et al nature -...

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下道 朋絵 多田 さつき 萩原 奈穂 笹子 由恵 茂呂 和世 望月 美穂 岳野 なつき 50 μm c-kit CD3 DAPI FALC 2型自然リンパ球(Group 2 innate lymphoid cell: ILC2) は我々の研究室で発見した新しい免疫細胞で、これまで報告されていた T細胞、B細胞、NK細胞、 NKT細胞とは異なる 自然リンパ球である。ILC2は脂肪組織中に見出されたリンパ球集積、Fat-associated lymphoid cluster “FALC”に限局する細胞であ ると当初考えられたが、現在では、肺、皮膚、血液、消化器、目、鼻など様々な組織に存在し、 Lin - IL-7Ra + GATA3 + の表現型を持つことが知られている。 ILC2 IL-2RIL-7RIL-25RIL-33R といった様々なサイトカインに対する受容体を発現する。IL-25 IL-33は寄生虫感染やアレルギー反応において 2の免疫応答を引き起こすことが知られており、ILC2IL-25IL-33に反応し多量の2型サイトカインを産生する事から、寄生虫排除やアレルギー憎悪に重要な 役割を果たすことが明らかになった。特にアレルギー性疾患におけるILC2の重要性は世界中で注目されており、新規治療ターゲットとしての開発も進められて いる。また最近では、アレルギー性疾患だけでなく、肥満や慢性疾患にもILC2が関与することが明らかになりつつある。そこで、本研究室では、ILC2について 多方向からアプローチすることで、ILC2の生体内での意義、疾患への関与を明らかにする事を目標に解析を進めている。 *Lin: CD3, CD4, CD5, CD8, CD11c, CD19, TCR, TCR, B220, DX5, NK1.1, Mac-1, Gr-1, FcR1. Sca-1 c-Kit Lin- Lin+ 腸間膜 リンパ球ゲート FSC SSC 200 μm Fat-associated lymphoid cluster (FALC) マウス 腸間膜 ILC2 Moro K. et al. Nature 2010 463: 540. 研究の背景 IL-2R IL-7R IL-33R IL-25R Negative control ILC2 IL-5 IL-13 IL-2 IL-25 IL-2 + IL-25 IL-2 + IL-25 IL-33 チームリーダー テクニカルスタッフ ILC2は新たな2型自然免疫に働く リンパ球(Group 2 innate lymphoid cell; ILC2)で、2型サイトカインである IL‐5,IL‐13産生を介して2型免疫応答 を誘導する一方、2型サイトカインの 一つであるIL‐4 を産生しないと考え られてきた。しかしながら、我々は、 in vitro の解析からILC2 IL‐4 を産 生する能力をもつことを明らかにし、 ILC2が、IL‐4を介したB細胞からのIgE 産生やTh2細胞やM2マクロファージ の分化も制御しうる可能性を見出し た。 そこで、ILC2からIL‐4産生を誘 導するメカニズムを明らかにすると ともに、IL‐4を介した免疫応答におけ ILC2の役割を明らかにしていきた い。 ILC2におけるIL-4産生機構の解明 本村 泰隆 研究員 IL-33 好酸球 IL-13 胚細胞過形成 IL-5 IL-5/IL-13による免疫反応 上皮細胞 ウイルス アレルゲン 寄生虫 刺激? M2 マクロファージ IL-4 B 細胞 IgE Th2 細胞 IL-4による免疫反応 ILC2の分化・成熟機構の解明 古賀 研究員 ILC2は他のリンパ球と同様にリンパ球共通前駆細胞(common lymphoid progenitor; CLP)から分化する。最近、ILCのみに分化する前駆細胞(ILCP)ILC2への分化に必要な転写因子が報告されているが、ILC2がいつ、どこで、ど のような環境因子を受け取りILC2へ分化・成熟するのかは不明な点が多い。 我々はこれまで、IL‐7の濃度とNotchシグナルの強さ、長さがCLPから各リンパ 球の運命決定を制御する環境因子であることを明らかにした。 一方で、ILC2 は体内を循環せず、脂肪組織や肺、腸管、皮膚など末梢組織に常在する細胞 であり、また我々は最近、胎仔末梢組織にILCPと機能的に未成熟なILC2が存 在することを明らかにしたことから、ILC2が末梢組織で最終分化する可能性が 示唆された。そこで本研究では、末梢組織においてどのような環境シグナルに よりILC2特異的な分化成熟が誘導されるか、またILC2最終分化を支持する細 胞が存在するかを明らかにし、ILC2の分化・成熟機構の全容を明らかにしたい。 Kafi Nequan Ealey 研究員 脂肪組織の恒常性・代謝の維持に おける ILC2 の役割 肥満は脂肪組織の炎症の慢性化を引き起こす。肥満状態では、免疫細胞 や脂肪細胞から定常状態とは異なる因子が産生され炎症を引き起こすこと が知られているが、そのメカニズムに関しては明らかになっていない。 ILC2FALC に局在し、脂肪組織のリモデリングや体謝恒常性の維持に重 要であることが示唆されている。そこで、ILC2と脂肪組織内の体謝制御に関 与するマクロファージ、脂肪細胞との相互作用を明らかにし、脂肪組織炎症 の分子メカニズムを解明する。 ?? ?? 脂肪組織 脂肪組織 2型サイトカイン ILC2 M1マクロファージ M2マクロファージ IL-33 IL-2 + IL-25 ?? ?? IL-4応答性NK細胞による 活性化ILC2抑制機構の解明 IL-33 IFN? IL-4 IL4-NK 細胞傷害性? IL-4? NK受容体 リガンド? cNK 細胞数減少? 機能抑制? 寄生虫 アレルゲン 定常状態 ILC2 木庭 研究員 ILC2は、寄生虫感染やアレルギー性炎症などの2型免疫応答時に活性化し、 IL-5やIL-13を迅速かつ多量に産生することで、好酸球浸潤やムチン産生を誘 導する。寄生虫の排除において中心的な役割を果たす一方で、ILC2の過剰な 活性化はアレルギー性疾患の増悪化や慢性化の要因となるため、治療法開 発という観点からその抑制機構の解明が望まれている。そのような中で、我々 はIFNやIL-27が活性化ILC2を選択的に抑制することを報告した。さらに、代 表的なIFN産生細胞として知られるNK細胞が、2型免疫応答時にIL-4によっ て活性化することを見出し、IL-4応答性NK細胞(IL4-NK)と名付けたこの細胞 が2型免疫応答を抑制することを明らかにした。IL4-NKは高い細胞傷害活性 とIFN産生を示す活性化NK細胞であり、ILC2の過剰な活性化を抑制しアレル ギー病態の悪化を防ぐ可能性が示唆されている。現在、IL4-NKとILC2の相互 作用を詳細に解析することで、IL4-NKによるILC2抑制メカニズムの解明を目 指している。 引地 侑希 博士前期課程2年 ILC2の新規2型サイトカイン 産生制御機構の解明 ILC2は上皮細胞のネクローシスによって放出されるIL-33に応答して、迅速か つ大量の2型サイトカインを産生することで、寄生虫感染防御やアレルギー病態 の発症に寄与する自然リンパ球である。ILC2と同じく2型サイトカインを産生する リンパ球として、Th2細胞が知られている。Th2細胞がサイトカイン遺伝子座の エピジェネティック変化を介して2型サイトカインの産生能を獲得するまでには数 日程度の期間を要するのに対してILC2は刺激を受けてから数時間という速さで 2型サイトカインを産生する。このことから、ILC2にはTh2細胞とは異なった、よ り迅速に2型サイトカイン遺伝子の発現を誘導する制御機構が存在することが 予想されているが、その分子機構は未だに明らかになっていない。 そこで、エピ ジェネティックな変化を伴わない遺伝子発現制御機構として、マイクロRNA miRNA)に着目し、ILC2特異的なmiRNAIL-33刺激依存的に発現が上昇 するmiRNAなどを次世代シークエンサーによって同定することで、ILC2におけ るサイトカイン産生を制御し得るmiRNAを同定すると共に、CRISPR-Cas9ゲノ ム編集技術を用いて、同定したmiRNAをノックアウトしたILC2を作製し、 miRNAがサイトカイン産生に与える影響を明らかにしたい。 ILC2 における miRNA による 2型サイトカイン遺伝子発現制御 機構の解明 2型自然リンパ球(ILC2) 転写因子 クロマチン リモデリング サイトカイン刺激 miRNA シグナル伝達 サイトカイン mRNA Th2 サイトカイン発現 転写 タンパク質 翻訳 籾内 義希 博士後期課程2年 特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)は、肺胞間質へ のコラーゲンの蓄積が進行性に生じる疾患である。IPF患者の肺では2型免 疫応答が亢進していることが知られており、2型サイトカインは線維芽細胞を 活性化することで筋線維芽細胞への分化を促し、多量のコラーゲン産生を誘 導する。しかしながらその詳細な発症メカニズムは未解明であり、有効な治 療法も存在しない。Group 2 innate lymphoid cells (ILC2)は、当研究室 2010年に発見した自然免疫応答に機能する細胞であり、組織損傷によっ て放出されることが知られるIL-33に応じて多量の2型サイトカインを迅速に 産生し、2型免疫応答を惹起する。またILC2IFNによって抑制される。私 たちはILC2の抑制機能が破綻した遺伝子改変マウスB6-Rag-2 -/- IFNR -/- 肺線維症が自然発症することを見出した。このマウスの病態はIPFをよく模し ており、新たなIPFモデルマウスとして使用できる可能性がある。 肺線維症におけるILC2機能解析 大瀧 夏子 博士後期課程2アレルギー体質が母から仔へ 受け継がれるメカニズムの解明 アレルギー患者の中には生まれつきアレルギーにかかりやすい、いわゆる アレルギー体質を持つ人が存在し、これらの患者の多くは生涯を通じて様々 なアレルギー性疾患を発症する「アレルギーマーチ」と呼ばれる病態を引き起 こすことが知られている。 ILC2IL-33に反応し、IL-5IL-13などの2型サイトカインを多量に産生す ることでアレルギー性疾患の悪化に重要な役割を果たす。しかしながら、 ILC2がどのようにアレルギー体質の形成に関与するかは明らかになってい ない。一方で、我々は胎生期において、子宮、胎盤、胎仔にILC2が存在する ことを見出したが、その機能や役割に関しては不明な点が多い。妊娠初期の 胎盤形成にIL-33が重要であることや、妊娠期の生体内は2型免疫応答優位 な環境であることから、アレルギー体質は母親から妊娠、出産を経て仔へ受 け継がれることで形成され、この体質形成に妊娠期のILC2が重要な役割を 果たす可能性が示唆される。そこで、子宮、胎盤、胎仔ILC2が仔のアレル ギー体質形成にどのように関与するのか、そのメカニズムを明らかにしたい。 ミトコンドリアによるNLRP3 インフラマソーム活性化機構の解明 遺伝子A 遺伝子B 化合物感受性 解析 二クロサミド (ミトコンドリア阻害剤) ・ミトコンドリア特異的? IL-1β 誘導? 候補 遺伝子 ウアバイン シリカ 自然免疫機構の1つであるNLRP3インフラマソームはマクロファージに主に存 在し、活性化にはカリウムの流出、ミトコンドリア活性酸素の上昇、リソソームの 破壊などの経路が同定されている。中でもミトコンドリアは様々な環境ストレス に敏感で、活性化経路において重要な役割を果たしていると考えられている。 しかし、ミトコンドリアを介したNLRP3インフラマソームの活性化経路にどのよう な遺伝子が重要であるかは未だ解明されていない。そこで本研究では、ミトコン ドリア阻害剤であるニクロサミドを用い、ミトコンドリアとNLRP3インフラマソーム の活性化に関わる遺伝子の同定及び遺伝子の機能解析を目指している。 腺組織におけるILC2の機能解明 近年、肺や腸管などの上皮系組織に存在するILC2のアレルギーや寄生虫感 染防御に関する機能はよく知られるようになってきた。しかし、ILC2はこれらの上 皮系組織だけでなく脂肪組織や骨髄などの上皮以外の様々な組織での存在が 知られている。そこでこれまでILC2の存在がほとんど報告されていない腺組織に ついてILC2の存在を調べた。その結果、腺組織である膵臓においてILC2の表現 型であるLin陰性Sca-1陽性KLRG1陽性の細胞群の存在が明らかとなった。さ らにこれらの細胞群はILC2の生存維持に重要である転写因子GATA3を発現し 他のILCに重要であるT-betRORtを発現しないことから膵臓にもILC2が存在 することが明らかとなった。そのため、現在膵臓の存在するILC2の機能解明を目 指し、膵臓の主要な病態である急性膵炎についてILC2の関与を検討している。 膵臓 Sca-1 KLRG1 CD45.2 Lin T-bet GATA3 RORアイソタイプ 膵臓 脂肪組織ILC2におけるBMP2BMP7の機能解析 ストレス (寒冷, 飢餓など) ILC2 BMP2 BMP7 ベージュ脂肪細胞 白色脂肪細胞 褐色脂肪細胞 脂肪細胞分化 血管新生におけるILC2 機能解析 啓恵 博士後期課程2年 血管新生とは、既存の血管から新しい血管網が形成される現象のことである。 この現象は多くの疾患において重要な役割を果たしており、たとえば癌の腫瘍 進展や糖尿病網膜症などの疾患と関与が深いことが知られる。ILC2の遺伝子 発現機能解析の結果から、血管新生に関連する遺伝子が多く高発現している ことに気付き、これらの遺伝子発現は他の免疫細胞と比較し著明に高いことか ら、ILC2が血管新生において重要な機能を担っているのではないかと考えた。 IL-25IL-33のシグナルが血管新生に寄与しているとの報告が多数あること や、IL-33欠損マウスでは創傷治癒が遅延するという報告があることから、 ILC2が血管新生に関与する可能性は十分に高いと期待できる。しかし、なぜ ILC2において血管新生関連遺伝子の発現が高いのか、ILC2が血管新生に対 してどのように機能するかは不明である。以上の背景から、血管新生における ILC2の機能解明を目指し本研究を遂行する。 加藤 志保乃 博士前期課程2年 田村 萌夏 博士前期課程2年 宮島 優里奈 博士後期課程3年 小林 貴人 博士後期課程3年 和田 祥佳 ILC2 線維化 IFNγ IL-33 ILC2 WT IFNR Rag2 KO IL-33 活性化? IFNγ シグナリング ILC2が発見された腸間膜脂肪組織は、他の組織に比べて最も多くのILC2存在する。肺や腸管のILC2がアレルギーや寄生虫感染時に働くことは周知の 事実であるが、なぜILC2が脂肪組織に多く存在するのかは未だ明らかでない。 脂肪組織で働くサイトカインについてILC2での発現をRNAシークエンス解析に より調べたところ、TGFβファミリーに分類されるBone morphogenic protein 2 (BMP2)Bone morphogenic protein 7 (BMP7) の発現が他のリンパ球に 比べてILC2で高いことを見出した。BMP2および7は脂肪組織の分化に働くこと がすでに報告されている。本研究でILC2が産生するBMPの機能を明らかにす ることでILC2が脂肪組織に多く存在する意義を解明したい。 ILC2 血管新生促進 血管新生抑制 IL-25 IL-33 TGFβ-1 低酸素 血管新生因子 の産生活性化 ILC2 p38 P p38 P GATA3 P IL-2 IL-25 IL-33 抑制分子 抑制分子 IL-5,IL-13 GATA3 P IL-5,IL-13 抑制分子 定常状態 活性化初期 抑制分子 ILC2IL-33IL-2+25刺激に応じて迅速かつ多量の2型サイトカインを産生す る。ILC22型サイトカイン産生はMAPK p38と転写因子GATA3のリン酸化を介 して誘導され、これらのリン酸化は刺激後30分以内に起きることから、ILC22サイトカイン産生には活性化初期の制御が重要であると考えられるが、なぜILC2 が迅速かつ多量の2型サイトカインを産生できるのかは明らかとなっていない。 これまでに、ILC2の活性化初期にはホルモン応答や転写後遺伝子発現制御に 関わる遺伝子群の多くが有意に変動することを明らかにしている。また、これらの 遺伝子群のうち、活性化に伴い発現が減少する遺伝子をILC2に過剰発現させる ILC2からの2型サイトカイン産生が抑制されることを見出している。これらのこと から、ILC22型サイトカイン産生には抑制機構の解除が重要なのではないかと 考え、ILC22型サイトカイン産生におけるホルモン応答や転写後遺伝子発現制 御関連遺伝子群による抑制機構の役割について明らかにしていきたい。 K + リソソーム ? ROS ↑ NLRP3 インフラマソーム IL-1β パイロトーシス マクロファージ 子宮 好酸球浸潤 IL-5 IL-33 ILC2 胎盤 胎仔 ILC2 妊娠期 アレルギー性疾患 発症 体質形成? アレルギーマーチ 発症 CLP 未成熟 ILC2 高濃度IL-7、弱い短いNotch 成熟 ILC2 HSC CHILP 胎仔肝臓 胎仔末梢組織 ストローマ細胞 成熟シグナル ILCP 分化シグナル ? ? ? 胎仔 IL-33R IL-7Rα 成体 未成熟 ILC2 ILCP 成熟 ILC2 成体末梢組織

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Page 1: et al Nature - Rikenが2型免疫応答を抑制することを明らかにした。IL4-NKは高い細胞傷害活性 とIFN 産生を示す活性化NK細胞であり、ILC2の過剰な活性化を抑制しアレル

下道 朋絵 多田 さつき 萩原 奈穂笹子 由恵

茂呂 和世 望月 美穂 岳野 なつき

50 μm

c-kitCD3DAPI

FALC

2型自然リンパ球(Group 2 innate lymphoid cell: ILC2) は我々の研究室で発見した新しい免疫細胞で、これまで報告されていた T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞とは異なる自然リンパ球である。ILC2は脂肪組織中に見出されたリンパ球集積、Fat-associated lymphoid cluster “FALC”に限局する細胞であると当初考えられたが、現在では、肺、皮膚、血液、消化器、目、鼻など様々な組織に存在し、 Lin-IL-7Ra+GATA3+の表現型を持つことが知られている。

ILC2 はIL-2R、IL-7R、IL-25R、IL-33R といった様々なサイトカインに対する受容体を発現する。IL-25 やIL-33は寄生虫感染やアレルギー反応において 2型の免疫応答を引き起こすことが知られており、ILC2はIL-25やIL-33に反応し多量の2型サイトカインを産生する事から、寄生虫排除やアレルギー憎悪に重要な役割を果たすことが明らかになった。特にアレルギー性疾患におけるILC2の重要性は世界中で注目されており、新規治療ターゲットとしての開発も進められている。また最近では、アレルギー性疾患だけでなく、肥満や慢性疾患にもILC2が関与することが明らかになりつつある。そこで、本研究室では、ILC2について多方向からアプローチすることで、ILC2の生体内での意義、疾患への関与を明らかにする事を目標に解析を進めている。

*Lin: CD3, CD4, CD5, CD8, CD11c, CD19, TCR,TCR, B220, DX5, NK1.1, Mac-1, Gr-1, FcR1.

Sca-1

c-K

it

Lin- Lin+

腸間膜 リンパ球ゲート

FSC

SS

C

200 μm

Fat-associated lymphoid cluster(FALC)

マウス 腸間膜

ILC2

Moro K. et al. Nature 2010 463: 540.

研究の背景IL-2R

IL-7R IL-33R

IL-25R

Negative control

ILC2

IL-5IL-13

IL-2 IL-25IL-2

+IL-25

IL-2+

IL-25IL-33

チームリーダー テクニカルスタッフ

ILC2は新たな2型自然免疫に働くリンパ球(Group 2 innate lymphoid cell; ILC2)で、2型サイトカインであるIL‐5,IL‐13産生を介して2型免疫応答を誘導する一方、2型サイトカインの一つであるIL‐4 を産生しないと考え

られてきた。しかしながら、我々は、in vitro の解析から ILC2 がIL‐4 を産

生する能力をもつことを明らかにし、ILC2が、IL‐4を介したB細胞からのIgE産生やTh2細胞やM2マクロファージ

の分化も制御しうる可能性を見出した。 そこで、ILC2からIL‐4産生を誘

導するメカニズムを明らかにするとともに、IL‐4を介した免疫応答におけるILC2の役割を明らかにしていきたい。

ILC2におけるIL-4産生機構の解明

本村 泰隆研究員

IL-33

好酸球

IL-13胚細胞過形成

IL-5

IL-5/IL-13による免疫反応

上皮細胞

ウイルスアレルゲン寄生虫

刺激?

M2 マクロファージ

IL-4

B 細胞

IgE

Th2 細胞

IL-4による免疫反応

ILC2の分化・成熟機構の解明

古賀 諭研究員

ILC2は他のリンパ球と同様にリンパ球共通前駆細胞(common lymphoidprogenitor; CLP)から分化する。最近、ILCのみに分化する前駆細胞(ILCP)やILC2への分化に必要な転写因子が報告されているが、ILC2がいつ、どこで、どのような環境因子を受け取りILC2へ分化・成熟するのかは不明な点が多い。我々はこれまで、IL‐7の濃度とNotchシグナルの強さ、長さがCLPから各リンパ球の運命決定を制御する環境因子であることを明らかにした。 一方で、ILC2

は体内を循環せず、脂肪組織や肺、腸管、皮膚など末梢組織に常在する細胞であり、また我々は最近、胎仔末梢組織にILCPと機能的に未成熟なILC2が存在することを明らかにしたことから、ILC2が末梢組織で最終分化する可能性が

示唆された。そこで本研究では、末梢組織においてどのような環境シグナルによりILC2特異的な分化成熟が誘導されるか、またILC2最終分化を支持する細胞が存在するかを明らかにし、ILC2の分化・成熟機構の全容を明らかにしたい。

Kafi Nequan Ealey研究員

脂肪組織の恒常性・代謝の維持における ILC2 の役割

肥満は脂肪組織の炎症の慢性化を引き起こす。肥満状態では、免疫細胞や脂肪細胞から定常状態とは異なる因子が産生され炎症を引き起こすことが知られているが、そのメカニズムに関しては明らかになっていない。

ILC2は FALC に局在し、脂肪組織のリモデリングや体謝恒常性の維持に重要であることが示唆されている。そこで、ILC2と脂肪組織内の体謝制御に関

与するマクロファージ、脂肪細胞との相互作用を明らかにし、脂肪組織炎症の分子メカニズムを解明する。

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脂肪組織脂肪組織

2型サイトカイン

ILC2

M1マクロファージ

M2マクロファージ

IL-33

IL-2 + IL-25

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IL-4応答性NK細胞による活性化ILC2抑制機構の解明

IL-33

IFN?

IL-4

IL4-NK

細胞傷害性?

IL-4?

NK受容体リガンド?

cNK

細胞数減少?

機能抑制?

寄生虫 アレルゲン定常状態

ILC2

木庭 乾研究員

ILC2は、寄生虫感染やアレルギー性炎症などの2型免疫応答時に活性化し、IL-5やIL-13を迅速かつ多量に産生することで、好酸球浸潤やムチン産生を誘導する。寄生虫の排除において中心的な役割を果たす一方で、ILC2の過剰な活性化はアレルギー性疾患の増悪化や慢性化の要因となるため、治療法開発という観点からその抑制機構の解明が望まれている。そのような中で、我々はIFNやIL-27が活性化ILC2を選択的に抑制することを報告した。さらに、代表的なIFN産生細胞として知られるNK細胞が、2型免疫応答時にIL-4によって活性化することを見出し、IL-4応答性NK細胞(IL4-NK)と名付けたこの細胞が2型免疫応答を抑制することを明らかにした。IL4-NKは高い細胞傷害活性とIFN産生を示す活性化NK細胞であり、ILC2の過剰な活性化を抑制しアレルギー病態の悪化を防ぐ可能性が示唆されている。現在、IL4-NKとILC2の相互作用を詳細に解析することで、IL4-NKによるILC2抑制メカニズムの解明を目指している。

引地 侑希博士前期課程2年

ILC2の新規2型サイトカイン産生制御機構の解明

ILC2は上皮細胞のネクローシスによって放出されるIL-33に応答して、迅速かつ大量の2型サイトカインを産生することで、寄生虫感染防御やアレルギー病態の発症に寄与する自然リンパ球である。ILC2と同じく2型サイトカインを産生するリンパ球として、Th2細胞が知られている。Th2細胞がサイトカイン遺伝子座のエピジェネティック変化を介して2型サイトカインの産生能を獲得するまでには数日程度の期間を要するのに対してILC2は刺激を受けてから数時間という速さで2型サイトカインを産生する。このことから、ILC2にはTh2細胞とは異なった、より迅速に2型サイトカイン遺伝子の発現を誘導する制御機構が存在することが予想されているが、その分子機構は未だに明らかになっていない。 そこで、エピジェネティックな変化を伴わない遺伝子発現制御機構として、マイクロRNA(miRNA)に着目し、ILC2特異的なmiRNAやIL-33刺激依存的に発現が上昇するmiRNAなどを次世代シークエンサーによって同定することで、ILC2におけるサイトカイン産生を制御し得るmiRNAを同定すると共に、CRISPR-Cas9ゲノム編集技術を用いて、同定したmiRNAをノックアウトした ILC2を作製し、miRNAがサイトカイン産生に与える影響を明らかにしたい。

ILC2 における miRNA による2型サイトカイン遺伝子発現制御

機構の解明

2型自然リンパ球(ILC2)

転写因子

クロマチンリモデリング

サイトカイン刺激

miRNA

シグナル伝達

サイトカインmRNA

Th2 サイトカイン発現

転写

タンパク質翻訳

籾内 義希博士後期課程2年

特発性肺線維症(Idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)は、肺胞間質へのコラーゲンの蓄積が進行性に生じる疾患である。IPF患者の肺では2型免疫応答が亢進していることが知られており、2型サイトカインは線維芽細胞を活性化することで筋線維芽細胞への分化を促し、多量のコラーゲン産生を誘導する。しかしながらその詳細な発症メカニズムは未解明であり、有効な治療法も存在しない。Group 2 innate lymphoid cells (ILC2)は、当研究室で2010年に発見した自然免疫応答に機能する細胞であり、組織損傷によって放出されることが知られるIL-33に応じて多量の2型サイトカインを迅速に産生し、2型免疫応答を惹起する。またILC2はIFNによって抑制される。私たちはILC2の抑制機能が破綻した遺伝子改変マウスB6-Rag-2-/-IFNR-/-で肺線維症が自然発症することを見出した。このマウスの病態はIPFをよく模しており、新たなIPFモデルマウスとして使用できる可能性がある。

肺線維症におけるILC2の機能解析

大瀧 夏子博士後期課程2年

アレルギー体質が母から仔へ受け継がれるメカニズムの解明

アレルギー患者の中には生まれつきアレルギーにかかりやすい、いわゆるアレルギー体質を持つ人が存在し、これらの患者の多くは生涯を通じて様々なアレルギー性疾患を発症する「アレルギーマーチ」と呼ばれる病態を引き起こすことが知られている。

ILC2はIL-33に反応し、IL-5、IL-13などの2型サイトカインを多量に産生することでアレルギー性疾患の悪化に重要な役割を果たす。しかしながら、ILC2がどのようにアレルギー体質の形成に関与するかは明らかになっていない。一方で、我々は胎生期において、子宮、胎盤、胎仔にILC2が存在することを見出したが、その機能や役割に関しては不明な点が多い。妊娠初期の胎盤形成にIL-33が重要であることや、妊娠期の生体内は2型免疫応答優位な環境であることから、アレルギー体質は母親から妊娠、出産を経て仔へ受け継がれることで形成され、この体質形成に妊娠期のILC2が重要な役割を果たす可能性が示唆される。そこで、子宮、胎盤、胎仔ILC2が仔のアレルギー体質形成にどのように関与するのか、そのメカニズムを明らかにしたい。

ミトコンドリアによるNLRP3インフラマソーム活性化機構の解明

遺伝子 A遺伝子 B

化合物感受性

解析

二クロサミド(ミトコンドリア阻害剤)

・ミトコンドリア特異的?・ IL-1β 誘導 ?

候補遺伝子

ウアバイン

シリカ

自然免疫機構の1つであるNLRP3インフラマソームはマクロファージに主に存在し、活性化にはカリウムの流出、ミトコンドリア活性酸素の上昇、リソソームの破壊などの経路が同定されている。中でもミトコンドリアは様々な環境ストレスに敏感で、活性化経路において重要な役割を果たしていると考えられている。しかし、ミトコンドリアを介したNLRP3インフラマソームの活性化経路にどのような遺伝子が重要であるかは未だ解明されていない。そこで本研究では、ミトコンドリア阻害剤であるニクロサミドを用い、ミトコンドリアとNLRP3インフラマソームの活性化に関わる遺伝子の同定及び遺伝子の機能解析を目指している。

腺組織におけるILC2の機能解明

近年、肺や腸管などの上皮系組織に存在するILC2のアレルギーや寄生虫感染防御に関する機能はよく知られるようになってきた。しかし、ILC2はこれらの上皮系組織だけでなく脂肪組織や骨髄などの上皮以外の様々な組織での存在が知られている。そこでこれまでILC2の存在がほとんど報告されていない腺組織についてILC2の存在を調べた。その結果、腺組織である膵臓においてILC2の表現型であるLin陰性Sca-1陽性KLRG1陽性の細胞群の存在が明らかとなった。さらにこれらの細胞群はILC2の生存維持に重要である転写因子GATA3を発現し他のILCに重要であるT-betやRORtを発現しないことから膵臓にもILC2が存在することが明らかとなった。そのため、現在膵臓の存在するILC2の機能解明を目指し、膵臓の主要な病態である急性膵炎についてILC2の関与を検討している。

膵臓

Sca

-1

KLRG1

CD45.2+Lin-

T-bet

GATA3

RORt

アイソタイプ膵臓

脂肪組織ILC2におけるBMP2、BMP7の機能解析

ストレス(寒冷, 飢餓など)

ILC2

BMP2 BMP7

ベージュ脂肪細胞白色脂肪細胞 褐色脂肪細胞

脂肪細胞分化

血管新生におけるILC2 の機能解析

鉄 啓恵博士後期課程2年

血管新生とは、既存の血管から新しい血管網が形成される現象のことである。この現象は多くの疾患において重要な役割を果たしており、たとえば癌の腫瘍進展や糖尿病網膜症などの疾患と関与が深いことが知られる。ILC2の遺伝子発現機能解析の結果から、血管新生に関連する遺伝子が多く高発現していることに気付き、これらの遺伝子発現は他の免疫細胞と比較し著明に高いことから、ILC2が血管新生において重要な機能を担っているのではないかと考えた。IL-25やIL-33のシグナルが血管新生に寄与しているとの報告が多数あることや、IL-33欠損マウスでは創傷治癒が遅延するという報告があることから、ILC2が血管新生に関与する可能性は十分に高いと期待できる。しかし、なぜILC2において血管新生関連遺伝子の発現が高いのか、ILC2が血管新生に対してどのように機能するかは不明である。以上の背景から、血管新生におけるILC2の機能解明を目指し本研究を遂行する。

加藤 志保乃博士前期課程2年

田村 萌夏博士前期課程2年

宮島 優里奈博士後期課程3年

小林 貴人博士後期課程3年

和田 祥佳

ILC2

線維化

IFNγIL-33

ILC2

WT IFNR Rag2 KO

IL-33

活性化?

IFNγシグナリング

ILC2が発見された腸間膜脂肪組織は、他の組織に比べて最も多くのILC2が存在する。肺や腸管のILC2がアレルギーや寄生虫感染時に働くことは周知の事実であるが、なぜILC2が脂肪組織に多く存在するのかは未だ明らかでない。脂肪組織で働くサイトカインについてILC2での発現をRNAシークエンス解析により調べたところ、TGFβファミリーに分類されるBone morphogenic protein2 (BMP2)、Bone morphogenic protein 7 (BMP7) の発現が他のリンパ球に比べてILC2で高いことを見出した。BMP2および7は脂肪組織の分化に働くことがすでに報告されている。本研究でILC2が産生するBMPの機能を明らかにすることでILC2が脂肪組織に多く存在する意義を解明したい。

ILC2

血管新生促進 血管新生抑制

IL-25IL-33TGFβ-1

低酸素

血管新生因子の産生?

活性化ILC2

p38P p38

P

GATA3P

IL-2 IL-25IL-33

抑制分子

抑制分子

IL-5,IL-13 GATA3P

IL-5,IL-13

抑制分子

定常状態 活性化初期

抑制分子

ILC2はIL-33やIL-2+25刺激に応じて迅速かつ多量の2型サイトカインを産生する。ILC2の2型サイトカイン産生はMAPK p38と転写因子GATA3のリン酸化を介して誘導され、これらのリン酸化は刺激後30分以内に起きることから、ILC2の2型サイトカイン産生には活性化初期の制御が重要であると考えられるが、なぜILC2が迅速かつ多量の2型サイトカインを産生できるのかは明らかとなっていない。これまでに、ILC2の活性化初期にはホルモン応答や転写後遺伝子発現制御に

関わる遺伝子群の多くが有意に変動することを明らかにしている。また、これらの遺伝子群のうち、活性化に伴い発現が減少する遺伝子をILC2に過剰発現させるとILC2からの2型サイトカイン産生が抑制されることを見出している。これらのことから、ILC2の2型サイトカイン産生には抑制機構の解除が重要なのではないかと考え、ILC2の2型サイトカイン産生におけるホルモン応答や転写後遺伝子発現制御関連遺伝子群による抑制機構の役割について明らかにしていきたい。

K+

リソソーム?

ROS ↑

NLRP3インフラマソーム

IL-1βパイロトーシス

マクロファージ

子宮

好酸球浸潤

IL-5

IL-33

ILC2?胎盤胎仔

?ILC2

妊娠期アレルギー性疾患

発症

体質形成?

アレルギーマーチ発症

CLP 未成熟ILC2

高濃度IL-7、弱い短いNotch

成熟ILC2

HSC CHILP

胎仔肝臓 胎仔末梢組織

ストローマ細胞

成熟シグナル

ILCP

分化シグナル

?

?

?

胎仔

IL-33R

IL-7

成体未成熟ILC2

ILCP 成熟ILC2

成体末梢組織