広島・長崎の被爆者が闘っている...

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広島・長崎の被爆者が闘っている 原爆症認定集団訴訟から学ぶ 2018年11月10日(土) 原発賠償京都訴訟控訴審に向けた第2回学習講演会 京都「被爆2世・3世の会」 信行 1

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Page 1: 広島・長崎の被爆者が闘っている 原爆症認定集団訴訟から学ぶfukushimakyoto.namaste.jp/shien_kyoto/pdf/181110Taira.pdf原爆症認定集団訴訟 2003年~2009年

広島・長崎の被爆者が闘っている

原爆症認定集団訴訟から学ぶ

2018年11月10日(土)

原発賠償京都訴訟控訴審に向けた第2回学習講演会

京都「被爆2世・3世の会」

平 信行1

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広島・長崎の被爆者

被爆者総数 爆死者数 その年の生存者数

広島 420,000人 160,000人 260,000人

長崎 270,000人 74,000人 196,000人

合計 690,000人 234,000人 456,000人

l 被爆者数の10%(約7万人)は朝鮮半島出身者

l 爆死者数;1945年(昭和20年)12月末までの死者数2

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被爆者手帳所持者数推移

原爆医療法制定

被爆者援護法被爆者特別措置法

ABCC設置

原爆投下

平均年齢

82.06歳

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原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律 ― 被爆者援護法1994年(平成6年)

前文(抜粋)

・・・・このような原子爆弾の放射能に起因する健康被害に苦しむ被爆者の健康の

保持及び増進並びに福祉を図るため、ここに、被爆後五十年のときを迎えるに当た

り、我らは、核兵器の究極的廃絶に向けての決意を新たにし、原子爆弾の惨禍が

繰り返されることのないよう、恒久の平和を念願するとともに、国の責任において、

原子爆弾の投下の結果として生じた放射能に起因する健康被害が他の戦争被害

とは異なる特殊の被害であることにかんがみ、高齢化の進行している被爆者に対

する保健、医療及び福祉にわたる総合的な援護対策を講じ、あわせて、国として原

子爆弾による死没者の尊い犠牲を銘記するため、この法律を制定する。

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法律上の被爆者の定義 (被爆者援護法第一条)

区分 条件 備考 2018年3月

直接被爆原爆投下当時、広島市若しくは長崎市内、又は政令で定める隣接区域内にあった者

96,365人 62.2%

入市被爆原爆投下から2週間以内に広島市若しくは長崎市の爆心地から2kmの区域内に立ち入った者

34,257人 22.1%

その他被爆原爆が投下された際またはその後、身体に原爆放射能の影響を受けるような事情の下にあった者

被爆者の救護死体の処理黒い雨(一部)など

17,176人 11.1%

胎内被爆上記の事情の下にあった者の胎児であった者

広島:1946年5月31日迄長崎:1946年6月 3日迄

7,061人 4.6%

合   計 154,859人

■次の各号のいずれかに該当し、被爆者健康手帳の交付を受けた者

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被爆者手帳を手にできなかった多くの被爆者

① 1957年(昭和32年)の原爆医療法制定以前に亡くなった人たち

② 手帳交付を求めても認められない人たちl 被爆の事実の証言者を得られない人l 黒い雨を浴びた人たち   → 今も「黒い雨」訴訟を闘い続ける。

③ あえて被爆者手帳の交付申請をしなかった(できなかった人たち)

● 援護法の対象外とされてきた被爆二世

黒い雨降雨地域(広島)

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現在の被爆者援護制度の概要 (被爆者援護法)

健康診断年2回(うち1回はがん検診)

全 員 医療保険の自己負担分補てん(一部例外)

介護保険・医療系サービスの自己負担分補てん

葬祭料支給 206,000円

定められた疾病に罹った場合 健康管理手当 34,270円/月

要件を満 原爆症認定(原爆放射線が原因で疾病に罹って 医療費の全額補償

たした者 いると認定された場合) 医療特別手当 139,330円/月

その他 保健手当、介護手当 小頭症手当など

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原爆症認定の規定(被爆者援護法)

(医療の給付)

第十条  厚生労働大臣は、原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し、又は疾病にかかり、

現に医療を要する状態にある被爆者に対し、必要な医療の給付を行う。ただし、当該負傷

又は疾病が原子爆弾の放射能に起因するものでないときは、その者の治癒能力が原子

爆弾の放射能の影響を受けているため現に医療を要する状態にある場合に限る。

2  前項に規定する医療の給付の範囲は、次のとおりとする。 略

(認定)

第十一条  前条第一項に規定する医療の給付を受けようとする者は、あらかじめ、当該

負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の厚生労働大臣の認定を受けなけれ

ばならない。

2 厚生労働大臣は、前項の認定を行うに当たっては、審議会等で政令で定めるものの意

見を聴かなければならない。

疾病・障害認定審査会原子爆弾被害者医療分科会31人

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認定被爆者の現状

原爆被爆者全体

被爆者手帳所持者

154,859人

健康管理手当などの諸手当を受けている被爆者

135,236人

認定被爆者(医療特別手当受給者)

7,640人手帳所持者数の4.9%

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被爆者援護制度と原爆症認定訴訟の流れ 簡単な年表

年度 主な事項 参考1945年(昭和20年) 原子爆弾投下1947年(昭和22年) ABCC設置 1975年から放射線影響研究所1957年(昭和32年) 原爆医療法制定 健康診断、一部医療費、被爆者手帳1968年(昭和43年) 原爆特別措置法制定 健康管理手当1994年(平成 6年) 被爆者援護法成立 現在の被爆者支援制度2000年(平成12年) 個別の原爆症認定訴訟で2人の被爆者勝訴 松谷英子(長崎)、小西建男(京都)2001年(平成13年) 厚労省:「原爆症認定」審査の方針制定 DS86+原因確率、しきい値

2003年(平成15年)→ 2009年

原爆症認定集団訴訟開始全国17地裁・6高裁で勝訴。敗訴は1判決。 全国17地裁に306人が提訴

2008年(平成20年) 厚労省:原爆症認定「新しい審査の方針」制定 原因確率廃止、積極的認定など2009年(平成21年) 原爆症認定集団訴訟終結に関する確認書 調印 裁判で争わないための定期協議など2011年(平成23年) 東日本大震災・東電福島第一原発事故発生2012年(平成24年)     → 現 在 ノーモア・ヒバクシャ訴訟(第2次集団訴訟) 全国7地裁、121人が提訴

2013年(平成25年) 厚労省:原爆症認定「新しい審査の方針」改訂 従来と変わらず基準の明確化だけ10

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2001年に定められた厚労省:原爆症認定「審査の方針」

●原爆症認定を求める被爆者の個別訴訟で相次ぐ敗訴と、

  認定基準の不透明さが問題とされてきたのを契機に・・・・・

この頃までの認定被爆者数は全国で2000人程度(被爆者の1%以下)

1、放射線起因性  ①被爆距離によって被曝線量を判断

DS86 (Dosimetry System 1986) → 後にDS02

初期放射線・外部被曝のみの評価

  ②原因確率(放射線に起因する確率)

        50%以上認定、49~10%総合判定、10%未満は却下

2、要医療性11

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原因確率表の事例(男性・胃がん・広島) 児玉和紀論文被曝線量(Sv) 0.4 0.7 1.1 1.4 1.6 2.2 2.9 3.3 3.7 4.8 8.0 18.2

被爆距離(m) 1620 1450 1350 1280 1230 1190 1150 1130 1100 1050 950 800  0 歳  4.1 8.0 11.5 14.8 17.8 20.6 23.2 25.7 28.0 30.2 41.9 59.0  1 歳 3.9 7.6 10.9 14.1 17.0 19.7 22.3 24.7 26.9 29.0 40.5 57.7  2 歳 3.7 7.2 10.4 13.4 16.2 18.8 21.3 23.6 25.8 27.9 39.2 56.3  3 歳  3.5 6.8 9.9 12.8 15.5 18.0 20.4 22.7 24.8 26.8 37.9 55.0  4 歳 3.3 6.5 9.4 12.2 14.8 17.2 19.5 21.7 23.8 25.7 36.6 53.6  5 歳 3.2 6.1 8.9 11.6 14.1 16.4 18.7 20.8 22.8 24.7 35.3 52.2  6 歳 3.0 5.8 8.5 11.1 13.4 15.7 17.8 19.9 21.8 23.7 34.1 50.8  7 歳 2.8 5.5 8.1 10.5 12.8 15.0 17.0 19.0 20.9 22.7 32.8 49.4  8 歳 2.7 5.3 7.7 10.0 12.2 14.3 16.3 18.2 20.0 21.7 31.6 48.0  9 歳 2.6 5.0 7.3 9.5 11.6 13.6 15.5 17.3 19.1 20.8 30.4 46.6  10歳 2.4 4.7 6.9 9.0 11.0 13.0 14.8 16.6 18.3 19.9 29.3 45.3  11歳 2.3 4.5 6.6 8.6 10.5 12.3 14.1 15.8 17.4 19.0 28.1 43.9  12歳 2.2 4.3 6.2 8.2 10.0 11.8 13.4 15.1 16.6 18.2 27.0 42.5  13歳 2.1 4.0 5.9 7.7 9.5 11.2 12.8 14.4 15.9 17.4 25.9 41.2  14歳 1.9 3.8 5.6 7.4 9.0 10.6 12.2 13.7 15.2 16.6 24.9 39.812

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原爆症認定集団訴訟 2003年~2009年

1. 2002年(平成14年) 原爆症認定集団申請 全国500人(大半が却下)

2. 2003年(平成15年)から

23都道府県・306人の被爆者が、全国17地裁に提訴

3. 集団訴訟で目的としたこと

① 原爆症認定制度の抜本的な転換

l (DS86、原因確率の廃止、新基準の確立)

① 原告被爆者全員の認定

② 認定制度に止まらない被爆者援護施策全体の転換

③ 被爆の実態を明らかにし核兵器の残虐性を告発(核兵器廃絶)

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原爆症認定集団訴訟 2003年~2009年

1. 原爆症認定訴訟:闘い方の基本

① DSや原因確率など国の主張する「科学」では証明できないところに放

射線被爆の実態のあることを明らかにする。

l 国は放射線について「科学的厳密性」に基づいて立証しようとするが、放射線

被曝の実態・真実は、科学的に未解明な分野を超えたところに存在する。

• 原爆の後障害で分かっているのは全体の5%程度かもしれない。(放影研・大久保理事長)

① 全原告が自らの被爆の実相について克明に意見陳述する。

l 被爆体験、放射線による急性症状、被爆後の健康状態と今日に至るまでの闘

病歴、家族や周囲の人々の状況

① 被爆の実態が目と耳でも理解できるよう訴える工夫(DVD、絵など)

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被爆者の実態(実例)

広島のOさん原爆投下の13日後に広島市から70㌔離れた三次市から救援救護命令で広島市に入市(当時16歳の女学校生徒)。爆心地から300㍍の本川小学校で1週間救護活動にあたる。帰郷後、全身倦怠感、頭痛、下痢、吐き気、下血、脱毛を経験(原爆放射線による急性症状)戦後様々な病気に罹る。胃の手術、卵巣がん、子宮がん、腸閉そく。1998年(平成10年)白血球減少症で原爆症認定申請するも却下

病 名 享 年

白血病 50歳

白血病 57歳

胃がん 43歳

卵巣がん 47歳

肝臓がん 63歳

肝臓がん 71歳

すい臓がん 65歳

腸捻転 16歳

急性心不全 61歳

心筋梗塞 75歳

くも膜下出血 70歳

不明 17歳

不明 24歳

亡くなっていた同窓生

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被爆者の実態(実例)

長崎のMさん

8歳の時長崎市から4kmの田舎で原爆の閃光を見る。5日後の8月14日、

親族を探すため、母親に連れられて爆心地から600㍍の距離まで入市。

灼熱の太陽の下で終日探しまわり、暑さのため井戸の水も飲む。

帰宅して5日頃から強烈な吐き気、下痢を経験(原爆放射線による急性症

状) 。

10年後得体の知れない関節痛に苦しむ。40歳で白内障、57歳でC型肝

炎と大腸がん、64歳で胃がんを発症。

2002年(平成14年)胃がんで原爆症認定申請するも却下

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被爆者の実態(実例)

証言者・肥田舜太郎医師の診た事例(証言から)

出産のため島根県松江市の実家に帰っていた某女性が、出産後、広島の

被災を聞き、原爆投下から一週間後(8月13日)に、県庁勤めの夫を捜し

に広島に戻る。それから一週間、夫を求めて市内の焼け跡を毎日歩き続け、

郊外の戸坂村の避難先でやっと巡り合うことができた。

夫の方は順調に回復していったが、妻である女性は4日後、胸元に紫色の

斑点が現れる。その後、女性は吐血し、頭髪が抜けて、間もなく亡くなって

いった。

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原爆症認定集団訴訟 2003年~2009年

2、「初期放射線決定論」の誤りを主張し、内部被曝の脅威と危険性を主張

① DS86(改訂してDS02)、原因確率論の誤りを指摘

② 内部被曝の脅威と危険性を主張

l 今も被爆者の体内で被曝し続ける放射性物質(生涯持続性)

l 長崎大の七条助教らの研究グループ報告「被爆者の体内で放出され続けてい

るプルトニウム分解時のアルファ線撮影」

① 国の主張する(非がん疾患の)他原因論の誤りを批判

l 高血圧、高脂血しょう、糖尿病等の発症自体が原爆放射線被曝を原因とする。

l LSS(放影研被爆者寿命調査)13報 ― 非がん疾患と放射線との関係報告

l 放影研・赤星正純報告 ― 高血圧・高脂血しょうへの放射線被曝関与の報告18

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原爆症認定集団訴訟 2003年~2009年

長崎大七条助教らは、爆心地から0・5~1キロの距離で

被爆、急性症状で1945年末までに亡くなった20代~

70代の被爆者7人の解剖標本を約3年間にわたり研究。

放射性物質が分解されるときに出るアルファ線が、被爆者

の肺や腎臓、骨などの細胞核付近から放出され、黒い線を

描いている様子の撮影に成功した。アルファ線の跡の長さ

などから、長崎原爆に使われたプルトニウム特有のアル

ファ線とほぼ確認された。

鎌田七男広島大名誉教授(放射線生物学)は「外部被ばく

であればプルトニウムは人体を通り抜けるので、細胞の中

に取り込んでいることが内部被ばくの何よりの証拠だ。広

島、長崎で軽んじられてきた内部被ばくの影響を目に見え

る形でとらえた意味のある研究だ」としている。

2009/08/07 07:03 【共同通信】より19

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これが国の主張する「科学」か?  原爆症認定者数の実態

2008

2005

2002

1996

1993

1990

1987

1984

1981

1978

1975

1972

1969

1966

1963

1960

1957

20

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原爆症認定集団訴訟 2003年~2009年

3、判決の結果

全国17地裁・24判決、6高裁で勝訴判決

敗訴は1判決のみ

(勝訴率97%)

21

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原爆症認定集団訴訟からノーモア・ヒバクシャ訴訟へと続く司法判断(判決)の基調(総論)

1. 原爆放射線の被曝を検討するに当たっては、①DS02等によって算定される初期放射線の推定線量は一応の目安に止めるべきで、②誘導放射線及び放射性降下物による放射線量の評価は過小評価となっている疑いがある。③被爆者の被爆状況、被爆後の行動、活動内容、被爆後の症状等に照らして、様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性の有無を十分に検討した上で、健康に影響を及ぼす程度の線量の被曝をしたかどうか判断するのが相当。④遠距離・入市被爆者であっても有意な放射線被曝があり得ることを考慮する必要がある。

2. 個々の被爆者の疾病が積極的認定範囲に該当しない場合であっても、被爆者の被爆状況や被爆後の健康状況、被爆者の罹患した疾病等の性質、他原因の有無等を個別具体的に検討しなければならない。

22

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原爆症認定集団訴訟からノーモア・ヒバクシャ訴訟へと続く司法判断(判決)の基調 (総論) 続き

3. 放射線被曝と他の原因との共同関係があっても、放射線によって申請疾

病の発症が促進されたと認められる場合には、放射線の影響がなくても

申請疾病が発症していたといえる特段の事情がない限り、放射線起因性

を肯定するのが相当。

4. (国が主張する)他原因うち「高血圧、糖尿病、高脂血しょう等については、

それ自体が放射線被曝との関連性が認められる。

5. 固形がん、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、甲状腺機能亢進症、C型慢性肝

炎等々、しきい値はないものとして考えるのが相当である。

23

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原爆症認定集団訴訟からノーモア・ヒバクシャ訴訟へと続く司法判断 (各論) 

l 変形性腰椎症

l 頚椎椎間板ヘルニア

l 両変形性関節症

l 食道裂孔ヘルニア

l 大腿骨疲労骨折

l 熱傷瘢痕

l 熱傷治癒障害

l ガラス摘出後遺症

判決で認められた、積極的認定の範囲以外の疾病事例

l 骨髄異形成症候群

l 慢性甲状腺炎

l 狭心症

l 脳梗塞

l 腹部大動脈瘤

l 慢性腎不全

l バセドウ病

l 肺気腫24

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認定範囲 疾  病

l3.5km以内で直爆 悪性腫瘍(固形がんなど)

白血病

l100時間以内に2.0km以内に 副甲状腺機能亢進症

 入市 放射線白内障(加齢性白内障を除く)

放射線起因性が認められる心筋梗塞

l100時間経過後2週間以内に 放射線起因性が認められる甲状腺機能低下症  2009年追加

 2.0km以内に1週間以上滞在 放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変  2009年追加

2008年 厚労省:原爆症認定「新しい審査の方針」 制定1、積極的に認定する疾病と条件(放射線起因性)

2、その他の疾病、条件は、被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を総合的に判断

■不十分さは残しつつも、認定行政の根本的転換への展望を切り拓いた。

■但し、非がん疾患は「放射線起因性」が条件づけられ、多くの却下処分が引き続いた。25

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なぜ、3.5㌔が出てきたのか?

「新しい審査の方針」制定前に、2008年1月厚労省健康局が与党(自民・公明)原爆被爆者対策プロジェクトに提示した「新しい審査の方針」イメージ(案)

26

1. 今後の原爆症認定審査に当たっては、① 被爆から長い年月が経過し被爆者が高齢化していること② 放射線の影響が個人ごとに異なることなどに鑑み、これまでの原因確率による審査を全面的に改め、迅速かつレ積極的に認定を行うこととする。

2. このため、自然界の放射線量(1mSv)を超える放射線を受けたと考えられ、被爆地点が約3.5㌔前後である者及び爆心地付近に約100時間以内に入市した者並びにその後1週間程度の滞在があった範囲にある者が以下の症例を発症した場合については、格段の反対すべき事由がなければ、積極的に認定を行う。

3. 具体的には、(1)がん、白血病、副甲状腺機能亢進症(2)放射線白内障(3)心筋梗塞

4. 以下略

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2009年原爆症認定集団訴訟の終結に関する確認書 調印 

1. 一審判決を尊重し、一審で勝訴した原告については控訴せず当該判決を確定させる。

  このような状況変化を踏まえ、一審で勝訴した原告に係る控訴を取り下げる。

2. 係争中の原告については一審判決を待つ。

3. 議員立法により基金を設け、原告に係る問題の解決のために活用する。

4. 厚生労働大臣と被団協・原告団・弁護団は、定期協議の場を設け、今後、訴訟の場で争う必要のないよう、この定期協議の場を通じて解決を図る。

5. 原告団はこれをもって集団訴訟を終結させる。

   以上、確認する。       平成21年8月6日

日本原水爆被害者団体協議会 代表委員、事務局長

                        内閣総理大臣  麻生太郎29

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原爆症認定集団訴訟終結後の事態 

1、2011年(平成23年) 東日本大震災・東電福島第一原発事故発生

2、2008年に「新しい審査の方針」は定められたが、依然として、

  特に非がん疾患に対しては却下処分が続く

l認定者の90%が悪性腫瘍に偏重

l非がん疾患の認定率43%、入市被爆者は認定ゼロ

3、厚労大臣との定期協議の形骸化

4、定期協議によって「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」の設置

l2010年から2013年12月まで26回の会議を行い最終報告書提出

 →原爆症認定「新しい審査の方針」改訂30

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2013年 厚労省:原爆症認定「新しい審査の方針」改訂

申請 条       件

疾病 直爆被爆の場合 入市被爆の場合

(1)積極認定 ①悪性腫瘍 約100時間以内に2.0㌔以内に入市

②白血病 約3.5㌔以内 または

③副甲状腺機能亢進症約100時間経過後から約2週間以内の期間に約2.0㌔以内に1週間程度以上滞在

①心筋梗塞

②甲状腺機能低下症 約2.0㌔以内 翌日までに約1.0㌔以内

③慢性肝炎・肝硬変

放射線白内障(加齢性除く) 約1.5㌔以内

(2)総合認定

1、放射線起因性の判断

■非がん疾病の認定条件を具体的にしただけで認定範囲が広げられたわけではない。31

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2012年~現在 ノーモア・ヒバクシャ訴訟(第2次集団訴訟)

1. 全国7地裁に121人が提訴

     (東京、名古屋、大阪、広島、岡山、熊本、長崎)

2. 2018年10月までに

l厚労省の却下処分取り消し(認定)25人

l地裁勝訴56人 敗訴24人

l高裁勝訴 6人 敗訴 7人

l最高裁 上告棄却・不受理 5人

l現在も係争中

2地裁17人(大阪11人、長崎6人)  内4人が故人

3高裁13人(東京1人、広島11人、長崎1人)  内1人が故人

最高裁2人32

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原爆放射線に対する厚労省の見解 (厚労省HP資料)

1、人体への影響は初期放射線(爆発後1分間の放射線)のみで、限定された範囲l初期放射線による被ばく線量は、一定の誤差はあるが、現時点では日米合同で策定された線量推定方式(広島および長崎における原子爆弾放射線被ばく線量の再評価、DS02)が、最も信頼できる推計方法として、被爆者の健康影響を調査する際に使用されている。l放射線は2.5㌔(広島)から3 ㌔(長崎)より遠方には届かなかったとされている。l健康に影響を及ぼすような放射性降下物(黒い雨など)の存在は認められていない。l内部被ばくによる被ばく線量は極めて小さいとされている。

原爆症認定放射線起因性の判断は、放射線被ばくによる健康影響が必ずしも明らかでない範囲を含めて設定している。

2、疾病と放射線との関係のしきい値論l悪性腫瘍     100㍉㏜以下ではリスクの増加は明らかではない。l心筋梗塞     500~1000㍉㏜以下の低い線量域では関連は認められていない。l甲状腺機能低下症 甲状腺被ばく線量との間に関連性は認められていない。l慢性肝炎     500㍉㏜以下の低い線量域では有意な関連は認められていない。 33

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原爆症認定と訴訟に対する現在の厚労省の態度

1. 国の認定基準の誤りが司法によって断罪されているにも関わらず、「新し

い審査の方針」改訂版(2013年)基準から僅かでも外れる申請は依然と

して却下処分。

l 「行政と司法判断のかい離」と公言(開き直り)

1. 被爆者が裁判に訴え、最終的に国の敗訴が確定すると、該当する被爆者

は認定されるが、しかし制度は変えない。

l 裁判に訴えることのできる人だけが救済(認定)され、できない人は泣き寝入り

l 不公正行政の常態化

1. 原爆症認定の要医療性基準について必要以上に判断を厳格化

l 医療上の経過観察も要医療性を否定

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原爆症認定と訴訟に対する現在の厚労省の態度  続き

4. 放射線の人体に与える影響について頑なに「初期放射線線量論」を主張

l 「あなたの被ばく線量はいくらだったのですか?」

4. 他原因論へのこだわりと主張

l 高血圧、高脂血しょう、糖尿病、加齢、飲酒・喫煙歴

4. 医師・研究者を動員しての裁判所批判、恫喝・圧力

l 医師・科学者35名連名の意見書

裁判所に対して、「これまでの判決はUNSCEAR等の国際的な科学的な知見とかけ離れ

いる」と批判。

l 論文執筆者による意見書(それまでの研究成果を自ら貶める内容)を提出

     甲状腺機能低下症に関する意見書

      放射線被ばくと心筋梗塞との関係について 35

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日本被団協の原爆症認定制度改正の提言

① 現行の原爆症認定制度を廃止する。

② すべての被爆者健康手帳所持者(被爆者)に「被爆者手当」を支給する。

③ 「被爆者手当」は、障害の度合いに応じて3つの加算区分を設ける。

④ 加算対象疾病は、判決等でこれまで放射線の影響が認められた疾病等。

l 被爆距離や入市の時間による限定は定めない。

l 白内障など軽度の障害については給付水準が現状より下がることも厭

わない。

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原爆症認定基準について日本被団協の当面の要求

申請疾病 直爆 入市

1 ①悪性腫瘍

②白血病

③副甲状腺機能亢進症

④心筋梗塞、狭心症 約100時間以内に2.0㌔以内

⑤甲状腺機能低下症 甲状腺機能亢進症

約3.5㌔以内 約100時間経過後から約2週間以内の期間に約2.0㌔以内に1週間程度以上滞在

⑥慢性肝炎・肝硬変

⑦脳梗塞

2 放射線白内障(遅発性含む) 約1.5㌔以内

1、積極認定

2、総合認定 被爆から70年以上経た被爆者の実情と国家補償的配慮を根底に、柔軟に判断。

3、要医療性 経過観察が必要な場合も含めて広く認定。 37

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原爆症認定集団訴訟からノーモア・ヒバクシャ訴訟

1. 原爆症認定集団訴訟は、放射線の人体への影響について、「初期放射

線決定論」から脱却して被ばくの実相を切り拓いてきた。

l 残留放射線、内部被ばくの人体に及ぼす影響の実態を示し、その脅

威を明らかにしてきた。

1. ノーモア・ヒバクシャ訴訟は、疾病の要因とされる「他原因」(高血圧、高

脂血しょう、糖尿病等)それ自体も放射線の影響によるものであるとする、

新たな知見を明らかにしてきた。

2. 訴訟を闘う中で原爆(核兵器)の残虐性と被爆者の被ってきた苦しみを

認めさせ、二度と核兵器を使用してはならない―核廃絶の必要性を示し

てきた。38

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被爆2世・3世の健康問題と対策

核廃絶と平和のために

被爆二世のノーモア・ヒバクシャ訴訟傍聴記

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