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Hitotsubashi University Repository Title �(�) Author(s) �, �; �, Citation �, 25: 18-31 Issue Date 1973-07-01 Type Departmental Bulletin Paper Text Version publisher URL http://doi.org/10.15057/6613 Right

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Hitotsubashi University Repository

Title 戦争決定のタイポロジー的研究(上)

Author(s) 野林, 健; 佐々木, 伸夫

Citation 一橋研究, 25: 18-31

Issue Date 1973-07-01

Type Departmental Bulletin Paper

Text Version publisher

URL http://doi.org/10.15057/6613

Right

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戦争決定のタイポロジー的研究(上)

野林 健・佐々木伸夫

正 序  言

ll タイポロジー研究の概観

  1 危機決定(crisis decision)

  2争点領域(issue area)

  3 戦争決定(war decision)

皿 概念装置と手法(以上本号)

W タイポロジーの提示と解釈(以下次号)

V 課題と展望

V【結語

1 序 言

 科学的分析にとって,研究老が設定する「概念装置」の意義は決して見逃し

得ない。そこには,マートンのいう研究のための一般的指針(general orien-

tation)が示されている。概念装置とは,観察老が研究の対象を分析する際に

引照し,仮説し,更には検証しようとする諸変数相互間の関係についての立言

である。通常,我々はこれをフレーム・オブ・リファランス,アプローチ,モ

デルといった言葉で表現している。

 いうまでもなく,個々の概念装置は各研究者の知的関心や当該分野の学問的

水準によっていろいろな形態を持っている。これを要するに,複雑且つ一見無

定型に存在する現実の諸事象を,人聞の限られた認識能力に即して,類似現象

を一個ないし複数の変数なり類型に分類し整序化する知的操作にほかならな

い。

 このような,分類作業としての概念装置の機能は,すべての科学に共通して

いる。これは,既存のデータに有機的な意味づけを与えるといった効用ととも

に,分類を作製し深化させてゆく過程のなかで新たな知見が得られ,研究の成

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                   戦争決定のタイポPジー的研究(上)

果が体系的に蓄積されてゆくことの意義が深く認識されているからにほかなら

ない。

 本研究の目的は,以上のべた類型論的概念装置一本稿ではそれをタイポロ

ジー(typology)と呼ぶことにする一の意義に鑑み,特に主題を外交政策決

定論(decision making apProach)に求めて,実証的,経験的なタイポロジ

ーを提示することにある。後述するように,従来の政策決定研究の領域では,

実証的,経験的タイポロジー論はいまだ未熟な段階にとどまっている。従って

本研究では,政策決定全体を包摂するタイポロジーを直接志向するのではな

ぐ,比較的,研究の蓄積がなされ,また共同執筆老の共通関心でもある「戦争

決定」に限定して論を進めてゆくことにしたい。この意味で,本研究が提起す

るのは政策決定研究における部分的タイポロジーであり,より一般的な政策決

定タイポロジーの構築に向けての一試論にとどまるものである。

 以下,順を追って,従来のタイポロジー一研究を概観し,そこでの問題点を踏

まえて,本研究の提起しようとするタイポロジーの具体的設定方法と分析手続

を述べる。続いて次号において,実証的に導き出された「戦争決定」タイポロ

ジーが提示され, それについての解釈と問題点,今後の研究課題が指摘され

る。

H タイポロジー研究の概観

 周知のように,政策決定論は1954年に発表されたスナイダー・モデルによっ

て先鞭がつけられた。そこでは,政策決定を生み出す主要変数群は「国際環

境」,「国内環境」,「政策決定の組織的分脈」の3つであると概念化された。

本来,同モデルは,外交政策決定過程の分析に必要と考えられる概念の定義・

分類・カテゴリー化を目指すとともに,研究者が,それらを有機的に把握する

ことによって,経験的に検証され得る仮説を生み出す研究の基礎となることが      (1)意図されていた。

 スナィダー・モデルに対する批判は,その学術的意義と並行して数多くなさ

れてきたが, これを要約すれば以下の2点となるであろう。 まず第1の批判

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 一橋研究第25号は,扱うべき変数の数が多すぎて具体的な事例研究に効果的に適用し得ない,

ということであった。第2の批判は,上記の3変数群のなかで理論的に精緻な

ものは「政策決定の組織的分脈」のみであり,残る2つの環境的要因の説明づ

けがきわめて不充分である,ということであった。

 このように,スナイダー・モデルは数々の批判を受けながらも,発表以来す

でに20年を経て,行動科学的国際関係論の領域において1つの共通遺産となっ

ている。この間の事情は,ロズノウの次のような言葉のなかに端的に示されて

いる。

  「(スナイダー●モデルは)実際の外交分析のやり方に吸収されてしまった

ということができる。このアプローチが挑戦した習慣は大半は捨て去られ,こ

のアプロ 一一チが提唱した新しい習慣は研究者の作業仮説の中にあまりにも完全

に組み込まれてしまったため,研究者たちはもはやこうした習慣を改めて説明

したり,その最初の形で理論を援用する必要を感じなくなっている。」(「政策           (2)決定分析の諸前提と前途」)

 過去20年の間にスナィダー・モデルは大幅な修正を受けてきた。たとえ

ぽ,グレン・ペイジは同モデルをきわめて簡略化してアメリカの朝鮮戦争介入

決定過程に適用した。また,ゲーム理論,サイバネティックス・モデル,ある

いは各種の心理学的モデルを導入して政策決定の諸相に分析の光が向げられて

きた。分析手段についても,歴史叙述的なものを始め,内容分析,!t“ e一ミン

グ,シミュレーションなどの計量志向的なものも用いられて来た。

 このような多様な研究展開のなかで,個々の分析手段の相違を超えて政策決

定研究に新局面を開く契機となった概念装置の1つが政策決定タイポロジーで

あった。当初からスナイダー自身も指摘していたように,タイポロジー的アプ

ローチの導入によって,政策決定という,本来きわめて広い対象領域をもつ主

題が,より精緻な議論として展開されてゆく1つの契機を得たのであった。さ

て,タイポロジー的アブP一チは,主に以下の3局面に展開されてきたと要約

されるであろう。

            (3)(1)危機決定(crisis decision)

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                   戦争決定のタイポロジー的研究(上)

 このタイポロジーは時期的に最も早くから提起されて来た。スナイダー自身

も,彼のモデルを発表して4年後に, ペイジとの共同論文(1958)を発表し

て,危機決定(crisis decision)過程が他の決定過程ときわめて異質なもの          (4)である点を明らかにした。それ以後,このく危機一非危機〉タイポロジーは,

ロビンソンの概念深化,ペイジの事例研究,ノース,ホルスティ達による内

容分析,ハーマンによるシミュレーション(INS)を利用しての研究によっ

て発展をみた。危機決定タイポロジーにより,アメリカの「朝鮮決定(1950年

6,月)」や「キューバ決定(1962年10月)」,あるいは第二次大戦の勃発を促し

た決定過程は,(1)政策決定老には予期されず,②彼らのいだく中核的価値(国

家の安全保障等)に対する大きな脅威であり,しかも,(3)彼らに許された決定

持ち時間がきわめて短かいと認知された「危機決定」である,と特徴づけられ

た。

 このタイポロジーが導き出し.またその多くが検証された仮説とは,危機決

定は他の非危機的な決定とは異なった特殊な決定過程を備えている,というこ

とである。つまり,危機決定は政策決定群に心理的ストレスを与えるために,

彼の認知は通常に増して歪みの多いものとなる。また,危機決定は政策政策決

定システムにストレスを与えるために,そこには通常見られない特殊な決定単

位やコミュニケーション・ネヅトワーク,あるいは相手国との相互作用関係が

発生するとされた。

 また,最近の研究動向としては,従来みられた危機決定適程そのものに対す

る関心から, 「危機状況が発生した場合,どのような過程変数が作用すれば,

ある場合には緊張激化に,またある場合には緊張緩和に向うのか」という,

〈決定状況→決定過程→決定の結果〉の連鎖をより明示的に分析しようとする

                  (5)3位相的観点への関心が高まってきている。

 ただ,現在のところ,このタイポロジーの持つ問題点は,それが,危機決定

そのものに密着するあまり,非危機的な決定との全体的な対照関係が不明確な

ままにされていることである。非危機的な決定といっても,それは危機決定の

類型範囲よりも幅広いものであり,たとえばそれは,戦略的一戦術的一常軌的

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 一橋研究第25号

決定というように細分化されて考察されるべきであろう。非危機決定のなかに

も,政策決定への参加者や問題となっている価値, あるいは決定手続にはい

ろいろなパターンがあるとすれば,今後は,危機決定タイポロジーを他の決定

タイポロジー(たとえば前述の3類型)との関連で,より広く決定過程全般の

                (6)比較考察を進iめてゆくことが期待される。

(2)争点領域(issue area)

 この種のタイポPジーは,元来Pズノウが提唱したものである。彼は多岐に

わたる政策決定の性格内容を,以下の4つの争点領域に分類することが研究に

有効であると考えた。つまり,(1)territorial,(2]status,(3)human resources,

             (7)(4)non-human resourcesである。但し,ロズノウの主要関心は概念モデル自

体の開発に向けられており,彼自身はモデルの実証研究の適用にはそれほど熱

意を示していない。この種のタイポロジー一を実証研究に適用したものとして

は,ブレッチャーのものが注目される。そこでは,PtズノウのタイポPジー一は

次のような形に大幅な修正を加えられて用いられている。(1)military-secu-

rity (2)political-diplomatic, (3)economic-developmental (4)cultural-status

     (8)がそれである。

 この種のタイポロジーもまた,危機タイポPジーと同様,複合的利用にその

効果が更にあらわれるといってよいであろう。たとえぽ,政策決定過程との関

連でいうならば,ある種の争点領域タイポロジー(たとえぽ,軍事一経済一文

化といった)がどのような政策決定単位,インタレスト・グル一図プ,組織過程

などと最も関係性があるかを分析することが可能となり,我々に政策決定過程

に関するより体系的な知見をもたらしてくれるであろう。 このように,争点

領域タイポロジーはロズノウやブレヅチャーなどによる既存の枠組に限られる

ことなく,各研究者の関心に従って今後とも多様な用法が試みられるべきであ

る。

 なお, ロズノウに関して付言すれぽ,彼の得意なモデル作りの才を駆使し

                             (9)て,「リンケッジ・ポリティックス」論を展開していることが目を引く。これ

なども,タイポロジーに期待される実証研究への適用性の観点と無毒って,そ

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                  戦争決定のタイポロジー的研究(上)

れがもつ問題発見的,理論開発可能性を示唆する好例であると考えられる。

(3)戦争決定(war decision)

 冒頭で述べたように,タイポロジーの意義には,既存のデータを有機的に分

類するという整序化機能とともに,ある事象についての説明を必要以上に複雑

にすることなく,できるだけ体系的に分析・叙述する機能が期待される。その

意味でも,争点領域の項で指摘したように,幾つかのタイポロジーを組み合せ

て研究の質を深める方向がきわめて望ましい。

 この種の複合的アブP一チには,たとえば,日本の戦争決定についての細谷

千博教授の研究がある。

 従来から,戦争については多くの説明がなされてきたが,細谷教授は,明治時

代以降の日本の戦争決定を分析した結果,政策決定の心理的側面とともに,政策

決定組織の構造的,機能的要因が一連の戦争決定を生み出す大きな契機であっ

たと仮説される。それは,政策決定組織における「中堅層」の役割の重視に関

わり,より広くは,政策決定の権能が戦前の日本の場合,きわめて拡散化の傾

                      (ll)向を濃くしていったという歴史的知見の所産でもある。細谷教授によれば,こ

のような政策決定組織のタイポロジーは,決定権力の集権度という次元に関し

て以下の3タイポロジーとして導き出される。〈高度集権的一業詩的一高度分

権的〉の軸がそれである。そしてこれに加えて,〈開放的一閉鎖的〉という政

治体制の軸がマトリヅクス化され,次のような戦争決定のタイポロジーが考案

された。

(政策決定組織)

(政治体制)

    高度集権的

    開放的i   I

閉剃 IV

寡 頭 的 高度分権的

fi

V

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 一嬌研究第25号

 このタイポロジーは,元来,同教授による日本外交史研究の知見を契機とし

たものであるが,用いられている概念装置の包括性からして,日本に限らず,

広く戦争決定の国際比較研究に有用であろう。また,政策決定のより一般的な

問題関心として,1-VIのうちでどのタイプが最も合理的決定に寄与するのか

といった,あるいは, 「危機」や「争点領域」のタイポロジーとを連結させる

ことによってより体系的な政策決定過程に対する知見を我々に与えてくれるこ

とであろう。

 以上概観したことからも明らかなように,ともすればチェック・リスト的な

機能に限定されがちであったスナイダー・モデルが,各種のタイポロジー的ア

プローチによって修正がなされ,その過程のなかからより一層の研究発展が生

み出されてきたといえる。このように,政策決定論におけるタイポロジー的ア

ブP一チの意義は決して看過されるべきではないが,同時に,現在に至るまで

のタイポロジー的アプローチを回顧する時,政策決定論のより一層目研究発展

に鑑みて四品は幾つかの問題点を指摘し得ると考える。いまこれらを要約すれ

ば以下のとおりである。

(1>分類が1因子(たとえば決定状況とかイヅシュ ・一)あるいは2因子(たと

 えば政策決定組織と政治体制)にとどまり,それ以上の因子が考慮されてい

 ない。

(2)たとえ,3つ以上の因子が考慮された場合でも一その際にとりあげるこ

 とのできる因子は原理的に無限に存在するであろうが一その因子の中で最

 も重要な因子は何であるかについての経験的知識に裏づけられた因子はほと

 んどない。多くは研究者の研究関心にもとづいた直観的把握であって,なぜ

 そのような因子を用いてタイポロジーを構成するのかについての厳密な論議

 は必ずしも充分になされていない。

(3)従って,そのような研究者の研究関心にもとづいた直観的なタイポロジー

 では,とりあげた因子が相互に排他的で独立的な因子であるという保証を得

 ることができない。

 このように,従来のタイポロジーは,個々の事例を説明するには有効であっ

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                   戦争決定のタイポロジー的研究(一h)

ても,必ずしも研究活動全体を指導しうるシステマティックなタイポロジーと

はなりえないものといえよう。

 そのような欠陥に対応する一つの試みとして,データ処理のための統計的手                  (12)法(たとえば因子分析などの多変量解析法)を適用して,できるだけ操作的・

経験的な主要因子を析出し,その因子によるタイポロジーの構築を筆者は志向

するものである。従来の,ともすれば恣意的・印象的なタイポロジーに対し,

より経験的・実証的な裏付けをもったタイポロジーを提示することにより,あ

らたな研究の展開に資せんとするものである。

 ところで,経験的・実証的に政策決定のタイポロジーを構築する・にあたっ

て,利用可能な手法・手続は数多く存在しているが,特に本研究では多変量解                             (13)析法の中でも質的データの分析に適用可能な林式数量化理論第皿類を用いるこ

とにする。後述する分析手続は,政策決定一般のタイポロジーを構築する場合

にも,充分適用可能であると考えられるが,本稿では試論的研究として,戦争

決定の事例に限定し,戦争決定の過程を分析するのに有効な一つまり説明力

が高いと考えられる一主要因子を数量的に導き出すことを目的としている。

 さて,タイポロジー構成に役立ちうる主要因子の抽出を,多変量解析法を適

用することによって行なおうとする研究は,すでに政治意識・政治行動・組織

リーダーシップ論などの領域では広く行なわれている。たとえば,アイゼソク

強じんな心性

娘獅≡≡≡讐 む;========ん

 離婚法の簡易化一な    ● て=====心日曜礼拝は時代おくれ●一性

堕胎と許可法の廃1』

     ド 女教師の桔婚障害排除(急進主義)   ●

   マゴ ノロまお 

騰郵τ鴇三絶・・かわいい子には ●死刑賛成旅させろ●  ●人日混合反対

    (保守主義} を ピ      のせ  カは ヨ にぼ 

 離蘂・強制穆撃 ’・

 一反。●:些肇

 錨1軽ご・ヨ蓮

      急jE㈹国有化の非能率

●宗教教育の義務化

産制の弗合法化

 宗教への復帰

●共産主義者

一6

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�P0・ファシスト

�P2

l I . 1「 「[ l

P3 12 1110 白 8 7占?14 3

刊5  保守主義者 ●

ミ会主義者

◎自由主義者一18-20-22

柔和な心性

一+一保守(C)2

篠原一・永井陽之助編r現代政治学入門』より転載,31頁。

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 一一橋研究第25号

は因子分析を用いて,社会事象に関する40項目の世論調査データを処理し,一                             (14)般市民の政治態度を決定すると考えられる2つの共通因子を発見した。第1因

子はイデオロギーに関するものでr急進主義一保守主義』(Radicalism-

Conservatism)を表わすもの,第2因子はパーソナリティに関するもので

『強じんな心性一柔和な心性』(Tough minded-Tender minded)を表わす

ものである。 (前例図参照)

 この2因子は因子分析の結果得られたものであることから,その直交性一

つまり相互に独立な因子であること一は保証されている。そして,この空間

において,共産主義者・社会主i義者・保守主義者・自由主義者・ファシストな

どの各政治的イデオロギーの担い手をrパーソナリティ』と『イデオロギts』

の2因子によって分類することができる。

                  (15) また,リーダーシップに関してはハルビンによる因子分析の結果が興味深

い。彼はり一ダーについての9個の先験的次元(創始性・成員性・代表性・組

織性・支配性・意志疎通性・承認性・生産性)から構成された質問紙に対する

被験者の反応表を因子分析した結果,以下の4つの因子の析出に成功してい

る。

 (1}配 慮

 ② 体制指導

 (3)生産の強調

 (4)社会的感受性

このなかで,第1因子はr集団の維持・強化』,第2因子はr集団の目標達

成』を表わすものであり,結局「集団におけるリーダーシップ機能」は,これ

ら2主要因子によってほぼ説明(説明率83%)しうることが明らかにされた。         (16) なお,三隅二不二は,このリーダーシップに関する2主要因子に着目して

「PM式リーダーシップ・モデル」と呼ばれるタイポロジーを提起し,各種の

リーダーシップについての実証的研究に用いている。

 戦争決定についての経験的タイポロジーをアイゼンクらと同様の手続を経て

行なうことは可能であろう。そのためには,まず戦争決定の諸側面を代表する

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                   戦争決定のタイポロジー的研究(上)

アイテム(変数)をとりだし,それをいくつかのカテゴリーに分けるといった          (17)内容分析的コーディングの作成を行なわなけれぽならない。そして具体的な戦

争決定の各ケースについて,設定したアイテム・カテゴリーに対する反応表

としてのデータを作成することが必要となる。

皿 概念装置と手法

 実証的,経験的なタイポロジーを戦争決定に即して析出することは,当然,

分析手続的には操作主義に依拠することになる。しかし同時に,操作主義的ア

プローチの意義を規定するのは,分析手法の下部構造ともいうべき概念装置の

質如何であることを我々は忘れてはならない。言い換えれば,たとえどのよう

に高度な分析手法を採用しても,少なくとも原理的には無数に存在する変数を,

どのような基準で取捨選択するかがまず問題とされるわけである。では,この

取捨選択の基準なり枠組が研究の質を左右するものであるとして,我々は一一体

どのようにしてこの知的作業を推進してゆくことができるであろうか。

 それはまずなによりも,過去の研究蓄積一それはいまだ一般理論の水準に

到達してはいないに一その場を求めることが可能であり,また必要でもあ

る。ここにおいて,スナイダー・モデルのチェック・リスト的効用が改めて我

々の研究に「一般的指針」を与えてくれる。また,より具体的には,細谷教授

の戦争決定研究,ベンジャミン,エディンジャーによる外交政策における軍部       (18)の役割を論じた研究を我々は引照することができる。

 本研究が依拠する主要変数群一本稿ではこれをアイテム群と呼ぶ~は,

「政策決定組織」, 「政治体制」, 「社会・経済的条件」, 「対外関係」の4つ

であり,これらはさらに14項目に細分化される。ここにおいて,本研究の作業

仮説は自ずと明らかであろう。つまり,ある国の,更に望むべきは,あらゆる

近代国家におけるすべての戦争決定の基本的メカニズムが上記4つのアイテム

群がら説明し得るということである。

 もとより,筆者の究極的研究目標は高く,しかもその現実的,実際的目的は

つつましいものであることを再度強調しなけれぽならない。なぜならば,この

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 一橋研究第25号

種の多変量解析手法を用いた研究の意義は,結局それが用いるアイテム・カテ

ゴリーの質的水準にその多くを依存するからにほかならない。実際,本研究が

当面の対象とする戦争決定のケースは日本の場合に限られている。また,そこ

でのアイテム群の内容は,従来の研究蓄積に依るとはいえ,いまだそれはきわ

めて未熟なものである。本研究の提起するタイポPジーが今後の戦争決定研究

に対するいささかの刺激となれば,筆者にとって当面の研究目的は満たされた

とする所以である。

 現時点において,我々が選択した概念装置一アイテム・カテゴリー一は

以下のとおりである。

〔1〕 政策決定組織

 (1)決定権能の集権化の程度

   1.高度集権的  2.寡頭的  3.高度分権的。

 ② 交民一軍官の勢力関係

   1.:文民優位  2.競合的  3.軍官優位。

 (3)軍事的見解の表出形態

   1.情報提供的  2.利益代表的。

 (4)軍事的見解の伝達チャネル

  1.公式的  2.非公式的。

 (5)軍事的見解のイニシアティブ

   1.文民イニシアティブ  2.軍官イニシアティブ。

 (6)軍事組織内での勢力分布

   1.陸軍優位  2.競合的  3.海軍優位。

〔H〕 政治体制

 (7)政党政治の強度

   1.高水準  2.中水準  3.低水準。

 (8)政治的参加の程度

   1.高水準  2.中水準  3.低水準。

 (9>大衆からの政治的支持

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   1.高水準  2.中水準

〔皿〕 社会一経済的条件

⑳ 予算にしめる軍事費の比率

   1.高水準  2.中水準  3.低水準。

(11)国家発展の段階

   1. 伝統的社会  2. “sc陸期”社会

〔IV〕 対外関係

⑫ 対外的関与の程度

   1.高水準  2.中水準  3.低水準。

⑬ 対外貿易の収支

  1.輸出過剰  2.

  軍事カバランス

  1.優位  2.対等

  戦争決定のタイポロジー的研究(上)

3.低水準。

3.成熟的社会。

             収支均衡  3.輸入過剰。

 (14

               3.劣位。

 次に戦争決定のケースとしては以下のものが用いられる。①台湾征討(1874

年)②江華島事件(1875年)③壬午の乱(1882年)④甲申の乱(1884年)⑤日

清戦争(1894年)⑥義和団の乱(1900年)⑦日露戦争(1904年)⑧第1次大戦

(1914年)⑨シベリア出兵(1918年)⑩第1次山東出兵(1927年)⑪第2次山

東出兵(1928年)⑫満州事変(1931年)⑬日中戦争(1937年)⑭張鼓峯事件

(1938年)⑮ノモンハン事件(1939年)⑯太平洋戦争(1941年)。

 我々はこの様にして得られた内容分析データを「戦争決定のケース」x「ア

イテム・カテゴリーの総数」のマトリックスの形に変換し,多変量解析法を用

いて分析し,主要な共通因子を抽出する。次に,見い出された主要因子の構成

する多次元空間の中に,各戦争決定のケースを配置・分類する。分析手続を要

約すれぽ,次のとおりである。

 (1)戦争決定の諸側面を表わすアイテム・カテゴリーを設定する。

 ② 分類すべき過去の戦争決定のケースをとりあげ,(i)で作成したアイテム

  ・カテゴリーに対する反応表を作る。

 (3)作成された反応表をもとに,林式数量化理論第皿類による分析を行な

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一橋研究第25号 い,戦争決定に関する主要因子を析出する。

(4)得られた共通因子により,戦争決定に関する政策決定の類型を作りあげ

 る。

(5)分析に用いた戦争決定のケースを,(4)で作った各類型に分類し,従来の

 諸研究の成果と比較することにより,得られた類型の分析概念としての有

 効性を判定する。                    (未完)

〔注〕

 本研究は一橋大学大学院の細谷ゼミにおける討論のなかから生み出されたものであ

る。ここに指導教授細谷千博先生をはじめ,討論に参加された丸山,大隈,南,滝田の

各氏に感謝の意を表したい。ただし本稿の内容については,すべて共同執筆者がその責

任を負うものであることはいうまでもない。

(1) R. C. Snyder, H. W. Bruck, and B. Sapin (eds.), Foreign Policy Decision

 Making (Free Press, 1962), pp.26-33.

(2)J・C.チャールズワース編r現代政治分析皿』 (田中靖政・武者小路公秀編訳,岩

 波書店,1971年),125頁。

(3)最近,危機研究についての従来の知見を集大成した次の書物が出版された。その中

 でハーマジは,従来の危機研究の諸成果を(1)政策決定者に及ぼす心理的ストレスのモ

 デル, (indiVidual stress model),(2)組織反応モデル(organizational「esPonse

 model),(3)敵対的相互作用のモデル(hostile interaction model)の3つに要約して

 いる。 また巻末にある危機仮説は311個にのぼっている。 これなどは,危機研究がき

 わめて幅広い研究成果を納めつつあることの証拠であろう。しかし仮説のなかには研

 究者によって意味づけが異なるものがあり,今後の研究発展が必要とされる。

 C.F. Hermann, (ed.), lntemational Crises : lnsights from Behavioral Research

 (Free Press, !972).

(4) R.C.Snyder, G. D. Paige, “The United States Decision to Resist Agression in

 Korea: The Application of an Analytical Scheme,” in R. C. Snyder et al. op. cit.,

 pp.206-249.

(5)参照,野林健「国際危機と政策決定(1)」r一橋研究』23号(1972年7,月),17-33頁。

(6)ハーマンは危機決定と非危機決定とを以下の8通りに類型化している。しかし危機

 決定を除いては単なる図式以上の枠を超えてはいない。①crisis②innovative,③ine-

 rtial, @circumstancial, (S)reflexive, @delibrative,, @routinized @administrative.

 Hermann, op. cit., pp.14-15.

(7) J.N. Rosenau, “Pre-theories and Theories of Foreign Policy,” in R.B. Farrell,

 (ed.), APProaches to ComParative and lnternational Politics (Northwestern Uni-

 versity Press, 1966), pp.27-92.

(8) M.Brecher, B. Steinbery, J. Stein, “A Framework for Research on Foreign

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戦争決定のタイポロジー的研究(上)

 Policy Behavior,” fournal of Conflict Resolution, Vol.8 (1969), No.1, pp. 75-

 101.

(9) J. N. Rosenau, The Scientific Study of Foreign Poliay (Free Press, 1971), pp.

 307-338, 401-440.

(10) Chihiro Hosoya, “Twenty-five Years After Pearl Harbor : A New Look at Japan’s

 Decision for War,” in G. K. Goodman, (ed.), lntPerial foPan and Asia, Occa-

 sional Papers of the East Asian lnstitute, Columbia University (New York,1967)

 pp. 52-64.

(11}たとえば次の論文を参照。 Chihiro Hosoya,“Retrogression in JaPan’s Fo「eign

Policy Proeess,” in J. W. Morley (ed.), Ditemmas of Growth in Prewar JaPan

 (Princeton University Press,1971), pp.81-105.

(12}社会科学における因子分析をはじめとする多変量解析の利用法については,奥野忠

 一・久米均・芳賀敏郎・吉沢正r多変量解析法』, 日科技連出版社,1971年,あるい

 は, 「特集多変量解析」 『数理科学』,117号,1973年を参照。

Q3林式数量化理論は統計数理研究所の林知己夫氏らによって開発された一連の統計的

 手法の総称で,従来世論調査票の分析等に用いられてきている。本稿で適用する第皿

 類については,Michitoshi Takabatake,‘‘ApPlication of‘guantification Scaling’to

 Socio-Political Data,”mimeo.,RikkyQ University, Tokyo,1967.が明解である。

a¢ H.J. Eysenck, The Psychologpt of Politics (London, 1954),

aS A. W. Halpin, 〈{The Leadership Behavior and Combat Performance of Airplane

 Commander,”ノbπプπσ10f Abnormal and Social Psychology, Vol.49(1954), No・1,

 pp. 19-22.

⑯ 三隈二不二『新しいリーダーシップ』,ダイヤモンド社,1966年。

㈲ 内容分析のコーディングについては0.R. Holsti, Content Analysis for SoCial

 SCiences.and Humanities(Reading,1969), pp.94-126.に詳しい。

ag R. C. Benjamin, L. J. Edinger, C{Conditions for Military Control over Foreign

 Policy Decisions in Mhjor States:AHistorical Exploration,”ノburnal of Conflict

 Resolution, Vol.15 (1972), No.1, pp.5-31.

(筆者の住所=繋木叩諜欝慕驚!蓋 15-22)

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