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環境省委託調査 EU におけるサステナブル・ファイナンスの動向に 関する調査報告書 (タクソノミー・非財務情報開示・ベンチマーク) 2019 9 CSR デザイン環境投資顧問株式会社

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環境省委託調査

EU におけるサステナブル・ファイナンスの動向に

関する調査報告書

(タクソノミー・非財務情報開示・ベンチマーク)

2019 年 9 月

CSR デザイン環境投資顧問株式会社

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EU におけるサステナブル・ファイナンスの動向 .................................................................. 2

1.概要 ............................................................................................................................... 2

2.アクションプラン 1:サステナブル活動の EU 分類システムの確立 .......................... 4

2-1. HLEG 最終報告の内容 .............................................................................................................. 4

2-2. アクションプランの内容 ......................................................................................................... 6

2-3. 規則案に関する動き .................................................................................................................. 6

2-4. TEGからの公表資料 .............................................................................................................. 13

3.アクションプラン5:サステナビリティベンチマークの開発 ................................... 29

3-1. HLEG 最終報告の内容 ........................................................................................................... 29

3-2. アクションプランの内容 ...................................................................................................... 30

3-3. 規則案に関する動き ............................................................................................................... 30

3-4. TEGからの公表資料 .............................................................................................................. 34

4.アクションプラン9:サステナビリティ情報開示の強化および会計基準の策定 ...... 43

4-1. HLEG 最終報告の提案内容 .................................................................................................. 43

4-2. アクションプランの内容 ...................................................................................................... 43

4-3. TEGからの公表資料 .............................................................................................................. 44

4-4. 欧州企業報告ラボを設立 ...................................................................................................... 54

補足 NFRD および非財務情報ガイドライン ........................................................................... 54

(参考)EU の法体系 ........................................................................................................ 57

【EU 法の種類】 ................................................................................................................................. 57

【欧州指令(EU Directive)と欧州規則(EU Regulation)】 .............................................. 58

【EU の立法手続きの流れ】 ........................................................................................................... 59

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EU におけるサステナブル・ファイナンスの動向

(タクソノミー・非財務情報開示・ベンチマーク)

1.概要 欧州委員会は、2016 年 12 月にサステナブル・ファイナンス 1について検討するハイレベ

ル専門家グループ(HLEG:EU High-Level Expert Group on Sustainable Finance)を設置した。HLEG は、2018 年 1 月に最終報告 2を公表している。

この最終報告をもとに、2018 年 3 月に欧州委員会はアクションプラン 3を採択した。アクションプランは、資金をサステナブル投資に向けること、気候変動等に起因する財務リスクを管理すること、財務・経済活動における透明性や長期的志向を育成することを目的としている(アクションプランの項目は下表を参照)。

2018 年 5 月、欧州委員会は、このアクションプランを受けて、規則案および指令改正案を公表した。 さらに、欧州委員会は、2018 年 6 月に技術専門グループ(TEG:Technical Expert Group in Sustainable Finance)を立ち上げた。TEG は、「タクソノミー」「グリーンボンド基準」「ベンチマーク」「気候関連の情報開示に関するガイダンス」の 4 つのサブグループに分かれて活動している。 本稿では、アクションプランに関連する動きのうち、タクソノミー(アクションプラン1)、ベンチマーク(アクションプラン5)、情報開示(アクションプラン9)について、2019 年6月までに動きのあった規則案・指令改正案の内容および TEG の動きを中心に説明する。 なお、本稿は、アクションプランを軸に、それに関連する HLEG 最終報告、規則案および TEG の情報を説明する構成となっている。

1 アクションプランに関する事項はすべて下記のウェブサイトで随時更新されている。本稿も、このウェブサイトの内容に基づき記載している。https://ec.europa.eu/info/business-economy-euro/banking-and-finance/sustainable-finance_en 2 最終報告は下記のウェブサイトより入手できる。 https://ec.europa.eu/info/publications/180131-sustainable-finance-report_en 3 アクションプランは下記のウェブサイトより入手できる。 https://ec.europa.eu/info/publications/180308-action-plan-sustainable-growth_en

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2.アクションプラン 1:サステナブル活動の EU 分類システムの確立 2-1. HLEG 最終報告の内容

1.タクソノミーの方向性 持続可能な開発のために欧州が一定の規模で資本を動員する場合、サステナビリティに

関する専門的で堅固な分類システム(タクソノミー)が必要となる。 HLEG が掲げるタクソノミーに関する目標は、あらゆるタイプの資産と資本配分に適

用できる持続可能な活動につき共通の EU 分類を提供することである。これには、例えば欧州投資銀行(EIB)、北欧投資銀行(NIB)、Climate Bond Initiatives(CBI)等による既存のフレームワークを起用することも考えられる。

タクソノミーは、パリ協定や SDGs などの EU の政策目標と整合性を取るべきである。それにより、政策立案者(policy maker)が、政策目標や政策上優先すべき事項を実際の経済的資産と紐付けられるようになる。

タクソノミーは、特定の活動の関連性または貢献に関する指針を資本市場参加者に提供する。それに応じて、投資意思決定や投資配分を決定することができる。タクソノミーのパラメータやそれを支えるデータは自由にアクセス可能であるべきであり、マルチステークホルダープロセスを通して改善されていくべきである。

EU のサステナビリティ・タクソノミーは以下のように使用することが考えられる。 a. 各資産、ポートフォリオ、機関、地域、国家、ヨーロッパレベルでのサステナビリ

ティ優先事項(sustainable development priorities)に向けた資金の流れを測定する。 b. ヨーロッパの気候、グリーン、サステナブルな資金調達メカニズムのもとで、ファ

イナンスの対象となる資産を認識する。 c. 基準設定機関や製品開発者(例えばグリーンボンドやリサーチ/インデックスプロ

バイダー)に共通の出発点を提供する。 d. 投資家が自身のポートフォリオのグリーン/サステナブルな産業のエクスポージャ

ーを理解できるようになる。また、投資家が、クライアントや受益者の選好に即した投資ポリシーをデザインできるようになる。

e. 様々なサステナビリティのカテゴリーに応じて、企業の収益や活動ごとのブレークダウンを行える。

f. 投資家エンゲージメントで会社のビジネスモデルや移行プランなどの説明をサポートする。

g. TCFD と共に、市場への効果的な開示の一助となり、非財務情報開示指令(NFRD:Non-financial Reporting Directive)の更なる開示につなげる。

2.サステナビリティ・タクソノミーの開発 HLEG では、出発点として、サステナビリティ・タクソノミー全体のフレームワークを開発した(下表参照)。これにより、

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a. サステナビリティ目標のいずれかに貢献し得るセクター、サブセクター、関連資産の認識、分類が可能になる。このフレームワークは様々なステークホルダーの既存の分類を使用しているので、国際開発金融機関(MDBs)の融資・資金調達、債券市場および株式市場とも一貫(coherent)している。

b. また、パリ協定と SDGs などの EU の政策目標と整合性の取れた主要なサステナビリティ目標の認識、分類が可能になる。

出所)HLEG 最終報告 P.18 また、HLEG は、資産やプロジェクトが「気候変動の緩和」のタクソノミーと認められる

ための選定基準(screening criteria)も提案している。これは、下記の 2 種類から構成される。

a. 「気候変動の緩和」に貢献すると認められる資産、活動や測定手段に関する第一次選定基準(primary screening metrics)の一覧。

b. 第一次選定基準に準拠しているか否かを判断するための十分な情報がない場合に、ガイダンスとして使用できる第二次選定基準(secondary screening metrics)の一覧。

このような作業を通して、HLEG は、ある一部のセクター、サブセクターでは資産や活動が「気候変動の緩和」に貢献するかを判断する際には、より精緻なタクソノミーが要求されていることを認識した。

サステナビリティ目標の項目

セクター名

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上記を受け、HLEG は欧州委員会に対して以下を提唱する: 2020 年までに本格的なサステナビリティ・タクソノミーを開発するためのロードマッ

プを用意する。ロードマップのもとで、欧州委員会は、以下のことを実施する。 2018/2019 年までにタクソノミーを開発するために、サステナビリティ・タクソノミー

作業委員会を 2018 年に設立する。作業委員会は、初期段階は EC 内の関連総局(例えば環境総局、エネルギー総局、金融安定・金融サービス・資本市場同盟総局(FISMA)、モビリティ・運輸総局、司法・消費者総局など)の専門家、および民間人や民間セクター、HLEG のメンバーおよび関連する専門性を有するオブザーバーで構成する。

作業委員会では専門家や市場参加者とのコンサルテーションの実施を必須とし、タクソノミーの主要セクターやサステナビリティ目標について合意した定義を開発する。

作業委員会の提案に基づき、当該サステナビリティ・タクソノミーを関連規制および基準設定プロセスでも使用する

タクソノミー使用状況のモニタリング、作業委員会に対するフィードバックや改善のための提案を行うためにサステナブル・ファイナンスに関する監視組織(EU Observatory)を設ける。

2-2. アクションプランの内容

2018 年第 2 四半期に EU タクソノミーの開発に関する規則案を公表する。 ⇒2018 年 5 月 24 日に「持続可能な投資促進の枠組確立に係る規則案」を公表 TEG を発足させ、2019 年第 1 四半期までに「気候変動の緩和」に関するタクソノミー

のレポートを公表、2019 年第 2 四半期までにその他に拡大する。 ⇒2018 年 6 月に TEG を設置

2-3. 規則案に関する動き 【概要】 「持続可能な投資促進の枠組確立に係る規則案」は、2018 年 5 月 24 日に欧州委員会

から提出された。その目的は、投資の環境面でサステナブル(environmentally sustainable)な程度を決めるために、経済活動の環境へのインパクトの程度及びサステナビリティの程度に関する基準を確立することである。この規則案は、EU 各国が環境面でサステナブルな金融商品を販売する金融市場参加者に対する法規則、及び、一定の金融市場参加者が開示する際に適用される。規則案では、以下 4 項目をすべて満たした場合に、経済活動は環境面でサステナブルである、と規定する。

① 下記6つの環境目的の1つ以上に実質的に貢献する。 気候変動の緩和 気候変動の適応

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水資源と海洋資源の持続可能な利用と保全 廃棄物抑制や再生資源の利用を増やすような循環経済への移行 汚染の防止と管理 生物多様性および健全な生態系の保全および悪化した生態系の回復

② 6つの環境目的のいずれにも重大な害とならない ③ 最低安全策(minimum safeguard)に準拠している ④ 専門的選定基準(technical screening criteria:上記①・②を満たすための最低基準)

を満たす 欧州委員会から提案された規則案は、修正を経て、2019 年 3 月 13 日、欧州議会 4の環境

委員会(ENVI)と経済委員会(ECON)により共同採択 5され、3 月 28 日には EU 本会議でも承認された 6。審議中には、環境にネガティブなインパクトを与える活動を含める案や7、事業範囲に環境に加えて社会分野を含める案 8も出されたものの、最終的には、欧州委員会が5月に提示した案と大きく変わらない修正案が採用された。主な修正内容は下記の通りである。 環境にネガティブなインパクトを与える活動は法案に含まれなかったものの、2021

年 12 月 31 日までにそうしたネガティブなインパクトを与える活動に関するタクソ

4 タクソノミー法案の欧州議会での進捗は下記ウェブサイトに更新される。当サイトでは会議のサマリ

ーも見ることができる。https://oeil.secure.europarl.europa.eu/oeil/popups/ficheprocedure.do?lang=en&reference=2018/0178(COD)

欧州議会の委員会における議論の関連資料は下記より入手することができる。 http://www.emeeting.europarl.europa.eu/emeeting/committee/agenda/201903/ENVI?meeting=CJ36-

2019-0311_1&session=03-11-19-30 5 当委員会に提出された法案:

http://www.europarl.europa.eu/meetdocs/2014_2019/plmrep/COMMITTEES/CJ36/AMC/2019/03-11/1173967_EN.pdf この文書の中に、2 つの修正案が掲載されている。

当委員会で採択された法案: http://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-8-2019-0325_EN.html?redirect 6 当議会で承認された法案: http://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-8-2019-0325_EN.pdf 3 月 13 日に採択された案

の文言からの大きな修正はない。 7 Compromise Amendments P.16 にネガティブなインパクトを与える活動のタクソノミーに関する提案が記載されている。http://www.europarl.europa.eu/meetdocs/2014_2019/plmrep/COMMITTEES/CJ36/AMC/2019/03-11/1173967_EN.pdf 8 Compromise Amendments P.47-48 に社会分野に関する提案が記載されている。http://www.europarl.europa.eu/meetdocs/2014_2019/plmrep/COMMITTEES/CJ36/AMC/2019/03-11/1173967_EN.pdf

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ノミーを策定するかどうかについて判断するとし、今後ネガティブな活動がタクソノミーに含まれる余地を残した。(第 3a 条)

環境面でサステナブルである商品を販売する金融市場参加者は、当規則でのタクソノミーの基準を満たさなければならないという文言が強調された。(第 4 条)

専門的選定基準については、石炭火力発電、原子力発電、炭素集約型のロックイン効果に寄与する活動は環境面でサステナブルな経済活動とはいえないと明言された。(第 14 条第 2a 項、第 2b 項、第 2c 項)

経済活動が、研究開発プロジェクトを通して、特定の時系列で移行計画に基づいてサステナブルな形に移行している場合にはそれを考慮する。という、所謂トランジションタクソノミーのニュアンスを含む文言が新たに加えられた。(第 14 条第 1 項(fa)、第 3a 項)

「6 つの環境目的は、統一された基準、ライフサイクル分析、科学的基準により測定され、今後の環境問題に応じて変化できるようにする」という文言が加わった。(第5 条第 1a 項)

気候変動の緩和の定義(第 6 条)や循環経済の定義(第 9 条)が厳格化された。 この規則案は、今後欧州理事会の承認を経て、年内に法制化の予定である。 【欧州議会で承認された規則案の内容】 欧州議会で承認された最新の規則案の具体的な内容を本項で説明する。なお、この項で下

線を付している箇所は、2018 年5月に欧州委員会が提出した規則案から変更された部分である。

法律の目的は、投資の環境面でのサステナブルの程度を決めるために、経済活動の環境

へのインパクトの程度及びサステナビリティに関する基準を確立することである。(第1 条第 1 項)

適用対象とするのは、以下の通り。(第 1 条 2 項) EU 各国により採択された金融市場参加者に対する法規則で、EU 圏で販売される環

境的にサステナブルな金融商品や社債に関するもの EU 圏で環境面でサステナブルな金融商品または類似商品を提供する金融市場参加

者 この対象に加えて修正案で以下を追加 金融商品を提供する金融市場参加者のうち、以下に該当しない者

金融商品が資金提供する経済活動が、サステナビリティに重大な影響を与えないことについて目論見書の中で十分な説明をする場合

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金融商品がサステナビリティ目的 9を持たず、サステナブルとみなされない経済活動をサポートするリスクが高いことを目論見書の中で示している場合

経済活動は下記の全ての基準を満たした場合に環境面でサステナブルと言える。(第 3

条、第5条) a. 経済活動が、下記 6 つの環境目的の1つ以上に実質的に貢献する。

(1) 気候変動の緩和 (2) 気候変動の適応 (3) 水資源と海洋資源の持続可能な利用と保全 (4) 廃棄物抑制や再生資源の利用を増やすような循環経済への移行 (5) 汚染の防止と管理 (6) 生物多様性および健全な生態系の保全および悪化した生態系の回復 6 つの環境目的は、統一された基準、ライフサイクル分析、科学的基準により測定され、今後の環境問題に応じて変化できるようにする。(第 5 条第 1a 項)

b. 経済活動が、上記6つの環境目的のどれに対しても重大な害とならない。 c. 経済活動が最低安全策に準拠している。 d. 経済活動が専門的選定基準を満たす。

欧州委員会は、2021 年 12 月 31 日までに本基準の対象を環境に重大なネガティブイン

パクトを与える経済活動まで拡大することのインパクト評価を実施することとする。(第 3a 条)

環境面でサステナブルな経済活動の基準の使用(第 4 条)

a. 各国および EU は、環境面でサステナブルであるとされた金融商品や社債の発行体へのサステナビリティに関する基準を策定するために、上記第 3 条で定めた経済活動の環境的なサステナビリティの程度を決定するための基準を適用する。

b. 金融商品または社債を発行する金融市場参加者は、彼らの発行する商品が、第 3 条の基準に基づき環境面でサステナブルであると認められているかどうかに関する情報を開示する。金融市場参加者は、環境面でサステナブルと認められていない商品を環境面でサステナブルである、あるいは、それに似た性質のものとして販売してはならない(shall not)。

9 「サステナビリティ目的」とは「環境目的」と現時点ではほぼ同義。修正規則案では「環境目的」を「サステナビリティ目的」という言葉に一部置き換えている。社会分野も目的に含めようとした経緯があったことが理由と考えられる。

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金融市場参加者は、以下の情報を開示する。(第4条第3項、第 3a 項)

a. 環境面でサステナブルな経済活動を実施している会社に対する持株の割合。 b. 環境面でサステナブルな経済活動への投資の割合。 委員会は、情報開示に必要とされる情報を特定するため、関連情報の利用可能性や専門的選定基準も考慮して、委任法を採択しなければならない。

モニタリング(第 4 条 a) 欧州監督当局(ESA)は、EU に流通する(marketed, distributed and sold)金融商品で、環境面でサステナブルである、あるいは、それに似た性質のものとして販売する商品のモニタリングを行う。違反する金融商品に対しては、ESA が一時的に流通を禁じることもある。

環境目的である 6 項目の説明(第 6 条から第 11 条) 各条項も(1)サステナビリティ目的に該当する活動の内容、(2)委任法によっ

て詳細を規定される専門的選定基準について記載されている。 例:第 6 条「気候変動の緩和」

(1) 気候変動の緩和に実質的に貢献していると考えられる経済活動は、再生可能エネルギーの生成・貯蔵・使用やエネルギー効率の改善(※)等 10によって、温室効果ガス排出を回避・減少、または、温室効果ガスの除去の促進をすることにより、空気中の温室効果ガスの安定化に実質的に貢献している経済活動である。 (※)エネルギー効率の改善の説明として、「一次および最終エネルギー消費を削減する全てのセクターのエネルギー効率の改善、ただし、固体化石燃料(筆者注:石炭のことを意味する)を使用したエネルギー生成および、それに関連する全てのエネルギーチェーン(energy chain)のセクターは除く。」と定義している。

(2) 気候変動の緩和に実質的に貢献すると考えられる特定の経済活動を決定する専門的選定基準を設定する。また、専門的選定基準には、閾値を含み、この閾値は、パリ協定に定められているように、世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて 2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求するという目的に沿ったものとする。他の環境目的の 1 つ以上の項目に重大な害とならないと判断するための専門的選定基準を設定する。

10 規則案の第 6 条第 1 項にはその他の例も記載されている。

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なお、専門的選定基準に関する委任法の採択期限と適用開始日は環境目的ごとに異なり、整理すると下記のようになる。

出所)規則案を元に CSR デザイン環境投資顧問(株)作成

経済活動は、全ライフサイクルを考慮して、以下に該当する場合には環境目的に重大な

害を与えるとみなされる。(第 12 条) a. 気候変動の緩和:その活動が大量の二酸化炭素の排出を引き起こす。 b. 気候変動の適応:その活動が現在及び将来の気候へのネガティブインパ

クトを増加させる。 c. 水資源と海洋資源の持続可能な利用と保全:その活動が、EU の水または

海洋に相当程度有害である。 d. 循環経済、廃棄物抑制、リサイクル社会への移行:その活動は、極めて非

効率に原材料を使用する。 e. 汚染の防止と管理:その活動が開始した時と比べて、空気、水、土壌の汚

染の度合いが大きく悪化する。 f. 健全な生態系の保全:その活動が、生態系の状況を相当程度、悪化させる。

最低安全策(第 13 条)

「OECD 多国籍企業行動指針」および「ビジネスと人権に関する国連指導原則」を遵守していることを確認する。これには、例えば、労働における基本的原則及び権利に関する ILO 宣言の 8 項目(強制労働の禁止、結社の自由、団結権、団体交渉権、同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬、雇用・職業の差別待遇の禁止、児童労働の禁止)の原則・権利および国際人権章典(International Bill of Human Rights)なども含まれる。

2021 年 12 月 31 日までに、欧州委員会は、その他の最低安全策を追加することについての影響評価を実施することとする。

最低安全策の内容は委任法にて定める。当委任法は、2020 年 12 月 31 日までに採

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択する。

専門的選定基準の要求事項 11(第 14 条) 専門的選定基準の要件

ライフサイクル評価により、環境へのインパクトを測定する指標に基づく。 経済活動の最も関連する潜在的な貢献を判断する。経済活動のインパクトを

短期的だけでなく長期的にも考慮する。 全ての関連する環境目的に対して重大な害を避けるために必要な最低基準を

明示する。 質的でも量的でも、またはどちらを含んでいてもよい。可能であれば閾値を含

むこと。 科学的根拠に基づくこと、また関連する場合には TFEU の第 191 条 12も考慮

する。 専門的選定基準は、以下の経済活動が環境面でサステナブルな経済活動とみ

なさない。 固体化石燃料を使用する発電活動 炭素集約的ロックイン効果に寄与する活動 再利用できない廃棄物(non-renewable waste、筆者注:原子力等のこと

を意味する)を生み出す発電活動

経済活動が、研究開発プロジェクトを通して、特定の時系列で移行計画に基づいてサステナブルな形に移行している場合にはそれを考慮する。ある企業の大部分が経済活動をサステナブルに移行させる道筋(trajectory)にあることが証明されていれば、専門的選定基準は、これを考慮に入れる。この道筋は、研究開発や新規のよりサステナブルなテクノロジーへの大規模投資プロジェクトであるか、または少なくとも実行初期段階において具体的な移行計画を示す。

サステナブルファイナンス・プラットフォーム(Platform on Sustainable Finance)(第

15 条) プラットフォームは、欧州環境機関、欧州監督当局、欧州投資銀行、欧州投資基金

の代表者および専門家で構成される。

11 当項目は第 14 条の抜粋のため、要求事項のその他の項目については規則案を参照する必要がある。 12 EU 競争法(the Treaty on the Functioning of the European Union)の第 191 条は環境に関する事項が

述べられている。https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A12012E191

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プラットフォームでは下記の事項を行う。 専門的選定基準およびその選定基準を更新する必要性について、欧州委員会

に対してアドバイスを提供する。 専門的選定基準の潜在的コストや便益に関する分析を行う。 ステークホルダーからの各経済活動の専門的選定基準の開発や更新に関する

リクエストの分析を行う。 専門的選定基準をより広い場面で使用することの適切性に関して、欧州委員

会へアドバイスする。 当規則を修正する必要の可能性について、欧州委員会へアドバイスする。

レビュー条項(第 17 条) 初回は 2021 年 12 月 31 日までに、その後は 3 年ごとに、欧州委員会が当規則の実行

状況についてレポートを公表する。

2-4. TEGからの公表資料 1.2019 年 12 月公表レポート 13

【概要】 TEG のタクソノミーグループは、2018 年 12 月 8 日に、「気候変動緩和に貢献する活動

の一部(1st Round climate mitigation activities)」および「タクソノミーの使いやすさ」に関する案を公表し、オープンコンサルテーションを開始した。また、同レポートには今後実施するワークショップに関する専門家の選考についても記載している。

レポートは 108 ページにわたるが、構成は以下の通りとなっている。

Part A: タクソノミーのアプローチの解説 Part B: フィードバックを求める内容(フィードバックの締切:2019 年 2 月 22 日)

1. 「気候変動の緩和」目的に貢献すると期待される一部の経済活動および基準(「気候変動の緩和」に関する第1ラウンド)

2. タクソノミーの使いやすさ Part C: ワークショップへの参加者の募集(募集締切:2019 年 1 月 4 日)

1.「気候変動の緩和」目的に貢献すると期待されるその他の活動の基準の開発(「気候変動の緩和」に関する第2ラウンド)

2.「気候変動の適応」目的に貢献すると期待される活動の基準の開発

13タクソノミーに関する公表資料(Technical Expert Group on Sustainable Finance Taxonomy pack for feedback and workshops invitations December 2019)は下記のウェブサイトより入手できる。 https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/business_economy_euro/banking_and_finance/documents/sustainable-finance-taxonomy-feedback-and-workshops_en.pdf

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3.「気候変動の緩和」および「気候変動の適応」以外の 4 つの環境目的に関する「重大な害」を評価する基準の開発

Part D: 「気候変動の緩和」に関する第1ラウンド、選定基準、フィードバックを求め る質問事項の全内容

【レポートの内容】 本章ではタクソノミーの実質的な内容が記載されている「Part A: タクソノミーのアプロ

ーチの解説」の具体的な内容を説明する。 Part A: タクソノミーのアプローチの解説

タクソノミーの開発について、このレポートで新たに明らかになった事項の概要について記載する。 セクターフレームワークについて

環境面でサステナブルな経済活動を定義する際に、セクターフレームワークを確立する必要があるが、その際に、NACE14の経済活動分類を採用することとした。理由としては、NACE が EU 法により設立されたものであり、国際的なフレームワークや加盟国のフレームワークと互換性があり、EU 経済を包括的にカバーしている、といった事項が挙げられている。ただし、一部の分野では、NACE では不十分であり、カテゴリーを追加する必要がある可能性もあるが、多くの場合には、EGSS, CEPA, CReMA により補完できるだろうと述べている。

「気候変動の緩和」目的の経済活動の決定方法 まず、NACE のセクターの中で、温室効果ガス排出量の多いセクター上位 6 つを選択。ただし、上位6つのうち、”Wholesale and retail”セクターについては、温室効果ガスの排出が、(セクター本流の事業によるものではなく)建物からの排出が主であると考えられることから除外する。

建物については、個別の NACE セクターはないものの、EU における二酸化炭素排出量の 36%を占めることから、セクター横断的な課題として捉える。レポート内で明言はされていないものの、建物関連のセクターとして、”Construction”と”Real estate activities”セクターを追加したと読み取ることができる。

さらに、他のセクターの温室効果ガス排出削減に貢献する可能性のある enabling sector として”Information and communication”と”Professional, scientific and technical activities”を2つ追加する。

以上の計 10 セクター(下表の黄色およびピンクで色付けされたセクター)で全 NACE

14 Statistical classification of economic activities in the European Community(欧州共同体経済活動統計分類)のこと。フランス語の Nomenclature statistique des activités économiques dans la Communauté européenne の略により”NACE”となる。

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の二酸化炭素排出量の 93.7%を構成しており、これらを優先的に検討するセクターと位置付ける。

出所)TEG Taxonomy pack for feedback and workshops invitations P.9,10

選択されたセクターにおける「気候変動の緩和」活動 上記で選択された 10 セクターの中で、「第 1 ラウンド」及び「第 2 ラウンド」の活

動が列挙されている(下表は、「D 電気、ガス、蒸気、空調の供給」セクターの例)。表に記載されていない活動でも、TEG またはサステナブルファイナンス・プラットフォームで分析され、追加される可能性があると付記している。

第 1 ラウンドで検討される活動

第2ラウンドで検討される活動

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出所)TEG Taxonomy pack for feedback and workshops invitations P.14 に CSR デザイン環境投資顧問(株)和訳追加 「気候変動への適応」目的の経済活動の決定方法

PartA の最後に、「気候変動への適応」目的の経済活動のタクソノミーを開発する際のアプローチ案が説明されている。なお、「気候変動の緩和」に関する第1ラウンドへのフィードバックを行う資料の中で、「気候変動への適応」に「重大な害はない」と評価する基準はすでに定義されている。これについては TEG でさらに検討していく。 1. プロセス

「気候変動の適応」は、状況や場所によって異なるので(context- and location-specific)、プロセスベースアプローチ(process-based approach)を採用する。下記の2段階プロセス(two-step prosess)により、経済活動が適切なレベル(アセットレベルまたはシステムレベル)の活動であり、気候変動へのネガティブインパクトを実質的に減らすことに貢献することを確認する。

a. 確実な証拠と適切な気候情報に基づき、対象となる経済活動(underlying economic activity)の気候変動へのネガティブインパクトを評価し、

b. 経済活動が認識された気候変動へのネガティブインパクトに対してどのように取り組んでいるか、または、ネガティブインパクトへの移行をどのように防ぐか(prevent a shifting of these negative effects)を示す。

また、今回提案するアプローチでは、「気候変動への適応」の活動にはアセットレベルとシステムレベルの二つのレベルがあるとする。アセットレベルの適応とは、資産の存続期間(lifetime)にわたり、物理的な気候リスクに耐えられるように、資産または経済活動を強化することを目的にしたものである。システムレベルの適応とは、ある特定の経済活動にとどまらない気候リスクに取り組むもので、コミュニティ、都市、生態系といった、より広いシステムに便益をもたらすものである。 2. 原則

全ての状況に対応できる「気候変動への適応」の活動を一覧にすることは不可能であるが、気候変動への適応に経済活動が潜在的に貢献する程度を評価する際の原則を作成したので、今後のフィードバックを参考に最終化する。

原則 1:適応に貢献する経済活動は、重大な物理的気候リスクに取り組む。 原則 2:適応に貢献する経済活動は、不適切な適応(maladaptation)を避けるべきである。 原則 3:適応に貢献する経済活動は、適応の成果(adaptation results)に向けた進捗を測定するためのモニタリングシステムを備える。

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原則 4:適応に貢献する経済活動は、より大きな戦略 15(wider strategy)の一部である。

3. 基準 上記の原則がアセットレベルおよびシステムレベルの適応の基準に反映される。下

記の基準は、今後のフィードバックを参考に最終化する。

出所)TEG Taxonomy pack for feedback and workshops invitations P.18,19

4. 例示

15 長期の気候レジリエンスを促進する適切なレベルでの戦略(国の適応計画、セクターの戦略、国が決定したコミットメントなど)

1.物理的気候リスクの評価をもとに設計されている

2.他の経済活動に負の影響を与えない

3.経済活動の適応への貢献度合をモニターおよび測定

4.気候レジリエンスを確立するための長期ビジョンに組み込まれている

システムレベルの場合、以下も追加で検討する。

5.システム全体の変化に貢献するできる

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上記の原則、プロセス、基準に加えて、「気候変動への適応」のタクソノミーには、以下の 2 つを加える可能性がある。

a. あらゆる状況で想定される「気候変動への適応」の経済活動の例 b. 特定の脆弱性に対応する「気候変動への適応」の経済活動の例

2. 2019 年 6 月公表レポート 【概要】 前述のレポート公表後、TEG は追加の開発を引き続き行い、上記レポートに対するフ

ィードバックの内容を踏まえ、2019 年 6 月 18 日、TEG は、タクソノミーの①ユーザーガイダンスと②テクニカルレポートを公表した。

テクニカルレポートでは、6つの環境目的のうち、「気候変動の緩和」と「気候変動への適応」の専門的選定基準を詳述している。ただし、特に「気候変動への適応」は現在開発を進めているところであり、2019 年度末までに完成させ欧州委員会に提出予定である。「気候変動の緩和」についてもフィードバックを受け付けており、内容が更新される可能性はある。

【タクソノミー策定に関する TEG のスタンス】 タクソノミーの策定にあたっての TEG のスタンスは下記の通りである。

1. TEG が定めた基準は、時と共に進化していくべきもので、将来的にはさらに厳格化されるべきであり、厳格化されることを事前に市場に知らせておき予測可能性(predictability)を確保。プラットフォーム(後述)がそのレビューメカニズムを担う。

2. 現状ではまだ低炭素でないものも含む。ブラウンからグリーンへのトランジションをサポートする。

3. ライフサイクル全体を考慮する。 タクソノミーが、科学に基づくものであること、フレキシブルなものであることが強調

された。タクソノミーはテクノロジーの発展等で変化するものであり、状況に応じて更新されていく性質のものである。

【気候変動の緩和】 気候変動の緩和への実質的な貢献度の定義

TEG では経済活動の検討にあたり以下の 2 つのタイプの概念を利用している。 1. ‘Greening of’ activities: ある活動が、その活動自身の環境パフォーマンスを改

善させる。 2. ‘Greening by’ activities: ある活動が、その他のセクターの環境パフォーマンス

を改善させる。

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上記の定義をふまえて、経済活動を下記の 3 つに分類する。

1. すでに低炭素な活動:専門的選定基準は長期にわたり一定であるべき。 2. 2050 年のネットゼロエミッション経済への移行に貢献するが、現在はネットゼ

ロカーボンエミッションレベルに近くはない活動:専門的選定基準は定期的に見直されることになる。例えば、発電事業については、現在は閾値を 100g CO2/kWh としているが、今後 4 年ごとに閾値の見直しを行い 2050 年には 0g CO2/kWh とする予定となっている。

3. 低炭素パフォーマンスまたは実質的な炭素削減を可能にさせる活動:上記の‘Greening by’ activities に該当。

TEG は、短期的には環境への害を減少させる効果がある経済活動であっても、ロック

イン効果があり、長期的には気候変動の緩和に実質的に貢献しない活動は、タクソノミーから排除することとした。この考え方は、下図のデシジョンツリーに示されており、セクター平均と比較して、大きな排出削減が見込まれても、ロックイン効果を引き起こす活動は除外されることとなる 16。

16 ただし、TEG は、タクソノミーに含めた経済活動の一部において、この原則が貫かれていないことを認識している。Activities that were identified as failing this principle in the TEG work to date include renovations to transport facilities or buildings (including storage) that are dedicated to fossil fuels and may create lock in of these assets for fossil fuel purposes.(タクソノミーテクニカルレポート 32 ページ)

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出所)タクソノミーテクニカルレポート 32 ページを

CSR デザイン環境投資顧問(株)和訳

テクニカルレポートでは、7 セクターの 67 経済活動についての専門的選定基準を公表している。(代表例の具体的内容はパワーポイント資料参照) 注目される点は、鉄鋼やセメント等の低炭素でない経済活動も含まれていることである。これは、タクソノミーの目的が、「パリ協定の長期目標を達成すること」であり、現在はブラウンのものをグリーンにトランジションさせることをサポートするというスタンスに基づくものである。

【気候変動への適応】 経済活動が「気候変動への適応」に貢献するかを判断する際には、ロケーションやシス

テム全体の中での位置づけが重要になるという点が、「気候変動の緩和」と比較した際

タクソノミーに 含まれない

タクソノミーに 含まれない

タクソノミーに 含まれている経済活動か

すでに低炭素な活動か

セクター平均と比較して、 大きな排出削減が見込まれるか

その投資により、 ロックイン効果を引き起こすか

すでに低炭素な活動

ネットゼロエミッション経済への移行に 貢献する活動

市場での最善の方法で達成可能なパフォーマンスレベルの特定

タクソノミーに含まれていないが、今後含まれる 可能性もある

経済活動

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の特徴である。「気候変動の緩和」の場合には、例えば二酸化炭素排出削減量 1 トンのインパクトは、その経済活動がどこで実行されても同じである。しかし、「気候変動への適応」では、経済活動は物理的リスクに対応するものであるが、その物理的リスクは地理的条件等によってさまざまである。

そこで、「気候変動への適応」の専門的選定基準は、状況に応じた判断ができるように、質的アプローチを取ることとする。量的アプローチは、まだ開発できていないが、たとえ開発したとしても、小規模プロジェクトでも大きなインパクトを創出するような活動を除外してしまう可能性がある。

全てのセクターが気候変動に適応していく必要があることから、気候変動への適応に

貢献する活動の特定に際しては、どのセクターにも適用できる原則と基準を利用することとした。ただし、タクソノミーとして適格とされるためには、その他の環境目的にも重大な害とならないという条件も満たさなければならない。適応に貢献する活動のDNSH については、まだ TEG で検討中であり、公表されていない。

「緩和」の考え方と同じく、「適応」でも経済活動を 2 つのタイプに分類する。 1. ‘Adaptation of’ activities: ある活動が、その活動自身のレジリエンスの程度を

改善する。 2. ‘Adaptation by’ activities: ある活動が、その他のセクタ―の適応に貢献する。

「適応」では上記①と②それぞれについての基準のみを設けている。すなわち、「緩和」では経済活動ごとに専門的選定基準は異なるが、「適応」では専門的選定基準は①と②の二種類のみで、その基準を全ての経済活動に使用する形になる。

気候変動適応に貢献する経済活動を識別する 3 原則

TEG では気候変動の適応に実質的に貢献する経済活動を認識するための原則を提案する。

1. 全ての重要な物理的気候リスクを可能な範囲またはベストエフォートベースで減少させる。

2. その他の適応に向けた活動にネガティブインパクトを与えない。 3. (可能な場合)適応関連の結果は定義され、適切な指標により測定できる。

選定基準 上記の原則は気候変動の適応に貢献する経済活動の基本的な内容を示すものであるのに対し、選定基準は、適応に実質的に貢献する経済活動であるかどうかを決定するために使われる特性を示す。

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1. ‘Adaptation of’の選定基準

選定基準 説明 A1:気候に関する重要な物理的リスクの軽減

その経済活動は可能な限りにおいて、気候に関する重要な物理的リスクを軽減させるものでなければならない。

A1.1 その活動は、リスク評価を通じて特定された、すべての重要なリスクを軽減させるための物理・非物理的な方法を統合する。

A1.2 上項のリスク評価は次のような特徴を持つ: ・現在の気候変化と将来的な気候変動(不確定要素を含む)の両方を考慮している。 ・既存の気候データと、複数の想定シナリオを用いた予測による分析に基づいている。 ・活動に見込まれる存続期間(耐用期間)と一致する。

A2: 全体の適応の支援 その経済活動は他の活動の適応に対して悪影響を与えるものであってはならない。

A2.1 その活動は他の活動の気候関連リスクを増大させない、または、他の活動の適応を妨げない。(河川上流の洪水対策が下流での洪水リスクを高めてしまう例など。)

A2.2 その活動はセクター、地域、国レベルでの適応の活動と一貫性がある。

A3: 適応結果のモニタリング

物理的リスクの軽減が測定可能なものである。

A3.1 適応の結果がモニタリングや指標に照らし合わせた測定が可能である。なお、リスクは常に変化するものであるため、可能な場合は、物理的リスクの再評価を適宜行うべきである。

2. ‘Adaptation by’の選定基準

選定基準 説明 B1:他の経済活動の適応を支援

その経済活動は他の活動の適応に貢献する、または/及び、適応への障壁に対処するものである。

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B1.1 その活動はそれ自身の活動の枠を超えて、物理的リスクを減らす、ないしは適応を促進するものである。これには次のような活動が含まれる: a) 新しい技術、製品、活動、管理法、既存活動の革新的な活用を促進する b) 他の適応を阻害する情報・金融・技術・能力に関する障壁を取り除く

B1.2 社会基盤(インフラ)に関する活動の場合、その経済活動は‘Adaptation of’の選定基準 A1、A2、A3 も満たさなければならない。

「適応」の際に検討する気候関連の災害には、慢性 (chronic)も急性(acute)もどちらも

含むが、二次災害(chemical, biological, ecological and epidemiological hazards 等)は除外する。ただし、各経済活動の評価の際には、二次災害も考慮に入れることを薦めている。

経済活動の初期評価 TEG は以下の経済活動を抽出し、より具体的に環境への影響の評価を実施した 17。

17 その他の経済活動は、今後検討していく予定である。

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この 6 セクターの活動については、気候感度マトリックスを開発している。このマトリックスは、各セクターがどの気候関連災害に敏感であるかを示している。例えば、「上下水・排水処理」セクターの「下水」活動では、下表のようなマトリックスとなっている。

実際の各経済活動の専門的選定基準の中では、定型の選定基準(上述の“Adaptation of”と”Adaptation by”の二種類の基準)の下に”Further guidance”として上記の気候感度マトリックスを掲載している 18。

【重大な害を与えない(DNSH:do no significant harm)】 その他の環境目的を検討する際の、「気候変動への適応」に関する DNSH は、「気候変

動への適応」の専門的選定基準を修正・簡略化したものを提案している。 その他の環境目的(環境目的3~6)に関する DNSH は、できる限り量的閾値を含む

ようにするが、それが不可能な場合には、質的基準とする。 DNSH の基準としては、ほとんどの場合、EU の規則を利用している。また、専門家へ

のヒアリングも実施して科学的根拠に基づく基準を設定したが、それが難しい項目については、TFEU の 191 条(上述)を参照することとする。

多くの投資家がリスクマネジメント評価をしているが、DNSH を組み込んでいる会社は少ない。例えば、風力発電への投資でも DNSH をチェックし、設備の建設から解体に至るまでのライフサイクル全体を確認することが求められる。

【ユーザーガイダンス】 タクソノミー法案で規定される、タクソノミーの使用が義務付けられる使用者は、①

EU 各国と②環境面でサステナブルな金融商品を提供する金融市場参加者である。 対象となる金融商品の主な例として下記を列挙している。

18 “Further guidance”には、マトリックスに加えて、災害項目(熱波や干ばつ等)ごとのインパクト、適応策の例、パフォーマンス指標の例も記載されている。

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上記のユーザーでなくても、自主的にタクソノミーを使用することも考えられる。このようなユーザーとしては、下記が考えられる。 銀行:グリーンローン、プロジェクトファイナンス、民間融資を行うため 海外投資家:EU 以外の市場でも、EU タクソノミーをベンチマークとして、投資意思決定を適切に開示するため 企業および各地規制当局:サステナブル投資の機会を市場に提供するため、または自身の投資意思決定のため

金融市場参加者が開示しなければならない事項は下記の2つ

1. 環境面でサステナブルな経済活動を実施している会社に対する持株の割合 2. 環境面でサステナブルな経済活動への投資の割合

このように、法案の中で金融市場参加者が求められている内容は、環境面でサステナブルな経済活動に関する投資について正確な開示をすることにとどまる。タクソノミーで適格であるとされた経済活動に投資をする義務を負っているわけではない。

金融市場参加者が金融商品のサステナビリティの程度を認識するための方法として、

テクニカルレポートでは、「5ステップアプローチ」を示している。

(※)比率の計算には売上または費用が使われる。 株式もしくは社債: 売上の比率で計算。 ローン、プロジェクトファイナンス: 費用の比率で計算

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この5ステップの流れをより具体的に示したものが下表である。

出所)タクソノミーユーザーガイダンス10ページを

CSR デザイン環境投資顧問(株)和訳・加筆

DNSH を確認するためのステップ DNSH の基準を満たすかどうかを確認するための方法として、3ステップが示されている。

投資家は、投資する際に、デューデリジェンスを行うことは多いが、そのプロセスの中にこうした DNSH に関する確認を組み込んでいるケースは少ない。例えば、風力発電に投資をする際にも、DNSH の分析を行わなければタクソノミー適格かどうかの判断ができなくなるため、風力発電建設時の水中の騒音等について確認を行う必要がでてくる。このように、タクソノミーが、投資家に対して、DNSH の評価を広め、評価方法のガイダンスとしての役割となることが期待される。

社会的基準(人権等)を確認するためのステップ 人権の侵害等の検討は、これまでも投資家が ESG リスク評価の中で広く行われているため、社会的基準を確認するステップについては、投資家の投資プロセスを変更の必要はないと考えられる。

各社が開示するべき事項

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上述の流れで投資家がタクソノミーを利用して投資を行うためには、各社が十分な情報を提供しておく必要がある。投資家に求められる情報としては大きく3種類ある。

【TEG の今後の活動】

TEG は 2019 年 12 月まで活動を延長。それまでに実施することは、下記の3点。 1. 未完成部分の更新・開発 2. まだパブリックコンサルテーションの対象になっていない基準に関するフィー

ドバックの内容の検討 3. タクソノミーの使用に関する追加ガイダンスの開発

出所)タクソノミーテクニカルレポート 18 ページ

なお、TEG では、このフェーズでカバーされている「気候変動の緩和」に関する経済活

動のスコープを今後広げることはない。また、すでにレビューされた専門的選定基準について追加でフィードバックを受け付けることはない。⇒つまり、スコープと基準は、TEG の報告書としては変更されることはない。(今後の Platform での公式な見直しはある。下記参照)

サステナブルファイナンス・プラットフォームの設立

タクソノミー法案では、サステナブルファイナンス・プラットフォームの設立が第 15 条

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で定められている。このプラットフォームが 2020 年以降は現在の TEG の役割を担っていくことになる。役割としては下記の 2 点。

1. TEG で提案された専門的選定基準の定期的な見直しおよび更なる開発。 2. 企業、投資家、その他のステークホルダーがタクソノミーに含むべき追加の経済活

動をプラットフォームに提案する。

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3.アクションプラン5:サステナビリティベンチマークの開発 3-1. HLEG 最終報告の内容

インデックスとベンチマークは、資本市場において重要であり、多くの投資家が、投資商品の開発、市場や投資ファンドのパフォーマンスの測定、資産配分にあたって多用している。

広く知られている国内株式インデックス(DAX30, CAC40、FTSE 100 等)は、ごくわずかの銘柄から構成されており、その銘柄も多国籍であることが多いので、国内の経済状況を示すものではないものの、個人投資家は、国内の状況を表す重要な指標と認識していることが多く、誤った認識を与えて投資の多様性を欠いている可能性がある。

サステナビリティや気候変動に関連した長期のリスクと機会は、市場評価やベンチマークには反映されていないため、これまでの一般的なベンチマークを使用している投資戦略は、長期的で持続可能な開発目的(sustainable development objectives)と整合していない可能性がある。

インデックスプロバイダーは、様々な ESG やサステナビリティに関するインデックスを開発しているが、ポートフォリオ全体における重要性はほとんどないのが現状である。しかし、こうした商品への需要は増えてきており、大規模アセットオーナーは、中核となるベンチマークにて気候変動を考慮に入れ始めている。

IOSCO のベンチマーク原則(2013 年策定)と EU ベンチマーク規制(2016 年公表)は、このベンチマークの議論と非常に関連がある。IOSCO ベンチマーク原則および EUベンチマーク原則は、どちらも、ベンチマークが経済実態を正確に表すことを確保するための透明性や方法論の考察について規定しているが、どちらもサステナビリティやESG に関しては述べていない。

サステナビリティの問題が現在および将来の経済に大きく影響を与えることを考えると、ベンチマークのガイダンスや規制をサステナビリティの問題を確実に考慮したものに改定することが不可欠である。

上記を受け、HLEG は欧州委員会に対して以下を提案する: 【規制機関】IOSCO に対して、ベンチマークの原則に、サステナビリティやガバナン

ス、特に気候に対する考慮(climate consideration)を踏まえたものに更新するよう働きかける。地域レベルでは、ESMA の“Benchmark Statement”のガイダンスにおいて、ESGおよびサステナビリティについて言及すべきである。

【インデックスプロバイダー】インデックスプロバイダーは、広く使用または参照されているベンチマークについて、気候およびサステナビリティのパラメータに対するエクスポージャーの詳細を開示するべきである。

【パッシブファンドおよびアクティブファンドのアセットマネジャー】パッシブファンドおよびアクティブファンド双方において、投資家が各ファンドのサステナビリテ

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ィの特性とエクスポージャーを理解できるようにする。 【ベンチマーク使用の監督者】欧州監督当局(ESAs19:European Supervisory Authorities)

および各国の監督当局は、機関投資家が ESG 目標に合ったベンチマークを使用する程度をモニタリングすべきである。

【広範囲なサステナブル投資のオリエンテーション】欧州委員会は、その影響力の高さを利用して、一般市民、メディア、政策立案者の注目を集めてサステナブル投資を周知させていくべきである。

3-2. アクションプランの内容

2018 年第 2 四半期までに、以下を実行する: (1) ベンチマーク規制のフレームワークの中で、ユーザーがサステナビリティベン

チマークの質をより評価できるように、ベンチマークのメソドロジーと特徴の透明性に関する委任法を採択する。 ⇒2018 年 5 月 24 日に「低炭素ベンチマークおよびポジティブ炭素インパクトベンチマークに関する規則案」を公表

(2) 気候タクソノミーが確立された後、炭素インパクトを計算するための堅固なメソドロジーに基づいて、低炭素発行者(low-carbon issuers)から成るベンチマークを統一させるイニシアチブを設置する。

TEG は、関連するすべてのステークホルダーとの協議に基づき、2019 年第 2 四半期までに低炭素ベンチマークのデザインとメソドロジーに関する報告書を公表する。

3-3. 規則案に関する動き

【概要】 2018 年5月、欧州委員会よりベンチマークとして使用されるインデックスに関する規制

20の修正案が提出された。そもそもアクションプランでは、ベンチマークに関する開示を広げる意図があったものの、当規則案では、低炭素関連ベンチマークにしか触れられていなか

19 銀行、保険・企業年金、証券を担当する EBA(欧州銀行監督局)、EIOPA(欧州保険・企業年金監督局)、ESMA(欧州証券市場監督局)から成る、EU の金融システムの監督機関。 20 REGULATION (EU) 2016/1011 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 8 June 2016 on indices used as benchmarks in financial instruments and financial contracts or to measure the performance of investment funds and amending Directives 2008/48/EC and 2014/17/EU and Regulation (EU) No 596/2014 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32016R1011 ここでいうベンチマークでは以下のように定義している。 「ベンチマーク」とは、金融商品または金融契約に基づいて支払われる金額、または金融商品の価値を基準にして決定される指標、または、指数のリターンを追跡すること、またはポートフォリオの資産配分を定義すること、または履行手数料を計算することを目的として、投資ファンドの業績を測定するために使用される指数を意味する。

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った。この法案を支持する欧州委員会と欧州理事会に対して、アクションプランの内容をできるだけ盛り込んだ野心的な内容にしたい欧州議会という構図ではあったが、2019 年 2 月25 日、欧州委員会、欧州議会、欧州理事会の三者間で欧州議会の修正案をほぼ全て盛り込む形で合意 21がなされ、2019 年 3 月 26 日に欧州議会で承認された 22。あとは欧州理事会の正式な承認を取る必要があるが、その時点で覆ることはない見込みである。

欧州委員会の提出した案からの主な変更点は、当初は、2 つのベンチマークを「低炭素」ベンチマークと「ポジティブ炭素インパクト」ベンチマークと呼んでいたが、新しい修正案では「EU climate transition」ベンチマークと「EU Paris-aligned」ベンチマークという名前になったことである。また、これとは別に、ベンチマークが ESG 目標を持つか持たないかにかかわらず、すべてのベンチマークで ESG に関する開示を行うことを強調した。

グリーンウォッシングを防ぐための最低基準を定める委任法は、2021 年 1 月 1 日までに制定される。この委任法は 2019 年 6 月公表の TEG レポートに基づいて作成される予定である。そして、2021 年 12 月 31 日より新しいベンチマークの運用が開始される 23。ただし、重要なベンチマークについては、廃止することによる影響が大きいことから、猶予期間を最大 5 年延長することを認めている(前文(26))。

【欧州議会で承認された規則の修正案の内容】 2019 年 3 月に EU 議会で承認された修正規則案は下記の通りである。(下線を引いてあ

るところが修正案で追加された事項。削除された内容のうち、重要なものは、取り消し線を付す形で残してある。)当修正規則案は、2016 年に発行されたベンチマークとして使用されるインデックスに関する規制の修正であり、以下の条項は全てこの規則の条項を意味する。

第 3 条第 1 項(定義が列挙されている条項)の中に、(23a)、(23b)として以下を加え

る。 (23a) 「EU climate transition ベンチマーク」とは、ベンチマークポートフォリオ

が脱炭素化を目指した道筋(a decarbonisation trajectory24)となるように原資産を選

21 三者交渉は”Trilogue”と呼ばれ、立法手続の中で、欧州委員会、欧州議会、欧州理事会の三者間で事

前の合意するために行われる。http://www.europarl.europa.eu/ordinary-legislative-procedure/en/interinstitutional-negotiations.html 22 欧州議会で承認された法案は下記のウェブサイトより入手できる。http://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-8-2019-0237_EN.pdf 23 2021 年末より適用されるため、2 年近くの猶予がある。EU 内の企業にとって、その他の地域のベンチマークも重要であることから、この 2 年の猶予期間に、EU 以外の規制当局に対して同様のベンチマークを導入するように働きかけていく。欧州委員会のニュースリリース http://europa.eu/rapid/press-release_IP-19-1418_en.htm 24 定義が修正規則案に載っており(第 23c 条)、「測定可能かつサイエンスベースで、期限の定められたもので、スコープ1、2、3および炭素排出量を削減することを目的とした道筋(trajectory)」とされてい

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択、重みづけ、除外し、委任法に基づく最低基準 25に従って構築されているベンチマークのことをいう。

EU climate transition ベンチマークのプロバイダーは、以下の(ⅰ)~(ⅳ)の要件に従って 2022 年 12 月 31 日までに原資産を選択、重みづけ、除外する。

(i) 測定可能な時系列の炭素排出削減目標を開示している企業 (ii) 子会社レベルごとの炭素排出削減量を開示している企業 (iii) 目標に対する進捗に関する年次の情報を開示する会社 (iv) 原資産の活動がその他の ESG 目的に重大な害を与えない。

(23b) 「EU Paris-aligned ベンチマーク」とは、ベンチマークポートフォリオの炭

素排出量がパリ協定の長期目標と整合しており、委任法に基づく最低基準 26に従って構築されているベンチマークのことをいう。原資産の活動がその他の ESG 目的に重大な害を与えない。

2021 年 1 月 1 日までに、欧州委員会が制定する最低基準に関する委任法において(下記 19a 条参照)、パリ協定の長期目標と整合する測定可能かつ時系列の炭素排出削減目標を策定できないセクターを除外する。

第 13 条(メソドロジーの透明性に関する規定)の中に、下記の要件を加える。

ベンチマーク作成者が開示する情報の中に、『ベンチマークまたはベンチマークグループ(family of benchmark27)に関して、メソドロジーの主要な要素が ESG 要素をどのように反映しているかについての説明』を加える。『ただし、通貨や利子率のベンチマークはその対象外とし、上記の説明を不要とする。』

さらに、欧州委員会が、上記説明事項に関する最低限の開示内容を委任法にて定めることを規定している。

第3a 章の第 19a 条として、EU climate transition ベンチマークと EU Paris-aligned ベンチマークに求められる主な事項を規定する。具体的な項目は Annex 3(下記参照)に列挙されている。

さらに、欧州委員会が、EU climate transition ベンチマークと EU Paris-aligned ベンチマークの最低基準を委任法にて定めることを規定している。その中には以下の情報

る。

25 指令で最低基準を定めることについては、第 19a 条で定めている。 26 指令で最低基準を定めることについては、第 19a 条で定めている。 27 ベンチマークに関する EU 規則(REGULATION (EU) 2016/1011)の中で、‘family of benchmarks’

は、同じ管理者により提供され、同じまたは似たような市場または経済実態を測定する同じ性質のインプットデータで決定されたベンチマークグループである、と定義されている。

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を含む。 a. 構成銘柄の選択基準(該当する場合には、資産の除外基準も含む) b. ベンチマークの構成銘柄の重みづけの基準および方法 c. EU climate transition ベンチマークの脱炭素化を目指した道筋の決定方法

第 27 条の中に下記の要件を加える。 ベンチマークステートメントには、『ESG 目標を追求する、または考慮に入れてい

るベンチマークまたはベンチマークグループに関して、どのように ESG 要素が反映されているかについての説明』を記載すること。『ESG 目標を持たないベンチマークまたはベンチマークグループは、ベンチマークステートメントの中で、そのような目的を持たないことをはっきりと記載すればよい。』

2021 年 12 月 31 日までにすべてのベンチマークまたはベンチマークグループ(ただし、通貨や利子率のベンチマークを除く)は、ベンチマークステートメントの中で、どのようにメソドロジーを炭素排出削減目標に沿ったものにしているか、パリ協定の長期目標を達成しているかの説明を行う(should)。

さらに、欧州委員会が、上記事項に関する更なる情報を委任法にて定めることを規定している。

Annex 3 では、EU climate transition ベンチマークと EU Paris-aligned ベンチマークのメソドロジーに関してベンチマーク作成者が開示しなければならない主要事項を列挙する他、メソドロジーを修正する際の手順を規定している。

(Annex 3 の内容) ① EU climate transition ベンチマークのメソドロジー

a. ベンチマークの主要な構成要素のリスト b. すべての基準および方法(原資産の選択やベンチマークのメソドロジーにお

けるメトリックスなど) c. 資産または会社を除外する際の基準 d. 脱炭素化への道筋の決定に関する基準 e. 脱炭素化への道筋の決定に使用したデータのタイプ及び情報源 f. インデックスポートフォリオの炭素排出の総量 EU climate transition ベンチマークに親インデックスが使用されている場合には、EU climate transition ベンチマークと親インデックスとのトラッキングエラーも開示する。 EU climate transition ベンチマークに親インデックスが使用されている場合には、

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EU climate transition ベンチマークの株式の市場価値と親インデックスにおける株式の市場価値の割合も開示する。

② EU Paris-aligned ベンチマークのメソドロジー EU climate transition ベンチマークで求められる事項の a.~c.に加えて、排出量

がパリ協定の長期目標と整合しているかどうかの決定に使用した公式または計算を記述する。

③ メソドロジーの変更

a. EU climate transition ベンチマークと EU Paris-aligned ベンチマークの作成者は、メソドロジーに重要な変更を行う場合には、その手続きと理由を公表する。

b. EU climate transition ベンチマークと EU Paris-aligned ベンチマークの作成者は、メソドロジーがその目標を適切に反映しているかを定期的(少なくとも年に 1 回)に確認する。

3-4. TEGからの公表資料 【概要】

2019 年6月に公表された TEG 中間報告は、2019 年 3 月に修正されたベンチマーク法案をベースに作成されている。つまり、①修正法案で新しくなった EU Climate Transition Benchmarks(以下、CTB)と EU Paris-aligned Benchmarks(以下、PAB)についての基準の詳細説明、及び、②全てのベンチマーク(一部除外あり)が開示すべきESG に関する情報および、EU CTB と EU PAB に求める追加の開示情報、について提案している。

TEG は、当中間報告に対するフィードバックを 2019 年8月2日まで受け付け、それを元に 2019 年 9 月までに最終報告を公表する予定である。最終報告に基づいて、欧州委員会は委任法を策定する予定である。

【CTB と PAB の最低基準の内容】

CTB と PAB の定義は上記規則案で示されているが、簡単に言うと、CTB は、低炭素経済へのトランジションに向かうためのツールであり、PAB はトランジションの第一線で進む意欲のある投資家のためのツールといえる。

気候関連リスクをヘッジするだけでなく、トランジションによって生まれる機会に資金を向けるものである。

下表は TEG 中間報告で提案する CTB と PAB の最低基準である。この基準は最終報告までに変更される可能性がある。

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以下、最低基準の各項目について説明する。

1.投資ユニバースと比較した排出原単位削減率 温室効果ガス排出量の対象は、スコープ1およびスコープ2だけでなく、スコープ3も含めるべきだが、現在、スコープ3のデータを収集するのは困難である。そこで、スコープ3の導入をセクターごとに段階的に実施することとした。各セクターの導入時期は下記の通りである。

温室効果ガス排出量のダブルカウントの問題に関して、TEG ではその管理方法については何も触れていない。それは、ベンチマークの最低基準として扱う際には、排出量の正確な数値を求めることが求められているわけではなく、統一された基準を全員が適用していることに意味があるからである。

2. DNSH 原則 企業によって、エンゲージメントにより対応していく方法もあり、柔軟性を確保するため、除外規定は設けない。ただし、DNSH には除外規定をしており、武器関連会社、グローバルコンパクトの原則に準拠していない会社は除外することを提案している。

3. 投資ユニバースと比較したグリーン対ブラウンの割合 エネルギーのトランジションに貢献するグリーンな活動と化石燃料に依拠するブラウンな活動の相対的な割合を示す。なお、グリーンとブラウンの活動の定義は、欧州委員会から詳細なガイダンスが公表されるまで、ベンチマークアドミニストレーターの裁量に任せられることとされている。

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4. エクスポージャー

各ベンチマークの排出量の最低要件を満たすためには、単純に排出量の多いセクターからダイベストメントして、排出量の少ないセクターに投資すればよいことになるが、それでは、資金をエネルギートランジションに必要な活動に向かわせるというCTB および PAB の本来の目的を達成することができない。

そこで、トランジションに重要となるセクターへのエクスポージャーは、相対的に大きくなるべきである。すなわち、CTB と PAB の「気候へのインパクトが大きいセクター(下表参照)」へのエクスポージャーは、投資ユニバースのエクスポージャーより同じかそれ以上でなければならない。

出所)TEG 中間報告50ページ

5. 対前年度比の脱炭素比率

実務上、インデックスプロバイダーは、ベンチマークの初年度の排出量原単位を計算し、その後毎年ベンチマークの排出量原単位の道筋を算定して、CTB または PAB の要件を満たすか確認することになる。

気候へのインパクトが大きいセクター

気候へのインパクトが小さいセクター

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出所)TEG 中間報告 19 ページに掲載の図を CSR デザイン環境投資顧問(株)加筆・和訳

6. 連続する2年間、基準を満たさなかった場合

連続2年間、基準を満たさなかった場合、以下の手順を経る必要がある。 基準を満たさなかった年度に、ベンチマークアドミニストレーターは、基準を

満たすことができなかった理由と来年度の修正基準を確実に達成するための実施事項を列挙する。

2年連続で修正基準を達成しなかった場合には、EU ラベルを使用する権利を失う。

10 年間で3回、基準を満たさなかった場合にも、EU ラベルを使用する権利を失う。

その他

要件は市場の状況等により定期的に見直す必要がある。 CTB と PAB に対する開示項目は規則案で列挙されており(上述の規則案参照)、

TEG 中間報告で追加の要件は定められていない。

【全ベンチマークに関する ESG 開示】 ベンチマークの ESG 開示の目的は、ベンチマークの ESG に関する透明性を高めてイ

ンデックスの比較可能性を高めることにある。そのため、対象となるベンチマークは、通貨や利子率のベンチマークを除く全てのベンチマークとする。ESG 関連のインデックスのみを対象とした開示とすると、ESG インデックスのみ開示負担が多くなり、不利になってしまうため、全インデックスに一律の規定を設けることとしたという背景もある。

脱炭素比率:-7%

N+4 年時の最大カーボンフットプリント

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ESG ベンチマークは現在のベンチマークの1%のみ。このように ESG 開示を強制とすることで、移行を促進させることを期待している。

法案では、下記の2項目の対応を求めている。

1. メソドロジーの主要な要素が ESG 要素をどのように反映しているかの説明 2. ベンチマークステートメントの中で、ベンチマークが ESG 要素をどのように反

映しているかの説明

TEG ではこの法案のテクニカルな内容を記載している。 1. メソドロジー

(1) メソドロジーの主要な要素が ESG 要素をどのように反映しているかの説明に含むべき最低限の内容

(2) メソドロジーに含まれる ESG 開示に関するテンプレート 2. ベンチマークステートメント

(3) ベンチマークが ESG 要素をどのように反映しているかの詳細説明 (4) メソドロジーが、どのように温室効果ガス排出削減の目標と整合しているか、

または、パリ協定の長期目標を達成するかの詳細説明 (5) 温室効果ガス排出削減の目標と整合しているか、またはパリ協定の長期目標

を達成するか、整合または達成する場合にはその程度についての詳細説明 (6) 上記(3)と(5)の開示に関するテンプレート

法案で定められているスコープのうち、TEG でカバーしているアセットクラスは上場

株式、社債、ソブリン債、ヘッジファンド、プライベート・エクイティ/ボンド、インフラ、コモディティ。(ただし、このうち、上場株式、社債、ソブリン債以外は、事例が非常に少ない。)その他は、ESG 開示が当てはまらない、または、関連するインデックスが存在しない等の理由で、今回の報告からは除かれている。

TEG が検討するアセットクラスについては、アセットごとに開示すべき項目を提案し

ている。下表は各アセットクラスで、どのような開示が必要かどうかを Yes/No で分けている。

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出所)TEG 中間報告 19 ページに掲載の図を CSR デザイン環境投資顧問(株)和訳

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3.アクションプラン5:サステナビリティベンチマークの開発

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前ページの表に続き、さらにアセットクラスごとにより具体的な開示項目が掲載されている。下表は、上場株式に関して提案されている開示項目である。

出所)TEG 中間報告 20 ページに掲載の図を CSR デザイン環境投資顧問(株)和訳

パリ協定との整合の程度に関する開示 ベンチマークが CTB または PAB の基準を満たす場合には、ベンチマークアドミニストレーターは以下の事項についても開示する 28。

1. ベンチマークポートフォリオが整合しているシナリオの特定 2. シナリオとの整合の測定に使用したメソドロジーの説明 3. 使用したシナリオに関する説明(名称やプロバイダー) 4. 使用したシナリオのリンク先

テンプレート また、こうした開示項目は、テンプレートを使用して開示することがベンチマーク法案にて定められており、この TEG レポートでは、3 種類のテンプレートも提案している。

1. メソドロジーにおける ESG 要素の説明 2. ベンチマークステートメントにおける ESG 要素の説明 3. パリ協定の目標と整合する程度の説明 このうち、下表が、ベンチマークステートメントにおける ESG 要素の説明のテンプ

レートである。ESG 目的を持たないベンチマークは、「ESG 情報を開示しない」という

28 この開示項目は全ベンチマークに求める開示項目の枠組みにあり、前述の CTB と PAB のみに要求する開示項目とは別のものである。

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3.アクションプラン5:サステナビリティベンチマークの開発

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項目にチェックを入れれば済む形になっている。(下表の赤枠参照) 出所)TEG 中間報告 65 ページに CSR デザイン環境投資顧問(株)和訳追加

今後対応が必要な課題としては、下記が挙げられる。

1. ベンチマークの開示と金融サービスセクターにおけるサステナビリティ関連開示規制の整合性 投資家サイドのサステナビリティ関連開示規制も法制化手続きが進められており、ベンチマークの開示規則と投資家の開示規則を整合させる必要がある。

2. EU タクソノミーとの整合性 EU タクソノミーを参照している箇所も多く、特に「セクターごとの開示」や「グリーン売上/割合」については、EU タクソノミー規則案の最終版を参照することでより正確な開示を行うことができる。

3. MiFIDⅡおよび IDD における投資アドバイスの際のサステナビリティの組み込み MiFIDⅡおよび IDD の改正に基づき、サステナビリティの観点も含む適合性テ

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3.アクションプラン5:サステナビリティベンチマークの開発

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ストを実施することにより得られた教訓をベンチマークの開示にも生かし、投資家に実際のパフォーマンスを明確に示せるようにする。

4. 受託者責任に関する ESMA から欧州委員会へのテクニカルアドバイス 2019 年 5 月に公表された ESMA の ESG 要素の組み込みに関するテクニカルアドバイスは、新規2種類の気候ベンチマークと大いに関連するため、当アドバイスの内容も考慮して規則案をレビューする必要がある。

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4.アクションプラン9:サステナビリティ情報開示の強化および会計基準の策定

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4.アクションプラン9:サステナビリティ情報開示の強化および会計基準の策定 4-1. HLEG 最終報告の提案内容

長期的な投資の意思決定には、長期のサステナビリティのリスクと機会に関する適切な開示が必要である。

EU は、TCFD を支持し、TCFD の提言を EU レベルで実行するべきである。 同時に、EU は、NFRD と TCFD の提言の内容をより近いものにすることを検討すべ

きである。 国際レベルでは、EU はリーダーシップを発揮し、主要国の規制当局と協力して、グロ

ーバルな報告基準を提唱していくべきである。

上記を受け、HLEG は欧州委員会に対して以下を提案する: TCFD の提言を EU レベルで支持、実行すること。 TCFD や そ の 他 の ESG 開 示 に 関 す る 自 主 的 な 試 験 的 取 り 組 み ( voluntary

experimentation)を短期的に効率的に実行し、補完すべき開示の必要性やメソドロジーの調和の必要性についても評価すること。

なお、試験的取り組みは、EU が TCFD と整合した包括的で有益な EU 気候開示レジームを 2020 年までに作り上げる能力に影響を与えるものではないこと。

EU は、非財務報告に関するリーダーシップを発揮し、各国と協力して、国際的な報告レジームを提唱すること。

4-2. アクションプランの内容 非財務情報(NFI)指令 29を含む企業開示(public corporate reporting)の EU 規則に

ついて、上場、非上場企業に求められる開示が目的に合ったものであるかを評価するフィットネスチェック(fitness check)を開始している。2018 年第 1 四半期にパブリックコンサルテーションを開始し、その結果は 2019 年第 2 四半期までに公表する。

2019 年第 2 四半期までに非財務情報に関するガイドラインを更新する。TEG により開発されたメトリックスに基づき開発された気候関連メトリックスに沿って更新されたガイドラインは、TCFD やアクションプラン 1 の下で開発されたタクソノミーと共に、気候関連情報の開示方法に関しての追加的な内容を各社に提供するものとする。 ⇒ガイドライン更新の参考情報となる「気候関連情報に関する最終報告」が、2019 年1 月に TEG より公表。

2018 年第 3 四半期までに欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)により欧州企業報告ラボを設立する。 ⇒欧州企業報告ラボは設置され、2018 年秋よりメンバー募集開始

29 原文では NFI Directive と記載されているが NFRD と同義と考えられる。

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4.アクションプラン9:サステナビリティ情報開示の強化および会計基準の策定

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(アクション 7 に関連して)アセットマネジャーや機関投資家に対して、どのように戦略や投資意思決定プロセスにおいてサステナビリティ要因を考慮しているかについて開示することを求める。

必要に応じて EFRAG にサステナブル投資に関する新規のまたは更新された IFRS の評価を依頼する。

フィットネスチェックの中で、国際会計基準規則(International Accounting Standards Regulation)に関連した事項についても評価する。

4-3. TEGからの公表資料 1.気候関連情報に関する最終報告

【概要】 2019 年 1 月 10 日に気候関連開示に関する最終報告書である”Report on Climate-related

Disclosure30”を公表した。TEG は、2019 年 2 月 1 日までウェブサイトにて当最終報告書に関するコメントを受け付ける。TEG は、受け取ったコメントを欧州委員会に報告するが、報告書の内容の更新は行わない。なお、当最終報告書は、NBGs は今後も任意適用のままであり、義務的開示を要求する NFRD は修正されないという予測の下で作成されている 31。

【最終報告の内容】 最終報告書の内容は以下の通りである。

提案するガイドラインでの重要な原則・その原則がどのように NFRD および TCFD でカバーされているか。 1.報告対象

NFRD の報告対象は投資家やその他のステークホルダーであり、ビジネスが社会に与える影響に関する情報を消費者が簡単に入手できるようにすることを意図したものでもある。一方で、TCFD の報告対象は投資家、債権者、保険業者である。今回提案するガイドラインは、金融資本提供者にとって必要な情報に焦点を当てているが、その他のステークホルダーが必要とする情報についても記載している。

30 当報告書は下記のウェブサイトより入手できる。https://ec.europa.eu/info/publications/190110-sustainable-finance-teg-report-climate-related-disclosures_en 31 この内容は、”Report on Climate-related Disclosure”の 7 ページの脚注22に記載されている。

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4.アクションプラン9:サステナビリティ情報開示の強化および会計基準の策定

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2.報告書の継続的改善 NFRD の対象となる企業は NFRD に準拠すると共に、どの開示がステークホ

ルダーに最も関連があるかを決定しなければならない。GHG プロトコルやGRI スタンダード、CDP、SASB などの詳細な基準やフレームワークを利用して、ステークホルダーにとって比較可能性を最大限高められるような開示が、各企業に求められる。

企業における過年度の気候関連情報との比較可能性・一貫性もステークホルダーが情報を分析する上で重要である。過年度の開示から変更を行う場合には追加の開示を行わなければならない。

どのフレームワークや開示フォーマットを使用するにしても、NFRD で求められる別の要素との接続性(connectivity)を確保しなければならない。首尾一貫した気候関連情報により、情報使用者が、非財務情報を読み解くことができる。

3.気候関連インパクトの報告

TCFD の提言では気候変動の物理的影響と低炭素や気候レジリエンス経済への移行が企業にどのような影響を与えるかに焦点を当てていたが、NFRD では、「企業活動のインパクトの理解に必要な情報」という新しい要素を導入した。すなわち、下図にも示される通り、TCFD では、気候変動が企業に与える潜在的インパクト(Potential impacts of climate change on the company)に焦点を当てているが、NFRDでは企業活動が気候変動に与える潜在的インパクト(Potential impacts of the company’s activities on climate change)というアプローチも含む。

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4.アクションプラン9:サステナビリティ情報開示の強化および会計基準の策定

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出所)TEG, Report on Climate-related Disclosures 10 ページ 4.財務および非財務情報開示

NFRD は「非財務」情報に焦点を当てているが、NFRD では、「非財務報告書(non-financial statement)は、必要な場合には、年次の財務報告書での報告事項を参照したり、追加説明したりするべきである 32。」と述べられており、この条項は企業が非財務報告書の中で財務情報を含むことを認めている。NFRD は、企業が非財務報告書の中で「プリンシパル・リスク(Principal risks)」を開示することを定めており、そこには気候変動の潜在的財務的影響を含む可能性がある。一方で、TCFD の提言における主要な目的は気候関連の財務的影響に関する情報を求めることである。

5.将来性情報(気候開示と EU の気候ポリシーターゲットの関連) TCFD の提言では、気候変動に関連した将来的な財務的影響に関する情報の開示

を求めている。NFRD では、この TCFD の提言の概念を織り込みつつ、国家または国際的な気候関連政策とリンクした KPI の開示を推奨している。

32 原文は、“the nonfinancial statement (…) shall also, where appropriate, include references to, and additional explanations of, amounts reported in the annual financial statements.”となっている。

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4.アクションプラン9:サステナビリティ情報開示の強化および会計基準の策定

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6.戦略的レジリエンス(Strategic resilience)とシナリオ分析 シナリオ分析は、気候変動の潜在的影響やこうした影響に対する企業のレジリエ

ンスを理解するために有用である。

7.気候関連の機会の認識 NFRD では機会について明示的に示していないものの、気候関連の機会はリスク

緩和の対策として考えられうる。TCFD では気候関連のリスクと機会の両方の開示を推奨している。

NFRD と TCFD の整合(Alignment)

NFRD で求められる開示は以下の 5 つの要素で構成されている。 a. ビジネスモデルの概要 b. デューデリジェンス・プロセスを含むポリシーに関する説明 c. 上記ポリシーの結果 d. 事業に関連する主要なリスクおよびそのマネジメント方法 e. 非財務の KPI

また、「comply or explain」の方法が採用されている。 TCFD と NFRD の要素の関係は下表参照。今回公表された報告書では、下表の濃い

灰色のマッピングに基づいて記載されているが、別のマッピングの方法を薄い灰色で示している。(例えば、TCFD 提言の戦略(c)の「組織の戦略のレジリエンス」について、シナリオが重要な情報を提供し、マネジメントの決定を示す場合には、NFRD の「結果」に該当するが(下表における②)、シナリオが環境や気候に関する戦略に関する情報である場合には、NFRD の「ビジネスモデル」に該当する(下表における①)。)なお、このマッピングの表は 2019 年 6 月公表の最終化されたガイドラインでは、更新されている。

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4.アクションプラン9:サステナビリティ情報開示の強化および会計基準の策定

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出所)TEG, Report on Climate-related Disclosures 10 ページ

開示提案

今回公表された報告書のうち、具体的な開示提案の内容を説明するセクションでは、NFRD で求められる 5 つの要素について、それぞれ、①提案された情報を報告する重要性に関する根拠と文脈、②TCFD の提言の関連部分への参照、③提案する開示内容が記載されている。

また、当報告書では、提案事項は三種類のタイプに分けることができ、タイプごとに企業への開示の要求レベルが異なる。 タイプ 1:”should disclose”=全企業に開示を求める事項 タイプ 2:”should consider disclosing”=気候関連のリスク及び機会に対して重要な

エクスポージャーがある企業に求める事項 タイプ 3:”may consider disclosing”=より良い情報を提供するための追加的開示

「タイプ 1」の開示では、各社の自己評価に関係なく開示しなければならない項目に加えて、NFRD の 5 要素に関する項目が含まれている。各項目の概要は下表の通りである。

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2. 気候関連情報開示ガイドライン

欧州委員会は、上記の最終報告書のフィードバック 33を加味したガイドラインのコンサルテーションペーパーを 2019 年 2 月に公表した 34。この文書に対して 2019 年 3 月 20 日までコメント募集が行われ、2019 年 6 月 19 日に最終化された気候関連開示に関するガイドラインが公表された 35。

このガイドラインは、EU の企業が NFRD に準拠すると同時に TCFD の提言の内容も開示することを目的としたものである。従って、TCFD の内容と近似しているが、一部、NFRDの枠組みの中にあることにより TCFD と異なる点もある。まず 1 つ目の相違点として、

33 ”TEG report on climate-related disclosures: summary of responses”

https://ec.europa.eu/info/publications/190110-sustainable-finance-teg-report-climate-related-

disclosures_en 34CONSULTATION DOCUMENT ON THE UPDATE OF THE NON-BINDING GUIDELINES ON

NON-FINANCIAL REPORTING https://ec.europa.eu/info/consultations/finance-2019-non-financial-reporting-guidelines_en 35 “Guidelines on reporting climate-related information” http://ec.europa.eu/finance/docs/policy/190618-climate-related-information-reporting-guidelines_en.pdf

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TCFD では、「気候変動が企業に与えるインパクト」のみを考慮しているが、本ガイドラインでは、「気候変動が企業に与えるインパクト」に加えて、「企業が気候変動に与えるインパクト」という視点も含む、という点がある。図で示すと、下表のようになる。

出所)ガイドライン 7 ページ掲載の図を CSR デザイン環境投資顧問(株)和訳

ガイドラインでは、各企業は、これら2つの視点のどちらかで気候関連の事項が重要で

ある判断した場合には、当ガイドラインで提案されている開示を行う検討をすべき(should)である、と述べられている。この点、2019 年 1 月公表の最終報告書では、「企業は企業活動の気候変動への影響と気候変動が企業に与える影響に関連する情報を開示しなければならない(are required to)」とされていたが、フィードバックの中で、フレキシビリティが欲しいという意見があったため、規定が緩くなったようである。なお、重要性の判定については、重要性がないと早まって結論付けないようにと忠告している。気候変動が広く影響を与えている状況の中では、非財務情報指令のスコープとなっている企業(従業員数が 500 人超の企業)の多くは気候が重要な課題があるはずであり、もし重要性がないと結論付けられた場合には、どのようにその結果に至ったかの説明を開示することが推奨される、とした。 また、相違点の 2 つ目として、TCFD では、「ガバナンス」「戦略」「リスクマネジメント」

「指標と目標」の 4 要素で構成されているが、NFRD では「ビジネスモデル」「ポリシーとデューデリジェンス・プロセス」「結果」「主要リスクとそのマネジメント」「KPI」の 5 要素で構成される、という点がある。TCFD とガイドラインの要素の関係性をマッピングした表が下表となる。

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出所)ガイドライン 36 ページに掲載の図を CSR デザイン環境投資顧問(株)和訳

ガイドラインは NBGs の補足(Supplement)という位置づけであり、従来の NBGs に追

加される形になる。ガイドラインでは、NFRD に準拠すべき約 6,000 社が開示すべき気候関連情報として、13 の開示推奨項目と 10 の KPI を載せている。さらに、これらの開示項目に加えて、13 の開示推奨項目を開示した後に、次の段階として開示を検討する追加項目も列挙されている。10 の KPI については、各社での利用をサポートするために、各項目に解説がついている。

次表では、この開示推奨項目と KPI を列挙すると共に、TCFD での推奨開示 4 要素との関連を示す。

なお、当ガイドラインは、GRI、CDP、SASB、Integrated Reporting 等も考慮に入れて作成されている。

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上記の開示推奨項目については、2019 年 1 月公表の最終報告書では、開示項目のタイプ

が 1 から3に分けられており、タイプ 1 は「開示すべき」項目、タイプ2が「開示を検討すべき」、タイプ 3 が「開示を検討してもよい」、であった。それが、コンサルテーションペーパーでは、タイプが 2 つのみとなり、タイプ 1 は「開示を検討すべき事項」、タイプ 2 が「開示を検討してもよい追加的開示事項」として、開示要求レベルがそれぞれ下げられていた。6 月公表のガイドラインでは、タイプ1に該当していたものを開示推奨項目として提案し(上記表の項目)、タイプ2に該当する項目は「Further guidance」として列挙し、上記の開示推奨項目が開示できた場合の次の段階に検討する項目とした 36。これまでの並列的な記載から、補足的な情報に下がったイメージである。

36 今回公表されたガイダンスの 12 ページにこの説明がされている。

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さらに、ガイドラインでは「気候関連リスク、依拠の度合いおよび機会について」も項目を設けて解説されている。当項目では、気候関連リスクは、気候変動による企業の財務パフォーマンスへのリスクと、企業活動による気候へのネガティブインパクトのリスクを両方含むということを、ここで改めて強調している。また、企業の気候への影響として検討すべき項目には、例としてサプライチェーンの上流・下流で発生する影響も含まれている。また、気候変動の企業の財務パフォーマンスへの影響については、移行リスクと物理的リスクの 2つに分けて例示されている。

なお、当項目で特筆すべきなのは、自然資本等への依拠についての記載がされている点である。この点について、最終報告書には記載がなかったが、フィードバックの中で、「KPIとして、GHG 排出量が強調されることが多いが、自然資本に依拠していることによるリスクを見過ごされがちである」「ガイダンスにはサーキュラーエコノミーや自然資本等に関する KPI についても触れるべきである。」といったコメントがあったことから、自然資本等への依拠に関する解説が加えられたものと考えられる。具体的な解説の概要は下記の通りである。

多くの企業は、自然資本に依拠しており、気候変動により、自然資本が脅威にさらされる場合、企業でも気候関連リスク、特に物理的リスクが高まることになる。したがって、気候関連リスクを特定・開示する際には自然資本への依拠の度合いを十分に考慮すべきである。農業関連会社のように、あらゆる自然資本に依拠している企業は、気候関連リスクを開示する際にその旨も説明することが望ましい。 また、人的資本(従業員のスキルやモチベーション等)や社会的資本(外部ステークホルダーからの信頼度)に依拠している会社も多い。企業は気候関連の開示をする際に、人的資本、社会的資本の開示も行うべきである。(例:『従業員は、低炭素の製品・サービスの開発に非常に重要である』『企業のビジネスモデルが GHG 排出量を多く生み出す事業と関連する場合には、新規採用や顧客を惹きつけるのが困難になるだろう』) そして、気候関連リスクは、気候変動の緩和・適応に貢献する製品・サービスを提供することで、機会にもなりうる。EU のタクソノミーの策定が、こうした機会を特定する際に利用できるだろうとしている。 こうしたリスク・依拠度合・機会を開示する際には、製品の原料を生産するサプライチェーンから製品の使用に至るまでのライフサイクル全体で検討すべきである。

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4-4. 欧州企業報告ラボを設立 アクションプランに基づき、EFRAG(European Financial Reporting Advisory Group)が

欧州企業報告ラボ(European Corporate Reporting Lab37)を立ち上げた。当ラボの目的は、グッドプラクティスを見つけて共有することによりヨーロッパにおける企業報告の改革を促すことである。この目的のために、報告企業、ユーザー、その他の関連ステークホルダーや機関との間のダイアログの機会を設けて、そのダイアログの内容や結果をレポートとして公表していく。

ラボは、運営委員会 38とプロジェクトごとのタスクフォース 39で構成される。 2018 年 11 月、ラボの運営委員会のメンバー15 人が指名された。運営委員会は、Lab の

アジェンダを作成し、各タスクフォースのメンバーを指名し、プロジェクトのモニタリング等を行う。最初の会合は 2018 年 11 月 27 日に実施された。

また、2018 年 12 月には、ラボの最初のプロジェクトである気候関連のレポーティングに関するタスクフォース(Task Force on Climate-related Reporting)のメンバーの募集が開始され、最初の会合は 2019 年 2 月に実施された。

補足 NFRDおよび非財務情報ガイドライン

上述の「気候関連情報開示ガイドライン」は、「非財務及び多様性情報の開示に関する改正指令」40(Nonfinancial Reporting Directive、以下「NFRD」という。)に紐づく非財務情報ガイドライン(Non-Binding Guidelines、以下「NBGs」という。)の補足という位置づけである。本項では、この NFRD と非財務情報ガイドラインについての解説を行う。

非財務及び多様性情報の開示に関する改正指令(NFRD) 2014 年 11 月に公表された NFRD では、従業員数が 500 人を超える大企業に対して、少

なくとも環境、社会、雇用、人権の尊重、汚職・贈収賄の防止等に関連する事項に関する以下の5項目を、経営報告書(Management Report)の中で開示することが定めている。 ビジネスモデルの概要 実行されているデューデリジェンス・プロセスを含むポリシーに関する説明 上記ポリシーの結果 事業に関連する主要なリスク及びそのマネジメント方法 非財務重要業績評価指標(Key Performance Indicator(KPI))

37 ラボのウェブサイト:https://www.efrag.org/Activities/1807101446085163/European-Corporate-Reporting-Lab-at-EFRAG 38当運営委員会(Steering Group)は、The European Lab SG と呼ばれる。 39 タスクフォース(project task forces for specific projects)は、European Lab PTFs と呼ばれる。 40 DIRECTIVE 2014/95/EU OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 22 October 2014 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=OJ%3AJOL_2014_330_R_0001

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NFRD は序文 23 項と 6 条からなる本文で構成される。本文第 1 条「既存会計指令の修

正」第1項によって、上記「ビジネスモデルの概要」から「非財務重要業績評価指標(Key Performance Indicator(KPI))」までの上記 5 項目の開示を求める第 19a 条が挿入され、非財務情報の開示フレームワークが定められた。ポリシーの記載がない場合は、明確で道理に適った理由を提示しなければならない(Comply or Explain 原則)ことも第 19a 条で定められている。非財務情報として開示すべきテーマ(環境、社会、雇用、人権の尊重、汚職・贈収賄の防止)のうち、最低限含めるべきトピックは序文第 7 項(再生可能エネルギーと再生不能エネルギー、GHG 排出、水利用、大気汚染、地域コミュニティとの対話、地域コミュニティの保全と開発を確実にするためのアクション、男女平等を確実にするためのアクション、ILO の基本条約の遵守、労働条件、労働者組合の権利の尊重、労働環境の安全と衛生、人権侵害の防止、汚職・贈収賄を防止する施策)、第 17 項(土地利用、水利用、GHG排出、物質の利用)、第 18 項(取締役会メンバーの能力や見識などの多様性)、ならびに第19 項(取締役会メンバーの年齢、性別、経歴の多様性)の中で言及されている。

NFRD を受け、各加盟国は 2017 年1月1日以降に開始する会計期間より適用開始となるよう法制化を行うことが求められた。

非財務情報ガイドライン(NBGs) 2017 年6月には、企業が NFRD に基づく開示をする際に、有益で比較可能な情報を開

示できるように、NBGs が公表された 41。NBGs は、強制適用ではなく、各企業が任意で参考とするものである。

ガイドラインの構成は、前半に開示の原則となる 5 項目、後半には具体的な開示内容及び開示フレームワークや取締役の多様性の開示について解説している。(項目の一覧は下表参照)

原則 1 重要な情報の開示(Disclose material information) 2 公正、バランスの取れた、理解しやすい (Fair, balanced and understandable) 3 包括的かつ簡潔(Comprehensive but concise) 4 戦略的かつ将来思考(Strategic and forward-looking) 5 ステークホルダー志向(Stakeholder orientated) 6 首尾一貫した(Consistent and coherent) 内容 1 ビジネスモデル 2 ポリシー及びデューデリジェンス

41 https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52017XC0705(01)

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3 結果 4 リスクとそのマネジメント 5 KPI 6 テーマごとの側面(Thematic aspects) 報告フレームワーク 取締役会の多様性に関する開示 なお、当ガイドラインは、GRI、CDP、SASB、IIRC、英国戦略報告書ガイダンス等に基

づき作成されている 42。

42 NBGs の”1.Introduction”に参考にしたフレームワークの一覧が記されている。

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(参考)EU の法体系

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(参考)EU の法体系

【EU 法の種類 43】 EU Treaties は、最高位の法規としてプライマリー法に分類される。Regulations, Directives, Decisions, Recommendations, Opinions は全てセカンダリー法に分類される。 立法行為は、EU 条約(通常または特別)に定められた立法手続きである以下の項目のいずれかに従って採択されている。非立法行為は、これらの手続に従わず、特定の規則に従って EU 機関によって採択されることができる。EU は、加盟国が EU 条約において EU に立法権限を与えている内容についてのみ、法律を可決することができる。

EU Treaties(条約) 「EU Treaties(条約)」は、欧州連合(EU)の目標、EU 機関の規則、意思決定の方法、EU と EU 加盟国の関係を規定している。条約は全ての EU 加盟国によって交渉され、合意された後、国会で批准され、時には国民投票を反映する。 Regulations(規則) 「Regulations(規則)」とは、法律が施行され次第、全ての EU 加盟国に自動的かつ一様に適用される法律であり、国内法に移行する必要はない。すべての EU 諸国において拘束力がある。

Directives(指令) 「Directives(指令)」は、EU 諸国に一定の成果を期待するものの、規制対応方法を自由に選択することができる。EU 加盟国は、指令に定められた目標を達成するために、それらを国内法に組み込む(移行する)ための規則を採択しなければならない。また、国家当局は、これらの規則を欧州委員会に伝えなければならない。 国内法への移行は、指令が採択された時(一般的に 2 年以内)に定められた期限までに行わなければならない。指令を移行しない場合、欧州委員会は介入手続を開始することができる。 Decisions(決定) 「Decisions(決定)」は、1 つ以上の EU 加盟国、企業または個人に適用される拘束力のある法律。関係当事者は通知を受けなければならず、決定はその通知に基づいて発効する。国内法に移行する必要はない。

43 ”Types of EU legal acts”

https://ec.europa.eu/info/law/law-making-process/types-eu-law_en#legislative-vs-non-legislative

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(参考)EU の法体系

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Recommendation(提言) 「Recommendation(提言)」は、EU 機関が自らの見解を知らせ、法的義務を課すことなく行為を提案することを可能にする。拘束力はない。 Opinion(意見) 「Opinion(意見)」は、意見の主題に関する法的義務を課すことなく、EU 機関が声明を出すことが可能である。拘束力はない。 Delegated Acts(委任法令) 「Delegated Acts(委任法令)」とは、欧州連合(EU)の立法行為の非本質的部分を補完または修正する法律のため、法的拘束力がある。欧州委員会は委任法令を採択し、欧州議会と欧州評議会が異議を唱えなければ、効力を発する。 Implementing Acts(実施法令) 「Implementing Acts(実施法令)」は、EU 加盟国の代表からなる委員会の監督の下で、欧州委員会が、EU 法を一様に適用させるための環境を整備するための法律のため、法的拘束力がある。

【欧州指令(EU Directive)と欧州規則(EU Regulation)】 「欧州指令(EU Directive)」は、達成すべき成果についての拘束力を加盟国に対して有

するが、各指令をどのように既存の自国法に取り込んで対応するかは、各国にある程度の裁量が認められている。指令の実施にあたっては加盟国の内国法として施行される必要があり、加盟国は各指令で指定された移行期間が終了するまでに国内法の施行を完了させなければならない。例えば、英国の金融サービスに関しては、欧州指令を英国の国内法に反映させ法制化するため、内国法化の手続は金融行為監督機構(Financial Conduct Authority)と健全性規制機構(Prudential Regulation Authority)がこれに対応した。

一方、「欧州規則(EU Regulation)」は欧州指令と異なり各国に直接的に適用されるため、欧州規則は内国法化を要さず、すべての加盟国に対しそのまま効力を発するものである。加盟国は自国で追加の規則を課すことにより、実質的に自国内で欧州規則と異なる取扱いにすることは許されない。(ただし、欧州規則を実現するための補完として内国法の整備が必要となる場合はあり得る。)

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(参考)EU の法体系

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【EU の立法手続きの流れ 44】 欧州委員会(EU Commission)は、EU での立法手続きにおいて、法案を提案する権限を唯一有する機関である。欧州委員会から提案された法案は、欧州議会(EU Parliament)と EU理事会(EU Council)が審議し、必要に応じて修正されて合意される。順序としては、まず欧州議会で審議され、そこで可決された法案が EU 理事会で審議される(第一読会)。ここで、EU 理事会で可決されれば、法案成立となるが、もし、EU 理事会で可決されなかった場合には、EU 理事会の意見に基づき、もう一度、欧州議会で審議され、その後に EU 理事会で審議されることになる(第二読会)。第二読会を経ても可決されない場合には、欧州議会とEU 理事会から同数の人数を出す調停委員会(Conciliation committee)で協議する。ここで、法案が承認されない場合は廃案となり、承認された場合には欧州議会および EU 理事会にて審議が再び行われ(第三読会)、可決されれば法案成立、可決されなければ廃案となる。

44 EU の立法手続きには通常立法手続き(ordinary legislative procedure)と特別立法手続き(special legislative procedures)があるが、ここでは、通常立法手続きについて記載する。立法手続きの解説は、欧州委員会の以下のウェブサイトに掲載されている。https://www.consilium.europa.eu/en/council-eu/decision-making/ordinary-legislative-procedure/