メタン直接改質における触媒性能の向上に関する研 …the reforming performance...

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北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月 31 メタン直接改質はメタンを触媒反応させて水素を生成し、副生成物である芳香族化合物を回収する ことによって温室効果ガスの排出削減に寄与し得るプロセスである。本研究では改質性能の向上を図 るため、触媒充填方法と触媒形状の最適化調査、バインダー量低減触媒の改質性能調査、および微量 被毒成分が改質性能に及ぼす影響に関する調査を行い、以下のような結果を得た。 (1)触媒層を形成する際、アルミナボールの混合により改質性能は改善された。φ10㎜のアルミナボー ルの場合、1kg の触媒に対して2.3kg 以上を混合するのが望ましい。 (2) φ10㎜リング触媒は最も良好な改質性能を示したが、実用的にはゼオライト担体の強度改善が必 要である。 (3) バインダー量を10wt% まで低減したことにより炭素生成は抑制され、良好な改質性能を示した。 (4) 硫黄化合物は改質性能を著しく低下させた。特にメチルメルカプタンは極力除去し、硫化水素も 10ppm 未満まで低減する必要がある。 《キーワード:メタン直接改質、触媒、水素、芳香族化合物》 Methane direct reforming is the catalysis process by which hydrogen is generated from methane. This process contributes to the reduction of greenhouse effect gas exhaust by withdrawing aromatic compounds as the other products. In this study the method of catalysts setting, the shape effect of catalyst, the reduction effect of binder in catalyst and the influence of sulfuric and nitric compounds in the material gas were investigated. The results obtained from this study were as follows: (1) In the case of catalyst setting the reforming performance was improved by blending alumina balls with catalysts. It is desirable to blend more than 2.3 kg of 10 ㎜ dia. alumina balls with 1 kg of catalysts. (2) The best reforming performance was shown by using 10 ㎜ dia. ring-shaped catalysts. However it is necessary to improve the strength of zeolite matrix for practical use. (3) By reducing binder to 10% of catalyst in weight, the production of carbon was restrained and the reforming performance was shown better. (4) The reforming performance became worse because of sulfuric compounds in the material gas. Especially methyl mercaptan should be removed to the utmost and it is necessary to reduce hydrogen sulfide under 10 ppm in volume. 《Keywords: methane direct reforming, catalyst, hydrogen, aromatic compounds》 メタン直接改質における触媒性能の向上に関する研究 Study on Development of Catalyst Performance in Methane Direct Reforming 主藤 祐功 * 大久保 天 ** 秀島 好昭 *** 中村 諭 **** 垣原 肇 ***** 伊藤 秀明 ****** Yukoh SHUDO,Takashi OHKUBO,Yoshiaki HIDESHIMA, Satoru NAKAMURA,Hajime KAKIHARA,and Hideaki ITOH

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  • 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月 31

     メタン直接改質はメタンを触媒反応させて水素を生成し、副生成物である芳香族化合物を回収することによって温室効果ガスの排出削減に寄与し得るプロセスである。本研究では改質性能の向上を図るため、触媒充填方法と触媒形状の最適化調査、バインダー量低減触媒の改質性能調査、および微量被毒成分が改質性能に及ぼす影響に関する調査を行い、以下のような結果を得た。(1) 触媒層を形成する際、アルミナボールの混合により改質性能は改善された。φ10㎜のアルミナボールの場合、1kg の触媒に対して2.3kg 以上を混合するのが望ましい。(2) φ10㎜リング触媒は最も良好な改質性能を示したが、実用的にはゼオライト担体の強度改善が必要である。(3) バインダー量を10wt% まで低減したことにより炭素生成は抑制され、良好な改質性能を示した。(4) 硫黄化合物は改質性能を著しく低下させた。特にメチルメルカプタンは極力除去し、硫化水素も10ppm 未満まで低減する必要がある。

    《キーワード:メタン直接改質、触媒、水素、芳香族化合物》

     Methane direct reforming is the catalysis process by which hydrogen is generated from methane. This process contributes to the reduction of greenhouse effect gas exhaust by withdrawing aromatic compounds as the other products. In this study the method of catalysts setting, the shape eff ect of catalyst, the reduction eff ect of binder in catalyst and the infl uence of sulfuric and nitric compounds in the material gas were investigated. The results obtained from this study were as follows:(1) In the case of catalyst setting the reforming performance was improved by blending alumina balls with catalysts. It is desirable to blend more than 2.3 kg of 10 ㎜ dia. alumina balls with 1 kg of catalysts.(2) The best reforming performance was shown by using 10 ㎜ dia. ring-shaped catalysts. However it is necessary to improve the strength of zeolite matrix for practical use.(3) By reducing binder to 10% of catalyst in weight, the production of carbon was restrained and the reforming performance was shown better.(4) The reforming performance became worse because of sulfuric compounds in the material gas. Especially methyl mercaptan should be removed to the utmost and it is necessary to reduce hydrogen sulfi de under 10 ppm in volume.

    《Keywords: methane direct reforming, catalyst, hydrogen, aromatic compounds》

    メタン直接改質における触媒性能の向上に関する研究

    Study on Development of Catalyst Performance in Methane Direct Reforming

    主藤 祐功 * 大久保 天 ** 秀島 好昭 ***中村  諭 **** 垣原  肇 ***** 伊藤 秀明 ******

    Yukoh SHUDO,Takashi OHKUBO,Yoshiaki HIDESHIMA,

    Satoru NAKAMURA,Hajime KAKIHARA,and Hideaki ITOH

    報 文

  • 32 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月

     国内において「バイオマス・ニッポン総合戦略」が推進されている中で、積雪寒冷地である北海道の大規模酪農地帯で発生する家畜ふん尿は地域における再生可能なエネルギー源として注目されている。北海道開発土木研究所では平成12年度に野付郡別海町に建設された大規模集中型バイオガスプラントを利用して、積雪寒冷地における乳牛ふん尿の嫌気発酵処理技術やバイオガスを利用した電気と熱のコージェネレーション技術を研究してきた1)。また、エネルギー需要の季節変化や時間変化に対して追従性の良いエネルギー供給システムの検討と温室効果ガスである二酸化炭素(CO₂)の排出削減を目的として、家畜ふん尿起源のバイオガスを水素に変換し、燃料電池を使って発電利用する特別研究 「 地球温暖化対策に資するエネルギー地域自立型実証研究 」 を開始し、平成15年度には同バイオガスプラント内に実証プラントを建設した2)。 家畜ふん尿起源のバイオガスの成分は、一般にメタンが約60%、CO₂が約40%で、その他に窒素、酸素、水分、硫化水素等の硫黄化合物、アンモニア等の窒素化合物といった微量成分を含有している。バイオガスを水素に変換する過程では、これらの微量成分を除去し、さらに CO₂を分離して精製メタンを得る前処理工程を必要とする。そして、この精製メタンを化学反応させて水素を取り出すのがメタン改質である。メタン改質による水素製造において一般に用いられている方法として水蒸気改質がある。この方法は所定の条件でメタンと水蒸気の混合ガスを触媒反応させて水素を生成するもので、化石燃料等の炭化水素からの水素製造において広く用いられている方法であるが、CO₂を生成ガスとして排出するプロセスである3)。 一方、本実証研究においては CO₂を生成ガスとして排出しないメタン直接改質法について検討を行っている。この方法ではメタンを触媒反応させて水素を生成するが、副生成物であるベンゼンを主とする芳香族化合物を回収することによって温室効果ガスの排出削減に寄与し得るプロセスである4)。 本報ではメタン直接改質法の概要について述べるとともに、触媒改質性能の向上を図るために実施した触媒充填方法の最適化調査、触媒形状の最適化調査、バインダー量低減触媒の改質性能調査、および乳牛ふん尿起源のバイオガス中に含まれる微量被毒成分が改質性能に及ぼす影響を調査した結果について概要を報告する。

      メタン直接改質法では特異な構造を持つゼオライト触媒を使用する。ゼオライトは多孔質の結晶性アルミノケイ酸塩であり、天然・合成の多様なゼオライトが広く触媒や吸着剤に用いられている5)。メタン直接改質で用いられるゼオライトは ZSM-5型と呼ばれるもので、典型的な組成は Na₂(AlO₂)₂(SiO₂)₉₄であり、これを担体として含浸法により触媒有効成分である Moを分散固定(担持)している。そして、Mo は炭化処理して炭化 Mo とすることで触媒活性機能を有するようになる(賦活処理)6)。この触媒の特徴として、ZSM-5型ゼオライトの細孔径がベンゼンの分子径と同等の5 ~ 10Å程度であるため、この細孔が鋳型の役割をして分子形状選択性を示す。 にメタン直接改質反応の模式図を示したが、この触媒によるメタン直接改質反応は、以下のように2段階の反応で進むと考えられる。

    ①メタンがMoC上でC2~C3成分(エタン、エチレン、プロピレン等)および水素となる。

    ② C2 ~ C3成分がゼオライト細孔内で鋳型効果によりベンゼンやナフタレンを形成する。

     現状の問題点として、メタン直接改質反応では温度・圧力一定で反応を進行させると、やがてそれ以上は反応が進行しない化学平衡に到達する。例えば、反応温度を750℃、圧力を0.4MPa とすると平衡反応率は約10% 程度となる7)。一方、無触媒下においては、メタンから炭素と水素を生成する反応が支配的で、その平衡反応率は90% に達することから、触媒反応におい

  • 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月 33

    ても副反応による炭素生成を完全に無くすことは現状ではできないと考えられる。さらに、炭素が触媒の以下の部分に析出(コーキング)すると触媒性能を大きく低下させる。

    ①ゼオライト結晶を接合するバインダー上や結晶間②ゼオライト細孔内や出入口③ゼオライト表面の MoC 上

      にコーキング現象の模式図を示したが、①でコーキングが起こると原料ガスの流れが悪くなり、偏流や均熱性の低下による触媒活性の低下が起こると考えられ、②でコーキングが起こるとゼオライト細孔径が小さくなり、生成したベンゼンやナフタレンが細孔から排出されなくなり、反応が継続できない。③でコーキングが起きた場合には、メタンから C2 ~ C3への反応が進まなくなりベンゼン等の生成量が減少する。特に改質性能に影響を与えるのは、②の細孔出入口のコーキングであると考えられる。

     また、本反応は大きな吸熱反応であり、反応容器の内壁面と中心部では大きな温度分布が生じると考えられることから、中心部の触媒を有効に機能させるには反応容器内の温度を均一にする必要がある。しかしながら、実用化のために反応管径を大きくするとこの問題はより顕著になる。 さらに、実用触媒として使用する上では、触媒自体にも自重に耐え得るある程度の強度が必要であるため、解決すべき問題点となっている。

     メタン直接改質試験装置8)は、ボンベ/コンプレッサーユニット、マスフローコントローラーユニット、反応器ユニット、気液分離ユニット、計測ユニットからなり、温度、圧力、原料ガス流量をタッチパネルで一括設定し、自動制御を可能としている。 に試験装置のフロー図を示した。  に反応容器の外観を示したが、原料ガスは予熱ヒーターで300℃程度に加熱された後、反応容器の下方から導入される。反応容器の内径は実証プラントを模擬してφ60㎜としている。また、高さ方向に熱電対を5箇所設置しており、各位置で反応管壁、反応管の中心部、および反応管壁と中心部の中間の温度を測定出来るようになっている。反応容器および予熱部の加熱には制御性・応答性の良い電気炉を用いている。

     メタン直接改質法では、副生成物としてベンゼンやナフタレンが生成するが、特にナフタレンは80℃以下で固化して配管を閉塞する可能性があることから、反応容器後段の配管にはデカリン溶剤を吹き込み、生成ガスを一次冷却している。また、二次冷却において水素や未反応メタン等のガス成分と、ベンゼンやナフタレン等の芳香族化合物を分離して、それぞれ分析に供するとともに、ベンゼンやナフタレン等を回収している。さらに、本試験装置では反応容器の出口ガス成分を正確かつ連続的に自動計測するため、ガスクロマト

  • 34 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月

    グラフィ装置への導入配管を、ナフタレンが液化しない230℃程度に保持する機能を持った自動ホットサンプリング装置を設置している。

     前述したように、メタン直接改質においては大きな吸熱反応であることを考慮したうえで、反応管内の触媒層の温度を均一にする必要がある。そこで、反応管内の温度特性を調査するため、メタン、水素、窒

    素の各ガスを流通させて反応管内温度分布を測定している。例として、反応管を750℃に加熱し、各ガスを40L/min の流量で、温度が安定する2時間流通させた時の反応管内高さ方向の温度分布を に示した。予熱管から反応管へ導入された約300℃のガスが750℃に達したのは反応管入口から500 ~ 600㎜の位置で、比熱が大きいメタンガスの昇温では特に距離が必要であることがわかった。その結果、以後の試験では反応管入口から600㎜の位置までを予熱部としてアルミナボール等を充填し、その後段に触媒層を設けた。 触媒層の形成では、反応管の長さおよび径方向の温度分布を小さくするため、触媒にアルミナボールを混合して充填することを検討した。アルミナボールを用いる理由として、アルミナが触媒機能を有さないため単位体積当たりの吸熱反応を抑制できることと、アルミナが触媒に比べて熱伝導性が良いため反応管内の熱伝導性を改善できる可能性があるからである。 そこで本試験では、触媒量に対してアルミナボールの混合量を変えた場合の改質特性を調査した。に試験条件を、 にメタン直接改質触媒の外観を、 に触媒とアルミナボールの混合の様子を示した。

  • 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月 35

     前項では、触媒層の長さおよび径方向の温度分布を小さくするため、触媒にアルミナボールを混合して充填することを検討したが、反応管内の熱伝導性と原料ガスの流通性を考慮すると触媒自体の形状も改質性能に影響を及ぼすものと考えられる。 そこで本試験では、アルミナボールの最適混合状態で触媒形状を変化させたときの改質特性を調査した。比較した触媒の形状は、前項で使用したφ5㎜ペレットと、新たに水蒸気改質用触媒の一般的な形状であるφ5㎜リングおよびφ10㎜リングの3種類である。

    に試験条件を、 にφ5㎜リング触媒の外観を、 にφ10㎜リング触媒の外観を示した。

     メタン直接改質においては、触媒のコーキング現象が現状の問題点であることを指摘したが、その発生箇所の一つがゼオライト粒子間を結合するバインダーである。従来、実用化触媒としての強度と形状を維持するため、前項で使用したφ5㎜ペレット状触媒では少なくとも17.5wt% のバインダーを含有させていたが、本試験ではバインダー量を10wt% まで低減した触媒を試作し、この触媒を使用したときの改質特性を調査した。 に試験条件を、 にバインダー低減触媒の外観を示した。

  • 36 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月

     本実証研究では乳牛ふん尿からメタン発酵によって生成したバイオガスを原料としている。バイオガスプラント5カ所で産出されたバイオガスの成分分析結果を に示したが、微量成分である硫化水素、メチルメルカプタン等の硫黄化合物やアンモニア、アミン類等の窒素化合物については、メタン直接改質触媒を被毒し、性能劣化の原因になる可能性があることから、現状では前処理工程においてこれらの微量成分を除去し、精製したメタンを供給することとしている。しかしながら、将来実用化するうえで、様々な形態のバイオガスの利用やコストの削減を考えると、前処理の精度を下げることを検討する必要がある。

    そこで本試験では、メタンガスに硫化水素、メチルメルカプタン、アンモニアおよびトリメチルアミンをそれぞれ20 ~ 30ppm 添加した原料ガスを用いて、バイオガス中に含まれる微量成分が改質性能に及ぼす影響を調査した。 に試験条件を示した。

     メタン直接改質の主反応では水素とベンゼンを生成するが、副反応により炭素が生成するとベンゼンの生成量は低下することから、生成ガスのベンゼン濃度は良好な改質特性を示しているかどうかの指標となる。

    に1kg の触媒に対してアルミナボール混合量を変えた場合のベンゼン濃度の経時変化を、 に300min 経過時のベンゼン濃度とアルミナボール混合量の関係を示したが、アルミナボール混合量を約2.3kg以上にするとベンゼンの理論平衡濃度である1mol%に近づき、ほぼ安定した値を得た。完全に平衡濃度に達しないのは、副反応として炭素の他にナフタレンやトルエン、直鎖系炭化水素などが生成するためであるが、アルミナボール混合量が2.3kg を下回った場合は、特に炭素の生成が顕著であると考えられる。 また、 にアルミナボール混合量を変えた場合の水素濃度の経時変化を、 に水素濃度とベンゼン濃度の比(H2/Bz 比)とアルミナボール混合量の関係を示したが、水素濃度はベンゼン濃度のような顕著な差は無いものの、アルミナボール混合量が2.3kgを下回ると H2/Bz 比は増大しており、このことは炭素生成起源の水素生成が多いことを示唆している。これらの結果より、以後の試験においてはアルミナボールの混合量を2.3kg として実施することとした。

  • 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月 37

     触媒形状の最適化調査は、原料ガス流量を前項同様の3000L/kg-zeolite/h に加えて6000L/kg-zeolite/h の場合について実施した。これは流量を増やした場合、流れの状態が層流域から遷移域を経て乱流状態となり、反応管内の伝熱性や触媒との接触性が物理的に変化する可能性があるためである。 流量を3000L/kg-zeolite/h とした場合のベンゼン濃度の経時変化を に、水素濃度の経時変化を

    に示した。3000L/kg-zeolite/h の条件ではφ5リング触媒においてベンゼン濃度の若干の低下傾向が300min 経過後に見られたものの、顕著な差は認められなかった。 また、流量を6000L/kg-zeolite/h とした場合のベンゼン濃度の経時変化を に、水素濃度の経時変化を に示したが、φ5ペレットとφ5リングの触媒においてベンゼン濃度の低下が見られた。に H2/Bz 比と原料ガス流量の関係を示したが、φ5ペ

    レットとφ5リングの触媒では原料ガス流量の増加に伴って H2/Bz 比が増大しており、炭素生成の増加が示唆された。 原料ガス流量を増加した場合、触媒と原料ガスとの接触時間、すなわちガスの触媒層での滞留時間が短くなることにより反応を完結させるために必要な時間を満足できなくなる可能性がある。特にφ5ペレットとφ5リングの触媒ではその傾向が顕著に現れ、炭素生成が促進されたものと推測され、φ10リング触媒は原料ガス流量を変えた場合でも良好な改質性能を得られる可能性があることを示している。 一方、実用触媒においては、充填時の衝撃や触媒自体の自重で壊れない強度が必要とされる。 に各触媒の強度を示したが、特にφ10リング触媒の強度は軸方向と径方向ともに著しく低い値となっており、担体であるゼオライトの強度改善が必要であるとともに、製造コストや入手の容易さから現状ではφ5ペレット触媒を使用するのが実用的である。

  • 38 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月

     バインダー量低減触媒の調査は、前項と同様に原料ガス流量を3000L/kg-zeolite/h と6000L/kg-zeolite/hの場合について実施した。 にベンゼン濃度の経時変化を、 に水素濃度の経時変化を示した。なお、比較例として従来より使用してきたバインダー量が17.5% のφ5ペレット触媒のデータを併記した。 3000L/kg-zeolite/h の条件では、バインダー量の影

    響は顕著に認められず、ベンゼン濃度と水素濃度はほぼ同等の値を示した。一方、6000L/kg-zeolite/h の条件では、17.5% バインダー触媒においてベンゼン濃度の著しい低下が認められたのに対して、10% バインダー触媒では3000L/kg-zeolite/h の条件と同等のベンゼン濃度と水素濃度となり、改質時間の経過に伴い若干の低下傾向を示した。また、 に H2/Bz 比とバインダー量の関係を示したが、10% バインダー触

  • 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月 39

    媒では原料ガス流量の増加に伴う H2/Bz 比の増大は大きく認められず、炭素生成は大きく促進されないことが示唆された。 炭素生成が大きく促進されない要因としてバインダー量を低減したこと以外に、今回試作した触媒の特殊な形状がある。ZSM-5型ゼオライトの細孔径はベンゼンの分子径と同等の5 ~ 10Å程度で、これが鋳型の役割をすると述べたが、試作触媒は嵩密度が従来触媒と同等の0.58kg/L であるものの、100Åオーダーの細孔を同時に有しているという特徴がある。これが原料ガスや生成ベンゼン分子を滞りなく流通させ、コーキングによる細孔閉塞を防止しているものと考えられる。この特徴に起因する現象としてはナフタレンの生成がある。 にナフタレン濃度の経時変化を示したが、特に3000L/kg-zeolite/h の条件において反応初期のナフタレン濃度は著しく増大している。また、改質時間の経過とともにナフタレン濃度は低下するが、ベンゼン濃度の低下が大きく認められないことから、

    従来触媒と比較するとより長時間の改質性能の維持が可能であると考えられる。

     微量被毒成分の影響に関する調査は、前項と同様に 原 料 ガ ス 流 量 を3000L/kg-zeolite/h と6000L/kg-zeolite/h の場合について実施した。  に硫黄化合物を添加したベンゼン濃度の経時変化を、 に水素濃度の経時変化を示した。なお、比較例として無添加の原料ガスによるデータを併記した。3000L/kg-zeolite/h の条件では、硫化水素とメチルメルカプタンをそれぞれ添加した場合にベンゼン濃度の著しい低下が認められたが、水素濃度については顕著な差はなかったものの、メチルメルカプタンの場合に改質時間の経過に伴う若干の低下が認められた。また、6000L/kg-zeolite/h の条件では、メチルメルカプタンを添加した場合において改質初期よりベンゼン濃度の著しい低下が認められ、ベンゼンをほとんど生

  • 40 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月

    成しない時もあり、メチルメルカプタンの触媒被毒性が顕著に認められた。水素濃度についても同様で、メチルメルカプタンの場合は著しい低下を示した。一方、硫化水素の場合は無添加の場合とほぼ同等のベンゼン濃度と水素濃度を示したが、300min 過ぎより硫化水素の添加を20ppm から30ppm に変更したところ、ベンゼン濃度と水素濃度ともに急激な低下を示した。 硫化水素やメチルメルカプタンは分子内に硫黄成分を含有しており、一般的に触媒組成の一つであるゼオライトはこの硫黄成分を吸着して触媒活性を低下させるが、硫化水素については3ppm までは大きな影響がないものの、10ppm ではベンゼン濃度と水素濃度を著しく低下させるとの報告もあり9)、メタン直接改質においては原料ガス中の硫黄化合物を少なくとも10ppm 未満に低減する必要があると考えられる。  に窒素化合物を添加したベンゼン濃度の経時変化を、 に水素濃度の経時変化を示した。3000L/kg-zeolite/h の条件では、アンモニアとトリメチルアミンをそれぞれ添加した場合でもベンゼン濃度

    と水素濃度に顕著な差は認められなかったものの、アンモニアの場合は平衡濃度に到達するまでに時間を要しており、反応を抑制する何らかの影響があることが示唆された。また、6000L/kg-zeolite/h の条件では、ベンゼン濃度と水素濃度に顕著な差は認められなかった。 アンモニアとトリメチルアミンは酸性を示し、担持された Mo との化合物生成やゼオライトの触媒活性点に対する影響等、硫黄化合物とはまた異なった被毒性をメタン直接改質触媒に与える事が考えられるが、アンモニアに関しては100ppm の含有量でも改質性能を低下させないとの報告もあり9)、その除去に関しては硫黄化合物同様の精密性を必要としないと言える。  には H2/Bz 比と原料ガス流量の関係を示したが、硫化水素、アンモニア、トリメチルアミンを20ppm 含有した場合では原料ガス流量の増加に伴うH2/Bz 比の増大は大きく認められないが、メチルメルカプタンを20ppm 含有した場合では H2/Bz 比が著しく増大しており、原料ガス流量の増加により炭素生成は大きく促進されることが示唆された。

  • 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月 41

     本研究では、実証プラントの要素技術であるメタン直接改質法について知見を得ることを目的として、触媒改質性能の向上や性能維持に関する調査を実施した。以下に結果を記す。

    1)触媒層を形成する際、アルミナボールの混合により改質性能は改善された。φ10㎜のアルミナボールの場合、1.0kg の触媒に対して2.3kg 以上を混合するのが望ましい。

    2)φ10㎜リング触媒は原料ガスの増減に対して最も良好な改質性能を示したが、実用的にはゼオライト担体の強度改善が必要である。

    3)バインダー量を10wt% まで低減したことにより、炭素生成は抑制され、原料ガスの増減に対しても良好な改質性能を示した。

    4)硫黄化合物は改質性能を著しく低下させた。特にメチルメルカプタンは極力除去し、硫化水素も10ppm 未満まで低減する必要がある。一方、20ppm 程度の窒素化合物は改質性能を著しく低下させることはなかった。

     メタン直接改質は温室効果ガスの排出削減に寄与し得る水素製造プロセスであるが、実証プラントでは触媒量や原料ガス処理量等の規模をより大きくして実験を行うため、本研究は大いにその参考になるものであった。今後、実証プラントにおいては長時間運転等を通じて改質性能の安定性や触媒寿命維持の方法を検討するとともに、未反応ガスの再利用等により水素製造システムとしての総合的な効率化を図っていく。

     本研究では国土交通省北海道局、北海道開発局の指導・協力を頂いた。また、北海道大学触媒化学センターの市川勝教授、函館工業高等専門学校の長谷川淳学校長、北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの松田從三教授には技術支援や助言を頂いた。記して感謝申し上げます。

    1)例えば、石渡輝夫、石田哲也、大日方裕、中川靖起、横濱充宏、小野学:別海共同利用型バイオガスプラントの課題と対応,第20回寒地技術シンポジウム 寒地技術論文・報告集 Vol.20,P.386-392(2004)

    2)主藤祐功、大久保天、秀島好昭:積雪寒冷地の酪農村に設けた水素エネルギー施設の稼働概要,第20回寒地技術シンポジウム 寒地技術論文・報告集 Vol.20,P.714-718(2004)

    3)例えば、主藤祐功、大久保天、秀島好昭:水素エネルギーの利用概要と地域での取り組み,北海道開発土木研究所月報 No.608(2004)

    4)平成14年度 地域新生コンソーシアム研究開発事業 「 メタン直接改質法によるクリーン水素等の製造技術開発 」 成果報告書(2003)

    5)御園生誠、斉藤泰和共著:触媒化学,丸善6)S.Liu, L.Wang, R.Ohnishi and M.Ichikawa:

    Bifunctional Catalysis of Mo/HZSM-5 in the Dehydroaromatization of Methane to Benzen and Naphthalene XAFS/TG /DTA/MASS/FTIR Characterization and Supporting Eff ects , Journal of Catalysis, 181, P.175-188(1999)

    7)平成13年度 地域新生コンソーシアム研究開発事業 「 メタン直接改質法によるクリーン水素等の製造技術開発 」 成果報告書(2002)

    8)中村諭、伊藤秀明、垣原肇、秀島好昭、大久保天、主藤祐功、市川勝、小島綾一、菊池聡:メタン直接改質法による水素等の製造技術開発/地域エネルギー自立型実証試験のための触媒性能評価,第13回日本エネルギー学会大会 講演要旨集、P.114-115(2004)

    9)瀧寛則、斎藤裕二、小島綾一、馬洪涛、市川勝:メタンの脱水素芳香族化反応(57)バイオガス由来のメタンガス直接改質における不純物の影響,第13回日本エネルギー学会大会 講演要旨集、P.110-111(2004)

  • 42 北海道開発土木研究所月報 № 624 2005 年5月

    主藤 祐功 *Yukou SHUDO

    北海道開発土木研究所特別研究官付上席主任研究員

    大久保 天 **Takashi OHKUBO

    北海道開発土木研究所特別研究官付研究員

    秀島 好昭 ***Yoshiaki HIDESHIMA

    北海道開発土木研究所特別研究官

    (農業開発部農業土木研究室室長兼務)博士(工学)技術士(農業)

    中村  諭 ****Satoru NAKAMURA

    株式会社日本製鋼所研究開発本部室蘭研究所物質研究グループ主任研究員

    垣原  肇 *****Hajime KAKIHARA

    株式会社日本製鋼所研究開発本部室蘭研究所物質研究グループ研究員

    伊藤 秀明 ******Hideaki ITOH

    株式会社日本製鋼所研究開発本部室蘭研究所物質研究グループグループマネージャー博士(工学)