心臓血管麻酔における 近赤外線脳酸素モニターの使用指針œ¬文1... ·...

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i 心臓血管麻酔における 近赤外線脳酸素モニターの使用指針 ― 日本心臓血管麻酔学会 学術委員会脳脊髄部門報告 ― <使用指針作成委員会> 脳脊髄部門:川口昌彦,吉谷健司,石田和慶,前川謙悟,宮脇 宏, 田中 聡,内野博之,垣花 学(部門長) 学術委員会:委員長:小出康弘 保険委員会:委員長:横田美幸 事 務 局 長:山田達也 長:野村 実 (略号一覧) 近赤外線分光法を用いた脳酸素モニター:近赤外線脳酸素モニター 近赤外線分光法:NIRSnear infrared spectroscopy頸動脈内膜剥離術:CEAcarotid endarterectomy過灌流症候群:CHScerebral hyperperfusion syndrome経頭蓋超音波ドプラー法:TCDtranscranial Doppler体性感覚誘発電位:SEPsomatosensory evoked potentials超低体温循環停止:DHCAdeep hypothermic circulatory arrest順行性脳灌流:ACPantegrade cerebralperfusion逆行性脳灌流:RCPretrograde cerebral perfusionModified Beer Lambert 法:MBL RLFP(reginal low flow cerebral perfusion) 脳局所酸素飽和度:rSO 2 regional oxygen saturation脳組織酸素飽和度:TOItissue oxygen indexSPECTsingle photon emission computed tomography術後高次脳機能障害:POCDpostoperative cognitive dysfunction

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心臓血管麻酔における 近赤外線脳酸素モニターの使用指針

― 日本心臓血管麻酔学会 学術委員会脳脊髄部門報告 ―

<使用指針作成委員会>脳脊髄部門: 川口昌彦,吉谷健司,石田和慶,前川謙悟,宮脇 宏,

田中 聡,内野博之,垣花 学(部門長)学術委員会: 委員長:小出康弘保険委員会: 委員長:横田美幸事 務 局 長:山田達也理 事 長:野村 実

(略号一覧)近赤外線分光法を用いた脳酸素モニター:近赤外線脳酸素モニター近赤外線分光法:NIRS(near infrared spectroscopy)頸動脈内膜剥離術:CEA(carotid endarterectomy)過灌流症候群:CHS(cerebral hyperperfusion syndrome)経頭蓋超音波ドプラー法:TCD(transcranial Doppler)体性感覚誘発電位:SEP(somatosensory evoked potentials)超低体温循環停止:DHCA(deep hypothermic circulatory arrest)順行性脳灌流:ACP(antegrade cerebralperfusion)逆行性脳灌流:RCP(retrograde cerebral perfusion)Modified Beer Lambert法:MBL

RLFP(reginal low flow cerebral perfusion)

脳局所酸素飽和度:rSO2(regional oxygen saturation)脳組織酸素飽和度:TOI(tissue oxygen index)SPECT(single photon emission computed tomography)術後高次脳機能障害:POCD(postoperative cognitive dysfunction)

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目   次

はじめに � iii

1. 成人の心臓血管手術における周術期脳障害 � 1

 1)周術期脳障害の発生率 � 1

 2)周術期脳障害発生の社会的影響 � 2

 3)周術期脳障害の発生機序と予防策 � 2

2. 小児心臓血管手術における脳障害 � 9

 1)遺伝子異常にともなう先天性心血管疾患と脳障害 � 9

 2)先天性心血管疾患と合併する脳障害 � 9

 3)小児心臓血管手術に伴う脳障害とその危険因子 � 10

3. 近赤外線脳酸素モニターの基本 � 11

 1)測定原理 � 11

 2)適切な測定法 � 13

 3)使用上の注意点 � 14

4. 心臓血管手術における近赤外線脳酸素モニターの適応 � 16

 1)頸動脈内膜剥離術と近赤外線脳酸素モニター � 17

 2)心臓・大血管手術と近赤外線脳酸素モニター � 17

5. 成人心臓血管手術での使用報告と対応法 � 18

 1)頸動脈内膜剥離術 � 18

 2)大血管手術 � 20

 3)心臓手術 � 22

6.小児心臓血管手術での近赤外線脳酸素モニター � 27

 1)小児症例での留意点と信頼性 � 27

 2)小児症例での使用報告とアラームポイント � 27

7. 本邦の心臓血管手術における近赤外線脳酸素モニターの使用状況 � 28

最 後 に � 29

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はじめに

 脳梗塞や認知障害などの周術期脳障害の発生は,入院期間,死亡率,機能的予後などに影響を及ぼすとともに,家族への負担や総医療費の増加などにも多大な影響を及ぼす.特に高齢者の心臓血管手術は増加しており,周術期脳障害に対する予防対策は急務である.周術期脳障害の発生要因として多因子的な関与が考えられており,その予防にあたっては呼吸・循環管理,体温管理,脳循環代謝モニター(大脳皮質代謝等測定),神経生理モニター,薬剤管理など総合的なアプローチが必要である.中でも,近赤外線分光法(near-infrared

spectroscopy: NIRS)を用いた脳酸素モニター(以下,近赤外線脳酸素モニター)は連続的かつ非侵襲的に脳内の酸素需給バランスが予測可能なため,心臓血管手術において頻用されている.脳低灌流を早期に発見し対応することで予防可能な脳障害(preventable cerebral injury)を軽減することが可能と考えられる.心臓血管手術の周術期神経障害の発生予防にあたっては,近赤外線脳酸素モニターに関する十分な知識と適正な使用が求められる.日本心臓血管麻酔学会の学術委員会脳脊髄部門で,主に最近の文献を中心に心臓血管手術における周術期脳障害の発生の機序と発生の頻度を調べるとともに近赤外線脳酸素モニターの適正な使用法について検討した.これまでに得られたエビデスを集約することで,心臓血管手術における周術期脳障害の軽減に寄与できるのではと考え,使用指針を作成した.

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1. 成人の心臓血管麻酔における周術期脳障害

1) 周術期脳障害の発生率<Summary statement>・ 周術期脳障害は,主なものとして脳梗塞,脳症,術後高次脳機能障害に大別されるが,軽度の局所神経症状や低酸素脳症による昏睡を呈する重篤なものまで,その病態は多種多様である.・ 周術期脳障害のうち脳梗塞の発生率は,非心臓手術において 0.1%であるのに対し,頸動脈手術では

0.25-3.0%,冠動脈バイパス術 0.8-3.2%,大血管手術 4.7-11.2%と,これらの手術での発生率は極めて高い.・ 心臓血管手術における術後せん妄の発生率は 25-45%で非心臓手術と比べ高く,術後高次脳機能障害の発生率は,退院時に 30-80%で 6か月から 1年後では 20-40%に認められる.

<解 説> 周術期脳障害は,軽度の局所神経症状や記憶障害,低酸素脳症による昏睡や失外套症候群を呈する重篤なものまで,その病態は多種多様である.臨床的に周術期脳障害は脳梗塞,せん妄を含む脳症,術後高次脳機能障害(postoperative cognitive dysfunction:POCD)に大別される. 周術期脳障害のうち術後脳梗塞の発生率は非心臓手術において 0.1%であるのに対し,頸動脈手術では0.25-3.0%,冠動脈バイパス術(coronary bypass grafting:CABG)0.8-3.2%,人工心肺を用いる大血管手術では 4.7-11.2%,胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術においてステントグラフトのランディングゾーンが弓部分枝に近い場合には 3.9-6.3%,近年,本邦で臨床導入された経カテーテル大動脈弁置換術では 2.0-4.0%と報告されており,これらの手術での術後脳梗塞の発生率は高い(表 1). CABGにおいて脳障害はタイプⅠ(脳卒中または低酸素脳症),タイプⅡ(新たな知的機能低下,錯乱,興奮,見当識障害,記憶低下,局所神経症状を伴わない痙攣)に分類されることがあるが,タイプⅠおよびタイプⅡの発生率はそれぞれ 3.1%,3.0%,死亡率は 21%,10%と高いことが報告されている16).また,高齢になるほどタイプⅠおよびタイプⅡの脳障害が増加する. 術後せん妄の発生は,死亡率の増加17,18)や,術後の POCDに関連するとされている19).術後せん妄の発生率においても心臓血管手術で 25-45%20,21)と高いと報告されている(表 2).

表 1 手術の種類と周術期脳梗塞の発生率手術 発生率(%)

非心臓手術/非神経外科手術1) 0.1

頸動脈手術2-4) 0.25-3.0

人工心肺を用いない冠動脈バイパス術5), 0.8

冠動脈バイパス術6,7) 1.6-3.2

冠動脈バイパス術+大動脈弁置換術8) 2.7

冠動脈バイパス術+僧房弁置換術8) 3.7

冠動脈バイパス術+僧房弁形成術8) 3.1

大動脈弁置換術9) 3.2

僧房弁置換術9) 5.7

僧房弁形成術9) 1.6

大血管手術10,11) 4.7-11.2

胸部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術12-14) 3.9-6.3

経カテーテル大動脈弁置換術15) 2.0-4.0

表 2 手術の種類と術後せん妄の発生率手術 発生率(%)

白内障手術22) 4.4

腹部手術23,24) 17-25

整形外科手術25) 17

頭頸部手術26) 17

冠動脈バイパス術20,21) 25-45

腹部大動脈瘤手術27-30) 33-54

末梢血管手術28,29) 30-48

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 また,POCDは神経心理学検査を用いて診断され,言語や記憶,注意,集中,遂行機能など大脳皮質機能の全般的な障害と定義されている.POCDは非心臓手術においても発生し,その発生率は 6.8-41.4%であるが 31,32),心臓血管手術では退院時で 30-80%,6か月から 1年後では 20-40%に認められると報告されている33,34).ただし,POCDは国際的に統一された診断基準がないため,用いる検査法や評価基準により発症頻度が異なるなどの問題点に留意する必要がある35,36).

2) 周術期脳障害発生の社会的影響<Summary statement>・ 心臓血管手術後に脳梗塞を発症すると周術期死亡率は 6-8倍に増加し,10年間の長期経過においても死亡のリスクが 3倍に高まる.・ 術後せん妄の発生は,心臓血管手術後の死亡率の増加に関与する.・ POCDを認めた患者では,退院した後も健康状態は悪く,就労が困難である割合が高い.・ 周術期脳障害を発症すると日常生活の質を低下させ,社会的,経済的損失をもたらすため,これらは周術期脳障害に対する適正な評価および医療の介入が重要であることを示唆している.

<解 説> 心臓血管手術後に脳梗塞を発症すると周術期死亡率は 6-8倍に増加し37,38),また長期予後にも影響を及ぼす.CABGを行った 35,733例を対象に,周術期に脳梗塞が生じた 575例(1.6%)と脳梗塞が生じなかった症例で生存率を比較すると,1年後ではそれぞれ 83% vs. 94.1%,5年後で 58.7% vs. 83.3%,10年後では26.9% vs. 61.9%である.周術期に脳梗塞が生じると 10年間の長期経過においても脳梗塞が生じなかった症例と比べ,死亡のリスクが 3倍に高まる39).また,周術期に脳梗塞が生じた症例の半数以上の患者では,リハビリが必要となり日常生活に制限が生じる40). 術後脳梗塞と同様に術後せん妄も心臓血管手術後の死亡率の増加に関与する.CABGを行った 5,034例を対象に 10年の追跡調査を行った結果,周術期にせん妄を生じた症例(304例,6%)では,死亡に関するハザード比が 1.69(95%信頼区間 1.38-1.97)と高いことが報告されている18).また,術後せん妄は POCDに関連し,術後 6ヵ月に術前のMini-Mental State Examinationのレベルまで回復しなかった患者の割合が,せん妄を発症した患者に有意に多い19).POCDを生じると,退院後の日常生活に支障をきたし生活の質を低下させる.人工心肺を用いた心臓手術を受けた 261例で,術後 5年間の認知機能の推移を追跡した結果,POCDを認めた患者では,健康状態は悪く,就労が困難である割合が高いことが示されている41).一旦,術後脳障害を発症すると高い死亡率に関連し,退院後は生活の質が低下し,社会的,経済的損失も大きく,これらは周術期における脳障害に対する適正な評価および医療の介入が重要であることを示唆している.

3) 周術期脳障害の発生機序と予防策 脳の重量は体重の 2%であるが,脳血流量(Cerebral Blood Flow:CBF)は,心拍出量の 15%に相当し,酸素消費量は全酸素消費量の 20%,グルコース消費量は全身の 25%とその重量と比較して非常に高い割合を占める.安静時の CBFは 50 ml/100 g/minで,脳 100 g当たり 3-4 mlの酸素と 6 mgのグルコースを供給する.脳にはエネルギー基質の蓄積はないため虚血に弱い臓器であり,絶え間ない CBFが必要である.

(1) 頸動脈手術<Summary statement>・ 頸動脈内膜剥離術は頸動脈狭窄に対する外科治療として確立した治療法であるが,術中に頸動脈の一時的な遮断を要することから,脳虚血を合併する可能性がある.・ 頸動脈遮断時の脳虚血は複数のモニターで評価する.・ 術中脳虚血の予防策として,頸動脈遮断中の脳血流の維持にシャント留置が用いられる.・ 頸動脈内膜剥離術後の重篤な脳障害に過灌流症候群があり,その発生率は 1.9%で,脳出血を来すと死亡率は 26%,救命できても 80%に何らかの後遺症を認める.

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<解 説> 頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)は頸動脈狭窄に対する外科治療として確立した治療法であり,狭窄率で高度(>70%)・中等度(>50%)の症候性頸動脈狭窄に対して,内科治療に CEAを加えた方が脳梗塞予防効果が優れていることが明らかとなっている42-49).本邦におけるガイドライン(脳卒中治療ガイドライン 2015)においても抗血小板療法と脂質異常症改善薬を含む内科治療に加え CEAを行うことを推奨している50).しかし,本手術では頸動脈の一時的な遮断を要することから,術中に脳虚血を合併する可能性が存在する.

a. CEA術中の脳虚血 CEA術中の脳虚血の原因として,頸動脈遮断に伴う脳低灌流,機械的操作によるプラーク剥離や頸動脈血流再開などで起こる塞栓症が挙げられる.術中脳虚血の予防策として,頸動脈遮断中の脳血流の維持にシャント留置を用いることがある.シャント留置は高齢,女性,高血圧,対側の頸動脈閉塞,対側の頸動脈にCEAを施行した既往があるとその必要性が増加すると報告されているが 51),シャント留置操作によっても塞栓症や頸動脈解離による脳虚血の危険があるため,その使用については種々の議論が存在する.CEA術中にルーチンにシャント留置を行う施設での脳梗塞の発生率は 1.4%,シャント留置を全く行わない施設では 2.0%,選択的にシャント留置を行う施設で脳波を参考にした場合 1.6%,経頭蓋超音波ドプラー法(tran-

scranial Doppler:TCD)で 4.8%,内頸動脈断端圧(stump pressure)で 1.6%,体性感覚誘発電位(somato-

sensory evoked potentials:SEP)で 1.8%と報告されている52).そのためシャント留置は,患者因子や施設の方針,脳波や stump pressure,SEP,TCD,運動誘発電位(MEP),近赤外線脳酸素モニターなど複数のモニタリング結果を勘案し行われる.

b. 過灌流症候群 CEA後における重篤な周術期脳障害に頭痛,痙攣,局所神経症状などを呈する過灌流症候群(cerebral

hyperperfusion syndrome:CHS)が挙げられる.CHSは慢性脳虚血による脳血管の自動調節能の障害に,脳虚血や再灌流による急性調節障害が加わることで術後過灌流が引き起こされ起こると考えられている.CEA

では CHSの発症のピークは術後 6日目で,発生率は 1.9%,脳内出血は 0.4%に発症し,脳出血を来すと死亡率は 26%,救命できても 80%に何らかの後遺症を認めたと報告されている53).

(2) 大血管手術<Summary statement>・ 大血管手術なかでも大動脈弓部手術では,弓部分枝血管再建中に脳低灌流をきたす危険性が高い.・ 術中脳虚血の予防策として,低体温循環停止,順行性脳灌流,逆行性脳灌流の脳保護法が用いられる.・ 弓部分枝へ選択的に送血カニューレを挿入し脳灌流を行う順行性脳灌流では,送血カニューレ挿入操作による塞栓症や,送血カニューレの位置異常による脳虚血の危険がある.・ 急性大動脈解離では偽腔の拡大による弓部分枝血管の狭窄や閉塞など,その病態自体に脳虚血をきたす原因がある.

<解 説> 大血管手術なかでも大動脈弓部手術では,手術部位の特徴として腕頭動脈,左総頸動脈,左鎖骨下動脈を切り離し,その再建が必要となる.この 3本の動脈はいずれも脳へ血流を供給する血管(鎖骨下動脈は椎骨動脈を分岐し脳へ至る)であり,その再建中に脳虚血をいかに防ぐかがきわめて重要である. 脳虚血の主な原因として,弓部分枝血管再建中に十分な酸素供給を得られずに発生する広範な低酸素脳症(脳低灌流)や動脈硬化の著しい血管壁の粥腫の剥離によって生じる塞栓症が挙げられる.弓部分技再建中の脳虚血の予防策として,超低体温循環停止(deep hypothermic circutatory arrest:DHCA)や順行性脳灌流(antegrade cerebral perfusion:ACP),逆行性脳灌流(retrograde cerebral perfusion:RCP)が,患者背景や施設の方針により選択され,脳保護法として用いられている.HCAは低体温により一定時間の脳細胞の虚

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血耐性を得る脳保護の目的で行われるが,咽頭温 14-20℃の deep hypothermiaにおいても虚血許容時間は20-30分程度と考えられており54,55),手術操作が長時間に及ぶ場合には,HCA単独では脳保護は困難である.そのため,弓部分枝へ選択的に送血カニューレを挿入し脳灌流を行う ACPが行われるが,送血カニューレ挿入操作による血管壁の粥腫の剥離による塞栓症や,送血カニューレの位置異常(malposition)による脳虚血の危険がある56)(図 1).また通常の脳循環に対して逆行する静脈側から灌流を行う RCPは,脳梗塞の発生率において循環停止時間が 40分超えた症例で比較すると RCPを用いた症例で 1.7%,HCA単独の症例で 30%と,RCPにより虚血許容時間が延長することが示されている57).一方で,脳循環に対する非生理的な灌流は,脳浮腫きたす恐れが指摘されるため58),上大静脈からの灌流量は 400 ml/minを越えず,灌流圧を 15-

25 mmHgで維持する場合が多い59). 本邦における ACPと RCPを比較では,大動脈解離や破裂胸部大動脈瘤を除いた弓部全置換術で,術後脳梗塞の発生率は ACP 7.0%,RCP 8.5%で差を認めていない60).また,Stanford A型急性大動脈解離手術を対象にした場合,術後脳梗塞の発生率は ACP 11.2%,RCP 9.7%,その他の中枢神経障害(一過性の脳障害や昏睡,対麻痺)を含めると ACP 18.6%,RCP 18.2%であり,いずれの脳保護法でも差がなかった11).しかし,どの報告もどちらの方法でも脳障害の発生率自体は高率であった. 病態として脳虚血を来しやすいものとして,急性大動脈解離や破裂胸部大動脈瘤がある.2013年の本邦における Stanford A型急性大動脈解離手術における在院死亡率は 9.1%,破裂胸部大動脈瘤では 22.2%と高率であり61),その原因に偽腔の拡大による弓部分枝血管の狭窄や閉塞,心タンポナーデや心筋虚血,大量出血による循環不全に伴う脳虚血が挙げられる62)(図 2).特に大動脈解離では,脳低灌流により術前から脳神経症状を呈する場合があり,そのような患者の 45%では,術後に完全な神経学的回復は得られないとの報告がある63).

図 1  胸部大動脈瘤弓部全置換術の連続患者 35例において,送血カニューレの位置異常を 4例(11.4%)認めたと報告されている.送血カニューレの位置異常により右総頚動脈への血流を阻害する可能性がある. (文献 56より引用)

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(3) 心臓手術<Summary statement>・ 人工心肺下心臓手術において,送血管の挿入操作や大動脈遮断や解除など機械的操作により動脈解離や塞栓症が生じた場合には,脳虚血の原因となる.・ 塞栓症に,低血圧や心拍出量の低下で脳低灌流が伴うと,脳障害が重篤化する恐れがある.

<解 説> 心臓手術で人工心肺を用いる場合は,送血菅の挿入や大動脈遮断や解除など機械的操作が必要で,これが術中脳虚血の原因に関与する.送血管の挿入操作により,動脈解離を生じることがある.その頻度は,0.23%であり,まれな合併症であるが,一旦生じると在院死亡率は 43%と上昇する64).また,人工心肺や大動脈遮断や解除などの機械的操作に伴って,空気や粥状硬化片,脂肪,血小板凝集などの栓子の一部が脳循環に入る塞栓症が生じ65,66),さらに術中の低血圧や心拍出量の低下で生じる脳低灌流により,虚血に弱いとされる watershed area(分水嶺領域)の微小塞栓を washoutができないことが脳虚血の発生機序において重要と考えられている67,68).通常,人工心肺中の灌流圧は,脳血流の自動調節能が 50 mmHg以上で一定であることに基づき平均動脈圧 50-70 mmHgで維持されるが,CABG患者 248例において人工心肺中の灌流圧を 50-

図 2  Stanford A型急性大動脈解離における脳灌流異常(cerebral malperfusion)の発生機序.腕頭動脈へ偽腔が拡大・進展し内腔を閉塞することで,右総頸動脈,右鎖骨下動脈(右椎骨動脈)への血流が途絶する.また心タンポナーデや心筋虚血による心拍出量の低下がさらに右大脳半球の脳虚血を助長する. (文献 62より引用) PCA = posterior cerebral artery, MCA = middle cerebral artery, CCA = common carotid artery, SCA = subclavian artery, VA = vertebral artery

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60 mmHgで維持した 124例と 80-100 mmHgと高く維持した 124例を比較した報告では,6ヵ月後の死亡率はそれぞれ 4.0% vs. 1.6%,脳梗塞では 7.2% vs.2.4%と人工心肺中の灌流圧を高く維持した症例で良好であった69).一方で,人工心肺中の高い灌流圧は,栓子の数を増加させ70),脳浮腫や脳出血の危険性も指摘される71).また,高齢患者や高血圧,糖尿病など合併するハイリスク患者における自動調節能の下限については患者個々のばらつきも大きいことも報告されており72),人工心肺中の至適灌流圧については未だ明確ではない.

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2. 小児心臓手術における脳障害

1) 遺伝子異常にともなう先天性心血管疾患と脳障害<Summary statement>・ 小児の心臓手術症例では遺伝子異常から脳の発育障害を伴っていることが多い.・ 脳梁発育不全,Dandy-Walker症候群,中脳水道狭窄,22q11.2欠失症候群,21トリソミーや 18トリソミーがこれらに含まれる.・ これらの症例は心臓の手術施行の有無にかかわらず発達遅滞を併発するが,心臓手術を行うことによって精神発達遅滞が増悪するかどうかは明確でない.

<解 説> 小児の心臓手術での特徴は,成人と異なり遺伝子の異常からあらかじめ脳の発育不全を伴っている症例が多いことである.脳梁発育不全,Dandy-Walker症候群(第 4脳室と連続した後頭蓋窩正中の嚢胞と小脳虫部の完全あるいは部分欠損を認める先天的病変),中脳水道狭窄1)や 22q11.2欠失症候群(第 22番染色体長腕 q11.2領域の微細欠失,DiGeorge 症候群も含まれる)は小児心臓疾患の 5-10%に合併していると考えられている2).とくに 22q11.2欠失症候群は様々な脳の異常(脳皮質形成不全,白質のう胞性病変,前弁蓋部の閉鎖不全,脊髄髄膜瘤合併)と様々な心疾患(ファロー四徴症,心室中隔欠損,大動脈離断症)を合併する.また,精神発達遅滞を伴う 21トリソミーのうち 40%は心室中隔欠損と共通房室弁口などを合併する.同様に 18トリソミーも心室中隔欠損,心房中隔欠損,動脈管開存などの単純な左右短絡疾患や大動脈狭窄,両大血管右室起始などの複雑型心疾患を合併する.これらの脳の発育不全を合併した症例は心臓の手術施行の有無にかかわらず発達遅滞を併発するが,術前から明確な診断が行われていない場合は心臓手術後の脳障害との鑑別が困難な場合がある.しかし,心臓手術を行うことによって精神発達遅滞のさらなる増悪が起こるかどうかは十分検討されていない.

2) 先天性心血管疾患と合併する脳障害<Summary statement>・ 遺伝子異常がなくても新生児は早産による未熟脳や出生後の低酸素低心拍出量と低血圧による脳障害を合併している場合がある.・ 左心低形成大動脈縮窄症及び大血管転位症で脳の異常を合併していることが多い.・ 術前からの脳の異常所見と心臓血管手術後の新たな異常所見は関連するという報告としないという報告があり見解は一致していない.

<解 説> 遺伝子異常がなくても新生児には 2つの理由によりあらかじめ術前から脳の異常が存在する.一つは新生児が早産(多くは 35週未満)の場合の未熟脳であり,もう一つは出生後の合併する心血管疾患に伴う低酸素低心拍出量と低血圧で起こる. 67人の先天性心疾患合併心臓予定手術症例において新生児の脳を出生後術前のMRIからその未熟性を評価(髄鞘形成の有無,cortical infoldingの有無,胚芽層の形成状態,グリア細胞の移動相の形成状態)し,さらに術前のMRIで評価された脳の 9カテゴリーの異常(白質障害,脳梗塞,脳実質内の出血あるいは出

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血性梗塞,点状病変,乳酸上昇領域,硬膜下出血,硬膜静脈洞内血栓,脳室内出血,先天異常)を検討すると脳の未熟性と脳の異常所見は強い関連がある.さらにこれらの症例の術後 24人(36%)に新たな白質障害,出血,梗塞が起こり術前の未熟性との関連が示されている3).また早産児の側脳室周囲には脳室上衣下胚芽層が厚く存在し,ここに循環の変動が加わって上衣下出血が起こりやすく,脳室内出血となることが多い4).出生後の経頭蓋超音波検査では遺伝子異常のない症例かつほぼ満期で生まれた新生児症例のうち先天性心疾患を合併した症例の 42%に脳の異常が検出される5).とくに左心低形成には 30%の脳の異常が合併する.また大動脈縮窄症にも脳合併症が多い.多くは出生後に心機能低下や心内シャントによる中心静脈圧の上昇,チアノーゼが加わって脳への低酸素や低灌流がおこり脳障害をきたす.出生前から心臓血管奇形による出生後の低酸素や低灌流が予測されないと出生後に酸素投与の遅れなどから脳障害は増悪する.また出生時の

アップガ-スコアも脳障害と関連すると考えられている6). 低灌流による wartershedの領域は通常の新生児では傍矢状部の大脳皮質であるが,早産児では脳室周囲の白質となる.そのため左心低形成を含んだ 24例の新生児のMRI検査では術前から脳室周囲の白質異常が16%,同部位の梗塞が 8%,術後は前者が 48%,新たな梗塞が 19%,脳実質の出血が 33%に起こり全体として 67%の新生児に術後新たな病変が見つかっている7).別の 62例の研究では術前に 11例(18%)に白質病変が検出され術後は 26%に増加し中大脳動脈領域の梗塞も検出されている8).左心低形成に対して Nor-

wood 手術をした 22例に限定すると術前は 5例 23%でMRI上の異常所見(広範囲の脳室周囲所見,左右左前頭葉梗塞,脳出血)があり,術後 73%で新たにMRIで異常所見(脳室周囲の白質異常,局所の虚血,出血性梗塞症例)が検出されている.大血管転位症も脳障害が多く術後の皮質層状壊死,脳室周囲白質障害,白質障害,小脳や基底核の障害が報告されているが,この疾患はあらかじめ balloon atrial septostomy(心房中隔を拡張して酸素化した血液を少しでも大血管に流す手技で重篤な脳低酸素の合併を意味する)が行われた症例ほど術前からの脳障害が強い8). しかし,術前から存在する脳の異常所見と心臓血管手術後新たに検出される異常所見の関連に関しては関連するという報告8)としないという報告9)があり見解は一致していない.

3) 小児心臓血管手術に伴う脳障害とその危険因子<Summary statement>・ 小児心臓手術後の脳障害は 2-25%である.・ 超低体温循環停止が 40分を超えると脳障害が増悪する.・ Regional low-flow cerebral perfusionや pH-stat の併用は脳障害を軽減させる.・ 術後の低血圧,低心拍出量や低酸素も脳障害の原因となる.

<解 説>小児心臓手術での有症候性の脳障害の発生は 2-25%と報告されている1).小児では複雑心奇形に対する手術中の無血野を得るため DHCAがしばしば用いられる.しかし DHCA が 40分を超えると,脳室周囲白質軟化症や脳梗塞が増加する.そのため腕頭動脈から片側的に脳循環をする方法(regioanl low-flow cerebral

perfusion:RLFP)が行われ DHCAより神経学的合併症が少ないことが示されている10).また小児では人工心肺には Ph-statが用いられ Ph-statによる脳血管拡張による冷却効果から脳障害の軽減が報告されている11).また小児では循環血液量に対して人工心肺の回路に暴露される血液量が多くなるため炎症反応や活性酸素がより産生されやすく新生児の脳に障害を与えている可能性がある. さらに小児の場合は術前だけでなく術後の循環の不安定性(低血圧低心拍出量)や低酸素が原因で白質病変を合併することが報告されている8).

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3. 近赤外線脳酸素モニターの基本

1) 測定原理

<Summary statement>・ 近赤外線脳酸素モニターは,近赤外光の高い組織透過性を利用している.・ 組織内へ透過した近赤外光は酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンに吸収されるが 2種類のヘモグロビンの近赤外光に対する吸光特性は異なりその差を利用して組織の酸素飽和度を測定している.・ 測定原理には modified Beer Lambert法,空間分解分光法,時間分解分光法や位相分解分光法がある.・ 近赤外線脳酸素モニターによる脳局所酸素飽和度(rSO2)値は,頸静脈球部酸素飽和度(SjO2)と動脈血酸素飽和度(SaO2)から算出された推定の脳組織酸素飽和度と比較的高い相関がある.

<解 説>(1) ヘモグロビン(Hb)の吸光スペクトル 近赤外線脳酸素モニターの測定原理は,近赤外光の高い組織透過性を利用している.すなわち,近赤外光は波長が 700-1000 nmの光で,可視光(350-700 nm)より生体透過性が高い.組織内へ透過した近赤外光は酸化 Hbと還元 Hbに吸収されるが 2種類の Hbの近赤外光に対する吸光スペクトルは異なり,その差を利用して組織の酸素飽和度を測定している.

 近赤外線脳酸素モニターによって測定された組織の酸素飽和度はパルスオキシメーターのような動脈血だけの成分を取り出して測定しているわけではなく,組織の静脈血も併せて計算し測定している.

(2) 測定原理・方法a. Beer Lambertの法則 NIRSによる脳組織の酸素飽和度測定の原理は Beer Lambertの法則が基本である.波長 λの吸光度 ODと入射光量(I0)と透過光量( I)の関係は,ξをモル吸光係数,cを吸光物質の濃度,dを光路長とすると

 OD(λ)= Log(I0/I)= ξ(λ)・ c ・ d

となり,dがわかれば cの Hb濃度を測定できる.しかし,生体組織では光は散乱するため modified Beer

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Lambert法則(MBL)を用いる.

 OD(λ)= Log(I0/I)= ξ(λ)・ c ・ d ・ B+OD(λ)R

Bは散乱による光路長の延長を示す係数で OD(λ)Rは光散乱のため失われる光量を示す.

b. プローブ間距離と光路長 一般に近赤外線日光酸素モニターの発光器は 1つであるが受光器は 30-50 mmの間隔をおいて 2つ以上留置されている.これには理由がある.頭皮などの外頸動脈領域の血流の影響を除外する目的で近赤外線脳酸素飽和度モニターは浅層に近い受光器からの光を差し引いて酸化 Hb,還元 Hbを計算している.これは内頸動脈と外頸動脈にそれぞれ ICG(803 nmに吸光度を持つ)を注入した際発光器と受光器の間隔を変えてICGの近赤外線脳酸素モニター値への影響を検討したところ,外頸動脈に注入した場合は測定プローブ間隔を 10 mmから 40 mmの間で広げても影響は同じで変化せず(この距離では同程度の外頸動脈の影響を受けることを意味する),内頸動脈に注入した場合は 10 mmからプローブ間隔を広げるとその影響は大きくなり40 mmでプラトーに達する(40 mmまでは光は深達し脳内の血流をより反映することを意味する)ことから 1発光受光距離を 40 mmとし,30 mmでの浅層の光は差し引いて計算される. しかし受光器と発光器の間隔が40 mmだからといって光路長は40 mmでない.脳内に照射された光は1.1 n

秒後に 40 mmの受光器から最も強く光を受け取ることから光路長は 24 cmと計算される2).

c. MBL法則を用いた NIRS

 近赤外線脳酸素モニターのうち Covidien(Medtronic)社製 INVOSTMはこのMBL法則を用い 730 nmと810 nmの近赤外光を用い blood volume index(Hbの経時的変化)を測定している.また,浜松ホトニクス社 NIRO 200Ⓡは 775 nm,810 nm,850 nm,905 nmの 4波長の近赤外光を用いこの方法を用いて酸化 Hb,還元 Hb,総 Hbの測定を行っている. センチュリーメデイカル社の FORE-SIGHT ELITEⓇはこのMBLの法則をもう少し発展させている.この機種は 690 nm,730 nm,770 nm,810 nm,870 nmの 5波長を用い,組織にあるメラトニンの測定まで行っている.この 5波長を用いて 5つの計算式を用いることにより,光路長を相殺することが可能であり,FORE-SIGHT ElITEⓇで測定された脳酸素飽和度は絶対値を測定していると考えられている.

d. 空間分解分光法 ある点からの入射光に対して,距離の異なる複数の点で反射光を測定する方法である(図 1).この光の減衰率を測定することにより,光路長の因子を考えることなく,酸化 Hb,還元 Hbの濃度を次式により測定することができる3).

  k ・ c =  1 3ε(λ)・(ln10・ ∂OD(λ)

 ∂ρ - 2

ρ)2

 この空間分解分光法を用いて INVOSTMでは脳局所酸素飽和度 regional cerebral oxygen saturation(rSO2)を,NIROⓇ-200では脳組織酸素飽和度 tissue oxygen index(TOI)が測定されている.また NIROⓇ-200では組織ヘモグロビン指標もこの方法で測定されている.

e. その他の測定法 その他の NIRSの測定法としては時間分解分光法や位相分解分光法がある. 時間分解分光法は短パルス光(数百億分の 1秒)の光を発射し受光器への光の時間応答から(光の速度は決まっているため)測定対象の光路長が明確に算出できる.生体への吸収係数(μa)がわかれば

 μa = ξC(ξ:モル吸光係数)

 で簡便に Cを求めることができる.浜松ホトニクス社製の TRS-20により測定が可能である2).

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 位相分解分光法も同様に,発光部と受光部での光の位相のずれから受光されるまでの時間の計測が可能であり,光路長が測定できる.浜松ホトニクス社製 R7400Ⓡで測定可能である. この二つの方法は光路長が明確であるため測定される組織の酸素飽和度は絶対値となる.

(3) 機種別の特徴 NIRSによって測定された脳組織酸素飽和度の測定値が実際の値と近似するかを検証するには以下の方法が取られる.すなわち,脳の組織の酸素飽和度は直接には測定困難のため静脈血液が 70%,動脈血液が30%脳組織にあると考えて以下の式を用いて参考(reference:ref)値を求めて検証する.

 脳組織酸素飽和度参考値 Ref CX= 0.7× SjO2+ 0.3× SaO2

 S j O2:内頸静脈球部酸素飽和度 S a O2:動脈血酸素飽和度

この式を用いて近赤外線脳酸素モニターの各機種の正確度(Ref CXとの近似性)と精度(繰り返し実施した値同士がどれだけ近似するか)が算出されている.

 メドト二クス社製の INVOSTM,センチュリーメデイカル社の FORE-SIGHT ELITEⓇ,浜松ホトニクス社製の NIROⓇや,Nonin社の EquanoxⓇいずれの機種も正確度と精度は 10%以内の範囲に収まっている.

2) 適切な測定方法<Summary statement>・ 近赤外線脳酸素モニターの測定は麻酔開始前の,酸素を投与する前から開始しそれを基準値とするのが良い.・ 測定の終了は手術終了時点とするが,成人の心臓手術での脳障害の 60%は術後に起こり,小児の心臓手術においても術後の rSO2と脳障害や合併症との関連が示されていることから術後も継続してモニターすることを考慮する.・ ただし,長時間使用による皮膚障害の報告もあり注意が必要である.・ ディスポーザルプローブは一回使用にとどめ,測定中は遮光を行うことにより測定精度が増す.

<解 説> 近赤外線脳酸素モニターの測定値は麻酔の開始前,酸素を投与する前を基準値とするのが良い.測定の終了は手術終了時点とするが,成人の心臓手術での脳障害の 60%は術後に起こることが報告されている5).また,小児の心臓手術においても術後の rSO2と脳障害や合併症との関連が示されている6,7).これらのことから術後も継続してモニターすることを考慮すると脳障害の検出率は高くなる可能性がある.しかし,長時間使用(26時間)による皮膚障害の報告もある8)ため注意する必要がある.

図 1 空間分解分光法(SRS法)での測定(文献 3より引用)

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 近赤外線脳酸素モニターのプローブは基本前額部に貼付するが,INVOSTMや NIRO NX200Ⓡ(オプション機能)は 4プローブまで装着可能である.その場合後頭部への貼付は脳組織の酸素飽和度を測定できる範囲を拡大できる可能性を秘めているが,頭髪の問題や後頭部の骨の厚みの問題からその評価には注意を要する.INVOSTMや NIRO NX200Ⓡ,FORE-SIGHT ElITEⓇ測定用のプローブはディスポーザルである.そのため原則として一回使用にとどめるのがよい.長期使用や頻回使用を行うとプローブの貼付不良や発光ダイオードの劣化の原因となり正確性を欠く.また,蛍光灯などの外からの光の影響を受けるため,プローブ装着後は外光を遮断するような措置をするのが良い. また頭部の貼付される部位によっても影響を受ける.rSO2は,正中で両プローブが接するように測定した場合(左/右61± 11/61± 10%)よりもプローブを外側に 1 cm離した方が測定値は低く(59± 10/58±11%),前額正中を挟んで測定すると 64± 12%と高くなる.センサーの位置により頭蓋や頭蓋下の構造物,脳血流などが異なり,測定値に反映されると推測される9).

3) 使用上の注意点 <Summary statement>・ 近赤外線脳酸素モニターの測定アルゴリズムは機種により異なるため,測定値や各要因の影響も異なる点を留意すべきである.・ 近赤外線脳酸素モニターの測定値は,貧血,頭蓋骨の厚み,脳脊髄液層,頭蓋外血流の影響,体位などによる影響を受ける.

<解 説> 近赤外線脳酸素モニターを使用するに当たり注意すべき点がいくつかある.測定されるのは rSO2ということで動脈血酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターと同等の測定精度を持つと想定しがちだが,全く別物と考える必要がある.パルスオキシメーターは絶対値としての信頼性も持ち,97%以下に低下すると低酸素血症を考慮する必要がある.しかし,近赤外線脳酸素モニターは絶対値に信頼性がなく,基準値から20-30%低下すると虚血の可能性が示唆されるという程度にとどまる. その原因は rSO2が様々な因子により影響を受け真の酸素飽和度から値がずれることにある.以下,それらの因子について説明する.測定値に影響する因子を充分に理解したうえで rSO2の測定値を解釈する必要がある.

(1) 測定アルゴリズムの違い 近赤外線脳酸素モニターによる rSO2測定では,基本的に Lamber Beer変法(MBL)を用いて吸光度の差から濃度を推定する方法を用いる.現在,数機種で rSO2の測定が可能であるが,機種によって用いるアルゴリズムも異なっている.MBLを用いていても 2波長で測定する機種から 5波長で測定して精度を上げている機種,また,空間分解分光法という全く異なるアルゴリズムを用いている機種,さらに位相分解分光法や時間分解分光法という精度の高いアルゴリズムを用いている機種もある.その結果,機種が異なればrSO2の値は異なると考えておく必要がある.

(2) 平均光路長について rSO2は計算する際にMBLを用いている場合は平均光路長をアルゴリズムに含んでいる.細かい計算式は成書に譲るが,平均光路長(pathlength)という近赤外線がどこまで到達できるかという値が測定値に影響を与える.(図 2,「臨床医のための近赤外線分光法」より引用)平均光路長は,測定条件によって変化するが,計算式には一定値として組み込まれている.平均光路長が変化すると rSO2値を過大評価,過小評価する場合がある.測定機種により平均光路長を計算式に含んでいるかどうかを知っておく必要がある.平均光路長に影響を与える因子としては以下のものが重要である.

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a. 貧血 貧血ではヘモグロビン濃度が低下する.rSO2を測定する近赤外線はヘモグロビンに特異的に吸収される.したがって,ヘモグロビン濃度が低下すると,光量としては吸収されずに遠くまで届く光の量が多くなり平均光路長は延長することになる.貧血の状態で平均光路長を測定した研究では 1.3倍程度延長しており,実際の測定値より過大評価される10).

b. 頭蓋骨の厚み,脳脊髄液層 頭蓋骨は人により厚みが異なる.骨は厚みが増加すると光路長は延長する傾向がある.また,髄液層は頭部 CTスキャン画像では脳実質と頭蓋骨の間の空間に相当するが,この容積が大きいと脳実質に達する光量は少なくなり rSO2は過小評価されることになる11)(図 3).rSO2を測定できる機種でMBLを用いている機種では平均光路長に影響を与える因子により値が変化することを理解しなければならない.

(3) 頭蓋外血流の影響 rSO2を測定する際は前額部にセンサーを貼り付けるが,センサーの直下にある頭皮の血流も反映する可能性がある.Davieら12)は 3機種間で頭蓋外血流が rSO2に影響を与えるか検討しているが,機種によって 6%から 15%程度値が高く出ることを指摘している.また,フェニレフリンなどの血管収縮薬を投与するとrSO2の値が低下するが,エフェドリンなどのベータ作動薬では rSO2は変化しないという報告がある.血管収縮薬は脳血流に与える影響は少ないため頭蓋外の血管収縮により rSO2が低下すると考えられている13).どの機種を使用するかによっては十分配慮する必要がある.

(4) 体位の影響 rSO2は坐位手術で低下することが指摘されてきた14).また,近年,泌尿器科領域や産婦人科領域でのロボット手術や腹腔鏡手術で頭低位になる際には増加するという報告と低下するという報告もある15-18).術中に低下が見られた際も,術後に麻痺が起こることと因果関係はないとされている.心臓血管外科領域で体位変化が必要とされるのはオフポンプ冠動脈バイパス手術の頭低位があるが,この際の報告はみられず今後さらなる報告が望まれる.

 以上,rSO2の値に影響を与える因子について概観したが,機種ごとに測定アルゴリズムが異なりそれにより影響の程度も異なる.機器の欠点,利点を十分理解したうえで使用することが望ましい.

参考文献 1) Hongo K, Kobayashi S, Okudera H, Hokama M, Nakagawa F: Noninvasive cerebral optical spectroscopy: depth-resolved

measurements of cerebral haemodynamics using indocyanine green. Neurol Res 1995; 17: 89-93

図 2  近赤外線脳酸素モニターにおける光路長(pathlength)

(文献 19より引用)

図 3  近赤外線脳酸素モニター使用における頭蓋骨の厚みと脳脊髄液層の関係

(文献 11より引用)

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2) 山下豊:時間分解スペクロトスコピーの測定原理 NIRS―基礎と臨床―. Edited by 酒谷薫. 東京, 新興医学出版社, 2012, pp 19-22

3) 酒谷薫:基礎原理 Q& A 臨床医のための近赤外分光法. Edited by 日本脳代謝モニタリンング研究会. 東京, 新興医学出版, 2002, pp 1-9

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12) Davie SN, Grocott HP. Impact of extracranial contamination on regional cerebral oxygen saturation: a comparison of three cerebral oximetry technologies. Anesthesiology. 2012; 116(4): 834-40

13) Ogoh S1, Sato K, Okazaki K, et al. A decrease in spatially resolved near-infrared spectroscopy-determined frontal lobe tissue oxygenation by phenylephrine reflects reduced skin blood flow. Anesth Analg. 2014; 118(4): 823-9.

14) Closhen D1, Berres M, Werner C, et al. Influence of beach chair position on cerebral oxygen saturation: a comparison of INVOS and FORE-SIGHT cerebral oximeter. J Neurosurg Anesthesiol. 2013; 25(4): 414-9

15) Lee JR, Lee PB, Do SH, Jeon YT, Lee JM, Hwang JY, Han SH. The effect of gynaecological laparoscopic surgery on cere-bral oxygenation. J Int Med Res. 2006; 34(5): 531-6.

16) Park EY, Koo BN, Min KT, Nam SH. The effect of pneumoperitoneum in the steep Trendelenburg position on cerebral oxygenation. Acta Anaesthesiol Scand 2009; 53(7): 895-9

17) Kalmar AF, Foubert L, Hendrickx JF, Mottrie A, Absalom A, Mortier EP, Struys MM. Influence of steep Trendelenburg po-sition and CO2 pneumoperitoneum on cardiovascular, cerebrovascular, and respiratory homeostasis during robotic prosta-tectomy. Br J Anaesth. 2010; 104(4): 433-9

18) Closhen D, Treiber AH, Berres M, Sebastiani A, Werner C, Engelhard K, Schramm P. Robotic assisted prostatic surgery in the Trendelenburg position does not impair cerebral oxygenation measured using two different monitors: A clinical obser-vational study. Eur J Anaesthesiol 2014; 31(2): 104-9

19) 落合亮一:近赤外線分光法と麻酔管理.臨床医のための近赤外線分光法.Edited by日本脳代謝モニタリング研究会,東京,新興医学出版,2002,pp26-38

4. 心臓血管手術における近赤外線脳酸素モニターの適応

<Summary statement>・ 近赤外線脳酸素モニターは,従来の脳循環代謝モニタリング(脳波,TCDなど)に比較し,患者・術者要因に関わらず容易に施行できる.・ 近赤外線脳酸素モニターは CEA術中に周術期管理における脳循環代謝異常を迅速に検出でき,適切な対応が可能となる.・ 近赤外線脳酸素モニターは大血管手術や心臓手術の周術期管理において人工心肺の送血管の位置異常や人工心肺による脳循環代謝異常を検出でき術後脳神経障害を減少させることができる.

・ 近赤外線脳酸素モニターは開心術症例の集中治療室滞在日数を減少させ,重要臓器障害ならびに死亡率を減少させることができる.

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<解 説> 近赤外線脳酸素モニターは,周術期に脳循環と脳代謝のバランスが破綻する可能性のある全ての症例が対象となる.臨床で使用頻度の高いのは,頸動脈を一過性に遮断しなければならない頸動脈内膜剥離術や人工心肺を用いる大血管手術や心臓手術が挙げられる.

1) CEAと近赤外線脳酸素モニター CEAにおける術後脳合併症の要因は,頸動脈血流の遮断による一過性脳血流低下,術中操作による脳塞栓ならびに遮断解除後の脳血流増加による CHSが知られている1).これらの合併症は,術中モニタリングによりある程度減少させることができることが報告1)されている.これまでは,CEA中の術中モニタリングとして脳波や TCDによる脳循環代謝のモニタリングを行っていたが,その技術的要因や患者要因により全ての症例で応用することはできていない.一方,近赤外線脳酸素モニターは前額部にセンサーを装着することにより測定でき,TCDのような測定者の技術的問題はほとんどないと考えられ,広く臨床で用いられるようになってきた. CEA中の脳血流モニタリングにおける TCDと近赤外線脳酸素モニターに関して,いくつかの報告がある.CEA中の TCDでは,中大脳動脈血流速度(FVmca)を指標とするが,頸動脈遮断による FVmcaの変化は近赤外線脳酸素モニターの rSO2変化と有意な相関が認められたと報告2-5)されている.これらの研究の中で,10%の症例において何らかの原因で TCDモニタリングができなかったと報告2,4)されており,CEA中の脳血流モニタリングとしての近赤外線脳酸素モニターは意義あるものと考えられる. CEA中の脳血流モニタリングにおける脳波と近赤外線脳酸素モニターに関して,術中脳虚血検出について両者を比較した 3つの報告6-8)がある.これら全ての研究において,CEA中の脳波と rSO2の変化には有意な相関が認められており,EEGに比較しても近赤外線脳酸素モニターは同等の検出力があると考えられる. 近赤外線脳酸素モニターと CEA後の CHSに関しては,Komoribayashiら9)と Ogasawaraら10)により報告されている.それによれば,SPECT(Single photon emission computed tomography)や TCDにより CHSが疑われた症例は 11~12%であった(術後 CHSの症状を発症したのは 1.4%)が,その全ての症例において近赤外線脳酸素モニターによる rSO2値は,頸動脈遮断前の 110%を超えていた.これらのことから,術中モニタリングとして近赤外線脳酸素モニターを用いることにより,従来の脳血流モニタリングと同等の精度でCHSを検出することが可能であると示唆された.

2) 心臓・大血管手術と近赤外線脳酸素モニター 心臓・大血管手術の予後は時代とともに改善しているが,周術期中枢神経の合併症は未だに解決できていない.心臓・大血管手術における中枢神経障害は,塞栓と低灌流がその主要因である11).特に,低灌流を避けることは脳障害を有意に減少させると考えられている12).心臓・大血管手術における脳循環・神経機能モニタリングとして,先述した脳波や TCDが挙げられるが,麻酔薬の影響や低体温あるいはその技術的困難さという問題点がある.最近では,心臓・大血管手術における近赤外線脳酸素モニターの使用ならびに有用性が報告されてきている. 心臓・大血管手術における近赤外線脳酸素モニターの有用性として,人工心肺の送血管の位置異常,特にACPの際の送血管の異常を検出した症例報告13)や人工心肺による脳循環異常の早期発見した報告14)などがある.さらに,Harrerら15)の観察研究では,弓部大動脈手術において片側順行性脳灌流から両側順行性脳灌流へ変更するDecision-Makingに近赤外線脳酸素モニターが有用であることが示された.またGoldmanら16)は,近赤外線脳酸素モニターを用いることで術後脳卒中の発生頻度が有意に減少したことを報告している.Murkinら17)の行った前向き無作為試験によって,近赤外線脳酸素モニターにより rSO2を検出しさらにそれに対して治療を行うことにより集中治療室滞在日数が減少し,臓器障害や死亡率が減少することが示された.Denaultら18)は,心臓手術での近赤外線脳酸素モニターの値が異常を示した場合の対処について 8ステップのアルゴリズムを提唱し,近赤外線脳酸素モニターによるモニタリング時の異常値の解釈とそれに対する適切な対応を示した. 上記のように,人工心肺を用いる大血管手術や心臓手術における近赤外線脳酸素モニターによる脳代謝循

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環モニタリングは,脳障害の予防の観点で重要である.

参考文献 1) Riles TS, Imparato AM, Jacobowitz GR, Lamparello PJ, Giangola G, Adelman MA, et al. The cause of perioperative stroke

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12) Murkin JM. Is it better to shine a light, or rather to curse the darkness? Cerebral near-infrared spectroscopy and cardiac surgery. Eur J Cardiothorac Surg. 2013;43:1081-3

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5. 成人心臓血管手術での使用報告と対応法 

1) 頸動脈手術(1) 近赤外線脳酸素モニターの使用報告<Summary statement>・ 近赤外線脳酸素モニターの有効性は CEAで示されている.・ CEA術中の低灌流の評価に用いられた報告が多いが,CHSの評価にも有用である.・ CEA中の低灌流の近赤外線脳酸素モニターでのアラームポイントを決定するにあたり,局所麻酔であれば神経学的症状の出現との関連を,全身麻酔であれば他の SEP,短潜時 SEP(short Llatency SEP:SSEP)や脳波の変化,TCDなど他のモニタに危険値をあらかじめ設定し,術中の近赤外線脳酸素モニター

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測定値との関連を評価している.・ 過灌流は術後の症状の出現,TCDや SPECTによる血流の増加で評価され,術中の近赤外線脳酸素モニターの値にさかのぼってその値の変化との関連が調べられている.

<解 説> 近赤外線脳酸素モニターは CEA患者に装着されて術中の内頸動脈遮断中の脳低灌流の検出と,術後のCHSの検出の評価のために使用されている1).ほとんどは術中低灌流の検出に使用評価さているが,CHSの検出に関する有用性も示されている.近赤外線脳酸素モニターのアラームポイントを決めるにあたっては局所麻酔での手術では術中患者の神経学的症状が検出した時点の近赤外線脳酸素モニターの値をアラームポイントにするのが良いと考えられる.全身麻酔で行った場合は,術後の神経学的合併症を発症した症例と術中の頸動脈遮断中の近赤外線脳酸素モニター最低値との関連,術中他の SEP,SSEP,脳波の変化,TCDモニタの異常値,stump pressureの低下とその時の近赤外線脳酸素モニター値の関連で評価される場合が多い.CHSの判定は手術終了後の症状出現やその時期の TCDによる血流速度の増加,SPECTでの脳血流変化などを基準として判定され,術中の近赤外線脳酸素モニターの値にさかのぼって関連が調べられている.

(2) アラームポイントと異常時の対応<Summary statement>・ CEAでは頸動脈遮断により rSO2値が基準値から 20%以上低下,あるいは実測値が 50%以下となる場合,シャントの挿入などの対応策を考慮すべきである.・ CEAでは手術後に基準値から実測値が rSO2の 5-10% 以上の増加を認めた症例と CHSの関連性が報告されている.・ 近赤外線脳酸素モニターによる CHSリスク症例の早期予測が可能であれば術後の血圧管理などの CHS発症防止対策につながる.

<解 説> CEA術中の低灌流あるいは術後の CHS発症と近赤外線脳酸素モニターの関連を評価した代表論文を表 1

に示す2-13).多くは術中低灌流の検出として近赤外線脳酸素モニターが使用されている.

表 1 CEAによる低灌流と過灌流の検出と近赤外線脳酸素モニター著者雑誌

報告年号 : 頁 症例数 病態

評価 麻酔 異常の診断 機種 異常症例 異常実測値(基準値からの低下)

Carlin et al2)

J Clin Anesth1998

10:10916 低灌流 局所

+静脈臨床症状 INVOSTM

31002(13%) 異常 68→ 48%(36%)

正常 69→ 64%(6%)Kirkpatrick3)

J Neurosurg1998

89:38976 全身 TCD60%の低下 NIRO

50016(21%) 異常 :酸化 +還元 Hb変化≧ 6.8 μmol/L

正常≦ 5 μmol/LBeese et al4)

Stroke 1998

29:2032317 低灌流 全身 SEP 消失 INVOSTM

3100A30(9.5%)

9.50%異常 66→ 56%(15%)正常 65→ 61%(6%)

Cho et al5)

J Neurosurg1998

89:53829 低灌流 全身 SSEP

振幅低下NIRO 500 20人

INVOS 3100A 9人12(60%)2(22%)

酸化 Hb-13 μM50%以下(10%)が異常

Samra et al6)

Anesthesiology2000

93:964100 低灌流 局所 臨床症状 INVOSTM

310010(10%) 基準値から(20%)の低下

Hirofumi et al7)

J Clin Neurosci2003

10:7921 低灌流 全身 術後神経合併症 INVOSTM

410010(48%) 54-56.1%,15.6-18.2%の低下

25%の左右差Mille et al8)

Eur J Vasc Endovasc Surg

2004

27:646

594 低灌流 全身 術後神経合併症 INVOSTM 3100A

INVOSTM 4100SSA

20(3.4%) 11.70%

(20%)Yamamoto et al9)

Int Angiol2007

26:26243 低灌流 全身 stump pressure

<40 mmHgOM-220 5%の低下

Moritz et al10)

Anesthesiology2007

107:56348 低灌流 局所 臨床症状 INVOSTM

310012(25%) 感度特異度ともに最良となる

rSO2の低下は基準値の 20%Pennekamp et al11)

Eur J Vasc Endovasc Surg

2009

38:385

Review3 研究

2研究

低灌流

過灌流

局所 TCD 50-80%低下脳波非対称性

TCD 100%増加

? 絶対値 11-13%の低下5-25%の低下

>5-10%の増加Pennekamp et al12)

Cerebrovasc Dis2012 151 過灌流 全身 臨床症状と

TCD 100%増加INVOSTM 7(4.6%) 1時間後過灌流症例 7%増加

1時間後非過灌流症例 1%増加

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 術中低灌流の評価は局所麻酔であれば症状の出現,全身麻酔であれば TCDでの中大脳動脈血流低下,EEG,SEP,SSEPの変化,術後神経合併症と手術操作中の手術側の近赤外線脳酸素モニターの最低値との関連で検討される.ほとんどの報告が INVOSTMを用いて rSO2を評価しているが INVOSTM以外の機種での評価も行われており(OM-220:島津製作所,NIROⓇ500:浜松ホトニクス社製),酸化ヘモグロビンの低下も異常値として評価されている5). 局所麻酔下の症状出現を低灌流とした場合,感度,特異度がそれぞれベスト(83%)となる rSO2の変化は基準値から相対的に 20%の低下であると報告されている10).一方,実測値の最低値が感度特異度ともにベストとなる値は 59%であった.他の報告も INVOSTMでの rSO2の値が基準値より相対的に 20%以上低下とするとその多くの症例の症状出現と合致する6).術後に神経学的合併症の有無との関連で検討した場合rSO2の実測値が 54-56%7)や基準値からの実測値の 11.7% -18%の低下7,8),基準値の 20%以上の低下がアラームポイントとして報告されている8).他のモニタとの関連で評価した報告では SEP,SSEPの振幅の低下や消失,脳波の左右差,TCDで評価した中大脳動脈の血流の基準値からの 50-80%の低下,stump pressure<40 mmHg を低灌流として rSO2との関連が評価されている.その場合のアラームポイントは rSO2の実測値が 50-56%4,5),実測値として基準値から 5-25%の低下9,11),基準値から相対的に 10-15%の低下とされる4,5).これらの報告から CEA,CAS手術における低灌流の評価は大まかに実測値を 50%以下,基準値からの相対的低下を 20%以上とするとほとんどの報告のアラームポイントを網羅していると考えられる. 低灌流に対する対策は酸素吸入やエフェドリンの投与による血圧の上昇が報告されているが一番効率的な対策はシャントの挿入とされている.Zogogiannisら13)の使用したアルゴリズムを一部改変した CEA手術時のアラームポイントと異常時の対応方法を示す(図 1).基準値から 20%以上の低下または実測値 50%以下の場合に,血圧を上昇させても 3分以内に 20%以内の低下にならない場合シャントを考慮する. CHSの早期発見にも近赤外線脳酸素モニターは利用されている.日本頸部脳血管治療学会のデータによると,CHSは CEAで 1596例中 30例(1.9%)に発症し,そのピークは CEAでは 3-6日目であった14).CHSの判定は術後の症状出現や術後の TCDでの血流増加(100%以上の増加を見る場合が多い)や SPECT

での評価で行われている.ほとんどの報告は術後の CHSの発症を術中の頸動脈血流再開後の近赤外線脳酸素モニターの値の増加にさかのぼってその関連が評価されており,実際に CHSを発症した時点での近赤外線脳酸素モニター値を用いた評価はなされていない.これは CEA手術後 CHSが発症する 3-6日まで近赤外線脳酸素モニターを継続装着していないためであり,そこまで長期にモニターするのは現実的でない.しかし,術後 ICU退室までモニターを装着して評価することは可能で異常な値を検出できる可能性はある. 局所麻酔で CEAを行った報告では頸動脈血流再開後に rSO2の実測値が基準値に比べ 5-10%高くなると術後の CHS発症のリスクが高いと報告されている11).全身麻酔下で 151例の CEAを行った患者では,CHS

が 7例 4.6%に発症し,発症しなかった群では rSO2値はほとんど変化しなかったのに対し,CHS症例では術前値に比し術後一時間後の rSO2が実測値としてベースラインより 7%増加していた12). これらの報告から,CEAでは手術後に rSO2の実測値として 5-10%以上の増加を認めた症例では,CHS

の致死的な合併症である脳出血を防止するための厳密な降圧療法を考慮する必要がある.Normotensionの管理が基本となるが症候性となった場合には,さらに降圧療法を強化するとともに脳代謝抑制のためにプロポフォールなどの鎮静剤の投与も検討すべきである.また,頸動脈解除直前にエダラボンを投与することで,過灌流を減弱できるという報告もあり15),近赤外線脳酸素モニターの値から CHSハイリスク症例を予測し薬剤投与症例を選出できる可能性がある.

2) 大血管手術(1) 近赤外線脳酸素モニターの使用報告<Summary statement>・ 大血管手術では他の心臓手術に比べ脳梗塞の頻度が高く,重篤なものが多い.・ 大血管手術において近赤外線脳酸素モニターは脳障害を検出するために有用と考えられる.・ 近赤外線脳酸素モニターにより大血管手術中の片側の灌流障害を検出にも有用である.

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<解 説> 大血管手術では,1の成人の心臓血管麻酔における周術期脳障害の項目で述べられているように他の心臓手術に比べ脳梗塞が 4.7-7.2%と多い16).弓部に手術操作が加わる手術や人工血管遠位側の吻合を open-dis-

tal法で行う場合は脳を保護するための低体温と,頭以外の循環停止が必要で,加えて RCPや ACPを用いて脳の血流を維持する必要が生じる.したがって同手術における脳保護は重要であり,近赤外線脳酸素モニターを用いた評価が応用できる術式の一つである.これまでに近赤外線脳酸素モニター値と大血管手術での脳障害との関連が示されている.かつ,人工心肺中に片側の脳の灌流障害を検出できた症例報告がある.

(2) アラームポイントと異常時の対応<Summary statement>・ 近赤外線脳酸素モニターの実測値が 60%あるいは 55%へ低下した時間および基準値の 80-65%への低下と脳障害との関連性が示されている. ・ 大血管手術中の rSO2値の左右差の新たな出現は脳の片側の灌流障害の可能性が高いため,その値をもと

図 1 CEA手術におけるアラームポイントと異常時の対応(文献 13を一部改変)

MAP:平均血圧,CVP:中心静脈圧,SaO2:動脈血酸素飽和度,PaCO2:動脈血二酸化炭素分圧,Hb:ヘモグロビン,CMRO2:脳酸素消費量

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に早期介入が可能である.・ 弓部大動脈手術において片側 ACPから両側 ACPへ変更する Decision-Makingに近赤外線脳酸素モニターが有用である.

<解 説> 表 2に大血管手術での脳梗塞の発生と rOS2の値を検討した報告を示す17,18).Orihashiらは 25℃での ACP

を用いて大血管手術を行った 59例に近赤外線脳酸素モニターを装着し(TOS-96トステック社製),16例(27.1%)にタイプⅠとⅡの脳障害が発生した(16例中 6例でタイプⅠ脳障害が発生).この 16症例では近赤外線脳酸素モニター実測値が 60%あるいは 55%未満に低下した時間が長かった17).脳梗塞を起こした 6

例では頸動脈や脳底動脈領域の広範囲の灌流障害が生じた症例で特に近赤外線脳酸素モニターの低値の時間が長い17).同様に 46例の ACPを用いた大血管手術での報告では,6例(13%)にタイプⅠの脳障害が起こりこれらの症例は rSO2は初期値の 65-80%に低下している(非梗塞症例は変化なし)18).特にこの報告はrSO2の左右差が障害の検出に役立っている. これらの報告から近赤外線脳酸素モニターは大血管手術において脳障害の検出に有効であると考えられる.近赤外線脳酸素モニター値が基準値の 80-65%に低下した場合や左右差の出現時は低下や左右差出現の原因を検討し,それらの継続を可能な限り短縮する必要がある.少なくとも送血管の位置異常,至適灌流量,至適体温などを再確認する必要がある. 大血管手術中に rSO2値の左右差の出現が脳への片側の灌流障害を検出できた報告がある.具体的には,ACP用の腕頭動脈カニューレの右鎖骨下動脈への迷入による右内頸動脈領域の血流障害19),急性大動脈解離症例での頸部動脈への解離の伸展に伴う血流障害20)などが検出されたが,いずれも SCPカニューレの位置調整などの迅速な介入により脳障害を回避できている. さらに,Harrerら21)の観察研究では,弓部大動脈手術において片側 ACPから両側 ACPへ変更する Deci-

sion-Makingに NIRSが有用であることが示されている.つまり,右腋窩動脈から右頸動脈への ACPを開始し,左右の rSO2が保たれれば片側 ACPのみで脳灌流を行い,左の rSO2が低下した場合(rSO2<50%,脳組織酸素飽和度 tissue oxygen index:TOI 15-20%低下)には左頸動脈への ACPを追加して脳灌流を維持している.Harrerらはほとんどの症例で両側 ACPの必要があったと述べている21).

3) 心臓手術(1) 近赤外線脳酸素モニターの使用報告<Summary statement>・ 人工心肺を用いた心臓手術において近赤外線脳酸素モニターによる術中ガイドでタイプⅠ,Ⅱの脳障害を軽減できている.・ 人工心肺を用いた心臓手術中の近赤外線脳酸素モニターの低下は術後高次脳機能障害(postoperative cog-

nitive dysfunction:POCD)やせん妄発症と関連がある.

<解 説> 心臓手術中に近赤外線脳酸素モニターを使用し管理することによりタイプⅠ,Ⅱの障害発生を軽減可能である.また近赤外線脳酸素モニターを装着しその値の術中低下は心臓手術後の POCDやせん妄の発症と関連する.この結果を踏まえ近年では近赤外線脳酸素モニターを指標とし,その低下を防止する積極的な管理が術後の脳を含めた重要臓器の合併症や術後の神経心理学スコアを改善することが示されている.

表 2 大血管手術における脳障害と近赤外線脳酸素モニター著者雑誌 報告年号:頁 症例数 手術 脳卒中との関連 機種 異常値実測値(基準値からの低下)

Orihashi et al17)

Eur J Cardiothorac Surg2004

26:90759 大血管

SCPタイプⅠ+Ⅱが 27%タイプⅠが 10%

TOS-96 <60%または 55%の時間

Olsson et al18)

J Thorac Cardiovasc Surg. 2006

13:37146 大血管

SCPタイプⅠ 13% INVOSTM

4100 (65-80%)SCP:selective cerebral perfusion

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(2) アラームポイントと異常時の対応<Summary statement>・ 近赤外線脳酸素モニターのアラームポイントを基準値からの 20%として管理すると心臓手術後のタイプ

IIの脳障害が軽減できる.・ 心臓手術と POCD,術後せん妄と近赤外線脳酸素モニターの関連性はアラームポイントは基準値から 20-

30%以上に低下した場合や実測値が 65-35%より低下した場合と報告されている.またそれらの値以下に低下した area under the curve も評価に使用されている.・ rSO2の基準値からの 20-30%低下や実測値 50%をアラームポイントとし,それらを介入により改善させるアルゴリズムが提唱されている.・ rSO2の異常時には,送脱血部位,頭部の位置,動脈血二酸化炭素分圧,平均動脈圧,中心静脈圧,心係数,混合静脈血酸素飽和度,ヘモグロビン濃度などを確認することで脳を含めた重要臓器の合併症を軽減できる可能性がある.・ rSO2を用いた脳循環の自己調節能の評価が行われている.

<解 説> これまで心臓手術において近赤外線脳酸素モニター装着によりタイプⅠとタイプⅡの脳障害の発生を軽減できた報告が 2つある. Goldmanらは rSO2を非モニター下におこなった 1245例での CABGと弁手術でのタイプⅠの脳障害発生は 25例(2.01%)であったのに対して rSO2モニター下に術前値を維持するように管理した同手術 1034例でのそれは 10例(0.97%)であり rSO2モニターが有効であったと報告している22).Edmondsは23) rSO2モニターに脳波,TCPを組み合わせて管理した 332例の CABG症例のタイプⅠとタイプⅡの脳症障害をそれ以前のモニターを行っていない286例と比較している23).rSO2の異常値を初期値からの20%以上の低下とし,低下した場合術中 PaCO2の正常値の維持,灌流圧を高くする,ポンプ流量をあげるなどの対応を行って可能な限り低下しないように管理を行っている.この報告ではモニター管理によってタイプⅡの脳障害は 3%から 0.3%に軽減している.

表 3 心臓手術における脳障害と近赤外線脳酸素モニター

著者雑誌 報告年号 : 頁 症例数 手術 脳卒中との関連 機種 異常値実測値(基準値からの低下)

Goldman et al.22) Heart Surg Forum

20047:E375

1245と1034

CABG弁

タイプ I 2.0%モニタで 0.97%に減

INVOSTM

5100明確でない

Edmonds.23) Ann N Y AcadSci

20051053:12

286332

CABG タイプ II 3%モニタで II 0.3%に減

INVOSTM

410044%(障害症例の平均値)

(20%)

CABG:coronary artery bypass grafting

表 4 心臓手術における高次脳機能障害・せん妄と近赤外線酸素モニター

著者雑誌 報告年(号:頁) 症例数 手術 機種 異常値実測値

基準値からの低下 障害の検出 有効性

Reents et al.24)

Ann Thorac Surg.2002

74:10947 CABG INVOSTM

4100rSO2<40

rSO2>25%POCD ×

Yao et al.25)

J Cardiothorac Vasc Anesth.2004

18:552101 心臓手術 INVOSTM

4100rSO2<35

rSO2<40 10分POCD ○

Hong et al.26)

Eur J Cardiothorac Surg. 2008

33:560100 弁手術 INVOSTM

5100rSO2<50

rSO2>20%POCD ×

Slater et al.27)

Ann Thorac Surg .2009

87:36240 CABG INVOSTM

5100rSO2<50

AUCPOCD POCD検出○

積極管理による改善×

Shoen et al.28)

Br J Anaesth. 2011

106:840128 心臓手術 INVOSTM

5100rSO2<50 POCD ○

Fudickar et al.29)

BMC Anesthesiol.2011

11:735 心臓手術 NIROⓇ

300 TOI<65 POCD ○

de Tournay-Jette et al.30)

J Cardiothorac Vasc Anesth.2011

25:9548 CABG INVOSTM

4100rSO2<50

rSO2>30%POCD ○

Schoen et al.31)

Crit Care.2011

15:R218231 心臓手術 INVOSTM

5100rSO2<50 せん妄 ○

Palmbergen et al.32)

Interact Cardiovasc Thorac Surg2012

15:71642 CABG >80%を維持 せん妄 積極管理による改善○

13.3%→ 7.3%Mohandas.et al33)

Ann Card Anaesth.2013

16:1021000 心臓手術 Equanox >85%維持する

積極管理神経心理学スコアの改善

積極管理による改善○

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 近赤外線脳酸素モニターの装着により POCDや術後せん妄の予測と改善に効果があるかを検討した報告は少なくとも 10存在する24-33)(表 4). 使用機種は INVOSTMや NIROⓇでの報告がほとんどで rSO2や TOI値で評価されていることが多い.rSO2

や TOIの危険値は実測値が 65-35%より低下した場合か基準値の 20-30%以上に低下した場合(あるいはそれらの area under the curve)としている.これまで 5つの報告で rSO2の値と POCDの関連性が示され25,27-30),2つの報告で関連性がない24,26).異なる結果が出る理由は定かではないが,用いられる神経心理学検査やPOCDの判定基準,判定時期が影響している可能性がある.またせん妄と rSO2低下との関連性も示されている31).これらから近赤外線脳酸素モニターの値の低下と POCDやせん妄の発生は関連がありそれらの予測に近赤外線脳酸素モニターは有効である.さらに近赤外線脳酸素モニターを指標にした積極管理(基準値の 80-85%を維持)を行うことにより術後のせん妄の発生32)や,神経心理学スコアの改善33)が得られることが示されている.

図 2 人工心肺使用心臓手術におけるアラームポイントと異常時の対応(文献 34, 35を一部改変)

MAP:平均血圧,CVP:中心静脈圧,SaO2:動脈血酸素飽和度,PaCO2:動脈血二酸化炭素分圧,Hb:ヘモグロビン,SvO2:混合静脈血酸素飽和度,ICP:頭蓋内圧,CMRO2:脳酸素消費量,TEE:経食道心エコー検査

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 脳障害に限定しないが,Murkinら34)は CABGを対象として前向き研究を行い,術中に生じた rSO2低下への対応は,対応しない場合と比べて,重大な臓器障害(48時間以上の人工呼吸,脳卒中,心筋梗塞など)が少なく,集中治療室の在室期間が短かったと報告している.本研究では,rSO2が基準値から 30%低下した場合に介入を行っている.rSO2の 30%低下が 1分以上続いた場合を酸素飽和度低下とするが,実際には15秒低下すれば処置を開始している.Denaultら35)は,rSO2の基準値の 20%低下と実測値 50%をアラームポイントとして,8つのステップからなるアルゴリズムを提唱している.Murkinらと Denaultらのアルゴリズムを一部改変した人工心肺使用心臓手術におけるアラームポイントと異常時の対応方法を示す(図 2).rSO2異常時(基準値の 20-30%低下)には,送脱血部位,頭部の位置,動脈血二酸化炭素分圧,平均動脈圧,中心静脈圧,心係数,混合静脈血酸素飽和度,ヘモグロビン濃度などを確認し,早急に対応することで脳を含めた重要臓器の合併症を軽減できる可能性がある. 最近は血圧の自発変動と近赤外線脳酸素モニターの値の変化を利用して脳血流の自己調節能を検出する方法が行われている.血圧が脳血流の自己調節能が保たれる範囲にあると血圧の変動(揺らぎ) に対して近赤外線脳酸素モニターの値は血圧に対して相関関係が少ない(自己調節能の下限を切ると相関は強くなる).この方法で評価すると人工心肺中の灌流圧の下限は 50 mmHgと考えられる36).しかし,個々の症例の下限は 40 mmHgから 90 mmHgの範囲で大きくばらついていることも分かっている37).

参考文献 1) Nielsen HB: Systematic review of near-infrared spectroscopy determined cerebral oxygenation during non-cardiac sur-

gery. Front Physiol 2014; 5: 93 2) Carlin RE, McGraw DJ, Calimlim JR, Mascia MF: The use of near-infrared cerebral oximetry in awake carotid endarterec-

tomy. J Clin Anesth 1998; 10: 109-13 3) Kirkpatrick PJ, Lam J, Al-Rawi P, Smielewski P, Czosnyka M: Defining thresholds for critical ischemia by using near-in-

frared spectroscopy in the adult brain. J Neurosurg 1998; 89: 389-94 4) Beese U, Langer H, Lang W, Dinkel M: Comparison of near-infrared spectroscopy and somatosensory evoked potentials

for the detection of cerebral ischemia during carotid endarterectomy. Stroke 1998; 29: 2032-7 5) Cho H, Nemoto EM, Yonas H, Balzer J, Sclabassi RJ: Cerebral monitoring by means of oximetry and somatosensory

evoked potentials during carotid endarterectomy. J Neurosurg 1998; 89: 533-8 6) Samra SK, Dy EA, Welch K, Dorje P, Zelenock GB, Stanley JC: Evaluation of a cerebral oximeter as a monitor of cerebral

ischemia during carotid endarterectomy. Anesthesiology 2000; 93: 964-70 7) Hirofumi O, Otone E, Hiroshi I, Satosi I, Shigeo I, Yasuhiro N, Masato S: The effectiveness of regional cerebral oxygen

saturation monitoring using near-infrared spectroscopy in carotid endarterectomy. J Clin Neurosci 2003; 10: 79-83 8) Mille T, Tachimiri ME, Klersy C, Ticozzelli G, Bellinzona G, Blangetti I, Pirrelli S, Lovotti M, Odero A: Near infrared

spectroscopy monitoring during carotid endarterectomy: which threshold value is critical? Eur J Vasc Endovasc Surg 2004; 27: 646-50

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10) Moritz S, Kasprzak P, Arlt M, Taeger K, Metz C: Accuracy of cerebral monitoring in detecting cerebral ischemia during ca-rotid endarterectomy: a comparison of transcranial Doppler sonography, near-infrared spectroscopy, stump pressure, and somatosensory evoked potentials. Anesthesiology 2007; 107: 563-9

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Parr GV: Cerebral oxygen desaturation predicts cognitive decline and longer hospital stay after cardiac surgery. Ann Tho-rac Surg 2009; 87: 36-44; discussion 44-5

28) Schoen J, Husemann L, Tiemeyer C, Lueloh A, Sedemund-Adib B, Berger KU, Hueppe M, Heringlake M: Cognitive func-tion after sevoflurane- vs propofol-based anaesthesia for on-pump cardiac surgery: a randomized controlled trial. Br J Anaesth 2011; 106: 840-50

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6. 小児心臓血管手術での近赤外線脳酸素モニター

1) 小児症例での留意点と信頼性<Summary statement>・ 小児の近赤外線脳酸素モニターによる rSO2の測定値は心疾患によって著しく異なる.・ 小児においても近赤外線脳酸素モニターの validationは低くはない.

<解 説> 小児と成人では近赤外線脳酸素モニターによって測定される脳酸素飽和度の条件が異なる.すなわち,小児では頭皮や頭蓋骨が薄く未発達である.しかしこれは逆に頭蓋外の血流の影響を近赤外線脳酸素モニターが受けにくい状態であるとも考えられる.また,小児の近赤外線脳酸素モニターによる rSO2の測定値は心疾患によって著しく異なる1).麻酔導入前の非チアノーゼ性疾患で大きな左右シャントがない症例の rSO2は約 70%,チアノーゼ性疾患は 40-60%である.麻酔導入後の rSO2値は大血管転位症で 61±11%,ファロー四徴症で 71±14%,心室中隔欠損症で 62±9%2),左心低形成で 60±11%となっている3). このように疾患により rSO2の値は異なるが,小児においても NIRSの信頼性(validation)の検証が行なわれている.近赤外線脳酸素モニターの validationは成人と同じように内頸静脈球部の酸素飽和度(SjO2)を測定しこの値の 70%と動脈血酸素飽和度の 30%を合計して算出する.小児症例に SjO2測定用のカテーテルを挿入するのは倫理面を含めて問題があるため,extracorporeal membrane oxygenation (ECMO)のために脱血管を内頸静脈から上向きに入れた症例の脱血管の酸素飽和度を測定して新生児 17人で validationが評価されている(FORE-SIGHTを使用)4).測定された rSO2と計算で推定される脳組織酸素総飽和度との相関係数は 0.67-0.73,biasは 0.26-0.4,precisionは 5.08-5.09と報告され validationは低くはない4).

2) 小児症例での使用報告とアラームポイント<Summary statement>・ 小児の心臓手術において近赤外線脳酸素モニターは DHCAの値の低下による DHCAの限界や,regional

low-flow cerebral perfusion中の左右差から直接灌流されていない左側の灌流低下の検出に使用されている.・ 周術期の近赤外線脳酸素モニターの値の低下と術後神経合併症および術後の合併症の関連が示されている.

<解 説> 小児の心臓手術において近赤外線脳酸素モニターは DHCA中の rSO2の低下の RLFP中の左右差から直接灌流されていない左側の灌流低下の検出に使用されている.DHCAの時間により rSO2は経時的に低下し相対的にベースラインよりも 60-70%の値に低下するが 20-40分で底となることが示されている2).またDHCA中の rSO2の低下(NIMで測定)時間は新生児,乳児,幼児の順に時間を要し新生児の酸素消費量がより少ないと推定されている5).RLFPでは平均 6.3%の rSO2の左右差が起こり左が低値となるが,10%以上の差になることもある6).しかしこの左右差の程度と術後の神経的合併症の関連は検討されていない. 近赤外線脳酸素モニターと術後の予後あるいは神経合併症との関連を示した報告を提示する(表 1). DHCA下に 26例の心臓手術を施行した症例中 3例の術後脳障害が起きたが,この 3例は DHCAに移行するまでの時間が短く,DHCAまでの体温冷却低によって上昇するはずの rSO2の十分な増加がみられていない5).DHCAに移行するまでの脳の冷却不足を rSO2が示唆していた可能性が示されている5).Austinらは先天性心疾患患者 250症例において経頭蓋ドプラと rSO2を相補的に使用し TCDの血流速度が 50%以下あるいは rSO2がベースラインの 80%未満に低下した場合を危険として介入を行うと脳障害の軽減が可能であったと報告している7).また Norwood の手術を施行した 22例において術後の rSO2の 45%以下の 3時間の低下とMRIでの異常所見との関連が示されている8).16症例(大血管転位症 11例,左心低形成 4例,大動脈

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縮窄症 1例)の先天性心疾患のうち 6例で術後にMRI上新たな神経障害を生じた報告では障害群で大動脈遮断時の rSO2が低値であったことが提示されている9).左心低形成 50症例の内 18例で術後循環不全を含めた合併症を生じたが,合併症を起こした 18例の術後 48時間の rSO2値は生じなかった症例よりも低値を示した10).

参考文献 1) Fenton KN, Lessman K, Glogowski K, Fogg S, Duncan KF: Cerebral oxygen saturation does not normalize until after stage

2 single ventricle palliation. Ann Thorac Surg 2007; 83: 1431-6 2) Kussman BD, Wypij D, DiNardo JA, Newburger JW, Mayer JE, Jr., del Nido PJ, Bacha EA, Pigula F, McGrath E, Laussen

PC: Cerebral oximetry during infant cardiac surgery: evaluation and relationship to early postoperative outcome. Anesth Analg 2009; 108: 1122-31

3) Andropoulos DB, Stayer SA, McKenzie ED, Fraser CD, Jr.: Novel cerebral physiologic monitoring to guide low-flow cere-bral perfusion during neonatal aortic arch reconstruction. J Thorac Cardiovasc Surg 2003; 125: 491-9

4) Rais-Bahrami K, Rivera O, Short BL: Validation of a noninvasive neonatal optical cerebral oximeter in veno-venous ECMO patients with a cephalad catheter. J Perinatol 2006; 26: 628-35

5) Kurth CD, Steven JM, Nicolson SC: Cerebral oxygenation during pediatric cardiac surgery using deep hypothermic circu-latory arrest. Anesthesiology 1995; 82: 74-82

6) Andropoulos DB, Diaz LK, Fraser CD, Jr., McKenzie ED, Stayer SA: Is bilateral monitoring of cerebral oxygen saturation necessary during neonatal aortic arch reconstruction? Anesth Analg 2004; 98: 1267-72, table of contents

7) Austin EH, 3rd, Edmonds HL, Jr., Auden SM, Seremet V, Niznik G, Sehic A, Sowell MK, Cheppo CD, Corlett KM: Benefit of neurophysiologic monitoring for pediatric cardiac surgery. J Thorac Cardiovasc Surg 1997; 114: 707-15, 717; discussion 715-6

8) Dent CL, Spaeth JP, Jones BV, Schwartz SM, Glauser TA, Hallinan B, Pearl JM, Khoury PR, Kurth CD: Brain magnetic resonance imaging abnormalities after the Norwood procedure using regional cerebral perfusion. J Thorac Cardiovasc Surg 2006; 131: 190-7

9) McQuillen PS, Barkovich AJ, Hamrick SE, Perez M, Ward P, Glidden DV, Azakie A, Karl T, Miller SP: Temporal and ana-tomic risk profile of brain injury with neonatal repair of congenital heart defects. Stroke 2007; 38: 736-41

10) Phelps HM, Mahle WT, Kim D, Simsic JM, Kirshbom PM, Kanter KR, Maher KO: Postoperative cerebral oxygenation in hypoplastic left heart syndrome after the Norwood procedure. Ann Thorac Surg 2009; 87: 1490-4

7. 本邦の心臓血管手術における近赤外線脳酸素モニターの使用状況

<Summary statement>・ 本邦の心臓および大血管手術において,近赤外線脳酸素モニターは 84%の施設で使用されており,その

90%以上が有用と評価している.・ 本邦の頸動脈手術において,近赤外線脳酸素モニターは 64%の施設で使用されており,使用施設の大部分が有用と評価している.

<解 説> 日本心臓血管麻酔学会では,全国の麻酔科関連施設等,487施設を対象に心臓血管麻酔における近赤外線

表 1 小児の NIRSと神経障害,予後

著者雑誌 報告年(号 : 頁)症例数 手術 対照症例 機種 異常値実測値

(基準値) 障害検出 神経学的障害

Kurth et al.5)

Anesthesiology.1995

82:7426 VSD,SV,

Fallot,TGA新生児,乳児,幼児

NIM 3例 障害症例は DHCA移行までの時間が短く直前の rSO2低い

Austin et al.7)

J Thorac Cardiovasc Surg 1997

114:707250 Congenital 新生児,乳児,

幼児INVOSTM

3100rSO2≦(80%) TCDと相補的診断 モニタ介入で神経学的異常

(24%から6%)入院期間を短縮.Dent et al.8)

J Thorac Cardiovasc Surg2006

131:19022 HLHS 新生児 INVOSTM

5100rSO2<45%

180分73%MRIで異常 rSO2低下と関連

McQuillen et al.9)

Stroke2007

38:73616(52)

HLHSTGA

新生児 NIROⓇ 300

MIR異常 6例 大動脈遮断時 rSO2低値と異常所見の関連

Phelps et al.10)

Ann Thorac Surg2009

87:1490 50 HLHS 新生児 INVOSTM 合併症 18 53.8%

合併症 32 60.8%術後合併症 rSO2低下と関連

VSD:心室中隔欠損症,SV:単心室,Fallot:ファロー四徴症,TGA:大血管転位,HLHS:左心低形成,TCD:経頭蓋ドプラ

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脳酸素モニターの使用状況のアンケート調査を実施し,185施設(回収率 38%)より回答が得られた1).心臓および大血管手術についての回答があった 184施設中 155施設(84%)で使用されており,心臓血管手術の全例での使用は 70施設(38%)であった.29施設(16%)では近赤外線脳酸素モニターを使用していなかった.近赤外線脳酸素モニターを使用しない理由として,コストの問題,保険適応がない,所有していない,など病院の経済的な事項がみられた.使用施設の 90%以上で,心臓手術中や人工心肺中の脳循環の管理に有用であると回答した.頸動脈内膜剥離術では,回答のあった施設の 47%の施設で全例使用していたが,36%の施設では使用していなかった.頚動脈内膜剥離術での近赤外線脳酸素モニター使用施設の大部分で,脳低灌流の検知や過灌流の管理に有用であったと回答している.心臓および大血管手術,頸動脈手術以外で近赤外線脳酸素モニターを使用する症例として,脳梗塞の既往,頸動脈狭窄症,もやもや病,血行再建を伴う脳動脈瘤などが報告されており,58施設では頸動脈狭窄を有する患者を使用対象としていた.

参考文献1) 川口昌彦, 吉谷健司, 石田和慶, 横田美幸, 上園晶一, 野村 実. 本邦における周術期の近赤外線脳酸素モニター使用の現状. 日本臨床麻酔学会誌 2015; 35(5): 651-659

最 後 に

 心臓血管手術における周術期脳障害発生の状況とそのメカニズム,脳障害予防の一手段としての近赤外線脳酸素モニターの原理,適応,使用上の注意点,異常時の対応法などを概説した.近赤外線脳酸素モニターの使用が周術期脳障害の発生を軽減するというエビデンスは未だ十分とは言えないが,非侵襲的かつ連続的に使用可能な近赤外線脳酸素モニターの使用により術中に発生する脳循環代謝の異常を早期に発見できることが示されている.近赤外線脳酸素モニター使用のアウトカムへの効果については,更なる検討が必要である.特に,市販されている各機種の精度についても更なる検討が必要と考えられる.近赤外線脳酸素モニター(大脳皮質代謝等測定)の適正な使用と異常時の対応により,心臓血管手術後の機能的予後改善に寄与できればと考える.

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