レーザ照射による材料の表面改質に...

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術 1 九州工業大学 生命体工学研究科 教授 西尾 一政 九州工業大学 工学研究院 助教 山口 富子 九州工業大学 生命体工学研究科 客員教授 池田 満昭 H20.11.28 レーザ照射による材料の表面改質に 関する新技術

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Page 1: レーザ照射による材料の表面改質に 関する新技術レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術 2 ⑴ 材料の強度、靭性、疲労特性は結晶粒の大きさに強く依存

レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

1

九州工業大学 生命体工学研究科教授 西尾 一政

九州工業大学 工学研究院助教 山口 富子

九州工業大学 生命体工学研究科客員教授 池田 満昭

H20.11.28

レーザ照射による材料の表面改質に

関する新技術

Page 2: レーザ照射による材料の表面改質に 関する新技術レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術 2 ⑴ 材料の強度、靭性、疲労特性は結晶粒の大きさに強く依存

レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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⑴ 材料の強度、靭性、疲労特性は結晶粒の大きさに強く依存し、これらの性質は結晶粒の大きさが小さくなるほど向上することが知られている。しかし、微細な結晶粒を有する材料でも、一度、熱加工を加えると、粗大な結晶粒に置換わる。よって、製品の 終段階での再度の結晶粒の微細化は不可能であった。

⑵ 溶射皮膜の特性を改善する方法として、皮膜の溶融処理が行われる。これは結晶粒の微細化の観点での処理ではなく、皮膜の品質は不十分であった。

⑶ 金属めっき法は、材料表面に種々の特性を付与する方法として古くから利用されている。本技術の難点は、めっき処理に使用した廃液処理などである。

研究背景

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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(1)レーザ照射による金属材料の結晶粒微細化効果1 強度と靭性の向上

・・・脆性破壊の回避効果2 疲労寿命の延伸

・・・機器や構造物の長寿命化(2)レーザ照射による溶射皮膜の特性改善

効果 高温耐食性および耐摩耗性の改善(3)レーザ照射によるナノ粒子の接合

効果 メッキの代替技術・・・メッキ廃液の処理が不要・・・必要な個所に金などの被膜を形成

新技術の特徴

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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材料の結晶粒微細化に関する 近の研究

1)TMCP鋼・・・実用化済。広範囲に利用。

2)大ひずみ加工(NIMS)・・・<1μm達成

3)ECAPなど

製品の 終段階の熱加工により

→微細な結晶粒は成長・粗大化

→粗大結晶粒の再微細化技術はない。

従来技術とその問題点

(1)レーザ照射による金属材料の結晶粒微細化

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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讀賣新聞(平成14年4月28日)

(1)レーザ照射による金属材料の結晶粒微細化

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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方法の概要

(1)レーザ照射による金属材料の結晶粒微細化

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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溶接金属

溶接金属

レーザの移動操作

レーザビーム

レーザによる加熱部

A部 詳細図

溶接金属

レーザ照射による結晶粒の超微細化

疲労割れは発生しない

従来の溶接ままでは、サイズが300μmの粗大結晶領域が存在する

目標:2μmの結晶粒

結晶粒の超微細化により、疲労寿命の向上

(1)レーザ照射による金属材料の結晶粒微細化

溶接止端部への効果

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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4μm

20μm

受け入れ材

20μm

レーザ照射回数=9回

23μm

(1)レーザ照射による金属材料の結晶粒微細化

軟鋼に対する効果

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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30 μm

(a) レーザ照射前

(b) レーザ照射後

18 μm

9 μm

(1)レーザ照射による金属材料の結晶粒微細化

SUS304鋼に対する効果(OIM)

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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◆ 鋼構造物の結晶粒微細化に関する技術は、存在し

なかった。

◆ 炭素鋼ならびに固相変態を有しないステンレス鋼

などに対して、レーザ照射を施すことにより、一

旦粗大化した結晶粒も微細化させることが可能に

なった。

新技術の特徴・従来技術との比較

(1)レーザ照射による金属材料の結晶粒微細化

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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近年、国内の廃棄物発電プラントではボイラ管の表面への耐熱・耐食金属溶射法の適用が進んでおり、プラントの耐久性向上技術として世界的に注目されている。しかしながら、溶射皮膜は一般的に多孔質で、特に貫通孔などの欠陥が存在するため、フュージング処理が行われている。しかしながら、このフュージング処理は不十分なため、さらなる皮膜の材質

改善が求められている。

(2)レーザ照射による溶射皮膜の特性改善

Sprayed coatings•High-chromium•High-nickel

Advantage•High corrosion

resistance•Low cost

Disadvantage•Residual defects

Crack

Porosity

Unmeltedparticle

Base metal

No defect

High performance

Laser beam

Laser fused coating

Ni基自溶合金に対する効果

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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Ni基自溶合金に対する効果(表面及び断面写真)

Porosity7.7%

Porosity0.4%

Porosity0.3%

ガスフュージング材 レーザ照射材溶射まま材

(2)レーザ照射による溶射皮膜の特性改善

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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(2)レーザ照射による溶射皮膜の特性改善

Ni基自溶合金に対する効果(高温耐食性の評価)

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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◆ 従来のガスフュージング処理では、皮膜の緻密

化は可能であったが、組織の微細化は未達成で

あった。

◆ 本開発により、皮膜の緻密化はもとより、組織

の微細化と析出粒子により、高温耐食性の向上

と耐摩耗性の改善が得られた。

新技術の特徴・従来技術との比較

(2)レーザ照射による溶射皮膜の特性改善

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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供試材:ニッケルめっきりん青銅幅20 mm×厚さ0.3 mmニッケルめっき厚0.001 mm

試料の片面に金ナノインキを塗布

金インキ塗布面(表面)

レーザ照射面(裏面)

(3)レーザ照射によるナノ粒子の接合

金に対する効果

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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金に対する効果(FE-SEM像)

(3)レーザ照射によるナノ粒子の接合

照射前 T1 T2

T4 T5T3

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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◆ 到達温度の上昇に伴いAu皮膜と基盤との接合

面積が上昇した。

◆ 従来技術の問題点であった、めっき廃液の処

理が不要。

◆ 必要な個所のみに、金ナノ粒子を接合するこ

とに成功。

(3)レーザ照射によるナノ粒子の接合

新技術の特徴・従来技術との比較

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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① 本技術(1)は橋梁、建築物、造船や車両などの建造に使用される溶接部への適用により、強度向上や長寿命化の効果が大きく生じる。

② 本技術(2)は高温腐食環境の溶射皮膜への適用により、高温耐食性向上や耐摩耗性の効果が大きく生じる。

③ 本技術(3)はめっきの代替技術への適用により、廃液処理の不要や低コスト化のメリットが大きくなる。

◆ 以上のように、レーザ照射による材料の表面改質技術は、あらゆる産業分野における適用が想定され、省資源と省エネに大きく貢献する。

想定される用途

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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・想定されるユーザー

・橋梁業界

・建築業界

・造船業界

・車両業界

・想定される市場規模

・橋梁の補修関係のみ・・・100億円/年と想定

・発電設備 ・・・・・・・60億円/年と想定

・その他

想定される業界

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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◆現在、レーザ照射によって結晶粒の微細化、溶

融凝固組織の微細化ならびにナノ粒子の接合に

ついて開発済み。しかし、レーザトーチの移動

に関するロボット化については、未解決なとこ

ろがある。

◆今後、ナノ粒子の接合に関しては、さらなる実

験データの積重ねを行って、レーザの照射エネ

ルギーの 適化を行う予定である。

実用化に向けた課題

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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① 発明の名称:レーザー照射による金属組織の微細化方法及び装置・出願番号:特願2001-058489・出願人:北九州TLO・発明者:西尾一政ら

② 発明の名称:鉄合金製機構部品とその表面改質法・出願番号:特願2004-267663 ・出願人:九州工業大学・発明者:西尾一政、池田満昭

③ 発明の名称:電磁鋼板・出願番号:特願2004-267640 ・出願人:九州工業大学・発明者:西尾一政、池田満昭

④ 発明の名称:波動歯車装置・出願番号:特願2004-267625 ・出願人:九州工業大学・発明者:西尾一政、池田満昭

⑤ 発明の名称:固相変態を有しない金属材料の表面改質法および表面改質された固相変態を有しない金属材料・出願番号:特願2005-100504・出願人:九州工業大学・発明者:西尾一政、山口富子ら

⑥ 発明の名称:溶射皮膜を形成した素材の改質方法・出願番号:特願2005-351381・出願人:九州工業大学・発明者:西尾一政、山口富子ら

⑦ 発明の名称:導電性パターンの形成方法及びめっき端子の製造方法・出願番号:特願2008-210016・出願人:九州工業大学・発明者:西尾一政、山口富子ら

本技術に関する知的財産権

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レーザ照射による材料の表面改質に関する新技術

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• 九州工業大学

• 産学連携推進センター 知的財産部門

• 教授 中村 邦彦

• TEL 093-884 - 3499• FAX 093-884 - 3531• e-mail nakamura@ccr.kyutech.ac.jp

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