キンギョ第一卵割阻止型雌性発生魚における表現形質...2013/09/04 ·...
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東京都水産試験場調査研究報告(212),139-143,2000
キンギョ第一卵割阻止型雌性発生魚における表現形質
長谷川敦子・岸美苗*
されたアカメリュウキン,チャキン,ワキンの3品
種4)とした。
表現形質優良形質の選別基準としては,1)キン
ギョの基本的な選別形質となる尾鰭の形状,2)キン
ギョの特徴である霄鰭の枚数,3)観賞魚としての評価
に大きな割合を占める体色,の3点を用いた(表l)。
尾鰭の形状については,四つ尾,三つ尾,サクラ尾
の個体を優良尾鰭選抜型(以下,尾鰭選抜型と略記)
とした。
臂鰭の枚数については不完全形なものも含め計数し,
その形状にかかわらず,2枚待つものを優良臂鰭選抜
型(以下,臂鰭選抜型と略記)とした。
体色の調査は卵割阻止魚についてのみ行い,区分を
更紗(さらさ)と色無地(いるむぢ)に分けた。なお,
鰭形質の検討についてはふ化後2ヶ月以降の,体色に
ついてはふ化後7ヶ月以降の稚魚を用いた。
また,各品種で上記以外に特徴のある形質が発現し
た場合には,その特徴と出現状況を記録した。
観賞魚であるキンギョの商品価値は体色や体形の優
美さにあり,これらの形質を持ちあわせた個体は商品
価値が高い。しかし,このような質の高い個体の出現
は低率であるため,選抜育種による淘汰には多大の時
間と労力を必要とする')。そこで,雌'性発生技術によ
るクローン魚作出により優良形質を持つ個体を多数生
産し,育種の簡略化を図ることが試みられている2,3)。
しかし,理論上雌`性発生を2代続けることによってク
ローン魚が得られたとしても,観賞魚としての優良形
質が発現しなければ,本来の目的である優良魚の出現
率向上にはつながらず,産業上の価値も低い。そこで,
本研究では,作出された第一卵割阻止型雌性発生魚
(以下,卵割阻止魚と略記)と通常交配魚を対象に優良
形質の出現率について比較を行ったので報告する。
材料と方法
供試魚供試魚は,1993年度に東京都水産試験場水
元実験室内水槽で第一卵割阻止型雌性発生により作出
表1キンギョ3品種における供試親魚の表現形質
雄親魚')雌親魚')実験NCI) 実験月日
品種 尾鰭形状瞥鰭枚数品種尾鰭形状腎鰭枚数
尾尾
尾ツ〃〃ツク〃〃〃〃〃〃ツケ
44
4
尾尾
尾ツ〃〃ツケ〃〃〃〃〃〃ツケ
44
4
リュウキン
曲巾巾aaa1Dceefbc
ワニクケ9凸〃〃〃〃ケクケワム〃
93.5.8アカメリユウキンA
5.27B
5.28C
93.4.17チヤキンA
4.18B
〃 C
〃 ,
5.5E
527E
〃 F
7.17F
93.4.18B
5.28,
2212221222222
アカメリュウキン1
2
3
チャキン1
2
3
4
5
9
10
13
ワキン2
4
ワキン
')ここで用いた実験No.および親魚は,便宜上第一卵割阻止魚作出実験4)と同じものである。
*日本大学農獣医学部
結果
調査した卵割阻止魚の表現形質を表2,3に示した。
アカメリュウキンでは,卵割阻止魚における尾鰭選
抜型の出現率は通常交配魚よりも高く,臂鰭選抜型の
出現率もやや高率であった。また,卵割阻止魚の体色
は,16尾中13尾がオレンジ無地か白無地で,更紗は
2尾のみであった。オレンジ無地のうち1尾では,チ
ンシュリン(珍珠鱗)と同様の真珠鱗形質が発現した
(図l)。
チャキンでも,卵割阻止魚の尾鰭選抜型出現率は通
常交配魚より高く,臂鰭選抜型の出現率もやや高かっ
た。卵割阻止魚では,出目性の個体が5尾確認でき,
体色では本来の茶色のほか,通常交配ではみられない
銀無地,オレンジ無地の個体が約1/3の割合で出現し
た(図2)。
ワキン卵割阻止魚における尾鰭選抜型出現率は,親
魚によって大きく異なり,46.3および92.3%であった。
一方,通常交配魚では770および80.4%であった。卵
割阻止魚では,背鰭の一部が欠損しているものが半数
近く確認され,また,体色は親魚がすべて更紗であっ
たにもかかわらず,無地の出現率が約8割と高い値を
示した。この他卵割阻止魚では,チャキンの場合と同
様,従来にはみられない銀無地個体が3尾出現した。
尾鰭選抜型と瞥鰭選抜型の両形質を併せ持つ個体の
出現率が60%以上の高率を示した実験区は,卵割阻
止魚では9区中5区(68.4~100%)であったが,通常
交配魚では8区中3区(60.8~65.6%)であった。
考察
卵割阻止魚における尾鰭選抜型の出現率は親魚に
よって異なるものの,全体的に通常交配魚よりも高率
であった。また,尾鰭選抜型と臂鰭選抜型の両形質を
併せ持つ個体の出現率も阻止魚の方が高い傾向が認め
られた。
卵割阻止魚の中には,通常交配ではみられない形質
が発現した。アカメリュウキンで出現したチンシュリ
表2キンギョ3品種における第一卵割阻止型雌`性発生魚および通常交配魚の各鰭形質(尾鰭・臂鰭)の出現率
供試親魚') 尾鰭2) 腎鰭3)尾鰭十腎鰭4)
調査日調薦数実験No.')実験日雌親魚 雄親魚 (尾)(%)(尾)(%)(尾)(%)
第一卵割胆1k型雌`性発生魚
アカメリユウキン193.5.8アカメリユウキンA93.7.291110011001100
2527B〃261869.21661.51350.0
3528C〃14857.1750.0535.7---------------------------屯一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
チヤキン55.5チヤキンE93.5.313133.3266.70.0
95.27E〃66100583.3583.3
10〃F〃191894.71368.41368.4
137.17F12.22131184.61076.9969.2--------------- ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄---- ̄ ̄---------- ̄ ̄------ ̄ ̄-------------------- ̄ ̄-------- ̄ ̄---------------------------- ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄---------- ̄ ̄---------------------- ̄ ̄---- ̄ ̄--
ワキン293.4.18ワキンB93.8.6823846.34048.82429.3
4528D〃131292.3107691076.9
通常交配魚
アカメリユウキン25.27アカメリユウキンBリユウキンab93.12221176253.010186.35748.7
Bアカメリュウキンa 94.1.61564001173.3640.0
35.28Cリユウキンsb931222915257.18189.0475L6
Cアカメリユウキンb941.616637.58500318.8- ̄ ̄---- ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄------ ̄ ̄ ̄ ̄---------------- ̄ ̄-------------------------- ̄ ̄---画 ̄‐-- ̄ ̄-------- ̄ ̄ ̄ ̄------ ̄ ̄-- ̄ ̄---------------------- ̄ ̄---- ̄ ̄ ̄ ̄-------- ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄------ ̄ ̄-- ̄ ̄ ̄ ̄
チヤキン95.27チヤキンEワキンe94.1.14782734.66785.92532.1
137.17Ff〃614980.35082.04065.6------------------------- ̄ ̄ ̄ ̄------ ̄ ̄---- ̄ ̄ ̄ ̄-- ̄ ̄---------- ̄ ̄ ̄ ̄---------- ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄------------------ ̄ ̄ ̄ ̄------------ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄------------------ ̄=-- ̄ ̄ ̄ ̄---- ̄ ̄-- ̄ ̄ ̄ ̄------
ワキン293.4.18ワキンBワキンb94.1.141007777.07676.06161.0
45.28DC〃514180.43772.53160.8
Dここで用いた実験No.および供試親魚は,第一卵割阻止型雌性発生魚作出実験4)と同じものである。
2)ここでいう尾鰭は選抜型の開き尾(4つ尾,三つ尾,サクラ尾)のことである。
3)啓鰭は不形なものも含め,2枚認められたものは全て計上した。
4)尾鰭が選抜型でかつ,啓鰭が2枚認められたもの。
-140-
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141
図1アカメリュウキンの第1卵割阻止型雌性発生魚。体型・体色・眼色ともアカメリュ
ウキンの特徴であるが,鱗はチンシュリンと同じく真珠質の鱗を持つ。
図2チャキンの第1卵割阻止型雌性発生魚。体型はチャキンのようにやや長めだが,通
常の交配では見られないオレンジ無地の体色と出目性の特徴を持つ。
ンと同様の鱗形質を示す個体やチャキンでみられた出
目性の個体などがそれである。また,体色においても
従来の交配ではみられない銀無地,オレンジ無地の形
質が出現している。これらは,雌性発生による遺伝子
のホモ化に伴い,通常交配では出現しにくい劣性形質
が,従来にない様々な表現形質として発現したものと
考えられる。従って,今後優良な卵割阻止魚を得るた
めには,複数の親魚に対して,複数の実験を繰り返し
ていく必要があろう。
第一卵割|Yp1卜迂11雌性発生法は,l)クローン魚作出の
前段階手法というだけでなく,2)致死性,劣性遺伝子
の排除,3)これまでにみられなかった形質の発現,と
いう点で,従来の選抜育種法にない有効性を持つこと
が強く示唆された。
キンギョ養殖では,目的とする形質以外のものを排
除し,それを繰り返すことによって優良魚の出現率を
高め,経営効率の向上をはかってきた。しかし,親魚
候補となるような優良魚の出現率は1割程度にとど
まっている。従って,本実験で得られた優良な卵割阻
止魚を親魚として養成し,第二極体放出阻止法等によ
る雌性発生を行ってクローン魚を作出することで,今
後優良魚の出現率を高められるものと考える。
しかし,これまでの報告によれば,雌性発生法は極
体放出阻止による場合でも,正常ふ化率は平均30%
から高くても50%程度である')。より経済的に大量の
優良魚を得るためには,優良な卵割阻止魚またはクロ
-142-
-ン魚と従来の優良雄魚または偽雄(クローン魚を性
転換させたもの)とを組み合わせたふ化率の高い通常
交配による作出法なども検討していく必要があろう。
宮本淳司・岡本俊治・高尾充英(1990)キンギョの第一卵割
阻止による雌`性発生の処理条件の検討.平成2年度愛知水試
業務報告.:23-25.
全国観賞魚養殖技術研究会(1993)第5回観賞魚養殖技術研
究会要録:26p、
長谷川敦子・有馬多恵子(2000)キンギョ4品種における第
一卵割阻止型雌性発生魚作出条件の差異.東京水試調査研
2)
3)
文献
4)l)大越徹夫(1992)温水性淡水魚における雌性発生個体の作出
一キンギョ・ニシキゴイ.農林水産技術会議研究成果,
報.,(212):12少138.(267):18-27.
-143-