余暇(レジャー)の概念について - hiroshima...

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(研究ノート〉 余暇(レジャー)の概念について 西 I 余暇とレジャー 余暇ということばは leisureの訳語として使用されている1) 0 leisure 昭和36 年頃に流行語になり汽こんにちでは外来語「レジャー」として定 着している O しかし戦前は、そうではなかった。戦前にはレジャーや余暇 ということばI土あまり使われなかったヘ 余暇ということばはレジャー(l eisure) の訳語ではあるものの、翻訳の ための新造語ではなし、。余曜という日本語ががんらい存在し心、それが新 たにレジャーの訳語としても使われるようになったので、あるお。 ここに問 題が生じる。二つのことばの意味が完全には一致しない可能性があるとい う問題である久こころみに『広辞苑Jをひいてみよう O 余暇は「自分の 自由に使える、あまった時間7l J であり、 レジャーは「余暇。仕事のひま。 1) 2)(6)347 頁、 M122 207 頁、参照。 3)9-10 12 頁、参照。 4) 南史や太平記に用例がみられると L 、う。 ((1)757-8 頁、 (2)743 頁、参照) 5) レジャーにたいして余暇ということぽが当てられたといったが、逆に余暇にたい してレジャーということばが当てられたともいえる。 1924 年の ILO21 号勧告で は、余暇ということばにたいしてはスベア・タイム (sparetime) が当てられてい た。 1930 年代になって、スペア・タイムの代りにレジャーが用いられるようになっ た。((1E )77-78 頁、参照) 6) I 伝来の日本語を翻訳語として用いた場合には、異なる意味が混在し、 L かも矛 盾している、という問題が重要である。J (帥 i 頁) 7)2465 頁。

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  • (研究ノート〉

    余暇(レジャー)の概念について

    大 西 康 雄

    I 余暇とレジャー

    余暇ということばは leisureの訳語として使用されている1)0 leisure は

    昭和36年頃に流行語になり汽こんにちでは外来語「レジャー」として定

    着している O しかし戦前は、そうではなかった。戦前にはレジャーや余暇

    ということばI土あまり使われなかったヘ

    余暇ということばはレジャー(leisure) の訳語ではあるものの、翻訳の

    ための新造語ではなし、。余曜という日本語ががんらい存在し心、それが新

    たにレジャーの訳語としても使われるようになったので、あるお。 ここに問

    題が生じる。二つのことばの意味が完全には一致しない可能性があるとい

    う問題である久こころみに『広辞苑Jをひいてみよう O 余暇は「自分の

    自由に使える、あまった時間7lJであり、 レジャーは「余暇。仕事のひま。

    1) (6)347頁、(7)160頁、帥75頁、 (1~830頁、同492頁、伺257頁、参照。

    2) (6)347頁、 M122、207頁、参照。

    3)伺 9-10、12頁、参照。

    4)南史や太平記に用例がみられるとL、う。 ((1)757-8頁、 (2)743頁、参照)

    5) レジャーにたいして余暇ということぽが当てられたといったが、逆に余暇にたい

    してレジャーということばが当てられたともいえる。 1924年の ILO第21号勧告で

    は、余暇ということばにたいしてはスベア・タイム (sparetime)が当てられてい

    た。 1930年代になって、スペア・タイムの代りにレジャーが用いられるようになっ

    た。((1E)77-78頁、参照)

    6) I伝来の日本語を翻訳語として用いた場合には、異なる意味が混在し、 Lかも矛

    盾している、という問題が重要である。J (帥 ii頁)7)叫2465頁。

  • - 82ー

    転じて、余眼を利用してする遊び・娯楽8)J であると説明されている。余

    曜とレジャー Ceisure) という二つのことばの意味が完全には一致してい

    ないことは明らかであり、 ここではレジャーのほうがより広い意味をもっ

    ている。もっと詳しくそれぞれの意味を調べてみよう O

    (i) 余暇の語義

    まず余暇について、いくつかの辞書を調べてみた。

    ①「アマルイトマ。 ヒマ9)I

    ②「蝕りのいとま O 業合余の閑日度。あひま。ひま。いとま O 官余閑川」

    ③「あまった時間O ひま。いとま 11)J

    ④「自分の自由に使える、あまった時間。ひま O いとま 12)J

    ⑤「あまった時間。ひま 13)J

    「あまった時間」・「ひま」・円、とま」などがほぼ共通している。余暇と

    は文字どおり、余(あま) った暇(ひま・いとま)だ、 というのである。

    では、 「あまる」・「ひま」・「し、とま」とはどういう意味であろうか。 「広

    辞苑』をひいてみた。要点を摘記すると、

    「①必要量や容量などを越える。多すぎて残る。余勢

    が残る。また、割り切れずに残る。……②目安や区切りを越える。それ以

    上である。……③可能性を越える。能力以上である。・・…④分際を越える。

    (余る)あまる

    分不相応である。……凶J(傍点、筆者、以下同じ)

    あまり(余) : 1"①事をした結果、 出た残り。②事物をあることに役立

    てた残り。余分。剰余0 ・…-・@一つの自然数を他の自然数で整除した時の

    8)同上、 2542頁。

    9) (2)743頁。

    10) (1)757-8頁。

    11)肋2274頁。

    12)帥2465頁。

    13) (5)58頁。

    14)糾68頁。

  • 一回一

    剰余。②物事が普通(正当〉 と思われる程度を越えること。過度。法外。

    あんまり。…・一③数詞について、 さらに余分のあることを示す。…...15) J

    ひま(隙・暇・関): I①物と物との間の透いたところ。すきま O すき。

    …②継続する時間や状態のとぎれた問。一…③仲のわるいこと。不和。

    …④仕事のない問。てすき。閑暇。……⑤都合のよい時機。機会o

    ⑥所要時間。……⑦雇用・主従・夫婦などの関係を絶つこと。いとま 16)J

    L 、とま (暇・逗): I①休む問。用事のない時。ひま。……②それをする

    のに必要な時間のゆとり O ・・③休暇0 ・・・ー④辞職。致仕0 ・・…・⑤喪にひ

    きこもること。……⑥別れ去ること O 離別。また、そのあいさつ…・⑦

    奉公に免じて去らせること O 解雇。⑧離婚。離縁。-一…⑨隙間(すきま)。

    隙(ひま)。 . .17) J

    これらの説明を総合すると、余暇とは、仕事凶iこ必要な時間以外に残存

    する時間、 ということになる。

    (ii) レジャー(leisure)の語義

    オックスフォード英語辞典を調べてみた。要点、を摘記すると、

    Leisure:l)①暗示された又は明記された何事かを行う自由又は機会。(廃

    語になっている)②一つの機会。(廃語になっている)

    2)①より狭い意味において:諸業務からの自由によって与えられた機会O

    ②機会の持続;遅すぎる以前に許された時間。(今は稀である)

    3)①自身の自由にできる時聞を持っている状態;人がしたいと思うよう

    に費すことができる時間;自由な又は用事がない時間。②特殊化された

    15)同上 。

    16)同上、 2042頁。

    17)向上、 154頁。

    18) I①する事。しなくてはならない事。特に、職業・業務をさす。…②事をかまえ

    てすること。また、悪事。③〔理〕外力が働いて物体が移動した時に、物体の移動

    した方向の力と移動した距離との相乗積を、外力が物体になした仕事とL、う。J(向

    上、 1041-1042頁)

  • -84-

    意味において:用事がない時間の期間又はひと続き。(今は稀である)

    4)気長、緩慢。(廃語になっている叫) (傍点、筆者)

    これによれば、 レジャーの語義は、ほぼ、仕事から自由な時間、という

    ことになる。そうだとすると、余眼もレジャーも、語義としてはほぼ同じ

    意味(仕事のない、自由な時間)をもっていることになる O ちなみに、余

    暇やレジャーに相当するドイツ語 Freizeit20) の意味は、「仕事から自由な

    時間 (arbeitsfreieZeit) 21りである。

    11 余暇=レジャーの概念規定

    (i) 概念、規定の分類項目

    余暇(レジャー)の概念規定は、いまだ確定しておらず22)、多様である。

    論者によっても異なれ同一論者についても場合により異なる。このよう

    な状況にただ向きあっているだけでは、頭の中が混百lするばかりであるO

    そのせいでもあろうが、研究者たちは、諸論者の概念規定にたし、して、さ

    まざまな整理をこころみている23)。そのし、くつかの方法を組み合わせて、

    整理をこころみた。分類E頁白は次頁に掲げたとおりである。

    (ii) 概念規定の整理

    け客観的規定

    1)没価値的規定

    19) (3)p. 192.

    20)帥3頁、参照。

    21)伺S. 1373

    22) (10)121頁、同4頁、倒30頁、参照。

    23) もっとも目についたのが、時間・活動という分け方である。 ((10)10頁、 ω104頁、

    同173真、参照)そのほか、時間・活動・価値(同30頁、参照)、時間・価値((1$77

    頁、参照。また~4)27-28頁、参照)、時間・活動・意識 (M273-274頁、参照)と

    いう分け方もあった。

  • -85-

    のの

    、ノ一ハ

    νも戸ムふJ的

    H

    但百,444a'

    のも戸tおや/h1J

    ,,tfト観存

    概念規定一「

    時間的なもの

    ;時間→活動的なもの

    価値的なもの一一一活動→時間的なもの

    l 活動的なもの

    ¥結合型

    結合型

    主観的なもの

    結合型

    a 時間的規定

    ⑦「自由時間的」

    ②「自由な時間27)J

    ⑨「肖由裁量時"司28)J

    ④「生活の実際的必要が果されたのちの白由時間29)J

    ⑤「人間が白然的・社会的拘束から開放される白由な時間30)I

    ⑥「人間の全生活時聞を 3分類し、-…生理的必須時間と、 一一生産時

    間あるいは社会的必要時間とを差しヲ I~ 、た単なる残りの時間31)J

    ⑦ 11日のうちで、労働時間と睡眠時間と生活必要時間(i先面・食事な

    24) これは、 「まずく時間範囲〉が規定され、それに付随して活動力:規定されるとい

    う形式J (向上、 274頁)のものである。25) これは、 「主ず、 〈活動内幸手〉が規定され、それに付随して時間が規定されると

    いう形式J (向上)のものである。26)岬49頁、帥104頁。

    27)同上、 75頁0

    28)同276頁。

    29)帥29頁。

    30)帥92頁。

    31)同じ 104頁。

  • 一筋一

    ど)を除いた外的強制のない個人の自由なa'..二自由可処分時間32)J

    ⑧「く起きている時間〉からく労働時間> (洗面、食事

    など)を引L、た残りの白由可処分時間33)I

    ⑨「人びとの生活時聞から労働時間等の拘束時間と、生理的な必需時間

    とを控除した残余時間34〉」

    ⑩「要務から自由な時間一一人が選択するままに行う時間__35) 1

    ⑪「仕事をした後自由になる時間36)i

    ⑬「仕事ないし労働から自由な時間3ni

    ⑬「仕事また:土労働などの拘束からの開放38);

    ⑭「労働やまた他の責務が果たされたのもの余った部分の時間39)!

    ⑮「個人の自由になる時間J、「生活に必要なものを得るための労働とか、

    またはその他の生活に必要な事がらのために占められていない時間判」

    ⑬「賃仕事や他の義務的業務が、私たちに課すところのより明白で形式

    的な義務から自由な時間41)!

    ⑮「目覚めている時間のうちで、労働に費やされる以外の、非労働的残

    余の時間叫」

    ⑬「行なわなくてもよい事を行なうことができる時間、すなわち、労働

    義務によって拘束されている時間以外の時間、不可避的で不可欠な目的の

    達成に供せられることのない時間43)J

    32) (η160頁。

    33) (6)347頁。

    34)倒10頁。

    35)帥40頁。

    36)帥65頁。

    37)同上、 127頁。

    38)帥88頁。

    39)糾27頁。

    40)帥63頁。

    41)糾29頁。

    42)帥173頁。

    43)帥序文2頁。

  • aoo

    ⑬「自由な時間、つまり生計のことを心配する必要から自由な時間44)J

    ⑮「労働しなくてもよい時間、フリーな時間、休める時間45)J

    @I労働しないですむ時間制」

    @I売却されない時問、 『自分自身の時間』、「自由時間よ471J

    ⑮「労働しない時間48)J

    ⑫「働かないでいる時間49)i

    ⑮「労働力、ら解放された時間間」

    ⑧「労働から解放された余白、終業後の自由時間51)j

    @I労働以外の時間52)J

    ⑧「労働時間以外の時間53)J

    b. 時間→活動的規定

    @I人聞が自然的、社会的拘束から自由な時間に行なう活動54)J

    @ I人びとの生活を構成する様々な行動のうち、主として残余時間とし

    ての余暇と L、う時間的領域を埋めている諸活動の集合間J

    d. 活動的規定

    @I本質的で機能的な役割から必然、的に生ずるのではない活動向)J

    a+b

    @I自由な時間およびその時間内に行われる活動をともに意味する概念

    44)帥29頁。

    45)帥32頁。

    46) ~1l9頁。

    47) (14)28頁。

    48)帥33頁。

    49) (1~26頁。

    50)帥7頁。

    51)似)7頁。

    52)向上、 70頁。

    53)向上、 3頁。

    54) (8)301頁。また帥92頁、参照。

    55)帥10、25頁。

    56)ω序文2頁。

  • - 88一

    である

    11寺問概念としてのレジャーは、一般に、生活時間から生理的必要時間

    (睡眠、食事、身のまわりの用事などにあてられる時間)や、労働時間

    (仕事、学業、家事などの時間)を差ヲ[~、た時間としてとらえられる。…

    活動概念と Lてのレジャーは自由な時間に行われる活動である……57)」

    ③「人間の生物的生存と社会的生存のための時間と活動をこえた、すべ

    ての時間とその時間におこなわれる活動55)J

    2 )価値的規定

    A. 時間的規定

    ~í労働から解放された自由時間同j

    ③「拘束から離れ各個人が、自由な裁量によって、どのようにでも使用

    できる時間判 l

    ⑨「拘束から解放された個人が、各人の自由な裁量によって、自由に利

    用することができる時間61lI

    ②「円分の自由に処理できる時間J、「人間的自由の発露62)J

    ~í自由時間63)J

    ⑧「生活時間から労働時間と睡眠時間など生理的に必要な時聞を控除し

    た残余時間J (iここでは、 残余時間は個人の主体的選択にまかされる時

    間という意味合いを持ち、積極的な付加価値を持つ自由な時間と定義され

    る64)J)

    ⑩「個人が主体性をもって、その目的のために用いる時間65)J

    57)同492-493頁。

    58) (9)592頁。

    59) (11)120頁。

    60)倒113頁。

    61)同上、 117頁。

    62)帥88頁。

    63)帥10頁。

    64)帥173頁。

    65)帥72頁。

  • 一 回 一

    @I個人としての、あるいは人間としての、 f~j 由を享受する時間66)J

    ⑫「単に仕事をしていない状態というだけでなく、……人間生活のユト

    リ、 くつろぎ、アソピ等の要素が労働力、ら遊離し、労働と対立するものと

    して労働以外の時間、すなわち余暇時間にとじこめられ凝集したもの67)J

    @Iわれわれが義務を果たして残った空白な時間で、われわれが楽しく

    適正に使える時間68):

    ⑬「ある仕事をするための十分な時間69)!

    @I人間と Lて己れを生かすための時間70)J

    ⑮「拘束のない個人固有の自由な時間人「自己発現時間71)J

    @I自己充実と人間形成のための自由時間的←l

    B. 時間→、活動的規定

    ⑬「①自由時聞の活動②生計のために必要な金銭を生まない活動③必要

    性や義務をともなわない活動④みずからの満足をうるために自由になされ

    る活動であり、その活動を行うこと自体が目的となるもの…・・・⑤すすんで

    自己拡充や創造力の発揮を随意に行うことを可能にさせるもの問」

    ⑩「非仕事時聞から社会的・生理的必需時間を除去した自由時間に、自

    律的に決定し、自由裁量に基づいて行なう活動の中で、純快楽を意図・指

    向した活動74)J

    @I個人が職場や家庭、社会から課せられた義務から解放されたときに、

    休息のため、気晴しのため、あるいは利得とは無関係な知識や能力の養成、

    自発的な社会的参加、自由な創造力の発揮のために、まったく随意に行な

    66) (~26-27頁。

    67)帥38頁。

    68)制65頁。

    69)糾75頁。

    70)悼119頁。

    71)的104頁。

    72)向上、 77頁。

    73)帥19頁。

    74)悌46-47頁。

  • - 90一

    う活動の総体75)J

    @ I個人が職業活動や家事、その他の社会的拘束から解放されたときに、

    休息や気晴し、自己能力の開発、社会参加、創造性の発揮のために行う随

    意的、自発的な活動の総体附J

    ②「われオつればレジャーを四つの期間として把握すべきだと主張してき

    た。この四つの期間とは、一日の終わりのレジャー、週末のレジャー(ウ

    ィーク・エンド)、年末のレジャー(ヴァカンス)、生涯の勤労生活を終

    えた後のレジャー L退職)である。…ーこれらの期間に、 レジャーは、当

    事者の心身の要求に関連した活動によって多かれ少なかれ構造化された総

    体を形成する O この諸活動の総体とは、身体的レジャー・実用的レジャー

    .美的レジャー・知的レジャー・社交的レジャーである77lJ

    c.活動→時間的規定

    @ I個人固有のものであり、自己の裁量によって、自己の向上や幸福を

    得るために、人生の道を自由に選択する時間、自己の存在を主張する積極

    的な人生行動の時間であり、文化創造の時間ということになろう 78)J

    ~Iわれわれは、レジャーという言葉は、究極の目的として自己実現を

    志向する時間の内容だけに用いるほうが有効であり、操作的に機能しうる

    ものと思う。個人が現代の社会規範にしたがい、職業的・家庭的・あるい

    は社会 精神的・社会政治的な義務的活動を遂行した時に、社会の側か

    ら個人にこの時間が付与される。この時聞は、……個人が自由に使用でき

    るようになった時間である O この時間のうちで、イ国人は自らの意志にした

    がい、休息しながら疲労をいやしたり、気晴らしをしながら倦怠を解消し

    たり、自分の心身両面の能力を考えあわせて自己開発しながら、機能的に

    専門化した労働から解放される削」

    75) (8)19頁。また帥11、26頁、帥71、旬、 96頁、肺83頁、同16、280頁、帥11頁、同27、

    38頁、倒5、173頁、参照。

    76) (1$830頁。

    77)帥136頁。また倒37頁、同32頁、参照。

    78)帥105頁。

  • - 91 -

    @ i単なる時間の概念と考えられるべきものではなく、むしろ人間にと

    っての生活時間の一定部分、それによって人間がその本来の人間性を取り

    戻すための活動を営む、そういう生活時間の部分間」

    Oi個人としての、あるいは人間としての、自由を享受する……ために

    活動する時間8DJ

    D. 活動的規定

    @i日々の「労働」や「仕事Jや総じて職業生活を、人間的なもの、個

    人の主体的・個性的なものに再編していくための活動82)J

    A+C

    ⑧「勤務、通勤、内職などの収入生活時間(労働生活時間)から解放さ

    れた自由時間であれかっそれは睡眠、食事、そして単なる娯楽、無為な

    と事に使われる時間ではなく、自分の生活感情と個性を高め、社会の文化を

    豊かtこする、しかも報酬を伴わない活動に従事する時間間」

    同主観的規定

    ⑮「たいがし、の人たちにとって、余暇とは彼らが欲することを何でも行

    う自由を自覚する時間のことを意味する制j

    @ i楽しさや幸福感を感じさせるく態度〉ゃく精神状態…〉を意味する

    概念8::)J

    a+b+口

    @ i労働時間外の外的強制のない個人の自由な時間、そこでおこなわれ

    る諸活動、その行為者のく意識〉、相互に重なり合う三つの次元をひっく

    るめ86)Jたもの

    79)帥135頁。

    80)帥192頁。

    81)同上、 26-27頁。

    82)同上、 193頁。

    83)帥76頁。

    84)帥16頁。

    85)帥273頁。

    86) (6)347頁。

  • -92-

    B十(オ

    @ 1(.1)経済的に自由な時間……に行なわれ、(ロ)参加者によってレジャー

    とみなされ、付心理的に快適な期待と回想……をもたらし、付潜在的にす

    べての領域にわたる占有度と密度…ーを有する、的特有の規律と拘束…

    を内包した、付レグレーション、個人的成長、他者へのサービス…ーなど

    への機会を与える、(ゆ相対的に自己決定・・…・に基づく行為一体験S7lJ

    111 一つのまとめ

    (i) 余暇(レジャー〉概念の内包

    これらの概念規定にほぼ共通してみられる点[土、第サこ、労働をはじめ

    とする拘束からの自由ということ、第二に、個人的・社会的価値(よいも

    の)の追求ということである。

    これらの点l士、二つの自由の区別、すなわち、消極的な自由(……から

    の自由)と積極的な自由(一…への自由)に対応させることができる。

    さらに、しばLば日につく余暇(レジャー)概念の語源的説明に結びつ

    けることもできる。 1何もしないこと」を意味するラテン語のオティム

    (otium88)) には拘束からの自由を、学問などの活動を含意するギリシア語

    のスコーレ (schole89))やラテン語のスコラ (schola90)) およびリセレ(lice開

    re91)) には価値追求を結びつけることができる。ただし、語源的説明にl士、

    概念規定の歴史性9のを無視するという危険がともなうので、余暇のすごし

    方について規範的な主張をする際には、特に注意を要するであろう。

    87) 倒35←36頁。また~~272頁、参照。

    88)帥43頁、帥105頁、制4、270頁、参照0

    89) (9)592頁、同41頁、制75、105頁、 M4、270頁、同 1-4、174頁、参照。また帥

    23頁、制55-56頁、(1$6, 14、84頁、帥5頁、帥19、92頁、参照。

    90)仙75頁、同28頁、参照。また帥19頁、参照。

    91)帥492-493頁、同270頁、伺28頁、参照。また帥105頁、(1$84頁、参照。

    92)帥273頁、悌10-11頁、参照。

  • -93一

    (ii) 余暇時間の計測の問題

    さて、周知のように、近年、余暇社会や余暇時代の到来がさけばれ、余

    暇が社会問題化した。一つの背景は余暇時間93)の増加で、ある94)。ちなみに、

    本年は「時短元年」といわれている。労働時間短縮がさけばれている。労

    働時間以外の時聞が余暇時間であるとするならば、労働時間の短縮は余暇

    表 195)

    !大よ子類日7蚕-蚕1 備 考

    睡眠時間 労働力のエネルギー補墳のため

    !その他の時間 休養・食事・身回り処理など(殺理)

    生酬必抑制 |醐食 事棚など

    ロ 社会的必須時間 労働・休憩・通勤・家事など

    余暇(自由時間

    !労働・通勤・家事

    ノ、 生活必需時間

    自由時 間 休息・宗教・スポーツ・交際など

    一 拘半拘束束時時間間 I的白然拘的束時・計間会 睡眠・労働食事・家事・通勤・身のまわりの用事

    i 自由時間(余暇〕 休養・レジャー活動・交際など

    労働

    労働要務 通勤・身じたく・自発的超過労働・副業など

    ホ 生理的必要 睡勤・食事・洗たく・排准など

    労 働 外時間 労働外の要務 庭遊仕事び ・家のまわりの片手間仕事・子供との など

    余 暇

    93)余暇を時間として明示するためには余暇時間、活動として明示するためには余暇

    活動といわれる。(同274真、参照。また帥10頁、帥492頁、参照)

    94)人生80年に40年間労働するとすると、余暇時間は労働時間のおよそ 3倍になると

    L 、う計算がなされている。(伺174頁、倒111頁、参照。また帥53頁、制 ii頁、帥

    36-37頁、参照)

    95)イについては(4)133、139頁、ロについてはω104頁、ハについては同4頁、ニにつ

    いては(8)300-302頁、 (また帥92頁)、ホについては~4)35-39頁(また伺40-41

    頁)、参照。

  • -94-

    時間の増加、余暇時間の増加は労働時間の短縮ということになる。しかし、

    余暇時間の計測は、それほど単純な問題ではない。

    余暇時聞を計測するには、生活時聞を余暇時間とその他の時間とに区分

    しなければならない。そこで、表 1にみるように、さまざまな区分がおこ

    なわれている。

    なかでもパーカー (Parker)の区分(ホ)には興味をひかれた。拘束と自

    由との中間領域をもうけたり 96)、非拘束的である点で余暇活動(レジャー

    96)表に示したように半拘束とL、う概念が使われているが、活動の面から同様の意味

    で半余暇(セミ・レジャー)という概念も使われている。デュマズディエ (Duma-

    zedier) はこう説明している。 I労働の拘束から解放された時聞が必ずしも、そっ

    くり余暇に変わったわけで、ないことはすでtこ見た通りである。フリードマンは慎重

    に一応『非労働』とL、う L、L、方をしている。たとえばアヌシイの勤労者の二十五パ

    ーセントはアルノミイトをしたり、適法ではないが義務的な超過勤務以外に勤務して

    いる。経済的必要からかというと、もちろんそうともいえるわけだが、この新しい

    必要性は単なる生活必需の要求に根ざすものではなく、新たな生活様式に由来して

    いるのである。……おそらく心理的動機が経済的動機と密接に関連しあっているの

    であろう。ここでも正規の拘束時間以外の仕事には手作業的なことが選ばれる傾向

    がある。家の仕事場や庭でやるそうした作業は、趣味的なところもあるが実益も兼

    ねている。一・・これは趣味的要素と実益的要素が比重は異なるにしろ入り混じった

    作業で義務的なところもあるが、レジャー的な部分もある。これを半余暇的活動と

    名づけよう。J((8)21-22頁) I自由時間の推定は特に家庭婦人の場合、家事そのも

    のの性格のために、いろいろむずかしい問題を含んでいる。家での仕事には、強制

    の度合にかなり差異がみられる多くの活動がある。たとえば、ある種の縫物とか編

    物、片付けもの、庭の手入れをあげればはっきりしよう。これまでの研究では、こ

    うした活動は、すべて家事とL寸分類項目の中に入れられていた。しかし、それら

    の仕事は必ずしも絶対に必要だからということで行なわれてきたわけで、はない。家

    庭婦人がむしろ好んで一種のくつろぎと考えながら仕事をやることもよくあるので

    ある。こうした半強制的な、半趣味的な活動をここでは半余暇と呼ぶことにしよ

    う。J(同上、 106頁)Iレジャーは、基本的に、職業労働のようにいかなる金銭的利

    益も目的とせず、家庭内での義務的活動のようにし、かなる実利性をも目的とせず、

    政治上の義務的活動や精神的な義務的活動のようにし、かなるイデオロギーや宣伝を

    も目的としない。…そこで、かりに、レジャーが義務的活動へと変わるまでになら

    ないとしても、金銭的利益や実利や社会・政治的な参加という目的に部分的にでも

    従属するなら、もはやそれは完全なレジャーではないといえる。いうならばそれは

  • -95-

    活動〉の性格が強い労働 (1労働としての余暇971J)を余暇と区別するなど

    の工夫がなされている。(表2参照)

    (前より続く〕

    部分的なレジャーであり、それゆえ、 「準レジャーJ(semi-loisir) とよびtc.~ 、と思

    う。このばあい、事態は、いわば第一次的な義務的活動という圏がレジャー活動の

    うちでの義務的活動という圏と重なりあい、この二つの圏の交差するところに準レ

    ジャーが生みだされるといえるようである。準レジャーとは、レジャーが制度上の

    義務的活動ともつれた場合に生じる一個の複合的な活動である。したがって、準レ

    ジャーとは、次のようなばあいに認められる。スポーツマンの活動の一部について

    金銭的報酬が支払われ、釣り人がなんらかの収獲である魚を売り、園芸愛好家が自

    家用になんらかの野菜の栽培をし、熱烈な日曜大工趣味の人々が家を修繕し、ある

    人が儀式としてというよりもあそびのために市民祭にで、かげたり、従業員が上役の

    課長に自分も読んだことを示すために小説を読んだりする場合……、準レジャーと

    いえよう。J(帥140-141頁) (また糾37-38頁、同81-82頁、 (1:母278頁、同12、20頁、

    参照)この概念は、パーカーの「労働外要務Jにほぼ等しいということである。(

    帥39-40頁、参照)ただし、活動主体である個人の意識ではなく社会的多数者の意

    識により半余暇を区別する議論もある o (ゆ283頁、参照〉

    97) r余暇を除けば、活動の個々の形態は労働または労働外時間にかなり容易に配分されうる 0 ・・…余寝の立場はもっと特殊的である。それは明らかに、拘束 白由尺

    度の『自由』の部門に属するが、しかしそれは労働外の時間に制限される必要はな

    い。私たちは、誰か他人の余暇時間を費すやり方が、私たちにはむしろ刻苦精励の

    ようにみえるというときに、この矛盾に注意をひくのである。 11労働』と『労働と

    しての余寂』は、同ーの活動から成立しうる。その違いは、後者がそれ自身のため

    に選択されているということである。だから登山はガイドにとっては労働なのだが、

    素人登山家にとっては労働としての余暇なのだ。余暇時間と雇用時間は重なりえな

    い。しかし労働として売渡されたある時聞が、売手(すなわち被用者)により余暇

    タイプの活動のために利用されてはならないという理由はない。……そして労働活

    動として費すために選ばれたこのような時聞は、・・・通常の他の余暇活動と同じよ

    うに、まさに余暖であることがある。J(~4)41-42頁。また伺12頁、参照)彼はこの

    半面において、余暇時間におこなわれる労働 (1余暇としての労働J)に言及してい

    る。 1時間は一日の二四時間に限定されるけれども、 L、くらかの人間活動は、二つ

    またはそれ以上の活動が同時に起りうるというようなものである。たとえば食事の

    ような生理的必要の満足は、ラジオをきくというような余暇活動をともなうことが

    できる。単なる時間の次元をともなう生活空間の図表は、違ったカテコリーに分れ

    るこのような同時的な活動を表現するときに、むずかしさをもっ。……私たちは同

  • -96-

    表 298)

    活 動

    拘 束←一一一一一一一一一一一一→白 由

    間口外時間

    労 働 要務(雇用と関連)

    労働外の要務

    「労働としての余暇」

    余 暇

    しかし、このような努力にもかかわらず、現実社会の動きは、余眠時間

    計測の問題をさらにいっそう困難にしている。さまざまな生活部面に余暇

    化(レジャー化)が進展しつつあるからである。食事を中心とする生活必

    需的活動に余暇活動の要素が加われへのみならず宗教活動や青少年非

    行10へそれに労働組合活動やグリコ・森永事件のような犯罪にまでも同

    様の現象がみられるからである。

    一一一1985.5.30.一一一

    〈前より続く〉

    ーの活動に対し第一次および第二次機能を配分することができる。だから雇用のよ

    うに、一次的には尺度上拘束の部門に位置する活動でも、二次的な観点からすると、

    自由に選択された活動の余暇類似の要素、つまり、この場合には、私たちが雇用さ

    れる必要のないときでもしたがるタイプの労働をふくむことができるのである。J

    (~4)42頁) r…少数者一一生計獲得の必要からは白由だが、自分が選択する種類の

    労働を、自分が選択する環境において行う人々一一・…-・彼らは生活全体において拘

    束が相対的に欠乏している点においては、怠惰な金持と同じ仲間に入り、そして

    『余暇としての労働』を表わすのである。この硬貨の別の面ー一一『労働としての余

    暇』目ーーは、自分自身のためにそのほとんどを楽しむことをやることで生計を立て

    ることのできる人々の中に見うけられる。J(帥45-46頁。また帥12頁、参照)パー

    カーのいう「余暇としての労働」に類似の概念として「余暇でない余暇Jがある。

    (制38-39頁、参照)

    98) ~4)40頁、参照。また帥86頁、倒42頁、参照。

    99)ω113、114頁、同494頁、帥 i京、参照。

    100)伺 iii-iv頁、参照。

  • -97-

    参考文献

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    (2) 大槻文彦『大言海』第四巻、冨山房、 1944年

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    (4) 大河内一男編『全訂社会政策』青林全書、 1965年

    (5) 貝塚茂樹・藤野岩友・小野忍共編『角川漢和中辞典』角川書宿、 1967年

    (6) 11世界大百科事典』第23巻、平凡社、 1967年

    (7) 11社会科学大事典』第19巻、鹿島出版会、 1971年

    (8) J.デュマズディエ著、中島巌訳『余暇文明へ向かつて』東京創元社、 1972年

    (9) 11万有百科大事典』第11巻、小学館、 1973年

    帥炭斗隆文『現代の余暇」日経文庫、 1974年

    帥 エノレマー・フラント、音田正巳共編『余暇社会の到来』有信堂、 1974年

    同大河内一男『余暇のすすめ』中公新書、 1974年

    同 『ブリタニカ国際大百科事典』第6巻(小項目事典)、 TBSブリタニカ、 1974年

    (14) スタンリー・パーカー著、野沢浩・高橋祐吉共訳『労働と余暇JlTBS 出版会、

    1975年

    同 『ブリタニカ国際大百科事典』第20巻、 TBSブリタニカ、 1975年

    帥 野沢浩『労働と余暇一一法社会学的・労働科学的な考察一一J 日本労働協会、

    1975年

    帥新村出編『広辞苑」第二版補訂版、岩波書広、 1976年

    (1~ 松原治郎編『講座余暇の科学第 1 巻余暇社会学』垣内出版、 1977年

    同石川弘義編著『余暇の戦後史』東書選書、 1979年

    同 J. デュマズディエ著、寿里茂監訳、牛島千尋訳『レジャー社会学』社会思想社、

    1981年

    制 榔父章『翻訳語成立事情』岩波新書、 1982年

    同 岡田至雄『レジャーの社会学』世界思想、社、 1982年

    帥瀬沼克彰『現代余暇の構図』大明堂、 1983年

    制新村出編『広辞苑』第三版、岩波書庖、 1983年

    帥角山栄『時計の社会史』中公新書、 1984年

    帥加藤秀俊『余暇の社会学JlPHP研究所、 1984年

    制 Hermann,Ursula (hrsg.): Wahrig Deutsches Worterbuch, Mosaik Verlag,

    Munchen 1984.

    同 経済企画庁国民生活局・労働省労働基準局共編『柔構造の生活時聞を一一人生80

    年時代における創造的自由時間活動のための条件一一』大蔵省印刷局、 1984年