16 1467-86

市立音楽堂の使用許可申請受理拒否が違法とされた事例東京高裁 判決(判例時報 )H.5.10.28 1483-17

産業廃棄物処理業許可に関する厚生省の担当者の通知が違法であり、これに従った都の職員の行政指導が違法であるとされた事例

。※給水拒否や負担金要綱に関する事例は既に渡した資料を参照されたい

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2003年度第1期 行政作用法総論試験問題と解説

2003年8月8日 石崎

問1、次の各文について、法律条文及び最高裁判例に照らして、正しいものは正しい(又は○)と書き、誤っているものは誤り(又は×)と書いて、その理由を説明せよ。①市民が作成し行政機関に提出した文書は、行政機関が保有していても情報公開の対象とならない。誤:職員が職務上取得した文書も対象となる (情報公開法2条2項)。

②外国人も情報公開を請求できる。正: 情報公開法3条 「何人も」には外国人も含まれる )( 。 。

、 、 。③個人情報は 本人が開示を望まないと一般に認められるものに限り 不開示情報となる誤:個人を識別できる情報は原則として不開示情報となる。本人が開示を望むかどうか

は関係ない (情報公開法5条1号)。

④個人識別情報が含まれていなくても、開示すると関係個人の権利利益を害しうるものは不開示情報に該当する。正: 情報公開法5条1号後段)(

⑤開示しようとする行政文書に第三者に関する情報が含まれている場合、当該第三者が開示反対の意見書を提出したときは開示決定をしてはならない。誤:当該第三者が反対したとしても開示することができる (情報公開法13条3項は。

それを前提としている )。

、 、⑥行政処分に関し 行政手続法が適用されるのは国の機関が行政処分を行う場合であって自治体の機関が処分を行う場合は、各自治体の行政手続条例が適用される。誤:処分の根拠規定が法律にある場合は、自治体の機関が行う処分であっても、行政手

続法が適用される (行政手続法3条2項括弧書き)。

⑦申請を拒否する場合には、原則として申請者の意見を聞かなければならない。誤:行政手続法にこのような規定はない (もっとも事案の性質によっては、意見を聞。

かないことが裁量権の濫用になるといいうる場合も否定できない。これは今後の法解釈の問題 )。

⑧申請を拒否する場合には、その理由を示さなければならない。正: 行政手続法8条)(

⑨許可を取り消す場合は、原則として聴聞が必要である。正: 行政手続法13条1項1号イ)(

⑩不利益処分のうち理由提示義務があるのは、聴聞が必要とされるような重大な不利益処分の場合である。

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誤:不利益処分は、一般に(つまり聴聞が必要なものであれ、弁明の機会の付与が必要な者であれ)理由付記が必要である (行政手続法14条)。

⑪出訴期間が過ぎて不可争力の発生した行政処分は、もはや行政庁といえども職権で取り消すことはできない。誤:行政処分を職権で取り消すことは、出訴期間や不可争力によって制約されるもので

はない。

⑫内閣は国会の信任によって成立しているので、内閣や各省大臣は、法律による委任がな、 。 、くても 国民の権利を制限し又は義務を課す政令や省令を制定することができる 但し

法律の趣旨に違反してはならない。誤:行政立法(法規命令)で国民の権利を制限し義務を課す場合は、法律の委任が必要

である。

⑬行政処分(行政行為)は、権限ある機関が正式に取り消すまでは有効であるので、違法な行政処分によって損害を受けた国民は、まず当該行政処分の取消を求めなければ損害賠償(国家賠償)を受けることができない。誤:行政処分の公定力は国家賠償訴訟には及ばないとされている。行政処分が取り消さ

れていなくても、裁判所は、当該行政処分が違法であると考えた場合は、国または公共団体に損害賠償を命じることができる。但し、違法性の他に公務員の過失も必要である。

⑭行政処分は、行政権に基づき、個別具体的に権利義務を形成(設定・変更・廃止)する効果を持つ行為であるので、上級行政機関が下級行政機関に対して行う個別具体的な職務上の指示も、一般に行政処分にあたる。誤:これは行政内部的な行為であって一般には行政処分ではない 行政処分は 国民 市。 、 (

民)に対する行為である。

⑮行政処分が無効となるのは、重大且つ明白な瑕疵(違法)がある場合であって、たとえ重大な瑕疵を有していても、瑕疵の明白性がない限り行政処分が無効となることはないとするのが判例の立場である。誤:通説は重大且つ明白な瑕疵が無効の要件であるとしているが、処分の根幹に関わる

重大な瑕疵があって、かつ明白性を必要としない特段の事情のある場合は、瑕疵の明白性の要件が欠けていたとしても行政処分が無効となるとした最高裁判例がある(最高裁 判決=講義資料参照 。また最近の事例として、もんじゅ差戻控S.48.4.26 )訴審名古屋高裁金沢支部 判決(講義資料参照)2003.1.27

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問2、ある国家公務員Aが職務怠慢行為があったとして懲戒免職処分を受けた。当該懲戒処分は、上司から提出された資料だけに基づいてなされた。国家公務員が懲戒免職処分を受けた場合は、処分を知った日から60日以内に人事院に審査請求をすることができ、また審査請求の裁決を経なければ取消訴訟を提起することができないとされている。

(1)Aは、本人の聴聞を行っていない懲戒処分は違法であると主張した。処分庁は、国家公務員法は公務員の懲戒処分については書面による理由付記を定める他は特別の規

、 、定をおいていないし また行政手続法は公務員の懲戒処分手続には適用されないのでAの主張は認められないとした。もし、あなたがAならどのような反論をするか。この問題は様々な解答があり得るので、その論拠の説得性と重視して採点した。し

かし、重要な論点は、当事者(被処分者)の意見を何ら聞くことなしに、免職処分という不利益的効果の著しい処分をすることが裁量権(手続裁量)行使の濫用にならないかということである。たしかに、国家公務員法及び行政手続法の規定によれば、懲戒処分をするにあたって相手方の聴聞を行ったり、相手方に弁明の機会を付与させるべき義務はないが、懲戒事由の存否や程度が明白であるとは言い難く、処分の効果が相手方にとって重大な不利益性を持つ場合であって、かつ緊急に処分をしなければならないという事情が存在しない場合は、適正公正な処分を行うためには、相手方の聴聞が求められており、これらの手続をとることなしに免職処分を行うことは処分権限

東京地裁 判決(行裁例集の濫用であると論ずることも不可能ではない。 S.59.3.29

)を参照して欲しい。35-4-476

なお、解答には、人事院に対する不服申立(審査請求)を行うと、そこで口頭審理が行われる旨を示して、これを根拠に聴聞義務があるとするものが見受けられたが、設問は免職処分が聴聞なしに行われた場合に、その手続上の違法性を主張しうるかというものであって、審査請求手続を問うたものではないので、このような解答は設問に的確に応えたものとはいえない。別の言い方をすれば、審査請求での口頭審理の時に 「私の言い分を聞かないで一方的に免職処分にしたのは手続的に不備がある」と、

。 、 、主張できるかということである もっとも Aさんが上記のような主張をしたときに処分権者側が 「不服申立において聴聞の機会があるので、当初の処分の際に聴聞を、しないことをもって手続に違法があるとはいえない」と反論することは大いにあり得る。

(2)適法に懲戒免職処分に対する取消訴訟が提起されたとする。裁判官は、理由書にかかれた事実は存在し、何らかの懲戒処分は認められるとしても、怠慢行為の非違性の評価は過大に過ぎ、免職処分は重すぎると考えた。また、上司が何らかの注意をしていれば処分に至るまでの事態は避け得たとも思った。しかし、他方で、当該処分が社会通念上著しく不合理とまでは断定できないと考えた。もしあなたが裁判官ならどのような判断をするか (関連する最高裁判決2件の要旨を参考資料とする )。 。これも処分の違法性を認め取消判決を出すという立場と、処分の違法性を認定する

ことはできないとする立論の両方が可能であろう。いずれにせよ、論旨が説得力をもって組み立てられているかどうかを評価した。

、 、最高裁神戸税関判決によれば 社会通念上著しく不合理とまではいえないとするとこの処分を違法とすることはできないであろう。これもひとつの見解である。但し、最高裁判決を、ただ書き写しただけは十分な答案ではない。その判決をこの場合にどのように当てはめるのかを論じて欲しいし、この最高裁判決に対する批判なども考慮して論じることも必要だろう。

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それに対し、要件事実の評価の誤り及び懲戒事由と処分効果(免職)との不均衡を理由に、本件処分は裁量権を濫用したものと立論することも可能であろう。上司の側になすべき対応策があるのにそれを行うことなく、最も重い処分をすることが比例原則に違反していると論じることも可能であるように思う。その場合、最高裁判例との関係が問題となるが、設問の状況では、社会通念上著しく合理性を欠くといいうる余地があると立論してもよいし、最高裁の判例(幅広い行政庁の裁量権の承認と司法審査権の制限)を批判して、免職処分における裁量権は制限されるべきであるという立論をすることも可能であろうし、あるいは行政庁の裁量権行使に対する司法審査のあり方を再検討してもよい。

(3)Aは処分を受けてから60日以上過ぎて、懲戒免職処分は無効なので職場に復帰できると思うが、そのためにはどんな方法をとればよいかと、あなたに相談してきた。あなたもこの処分が無効であると考えた。あなたはどのようなアドバイスをするか。この問題への解答は 「公務員地位確認訴訟を提起し、そのなかで本件免職処分が、

無効であると主張しなさい」とアドバイスすることである。本問題で問いたかったのは、無効の行政処分には公定力が及ばないので、通常の民事訴訟(当事者訴訟)が可能であるということである。但し、免職処分無効確認訴訟でも正解とした。処分が受けてから60日以上過ぎているので、もはや人事院に対する審査請求や取

消訴訟は不可能となる(60日以内に審査請求をできなかったことに正当な理由があれば、審査請求も可能であるが、これは行政救済法の問題なので、本問では取り上げなくてもよい 。しかし、無効の処分に公定力はないから、地位確認訴訟の裁判官も)当該免職処分が無効であると判断したら、公務員の地位が存続しているとの判決を出すことができる。この訴訟は、出訴期間の制限も受けない。なお免職処分無効確認訴訟については、行政事件訴訟法36条の解釈が問題となるが、これは行政救済法の課題であるし、また無効確認訴訟が可能であるという見解もあるので、上述の通りこれも正解とした。無効確認訴訟が審査請求を経ていなくても提起できることや出訴期間の制限に服さないことは、講義で説明したとおり。ところで、処分後1年を経過していないので、人事院に対する審査請求が可能であ

るという解答が少なくなかった。しかし 「処分を受けて」ということは本人がそれ、を了知していると考えるのが普通であるから、処分を知ってから60日を経過しているので審査請求は提起できないと考えるべきであろう。