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第6回都市再生フォーラム「都市・価値の再創造」 2011 年 5 月 13 日(金) 主催:U R 共催:(財)都市再生共済会 22 ○齋藤 皆様、大変お待たせいたしました。コーディネーターの齋藤 宏保です。林さんの基調講演を受けまして、これからパ ネルディスカッションを始めたいと思います。パネリストの皆様をまず、ご紹介したいと思います。名古屋大学大学院環境学 研究科教授の林 良嗣さんです。続きまして、NPO 法人 日本エコツーリズム協会理事 まちづくり観光研究所主席研究員の 山田 桂一郎さんです。そして株式会社日本政策投資銀行 地域振興グループ参事役の藻谷 浩介さんです。続きましてオー プン・エー代表 東北芸術工科大学准教授 建築家 馬場 正尊さんです。それでは基調講演されました林先生以外のパネリ ストの皆さんから、これまで都市(まち)づくりとどのように関わってこられたのか、自己紹介を兼ねて伺いたいと思います。 パネリスト自己紹介① 日本エコツーリズム協会理事、まちづくり観光研究所主席研究員 山田 桂一郎 氏 ○山田 それでは皆さん、改めまして、こんにちは。皆さん、 元気ないですね。大丈夫ですか。「お前がやったこととか、 そういうことではなくて、お前の考え方を示せ」ということなの で、用意してきました。私が、実際に地域振興、観光振興、ま ちづくりに携わる上で、ちょっとやはりいつも「つらいな」とか、 いろいろ感じていることがありますので、その本音をお話さ せてください。 いろいろな立場で、私も日本で仕事をします。住んでいる のがスイスですから、毎月自腹で多い時は 2 往復半もスイス から日本に通いながら、北海道から沖縄の離島まであちこち 行かせていただいています。私のことを今回のこのフォーラ ムで初めて知ったという方は何人ぐらいいらっしゃいますか。 「お前のこと、初めて知った」という……。ありがとうございま す。すごい、多いですね。すごくめちゃくちゃ多いじゃないで すか。 これね、皆さん。私がやっていることがうまくいっている 証拠ですから。まちづくりとか、そういう地域振興は、私が主 体ではないのです。やっていらっしゃるのは、地域に住んで いらっしゃる住民の方、そこの事業者の方。やっているのは、 とりあえずそこに住んでいる方か、もしくはそこで活動してい る方なのです。お分かりになりますか。 ということは、皆さんが、私がやっていることを知らなくて当たり前じゃないですか。あくまでもアドバイザーとかコーディ ネーターという立場なのですから。セミナーとか勉強会、講演会だけでなく事業をお手伝いすると、何が一番ポイントかとい うと、これは皆さん、もう商売だろうが、何だろうが、みんな問題は一緒なのです。それは、エゴと利害なんです。問題を突き 詰めると。そう考えると、何事も、何のためにこれをやっているのかと。成果・結果を求められるわけなのですが、今日は主 催者の方には大変申し訳ないと思いますけれども、今回のフォーラムは一体誰のため、何のために開かれているのでしょ うか。ここの会場の方の皆さん、参加者の方だけではないと私は思っています。私たちが考えなくてはならないのは、国民 といいますか、住民の目線・視点からの今後の都市再生であり、今後その地域をどうするのかというのを語らない限り意味 がない。

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第6回都市再生フォーラム「都市・価値の再創造」

2011 年 5 月 13 日(金)

主催:U R 都 市 機 構

共催:(財)都市再生共済会

22

○齋藤 皆様、大変お待たせいたしました。コーディネーターの齋藤 宏保です。林さんの基調講演を受けまして、これからパ

ネルディスカッションを始めたいと思います。パネリストの皆様をまず、ご紹介したいと思います。名古屋大学大学院環境学

研究科教授の林 良嗣さんです。続きまして、NPO 法人 日本エコツーリズム協会理事 まちづくり観光研究所主席研究員の

山田 桂一郎さんです。そして株式会社日本政策投資銀行 地域振興グループ参事役の藻谷 浩介さんです。続きましてオー

プン・エー代表 東北芸術工科大学准教授 建築家 馬場 正尊さんです。それでは基調講演されました林先生以外のパネリ

ストの皆さんから、これまで都市(まち)づくりとどのように関わってこられたのか、自己紹介を兼ねて伺いたいと思います。

パネリスト自己紹介①

日本エコツーリズム協会理事、まちづくり観光研究所主席研究員

山田 桂一郎 氏

○山田 それでは皆さん、改めまして、こんにちは。皆さん、

元気ないですね。大丈夫ですか。「お前がやったこととか、

そういうことではなくて、お前の考え方を示せ」ということなの

で、用意してきました。私が、実際に地域振興、観光振興、ま

ちづくりに携わる上で、ちょっとやはりいつも「つらいな」とか、

いろいろ感じていることがありますので、その本音をお話さ

せてください。

いろいろな立場で、私も日本で仕事をします。住んでいる

のがスイスですから、毎月自腹で多い時は2往復半もスイス

から日本に通いながら、北海道から沖縄の離島まであちこち

行かせていただいています。私のことを今回のこのフォーラ

ムで初めて知ったという方は何人ぐらいいらっしゃいますか。

「お前のこと、初めて知った」という……。ありがとうございま

す。すごい、多いですね。すごくめちゃくちゃ多いじゃないで

すか。

これね、皆さん。私がやっていることがうまくいっている

証拠ですから。まちづくりとか、そういう地域振興は、私が主

体ではないのです。やっていらっしゃるのは、地域に住んで

いらっしゃる住民の方、そこの事業者の方。やっているのは、

とりあえずそこに住んでいる方か、もしくはそこで活動してい

る方なのです。お分かりになりますか。

ということは、皆さんが、私がやっていることを知らなくて当たり前じゃないですか。あくまでもアドバイザーとかコーディ

ネーターという立場なのですから。セミナーとか勉強会、講演会だけでなく事業をお手伝いすると、何が一番ポイントかとい

うと、これは皆さん、もう商売だろうが、何だろうが、みんな問題は一緒なのです。それは、エゴと利害なんです。問題を突き

詰めると。そう考えると、何事も、何のためにこれをやっているのかと。成果・結果を求められるわけなのですが、今日は主

催者の方には大変申し訳ないと思いますけれども、今回のフォーラムは一体誰のため、何のために開かれているのでしょ

うか。ここの会場の方の皆さん、参加者の方だけではないと私は思っています。私たちが考えなくてはならないのは、国民

といいますか、住民の目線・視点からの今後の都市再生であり、今後その地域をどうするのかというのを語らない限り意味

がない。

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私は観光だけでなく、農林漁業も含めいろいろなところで、仕事をしていますが、結局、 初にビジネスが絡む、何かの

業者の地所が絡むと必ずエゴと利害が巻き起こります。そういう時に、ひとつの方向ベクトルで、ある意味、行政的とガバナ

ンスの話ですが、「どう賛成していただくか」というところがポイ

ントになります。賛成していただく時に、今日の林先生のお話

にもありましたように、私もやはりスイスに住んでいて QOL と

いうのはすごく意識していますが、賛成してもらう時のポイント

として、根底にある住民レベルで普遍的な地域のことを考える

のです。何でそこに住みたいのか、住み続けたいと思っている

のか。買物が便利だったからとか、病院がすぐ近くにあったか

らとか、そういうことは置いておいて、皆さん、そこに愛着を持

っているし、誇りを持っているから住みたいのです。そうでなか

ったら、とっとと便利なほうにみんな、流れます。ただお金

がなくて出られないだけの話ではないのです。

そうして、本当にそこの地域に住む方たちが、「自分たち

がどうしたいのか」という議論を戦略的に進める。一人でも

多くの方が、その地域に対する価値を見出しながら次世代に、

まさしく今回のテーマにある次のことを考えて戦略を練らな

いと、どんなハード制御をしたってまったく意味がないという

ふうに考えています。

そういう意味では、私は 終的には長期的な結果の目的

を明確にしなければ駄目だと思っています。特に将来構想で、

きっちりとテーマコンセプトを決めてくださいとお願いしてい

ます。それも、やはり地域性、個性、その地域だからこそというものを提示しないと、それを考えなければ、どこでも同じよう

な街や地域ができるだけなのです。哲学的、思想的な部分、美学とでもいうのでしょうか。そこを地域の方々と共有しながら、

「その人たちがどうしたいのか」ということを 大限くみ取りながら、私はやらざるを得ないと思っていますし、そのように実

践させていただきます。ありがとうございました。

○齋藤 地域の人の発想を大事にするということですが、「地域の人」は、今、いる地域の人ですか。次を担う地域の人です

か。

○山田 それは、どちらもではないですか。

○齋藤 どちらもですか。

○山田 例えば、子どもたちとか若い世代と次世代のことを話していても、今実際に頑張っている方が、まさしく今できること

をやっていただかない限りには、次につながらないですし。私は、やはり年齢が上の方もきちんと頑張っていただいた上で、

次に引き渡していただかないと困ると思うのです。特に若い方って火が点きにくいといいますか、木で言うと生木といいます

か、若い木なので、木もそうですが、枯れ木・老木のほうか良く燃えるんです。わかりますか。ボンボン燃えていただいて、

燃え尽きて灰にならないで、次世代にちゃんと火は渡していただきたいと考えています。

○齋藤 ありがとうございます。では続きまして、藻谷さん。お願いいたします。

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パネリスト自己紹介②

㈱日本政策投資銀行地域振興グループ地域支援班 参事役

藻谷 浩介 氏

○藻谷 どうも、こんにちは。藻谷でございます。こういうところで、こういう形

で山田さんと共演するというのは大変、珍しいですが、ある特定の分野では

山田さんと一緒に出ていることが非常に多いです。彼は、こういうふうに理念

を語っていますが、彼が入ったいろいろなまちづくり、特に観光地では実際に

地域に落ちるお金が増えて、どんどん儲かる人は儲かっていくということを実

現している凄腕の地域づくりの扇動者というか、現場を動かす人です。

それに対して、私は何なのでしょうか。良く分からない人間でございますが、

地域オタクともいえます。山田さんとまったく同じだと思うのですが、私も(ま

ちづくりの)主語をYouで考えています。「あなたはどうしたいのか」と。だけど

大体こうしたいと思っているということは、実際にやっているこ

ととズレてるのですね。それで、「本当はどうしたかったのか」

「どうしたら、本当は得なのですかね」ということをほぐして一生

懸命説得する仕事というのをいつもしています。相手は、その

地域の人のこともありますし、会社の仕事上、企業の人のこと

もありますし、相手が政治家だったり、NPO だったり、ありとあ

らゆる人を相手に話をすることが多いです。

これは林先生がお使いなった人口ピラミッドと同じものなの

ですが、ご覧ください。なぜ、この形でお見せするかというと、

これが分かりやすいからなのです。もうひとつあります。僕は

学者ではないので、学問の先人がやったことをまったく無視し

ていいというところで、先生方と自由度がまったく違います。有

り体にいうと、ほとんど先人を無視したほうが、話が早いことが

多いと思うのです。この方が分かりやすいでしょ。

普通に使っている人口ピラミッドだと、形がこう釣鐘型になっ

たいうように皆さん、お話しになる。つまり、構成比の世界で話

すのですが、ここにおける も重要なメッセージは絶対数なの

です。60 年前の日本の生産年齢人口は 5 千万人に達していま

せんでした。それが 50 年経ったら 8,600 万人を超えている、約

2 倍に増えました。では、林先生がまさにご紹介になっていた

このアグリーな日本の街が、いったいなぜできたのか。

要するに、主要人員が 2 倍に増えたので、どこもかしこも無

茶苦茶バラック小屋を建てまくらないとどうにもならなかったの

です。それで、どうなっていくのか。 この10年間に500万人に

減っているので、実は家はスカスカになりだしていて、林先生

がおっしゃっていたように、まさにすべての地区に虫食い状に

ボロボロの老朽建物が放置されていくということになります。

そして、今から 40 年後には 60 年前の数字に戻ってしまうの

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です。私の問題意識、今、いろいろなことをしている 大の問

題意識はこれでして。相手がトヨタさんでも、UR さんでも、島の

観光業の人たちでも、来週行く予定のイギリスのおじさんたち

相手にしても話すことは同じです。こういう社会においては、こ

れまでの時代にやってきたことが、時計が逆に戻るのです。

それを、例えば地上げをやっていらしたような方は分かって

いないわけです。容積率を上げたら価値が高くなるか、そんな

ことありえないわけです。人口が 2 倍になったら容積率を上げ

れば価値が上がるといっても、これから人口が半分になってい

く時代に、容積率を上げたらお宅のいったい土地、だれが入る

のですか……。

林先生が語ったこととまったく同じことを話していますが、私

は皆さんに、何とか腹に落ちてほしいと思って、同じことを繰り

返して言って歩いている人間みたいなものです。このパネルを

通じて同じことを繰り返して、私は言って歩きます。いろいろな

事例を見せることもあるし、話をするかもしれません。

基本的には皆さんが、「この時代にやってきたことと逆のこと

をやらないと、原理が違うのだ」ということなんです。過去やっ

てきた人はその時は正しかったし、過去正しかったことが今後

は正しくないのだという……ここが時代の転換点であるという

ことなのです。是非、このことを何とか些かなりとも共有させていただけると大変ありがたいです。どうもありがとうございま

した。

○齋藤 藻谷さん、主なお仕事は「説得」ということなのですが、一番重要なことはどういうことでしょう。

○藻谷 そうですね。お客様が「何を、どういう人か、何をしたがっているのか」、こういうのが一番難しい設定です。山田さん

も私もまったく同じですが、特定の場所で、それが細ければ細かいほど非常に話がしやすい。特定の業種、企業というよう

に、例えば、「社長さんと差しで30分とりあえず説得してこい」とか、「何とか大臣に15分だけあるから、何かこいつ話聞こう、

次また聞こうと思わせてこい」とか、そういうのはすごく話がしやすい。

大体、「相手がこういうことを願っているのかな」と分かればいいんです。こういう一般的なものが非常に難しいのです。

とにかく主語をYou で考えて、その次に理念ではなく、「そうしたいのだったら、こうしたほうがいいのではないですか」という。

「ところで、そんな損になることはしないほうがいいんじゃないですか」と、損得の言葉で、実は私は語るようにしている。ここ

がまたいやらしい、コンサルっぽいのですが、ま、銀行員でございますので、そこはより高尚なことを語る人とセットで行くと、

より力が増すと思います。

○齋藤 ありがとうございます。では、馬場さん、お願いいたします。

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パネリスト自己紹介③

Open A 代表、東北芸術工科大学准教授、建築家

馬場 正尊 氏

○馬場 こんにちは。馬場です。今日、この面子の中で は、

僕が一番ビジュアル系というか、モノを作っている系なので、

思いっきり写真中心でいかせていただきたいと思います。僕

は Open A という設計事務所をやっています。こういう普通の

住宅、一軒家も設計しています。左上は、僕の家、房総の海

辺に建っています。何でこのような家を作ったのかというの

は機会があれば、あとで話せるかなと。

この 7、8 年、主にやってきたのが古い建物の再生です。

スカスカになった街、都市と言われていますが、それをいかに

楽しく埋めていくかということを、必死でやってきた数年間だっ

たなと思います。

建築家にも関わらず、非常に変わったことをひとつやってい

ます、東京 R 不動産という、不動産仲介の Web サイトをひょん

なことから始めてしまいました。仲介の Web サイトなのですが、

普通の不動産仲介というと「駅から何分」、「追い焚きあり」、「フ

ローリング」というように、全部性能でしか語りません。この東

京R 不動産という Web サイトでは、価値観で物件を紹介してい

ます。「天井が高い」、「倉庫っぽい」、「レトロな味わい」とか。

「レトロな味わい」って古いってことです。「お得なワケあり」とか

「オマケ付き」とか、いったい何が付いているのだという感じな

のですが、空間を見る目としては性能ではなく、「気持ちのよ

さ」、「楽しさ」、そういうことで見ていこうよ……というような Web

サイトで今、月間 300 万ページビューぐらいある話題のサイト

に育っていってくれています。

普通の人が気にならないような、このようなボロ倉庫を「カッ

コいいね」と言ったりする、そういう不動産の技術と建築デザイ

ンのWebサイトです。僕は昔、広告会社にいたので、メディアを

組み合わせることによって新しい領域を切り開きたいと思って

います。

“リノベーション”という単語をご存知かどうかわかりません

が、古い建物を再生することを 近こう言います。この実践を

たくさんやってきました。

例えば、こういう廃墟のオフィスビル、築 40 年。何にも使え

なかった廃墟だったのですが、今、これはこういうふうになって

います。ペントハウスは住居になっています。お金の掛けると

こは掛け、掛けないところは掛けない。賃貸物件として廃墟を

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再生しています。空室が目立つオフィスビル、普通のオフィスビルです。ただ、ものすごく眺めが良かった。ここに、ただあ

の眺めはこの壁の向こうなのです。これ、窓をバーンと壊して住居に改造しています。天井も壊せることが分かったので、こ

の階段をトントントントンと昇って屋上にお風呂を置いてみました。こうすることで、まったく使われていなかった屋上が、

高の庭になるというような再生の仕方をする。

使われていない古い倉庫、このような倉庫が勝ちどきにあ

りました。ガラーンとして何もない。何も使えない。今、どうなっ

ているかというと、靴屋さんのオフィス兼ショールームになって

います。ガラスの中だけ空調して、いろいろなところでミーティ

ングしている。ここで靴を脱いであがります。靴屋さんなので。

ここで座って契約の話をすると、ものすごく成約率が高いと言

いますね。気持ちの良い空間は人をポジティブにします。

これは普通の木造住宅、どこにでもある木造住宅です。借り

手がなくて困っていたのを真っ白に塗ってみました。再生紙で

す。中はこうです。でも思いっきり構造補強しながら壁をぶち抜いて再生しています。こういう空間が好きな20代、30代が非

常に多い。

こういう建築の再生をずっとしていたのですが、僕は 近、その建築を再生するという発想は都市全体に広げることが可

能なのではないかと思って、『都市をリノベーション』という本を書きました。ちょうど今週出るので絶好の宣伝の機会だなと

思って持ってきました。この中では、都市、東京リノベーション、それから郊外、地方都市、それから公共空間をどうリノベー

ションするかというのを一貫して述べて、「リノベーションドッグを作ろう」ということを呼びかけています。

僕は今、地方都市の山形で教えていて、そこをどう再生しているか。あと、『公共建築をリノベーション』では、議会を「クロ

ーズなところからガラス張りにしよう」とか、公共空間、例えば役所とかはあっちと向こうは、完全に分かれているから、「受

付を丸テーブルにしよう」とか、そういうリノベーションのアイデアを。それから商工観光課は、「役所の中ではなく空き物件

に行こうよ、街の中の」「現場で考えようよ」とかそういうアイデアをたくさん出しています。

後の、これは UR さんのですが、ちょうど今、団地のリノベーションをしています。見てもらうと分かるのですが、このお

風呂、未だにこれでリノベーションされているので、入れませんよね、このお風呂。びっくりして。

それをいかにして僕らの好きな空間に変えられるか…ということをやって、『東京R 不動産』の次、『団地R 不動産』というの

を作る。実は名作建築が多いんです。それを再生して、もう 1 回みんなの手の届くところに持っていく……というようなことを

やっていきたい。

今日は、こういう経験を通して感じたことなどが、どうやって都市に展開できるかということを話せればなと思って来まし

た。ありがとうございます。

○齋藤 郊外の房総の家ですけれど。なぜ、そこに建てたのですか。

○馬場 東京だけで、ずっと生活をするというイメージが湧かなかったのです。子どもも大きくなる。本当に、東京の都市公園

だけで育てていいのか。今、私は東京に小さな賃貸、房総に大きい家。2 拠点居住。多拠点居住みたいになっているのです

が、そういう住む場所を、この狭くて交通機関が発達した日本で分けながら、移動しながら生活していくという実験を自ら始

めてみようと思って、ついやり始めてしまいました。

○齋藤 今日のパネリストの皆さんがどういうそもそもお考えなのか、少しはご理解いただけたかと思います。では、本論の

パネルディスカッションに入っていきたいと思います。

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パネルディスカッション

【第1 部:都市の現状・行く末】

○齋藤 都市、これを“まち”と読むのか分かりませんが、「都市・価値の再創造 次代につながる都市(まち)づくり」ということ

なのですが、そもそもパネリストの皆さんが今のこの東日本大震災を踏まえて、都市の現状と将来をどう見ているのか。そ

れぞれのスタンスを確認したいと思います。まず、林さんからお願いいたします。

○林 今回の地震と津波は、日本の各地の将来を前倒しで見せてくれたという印象が非常に強いです。現状は、これが時間

をゆったり使いながらジワジワ来ていると分からないという、こういうことかなと思います。

先ほど言いましたけれども、私はイギリスとドイツにたまたま住んでいました。ジワジワ気が付かずにいる例ですが、15

年ぐらい前でしょうか、ロンドンのキングスクロスの駅のエスカレーターが燃えて大火災になりました。インフラを取り替える

お金がなくなっていたのです。ステップが木造で、それはおしゃれで良いと言えばいいのですが、安全上はもう何ともなら

ない材料なわけです。だから「火が入ったら終わりだ」ということに気が付かなかったりするわけです。アメリカで、『アメリ

カ・イン・ルーインズ(America in Ruins)』という本まで出ているのですが、レーガンの頃に道路やら何やら、お金が回らなくな

って、例えばニューヨークのマンハッタンのウエスト・コーストとイースト・コーストにスティールの高架橋の高速道路が走っ

ていますけれども、段々劣化して、下から見ると星が見えるとか空が見えるという、そういう状態で、フリーウェイを運転して

いたら急に穴ぼこにドカンと入ってしまって死ぬとか。実はそういうカタストロフィが起こりそうなのです。

しかし、(そういった現状に)気が付かずにいるということで、今回、たくさんの犠牲の方が出たわけですから、これを日本

人全体の想像力の中に植え込むということが、次の地震とかそういう非常に短時間のインパクトに対する備えでもあります。

ヒタヒタヒタと水が上がってきているような図を私が書きましたが、そういうことにも同時に気が付くという必要があるのでは

ないかと思っています。

○齋藤 ありがとうございました。では山田さん、お願いします。

○山田 「現状と行く末で、震災を踏まえて」と言われて、私もハタとけっこう困ったところがありまして。震災がなくても疲弊疲

労していく地域や街とか、都会もそうなのですが、実際、現実にたくさんあります。それを目の当たりにしながらそこに住ん

でいる方たちと「どうしようか」といつも頭を悩ましていますので、そういう意味では、現状も、こういう東京のような大都会が

持っているものと、地方都市と、ましてや今回の三陸の津々浦々の小さな集落では、共通している部分とまったく違う部分が

あって。だからこそ、先ほどお話したとおり、将来的に渡って一律、同じようにはできないでしょう。

それは現状を見ていても良く分かりますし、今回の“都市”というのが“まち”と置き換えていただいたので、まだ私もお話

できるのですが、“都会”と言われるとハタと思うともっと困るわけです。「都会にずっと住みますか」と言われれば住まない

です、生活環境としては。ただ、活動環境としては、その都市の優位性というのがありますので…ということは、北海道から

九州・沖縄の行く末という意味では、私としてはもっともっと地域性と言いますか、それをもっと活かしていただきたい。先ほ

どその地域住民の“愛着”とか”誇り”という話をしましたが、政府の方から「こうしろとか、ああしろ」というよりも、多少のアド

バイスは良いと思うのですが、やはり私は、そこで住んでいる方とそこで活動される方たちに、「今後、本当にどうしたい

の。」と。

ただ、現状分析ができないとか、例えば今回の人口減少の話もそうですが、まだまだリアルに感じていない方がけっこう

たくさんいらっしゃるのです。特に税収の話であるとか、今後のビジネスの話もすべて含めてですが。しっかりとそういうこと

を提示しながら、私はそれぞれの街といいますか、地域単位でやっていただくのが行く末は明るくなるのではないかと思っ

ています。

実際、私自身が仕事でやっていることというのは、アドバイスというよりはジャッジすることです。日本は第三者評価とい

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いますか、第三者がきちんと常識的に判断する仕組みがありません。しっかりと評価をする体制・仕組みを持ちながら、そ

れぞれが主体的に、「自分たちの住む、活動する街だからこうしたい」というということを示すことができる。きちんと行動す

ることができるような仕組み・体制があれば、私はまったく将来に対して不安はもっていません。ただ、現状通りにはもちろ

んいかないので、そこを早く自覚していただくのも大事かなというふうに思います。

○齋藤 この「今の都市をどう考えるか」というのは助走と見ていまして、それぞれのパネリストの方がどう考えているのかを

伺っています。では引き続き藻谷さん、お願いいたします。

○藻谷 はい。私は、 初、林先生とおっしゃったのとまったく同

じことを話そうかと思っていたのです。つまり、「人口が半分に

なるのだから、半分は要らないよ」と。その時、「密度」と言おう

と……完全に林先生のおっしゃった通りで、それを繰り返すの

は嫌なのですが、本当は、でもそれが一番言いたいことです。

なので、金融の立場から別の言い方をしますね。土地代が

なくなると思うのです。土地代を前提に作られてきた街づくりの

仕組みが全部通用しなくなって……すでになっていますよね。

通用しなくなっているのに、まだ通用しているふりをして、あた

かも本当に病気と合わない薬をずっとここ20年ぐらい使い続け

てきまして、もう無理を重ねているようなものです。私は 46 歳ですが、私より下の年齢の人は、もう、これを早くそれを止め

ないと、「皆様、まずいぞ。後で責任を取らされるほうに回るだろうな」と思うのです。

皆さん、土地代って、ないですよ。あって当たり前と思うかも

しれませんが、土地代というのは、基本的には私が知っている

限り、聞いている限りでは、日本と韓国と台湾だけ、底地と上物

が別々に取引されるという慣行があるという噂を聞いたことが

あります。ほかはそういうことはないと思うのです。

つまり、更地だけの場合の取引というのはあるのです。でも

上物が上に乗っかっている場合に、土地と上物が別々の評価

額になっていて、それが公示されているなんていうことは普通、

ありません。なぜか。上物が何かによって、土地の値段が変わ

るからです。ホテル・ニュージャパン火災……というのを覚え

ていらっしゃいますか。ホテル・ニュージャパンの後、結局どうなったか。プルデンシャルタワーになりました。

あれは千代田火災がホテル・ニュージャパンの焼けた後をだれも買ってくれないので、保険金の方で取得したけれど、

それを売ろうとしたけれど売れない。子会社に自己競落という形でやったけれども、結局、千代田火災自体がうっかりホテ

ル・ニュージャパンの火災保険を払ったために倒産したわけですが。「何でなのか」、ホテル・ニュージャパンの土地に価値

がなかったからなのです。

つまり上が廃墟になって焼け跡のホテルが建っている土地は、焼け跡を取り壊して新しい上物を建てるだけで、予想さ

れる賃料とペイオフで相殺されてしまうわけです。つまり土地代に払う分のレジデュアルな利益がまったく見込めないわけ

です。これはバブル期からすでにそうだったということです。土地代って、それは当たり前で、世界的にどこもそうだからな

のです。

私はニューヨークに、昔留学させていただいて、リアルエステート・ファイナンスをやっていました。土地代が収支テーブ

ルの中にないので、何か質問しないと成績がつかないので、「先生、あの土地代はどこに入っているのですか」と聞いたこ

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とがあるのです。そうしたら先生が何と言ったかというと「土地代、エッ考えたことなかったな、土地代がないはずないよな。

ああ、その他の雑費の中に入っています」と。

冗談ではなくて本当です。これだけ世の中の常識、世界の常識が日本では完全にそうなっていない。ひとつは

“real-estate value”という単語を土地代、地価と訳しているとんでもない人たちが一部、存在している。“real-estate value”っ

て「不動産価格」ですから、ほとんど上物の値段のことなのです。日本が正しくて世界が日本に合ってくるケースもあるので

す。生魚食べても大丈夫とか。逆に日本が思いっきり世界からズレていることもある。やっぱり日本の方が変ということが世

の中にあって、それがこの土地代なのです。

だから今、東京を歩きながらいつも思う。ものすごい

地価を払ってみんなが住んでいるのだけど、彼らが払っ

た地価が、どんどん価値が下がっていくのです。ものす

ごく地価が高いがゆえに窮屈に、無理に窮屈に住んでい

る。こういうふうなむちゃくちゃ窮屈な環境づくりみたいな

ものは、前提が壊れてしまえば……。今まで高く売れる

と思って我慢して住んでいたのだけれど、売れないでは

ないですか、現実に。多分、馬場さんはリノベーションし

ながら、おそらくその問題と戦っていらっしゃると思うので

すが。ただ、総論で申し上げておくと、結局、この向こう30

年ぐらいの間に金融も何も全部、土地代が付いているのを前提にした仕組みを一からやり直すことになる。

震災は、現実に土地代がタダの土地を今、大量に作り出しました。陸前高田の土地、買いますか。タダです、実際あれは。

もともとタダに近かったのですが。先んじて更地にすることで、その現実を一気に暴き出してしましました。

もう一つ紹介しましょう。塩釜(宮城県)は残っているので報道されないのですが、水に浸かったのだけれども、そのまま建

物がまったく壊れずに水が引きました。ただ、多くの家の電気系統が壊れていて、夜とか歩いている街は死んでいます。陸

前高田はゼロ・クリアーになったから、新しい原理で作り直すのでしょうけれども、塩釜はおそらく半分ぐらいの家がずっと

空家のまま腐っていき、みんなリノベーションしないという非常に嫌なシナリオになっていく。つまり、地価が実際、下がって、

だれも再投資をしないのだけど、建物だけは廃墟のように残っているという。これが、どちらかというと、東京の将来は、塩

釜のほうに近いのかなという感じがします。

○齋藤 土地代がなくなるというのは、皆さん、どこまでご理解いただいたか分からないのですが。林先生、何か補足されま

すか。いいですか。

○林 今の藻谷さんのお話ですが、私もまったく同じことを考えました。やはり「土地代」というのは、それをクリエートするエ

ンジンが働いているから「土地代」というのが出てくるわけです。エンジンというのは、私の言い方をすると、「だれがどういう

活動をしなければいけないか」というシステムが必要で、そっちに変換をしなくてはいけないのです。

そういう意味で、今日もたくさん、空間屋さんと言いますか、「都市計画」とか「建設」とかそれに近い方もおられると思うの

ですが。その発想をガラリと 180 度変えるのか、270 度なのか、その辺は分からないのですが、1周ぐらいグルっと回ったほ

うが良いと思います。そうして変えないといけないです。

だから藻谷さんがおっしゃったのは、上で活動するものと、そのストックとかエンジンがまったくミスマッチになっていると。

それをもう 1 回考え直さないといけない。私が言っているのは、全域でそれをやろうということ自体がヘンテコなので、活動

をする場所ですね。主に人間が活動する場所と保全する場所というのを、もっとうまく切り分けましょうということです。保全

する場所というのは、それまた人間にとって価値があるわけです。 近の流行言葉でいうと、『生態系サービス』とかいう言

葉もあるぐらいですから。そういうことも考えながら、「土地の価値というのは何か」ということを、じっくり吟味する必要がある

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第6回都市再生フォーラム「都市・価値の再創造」

2011 年 5 月 13 日(金)

主催:U R 都 市 機 構

共催:(財)都市再生共済会

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と思います。

○齋藤 日本の「土地所有権」というのは、明治の憲法を作る時に、土地所有権と建物の所有権を別々にするかというのを議

会で議論して、1 票差で議長の裁決で別々にするというふうになったらしい。ですから、その辺の議論が、おそらくもう一度考

え直す時期にきているのかも分かりません。ですから、利用されないものは価値がない。多分、藻谷さんはそういうことをお

っしゃったのだろうと思うのですが、明治の頃から、大分それが議論になっていて、そのまま生きてきた。そのツケが今ここ

にきているのだろうなと思います。では、馬場さん、お願いいたします。

○馬場 今の話を聞いていて、僕はその窮屈な状態からいかに逃れていくか、それを考えるためにいろいろなデザインをし

ているのだな」ということを再認識しました。先ほど多拠点居住の話を少ししました。僕は、東京でおもに働き、生まれは九州

伊万里市の商店街のタバコ屋です。海辺の郊外に少し住み、山形の東北芸術工科大学というところで働いています。

R 不動産も、 初は東京R 不動産だけだったのですが、山形R 不動産、福岡R 不動産、金沢R 不動産、神戸R 不動産。

どんどん地方都市のが出てくるのです。そのいろいろなところを見ながら改めて思うのですが、「新しい自分たちの住む都

市のプライドを作り直さなければ」と 近、強く思います。

なぜかというと、やっぱり都市ごとに役割が違うと思うのです。僕の生徒たちもかなり被災しています。彼らには、「新しい

故郷をきちんとお前たちが作ろうよ」という言い方をしています。

概念が変わってしまっていますよね。土地の値段もそうですし、山形の市内でも、県庁所在地でもそうです。高い建物は

あるのですが、2階から上は全部バーンと空いていて、「このビルいくら」と言っても意味がないのです。ほとんど稼げないビ

ルになっているから。それが地方都市のより厳しい現実。

それがドーンと、この震災で一気に 10 年ぐらい早回しで直面してきているだけだというふうに思っています。それに対し

て、僕らは何ができるか。「新しい故郷と新しい都市のプライドを、どうやって作り直すのか」。僕は、東京はもっと大きくなら

ないといけないと思っていて、地方都市はもっと小さくてもいいから誇りをいかに持つかということを考えなければいけない

と思っています。その中で、人口が流動的に動くような都市、僕は、東京はただの乗換駅というか、トランジット・シティぐらい

に思っているのですが、この狭い日本をどうやって楽しむかという、そういうようなスタンスで日本を読み直したいなというふ

うに思っています。

【第2 部:都市が今、なぜ大事なのか(都市の役割・位置づけ)】

○齋藤 それではこれから、いよいよ本論に段々、段々入っていこうと思います。それぞれの方、例えば林先生が今の都市、

東日本段震災で今後の行く末を見たような気がするということをおっしゃいました。また、山田さんは、地域性を活かすという

ことが非常に重要であると、あるいはまたどんな地域を作るのか、その評価のシステムとか体制というものをつくることが大

事であると。また、藻谷さんは、街・都市が、今、大きく動こうとしている中で、土地代に縛られているのではないかと。土地代

という妄想というのでしょうか、それと決別する時が来たのではないかということをお話されたのだろうなと。馬場さんは、都

市のプライドというのでしょうか。それぞれの都市ごとに、どんなプライドを作っていくのか、それをそれぞれが考えていくと

いうことを今、おっしゃったのだろうと思います。

それで、もう 1 回、今日のこのテーマ『都市・価値の再創造』ですが、では本当に都市が必要なのだろうかと。本当に都市

って重要なのだろうかと。重要ではないものをいくら議論してもしょうがないので、都市とか地域というものはそんなに重要

なのかと。都市なんかどうでもいいじゃないかと。自分たちが健康であればいいじゃないかと。安心して過ごせればいいじ

ゃないかと。なぜ、地域が必要なのか。なぜ、街が必要なのか。なぜ、土地が重要なのか。それについて少しお話を伺いた

いと思います。これはどうでしょうか。藻谷さんからいきますか。はい。

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○藻谷 では、 初なのでわざと議論した方が面白いので……。要らないという方向で一票。必ずしも私の意見がそうでは

ないのですが、ディベートということで。「要らない」という方向で話してみます。

都市って要らないのではないだろうか。つまり、今、都市と言っているけれど、都市って結局そこにたまたま土地を持って

いた人が、持っていない後から入ってきた人から収奪するシステムにしかなっていないのではないだろうか。私は山口県の

田舎育ちで、東京にやって来て、実はまだ家もないのですが。子育てをしながら家でも借りるということはすなわちどんどん、

どんどんお金が出て行くということですね。そして買おうと思うと、本当に山口県の人間から見ると、これは小屋であるとしか

定義できないところに、ものすごい値段が付いている。あるいは、非常に遠いところから多大な時間をつぶして、エネルギ

ーをかけて通わなければいけない。しかも、買ったら後10 年ぐらいで収入があるかどうかも分からない。

若い人を見てみると、もっと安い賃金で、不安定な雇用をしていて、ほとんどその生活費が家賃に消えて、それから少し

でも安いところで飯を食べているのだけれども、その食堂も儲かっていなくて、食堂も売上げの多くを家賃に取られていて。

結局、昔から土地を持っている人のところに金が流れていく。その金が有効に使われていて社会に回っていればいいのだ

けれども、どうもタダの貯金になっていて、まだどんちゃん騒ぎでやってくれていれば還流してくれるのですが。あるいは、

外貨預金でもしてくれていれば、実はまだ円が下がったときのヘッジになるのだけれども、ただ日本円で国債を買って貯め

てあるだけ、と。そういう仕組みにいつの間にか都市というものはなってしまっている。

小さい頃から「お前は都会に行って偉くなるんだよ、このような田舎にいちゃいけないよ」と教育を一生懸命することによ

り、何となくタダのアホのような強迫観念をかき立てられて、東京に行かないといけないのかと思い込んで・・・。ところがそこ

で育った次の世代になってくると、そもそも田舎を知らないので選ぶ権利もなく、「ここ(都市)は偉いのだろう、いいだろう」と

勝手に思い込んで、鬼のように劣悪な環境の中でひたすら汲々と我慢していると。

“都市”、特に東京。いらないのではないだろうか。事実、同じような原理でやってきて大阪が東京に負けまして、ますま

す存在価値がないので、大阪がまずその前に要らないのではないだろうか。事実、世界に東京や大阪みたいに、大阪はか

ろうじて上海とかニューヨークとか同じクラスの大きさの街がありますが、東京は一人だけ都市圏人口3千万人を超えていま

して、ほかの街より 2 倍大きい。こんなアホな大きい街は多分ないだろう。要するにテラノサウルスですね。

多分、テラノサウルスはいらないのではないだろうか。アロサウルスの大阪くらいなら、まだ何とかなるかもしれないけ

れども。これはおそらく、それが本当に有利なら、世界のほかの街も国も全部、東京ぐらいの街を作るはずです。だけど作ら

ない。上海だってそこまで大きくなりません。限界があります。だからやはり街はいらない……ということにして、ディベート

のネタを提供しました。

○齋藤 そうなると、上海も出てきたので、では林先生に聞きましょうか。

○林 上海と北京を足したぐらいが東京。インドに行きますと、ムンバイの人は「これだけたくさん(人が)いるから交通がめ

ちゃくちゃになる」と言っているのですが、ムンバイとデリー、ニューデリーを足したのが東京になっています。これはいった

い何だと。私も要らないというふうに少し近くなってきたのですが。東京とか名古屋とか要らないのではないかと。

というのは、要らないという以前に、必要なものが提供でき

る場所として維持できるかどうかということなのです。やはり、

どこかに集まって非常に効率の良いパターン化された活動を

するために、ある種、 も完成された“交通”などは本当に典型

ですね。日本の郊外鉄道は総延長 2000km ですが、地下鉄の

総延長でみると 近は上海が世界一です。東京は 350km くら

いですが、上海は450km時代に今、入ろうとしています。しかし

何が違うかといいますと、郊外鉄道が向こうはまだない。それ

でもって、労働力人口が豊富な時に、同じ考えを持った人を集

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めてずっとやっていくという。

名古屋もまったく別な生き方です。名古屋は、今度は同じ考えを持った人でトヨタの車を作るというようなことになっていま

して。そういうパターンが一番強い時期は維持できます。その都市に集まる意味がありますから。今度は、そうでなくなって

きた時にどうか。

ドイツは、たまたま東西で分かれていたので、そのチャンスを失ったわけです。ベルリンが大きくなるかなと思ったら、バ

タッとストップして330万ぐらいで止まっています。ベルリンは市域に330万で、周りはほとんどいませんから、私が先ほど言

ったように、ドイツというのは都市と非都市がはっきり分かれていますから、東京のようにアメーバーのように、どこまで行っ

ても都市みたいな。そんなアグリーなのはヨーロッパでは都市とは言わない。ベルリンって、統合した後もあまり大きくない

でしょ。ソニープラザとかいっぱい作りましたが。日本の資本も出ました。それは、やはり今の分散した、しかも大都市の周

辺に住むのが豊かだということになっていますから。文化的なことを享受しようと思ったら、あるいは買物しようと思ったら大

都市にいけばよろしい。しかし、そうでなかったら郊外の非常にきれいなところに住めばよい。

ところが日本はどうでしょう。東京の郊外とか、名古屋の郊外が一番、汚い。皆さん、そうでしょ。ほとんど 8 割がそこに住

んでいますよね。これを放置すると、「都市は要らない」ということになってくる可能性が高いわけです。だからそこをどういう

ふうなシステムに切り替えていくか、ということだと思います。

○齋藤 これは、都市は要らないというシンポジウムではなくて、都市をどういうふうに作り変えようかという・・・。藻谷さんは、

あえてそういうふうな問題提起をされたと思うのですが。馬場さん、ではどうぞ。

○馬場 僕は改めてなのですが、人口に 近興味があるのです。なぜかというと、「都市ってどのくらいの人口のことを都市

というのかな」と思います。みんな、Google とかで調べてもらうと市町村の人口別ランキングをバッと見ると、増えている大都

市は増えていて、半分から下は全部減っています。ものすごくはっきり色が出ていたりします。 近は、大きいところも減り

始めていますが。

近、イギリスに行ってきました。マンチェスター、リバプールって、世界の大都市のように思っているじゃないですか。

僕はサッカー好きなんですが、今月、マンチェスター・ユナイテッドは決勝ですよね。何十億のサラリーをもらっている選手と

かがいるような大都市です。ただ人口は38万人。リバプールも39万人。金沢とかよりも小さい。横浜が380万人。北欧のデ

ンマークとかが500万人ぐらいなので、横浜って、ヨーロッパに行くと国ぐらい大きいです。「何をもって都市というのだろう」と

近、よく思うのです。

僕は、日本の各都市が適正な規模にきちんとなり、そしてそれが日本の国内を見るのではなくて、いかに世界を見るか

というふうな、価値のシフトチェンジを嫌でもしないと大変なことになると思います。僕は、東京はもっと大きくなるべきだとい

うふうな主張をして、リベラルな建築家によく批判されるのですが、もっと集中して巨大都市化しないと、上海に食われるし、

ソウルに食われるし、シンガポールに食われる。「それで日本がもつのか」という危機感を持っています。それなので僕は、

そこは選択と集中というのが、都市についても行われても良いのではないではないかという仮説を持っています。

○齋藤 馬場さんのが一番今のこのシンポジウムにふさわしいのですが。本当は、 後に持ってこようと思ったのです。順

番的には。藻谷さんと山田さんは非常に仲が良いと。仲が良い同志でつないでしまうとマズイかな、ということで。では山田

さん、お願いします。

○山田 藻谷さんと仲は良いのですが、時々意見は違いますので。今、皆さんのお話を伺っていて思うのですが、私の場合、

先ほどの馬場さんの意見に価値という部分では非常に納得する部分がありまして。「大都会と都市とどう違うの」とか、都市

の定義って、逆に言うと、私たちが変えていかないと、変えなければならないのかな、という気はしているのですが。ただ、

私も、住んでいるところは人口5700 人のスイスの山奥なものですから、東京を拠点にせざるを得ないのは、ただ単に、飛行

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機・新幹線が便利なだけで。

東京都にいて何が嫌というと、ここにいる意味は、ここにいてできることは『稼ぐ』か『使う』かしかないのです。私の弟と

か、いろいろな親戚もまだ地方にいますけれども、稼ぐ・消費みたいな以外のことがいっぱい起こるわけです。タダで魚が

回ってきたり、もちろんそのコミュニケーションみたいのがあるわけです。価値の置き方にまさしくよるのかなと思うのです

が.。

先ほどの藻谷さんの内容からすると、「必要な都市もあるし、いらない都市もある」と思うのです。それはどういうことかと

言いますと、すみません、私、やはりスイスに住んでいるので、スイスの事例が多くなります。べつにスイスがベストとも思

ってもいませんので聞いていただきたいのですが。スイスは人口が 770 万ぐらいしかいない、もともと小さな国ですが、ジュ

ネーブ・チューリッヒ・ベルンとかバーゼルって、それぞれスイスの中では「都市」なのです。ただ、一番大きなチューリッヒで

も、都市圏人口は40 万くらいしかいないし、ジュネーブだって17 万ぐらい。でも都市なのです。ただ、大事なのは、この必要

な都市がきちんとテーマを持っているということなのです。街として。

例えば、ジュネーブは皆さんご存知のように国際都市ですよね。いろいろな国際機関が集積していて。チューリッヒは商

業都市ですし、バーゼルは金融都市です。私が住んでいるようなスイス・ツェルマットのような山岳リゾートもそれぞれテー

マ構成をしっかりしています。それぞれの都市としての役割とか、まさしく「何のための都市なのか」というところが今問われ

ているのかな。要は、「だれにとって必要な都市なのか」というところも含めて考えていただけると定義も違ってくるのかなと

いうことを思います。

政治的な部分とか経済的な部分とか文化的なものが集まってくるところを都市とするならば、私は、どんな地方の田舎の

集落であっても、それは小さな単位で政治・経済・文化と力をもっていないといけないと思いますし、もし、人口的に先ほどの

馬場さんのように集まらなければいけないならば、集まらないとできないようなこと、そこに意味がない限りは集まっても仕

方がないでしょうという話なのです。ただ、今、集まらなくたって、結構できるビジネスが多い、ネットの世界で。

ではリアルに対面でやらなければいけないようなことで、「これだけ集まらなければいけないのですか」ということも考え

ていただかないと、私は駄目なのではないかなというふうに考えています。それなので、すみません、何かどっち付かずで

申し訳ないのですが、「必要なところもあれば、要らないのもあるのではないか」ということです。

○齋藤 都市の重要性、それからこれからの都市の理想像について、議論を深めていきますが、藻谷さんから「都市は要ら

ない」という意味は、「今の状態のままならば、都市は要らない」のではないか。多分、逆説的な言い方をされているのだろう

と思います。

僕は、ある意味、政治は良いシステムを考えたなと思います。通勤・通学で疲れさせると、ストレスをためない。余裕があ

ったら、これだけ体たらくの政治をやっていたら、多分、デモとか何かが起きるのだろうと思うのですが、みんな、通勤・通学

で疲れちゃう。ほかに使う余裕がないから、政治は安定している。多分そういうことなのだろうな、と思っています。

ウインブルドン方式というのがありますね。今の静岡県の知事の方が言っておられます。大阪と同じだと思うのですが、

丁稚奉公の中で、一番優秀な丁稚を自分の娘の婿に迎える。息子は分家させて、お金を与えて独立させる。それで暖簾を

守っていく。そうするとどういうことが起きるかというと、全国から優秀な人たちが大阪に集まってきて、大阪に行けば知恵と

才覚があればトップに行けると。今、それが東京なのだろうなと思っています。ウインブルドンも、何もない都市ですが、そう

いうテニス大会を主催することで、世界から観光客が集まり、テレビ中継でいろいろなお金が集まる。いわゆる仕掛けなの

だろうと思います。そういう仕掛けを上手に使っている。

今そういうことをやっているのは東京ではないかなと。私は今、名古屋に週 4 日間いますけれども、名古屋も非常に閉鎖

的な街で、よそ者は排除します。都市というのは、そういうふうな活動の拠点を与えるところなのかなと思っています。

それと、もうひとつ、藻谷さんたちは40代です。私と林さんが60代。定年を過ぎると、「やはり東京が良い」と言うらしいで

す。それまでは埼玉都民、千葉都民、神奈川都民。60 歳を過ぎると故郷に帰りたいと思わなくなっちゃう。そこで初めて地域

性に目覚めていくと。まだまだお元気なうちは、「東京はなんだ」と。その便利さはなかなか離れなくなってしまうというのが、

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どうも高齢者の感覚らしいです。そういう意味で、高齢者に対しても、優しく、これからまちづくりを語っていただきたいなと思

います。

【第3 部 どのような都市に再生するのか・都市の理想像は?】

○齋藤 それでは次に、「都市とはどうあるべきなのか」。林さんは、何が必要なのかえをやはり考えていくべきだろうと。馬

場さんは、その価値のシフトチェンジということを。山田さんは、だれにとって必要なのか、都市のテーマをきちんと掲げてい

くとこが大事なのではないかを、それぞれお話されたかと思います。

そういう意味では、どのような都市が理想なのか。どうすれば都市が必要なのか。藻谷さん流に言えば、どうあれば必要

といえるのか。それを少し語っていきたいと思います。では、今度は山田さんの方から。

○山田 はい。先ほど、少しお話してしまいましたが、「だれにとって理想なのか」。それは、やはり地域の方や活

動する人たちふうに言ってしまうと、また、それで終わってしまうのですが。

低限、私は、その街自体が、ある意味、「自立できるかどうか」、「持続可能な形を持てるかどうか」というこの 2 点かな

と思います。都市としては。それはもう小さな街、村も同じなのですが。そういう意味では、生活ができるということでも、経済

活動ができるという分もすべて含めて、「持続可能で自立できるかどうか」というところが、多分、 低限というか、ひとつの

ポイントなのではないかというふうに思います。

そういう意味では、日本の場合は、東京 23 区などでも、けっこう、税収よりも社会保障費のほうをたくさん払っているよう

なところもありますし、地方都市などはまさしく財政的には非常に厳しいですし、財政的に自立しているからといって、地元の

商店街とか街を見ると、えらく汚くてシャッター街だらけだというところもあります。

やはり理想の求め方の中に、市場経済的なお金で換算できる部分というのもすごく大事なのですが、もうひとつ、先ほど

私が冒頭で申し上げた「誇りを持てる」、「愛着を持てる」ということをどこに求めるのかということも、併せて考えていただけ

るといいのではないかなというふうに思います。

○齋藤 今のところで、一番私も伺いたいのは、馬場さん

も『プライド』とおっしゃっていたのですが、そもそも『誇り』

とは、山田さんは「誇りとは何をもって誇りと思っていらっ

しゃるのか。

○山田 これはものすごく難しくて、すみません、時間が

かかってしまうのですが、いいのでしょうか。よく私が地

域振興とか地域再生の話に行って、地域の方たちに聞く

のは「皆さんの心の拠り所、精神の拠り所」。これがなか

ったら、ここに住む意味ないよねって。目に見えるものも

あるのですが、特に、目に見えないもので、「何が皆さんを支えてきたのですか」と。今、被災地に漁業支援とかいろいろな

形で、いろいろなところに入っているのですが、同じように聞いています。「皆さんは、要はそれがなかったら、そこに住む意

味は経済的な価値がたとえあったとしても住まないでしょ」……という話です。

すみません、今日、ここに奈良県の出身の方っていらっしゃいます? 私、奈良県の吉野町に仕事で行った時に、地域の

偉い方々とかいろいろな方たちに同じように聞きました。「皆さんにとって何が大事ですか」と聞いたら、吉野の方って何て答

えたと思います? 今はけっこう意識変わってきて良くなっているんですが、もう 10 年近く前です。

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その方たちにとって一番大切な誇りは、大事にしなければならないものは『桜』っていったのです。「吉野の桜は日本一

だ。」と言ったのです。私、「それは、変でしょ」って言ったのです。だって、そもそも桜で世界遺産になっていないし。「桜は何

のために植えてきた木なのですか?花なのですか?」という話をしたら、それは「蔵王権現、金峯山寺」ってみんな分かって

いるのです、それで世界遺産になっているわけですから。

でも、結局、商売優先とか金儲け優先になると、大事なものを聞くと分かりやすい『桜』になってしまうのです。もちろん、

桜も大事なのですよ。桜を維持する活動も大事です。なかには「365 日、毎日、桜が咲けばいいのに」という人がいっぱい出

てくるのです。「毎日、桜が咲いていたらだれも見にこないよ」と言うのですが。そういう方たちというのは、そういう考えを持

って、そこで生活をして商売をしているので、目に見える形で、街並み景観を含めていろいろなところに、駄目なところが見

えてきます。

例えば、戦争に遭っていないところは街なかの通りが狭いので、上に幕が引いてあります。私は、「おもてなしの心を形

にしたのですか、雨が降ったらサッと引いて、傘が差さなくても歩けるようにしたのですか」と聞いたら。「いや、逆だ」と。晴

れたら幕を通りの上に張って、雨が降ると逆にたたむというのです。何のためかといったら、軒先にある土産物が陽にやけ

ては困るからというのです。自分たちの都合、商売を 優先でいると、愛着も誇りも感じないですし、そういう商売をしてしま

うし。

私は、全部の店ではないですが、吉野に行って騙されたことがあります。外から見ると 6 個の柿の葉寿司が入っている

のを買って、蓋を開けたら1個斜めになっていて5個しか入っていないのです。「何だこれは」と。お客様のことを考えなけれ

ばいけない観光事業者ですらそうかと。私は、まさしく蔵王権現さんのご縁でその地域に呼ばれたと思っていますから、朝

は弱いのですが祗経にも参加したし、参拝にも行きましたが、地元の方を一人も見ないのです。何でと言えば、「その柿の

葉寿司を作らなければいけない」とか、「葛作って京都に出荷だ」みたいな話で、やはり商売 優先になってしまう。

先ほど評価という話をしましたが、本当に皆さんが誇りと思うものは何かと考えた時に、勘違いされているところも多いの

です。地域を再生していく時、理想を掲げる時に、普遍的な、本質的な部分に気が付かないと、どんな良い再生プログラムを

上に持ってきたとしても、多分、それは足元から 終的には崩壊すると思うのです。

○齋藤 では、馬場さん。

○馬場 『地域の誇り』とか『プライド』って、そこのコミュニティの中にずっといると、なかなか気づかないような気がします。

今、僕は山形に 近通うようになって気が付くのですが、山形は、例えば「儲けている優良企業はどこなのだろう な」と思っ

たりすると、「でん六」とか「シベール」というラスクを作っている会社とか、あとはお酒屋さんとか。世界とか日本中に通用す

る会社がパッパッパッとあります。本社がある。

冷静に見てみると、全部食べ物だなというように。ということは、「山形のものって、すごくおいしい」、そうなのだなという

感じです。それなので、外部からの発見みたいなものも有り得るのではないかと。そして、そう言ってあげると「それはさぁ」

と言ってみんな熱く語りだしたりはするというようなことがあると思います。

僕は地域の、もしかしたら住んでいる人が忘れてしまっているかもしれない都市・街のプライドみたいなものを、取材と

かメディアとかの方法、いろいろな方法はあるとは思うのですが、炙り出して、そしてそれをきちんと再定義して、みんな、心

のこの辺に持っているはずのものをグーッと拾い上げて、なおかつそれを産業化するような努力をする。それは、もしかし

たら内部だけではできないかもしれない。だからこういういろいろな都市を回っている人の役割があるのかもしれない、そう

いうことのような気がします。

そして、自律とおっしゃっていましたが、僕もまったくそのとおりだと思います。いかに都市として、自律していくかというこ

とを考える。その具体的な方法を考える。もっと言うと、どう儲けるかを、それを地域で考える、動いてみる。そのアクティビ

ティの集積に、多分、理想の都市みたいなものがあるのではないかというふうに感じています。

今、うちの生徒とかを見ると、みんな、東京に行きたくないという人が多い。できれば地元に就職したいと。でも、「(職が)

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ないですからね」と言って、仕方なく東京に行く。そういうメンタリティになってきています。いかに受け皿を作るか。そうする

と、何とかなっていく方側は、少しだけ見えているのです。それらは僕らが作ってあげなければいけない世代かもとは思い

ます。

○齋藤 山田さんと馬場さんから、『自立』という言葉が続い

たのですが、前、岩手県知事をされて総務大臣をされた方、

名前なんていうか、今、度忘れしたのですが……。増田さん

ですね。増田さんが、やはり『自立』という言葉を使われて、

「自立という言葉はいいのですか」と。『自立』というのは、親

からの自立、子どもからの自立、いわゆる親離れ。「何か困

ったら親を頼りにするということになりませんか」と。「『独立』

ではないですか」と言ったことがあるのですが、この『自立』

という言葉の使い方なのですが、まず馬場さん。これは、『独

立』と『自立』とどう違うのでしょうか。

○馬場 僕が言うのは、“リツ”は“立つ”のリツではなくて、“律する”のほうです。「自分で律する」という意味での、『自律』と

いう単語を使うようにしています。そういう意味では、似ているのかもしれませんが、いかに背骨を意識的にピシっといくか、

というその辺が重要かなと思っています。

○齋藤 山田さんはどちらの言葉を使われたのでしょうか。

○山田 私はどちらでも良い……。でも、私のほかの講演のパワーポイントを見ていただくと、『自立は自律』って言い方で、

どちらも使っています。『独立』と『自立』って、言葉遊びをしたいとは思わないのですが、自らの立つという意志表示はして欲

しいと思います。『独立』を考える以前に。どうしても 初から『独立』も『自立』も考えないで、国目当てとか、都道府県目当て

とか、その行政頼りみたいなところとか、「だれかがやってくれるだろう」という、そういう意味で、私はほかで律するのほうな

ど、いろいろなこの『自律』『他律』という言葉づかいをするのですが、まずはその意思表示ぐらいは特に地域の住民の方々

はしていただかないと困るなと思っています。

○齋藤 何でこのようなことを聞いているかといいますと、とことん行くと、困ると必ず皆さん「これは町の仕事だ」とか「これ

は国の仕事だ」とか逃げるのです。ですから少し聞きたかった。確認したかったということです。では林先生。

○林 せっかく、『自立』が出ましたので。自立できない場合にも、うまく自立させてもらうという、そういう能力というのがあり

ますね。先ほど(基調講演で)「泥酔しない」という話をしました。抱えてもらう時に、上手に、赤ん坊のように、体重移行をす

るような、そういうことも含めて『自立』という概念も必要かなと思っています。

フィジカルには自分でできないとか、金銭的に自分だけできない場合もあります。そうすると、都市というものの本来的に

良いところは、いろいろな連携ができることです。コミュニケーションの範囲というか、たくさん多様な人がいるわけですから、

それが良いところなのです。

ただ 近見ていると、名古屋よりも東京、あるいはどこでもいいのですが、今度の被災した釜石よりも名古屋とか、果た

してその順序でよくなっているかというと全然そうではない部分があるのではないか。むしろ逆のところもあるのではないか。

これは齋藤さんの一番の得意なところですが、情報がきちっと得られていないというのがあると思うのです。

少し話がずれるかもしれませんが、今回、震災報道でNHKはすぐ全チャンネルを震災報道に切り替えて、津々浦々情報

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第6回都市再生フォーラム「都市・価値の再創造」

2011 年 5 月 13 日(金)

主催:U R 都 市 機 構

共催:(財)都市再生共済会

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が行き渡るようにしましたが、私はひとつ、大失敗があったなと思うのです。それは、BS で、ずっと朝などは ZDF とかフラン

ス F2 とかやっていますね。あれを切り替えずにあのまま置いておいたら、発災直後からいったいそれぞれの国がいったい

どういうふうに見ているのかというのが良く分かったと思うのです。あの情報を失いましたよね。つまり、そういうセンスがな

い都市になっているのではないかと。国全体がそうなのですが。

そういう意味で、大きいところほど感度が鈍っていて、そうではないところは情報をなかなか得られないから、自らなんと

か取りにいくというようなことをやりますよね。少なくともインターネットをやっている人は、そういう違ういろいろな見方を得て

いたかもしれませんが。そういうことができないと、先ほどの議論の都市というものの意味がほとんどなくなってくるし、図体

が大きくなればなるほど、とっても危険水域に入ってくるのではないかと思うのです。

都市をどう再生していくかという意味合いでは、きちっとした情報を得るということと、それから自分の持っている、自分た

ちが蓄積してきた価値をどれぐらいほかとシェアできるか。ほかというのは、自分の国だけではなくて、どこでもいいのです

が、ベトナムとかインドネシアとかアフリカとか。 近少し、エチオピアで一緒に仕事を、国を立ち上げるというので何とかし

てくれという話があって、そういうことをやっています。日本人はほとんどアフリカに関心がない、政府もまったく関心がない。

エチオピアの大使館などには、外務省のプロパーなどは置いておらず、極めて鈍感な状態になっています。昨年度、坂本

龍馬の番組をたくさん、NHK もやったりして私も見ていましたけれども、あの頃は、一番の辺境の地が も敏感でしたよね。

そういうことからすると、「都市という定義は何だろう」ということになってきた時に、あの当時は江戸が都市ではなくなっ

ていて、高知の土佐とか長崎とか、長州とか鹿児島がいわゆる本来的な都市だった。大きければ良いというものではないで

すよね。そういう意味では、東京は価値があるかということをきちっと問い直して、そういう意味でも、空間的にもどういう単

位を大事にしたらいいかということも私は考える必要があると思います。

例えば、関東平野はめちゃくちゃ広くて、これを全部、東京と一言で言っていますが、そういう言い方をやめるとか。昔は

流域圏ごとにきちっとした地域の呼び方があって、それぞれ言葉も違ったし、文化も違ったわけです。どこが流出してきて危

ないとか、自然の摂理をよく流域の単位ごとに知っていたわけです。そういう感度を、インターナショナルにも高め、非常に

ローカルなところの自然についても、どこから恵みを受けているかという感度を高めることができるように変わっていくという

ことが、これが都市の再生ではないかなと思います。

○齋藤 NHK のことが出ましたね。私は実際に聞いた話でも何でもないのですけれど、多分、BS で同じことをやっ

たのは、BS しか受信できない世帯もあったのだろうなと。地上の受信設備が壊れると衛生でしか情報が入らない。そういう

こともあって、多分そういうことかなと。これは推測でありまして、裏付けを取った情報ではありませんが。では、藻谷さんお

願いします。

○藻谷 ありがとうございます。今度は 後なので、俄然、突然、まともなことを。考える時間が十分ありましたし。皆さん非常

に高次元の話をされまして、まったくその通りだと思います。若干、低次元なところについて言うと、「生活空間としてとりあえ

ず生活が成り立つ」ということが都市としては必要で、都市と田舎の違いで言うと、田舎は養っている単位面積当たりの人口

が少ないですね。周りに田園もあるし、いざとなれば水も汲みにいけるし。一方の都市は、普通だとよほど人智を尽くさない

と維持できないぐらいの高密度に人が住んでいて、そして実際に維持されている。

それが、今壊れて液状化してしまうと社会が崩壊しますよね。ですから、よくぞこれだけたくさんの人をダムのように堰き

止めて食わせている。都市は、とにかく人の生活の場として、田舎と違って非常に効率良く生活の場を提供しているという、

実につまらないのがありまして。

ただ、ではどういう理想がいいかというと、やはり地震とか天災が来ても、それが壊れないというのが多分理想で、今回、

仙台は非常に高いパフォーマンスを示したと思うのです。津波が来て震度6 強で揺れても、建物は壊れていないし。1週間く

らいは食べ物がなくて困りましたが、急速に物流が回復して、150 から 160 万人ぐらいの都市圏ですから、周りの街からバッ

クアップ入れたら何とかなった。

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東京は、3 千何百万で、仮にあれと同じぐらいに揺れたら、もっと建物も壊れます。建物が壊れずに停電で、水だけが止

まったとして、いったいどこからどれだけの物資を送り込めば、東京の人全員にまた食べ物が行き渡るところまでいくかと考

えると、東京都民として非常に恐ろしいです。その時に東京にいなければいいのですが、しばらくはガソリンもない。電車も

止まっているわけですね。ですから、都市として、人間が生きていく場としても、ある程度の適正規模があるのではないかと

いう。少しバックヤードに比べて街が大きくなり過ぎている、名古屋ぐらいまでが限界ではないかなという気がなんとなくす

るわけです。生活の場、それだけだと、別にただの団地みたいなもので、みんなで収容所みたいなものですね。

その次に、経済が成り立っていなければいけないとすると……。経済は、本当はクリエイティブな作業と言いたいのだけ

れども、それ以前に、ひよっ子でも食えるというか。都市に出てきて、何のスキルもないけれどそれなりに何とか仕事があっ

て、飯は稼げて喰えるということが都市の非常に大きな恩恵だと思うのです。

東京は格好良いことを言っているけれども、それがあるから人が集まっているのではないかなという気がするのです。

つまり、クリエイティブな人間になれれば、馬場さんのように房総におしゃれな家に住めるのではないかと。あるいは大学教

授になって、もっと住み良い街に行けるのではないか。郊外のもう少しセットバックしたところで、毎日通勤せずとも自宅に住

めるのではないかと思いつつ、都心に私が住んでいるというのは、結局、何となく喰いつなぐ人間にとって、ほかに手がな

いけれど、東京に行くと何とかなるべやという。各県庁所在地では、昔は「山形出れば、何とかなるべや」、「仙台行けば、何

とかなる」っていっていたのが、大分その機能が弱ってきています。何とか人を喰わせるという機能です。

ただ、これは人口減少社会なので、どんどん口が先になくなっていく。本当は人口と仕事が一緒に連動してなくなってい

けばいいのですが、実は問題があって、人間65 歳を過ぎて経済活動を余りしなくなるにもかかわらず、80 ぐらいまで生きて

いるのです。総人口がたくさんいるように見えて、実は現役の数がすごく 近は減っています。東京はもう減っているのです。

ぜひ「デフレの正体」を読んでいただきたいのですが。東京はすでに減っているので、そうすると先んじて店の方が人口より

先になくなっていく。いわゆるフリーターの雇用みたいなものも先んじて消えていくという大問題がありまして、おまけにそこ

に退職したお年寄りが参入してくるもので、益々取り合いになる。昔ほど若い人が簡単に仕事を得られなくなっている。日本

中の街がこの逆循環になっている。今、福岡で失業すると次の仕事を見つけるのは非常に難しい。福岡は日本で 後まで

人口が増えていたところです。そういう都市の 2 番目の喰わせるという機能がなくなっている。

その次、 後に、一言短く付け加えると、ただ単の人が住んで、飯食っているだけだったら、工場の横の敷地内にゴザ敷

いて寝て住んだって同じだってことになるのですが、次の時代の文化とか情報が生まれていて……。生み出す能力のある

人がいて、かつ生み出す能力がなくとも、ただ歩いているだけでそれが目に飛び込んできて消費できるというのが都市です。

アメリカの街ってそれができてないですよね。ニューヨークとかを除けば、どこに行ってもショッピングモールとか同じですよ

ね。ダウンタウンを歩いても。「こういうふうに崩壊するのか」という情報が得られることもありますけれども、たまに店がある

と、同じカフェがあって、要するにローカル性がないですよね。ものすごく大きな街でも、どこかのショッピングモールの一角

に一軒だけ地元のものを売っている店がありますぐらいの感じで、ほぼ、流れている情報が事前に想像がつきます。

恐ろしいことに、何となく日本の街がどこもあらかじめ入口を見ると、「ワタミが中で売っているものはきっとこれだろう」と

いうような、段々そんな感じになってきています。どんどん中身が画一化されてきて、先ほどの見かけは公団住宅だけれど

中に入るとリノベーションみたいな面白いものがもっとあればいいのですが、パッと見た瞬間に「きっと中身はこのようなも

のだろうな」という具合に、非常に想像がつきやすくなってきた。形式化されたものになってしまっているところが大きな問題

です。先生がおっしゃった江戸時代の江戸などは、もしかすると陳腐化して、そういう感じになってしまっていたかもしれませ

んね。

これまでは、どっちかというと大きな街にしか従来メリットがなかったと言われているけれど、小さい街にエッジな人が一

部住んでいて、面白い店とかをやっている方が逆に目立ったりして、新しく情報が得られることがたまに出てきたのではな

いかと、若干期待しているのですが、小さい街も同じようにつまらなくなっている。昔だと、山形でいえば、金山の街角とかを

歩く度に、少し新しい「こういうことをする人いるのか」みたいのがあったりしたのですが。小さい村でも歩いたら新しい情報

があって、クリエイティブな人が住んでいるのが見えるという、そういう意味での都市らしさというのを、どこかで取り返さな

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ければいけないのではないか。突然、ものすごくまともなことを言ったつもりで終わります。

○齋藤 実はこういうパネルディスカッションの前には、当然リサーチみたいのがあって、「こういう時には何をお話になりま

すか」と事前に聞いていますと、藻谷さんは何をおっしゃっていたかというと、『免災』構造の国を作るということをおっしゃっ

ていましたね。その辺は……。

○藻谷 ……1 番目の話ですね。

○齋藤 次の時に話されますか。

○藻谷 1 番目の、居住空間として何があっても破壊されないということを「免災」構造、『カラミティプルーフ』と言っています。

キャプテン・スカーレット、知らないですよね。すごく地味な人形劇があったのですが、特技は何度殺されても死なないという

ことだけというもので。「よくこの人形劇やっていたのだな」という、サンダーバードの後釜番組であまり面白くなくて、みんな

見ませんでしたけどすごくリアルな話でした。キャプテン・スカーレットは何でか知らないけれど、とにかく死なない……とい

う形で、麻痺してもすぐ蘇るような街にしなくてはいけない。

そのためにはまず、人命が損なわれないということと、物流・動線がバックアップが効いていてすぐ回復する。そんなに

いくらなんでも回復不能ほどに極端に集中していないということが多分重要。そして、何かあった時に山が崩れやすいところ

や波が来やすいところにはもともと人が住んでいないということが極めて重要で、今回の仙台はそのことを如実に証明しま

した。被災された方はいらっしゃいますよ。海岸沿い5㎞は非常に悲惨な状況になっていて、テレビではあまり写りませんけ

れども。ただ、地図をもともとのメッシュデータと重ねてみると、本当に驚くぐらい仙台の人は知っていたのだなと分かるわけ

です。今回、波が来たところというのは、そこからギリギリ来なかったところに比べて、まるで地図の上で線を引いたように

人が住んでいなかった。ものすごく面白い。ただ、過去 20 年ぐらいの 後の年間の時に、少し悪乗りで、調整区域だったに

も関わらず、それに無理に何かいろいろな制度をこねくり回して、虫喰い状に家が増えていたのが事実で、それが今回全部

やられました。だからそういうやり方をしないということが、非常に『カラミティプルーフ』『免災』の国としては重要だと思いま

す。ありがとうございました。

○齋藤 それと林先生の方で、“コンパクトシティ”とか“コンパクトビレッジ”という言葉がありましたけれど、簡単にちょっと触

れてもらえますか。

○林 “コンパクトシティ”ということで、一番 初に私、スライドで話ましたが、シティだけがコンパクトであれば良いというの

ではなくて、この半世紀何が起こったかというと、ひとつは核家族化で非常に人間関係が薄くなりましたよね。しかしこれは、

東京とか都市だけではなくて、農村でも起こっています。それから核家族化で、家族がバラけたと同時に、そのほぼ同時に

自動車が買えるようになりました。

東京オリンピックの頃までは、日本人はほとんどクルマを買えなかったので、都市のスプロール、都市がどんどん、どん

どん広がっていきます。先ほどの住んではいけないところも住んだりもしているわけですが。それがずっと急速に広がった

のが 70 年以降です。これは、お金がクルマを買えるところまでいったわけです。

それは何かというと、コンパクトとまるで逆のほうへずっと行ってしまいました。そういう意味でなぜコンパクトがいいかと

いうと、CO₂が減ります。将来の人たちへの市街地への維持コスト、つけ回しが減るというのがあるのですが、もっと大きい

のは、きっと人々がもっと人間同士が付き合えるような雰囲気ができるということが重要なのではないかと思います。

これは、別の意味での今、東京砂漠みたいなものが進行していますでしょ。年齢がどんどん高齢化して、孤立していって

いるわけですから。そういう意味で、東京圏においても、東京というのが何を東京と言っているのかによりますが、それぞれ

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のローカルなところでコミュニティを作っていかなければならないですね。もう、ほとんどない場合が多くなっているのでは

ないかなと私は思いますが。

そういうのを作りながらやっていけば、都市のサイズというものが、マネージメントするサイズがきちっとしていれば、あ

る程度大きくなっても大丈夫ではないかと思います。それは先ほど、私は上海のスライドを見せましたが、上海も非常に大

きくて、上海と東京 23 区はほとんど 600 平方㎞くらいで同じなのですが、東京 23 区は 820~830 万人、上海とかソウルは

1000 万人入っています。向こうのほうがずっと過密なのです.。

ところが、あちらはあちらで一人っ子政策なり、それから上海のリングロードの中には上海人が住んでいないというぐら

い、急速に土地の値段が上がって、外国人か北京語をしゃべる人しかいないぐらいのことになってきたのです。それに対し

てものすごく危機感を持っていて、ローカルなコミュニティをどうやって作るかというところで、もう 1 回戻ろうとしているので

はないかと、私は推測します。そういうところへの対応が非常に早いので、日本も早く気が付いてそちらに踏み込んでいくと

いいうことが大事かなと思っています。

○齋藤 ありがとうございました。山田さんからは、一応、どのような都市に再生するのか、都市の理想像ということで、自立・

持続可能ができる。誇りを持てる。誇りというのは心の拠り所になる。普遍的、本質的なものに気づくことが重要というお話で

した。その気づきという意味では、馬場さんも地域のプライドというのはなかなかその当事者は気づかないと。外部からの

発見、外部からそれを発見して気づかせることも必要ではないかと。それと自律と。今、林先生からは、都市の再生として連

携できるということ。それと幕末を例にされまして、東京というのが今、価値があるかどうか問い直すことが必要なのではな

いか。そしてコンパクトシティの話を今、補足していただいきました。藻谷さんからは、都市というのは生活空間が、基本的に

は成り立たなければいけない。適正規模というのがあるのではないか。当然、クリエイティブな人がたくさんいなくてはいけ

ない。文化情報というのも画一化されたり、形式化されたものであってはならないということをおっしゃられたのではないか

なと思います。

【第4 部:都市・コミュニティの再生を図るための具体的な戦略・方策とは?】

○齋藤 では、どのような都市に再生するか。どのような都市を理想像として、どういうふうにすれば、そういう都市、あるい

は街ができるのかということで、その戦略とか具体的に実現の方策について、少しお話をうかがっていきたいと思います。こ

れは、馬場さんからいきましょうか。

○馬場 コミュニティの再生。2 つあるかな。僕は“リノベーション”ということを一生懸命やってきたのですが、その再生の中

で、主に建築の再生・建物の再生。それをする中で、気が付いてきたことがそのまま都市やコミュニティにも当てはまるので

はないかというふうに思いました。

僕の仕事は、 終的には「良い空間を設計し作ること」なのですが、それにはまず、どういう場所にそういうものを作れば

良いのかを探すことが大事です。新しい、デザインすべき場所を探すことと僕は言っているのですが。コミュニティが作られ

やすい、ハブに成りやすいような場所。そういう機能みたいなものはあるのだというふうに思うのです。どこに、どういうカフ

ェを作るといいか。そういうような「場所と空間を探すこと自体をまずやらなければいけない」ということに僕は気がつきまし

た。

例えば、具体的に言うと、僕の事務所は今、神田の裏の方にあります。裏日本橋、裏神田みたいなところなのです。そこ

は、前はガラガラでした。空きビルだらけでした。でも東京駅からタクシー1 メーターで行きます。問屋街もです。ここには問

屋の倉庫がたくさんありました。僕はそこに小さな駐車場を発見して、それをリノベーションして事務所にしました。それを見

て、東京 R 不動産みたいな活動があって、空き物件にいろいろなギャラリーとかカフェとか、そういうものが集積するように

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なっていったのです。

ある日、本当に美味しい料理を出すカフェがポッとできたら、そこでブレイク。「あ、美味しい飲食店って、都市を変えるパ

ワーがあるんだ」というようなことに気が付きました。小さなことですよね。小さなことの集積だけれども、それでその場所は、

コミュニティは再生していくのだなと。6、7 年かかっていますけれども、そういうことに気が付いています。

だから、そういう顔の見える部分みたいなものをしっかり大切にして、それをいかにつなげていくか。そこに行くとだれか

いる、そういう状況が、街を変えたというような実感があります。その経験を今、山形で、同じようにシェアハウスを作ったり、

カフェを作ったり、というような活動を学生たちと一緒にやっていますが、まさに具体的な戦略・方策というものです。

それを行うことにより何が起こるか。昔、そこにはだれも住んでいなかった。みんな郊外に住んで、山形にしろ、日本橋に

しろ。ただ、そこに空き物件とかを見つけて、若い世代が住み始めます。空洞化した都市・街は、みんな郊外に行っていたわ

けです。それで中心が空洞化していた。

そこでもう1回、街に住み直す。それによって、そこには自動的にコミュニティができ、活性化する。これはどこにでもある。

どこにでも当てはまるのではないかと思います。山形も『中心市街地活性化』とか言っているのですが、商業の力で再生しよ

うとしていますが、「商業で失敗しているのだから、何をやっても無理でしょう」と気づき、住み直すと。中心市街地には、商業

を再生させるのではなくて、まず住むというところで学生たちに住む場所をたくさん作ったりしています。

それによって、交流と購買が生まれます。時間はかかると思いますが。顔の立つ店ができてくる。その部分の集積をい

かに作るかと。その集積をいかにネットワークして点を面に見せるかと。そのシナリオがコミュニティ再生のある種ヒントの

ように感じて、そのリノベーションのノウハウを都市に展開したいなというふうに思っているところです。

○齋藤 非常に良いお話ですね。藻谷さんが一生懸命うなずいていますので、では、藻谷さん。

○藻谷 おそらくこちらのお二人(林・山田氏)がもっと戦略、そして本来のそもそも何を目指すのかという話をされるだろうと

思うので、本当はそっちを先に言わなければならないと思いつつ、あえて戦術の話だけにします。今、馬場さんがおっしゃっ

たようなことが、なぜ神田で昔できなくて、今できたのか。あるいは、山形でなぜ昔できずに、今でも多くのところでは全然分

かっていないのか。それは地権者が何もしないからなのです。

神田なんて、その大典例です。漱石の頃は、神田というのは東京一の繁華街です。私は山口県出身ですが、なぜか歴史

には詳しくて。東京の都電時代の大ジャンクションは神田須田町で、市都電がグルっと何路線も交わっていた。神田須田町

って今、どこですかといっても誰も分からないと思います、地下鉄の駅すらないです。淡路町と御茶ノ水、秋葉原の間で、万

世橋の駅があった近くですが、万世橋の駅すらなくなってしまいました。そこへ行きますと、本当に古いビルが建っているだ

けで、藪そばが 1 軒残っていて、終わりですよね。何であの状態まで落ちたのか。昔からああだったのではないです。 大

の繁華街だったのですよ。その地権者がある段階で、ただの家賃生活者になってあぐらをかいているうちに、結局虫も食わ

ない場所になった。そして「もっとオフィスビルを作りたい」とか、「店作りたい」とか「飲食店入れたい」ということだったけれど

も、結局、人間が住み直すところまで落ちないと再生しなかった。

それが幸いなことに、林先生がおっしゃったように改造文化がまだ未分化な日本においては、そこに変な人が住みつい

て滅茶苦茶になっているということがなかったために、ある意味、家主さえ目覚めてくれれば……ですよね。家主を説得して

安く借りているのでしょ。家主を説得したところしか直せない。つまり虫食い状にしか直せないのです。

逆に、「人工的に(街を)全部直せるのだ」と言い出して再開発するじゃないですか。うまくいっていますか。なかには幕張

ベイタウンの一部で、そこそこ大天才がプロデュースされて頑張ったというのもあるのですが、東雲の某何とか機構さんが

やられたみたいに高容積の下にウワァっと商店街の何か、トヨタのショールームみたいのをいきなり作って、全部空いてい

ましたみたいなのも多いわけでして。今の地権者を個別に説得してやっていくというやり方は、虫食い状になってかつ防災

的にも良くないのではないかという問題点が実はあるのだけれども、お客としては災害が来なければ非常に面白い。

とりあえず突っ走ってやってみたのが長浜で、200 何件新しい店が入ると、それはそれで面白いのです。苦闘はしていま

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すが。地権者の結局何かしらの意義を、何を待っているのでしょうか。ゴトーを待っているのか、好景気を待っているか、い

や実は人口増加がもう 1 回来るのを待っているのです。

人口増加により起きたことは、景気により起きたと勘違いされています。「それは景気ではなくて人口(増加)ですよ」と言

うと、私みたいにケチョンケチョンにネットで攻撃されます。「いや、これは景気なのだ」「景気だと言ってくれ」「人口、何でも

人口のせいといったら日本に将来ない」とか言い出すのです。違うのです。将来はあるのです。それを分かった瞬間に将来

は見えるのですが、景気のせいだと言っている限り、永遠に将来はない。人口は増えないわけだから。人口が増えないとこ

ろで、自分の地区のところに価値を生み出して、面白い人を集めて、みんなで楽しくやるぞというビジョンを地権者が持たな

い限りいかない。

戦術論でしたけれども。しかし、「そうして何見ず、どちらに向かうのですか」ということは少しこちらのお二人に話をして

いただかないと、私はただやり方を言っただけです。

○齋藤 山田さんが難しそうな顔をされているので、では、山田さん。お願いします。

○山田 別に難しい顔をしていたわけではなくて、「本当に現実問題だなぁ」と思いながら。いつも聞いている話なのですが、

また改めてというところがあったものですから、少し難しい顔になりました。

戦略・方策の話に関しましては、本当にこれこそひとつではないので、ひとつ戦略を立てたらどこの街でも、どこの都市

でも通用するかといったらありえないでしょう。その考えをまず捨ててください。そういう意味では、今日は一貫して冒頭の自

己紹介からお話している通りなのですが、「だれが考えるのか」。例えばどこか、今回の三陸沖の震災についてもそうです

が、東京だけでモノを考えて、「こういうのがいいじゃないの」と持っていっても仕方ないと思うのです。まさしく津々浦々全部

違うわけですから。

「どうしたいのか」と聞いていただくことが、まず大事なのではないかな。特に、喜怒哀楽、人間が表すような感情のとこ

ろもきちんと踏まえて。ましてや先ほど言った本質的な、普遍的なところも踏まえて聞いてあげないと、戦略は立てられない

のではないですかと。私はよく、自分自身があちこちに関わっているものですから、ひとつの方法でうまくいくというのはあり

えないのを実感しています。ほかのコンサルタントさんとかシンクタンクはひとつの方法を街の名前だけ変えてクルクル回

さないと儲からないので仕方がないかもわかりません、手間暇がかかってしまうから。

漁師の家に行こうが、潜る海女さんの鳥羽の海女小屋に行こうが、とりあえず、「これまで生きてきて何が楽しかったの

か」、「何が一番つらかったのか」ということを聞くことからスタートしないと、まさしくそういうところからでないと戦略は見えて

こないのです。だって、「どう生きたいか」という話ですから。

それかといって、ひとつではない。それぞれの価値観だのなんだのという話をしてきたのですが、私の場合、実際、戦略

を考える上で、「どうなりたいのか」「どうしたいのか」と嫌がおうにも聞き、議論します。「どうしたいですか」って。その時に、

私も『まちづくり』とか言葉を使いますけれども、「作ろうとするから無理が出ますよ」という話なのです。育てようとしません

かという話です。

そう考えると、作るとなると何かハードが中心になったりとか、どうやってそういったものを作るかという話になるのです

が、育てようとなると、あるモノをどう……。自分が持っていないもの、持っているもの、ほかの人が持っているもの、私が持

っていないもの、いろいろなことを考えて育てようとします。簡単なのです、皆さん。人と一緒です。違いますか。人も育てる

のは 20 年ぐらいかかるわけです。作る時よりも、自分の子どもをどう育てようかと考えた時のほうが夢もあるし、どんなこと

を教えてあげようかとか、いろいろとアイデアも湧くじゃないですか。特に自分の子どもだったら。

私は、それが戦略だと思うのです。「どうしたい」。それで、子どもが大きくなってきたら、まさしく「お前、どうしたいのだ」

「どっちの方向に進みたいのだ」って。「どんな、お前こそ夢を持っているのだ」というのが、これが次世代につなぐことだと私

は思って、地域に入って皆さんとやるわけです。

その時に、都市と大都会と、私は違うと思いますし、私が住んでいる人口 5,700 人のところでも、私は小さな都市だと思っ

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ているのは、先生がおっしゃった『コンパクトシティ』という“コンパクト”はいろいろな方の住んでいるほうとか、そこで活動し

ている方のある意味、心がその地域内でコンパクトにまとまっていないと駄目だと思うのです。そういった意味では。

そういうのが、まさしく次につなぐ価値であって、そういったものを創造していく戦略の元になるのではないかと。要は会

話が見える範囲と言いますか、コミュニケーションがしやすい範囲と言いますか。私が住んでいるところは南北に3kmちょっ

としかなくて、電気自動車と馬車しかなくて、基本的に徒歩の生活なものですから、自分の会社、事務所に通うのにスケボー

で夏は行くし、冬は時間がないとその辺を走っている馬そりでも捕まえないとみたいな世界です。大小あるにしてもどこまで

一緒な自分たちがこの範囲というふうに持てるかどうか。私にとってはどちらかというと歩ける範囲よりも、自分が住んでい

る上で、活動する上で、目に見えている範囲ですよね。

そうすると非常に分かりやすいし、逆に平成の大合併で8つも9つも合併してしまった後から私が呼ばれると、もう困って

しまう。要は心がひとつに、コンパクトに、そもそもまとまっていないのでなかなか戦略が取れないというのが正直なところ

です。

○齋藤 では林先生、お願いします。

○林 私はあえて反対のほうから。世の中で“箱物”と言われますけど、私がインフラとか空間と言っているのは箱物です

ね、言ってみれば。ただ箱物は、何のための箱物かということが重要なんです。箱物か箱物ではないかとか、そういう議論

は非常に無益と言いますか、不毛だと思っています。そういう意味から、大きなフレームが市民というか国民全体に分かる

ようなものが必要かなと、私は思っているのです。

それは空間的にいうと自然圏。自然の摂理の境目はどこかというのがあって、陸地側だと間違いなく流域圏です。ただ今

回は、私はまったく考えを変えなければいかんなと思ったのは、陸の側を考えていたら海からやって来るわけですから。河

川が流入している流入圏ぐらいの名前にした方が良いぐらいの一体になっているわけです。畠山重篤さんでしたっけ。『森

は海の恋人』というのはまさにおっしゃる通りであって、一体化しているわけです。

そういう暗黙知のようなものがどんどんなくなってしまっているので、そういう大きな流域とか、それまたサブの支流域で

すね。そういうものが常識としてなるようにまず、ひとつ、空間をセットするわけです。その中というのは、DNA が生きていて、

方言とか風習とかそういうものが非常に似ていると思うのです。今でも気が付かないけれど、似ている。クルマで行ったり来

たり、関係ないところも行ったり来たりしているのですが、新幹線でも飛行機でも飛んでくるのだけれども、やはり DNA は生

きているわけです。

その次に何をやるかというと、そういう流域圏があって、その中で、費用や CO₂とか色んな制約がありますので、適地を

探すということです。津波が襲ってくるようなところというのは、やはりこれはどう頑張ったって、どんなにお金を取るにしたっ

て、そこを残そうと言ったって、「残すか」、「残さないか」という議論では駄目なのです。住むところを、身の丈に合わせて人

口が縮小してくるのであったらそれに合わせて選んでいきましょうと。たたまなければいけないところが出てきてもいいので

す。

だけれども、土地の記憶そのものを全部捨てろと言っているのではなくて、そこを訪ねられるようにするとか、もともと何

人かが住んでいたところだったら、そこを一帯としたそういう文化圏として、その町なり村なりがずっと維持していくと。バラ

バラ住んでいるよりはよっぽど豊かに維持ができるという、そういうシステムを私は『クオリティ・ストック形成』と言っていま

す。特に住まうところをクオリティの高いストックにする。

なぜ今、私も含めてなのですが、郊外へ行ってバラけるかと言いますと、郊外に住んだ方が今は環境が良くて安いわけ

です。先ほど、土地の価値とか税金の話が出ました。固定資産税も低くて、比較的いいわけです。ところが街の中に住んで

いると、いきなり住んでいる 5m 前のところに、いきなりババーンとマンションが建つかもしれないという、こういうことが起こ

るから、だれも住もうとはしませんよね。街の中というか、都会の中はそうですが、村の中だってそういうことが今、起こって

いるわけです。

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第6回都市再生フォーラム「都市・価値の再創造」

2011 年 5 月 13 日(金)

主催:U R 都 市 機 構

共催:(財)都市再生共済会

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なので仕掛けは提示して作っていかなければならない。それがまずかったら、また修正する。つまり、大きな流域圏のよ

うな、あるいは小流域のような地域を意識するということ。

それから、選んだら、“クオリティ・ストック”を作る。そのクオリティ・ストックというのは、やはり文化とか伝統を伝承するた

めの重要な装置なのです。人間そのものも装置なのですが、やはりフィジカルなものも蔑ろにしてはいけない。それを箱物

だと捨ててしまったら駄目なのです。そういう装置は残す。

そしてそのモノができれば、身の丈に合って縮むことができるので、それを私は『スマートシュリンク』と言っています。

終的にどこまでスマートシュリンクをすればいいかは、クオリティ・オブ・ライフのレベルを保てるところまでということです。

ここに保てなくて、ここまで落ちるのであったら、次は集まらなければしょうがないということで、そこはちゃんと観念して、そ

のクオリティ・オブ・ライフを落とさないようにするためには集まって、その代わり何か代償的なことをやらなくてはいけない

のであればやるというのを常識としたシステムを作る。

そういうのを提示するのは政府であったり、UR さんは政府ではないのですが、重要な都市とか村も出られますかね、村

の再整備みたいなところにも出ていただいて、文化伝承の中枢を担っていただくといいと思っています。

○齋藤 はい。藻谷さんにちゃんと回そうと思っていました。

○藻谷 いや、ちょっと“クオリティ・ストック”というのはまさにその通りでして。私、一部共通したことを実は言っていたという

ことで。多分、馬場さんがやっていた神田のその古い街屋群というか、ビル群が、実はクオリティ・ストックに代わることがで

きたのですね。それが建っていたものがある種、神田の繁栄を 後の名残として持っていて、クリエイティブの人が住むと

いう環境に作り直すとクオリティ・ストックになったのですね。

山田さんが言っていた吉野の蔵王堂は、まさに先祖がクオリティ・ストックを作ろうとして実は作っていて、それに参拝す

る人がみんな、桜の苗木を持ってきたために、周りに第2 次クオリティ・ストックとして桜がダーッとこう形成されたけれど、そ

れを再生産していない人たちが周りに寄生してクオリティ・ストックをまるで作っていないと。だから結局、余計なことをせず

に、権現堂、蔵王堂と桜だけあれば良いじゃないかということになってしまう。

私は、何となくクオリティ・ストックになるべきモノを抱え込んで悠久化している地権者を説得し倒して、彼らが土地を再利

用しないと再生しないだろうと。

それに対して、21 世紀美術館みたいな、馬場さんのアトリエと良く似ていますけれど。ああいうふうなクオリティ・ストック

みたいなものをいきなり街の核として、新しく作るというのもありますね。そういうもの含めて、とにかくクオリティ・ストックを

作らなければいけない。本当にその先の戦術論だけ言っていたということがよく分かりました。

○齋藤 ありがとうございました。馬場さんからはその顔の見える部分から作って、それをつなげていくと。いわゆる点から

面に変えていくという、部分の集積からネットワークをしていくこと。藻谷さんからは、要はやっぱり家主、地権者をどう目覚

めさせるかが重要なのではないか。山田さんからは、私がこの中で一番、「そうですね」と思ったのが、作ろうとするから無

理だと。育てようとしませんかと。育てようとするところで、夢があるし、アイデアが湧いてくるのではないかと。それは都市も

同じではないかということだと思います。それから林先生は、自然の摂理を大事にして考えていくと。住むところの適地を探

していくことが重要ではないか。適地が見つかったら、今度はクオリティ・ストックにすることが重要だ。その上で、スマートシ

ュリンク、クオリティ・オブ・ライフが保てるところまでシュリンクしていくということが重要ではないか。それらを藻谷さんから、

先ほど全部それを分かりやすく解説していただきました。ありがとうございました。

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【第5 部:提言「次代につながる都市を作るために何が必要か】

○齋藤 もう時間が僅かなもので、 後にパネリストの皆様から「次代につながる都市を作るために何が必要なのか」。キー

ワードを色紙に書いていただいて、ご提言をお願いしたいと思います。何行書かれてもいいですし、漫画を描かれても何で

も結構です。

その間、少しだけお話します。私は「だれのためのまちづくりか」

ということをよく話すのですが、日本全国の街路樹を見て今の子ど

もたちから高齢者に対して、いたわるとか、尊敬すると言う言葉が

消えたのはバブル以降だろうと。バブル以降、人の評価は「この

人と付き合うと得する」「この人と付き合うと偉くなる」そういうふう

に経済価値とかそういうものに全部換算すればいい。それはまち

づくりにもひとつあると。

その街路樹というのは、車道ギリギリに植えています。1.5m し

か客土していません。1m四方の正方形の枡に1.5mの深さで客土

しています。その周りは大体建設残土です。道路の車道の方にかかる枝は信号が見えにくいとか、バスから子どもが顔を

覗かしてくると危険だからと切ります。それと住居側は落ち葉の掃除が大変だからと、そちらも切ります。ですから皆さん、

全国津々浦々の街路樹を見ていただきたのですが、元気な街路樹はあまりありません。自然との共生と言いながら、我々

は自然との共生をしていなくて、単なる緑の飾りに過ぎない。

1億2800万人で、この街路樹を持っていますけれども、あと何年、この街路樹がもつのか。それを子どもたちは本能的に

察知しているのではないか。いわゆる今の大人は、今しか生きていない。自分たちが大きくなった時に、この都市がいった

いどうなるのか、考えていない。そういう人間にいたわるとか、尊敬という言葉がないのは当たり前ではないかなと思ってし

かたないのです。そういう意味では、自分たちはどういう街を作ってきたのか。もう一度点検をする必要が私はあるのでは

ないかと思っています。ということを言いながら時間を稼ぎました。

では、名古屋大学大学院教授の林良嗣さんからその色紙を基に少しご提言をお願いいたします。

○林 はい。今日ずっと言ってきたことなのですが、『凝

集』・『連携』・『享受』という、私、ワープロであまりにも何回も

『凝集』の“凝”という字を打ちすぎて、考えれば考えるほど

字に自信がなくなって、二水偏を付けてやっているうちに分

からなくなって、ひらがなになりました。本当に 60 歳を超え

るとこういうことが起こります。しかし、気持ちは失っており

ませんということで。

といういうことで、とにかく集まればよろしいというのでは

ないと。何のために集まるかと言ったら、連携をするためで

あると。あるいは、ある街と隣の街がそれぞれ集まっていて、

違う価値を持っているとか違う施設を持っていると。そこに通路ができて、道路とか鉄道があったらお互い様というので、別

の機能を使えるというように。

例えば、産婦人科の医院は、あるいは病院は、5 つの市町村の中のひとつしか持っていない。しかし、別のところに行っ

たら図書館があるとか、美術館があるとか、そういうことも連携の、自分のところで連携をするだけではなくて、お隣さんとも

連携する。それが内部・外部との共助になっていると。

そういうふうにして、もう1回、人間の気持ちの通い合いというのを高めていくという。これは国際的にもまったくこういうこ

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とが言えるのではないかと思います。私もけっこう、行ったり来たりして、CO₂を出さないという研究をしながらも飛行機を乗

りまくって飛んでいるわけですが。まったくこういうことは、共通のことであって、外から見てみるという癖も連携をすると出て

くるのではないかと思います。以上です。

○齋藤 はい、ありがとうございました。続いて、まちづくり観光研究所主席研究員で NPO 法人日本エコツーリズム協会理事

の山田桂一郎さん。

○山田 2 段階で。必要なキーワードというのは、一応「波」と書かせていただきま

した。『WAVE』。これは何かと言いますと、Wave、波の W。“Will”意志 です。a は

“action”行動、v は“vision”先見性、e は“enjoy”楽しい。特に、こういう話をフォー

ラムもそうなのですが、けっこう抜けがちなのが、一番下の「楽しさ」ですよね。

今日皆さん、楽しかったですか。怖かったとか、いろいろあるかもしれませんけ

れども。私もそうなのですが、いろいろな地域に入って、いろんな方と楽しくやら

ないと駄目です。長続きしないのです。もちろん、楽しいばっかりでも駄目なの

ですが。だからこそ強い意志を持って、先見性を持って動く。

私は別で、よく NATO 廃絶という言葉も使っています。今日はどっちを出そう

かなと思って。これ、北大西洋条約機構ではなくて、“No Action Talk Only”でして、

それを廃絶してくれとよく言っています。

今日も戦術論が少し出ましたけれども、事業を進めていく時に、ものすごく問

題になるのが、「官」と「民」の連携です。私、いろいろなところでエゴと利害に付

き合っていますが、「官」と「民」は連携できるのですが、事業化できない。なぜか

と言いますと、官、行政がやろうとする事業はすべて政策なので、住民市民に対してフラットにかかりますし、民間の事業と

して、そういうことをやられるとやられるほどうまくいかなくなる。今日、私が全然使わなかったお手元にある資料を良く読ん

でおいてください。「官」と「民」を動かすための、よく新しい公共とかパブリックと言いますが、今日、ちょっとその組織の話が

できなかったので、資料を見ておいていただきたいのですが。そのパブリックで、一番、私が皆さんにこの 4 つ、この波を持

って動きましょうと言うのが、私のいつものキーワードです。

残るのだったら、勝ち負けの勝ち残るという、だれかをなぎ倒すとか、だれかを困らせるとか、捨て去るのではなくて、ま

さしく今回のフォーラムのキーワードのひとつになっています「価値で残る」と。それを、その地域それぞれ考えていただけ

ればいいのではないかと思います。すみません、長くなりました。

○齋藤 山田さんのそのツェルマットの話は、会場の皆さん、ぜひご関心あったら山田さんを呼んであげてください。それで

は、次に、株式会社日本政策投資銀行参事役の藻谷浩介さん、お願いいたします。

○藻谷 つまらないことをあえて言うことにします。今日も人の

言わないことを、なるべく狙って言おうと思ったのですが、や

っぱり総論ではなくて、これは部分的なことを申し上げます。

人口減少の時代でありますので、人口が減っていく時に、皆

さんがやはり今までと同じように楽しく暮らすには、数を頼

んで戦っていくことは無理なのです。そうすると、一人当たり

の価値を上げなければいけない。一人当たりの価値÷人と

いう字です。パワーですね。一人当たりの価値を上げるしか

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ないよ、ということです。それで、一人当たりの価値が上がるような社会にしなければいけないし、なった方が良いし、また、

そういうふうに思える都市を作っていきたいし、田舎がそれをできるなら田舎にどんどん住むべきと。都市と田舎それぞれ

の価値が上がる時に、そのために何が上がったら良いかというと、本当につまらないのですが、「一人当たりのテイストと

感性を上げないと、どうも価値が上がらない」と21世紀の今の時点では、僕は思っているのです。死ぬ頃に、「わしが間違っ

ていた」といって死ぬかもしれない。100%の確信は持っていないのですが。

ただ、自分がテイストと感性がない人間なので。例えば、今日着ている洋服だって、全部妻が選んでいるわけでして。私

には全然そういうのはない。食べ物の味に関してだけ少し分かるのですが。だけど、ほかのことはほとんど分からない。で

すが、やはり思うのは、自分みたいな奴ばかりだと、都市もできなければ田舎も終わるだろうということを、いつも思うので

す。

結局、「感性」を高めていくという努力をしない人たちがゴチャゴチャ集まっても、結局、皆さんが繰り返しておっしゃったよ

うに、先ほどの『クオリティ・ストック』にならないのかなと。逆にひとり、二人でもいいからすごく年々感性が高まっている人

が住んでいるところというのは、町屋の改修なりアパートの再生でもやはりクオリティ・ストックというものが、そこそこできて

いくのかと。

僕ら、上の世代、80 代以上の人って、環境に対する意識が著しく弱くなかったですか。松下幸之助、「山全部削って、埋め

ちまえ」とかおっしゃっていたとか。それ、おかしいなと。今70代とかの人は、環境は分かるのだけどデザインが分からない

ですよね。それから、何でも味の素をかける人が多いです。僕らも多分、下の世代からまた批判されると思うのだけれども、

やっぱり、ありとあらゆる分野で感性を高めるということをすることにより、自ずとそれが街に凝集するというか、表れるとい

うか、そして「勝ち残る」と。勝手につなげました。終わりです。

○齋藤 ありがとうございました。では、 後に Open A 代表で、東北芸術工科大学教授、建築家の馬場正尊さん、お願いい

たします。

○馬場 『部分の集積で、都市は変わる』という言葉にしました。当たり前の

ことじゃないという感じなのですが。ちょうど、できたてのこの本の帯に書

いたのです。“部分の集積で都市は変化する”。20 世紀って、“マスタープ

ラン”という言葉がありましたよね。全部、帰納法。あるゴールがあってそ

れに向けてガーッと突き進んでいく感じの計画だったと思います。ところが、

まずそれをこれからの都市計画では捨て去らなければいけない。輝く部

分から作って、 後、いつの間にかにゴールになっていっている。そのき

ちんと輝く部分をしっかり作っていって、それをつなぎ合わせることにより、

いつの間にかに全体になっているという新しいタイプの、だから 20 世紀型

のマスタープランではない計画を発明しなければいけないというふうに思

うのです。

先ほど、藻谷さんの「何かひとつあれば、全体を語るのではなく、ひとつ

あれば」という話ですが。今、団地の部屋の再生とかをちょうど UR とやっ

ています。それはマスタープランを魅力的に提示するのではなくて、「この

部屋がこう変わってこういう恰好良い面白い生活ができるのだ」というひと

つをしっかり提示すると、「何だ、団地ってこう変われるのだ」ということを証明できる。その変化の集積が、結果として団地

全体の変化につながっていく。そういう発想とやり方。それを“まちづくり”という言葉ではない、“都市計画”という言葉でもな

い。その方法論自体を発明するのが、新しい都市の作り方なのではないかというふうに思っています。

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○齋藤 ありがとうございました。今回の東日本大震災の対応を見ましても、非常に場当たり的な対応が目立って、どのよう

な脈絡で実施されているのか、全体像といいますか、それを支える理念、大局観が見えないように思います。バブル経済

が破綻して以来、ずっとこうした状況が続いているように思えてなりません。このままでは、いったい日本の将来はどうなっ

てしまうのか不安に感じている人は多いのではないかと思

います。こうした先行きが不透明で、何となく閉塞感が漂う中

で、今、社会の時代の中心にいて、多方面にご活躍の皆さ

ん、パネリストの皆さん。非常にこう感受性が豊かで、時代

あるいは社会を見る目、洞察力が鋭い。そういう方々がお

集まりになって、今、皆さんがそれではいったい何を感じて

いるのか。今の時代に、何をしようと考えているのか。どの

ような切り口で今を分析して、今後の日本を展望するのか。

それをどう、『まちづくり』に活かそうとされているのか。今日

のパネルディスカッションに、それを期待された方が多かっ

たのではないかと私は思います。

情報化がどんどん進む一方で、情報があまりにも多すぎて、社会や時代の本当の姿が見えにくくなっている。それもひと

つあるように思えます。あまり情報が多すぎると、何が本当なのか分からなくなってきていると思います。今日、パネリスト

の皆さんからいろいろなアイデア、あるいは考え方が示されました。別にこれをまとめるつもりもありませんし、それぞれの

考え方に、おそらくこれから皆さんがまちづくりを進める上での何等かのヒントが私はあったように思います。

これから私たちは、次世代に、安心・安全なまちづくりを引き継いでいくために、人任せではなくて、一人ひとりが自分の

立ち位置、自分がどういうふうなポジションにいるのか、立ち位置を確認して、責任をもって自分の役割を果たしていくことが

私は大事なように思います。

パネリストの皆さん、本当に今日は、どうもありがとうございました。また、会場の皆さん、長時間ご清聴ありがとうござい

ました。これをもってパネルディスカッションを終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

○司会 パネリスト、コーディネーターの皆様、長時間にわたるディスカッション、どうもありがとうございました。出演者の皆様

にはここでご退場いただきます。もう一度、盛大な拍手でお送りください。本日は「都市再生フォーラム」にご参加いただき、

ありがとうございました。

(文責:第6 回都市再生フォーラム事務局)