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デジタルサイネージ コンソーシアム デジタルサイネージ 成功の X 箇条 デジタルサイネージコンソーシアム 東京都港区赤坂 3-13-3 みすじ 313 ビル 4 http://www.digital-signage.jp/ マーケティング・ラボ部会

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  • デジタルサイネージ コンソーシアム

    デジタルサイネージ 成功の X箇条

    デジタルサイネージコンソーシアム 東京都港区赤坂 3-13-3みすじ 313ビル 4階

    http://www.digital-signage.jp/

    マーケティング・ラボ部会 編

  • デジタルサイネージ 成功のX箇条

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  • デジタルサイネージ 成功のX箇条

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    まえがき

    デジタルサイネージに期待してください

    デジタルサイネージコンソーシアムが設立されて7年になります。その間、デジタルサイネージは大きく変化しました。 当時は、屋外のスタンドアロンな電子看板でした。今では大小のディスプレイが屋外・屋内を問わずどこにでも設置されています。そしてそれらはネットワークでつながっています。バラバラの点だったものが面的なシステムになっているのです。 その役割も、広告媒体としてだけでなく、より「役立つ」メディアとして活躍の範囲を広げています。電車の運行情報や電力の使用状況を提供したり、自治体が防災情報を流したりしています。 学校、病院でも情報の共有手段として利用されています。モールや駅など人が集まる空間から、個人商店や一般オフィスへと普及が進み、今や家の中にも進出しています。茶の間のフォトフレームやタブレットに情報を届けるサイネージは、ブロードバンド先進国の日本的なサービスといえるでしょう。 課題とされてきたコンテンツも充実してきました。ポップカルチャーの国、日本ならではの愉快なモデルも数多く、海外では見られないギャグ風の仕組みを持つサイネージも道行く人の足を止めています。特に近年、タッチパネルやカメラなどでユーザがサイネージに働きかけて情報を表示する「参加型」のシステムが目立つようになりました。 業界の展示会「デジタルサイネージジャパン」には、毎年、3日で13万人が来場をみせます。会場では、ディスプレイ、ネットワーク、コンテンツの3点セットからなる日本の強みと、急速な発展を目の当たりにします。日本のサイネージがその強みを活かして世界に展開していくことを期待させます。どうぞ足をお運びください。 そして 2020 年、東京オリンピックがやってきます。われわれコンソーシアムはこれに向け、さきごろ提言を発出しました。

    n 4K8K パブリックビューイングを数万箇所に設けること n 都内 1000 箇所に 3ヶ国語によるおもてなしサイネージを設けること n テレビ、スマホ・タブレットおよびデジタルサイネージが連動するマルチスクリーン環境を実現すること n このため、政府及び東京都は、都内のバス停など公共空間・施設における表示規制を緩和すること n パブリックビュー及びマルチスクリーンに対する多言語コンテンツ配信などの実証実験を行うこと

    これらを推進しつつ、関連業界の発展に努めてまいります。 進化を続けるデジタルサイネージ、ぜひご期待ください。

    2014 年 6 月

    デジタルサイネージコンソーシアム理事長 慶応義塾大学大学院教授

    中村伊知哉

  • デジタルサイネージ 成功のX箇条

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    目次

    まえがき   3  

    1.マーケティング・ラボ部会の活動   5  

    2.デジタルサイネージビジネスの市場動向   6  

    3.デジタルサイネージの成功要因を⾒見見いだす新しい分類軸   11  

    4.第3分野におけるデジタルサイネージビジネス   17  

    5.商業施設における、おもてなしサイネージ   24  

    6.近未来にやってくるオムニチャネル   29  

    7.デジタルサイネージ   成功の X箇条   33  

    あとがき   38  

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    1.マーケティング・ラボ部会の活動

    さまざまなデジタルサイネージを街で見かける機会が多くなってきた。しかし、人々にとってなくてはならないものになったデジタルサイネージがある反面、電源が落とされて画面が黒いままであったり、いつの間にか人知れず撤去されてしまったデジタルサイネージも存在する。その違いはどこにあるのだろう? デジタルサイネージの成功の結果はディスプレイに現れるものだが、ウラにある施策をディスプレイから見通すことは困難だ。デジタルサイネージコンソーシアム マーケティング・ラボ部会は、デジタルサイネージビジネスの実例をマーケティング視点から要件を調査・分析し、デジタルサイネージビジネスのあるべき姿をコンソーシアム内外にフィードバックすることを目的に設立された部会である。 ロケーション・オーナ、メディア・オーナ、広告会社、調査会社、メーカから参画する「研究員」が、その立場から、ときには立場を超えてビジネスの成功定義とその要因を探ため、以下のような活動をおこなっている。 n 経営視点からみたデジタルサイネージビジネスの成功要因と課題の整理

    国内外のデジタルサイネージと関連ビジネスを経営視点から理解し、デジタルサイネージ事業者が収益を上げるための成功要因と、さらなる成功を勝ち取るための今後の課題を整理する。

    n 売りに繋がるサイネージとマネタイズ要因の分析

    デジタルサイネージは広告、販促、情報提供、アンビエンス(場所演出)、市場調査、Greenなどのさまざまな役割を担っている。これらの役割がどのようなロケーションで活かされ、どのように商品の売上につながりっているのか、マネタイズの要因を見いだす。

    n デジタルサイネージの設置ロケーションの現地調査と、マーケティング・データの分析

    各メディアや研究員からの情報、ニュース・リリースをもとに調査対象とするデジタルサイネージを設定し、ロケーション・ハンティングをおこなうとともに、事業者インタビューをおこなう。複数の研究員が設置場所を訪問し、デジタルサイネージのインプレッションと視認者の反応、メディアとしての特性、特長、課題を調査する。さらに必要に応じ、デジタルサイネージビジネスに関連する調査データを調査会社から入手し、調査過程と結論を分析している。

    図 1-1.マーケティング・ラボ部会の活動のアウトライン n 活動レポートのリリース

    これまでの「デジタルサイネージ白書」発行の集稿・編集の経験をもとに、昨年度のマーケティング・ラボ部会の活動をレポートとして取りまとめたものが、本書「デジタルサイネージ 成功の X箇条」である。 デジタルサイネージに従事される皆様ならびに興味を持たれている、ひとりでも多くの皆様に広く読んでいただくために、シンプルなデータ媒体で発行することとした。

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    2.デジタルサイネージビジネスの市場動向

    新たなデジタルサイネージ市場の創造に向けて 今後もデジタルサイネージ市場において、技術革新や新たなソリューションやサービス提供は進展し、市場自体は日本の全体的な経済状況を踏まえながらも徐々に拡大すると考えられる。しかし、これまでのデジタルサイネージ市場の伸びは、予想外に低いと言わざるを得ない。果たして、このまま低成長を続けるだけなのか、あるいは、大きなビジネスやサービスのイノベーションが起こるのだろうか。 2010 年代のスタート早々、今後のデジタルサイネージ構造の変化を感じさせる動きがあった。 まず、DSA(Digital Signage Association:米国デジタルサイネージ協会)というデジタルサイネージ産業を代表する企業450 社超が集まるフォーラム団体が、Self-Service & Kiosk Association と統合して、Digital Screenmedia Association(デジタルスクリーンメディア協会:DSA)と名称を変更し 600 社の団体へと進化した。米国では屋外広告デジタルメディアのイメージが強いデジタルサイネージを、IPTV 等とのクロスメディア、モバイル等を利用した双方向性を重視し、多様なコンテンツ流通を行うスクリーンメディアとしてデジタルサイネージを再定義し始めている。 一方、屋外広告のデジタルメディア化を促進する代表的な団体であるOVAB (Out-of-home Video Advertising Bureau:屋外ビデオ広告ビューロー)も、同年に DPAA( Digital Place-based Advertising Association )と団体名を変更した。屋外ビデオ広告から、デジタルな場をベースとした広告というようにデジタルサイネージ概念を拡張したと想定できる。 デジタルサイネージの先進国である米国は、2010 年がひとつの転換期であり、ちょうど、この年に iPad が発売となっているのは象徴的である。2013 年が終わっても、まだまだ、デジタルサイネージ市場に大きな変化の波が来ている感覚は無いが、特に、ポスト PCとポスト携帯という流れと、さらに、4K/8K という超高精細パネルの普及だけは顕著な変化として見ることができる。 2013 年にオープンした東西の最新商業施設では、今後のデジタルサイネージの方向性を示す新たな取り組みがみられた。すなわち、デジタルサイネージが、スクリーンメディアとして IPTV やデジタルパブリッシング、モバイル等多様なコンテンツを配信し、視聴者と双方向なコミュニケーションを行うという方向だ。そのコンテンツは、当然、ショッピング・モールという場や、そこに来る視聴者・来場者のニーズにミートしたものである。まさに新 DSA や DPAA が目指しているコンセプトを体現した事例といえるだろう。

    今後も、スクリーンメディアの中に、従来のデジタルサイネージが提供した各種のプッシュ型情報提供も盛り込んだサービス、システムが普及するだろう。それとともに、日本は世界に冠たるブロードバンド大国、モバイルアプリケーション大国(ガラパゴスと揶揄されることもあるが)である。これらの優位性を生かした「新デジタルサイネージ」が普及する可能性がある。最も重要な点は、家庭内やパーソナルな「新デジタルサイネージ」である。従来のデジタルサイネージは、「屋外・店頭・公共空間・交通機関など、あらゆる場所で、ネットワークに接続したディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信するシステムを総称して『デジタルサイネージ』と呼ぶ」(DSCの定義)である。今後は、「あらゆる場所」として家庭や個人が注目されるだろう。基本的なデジタルサイネージのコンセプトは、やはり「その場所(デジタルな場)を重視」がベースで、「プッシュ型の情報提供(双方向コミュニケーションも含む)」が基本になる。 現在でもモバイルサービスの一環としてスマホ/タブレットへの広告ビジネスがブレークしている。例えば、今後、スーパーが御用聞きのために小型のサイネージ用タブレットを家庭に置き、特売品や、「あなただけのセールス」をプッシュ配信するサービスを提供するなど考えられないだろうか。その時の事業モデルは、スーパーがサイネージ端末を無料配布することもあるだろうし、広告アグリゲータや販促マーケティング事業者が、新たなサービスとセットにして各家庭に普及させるかもしれない。このようなきめ細かいサービスは、ブロードバンドやモバイルブロードバンド&アプリが世界で最も普及している日本では充分実現可能だ。 また、近年日本でも徐々に進みつつあるが、デジタルサイネージのディスプレイとユーザーのスマホ/タブレットの双方向サービスを行い、ユーザーの属性や ID(個人認証)を把握した上でのマーケティングが始まりつつある。店舗内でのモバイル決済による販売にスマホを使ってしまうサービスさえ始まっている。このようなターゲティングされたユーザーに対して効果的な販促が有効だと判断されれば、事業者は広告モデルのみではなく、自らの販売促進費を投入したデジタルサイネージの導入を進める可能性が広がる。

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    今後の日本におけるデジタルサイネージ市場は、従来からのデジタルサイネージ需要の継続発展とともに、上述したような、小売店などの企業がデジタルサイネージを効果的な販促として使ったり、家庭やパーソナルな利用を含む「新デジタルサイネージ」の需要を喚起したりすることがポイントになる。 今後のデジタルサイネージ市場規模推計 国内のデジタルサイネージ市場は今後どの程度成長していくのか。ここでは、前述した近年のデジタルサイネージの市場動向や、新しい方向性を踏まえ、今後のデジタルサイネージ市場規模を予測する。

    n デジタルサイネージの成長シナリオ 今後のデジタルサイネージの市場規模を予測する上で重要な要素としては、①小規模~中規模のデジタルサイネージの普及、②様々なロケーションにおける導入や利用シーンの拡大、③家庭・パーソナル市場(新たなデジタルサイネージ)の開拓、の 3つが挙げられる。これらは、表示端末のみならずシステム関連コストの低廉化、コンテンツを管理するソフトウエアやシステムに係る機能の高度化・信頼性の向上、デジタルサイネージのオンライン化トレンドとそれを支えるブロードバンド環境の進展、などを背景に急速に進むと考えられる。 ①については、既に多くの導入が見られる屋外広告用の大型ディスプレイや、駅・商業施設・大規模オフィスエリアなどにおけるビジョンに加え、今後は多くの小売店舗、娯楽施設、自治体等の公共機関・施設、医療施設、教育施設などにおいてデジタルサイネージがますます普及し、設置拠点(端末)数が飛躍的に伸びていくと考えられる。その結果、②に挙げたように、多種多様なロケーションにおいて、映像系広告ビジネスや販促・情報提供などをはじめ、あらゆる活用シーンの展開が期待される。また、③については、家庭内に普及するタブレット(iPad や Android OS 端末等)や連動する TV等の大画面が、家庭向けサイネージ・パーソナルサイネージの実現を加速させるとともに、新たなビジネスモデルやサービスモデルが創出されると考えられる。例えば、小売店舗が家庭向けタブレット端末を安価に提供し、商品情報やクーポンを配信したり、ユーザーが注文すると、アグリゲータに相当する事業者と小売店舗との間での取引が発生したりするといったモデルも考えられる。

    n 2018 年には 8 千億円市場 前述の要素を踏まえ、市場規模の予測を軸として推計を行った。市場規模推計の対象は、デジタルサイネージに係る「システム関連市場」及び「広告・コンテンツ関連市場」と大きく 2区分とした。 「システム関連市場」には、デジタルサイネージの表示端末や STB、タブレット端末などのハードウェア、それらを活用したデジタルサイネージシステムやネットワーク構築・ソリューション、デジタルサイネージ上でのコンテンツ配信に係る配信運営費用等を含む。また「広告・コンテンツ関連市場」には、デジタルサイネージの重要な役割のひとつである広告メディアとしての広告収入(広告掲載料)、企業等の販売促進費等に係るコンテンツ制作費等を含むものとした。

    図 2-1.市場規模予測の概要

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    市場規模予測の概要は、図のとおり、既存の市場規模の推計値と、将来の普及ポテンシャルとなる市場規模の予測値をもとに、各年の市場規模を算出した。

    デジタルサイネージ市場の市場規模は、下図のとおり、2013 年の 1,178 億円から、2018 年には 7,920 億円まで成長することが予想される。そのうち、システム関連市場が 2,532 億円(全体の 32%)、広告・コンテンツ関連市場が 5,387 億円(全体の 68%)となっている。

    図 2-2.デジタルサイネージ市場規模の予測(出典:三菱総合研究所推計にもとづく)

    図 2-3.デジタルサイネージ市場規模の構成比(出展:三菱総合研究所推計にもとづく)

    従来、表示端末やシステムの販売構築を主としたシステム関連市場がデジタルサイネージ市場を牽引してきたが、同市場は今後も拠点(端末)数の増加により堅調に拡大していくことが見込まれる。また、ネットワーク型サイネージが占める割合が高まり、ASP 型サービスの拡大(配信運営収入の増大)が期待される。さらに、政府が掲げるブロードバンドインフラ整備(固定系・モバイル系)の目標に向け、インターネット環境は着実に向上し、デジタルサイネージの新たな媒体となる家庭内のタブレット端末や大画面市場がシステム市場を牽引する。 一方、今後デジタルサイネージ市場の鍵を握るのは、これらのシステムの上で展開される広告・コンテンツ関連市場である。同市場は、2018 年時点で、デジタルサイネージ市場全体の 7割を占めるまでに成長すると予想される。デジタルサイネージのネットワーク化の進展により、広告アグリゲータ等の参入や、インターネット広告から派生した行動ターゲティング広告などがデジタルサイネージ上でも展開される等、屋外広告(アウトオブホーム:OOH)市場が今後さらに拡大し、デジタルサイネージはその重要なメディアとして役割を担うと予想される。 また、デジタルサイネージを活用した企業の販売促進も今後も着実に普及し、POP(店頭販促)広告の大きな割合を占めるであろう。加えて、前述した家庭向け・パーソナル系端末(タブレット端末、スマホ等)の普及により、既存のフリー

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    ペーパー、フリーマガジン市場がデジタルサイネージ上で拡大していくことが想定される。既に、タブレット端末向けのフリーマガジンのアプリケーションが多く提供されており、今後パーソナルサイネージの普及によってこうした紙媒体の広告市場の代替が進むであろう。さらに、スマホなどのモバイル端末との連動や、インタラクティブ(双方向コミュニケーション等)なデジタルサイネージの実現が、広告効果を高め、デジタルサイネージ上の広告・コンテンツビジネスに革新性をもたらすと考えられる。 日本では、デジタルサイネージがキーワードとして認知され始めてからまだ日は浅く、日本特有のデジタルサイネージ産業構造やビジネスモデルを背景に、その市場は狭義に捉えられがちである。しかしながら、その潜在性は大きく、今後のデジタルメディア時代において重要な役割を果たすことは間違いない。先行する米国において、デジタルサイネージ業界がまさに転換期を迎えるなど、今デジタルサイネージは大きなパラダイムシフトに中にある。日本のデジタルサイネージ市場においても、今後同様の流れを受ける蓋然性は高く、日本の優位性を活かした「新たなデジタルサイネージ」の幕開けが期待される。

    大型超高精細映像市場の今後 今後のデジタルサイネージシステムに変革をもたらす技術として 4K/8K に代表される大型超高精細映像がある。参考までに、これらのグローバルレベルでの経済効果を、当該技術の展開が期待される応用分野の既存市場(2011 年あるいは 2012 年の市場規模として将来的に代替可能性を有するポテンシャル市場)と、新たに開拓が期待される応用分野の推計市場(前提条件を置き、2020 年時点を予測した市場)に大別して算出するトライアルを行った。

    分類 時点 応用分野 市場規模 放送用機器 5,000 億円 内視鏡検査システム 2 兆 5,000 億円 設計・デザイン(CAD、CG) 2 兆円 セキュリティ(監視カメラ等) 8,300 億円

    既存市場 2010 年~ 2012 年現在

    小計 5 兆 8,300 億円 映画(スクリーン、プロジェクター) 1,900 億円 広告等(デジタルサイネージ、スタジアム) 4,295 億円 医療用モニター 1,500 億円 博物館・美術館 80 億円

    推計市場 2020 年時点

    小計 7,775 億円 経済効果 合計 6 兆 6,075 億円

    表 2-1.4K/8K の経済効果

    上記のうち、広告市場については、デジタルサイネージシステムとスタジアム向けディスプレイ市場を対象とした。駅ナカなどビジネスモデルが成立している拠点を中心に、60 型以上の大画面ディスプレイにおける高精細化の進展が予想される。特にテレビ向けディスプレイとの共用化やシステム機器の低廉化が進み、4K/8K コンテンツの整備と共に高精細映像の利用が加速するものと推察される。 このようなデジタルサイネージ市場については、富士キメラ総研の調査結果を元に、デジタルサイネージ向けディスプレイの60 型以上を対象に、2013 年から家庭向けテレビの場合と同程度の割合(コモディティ化が進むテレビ市場においては、メーカの高付加価値化戦略と 4K/8K 放送開始が相まって、2020 年時点で 60 型以上は 100%、50 型以上は約 50%が 4K8Kディスプレイになると想定した。また、60 型以上については、2015 年より 8K ディスプレイの投入が始まり、2020 年には60 型以上の約 70%は 8K ディスプレイになると仮定)で 4K/8K 化が進展すると想定した。そのうち 2015 年からは 8K化が進み、2020 年には 60 型以上の約 70%を占めるまでに成長すると想定した。 一方、オリンピックやワールドカップの開催、4K/8K 放送の開始を契機として、北米の収容人員数の多い主要なスタジアムを中心に高精細スクリーン需要の拡大が期待される。世界のスタジアム 11,832 拠点のうち北米 2,881 拠点を中心に、2020 年にかけて約 25%に 4K/8K スクリーンが導入されると想定した。そのうち、2015 年以降から 20%を 8K スクリーンが占めると仮定した。4Kスタジアム向けディスプレイのシステム単価は、4Kデジタルシネマ・システム単価の 2倍(1,700 万円×2=3,400 万円)、また 8Kスタジアム向けディスプレイのシステム単価は 4Kスクリーンの 1.5 倍に設定した。 以上により、2020 年におけるデジタルサイネージの 4Kシステム市場 1,540 億円、8K システム市場 2,700 億円、スタジアム向けディスプレイの 4K市場 40 億円、8K 市場 15 億円、計 4,295 億円と推計した。あくまで、一つの試算であり、先進国中心のグローバルレベルでの予測数値であるが、日本をはじめとしたデジタルサイネージの市場の成長と拡大を期待したい。

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    3.デジタルサイネージの成功要因を見いだす新しい分類軸

    デジタルサイネージはロケーションごとに設置目的、ビジネスモデル、システムおよび運営形態が異なる。これがテレビやラジオ、新聞や雑誌、Web 媒体と大きく異なる点であり、成功要因の分析を複雑にしている。デジタルサイネージの成功を見いだすために、われわれはまず、デジタルサイネージのビジネスを俯瞰するための新しい分類軸が必要だと考えた。 これまで、デジタルサイネージはその設置ロケーションと設置目的で分類されてきた。設置ロケーションは交通・大規模商業施設・滞留場所・小売り店舗・ロードサイドなどの 5つに分類され、設置目的は広告・販促・行動誘導/情報提供・アンビエンス(場所演出)の 4つに分類されるといわれてきた。

    ロケーション調達コスト別の分類

    しかしながら、設置ロケーションや設置目的を軸にした分類だけでは、デジタルサイネージの成功要因を見いだすことは難しい。そのようななか、富士キメラ総研はデジタルサイネージのビジネスの成否の大きな要素はコストであると捉え、その中でも大きな比率を占める「ロケーション調達コスト」に注目した分類軸を、「デジタルサイネージ市場 総調査 2013」において定義した。それは、デジタルサイネージをロケーションの調達方法によって次の 3つのタイプに分類したものだ。 タイプ 1 メディア・オーナとロケーション・オーナが同じであり調達費が無料 タイプ 2 メディア・オーナがロケーション・オーナと提携してロケーションを低廉に調達 タイプ 3 メディア・オーナがロケーション・オーナからロケーションを調達 マーケティング・ラボ部会によるタイプ 4 の追加

    マーケティング・ラボ部会は、富士キメラ総研が定義した、この 3つのタイプ別分類に着目し、彼らとのディスカッションを実施した結果、もうひとつの タイプ 4 ロケーション・オーナがメディア・オーナにメディア運営を委託 があると結論し、これに既存のデジタルサイネージ・メディアを当てはめてみることにした。

    表3-1.4 つのロケーションの調達タイプと目的範囲

    これら4つのタイプについて簡単に説明する。

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    n タイプ1

    このタイプのデジタルサイネージは、設置ロケーションを同じ企業もしくはグループ内の企業が提供していると考えられる。したがって収益の分配も企業グループ内で実施されている。 専用の高性能な機材を 1,000 面オーダで大規模に展開されている。また、デジタルサイネージとともに、アナログ広告など他の従来媒体を含めて全体で収益を上げられていることも特長だ。 事例としては、大都市圏の鉄道や空港、大規模な小売施設のデジタルサイネージがこれに当該する。当初は納入業者からの広告に依存することが多かったが、面数が多く、サーキュレーションが稼げる媒体として現在は知名度が非常に高くなり、広告集稿力が高い媒体となった。日本でもっとも成功したデジタルサイネージビジネスのひとつだと考えられる。

    n タイプ2

    このタイプのデジタルサイネージは、ロケーション・オーナとメディア・オーナが共同運営していることが多い。そのため、メディア・オーナはロケーションを無料または低廉なコストで調達することが可能だ。この場合も、収益は共同運営される企業体のなかで分配される。このタイプでは、メディア・オーナが開発もしくは調達した、絞られた機能をもつシンプルな機材を、ロケーション・オーナが持つ設置場所に、需要に応じてフレキシブルに展開している。 事例としては家電量販店や、バスをはじめとした中小規模交通機関に展開されているデジタルサイネージがこれに当該すると考えられる。このメディアの広告は納入業者に依存するものが多数を占めているが、家電量販店舗などでは、取扱品目が増えたり、商品の入れ替えが頻繁であるため、広告の種類も増加していると考えられる。

    n タイプ3

    このタイプのデジタルサイネージでは、メディア・オーナがロケーション・オーナから設置場所を調達している。したがって、ロケーション・オーナは収益ビジネスに直接関与しない。メディア・オーナはロケーションをどのようにして調達するか、どのようにシステムや運営コストを抑えるかが安定経営の鍵となるが、収益はメディア・オーナのものとなる。 事例としては地方自治体、自動車教習所、教育機関など多岐に渡る。ロケーションの性質上、視認者のキャラクターやシチュエーションを絞り込むことができるので、適合する広告が明確で集稿しやすいことが特長だ。

    n タイプ4

    このタイプのデジタルサイネージは、ロケーション・オーナがメディア・オーナからメディアを購入する形態だ。したがって、メディア・オーナはコストを負担することはなくロケーションを調達できることになる。また、システムや運営費用もロケーション・オーナが負担する。 たとえば、医療機関において展開されているデジタルサイネージはこのタイプに当てはまる。タイプ 3と同様に、このタイプのデジタルサイネージは、ロケーションとその場所の視認者のキャラクターやシチュエーションを絞り込むことができる。しかし、タイプ 3とは異なり、広告放映でビジネスを運営しているのではなく、視認者に知識や情報をコンテンツとして提供・配信して、ロケーションやロケーション・オーナの事業の価値を伝えることで収益を得ている。そのため、広告収益をあてにせず運営できることが特長である。特にサーキュレーションの高いロケーションにおいては、枠に上限を設けた上で、広告を集稿/放映されることもあるようだ。

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    デジタルサイネージのコスト構造

    デジタルサイネージに必要なコストはロケーションだけではない。デジタルサイネージの各事業者はデジタルサイネージの設備投資や運用費を抑制するために、いろいろな施策をおこなっている。 最初にデジタルサイネージのコスト構造について下記に簡単に示す。この図をもとに、各タイプ別の施策の傾向を説明する。

    図 3-1.デジタルサイネージのコスト構造

    n タイプ1

    このタイプのデジタルサイネージは、ビジネス規模が大きく、一企業がすべての役割を担うことは難しい。既に説明したロケーション・コストの相殺の他に、クラウドサービスを活用することにより、設備投資を抑制する事例も多くなってきた。また、同時に広告枠管理や入稿システムの電子化をおこうことで集稿効率を上げ、集稿と収益の安定向上を図っている。

    図 3-2.タイプ 1におけるコスト抑制策

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    n タイプ2

    このタイプのデジタルサイネージは、メディア・オーナはロケーション・オーナから低廉にロケーションを調達することでコストを抑制すると同時に、配信会社から機能が絞られた配信機材を調達することで、中間コストを抑制するなどの方策をとっている。機材がシンプルなので、設置も撤去も簡単であることも、コスト抑制につながっている。

    図 2-3.タイプ 2におけるコスト抑制策

    n タイプ3

    このタイプのデジタルサイネージでは、メディア・オーナはできうる限りのコストカットが要求される。そのため、メディア・オーナが媒体営業、配信運営と機材の設置、システム構築を一手に担うことで、コストを抑制している場合が多い。

    図 3-4.タイプ3におけるコスト抑制策

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    n タイプ4

    さきに述べたように、このタイプのデジタルサイネージはロケーション・コストがゼロである。かつ、タイプ 3 と同様に、メディア・オーナが媒体運営、配信運営、機器設置、システム構築をすべて1社でおこなうことで、コストを抑制している。広告は付加的メニューとしているので、広告営業コストもほとんどない。これら 3つの方策でコストを抑制している。

    図 3-5.タイプ 4におけるコスト抑制策

    まとめ

    ここで説明した内容を下記のような表でまとめてみた。

    表 3-2.まとめ

    企業協業によるロケーション調達コストの相殺、クラウドの活用による設備投資の抑制、業務範囲拡大による中間コスト抑制、サービスを絞り込むことによる機材費用の抑制、空き枠管理や入稿のシステム化などによる営業活動費の削減など、ビジネスの規模とビジネスにおける立場によって取るべきコスト抑制の施策はさまざまである。 これらの施策のどれが必要か、どれが可能かは、事案によって実際は異なるが、デジタルサイネージの設置目的、事業目的を明確にした上で、コスト削減の施策の可能性と効果を検討することは必要不可欠だ。

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    しかし同時にデジタルサイネージで一番大切なことは、ロケーションとそこを行き交う人々の属性に応じ、的確な情報や情感を新鮮な状態で人々に伝えることだ。それが達成できなくなるようなコスト削減は、意味を持たないことを忘れてはいけない。

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    4.第3分野におけるデジタルサイネージビジネス

    第3分野のデジタルサイネージとは?

    交通や大型商業施設のビジネス市場は既に成熟しつつあるなか、デジタルサイネージの今後の市場拡大は、小規模小売店舗への浸透に掛かっている。ご存じのように小規模な小売店は交通や大型商業施設に比べて、広告販売が困難な場所だ。しかし自社媒体の1つとしてデジタルサイネージを導入することで、リアルな販売現場で顧客にタイムリーなインフォメーションを直接提供することができるなどの可能性がある分野であるともいえる。

    ここでは、第1分野である交通、第2分野である大型商業施設との比較をもとに、第3分野としての小規模小売店舗のデジタルサイネージビジネスの位置づけと特長について理解を深めていきたい。

    前提として、ここでは上記のようなフレームでデジタルサイネージの参入分野を3つに分類する。下記の図は、‘縦軸をお客様との接触する時間や機会などのサーキュレーションとし、横軸を広告と非広告の機能であらわしたものだ。

    図 4-1.デジタルサイネージのおもな3分野 n 第 1 分野:交通

    右側上部に位置する第1分野は交通分野である。交通は、もともと媒体と人との接触機会が多い場所であり、従来から鉄道、バス、空港、高速道路のサービスエリアなどの場所で紙媒体を中心とした広告が展開されてきた。

    デジタル配信技術により、複数箇所で放映・表示されるコンテンツを瞬時に同時に差し替えることができるなどのメリットが徐々に認められ、首都圏を中心とした都市部の電車内、駅、駅周辺において、デジタルサイネージによる広告媒体の浸透が急速に進み、今ではすっかり当たり前のものになった。特に電車内のデジタルサイネージは 2画面を使い片方で交通情報、もう一方で広告宣伝を放映することで、乗客の視認率を高めた結果、代表的なサイネージの成功事例となった。最近では、駅ターミナルのビルの柱や、駅ホーム内の広告もデジタル化が進みつつある。

    交通広告分野では広告ビジネスモデル、つまり導入・運用に必要な経費を広告収入でまかなうビジネスモデルが、いちはやく確立され、媒体を構成するハード、ソフト、施工、保守、運用そしてコンテンツを提供する企業が幅広くビジネスに参加している。最近では災害緊急情報などの公共性の高いコンテンツを放映・配信する試みも始まった。デジタルによる情報配信・放映機能を生かした使い方の一例だ。

    交通広告分野のビジネスに求められる成果は、媒体社としては投資に対する広告売上げに表される事業採算性だと考える。また、広告主としての成果は、どれだけの人が交通広告に接触したかという、数量的な効果であらわされる。

    n 第 2 分野:大型商業施設

    図の中央に位置する第2分野は大型商業施設だ。コンビニエンス、スーパー、ショッピング・モール、百貨店などの大型商業施設は年間を通じた集客力があるため、交通広告分野に次ぐ接触機会を持っている。

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    食品や日用品を中心に販売されている施設店舗は、従来から紙媒体の広告を活用されてきたが近年、大型のショッピング・モールを中心にデジタルサイネージやモバイルなどの新しい媒体を試行的に取り入れ始めている。これは従来のように広告や販売促進のためだけではなく、企業イメージやライフスタイルの提案、施設内店舗や周辺交通案内、雰囲気づくりなどの「おもてなし」の役割を担わっている。

    競合施設や店舗との差別化として、施設内やその周辺において、映像で演出されたデジタル動画を放映することで、ショッピングする楽しさや売れ筋商品を顧客に伝わりやすく表現するための、手段・道具としてデジタルサイネージの利用が進んでいる。また最近では、お客様から家族や友人へSNSやスマホを通じた口コミで商品やお得な情報を共有する機会が増えてきた。広告のようにCM動画を放映するという形でなく、お客様に「いま」伝えたい情報を、演出とともに「いま」流すことが、購買意欲のアップにつながるので、売場の商品プロモーションと連動したコンテンツをお客様に届ける必要がある。いつも同じコンテンツを流しっぱなしでは、お客様はすぐに飽きてしまう。お客様に情報を的確にキャッチいただくために、コンテンツを陳腐化させないよう、情報コンテンツを維持・更新・管理・配信することが非常に重要だ。

    流通業界はお客様への情報の伝え方を進化させるため、スマホへの連動など新技術を取り入れて、オムニチャネルなどリアルな場所と WEBが融合した新しい形態の売り場を形成しようとしている。ビーコンなどをはじめとした各種のセンサー技術を施設や店舗に導入することで、お客様に対する新たなサービスと市場が形成され、ビジネスに参入する企業分野も広がってくると推測する。

    第 2分野に求められる成果は、採算性の向上と合理化、おもてなしによる他施設・店舗との差別化だと考える。

    n 第3分野:小規模小売店舗および企業オフィス

    今回の話の中心である第 3分野は図の左下に位置し、広告がないインフォメーションの分野だ。

    小規模な小売店舗および企業オフィスにおける接触機会は、交通や商業大型施設に比べると少なく、広告も販売しにくい場所なので、デジタルサイネージは、自社のお客様や従業員向けの媒体として導入されている。つまり第3分野では、リアルな場所におけるインフォメーションの提供を目的にデジタルサイネージを導入することになる。来店するお客様に対して、いかに伝えたい情報を伝えるかを工夫が必要で、結果的にデジタル媒体のコンテンツ制作、運用が重視される分野だ。

    この分野への参入ハードルは比較的低いため多くの企業の参入が期待される。市場としてはニッチだが導入先の数は多く、業種範囲も利用範囲も広く、導入場所も多数存在する。2020年のオリンピックに向けて、もっとも多くの導入が期待されている分野だと考える。年々、機材の低コスト化がすすみ、通信機能も進化し、コンテンツの制作もしやすくなるなど、ビジネス環境は整いつつある。コンテンツ供給を武器に参入する企業も増加してくるのではないだろうか。震災以降の電源供給も安定化して、今後の差別化に、お客様に伝えたい情報を表現して伝える工夫、多言語案内なども含めて、ノウハウがさらに進んでくるものと推測される。

    n 第4分野:イベントおよびプロモーション

    第1分野から第3分野までの常設されているデジタルサイネージの周辺に、短期のイベント媒体が存在している。これを第4の分野として位置づけた。

    交通、大規模商業施設、小規模小売店舗の各分野におけるプロモーションやイベントにおいて、デジタルサイネージを短期に展開してイベントを盛り上げたり、リアルな場所をにぎわい演出するための目的を持っている。この分野ではデジタルサイネージが、いかにイベントへの寄与をしているかが重要だ。つまり、この分野では、デジタルサイネージは、イベント目的にマッチした情報提供や演出することがおもな役割になる。採算も短期で計算され、結果的に何が得られたかが重要となる。これまでにない技術や表現方法によって、エンターテイメント的な楽しさを演出したり、斬新さをプロモーションするなどの工夫が、この分野の成果となる。たとえば、3Dプロジェクションマッッピングによる建物をまるごと利用した映像表現や、AR動画による空間演出など、革新的な技術を採用して新しさを訴求するような事例も増加している。

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    第3分野のデジタルサイネージにおける戦い方

    導入目的を設定することの重要性

    先に述べたように、第3分野は接触機会が少なく、広告ビジネスとして導入費用を稼ぐモデルになりにくい分野であるため、導入にあたってはロケーションを訪れるお客様の視点と、導入目的の設定が特に重要になる。

    限られた予算とシステムを使って、自社媒体としていかに伝えたい情報を、どのように伝えるか、どのように演出表現するかに注力することが必要だ。導入の場所、位置、コンテンツ、ディスプレイの大きさ、コンテンツの見せ方、見え方など、少ない費用のなかで、効果を出す演出も必要である。実際の導入先によって設置ロケーションが異なるため、個々の対応、カスタマイズが必要な場合も出てくる。

    映像コンテンツの陳腐化は、いつも同じデジタルサイネージを見ている通行客などに影響しやすい。うっかりすると「誰も見なくなる」、「関心がなくなる」という、ダメなデジタルサイネージになってしまう。ポスターを貼ってなかった場所にサイネージを導入したからといって、お客様に何かが伝わるわけではない。従来のように、メーカが作成した広告目的のポスターがあった場合と、なかった場合の効果を比較するようなデータが存在しないことも多く、成果を明確化することも難しい。

    デジタルサイネージは、それを設置する場所の演出も含め、お客様の視点で考えることが大切だ。サイネージを用いて情報のみならず、情感を伝達することで、価値を向上させることが重要だ。お客様にデジタルサイネージを採用してもらうためには、コンテンツの制作・維持・管理とそのコスト管理を競合と差別化することも大切だ。

    フィットネスクラブをよみがえらせたサイネージ

    これまで小規模な小売店舗は、意識して媒体を設置してなかったニッチな分野だ。それゆえに実は機材も含めてビジネスチャンスは多く存在する。この分野で成長、拡大化している2社の取り組みとエッセンスをもとに、第3分野での戦い方を整理してみる。 まず、はじめに株式会社ティップネス 渋谷店様における事例について、その導入と企画運営に携われている、株式会社インセクトの川村社長のインタビューの内容を紹介する。フィットネスクラブのデジタルサイネージ導入市場は始まったばかりの分野で、交通広告分野や大型商業施設分野と違って成功事例やビジネス情報が少ない。この分野への参入を検討している企業の皆様のお役にたてればと考える。

    n フィットネスクラブへのデジタルサイネージ導入の経緯

    フィットネスブームから10年以上経過したいま、総合フィットネスクラブは店舗サービスの差別化が難しくなり、特に都心では店舗のコモディティ化が進み、顧客の維持が大きな課題となっている。

    そこで株式会社ティップネス様は、リニューアル新店舗ブランド「ティップクロス東京」において、最新のフィットネスプログラムはもちろんのこと、新たなチャレンジとして『価値の投影』というコンセプトを再定義し、渋谷店にて会員へのサービスのためにデジタルサイネージを導入した。リアルなフィットネスの現場での楽しさを訴求した結果、これが評判を呼び、目的の会員維持に貢献し、現在は新宿、池袋と、店舗導入を拡大している。

    n ハード+ソフト+情熱がイノベーションを生み出す 目に見える秘訣は、ハードの導入、コンテンツの企画・制作、運営をトータルでソリューションして提供し、場所に応じたコンテンツ、機材の選択、コンテンツ運用を実施されていることだ。このような総合的なプロディースがデジタルサイネージの陳腐化を防止する。

    システムパッケージを生み出し差別化するには、コンテンツへの情熱がかかせない。当然だが、デジタルサイネージを導入すれば、利用者を維持できるというほど話は単純ではない。

    コンテンツに工夫をすることで評判を生み、デジタルサイネージが利用者の維持に貢献する武器となる。外から見えない工夫こそが差別化になる。一般的に外から見える工夫は模倣も可能だが、外から見えない工夫こそが大きな差別化の要素だ。

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    n この事例における 3 つの差別化ポイント

    ① 価値を投影する 利用者から見えるもの、見えないもの両方について、フィットネスクラブの価値を棚卸しし、それを可視化し、利用者に向けのサービス情報を発信したり、参加型コンテンツや、クールな海外の映像を放映する。基本的な導入目的のコンセプトは、ここにある。

    ② あらゆるスクリーンを利用する 利用者の導線にあわせて設置する。また機材は場所に応じて選択・設計する。

    ③ トレーニングのモチベーションを高める 施設やトレーニングメニューの紹介などのインフォメーションともに、トレーニングのモチベーションを高めるためのエモーショナルガイダンス(情緒的な導き)という2つのカテゴリーのコンテンツを利用者に提供する。ネットワークを駆使してコンテンツをリアルタイム更新し、フィットネスを Coolに楽しめることが特長だ。

    日々のコンテンツ更新、ネットでの配信管理、それぞれの場所にふさわしいコンテンツを放映するなど、サイネージを使って、フィットネスクラブの価値をあげる工夫をおこなっている。コンセプトにある『価値の投影』とは、顧客が楽しむサービスの価値をあげることだ。そのための道具としてサイネージを用いる。顧客の視点に立って、この施設のテーマに沿った最大価値をあげるために、サイネージを導入することが大切だ。

    この事案には、インセクトマイクロエージェンシーの経験にもとづいた、細かい工夫やノウハウ、こだわりがと情熱が投入されている。情熱は隠れた大きな差別化要素であり、これは模倣できない部分だと考える。

    写真 4-1.バイクエクササイズにおける映像表現

    写真 4-2.ティップネス渋谷店の外観、内部とコンテンツの例

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    病院待合室を活性化するサイネージ

    富士キメラ総研様の調査によると、医療機関にはすでに約5千台のデジタルサイネージが導入されており、可能性を含んだ市場規模は約10万箇所ともいわれる。病院向けのディスプレイ・ビジネスは院内テレビの導入をはじめとして長い歴史があるが、患者さんやスタッフへの医療に関する情報の伝達という観点でみると、まだこれからの市場だ。

    ここでは、メディアコンテンツファクトリー様による事例を紹介する。

    n 病院へのデジタルサイネージ導入の経緯

    メディアコンテンツファクトリー様は、フラットディスプレイパネルが 1台 100万円という高額であった 1998年から、医療情報サービスをから展開されてきた。

    医療の分野は巨大な産業で国の保険制度に左右される分野だ。日本の医療機関の種類や規模、情報化の速度にはバラツキがあり、デジタルサイネージの浸透が急激に普及していく市場ではない。しかしながら、健康志向や医療制度改革の進展により、患者さんに対する情報発信の重要性と需要は、今後高まっていくものと推測される。また人々の健康に対する意識と検診率の向上、生活習慣病予備軍への保健指導など、いかに病気にさせないか、重症化を未然に防ぐかなど、患者自身の病気の知識を高めるための情報を、デジタルサイネージから伝えることが期待されている。

    このような時代の変化に対し、メディアコンテンツファクトリーは、これまでに 1,000施設以上の展開運用実績を持ち、さらに大型病院への展開、富裕層向けマンションへビジネスを展開し、患者向けのみならず、医療従事者向けにも、サイネージを用いた医療情報コンテンツのトータルサービスを提供している。

    n ハード+ソフト+情熱がイノベーションを生み出す 医療機関におけるサイネージの導入目的とは何だろう。また運用はどういう形態で行われているのだろうか。

    サイネージでの導入利用目的で最も多いのは、来院患者に対する医療機関の広報であり、ほとんどの場合、医療機関が外部の業者に委託されている。単純に外からみえるものとしては、システム、医療コンテンツ、運用サポートまでを含んだ、トータルパッケージサービスの提供だ。この分野のコンテンツには医療分野の知識と、やはり情熱が必要であり、デジタルサイネージパネルだけあればビジネスに簡単に参入できるというものではない。

    n この事例における 3 つの差別化ポイント

    差別化として3つのポイントを説明する。

    ① 患者が待つ場所、つまり接触機会がもっとも多い場所を選定して設置する 患者さんは医療相談をすることをためらいがちだ。そのため、各医療機関は、自身が得意な領域や、検査治療を患者さんに知ってもらうことで、きっかけをつくり、患者さんがお医者さんへ相談しやすくする取り組みをおこなっている。待合室など、患者さんがもっとも見やすい場所で、これらの情報を得られるように、設置場所を工夫している。

    写真 4-3.医療機関に設置されているデジタルサイネージ

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    図 4-2.医療機関におけるデジタルサイネージ導入の効果とコンテンツの例

    ② 多種のロジカルなコンテンツを準備し、医療に関するわかりやすい説明を患者さんに実施する メディアコンテンツファクトリーは、経験とノウハウにより、あらかじめ医療機関向けのさまざまなコンテンツを準備している。その上でコンテンツのカスタマイズも可能だ。

    よくあることだが、来院した患者さん自身は、医療機関でどんな検査やどんな治療ができるのか、あまりよく知らない。患者さんが相談しやすい環境を提供するためには、患者さんへ伝えるためのわかりやすく、しかも医療的なコンテンツが必要だ。病気に関する相談をためらっておられた患者さんや家族が、デジタルサイネージの映像を見て、病気とその症状に関する情報を事前に得ることで、お医者さまへ相談件数が 20%から 50%増加したという結果もある。

    医療機関としての新規訪問で最も多いのが、家族知人からの口コミだ。待合室で正しい情報を患者さんに知っていただくことが、口コミの増加に一役を買っている。アンケートから、待会室のデジタルサイネージを見て気になった症状見た患者さんの 85%が親族や友人に受診をすすめ、新たに受診した患者さんの 50%が家族知人からすすめられて受診したという例もあることがわかった。

    患者さんが、待合室で診療を待っているあいだに、病気の医療の知識をつけてほしいという医療機関側からのニーズにも合致している。医療知識を持った制作者がコンテンツを制作することが、この分野における大きな差別化ポイントとなっている。

    ③ システムの構築、運用、コンテンツ制作までトータルで提供する このコンテンツの運用、制作は IPネットワーク上でおこなわれている。病院からの情報をもとに、各種の科目ごとコンテンツを組み合わせ、要望に応じたオリジナルコンテンツの制作もおこなっている。サイネージでの運用システムはオリジナルな仕組みのソフトで実施、工程管理、業務管理、保守管理体制も整っておりハード、ソフト、コンテンツのトータル

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    なビジネスモデルを構築されている。さらに宣伝広告を入れることで、運用コストの一部が相殺される。広告販売も自社で手がけ、経費をかけずに展開している。

    図 4-3.デジタルサイネージ導入による検査実施件数の増加

    医療施設や医療機関の価値をあげるサイネージ活用は、今後さらなる拡大発展が期待される。サイネージを導入する目的が、顧客の視点に立って、この施設のテーマに沿ったものであるならば、医療機関の価値を高めることができる。医療知識や患者への情報を配信していくという使命感が、隠れた大きな差別化要素であり、他の事業者が模倣できない部分だ。

    まとめ

    今回の2つの事例から、接触機会が少なく広告ビジネスモデルを適用することが難しい第3分野おいて、デジタルサイネージを導入する際に失敗しないための秘訣は

    ① ビジネスへの情熱と知識 ② 導入企業の価値を上げるという目的の設定と、目的のためのコンテンツ制作 ③ コストを意識したハード、ソフト、運用のしくみづくり

    の3点だと結論できる。①の「ビジネスへの情熱と知識」は外からは見えず、簡単には模倣できるものではない。しかし、②と③は必ず実施すべきことだ。ビジネスへの情熱や知識をストーリー化し、コンテンツに反映させ、上手に伝えること。つまり、コンテンツのストーリー構築が重要だ。 デジタルサイネージは、伝えるべき情報を、伝えるべきターゲットに、的確に伝えるための、新しい手段だ。導入企業と利用者のためのコンテンツの制作と、システムの維持管理を徹底することが、他社との差別化を生み出す。失敗しないためにも、この3点を是非チェックしてほしい。

    すでにデジタルサイネージを導入している場合は、顧客の価値アップに貢献するための目的にデジタルサイネージを活用しているか、見直してみよう。そのデジタルサイネージは導入企業の価値をあげているか。コンテンツは変化に対応して、常に新鮮であるために維持運用管理のしくみが整っているか。

    技術革新は進み、デジタル化はとどまることを知らない。しかし、デジタルサイネージを利用するのは人間であり、リアルな場所でコンテンツを放映するのであるがゆえに、導入価値をアップするためのストーリーとコンセプトが、技術革新の導入とともに欠かせない。第3分野は市場も広く、今後も発展する市場だ。市場は常に変化するが、変化はチャンスでもある。デジタルサイネージに対する思いと情熱をこめて、ビジネス市場の発展に期待したい。

    取材にご協力いただいた、インセクトマイクロエージェンシー、メディアコンテンツファクトリーの両社に感謝する。

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    5.商業施設における、おもてなしサイネージ

    グランフロント大阪が好調だ。昨年 4 月 26 日の開業から 1 年間の来場者数は、目標の 5 割増の 5,300 万人で、東京スカイツリータウンの 5,080 万人を上回った。売上も目標を 1 割上回っている。商業施設ができると、デジタルサイネージが導入されるのは一般的だが、ここのサイネージ運用は斬新で、注目すべきだ。

    グランフロント大阪の画期的デジタルサイネージ

    商業施設が新しく出来たときに、来場者が一番知りたいと思うのは、「どこに何があるか」だろう。施設案内の看板の前に多くの人が集まっている光景が見受けられる。 案内のパンフレットを手に持って歩く人も多い。グランフロント大阪(写真 5-1)では、これらを一部デジタル化した。デジタルな案内板は2種類あり、ひとつは 50インチと 47インチの単方向型のデジタルサイネージで 29台ある。施設内の情報発信や広告、災害時の緊急配信、イベント時のライブ利用を想定した。もうひとつは、42インチの双方向型デジタルサイネージで、全部で 36台ある。これは、「コンパスタッチ」と呼ばれるもので、店舗やイベントなど様々な情報を検索・閲覧することができるタッチパネル式のデジタルサイネージだ。2点マルチタッチ機能を備え、NFCリーダーライターも配備している。

    写真 5-1.グランフロント大阪

    ためしに、SHOPの検索をしてみた。スマホのようにフリップやドラッグ操作で上下にスクロールさせることが出来た。お店ごとに「いいね」ボタンがあり、数字も見える。スマホを模した要素が多く、多くの人が直感的に操作していた(写真 5-2)。

    写真 5-2 写真 5-3 写真 5-4

    フロアマップを見ていると、時折「平日昼間なのに関わらず、混んでいるね!一見さん多い?」とか「憧れの高級家具、ゆっくり見せて頂くことが出来ました」というフキダシが出てきた。これは「まちツイ」という、専用のスマホアプリ機能の一つだ。来場者が今の気持ちやレビューなどを、スマホを使ってお店や施設ごとに投稿することができるものだ。来場者が情報を見たり引き出したりするだけではなく、スマホからサイネージへ送る流れを作ったのは画期的だろう。 担当者によると、この専用アプリである「コンパスアプリ」のダウンロード数は、今年5月6日時点で、約 35,000件にもなっているという。お気に入り店舗をブックマークすると、その店舗の新着情報がプッシュ通知で受け取れる機能も追加して、ユーザーのアクティブ率向上を図っているとのことだ。アプリとの連携は、デジタルサイネージの前を去っても情報を持って歩けるし、グランフロントにいなくても情報を知るすべになるだろう。

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    昨年冬季からは新たな試み「かわツイ」(=かわいい女の子のツイート)を始めている。これは、街中で女性にグランフロント大阪のオススメスポットなどについてインタビューと撮影を行い、その内容を、公式アカウントより「まちツイ」へ投稿するというものだ。(写真 5-4)来場者は、かわツイの女性の写真とコメントをサイネージでも見ることが出来る。それがきっかけで、そのオススメスポットへ足を運ぶキッカケになった者もいるに違いない。担当者は「アプリから投稿されたつぶやきを、アプリユーザー以外でも現地のサイネージで閲覧できて、それが新しい行動促進につながる、そういったサービスの利用の仕方も、今後積極的に訴求していきたい」としている。

    双方向型なサイネージ「コンパスタッチ」の利用者は、今年 3月の 1ヶ月間では、約 750,000アクションにもなったそうだ。(WEBでいうところのページビューに相当)利用目的は店舗検索・イベント検索が大多数を占めるようだが、「みんなの声(まちツイ)」の閲覧数も増えてきているそうだ。「かわツイ」などの新機能の影響もあると思われる。

    来場者は、グランフロント大阪の会員カードなどのICカードをデジタルサイネージにかざすだけで登録することが出来る。いわばサイネージが窓口になっている。登録したユーザー数は約 28,000名もいるそうだ。(5/6時点)ユニークなのは、このサイネージがユーザー間や施設の従業員とのコミュニケーション機能も備えている点だ。これは、クローズドなソーシャルネットワーキング機能と言えよう。アプリダウンロード者を加えると、なんと 6万人以上がこのSNSメンバーということになる。サイネージのコンテンツを見たり、施設で買い物をすると、その履歴から興味・関心の似た利用者を「まちトモ」として推薦してくれる機能まである。つまり、このサービスでは、割引クーポンのプッシュ通知など販促的なものは副次的で、あくまで来場者同士、あるいは店舗従業員と交流してもらうことを促す仕組みにもしてあるということだ。本質的な狙いは、街そのものを楽しんでもらって、リピートするファン作りにあるようだ。当面の課題はコメントの投稿などユーザーのアクティブな利用の定着にあるという。先端的システムの利用者が、今後定着すれば、他の施設とは違うグランフロント大阪の魅力を上げることになるに違いない。

    店頭、店内で多種多様に使われているデジタルサイネージ

    サイネージを見つける視点で店舗をまわると、大変多く設置されてあることに気付いた。関西初出店の ZARA HOME は、巨大な、マルチディスプレイを店頭に出していた。その他、順に列挙すると、THE KISS Anniversary、4℃BRIDAL、RESTIR DIGITAL、Samsonite BLACK LABELなどだ。(写真 5-5, 5-6, 5-7, 5-8, 5-9)

    写真 5-5, 5-6, 5-7, 5-8, 5-9

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    BIG!スマホのある店舗、グランフロント大阪の画期的デジタルサイネージ

    店舗を見てまわる中、北館のナレッジキャピタルというゾーンが気になった。中でもドコモショップに注目した。店頭、店内にデジタルサイネージが数多く設置されている。雰囲気も良くくつろげる空間となっており、商品を販売していない店舗だと誤解してしまった。(写真 5-10, 5-11, 5-12)

    写真 5-10, 5-11, 5-12

    目を引いたのは、巨大なスマートフォンだ。画面は 60インチで、アンドロイドのスマホアプリを表示していた。外からは見えないが、スマホをHDMIケーブルで繋いでいるとのこと。画面をタッチする情報を、スマホのタッチ操作情報に変換、それを同期させているようだ(写真 5-13, 5-14)。驚くことに、音声認識である「しゃべってコンシェル」の機能も使えるようにしていた。同店によると、機種も色々試し、何度も調整を重ねてようやく完成したとのことだ。コンパスタッチのようにデジタルサイネージのコンテンツがスマホ的要素を取り入れている中、これはそのものズバリでわかりやすい。店頭販促だけでなく、広告サイネージとしても魅力がある。

    写真 5-13, 5-14

    もうひとつ目を引いたのは、「ドコモ モーションシアター」だ。巨大画面でAR(Augmented Reality)のコンテンツが楽しめるものだ。ジェスチャーコントロールで親子連れが、楽しそうにドコモダケの帽子をかぶるゲームに挑戦していた。(写真 5-15)

    ARは、パナソニックセンターの「ハローステージ」でも実施していた。サイネージの前に立つと、バーチャルな小さな鼓笛隊が歩きながら自分の足下で演奏をするのが見えた。最後には画面全体が撮影され、スマホにダウンロードして記念に持って帰ることができた。(写真 5-16)

    写真 5-15

    フューチャーライフショールーム」というカテゴリーに属する店舗群なようだ。未来が体験できるショールーム。「見るところ」、「買うところ」に加えて、「参加する」という体験価値をプラスさせている点が特徴だ。そんな新スタイルのショールームにデジタルサイネージが効果的に使われている。

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    コカ・コーラウエスト ハピネス・ラボでは、デジタルサイネージ自販機が置いてあり、画面をタッチしてコカ・コーラゼロを買うことが出来た。(写真 5-17)

    写真 5-16 写真 5-17

    その他、次の店舗にもサイネージが効果的に使われていた。Mercedes-Benz Connection、エナレッジ 、auショップ、ソフトバンクショップ、World Wine Bar by Pieroth 、サブウェイ野菜ラボ。

    写真 5-18, 5-19, 5-20, 5-21, 5-22

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    先端的デジタルテクノロジーのサイネージ活用が見られる「The Lab(ザ・ラボ)」

    The Lab と名付けられた施設は、他の商業施設には無いユニークなものだ。そこでは最先端のデジタルテクノロジーがサイネージに活用されているのを見ることが出来た。サイネージ上でさまざまな服を試着できるバーチャル・フィッティング、 200 インチのスクリーンに表示した裸眼で見ることが出来る3D映像、タブレットによるARを見せるコーナーもあった。 (写真 5-23, 5-24, 5-25)

    写真 5-23, 5-24, 5-25

    ユニークなのは「お笑い自動販売機」というものだ。これは、吉本興業の若手芸人18組のショートコントのネタを、サイネージを通して見られるものだ。視聴者の性別、年代を識別するカメラシステムを利用し、笑顔、笑い声を認識し、笑いのボリュームを図り、点数化する仕組み「お笑い視聴率判定装置」も備えている。これを使って、笑いのバトル「笑-1(えみわん)グランプリ」を実施していた。(写真 5-26)

    写真 5-26

    デジタルサイネージの見本市のような場所

    このように、グランフロント大阪には、施設全体や個別店舗の案内やイメージアップ、ファン作りの為の来街者との参加型コミュニケーションツールなど、様々な目的でデジタルサイネージが導入され活用されている。いわば、サイネージの生きた見本市のような場所だ。JR大阪駅を降りてからの動線には、駅の広告サイネージもある。これも首都圏に劣らず充実している。設置状況、視認性、コンテンツ、来街者の反応、アプリの使い勝手、センサーの反応具合など、ここでは詳しく言及しないが、現場に行って触れてみないとわからない。参考になる要素も多いので業界関係者なら、一度訪れてみてはいかがだろうか。

    きっと、あなたを楽しく迎えるおもてなしサイネージが待っているはずだ。

    (昨年 10月時点の状況(画像)に、今年 5月時点の状況を加筆して執筆しています)

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    6.リテール業界におけるモバイル・アプリ + サイネージ = 近未来にやってくるオムニチャネル デジタルサイネージの有望な活用領域であるリテールエリアにおけるデジタルサイネージの現状と課題を整理し、今後のデジタルサイネージが有効に機能するために、どういった点が必要になってくるのかについて考察をしてみる。 商業施設におけるデジタルサイネージの現状と課題 商業施設におけるデジタルサイネージの傾向はいくつか特徴的である。まず大型商業施設については、新しい施設開発がおこなわれるたびに、必ず導入が進む。東京お台場のダイバーシティや、後述するグランフロント大阪のような例である。これらには複数のテナントが入居し、施設が広大であるために「案内サイネージ」が必ずあるといってもいいだろう。こうした案内表示も、以前に比較すると見やすく、使いやすくなってきている。案内板は、一度に大量の情報を見たい、選択したいというニーズが高い。そのために高精細である同時に多くの情報を表示できる 4Kのタッチパネル型の潜在需要は大きい。いうまでもなく、現時点での導入障壁は価格に尽きる。 一方で、期待された割には拡大が進まないのが、大型スーパーやコンビニエンスストアでのデジタルサイネージ利用である。これまで様々な試みがなされてきているが、都内のローソン 300 店舗で展開をしていた「東京メディア」が一昨年、事業撤退をした。街ナカにあるコンタクトポイントとしてのコンビニはメディア的な期待値も大きかっただけに、非常に残念な結果となった。現在ではコンビニのほとんどのレジには、小型のディスプレイが設置されているが、あの設置状況ではデジタルサイネージ的に効果があるとは正直いえない。大型スーパーではイオンチャンネルが大規模導入したが、それに続くものがあまり見受けられない。 こうした商業系の施設をよく見ていくと、ある事実に気がつく。それは、施設単位や、チェーン店単位でまとまってデジタルサイネージシステムとして導入はされていないが、個々のお店単位で(それはチェーン展開しているお店であったとしても)、おそらくスタンドアローンでサイネージとして利用している例が非常に多いことだ。特にファッションブランド店にその傾向が強く、同じブランド店であっても、別のテナントビルにある店舗には導入がないといったように、個々の個店単位の導入判断になっているケースである。こういった例は、大手のメーカやベンダーの話を聞いても、「うちは直接売ってない」とか、「誰がやってるのか、わからない」といったものが極めて多い。これらの多くは民生テレビに DVDプレイヤーかパソコンが接続されて、ファッションショーや自社で作成したビデオ、写真等の静止画が繰り返し再生されているだけであるケースがほとんどである。こうしたニーズに、大手などのサイネージ関係者がきちんと答えられるようなものが提案できてないのが大きな課題である。 新しい販売チャネルの登場 また最近では、コマースサイトである「ZOZOTOWN」が運用する「WEAR」というサービスが、猛烈な勢いて会員を伸ばしている。当初は「ショールーミング」と言われるような、お店では商品の現物を確認するのみで、実際の購入はネットで、最も安いショップで購入してしまう消費行動に「対応」して、リアルな店頭で商品のバーコードを読み込んでオンラインで購入できてしまう機能も搭載していた。これはリアル店舗の立場だけから見れば、顧客を逃してしまうだけの厄介な話である。だが、ファッションブランドの直営店舗のように、メーカと小売が同じ運営である場合には、必ずしも悪い話ではない、いやむしろ効率的な販売方法に見えている。メーカからすれば、高い運営コストで小売店舗を大量に構えるより、最小限のショールーム店舗のみを残し、店頭在庫が必要ないネットで購入してもらったほうが、利益が大きくなるからだ。ショールーミング機能は一旦は省かれたが、こうした流れは止められないだろう。もちろんだからと言って、購買行動の全てがオンラインに移行するわけではないのは、誰もが価格コムで最も安いネットショップで購入しているわけではないことからも明らかではある。 スマートフォンアプリWEARは、10 代から 20 代の女性を中心に、LINE が急速に会員を獲得して言ったのと同じような動きで普及をしている。WEARには、ソーシャル機能や、コーディネート機能、さらにはかつての読者モデルやカリスマ店員といった存在が、WEARのコミュニティー上に現れ、それを見たい、自分もそうなりたいと思う会員が集まり、彼らのコーディネートを真似て、リアル店舗で現物を確認して、ZOZOTOWNで購入するという流れである。 この場合では、例えば店頭に置かれた「着せ替えサイネージ」が、色々な組み合わせをその場で体験させることもできるはずだ。友人と店舗に来ているような場合は、友達とあれこれ相談しながら、コーディネートをつくり上げる。それをその場からTwitter や Facebook にフィードすると、その場にいない友達からコメントがついたり、いいね!されたり、アドバイスが

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    あったりと、十分楽しい、インタラクティブで押し付けがましくない買い場が形成されていく。購入は自分のスマホでも、その場にあるタッチパネルサイネージ端末でもどちらでも構わない。若い世代はクレジットカードを保有していないケースもあるので、リアル店舗での現金決済というのがポイントである。全てがオンラインには行けない、オンラインだけ完結しない理由はここにもある。 今後につながる注目事例

    2014 年のデジタルサイネージの導入事例には、いくつか今までに異なる、新しい傾向が見えてきている。そういった事例を幾つか紹介しながら、今後の展望について考えてみたい。 ジェスチャーコントロール

    2013 年のデジタルサイネージアワードの受賞事例のひとつに、ABCクッキングスタジオの「Coking Studio Signage」がある。これは料理教室における調理説明をデジタルサイネージの動画で行うものであるが、特にタブレットの操作をジャスチャーコントロールで行うという点が画期的である。調理中は手が汚れるのでビデオを操作しにくい。そこでタブレットの内蔵カメラで、動画の再生や停止、早送りや巻き戻しをディスプレイに直接触れることなく、手の動きだけで操作させるものだ。 この事例からも、こういったジェスチャーコントロールは、デジタルサイネージで結構応用範囲が広いことがわかってきた。例えばショーウインドウでの利用である。高級ブランド店では閉店時間後にも、ショーケースに商品を展示されているので、街を行く人がそれを眺めていく。これまでの店舗では、店員がいない時間帯には、見る以外に顧客は何もすることができなかた。しかし、ジャスチャーコントロールで制御されたデジタルサイネージを操作して、他の商品やコーディネートなど、様々な深い情報を提供したり、場合によっては顧客のスマホで購入し配送することもできる。 また、ガラス越しにディスプレイとカメラを設置することで、故障や破損を気にすることなく設置することができる。また案外軽く考えがちであるが、ディスプレイが汚れないので、特に女性など、衛生面を気にするような利用者が安心して操作できることにも繋がる。いうまでもなく、4Kによる大画面化と高画質化は、こうした顧客の行動を誘発し、購買やブランドロイヤリティの形成に少なからず貢献すると思われる。 アプリ連携

    デジタルサイネージは、その時その場所にいる人に情報を伝える事ができるメディアだ。しかしそれは、当たり前だがその時、その場所にいない人とはコミュニケーションできないことを意味する。そこでスマートフォンのアプリを利用することで、これをカバーしようというコミュニケーション設計を行っている事例として、大阪駅に 2013 年にオープンしたグランフロント大阪の「グランフロント大阪 コンパスアプリ」がある。 コンパスアプリをダウンロードして立ち上げると、基本的にはグランフロントに設置されているデジタルサイネージ「コンパスタッチ」とほぼ同じ機能が提供される。それだけではなく、現地にいなくても、いまグランフロント大阪で起きていることを他の場所で知ることが出来る。さらに SNS 機能もあるので、美味しかったとか、楽しかったという体験が友だちに伝え、共有することができる。アプリは自分用にカスタマイズされるので、現場のサイネージでも同じカスタマイズ画面が表示されるともっと便利だ。 そこで、手持ちの交通系等の IC カード(FeliCa)でサイネージとアプリを紐付けることが出来る。具体的にはあらかじめスマートフォンにアプリがインストールされた状態で現地のコンパスタッチに行く。端末に IC カードをかざすと画面にQRコードが表示され、それをアプリ側のカメラで読み込むことで紐付けが完了する。一度ひもづけが完了すると、現地にあるどのサイネージ端末でも、IC カードをタッチするだけでパーソナルなサイネージに一瞬で切り替わる。 前述のWEAR のアプリでは、まだアプリのみで店頭側のデジタルサイネージが有機的に機能できていない。ここは今後、各社がしのぎを削る分野になるのは間違いない。

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    オムニチャネル

    オムニチャネル、O2Oが話題になっている。セブン&アイ・ホールディングスが総額で 1,000 億円を投入すると発表して以来、それはバズワード化しているとも言える。しかしそこには、すくなからずリアルとデジタルメディアを組み合わせることでもたらされる、新たなマーケティングングの可能性を秘めている。 n オムニチャネルとは何か

    まずはオムニチャンネルとは何か、IT 用語辞典 BINARY から引用してみる。もっともオムニチャネルは IT 用語ではないと思われるが�