自由電子レーザによる電子ドープ c のポリマー化...

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自由電子レーザによる電子ドープ C 60 のポリマー化 Polymerization of Electron-Doped C 60 by Free Electron Laser 日本大学大学院理工学研究科博士前期課程電子工学専攻、 0014、加藤 翔太 Department of Electronic Engineering, Graduated School of Science and Technology, Nihon University, M2, Syota Kato Abstract:本研究ではポリマー化の促進のために超音波分散により C 60 分子間への原子の挿入を考えた。LLIP に用いるアルコールに calcium methoxide(CMO)を溶解し、カルシウム原子を挿入し、それに FEL を照射した。作製 方法として、LLIP 溶液を 10~12C 7 日間保存する、又は LLIP 溶液の作製直後に超音波分散を行なった。試料 1 では FEL 照射後に Ag(2)振動モードのピークを 1469cm -1 1458cm -1 に確認した。1458m -1 のピークは 1469cm -1 からシ フトしたピークであり、ポリマー化を示すピークと考えられる。1458m -1 のピークの強度比はバックグラウンドを引 いて 19.7 であった。1469cm -1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 93.1 であった。よって、FEL 照射によ るポリマー化は進行したと考えている。 試料 2 では 1457m -1 のピークは元の 1469cm -1 から低エネルギー側にシフトしたピークであり、ポリマー化を示すピ ークと考えられる。この強度比はバックグラウンドを引いて 36.1 であった。1469cm -1 のピークの強度比はバックグ ラウンドを引いて 77.7 であった。 1457cm -1 のピーク強度比は試料 1 1458cm -1 のピーク強度比で割ると、 1.8 であり、 試料 1 の場合より高かった。よって、超音波分散を用いると、ポリマー化はより進ませることができることを確か められたと考えている。 1.背景 本研究の最終目標である 3 次元 C 60 アモルファスポリ マーは、ダイヤモンドを超える硬質性、優れた柔軟性、 軽量性という驚異的な特性を有すると期待している。そ れは i)硬質の指標となる体積弾性率が、C 60 分子の場合、 843GPa であり、ダイヤモンドの 441GPa より大きいため [1] ii)C 60 分子間が接点のみで sp 3 的結合を有し、それが ランダムに存在するポリマー体であって、非晶質構造を とり、弾性、粘性に富んで柔軟性に優れると予想してい るため、iii)C 60 分子内部が空洞であり、密度は 1.73g/cm 3 であり、強度が高い金属に代表される鉄(7.87g/cm 3 )1/5 であるためである。 本研究では 3 次元 C 60 アモルファスポリマーの形成の ために自由電子レーザ(Free Electron Laser FEL)による光 励起を行い、C 60 sp 2 軌道同士の 2 重結合を切り離し、 分子間に sp 3 軌道同士の結合を形成させる。 過去の研究成果の概要を以下に示す。これは図 1 にま とめた。FEL の特徴は、紫外から赤外の広範囲の帯域か ら波長を選択することである。その中から C 60 2 重結 合を切り離し効率的にポリマー化させることができる波 長を選択した [2] FEL の波長について、FEL YAG レー ザを利用し、かつ C 60 にヨウ素を添加し、C 60 圧粉体に波 長が 345450532nm の光を照射し、波長が 450532nm の時にポリマー化が促進した [3] 。さらに、液液界面析出 (Liquid Liquid Interfacial PrecipitationLLIP)法により得ら れた C 60 結晶を圧縮して FEL 照射を行い、 C 60 粉末を圧縮 して FEL 照射を行う場合、よりポリマー化が促進される ことを報告した [2] 。それは C 60 粉末より LLIP 法により得 られた C 60 結晶の分子間距離が縮小していたためであっ た。 また、グラファイトにヨウ素を添加し、ホールドープ を行うと、ヨウ素が添加されてホールドープされている グラファイトについて、sp 2 的結合から sp 3 的結合に変化 させるためのエネルギーの障壁の高さが減少する [4] 。グ ラファイトと同様に C 60 sp 混成軌道を有し、かつそれ はグラファイトと比較してダイヤモンドの sp 3 軌道に近 sp 2.278 であるため、C 60 へのホールドープにより、FEL によって sp 2 軌道同士の 2 重結合を切り離し、分子間に sp 3 軌道同士の結合を形成する反応は促進されると期待 し、ホールドープによってポリマー化は促進された。ま た、ポリマー化に 7GPa 以上の圧力が必要であることを 確認している [5] 7GPa 以上の圧力を用いない場合、C 60 を圧縮し、FEL を照射した後、ポリマーをトルエンに加 えて超音波分散を行い、再び圧縮して FEL を照射するこ [6] 、または、 C 60 薄膜の成長中に FEL を照射することが ポリマー化を促進することがわかった [7] 2.目的 本研究ではポリマー化の促進のために超音波分散によ C 60 分子間への原子の挿入を考えた。LLIP 法に用いる アルコールに calcium methoxide(CMO)を溶解し、カルシ ウム原子を挿入し、それに FEL を照射した。これは、カ ルシウムのイオン価数は 2 であり、C 60 の価数は最大で -6 [1.1] であるため、 C 60 とカルシウム間にイオン結合が形成 されると考えたためである。作製方法として、LLIP 溶液 10~12C 7 日間保存する、又は LLIP 溶液の作製直 後に超音波分散を行なった。 3.実験方法・条件 3.1 C 60 の諸特性 3.1.1 C 60 の分子構造 [1] ポリマー アモル ファス 3次元 1 研究成果の概要 超硬質 超軽量 超柔軟 1380 1400 1420 1440 1460 1480 -10 0 10 20 30 40 Intensity [a.u.] Wavenumber [cm -1 ] Surface morphology 5µm 1µm 8cm -1 Ag(1) Ag(1) Ag(2) Ag(2) (Atomic force microscopy) Lorentz Oscillator The surface morphology did not change between FEL irradiation and non-irradiation. But g ra in size of Ts 200ºC grownas compared with Ts 40ºC. The step height of Ts 200ºC is 0.8nm. FEL irrad iatio n samp le Ag(2) derived mode down-shifted. Its main peak is 1461 cm-1, h en ce irradiated sample po ly merized. 薄膜成長中 FEL照射 [7] F E L 4 5 0 F E L 5 0 0 3 0 μm W h i t e R a i n b o w 1 5 0 μ m 0.1mm 3 0 μ m 3 0 μ m 30μm R a i n b o w Dissolved in toluene. P u r p l eW h i t e W h i t e R a i n b o w Dissolved in toluene. ポリマー化の繰り返し [6] 1380 1400 1420 1440 1460 1480 30 35 40 45 50 55 1447.2 1450.9 1463.2 1469.8 Intensity [ a.u. ] Wave number [ cm -1 ] 1380 1400 1420 1440 1460 1480 0 100 200 300 Intensity(arb. units) Wavenumber(cm -1 ) 圧縮したC 60 FEL照射 [2] LLIP法により得られたC 60 結晶にFEL照射 [2] ホールドープされたC 60 結晶にFEL照射 [5] Th e u ltraviolet laser resulted in so mewhat d ifferen t ch ang es ofthe Raman sp ectrum. By the irradiationthed oub le sp lit of th e pea kwas o b serv ed pro bably becau se the ultrav ioletrays were stro n g ly abso rbed in Cando nly in the v icin ity o fsamp le su rfaces were ch ang edby the irrad iatio n . Th e F EL with the wavelen gth oftyp ically 4 5 0 n m or 345 nm was irradiated to the surfaces o f co mp ressed Cor C+ Ipowd er. The Raman p eak o f th e Ag(2 )-d erived mod e clea rly sh ifted to the lower en ergy sideand/or th e h alf width of the peak b ecame broad. These ch aracteristic ch an g es were well interpreted as th e resu lts of po ly merization reaction . ポリマー化させる波長 [3]

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  • 自由電子レーザによる電子ドープ C60 のポリマー化 Polymerization of Electron-Doped C60 by Free Electron Laser

    日本大学大学院理工学研究科博士前期課程電子工学専攻、

    0014、加藤 翔太 Department of Electronic Engineering,

    Graduated School of Science and Technology, Nihon University, M2, Syota Kato

    Abstract:本研究ではポリマー化の促進のために超音波分散により C60 分子間への原子の挿入を考えた。LLIP 法

    に用いるアルコールに calcium methoxide(CMO)を溶解し、カルシウム原子を挿入し、それに FEL を照射した。作製方法として、LLIP 溶液を 10~12゜C で 7 日間保存する、又は LLIP 溶液の作製直後に超音波分散を行なった。試料 1では FEL 照射後に Ag(2)振動モードのピークを 1469cm-1、1458cm-1 に確認した。1458m-1 のピークは 1469cm-1 からシフトしたピークであり、ポリマー化を示すピークと考えられる。1458m-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 19.7 であった。1469cm-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 93.1 であった。よって、FEL 照射によるポリマー化は進行したと考えている。 試料 2 では 1457m-1 のピークは元の 1469cm-1 から低エネルギー側にシフトしたピークであり、ポリマー化を示すピ

    ークと考えられる。この強度比はバックグラウンドを引いて 36.1 であった。1469cm-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 77.7であった。1457cm-1のピーク強度比は試料 1の 1458cm-1のピーク強度比で割ると、1.8であり、試料 1 の場合より高かった。よって、超音波分散を用いると、ポリマー化はより進ませることができることを確かめられたと考えている。 1.背景 本研究の最終目標である 3 次元 C60 アモルファスポリマーは、ダイヤモンドを超える硬質性、優れた柔軟性、軽量性という驚異的な特性を有すると期待している。それは i)硬質の指標となる体積弾性率が、C60 分子の場合、843GPa であり、ダイヤモンドの 441GPa より大きいため[1]、ii)C60 分子間が接点のみで sp3的結合を有し、それがランダムに存在するポリマー体であって、非晶質構造をとり、弾性、粘性に富んで柔軟性に優れると予想しているため、iii)C60 分子内部が空洞であり、密度は 1.73g/cm3

    であり、強度が高い金属に代表される鉄(7.87g/cm3)の 1/5であるためである。 本研究では 3 次元 C60 アモルファスポリマーの形成のために自由電子レーザ(Free Electron Laser:FEL)による光励起を行い、C60 の sp2 軌道同士の 2 重結合を切り離し、分子間に sp3軌道同士の結合を形成させる。 過去の研究成果の概要を以下に示す。これは図 1 にまとめた。FEL の特徴は、紫外から赤外の広範囲の帯域から波長を選択することである。その中から C60 の 2 重結合を切り離し効率的にポリマー化させることができる波長を選択した[2]。FEL の波長について、FEL と YAG レーザを利用し、かつ C60 にヨウ素を添加し、C60 圧粉体に波長が 345、450、532nm の光を照射し、波長が 450、532nmの時にポリマー化が促進した[3]。さらに、液液界面析出(Liquid Liquid Interfacial Precipitation:LLIP)法により得られた C60結晶を圧縮して FEL 照射を行い、C60 粉末を圧縮して FEL 照射を行う場合、よりポリマー化が促進されることを報告した[2]。それは C60 粉末より LLIP 法により得られた C60結晶の分子間距離が縮小していたためであった。 また、グラファイトにヨウ素を添加し、ホールドープを行うと、ヨウ素が添加されてホールドープされているグラファイトについて、sp2 的結合から sp3的結合に変化させるためのエネルギーの障壁の高さが減少する[4]。グラファイトと同様に C60は sp 混成軌道を有し、かつそれはグラファイトと比較してダイヤモンドの sp3軌道に近い sp2.278であるため、C60へのホールドープにより、FELによって sp2軌道同士の 2 重結合を切り離し、分子間にsp3 軌道同士の結合を形成する反応は促進されると期待し、ホールドープによってポリマー化は促進された。ま

    た、ポリマー化に 7GPa 以上の圧力が必要であることを確認している[5]。7GPa 以上の圧力を用いない場合、C60を圧縮し、FEL を照射した後、ポリマーをトルエンに加えて超音波分散を行い、再び圧縮して FEL を照射すること[6]、または、C60 薄膜の成長中に FEL を照射することがポリマー化を促進することがわかった[7]。

    2.目的 本研究ではポリマー化の促進のために超音波分散により C60 分子間への原子の挿入を考えた。LLIP 法に用いるアルコールに calcium methoxide(CMO)を溶解し、カルシウム原子を挿入し、それに FEL を照射した。これは、カルシウムのイオン価数は 2 であり、C60 の価数は最大で-6[1.1]であるため、C60とカルシウム間にイオン結合が形成されると考えたためである。作製方法として、LLIP 溶液を 10~12゜C で 7 日間保存する、又は LLIP 溶液の作製直後に超音波分散を行なった。 3.実験方法・条件 3.1 C60の諸特性 3.1.1 C60 の分子構造[1]

    ポリマー

    アモルファス

    3次元

    図1 研究成果の概要

    超硬質

    超軽量超柔軟

    1380 1400 1420 1440 1460 1480-10

    0

    10

    20

    30

    40

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wavenumber [cm-1]

    200 250 300 350 400 450 500 550 600

    20

    40

    60

    80 F20 0 F20 0_1350

    Wave number [ cm-1 ]

    Inte

    nsity

    [ a

    .u. ]

    1420 1430 1440 1450 1460 1470 1480

    20

    40

    60

    80 F 200 F 200_1 350

    Wave number [ cm-1 ]

    Inte

    nsity

    [ a.

    u. ]

    Surface morphology0 2914.627

    10.49

    24.48

    [nm]

    [nm]

    0 2914.62710.49

    24.48

    [nm]

    [nm]

    0.00 22.66[nm]0.00 22.66[nm] 0 737.1904[nm]

    [nm]

    3.69

    12.36

    0 737.1904[nm]

    [nm]

    3.69

    12.36

    0.00 14.64[nm]0.00 14.64[nm]

    [nm]

    [nm]

    0 3262.85010.9 5

    25.74

    [nm]

    [nm]

    0 3262.85010.9 5

    25.74

    [nm]0.00 25.13[nm]0.00 25.130 [nm] 586.6726

    [nm]

    3.53

    11.71

    0 [nm] 586.6726

    [nm]

    3.53

    11.71

    0.00 14.10[ nm]0.00 14.10[ nm]

    0 483.6608[nm]

    [nm]

    15.69

    17.56

    0 483.6608[nm]

    [nm]

    15.69

    17.56

    [nm]0.00 17.15[nm]0.00 17.15 [nm]

    [nm]

    0 283.9097

    18.29

    16.02[nm]

    [nm]

    0 283.9097

    18.29

    16.02 [ nm]0.00 22.33[ nm]0.00 22.33

    [nm]

    [nm]0 996.087014.40

    15.87

    [nm]

    [nm]0 996.087014.40

    15.87

    [nm]0.00 38.14[nm]0.00 38.14[nm]

    [nm]

    0 322.50447.83

    9.93

    [nm]

    [nm]

    0 322.50447.83

    9.93

    [nm]0.00 13.70[nm]0.00 13.70

    5µm 1µm

    1400 1410 1420 1430 1440 1450 1460 1470 1480

    0

    100

    200

    300

    F40_1350

    Inte

    nsity

    [ a.

    u. ]

    Wave number [ cm-1 ]

    8cm-1

    Ag(1)

    Ag(1)

    Ag(2)

    Ag(2)

    200 250 300 350 400 450 500 550 6000

    50

    100

    F40 F40_1350

    Inte

    nsity

    [ a.

    u. ]

    Wave number [ cm-1 ]1420 1430 1440 1450 1460 1470 14800

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    F40 F40_1350

    Inte

    nsity

    [ a.

    u. ]

    Wave number [ cm-1 ]

    (Atomic force microscopy)

    Lorentz Oscillator

    The surface morphology did not change between FEL irradiation and non-irradiation. But grain size of Ts 200ºC grown as compared with Ts 40ºC. The step height of Ts 200ºC is 0 .8nm.

    FEL irradiation sample Ag (2) derived mode down-shifted. Its main peak is 1461 cm-1, hence irradiated sample polymerized.

    薄膜成長中FEL照射[7]

    1380 1400 1420 1440 1460 1480

    50

    100

    150

    200

    250

    300

    350

    400

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wavenumber [cm- 1]

    138 0 14 00 14 20 1 440 146 0 14 80

    0

    10

    20

    30

    40

    Inte

    nsity

    [a.

    u.]

    Wavenumber [cm- 1]

    138 0 1400 14 20 1440 14 60 14800

    1 0

    2 0

    3 0

    4 0

    Inte

    nsity

    [a.

    u.]

    Wavenumber [cm-1]

    1380 1400 1420 1440 1460 1480

    0

    5

    10

    15

    20

    25

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wavenumber [cm- 1]

    1380 1400 1420 1440 1460 1480

    0

    100

    200

    300

    400

    500

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wavenumber [cm-1]

    1 380 140 0 1420 1 440 146 0 1480-2

    0

    2

    4

    6

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wavenumber [cm-1]

    FEL450

    FEL500

    30μm

    30μm

    30μm

    White

    Rainbow

    1380 1400 1420 1440 1460 1480

    580

    600

    620

    640

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wavenumber [cm- 1]

    150μm

    0.1m

    m

    30μm

    30μm

    30μm

    Rainbow

    30μm

    30μm

    Dissolved in toluene.

    PurpleWhite

    White

    Rainbow

    Dissolved in toluene.

    30μm

    ポリマー化の繰り返し[6]

    1380 1400 1420 1440 1460 148030

    35

    40

    45

    50

    55

    1447.2

    1450.9

    1463.2

    1469.8

    Inte

    nsity

    [ a.

    u. ]

    Wave number [ cm-1 ]

    1380 1400 1420 1440 1460 14800

    100

    200

    300

    Inte

    nsity(

    arb.

    uni

    ts)

    Wavenumber(cm-1)

    圧縮したC60にFEL照射[2]

    LLIP法により得られたC60結晶にFEL照射[2]

    ホールドープされたC60結晶にFEL照射[5]

    142 0 14 40 1 460 14800

    20 0

    40 0

    60 0

    80 0

    100 0

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wave number [cm-1]

    Pu re_C60

    FEL_3 45

    F EL_345 +I2

    7.6 cm-1

    9.6 cm-1

    142 0 14 40 1 460 14800

    20 0

    40 0

    60 0

    80 0

    100 0

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wave number [cm-1]

    Pu re_C60

    FEL_3 45

    F EL_345 +I2

    142 0 14 40 1 460 14800

    20 0

    40 0

    60 0

    80 0

    100 0

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wave number [cm-1]

    Pu re_C60

    FEL_3 45

    F EL_345 +I2

    7.6 cm-1

    9.6 cm-1

    1420 1440 1460 14800

    30 0

    60 0

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wave number [c m-1]

    Pure_C60

    YAG_532

    YAG_532+I2

    3 c m-16 c m-1

    1420 1440 1460 14800

    30 0

    60 0

    Inte

    nsity

    [a.u

    .]

    Wave number [c m-1]

    Pure_C60

    YAG_532

    YAG_532+I2

    3 c m-16 c m-1

    142 0 14 40 1 460 14800

    200 0

    400 0

    600 0

    Inte

    nsit

    y [a

    .u.]

    Wave number [cm-1]

    Pur e_C60

    FEL_4 50F EL_45 0+I 2

    3 cm-1

    8 cm-1

    142 0 14 40 1 460 14800

    200 0

    400 0

    600 0

    Inte

    nsit

    y [a

    .u.]

    Wave number [cm-1]

    Pur e_C60

    FEL_4 50F EL_45 0+I 2

    3 cm-1

    8 cm-1

    1420 1440 1460 148 0

    Ag(2)

    Inte

    nsity

    [ a

    .u. ]

    Wave nu mber [ cm-1 ]

    Th e u ltraviolet laser resulted in so mewhat d ifferen t ch ang es of the Raman sp ectrum.By the irrad iatio n the double sp lit of the pea kwas o b serv ed pro bably becau se the ultrav iolet rays were stro n g ly abso rbed in C60 and o nly in the v icin ity o f samp le su rfaces were ch ang ed by the irrad iatio n .

    Th e FEL with the wavelen gth of typ ically 4 5 0 n m or 345 nm was irradiated to the surfaces o f co mp ressed C60 or C60+ I2 powd er. Th e Raman p eak o f th e Ag (2 )-derived mode clea rly sh ifted to the lower energy side and/or th e h alf width of the peak b ecame broad. These ch aracteristic ch an g es were well interpreted as th e resu lts of po ly merization reaction .

    ポリマー化させる波長[3]

  • C60 分子は炭素原子が 60 個、二種類の長さの C-C 結合が計 90 本、30 本の二重結合、12 個の五員環、20 個の六員環から成る切頭二十面体(正二十面体の各頂点を切り落とした形)構造である[8]。その直径は 0.71 nm、外径は1.03 nm というナノスケールの分子であり、形状は球に近いため、ファンデルワールス力によって凝縮され、面心立方(fcc) 構造の結晶を作っている。更に、C60は非常に硬い分子であり、C60 を固体表面に高速で衝突させても、250 eV までの衝突エネルギーならば分解せずに変形する。その時 C60は変形をし、衝突エネルギーの多くは表面を加熱するのに使われ、数千 K まで励起されるからである。しかし、250 eV を越える衝突エネルギーが加えられると、C60 は解離やフラグメンテーションが誘起される[9]。 C60 はサッカーボール構造をしているので、点群 Ihに属する非常に高い対称性を持つ。C60は非直線分子なので並進と回転の自由度が各三つあるため、174 の振動の自由度があり、切頭二十面体の Ih 対称をもつことから、多くの縮退した振動モードがあると言える。そのため、実際には C60の振動モードは 46 個である。4 つの F1uが赤外活性モードであり、二つの Ag モードと 8 つの Hgモードがラマン活性モードである。Si 基板上での C60 膜の赤外スペクトルが 1429、1183、577、528cm-1 の 4 本の鋭いピークしか観測されなかった[10]は、C60 の対称性が非常に良いためである。これらの 4 本のピークは C60の F1uモードに帰属される。また、ラマンスペクトルも 10 本のピークが確認されており、C60の Ih対称性が示されている[11]。 3.1.2 C60 の電子状態[1] C60は 12個の五員環と 20個の六員環からなるサッカーボール(切頭二十面体)構造をしており、それぞれの炭素原子は一つの五員環と二つの六員環の結合点にある。六員環の角度は 120゜で sp2混成軌道間の角度、五員環の角度は 108゜で sp3 混成軌道間の角度である 109.28゜に近い。しかし球面上の σ 結合は平面からずれるため、純粋な p軌道や s軌道からだけでC60の混成軌道を説明することができない。そこで π 軌道や σ 軌道を考える。Haddon ら[9]

    の解析によれば、C60の混成軌道は、sp2 と sp3 の中間の sp2.278 であり、π 軌道がもつ s の指標は 0.081 ~ 0.085 となっており、C60が中間的な混成軌道を持っていることがわかる。 また、C60 は確認されている分子の中で最も高い対称性である Ih 対称性を持っているので、多くの縮重軌道をもっている。実際に C60の最高被占軌道 (HOMO) huは五重に縮重していて、最低空軌道 (LUMO) t1u は三重に縮重している[8, 12, 13]。齋藤晋と押山によれば、HOMO と LUMOの間には比較的大きなギャップ(1.5 eV)があることがわかった。五重縮重の HOMO は 10 個の電子によって完全に満たされており、高い対称性のサッカーボール構造で安定となっているのである[14]。また、C60 が固体となると、分子間相互作用により、固体としてのエネルギーバンドを形成する。hu 状態、t1u 状態ともにエネルギーバンドを形成すると広がるが、エネルギーギャップは有限に残るために、C60 の固体は半導体となる。 3.1.3 C60 の光伝導[1, 15] 半導体に光を照射し、光子を吸収すると電子が励起される。励起された後、光子を放出して基底状態に戻る場合(放射遷移)と、イオン化して電子正孔対を生成する場合(非放射遷移)がある。放射遷移の場合は、ルミネッセンスが起こり、非放射遷移の場合には吸収した光のエネルギーを熱として放出する。この光伝導を観測できれば、光吸収によって C60 の電子正孔対がどのように変化しているかや、電荷の移動を知ることができる。また、南らが膜厚の違う C60薄膜に光を照射し実験を行った結果、膜厚が薄い場合には光伝導スペクトルは光吸収スペクトル

    に対応しており可視光から紫外域にわたっていた。膜厚が厚くなると、光伝導スペクトルは光吸収スペクトルと逆の関係になった[16]。よって、膜厚の厚い物からわかるように、吸収係数の大きい波長では、光が奥まで当たっておらず、表面でのみ電子正孔対ができている。また、C60 を酸素に曝すと光伝導率が 1 桁以上低下する。これも南らの実験で示されており、酸素に 12 時間曝した後、白色光を当てると化学反応が起こり、光伝導率が低下し、真空熱処理を行っても光伝導率が元には戻らなくなってしまう[16]。したがって、C60を酸素に曝し白色光を当てる、すなわち室内で放置するという行為は C60を化学変化させてしまう。しかし、逆に言えば暗室中で実験を行えば、C60 の劣化を抑えることができるということである。 南がこの報告を行った後、Mort らが C70 を 10 %含むC60 蒸着膜の光伝導性をサンドイッチセルで測定し、暗抵抗が 1014Ω で量子効率のピーク値が 10-4 であることを報告した[17]。その結果より C60 のバンドギャップが 1.5eVであることも判明した。また、Keiser らが光電変換効率と光子エネルギーの関係より、C60薄膜のバンドエッジが1.6 eV、モビリティーエッジが 2.0 eV 付近に存在していることを発表した[18]。そして、その光伝導応答の温度依存性の振る舞いは非晶質シリコンに近いとしている。更に、光導電性を有するポリマーに C70を含む C60 をドープした膜の方が、ポリマー単体の場合よりも光キャリア発生効率が高くなったという報告がある[19]。また、ホトリフラクティブポリマーに 0.2 wt%の C60を溶解させたら屈折効果が 20 倍増加したという報告もある[20]。 3.2 C60ポリマーの合成 3.2.1 C60 ポリマー合成原理[1], [21] C60 は固体においても分子間に共有結合は無く、ファンデルワールス力で凝集している分子性の結晶である。球状の C60分子は室温では固体中でも高速回転している。図 2 のように C60 に紫外線もしくは電子を照射すると、C60 の π 電子が励起され、π 電子による二重結合が切れ、sp2 的な結合から sp3 的な結合を作り、ポリマー化が起きる。この時のポリマー化反応は、隣接する C60 分子間の

    二重結合が切れて四員環が分子間に形成されるため、図3 のように[2 + 2]シクロ付加反応と呼ばれる。ポリマー化が多分子系に発展することで[2 + 2]シクロ付加反応がさ

    sp2

    レーザ光

    sp3

    二重結合

    C60 分子

    図2 sp2 的結合から sp3 的結合へ[21]

  • らに起きて 2 次元ポリマー体となり(図 4)、最終的には本研究の目的である図 5 のような 3 次元ポリマーが合成される。本研究では C60 ポリマー化の指標に C60 の分子振動

    モードの 1 つであり、ラマンスペクトルで 1469cm-1 に現れるピークである Ag(2)振動モードの低エネルギー側へのピークシフトを用いた。Ag(2)振動モードは図 6 のように五員環の中心に向かって五員環を構成する炭素原子が振動するモードであり、C60のポリマー化により隣接するC60分子間に五員環を構成する1つの二重結合が切れて新たに共有結合がつくられるため、Ag(2)振動モードはポリマー化によってその振動が変化し、1460cm-1 にピークシフトが起こる。ポリマー化が促進し、非晶質構造が形成されていると、1460cm-1 からさらに低い値(1380cm-1 から1480cm-1まででは最低で 1408cm-1)にピークシフトが起こることも報告されている[15]。 C60 ポリマー合成の方法としては紫外線や電子を照射する光励起による方法の他にも最も一般的な高温高圧印加による方法、アルカリ金属ドープによる方法が挙げられる。Ag(2)振動モードのピークが 1408cm-1 にシフトしたのは、高温高圧印加による方法の時であった[15]。C60 ポリマーの特徴としては、sp3結合の出現、分子間距離の短縮、対称性の低下、トルエンなどの有機溶媒に溶けなくなることなどが挙げられる。

    3.2.2 C60 ポリマー合成方法 3.2.2.1 はじめに 3.1 で述べた C60ポリマーを合成する方法は以下に述べる高温・高圧印加による方法、光励起を用いる方法、電荷移動による方法に大きく分けられる。 3.2.2.2 高温・高圧印加による方法[22] C60 を 2-6GPa の圧力下で 500゜C 程度に加熱すると 2種類の 2 次元ポリマーができる。更に高い 10GPa 以上の圧力で処理すると 3 次元ポリマーができることが報告されている。5GPa 以上、500゜C の高温高圧処理によって、C60 モノマーが fcc パッキング結晶の(111)面内で重合した、三方晶の 2 次元ポリマーが得られる。この 2 次元ポリマーを元にして、15 GPa、500-700゜C で高温高圧処理を行

    図3 [2 + 2]C60ポリマー[21]

    二重結合

    C60 分子 C60 分子

    図4 2 次元C60ポリマー[21]

    図5 3 次元C60ポリマーの合成[21]

    図6 Ag(2)振動モード[21]

  • うと、斜方晶 3 次元ポリマーが得られる。 3.2.2.3 光励起を用いる方法 固体 C60 薄膜に Ar イオンレーザなどの強い光を照射すると、C60 分子が重合を起こし、ポリマーを形成する。このような光励起ポリマーにおける分子間結合の詳細は不明だが、隣接する C60分子の二重結合が平行で 4.2 A より近い距離にあるときに光が当たると、[2+2]シクロ付加反応によって隣接分子を繋ぐ四員環が形成される。光励起ポリマー化によって、格子構造は変化しないが、X 線回折のピークが約 20%広くなり、分子間距離は 0.01nm 程度縮む。また、IR や Raman スペクトルには C60 分子の対称性の低下より、それまで縮退していた分子振動準位による多くのピークが出現する。このような光励起は C60 吸収端(図 7[23])より低いエネルギーの波長を照射しても起こらない。しかし、例えば水銀ランプのような強力な光を C60 薄膜に照射すると、ポリマー化してトルエンに溶けなくなる。また、C60ポリマーは C60 が自由に回転している 260 K より高温でのみ生成される。光照射によるポリマー化を狙う場合、固体 C60 が酸素を吸蔵していると光励起ポリマー化が起こりにくいので、注意しなければならない。

    3.2.2.4 電荷移動による方法[1] 固体 C60にアルカリ金属やアルカリ土類金属をインターカレートすると種々の組成比のインターカレーション化合物(AxC60)ができる。その中で 1:1 の化合物 A1C60(A = K, Rb, Cs)は 400K 以上では fcc の NaCl 構造をとる。これを室温まで冷却すると fccの(110)方向にC60分子の重合が起こり、体心斜方晶(orthorhombic:a = 9.12Å, b = 10.10Å, c =14.26Å)の 1次元的ポリマー構造をとる。このことは、粉末 X 線回折により示された。 3.2.3 ホールドープ効果[4] グラファイトへのホールドープを例に取り、C60 にホールドープを行うことでどのような効果が期待できるのかを述べる。基底状態のグラファイトとダイヤモンドの間には、一原子当たり約 0.3eV のエネルギーを励起しなければ越えられないエネルギーの壁が存在する(図 8(A))。これに相当するエネルギーを得ない限りは、グラファイトがダイヤモンド構造へ変移することはない。力を印加してゆくことでこのエネルギーの壁はしだいに小さくなってゆき、40GPa を超えた辺りで壁は消失している。つまり、グラファイトは自然にダイヤモンド構造へと変移する。これが一般的に知られている人工ダイヤモンドの高圧合成である。また、グラファイトにホールドープを行い、そのドープ量を増す(~0.25/atom)ことで、圧力印加

    と同様のカーブを描き、グラファイトはダイヤモンド構造へ変移してゆく(図 8(B))。価電子帯に正孔が励起された状態ではグラファイト構造が著しく不安定になり、安定なダイヤモンドへ構造変化するのであるが、言い換えれば、ホールドープを行ったグラファイト中の炭素原子は、超高圧下におけるエネルギー状態と同一視することが出来る。

    3.3 C60 ポリマーの作製装置 3.3.1 アンビル C60 粉末に圧力を印加するアンビルとして平面アンビルを使用した(図 9)。圧縮のみを目的とするため、耐圧性

    に優れた SUS に焼きを入れたものである。アンビルは上部、中部、下部の 3 つの部位から構成され、実験では 3 つを重ねた状態で使用する。下部と中部を合わせた状態にし、試料を適量とり、(約 0.03g)のせる。中部を合わせることにより試料が外にこぼれだすのを防ぐことが出来る。上に上部を重ねその上から圧力を印加する。平面にはおよそ 600MPa の圧力が印加される。試料は、高さ 1mm以内、直径 7mm の円盤状で得ることができる。 3.3.2 プレス機[24]

    300 6000

    3

    Wavelength [nm]

    In

    tens

    ity [a

    .u.]

    Absorbance

    3.6eV

    4.6eV

    5.7eV

    C60 thin film absorbance

    図7 C60薄膜の吸光特性[23]

    図8 (A) 高圧下におけるグラファイト、ダイヤモンドのエネルギー状態(B) ホールドーピングによるグラファイトから

    ダイヤモンドの創製[4]

    Ent

    halp

    y [ e

    V/a

    tom

    ]

    R/cDiamond Graphite

    0.25 0.27 0.31 0.330.29

    2.5

    2.0

    1.5

    1.0

    0.5

    0.0

    3.0

    60GPa

    4GPa

    10GPa

    20GPa

    40GPa

    0GPa

    ● nh=0

    ◆ nh=0.0625 [ 1/atom ]

    ▲ nh=0.125 [ 1/atom ]

    ■ nh=0.25 [ 1/atom ]

    Ent

    halp

    y [ e

    V/a

    tom

    ]

    R/cGraphiteDiamond0.25 0.27 0.31 0.330.29

    0.4

    0.0

    -0.4

    -0.8

    -1.2

    -1.6

    (A) (B)

    25mmφ

    7mmφ

    25mmφ

    7mmφ

    35mmφ

    6mm

    上部

    中部

    下部

    7mmφ

    上部

    中部

    下部

    試料

    4mm4mm

    4mm4mm

    図9 平面アンビル寸法

  • C60 粉末に圧力を印加するためにプレス機を使用した。容器の中に入っている油が静止状態にある場合を考える。この場合、流体の微小部分は他の流体部分に対して滑らないので、その間に摩擦は無く、あるものは圧縮の力のみである。パスカルの原理として知られているように、静止している流体の一点における圧力の強さは全方向に等しい。例えば、図 10 のように面積の違う二つの入り口を持つ容器を考える。面積の小さいほうの入り口に力を加えると、パスカルの原理より、圧力は油全体に均一にかかる。しかし、他方の広い面積のほうにかかる力は圧力×面積であり、面積が大きいため、その分大きくなる。これにより、小さな力で大きな力が得られる。本実験で使用したプレス機(山本水圧工業社製、APP-20)は、手動式油圧ポンプを用いた物である。

    3.4 レーザ光源 3.4.1 レーザ[25] 本研究では波長可変性、及び ps オーダのミクロパルスで構成されることに起因する短時間での MW オーダの高密度なエネルギー照射と熱的破壊の少なさを有する自由電子レーザ(FEL:Free Electron Laser)を C60 の光励起を行う光源として用いた。そのパルス構造を図 11 に示す。自

    由電子レーザは図 12 のように構成され、その発振原理は

    ウィグラーと呼ばれる周期磁界発生装置による周期磁界の印加により電子を蛇行させてシンクロトロン放射光を発生させ、これを種光としてさらに増幅したものである。

    言い換えると FEL は電子と周期磁界により生じた電磁波との相互作用により発振する。一般にレーザは原子、分子、あるいは固体の電子のエネルギー準位により発振波長を決定するが、FEL は先ほど述べたようにエネルギー準位を用いないため、原理的にははじめに述べたようにどのような波長でも発振は可能である。 FEL の共鳴条件について考える。電磁波との相互作用による電子のエネルギーの変化は、

    OPEmce

    dtd

    ×-= bg (1) に従う。ここで m は電子の静止質量、e は素電荷、γ は相対論因子、β は光速で規格化した電子の速度、EOPは電磁波の電界である。相互作用により電子が電磁波にエネルギーを受け渡すには 0>× OPEb でなければならない。電子ビーム及び電磁波の伝搬方向を 軸にとると、アンジュレータ磁界は、 ( ) ( )zkBzB usin0= (2)

    のように正弦波的に変化する。ここで B0はアンジュレータのピーク磁界、ku はアンジュレータの波数であり、磁界の波長を λu とすれば、ku = 2π/λuで与えられる。 アンジュレータ磁界中で電子は図 5.1 のような蛇行運動をする。運動方程式を解くと、電子の電界方向の速度β⊥、及び軸方向の速度 β は、

    ( )zkK ucosgb -=^ (3) ÷÷ø

    öççè

    æ+-=

    21

    211

    2

    2

    Kz g

    b (4) となる。ここで Κ はアンジュレータの規格化ベクトルポテンシャルであり、

    mceBK upl

    20= (5)

    10 kg の力

    100 kg の力

    面積 1 cm2

    油圧力10 kg/cm2

    面積 10 cm2

    図10 パスカルの原理図[24]

    図11 LEBRA自由電子レーザのパルス

    Macro pulse

    1ps

    20ms

    Micro pulse

    ・・・・・・

    図12 自由電子レーザ原理図

    S

    S

    S

    S

    S

    N

    N

    N

    N

    N

    S

    N

    S

    N

    電子ビーム回収器

    電子加速器

    全反射鏡

    半透鏡

    ウィグラー(アンジュレータ)

    レーザ光

    電子ビーム

  • となる。通常の FEL では Κ パラメータは 1 程度である。図 12 中の破線は電界の方向と強度を表す。電磁波の波長は λ とした。時刻 t = 0 において、z0の位置にある電子と電磁波の相互作用を考える。この位置では 0>× OPEb であるから、電子はエネルギーを電磁波に受け渡す。電子の速度は必ず光速より遅いので、電子は電磁波に追い抜かれていく。電子がアンジュレータの半周期長 λu/2 だけ進む間に、電磁波が電子を半波長だけ追い抜く場合を考えると、z1ではやはり 0>× OPEb であり、電子は電磁波にエネルギーを受け渡す。またこの間常に 0³× OPEb である。結局、電子がアンジュレータ 1 周期を進む間に、電磁波がその 1 波長分だけ電子を追い越すような場合には、常に 0³× OPEb であり、電子は電磁波にエネルギーを受け渡し続ける。これが FEL の共鳴条件であり、光速を c とすると、

    ( )z

    uz c

    ccbl

    bl -= (6) と表すことができる。電子のエネルギーが高く 1≫g の場合には、(4)式、(6)式より共鳴する電磁波の波長は、

    ÷÷ø

    öççè

    æ+=

    21

    2

    2

    2

    Kugl

    l (7) となる。この結果から、FEL では電子ビームのエネルギーやアンジュレータ磁界の周期または磁束密度を変えることで発振波長、したがって発振周波数が連続的に可変であることがわかる。 本研究で使用した日本大学理工学部電子線利用研究施設(LEBRA)の FEL は、図 13 のように発振から試料まで18 枚の Al ミラーを介しておりレーザ強度は発振時の約23 %まで低下してしまうが、基本波で 5-7.5mJ/pulse の高い強度を持ち、波長は 0.6-6μm まで選択することができる。

    3.4.2 光学系[26], [27]

    非線形光学現象とは、レーザ光の強い電磁界と媒体との相互作用によって生じる現象ある。強い光に対して媒体の応答が非線形に現れて、高調波発生、光混合波発生、パラメトリック発振というような波長変換が起きる。ここでは、第二高調波発生(second harmonic generation:SHG)、和周波発生(sun frequency generation:SFG)、差周波発生(difference frequency generation:DFG)について述べる。 SFG とは、二つの低エネルギーフォトンが一つの高エネルギーフォトンに統合されることである。

    321

    111lll

    =+ (8)

    この中でも特に、入力波長が同じ(λ1 = λ2)場合を SHGという。光源にレーザを用いる場合は一度 NLO にレーザを通せば、SHG を得ることができる。

    DFG とは、二つの高エネルギーフォトンが一つの低エネルギーフォトンに統合されることである。

    321

    111lll

    =- (9)

    本実験で使用している非線形光学結晶(Nonlinear Optics:NLO)は CASIX 社のバリウムボーレート(β-BaB2O4:BBO)である。BBO は波長 190 nm の紫外域から 3500nm の赤外域まで無色透明で、紫外光に波長変換できる。BBOの利点は大きな複屈折と小さな波長分散で、189 nm-1750 nm までの幅広い SHG 位相整合が可能である。位相整合の方法は角度チューニングを採用している。NLOに対して入射するレーザ光の角度を変えることによって、SHG の発生する効率が変化する。図 14 に BBO の波長対整合角のグラフを示す。この表からわかるように、入射レーザ波長 2000 nm の場合、角度を 21゜程度にしたときに SHG が発生することがわかる。

    3.5 評価装置 3.5.1 顕微ラマン分光装置 3.5.1.1 光学顕微鏡の原理

    光学顕微鏡は μm オーダの微小な物質を拡大して見る装置である。被測定物質に近いレンズは対物レンズ、目に近いレンズは接眼レンズと呼ばれる。対物レンズによって被測定物質を拡大して実像を作り、その実像を接眼レンズで拡大して虚像を作り観察している。倍率は、接眼レンズの倍率と対物レンズの倍率の積になる。実験に用いた光学顕微鏡はラマン分光装置と一体になったもので、ステージの上下は粗動ダイヤルと微動ダイヤルにより行え、またステージの前後左右の移動もダイヤルで調整可能である。但し、直接触れると動いてしまうので注意が必要である。上部にカメラを取り付ける場所があり、

    電子銃加速管加速管加速管

    クライストロン2 クライストロン1

    方向性結合器

    偏向電磁石偏向電磁石偏向電磁石

    偏向電磁石 偏向電磁石

    偏向電磁石

    偏向電磁石

    ビームダンプ

    ビームダンプ

    ビームダンプ

    アンジュレータ

    PXR発生装置

    自由電子レーザ X線ビームライン

    導波管 導波管

    図13 LEBRA自由電子レーザ原理図

    0 500 1000 1500 2000 2500 3000

    10

    20

    30

    40

    50

    60

    70

    80

    90

    Ang

    le [

    deg

    ]

    Wave length [ nm ]

    図14 BBOの波長対整合角特性

  • 写真撮影が可能である。

    3.5.1.2 ラマン分光測定の原理[28], [29] これまで物質に波数 ν0のレーザ光を照射すると、光は散乱される。球形をしている原子と光とが相互作用をする場合を考える。これを図 15 に示す。図 15 の(a)のように光の電界が作用する前は、電子雲の負電荷の中心は原子核の陽電荷の上にくるため、双極子モーメントはゼロである。次に(b) のように原子に電界が印加されると、電子雲は下に引っ張られるが、原子核は重く、ほとんど動かず、負電荷の重心は原子核よりずれるため、ここに電気双極子は生じる。光の電界は交流電界のため、(c)のように電界の向きが逆になり、電子雲は逆に引っ張られる。

    この時も電子の動きは非常に速く、電子雲はすぐに移動するが、原子核は動かないため、双極子は逆を向く。つまり、光の電界が振動数 ν0で向きを変えると、生じた双極子も振動数 ν0 で向きを変える。ここで、マクスウェル方程式の仮定である振動する電気双極子からその振動数の電磁波が四方に放射されることを踏まえると、この原子から振動数 ν0 の光が放射されることになり、これが光の散乱である。この時、入射光と同じ振動数の光が散乱され、これはレイリー(Rayleigh)散乱という。散乱された光の波長を調べると、ν0,ν0 ± ν1, ν0 ± ν2 となっている。すなわち、入射光と同じ波長の光だけでなく、それから少し異なる波数の光も観測される。前者はレイリー散乱、後者はラマン散乱と呼ばれる。入射光の波数と散乱光の波数の差はラマンシフトと呼ばれる。ラマンスペクトルは縦軸に散乱光の強度を、横軸にラマンシフトを目盛る。そのため、ラマンスペクトルは入射光の波長に関係しない。入射光の波長により、ラマンスペクトルのパターンに変化があるのは共鳴ラマン散乱の場合である。これは入射光の波長が分子の吸収極大波長に近い場合である。また、入射光より低い波数領域に観測されるバンドはストークス(Stokes)散乱、高い波数領域に観測されるバンドはアンチストークス(Anti-Stokes)散乱と呼ばれ、ストークス散乱の方が強いので、通常ラマンスペクトルではストークス散乱のみを測定する。ラマン散乱の絶対強度を測定することは非常に難しいため普通、強度は任意の単位で示す。 光の散乱はレイリー散乱とラマン散乱であるが、エネルギーの分布では大部分はレイリー散乱であり、ラマン散乱は強い場合でも 1000万個の入射光子に対して 1個の割合でしか起こらない。ラマン散乱はレイリー散乱に比べて極めて弱いエネルギーだが、装置中にフィルターを挟むことでラマン散乱のみ観測することが可能になる。本研究で使用した顕微ラマン分光装置(kaiser 社製、HoloLab5000R)ではレーザ光には YAG 倍波 532nmを用いている。装置の概略図を図 16 に示す。プローブヘッドに はレーザ光の強さを調整するネジが付いており、ネジを回すことでレーザ強度を変化させることが可能である。

    光学顕微鏡の対物レンズは 10 倍、50 倍、100 倍がある。装置を順番に起動させた後、パソコン上で HoloGRAMS 532 と GRAMS AI というソフトを起動させる。HoloGRAMS 532 において、画面右下の温度表示が赤から緑に変わったら測定が可能になったということである。光学顕微鏡の試料台に標準試料である Si 基板を置く。フォーカスを調整し、測定してピークが 520 cm-1 の誤差範囲内(520 ± 2cm-1)に出ていることを確認する。その後、測定したい試料を試料台に置き、HoloGRAMS 532 のビデオカメラ測定で CCD によりフォーカスを合わせる。フォーカスを調整し光顕像を保存したら、レーザを照射する。HoloGRAMS 532 の FOCUS を押し、ピークが出ていることを確認した後、Acquire Spectrum を押し測定を行う。この時に部屋を暗くしないと余計なピークが検出され、測定の妨げになってしまう。測定回数、測定時間、ラマン光の出力を調整する事でノイズを除去できる。 3.6 実験準備 3.6.1 溶液作製 3.6.1.1 C60飽和 o-xylene 溶液の作製 液液界面析出(Liquid Liquid Interfacial Precipitation:LLIP)法を用いて C60 結晶を得るために C60飽和 o-xylene溶液を作製した。o-xylene に対する C60 の飽和量は8.7mg/ml であり[30]、容量 250ml に対しては 2.2g となる。実際に使用するのは C60 飽和溶液であるため、C60過飽和o-xylene 溶液となるようにねじ口びん[250ml]にo-xylene(東京化成製、98.0%)を 250ml 秤量し、C60粉末(MTR 製、99.5%)を 2.4g、秤量して加えた。o-xylene はマイクロピペット(Kartell 製、1-10ml)を用いて 10ml ずつ秤量した。その後、15 分間超音波分散を行ない、冷蔵庫(10-12°C)に保管した。 3.6.1.2 calcium methoxide(CMO)飽和 butylalcohol(BTA)溶

    図15 振動原理

    双極子による影響

    光の電界

    光の電界

    電子雲

    繰り返す

    振動数ν0で向きを変える

    図16 ラマン分光装置と分光原理図

    ラマン散乱光

    分光器

    YAG(2nd)レーザ

    CCDモニタ

    フィルタ

    対物レンズ

    試料

    ラマン+

    レイリー散乱光

  • 液の作製 LLIP法を用いてC60に電子ドープを行うために calcimu methoxide(CMO、シグマアルドリッチジャパン製、純度97%)を 0.1g 秤量し、マイクロピペットを用いて 10ml ずつ秤量した 200ml の butylalcohol(BTA、関東化学製、99%)溶液に加え、15 分間超音波分散を行なった。CMO 粉末は溶け残りが確認される程度の過飽和量を加えた。BTAはねじ口びん[250ml]に加えた。超音波分散後は冷蔵庫(10-12°C)に保管した。 3.6.2 FEL 照射試料の作製と光学系の調整 本研究では FEL を C60 飽和溶液中で照射した。照射試料は 600MPa で圧縮した C60 を両面テープ(ニチバン製、ナイスタック)で 10 × 10mm2 にカットしたスライドガラスに貼りつけたものとした。スライドガラスはダイヤモンドカッターを用いてカットした。FEL の光学系は図 17のように 2 つの非線形結晶と 1 つのプリズムを用いて調整した。

    3.6 試料 1 の作製のプロセス 試料 1 の作製のプロセスを図 18 に示す。LLIP 溶液を作製した。これは C60 飽和溶液とその上に CMO 飽和アルコール溶液を加えて作製されたものである。LLIP 溶液は

    C60 飽和 o-xylene 溶液 10ml の上に CMO 飽和 butylalcohol (BTA)溶液 20ml を注いで作製した。LLIP 溶液は 10~12℃で 7 日間保存し、除去し、用いたビーカ[50ml]を 25℃で1 日間保存し、直径 7mm のアンビルを用いて 600MPa で30 分間圧縮した。圧縮からの作製プロセスは図 19 に示す。25゜C で 1 日間保存し、ラマン分光装置(レーザ光源:YAG レーザ 532nm, 127 W/cm2)を用いて試料を評価し、C60 飽和 o-xylene 溶液 3ml 中で試料表面に波長 500nm のFEL を 1 時間照射した。この時の FEL のエネルギー密度は 1mJ/cm2/pulse であった。FEL 照射後は試料を溶液から取り出し、25゜C で 1 日間保存し、ラマン分光装置を用いて評価した。これを試料 1 とする。

    3.6 試料 2 の作製のプロセス 試料 2 の作製のプロセスを図 20 に示す。LLIP 溶液はC60 飽和 o-xylene 溶液 5ml の上にゆっくり CMO 飽和 BTA溶液 10mlを注ぎ、この溶液に超音波分散を 15分間行い、10~12℃で 1 日間保存した。LLIP 溶液を除去し、用いたビーカ[50ml]を 25℃で 2 日間保存した。圧縮からの作製のプロセスは試料 1 と同様である。

    4.評価方法・条件 作製した試料は顕微ラマン分光装置(kaiser 社製、HoloLab5000R)を用いて評価した。光学顕微鏡では、接眼レンズの倍率を 10 倍とし、対物レンズを 10 倍、または50 倍とした。画面の焦点は、圧縮した C60の表面の一部に合わせた。ラマン分光装置では C60分子の 1469cm-1 にある Ag(2)振動モードは、実験方法の 3.2.1 で述べたようにポリマー化によってその振動が変化し、1460cm-1 にピークシフトが起こる。ポリマー化が促進し、非晶質構造が形成されていると、1460cm-1 からさらに低い値(1380cm-1 から 1480cm-1 まででは最低で 1408cm-1)にピークシフトが起こることも報告されている[15]。そのため、Ag(2)振動モードのピークがシフトしたことは、ポリマー化を示すと考えている。

    図17 本実験で用いた光学系

    FEL 光

    集光ミラー集光ミラー

    非線形結晶

    集光レンズ

    集光ミラー

    ミラー

    集光ミラー

    ビーカ

    プリズム

    非線形結晶

    集光レンズ

    LLIP溶液の作製C60飽和o-xylene溶液の上にCMO飽和BTA溶液を注いだ

    LLIP溶液の除去

    圧縮図18 試料1の作製のプロセス

    25゜Cで1日間保存

    10~12゜Cで7日間保存

    測定

    600MPaで30分間圧縮

    FELを1時間照射

    試料の取り出し

    測定

    図19 圧縮からの作製のプロセス

    25゜Cで1日間保存

    25゜Cで1日間保存

    LLIP溶液の作製C60飽和o-xylene溶液の上にCMO飽和BTA溶液を注いだ

    LLIP溶液の除去

    圧縮図20 試料2の作製のプロセス

    25゜Cで2日間保存

    ・超音波分散を15分間・10~12゜Cで1日間保存

  • 5.結果 5.1 試料 1 の作製のプロセス

    図 21 に FEL 照射後の試料 1 の光学顕微鏡像、図 22 に試料 1 のラマンスペクトルを示した。光学顕微鏡では、 接眼レンズを 10 倍、対物レンズを 50 倍として、約 30 × 30 μm2 の表面を観察した。高さの微調整を行うと、調整前の表面が見えなくなり、周囲の表面だけが見えるようになった。FEL 照射前に Ag(2)振動モードのピークを1469cm-1 に確認した。図 21 の赤丸の部分に光源のレーザを照射し、ラマンスペクトルを測定すると、FEL 照射後に Ag(2)振動モードのピークを 1469cm-1、1458cm-1 に確認した。1458m-1 のピークは 1469cm-1 からシフトしたピークであり、ポリマー化により Ag(2)振動モードの振動は制限されて低エネルギー側にシフトするため、ポリマー化を示す。また、1458m-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 19.7 であった。1469cm-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 93.1 であった。ポリマー化した C60 より C60 モノマーが多く確認されたことを示す。

    5.2 試料 2 の作製のプロセス

    図 23 に FEL 照射後の試料 2 の光学顕微鏡像、図 24 に試料 2 のラマンスペクトルを示した。光学顕微鏡では、接眼レンズを 10 倍、対物レンズを 50 倍として、約 100× 50 μm2 の表面を観察し、この部分が白く、周囲は黒くなっていた。試料 1 と同様に高さの微調整をすると、調整前の表面が見えなくなり、周囲の表面だけが見えるようになった。FEL 照射前に Ag(2)振動モードのピークを1469cm-1 に確認した。図 23 の赤丸の部分に光源のレーザを照射し、ラマンスペクトルを測定すると、FEL 照射後

    に Ag(2)振動モードのピークを 1469cm-1、1457cm-1 に確認した。1457cm-1 のピークは元の 1469cm-1 から低エネルギー側にシフトしたピークであり、ポリマー化により Ag(2)振動モードの振動は制限されて低エネルギー側にシフトするため、ポリマー化を示す。この強度比はバックグラウンドを引いて 36.1 であった。1469cm-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 77.7 であり、ポリマー化した C60より C60 モノマーが多く確認されたことを示す。

    6.考察 6.1 試料 1 の作製のプロセス FEL 照射後の光学顕微鏡像について、高さの微調整をすると、調整前の表面が見えなくなり、周囲の表面だけが見えるようになった。これは、周囲の表面が見えるようになっていたため、図 21 で観察した表面の部分が周囲より凹んでいるのではないかと考えている。この部分のラマンスペクトルはポリマー化を示していたため、FEL照射により、ポリマー化が進行した部分を測定できたと考えている。また、このポリマー化を示した部分が凹んでいたのは、C60 飽和溶液中で FEL を照射しているときに圧縮したC60の表面に溶液からC60が析出したためであると考えている。 光学顕微鏡像からポリマー化が進行した部分のラマンスペクトルを測定できたと考えられ、1458m-1 のピークは1469cm-1 からシフトしたピークであり、ポリマー化を示すピークと考えられる。よって、FEL 照射によるポリマー化は進行したと考えている。1469cm-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 93.1 であった。1469cm-1

    図21 試料1の光学顕微鏡像(FEL照射後)

    60μm

    図22 試料1のラマンスペクトル(a) FEL照射前、(b) FEL照射後

    1380 1400 1420 1440 1460 14800

    100

    200

    300

    Inte

    nsity

    [ a.

    u. ]

    Wavenumber [ cm-1 ]

    1469

    1458(a)

    (b)

    300μm

    図23 試料2の光学顕微鏡像(FEL照射後)

    図24 試料2のラマンスペクトル(a) FEL照射前、(b) FEL照射後

    1380 1400 1420 1440 1460 14800

    100

    200

    300

    Inte

    nsity

    [ a.

    u. ]

    Wavenumber [ cm-1 ]

    1469

    1457

    (b)

    (a)

  • のピークの強度比が高かったため、ポリマー化した C60より C60モノマーが多く確認されたことを示す。これは圧縮時の圧力不足によると考えられる。 6.2 試料 2 の作製のプロセス FEL 照射後の光学顕微鏡像について、高さの微調整をすると、試料 1 と同様に周囲の表面だけが見えるようになった。これは、周囲の表面が見えるようになっていたため、図 23 で観察した表面の部分が周囲より凹んでいるのではないかと考えている。この部分のラマンスペクトルはポリマー化を示していたため、FEL 照射により、ポリマー化が進行した部分を測定できたと考えている。また、このポリマー化を示した部分が凹んでいたのは、C60飽和溶液中で FEL を照射しているときに圧縮した C60 の表面に溶液から C60 が析出したためであると考えている。

    試料 1 と同様に光学顕微鏡像からポリマー化が進行した部分のラマンスペクトルを測定できたと考えられ、1457cm-1 のピークは元の 1469cm-1 から低エネルギー側にシフトしたピークであり、ポリマー化を示すピークと考えられる。1469cm-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 77.7 であり、ポリマー化した C60 より C60モノマーが多く確認されたことを示す。これは圧縮時の圧力不足によると考えられる。1457cm-1 のピーク強度比は試料 1 の 1458cm-1 のピーク強度比で割ると、1.8 であり、試料 1 の場合より高かった。よって、超音波分散を用いると、ポリマー化はより進ませることができることを確かめられたと考えている。 7.まとめ

    3次元C60アモルファスポリマーの形成のために自由電子レーザ(FEL)による光励起を行い、C60の sp2軌道同士の2 重結合を切り離し、分子間に sp3 軌道同士の結合を形成させる。

    本研究ではポリマー化の促進のために超音波分散により C60 分子間への原子の挿入を考えた。LLIP 法に用いるアルコールに calcium methoxide(CMO)を溶解し、カルシウム原子を挿入し、それに FEL を照射した。これは、カルシウムのイオン価数は 2 であり、C60 の価数は最大で-6であるため、C60 とカルシウム間にイオン結合が形成されると考えたためである。作製方法として、LLIP 溶液を10~12゜C で 7 日間保存する、又は LLIP 溶液の作製直後に超音波分散を行なった。試料 1 では FEL 照射後に Ag(2)振動モードのピークを 1469cm-1、1458cm-1 に確認した。1458m-1 のピークは 1469cm-1 からシフトしたピークであり、ポリマー化を示すピークと考えられる。1458m-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 19.7 であった。1469cm-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて93.1 であった。よって、FEL 照射によるポリマー化は進行したと考えている。

    光学顕微鏡では、約 30 × 30 μm2 の表面を観察した。高さの微調整を行うと、周囲の表面だけが見えるようになった。これは、周囲の表面が見えるようになっていたため、観察した表面の部分が周囲より凹んでいるのではないかと考えている。この部分のラマンスペクトルはポリマー化を示していたため、FEL 照射により、ポリマー化が進行した部分を測定できたと考えている。

    試料 2 では 1457m-1 のピークは元の 1469cm-1 から低エネルギー側にシフトしたピークであり、ポリマー化を示すピークと考えられる。この強度比はバックグラウンドを引いて 36.1 であった。1469cm-1 のピークの強度比はバックグラウンドを引いて 77.7 であった。1457cm-1 のピーク強度比は試料 1 の 1458cm-1 のピーク強度比で割ると、1.8 であり、試料 1 の場合より高かった。よって、超音波分散を用いると、ポリマー化はより進ませることができることを確かめられたと考えている。

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