クリの超低樹高栽培に関する研究(5)を1000μmoll rrus、co...

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クリの超低樹高栽培に関する研究(5) 誌名 誌名 岐阜県中山間農業技術研究所研究報告 = Bulletin of the Gifu Prefectural Research Institute for Agricultural Sciences in Hilly and Mountainous Areas ISSN ISSN 13465708 著者 著者 神尾, 真司 松村, 博行 巻/号 巻/号 3号 掲載ページ 掲載ページ p. 13-21 発行年月 発行年月 2004年8月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: クリの超低樹高栽培に関する研究(5)を1000μmoll rrUs、co ,濃度を360ppm、葉面温度を 25 Cに設定して、晴天日の13時から14時の間に実 施した。[超低樹高栽培]

クリの超低樹高栽培に関する研究(5)

誌名誌名岐阜県中山間農業技術研究所研究報告 = Bulletin of the Gifu PrefecturalResearch Institute for Agricultural Sciences in Hilly and MountainousAreas

ISSNISSN 13465708

著者著者神尾, 真司松村, 博行

巻/号巻/号 3号

掲載ページ掲載ページ p. 13-21

発行年月発行年月 2004年8月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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岐阜県中山間農業技術研究所報告第3報: 13~21 (2003)

クリの超低樹高栽培に関する研究

第5報収量性向上要因の解析

神尾真司・松村博行

Studies on super-low-height chestnut cultivatton (5)

Analysis of yield increasing factors

Shinji Kamio and Hiroyuki Matsumura

要約:超低樹高栽培が多収でありながら大果を安定して生産できる要因を解析するため、地上部の樹体特

性、地上部の処理による地下部の生育特’性並びに超低樹高栽培の特徴である長結果母枝の光合成能力を調

査した。超低樹高栽培樹の樹冠内相対照度は、主幹付近の中心部を除いては大部分で50%以上と高く、安

定着果に必要な最少相対日射要求量を満たしていた。また新梢発生数、新梢伸長量は慣行低樹高栽培樹と

同等の新梢が発生し、その内訳は結果母枝から発生した新梢の割合が多く、その平均新梢長も長かった。

地下部では慣行樹に比べ長く太い根が多く見られ、根部乾物重が多かった。さらに、結果母枝の光合成速

度は‘筑波’では肥大期以後、 ‘丹沢’では落花後から収穫期まで慣行栽培樹より高く維持され結果母枝

中全炭素含有率(C率)も高かった。また、結果母枝候補枝となる発育枝の光合成速度が高く、休眠期に

測定した超低樹高栽培樹の結果母枝中のC率も高かった。以上のことから、超低樹高栽培樹はカットパッ

クと強せん定により旺盛な新梢の伸長、根の伸長・更新を繰り返すことで樹勢が維持され、その特徴であ

る長結果母枝は結果枝長が長く葉数が多く、その立体的な枝の配置と樹冠の縮小で受光態勢が良くなるの

に加え光合成速度が高く維持されるため、大果の安定生産が可能となると考えられた。。

キーワード:クリ、超低樹高栽培、地上部、地下部、光合成速度

I 緒言

筆者らは、前報までに樹齢が15年以上経過した

クリ樹をカットパックとせん定法改善(超低樹高

栽培法)によりせん定位置を2.5m以下とし、せん

定作業の省力化と収量性の向上が可能となること

を報告した。

本報では、超低樹高栽培樹の地上部の樹体特性、

地上部の処理が地下部の生育に及ぼす影響を調査

し、慣行低樹高栽培樹と比較検討することで収量

性向上要因を解析した。

II 材料及び方法

試験 1. 地上部の樹体特性

樹冠内の光環境を比較するため、当研究所中津

川分室の果樹ほ場に植栽されている超低樹高栽培

への移行処理を施した‘丹沢’を供試し (1995年

1月処理)、1998年9月10日(収穫直前)に主幹から

東西南北各方向へ主幹を中心に2m、高さ5mの範囲

内をlm単位で区分して、その位置の相対照度を測

定した。

樹幹内の盤果の分布を比較するため、 1999年9月

8日に‘筑波’を供試し主幹を中心に東西南北各方

-13-

向へ3.5m、高さ5mの範囲内をl辺lmの立方体ブロッ

クで区分し、ブロック内の盤数を計測した。

果実生産力を比較するため、 2000年12月に‘筑

波’を供試し、果実収量を調査した樹について発

生部位別(主枝、骨格枝および結果母枝)の新梢

の長さ、本数を調査した。また、新梢の落葉跡を

カウントし葉数を算出した。葉面積は、新梢の伸

長が停止した9月に標準的な結果母校・発育枝それ

ぞれ2本の葉面積を測定し、 l枚当たりの平均葉面

積を算出して、葉数に乗じ算出した。

対照は、同樹齢の慣行低樹高栽培樹(以下「慣

行樹」とする)とした。

試験2. 地上部の処理が地下部の生育に及ぼす

影響

試験 1と同様に超低樹高栽培への移行処理を施

した‘筑波’を供試し、 1999年9月に 1樹の1/4に

あたる主幹から南方向、西方向へ4mの正方形部分

(16rrf)を、深さ80cmまで根をなるべく切断しな

いように掘り、根の状態を観察した。その後、根

を採取し太さ別に乾物重を測定した。

あわせて 1樹当たりの全葉数を調査するととも

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神尾・松村(2003):第 5報 収量性向上要因の解析

に、標準的な結果母枝・発育枝それぞれ2本の葉面

積、葉重(乾物重)を測定し、1樹当たりの葉面積、

葉重を算出した。枝幹部乾物重(材積重)は、骨

格枝 ・結果母枝の長さ及び直径を測定して体積を

求め、冬期せん定枝から測定した単位体積当たり

の乾物重を乗じて算出した。

試験3.栽培法の違いが結果枝の光合成速度に

及ぼす影響

超低樹高栽培(20年生時に処理)及び慣行栽培の

g筑波’ ‘丹沢’ 27年生樹を供試し、結果枝に着

生した葉の光合成速度を開花直前( 6/4)から収穫

後(10/15)まで約1ヶ月毎に測定した。また、収穫

後(10/15)に翌年の結果母枝候補枝に着生した葉

についても測定した。測定葉は、結果母枝の先端

からl~5節の結果枝(各2本)で開花直前(6/4)に展

葉した葉各 1枚とした。結果母枝候補枝は、最上

位展開葉とした。測定は、携帯型光合成蒸散測定

装置(CIRAS 1)を使用し、チャンパー内の光強度

を1000μmoll rrUs、co,濃度を360ppm、葉面温度を

25°Cに設定して、晴天日の13時から14時の間に実

施した。

[超低樹高栽培]

3m 100.。100.。100.。100.。100.0

2m 76.9 盤盟 83.3 76.9 .. lm 27. 7 .. .. 肱35ェ4 !'43.1

2m lm 主監一」旦 2m

試験4.栽培法の違いが結果母枝、発育枝の全

窒素、炭素含有率に及ぼす影響

超低樹高栽培(20年生時に処理)及び慣行栽培の

‘筑波’ 4丹沢’ 27年生樹を供試し、休眠期の3月上

旬から発芽期の4月上旬までは 10日間隔で、以後

は1ヶ月間隔で8月上旬まで、結果母枝各 3本を採

取し、部位別(芽、枝、葉、盤果)に乾物重を測

定後、 CNコーダー(MT-700)で全炭素、全窒素含

有量を測定し含有率を算出した。

直結果

試験 1. 地上部の樹体特性

慣行樹における相対照度は、最上部より lm下

の大部分の位置で60%以下に低下し、さらに lm

下では25%以下と大幅に低下した。これに対し、

超低樹高栽培樹(以下「超低樹j とする)は、最

上部より l~2m下部で、も、主幹付近の中心部を除

いては大部分で50%以上と高かった。方向別に比

較しても同様の傾向であった。 (図 1)。

慣行樹の着醤位置は、高さ別で、は3~5mの位置

に多く分布しており、横方向は隣接樹と重なる主

幹から 3.5mの位置まで分布が認められた。これ

[慣行栽培]

5m I 100.。4m 100. o I 100. o

3m I園盟国盟 I.43, 6

2m I園田|四 111m149~ ~ 1 m I圃 l11ml皿 |田 |廻

2m lm 主幹 lm 2m 東 西東 西

5m 100.。ト\\\ ト\ 100.。4m f 36~生., 100.。100.。100.。90.9

3m 100.。100.。100.。100.0 100.。 3m .. .. 43.6 医盟 63.6

2m 67. 7 38.5 83. 3 61. 5 49.2 2m ・... 置圏.. .. lm 69. 2 ml .. Im 56.9 lm .. .. .. .. ..

2m lm 主幹 lm 2m 2m lm 主幹 lm 2m 南 北 南 北

図 1 栽培法の違いと相対照度'( 1999)

z 品種は‘丹沢’ 24年生樹、各位置の値を南北、東西方向に平均した値(%)

-14-

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神尾・松村(2003):第 5報 収量性向上要因の解析

高さ [慣行栽培]

高さ

4m

3 m 2

2.5m"'

[超低樹高栽培] 5m

10 4

9 3

1 10 2

主幹 西 東

2 6 2 6 11

4 6 5 5 6 6

4 3 15 4 5

1 1 4

1

主幹 西

e "2. 5m 3. 5111く e ;.3_ 5m

図2 栽培法の違いと着替割合の垂直分布z(1999)

z品種は ‘筑波’ 24年生樹、各プロックを南北方向に平均した値(%)

1 7"'01クの 1辺は Im 太線は樹冠の境界を示す

に対し、超低樹は高さ別で‘はおおむね1~3mの位

置に分布し、横方向は 2.5m以内に分布していた

(図 2)。

慣行樹の新梢発生本数は、 1樹当たり 1284本で

このうち骨格枝から発生した新梢(発育枝)は35

2本、結果母枝から発生した新梢が578本で、あった。

これに対し超低樹は、慣行樹とほぼ同等の1103本

が発生していたが、のうち発育枝は243本と慣行樹

より少なく、結果母枝上の新梢が673本と多かった。

結果母枝 1本当たりの本数に換算しでも、慣行樹

の13.4本に対し23.2本と多かった。新梢長も同様

に合計で、は同等で、あったが、発育枝は慣行樹の方

が長く、結果母枝上の新梢は超低樹の方が長かっ

た。平均新梢長は、発育枝では同等であったが、

結果母枝上の新梢は超低樹の方が長かった。結果

母枝 1本当たりに換算しても、慣行樹に比べ超低

樹の方が本数が多く長かった(表 1)。

主幹断面積当た りに換算した新梢伸長量も、同

様に総新梢長は同等であるが超低樹は結果母校上

の新梢の割合が高かった(表 2)。

樹冠占有面積当たりに換算すると、樹冠占有面

積が超低樹は8.Orrfと慣行樹の1/2以下であるため

発育枝、結果母枝上の新梢し、ずれも本数が多く長

かった(表 3)。

1樹当たりの葉数は、慣行樹に比べ超低樹の方

が多く、葉面積も大きかった。結果母枝 1本当た

りに換算した葉数、葉面積は慣行樹の93枚、 0.52

dに対し超低樹は225枚、1.29 rrfと2倍以上大きか

った。従って、葉面積指数は慣行樹の2.7に対し、

超低樹は9.0と高かった(表4)。

1樹当たり収量を要素別に換算 して比較すると、

主幹断面積当たりでは同等であったが、樹冠占有

面積当たりでは慣行樹の 656g / rrf Iこ対し超低樹

は1718g/rrfと3倍程度、結果母校当たりでは慣行

樹318g/rrfに対し474g/rrfと 1.5倍程度多かっ

た。結果母枝の葉面積 1rrf当たりに換算すると、

慣行樹の610g/ぱに対し、超低樹は367g / rrfと

少なかった(表 5)。

表 1 栽培法の遣いと新梢発生量および伸長量(2000)

発育枝z 結果母枝上の新梢y 結果母技l本当tりの糊伸長量 合計栽培法性持 新情長 平均新橋長 本数 新梢長 平均輔長 本数 新梢長 器量生本数 繍摘長

(本) (cm) (cm) (本) (cm) (cm) . (本) (cm) (本) (cm)

超低 243 23831 70. 6 673 25783 38. 3 23.2 889. 1 1103 49614

1貫行' 352 37506 71. 9 578 15572 26.9 13. 4 362. 1 1284 53078

z 骨格枝から発生した新梢。新梢長には、発育枝上の副梢も含まれるが本数には含まれない。また平均新梢長は副梢は含まれない。y 結果母校数超低 29本/樹 慣行 43本/樹

表2 栽培法の遣いと主幹断面積当たりの新梢伸長量(2000)

結果母枝上の新梢 総新梢長本数(本Irrf) 蹄長(cm/rrf) (cm/ rrf)

1. 12 (122) 42. 8 (173) 82. 4 ( 98)

0. 92 (100) 24. 7 (100) 84. 2 (100)

()内は慣行を100としたときの値

栽培法 主幹断面積z 発育枝crrf 本数(本Irrf) 糊長(cm/rrf)

超低 602. 6 ( 96) 0. 40( 71) 39. 6 ( 67)

慣行 630. 7 (100) 0. 56(100) 59. 5 (100)

z 主幹断面積=π(地上30cmの位置での幹周(cm)÷2π)2

「同

υ

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神尾・松村(2003):第 5報 収量性向上要因の解析

表3 栽培法の違いと樹冠占有面積当たりの新梢伸長量(2000)

栽培法 樹冠占有面積z 発育 枝rd 本数(本Ird) 糊長(cm/rd)

結果母枝上の新梢 総新梢長本数(本/rd) 糊長(cm/rd) (cm/ rd)

超低

慣行

8. 0( 38) 30. 4(180) 2979(165)

20. 8 (100) 16. 9 (100) 1803 (100)

84. 1 (122) 3223 (430) 6202 (243)

27. 8 (100) 749 (100) 2552 (100)

z 樹冠の東西方向の長さ×南北方向の長さ× 0. 8として算出()内は慣行を100としたときの値

表4 栽培法の違いと葉数、葉面積(2000)

栽培法 葉数(枚)l樹 結果蹴結果母校l柑tり 1樹

葉面積指数葉面積(rd)結果母校 結果母校l相tり

超低 12471 6511 225

慣行 10232 4015 93

71.8 37.5 1.29

57.0 22.4 0.52

9.0

2. 7

単告当た'.211主幹断面積 椀面積 幅果轟 結果母校葉面積

(g/ni) (g/ rd) (g/本) (g/ni)

23 1718 474 367

22 656 318 610

表5 栽培法の違いと収量性(2000)

栽培法 総収量 1果重 2L以上果実収量

(g/樹) (g) (g)

超低 13750 20.0 8829

慣行 13653 19.4 7325

試験2. 地下部の生育特性

超低樹の地下部を観察したところ、慣行樹に比

べ長く太い根が多く見られた。それらの根は表面

がなめらかで処理後に伸長肥大したと推察された

(写真 1)。

超低樹の根は、主幹から外へ2~3mの位置まで分

布しており、最長で3.4mで、あった。深さは、主幹

からlm付近で80cmに達し、その後徐々に上昇して

2. 5m付近では20cm程度、 3m付近で、は地表から5cm

程度の深さで伸長していた(図 3)。

園 園-1

3m

2m

3m

2m

lm -fl / ~ 200 3m

超低樹の根部の乾物重は、慣行樹に比べて大き

かった。太さ別では、慣行樹と比べ直径21mm以上

の根が多く、それ以下の根には大きな差は見られ

なかった(表 6)

超低樹の材重及び葉重は、慣行樹に比べやや少

なかったが、根重は多かった。このため、単位根

重当たりの材重の割合(T-R率)は、慣行が8.3で

あったのに対し 4.5と小さかった。単位葉重当た

りの材積重の割合(材葉比)は、慣行樹の12.1に

対し11.5とやや小さかった(表 7)。

国一2

主幹冶圃 ' n n、

地下 、、 /戸~ 5 |、.... _/"' 20

y 80y

340 西,~I I 西

主幹 lm 2m 3m 主幹 lm 2m 3m

図3 超低樹高栽培樹の根の生育状態(1999)a 慣行栽培樹 b 超低樹高栽培樹

z 単位cm y 深さ 単位cm

nhU

4EA

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写真 1 栽培法の遣いと根の状態左超低樹高栽培樹右慣行栽培樹

神尾・松村(2003)・第 5報 収量性向上要因の解析

表6 栽培法の違いと根の太さ別乾物重 z(1999) 載措法y 根の太さ別乾物重(g/樹) 計

< 2. 5mm 2. 5 5 6 10 11-20 21 50 50mm< (g/樹)

超低 432 828 2318 5820 9371 6105 24874

(1.7") (3.4) (9. 3) (23. 4) (37. 7) (24. 5)

慣行 561 1372 2723 5454 2928 4491 17529

(3. 2) (7. 8) (15. 5) (31. 1) (16. 8) (25. 6)

z値は、樹の1/4(主幹から南方向、西方向へ4mの正方形部分 (16nf)、(深さ80cm)のデータから換算した 1樹当たりの乾物重

y超低=超低樹高栽培、慣行=慣行栽培いずれも‘筑波’ 24年生樹x割合(%)

表7 栽培法の違いが器官別乾物重、 T-R率

および材葉比に及ぼす影響(1999)栽培法z 材重Y 葉重根重 T-R率材葉比

(T) (L) (R) (T /R) (T /L)

kg kg kg

超低 111. 6 9. 7 24.9 4.5 11. 5

慣行 145.2 12.0 17.5 8. 3 12. 1

z超低=超低樹高栽培、慣行=慣行栽培いずれも a筑波’ 24年生樹

y結果母校上の新梢含まず。

試験 3.栽培法の違いが結果枝の光合成速度に

及ぼす影響

‘筑波’において慣行樹の結果枝の葉の光合成

速度は、落花後(7/3)に11. 2 μmoll rrf/ sと最も高

くなり、その後は徐々に低下して、収穫直前(9/12)以降は4.6~4.1 μ rnol/ni/sで、推移した。これ

に対し超低樹では、慣行と同様に落花後11.4 μmo

l/rrUsで、最高となりその後低下したが、収穫直前

以降は7.5~8.8μrnol/ni/sと慣行樹に比べ高く推

移した。

‘丹沢’において慣行樹の結果枝の葉の光合成速

度は、開花直前(6/4)以降低下し、収穫期(9/12)

に再び上昇したが、収穫後(10/15)には低下した。

これに対し超低樹は、落花後に12.5μrnol/ni/sと

最も高くなり、その後低下したが、その値は肥大

期まで慣行樹より高く推移した。収穫期以後は同

様に推移した。

収穫後(10/15)に調査した結果母枝候補枝の光

合成速度は、 ‘筑波’ ‘丹沢’ともに慣行樹に比

べ超低樹の方が高かった(図4)。

( μ mol/rri/s) ー・ー超低樹高-ー慣行( μ mol!m'!s) ーーー超低樹高ート慣行

16 ・15.016

12.5 結果枝結果校 14 14

11.4 12

光 10光 10合~ 成 8 8.8 成 B 発育枝

同ご\ 、戸’7 •• ...... "'-....57 ×72 速 6 速 6 度

・ 4.3度

4 4 4.6 4.6 3.8 4.1

発育枝x 1.5 2 。 。開花直前 落花後 肥大期 収種直前 収穫後 収議後 開花直前 落花後 肥大期 収穫期 収穫後 収穫後

測定日 6/4 7/3 自/2 9/12 10/15 10/15 測定日 6/4 7/3 8/2 9/12 10/15 10/15

品種‘筑波’

図4 栽培法の遣いと光合成速度 (2001)

品種‘丹沢’

t4EA

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神尾・松村(2003):第 5報 収量性向上要因の解析

試験4.栽培法の違いが結果母枝、発育枝の全

窒素、炭素含有量に及ぼす影響

結果母枝の枝部の全炭素含有率は、 ‘筑波’

丹沢’ともに休眠期から養分転換期と考えられる

開花直前まで低下し、以後肥大期まで上昇した。

芽部では発芽直前(3/22)まで徐々に低下したが、

発芽期に一旦高くなり展葉期には再び低下した。

(図 5、6)。

・栽培法の違いで比較すると、 ε筑波’の枝部で

は休眠期から展葉期までは、超低樹、慣行樹とも

同程度で推移したが開花直前以降は超低樹の方が

慣行樹より高く推移した。芽部では、発芽30日前

(3/2)は慣行樹に比べ超低樹の方が高かったが、

以後は同程度で推移した(図 5)。 ‘丹沢’の枝

部では、慣行樹に比べ超低樹は休眠期から肥大期

まで同等からやや高く推移した(図 6)。芽部で

は発芽20~30日前まで超低樹がやや高く推移した

が、発芽期以後は慣行樹が同等からやや高く推移

した(図 6)。

結果母枝の枝部の全窒素含有率は、 ‘筑波’

丹沢’ともに休眠期から展葉期、開花直前まで除

除に低下し、以後肥大期までは横ばいからややわ

ずかに低下する傾向であった(図7、8)。

栽培法の違いで比較すると、 ‘筑波’の枝部、

芽部ともにほぼ同等で推移した(図 7)。 6丹沢

’では枝部で慣行樹に比べ超低樹がやや低く推移

したが、芽部ではほぼ同等に推移した(図8)。

(%) ー・ー超低樹高ート慣行4Q T

主L旦 芽部枝部

鍾A 鍾孟全 35

炭素含 30 I 引。\『『V d乙 31.0 31.0

率 25

25 2

20

休眠期 発芽期 展葉期開花直前落花後 肥大期 休眠期 発芽期 展業期

測定月日 3/2 4/2 5/1 612 7/2 8/1 3/2 3/12 3/22 4/2 5/1

図5 ‘筑波’の枝部・芽部の全炭素含有率の推移(2001)

(%) 『ト超低樹高ート慣行

40 T 芽部

枝部益斗 皇止E 星生E 呈昆呈 35.6

全 35

素含 30T 止,..,, マ,.... 一一

30.9 辺429.8 30.4

率 25

20

休眠期 発芽期 展葉期開花直前落花後 肥大期 宅男期 3/12 3/22 発事F 展5/葉1期測定月日 3/2 4/2 5/1 6/2 7/2 8/1

図6 ‘丹沢’の枝部・芽部の全炭素含有率の推移(2001)

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Page 8: クリの超低樹高栽培に関する研究(5)を1000μmoll rrUs、co ,濃度を360ppm、葉面温度を 25 Cに設定して、晴天日の13時から14時の間に実 施した。[超低樹高栽培]

神尾・松村(2003):第 5報 収量性向上要因の解析

(%) ー』超低樹高ート慣行 (弛)1.5 T s.o T

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4.0

窒 1.0 ・7ぐ //\ 3.0 素 OJ!9 、、;含

-.......---Jill'、0.62 鍾皇 日.44

且盆 1.0

0.0 に休眠期 発芽期 展葉期開花直前落花後 肥大期 休眠期 発芽期 展葉期

測定月日 3/2 4/2 5/1 6/2 712 8/1 3/2 3/12 3/22 4/2 5/1

図7 ‘筑波’の枝部・芽部の全窒素含有率の推移(2001)

(%) ー←超低樹高ート慣行 (目)15 T 5.0

’.20 枝部 生1

全,._____ 1.07 4.0

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0.0 休眠期 発芽期 展葉期 開花車前 蒸花後 肥大期 休眠期 発芽期 展業期

測定月日 3/2 4/2 5/1 自/2 7/2 8/1 312 3/12 3/22 4/2 5/1

図6 ‘丹沢’の枝部・芽部の全窒素含有率の推移(2001)

N 考察

塚本川らにより開発された短幹変則主幹形(岐

阜方式低樹高栽培法)で栽培して高樹高、高樹齢

となった樹を主枝のカットパックとせん定法の変

更で低樹高化を図る超低樹高栽培法では、カット

パック翌年は結果母枝が少ないため低収量となる

が、 2年目年以降は骨格枝の拡大に伴って収量が

増加し、最盛期並みの収量が安定して得られる(神

尾ら。)。また、多収量の上に 2L以上果実の割合

が80%以上と大果の生産が可能である。多収の要

因としては結果母枝当たりの着盤数が多いことが

あげられるが、一般的に 1結果母枝に多く着盤す

れば小果となったり、多収となると翌年の結果母

枝が充実不良で隔年結果になることが予想される

が、超低樹高栽培では多収でありながら大果を安

定して生産できる。この要因を解析するため、地

上部の樹体特性、地上部の処理が地下部の生育に

及ぼす影響ならびに光合成速度、結果母枝の全炭

素、全窒素含有率を調査した。

果樹一般に光条件は樹勢維持、花芽着生、収量

を左右する極めて重要な要素である。特にクリは、

光要求量が大きく、耐陰性が弱い。荒木ら 2)は、ク

リの安定着果に必要な最少相対日射要求量は30~

35%の光量で、それを左右するのが樹冠間隔及び

樹冠占有率であり、そして樹高5~6m、樹冠幅6~7mの偏円筒形の場合の好適樹冠占有率(樹冠の下

枝まで着果を図ることができる範囲内の最狭樹冠

間隔)は71~74%であると報告している。本研究

において超低樹高栽培樹の樹冠内相対照度を調査

したところ、最上部より 1~2m下部(地上1~2

m)でも、主幹付近の中心部を除いては大部分で

50%以上と高く、安定着果に必要な最少相対日射

要求量を満たしていた。超低樹高栽培樹は、主枝

をカットパックしているため処理後8年経過して

も樹冠占有面積が10~15nfで推移しており(神尾

ら勺、これを樹冠占有率に換算すると40~60%と

なることから樹冠間隔が広いことを示している。

このことが受光態勢を良くし、樹冠内部まで光を

透過させることができる要因であると考えられた。

クリの果実肥大を左右する要因について、荒木

1)はクリの醤果の発育は結果枝の資質によって大

きく左右され、結果枝が太くなるほど大きくなり、

結果枝長、結果枝の葉数は太さほどの影響を受け

ないと報告している。また、果実肥大は結果枝単

位ではなく結果母枝単位の葉に依存すると報告し

ている。超低樹高栽培樹の地上部の樹姿は、慣行

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Page 9: クリの超低樹高栽培に関する研究(5)を1000μmoll rrUs、co ,濃度を360ppm、葉面温度を 25 Cに設定して、晴天日の13時から14時の間に実 施した。[超低樹高栽培]

神尾・松村(2003):第 5報 収量性向上要因の解析

低樹高栽培樹と大きく異なり、主枝がなく骨格枝

から直接発生した結果母枝と、骨格枝の不定芽か

ら発生した新梢(発育枝)で構成されている。そ

こで、新梢発生数、新梢伸長量について、慣行低

樹高栽培樹と比較検討したところ、超低樹高栽培

樹は樹冠占有面積が小さいにもかかわらず慣行低

樹高栽培樹と同等の新梢が発生し、その内訳は結

果母枝から発生した新梢の割合が多く、その平均

新梢長も長かった。主幹断面積当たり、樹冠占有

面積当たりに換算しても同様で、超低樹高栽培樹

の結果母枝上の新梢発生数が多く、長さも長かっ

た。また、葉数、葉面積を調査したところ、結果

母枝当たりの葉数、葉面積は慣行低樹高栽培樹の

2倍以上大きかった。葉面積指数は、慣行低樹高

栽培の 2.7に対し超低樹高栽培樹では樹冠占有面

積が小さいため 9.0と大きかった。クリの低樹高

栽培における葉面積指数は荒木らへ佐久間ら7)//>

6~7と報告してドるが、超低樹高栽培はそれより

大きかった。これは本栽培法が骨格枝から垂直方

向に発生した発育枝を結果母枝として配置してい

るためと考えられる。この値は、他の果樹での好

適な葉面積指数と比較しても大きい値であり、一

定以上の葉は無駄になっているとも考えられるが、

先に述べたように樹冠下部の光量が確保されてい

るため、通常よりも葉が有効に働いているものと

推察される。以上のことから、本栽培法は立体的

な枝の配置で受光条件が良く、かっ結果枝を含む

結果母枝上の新梢が長く、葉数が多いことが大果

の多収につながるものと考えられた。

樹齢が20年以上経過しても多収を維持できる超

低樹高栽培法では、地上部のみならず地下部の生

育が影響していると考えられる。塩沢ら剖は、クリ

の強勢樹と弱勢樹の根群の発達について比較し、

弱樹勢樹は根群の発達が悪いために地上部の生育

も悪かったと報告している。これは土壌物理性の

違いから生じた結果であり本研究とは異なるが、

根量が地上部の生育(新梢発生、伸長)に影響を

及ぼすということである。本試験において、地上

部の処理と地下部の生育との関係を調査するため

地下部を堀り観察したとこる、超低樹高栽培樹で

は慣行樹に比べ長く太い根が多く見られ、根部乾

物重が多かった。合わせて調査した材積重が慣行

樹に比べやや少なかったことから、単位根重当た

りの材積重の割合(T-R率)は慣行低樹高栽培樹よ

り小さかった。また単位葉重当たりの材重の割合

(材葉比)も同様にやや小さかった。菊池ら

ンゴで、夏季せん定によるR一T率の増大は翌年度に

持ち越され、新梢の強樹勢化をもたらすと報告し

ている。超低樹高栽培では、カットパックと強せ

ん定による材部の減少でR-T率が増大し、これが

翌年の旺盛な新梢伸長につながり、さらにその旺

盛な新梢伸長により根の伸長・更新が促されるこ

とで樹勢が維持され多収が継続できると考えられ

た。

田比良ら吋まクリ‘筑波’および‘石鎚’におい

て、側枝年齢が 1~2年生の枝で構成されている

樹は、収量が多く品質が優れており、その結果母

枝の光合成速度が比較的高いレベルで維持されて

いたことから、収量・品質と光合成速度との関連

を指摘している。クリの果実肥大(乾物重増加)

は収穫の1ヶ月前頃から急速に進むことが一井出や

岡村町こよって明らかにされている。従ってこの時

期に日照不足や干ばつとなると果実重が小さくな

る。このことから、収穫直前の結果母枝の葉の光

合成速度は果実肥大に影響すると考えられる。本

試験において、結果母枝の光合成速度を開花直前

以降1ヶ月間隔で測定したところ、 ‘筑波’では

肥大期以後、 ‘丹沢’では落花後から収穫期まで

慣行栽培樹より高く維持されていた。合わせて展

葉期以降の結果母枝中全炭素含有率(C率)を分

析した結果ところ、慣行に比べ超低樹高栽培樹が

高く推移しており、その傾向は光合成速度の高さ

と一致していた。このことから、超低樹高栽培樹

の結果母枝は着醤数が多くても着葉数が多くかっ

光合成速度が果実肥大期に高く維持されることか

ら果実への同化産物が十分転流し平均果重を大き

くできるものと推察された。

また、収穫後に翌年の結果母枝候補枝となる発

育枝の光合成速度を測定したところ、慣行栽培樹

のそれに比べ高かった。休眠期に測定した超低樹

高栽培樹の結果母枝中のC率は慣行栽培樹より高

かった。クリの雌花の分化は2月下旬~ 3月上旬

に開始される。よって結果母枝がいかに充実して

いるかによって雌花数が決定される。このことか

ら、超低樹高栽培では収穫後まで結果母枝の光合

成速度が高く維持されるため結果母枝の充実につ

ながり、雌花が多く着生するものと推察された。

ことと関係があると推察された。

以上の結果、超低樹高栽培樹はカットパックと

強せん定により旺盛な新梢の伸長、根の伸長・更

新を繰り返すことで樹勢が維持され、その特徴で

ある長結果母枝は結果枝長が長く葉数が多く、そ

の立体的な枝の配置と樹冠の縮小で受光態勢が良

くなるのに加え光合成速度が高く維持されるため、

大果を安定生産できると考えられた。

謝辞

本研究を進めるに当たり多大なご協力を頂いた

中山間地農業試験場(現中山間農業技術研究所中

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Page 10: クリの超低樹高栽培に関する研究(5)を1000μmoll rrUs、co ,濃度を360ppm、葉面温度を 25 Cに設定して、晴天日の13時から14時の間に実 施した。[超低樹高栽培]

神尾・松村(2003):第 5報 収量性向上要因の解析

津川分室)主任農業技手成瀬誠一氏、同専門研究

員石垣要吾氏、中山間農業技術研究所技師浅野雄

二氏、また地下部の調査等実施するに当たり夏の

暑い中多大なご協力を頂いた農業指導課(現中濃

地域武儀農業改良普及センター)遠山啓司氏、本

巣農業改良普及センター(現西濃地域農業改良普

及センター)鷲見彩子氏、山県農業改良普及セン

ター(現園芸特産振興室)足立純一氏、郡上農業

改良普及センター(現中濃地域農業改良普及セン

ター)水川誠氏、恵那農業改良普及センター(現

中濃地域農業改良普及センター)小畑紀雄氏、飛

騨農業改良普及センター(現西濃地域揖斐農業改

良普及センター)山田和彦氏に感謝の意を表しま

す。

引用文献

1)荒木斉 きゅう果の発育と樹勢診断.農業

技術大系果樹編5:技33-36.

2)荒木斉・藤原俊一(1993)クリの低樹高整枝

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量と果実重に及ぼす影響.近畿中国農研.86: 13

-24.

3)一井隆夫(1960)クリ醤果の発育について(第 1

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29 : 281-286.

4)神尾真司・田口誠・柳瀬関三(2002)クリの超

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6)岡村和彦(1970)くり果実の発育について。 (1)

くり果肉の発育.園学要旨(中・四国支部発要)

:316.

7)佐久間文雄・石塚由之・渡辺幸夫 (1993)ク

リの低樹高整枝せん定に関する研究(第4報)

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8)塩沢健土・青木朗(1987)クリ根群の発達.

石川農短大報.17: 1-8.

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10)塚本実・棚橋一雄(1982)クリの低樹高栽培

の確立試験.岐阜中農試レポート.5:31-39.

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