インドの“繊維力”の現状と将来 -...

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海外動向 〔北東アジアのマーケット動向〕 繊維トレンド 2006.3・4 月号 4 1.はじめに 前報では、国力を中心にインドの現状につい て中国と比べながら報告した。本報では、インド の基幹産業である繊維産業についてその現状と競 争力について報告する。 2.繊維産業の現状 (1)繊維大国インド a.世界おけるインドのシェア インドは、繊維世界生産量の約 10 %を占め、 中国に次いで世界第 2 位の繊維大生産国である。 綿花は主要な農産品であり、その生産量は年間 283 万トンと世界の 14 %を占め第 3 位である。 綿糸、綿布の紡織品は中国に次いで第 2 位を占め る。ただし、その規模は中国の 1 / 2 ~ 1 / 3 で ある。 化合繊は 208 万トンで中・韓・台に次いで第 4 位である(図表1参照)。インドの繊維貿易総量は 147 億ドルで、世界の 2 %弱しかないが、輸出額 は 135 億ドルと中・韓・台に次いで 4 番目である。 インドの“繊維力”の現状と将来 ―中国との競争に勝てるか?― 第二回 東レ株式会社 専任理事 御法川 紘一(みのりかわ こういち) 1971 年東レ㈱入社、1986 年 P.T.Easterntex(取締役工場長)、1993 年陜西華昌紡織印染有 限公司(総経理)出向、1998 年理事、繊維加工技術部長、2000 年取締役、TSD 董事長兼総 経理、TSW 董事長総経理。2004 年から専任理事。経営企画室・生産本部(高次加工・海外 特命事項)担当。 1 インドは原料生産、テキスタイル、アパレルの総合力で世界第 2 位の繊維大国であり、繊維産業は基幹産 業の一つである。ただし、その規模は中国の 1 / 2 ~ 1 / 8 しかない。 2 繊維産業は手厚い保護政策のもと、川上は財閥による寡占体制、川中・川下は膨大な数の小企業によって 形成されている。 その中で、アパレルは大企業の進出が認められ、欧米向けアパレルの躍進が著しい。 3 テキスタイルの競争力は中国に勝るが、その差はわずかである。この差が拡大する要因は少ない。 輸出型テキスタイルメーカーのインドへの進出理由は圧倒的な競争力というよりも「チャイナプラス 1」 の側面が重要視されていると言える。 要 点 綿花 綿糸 綿織物 ジュート 再生 合繊 世界 順位 3 2 2 1 4 2 5 生産量 インド インド シェア 世 界 最大生産国 14(%) 中国 11 中国 15 中国 62 バングラデシュ 7 中国 11 中国 6 中国 283 2,033 233 2,091 183 1,196 199 322 208 3,177 29 265 179 2,912 (万トン、%) 図表1 インドの繊維生産量と世界シェア(2003 年) 出所:繊維ハンドブック(化繊協会)

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海外動向〔北東アジアのマーケット動向〕

繊維トレンド 2006.3・4 月号4

1.はじめに

前報では、国力を中心にインドの現状につい

て中国と比べながら報告した。本報では、インド

の基幹産業である繊維産業についてその現状と競

争力について報告する。

2.繊維産業の現状(1)繊維大国インド

a.世界おけるインドのシェア

インドは、繊維世界生産量の約 10 %を占め、

中国に次いで世界第 2 位の繊維大生産国である。

綿花は主要な農産品であり、その生産量は年間

283 万トンと世界の 14 %を占め第 3 位である。

綿糸、綿布の紡織品は中国に次いで第 2位を占め

る。ただし、その規模は中国の 1/ 2~ 1 / 3 で

ある。

化合繊は 208 万トンで中・韓・台に次いで第 4

位である(図表 1参照)。インドの繊維貿易総量は

147 億ドルで、世界の 2 %弱しかないが、輸出額

は135億ドルと中・韓・台に次いで4番目である。

インドの“繊維力”の現状と将来―中国との競争に勝てるか?― 第二回

東レ株式会社専任理事

御法川 紘一(みのりかわこういち)1971 年東レ㈱入社、1986年 P.T.Easterntex(取締役工場長)、1993年陜西華昌紡織印染有限公司(総経理)出向、1998年理事、繊維加工技術部長、2000年取締役、TSD董事長兼総経理、TSW董事長総経理。2004年から専任理事。経営企画室・生産本部(高次加工・海外特命事項)担当。

1 インドは原料生産、テキスタイル、アパレルの総合力で世界第2位の繊維大国であり、繊維産業は基幹産

業の一つである。ただし、その規模は中国の1/2~1/8しかない。

2 繊維産業は手厚い保護政策のもと、川上は財閥による寡占体制、川中・川下は膨大な数の小企業によって

形成されている。

その中で、アパレルは大企業の進出が認められ、欧米向けアパレルの躍進が著しい。

3テキスタイルの競争力は中国に勝るが、その差はわずかである。この差が拡大する要因は少ない。

輸出型テキスタイルメーカーのインドへの進出理由は圧倒的な競争力というよりも「チャイナプラス 1」

の側面が重要視されていると言える。

要 点

綿 花

綿 糸

綿織物

ジュート

再 生

合 繊

世界 順位

3

2

2

1

4

2

5

生産量

インド インド シェア 世 界 最大生産国

14(%) 中 国

11 中 国

15 中 国

62 バングラデシュ

7 中 国

11 中 国

6 中 国

283 2,033

233 2,091

183 1,196

199 322

208 3,177

29 265

179 2,912

(万トン、%)

図表1 インドの繊維生産量と世界シェア(2003 年)

出所:繊維ハンドブック(化繊協会)

5繊維トレンド 2006.3・4 月号

インドの“繊維力”の現状と将来

中国はアパレル比率が、韓国・台湾はテキス

タイル比率が高いのに対して、インドはテキスタ

イル・アパレルが半々である。

繊維貿易収支は、日本、アメリカ、EUの先進

国の大幅な入超分(1,167 億ドル)を、中国、韓

国、台湾、インド、パキスタン等の中進国が供給

する構造になっている。ここ数年、頭打ち感のあ

る韓国、台湾に代わって、インドが中国のライバ

ルになりつつある(図表 2参照)。

b.繊維の消費量

1 人当たりの繊維消費量は 3.3kg であり、中国

の半分(03 年)で、4 年間(00 ~ 03 年)の伸び

は、12.7 %である(図表 3参照)。

GDP の拡大につれて年収 10 万ルピー(約 24

万円)以上の中間層が急激に増加しており(図表

4 参照)、生活水準向上に伴い、消費量は大きく

伸びる。05 年度は 01 年度比ミル消費で 29 %増

が予想される。

%

(億ドル、%)

日本

アメリカ

EU

中 国

韓 国

台 湾

インド

パキスタン

世 界 計

輸 出 輸 入 貿易 収支

貿易総額

テキスタイル アパレル 計 テキスタイル アパレル 計 テキスタイル アパレル 計 シェア

64 5 69 50 195 245 ▲176 114 200 314 3.7

109 55 164 183 713 896 ▲732 292 768 1,060 12.7

600 606 1,206 501 964 1,465 ▲259 1,101 1,570 2,671 31.9

269 521 790 129 160 289 501 398 681 1,079 12.9

108 36 144 31 26 57 87 139 62 201 2.4

96 28 124 12 11 23 101 1 08 39 147 1.8

96 66 135 11 1 12 123 80 67 147 1.8

60 29 89 3 0 3 8 63 29 92 1.1

1,840 2,387 4,228 1,699 2,452 4,151 77 3,539 4,839 8,378 100.0

図表2 繊維の世界貿易におけるインドのポテンシャル(2003 年)

出所:繊維ハンドブック(化繊協会)

アメリカ

E U

(kg、%)

日 本

中国

インド

1人当たりの繊維 消費量( 2003年 )

19.7

33.3

22.0

6.2

3.3 12.7

繊維生産量伸び ( 2000か ら 2003年 )

▲ 4.3

▲ 10.3

▲ 23.1

2.5 4

図表3 繊維消費量と生産量の伸び

出所:繊維ハンドブック(化繊協会)

年  収 世帯数(100万)

円換算 (単位:万円) (単位:万ルピー)

1996年度 2002年度 2009年度 (予測値) (02~09年度)

年間平均伸び率

富 裕 層 50 120 以 上 1.2 2.6 7.0 15.2%

上位中間層 30~ 50 72~ 120 32.5 46.4 91.0 10.1%

下位中間層 10~ 30 24~ 72 54.1 74.4 85.0 1.9%

低所得者層 10 未満 24 以下 77.0 57.2 30.0 - 8.8%

合 計 - - 164.8 180.6 213.0 2.4%

以 上

図表4 中間層の拡大(年収別世帯数の推移)

注:円換算はブルームバーグによる 2004 年の平均相場1ルピー= 2.39 円を使用出所: ICICI Bank、SIAM Conference

繊維トレンド 2006.3・4 月号6

海外動向

中でもポリエステル(ステープル、フィラメ

ント)の伸びが 50 %前後と大きい(図表 5参照)。

ただし、地理的条件(亜熱帯~熱帯)から中国の

ような膨大な増加は起こらないと思われる。

c.繊維産業の占める重要性

繊維産業は、GDPの 4%、工業生産の14%、雇

用者数3,500万人の基幹産業である。繊維製品の輸

入関税率を20~ 40%と世界でも最も高く課してお

り、国内保護政策をとっている。

輸出の成長率は 7 %(03 年)と年々下がって

きているが、全輸入に占める割合(構成比)は

19 %と機械の 19.4 %に次ぐ重要産業である(図

表 6参照)。

化合繊内訳

  Non Mill Cons umption

合  計

綿

化 合 繊

ステープル

フィラメント

ビスコース

ポリエステル

アクリル

PP

(小計)

ビスコース

ナイロン

ポリエステル

PP

(小計)

(千トン、%)

2001 年 2005 年 (見通) 2001 年 か ら 2005 年(%)

2,720 3,310 + 22

1,777 2,500 + 41

233 283 +21

561 824 +47

106 111 + 5

2

902

2

1,220

0

+35

46 47 + 2

25 21 - 16

787 1,183 + 50

17

879

29

1,280

+71

+46

187 219 + 17

4,684 6,029 +29

図表5 インド繊維消費量の伸び予測

出所:SRTEPC繊維年鑑/化繊協会

(%)

品目グループ

1.一次産品

  農産物

  鉱石、鉱物

2.工業製品

  繊維製品

    宝石、装身具

  機械製品

  化学製品

  皮革製品

3.石油、石油製品

4.そ の 他

合  計

2001

16.6

12.8

3.7

76.6

21.1

17.2

17.1

14.2

3.5

4.9

2.0

100.0

構 成 比 成長率(ドルベース)

2002

16.7

12.9

3.8

76.7

21.0

17.1

17.1

14.3

3.6

4.7

1.8

100.0

2003

15.2

11.1

3.5

75.8

19.0

16.7

19.4

14.6

3.3

5.8

3.2

100.0

2001 2002

22.0

14.1

58.7

21.0

14.9

23.9

29.8

23.6

- 3.2

22.0

-11.8

20.3

22.1

13.9

61.0

19.9

12.0

26.3

27.9

23.0

- 3.9

15.9

- 20.5

19.0

2003

7.2

7.1

7.8

16.8

7.0

14.8

34.7

20.6

7.2

44.6

107.5

18.2

図表 6 輸出品目と成長率

出所:Economic Survey 2003-4

7繊維トレンド 2006.3・4 月号

インドの“繊維力”の現状と将来

(2)合繊の現状

インドは中国、台湾、アメリカ、韓国に次い

で世界第 5位の合繊生産国である。その生産量は

日本の約 2倍の 179 万トン、世界におけるシェア

は 6%を占める。内訳はポリエステルが大部分で

あり、ナイロン、アクリルがそれぞれ 10 万トン

である(図表 7参照)。

この先、中国のような爆発的な伸びはないが、

実需にあった年 5%前後の成長は期待される。原

料の主要メーカーはリライアンス(テレフタル酸、

EG)、インディアンオイル(テレフタル酸)、

MCPI(テレフタル酸)、ボンベイダイイング

(DMT)、インド石化(EG)などがある。

三菱化学との合弁会社のMCPI(西ベンガル州)

は、生産量 80 万トンの高純度テレフタル酸設備

を計画しており、計画通りに 08 年に稼働すれば

リライアンスを抜いてインド No.1 の原料メーカ

ーとなる。

原糸メーカーは、ポリエステルはリライアン

スが突出した巨人メーカーであり、インドラマ

がこれに次ぐ。ナイロン、アクリルは SRF、イ

ンド石化が No.1 であるが規模は小さい(図表 8

参照)。

(3)綿花

インドの綿花生産量は品種改良により年々増加

してきた。03、04年とも 300万トンを超え、中国、

アメリカに次いで世界第3位である(図表 9参照)。

デシ綿で代表されるように、インド綿は太い

綿のイメージが強いが、超長綿を含む長繊維綿の

生産量は中国より多く世界の 14 %(03 年)を占

めている(図表 10 参照)。

綿花の栽培は小規模経営が多く生産性が低い。

単位面積当たりの収穫量(イールド)は、321 ポ

ンド/1 エーカーと大規模栽培のオーストラリア

の 1/5 しかない。

人口密度の低い隣国のパキスタンに比べても

その 60 %強であり、人手を多くかけることによ

りコンタミネーションが多いのが最大の欠点とな

っている(図表 11 参照)。

綿花の生産と消費はほぼバランスしており、

輸出入はほんのわずかである。

品種改良によりハイブリッド化が進み、栽培

品種は 65 種以上と言われ、非常に多い。短繊維

の布団綿用デシ綿から超長綿まですべてがある。

しかし、前述のようにイールドが小さく一定の品

質をキープするのが難しい。長、超長綿には、

Suvin、DCH-32、MCU-5、Varaximi などがある。

日 本

米 国

中 国

韓 国

台 湾

インド

世界計

2000 2003 2000 2003

ナイロン アクリル 合 計

フィラメント テスープル 計

2000 2003 2000 2003 2000 2003

2000 2003

(万トン)

38 30 19 13 38 30 28 23 56 53 123 55

11

7 8 10 11 83 100 57 60 140 160 157 179

37 29 151 142 68 52 104 86 172 138 306 259

49 63 39 57 315 574 195 359 510 933 595 1053

12 13 30 24 148 128 73 60 221 188 263 224

14 44 46 163 156 94 88 257 244 311 303

404 394 263 265 1,115 1,322 809 931 1,924 2,253 2,592 2,912

ポリエステル

図表7 合繊の国別生産量

出所:繊維ハンドブック(化繊協会)

繊維トレンド 2006.3・4 月号8

海外動向

ポリエステル フィラメント

ポリエステル ステープル

ナイロン

アクリル

メーカー 工場所在地 技術 能力

(トン/日)

BONGAIGAON R&P

INDIAN ORGANIC CHEMICALS

INDORAMA SYNTHETICS

RELIANCE INDUSTRIES

INDIA POLYFIBRES( 99年 Reliance グループ入)

JAGATJIT COTTON MILLS( 01年  〃  )

01年  〃  ) ORISSA SYNTHETICS (

RELIANCE (DCLその他グループ含)

INDORAMA SYNTHETICS

SANGHI POLYESTERS

CENTURY ENKA

JINDAL POLYESTER

JBF INDUSTRIES

MODERN PETROFILLS

PARASRAMPURIA SYNTHETICS

NOVA PETROCHEMICALS

RAJ RAYON

WELSPUN SYNTEX

MODIPON

CENTURY ENKA

JAGA TJIT COTTON MILLS( JCT)

NATIONAL RAYON CORP ( NRC)

SRF

CONSOLIDATED FIBRES & CHEMICALS

INDIAN ACRYLICS

INDIAN PETRO CHEMICALS

VARDHMAN ACRYLICS

PASUPATI ACRYLON

Goalpara

Manal

Hazaira

Orissa

Chohal

Baulpur

Patalganga他

Butibori

Hayatnagaru

Bhosari

Uhosari

Silvassa

Gujarat

Alwar 他

Silvassa

Mddinagar

Bhosari

Hoshiarupur

Mohane

Manali 他

Haldia

Sangrur

Vadodara

Jhalawar

Moradabad

CHENTEX

CHENTEX

東 洋 紡

ICI

RELIANCE

RELIANCE

RELIANCE

CHENTEX

CHENTEX

高 合

ACORDIS

自社技術

INVENTA

ZIMMER

VALLASINA

LURGI

AKZO

ZIMMER

ZIMMER

ZIMMER

BAKELITE

Du Pont

旭 化 成

MONTEFIBER

SNIA

82

105

460

1,215

( 61)

(132)

( 118)

1,862

1,500

360

150

220

89

165

150

60

100

80

130

3,004

24

52

22

20

68

186

42

115

130

45

77

409

図表 8 インド合繊メーカーと設備能力(2005 年)

出所:日本化繊協会

9繊維トレンド 2006.3・4 月号

インドの“繊維力”の現状と将来

(万トン)

エジプト

アメリカ

インド

中 国

世 界 計

2003(予測) 2004(計画) 2000 2001 2002

8.3 7.8 6.3 7.8 8.2

4.9 7.3 6.5 6.8 7.1

20.2 30.5 27.9 19.2 26.9

8.2 14.8 14.4 9.2 15.2

8.7 12.4 13.7 11.8 16.1

50.3 72.8 68.8 54.8 73.5

図表 10 Fine Cotton(長繊維綿、超長綿)の生産量

出所: I.C.A.C

(ポンド/エーカー)

オーストラリア

ブラジル

中 国

アメリカ

パキスタン

インド

2004(予測) 2000 2001 2002 2003

892 860

987 980 848 995

632 705 665 730 782

523 533 556 508 541

257 280 283 321 310

1,255 1,550 1,497 1,583 1,480

1,006 1,046 1,012

1,048

図表 11 イールド

出所: I.C.A.C

(百万トン)

中 国

アメリカ

インド

パキスタン

ウズペキスタン

オーストラリア

世 界 計

2000 2001 2002 2003(予測) 2004(計画) 2005(計画)

4.42 5.32 4.92 4.87 6.30 6.19

3.74 4.42 3.75 3.98 4.63 3.80

2.38 2.69 2.31 3.01 3.23 2.97

1.82 1.78 1.74 1.37 2.07 1.90

0.98 1.06 1.02 0.89 1.07 0.99

0.72 0.68 0.68 0.34 0.32 0.49

4.45 4.76 4.04 4.52 5.21 4.93

19.44 21.47 19.30 20.61 24.14 22.69

図表 9 各国綿花の生産量推移

出所: I.C.A.C

繊維トレンド 2006.3・4 月号10

海外動向

主な綿産地は西部、中部、南部である。イン

ダス川流域の西部と中部は中級綿、カルタナカ州、

タミルナドウ州を中心とした南部は高級綿が多い

(図表 12 参照)。

インド綿の特徴は色合いが良く、ろう、油脂

分が多い。そのために染色ムラになり易いが、や

わらかい風合いでニット用、ホームテキスタイル

(手織りマットなど)に適している。

(4)テキスタイル

ここ数年間、繊維の消費量は年率 4 ~ 5 %の

安定したペースで増加した(図表 13 参照)。

大きな原因のひとつに、2000 年スタートの

「新政策 2000」がある。この政策は設備の近代化

と輸出振興を骨子としたものであり、主なものは

次の 5点である。

パキスタン

インダス川

バングラディッシュ

ガンジス川

インド

番号 綿産地(州) 代表綿種

J-34、 Agetti Desi、 他

Shankar-5、 V-797、 他

H-4、 Y-1、 A.51/ 9、 他

H-4、 NHH-44、 Y-1、 他

DCH-32、 Jayadhar、 他

MCU-5、 LRA-5166、 Suvin、 他

MCU-5、 DCH-32、 Varaximi、 Suvin、 他

1, 2

 3

 4

 5

 6

 7

 8

パンジャブ/ハリヤナ/ ラジャスタン

グジャラート

マドヤプラディッシュ

マハラシュトラ

カルタナカ

アンドラプラディシュ

タミルナドウ

図表 12 綿花の産地

出所:VOLKART

2000

2001

2002

2003

ステープル フィラメント 綿

再生 合繊 再生 合繊 計*

2,652 205 635 45 854 4,528

2,721 221 668 47 831 4,630

2,701 191 672 45 925 4,682

2,699 226 697 45 1,054 4,871

(千トン)

図表 13 繊維の消費量推移

注:*=他のファイバーを含む出所:Office of the Textile Commissioner, Ministry of Textile

11繊維トレンド 2006.3・4 月号

インドの“繊維力”の現状と将来

①輸出アパレルパーク制度(11 件のプロジェ

クト認可)

②Guragon にアパレル国際市場をオープン

③テキスタイルインフラ開発制度(13 件のプ

ロジェクト認可)

④繊維機械の課税引下げ

⑤クオータ政策の透明化(ガーメント、ニット)

インドにおける主要テキスタイル産地は、中

部インドのマハールシュトラ、グジャラート、ラ

ジャスタンの各州である。その中でもグジャラー

ト州のアーメダバートは綿織物、スラトは化合繊

織物の中心地である。

州 (地域)

マハールシュトラ (中部インド)

(  〃  )

(  〃  )

(南インド)

(南インド)

(北インド)

グジャラート

ラジャスタン

タミルナドウ

カルタナカ

パンジャブ

主要織物 工場数 中心地と特徴

71

・アーメダバート(綿織物産地)

・スラト(化合繊織物の中心地)

・コインバトール(紡績中心地、タミルナドウ

州は全インドの30%の能力を有す)

・ティルプール(ニット産地)

・バンガロール

(シルク織物産地、高級アパレル産地)

・ルディアナ

(ウール、アクリル紡績の中心地、ニット産地)

38

15

19

4

13

図表 14 主要テキスタイル産地

出所:Office of the Textile Commissioner、化繊協会「インド繊維産業調査 03/5」

順位 ファブリック 順位 スパンヤーン

1. 1.

2. 2.

3. 3.

4. 4.

5. 5.

6. 6.

7. 7.

8. 8.

9. 9.

10. 10.

M/s. Arvind Mills Ltd.

M/s. Century Textiles & Industries Ltd.

M/s. The Bombay Dyeing & Mfg. Co. Ltd.

Spring Mills)

M/s. Auro Weaving Mills

Divn.Of Vardhaman Spg.& General Mills) (

M/s. J.C.T Ltd.

Garden Silk Mills Ltd.

M/s. Mafatlal Industries Ltd.

( New Shorrock Mills)

M/s. Suzuki Textiles Ltd.

M/s. Ashima Limited

M/s. Nahar Fabrics Ltd.

Prop. Nahar Indus Enterprises)

M/s. Arvind Mills Ltd.

M/s. Arham Spinning Mills

Prop. Nahar International Ltd.) (

M/s.Vardhaman Spg. & General Mills Ltd.

M/s. Rajasthan Spg. & Wvg. Mills Ltd.

Bhi lwara Group)

M/s. Indo Rama Synthetics India) Ltd.

M/s. Chenab Textile Mills, S.G. Unit.

M/s. Krishna Knitwear Ind. Ltd.

M/s. Century Textiles & Industries Ltd.

M/s. Gokak Mills

Divn. Of Forbes Gokak Ltd.)

M/s. Malwa Cotton Spg. Mills Ltd., Unit-Ⅱ

図表 15 テキスタイル上位 10 社

注: 2002 ~ 2003 年の生産実績に基づく 出所:Office of the Textile Commissioner

繊維トレンド 2006.3・4 月号12

海外動向

南インドのタミルナドウ州は高級綿産地であ

り、紡績能力の 30 %が集まる。コインバトール

はその中心地である。カルタナカ州のバンガロー

ルは、シルク織物産地であり、最近は高級アパレ

ル産地となった。

北インドのパンジャブ州はウール織物産地で

あり、梳毛紡 60 万錘、紡毛 44 万錘の大半が集ま

る。ルディアナはその中心でニット産地でもある

(図表 14 参照)。

有力なテキスタイルメーカーとしては、アビ

ンド、センチュリーテキスタイル、バルドマン、

ガーデンシルク、ボンベイダイイング、マファト

ラルなどがある(図表 15 参照)。

a.紡績

インドは中国に次いで世界 No.2 の紡績大国で

あり、リング 3,700 万錘、オープンエンド 50 万

錘を有す。綿糸の生産量も中国に次ぐ。この二国

で全世界紡績設備、綿糸生産量とも大半を占める

(図表 16、17 参照)。

ただし、インドの設備は中国の 62 %に対し、

綿糸生産量は 30 %弱と生産性は低い。

紡績は紡績専業と紡織一貫に分けられ、紡織

一貫は 223 社、織機 8.8 万台を有する(図表 18

参照)。紡績糸は年間約 300 万トン生産され、そ

のうち約 70 %は綿糸、20 %が綿とポリエステル、

レーヨンの綿混紡糸である(図表 19 参照)。綿糸

① 国

② インド

③ パキスタン

④ インドネシア

⑤ トルコ

⑪ 本 2.5 0.1

世 界 計 168.6

2002 2003

リング OE リング OE

49.1

38.9

9.2

8.6

6.0

0.8

0.5

0.1

0.1

0.5 6.3

2.2 0.1

8.1 174.5 8.1

7.8

0.5

37.

0.2

0.1

0 0.5

(百万錘)

59.4 1.0

9.3

図表 16 世界の紡績設備錘数

出所: ITMF(推定を含む)

① 中 国

② インド

③ パキスタン

④ アメリカ

⑤ ト ル コ

⑯ 日

世 界 計

2002 2003 2004(見通)

749 767 778

227 229 233

7 187 190

155 154 152

114 117 119

13 13 13

2,030 2,067 2,091

18

(百トン)

図表 17 世界の綿糸生産量

出所: ICAC/繊維ハンドブック(化繊協会)

2002 579 281 860 8 409 123

2003 599 276 875 36. 379 119

2004 564 223 787 34. 383 8

1, 1, 35.

1, 1, 1

1, 1, 0 8

紡績 のみ

紡・織 一貫 計 リング

(百万錘) OE

(千錘) (千台)

メーカー(工場)数

紡  績 織機

設備能力

図表 18 紡織メーカー数と生産能力(3月末時点)

出所:Ministry of Textile

2004(見通) 212 59 34 305

綿糸 綿混紡糸 非綿糸 計

2001 227 65 25 316

2002 221 61 28 310

2003 218 59 32 308

(万トン)

図表 19 紡績糸の種類別生産量推移

出所:Ministry of TextileAnnual Report '03 -'04

13繊維トレンド 2006.3・4 月号

インドの“繊維力”の現状と将来

は中番手(20 ~ 40s)が半分を占め、60s 以上の

細番手も 5%ある。

b.織布

自動織機数は中国、インドネシア、タイに次

ぐが、中国 880 万台の約 1 / 8 である。革新織

機はわずか 9 万台(中国は 212 万台)で近代化

が遅れている。綿布の生産量は中国に次いで第

2 位、中国の約 1 / 2 を生産する(図表 20、21

参照)。これは手機織機による織物生産が加わる

ためである。織布業は工場法の適用されない小

規模メーカーが非常に多い。“Mill Sector”と言

われる組織的部門、具体的には国営、動力設備

を有する 10 人以上のメーカー、動力を有しない

20 人以上を有するメーカーは工場法に従い各種

社会保障(各種保険)の義務がある。この

“Mill Sector”に入る織布メーカーの生産量はわ

ずか 3 %であり、41 万社と言われる小規模メー

カーの生産量が実に 97 %を占める(図表 22 参

照)。

c.染色

染色は綿(天然繊維)を主体とした地場産業

が中心であり、小規模企業が多く技術レベルは低

い。これら小規模企業の保護政策のため、大企業

規制が強い。約 13,000 社の 8 割が手染業者であ

り、品質を管理できるそこそこの企業はわずか

1%に過ぎない。

757

227

131

137

94

39

2,145

(114)

( 27)

( 53)

( 14)

( 87)

( 16)

( 695)

880

226

130

115

92

40

2,226

(212)

( 29)

( 54)

( 9)

( 85)

( 15)

(794)

① 国

② インドネシア

③ タイ

④ インド

⑤ ロシア

世 界 計

2002 2003

(万台)

図表 20 世界の自動織機台数

( )内は無抒織機、内数 出所: ITMF(推定を含む)

(万トン)

① 中 国

② インド

③ パキスタン

④ ブラジル

⑤ アメリカ

⑭ 日 本

世 界 計

2002 2003 2004(見通)

346

177

110

69

72

11

1,159

354

180

113

71

72

11

1,181

358

183

115

72

71

10

1,196

図表 21 世界の織物生産量

出所: ICAC/繊維ハンドブック(化繊協会)

Mill Sector

(中)小企業 :動力織機

綿紡

:ハンドルーム

2002

15.5

251.9

75.9

2003

15.0

259.5

59.8

2004(見通) 〈構成比〉

(億m2)

14.3   〈 3〉

272.6   〈 64〉

 55.2  〈 13〉

:メリヤス 70.1 78.8  78.4  〈 18〉

 毛、絹 6.4 6.6   6.6  〈 2〉

計 420.3 419.7 427.1   〈 100〉

図表 22 織編物生産量の推移

出所: ICAC/繊維ハンドブック(化繊協会)

繊維トレンド 2006.3・4 月号14

海外動向

大きな雇用を生み出す縫製輸出を増やすには、

染色業の近代化が不可欠であり、染色近代化に着

手した。中国の 2000 年スタートの第 10 次 5 カ年

計画とよく似ている。

EOU(輸出型企業)や一部有力会社は紡織染、

あるいは織染一貫の染色工場を持っている。これ

らは欧米(Monfort、Küster、Alori など)、日本

(山東鉄工、日阪製作所など)の輸入設備と技術

を導入し、そこそこの品質レベルのものを欧米輸

出用アパレル向けに供給している。全般的にはか

つての中国の地場染色企業よりも小規模なものが

多く、5~ 10 年の遅れを感じる。

しかし、大手染色工場に限ってみると、この

10 年間の設備改善、現場改善は著しく、欧米、

日本からの技術指導と管理技術(TPM、小集団

活動など)の導入によって中国輸出型企業に近づ

いている。

d.縫製

インドでのアパレルは、生地を買って仕立屋

で仕立てするのが一般的である。店には色々な地

場ブランドの着分に包装された生地が並んでい

る。カッターシャツ地は高くても 100 ルピー

(250 円)前後、超高級品でも 200 ルピー(500 円)

である。これに仕立て代 10 ~ 20 ルピーであり、

シャツは 1 着 120 ~ 130 ルピー(300 ~ 325 円)

で手に入る。

縫製業は小規模工業として保護されてきたた

め、産業として発展しなかった。

輸出振興に沿って縫製業の競争力強化のため

に 2001 年に小規模規制留保を解除し、EOUを中

心に大手縫製業が設立されてきた。南インドは、

マドラスチェックや高級綿布の産地であるため縫

製業が盛んになり 1,000 社以上が設立された。バ

ンガロールはその中心であり、ZARA、GAP、

NIKE、H&Mなどの欧米系メガアパレルが縫製

拠点を作っている。

縫製品の輸出額は 66 億ドルで宝石、機械製品

に次いで第 3位を占める。世界においては EUを

除くと中国の 1/ 8ではあるが第 2位である(図

表 2 参照)。中国一極集中のリスク対応策(チャ

イナプラス 1)として今後の可能性について注目

されるところである。

国内においても前述の中間層の増大により、

ビジネス用を中心に品質の良い既製シャツマーケ

ットが形成されてきている。デリー、ムンバイ、

バンガロールなどの大都市には、SPA(製造直売

方式)による地場ブランドの高級シャツ店がたく

さん開店している。ここでの中心ゾーンは先染が

多いが、800 ~ 1,000 ルピー(1,200 ~ 1,500 円)、

形態安定をうたっている高級品は 1,500 ~

2,000 ルピー(3,750 ~ 5,000 円)で売られている。

この流れは生活水準の向上によって膨大なマーケ

ットに成長する可能性が大きい。

写真1 インド大手染色工場

出所:筆者撮影

写真2 染色会社における1着分の包装ライン

出所:筆者撮影

15繊維トレンド 2006.3・4 月号

インドの“繊維力”の現状と将来

e.繊維関係機器

ほとんどの繊維機械は国産化されている。最

近の性能は中国一流品のレベルである。リーター

M / C の現地生産からスタートした Laxim 社

(LMW)は各種の紡績機械を生産しており、イン

ド国内で大きなシェアを持っている。価格は欧米

の 1/ 2程度で中国製よりは高い。革新織機は欧

米(ピカノール)、日本が主流である。

日本からは豊田自動織機、日本スピンドル、

ジューキ(ミシン)が進出している。

3.テキスタイル競争力の現状と将来(1)コスト競争力-中国との比較

a.用役費

電気・蒸気は中国並みであるが、中国の紡織

業が多く立地する地方(自家発、自前ボイラーを

所有)に比べると 40 %以上高い。これは設備費

と石炭の安さに起因する。

用水/排水は川の水を使い簡単な排水処理し

かしないインドが 0.6 円/トンと安い。ただし、

排水処理費は早晩、中国(地方)並みになるもの

と予想される(図表 23 参照)。

b.労務費

労務費は中国の地方並みの 100 ドル/月である

が、労働時間を考慮した労務単価で見ると中国が

安い(図表 24 参照)。

c.その他

土地に関して、インドは 10 ドル/m2 以下で中

国の 25 ドル/m2 前後より安い。土地開発におい

てインドが中国よりはるかに透明度が高いためと

思われる。償却費は、インドでは設備費(国産品)

が中国よりも高い(~ 2 倍)ために割高になる。

原料綿花はコンタミ等の問題点はあるが、国際相

場に比べ 10 ~ 20 %安い。

d.競争力比較

テキスタイルの代表である綿織物(プリント

用生機、70 × 70、66 インチ幅)の製造コストは

インドが中国に比べて 5%安く競争力がある(図

表 25 参照)。

電 力 円 /kw・ hr

蒸 気 円 /t

用 水 円 /t

排 水 円 /t

中 国 インド

沿岸 地方

7.2 7 7(5)

1,470 1,500 (750)

0.5 13 0.3

0.5 13 4

インド ネシア

日本 備   考

8

(1,400)

11.5

(2,200)

31

14

33

6

( )内自家発

( )内自製

図表 23 用役費比較

出所:OECD Internal Agency(繊維ハンドブック)、インドは筆者調査

労務単価($/時) 0.57 0.41日本紡績協会/ 繊維ハンドブック(化繊協会)

労務費 ($)  100 100 150 筆者調査( 2005)

備  考(出所) 中 国

インド 地方 沿岸

図表 24 紡織業の労務費比較

繊維トレンド 2006.3・4 月号16

海外動向

(2)競争力の行方

インドは中国に比べコスト競争力はあるが圧

倒的に強いというわけではない。中国のテキスタ

イルは競争力のある地方との連携(出稼ぎ、工場

移転など)などにより当面、コストが急激にアッ

プする可能性は少ないと思われる。一方、インド

も人口増が続くので、賃金アップの圧力はなだら

かであると予想される。エネルギー問題について

も国産の石炭依存度の大きい両国は同じ立場にあ

る。また、川上の大財閥による寡占、川中、川下

の保護政策のもとにある膨大な小企業群という体

制は、民主議会制と、カースト制度を許容する、

極めてインド的な体制のもとでは急激に変革する

ことは難しく感じられる。

このような状況から考えると両国間の競争力

は現状で均衡していくものと予想できる。

輸出の振興と「チャイナプラス 1」が相まっ

て縫製(アパレル)の拡大は続く。ただし、日

本は特殊なテキスタイル(手織り品など)以外

は地勢的な制約(遠い、四季がない)からあく

までも中国の補完的な役割しかないと思われ

る。

労 務

電 力

補助資材

償却、金利

原 料

合  計

インド 中国

(¢/yd)

3 .4 2 .2

11.2 8.9

7.4 5.5

19.5 17.8

21.8 29.3

3.0 5.4

66.3 69.1

図表 25 綿織物の製造コスト比較2003 年

注:プリント用 70× 70 66 インチ幅出所: ITMF/繊維ハンドブック(化繊協会)