みずほリポート - mizuho bank€¦ ·...

71
みずほリポート 2015年7月22日 中国シンクタンクが明かす 「新シルクロード構想」全容 ―2014年度中国商務部国際貿易経済合作研究院への委託調査 中国は2013年に、中国と欧州を中央アジア経由で結ぶ「陸上シ ルクロード」とASEAN・南アジア経由で結ぶ「海上シルクロー ド」の2本の新シルクロードを開発する構想を打ち出している。 新シルクロード構想の主な狙いは中国の対外プレゼンス向上 だが、中国経済の減速が続く中、シルクロード沿線諸国のイン フラ需要の取り込みによる成長下支えの効果への期待も高い。 構想の中で、中国と欧州を結ぶ貨物鉄道が既に稼働するなど、 「陸上シルクロード」建設が先行している。中国西部とパキス タン、中国南部とインドを結ぶ経済回廊建設も始まっている。 2015年中に発足するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への出資 表明57カ国の大宗は新シルクロード沿線諸国であり、AIIBは新 シルクロード建設を金融面で支えるものと位置付けられる。 新シルクロード構想における最大の懸念は複雑な民族・宗教問 題を抱える沿線諸国の治安。政変リスクを抱える国もあり、政 権交代が起きれば中国との外交関係が脅かされる恐れもある。

Upload: others

Post on 25-Jun-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

みずほリポート

2015年7月22日

中国シンクタンクが明かす

「新シルクロード構想」全容 ―2014年度中国商務部国際貿易経済合作研究院への委託調査

◆ 中国は2013年に、中国と欧州を中央アジア経由で結ぶ「陸上シ

ルクロード」とASEAN・南アジア経由で結ぶ「海上シルクロー

ド」の2本の新シルクロードを開発する構想を打ち出している。

◆ 新シルクロード構想の主な狙いは中国の対外プレゼンス向上

だが、中国経済の減速が続く中、シルクロード沿線諸国のイン

フラ需要の取り込みによる成長下支えの効果への期待も高い。

◆ 構想の中で、中国と欧州を結ぶ貨物鉄道が既に稼働するなど、

「陸上シルクロード」建設が先行している。中国西部とパキス

タン、中国南部とインドを結ぶ経済回廊建設も始まっている。

◆ 2015年中に発足するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への出資

表明57カ国の大宗は新シルクロード沿線諸国であり、AIIBは新

シルクロード建設を金融面で支えるものと位置付けられる。

◆ 新シルクロード構想における 大の懸念は複雑な民族・宗教問

題を抱える沿線諸国の治安。政変リスクを抱える国もあり、政

権交代が起きれば中国との外交関係が脅かされる恐れもある。

アジア調査部 上席主任研究員 酒向浩二

03-3591-1375 [email protected]

●当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではあり

ません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが、その正確性、

確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあ

ります。

目 次

1.はじめに ·································································· 1

2.商務部研究院委託調査報告書のポイント ······································ 3

(1)新シルクロード構想の概要 ················································ 3

(2)新シルクロード構想と既存の対外貿易政策との関連性 ························· 5

(3)「陸上シルクロード」の概要 ··············································· 8

(4)「海上シルクロード」の概要 ·············································· 12

(5)新シルクロード構想に付属する経済回廊の概要 ····························· 14

(6)新シルクロード構想における日中協力の可能性と提案 ························ 17

3. 後に~中国のシルクロード構想の注目点~ ································· 19

(1)シルクロード構想で TPP に対抗 ··········································· 19

(2)新シルクロードのカギを握る 2 つの経済回廊 ······························· 20

(3)新シルクロードのカギを握る 2 つの地域大国 ······························· 21

(4) 大のリスクは新シルクロード沿線国・地域の治安 ·························· 22

(5)日本は中国の提案を受けるのか ··········································· 23

資料編(商務部国際貿易経済合作研究院)

「中国政府が新シルクロード構想を打ち出した目的」 ····························· 24

1.新シルクロード構想の概要 ················································· 24

2.新シルクロード構想と既存の対外貿易政策との関連性 ·························· 30

3.「陸上シルクロード」の概要 ················································ 37

4.「海上シルクロード」の概要 ················································ 50

5.新シルクロード構想に付属する経済回廊の概要 ······························· 57

6.新シルクロード構想における日中協力の可能性と提案 ·························· 66

1

陸上シルクロード(一帯)

海上シルクロード(一路)

1.はじめに

2015年中に中国主導で設立される予定のアジアインフラ投資銀行(AIIB)が、世界の耳目を集めてい

る。AIIBの投融資先は、中国政府が打ち出したユーラシア大陸の東西を結ぶ陸上と海上の2本の新シ

ルクロード沿線におけるインフラ整備向けが中心となる可能性が高い(図表1)。実際に、AIIBへの出

資を表明した57カ国(後掲図表6)の大宗は、2本の新シルクロード沿線に位置する国である。

新シルクロード(通称、「一帯一路」)構想が表面化したのは2013年のことである。中国の習近平国

家主席は、2013年9月に訪問先のカザフスタンで中国と中央アジアを結び欧州に至る「陸上シルクロ

ード」(通称、「シルクロード経済ベルト(一帯)」)構想、翌 10 月に訪問先のインドネシアで中国と

ASEAN、南アジア、さらに中東・アフリカを経て欧州を結ぶ「海上シルクロード」(通称、「21 世紀海

上シルクロード(一路)」)構想を打ち出した。中国を起点とするこの新シルクロード構想は、2014年

に入るとさらに具体化していく。習近平国家主席は2014年9月にタジキスタン、モルディブ、スリラ

ンカ、インドの4カ国を訪問した。このうちタジキスタン訪問は、中国、ロシア、中央アジア諸国で

構成する上海協力機構の首脳会議への出席を兼ねたもので、中国にとって、「陸上シルクロード」開発

を通じて中央アジアの豊富な天然ガスなどの資源確保と中国企業主導での貨物鉄道整備などのインフ

ラ開発を推進する狙いがある。南アジア3カ国(モルディブ、スリランカ、インド)訪問は、同地域

の港湾建設・運営協力の強化を図り、「海上シルクロード」開発を通じて、南シナ海からインド洋に至

るシーレーンの確保を図るとともに、中国に続くアジアの地域大国であるインドを輸出市場に取り込

もうという意向が垣間みられる。

これらの歴訪によって周辺国においても新シルクロード構想の認知度は徐々に高まっており、2014

年11月に北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)の場で、中国は満を持して全世界に向け

て同構想の実現に注力することを表明した。

図表 1 新シルクロード構想(一帯一路)

(資料)中国網

2

新シルクロード構想は、開発地域がユーラシア全域に跨るという壮大なスケールから、国際的な影

響力の拡大を目論む中国の意図が強調されることが多いが、構想の背景には中国側の経済事情もある

と考えられる。中国は、国内で生産設備の過剰問題を抱えているうえ、輸出の伸び悩みにも直面して

おり、中国経済に対する下押し圧力が高まっている。そこで新シルクロード構想を通じて、周辺国の

開発に乗り出して輸出先を確保し、生産設備の過剰問題を緩和することも狙っているとみられる。2

桁成長が終息し、新常態(ニューノーマル)に入った中国は、新シルクロードの起点となる国内およ

び周辺国の一体開発の推進を、新たな成長戦略の一つに据えているともいえよう。

一方、日本の安倍政権も、中国の周辺国との関係を強化しようとしており、2014年8月にはインド

のモディ新首相を日本に招いたほか、翌9月には安倍首相がバングラデシュとスリランカを訪問した。

また、中央アジア諸国に対しては、「中央アジア+日本」対話を継続している。新シルクロード沿線国

における開発プロジェクトの受注などを巡っては、日中が競合する可能性があるが、アジア開発銀行

(ADB) 1によるとアジアには 2010~2020 年にかけて年間約 8,000 億ドル(約 100 兆円)規模のインフ

ラ需要があると見込まれており、両国が協調する余地もあると考えられる。

このような環境下、中国政府が打ち出す新シルクロード構想がアジアの経済・政治環境にどのよう

な影響を与えるかを検討することは、アジア市場を重視している本邦企業にとっても関心の高い事項

となっている。そこで、みずほ総合研究所は、中国の新シルクロード構想の全体像を明らかにすべく、

業務提携先の中国商務部国際貿易経済合作研究院(北京に本部を置く商務部傘下のシンクタンク、以

下商務部研究院)に対して、「中国政府が新シルクロード構想を打ち出した目的」に関する調査を2014

年下期~2015年上期にかけて委託した。

委託調査報告書は、次の6章で構成されている。

第1章「新シルクロード構想の概要」

第2章「新シルクロード構想と既存の対外貿易政策との関連性」

第3章「陸上シルクロード」の概要

第4章「海上シルクロード」の概要

第5章「新シルクロード構想に付属する経済回廊の概要」

第6章「新シルクロード構想における日中協力の可能性と提案」

なお、本稿は、みずほ総合研究所の見解ではなく、商務部研究院の見解を取りまとめた報告書に、

みずほ総合研究所が解説を加えたものである(報告書本文は資料編を参照)。

次章以降、報告書各章の概要を詳しくみていくことにする。

1 ADB・ADBI「Infrastructure for a Seamless Asia」(2009)

3

2.商務部研究院委託調査報告書のポイント

(1) 新シルクロード構想の概要

a.新シルクロード構想が打ち出された理由~「中国の夢」の実現~

商務部研究院は、シルクロード構想が打ち出された理由を4つ挙げている(図表2)。筆頭に挙がっ

たのは、「中国の夢」の実現のためというものである。「中国の夢」とは、習近平国家主席が提唱する

中華民族の復興を掲げるスローガンであり、持続的な経済発展で国民生活を豊かにすると共に、中国

の国際的な地位向上を図ることを意味している。

2014年11月のAPECでは「アジア太平洋の夢」というスローガンも新たに打ち出され、「中国の夢」

を「アジア太平洋の夢」へと拡大していくという姿勢が示された。そのための具体策が、「陸上シルク

ロード」と「海上シルクロード」開発ということになろう。新シルクロードの開発を通じて沿線国の

生活水準を引き上げ、良好な関係を構築することで中国との共存共栄を目指すとしている。

なお、中国では、東部沿海部と中西部内陸部の経済格差が大きいため、中央アジア諸国に隣接し開

発の遅れた中西部内陸部の対外経済開放によって経済のボトムアップを図ることが「陸上シルクロー

ド」開発の狙いの一つとなっている。また、「海上シルクロード」開発においては、ASEAN諸国との海

洋権益問題などを棚上げしたうえで、2010年に発効している中国・ASEAN自由貿易協定(FTA)のアップ

グレードを図ることが狙いの一つとなっている。

このように、新シルクロード構想は、中国が取り組んでいる政策課題の解決や通商政策を後押しす

る狙いもあるようだ。

図表 2 新シルクロード構想が打ち出された理由

理由 説明

① 「中国の夢」の実現のため ・ 習近平国家主席が提唱する「中国の夢」(中華民族の復興)戦略にお

ける外交構想の一環

② 中国と新シルクロード沿

線諸国の共同繁栄のため

・ 「陸上シルクロード」開発によって、地理的に中国と欧州の中間に位

置し、開発の遅れた中央アジア諸国のボトムアップを図る

・ 「海上シルクロード」開発によって、中国・ASEAN FTAを発展させる

③ 新シルクロード地域経済

の一体化推進のため

・ 新シルクロード沿線諸国の「開放、自由、協力」を重視し、保護主義

の台頭を抑制する

④ 中国の国土の均衡ある発

展のため

・ 「陸上シルクロード」開発を進めることで、中央アジアに隣接する中

国の中西部開発が促進され、東部沿海部との経済格差の縮小につなが

⑤ 中国と沿線諸国の良好な

外交関係構築のため

・ 「陸上シルクロード」周辺地域における3勢力(テロ組織、分離独立

運動組織、宗教過激派組織)の撲滅で協力する

・ 「海上シルクロード」周辺地域における領土問題は棚上げにする

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

4

b.習近平国家主席のアジア4カ国(タジキスタン、モルディブ、スリランカ、インド)訪問の意図

~新シルクロード構想実現に向けたロードショー~

前述した通り、2014年9月の習近平国家主席の4カ国訪問は、新シルクロード構想を進める上での

転機となった(図表3)。商務部研究院は、この一連の訪問は、新シルクロード構想実現に向けたロー

ドショーだったと述べている。4カ国との提携協定は、詳細なものまで含めると総計で60項目以上に

のぼったようである。

タジキスタン、モルディブ、スリランカの3カ国からは、トップ外交を通じて資源開発、電力開発、

ニュータウン建設などのインフラプロジェクトを受注しており、政治主導で経済関係を深化させてい

る様子がうかがえる。

インドに対しては、隣接するバングラデシュ、ミャンマーを含めた4カ国を跨ぐBCIM経済回廊の構

築を提案するなど、中国は、大陸国家である地の利を十分に活かしながら、シルクロード構想に基づ

いた働きかけを行っている点が注目される。

図表 3 習近平国家主席の4カ国訪問後の成果

訪問国 協定・合意など 始動プロジェクトなど

タジキスタン ・ 戦略的パートナーシップ

協定をさらに発展・深化

・ 中国・中央アジア天然ガスパイプライン(D

ライン)の建設がスタート

モルディブ ・ 友好パートナーシップを

樹立

・ インフラ建設、観光、気候変動などで協力

・ 同国 大の民生プロジェクトであるフル

マーレ・ニュータウン建設プロジェクトを

中国資本が請け負う

スリランカ ・ 戦略的パートナーシップ

協定を深化させるアクシ

ョンプランに署名

・ FTA交渉スタート

・ 港湾建設・運営の推進や港に隣接した工業

団地建設を重点的に推進

・ 初の石炭火力発電所であるノロチョライ

石炭火力発電所建設を中国資本が請け負

インド ・ BCIM経済回廊構想で合意 ・ 中国鉄道産業の優位性を活かしてインド

の鉄道改修・グレードアップを行う

・ インドにおける工業団地建設も実施して

いく

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

5

(2) 新シルクロード構想と既存の対外貿易政策との関連性

a.FTAとの関連性

既に中国は、広域自由貿易協定(FTA)としてRCEP を推進、2国・地域間FTAとしてASEAN やパキ

スタンなどとFTAを締結済みである(図表4)。アジア地域の包括的なFTAであるRCEP に加えて、中

東・アフリカ地域との交渉も一部で進んでおり、インドともFTAの共同研究を行っている。

商務部研究院は、①交通・通信・エネルギー・産業の一体化、②貿易の一体化、③金融の一体化、

④政治面での相互信頼の強化の4点から、新シルクロード構想はFTAの推進を後押しすると分析して

いる。

中国としては、交通・通信・エネルギー・産業の一体化を切り札に、シルクロード沿線諸国に対し

て自国とのFTA交渉を促していきたい意向があるようだ。例えば、中国と中央アジア諸国間では、現

在FTA交渉は行われていない。「陸上シルクロード」開発によって経済補完関係を強固にすることで、

中央アジア諸国の対中関税率引き下げ2を促してFTAにつなげたい考えのようである。

図表 4 中国のFTA締結先国・地域

交渉状況 地域 国・地域

締結済み アジア太平洋

香港、マカオ、台湾、シンガポール、ASEAN、パキスタン、ニュー

ジーランド、ペルー、チリ、コスタリカ、韓国、オーストラリア

欧州 スイス、アイスランド

交渉中 アジア太平洋

RCEP(日中韓+ASEAN+インド・ニュージーランド・オーストラリ

ア)、日中韓、スリランカ

中東 湾岸協力会議(サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、

バーレーン、オマーン、カタール)

アフリカ 南部アフリカ関税同盟(南アフリカ、ボツワナ、レソト、スワジラ

ンド)

交渉準備中 アジア太平洋 モルディブ

共同研究中 アジア太平洋 インド

(注)2015年7月時点の判明分のみ掲載。

(資料)WTO、JETROを基にみずほ総合研究所作成

2 商務部研究院によると、中央アジア 5 カ国の対中輸入品に対する平均関税率は 6.5%に対し、5 カ国内の平均関税率

1.6%とのことである。

b.人民

中国

アでみ

ユーロ

貿易決

にはポ

商務

国際化

て中国

を通じ

のよ

その

スタン

みとの

民元国際化と

国は、近年、

みると、人民

ロとのかい離

決済における

ポンドを抜い

務部研究院は

化を加速させ

国が既に 大

じて、貿易決

うである。

のための金融

ンとの国境に

のことである

(資料

との関連性

人民元の国際

民元はドル、ユ

離はまだ相当に

る人民元の積極

いてドル、ユー

は、人民元の国

せることになる

大級の貿易相手

決済の人民元化

融インフラとし

に位置する新疆

る。

料)国際銀行間通

際化の推進に

ユーロ、ポン

に大きいが、

極活用を推奨

ーロに次ぐ第

国際化はまだ

ると分析して

手国になって

化を進めると

して、オフシ

疆ウイグル自

図表 5

通信協会(SWIFT)

6

にも積極的にな

ンド、円に次ぐ

貿易額で既に

奨していること

3位の決済通

だ初歩段階に過

ている。その背

ているという実

と共に、人民元

ショア人民元市

自治区のホルゴ

5 世界決済通

なっている。2

ぐ、世界第 5

に世界第1位

とを勘案する

通貨に浮上する

過ぎないが、

背景には、多

実態があり、

元建ての投融

市場も構築し

ゴスには、既

通貨シェア

2014年末時点

位となってい

位である中国が

ると、近い将来

る潜在力は十

新シルクロー

多くの新シルク

中国としては

融資を積極的に

していくとして

既にオフショア

点の世界決済

いる(図表 5

が、自国企業

来、人民元が

十分にあるとみ

ード構想が、

クロード沿線

は新シルクロ

に行っていき

ている。実際

ア人民元市場

済通貨シェ

5)。ドル、

業を中心に

が円、さら

みられる。

人民元の

線国にとっ

ロード構想

きたい考え

際にカザフ

場を設置済

7

c.AIIBとの関連性

冒頭で述べた通り、新シルクロード構想を金融面で支援する主体的な機関がAIIBになると考えられ

る。原加盟資格を保有する57カ国の大宗(図表6)が「陸上シルクロード」または「海上シルクロー

ド」沿線国といえる。商務部研究院は、AIIBの設立は、①アジアにおけるインフラ建設と相互連携・

相互通行設備建設を加速させるのに役立つ、②アジア経済の一体化を加速させるのに役立つ、③アジ

ア地域における中国の国際的地位および影響力を高めるのに役立つ、と分析している。具体的には、

新シルクロードの基幹物流インフラや、中国を起点とする経済回廊の建設を金融面で支援する役割な

どを担うとしている。

また、商務部研究院は、「中国は名目GDPでは世界第2位、外貨準備高では世界第1位となっており、

2014年のアジアの経済成長の50%程度は中国の寄与によるもの」としたうえで、「中国が、切迫した

インフラ建設需要や資金問題を抱えるアジア諸国を助けることで大国というイメージを体現し、それ

によってアジアにおける中国の国際的な地位を高める」とも述べている。このように、シルクロード

構想とそれを支えるAIIBの設立の背景には、「中国の夢」を「アジア太平洋の夢」へと昇華させてい

こうという想いもあるようだ。

図表 6 AIIB原加盟資格保有国

地域 参加国

アジア太平洋(25カ国) 中国、シンガポール、ブルネイ、タイ、マレーシア、インドネシ

ア、ベトナム、フィリピン、カンボジア、ラオス、ミャンマー、

バングラデシュ、インド、パキスタン、スリランカ、モルディブ、

ネパール、モンゴル、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、

タジキスタン、韓国、ニュージーランド、オーストラリア

中東・アフリカ(11カ国) トルコ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート、ヨル

ダン、カタール、オマーン、イラン、イスラエル、エジプト、南

アフリカ

欧州(20カ国) 英国、フランス、ドイツ、イタリア、ルクセンブルク、スイス、

オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデン、フィンラ

ンド、ノルウェー、マルタ、スペイン、アイスランド、ポルトガ

ル、ポーランド、グルジア、アゼルバイジャン、ロシア

中南米(1カ国) ブラジル

(注) 1.「陸上シルクロード」および「海上シルクロード」沿線国に網掛け。

2. フィリピン、マレーシア、タイ、デンマーク、ポーランド、クウェート、南アフリカの7カ国は2015年7月時点でAIIB設

立協定への署名を見送っている。

(資料)中国財務相

8

(3) 「陸上シルクロード」の概要

a.「陸上シルクロード」の概要~第2、さらに第3のユーラシア・ランドブリッジを拡充~

「陸上シルクロード」の対象地域には、狭義では中央アジア、中義では中央アジアからロシア・CIS、

広義では中央アジアから欧州までが含まれる(図表7)。広義の場合、欧州の終着点は、欧州の主要商

業港であるオランダのロッテルダム港となっている。

中国から欧州までを結ぶ物流網としては、既に第1ユーラシア・ランドブリッジとして、ロシアの

ウラジオストクを起点とするシベリア鉄道が存在し、北京発モスクワ行3の列車も運行されている。

しかしながら、中国としては、江蘇省・連雲港を起点として中国中西部と中央アジア諸国を経由し、

中国と欧州を結ぶ第2ユーラシア・ランドブリッジ(運行済み、2010年頃から直通貨物列車の運行増

加、後掲図表9)の積極活用を図りたい意向のようである。

さらに、広東省・深圳を起点とし、雲南省・昆明からミャンマーを経て南アジアを横断して欧州に

向かう第3ユーラシア・ランドブリッジも新たに計画しているとのことであり、「陸上シルクロード」

開発の重点が、中国を起点とするユーラシア鉄道網の整備に置かれている様子がうかがえる。

図表 7 「陸上シルクロード」の定義

定義 対象地域 3本の鉄道ルート概要

狭義 ・ 中央アジア五カ国(カザフスタン、キ

ルギス、タジキスタン、トルクメニス

タン、ウズベキスタン)

・ 第1ユーラシア・ランドブリッジ(通

称シベリア鉄道:ロシアのウラジオス

トク、オランダのロッテルダム港、全

長13,000km)

・ 第2ユーラシア・ランドブリッジ(通

称新ユーラシア・ランドブリッジ:中

国の江蘇省・連雲港、カザフスタン、

ロシア、ベラルーシ、ポーランド、ド

イツ、オランダのロッテルダム港、全

長10,800km)

・ 第3ユーラシア・ランドブリッジ(計

画中:中国の広東省・深圳、雲南省昆

明、ミャンマー、バングラデシュ、イ

ンド、パキスタン、トルコ、東欧、中

欧、オランダのロッテルダム港、全長

15,000km)

中義 ・ 中央アジア五カ国+その他の中国西

部国境隣接国・南アジア・中東・ロシ

アCIS(モンゴル、ミャンマー、バン

グラデシュ、インド、パキスタン、ア

フガニスタン、イラン、イラク、ヨル

ダン、イスラエル、アゼルバイジャン、

グルジア、アルメニア、ロシア、ウク

ライナ、ベラルーシ)

広儀 ・ 中央アジア五カ国+その他の中国西

部国境隣接国・南アジア・中東・ロシ

アCIS+欧州(EU加盟28カ国)

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

3 モンゴル経由と中国東北部経由がある。中国とロシア・モンゴルの軌道幅が異なるため、国境では台車交換がある。

9

b.中国が主導する開発計画の概要~資源・エネルギー協力が中核~

中国の「陸上シルクロード」開発においては、中国西部の国境隣接国である中央アジア諸国、ロシ

ア、モンゴルなどがいずれも天然ガス、石炭などの豊富な資源・エネルギーを擁していることから、

資源・エネルギー分野の協力が中心となっている(図表8)。中国からこれらの近隣諸国に工業製品を

輸出し、近隣諸国から資源・エネルギーを輸入するインフラを整備し、一部の国との間では金融協力

も進めていくという内容である。

これらの対外政策の方向性は、基本的に新シルクロード構想が打ち出される前と変わっていないが、

ユーラシアのシームレスな物流網の整備にあたって、カザフスタンとの国境地帯(新疆ウイグル自治

区)に大型物流センターを設置するなど、国境開発に注力する姿勢が強まっている様子はうかがえる。

陸路で14カ国4と接する中国にとって、「陸上シルクロード」の要衝となる国境付近地域の開発は、新

シルクロード構想の柱になるためであろう。

図表 8 「陸上シルクロード」沿線開発プロジェクト事例

国・地域 主な協力分野 プロジェクトなど

中央アジア

諸国

・ 資源・エネルギー

・ インフラ整備

・ 貿易の相互補完性

・ 2006 年 7 月、全長 2,800km の中国・カザフスタン

パイプラインが開通

・ 中国とカザフスタンは、2014 年に中国・カザフス

タン国際物流センターを共同で始動

・ 中国から中央アジアに電気機械・一般機械などの工

業製品を輸出し、中央アジアから中国に資源・エネ

ルギーを輸出する補完関係

ロシア ・ 資源・エネルギー

・ インフラ整備

・ 金融協力

・ ペトロチャイナ(中国企業)とガスプロム(ロシア

企業)は天然ガス協力を強化

・ 両国間初の国境川(中国名黒竜江、ロシア名アムー

ル川)横断鉄道橋は定礎済み

・ 人民元とルーブルの直接決済

モンゴル ・ 資源・エネルギー

・ インフラ整備

・ モンゴルから輸入する石炭量は、中国の石炭輸入量

の全体の1割

・ 両国の協力プロジェクトは、鉄道、高速道路、石油・

天然ガス、電力など広範囲

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

4 カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ロシア、モンゴル、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブ

ータン、ミャンマー、ラオス、ベトナム、北朝鮮。

c.中国

中国

が注目

なって

商務

トする

なお

れてい

ている

流上の

ともあ

中国

にシフ

とも考

この

が多い

るかど

国・

欧州

(資料)

国・欧州間の

国と欧州間の

目される(図

ているようだ

務部研究院は

ることによっ

お、鉄道の軌

いるが、ロシ

る。そのため

の障壁となっ

あるようだ。

国は、将来的

フトしていき

考えているよ

の軌道問題は

いASEANとの

どうかは、「陸

地域 主

料)商務部研究院報

の物流網~中国

の協力において

図表9)。これ

だ(図表10)。

は、鉄道は海運

ってスピードと

軌道幅は、各国

シア、東欧、中

め現在は国境に

っている。国境

的には、中央ア

きたい意向を持

ようである。

は、「広軌」 (中

の間でも同様に

陸上シルクロ

主な協力分野

インフラ

整備(貨物

鉄道開通)

報告書を基にみず

(資料

国内陸部発欧

ては、中国中

らは主に、前

運よりもスピ

とコストの両

国で異なって

中央アジア諸

における台車

境開発強化の

アジア諸国の

持っているよ

中央アジア諸

に発生してい

ロード」構想を

図表 9

・ 重慶

・ 武漢

・ 成都

・ 鄭州

ずほ総合研究所作成

図表 10 第2

料)商務部研究院

10

欧州行の貨物列

中西部内陸部と

前述した第2ユ

ピーディーで、

両面でメリッ

ており、中国で

諸国、モンゴル

車交換が不可欠

の背景には、交

の「標準軌」敷

ようだが、橋梁

国とは異なる

いる。「標準軌

を進めるうえ

中国・欧州間

・デュイスブ

・プラハ(チ

・ウィッチ(

・ハンブルグ

2ユーラシア

列車が続々運

と欧州を結ぶ

ユーラシア・

、空運よりも

トがあると述

では西欧と同

ルでは軌道が広

欠で、輸送時

交換・積替え

敷設を支援し

梁・トンネル

る 1,676mm)が

」の鉄道敷設

えで重い課題に

間の貨物鉄道

プロジェク

ブルク(ドイツ

チェコ)貨物列

(ポーランド)

グ(ドイツ)貨

・ランドブリ

運行~

ぶ貨物列車の運

ランドブリッ

もコストが低い

述べている。

同様の「標準軌

広い「広軌」

時間を大幅に遅

え拠点の能力拡

し、中国とのシ

ルも多く建設コ

が多い南アジ

設を周辺国に広

になっている

クトなど

ツ)貨物列車開

列車開通(20

貨物列車開

貨物列車開通

リッジ

運行が相次い

ッジを活用す

いため、鉄道

軌」(1,435mm

(1,520mmm)

遅延させてい

拡充が不可欠

シームレスな

コスト負担は

ア、「狭軌」(1

広げていくこ

るとみられる。

開通(2011年

012年10月)

開通(2013年

通(2013年7月

いでいる点

する路線と

道へとシフ

m)が使わ

が使われ

いるなど物

欠というこ

な直通列車

は重過ぎる

1,000mm)

ことができ

年10月)

4月)

月)

11

d.「陸上シルクロード」構想を進めるうえでの阻害要因~治安の悪化、米欧との競合、関税障壁~

中国は、「陸上シルクロード」構想の実現に向けて、2014年末にAIIBとは別に単独でシルクロード

基金(400 億ドル:約 5 兆円)を設置するなど、着々と準備を進めている様子だが、開発に関わるリ

スクをどのように捉えているのだろうか。

商務部研究院は、「陸上シルクロード」構想には、①治安の悪化、②米欧との競合、③関税障壁の3

つの阻害要因があると指摘している(図表 11)。構想の対象地域には、複雑な民族・宗教問題を抱え

ている地域が含まれており、中央アジア諸国に隣接する中国国内の新疆ウイグル自治区でもテロ事件

が散発していることから、中国にとっての 大の懸念は治安問題といえそうだ。さらに、アフガニス

タンやイラクなど、近年の米欧の派兵地域も含まれていることから、当該地域を巡る米欧との複雑な

外交関係も懸念しているようである。また、中央アジア諸国は域外に対して高関税を維持しており、

貿易自由化に向けた動きに積極的な姿勢があまりみられないことも障害とのことである。

それでも、中国としては国境の物流インフラ整備などを通じて周辺国の懐柔を図り、上海協力機構

など既存の多国間対話チャネルを活用しながら、「陸上シルクロード」周辺開発を進めていきたい考え

のようである。特に、「陸上シルクロード」沿線国で構成される上海協力機構(加盟国は図表11下線)

が国境地帯の安全保障協力から経済分野の協力へとシフトすることで、「陸上シルクロード」構想の推

進力となる可能性はありそうだ。

図表 11 「陸上シルクロード」構想の阻害要因と解決策

阻害要因 解決策

① 治安の悪化

中央アジアから中東・ロシアCISにかけて

は、複雑な民族・宗教問題を抱える地域で

あり、イスラム過激派などのテロ活動など

により治安が悪化

② 米欧との競合

米国は「新シルクロード計画」、欧州は「新

中央アジア戦略」を各々打ち出しており、

中国の新シルクロード構想とは一部競合

③ 関税障壁

中央アジア諸国は域外国に対しては高関

税を維持、さらに貿易手続きも複雑

① 相互連携・相互通行設備の建設を優先して

推進

② 多国間(上海協力機構:中国、ロシア、カ

ザフスタン、タジキスタン、キルギス、ウ

ズベキスタンが正規メンバー、モンゴル、

インド、パキスタン、イラン、アフガニス

タンがオブザーバー)・二国間政策の協調・

対話メカニズムを完備

③ 金融協力を強化(シルクロード基金を創

設)

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

12

(4) 「海上シルクロード」の概要

a.「海上シルクロード」の概要~東シナ海、南シナ海、インド洋、ペルシャ湾、紅海・東アフリカ~

商務部研究院によると、「海上シルクロード」における航路は、①東シナ海航路、②南シナ海航路、

③インド洋航路、④ペルシャ湾航路、⑤紅海・東アフリカ航路の5本である(図表12)。

「海上シルクロード」の沿線国は、FTA の締結先・交渉先が多いという特徴があるが、貨物列車運

行や国境開発が進む「陸上シルクロード」に比べると、横断的プロジェクトが具体化している様子は

まだうかがえず、これから具体化する段階にあるといえそうだ。

図表 12 「海上シルクロード」航路

航路 対象地域 協力分野・開発計画など

① 東シナ

海航路

・ 日本、韓国、北朝鮮 (報告書では言及なし)

② 南シナ

海航路

・ ASEAN10カ国(シンガポール、ブル

ネイ、タイ、マレーシア、インドネ

シア、フィリピン、ベトナム、カン

ボジア、ラオス、ミャンマー)、東

ティモール

・ インフラ建設でハード面の連携を強化

・ 漁業センター建設や、海洋生態の保護、

海産物生産取引、航行の安全や捜索・救

助および海上輸送の利便性に関する協

力を重点的に伸ばす

・ 中国・ASEAN FTA のアップグレードでソ

フト面の連携も強化

③ インド

洋航路

・ インド、パキスタン、スリランカ、

バングラデシュ、モルディブ

・ インド洋は、中国のシーレーンにおける

生命線

・ 政治協力から、安全保障、経済へと協力

分野を広げていく

④ ペルシ

ャ湾航

・ イラン、イラク、イエメン、湾岸協

力会議(サウジアラビア、アラブ首

長国連邦、クウェート、バーレーン、

オマーン、カタール)

・ 湾岸諸国のインフラ建設のみならず、工

業・医療・教育分野への投資にも着目

⑤ 紅海・東

アフリカ

航路

・ エジプト、スーダン、エチオピア、

ジブチ、ソマリア、ケニア、タンザ

ニア、モザンビーク、モーリシャス、

セーシェル、マダガスカル、南部ア

フリカ関税同盟(南アフリカ、ボツ

ワナ、レソト、スワジランド)

・ アフリカの豊富な資源・エネルギーのみ

ならず、アフリカの工業化・情報化・都

市化・農業の近代化という4つの新型化

に着目し、開発支援

・ 貿易決済の人民元化を推進

(注)FTA締結先および交渉・共同研究先に下線。

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

13

b.「海上シルクロード」構想を進めるうえでの阻害要因~全体開発計画の欠如、海洋秩序の不安~

中国は、「海上シルクロード」構想に関する開発リスクをどのように捉えているのだろうか。商務部

研究院は、「海上シルクロード」構想には、①全体開発計画の欠如、②貿易決済・投資資金上の制約、

③海洋秩序の不安の3つの阻害要因があると指摘している(図表13)。

具体的には、「海上シルクロード」の基盤となる各国の港湾を機能的・有機的に結びつける横断的な

開発計画が欠如していることを阻害要因の筆頭に挙げている。中国が、「海上シルクロード」において、

「陸上シルクロード」の第 2・第 3 ユーラシア・ランドブリッジに比肩する具体的な地域横断的なプ

ロジェクトを打ち出すのか、それとも、中国との2国間関係が良好なパキスタンなどでみられるよう

に、当面の間は、親密国の港湾および周辺の工業団地開発といった2国間開発を主体とするのかは、

今しばらく注視が必要となるだろう。

一方、中国は、貿易決済や開発投資資金の拠出においては、人民元を積極活用することでドル依存

を避けたいという意向を示しており、「海上シルクロード」沿線地域の貿易・投資決済において、人民

元を積極活用していこうという強い意向がうかがえる。中国にとって人民元の国際化は、為替変動リ

スクの回避や輸出・投資の促進につながるものとして期待が高まっているものとみられる。

後に、中国とASEAN諸国の間には海洋権益問題がくすぶっていることなどから、慎重な対応が不

可欠という認識も持っているようである。さらに、「陸上シルクロード」同様に「海上シルクロード」

沿線においても政情不安を抱える国が少なくないことから、中国は「内政干渉しない」という原則の

下、トップ外交と経済関係を主軸にしたwin-win関係の構築を主軸にしていきたいという意向を示し

ている。

図表 13 「海上シルクロード」構想の阻害要因と解決策

阻害要因 解決策

① 全体開発計画の欠如

欧州には、欧州インフラ連結計画があるが、

「海上シルクロード」地帯には、まだ、港

湾などの相互連携の仕組みが欠如している

② 貿易決済・投資資金上の制約

共通通貨がないこともあり、ドル依存

③ 海洋秩序の不安

中国と ASEAN の間などでは海洋の安全確保

上の懸念が残る

① 相互連携の強化

「海上シルクロード」沿海諸国の相互連携

をさらに強化する

② 人民元決済の推進

貿易・投資の両面で人民元を積極的に活用

し、国際通貨化を図る

③ 内政には絶対に関与せず

貿易促進、インフラ投資・金融協力などの

分野でwin-win関係を実現させる

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

14

(5) 新シルクロード構想に付属する経済回廊の概要

a. バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊(BCIM経済回廊)

新シルクロード構想においては、「陸上シルクロード」および「海上シルクロード」に付随して、陸

上と海上の連絡路となる経済回廊構想も浮上している。中国政府がまず注力しているのが、中国 南

部の雲南省・昆明を起点として、ミャンマー・バングラデシュを経由してインドに至るBCIM経済回廊

(図表14・後掲図表16)であり、中国南部からインド洋に出るためのルートとなる。

商務部研究院によると、経済回廊構想の発端は、1999年にバングラデシュ、中国、インド、ミャン

マーの4カ国が地域間経済連携を深める昆明宣言に署名したことに起因し、2014年の習近平国家主席

がインドを訪問した際に中印両国間で合意されたものである(前掲図表 3)。現在 5 つの路線(道路)

があるが、いずれもミャンマーを経由することになる。

中国は、ミャンマー国内に物流網5やパイプライン6を自国支援で構築済みであり、ミャンマー経由

の陸路の物流網を南アジアまで広げることで、中国とインド間の貿易・投資を促進し、同時に周辺の

産業振興を図ることがBCIM構想の狙いと考えられる。

図表 14 BCIM経済回廊の概要

路線 産業振興分野

① 雲南省・昆明―雲南省・猴橋―ミッチーナー

(ミャンマー)―レド(インド)―ダッカ(バ

ングラデシュ)―コルカタ(インド)

・ 農作物加工業

・ 宝石加工業

・ 観光業

・ 設備製造業

② 雲南省・昆明―雲南省・瑞麗―マンダレー(ミ

ャンマー)―ダッカ・チッタゴン(バングラ

デシュ)―コルカタ(インド)

・ 農産物加工業

・ 中継貿易

・ その他製造業

③ 雲南省・昆明―雲南省・瑞麗―チャウピュー

―(ミャンマー)―バングラデシュ―南アジ

ア諸国

・ 石油化学工業(昆明・チャウピュー間の

石油・天然ガスパイプラインが敷設済み)

・ その他製造業

④ 雲南省・昆明―雲南省・瑞麗―ヤンゴン(ミ

ャンマー)-ASEAN諸国

・ 資源・エネルギー

・ 農作物加工

⑤ 雲南省・昆明-雲南省・清水河―ラーショー

(ミャンマー)-マンダレー(ミャンマー)

・ 農作物加工

・ 木材加工業

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

5 中緬国境から中部マンダレー間の道路整備などを支援。 6 雲南省・昆明からインド洋に面するラカイン州・チャウピュー間に石油・天然ガスパイプラインを敷設。

15

BCIM経済回廊

中国・パキスタン

経済回廊

中国

インド

パキスタン

バングラデシュミャンマー

BCIM経済回廊の開発に向けた障壁は、「陸上シルクロード」とほぼ同様のようである(図表15)。地

政学的に複雑な民族・宗教問題を抱えた地域であり、産業基盤は弱く、投資環境は全般的に未整備で

ある。

大のボトルネックは立ち遅れたインフラであり、ミャンマーとバングラデシュの意向も汲んだう

えで、このボトルネックを解消できるか否かが成否のカギを握るといえよう。

図表 15 BCIM経済回廊構想の阻害要因

① 立ち遅れたインフラ建設

インフラ建設、とりわけ交通インフラの立ち遅れは、当該地域の経済発展や対外貿易におけ

る 大のボトルネックとなっている

② 複雑な政治・領土・民族・宗教関係

4カ国の中では、中国とインドが主導的役割を担っているが、地域内部は複雑な政治・領土・

民族・宗教関係を持つために、ややもすれば各国の戦略・方針が変わる可能性があり、サブ

リージョン経済協力に影響を与え、脅威となる恐れがある

③ 脆弱な産業の相互補完性

インドの対中貿易収支は長年赤字となっているが、その原因は、インドが競争力のある製品

を十分提供できていないことにある

④ 政策支援が不足

中国とインドは合意しているものの、政策面の支援は不十分で、経済回廊における投資を行

ううえでの投資環境の改善が不可欠

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

図表 16 2つの経済回廊

(資料)外務省地図を基にみずほ総合研究所作成

16

b.中国・パキスタン経済回廊の概要

BCIM経済回廊と並ぶもう一つの経済回廊計画が中国・パキスタン経済回廊である(前掲図表16、図

表 17)。中国の新疆ウイグル自治区・カシュガルとパキスタンの西部グワダル港を結ぶ回廊で、グワ

ダル港は、既に中国企業による港湾運営が行われている。

中国は、長らくインド国境問題などで対立してきた経緯などから、インドと対立してきたパキスタ

ンを長らく友好国として遇してきた経緯がある。中国は南アジア諸国の中で先行してパキスタンと

FTA も締結済みである。シルクロード基金を活用した開発1号案件は、パキスタンの水力発電所向け

と報じられており、当該プロジェクトは中国・パキスタン経済回廊開発のプロジェクトの一環として

も捉えられている模様である。

図表 17 中国・パキスタン経済回廊の概要

路線 開発分野

・ 新疆ウイグル自治

区カシュガルが起

点、パキスタンのグ

ワダル港が終点

① 全長4,625kmのルート建設

② 沿線の開発:沿線に8つの経済特区を設ける計画。パキスタンの

グワダル港は、既に運営権が中国企業に引き渡されている

③ win-win関係の構築:中国・パキスタン回廊を軸足に、同回廊への

近隣中央アジア諸国の参画を促していく

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

ただし、商務部研究院は、何よりも政治主導の開発であり、パキスタンは政情不安定なうえに国境

地帯は厳しい山岳地帯であることから、開発は相当な困難を伴うとみているようである(図表18)。

さらに、グワダル港は、もともと運営に携わっていたシンガポール企業が撤退した後に中国企業が

後継に入ったもので、大都市圏からは地理的に離れていることから採算性は低い。港湾の収益性向上

のためには、中国資本による相当な梃入れが不可欠と認識している。

図表 18 中国・パキスタン経済回廊構想の阻害要因

① 楽観視できない治安情勢

パキスタン国内は政情が不安定で、テロも多い

② 高い建設コスト

国境地帯は海抜4,000mの厳しい山岳地帯であり、トンネルや橋梁工事のコストは膨大

③ 経済基盤の弱いグワダル地域

グワダルはパキスタンでも、経済が立ち遅れた地域であり、産業が未発達で、英語人材も少

ない。シンガポール企業がグワダル港運営から撤退した後、中国企業が後継に入った経緯あ

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

17

(6) 新シルクロード構想における日中協力の可能性と提案

a.日中協力の可能性

新シルクロード沿線諸国は、日本にとっても経済的に極めて重要な地域であるため、開発案件では、

日中が競合する可能性がある。既に、高速鉄道などの個別案件の受注を巡り競合が激化する兆しがあ

る。また、沿線開発では鉄鋼、セメント、化学品などの資材需要が生まれると見込まれるが、中国企

業が、価格競争力を強みにそれらの需要を取り込んでしまう可能性もある7。

それでも、商務部研究院は、①インフラ建設協力、②技術協力、③金融協力、④環境保全協力の 4

分野で、潜在的な日中協力の可能性があると述べている(図表 19)。日本側にとって、省エネ・環境

技術などの優位性が活かされ、金融協力で大型プロジェクトの実現性が高まるなど、中国との補完性

が期待できる分野においては、中国側の提案は一考に値しよう。

図表 19 新シルクロード構想下における日中の潜在的協力分野

① インフラ建設協力

日中両国は、物流・交通インフラ建設において協力し、関連インフラの建設を共同で行い、新

シルクロードにおける大型物流ルートを開拓していくことを検討することができる

② 技術協力

中国と日本企業はそれぞれの長所を活かし、日本の先進的なマネジメント方法や生産技術を十

分活かして「一帯一路」建設の中で技術協力を行い、新シルクロード沿線市場の共同開拓を共

同で行うことができる

③ 金融協力

金融分野で協力することで両国が共同で地域内の金融危機に対応でき、外部要因による危機・

ショックの被害を 小限に留めることができる

④ 環境保全協力

新シルクロード沿線諸国の多くは発展途上国であるため、経済成長の過程で環境への負荷が避

けられない。日本の経験を参考にし、沿線諸国の発展について環境保全を強化していくことが

重要

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

7 例えば、中国は鉄鋼では、世界の粗鋼生産量の約 50%のシェアを持つほどの生産能力があり、汎用品の価格競争力も

強い。

18

b.商務部研究院からの提案

さらに、商務部研究院は日本に対して、①新シルクロード経済協力協定の早期検討、②幅広い分野

における実務的協力の積極的な模索、③両国間の新シルクロード産業発展連盟づくりの3つの提案を

行っている(図表20)。

現在、アジアの広域FTA 構想としてはRCEP があるが、商務部研究院の提案は、RCEP よりも広範囲

な「新シルクロード FTA」と称すべきものを日中あるいは FTA 交渉を進める日中韓で進めようとする

内容とも受け取れ、新シルクロード開発を機にプロジェクト協力、企業協力など深化させていく提案

となっている。

この提案は、潜在的に新シルクロード開発での協調の余地が大きいとの認識の下、日本に対して連

携を呼びかけているものと受け止められる。

図表 20 新シルクロード構想下における日本への提言

① 新シルクロード経済協力協定の早期検討

日中あるいは日中韓の3カ国の間で経済協力協定を検討すると同時に、新シルクロード沿線諸

国を含むFTAや経済協力協定の締結も合わせて推進していく

② 幅広い分野における実務的協力の積極的な模索

両国間の知識・経験の交流を強化し、両国の長所を擦り合わせる。特に新シルクロード沿線諸

国の経済発展に有益な重大プロジェクトに関して協力を強化する

③ 両国間の新シルクロード産業発展連盟づくり

両国は、双方の企業が産業振興、インフラの発展、サービス業の発展などについて協力してい

くことを支援し、特に、中小企業協力を推進し、中小企業協力開発連盟を設立することを提案

する

(資料)商務部研究院報告書を基にみずほ総合研究所作成

19

3. 後に~中国の新シルクロード構想の注目点~

本稿でみてきた通り、中国の新シルクロード構想は戦略的かつトップ主導で着実に進捗しているが、

課題もまた多い。 後に今般の委託調査を通じて浮き彫りになった構想の注目点について言及したい。

(1) 新シルクロード構想でTPP に対抗

第一に、新シルクロード構想をユーラシア諸国(中国、ASEAN、南アジア、中東、ロシアCIS、欧州

など)の経済連携強化と捉えると、米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)に対抗するために打ち出

された可能性が高いと考えられる点である。

新シルクロード構想は、なぜ主にユーラシアに矛先を向けているのか、商務部研究院は明確な言及

は避けているが、米国主導のTPPとの違いを明確にすべく、環太平洋よりもユーラシアを重視・優先

した結果と捉えるのが自然であろう(図表21)。

TPP は、貿易のみならずサービス分野を主体とする完成度の高い経済連携を志向しているため、中

国は現時点でTPPへの参加はハードルが高いと考えているようである(商務部研究院)。また、中国は

人民元の国際化を目指していることも(前掲図表5)、TPPとは一定の距離を置いている一因と考えら

れる。

そこで、TPP 非参画国が多いユーラシア地域に目を向け、広域インフラ整備による域内の連結性強

化や貿易促進など経済分野を主体とする連携強化を呼び掛けたのが新シルクロード構想であり、それ

を金融面でバックアップするのがAIIBとみることができよう。ユーラシアに矛先を向けた中国にとっ

て、米国と並んで輸出額の約4分の1を占める欧州は何としても取り込みたい市場であり、成長市場

である中国・アジアに目を向ける欧州にとってもメリットがあるという双方の思惑の一致が欧州勢の

AIIB参加にもつながったと考えられる。

図表 21 新シルクロード構想とTPP

(資料)外務省地図を基にみずほ総合研究所作成

環太平洋パートナーシップ協定新シルクロード構想

20

(2) 新シルクロードのカギを握る2つの経済回廊

第二に、新シルクロード構想においては、BCIM経済回廊と中国・パキスタン経済回廊という2つの

経済回廊建設が重要な意味を持つことになりそうだという点である。

現在は、「陸上シルクロード」の建設が先行している。中国は、中国西部と欧州を結ぶ第2ユーラシ

ア・ランドブリッジの建設に注力して中国・欧州貨物鉄道便を既に運用しており、中国南部と欧州を

南回りで結ぶ第3ユーラシア・ランドブリッジの建設も計画している。周辺国と陸続きの大陸国家と

して、地の利を活かした開発を進めようとしているようである。

一方、「海上シルクロード」は、ASEAN、パキスタン、スリランカ、モルディブ、インド、湾岸協力

会議(中東)、南部アフリカ経済同盟(アフリカ)など中国とFTAを締結・交渉している先との連携強

化や、パキスタンなどの親密国の港湾開発を推進する段階に見受けられる。

そこで、重要になるのがBCIM経済回廊と中国・パキスタン経済回廊の開発である。中国中西部内陸

部は外洋に接していないが、これらの経済回廊を構築することができれば、陸上と海上の2本のシル

クロードが連結され(図表22)、インド洋へのアクセスが確保されることになる。そのため、中国は、

2 本のシルクロードをつなぐ 2 本の経済回廊建設に対して、今後より注力していく可能性が高いと考

えられる。

図表 22 「陸上シルクロード」・「海上シルクロード」・経済回廊

(資料)みずほ総合研究所作成

陸上シルクロード

海上シルクロード

経済回廊

21

(%)

順位 AIIB 出資比率 ADB 出資比率

1 中国 29.8 日本 15.7

2 インド 8.4 米国 15.63 ロシア 6.5 中国 6.54 ドイツ 4.5 インド 6.45 韓国 3.7 オーストラリア 5.86 オーストラリア 3.7 カナダ 5.37 フランス 3.4 インネシア 5.28 インドネシア 3.4 韓国 5.19 ブラジル 3.2 ドイツ 4.3

10 英国 3.1 マレーシア 2.7

(3) 新シルクロードのカギを握る 2つの地域大国

第三に、中国主導ながら「陸上シルクロード」開発ではロシア、「海上シルクロード」開発ではイン

ドの協力が不可欠になると考えられる点である。

「陸上シルクロード」の根幹をなすのはユーラシア横断貨物鉄道となる。しかしながらユーラシア

で広大な貨物鉄道を先行して構築したのはロシア(旧ソ連)であり、軌道幅は「広軌」となっている。

「標準軌」の中国とロシア準拠の中央アジア、モンゴル、東欧などの間で軌道が共通化されておらず、

複数回の台車交換が必要なことが、物流上の大きな障壁となっている。

また、ロシアは、そもそも国内に第1ユーラシア・ランドブリッジであるシベリア鉄道を擁してい

るため、第2・第3ユーラシア・ランドブリッジを重視する中国は、新たな競合者という側面もある。

現在中央アジア諸国やモンゴル国内には、従来通りロシア準拠の「広軌」を利用すべきという声と、

中国準拠の「標準軌」を新設すべきという声の両方の意見がある。ウクライナ問題などで米欧と対峙

するロシアは、現在は中国と協調する姿勢を強めているが、「陸上シルクロード」構想を巡っては中露

との駆け引きもみられ、中国とロシアがどこまで協力するかが構想の成否のカギを握っているといえ

る。

また、「海上シルクロード」で中国は、シーレーンの要衝であるインド洋へのアクセスを強化するこ

とを重視しており、ここでは地域大国であるインドとの協調が求められよう。2015年1月の政権交代

が起きたスリランカ(詳細次頁)に対しては、インドが急接近するなど中印の駆け引きが垣間みられ

る。中国とインドが、国境の領土問題を抱えたままであることも気掛かりである8。

もっとも、ロシアとインドは共にAIIBの原加盟資格保有国となり、インドは2位、ロシア9は3位

の出資国となることが確定した(図表 23)。金融面で中印露の協調の枠組みが整いつつある点は、

win-win関係構築に向けた大きな一歩と捉えることはできそうだ。

図表 23 AIIBとADB の出資比率上位10 カ国

(資料)中国財務相およびADB

8 中国・インド間には、中国が実効支配するカシミール地域の帰属問題などが残っている。なお、中国・ロシア間は、

国境のウスリー川の川中島の帰属を巡って対立していたが、2004年にロシアと中国で川中島を半々に割譲することで

解決した。 9 ロシアは、出資比率が優遇されるアジア諸国としての扱いが認められた。

22

海上シルクロード

経済回廊

(4) 大のリスクは新シルクロード沿線国・地域の治安

第四に、新シルクロード構想の 大の障壁となるのは、沿線地域の治安問題と中国が捉えている点

である。

実際、シルクロード沿線の治安状況は、始点の中国東部沿海部と終点の欧州は良好であるが、その

中間地域を繋ぐ陸上と海上の新シルクロード沿線地域は、総じて治安面での懸念が高い地域である(図

表 24)。中国が「陸上シルクロード」と「海上シルクロード」を連結させるための 2 本の経済回廊も

また、危険地帯を内包している。インフラ開発が大型化、広域化するほど、民族・宗教・分離独立紛

争によるテロなどで、事業が頓挫する懸念は拭えない。

さらに、商務部研究院は、政権交代による政策変更もリスクとして挙げている。政権交代リスクが

顕在化した例としては、スリランカが挙げられよう。前述の通り、2014年9月に習近平国家主席はス

リランカを訪問した。「海上シルクロード」の要衝に位置するスリランカのラージャパクサ大統領(当

時)は、中国重視の姿勢で知られており、中国とスリランカの両国は、戦略的パートナーシップ協定

を深化させるアクションプランに署名(前掲図表 3)し、経済連携強化をより深めることで合意して

いた。ところが2015年1月の大統領選で、ラージャパクサ氏は、突如反旗を翻した元側近のシリセナ

氏10に敗れ失脚した。シリセナ新大統領は中国重視を改め、先進国やインドとの関係も重視したバラ

ンス外交を行うとみられており、スリランカの対中外交姿勢は変化する可能性が出ている。

スリランカでの事例を踏まえると、相対的に政変リスクの高い地域でプロジェクトを円滑に進める

のことができるか否かが、新シルクロード構想開発を進めるうえでの重要課題の一つといえるだろう。

図表 24 新シルクロード沿線国・地域の治安状況

(注)危険度が高い:赤(濃)⇔危険度が低い:白(淡)。

(資料)外務省「海外安全ホームページ」

10 前保健相。

23

(5) 日本は中国の提案を受けるのか

後に、中国は、新シルクロード開発への日本の参画に対して、オープンかつポジティブな姿勢を

みせている点である。 商務部研究院は、日中の新シルクロード経済協力協定の早期検討を提言している(前掲図表 20)。

中国としては、日中の2国間協力の延長線上として、新シルクロード全域における貿易・投資促進に

おいても日本の合意を得たいという思惑があるようにもみえる。中国は、日本が経営の透明性に懸念

が残ることなどから発足時には見送ったAIIB(前掲図表23)に対する出資11についても、引き続き受

け入れたいという意向を示している。

2015年6月に北京で開催された日中財務相対話では、「両大臣は、両国がアジアにおける2大大国

として、東アジアにおける金融協力をさらに推進することを表明する。両大臣は、共通の利益に基づ

いて、開発金融機関との協調も含め、アジアのインフラ建設を推進する」という点では一致をみたよ

うである。前述の通り、年間約8,000億ドル(約100兆円)規模と見込まれる膨大なアジアのインフ

ラ需要を取り込むに際し、特定分野では受注を巡って日中が競合する場面は避けられないと考えられ

るが、市場自体は巨大であることから、中国の呼びかけに応えて協調する余地はありそうだ。

一方、中国国内に目を転じると、新シルクロード構想は成長モデルの転換を迫られる中国にとって

の新成長戦略という意味を持つ。東部沿海部の人件費高騰を受けて、中国における内外資企業は、相

対的に人件費の割安な中西部内陸部への移転を進めている。中西部内陸部はこれまで地理的な制約か

ら対外貿易には不利だったが、「陸上シルクロード」開発を通じて、欧州向けの貿易は一層の拡大が

期待できる。さらに、中西部内陸部と東部沿海部間の物流網整備も進むことが期待され、長期的には

BCIM 経済回廊と中国・パキスタン経済回廊を通じたインド洋へのアクセス開通も期待し得る。また、

「海上シルクロード」開発を通じて、中国と ASEAN・南アジア・中東・アフリカ諸国の FTA のアップ

グレードやインフラ整備が進んで、東部沿海部企業の海外展開もまた急増していくと見込まれよう。

それと共に人民元の国際化が漸進的ながら進んでいくと見込まれる。これらの好循環が続けば、中長

期的に、シルクロード構想が中国経済を下支えする効果は期待できよう。

本稿でみてきた通り、新シルクロード構想は、声掛けレベルにとどまるものではないと考えられる。

2030 年12頃までを見据えた中国の長期戦略と捉えるべきだろう。新シルクロード沿線諸国も、構想を

ポジティブに捉えており、AIIB に 57 カ国が賛同したことはその証左であろう。日本企業は、新シル

クロード開発を通じて、中長期的に中国の影響力・経済力が周辺国まで拡大していく可能性が高いこ

とを念頭に置いたうえで、一段高い視座に立って中国ビジネスに取り組む必要があろう。

11 日本は、ADBの筆頭出資国となっている点を重視したこともAIIB出資を見送った一因である。 12 全体計画の時期は明確にされていないが、例えば、中国・パキスタン経済回廊の完成は2030年となっている。

24

資料編(商務部国際貿易経済合作研究院)

「中国政府が新シルクロード構想を打ち出した目的」

1.新シルクロード構想の概況

(1)新シルクロード構想の提出

中央アジアを中心とした「陸上シルクロード」計画や東アジアへ通じる「海上シルクロード」計画

といった新シルクロード計画は、中国の経済発展および外交事業にとって非常に重要な戦略的構想で

ある。「陸上シルクロード」は、古代シルクロードを基にして作られた新たな経済発展エリアである。

「陸上シルクロード」は、東はアジア太平洋経済圏をけん引し、西は欧州経済圏とつながっており、

世界で も長く、 も発展の可能性を持った経済大回廊と目される。

2013年、習近平国家主席は、中央アジアを訪問した際に「陸上シルクロード」の共同建設という戦

略的構想を正式に提唱した。「陸上シルクロード」構想には、政策面でのコミュニケーション、道路の

相互通行、スムーズな貿易、貨幣の流通、互いに通い合った国民の心という点の強化から着手し、東

は西太平洋沿岸から西はバルト海まで、ユーラシア大陸を跨ぐ新たな経済共同体を形成することを提

唱している。中国政府が大陸を超えた経済協力一体化に向けて具体的な構想を提示したのはこれが初

めてであった。

その後、習近平国家主席は、インドネシアで行った国会演説において「中国‐ASEAN 共同体」およ

び「海上シルクロード」建設という戦略的構想を発表した。

a.「中国の夢」外交戦略構想を効果的に進化させるのに必要

「陸上シルクロード」と「海上シルクロード」という戦略的構想は、習近平国家主席が提唱する「中

国の夢」戦略の規模をよりマクロ的、合理的に延長・拡大させたものである。「中国の夢」は経済分野

においては明確な基準があるものの、外交面では今なお明確にされていない部分が存在する。

米中関係に関して「新型の大国関係」という理念を打ち立てることは、「中国の夢」戦略における外

交構想の第一歩とみなすことができ、「陸上シルクロード」と「海上シルクロード」は、「中国の夢」

戦略における外交構想を、さらに進化させたものとみなすことができる。

b.中国とシルクロード沿線諸国の共同繁栄・発展に必要

国家の利益は国際関係を決定づける要素であり、国家間の共同利益は国際協力の基礎である。新シ

ルクロードを沿線諸国と共同で建設することは、中国とシルクロード沿線諸国の共通利益となってい

る。「陸上シルクロード」はユーラシア大陸の7,000キロメートル以上に跨っており、その中に多数の

国家が含まれ、沿線諸国の総人口は30億人近くにのぼる。「陸上シルクロード」沿線諸国のほとんど

は欧州経済圏とアジア太平洋経済圏という2つの経済発展地域に挟まれた陥落地帯で、その地域全体

で両端の経済力が高く、中間の経済力が低いという現象が存在する。経済の発展と美しい生活の追求

は、国と民衆にとってごく当たり前の願いである。「陸上シルクロード」建設は、沿線諸国間の経済連

携を強化し、各国の総合的な国力アップに役立つ。

25

「海上シルクロード」は、秦王朝・漢王朝が登場して以来、東洋と西洋をつなぐ重要な交通回廊と

して商業貿易を繁栄・発展させる貴重なルートとされてきた。現在、中国とASEANは世界 大の発展

途上国FTAを形成しており、「海上シルクロード」の共同建設、グレードアップしたFTAの大々的な推

進、「政策面でのコミュニケーション、道路の相互通行、スムーズな貿易、貨幣の流通、互いに通い合

った国民の心の促進」などは、すでに沿線諸国の国民の共通の願いとなっている。

c.中国政府が世界経済の繁栄を促進させ、エリア経済の一体化を推進させるのに必要

新シルクロード構想は、中国政府が世界経済の「開放、自由、協力」を継続していくことを主旨と

して世界経済の繁栄を促進させるという新たな理念を表したものであり、また中国とシルクロード沿

線諸国との協力においてその他のエリアに恩恵を与え、関連地域の経済一体化をリードするという新

たな考え方を非常に強く示したものでもある。 さらに、中国が世界経済の繁栄を導く戦略の立場に立って、中国と沿線諸国との協力における地域

を跨いだ効果を強く推進させるための新たな手段でもある。 現在、世界経済の情勢は、依然低迷状態で、様々な形で貿易保護主義の動きが台頭と衰退を繰り返

しており、貿易保護主義の流れを避け、地域経済の一体化を進めることが世界経済のバランスよい成

長を促進させる重要な方向性となっている。 中国政府は新シルクロード構想において、貿易保護主義を求めないという基本的な立場をとってい

る。それだけでなく、中国は市場経済主導の下で世界経済が繁栄し、各国政府が自由貿易の原則に則

って世界市場の開放や生産要素の合理的移動を今後も推し進めていくことを高く評価しているのであ

る。

d.中国が経済発展の余地を拡大させ、双方向の発展のバランスを促進させるのに必要

新シルクロード建設は、中国政府が世界発展の大きな動きを深く洞察した上で、中国の国情に立脚

して打ち出した重要な戦略的政策である。現在、中国の発展には地域のバランスにも気を配りつつ、

経済的利益を生み出す新たな要素の開拓にも力を入れることが必要となっている。「陸上シルクロード」

を建設すれば、経済力の比較的低い西部地域を新たな発展地域とすることができるようになる見込み

があり、中国が中西部の改革・開放を推進するペースを大幅に引き上げ、エリア経済の調和・発展を

促進させることができるだろう。

「陸上シルクロード」建設の提案は、中国が伝統的な対外経済貿易方針を、東部海路偏重型から東

部海路と中西部陸路の両方がバランスよく発展し、ユーラシア大陸内地向けの開放戦略を実施してい

くという流れへ変更する方針を意味し、21世紀のユーラシア大陸ひいては世界経済の構造に重大かつ

深遠な影響をもたらすものと思われる。

また、「海上シルクロード」づくりは、中国と「海上シルクロード」沿線国が海上運輸・海洋エネル

ギー・経済貿易・科学技術イノベーション・生態環境・人文交流などの分野でオールラウンドな協力

を実施するのに有益であると同時に、中国の経済発展戦略の可能性を大きく広げ、中国経済が継続的

に安定して発展する上で強力な支えとなるだろう。

26

e.中国と沿線諸国が良好な周辺政治・国防・民族環境を築くのに必要

周辺国は我が国の外交において も重要であり、新シルクロード建設という戦略的構想では、新し

い情勢でも継続して平和・発展、協力・win-win を高く掲げるだけでなく、世界平和を守り、共同発

展を促進することに揺るぎなく力を入れていくという戦略的選択でもある。中国の西北地域と「陸上

シルクロード」沿線国は、民族要素や信仰する宗教、言語や民族習慣も似通っており、血縁関係も近

いなど、民族や宗教、文化などの間で互いに強い共感を覚えるところが多い。

「陸上シルクロード」建設は、中国と関係国との政治や対テロ安全協力、「三つの勢力」(テロ、分

離独立運動、宗教過激派勢力)撲滅、国際テロリズムの中国・中央アジアへの浸透防止を共同で進め

ていくほか、中国と中央アジアとの境界地域の安定を共同で守ったり、エリアの経済・社会の安全を

促すことに役立つ。

「海上シルクロード」建設は、中国-ASEAN間が新たな協力分野を開拓し、互恵的協力を深化させる

上で戦略的に合致するポイントとなり、論争を棚上げにしたり、共通認識を強めたり、wi-winの協力

関係構築を進めるのに役立つほか、平和で安定し、繁栄・共同進展できる周辺環境の構築を推し進め

るのにも役立つだろう。

(2)習近平国家主席がアジア4カ国を訪問した意図

2014年9月11日から19日まで、習近平国家主席はタジキスタンのドゥシャンベにて行われた上海

協力機構加盟国首脳会談第14次会議に招かれてタジキスタン、次いで、モルディブ、スリランカ、イ

ンドを公式訪問した。これにより、中国の隣国との友好協力の新たな幕が開き、「一帯一路」建設の新

たな道のりがスタートした。

中央アジアと南アジアはユーラシア大陸の中核地帯に位置し、中国にとっての安全保障面の防御壁

であると同時に、中国が西へ開放を進める方向でもある。上述のアジア4カ国はいずれも古代におけ

る「陸上シルクロード」・「海上シルクロード」の重要な沿線国であり、歴史的にも長きにわたって中

国との交流を行ってきた。経済的にも中国の利益と深く融合しており、「陸上シルクロード」や「「海

上シルクロード」建設を共同で進める上での重要なパートナーである。

これら4カ国の中には、インドのように12億人以上の人口を有する大国もあれば、モルディブのよ

うに人口がわずか33万人しかいない小さな島国もあるほか、イスラム教や仏教、ヒンズー教などそれ

ぞれ異なる宗教を信仰しているなど、国情や文化は全く異なる。しかしどの国も平和と発展という共

通の夢を持っている。習近平国家主席は、今回の公式訪問で中国国内および対世界という2つの大局

に立ち、地域の持続的平和と共同繁栄に着目し、「一帯一路」構想を通して各国の国民の美しい夢を互

いにつなぎ合わせ、各国が協力して壮大な発展計画について議論し、平和・安全を促進し、夢を発展

させようと考えているのである。

27

a. 上海協力機構の健全な発展を推進

上海協力機構は地域国家の安全を守り、共同発展をしていく上で、また中国の発展と中央アジア諸

国関係においても重要な機構であり、今まさに発展を拡大させる重要な段階にある。

現在、世界および地域情勢は日増しに複雑化・多変化している。宗教では過激主義や分離独立主義

者、テロリズム(三つの勢力)による脅威が拡大するなど、中国と地域国家は共に共通の脅威・難題

に直面しており、団結・協力を強化したいと考えている。

ドゥシャンベサミットの主要任務は、新たな情勢下における上海協力機構の健全な発展を推進する

ことであった。習近平国家主席は、本機構の発展に対する中国の意見を述べ、加盟国に対して運命共

同体・利益共同体という意識をしっかりと確立させ、「三つの勢力」の撲滅を協力して強化し、地域の

安定・主権の安全を守り、相互の連携や交通・輸送の利便化、貿易・投資の一体化、融資保障メカニ

ズム構築などを大々的に推進することなどを強調した。

b. アジア4カ国との関係を新たなレベルへ引き上げる

中国とインドは共に古代文明を有し、共に 大の発展途上国および新興市場国である。両国間の友

好交流の歴史は長く、共に民族の復興という歴史の中にあり、また世界の多極化が進む中で重要な支

えとなっている国である。中国・インド両国の指導者は、歴史の深層部分や全方向から中国・インド

関係の戦略的意義と世界への影響を強調しており、両国の友情の絆をしっかりと伝え、発揚し、協力

を中国・インド関係の主軸とすることを決定した。 両国はまた、戦略的パートナーシップの内容をより充実させていくためにさらに緊密なパートナー

関係を築くことも決定した。両国、地域、世界という三つの側面から協力を深め、両国および発展途

上国の共同利益を保護し、国際政治、経済秩序がより公正かつ合理的な方向へと発展していくよう推

し進めていく。両国は、今後も友好的話し合いを通して境界問題の解決をはかり、境界地域の平和・

安全を共に保護していくつもりである。 習近平国家主席はタジキスタン、モルディブ、スリランカの指導者とそれぞれ両国関係についてト

ップダウン設計と戦略的プラン作りを進め、三カ国が選択した政治制度や発展の道をしっかりと支持

し、互いに相手国の核心的利益や重大かつ注目度の高い問題について支援しあうことを再度表明し、

中国は三カ国と発展の経験や発展によって手に入れた利益を共有することも強調した。 中国・タジキスタン間では、戦略的パートナーシップ共同声明をさらに発展・深化させ、今後5 年

の発展計画を制定することを発表した。中国・モルディブ間では将来に向けた全面的な友好パートナ

ーシップを初めて樹立した。そして中国・スリランカ間では戦略的パートナーシップを深化させるア

クションプランに署名した。これらはいずれも中国が三カ国との関係を発展させていく上での基盤と

なり、また方向を指し示すものとなる。習近平国家主席はインドで南アジア地域に向けた政策演説を

行い、新時代における中国の対インド・南アジア政策および南アジア諸国との協力強化に関する重大

措置について述べつつ、中国は南アジア諸国と仲良くし、「一帯一路」を両翼として南アジア諸国と共

に飛躍的に発展していきたいと強調した。

28

c. 「一帯一路」戦略的構想の推進

習近平国家主席が昨年「一帯一路」建設を提唱すると、周辺国や国際社会から次々と同意・支持が

得られた。それから一年が経ち、「一帯一路」は理念設計や全体的枠組みから戦略計画の完成に至るま

で、すでに実務的協力を行う段階に入っている。中国は沿線国とともに中国-中央アジア-西アジア、

新ユーラシア・ランドブリッジ、中国・モンゴル・ロシア三大経済回廊構築に力を入れ、「海上シルク

ロード」という新航路の開拓・推進を行い、インフラの相互連携やエネルギー、金融、民生などの分

野における互恵的協力の強化を重点的に行っていく。

習近平国家主席の今回の歴訪は、「一帯一路」建設における見事な「ロードショー」であり、「一帯

一路」と関係国の発展戦略とを深く結びつけ、中国の優位産業と4カ国の地政学的メリットおよび発

展のニーズを緊密に結びつけるものとなった。中国・タジキスタン間では中国-中央アジア天然ガスパ

イプラインDラインの建設がスタートし、タジキスタンのエネルギー供給・交通運輸・食糧安全問題

という発展における三つのボトルネック解決に向けた協力を行っていく。

また、中国・モルディブ間では海洋安全、インフラ建設、観光および民生分野での協力を強化し、

気候変動に関する問題に協力して対応していく。

中国・スリランカ間では両国間自由貿易交渉がスタートし、港湾建設・運営の推進や港に隣接した

工業団地建設を重点的に推進していく。

中国・インド間ではバングラデシュ-中国-インド-ミャンマー(BCIM)経済回廊建設を積極的に

研究・推進するほか、中国の優位性を活かしてインドの鉄道の改造・アップグレードを行い、工業団

地建設を実施していく。

これらは、国の経済や国民の生活に関わる重大なプロジェクトであるため、地元政府や市民からも

歓迎・支持されており、また中国企業や技術設備の「走出去(対外進出)」のペースアップも導いてく

れる。歴訪期間中、中国が4カ国と署名した提携協定は60項目以上にのぼる。「一帯一路」はアジア

諸国をより緊密に結びつけてくれるものとなるだろう。

d. アジア経済の持続可能な発展の促進

現在、中国はすでにカザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンなどの中央アジア諸

国にとって第二の貿易パートナーとなっており、また中央アジア諸国にとって重要な投資源国となっ

ている。

南アジアを例にとると、モルディブでは中国からの観光訪問客が4年連続で同国 大となっており、

両国は経済貿易や観光などの分野において大きな潜在的協力能力を有している。スリランカでは、中

国は第二の貿易パートナーであり、第二の輸入相手国であるほか、中国・スリランカFTA交渉につい

ても現在進行中である。

習近平国家主席のアジア4カ国歴訪は、「陸上シルクロード」および「海上シルクロード」建設をサ

ポートし、また沿線諸国に発展の新たなエネルギーを注入するものとなった。これらの国は「一帯一

路」建設の中でも重要な役割を担うことになるだろう。中国とアジア4カ国は「陸上シルクロード」

29

の共同建設を契機に、石油・ガス、電力、経済貿易、交通インフラ建設などの分野での協力を強化し、

相互連携・相互通行のレベルを高め、アジア経済の持続可能な発展を共同で推し進めていく。

e. 中国企業の「走出去」を促進

中国の指導者が提案した「陸上シルクロード」および「海上シルクロード」建設という戦略構想は、

中国企業が海外市場を開拓し、海外で経営を行う上での強力な推進役となり、また大きなチャンスと

なるだろう。現在、中国資本企業は、モルディブのフルマーレで同国史上 大規模の民生プロジェク

トであるフルマーレ・ニュータウン建設プロジェクトを請け負っている。また、スリランカでは初の

石炭火力発電所であるノロチョライ石炭火力発電所三号機建設を請け負っている。

「一帯一路」建設が深まるにつれて、今後中国と沿線国との貿易・投資はさらに急ピッチかつ大幅

に増加すると思われ、巨大なビジネスチャンスが生まれる可能性を秘めている。海外での中国資本企

業のビジネス成功は、「一帯一路」戦略構想づくりの実施に有益となるだろう。また、「一帯一路」戦

略構想づくりの推進は、中国企業の「走出去」の歩みを促進するのにも有益となるだろう。

30

2. 新シルクロード構想と既存の対外貿易政策との関連性

(1) FTAとの関係

a. FTAは新シルクロード建設にとって重要な足がかり

新シルクロード建設の内容は、インフラ建設の相互連結やエネルギー分野での協力、投資貿易の相

互連携・相互通行だけでなく、FTAの設立を通じた協力の推進など多岐にわたる。

FTA の設立を通じて、ある地域に特別な関税政策や金融支援、外国企業管理方法などを提供すれば

発展の基礎を育むことができ、その後点から面へと拡大させ、新シルクロード沿線国の急速な発展を

促すことが可能となる。FTA が新シルクロード建設にもたらす効果を具体的に挙げると次のようなも

のがある。

(a) 地域内貿易の成長を促し、各国が新シルクロード建設を共同で進めるにあたっての協力基盤を固

めるのに役立つ

FTA の発効は、地域内全体で高効率な分業体制をもたらし、各国の経済発展を促すほか、貿易・投

資規模の拡大や開放レベルの向上など、新シルクロード建設における経済基盤を固めてくれるだろう。

(b) 地域経済の一体化に対する反対の声を抑制し、シルクロード建設を保障する

一部の国の貿易保護主義により地域の発展が阻害されることがあり、国家協力、地域協力があって

はじめて世界経済における主導権を握ることができる。

FTA の発効は、新シルクロード沿線国が地域経済協力の波の中で孤立するという局面を変え、東ア

ジア・中央アジア・南アジアなどでEUや北米自由貿易協定(NAFTA)とのバランスを保つのを助け、

シルクロード建設を保障するものとなるだろう。

b. 新シルクロード建設はFTAの推進を後押し

新シルクロード構想は、中国とその他の国との経済貿易を推進し、中国経済の対外開放レベルを高

め、FTA に関する交渉や設立の歩みを加速させるのに役立つだろう。新シルクロード建設は、具体的

には次の三つの方面においてFTA発効に有利な状況をもたらす。

(a) 新シルクロード建設は国家間の関係を縮め、FTA発効の環境を整えるのに有益

新シルクロードは「政策のコミュニケーション、道路の相互通行、スムーズな貿易、資金の流通、

互いに通い合った国民の心」の強化を通じて実務協力を全面的に強化する。

政治関係や経済の相互補完に関する優位性を実務協力、継続的成長の優位性へと転化し、互恵的

win-win の「利益共同体」をつくり、新シルクロード沿線各国が「共に発展し、繁栄する良きパート

ナー」となり、そこから新型地縁経済グループへとつながっていき、新興国の台頭や世界経済の発展

にとっての力強い支えとなることを促す。新シルクロード建設は、各国の経済貿易関係をさらに近づ

ける橋渡しとなってFTA形成に有利な条件を提供してくれるだろう。

31

(b) 新シルクロードは地域経済一体化構造を形成し、各国におけるFTA発効の需要を高めるのに有益

第1に、交通・通信・エネルギー・産業の一体化に役立つ。交通に関しては、新ユーラシア・ラン

ドブリッジという広域交通インフラ建設ですでに大きな進展を見せている。江蘇省の連雲港と新疆ウ

イグル自治区のホルゴスなどを結ぶ幹線道路が竣工しているほか、精河-グルジャ市-ホルゴス(いず

れも新疆ウイグル自治区内)などを結ぶ鉄道プロジェクトも着実に進んでいるなど、基本的に点と線

とのバランスがとれ、スムーズな通行が可能な中央アジア輸送ネットワークが形成されている。

通信面に関して、中国は中央アジア国家と非常に強い相互補完性を有している。例えば、中国は世

界 先端レベルの通信設備・技術を有しており、経済のモデルチェンジの過程にある中央アジア諸国

では現在電信業界の私有化や現代化が全面的に推し進められており、中国と中央アジア諸国は通信・

情報サービス分野において非常に強い協力意識を持っている。

また、エネルギー協力も新シルクロード建設を促進させる上で重要であるが、中国・カザフスタン

間および中国・トルコ間石油天然ガスパイプライン敷設工事はいずれも大きく進展している。そのほ

か、産業面では、中国と中央アジア諸国の産業の比較優位や分業の見通しが立ちはじめるなど分業協

力の動きが強まっており、非常に大きな発展の可能性を秘めている。

第2に、貿易の一体化を実現させるのに役立つ。輸出市場振興のため、中国は必ず潜在力のある新

たな海外市場を探し出さなくてはならず、新シルクロード沿線国はまさに貿易の潜在力を持った巨大

な新興市場である。それと同時に、新シルクロード建設の中で交通インフラが完備されていくにつれ

て各国の交通レベルも明らかに高まるため、貿易コストも著しく下がるはずである。これも貿易の一

体化にとって強固な基礎となる。 第3に、金融の一体化を実現させるのに役立つ。新シルクロード建設は金融支援と不可分の関係に

ある。中国と欧州、アジア各国はいずれも経済のモデルチェンジまたは構造改革の重要な時期にある。

新シルクロード建設は各国の金融協力を強化し、地域内の資金流動をよりスムーズに、金融サービス

をより便利に、各国の資源移動をより簡単にし、流通コストを引き下げてくれるだろう。

(c) 新シルクロード建設は政治面での相互信頼を強化し、自由貿易づくりの環境を整えるのに有益

現在の世界において日増しに強まる市場化改革の動きは地域経済の深化・協力に体制的基盤を提供

している。多くの国が、地域経済グループに入らなければ、世界経済は市場化改革の中で新たな活路

を見出すことはできないと認識している。新シルクロードは、地域経済の大規模な協力を行うという

構想である。力を入れる方向は主に経済分野に集中しているが、経済は政治の基礎であり、経済関係

の深化や経済依存度の強化は必ず政治面での相互信頼を強め、政治関係に調和をもたらしてくれるは

ずであり、FTA発効に良好な政治的環境をもたらすだろう。

32

補論:中国-中央アジアFTA発効の促進に対する「陸上シルクロード」の重要な役割

中国は製造業や陸橋建設などインフラ建設面で明らかな技術的優位性を持っている。一方、中央ア

ジア諸国は豊富な自然資源を有しているため、双方は大きな協力の可能性を秘めている。このよう

な背景の下、「陸上シルクロード」という概念が提出されたことで中国と中央アジア諸国の協力が大

幅に促進され、中国-中央アジアFTA発効にも大きな影響を与えるだろう。

第1に、中央アジアは「陸上シルクロード」が必ず経由する地域であり、中国-中央アジアFTAの

設立における地理的メリットは明らかである。現在、経済のグローバル化や地域経済の一体化が急

速に進んでいる中、「陸上シルクロード」建設が完備されていくにつれて、新ユーラシア・ランドブ

リッジの価値も日増しに高まりつつある。中国は、新ユーラシア・ランドブリッジを利用して中央

アジアを経由して欧州へ向かうことができる。また中央アジア諸国も、中国を経由して東アジアや

太平洋地域へと向かうことができる。新ユーラシア・ランドブリッジは中国と中央アジア諸国の経

済回廊であり、またアジア-欧州間貿易における重要な交通路でもあるため、中国と中央アジア諸国

の地域経済協力を推し進めることができ、中国-中央アジアFTA発効に向けた土台になっている。 第2に、「陸上シルクロード」建設は中国と中央アジアに貿易分野での協力環境を提供する。中国

と中央アジア諸国は経済構造や経済総量での差が大きく、明らかな相互補完性を持っている。中央

アジア諸国は石油や天然ガスなどエネルギー資源を豊富に有しているが、世界経済との連結度が低

いため、これらの資源を商品化して国の経済づくりに必要な資金にあてることができない。また、

中央アジア諸国の大部分は資源性製品の生産を主としており、中国に対する生活用品の依存度が高

い。一方、中国はエネルギー資源の大部分を輸入に頼っており、その需要は日増しに増加している。

また、中国は生活用品が豊富にあるため、中央アジア諸国の既成品不足問題を解消させることがで

きる。このように、中国と中央アジア諸国は貿易分野において巨大な協力の可能性を有している。

しかし現在、中央アジア5カ国内部の平均関税が1.6%なのに対して、中国からの輸入品に対しては

6.5%の関税が設けられている。これに対して、中国が中央アジア5カ国に対して設けている輸入関

税は平均4.4%と、中央アジアは中国に対して高い貿易障壁を設けており、双方間貿易を行う上で不

利であることは明らかである。「陸上シルクロード」建設が進むにつれて、徐々に関税障壁も取り除

かれていき、中国と中央アジア諸国の貿易規模が拡大し、win-win関係が実現できると思われる。

第 3 に、「陸上シルクロード」建設は調和のとれた周辺環境を築くのにも有益であり、中国-中央

アジア FTA 発効を保障してくれる。中国西部の新疆ウイグル自治区と中央アジア諸国には 3,000km

以上にわたる共同境界線があり、古来より新疆ウイグル自治区の平和・安定は中央アジア地域情勢

と密接に関わってきた。現在中国が急速に平和に向かっている中、新疆ウイグル自治区は今なお治

安問題を抱えている。「陸上シルクロード」建設は、中国と中央アジア諸国民の友好的往来、相互理

解と伝統的友情の深化を助け、FTA建設を進める上で頑丈な民意的・社会的基盤となるだろう。

33

(2) 人民元の国際化との関係

a. 人民元の国際化は新シルクロード建設にとって必然の要求

貨幣の流通およびそれに関連する金融体系構築の強化は、新シルクロードを建設する上で重要な構

成要素であり、人民元の国際化に対する支持と切り離すことはできない。具体的には、人民元の国際

化は新シルクロード建設の中で次の三つの役割を果たす。 第1に、為替リスクを予防・低減し、地域貿易・投資の自由化および利便化を促進する。新シルク

ロード沿線諸国が貿易を行う際に人民元を用いて決済を行えば、ドルをはじめとする現在の国際準備

通貨の為替レートが大幅に変動するというリスクを回避するのに役立ち、周辺諸国の商業銀行に対し

てより多くの外貨支払いの選択肢を与えることができる。単一通貨の外貨資金によるリスクを下げる

ことは、貿易国双方が第三国の通貨を用いて決済を行う場合に発生する為替コストを引き下げるのに

も有益であり、新シルクロード周辺において共同で統一された大規模な市場を構築し、より自由で開

放的な多国間貿易体系づくりをすすめ、win-win関係の実現が可能となる。

第 2 に、中国のオールラウンドな対外開放という新たな構造の形成を促進させる。第 18 期三中全

会での「決定」の中で、「『陸上シルクロード』および『海上シルクロード』建設を推進し、オールラ

ウンドで開放的な新たな構造を形成させる」と明確化された。シルクロード主要地域である中国とユ

ーラシア大陸の中心地帯とのクロスボーダー取引で人民元決済を行えば、中国の金融市場や資本市場

のさらなる開放が促進され、中国内地、沿海、西部および東部の開放を同時に進める新たな対外開放

の構造の形成が早まるはずである。

第3に、中国の金融体系を健全化し、金融機関の収益力を高めることができる。中国の銀行がクロ

スボーダー人民元決済業務を行うことで、その他の業務収入も増え、銀行の資産・負債構造の 適化

やリスク管理レベルの向上、中国の銀行業界の収益性向上などにプラスに働くだろう。

b. 新シルクロード建設が人民元の国際化を加速化

人民元の国際化を進める主要な目的は、外部の不利なショックを防ぎ、中国経済の持続的発展を維

持し、人民元の国際的地位と中国経済の発展がマッチした国家戦略を実現させることである。人民元

は中国の周辺諸国・地域ですでに幅広く受け入れられているとはいえ、人民元の国際化はいまだ初期

の発展段階にあるため、新シルクロード建設というチャンスを逃さず大々的に推し進める必要がある。

新シルクロード建設は、次に挙げる三つの面で人民元の国際化を促進する。 第1に、人民元を利用して投融資を行うのに有利である。中国はインフラや民生プロジェクト建設

に関して世界でも高い水準を誇り、シルクロード沿線諸国・地域の実際の経済発展の需要に応じて、

重大プロジェクトをよりどころとしてプロジェクトファイナンスや直接融資および金融協力を促進さ

せることができる。例えば、中国の高速鉄道技術が持っている低い製造コストと短い建設期間という

特徴は、世界規模でみても有利である。中国は、「陸上シルクロード」諸国・地域に高速鉄道建設プロ

ジェクトを提供し、それと同時に人民元融資を提供することで人民元の海外流通を促進させることが

可能である。

34

第2に、人民元を利用した決済を行うのに有利である。上海協力機構設立以来、中国とその他5カ

国の貿易は飛躍的に成長した。元々上海協力機構加盟国とロシアの経済貿易関係は比較的緊密であっ

たが、現在一部の国と中国との貿易はすでにロシアとの貿易を上回っており、中国はこれらの国にと

って 大の貿易相手国となっている。新シルクロード建設が進んでいくにつれて、周辺国家と中国と

の貿易協力はさらに緊密になると思われるため、ルーブルやユーロ、ドルなどを利用して決済する必

要がなくなる。一方、新シルクロード周辺国にとって、中国との貿易でドルを獲得することは非常に

不利である。そして、中国が人民元を利用して計算・決済すれば為替の変動を避けることができ、そ

れによりwin-win関係を実現させることもできる。 第3に、人民元のオフショア市場づくりに有利である。人民元が海外へ流通して以降、人民元の通

貨機能を発揮させ、価値の維持・向上を行い、現地または第三者が使用する通貨にするため、国内の

政策による統制を受けず、比較的自由な人民元オフショア市場を設ける必要が出てきた。新シルクロ

ード建設は中国が主導する国際貿易の新たな秩序であり、人民元オフショア市場設立のための環境を

提供してくれる。例えば、中国はカザフスタンとの国境に比較的大規模なホルゴス・オフショア市場

を設立しているが、これは中央アジアで一定の影響力を持っており、中国資本金融機関の「走出去」

を促進させ、人民元の国際化を加速させる上で重要な役割を果たしている。

(3) アジアインフラ投資銀行(AIIB)との関係

a. AIIBは新シルクロード建設を保障する重要な存在

AIIBは、新シルクロード建設のための金融面での保障を提供し、地域間の相互連携・相互通行や経

済の一体化を促進してくれる。AIIBの役割には次のようなものがある。

第1に、アジアにおけるインフラ建設と相互連携・相互通行設備建設を加速させるのに役立つ。現

在および今後一定期間は、アジア地域がインフラ建設を拡大させ、構造の見直しを進め、経済成長を

実現させるのに絶好の機会であり 高の選択である。アジア諸国、とりわけ新興市場や発展途上国の

インフラ建設には巨大な資金需要がある。

特に、近年経済の減速リスクの拡大や金融市場の動揺という厳しい課題に直面する中、経済の持続

的かつ安定した成長を維持し、地域の相互連携・相互通行および経済の一体化を促進させるためによ

り多くの資金を集めてインフラ建設を行う必要が生じている。ADBは、2010年から2020年までの間に、

アジアではインフラ建設に新たに8兆ドルを投じる必要があり、国や地域間のインフラ建設のために

は毎年8,000億ドルを投資しなければ現在の経済成長水準を支えることはできないと見積もっている。

そのため、中国が主導となるAIIBの設立を進めれば、アジア地域内において民生の利益に関わる重

要なインフラプロジェクトのために投融資を行うことができ、経済的実力や財政力に限りがあり、資

本市場の発展が立ち遅れており、融資のチャネルが少なく、深刻な資金不足などのために相互連携・

相互通行設備の建設を進めることができないアジアの発展途上国の問題を効果的に改善させることが

でき、それによってアジア地域の相互連携・相互通行プロジェクトの建設を急速に進めることができ

る。

35

第2に、アジア経済の一体化を加速させるのに役立つ。AIIBは新ユーラシア・ランドブリッジ、ア

ジアハイウェイなどといった重点インフラプロジェクトを筆頭とする地域間相互連携・相互通行プロ

ジェクト建設や、バングラデシュ-中国-インド-ミャンマーを結ぶ経済回廊、中国-パキスタン経済回

廊の建設を進めるほか、大メコン圏(GMS)協力やASEAN一体化、上海協力機構をはじめとする地域協

力の発展やアジア経済の一体化を加速させるのに役立つ。

第3に、アジア地域における中国の国際的地位および影響力を高めるのに役立つ。現在、中国は世

界の経済大国、貿易大国、対外投資大国となっており、経済規模は世界第二位、輸出総額は世界第一

位、輸入総額は世界第二位、外貨準備高は3兆ドルを超えている。2014年、アジアの経済成長に対す

る中国の寄与は50%以上であった。

現在、アジア諸国の経済は急成長しているが、インフラが立ち遅れていることが経済の発展を妨げ

ているという問題が日増しに目立ってきている。AIIBの設立は、中国がアジアにおいて地域間貿易協

力を進め、切迫したインフラ建設需要や資金問題を抱えるアジア諸国を助け、現地の経済発展や経済

貿易協力を推進するのに役立つ。また中国の経済発展による「ボーナス効果」をより多く、より良い

条件でアジアの発展途上国に提供し、中国が担う大国というイメージをより強く体現し、それによっ

てアジアにおける中国の国際的地位および影響力を高め、新シルクロード建設を進めることができる。

b. 新シルクロード建設にはAIIBの役割を十分に発揮させることが必要

AIIB は、中国の新シルクロード建設における重要な基盤であり、新シルクロード建設は AIIB の発

展にも大きな可能性を提供してくれる。中国の新シルクロード建設を進める際に、AIIBは次の5つの

役割を発揮する必要がある。

第1に、経済金融分野における橋渡しの役割を果たすことである。中国は、アジアのインフラ建設

の投資主体やプロジェクト開発に向けて融資面での支援を提供できるよう、新シルクロード沿線諸国

と協力し、財政資金を通じてAIIB内にインフラ支援基金や中国インフラ技術投資支援基金、中国特別

基金など比較的大規模で様々な用途を持った基金を設立することができる。

第2に、AIIBがマルチリージョナルな金融機関の役割を果たし、新シルクロード諸国間のインフラ

の相互連携・相互通行を強化することである。AIIBを通じてインフラ建設における資金制約の問題を

解決し、各国の企業や関連機関によるインフラ建設に対し優遇ローンを提供したり、運営コストを引

き下げたりして、新シルクロード沿線諸国のインフラの相互連携・相互通行を推進することができる。

第3に、AIIBが新シルクロード沿線諸国に対して対外投資をリードする役割を果たすことである。

AIIB を通じて、「小さな力で大きな利益を生み出す」ことが可能である。例えば中国の視点からみる

と、中国企業のグローバル経営を効果的に促進させ、資本輸出によって商品や労務の輸出を実現させ

て中国企業の海外市場開拓を行うことができる。また、AIIBを橋渡しとして中国の対外援助資金や各

種基金、商業銀行や企業などと一体となって「走出去」同盟を形成することも可能となる。

第4に、AIIBが通貨の国際化を促進する役割を果たし、人民元のクロスボーダー決済や通貨の互換

の規模を拡大し、人民元が 終的に国際化を実現できるよう手助けすることである。AIIBの資本構成

36

において人民元は重要な構成要素である。これは人民元を利用して新シルクロード諸国のインフラの

相互連携・相互通行設備建設を行う際にローンや投資を行うのに利便であり、人民元のクロスボーダ

ー預金の規模が拡大し、オフショア人民元の供給が増え、オフショア人民元市場の育成を加速させ、

実体経済を後ろ盾とした人民元の「走出去」支援となるほか、人民元の「走出去」をてことして需要

の良好な循環をリードすることもできるようになる。

第 5 に、新シルクロード沿線諸国のために世界的にハイレベルな金融人材を育成する上で、AIIB

が人材の集約および放射的役割を発揮することである。AIIBは重要な役割と良好な発展のビジョンを

有しているため、大量のハイレベルな金融人材を引きつけ、シルクロード建設に頭脳面からの支援を

提供してくれることになるだろう。また、運営・発展していく中で大量のハイレベルな金融人材を育

成し、銀行の持続可能な発展のための土台にもなるだろう。

37

3. 「陸上シルクロード」の概要

古代シルクロードは、歴史上自然に形成された一本の商業の道であった。「陸上シルクロード」は、

古代シルクロードを基に形成する新たな経済発展地域であり、東はアジア太平洋経済圏から西は欧州

経済圏にまで跨り、世界で も長く、 も発展の可能性を持った経済大回廊であると目される。それ

は、決して一本の狭い道ではなく、道路や鉄道、航空路、石油・ガスパイプラインなどで構成される

立体的な道である。 その中でも鉄道(三本のユーラシア・ランドブリッジ)については既に成熟段階にあり、 も重要

な役割を担う。また、「陸上シルクロード」はユーラシア大陸全域を横断し、東アジア、中央アジア、

南アジア、西アジア、東欧州および西欧州を一括りにする。

(1) 「陸上シルクロード」概要

シルクロード自体、歴史上様々な変化や発展を遂げてきた。従って、「陸上シルクロード」は対応地

域によって「狭義的、中間的、広義的」の3つの範囲に分けることができる。中国からみた場合、こ

うした様々な範囲の経済ベルト建設を段階的に分けて徐々に推進していくことが可能である。

a. 狭義の「陸上シルクロード」

これは、古代シルクロードの中核地域または中枢地域を基本として区分した場合の経済ベルトであ

る。中国と中央アジア5カ国が含まれ、「陸上シルクロード」建設のスタート地点である。「陸上シル

クロード」範囲内の国は、中国を除き全てが内陸国で、比較的閉鎖的である。中央アジア5カ国の総

人口はわずか6,000万人ほどしかおらず、経済発展が始まったのも遅く、一人あたりGDPも低い。し

かしここ数年、これらの国は対外貿易による外国からの直接投資の誘致に関して成果をあげており、

成長ペースも世界平均水準を上回っている。

b. 中間的な「陸上シルクロード」

この経済ベルトには、ユーラシアの現代シルクロード―ユーラシア・ランドブリッジを中心にその

沿線諸国が含まれるが、EU28カ国は含まれない。当経済ベルトに含まれる国は東から中国、モンゴル、

ミャンマー、バングラデシュ、インド、パキスタン、アフガニスタン、中央アジア5カ国、イラン、

イラク、シリア、ヨルダン、イスラエル、アゼルバイジャン、グルジア、アルメリア、ロシア、ウク

ライナ、ベラルーシで、これらの諸国が「陸上シルクロード」建設の重点となる。

ユーラシア・ランドブリッジはユーラシア大陸を跨ぐ三本の鉄道路線の総称である。その中で、ロ

シアのウラジオストクから欧州各国を通り、 終的にオランダのロッテルダム港までを結ぶ全長

13,000キロメートルにわたるシベリア鉄道を第1ユーラシア・ランドブリッジと呼ぶ。

第2ユーラシア・ランドブリッジは中国の連雲港から出発し、カザフスタン、ロシア、ベラルーシ、

ポーランド、ドイツを通ってフィンランドのロッテルダム港までをつなぐ全長10,800キロメートルの

路線のことを指し、こちらを新ユーラシア・ランドブリッジと呼ぶ。第3ユーラシア・ランドブリッ

ジは、ユーラシア大陸の三本目の鉄道路線のことで、現在構想・設計中である。スタート地点は深圳

38

で、昆明からミャンマー・バングラデシュ・インド・パキスタン・イラン・トルコを通り、さらに東

欧および中欧を経て 終的にオランダのロッテルダム港までを結ぶ、全長約15,000キロメートルの路

線となる。

c.広義の「陸上シルクロード」

広義の「陸上シルクロード」はユーラシア・ランドブリッジを足がかりとするが、ユーラシア・ラ

ンドブリッジと異なるのは、こちらにはEU28カ国を含み、合計50カ国以上で形成されるという点で

ある。これは「陸上シルクロード」建設の将来の方向性である。28 カ国が加盟する EU は全体的な世

界規模に関して世界 大と呼ばれている。EU地域の面積は決して広大ではなく人口も密集しているが、

この地域には先進国が集中しており、経済発展能力や科学技術イノベーション能力、製品輸出および

消費市場規模などに関して世界をリードしている。

大の弱点は資源不足という点であるが、その点は「陸上シルクロード」に含まれる中央アジアや

西アジア諸国に優位性がある。ユーラシア大陸の東洋・西洋諸国が経済発展に関して資源や技術およ

び市場の相互補完を実現させることができれば、それぞれの持続可能な発展のエネルギーと全体的な

競争力を高めることが可能となるだろう。

2013年9月、習近平国家主席はカザフスタンで初めて「政策面でのコミュニケーション、道路の相

互通行、スムーズな貿易、貨幣の流通、互いに通い合った国民の心」を強化し、共に「陸上シルクロ

ード」を建設するという戦略を提案した。習近平国家主席は、「欧州とアジア各国の経済連携をさらに

緊密化し、相互協力をより深め、発展の可能性をより大きくするため、我々は核心的な協力システム

を利用して「陸上シルクロード」を共同で建設し、点から面へ、線からより広い範囲へと徐々に地域

協力の規模を拡大していくことができる。

第1に、政策面でのコミュニケーションを図る。各国が経済発展戦略について交流を行い、地域協

力に関する計画や措置を協議・制定する。

第2に、道路の相互通行を行う。太平洋からバルト海まで通じる大規模海上輸送通路をつくり、徐々

に東アジア・西アジア・南アジアをつなぐ交通輸送ネットワークを構築する。

第3に、貿易の円滑化を図る。各国は貿易・投資の利便化推進について検討し、適切な準備を行っ

ていかなくてはならない。

第4に、通貨の流通を強化する。本国通貨による両替や決済の実現を推進し、金融リスク防御能力

を高め、本地域経済の国際競争力を高める。

第5に、国民の心を互いに通い合わせる。国民の友好交流を強化し、相互理解と伝統的友情を深め

ていく。

と提案した。習近平国家主席は中央財経指導グループ第8次会議において「陸上シルクロード」と

「海上シルクロード」建設の推進を急ぐことを強調し、「陸上シルクロード」と「海上シルクロード」

のプランについて研究すること、そしてアジアインフラ投資銀行とシルクロード基金を設立すること

を提案した。習近平国家主席はスピーチの中で、「陸上シルクロード」と「海上シルクロード」の提唱

39

は、時代のニーズと各国の急成長という願望に則したものであり、寛容的で巨大な発展の舞台を提供

するものであり、また深く長い歴史と人文的基盤を有しており、急成長する中国経済と沿線諸国の利

益と結びつけることができる、と強調した。習近平国家主席はまた、「一帯一路」建設について次のよ

うに指摘している。

「一帯一路」建設を進めるには、沿線諸国に誠心誠意対応し、有言実行でしっかりとやり通さなく

てはならない。win-win 関係のルールに則り、沿線諸国と協力し、沿線諸国が我が国の発展に役立つ

ようにしなくてはならない。また、寛容的な発展を進め、各国がチャンスを共有し、共に課題を乗り

越え、共に繁栄していけるようにしなくてはならない。

「一帯一路」の全体構成をしっかりと構築し、今後数年のタイムスケジュールおよびロードマップ

をなるべく早く確定させ、早期に結果が実るプランや分野を出さなくてはならない。「一帯一路」建設

を進めるにあたり、上から提出された目標・任務などを確実に実行し、簡単なものから難しいもの、

直近のものから長期的なものまで、そして点から線へ、線から面へと経済協力や重点プロジェクト建

設を着実に一歩一歩進めていかなくてはならない。

「一帯一路」建設を推進するには、鍵となるシンボル的プロジェクトをしっかりと把握し、なるべ

く早く結果が出るようにしなくてはならない。関連する沿線諸国の自国や地域間の交通、電力、通信

などのインフラ計画に協力し、事前準備となる先行的研究を共同ですすめ、両国・多国間の利益にな

るプロジェクトリストを提出する。また、沿線諸国の国民の民生改善に役立つプロジェクトを高く重

視・実施していくほか、経済協力や人文交流を共同で推進し、教育、観光、学術、芸術などで中国と

沿線諸国との人文交流を促進し、これらの分野の交流を新たなレベルに引き上げていかなくてはなら

ない。

「一帯一路」建設は長期的プロジェクトである。統括・協調作業をしっかりと行い、政府と市場と

の関係を正しく処理し、市場メカニズムの役割を発揮し、国有企業や民営企業など様々な形態の企業

の参加を奨励するとともに、政府の役割をしっかりと発揮していかなくてはならない。国家間・地域

間の経済貿易協力メカニズムおよびプラットフォーム構築を重視し、現地の国情に合致した投資・貿

易モデルを設計し、作業を計画・推進していく必要がある。また対外支援を強化し、開発的・政策的

金融のメリット・役割を発揮させながら民営資本の参加を積極的にリードしていくほか、部門や地域

との関係をしっかりと統括し、各部門・各地域の分業・協力を強化して相乗効果が生まれるようにし

なくてはならない。

革新的な思考で AIIB およびシルクロード基金を設立しなければならない。AIIB を発起し、多数の

国と協力して設立する目的は「一帯一路」沿線諸国のインフラ建設のために資金面でサポートを行う

ためであり、経済協力を促進するためである。シルクロード基金の設立は、中国の資金的な実力を利

用して「一帯一路」建設を直接支援するためである。設立にあたっては国際慣例に則って作業を進め、

既存の国際金融機関が長年蓄積してきた理論・実践を十分に参考にしながら厳格な規則・制度を設け

て実施し、透明度・寛容性を高め、第一弾の業務を確定・実施していかなくてはならない。AIIBおよ

びシルクロード基金と世界の国際開発銀行との関係は、代替関係ではなく、互いに補完しあう関係で

40

あり、現行の国際経済金融秩序の中で運営されるものである。

(2) 中国が主導する開発計画の概要(中央アジア諸国)

中央アジアは中国の西部地域に隣接し中国と欧州を結ぶ地帯である。その地理的位置の重要性によ

り、中央アジア諸国は「陸上シルクロード」建設における中核地域としての地位を担っている。

第 1 に、中国と中央アジア諸国との関係が急速に発展していることが、「陸上シルクロード」建設

を進める上で良好な基盤となっている。中国と中央アジア5カ国との貿易額を例にみると、2000年の

中国と中央アジア五カ国との貿易額はわずか 18 億ドルであったのに対し、2013 年の双方の貿易額は

420億ドルにのぼっている。10余年の間に中国と中央アジア5カ国との貿易額は20倍以上拡大してい

るのである。これは、中国と中央アジア諸国との関係が急速かつ平穏に発展してきたことを示してお

り、日増しに深まる双方の経済協力は、各国が「陸上シルクロード」建設に参加する上で頑丈な基盤

となってくれる。

第2に、双方の密接でスムーズな政治関係は、中央アジア諸国が「陸上シルクロード」建設に参加

する上で有力な支えとなる。2013年5月、中国とタジキスタンの首脳が中国・タジキスタン関係を戦

略的パートナーシップに引き上げることを宣言した。2013年9月、習近平国家主席は中央アジア4カ

国歴訪期間中、中国とトルコ、中国とキルギスとの関係をそれぞれ戦略的パートナーシップに、中国

とカザフスタンの関係を全面的戦略的パートナーシップに引き上げたほか、中国とウズベキスタンと

の戦略的パートナーシップを更に進化させて友好協力条約を締結するなど、中国とその他中央アジア

諸国との両国間関係を全面的に引き上げた。これまでに、中国は中央アジア5カ国と全面的戦略的パ

ートナーシップを結んでいる。双方の密接な政治的連結は、双方が「陸上シルクロード」建設につい

てどのように密接かつ誠実な交渉を行っていくかという点での基盤となるだろう。

第3に、経済貿易協力の深化はシルクロードの復興に期待する中央アジア諸国に現実的な基盤を提

供するものとなる。2013年、習近平国家主席はカザフスタン訪問期間中に同国と300億ドル相当の契

約を結んだ。また、ウズベキスタン訪問期間中には契約金額が150億ドルにのぼる31の文書に署名し

た。そして訪問中、中国がカザフスタン・ウズベキスタン・キルギス・トルコの4カ国との間で取り

交わした投資・協力協定の総額は480億ドル以上にのぼる。

第 4 に、「陸上シルクロード」建設は、より充実した利益をもたらしてくれると思われる。中央ア

ジア諸国は20年以上にわたる体制変革の中で、政治や経済、社会などの各分野で素晴らしい成果を収

めたが、いまなお多くの困難に直面している。「陸上シルクロード」で実現される予定の道路の相互通

行・貿易のスムーズ化・通貨の流通などは、中央アジア諸国が国家建設や対外関係の強化を行う上で

重要な収益となり、中央アジア諸国をこの構想に惹きつける上で も頼りがいのある保障となるだろ

う。中央アジア諸国が獲得しうる利益には、各国が道路、石油・ガスパイプライン、送電網などのイ

ンフラ建設を完備する上で支援を得られること、エネルギー輸出ルートが多元化すること、国内商品

が市場に豊富に出回るよう促すことができること、対外貿易額を拡大させること、海の玄関口ができ

るため世界経済により融和しやすくなること、国内の投資環境を改善させるエネルギーが形成され、

41

海外からの投資が増えること、そして外部世界、とりわけ中国や欧州諸国との関係がさらに緊密化す

ることなどがあげられる。

「陸上シルクロード」建設を行う上で良好な基盤があることに基づき、今後経済ベルト構築を進め

る中で、エネルギー分野での協力を強化していく。2006年7月、全長2,800キロメートル、中国と中

央アジアを結ぶエネルギーの大動脈である中国・カザフスタン間石油パイプラインが正式に完成した。

中国中央アジア間の天然ガスパイプラインの開通は、中国国内の天然ガス市場供給を安定させる上で

重要な役割を果たすだけでなく、中央アジア諸国に莫大な経済的利益ももたらし、それに合わせて中

央アジア諸国と中国との貿易関係もさらに深まる。中央アジアには豊富なエネルギー埋蔵量があり、

双方の協力はその他の分野でより深いレベルでの協力を行うのに模範的な意味合いを持っている。

それと同時に、貿易の相互補完性も強化していく。中国と中央アジア5カ国との貿易は、商品構造

面で非常に高い相互補完性を有している。近年、中国の対中央アジア5カ国貿易において、電気機器

をはじめとした技術レベルが高く、高付加価値を持つ商品の輸出割合が増加を続けている。石油や機

械、プロジェクト請負などの分野で実力のある中国の大手企業は徐々に中央アジア市場に進出し、中

国が中央アジア市場を開拓する際の主力になりつつある。中央アジア5カ国が持つ豊富な自然資源と、

中国の技術・産業・資金面での優位性は高い相互補完性を持っており、さらに双方の強みである地理

的条件や双方の協力は強固な物的基盤となる。それと同時に、治安問題における協力もさらに拡大さ

せていく。治安問題は中国と中央アジアとの経済協力における基盤であるため、中国は中央アジア諸

国との治安問題における協力を強化し、地域の安全を守らなくてはならない。

(3) 中国が主導する開発計画の概要(ロシア)

ユーラシア大陸に跨るロシアは、シルクロードの重要な参加国である。シルクロードの西部の北、

カスピ海沿岸を西に進んだところにあるアストラハンという地域はかつて重要な地点であった。その

ほか、ユーラシア大陸を横断する「草原シルクロード」や、中国-モンゴル-ロシアを結び直接欧州へ

と続く「茶の道」などは、いずれもロシアのシルクロード上に歴史を残している。

中国が「陸上シルクロード」を建設し、地域・国家の互恵的協力を促進させ、参加・協力を通じて

各国と共に発展・繁栄していこうと提唱するのは、幅広い協力を実施し、経済計画の連携をとり、貿

易の発展を促進させ、新たな交通回廊を作ろうとする提案なのである。

近年、中国とロシアとの全面的戦略・協力パートナーシップや両国の各分野での協力がめざましく

発展しており、中国-ロシア間の貿易額は2013年には892億ドルとなった。両国初の国境河横断鉄道

橋もすでに定礎が済んでおり、ルーブルと人民元は両国の銀行間外国為替市場でも取引されている。

中国とロシアは中央アジア諸国とともに道路、運輸、パイプライン、航空路線、電信の5つが一体と

なった相互連携・相互通行ネットワークの整備を始めている。こうした成果がすでに「陸上シルクロ

ード」の中身を示しており、中国とロシアなど関連国との協力を進める上で頑丈な基盤となっている。

経済貿易分野をはじめ、中国とロシア間の協力は良好な基盤と長期的な発展を有している。

第 1 に、ロシアは、「陸上シルクロード」を 大の発展チャンスであると捉えている。ロシア経済

42

は石油・天然ガスの輸出だけに頼ることはできず、多角化された地域協力を行い、そこからロシアの

観光や貿易および人材交流協力を促進させていく必要がある。中国・ロシア間は2020年までに両国間

貿易額を2,000億ドルにするという目標を制定しており、シルクロードは間違いなくこの目標実現に

向けた主要な推進力となる。

第2に、中国はロシアが今後石油・ガスの輸出を拡大させていく中で重要な国であり、シルクロー

ドは今後の中国・ロシア間エネルギー協力面で重要な役割を担うことになるだろう。ロシアは長年、

立ち遅れた経済成長方式を変えることができずにおり、今なお経済は主にエネルギーに頼っている。

ここ数年、石油・ガス部門がロシアに納めている税収額の平均は、税収総額の60%を占めている。2013

年、中国はロシアから2,435万トンの石油を輸入した。2013年3月、習近平国家主席のロシア訪問期

間中、中国石油(ペトロチャイナ)とガスプロムは東ライン天然ガス協力に関する備忘録に署名した。

ガスプロムは 2018 年よりシベリアパワー支線パイプラインを通じてブラゴヴェシチェンスクの国境

港から中国へ毎年380億立方メートルの天然ガスを輸出する計画であり、長期的には毎年100億から

200億立方メートル増加させるつもりでもある。

第3に、中国とロシアは中央アジアにおいて相互補完性を有している。シルクロード沿線にあるア

フガニスタンや中東などの地域には、テロリズムによる脅威をはじめとする治安問題がある。米軍撤

退がまもなく完了するのに伴い、これらの地域の治安はより不安定なものになるだろう。「陸上シルク

ロード」は、ユーラシア大陸全体を一つの共同体とするものであり、テロの発生を減らすことにつな

がる。中央アジアにおいては、中国・ロシア間協力の方が競争を上回るのである。

(4) 中国が主導する開発計画の概要(モンゴル)

「草原シルクロード」は古代中国の中原地域から北へ進み、万里の長城を超えてモンゴル高原や南

ロシア草原、中央・西アジア北部を通って欧州へと続いた陸の商業通路のことを指す。「草原シルクロ

ード」は「陸上シルクロード」を構成する重要な要素であり、中国からユーラシア大陸の西端へと向

かう重要なルートである。地理的にみると、「草原シルクロード」は「陸上シルクロード」の北端にあ

り、新疆ウイグル自治区北部と北部・西部周辺の国際環境とを結ぶ戦略的役割を担っている。

モンゴルはユーラシア大陸中部に位置し、北東アジアと中央アジア、西アジアおよび欧州とをつな

いでいる。しかし、モンゴルの国境付近地域はインフラ建設が立ち遅れており、交通の便も悪いため

同国の経済発展にとって足かせとなってきた。「陸上シルクロード」建設構想の提案は、モンゴルにと

って経済復興・対外貿易拡大のチャンスとなるだろう。モンゴルは中国と4,710キロメートルにわた

る国境線を共有しており、地理的メリット、豊富な自然資源を有している。

また、モンゴルは中国とロシアの間に位置し、広義の経済ベルトの範囲内にある。「陸上シルクロー

ド」建設の目的は、アジア・欧州各国の関係をより緊密化させ、相互連携・相互通行の実現を促進さ

せ、モンゴルのインフラ条件をさらに向上させ、石油・天然ガス・電力エネルギーの輸出をより便利

に、道路や鉄道建設をより強化していくためである。

現在、中国とモンゴルとの関係は順調で、政治面での相互信頼も深まり続けており、経済貿易の実

43

務協力も着実に進んでいるほか、中国は長年モンゴルにとって 大の貿易相手国・対内直接投資国と

なっている。中国はモンゴルの石炭輸出における重要な市場であり、モンゴルから輸入する石炭量は

中国の石炭輸入量全体の10分の1を占めている。中国とモンゴルとの間には貨物輸出入用の国境通関

港が14カ所あり、貨物輸送の距離が短いためかかる費用も少なく、コストも低い。また、中国はモン

ゴルから石炭、石油、鉱山物、畜産物などの一次産品を輸入する必要がある一方、モンゴルでは中国

の電気機器製品や農産物、建築材料、紡績品などが非常によく売れている。

両国間の協力プロジェクトは、鉄道、高速道路、石油・天然ガス、天然ガス火力発電分野などに及

ぶ。具体的には中国とロシアを結ぶ997キロメートルの高速鉄道や1,100キロメートルにわたる電線、

モンゴルとをつなぐ鉄道路線や天然ガスパイプライン、石油パイプラインの延長などがあり、投資額

は500億ドルほど必要となる見込みだ。今後、中国とモンゴルは鉱物資源開発やインフラ建設、金融

協力の「三位一体の統括、推進」型経済貿易協力を明確化し、相互連携・相互通行および鉱山物エネ

ルギープロジェクト協力を優先させながら両国間の実務協力を新たなレベルに引き上げていく。

(5) 上海協力機構との関連性

上海協力機構は、「上海ファイブ」が前身となっている。加盟国は中国、ロシア、カザフスタン、キ

ルギス、タジキスタン、ウズベキスタンで、オブザーバーはイラン、パキスタン、アフガニスタン、

モンゴル、インド、対話パートナーはスリランカ、ベラルーシ、トルコとなっている。近年ゲストと

してトルクメニスタン、独立国家共同体(CIS)、ASEANが参加している。

現在、上海協力機構は加盟国6カ国、オブザーバー5カ国、対話パートナー3カ国を含む合計14カ

国で構成されており、その大半がシルクロード沿線国である。14 カ国の 2013 年末時点での人口は世

界全体の45%にあたる31億人、GDP総額は世界全体の2割にあたる。

同機構加盟国の所在地域は、三本の古代シルクロードが必ず通る場所であり、ユーラシア大陸をつ

なぐ主要な陸上通路でもあり、「陸上シルクロード」の相互連携・相互通行インフラネットワーク構築

を行う上で重要な地点でもある。

同機構の発展は「陸上シルクロード」建設と相補う関係であり、互いにチャンスでもある。上海協

力機構はこれまで14の会議を重ね、安全、経済、文化分野において輝かしい成果を得るなど、すでに

高い影響力と声望を持つ国際組織となっている。

そのため、同機構は「陸上シルクロード」建設を進める上で重要な基盤となるだけでなく、10年以

上にわたって蓄積されてきた豊富な経験も提供してくれる。「陸上シルクロード」建設は上海協力機構

の発展にもより広い世界を提供してくれるだろう。習近平国家主席が提案の中で触れた「政策面での

コミュニケーション、道路の相互通行、スムーズな貿易、貨幣の流通、互いに通い合った国民の心」

の実現は、「陸上シルクロード」の中核をなすものであり、これら5点と上海協力機構枠組内における

経済・文化分野協力との内容はほぼ一致するものとなっている。

第 1 に、上海協力機構の良好な発展という経験は、「陸上シルクロード」建設を行う上で参考にな

るものである。まず、上海協力機構は政治・経済・人文が融合した効果的な協力構造を確立している。

44

2001年の成立以来、同機構は政治的安全、経済貿易協力、文化交流という三つを主軸として、同機構

の全面的協力に強固な基盤を築き上げた。政治的安全協力は経済・貿易協力にとって必要不可欠な安

全環境を提供し、経済・貿易協力は加盟国間でオールラウンドな協力を行うのに重要な物的基盤とな

る。また、文化交流は政治的安全および経済・貿易協力を行うのに良好な社会的基盤と保障を提供し

てくれる。後者二つはまた、文化交流にとって必要な前提を提供するものでもある。これら三つは互

いに因果関係にあり、緊密に連携しながら上海協力機構の安定した協力構造を構築しているほか、各

分野における協力の調和・発展を保障するものとなっている。 第2に、同機構は地域経済協力の法制度化・メカニズム化を進めている。設立以来、加盟国は「上

海協力機構加盟国政府間による地域経済協力の基本的目標および方向、貿易・投資の利便化の実施に

関する備忘録」や「上海協力機構加盟国多国間経済貿易協力綱領」、「多国間経済貿易協力綱領実施措

置計画」などをはじめ、地域経済協力を実施するための関連法律文書に署名して地域経済協力の目標

や任務、措置を明確にしてきた。さらに、加盟国はこれらを基に通関、交通運輸、金融協力、電子商

取引、農業などの分野でも数多くの協力協議に署名している。地域経済協力の発展を進めるため、同

機構は数多くの閣僚級会議メカニズムを設立し、経済貿易閣僚会議の下にはさらに政府高官委員会な

ど七つの専門作業チームを設置している。そのほかにも、上海協力機構銀行連合体や実業家委員会な

どを設立するなど比較的完備された組織構造を形成しており、地域経済協力を進めるのに必要不可欠

な組織的保障を提供している。 第 3 に、同機構では地域の特徴に見合った協力方法が確立されている。「簡単なものから難しいも

のへ、段階を追いながら進めていく」、「二国間から多国間へ」という方針を堅持し、「win-win 関係、

先に与え後に受け取る、たくさん与え少し受け取る」という協力原則を採用し、「投資を行って貿易の

発展をリードする」などといった効果的な措置を通じて、貿易・投資の利便化から始まり、徐々に大

規模な経済・技術協力へと発展させて 終的に地域内の貿易・投資の自由化を実現させるという目標

を続けている。投資に関して、まずは加盟国が共同で利益を獲得できるエネルギーネットワークや交

通運輸ネットワーク、通信ネットワークなどといったネットワーク関連の建設プロジェクトや、石油・

天然ガス採掘および輸送、農業協力、金融協力などをはじめとするエネルギー資源開発など、加盟国

が投資で得意としている協力分野を優先して選択してきた。これらは、「陸上シルクロード」建設を進

める上で大きく参考になるだろう。 一方、「陸上シルクロード」建設は上海協力機構地域の発展を促す。2013 年 9月、習近平国家主席

は中央アジア訪問中に「陸上シルクロード」の共同建設を呼びかけ、その後行われた上海協力機構ビ

シュケクサミット(キルギス)において、交通・物流の大規模通路を切り開くことを提案した。上海

協力機構とサミット参加国は「陸上シルクロード」について本国の経済発展をリードする新しい契機

になると高く評価した。ロシアは中露共同声明の中で「陸上シルクロード」建設を前向きにとらえ、

支持した。2014年2月、プーチン大統領はソチ冬季オリンピック開幕式に出席した習近平国家主席に

対して、「ロシアは中国が『陸上シルクロード』および『海上シルクロード』建設を提案していること

に賛成であり、ロシアはシベリア鉄道と一帯一路をリンクさせ、さらに大きな利益を生み出していき

45

たいと考えている」と述べた。2014年5月、両国指導者が署名した「中華人民共和国およびロシア連

邦の全面的・戦略的パートナーシップの新たな段階に関する共同声明」の中で、ロシアが「陸上シル

クロード」建設に賛成していることを示した。両国は、「陸上シルクロード」プロジェクトに実行可能

な合致点を見出そうとしており、また地域内の交通やインフラ面を発展させる共同プロジェクトの実

施をはじめ、両国担当部門間の協力を今後も深めていくことを示した。

中央アジア各国も「陸上シルクロード」建設に積極的に参加し、それによって貿易や投資、文化分

野などでの協力を増やし、貿易規模を大幅に引き上げたいと願っている。カザフスタンは地域的メリ

ットを利用して地域の貿易、物流、ビジネスの中心になりたいと考えており、中国・カザフスタン両

国の首脳は今年、江蘇省の連雲港に、中国・カザフスタン国際物流センターを共同で始動させた。こ

れは、「陸上シルクロード」建設が着実に歩みを進めていることを示すものである。2014 年 5 月、ウ

ズベキスタンのカリモフ大統領は中国を訪問した際、同国は「陸上シルクロード」建設に積極的に参

加し、両国間の経済貿易交流や相互連携・相互通行を促進させ、同国の発展を中国の繁栄とより緊密

に結び付けたいと願っていると述べた。

また、タジキスタンのアリモフ駐中国大使も、習近平国家主席が提唱する「陸上シルクロード」は

まるで力強い波のように、両国のパートナーシップ、経済・貿易協力および文化交流の帆に力を注入

してくれるものであり、中央アジア諸国および全ての加盟国の根本的利益と合致すると述べた。世界

経済の成長が弱まる中で、中国はまさに地域経済、さらには世界経済を成長させる牽引役となりつつ

ある。中国は、400 億ドルを出資して「シルクロード基金」を設立すると宣言している。これは、沿

線諸国のインフラ建設や資源開発などに恩恵が及ぶものである。「陸上シルクロード」建設は、上海協

力機構関係国に多大な利益をもたらしてくれるだろう。

また、上海協力機構は、ユーラシア・ランドブリッジにとって重要な平和的発展協力の支えとなっ

ている。関係諸国はいずれも発展の重要段階にあり、実務協力を強化することが共通の願望になって

いる。同機構と「陸上シルクロード」建設が結び付けば、相互連携・相互通行や交通運輸の利便化、

貿易・投資の一体化、融資保障メカニズム構築などを進めながら、上海協力機構の実務協力を導き、

同機構の影響力を高めることができるだけでなく、同機構関連地域発展および地域の安定・繁栄に強

固な基盤を築くことができる。

(6) 「陸上シルクロード」を通じて中国・欧州間貿易を拡大させる可能性

2000年以上前に古代シルクロードが形成されたことで、東洋と西洋との文明交流に便利な道ができ、

また欧州とアジアの経済協力ベルトを育成したほか、中欧の貿易ルートとされてきた。新たな交通手

段が急速に発展し、欧州およびアジアの内陸資源開発が急務となる中、「陸上シルクロード」を共同で

建設することは中国と周辺諸国との友好関係の構築や共同繁栄・発展の基礎となるだけでなく、中央

アジア地域が欧州とアジアの経済・文化交流の中枢という使命を担うためにも必要である。

2013年11月、李克強首相はルーマニアを訪問し、中国−中東欧諸国首脳会談に出席した。首脳会談

で中国は、中央・東欧州諸国との経済貿易関係を拡大し、中東欧のインフラ建設を進め、相互連携・

46

相互通行などをはじめ両国・地域間関係を強化できる措置を打ち出していくことを提案した。2014年

4月、習近平国家主席は欧州を訪問した際に、「陸上シルクロード」建設を進め、共同発展・共同繁栄

という理念に基づきアジア・欧州の二大市場を連動させ、古代シルクロードに新たな時代の内容を付

け加え、沿線諸国の国民に利益をもたらそうと提唱した。

古代シルクロードは中国と欧州との交易の道を切り開き、欧州にとって中国を重要な製品市場にさ

せたのである。現在、「陸上シルクロード」の両端に位置するEUと中国は互いに第二の貿易パートナ

ーとなっており、「陸上シルクロード」建設を欧州で進めることは中欧の経済貿易・外交・文化交流な

どを進める上でも役立つことだろう。

a. 市場潜在能力と地縁的メリットは中欧貿易を拡大させる基盤

中東欧は移行経済を代表する地域であり、今まさに新興経済から先進経済へ移りつつある段階で、

中国に対して融資の需要も多く、中国企業が対外投資を行う上で重要な「テスト地域」になっている。

中東欧は労働力や産業などといった投資基盤が良好で、当該地域でEU市場へ参入する際にも便利であ

る。そのため、ここ数年中国企業は中東欧での投資や合併・買収や多次元の協力・交流の実施を日々

増やしており、「陸上シルクロード」建設と大市場であるEUとを結びつける準備作業を行っている。

欧州諸国の大部分は、従来から中国との友好関係があり、双方間には特別際立った歴史的対立もな

く、中国が当該地域で「陸上シルクロード」建設を進める上で明らかな戦略的障害はないと思われる。

大半の欧州諸国は中国に対して友好的であり、しかも中国の発展によってもたらされるチャンスに十

分な興味を示していることは、「陸上シルクロード」建設を進める上で重要な支えとなる。

b. 交通路建設の双方間協力で中国・欧州間の物流ルートを拡大

現在、3三本のユーラシア・ランドブリッジが建設済み、またはまもなく建設される予定である。

1 つはロシア東部のウラジオストクから中東欧を経てオランダのロッテルダムまで続くシベリア・

ランドブリッジ(または第 1 ユーラシア・ランドブリッジ)である。2 つ目は、中国の連雲港から隴

海蘭新鉄道を経由し、新疆ウイグル自治区の阿拉山口から中国の国境を越え、中央アジア地域を通り、

ロシア、ポーランド、ドイツなどの欧州諸国を経て 終的にロッテルダムに到着する新ユーラシア・

ランドブリッジ(または第2ユーラシア・ランドブリッジ)、そして3つ目のユーラシア・ランドブリ

ッジである。第3ユーラシア・ランドブリッジはまだ構想中であるが、深圳港を代表とする広東省沿

岸の港群をスタート地点とし、昆明からミャンマー、バングラデシュ、インド、パキスタン、イラン

を経てトルコより中東欧に入り西欧州を経てロッテルダムへ到着する計画だ。

中国が運営するシルクロード物流通路は、主に第2ユーラシア・ランドブリッジを使用する。2011

年10月、重慶から「渝新欧」国際貨物列車の第一便が出発した(重慶とドイツのデュイスブルクを結

ぶ鉄道)。2012年10月には武漢から「漢新欧」貨物列車(武漢とチェコのプラハとを結ぶ)の運行が

スタートした。2013年4月には成都とポーランドのウッチとを結ぶ貨物列車「蓉欧快速鉄道」が開通。

2013年7月には鄭州からドイツのハンブルグにつながる「鄭新欧」貨物列車の運行が始まった。

これらは航空便よりも安く、海運よりもスピーディーであるなど、現有の海洋・航空輸送と比べ、

47

鉄道輸送の方が高い競争力を持っている。しかも、中国の対外貿易が長年海運に頼りすぎてきたとい

う点を改善することもでき、貨物輸送やエネルギー輸送の多元化という環境も提供してくれる。

ユーラシア大陸をつなぐ鉄道が開通したことで貿易の物流コストが下がり、資金のリサイクリング

周期を高め、貨物輸送期間を保障することができる。これらの鉄道運営は、「陸上シルクロード」沿線

諸国が世界物流の一体化推進に参加するための基盤となり、また中国と欧州間の貿易拡大に新たな道

を切り開いてくれる。

c. 多様化された協力メカニズムが中国・欧州間貿易を秩序的に推進

現在、欧州が参加する「陸上シルクロード」建設のメカニズムは多元化されている。力を借りるこ

とのできる主なメカニズムには中国と中東欧の協力メカニズムや中国・EU関連協力メカニズムおよび

アジア欧州会議メカニズムなどがある。

中国と中東欧協力メカニズムをよりどころとして、中東欧国家の「東に目を向ける」外交政策が日

増しに強化されており、中国からより多くの発展のチャンスを手に入れようという願いが切実なもの

となっている。欧州の関連諸国もそれぞれ中国との協力を強化する動きを強めており、双方の高官た

ちが頻繁に対話を行っている。中国と中東欧諸国との双方間関係のコミュニケーションはよりプラス

の方向に進んでおり、中東欧は中国・欧州間協力における新たな起点となるだろう。このような発展

状況の中、習近平国家主席が「陸上シルクロード」建設を提唱し、発展を続ける中国・欧州間協力メ

カニズムに新たな「発展の扉」を開いてくれた。

48

(7) 「陸上シルクロード」構想を進める上での外部問題

「陸上シルクロード」の中心は中央アジアである。ユーラシア大陸における経済発展レベルには、

「両端のレベルが高く、中間は低い」という現象が発生している。中間に位置する中央アジアは豊富

な自然資源を有するものの、交通の発達は不十分で、自然環境もあまり良くない。経済発展レベルに

ついてもユーラシア大陸両端の経済圏との間に大きな差がある。 そのため、「陸上シルクロード」建設の重点は中央アジアであり、相互連携・相互通行設備の建設を

通じて中央アジアの産業をまとめて発展させていきたいと考えているのである。しかし国の利益に差

があることや地政学的影響などにより、このプロセスを進める中にはまだ多くの課題が存在する。 第1に、中央アジア地域は今なお治安問題を抱えている。米軍がアフガニスタンから撤退したこと

によりアフガニスタン国境内での衝突が激化するおそれがある。アフガニスタンの衝突や難民、イス

ラム過激主義者やテロリストなどが溢れ出ることにより、中央アジアおよび「陸上シルクロード」沿

線諸国に影響をおよぼすおそれがある。中央アジアには今なお民族・宗教問題も存在する。サウジア

ラビアのイスラム教スンニ派「サラフィー主義」を起源に持つイスラム解放党が中央アジアで勢力を

拡大させつつあり、ウズベキスタンのイスラム運動も再びウズベキスタンやタジキスタン、キルギス

の境界で脅威となるおそれがある。中央アジアは様々な思想や文化、宗教が互いに影響を及ぼしあい、

交わる地点であると同時に、世界の数多くの文化や思想、宗教が も激しく衝突しあう地域のひとつ

でもある。当該地域諸国の安定が「陸上シルクロード」建設の発展を妨げてしまう可能性があるのだ。

第2に、各国が中央アジア協力発展で激しい競争を行っている。現在中央アジアには、米国が提唱

する「新シルクロード計画」やロシアが主導する欧州・アジア経済一体化、EUが提唱する「新中央ア

ジア戦略」など、様々な地域経済協力計画が存在する。米国は1990年代よりトルクメニスタン−アフ

ガニスタン−パキスタン−インドを結ぶ天然ガスパイプラインの敷設を検討してはいるものの、なかな

か実行に移せずにいる。2011年、米国は世界とアフガニスタンとを結ぶ「新シルクロード計画」を提

示したが、その目的はアフガニスタン隣国の中央アジア諸国からの支持を得て貿易やエネルギー輸出、

投資および平和を促進するというものである。また、EUでは2007年6月に「EUと中央アジア新パー

トナーシップ戦略」が可決された。その後、EU は中央アジアへの投資を積極的に行っており、人権、

環境、水資源などの分野で中央アジアと対話を行い、ある程度成果を獲得している。しかし米欧の中

央アジア政策には明らかなイデオロギー色がみられ、政治の干渉が当該地域諸国の相互信頼の基盤を

蝕んでおり、協力の効果に制限を加えているが、中国が西への開放を拡大し、「陸上シルクロード」を

つくって中央アジア諸国との経済協力を発展させる上で、ある程度の打撃を受けることになるだろう。

第3に、貿易の円滑化が進んでいない。タジキスタンやカザフスタン、キルギスなどは国境での手

続きが複雑であり、そのことが貿易に影響を与えている。また、「陸上シルクロード」沿線国が対外貿

易の際に高額な関税を課していることや国境管理機関の効率の悪さなども各国間の経済貿易に深刻な

影響を与えており、「陸上シルクロード」建設の足かせとなっている。

49

このような数々の課題を抱える中、今後「陸上シルクロード」建設を進める上で次の4点を守って

いかなくてはならない。

第1に、協力・win-win 関係を堅持することである。経済ベルト沿線諸国はそれぞれ異なる自然資

源や発展レベルを有している。このことが沿線諸国のエネルギー資源、労働力供給、技術レベル、資

金的実力、市場容量などの長所を決定づけており、経済構造の相互補完性が強く、互恵協力を行う上

で十分な基盤を備えている。中国は資金、技術、管理面を得意としており、既存の協力メカニズムや

プラットフォームを十分活用し、各国の利益に配慮していけば、政治面や地縁面、経済の相互補完性

などにおけるメリットを実務協力・持続的成長のメリットに変えていくことができるだろう。

第2に、相互連携・相互通行設備の建設を優先して進めることである。インフラの相互連携・相互

通行は沿線諸国協力の可能性やその中身を充実させるのに重要な基盤である。中国は自国の強みを十

分に活かし、インフラ建設の促進に貢献すべきである。民間資本がインフラ分野への投資に参加した

り、連合地域各国がインフラ開発政策性金融機関を共同出資で設立したり、国際組織からの援助を得

るなどの方法によって相互連携・相互通行の実現に必要な資金的支援を獲得していくことも可能であ

る。また、EUが域内のインフラの相互連携・相互通行に関する投資メカニズムを強化した経験を参考

にして、各種資本のプラスの効果を発揮させていくことも可能である。

第3に、政策面でのコミュニケーションを促進することである。沿線諸国の貿易の利便化協力を推

進し、多国間・二国間政策の協調・対話メカニズムを整備することは、「陸上シルクロード」建設を行

う上で非常に重要である。上海協力機構の基盤を活用し、沿線諸国と道路・鉄道・航空運輸の通関手

続きを円滑化させる協力協定をできるだけ早く締結し、通関や検疫など通関に関する条件を統一させ、

手続きを簡略化させる必要がある。また、各利益関連諸国の合弁によって新ユーラシア・ランドブリ

ッジの建設・運営企業を設立する道を模索し、各沿線国の物流企業が合弁で協力することを支援し、

統一化された運営管理と輸送コストの低減を目指していく。それと同時に、地域内において条件を有

する加盟国間で二国間・部分地域間の貿易・投資メカニズムの構築を奨励し、相互間の協力の緊密度

を引き上げる必要もある。

第4に、金融協力を強化することである。まず、両国間の自国通貨決済を積極的に推進し、条件が

揃った場合、「陸上シルクロード」の多国間決済システムの構築を推進していく。次に、通貨の互換規

模を徐々に拡大させていき、「陸上シルクロード」沿線諸国の通貨互換ネットワークを構築していく。

3つ目に、共同で出資し、共同で利益を獲得できる新たな資本運営モデルを積極的に模索していく。4

つ目に、金融市場を着実に開放し、クロスボーダー金融サービスネットワークを構築していく。そし

て5つ目に国際金融ガバナンスおよび金融監督・管理協力を強化し、金融政策の協調を強めていくの

である。

50

4. 「海上シルクロード」の概要

「海上シルクロード」とは実体化された一本の道ではなく、中国の対外政治文化交流や経済・貿易、

東洋・西洋諸国との友情・理解を深める際の文化や精神を代表するものである。「海上シルクロード」

はまさにこの文化と精神を継承し、現代の海洋思想を以って「海上シルクロード」を導き出し、発展

させたものである。

すなわち「海上シルクロード」は、 中国の沿岸港を起点にASEAN、南アジア、ペルシャ湾、紅海、

インド洋西岸各国を経由する航路に沿って、沿岸港およびその都市の協力メカニズムを構築すること

により作られる経済・貿易、政治協力、文化交流および民間および各分野での交流という役目を担っ

たネットワークであり、基盤である。

(1) 「海上シルクロード」概要

歴史的には、これまで3本の「海上シルクロード」路線が存在した。一本目は中国の沿海港から出

発し、朝鮮、韓国、日本、琉球、台湾へと向かう東シナ海航路であり、二本目は中国の沿海港から出

発しASEAN諸国へと向かう南シナ海航路、そして三本目は中国の沿海港から出発して南アジア、西ア

ジア、東アフリカ、さらには北米や南米へと向かう大西洋航路である。

そうした歴史的経緯や「海上シルクロード」が提案された背景・戦略などを考慮すると、「海上シル

クロード」の範囲は主に古代「海上シルクロード」の東シナ海航路、南シナ海航路および大西洋航路

を発展させた四本の航路および沿線諸国となる。

一本目は、中国−日本・韓国航路で、沿線国は日本、韓国および北朝鮮である。

二本目は中国−ASEAN航路で、沿線国はインドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、フィリピ

ン、ブルネイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、ラオスのASEAN10カ国および東ティモールであ

る。

三本目は中国−南アジア航路で、沿線国はインド、パキスタン、スリランカ、バングラデシュおよび

モルディブの南アジア諸国である。

四本目は中国−ペルシャ湾航路で、沿線国はイラン、イラク、イエメン、サウジアラビア、アラブ首

長国連邦、オマーン、クウェート、バーレーンおよびカタールの中東諸国である。

五本目は中国−紅海・東アフリカ航路で、沿線国はエジプト、スーダン、エチオピア、ジプチ共和国、

ソマリア、ケニア、タンザニア、モザンビーク、モーリシャス共和国、セーシェル共和国、マダガス

カルおよび南部アフリカ関税同盟諸国である。

中央文書や中央会議を基に、国家レベルで「海上シルクロード」戦略を明確にすることが可能であ

る。「海上シルクロード」建設が初めて中央文書に取り入れられたのは、中国共産党第18期中央委員

会第三回全体会議(三中全会)である。「改革の深化における若干の重大問題に関する中共中央の決定」

の中で、「国境付近の開放の歩みを加速させ、国境付近の重点港および都市、経済協力の人員往来や加

工物流、観光などにおいて特殊な方式による政策の実施を認める。開発性金融機関を設立し、周辺諸

国や地域とのインフラの相互連携・相互通行実施を急ぎ、『陸上シルクロード』および『海上シルクロ

51

ード』建設を推進し、全方位的な開放という新たな形態を構築する」と提案された。これは新政府指

導者が開放という世界観や現代の海洋戦略理念をよりどころとして、事前に計画・配置を行い、全方

位的外交を通じて新時代における開放型経済体系を構築するという重要な内容であり、「海上シルクロ

ード」の建設が中国の対外開放レベルを引き上げ、多元的でバランスのとれた開放型経済体系を整備

していく中で重要な役割を担っていることを表している。

さらに、2013年の中央経済工作会議において「海上シルクロード」建設全面構築に関する重要戦略

計画が打ち出された。会議では、現在の国内外の経済情勢を分析し、2013年の経済運営を統括した後

に2014年の経済運営に関する全体要求および6つの主要任務が提出されたほか、「陸上シルクロード」

および「海上シルクロード」建設を2014年の6つの主要任務の内の一つとし、開放型経済という新体

制の中で「海上シルクロード」が極めて重要であることを明確にした。会議では、「従来からの輸出の

優位性を維持して関連業界輸出に対して技術および大型プラント輸出がリードしていくという役割を

発揮させながら、新たな優位性・競争力を生み出し、国内の方式・構造転換に必要な設備や技術など

の輸入を拡大していかなくてはならない。『陸上シルクロード』建設を進め、戦略・計画の制定を急ぎ、

インフラの相互連携・相互通行を強化する。また、『海上シルクロード』建設については海上ルートの

相互連携・相互通行を強化し、相互利益の絆をしっかりと結んでいく」と明確な要求がなされている。

中央経済工作会議において「海上シルクロード」建設に関する戦略・計画が強調されたことは、中

央政府が「海上シルクロード」を国家の重要戦略ととらえ、「海上シルクロード」を通じて中国とASEAN

の重要な臨海港湾都市間のルートを開通させ、海上の相互連携・相互通行、港湾都市協力メカニズム

および海洋貿易などを通じて ASEAN、南アジア、西アジア、アフリカといった各経済グループを一つ

の市場チェーンとして連結したいと考えていることを表している。そうすれば、中国−ASEAN地域経済

の持続的成長に新たな活力をもたらすことができるだけでなく、さらにアジア太平洋・アフリカ地域

にまで範囲を広げて、新時代における中国の対外開放戦略の重大転換を実現させることができるので

ある。

2014 年 3月5日、李克強首相は国務院を代表して第12回全国人民代表大会第二次会議の政府活動

報告において、「海上シルクロード」建設について再び言及した。李首相は2014年の重点業務を紹介

する中で、ハイレベルの新たな対外開放の局面を切り開くべきであること、「走出去」の中で競争力を

高めること、対外投資管理方法の改革を行うこと、審査・許可権限の緩和を大幅に進めていくこと、

金融・法律・領事などのサービス保障を健全化し、「走出去」ルールを規範化し、製品の輸出やプロジ

ェクト請負および労務協力を促進させていくこと、「陸上シルクロード」および「海上シルクロード」

の計画・建設作業を急ぎ、BCIM経済回廊建設、中国・パキスタン経済回廊建設を進め、重大支援プロ

ジェクトを打ち出してインフラの相互連携・相互通行を急ぎ、世界経済の基礎的協力という新たな可

能性を開拓していくことなどを指摘した。これにより、「海上シルクロード」建設の構想がより明らか

になり、また関連計画の策定・実施に対して関連要求を提出した。

52

(2) 中国が主導する開発計画の概要(ASEAN諸国)

中国とASEANが共同して行う「海上シルクロード」建設は、

① マクロ経済政策の協調を強化し、地域間協力計画を協議・制定する

② 交通インフラの相互連携・相互通行建設を進め、双方間の陸・海・空立体交通ネットワークを

構築する

③ 中国−ASEAN FTAを深化させ、貿易と投資の利便化レベルを引き上げる

④ 中国−ASEAN間の通貨の互換・チェンマイイニシアティブ(アジア域内の通貨スワップ協定)の

マルチ化などを活用して本国通貨での決済を拡大し、共同で金融支援と金融リスクの防止を行

っていく

⑤ 人員の往来をリードし、文化交流・民間友好を促進していく

など総合力が高く、全面的に影響が及ぶ開発計画である。

中国−ASEAN双方は「黄金の10年」(過去10年の貿易・投資の急拡大)を基盤に新たな戦略的ステー

ジを求め、協力してより緊密な中国−ASEAN共同体建設を進めていく必要がある。中国−ASEANが「ダイ

ヤモンドの10年」(今後の10年の貿易・投資のさらなる拡大)に突入する上で鍵となるのは、経済発

展に焦点を当てて、より広い分野・深いレベル・高水準・全方位的な中国−ASEAN協力を推進していく

ことである。

その目的は、まさに中国とASEANの戦略的相互信頼や全方位的な協力を深め、共同発展・繁栄を目

指すことである。「海上シルクロード」の提唱は、中国と「海上シルクロード」沿線諸国、とりわけ

ASEAN 諸国が経済面での相互補完性と協力の潜在性を掘り起こして、双方の戦略的パートナーシップ

のために新たな共通の経済的利益を見出すことを目指そうとするものである。「海上シルクロード」の

重点は経済協力にあり、軍事・安全保障分野には互いに干渉せず、さらに関係国間協力について

① 領域国家の内政には絶対に関与せず、国家主権を侵害しない

② すでに地域に存在している協力メカニズムを壊さず、また新たな地域協力機構・メカニズムを

樹立しない

③ 協力において重要なのは、国民の心を通じ合わせることと政策面でのコミュニケーションを土

台に貿易の発展・インフラ・金融などの分野において相互連携・相互通行とwin-win関係を実

現させること

という明確な三つの原則が存在している。

(3) 中国が主導する開発計画の概要(インドを除く南アジア)

中国が「海上シルクロード」建設を通して南アジア地域のインフラ建設を強化し、双方間貿易の発

展と投資拡大を進めていくことにより、中国と南アジアとの経済・貿易の融合が進むだけでなく、中

国の海上輸送ルートの安全が保証され、南アジア全体に利益をもたらし、中国の発展によって得られ

た利益を南アジア諸国と共有できるようになる。

中国が「海上シルクロード」建設を提唱したのは、新たな情勢の下で「平和、友情、協力、発展」

53

の精神に基づき関連諸国と海上の相互連携・相互通行や海洋経済、科学技術・環境保全、防災・減災、

社会人文など各分野での実務的協力を行うことにより、調和・win-win 関係・共同発展の実現を目指

すためである。「海上シルクロード」は海上貿易をきっかけとして中国と沿線諸国との間で経済共同体

の構築を目指すものである。

インド洋はこの戦略の中で重要な役割を担う。世界貿易・エネルギー・原材料の取引が集中するイ

ンド洋航海ラインの地位は日増しに重要なものとなっている。それと同時に、インド洋に対する中国

の依存度も高まりつつある。インド洋は中国の海外貿易・エネルギー・原料輸送にとっての「生命線」

である。そのような大きな背景の中で、南アジア諸国が持つ自身の恵まれた立地面でのメリットは、

間違いなく「海上シルクロード」戦略の中で極めて重要な役割を果たすことになるだろう。また、中

国とスリランカが共同で「海上シルクロード」建設を進めていくことで、中国がインド洋地域におけ

る国際貿易・投資体系の中で主導的地位を占めるようになるだろう。

地政学面からみると、「海上シルクロード」は中国の外交戦略構想をさらに前進させることができる。

「海上シルクロード」戦略を通じて、中国は経済協力によって沿線諸国との政治協力をリードし、政

治から安全分野へと進み、 終的に双方間の経済共同体を運命共同体へと引き上げていく。この目標

がひとたび実現すれば、中国の海上輸送ルートの安全は大きく保障されることになる。

(4) 中国−ASEAN自由貿易協定との関連性

中国−ASEAN FTA交渉がスタートして以降、物品貿易協定やサービス貿易協定、投資協定などといっ

た協定が相次いで締結され、実施されている。こうした協定を基に発効された中国−ASEAN FTAは、中

国−ASEAN間協力を推進・深化させる上で非常に重要な役割を果たしている。ASEANは、2011年から2013

年まで連続して中国にとって第三の貿易パートナー、第四の輸出市場、第二の輸入元となっている。

また中国も2010年から2013年まで連続してASEANにとって 大の貿易パートナーとなっている。

中国−ASEAN FTAの発展が進み、双方が協力して「中国−ASEAN共同体」をつくるという共通認識が深

まるにつれて、中国−ASEAN FTAのアップグレード版を構築することが双方の発展に必要という認識が

共有されるようになっている。双方の協力を今後さらに深化・アップグレードさせ、市場の開放を進

め、貿易・投資・サービスの利便化レベルを引き上げ、協力分野のさらなる開拓を模索し、より幅広

い分野・よりレベルの高い経済協力を実現させていく。これもまさに中国とASEANが「海上シルクロ

ード」建設を共同で進める中での重点項目である。

第1に、「海上シルクロード」建設を通じて中国−ASEAN FTAのアップグレード版の推進が加速する。

「海上シルクロード」の重点はインフラ建設やメカニズムの構築、文化交流などを主体とした相互連

携・相互往来を進め、「ハード面での連結」を強化し、道路、鉄道、水運、航空、電信、エネルギーな

どの分野で相互連携・相互通行を加速させ、国際化された現代交通システムを構築し、FTA の貨物流

通スピードを高めることである。

第2に、「海上シルクロード」では重大プロジェクトづくりを進めることで中国−ASEAN地域内にお

いてボーダレスな「戦略回廊」を段階的に構築し、沿線諸国資源の相互連携や長所の相互補完を効率

54

よく進めていく。ここで、「海上シルクロード」では中国−ASEAN間の「ソフト面の連携」も加速させ、

原産地規則の実施メカニズムを完備し、双方がサービス貿易や非関税障壁に関する制度について共同

歩調を強め、情報や通関、品質検査などの制度・基準の相互認証・ドッキングをしっかりと行い、貿

易の利便化レベルを絶えず引き上げ、生産要素などの自由流通を促進させる。

第 3 に、「海上シルクロード」では中国と ASEAN 間の文化交流を強化し、双方の民間交流をさらに

促進させてお互いの理解や国民感情を深め、双方の文化に対する賛同を促し、双方の友好的善隣関係

の社会基盤をしっかりと固める。「海上シルクロード」は全方位的・深いレベル・戦略的・重点的な

相互連携・相互往来を通じて中国とASEAN間の相互依存度を高め、国民感情を深め、双方の共同利益

を促していくことで中国-ASEAN FTAのアップグレード版構築に向けた新たな推進力となるようにする

ものである。

第 4 に、中国−ASEAN FTA の発展は「海上シルクロード」の推進にも役立つ。中国−ASEAN は、FTA

建設を共同で進めることをきっかけに、「中国−ASEAN 海洋パートナーシップ」を樹立・発展させ、ブ

ルネイとの南シナ海関連共同開発プロジェクトやベトナムとの海上協力プロジェクトを実施して模

範・リード的役割を果たし、海上協力を拡大・強化し、中国−ASEAN海上経済ベルト建設を積極的に進

めていく。また、中国政府が設立した中国−ASEAN海上協力基金を活用し、漁業センター建設や海洋生

態環境の保護、海産物生産取引、航行の安全や捜索・救助および海上輸送の利便化などに関する協力

を重点的に強化していく。さらに、中国−ASEAN港湾都市協力も積極的に進め、中国−ASEAN港湾都市協

力ネットワークの構築、港湾間航路協力およびインフラ建設協力などを推進しながら汎北部湾(ベト

ナム北部)協力を基盤とした中国−ASEAN海上相互連携・相互往来プロジェクト投資の基盤・メカニズ

ム構築を模索し、国際航路の拡大や中国−ASEAN間海上輸送の利便化向上などを行っていく。これらは

いずれも「海上シルクロード」を発展させるための基盤となる。

(5) 「海上シルクロード」の拡大を通じて中国と中東・アフリカ貿易が拡大する可能性

「海上シルクロード」は、中国が ASEAN の地域協力だけにとどまらず、ASEAN を経由して経済協力

を徐々に中東、さらにはアフリカへと拡大させるのに役立てることができる。「海上シルクロード」は

中国から中東、さらにはアフリカまで、資本や商品、インフラ建設を組み合わせながら経済のグロー

バル化をリードし、東洋と西洋の発展を結びつけるものである。「海上シルクロード」を通じて中国と

中東・アフリカ貿易が拡大する可能性は、主に二つの面に表れている。一つは、中国経済の成長に伴

ってエネルギーや原材料需要が徐々に拡大していること、そしてもう一つはペルシャ湾地域の経済成

長によって中国がよりアジア・アフリカ市場を重視していることである。具体的には次の通りである。

第 1 に、中国のエネルギー資源戦略環境整備を進めるために、「海上シルクロード」を通じて中国

と中東・アフリカ貿易を拡大させる必要がある。アフリカは豊富なエネルギー資源を有しているため、

今後必ず中国のエネルギー資源戦略において重要な地位を占めることになるはずである。全体的にみ

て、中国の資源需給問題は今後も長期的に継続すると思われる。工業化、情報化、都市化、農業の近

代化という「4 つの新型化」を推進していく中で、中国ではエネルギーやその他重要鉱物資源に対す

55

る需要が今後も伸び続けていくだろう。

しかし、中国はアフリカのエネルギー戦略の中でただエネルギーに着目するのみならず、より包括

的な中国・アフリカ関係の長期的発展に着目すべきである。そのため、「海上シルクロード」を通じて

アフリカ諸国に多くのインフラ建設支援を提供し、アフリカ諸国の経済の多様化をサポートすること

に力を入れながら、アフリカ諸国の社会安全環境や効率的な管理局面を改善し、中国がアフリカにお

いて持続可能で良好なエネルギー獲得環境を手に入れることができるようにしていかなくてはならな

い。

第 2 に、中国とペルシャ湾の経済貿易の未来が明るいことも、「海上シルクロード」を通じて中国

と中東・アフリカ貿易拡大の条件となる。ペルシャ湾沿岸のアラブ諸国は経済発展が良好で、石油財

産や財政支出、人口および地理的優位性は当該地域の経済を持続的に発展させる支えとなるだろう。

また、急成長する新興経済地域として、中国とペルシャ湾沿岸のアラブ諸国はエネルギーやインフラ

および投資などの分野で幅広く協力できるという将来性がある。中国とペルシャ湾沿岸諸国は経済貿

易協力でwin-win関係が実現する。

また、中国のエネルギー需要のおかげで沿岸諸国の富は増え続けており、工業・医療・教育インフ

ラの建設に関わる資金需要も増えている。中国企業が当該地域のインフラ建設に積極的に参加して先

導的役割を果たせば、ペルシャ湾沿岸諸国の成長を中国経済の中へと取り込むことができる。また、

経済の多様化に力を入れているペルシャ湾沿岸諸国にとって、インフラ建設は当該地域のポスト石油

時代の経済発展のための土台となるだろう。

特に石油資源の獲得がより重要である。中国は石油輸入のうちの4分の3近くを中東およびアフリ

カに頼っている。アフリカ 大の石油輸出国ナイジェリアでは、外貨準備の 7%を人民元で保有する

つもりである。また、コンゴ共和国では75%の銅を、南アフリカ共和国では70%の鉄を中国へ輸出し

ており、中国とアフリカ間の貿易・金融取引はますます緊密化している。2013年に中国とアフリカ間

の貿易額は2,100億ドルに達した。また、ペルシャ湾諸国からアフリカへの輸出額は2000年から2010

年の間に15%増加しており、湾岸諸国からアフリカへの投資分野は金融、不動産、通信など多様な業

種に及んでいる。今後数年、中東とアフリカの航空路線が発達するにつれて貿易額はさらに拡大する

だろう。「海上シルクロード」は世界の舞台でより大きな役割を発揮し、世界経済の発展を推進してい

くものと思われる。

(6) 「海上シルクロード」構想を進める上での外部問題

第 1 に、「海上シルクロード」沿線諸国のインフラの相互連携をさらに強化する必要があることで

ある。地域経済の一体化が進展するにつれて、地域を跨いだインフラの相互連携・相互通行に対する

需要はますます高まっている。相互連携・相互通行が協力を推進・深化させる重要な手段であること

も証明されている。現在中国−ASEAN FTAは相互連携・相互通行を双方間協力における優先分野・重点

方向としている。APEC(アジア太平洋経済協力)第21回指導者会議では、地域間の相互連携・相互通

行を三大重点議題の一つとした。アフリカ諸国では現在、相互連携・相互通行レベルを高めることを

56

目指した「アフリカインフラ発展計画」の推進を強化している。欧州諸国でも「欧州インフラ連結計

画」を積極的に進めている。「海上シルクロード」建設では、まず関連諸国の港湾の相互連携を解決し、

先端技術を用いて港湾・施設の建設レベルや物流の流通機能を高め、各国の経済貿易協力発展を推

進するために良好な環境を整える必要がある。

第 2 に、「海上シルクロード」沿線諸国の貿易の自由化レベルをさらに高める必要がある。貨物貿

易およびその管理制度づくりを強化しなくてはならない。「海上シルクロード」に属する各国が貿易活

動を行う際には、必ずWTOおよびその貿易協定を順守し、国際貿易活動に対する組織化・制度化管理

を実施しなくてはならない。それと同時に、生産要素の移動管理制度の強化も行っていく必要がある。

「海上シルクロード」は人員の移動以外に費用決済や通貨交換をはじめ、貨幣の互換・為替・資本移

動などに関する取り締まりなど、資金の移動も伴っている。とりわけ資本の国際流動はクロスボーダ

ー直接・間接投資、国際貸付、融資などにまで関連してくる。これらはいずれも「海上シルクロード」

建設に影響を与えるため、「海上シルクロード」では必ず人民元決済および、為替レートの市場化、設

立する金融機関の利便性向上などを進め、人民元の国際化を推進していかなくてはならない。このほ

か沿線諸国と政策の共同歩調を強化し、貿易の利便化および自由化レベルをさらに高め、要素の自由

移動を推進し、貿易および投資障壁を減らして貿易規模を拡大させ、貿易構造の 適化を図る必要も

ある。中国企業が沿線諸国で投資協力や海外経済貿易協力区の建設を行い、投資品質や投資効果を高

めることを推進していかなくてはならない。また、中国と沿線諸国のFTA締結、とりわけ中国−ASEAN FTA

のアップグレード版の構築を加速させていく必要がある。中国と沿線諸国との協力を強化する新たな

方法・規範を考え、地域経済協力の手本を作っていかなくてはならないのである。

第 3 に、「海上シルクロード」沿線諸国には海洋秩序を保障する有効なメカニズムが備わっていな

い。現在、中国はASEAN周辺海域において海洋秩序、海上航行安全、海洋環境の保全、海上での違法

行為防止、海洋科学研究の共同歩調などを保障する有効なメカニズムをいまだに有していない。海洋

権益に対する認識や開発が進んでいくにつれて、海洋協力関係の構築も急務となっている。中国と

ASEAN の双方が地域内の大国という責任を担い、海洋協力に関する話し合いを加速させて海洋協力パ

ートナーシップを結び、「海上シルクロード」における橋渡し的役割を大いに発揮し、中国と ASEAN

諸国が平和的・友好的・協力的に海洋権益を共有できるようにしなくてはならない。双方はまた、海

洋協力に関する新たな切り口を模索し、双方の関係を発展させる上で海洋協力が持つ影響力・貢献力

を大いに高めていく必要もある。

57

5. 新シルクロード構想に付属する経済回廊の概要

(1) バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊(BCIM 経済回廊)

バングラデシュ・中国・インド・ミャンマーサブリージョン(BCIM)とは、バングラデシュ、中国

西南部、インド東北部、ミャンマーが含まれる、インド洋と太平洋の中核エリアとアジアの各サブリ

ージョンとを結ぶ重要な中枢である。内陸にはバングラデシュ、中国、インド、ミャンマーの広大な

内陸部が広がり、チッタゴン、コルカタ、ヤンゴンといった有名な港湾都市を出口に持つ、中国とイ

ンドという二大新興経済国がつながった地域であり、中国・ASEAN・南アジアという三大市場が融合し

た地域であると同時に、中国がインド洋出港ルートを開拓する上で必ず通る地域でもあるなど、その

ルートの価値や立地、戦略的意義は極めて重要である。

1999年にバングラデシュ・中国・インド・ミャンマーの4カ国が「昆明宣言」に署名してから2013

年に中国・インド両国が共同で経済回廊建設を提唱するまでの約14年間に、4カ国は貿易投資、交通・

観光および文化交流などの方面で一連の協力を実施して成果を収めており、BCIM経済回廊建設に有利

な環境を整えている。

a. BCIM主要経済協力分野

2013年、中国・インド両国の首相は「BCIM経済回廊の構築」を「中国インド共同声明」に盛り込ん

だ。この提案を実行するために2013年12月、昆明でBCIM4カ国共同活動チーム会議が開催された。4

カ国の政府職員や学者、金融機関等の代表者らによって共同活動チームが結成され、4 カ国共同研究

計画を議論し、共同研究の枠組みおよび研究スケジュールを確定したほか、「共同研究枠組み」などの

文書に署名を行った。

これは、BCIM 経済回廊が 4 カ国政府のメカニズム化を推進する段階に突入したことを表している。

BCIMが主に行う経済方面分野での協力には、貿易・投資や観光文化、相互連携・通行の三つの方面が

含まれる。

(a) 貿易投資協力

第1に、貿易投資の利便化レベルを改善する。BCIM各国政府が市場参入条件の改善、関税障壁の撤

廃、貿易の利便化、通関インフラ建設の強化、通関プロセスの協調などを行い、その他加盟国への輸

出商品に対してゼロ関税政策を実施し、貿易障壁を撤廃することによって、よりバランスのとれた貿

易を促進していく。また、互いに投資し、合弁企業を設立することを奨励し、今後このサブリージョ

ンにおいて地域貿易の活性化が図れることを目指していく。より幅広い市場参入は、とりわけ BCIM

のような低所得国家にとっては地域内の貿易流動を刺激してくれるものになるだろう。

第2に、中継貿易を積極的に行っていく。中継貿易が行いやすいような港を一定数建設し、指定し

た地域内部の税関検査港を中継貿易通関港とする。また、BCIM各国政府は越境貿易の手続きをさらに

簡略化させ、人員や貨物および車両の越境をスムーズ化する必要もある。より合理的な政策措置や現

有のメカニズムを利用することで人員、貨物および投資の越境流動を促進させ、それによって国境貿

58

易の発展を促していくのである。

第3 に、投資および金融協力を強化する。BCIM 商務理事会の推進は、私営企業協力を促進したり、

政府の地域内協力を深化させたりする上でより大きな役割を果たすことになるだろう。BCIM商務理事

会でより多くの新たなプロジェクトを提案して地域内貿易の推進や投資の刺激を行うほか、地域およ

びサブリージョンレベルで合弁企業やプロジェクトを実施することによって当該地域における天然資

源開発を行っていくのである。

(b) 観光文化協力

第 1 に、観光の利便化協力を行う。地域の観光業界の発展を促進させるため、4カ国政府はビザの

取得手続きに要する期間をできるだけ短縮したり、不必要な規定を削除して手続をスムーズにしたり

するなどの措置をとり、観光協力を拡大していかなければならない。 第2に、観光施設建設の協力を行う。観光業や観光施設の発展を促進したり、観光施設の 新の情

報交換などを行っていく。 第3に、地域内の観光協力を強化する。観光ルートの共同計画、観光商品のPR、観光産業および管

理組織間の協力を強化するなど地域内の観光協力を促進する。また、観光業界や監督・管理機関間の

協力を強化したり、共同観光プロジェクト実施計画を提案したりしていく。

(c) 相互連携・相互通行協力

第1に、地域内の交通インフラの改善を行う。当該地域の道路および鉄道輸送の協力を行い、地域

内の交通インフラの改善を行う。また、マイカーでのイベントや自動車ラリー大会などを実施するな

どして当該地域内の人員や貿易交流を拡大させる。 第2に、空路の利便化をはかる。新規直行便を開通させる。例えばダッカ、グワーハーティー(イ

ンド東北部アッサム州)、コルカタ、昆明、マンダレー間や4カ国のその他地域を結ぶルートについて、

政府や航空会社は実際の手順を踏みながら空路の改善を行っていく。

第3に、現有のインフラの相互連携・相互通行条件を改善する。4 カ国は現有の道路やその他選択

可能道路の状況改善を優先的に行っていく。また出入国の利便化をはかり、車両や物資、人員がノン

ストップまたは乗り換えなしで出入国できることを目指していく。4 カ国は ADB が地域の交通問題に

ついて研究した「ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアティブ」を参考にしながら、この問題につ

いて研究していくべきである。そのほか、鉄道が4カ国の国境内で中断されている部分を整備してい

くことも優先事項としていく。

b. BCIM経済回廊協力の現状

(a) 貿易の規模は安定成長

中国・インド間貿易は2002年の50億ドル前後から2011年には739億ドルにまで成長し、全体的に

プラス成長を維持している。ポスト金融危機に新興市場経済が疲弊した影響を受け、2012年の両国間

貿易額は前年比10.1%減少してわずか664.7 億ドルとなった。2013 年末時点での両国間貿易は2012

59

年とほぼ同水準であった。2014年1~7月期、中国とインドとの輸出入貿易額は前年同期比7.1%増の

401.7 億ドルとなった。現在、中国はインドにとって 6 番目の輸出相手国であり、 大の輸入相手国

となっている。

次に、中国・バングラデシュ間の貿易発展状況は良好で、2002年以降急成長期に入っている。現在、

バングラデシュは中国にとって南アジアで三番目の貿易相手国であり、バングラデシュにとって中国

は 大の輸入相手国となっている。

中国とミャンマー間については、両国間の貿易は急成長しており、2011年には中国がタイに替わり

ミャンマーにとって 大の貿易相手国となった。 近ではミャンマー北東部の武力衝突やミャンマー

国内の政策の影響を受けて両国間の貿易に変動が生じてはいるものの、全体としてはプラス成長を維

持している。統計によると、2014 年 1~7月期の両国間貿易総額は45.66 億ドルで、中国はミャンマ

ーにとって 大の貿易相手国となっている。

(b) 投資は徐々に拡大

中国からインドへの投資については、今なお模索段階が続いており、相互間の投資額は年平均1億

ドル未満と少ない。投資は主に電力、IT、電信、機械設備製造、医薬および医療設備などの業界に集

中している。

また、インドから中国への投資は急成長を維持しているが、インドの対外投資総額が占める割合は

やや少なく、投資分野もほとんどIT業界に集中している。統計によると、2014年1~6月期にインド

が中国に新たに設立した企業数は36社で、投資額は昨年より1.3倍増加の3,539万ドルであった。ま

た、2013 年末時点で中国企業がインドへ直接投資した金額は 24.5 億ドルで、主な投資分野は通信、

機械製造、冶金、家電製品などであった。

バングラデシュでの中国企業の投資はハイレベル分野に発展する傾向がみられ、投資は主に紡績、

服飾および関連機械設備分野に集中している。2012年、バングラデシュの中国への投資額は227万ド

ルであった。

中国は2004年よりミャンマーへの投資を増やしており、投資分野は主に石油、天然ガス、電力、鉱

業開発などのプロジェクトに集中しているが、集中式資源型投資は一定の障害にも見舞われている。

統計によると、2013年の中国(香港・マカオ含む)からミャンマーへの投資額は前年比9.2%増加の

3.1億ドルで、中国はミャンマーへの直接投資国としては第5位にとどまった。

(c) 相互連携・相互通行は順調に進む

現在、BCIM4カ国はすでに5本の交通路線を整備しつつある。

一本目は昆明−猴橋−ミッチーナー(ミャンマー)−レド(インド)−ダッカ−コルカタ(バングラデシ

ュ)で、この路線では農産物の代替作物栽培や宝玉石加工、観光業および設備製造業を重点的に配置

させるのに適している。

二本目は昆明−瑞麗−マンダレー(ミャンマー)−ダッカ(またはチッタゴン)−コルカタ(バングラ

60

デシュ)であるが、この路線では農産物加工や中継貿易およびその他製造業を配置させるのに適して

いる。

三本目は昆明−瑞麗−チャウピュー(ミャンマー)−南アジア諸国を通るルートで、石油パイプライン

が中心となり、石油化学工業やその他製造業を重点的に配置させるのに適している。

四本目は昆明−瑞麗−ヤンゴン(ミャンマー)−ASEAN諸国を通るルートで、エネルギー資源や鉱山物、

農産物加工などの産業を配置させるのに適している。

そして五本目は昆明−清水河−ラーショー(ミャンマー)−マンダレーで、農産物や木材加工業などを

配置させるのに適している。

(d) 観光協力には巨大な潜在力がある

中国西南部やインド北部および東北部、バングラデシュ、ミャンマーなどの地域は豊富な観光資源

を有し、主にその独特な自然風景や民族の多様性などが特徴となっている。観光産業はすでに中国西

南部地域において雇用増加や経済発展推進などを支える産業となっており、例えば雲南省では 2013

年の省全体の観光業収入総額が2,000億元(約4兆円)を超えている。

また、インドでは観光業は第二のサービス産業となっており、インドの国家収入および国内雇用チ

ャンスを保証するものとなっている。バングラデシュおよびミャンマーでも、ここ数年観光業の発展

が地方の特色となっており、中国やインドから大量の観光客を集めている。2013年、インドから中国

へ訪れた観光客数は前年比11%増加してのべ68万人であった。また2014 年の1~9月期にインドか

ら中国へ入国した観光者数は前年同期比2.5%増加の合計51.97万人であった。また、2012年はのべ

約60万人のミャンマー人が中国へ観光訪問しており、中でもミャンマーと隣接している雲南省を訪問

する観光客が も多かった。

BCIM地域の陸・海・空のルートが発達・利便化していくにつれて、4カ国の観光協力が持つ潜在力

はさらに巨大なものになり、より大きな将来性を持つようになるだろう。

c. BCIM経済回廊協力を妨げる要因

BCIM経済回廊の建設には一連の有利な環境が備わってはいるものの、今なお建設を妨げる要因が存

在する。4 カ国は政治・経済・文化などの面から全方位的な協力を行うことでそれを解決していく必

要がある。

(a) 複雑な政治・領土・民族・宗教関係

BCIMの4カ国の中では中国・インド関係が主導的役割を担っているが、その他の関係国も非常に重

要である。当該地域内部は複雑な政治・領土・民族・宗教関係を持つため、各国の戦略・方針が変わ

る可能性があり、サブリージョン経済協力に影響を与え、脅威となる恐れがある。

その他、米国・日本・欧州などの先進国が当該地域へ介入する問題も疎かにできない。米国や日本、

欧州は対中国政策において常に領土問題を利用して中国・インド、中国・ミャンマー、中国・バング

61

ラデシュ間の関係に関与しており、中国が貿易・投資活動を行うのに潜在的政治リスクをもたらして

いる。

(b) 脆弱な産業の相互補完性

BCIM各国は産業構造の面で一定の相互補完性を有してはいるが、それでも産業構造の類似性の方が

相互補完性を上回っている。中国・インド間を例にとると、インドは長年中国に対して貿易赤字とな

っているが、その原因はインドが中国市場において競争力のある製品やサービスを十分に提供できて

いないことにある。また中国の機械・通信・化学製品はインド市場で明らかな優位性をもっており、

本国の産業を保護するためにインドは厳重な貿易障壁を設けている。

中国・インド両国の対外貿易総額は2012年と2013年の2年連続で2011年の739億ドルを下回って

おり、2015年までに1,000億ドルを突破するという計画目標にはほど遠い。現在、BCIM各国は天然資

源、人材、技術、設備、情報など基本生産要素の手配、供給、生産、販売、研究開発、サービスとい

った中核的生産段階の協力に関して十分な相乗効果を発揮できておらず、産業構造の 適化や産業の

相互補完性の開発・改善が求められている。

(c) 立ち遅れたインフラ建設

BCIMサブリージョンはそれぞれ隣接しているが、地理環境が複雑で、地域の開発・開放も遅れてい

るほか、インフラ建設とりわけ交通インフラが立ち遅れていることは当該地域の経済発展や対外貿易

における 大のボトルネックの一つとなっている。

中国は西部大開発戦略を実施してから交通・通信・産業パークをはじめとするインフラ建設に関し

てめざましい発展を遂げたが、インドやミャンマー、バングラデシュのインフラ建設は深刻なほど遅

れている。世界銀行が定期的に公開している「物流パフォーマンス指数」ランキングでは、2012 年、

ミャンマーが交通物流ランキングにおいて世界155カ国・地域のうち第133位と交通インフラが も

立ち遅れた国に分類された。現在もBCIM各国はインフラ建設において建設資金をはじめ数多くの困難

を抱えている。

(d) 戦略の実行に対する実質的政策支援が不足

BCIM経済回廊の建設は、李克強首相がインド訪問期間中に提唱したものであるが、今なお実質的な

進展や政策面での支援が不十分であり、既存の政策や基盤ではBCIM経済回廊建設の持つ高い要求を満

たすことは難しい。

また中国では、本国企業が対外貿易を行ったり、インド・ミャンマー・バングラデシュで投資を行

う際のバックアップが不十分で、輸出企業の融資、対外投資企業の 恵国待遇、対外投資に係る為替

レート変動リスク回避、政治的リスク回避など重要な問題について、国家レベルでより多くの政策的

支援を打ち出していく必要がある。

62

(2) 中国・パキスタン経済回廊

2013年5月、李克強首相のパキスタン訪問時に、中国とパキスタンは一連の提携協定および了解覚

書に署名した。中国とパキスタンが発表した「全面的戦略協力共同声明」の中で、両国は十分な論証

を行った上で中国・パキスタン経済回廊長期計画を共同で研究・制定し、両国インフラの相互連携・

相互通行を推進し、投資・経済貿易協力でさらなる発展を促していくことで同意した。

中国・パキスタン経済回廊は、パキスタンのグワダル港と中国新疆ウイグル自治区のカシュガルと

を結ぶ全長3,000キロメートルにわたる経済回廊で、総工事費は450億ドル、2030年完成予定となっ

ている。

a. 中国・パキスタンの主な経済協力分野

中国・パキスタン経済回廊の具体的な内容はまだ 終確定に至っていない。公式文書をみる限り、

この経済回廊は中国の新疆ウイグル自治区カシュガルとパキスタンのグワダル港とを結ぶ道路、鉄道、

石油・ガス、光ケーブルの「四位一体」回廊となるだけでなく、回廊沿線にいくつかの経済特区や多

数の社会協力プロジェクトを配備した発展型回廊でもあり、開放・win-win の回廊でもあるようだ。

主な協力内容は、次に挙げる三つの方面である。

第 1 に、ルート(経済回廊)の建設である。ルートの建設は、中国−パキスタン経済回廊建設にお

ける先導的役割を担う。経済回廊のルートの起点はカシュガル、終点はグワダルという基本方針は既

に明確になっている。具体的な経由地点は中国の新疆ウイグル自治区ウルムチ-カシュガル-クンジ

ュラブ-パキスタン-ススト-フンザ-ギルギット-ペシャーワル-イスラマバード-カラチ-グワ

ダル港で、全長4,625キロメートルにわたる交通大動脈になる。パキスタン側は、中国・パキスタン

経済回廊の主動脈では出来る限り迂回を減らし、カシュガルからグワダルまでを直通で4,000キロメ

ートルにまで短縮させ、沿線にたくさんの支線を設けて補うことで中国・パキスタン経済回廊の交通

体系を構築させるべきだとしている。

第2に、沿線の開発である。双方は沿線にいくつかの経済特区を設けることで現地に根を下ろした

両国間協力を促し、沿線の産業発展をリードしていくことで同意している。パキスタン側はラーワル

ピンディーからグワダル港までの沿線に8つの経済特区を設ける予定で、中国企業が駐在し、パキス

タンの輸出入、加工、製造業および農地・水利などの支援を行うことを望んでいる。グワダル港の開

発について、パキスタン側はすでに運営権を中国企業に引き渡しており、パキスタン政府は特別待遇

を与える予定だと表明している。しかし経済特区の 終的な場所決定や中国資本の参入方法およびグ

ワダル港の具体的な開発内容について、中国側はまだ明確に態度を示していない。

第3に、開放・win-win の実施である。中国・パキスタン双方ともに、経済回廊建設は周辺を開放

していくことで双方に利益をもたらすものだと明確に示している。中国側も、経済回廊は中国が「陸

上シルクロード」建設を行う上で重要な部分を担うため、皆が積極的に参入し、中国、パキスタン、

カザフスタン、キルギスの「4 カ国交通運輸協定」の実施をさらに深め、中央アジア・南アジア・東

アジアの相互連携・相互通行を促してほしいと何度も述べている。もし数々の方面から中国・パキス

63

タン経済回廊建設への積極的な参加があれば、当該地域のイラン-パキスタン-インド(IPI)石油・

ガスパイプラインや、トルクメニスタン-アフガニスタン-インド(TAPI)天然ガスパイプライン、

中央アジア・南アジア電力網プロジェクト(CASA−1000)およびイランチャーバハール港(Chahbahar

Port)建設のいずれにも有益となろう。

b. 中国・パキスタン経済回廊協力の現状

(a) 日増しに深化する経済貿易協力

現在、中国とパキスタンは多くの経済貿易協議や五カ年計画を締結している。2005 年 12 月、両国

は「中国・パキスタン自由貿易協定アーリ-ハーベスト協議」に署名し、3,000 種類以上の製品につ

いて予定を繰り上げて関税を引き下げることで同意した。

また2006年11月には「中国・パキスタン経済貿易協力五カ年発展計画」および「中国・パキスタ

ン自由貿易協定」を締結し、二段階に分けて全ての貨物製品に対して減税を行い、同時に中国に駐在

するパキスタン企業に対する優遇措置を行った。2009年2月には「中国・パキスタンFTAサービス貿

易協定」に署名した。これは、両国にとってこれまでで対外開放度が も高く、内容も も包括的な

FTAサービス貿易協定となった。

経済回廊建設が進んでいく中、両国の貿易も着実に増加し、貿易の結合度も強まっている。両国間

の貿易額は、2004年には30.6億ドルであったが、2013年には142.2億ドルにまで拡大し、10年間で

3.6 倍になった。パキスタンの主要貿易相手国のうち、中国との貿易が も高い割合を占めている。

同国の2013年の主な輸出相手国の内訳は、米国が16.1%、中国が11.6%、アラブ首長国連邦ドバイ

が 6.2%となっており、輸入相手国は中国が輸入総額の 13.4%、アラブ首長国連邦ドバイが 11.4%、

サウジアラビアが9.7%であった。同国と周辺国インドとの輸出入額の割合はそれぞれ4.3%と1.5%

で、中央アジア 5 カ国との輸出入総額はいずれも 0.1%未満で、パキスタンの隣国の中で中国の対パ

キスタン貿易が優位であることがはっきりと分かる。

(b) 今後も進む相互連携・相互通行

中国・パキスタンの相互連携・相互通行協力を推進することについて、両国は数々の提携協議や「中

国・パキスタン経済回廊長期計画概要」などに署名しているほか、国務院の李克強首相も中国・パキ

スタン経済回廊を中国が周辺国との相互連携・相互通行を行う上での「フラッグシッププロジェクト」

と定義することを強調している。

2013 年、中国はパキスタンに 5,000 万元の資金援助を提供することを宣言した。2014 年、両国は

20 項目以上の提携協議を結び、両国がグワダル港などの重大インフラプロジェクトを共同で建設し、

エネルギー・電力強化プロジェクトの協力を強化することを強調した。また中国は、これまでに新疆

ウイグル自治区ウルムチから阿拉山口、さらにカザフスタンへとつながる「ユーラシア・ランドブリ

ッジ」を建設し、その後には青海省からチベット自治区ラサへとつながる鉄道を建設したほか、現在

はラサからシガツェへとつながる鉄道も建設中である。これらは中国・パキスタン間の鉄道および道

64

路建設や相互連携・相互通行を推進するための重要な経験となっている。

(c) 整備が続くエネルギー協力

エネルギー協力は中国・パキスタン経済回廊建設における基盤である。「エネルギー回廊」建設が提

案された当初の背景として、両国間のエネルギー不足と、中国がグワダル港建設を請け負ったという

ことがある。2013年、パキスタンのムハンマド・ナワーズ・シャリフ首相が中国を訪問した際、両国

は中国・パキスタンエネルギー作業チーム第3次会議を早期に開催し、両国が在来型エネルギーや再

生可能エネルギーおよびその他エネルギー分野での協力を深化させることで同意した。

2014 年 11 月、国家発展改革委員会副主任で国家エネルギー局局長の呉新雄氏とパキスタンの水利

電力省常務秘書のムハンマド・ユニス・ダッカ氏は「中国・パキスタン経済回廊エネルギープロジェ

クト協力協議」に署名し、両国の「エネルギー回廊」建設に対して戦略的支援を提供した。

c. 中国・パキスタン経済回廊の協力を妨げる要因

(a) 楽観視できない治安情勢

現在、パキスタンは国内の政局が不安定であり、治安悪化が目立ち、テロも多い。アフガニスタン

やインドとの国境付近で頻繁にテロが発生しているだけでなく、中国・パキスタン経済回廊の経由地

域でも問題・衝突が多い。それに加え、パキスタンは常に米国の対テロ対策に協力してきており、大

量の資金や時間、精力を費やしているため経済成長が常に低空飛行状態となっており、国民の生活に

深刻な影響を与えていることなどが、中国との協力プロジェクトや利益の長期的な発展にとってマイ

ナスとなっている。

(b) 高い建設コスト

中国・パキスタン経済回廊の建設コストが高い理由は、資金と技術両方の面にある。資金面では、

パキスタンの資金不足が挙げられる。2013 年 3月1日時点で、同国の外貨準備高は128.05 億ドルに

まで減少した。グワダル港から新疆までの中国・パキスタン経済回廊はその距離の長さや地形の複雑

さゆえに大量の資金援助が必要となる。例えば、総距離約7,000キロメートルにおよぶ石油・ガスパ

イプライン建設に必要な投資総額は約70億ドルである。また、石油・ガス輸送用の鉄道や道路を建設

するためにはたくさんのトンネルや橋を建設しなければならないだけでなく、高い維持・補修費用も

必要となる。そのため、大規模な資金援助がなければ中国・パキスタン経済回廊建設を実現させるこ

とはできないのである。また、技術面では、地形の複雑さが挙げられる。パイプラインは、海抜高度

4,000 メートル以上にもなる高く険しい、また雪で覆われたパミール高原やカラコルム山脈を貫通さ

せなくてはならない。気候環境が悪いため、道路も一年中通過できるわけではない。以前のカラコル

ム山脈道路は、秋季・冬季の大半は閉鎖されていた。そのため、中国・パキスタン経済回廊建設には

莫大な資金と技術を必要とするというプレッシャーがかかっており、低価格な海上輸送と比べると建

設コストが高くなる。

65

(c) 経済基盤の弱いグワダル地域

グワダルはパキスタンでも経済発展が立ち遅れた地域であり、産業が未発達で人や物、資金の流通

も少ない。さらにハイレベル人材や英語を話せる人材も少ない。こうしたことにより、グワダル港は

その立地面での戦略的メリットと経済メリットを十分に発揮できなくなっている。シンガポールもグ

ワダル港運営期間中、ビジネス経営効果を十分に生み出すことができなかった。このように、地域の

経済基盤が弱いことがグワダル港の建設・発展に影響を及ぼしており、投資企業の経営効果を大きく

妨げる要因となっている。

66

6. 新シルクロード構想における日中協力の可能性と提案

中国の新シルクロード構想には、「陸上シルクロード」と「海上シルクロード」とがある。日本は沿

線諸国と経済、外交面などで密接な関係を築いており、今後新シルクロードの枠組みの中で中国と協

力することは日本の利益にも合致し、また周辺地域の発展に対しても大きな意味を持っている。

(1) 新情勢における日中協力に対する中国中央幹部の態度

a. 日本に対する中央政府の一貫した態度

日中関係が長期にわたり健全かつ安定して発展することは、両国および両国国民の根本的利益に合

致する。両国は国交正常化以降、4つの協定・声明文書に署名してきた。具体的には1972年の国交正

常化時に発表した「日中両国の国交正常化に関する共同声明」、1978 年に締結した「日中平和友好条

約」、1998 年に発表した「日中共同宣言」、そして 2008 年に両国が発表した「戦略的互恵関係の推進

に関する共同声明」である。この4つの政治文書は法律の面から両国関係の政治的基盤を固めたもの

であり、日中両国の協力関係を発展させるための礎でもある。

日本は、長期にわたり中国にとって重要な経済貿易協力パートナーとなるだろう。アジアの大国で

ある中国と日本が発展の協力を行うことは趨勢の赴くところである。両国間協力について、日本は中

国にとって5番目の貿易相手国であり、中国の対外経済貿易戦略においては米国やEUとともに重要な

地位を占めている。両国が相互協力を行い、助け合えば、win-win 関係を実現させることが可能とな

る。

b. 新情勢における日中の協力態度

2014 年 11 月 7日、国務委員の楊潔篪氏は釣魚台迎賓館にて谷内正太郎国家安全保障局長と会談を

行い、日中双方は4つの政治文書の各原則および精神を順守していくことを確認した。双方は、外交

ルートを通じて両国関係に影響をおよぼす政治的障害を乗り越えていくことで、ある程度の共通認識

を得た。それにより、両国間は政治の影響を受けない多部門レベルでの安定した貿易協力の枠組みを

構築していくことができるだろう。一部地域に関する敏感な問題、例えば東シナ海海域で近年発生し

ている緊張状態について、双方はそれぞれ異なる主張をしているが、日中双方は対話や交渉を通じて

情勢の悪化を防ぎ、危機管理統制メカニズムを構築して不測の事態が発生することを避けるよう努め

ていく。また各種多方面でのルートを利用して政治や外交、安全に関する対話を再開させ、政治面で

の相互信頼関係の構築に努め、経済発展や国民の福利の実現に向け、安定して調和のとれた発展環境

を整えていく。

2014 年 11 月 10 日、習近平国家主席は日本の安倍晋三首相と会見した際に、次のように強調した。

「日中両国は隣りあう国である。両国関係の安定かつ健全な発展は、両国国民の根本的利益、また国

際社会の幅広い期待に合致するものである。中国政府は一貫して対日関係を重視しており、両国間の

4 つの政治文書を基礎とし、歴史を鑑とし、未来を見据えた精神で日中関係を前進させていく。安定

かつ健全な日中関係を構築するためには、時代の先進的な流れに順応しなくてはならない。日本が今

67

後も平和的発展の道を歩み、慎重な安全保障政策を採用し、隣国の相互信頼を高めるのに有益なこと

を多く行い、地域の平和や安定を守るために建設的な役割を担っていってくれることを願う。」

(2) シルクロード構想における日中間の潜在的協力分野

a. インフラ建設協力

「陸上シルクロード」を建設するという大きな背景の下、海上および陸上運輸が今後の経済交流の

中で重要な連結の役割を果たすだろう。日中両国は物流・交通インフラ建設において協力し、関連イ

ンフラの建設を共同で行い、シルクロードにおける大型物流ルートを開拓することを検討していくこ

とができる。

b. 技術協力

日本は東アジア地域における先進国の一つであり、科学技術の発展レベルが高い。中国と日本企業

はそれぞれの長所を活かし、日本の先進的なマネジメント方法や生産技術を十分に活かして「一帯一

路」建設の中で技術協力を行い、シルクロード沿線市場の開拓を共同で行っていくこともできる。

c. 金融協力

日中両国は経済発展交流において、金融分野での協力を強化することができる。資金協力をすれば

資源の使用効率を高めることも可能となり、また協力することで共同で地域内の金融危機に対応でき、

外部の要因による危機・ショックの被害を 小限に留めることが可能となるだろう。

d. 環境保全協力

日本は省エネ・環境保全分野において先進的技術と管理の実績を持っている。シルクロード沿線諸

国の多くは経済発展の途中であるため、経済成長の過程で環境を犠牲にすることが避けられないこと

もしばしばである。これは、多くの国が直面する問題である。日本も、かつて高度成長期には似たよ

うな環境汚染問題に直面している。日本の経験を十分に参考にし、沿線諸国の発展について環境保全

を強化していくことは非常に重要である。

68

(3) 政策と提案

a. 新シルクロード経済協力協定の早期検討

新シルクロード沿線の経済貿易運営環境を改善するため、沿線諸国間で貿易・投資・技術協力など

幅広い分野での一連の経済協力協定の早期検討を推し進めていく。

日中あるいは日中韓の3カ国の間で経済協力協定を検討すると同時に、新シルクロード沿線諸国を

含む自由貿易協定や経済協力協定の締結もあわせて推進していく。

b. 幅広い分野における実務的協力の積極的な模索

両国それぞれの技術や産業の優位性を十分に活かしながら、技術体系や産業構造など多方面での協

力を推進し、両国間の知識・経験の交流を強化し、両国の長所をすりあわせていく。 特に、新シルクロード沿線諸国の経済発展に有益な重大プロジェクトに関して協力を強化していく。

c. 両国間のシルクロード産業発展連盟づくり

企業は地域開発・建設を推進する主体である。両国政府は、両国の企業が産業の振興、インフラの

発展、サービス業の発展などについて協力することを支援し、共同で新シルクロードの経済発展を促

していくべきである。 特に、両国の中小企業協力を推進し、中小企業協力開発連盟を設立することを提案する。

商務部国際貿易経済合作研究院

(2015年3月)