ブラジルにおけるバイオ燃料政策 - maff.go.jp...2...

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1 ブラジルにおけるバイオ燃料政策 ブラジルにおけるバイオ燃料政策 ブラジルにおけるバイオ燃料政策 ブラジルにおけるバイオ燃料政策 1 農林水産政策研究所 小泉達治 農林水産政策研究所研究成果報告会(2011830日) ブラジルにおけるバイオ燃料政策 需給 報告内容 ブラジルにおけるバイオ燃料政策需給 .ブラジルのバイオ燃料が食料需給に与える影響 2 .ブラジルにおけるサトウキビ増産に伴う土地利 用変化の影響と食料需給

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Page 1: ブラジルにおけるバイオ燃料政策 - maff.go.jp...2 Ⅰ.ブラジルにおけるバイオ燃料政策・需給 3 世界のバイオエタノールの生産量の推移

1

ブラジルにおけるバイオ燃料政策ブラジルにおけるバイオ燃料政策ブラジルにおけるバイオ燃料政策ブラジルにおけるバイオ燃料政策

11

農林水産政策研究所 小泉達治

農林水産政策研究所研究成果報告会(2011年8月30日)

Ⅰ ブラジルにおけるバイオ燃料政策 需給

報告内容

Ⅰ.ブラジルにおけるバイオ燃料政策・需給

Ⅱ.ブラジルのバイオ燃料が食料需給に与える影響

2

Ⅲ.ブラジルにおけるサトウキビ増産に伴う土地利

用変化の影響と食料需給

Page 2: ブラジルにおけるバイオ燃料政策 - maff.go.jp...2 Ⅰ.ブラジルにおけるバイオ燃料政策・需給 3 世界のバイオエタノールの生産量の推移

2

Ⅰ.ブラジルにおけるバイオ燃料政策・需給

33

○ 世界のバイオエタノールの生産量の推移

80,000

90,000

その他EU

インド中国

<1,000KL>

30,000

40,000

50,000

60,000

70,000中国

ブラジル米国

4(資料)F.O.Licht(2011), “F.O.Licht World Ethanol & Biofuels Report”.より作成。

0

10,000

20,000

1990年 1995 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

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3

○ 世界の燃料用バイオエタノール純輸出量の推移

3,000

4,000

ブラジル米国EU27CBI

<1,000kℓ>

-1,000

0

1,000

2,000

CBIその他

5(資料)F.O.Licht(2011), “F.O.Licht World Ethanol & Biofuels Report”.より作成。

-3,000

-2,000

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

16,000

18,000

その他

アルゼンチン

インドネシア

<単位:1,000トン>

○ 世界のバイオディーゼル生産量の推移

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000 マレーシア

ブラジル

米国

その他EU

スペイン

イタリア

フランス

ドイツ

6

0

2,000

4,000

2005年 2006 2007 2008 2009 2010

(資料)F.O.Licht(2011), “F.O.Licht World Ethanol & Biofuels Report”.より作成。

Page 4: ブラジルにおけるバイオ燃料政策 - maff.go.jp...2 Ⅰ.ブラジルにおけるバイオ燃料政策・需給 3 世界のバイオエタノールの生産量の推移

4

・ 輸入ガソリンにバイオエタノール混合義務付け(1931年)。

・ 1973年の「第1次石油ショック」はブラジル経済へ大きな打撃。

○ ブラジルのバイオエタノール政策の展開と需給

・ 石油輸入を抑制し,ガソリンの代替燃料としてさとうきびから生産されるバイオエタノー

ルの使用拡大を主目的として「プロアルコール」が導入(1975年:大統領令76,593号)。

・ バイオエタノール生産者に対する補助,生産者買入価格および消費者売渡価格の補償を

はじめとする補助・支援措置が実施。

7

・ 1990年のIAA(砂糖・アルコール院)廃止以降,国内バイオエタノール・砂糖市場に対する政府からの規制は大きく緩和。

・ 現在,残された規制は,農牧供給省令554号に基づき農牧供給大臣がガソリンへのバイオエタノール混合割合を20-25%の範囲内で設定。

○ バイオエタノール・砂糖政策の推移

年 内容

1931年 輸入ガソリンにバイオエタノール混合を義務付け

1933年 砂糖・アルコール院(IAA)設立(大統領令22,789号)

1939年 砂糖・バイオエタノール生産割当上限設置

1973年 「第1次石油ショック」発生

1975年 プロアルコール(PROALCOOL)開始(大統領令76,593号)

1979年 ・「第2次石油ショック」発生・「アルコール車」の生産開始

1989~90年 含水エタノールの供給不足発生、「アルコール車」離れが進む

1990年IAAの廃止(法律8,028号、8,029号)により砂糖輸出の自由化等の規制緩和策が推進。

1993年 ガソリンへの無水エタノール混合義務付け(法律8,723号)

1997年・無水エタノール価格の自由化、バイオエタノール生産割当の廃止

・ペトロブラス流通・販売独占権の廃止

1999年 含水エタノール価格及びサトウキビ価格の自由化

2003年 ・フレックス車の販売開始

・ガソリンへの無水エタノール混合割合25%に設定(農務省令554号)・アグロエネルギ 国家計画(Plano Nacional de Agroenergia)発

8(資料)小泉(2009)

2005年・アグロエネルギー国家計画(Plano Nacional de Agroenergia)発表・フレックス車が新車販売台数の7割を占める(10月)

2006年アグロエネルギー国家計画2006~2011(Plano Nacional deAgroenergia 2006-2011)発表

2007年 バイオエタノール国際商品化に向けた取り組みを開始

2009年サトウキビ農業生態学的ゾーニング制度(行政命令6,961号)の決定

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25,000

30,000

含水エタノール無水エタノール

<単位:1,000kℓ>

国際原油価格高騰、フレックス車が新車販売台数の7割を占める。

○ バイオエタノール生産量の推移

10,000

15,000

20,000

IAAの廃止、バイオエタノール・砂糖政策の規制緩和が進む

フレックス車販売開始

9

0

5,000

1951/52 1954/55 1957/58 1960/61 1963/64 1966/67 1969/70 1972/73 1975/76 1978/79 1981/82 1984/85 1987/88 1990/91 1993/94 1996/97 1999/00 2002/03 2005/06 2009/10

「プロアルコール」政策開始

(資料)MAPA(2010)より筆者作成。

○ 自動車販売台数の推移

3,000

3,500

<単位:1,000台>

1,000

1,500

2,000

2,500

フレックス車エタノール車

10(資料)ANFAVEA(2011)より作成。

0

500

1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009

ガソリン車

2010<年>

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○ フレックス車の新車販売台数と含水エタノール需要量の推移

25,000

30,000

2,500,000

3,000,000

<単位:1000kℓ> <台数>

フレックス車の販売台数

10,000

15,000

20,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

フレックス車の販売台数(右目盛)

含水エタノール需要量

11

(資料)ANFAVEA(2011)及びMME(2010)より作成。

0

5,000

2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009

0

500,000

図 ブラジルにおける砂糖 バイオエタノ ル生産工程

・・ ブラジルでは全体のブラジルでは全体の439439工場のうち工場のうち302302工場が砂糖・バイオエタノール両方を製造(工場が砂糖・バイオエタノール両方を製造(2011.5.6)2011.5.6)。。

・ ブラジルではさとうきびからバイオエタノール・砂糖への配分は両者の相対価格で決定。

○ ブラジルにおけるバイオエタノール・砂糖生産の特徴

図 ブラジルにおける砂糖・バイオエタノール生産工程

  サトウキビ

  圧  搾

 糖汁の抽出   蒸  留

  バイオエタノール

  発  酵

清浄工程

無水エタノール(ガソリン車に使用)

含水エタノール(「フレックス車」に使用)

糖 蜜砂糖・バイオエタノ ル の配分

   バイオ電力

工場内のボイラーとして使用

外部に売電

工場内の電力として使用

バガス(コジェネレーション)

12(資料)筆者作成。

製造工程

影響

 前糖分蜜 工程

   粗  糖

真空結晶工程

砂糖/バイオエタノールの価格比

  糖  蜜ノールへの配分

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○ サトウキビからバイオエタノール・砂糖配分比率の推移

・ ブラジルではサトウキビの半分以上が砂糖ではなく、バイオエタノールに仕向けられている。

・ バイオエタノールと砂糖はサトウキビを原料とし、バイオエタノールと砂糖の相対価格によりサトウキビの配分比率が決定されることからバイオエタノールと砂糖は競合関係にある。

100%

砂糖

バイオエタノール

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

13

(資料)MAPA(2010)より作成。

0%

10%

20%

30%

1948/49

1950/51

1952/53

1954/55

1956/57

1958/59

1960/61

1962/63

1964/65

1966/67

1968/69

1970/71

1972/73

1974/75

1976/77

1978/79

1980/81

1982/83

1984/85

1986/87

1988/89

1990/91

1992/93

1994/95

1996/97

1998/99

2000/01

2002/03

2004/05

2006/07

2008/09

2010/11(見

込)

○ サトウキビ生産量・収穫面積・単収の推移

600.0

700.0

400.0

450.0

500.0

生産量

収穫面積(右目盛)

単収(右目盛)

<百万トン> <指数:1975=100>

200.0

300.0

400.0

500.0

150.0

200.0

250.0

300.0

350.0

単収(右目盛)

14

(資料)MAPA(2010)より作成。

0.0

100.0

1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009

0.0

50.0

100.0

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8

○ バイオエタノール生産コストの推移

0.41

0.4

0.45

<USD/L>米 国

ブラジル

0.17

0.24

0.32

0.280.29

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

ブラジル

15

(資料)F.O.Licht (2008)より作成。

0

0.05

0.1

2004/05 2005/06 2006/07

(年度)

○ サトウキビ由来のバイオエタノールのエネルギー収支比

(単位:kcal/トン)投入エネルギー(A) 60,008 サトウキビ生産 48,208  うち農作業 9,097うち農作業 ,  うち輸送 10,261  うち肥料、消耗品、播種等 28,850 バイオエタノール生産 11,800  うち電力(外部から購入) 0  うち化学製品、潤滑油 1,520  うち製造施設建設 10,280産出エネルギー(B) 499,400 バイオエタノール 459,100 バガス 40,300エネルギ 収支(B)/(A) 8 32

16

(資料)Macedo(2008)より作成。

(註)サトウキビ重量当たりの熱量。

エネルギー収支(B)/(A) 8.32

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サトウキビ 砂糖 バイオエタノール

単位 トン トン kℓ

北部 1,555,200 33,137 75,128ロンドにア 119,700 0 0アマゾナス 314,800 8,679 8,324パラ 749,600 24,458 29,099

トカンチンス 371,100 28,859北東部 61 904 400 4 013 932 2 064 737

ブラジルの州別サトウキビ,砂糖,バイオエタノール生産量(2009/10年度)

北東部 61,904,400 4,013,932 2,064,737マラニャウン 2,267,200 15,868 161,524ピアウイ 985,500 53,884 30,245セアラ 119,500 0 8,242リオ・グランデ・ド・ノルテ 3,535,800 200,772 118,908パライバ 6,269,800 149,236 294,071ペルナンブコ 17,312,200 1,356,930 461,912アラゴアス 26,155,200 2,050,276 712,904セルジペ 2,364,100 57,069 106,584バイア 2,895,100 129,897 170,348

南東部 423,353,500 23,636,170 18,299,454ミナスジエライス 51,321,500 2,682,473 2,378,361エスピリト・サント 4,343,400 77,685 282,743リオデジャネイロ 3,556,300 176,638 97,064サン・パウロ 364,132,300 20,699,374 15,541,285

南部

17

南部 53,768,500 2,421,479 2,192,067パラナ 53,655,200 2,421,479 2,183,566

リオグランデ・ド・スル 113,300 0 8,501中西部 88,442,500 2,544,945 5,177,264

マットグロッソ・ド・スル 26,993,100 738,588 1,516,035マットグロッソ 15,557,000 414,222 942,795ゴイアス 45,892,400 1,392,135 2,718,435

ブラジル合計 629,024,100 32,649,663 27,808,650

(資料)Agra FNP (2010) より作成。

・ブラジル連邦政府は、農村地域開発、エネルギーおよび環境問題への対応から、バイオディーゼル生産・普及を進めている。

○ バイオディーゼル政策

・2005年1月には、北東部・北部の農村地域における雇用増加、環境問題およびエネルギー問題への対応を目的として、法律11,097に基づき、自動車用ディーゼルに対して、バイオディーゼル2%混合を2008年1月から義務付け、2013年度から5%混合義務付けを決定した。

18

・2008年7月からは3%混合を義務付け、2009年7月から4%混合、2010年1月から5%混合を義務付けることが決定され、バイオディーゼル混合義務は前倒しで実施されている。

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10

1,600.0

1,800.0

生産量需要量

<1,000kℓ>

○ ブラジルのバイオディーゼル需給の推移

600.0

800.0

1,000.0

1,200.0

1,400.0

19

0.0

200.0

400.0

2005 2006 2007 2008 2009

(資料)MME(2010)より作成。

80%

100%

○ バイオディーゼル原料比率の推移

40%

60%

その他

綿実油

獣油(牛)

大豆油

20

0%

20%

10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5

2008年 2009年 2010年

(資料)MME(2010)より作成。

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○ ブラジルのバイオ燃料について

・ 今後も安定したブラジル国内の経済成長が続けば、乗用車販売台数の増加により、フレックス車の販売台数が増加することが見込まれる。このた増加により、フレックス車の販売台数が増加することが見込まれる。このため、含水エタノールを中心にブラジル国内のバイオエタノール需要量は増加することが考えられる。

・ バイオディーゼル需要量・供給量は、今後、混合率が引き上げられれば更に需要量・供給量は増加していくことが考えられる。

21

Ⅱ.ブラジルのバイオ燃料が食料需給に与える影響

22

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・ ブラジルのバイオエタノール需要がブラジル及び世界の砂糖需給へ与える影響に いて 部分均衡動学モデルを活用して影響試算を行い ブラジ

○ ブラジルのバイオエタノール政策が砂糖需給に与える影響(1)

る影響について、部分均衡動学モデルを活用して影響試算を行い、ブラジルのバイオエタノール政策が国際砂糖需給に与える影響についての評価を行った。

・ 部分均衡需給動学モデルである「世界砂糖需給予測モデル」を用いて、ブラジルのバイオエタノール政策のうち唯一残された規制であるガソリンに対する無水エタノール混合率義務の廃止が2013/14年度から、実施されることによるブラジル及び世界砂糖需給に与える影響について試算を行った。

23

ことによるブラジル及び世界砂糖需給に与える影響に いて試算を行った。

(資料)小泉・大賀(2009)

・ このシナリオによる予測の結果、2017/18年度におけるブラジルのバイオエタノール需要量は30.6%減少、生産量は23.5%減少し、輸出量は5.5%減少する

○ブラジルのバイオエタノール政策が国際砂糖需給に与える影響(2)

ことが予測された。そして、2017/18年度における世界砂糖生産量及び需要量はベースライン予測に比べて、1.3%増加、世界砂糖輸出量及び輸入量は2.5%増加した。これにより、国際砂糖価格はベースライン予測に比べて、2017/18年度には12.4%下落することが影響試算結果から得られた。

・ このように、ブラジルのバイオエタノール政策において唯一残された規制であるガソリンに対する無水エタノール混合率義務を廃止することにより、国際砂糖価格は下落することが予測された。

24

(資料)小泉・大賀(2009)

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13

・ ブラジル連邦政府では、2013年以降、混合率を現行の5%から上昇させることを検

討している。こうしたブラジルにおけるバイオディーゼル混合率の上昇は、世界第2位の大豆生産国、輸出国であるブラジルの大豆需給のみならず、世界大豆・大豆製品

○ ブラジルのバイオディーゼル混合率引き上げが世界大豆・大豆製品需給に与える影響(はじめに)

の大豆生産国、輸出国であるブラジルの大豆需給のみならず、世界大豆 大豆製品需給にも影響を与えることが見込まれる。

・ 本研究では、大豆油価格水準を反映したバイオディーゼル純収益を供給関数に導

入し、需要量、輸入量、輸出量および期末在庫量も内生化した「世界バイオディーゼル需給予測モデル」を開発するとともに、このモデルが既に開発した「世界大豆・大豆製品需給予測モデル」ともリンクした統合モデルシステムを構築した。

25

・本研究は、こうしたバイオディーゼル需給を内生化したモデルとこれにリンクした世界大豆・大豆製品需給予測モデルにより、ブラジルのバイオディーゼル混合率上昇が、世界バイオディーゼル需給、世界大豆、大豆製品需給に与える影響試算を行うことを目的としている。

○ 世界のバイオディーゼル向け大豆使用量の推移

1 600

1,800

2,000

12.0

14.0

EU27

ブラジル

米国

アルゼンチン

バ オデ ゼ 率

<単位:%><単位:1,000トン>

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

4 0

6.0

8.0

10.0

バイオディーゼル比率

26(資料)F.O.Licht(2010), AgraFNP(2010)及びMME(2010)より作成。

0

200

400

600

2005 2006 2007 2008 2009

0.0

2.0

4.0

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14

○ 世界バイオディーゼル需給予測モデルの概要<米国:バイオディーゼル市場> <世界大豆市場>

P

Q世界輸出量合計=世界輸入量合計

BDF総生産量

BDF生産量(大豆油由来)

ネットリターン

国内BDF価格

収入

グリセリン価格

 支出

オペレーションコスト

BDF生産量(その他原料由来)

BDF需要量

BDF輸入量

BDF輸出量国内BDF価格(国内均衡価格)

  税額控除

BDF向け大豆油需要量(米国)

国内大豆油価格(世界大豆・大豆製品需給予測モデルより)

米国市場

ブラジル市場

   EU市場

アルゼンチン市場

  インドネシア市場

マレーシア市場

            輸出量             輸入量

国際バイオディーゼル価格(CetralEurope Price,FOB)

その他世界市場

国内BDF生産者価格

ブレンダークレジット(大豆油由来)

(参考)

<ブラジル:バイオディーゼル市場>

<EU・バイオディーゼル市場>

<アルゼンチン:バイオディーゼル市場> <インドネシア:バイオディーゼル市場>

再生可能燃料基準

BDF総生産量

BDF生産量(大豆油由来)

ネットリターン

国内BDF価格

収入 グリセリン価格

 支出

大豆油価格(世界大豆・大豆製品需給予測モデル

オペレーションコスト

BDF生産量(その他原料由来)

BDF需要量

    B5義務量

BDF輸入量

BDF輸出量

国内BDF価格(国内均衡価格)

BDF向け大豆油需要量(ブラジル)

大豆油からのBDF生産量

菜種油からのBDF生産量

その他原料からのBDF生産量

域内大豆油価格(世界大豆・大豆製品需給予測モデルより)

域内菜種油価格

域内植物油価格

BDF総生産量

BDF需要量

BDF輸出量

BDF輸入量(定義式)

域内BDF価格

EU Directive

BDF向け大豆油需要量(EU)

 国際原油価格国際原油価格

国際原油価格 国内ディーゼル価格

期末在庫量

BDF期末在庫量

BDF期末在庫量

27

<マレーシア:バイオディーゼル市場>

内生変数

外生変数

均衡価格

需給均衡(国内・域内)

影響

大豆油からのBDF生産量

廃植油からのBDF生産量

国内大豆油価格(世界大豆・大豆製品需給予測モデルより)

BDF総生産量

BDF需要量BDF輸出量(定義式)

BDF輸入量

国内BDF価格<EU域内価格>

BDF向け大豆油需要量(アルゼンチン)

国際原油価格

パーム油からのBDF生産量

BDF需要量

BDF輸出量(定義式)

BDF輸入量

国内BDF価格<EU域内価格>

国際原油価格

パーム油からのBDF生産量

BDF需要量BDF輸出量(定義式)

BDF輸入量

国内BDF価格<EU域内価格>

国際原油価格

国際パーム油価格

国際パーム油価格

BDF期末在庫量 BDF期末在庫量

BDF期末在庫量

○ 前提条件(ベースライン予測)

・ 平年並みの天候

・ 現行の農業政策・これまでの技術変化率が予測期間中も継続

・ WTO交渉の進展による更なるマーケットアクセスの進展は行われず

・ 国際原油価格は予測期間中,年率3.0%の上昇(USDE, Annual Energy Outlook,2010, Reference case)

2828

・ ブラジル連邦政府は,2010/11年度から2014/15年度までに,バイオディーゼル5%混合義務化が適用。

Page 15: ブラジルにおけるバイオ燃料政策 - maff.go.jp...2 Ⅰ.ブラジルにおけるバイオ燃料政策・需給 3 世界のバイオエタノールの生産量の推移

15

○世界バイオディーゼル需給等の推移(ベースライン)

20 000 000

25,000,000

需要量生産量輸出量

<kℓ>

10,000,000

15,000,000

20,000,000 輸出量輸入量

29

0

5,000,000

2008/09年度 2009/10 2010/11 2011/12 2012/13 2013/14 2014/15

・ ベースライン予測では,ブラジル連邦政府は,2010/11年度から2014/15年度までに,バイオディーゼル5%混合義務化が適用されることを前提とした。

○ シナリオの設定

・ 大統領府を中心に2013年以降,バイオディーゼル7%混合義務化を検討している 。このため,ベースライン予測に対して,ブラジル連邦政府が2013/14年度からB7の混合義務化を進めることを代替シナリオとして設定する。

・ 2013/14年度からのバイオディーゼル7%混合義務化の推進により,バイオディーゼル需要量は,2013/14年度には2,168千kℓ,2014/15年度には3,183千kℓに増加することが予測される。

30

Page 16: ブラジルにおけるバイオ燃料政策 - maff.go.jp...2 Ⅰ.ブラジルにおけるバイオ燃料政策・需給 3 世界のバイオエタノールの生産量の推移

16

58.6%

64.5%

56.9%60.0%

70.0%

○ バイオディーゼル需給への影響

4.7%

1 2%

4.7%10.0%

20.0%

30.0%

40.0%

50.0%

輸出量 輸入量輸出量 輸入量

31

-0.6% -0.6%

-18.7%

-0.6%

1.2%

-30.0%

-20.0%

-10.0%

0.0%

需要量 生産量 需要量 生産量

世 界

ブラジル

ブラジル国内バイオディーゼル価格

国際バイオディーゼル価格

5.4%

4.3%

5.0%

6.0%

○ 大豆・大豆製品価格への影響(シナリオ/ベースライン)

3.5%

2.9%

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

国際大豆価格 国際大豆油価格 国内大豆価格 国内大豆油価格

国際大豆ミール価格

国内大豆ミール価格

32

-2.7%

-2.2%

-4.0%

-3.0%

-2.0%

-1.0%

ブラジル国際価格

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17

・ 本研究では、ブラジルにおけるバイオディーゼル混合率上昇が世界バイオディーゼル需給、大豆及び大豆製品需給に与える影響を新規に開発した「世界バイオディーゼル需給予測モデル」を用いて、分析を行った。

○ おわりに

・ ブラジルがバイオディーゼル混合率5%の義務化を行うといった現行のバイオ燃料・エネルギー・農業政策が今後も継続すること等を前提としたベースライン予測に対して、ブラジル連邦政府が2013/14年度からバイオディーゼル7%混合を行うというシナリオ予測を行った。

・ この結果、国際大豆油価格、国際大豆価格が上昇することが予測された。こうした国際大豆油価格の上昇は、主要国・地域における搾油量の増加を促すため、世

産 び輸 増 結 際

33

界の大豆ミール生産量および輸出量は増加し、その結果として、国際大豆ミール価格は下落することが予測された。

・ このように、本研究による分析の結果、ブラジルにおけるバイオディーゼル混合率上昇は、世界大豆・大豆製品需給にそれぞれ異なる影響を与えることが予測された。

Ⅲ.ブラジルにおけるサトウキビ増産に伴う土地利用変化の影響と食料需給

3434

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18

○ 研究の目的

・ ブラジルでは、砂糖・バイオエタノールの需要量の増加からサトウキビ生産量が増大。今後もバイオエタノール需要量の増加を受けて、サトウキビ生産量の増加が見込まれている。

・ ブラジルにおけるバイオ燃料原料作物であるサトウキビ増産により、牧草地や既存の農地がサトウキビ生産に転換することでブラジルの農畜産物需給・環境に与える悪影響が世界的にも懸念。

35

・ ブラジルにおけるバイオエタノール需要量の増加に伴うサトウキビ栽培面積の拡大が、牧草地および既存農地面積に与える影響および農畜産物需給等に与える影響について、考察を行うことを目的。

・ Keeney and Hertel (2010)は、米国のバイオ燃料政策の推進による農地へ

の間接的土地利用変化について、一般均衡需給予測モデルを活用して影響試算。

○ 先行研究

・ Hertel、 Tyner and Birur(2010)は、米国およびEUにおけるバイオ燃料義務

目標が、土地利用変化を通じて、世界経済に与える影響について、一般均衡需給予測モデルを用いて試算。

・ Fabiosa et.al (2009)は、ブラジルおよび米国のバイオ燃料政策の推進によ

際 農 デ 響

36

る国際的な農地利用変化について、部分均衡需給予測モデルを用いて影響試算。

・ Nassar(2010)は、ブラジルのバイオ燃料需要増大によるサトウキビ栽培面積増加が既存農地・牧草地面積に与える影響について分析。

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19

37

サン・パウロ州( 大の生産州)

中南部(現在の生産の中心)

○ サトウキビ増産による土地利用変化の推移

・ ブラジルにおける土地利用の状況

百万ha国土面積に占める 率

百万haる比率

国土面積(IBGE)  851.5 100.0%農地(生産可能面積) 553.5 65.0%環境規制区域(法定アマゾン、パンタナールおよびパラグアイ川流域含む)

694.1 81.5%

サトウキビ作付適性区域 63.5 7.5%牧草地適性区域(高・中程度) 34.2 4.0%サトウキビ収穫面積(2009年) 8.6 1.0%

38

(資料)IBGE(2009)、AgraFNP(2010)より作成。

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○ ブラジル主要州における農地、牧草地および家畜飼育頭数の純増減量

(2002-2006年)

20,000

<単位:1,000ha、1,000頭>

0

5,000

10,000

15,000

39(資料)Harfuch(2009)より作成。

-10,000

-5,000

サトウキビ その他の農地 牧草地 家畜飼育頭数

○ 牧草地使用の集中化

12,000 1.200

牛肉生産量

面積当たり飼育頭数(右目盛)

<百万トン> <頭/ha>

4,000

6,000

8,000

10,000

0.400

0.600

0.800

1.000面積当たり飼育頭数(右目盛)

40

(資料)Moreira(2010)より作成。

0

2,000

1996年 2008年

0.000

0.200

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○ サトウキビ収穫面積拡大に伴う代替土地利用変化(中南部主要州合計)

2,500

2002-2006

<単位:1,000ha>

1,000

1,500

2,000 2007-2008

41(資料)Harfuch(2010)より作成。

0

500

サトウキビ面積拡大 農地 牧草地 その他

・ 主要生産州である中南部主要州では、2002年から2006年にかけての

サトウキビ作付面積増加のうち 大部分が牧草地からの転換によ て代

○ サトウキビ増産に伴う土地利用変化(2002~2006年)

サトウキビ作付面積増加のうち、大部分が牧草地からの転換によって代替。

・ これらの地域では、面積当たり飼育頭数が向上しているため、牧草地面積が減少しても牛肉の生産量は増加。

・ ブラジル連邦政府では、2002年~2006年のバイオエタノール増産に

より、サトウキビ作付面積が増加したが、これは大部分が牧草地からの

42

より、サトウキビ作付面積が増加したが、これは大部分が牧草地からの転換であり、既存農地からの土地利用変化は比較的少ないため、食料需給へ与える影響は極めて限定的であると考えている。

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・ ブラジルの牧草地は元来、富裕層が「資産」として保有する傾向。

○ バッファーゾーンとしての牧草地

・ 2002~2006年にかけて、牧草地は、サトウキビ増産に対応するための「バッファーゾーン」としての機能を果たしてきたと考えられる。

・ ブラジルにおける牧草地の面積は172.3百万haであり、2009年のサトウキビ栽培面積である8.6百万haの20倍にも相当する。

43

・ 牧草地は今後も、サトウキビ増産に対応するための「バッファーゾーン」としての機能を果たしていけるのであろうか。

○ サトウキビ農業生態学的ゾーニング制度(2009年9月)

気候適性、土壌学的特性、土地の用途等に応じて、サトウキビの栽培拡大に適した土地を規程。

44(資料)Decreto 6961号から作成。

Page 23: ブラジルにおけるバイオ燃料政策 - maff.go.jp...2 Ⅰ.ブラジルにおけるバイオ燃料政策・需給 3 世界のバイオエタノールの生産量の推移

23

1,200

1,400

牧草地農地(サトウキビ以外)

<1,000ha>

○ 中南部各州におけるサトウキビ収穫面積拡大に伴う代替変化(2007-2008年)

400

600

800

1,000

45

0

200

合計 ミナス・ジェライス州 パラナ州 マット・グロッソ州サン・パウロ州   ゴイアス州 マット・グロッソ・ド・スル州

(資料)Lima (2010)より作成。

○ ブラジルにおける穀物等の単収の推移

4.5

5

<単位:トン/ha>

とうもろこし

2

2.5

3

3.5

4

とうもろこし

大豆

小麦

46

(資料)USDA-FAS(2011)より作成。

0

0.5

1

1.5

1986年度 1990 1991 2000 2005 2006 2007 2008 2009 2010

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・ 牧草地からの転換農地で生産者が、サトウキビを栽培するか否かは、近隣に砂糖・バイオエタノールを製造する工場(USINA) が立地しているかが極めて重要な鍵

○ サトウキビ増産に伴う土地利用変化(2007年以降)

て重要な鍵。

・ サトウキビが牧草地からの転換農地で栽培されても、USINAが、近隣に立地していないと、品質が劣化する特徴。

・ サトウキビ栽培面積の拡大による土地利用については、2002年から2006年にかけては、「バッファーゾーン」としての「牧草地」である程度、吸収。

47

・ 2007年から2008年にかけては、量的には「バッファーゾーン」としての牧草

地が対応可能であったが、実際には消費地からの距離やインフラの制約から、消費地からの距離やインフラの条件が比較的良い既存農地からの転換が進んだものと考えられる。

○ ブラジルにおけるサトウキビ生産状況

48

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○ 結論

・ サトウキビ栽培面積の拡大に対して、「バッファーゾーン」としての牧草地における代替に限界がある状況下において、将来的に穀物等の単収が栽培面積減少分を補う分を増加できるか否かは、不透明な状況。

・ 穀物等の単収が増加しない場合は、穀物等の生産量減少により、食料需給にも影響を与える可能性。

・ 穀物等の生産量の減少を補うため、牧草地のみならず森林を転換した上で、新たな穀物等の生産が行われる可能性もある。こうした土地利用変化は環境にも影響を与えることが考えられる

49

ることが考えられる。

・ サトウキビ増産による土地利用変化が食料需給や環境に与える影響を 小限にするためには、食料供給に配慮した栽培拡大禁止区域の設定、環境規制区域におけるサトウキビおよび代替作物等の栽培規制区域の設定といった法的拘束力を有するゾーニング制度の設定が必要。

50