ビリルビン系石に対する直接溶解剤としての キレート剤に...

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日消外会誌 14(7):1069~ 1081,1981年 ルビン 系石に対する直接溶解剤 としての 剤に 関す る基礎的研究 福岡大学医学部第1外科 (指導 :志 村秀彦教授) 池 尻 FUNDAMENTAL STUDIES ON CHELATINC ACENTS OF DIRECT SOLUBILYZER FOR BILIRUBIN‐ CALCIUM GALLSTONES Yuichi IKEJIRI First Department oF SurgeryP Sch。 。1 0F Medicine,Fukuoka University,Fuku (DirectOr:Proi HidchikO SHIMURA) ビリル ビン 系石に対す る直接溶解剤 の開発を 目的 として,鎖状 ポ リリン 鎖長 とカル シウムキ レ 効果の関係を明 らかにす るとともに ,キ の生理的条件下でのキレ ト効果 を 明らかにす るため に,種 々のキ レ 剤の PH 7.4,温 度37℃ における条件安定度定数を求め比較検討 した。 その結果 ,鎖状 ポ リリン 酸を含む種 々のキ レ ト剤のキ レ ト効果には,こ の条件下 では著 しい差果は な く,今までに報告 され た これ らの毒性の結果を併せ考 え る時 ,鎖状 ポ リリン 酸キレ ト剤 (LPPC)は , 現在の ところ最 も有効な 系石直接溶解剤の 1つであると結論 した 索引用語 :直 接胆石溶解剤,遣残胆石症,キ 剤,鎖状 ポ リリン 酸 ナ トリウム ,鎖状 ポ リリン キレ ト剤 (LPPC) 胆石症 におけ る最近の飛躍的な術前検査法の進歩 によ り,胆石手術時 には胆道系 に関す る的確 な情報を持 ち得 るようになるとともに,最近の術中検査法や手術手技の 向上 に伴 って ,遺残胆石の頻度は著 しく減少 した と考え られ る。 遺残胆石の発生頻度は,Clennに よれば胆石症全体の 1.1%で あり 1),諸 家 の報告 を 併せ考えると,本邦でも 胆石症手術例中遺残胆石の発生頻度は,数%ぐらいであ 2)3). ビツル ビン 系石 (ビ系石)を 主体 とした 肝内胆石症 も,最近では胆石症全体の約 5~7%4)'7)と され, これ は以前に報告 された頻度約11~ 15%3)‐ 11)に 比較 し,か な り低下 してい る。 しか しなが ら,肝内胆石症は,胆石症再手術例の約50 60%3)ゅ 9)を 占め,術後遣残胆石の中でも最 も頻度が高 く,胆道外科領域での残 された 重要 な 課題の 1つであ る。 肝内胆石症 においては,手術時 に種 々の裁石法を試み て も,解割学的関係 か ら 手技的 に 限界があ り,胆石が 遺残 してい るのを承知の上 で ,止むを得ず手術を終 らざ るを 得 ないことが 多 い。 また,術後 にも胆管 ドレ を 経 由 して,最近著 しく進歩 した 胆道鏡 1り 立eerable catheter13)な どの非観血的裁石術 に期待 して も,肝内胆 石の完全な除去は困難なことが多 い.そして,胆石遣残 により胆管炎を繰 り返 して肝機能障害が強 くな り,遂に は肝硬変症 とな り死 に至 る悲惨な転帰を とる例 もしば し ば経験す る。良性疾患 であ りなが ら,難治性疾患 として 取 り扱われ る所以 であ る。 遺残胆石症例 に対す る非観血的治療法 としては,可能 な限 り機械的税石術 に よって 気に胆石を除去す るのが 最 も簡単 であ るが,術後 に問題 とな る例 は,も ともと術 中に外科医の限界を越 え る例がほ とん どであ るため ,こ れ らの方法を用いても完全な肝内遣残胆石の除去は困難 な こ とが多 いのが現状 であ る。 したが って,まず直接胆 石溶解剤を用いて胆石の随弱化を図 り,排除 し易い状態

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日消外会誌 14(7):1069~ 1081,1981年

ビリルビン系石に対する直接溶解剤としての

キレー ト剤に関する基礎的研究

福岡大学医学部第 1外科 (指導 :志村秀彦教授)

池 尻 裕 一

FUNDAMENTAL STUDIES ON CHELATINC ACENTS OF DIRECT

SOLUBILYZER FOR BILIRUBIN‐ CALCIUM GALLSTONES

Yuichi IKEJIRI

First Department oF SurgeryP Sch。。1 0F Medicine,Fukuoka University,FukuOka

(DirectOr:Proi HidchikO SHIMURA)

ビリルビン系石に対する直接溶解剤の開発を目的として,鎖 状ポリリン酸の鎖長とカルシウムキレート

効果の関係を明らかにするとともに,キ レート剤 の生理的条件下でのキレート効果 を 明らかにするため

に,種 々のキレート剤の PH 7.4,温 度37℃における条件安定度定数を求め比較検討した。

その結果,鎖 状ポリリン酸を含む種々のキレート剤のキレート効果には,こ の条件下では著しい差果は

なく,今 までに報告されたこれらの毒性の結果を併せ考える時,鎖 状ポリリン酸キレート剤 (LPPC)は ,

現在のところ最も有効なビ系石直接溶解剤の 1つであると結論した

索引用語 :直接胆石溶解剤,遣 残胆石症,キ レート剤,鎖 状ポリリン酸ナトリウム,鎖 状ポリリン酸キレート剤 (LPPC)

常 言

胆石症における最近の飛躍的な術前検査法の進歩によ

り,胆 石手術時には胆道系に関する的確な情報を持ち得

るようになるとともに,最 近の術中検査法や手術手技の

向上に伴って,遺 残胆石の頻度は著しく減少したと考え

られる。

遺残胆石の発生頻度は,Clennに よれば胆石症全体の

1.1%であり1),諸

家の報告 を併せ考えると,本 邦でも

胆石症手術例中遺残胆石の発生頻度は,数 %ぐ らいであ

る2)3).

ビツルビン系石 (ビ系石)を 主体 とした肝内胆石症

も,最 近では胆石症全体の約 5~ 7%4)'7)とされ, これ

は以前に報告 された頻度約11~15%3)‐11)に比較し,か

なり低下している。

しかしながら,肝 内胆石症は,胆 石症再手術例の約50

~60%3)ゅ9)を占め,術 後遣残胆石の中でも最も頻度が高

く,胆 道外科領域での残 された重要 な課題の 1つであ

る。

肝内胆石症においては,手 術時に種々の裁石法を試み

ても,解 割学的関係 から手技的 に限界があり,胆 石が

遺残しているのを承知の上で,止 むを得ず手術を終らざ

るを得 ないことが多 い。また,術 後にも胆管 ドレーン

を経由して,最 近著しく進歩した胆道鏡1りや 立eerable

catheter13)などの非観血的裁石術に期待しても,肝 内胆

石の完全な除去は困難なことが多い.そ して,胆 石遣残

により胆管炎を繰り返して肝機能障害が強くなり,遂 に

は肝硬変症となり死に至る悲惨な転帰をとる例もしばし

ば経験する。良性疾患でありながら,難 治性疾患 として

取り扱われる所以である。

遺残胆石症例に対する非観血的治療法としては,可 能

な限り機械的税石術によって一気に胆石を除去するのが

最も簡単であるが,術 後に問題 となる例は,も ともと術

中に外科医の限界を越える例がほとんどであるため,こ

れらの方法を用いても完全な肝内遣残胆石の除去は困難

なことが多いのが現状である。 し たがって,ま ず直接胆

石溶解剤を用いて胆石の随弱化を図り,排 除し易い状態

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66(1070) ビ ツルピン系石に対する直接溶解剤としてのキレート剤 日 消外会議 14巻 7号

とした後に機械的方法で胆石の除去を試みるのが合理的 析 用

である。 7)塩 化ナトリウム (NaCl)半 井化学,特 級

このような観点から,1959年 久次は,ビ 系石がビリル 8)ト リス (ハイ ド,キ シ メチル)ア ミノメタ ン

ピン・カルシウムより成るとすれば,キ レート効果によ (TriZma Base)Sigma,特 級

リビ系石からカルシウムをはずし,胆 石よりの脱金属を 9)カ ルシウム C‐テス ト, 和光純薬, カルシウム測

図ってビ系石を崩壊に導くという考え方を提唱した14). 定

彼は,生 体応用可能なキレート剤として,い わゆるヘキ 10)モ リブデン (V)‐モリブデン (VI)試 薬,調 製し

サメタリン酸ナトリウム (HMP)を 開発し,ビ 系石崩 て 使用した181 '

壊の in vitro実験 に引きつづき,臨 床応用 を 開始し 11)ピ ロリン酸 ナ トリウム (P2)Na4P207・ 10H20

た15)161 ・ M.w.=446.06 米 山薬品工業,特 級,市 販品をそのま

ところが,久 次の協同研究者 である五十君らの抑 余 ま 使用した。 ・

例 の臨床経験によると,い わゆる HMPの ビ系石に対 12)ト リリン酸 ナ トリウム (P3)NasPs019・6H20

する有効率は10~20%程 度と低く17),著

者らの本剤によ M・ W・=475.95 米 山薬品工業,特 級, アルヨールで再

るビ系石の in vitro浸漬実験でも,色 素 を溶出して溶 結 晶させて使用した191

解ないし崩壊するものから,全 く変化をしないものまで 13)テ トラリン酸 アンモニウム (P4)(NH4)SP4013・

様々であった. 6H20M・ W・=547.88,合 成して使用した201

これらの事実から考えねばならないことは,従 来から 14)平 均鎖長 (五)が , 5, 9,18,40,77の 鎖状 ポ

ピ系石として一括されている胆石 が,全 て 同じ組成 を ツ リン酸ナ トリウム,合 成して使用した211

持っているのかという疑間である.ビ 系石の分析や溶解 15)エ チレンジアミン四酢酸四ナトリウム (EDTA一

実験などの経験から, ビ系石は,ビ ツルピンの重合体, 4Na)C10H1208N2Na4・ 4H20M・ W・=452.25 半 井化学,

ビッリルビン・カルシウム, ビリルピン十カルシウム塩 特 級

の3つ に,大 きく分れるのではないかと考えられる。キ 16)エ チレンジアミン四酢酸ニナ トリウム (EDTA一

レート剤の効果は,胆 石がどれだけ Ca2■を合有し,ま 2Na)C10H14° 8N2Na2・2H20 M・ W・=372.25 半 井化

たどれだけ強く結合してキレート剤の作用に抵抗してい 学 ,特 級

るかにかかっていると思われる. 17)ニ トリ■ トリ酢酸 (N「A)CcHoNOc M.W.=

ここにいたって,キ レート剤が生理的な条件下でどれ 191・ 14 同 仁薬化学,特 級

だけのキレート作用を持つか,す なわち種々のキレート 18)ジ エチレントリアミン五酢酸(DTPADC14H23N3010

剤の条件安定度定数を明らかにすることが,今 後のビ系 M・ Wi=393.35 同 仁薬化学,特 級

石直接溶解剤開発のために是非とも必要である。このた 19)ク エン酸ナ トリウム Na3CGH507・2H20M・ W・=

め,ま ず鎖状ポリリン酸塩の鎖長とカルシウム錯体形成 294.10 キ ンダ化学,ア ミノ酸自動分析装置用

能の関係 を検討し,次 いで鎖状ポリリン酸塩のみなら 20)塩 化ランタン (LaC13・7H20)片 山化学,原 子吸

ず,EDTAな どの コンプレキサン型キレート剤 などの 光 分析用 、

PH 7.4,温 度37℃における条件安定度定数を求 め比較 21)イ オン交換蒸留水

検討したので報告する。 実 験方法

実験材料 1. 五 ‐5,10,20,50,100の 鎖状ポリリン酸 Naの `

1)オ ル トリン酸二水素一ナトリウム (NaH2P04・ 合 成211

2H20'M・ W.=156.01)半 井化学,一 級 出 発物質としてオル トリン酸二水素一 Naと ォル トリ

2)オ ル トリン酸一水素ニナ トリウム (Na2HP04' ン 酸一水素二 Naを 用い,目 的物質の Na20′P205の 比

M.W.‐ 141,96)半井化学,一 級 と 同一の比を全体 として有するように混合した。この混

3)一 規定塩酸 (lN HCl)半 井化学,標 準規定液 合 物質を白金るつばに入れ,酸 化炎で加熱した後,電 気

4)一 規定水酸化ナ トリウム (lN NaOH) 炉 中で970℃,2時 間半脱水縮合させ,電 気炉 ょり取 り

5)塩 化カリウム (KCl)石 津製薬,特 級 出 して銅板上に注いで急冷させ,回 化したガラス状物質

6)塩 化 カルシ ウム (CaC12)MerCk,特 級,元 素分 を 得た。

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1981年7月

2.市 販および合成した鎖状ポリリン酸塩の鎖長ない

し 五の決定

晩n Wazer2の,crimt123)らの方法 に従い,末 端基滴

定法で決定した

3.溶 出液および試料溶液の調製

目的の Ca2■濃度を有する CaC12溶 液 を溶出液とし

た.PHヤ まトリス緩衝液で調整し,ゲ ルクロマトグラフ

ィーの副効果 である Donnan効 果24ン5)によるイオン吸

着を打ち消し,イ オン強度を0,10に保つために,0・10~

0.25Mの NaCl溶 液 を使用した,こ の溶液中の Ca2+

濃度 (〔Ca〕。)は ,オ ル トク レゾール フタ レイ ン (0‐

CPC)法 26)で決定した。

試料溶液は,カ ラム内で平衡状態が得られるような希

望量の試料を府量し,カ ラムを平衡に達せしめたと同一

の溶出液で溶解して,全 体を10硫 1と して調製した。

試料溶液中 の全 リン濃度は,モ リブデン (V)一 モリ

ブデン (WI)試 薬 により,830-で 比色定量した (島

津分光光度計,QB‐ 50)18).

4.溶 出実験

図 1に示すような装置 を用いて実験した27)23).0,8x

70cmの 恒温ジャケット付 カ ラム (E,F,協 和精密)

に,0,lM NaCl溶 液に一昼夜浸漬し充分に膨潤させた

SePhadex C‐15(PhamaCia,particle size 40‐1家ル)を 充

環した。溶出実験中のカラム温度は,恒温槽 (C,Lauda

K2RD)を 用い目的の温度に保った。

A:溶 出液相 B:ボ ンノ c:エ ァー ・″ンタ`― D:誠 科注入器

E:分 離カラム F:恒 温ジャケット C:恒 温相 H:=方 連結管

1:補 綸僣 J:原 子吸光度計 K:記 録計

溶出液を少なくともカラム容量の2倍以上流して,カ

ラムを溶出液で平衡に達せしめた後,注 入器 (D,サ ン

プラー M2'協 和精密)を 用 ヽヽて,試 料溶液 lmlを と

入し,溶 出を行なった。溶出液の速度は,定 常流ポンブ

67(1071)

(B,JLC‐P2,JEOL)を 使用し,1・78m1/min・に調整し

た。

カラムは原子吸光度計 (J,Perkin_Elmer 403型)に 直

結し,補 給稽 (I)よ リイオン交換蒸留水 または Ca2'

の測定における P04S~の 干渉を除去するために 10~2M

LaC13溶 液を吸引させながら,波 長 21lnmで 溶出液中

の Ca2+を 自動連続的に検出し記録した。

5.配 位子に結合したカルシウム量の算出

Caと 配位子Lと の間に 1:1錯 体 MLを 生成する反

応は,次 式の通 りである。CattL=CabLI

カルシウム錯体の濃度平衡定数Kは ,

K=齢

〔 コ は ,Ca,L,Ca‐ Lの モル濃度を表わす。

H― mel‐Dreyer法2"3いの特徴として,〔Ca〕は溶出液

濃度 〔Ca〕。に等しいので,……③

すなわち,〔CattL〕′〔L〕は常に一定に保たれる。

今,全 配位子濃度を 〔L〕tとすると,〔L〕=〔L〕t_〔Ca‐L〕

③,④ 式より

……・④

図2の 如 く, ECa_Lコのピーク面積 Sc8‐Lは 単位時

間 (min.)当 りの面積 S。,す なわち Ac.0が示す吸光

度の面積を内部標準として,配 位子 に結合した Ca量

感速■‐L)に 容易に変換できる。

QCa_L CmOle)

=辛 X溶 出液速度 X〔C勺oX10i3 KmOに )

……⑥SCa‐Lは ,Caの ピーク面積 Scaに 等 しい。

6.リ ン 1個 当りに結合 したカルシウムの数 (品)の

算出

K=てお結詳註丁

K=編摘 ァ …

〔Caコ。,にL〕tは既知の値であるから,〔Ca_Lコの吸光

度を測定することにより,Kが 求まる。

図 1 流 路系の模式図

図 2 Hummel‐ Dreyer法 の模式図

V e O r 保 持 時 間

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68(1072)

試料溶液中の全 リン量を 】P(mole)と し,次 式 によ

り計算した

五 = 竿 ……④

7. 条 件安定度定数 (10g K)の 算出

試料溶液中 の全配位子量を QLt rmOle)と すると,

⑤武は次のように書き換えられる。

K= … ③

低分子の配位子の場合には,一 般に 1:1錯 体が知ら

れているので,③ 式より IOg Kを 求めた

しかし,高 分子 の場合は一分子中に複数 の結合部位

(S)を 持 つことが予想される。ここで,安 定度定数の

等しい一群の結合部位だけが存在し, 1つ の結合部位が

飽和されても他の結合部位の安定度定数に影響を及ぼさ

ないと仮定すると31),③式は次のように書くことができ

る。

K=_ … ③

配位子一分子当 りに結合した Caの 数を,言 とする

予=等 親 x鎖長 ( P ) … ①

ここで,K,s,Fの 関係を整理するために,① 式から

QCa‐L=予×α tを導入すると,

K=〔caコ。G一妥) …

……①

となる。

これは次のように, SCatchardプロットの式に書き換

えられる。

―百義研戸

= 一 K 言+ s K ……②

五=5以 上の鎖状ポリリン酸塩については,単一鎮長P

として SCatchardプロットを行ない31)32),得られたグラ

フの勾配の逆数よりヽ を求め,10g Kを 求めた。

実験結果

本実験装置におけるCa2■に対する検量線は,Fig.3a,

3bの 如くであった。少 なくとも 20pPmま では,Ca24

濃度 とピーク面積との間に直線関係が認められた。

P2,P3'P4'五=5,五=10,五=20,五=50,五=100の

鎖状ポリリン酸塩の末端基滴定の結果は,そ れぞれ P=

2,3,4ぉ ょび 五=5,9,18,40,77で ぁっ女ュ いわ

ゆる HMPの 五は9で ぁった。以後の実験には,こ れ

らの結果を鎖状ポリリン酸塩の鎖長ないし 五 として取

り扱らた。

図4~ 6に ,Hummel_Dreyer法 による溶出パターン

例を示した.そ れぞれ,PH 7.40± 0,05,温度37,0土

0。1℃,〔Ca〕。=1・0×10-4Mの 条件における P3)五=9,

ビリルピン系石に対する直接溶解剤としてのキレート剤 日 消外会議 14巻 7号

図 3a 分 離カラムを流路系 に連結したときのピー

ク形

図3b 注 入した試料量とピーク面積との関係.流速1.78m1/min・

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20

CaC12(Ca) ppm

EDTA64Naの 溶出例 を示した。 それぞれの QLtな い

し 】Pヤま, Ps=0.456ルmOle,五=9ャょ 1.87rrnole(P04

単位),EDTA‐4Na=0。30匁moleで あった。

ca2■測定の際,P043-に よる干渉 を 除去するため

に,LaCi3溶 液を使用しなかった場合には,正 のピーク

は干渉のために抑制され,Sca_Lは 銘aよ り小さかっ

た。そこで,1・0×10-4M LaCi3溶液を使用した場合に

は,SCa‐Lと SCaは等しかったと正と負のピーク間には

起伏がなく基線に一致しており,こ れはカラム内でカル

シウムの錯体が平衡状態を保ち,再 解離を生じていない

ことを示す。

カルシウムリ ン酸錯体 の溶出は,鎖 長の長いものほ

ど早く溶出された。この際,Na・ の溶出位置は,配 位子

の溶出位置とは完全 に離れているので,Na・ と Po43-

のイオン対生成は起こっていないことを示す。

五 と溶出液濃度との関係

図 7は ,PH 7.40± 0.05,温度37.0±0.1℃の条件 の

(智皿模u)禅旧ペーコ

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1981年7月

図4 カ ルシウム‐P9鎗 体の溶出像。SCPhadex C‐15ヵラム.溶 出液,〔 Ca〕。=1.02X

10-4M(PH 7.4).温 度,37℃ .P3,0。45rmole.

時 間 (mh)

図5 五 =9の カルシウム錯体の溶出像.Sephadex C‐15ヵラム.溶 出液,〔 Ca〕。‐1.02

x10-4M(PH 7.4).温度,37℃ .五=9,1.8砕 mole(POt unit).

69(1073)

時 間 (mh)

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70(1074)

図 7 五 の溶出液濃度依存性

PH 7 . 4 0±0. 0 5 温度37. 0±0. 1℃

下に,五 と 五 との関係を溶出液濃度との関係において

みたものである.

五 には,著 明な溶出液濃度依存性が 認められ,溶 出

液濃度が大きくなるに従い,五 の値は増加した。

しかし,同 一濃度 の溶出液では,鎖 長 の違いによる

品 の値の差は,五■10以 上では殆 んど認められなくな

り,一 定化傾向を示すようになって,鎖 長の違いによる

カルシウム結合力の差は認められなかった。

低鎖長の鎖状ポリツン酸塩ほど,溶 出液濃度による影

響が大きく,濃 度変化による 品 値の変化が大きいが,

溶出液濃度が 0・94×10-3M以 上 に大 きくなると,P2'

ビリルビン系石に対する直接溶解剤としてのキレート剤 日 消外会議 1 4巻 7号

図 6 ヵ ルシウムーE D T A錯体の溶出像. S e p h a d e x C‐1 5ヵラム.溶 出液,〔 C a〕。= 1 . 0 0

x 1 0 - 4 M ( P H 7 . 4 ) .温度, 3 7℃. E D T A‐4 N a , 3 . 0 2×1 0 ~ lμm o l e .

時 間 (mh)

15 20

図 8 五 に及ぼす PHの 影響

温度 25 . 0± 0 . 1℃ 溶 出液 1. O X 1 0 ~ 4 M c a C 1 2●o。1MNaCI

PS'P4の 順に試料溶液の沈澱 を生じた。五‐5以上の鎮

状ポリリン酸塩では沈澱を認めなかった。

PHの 五 に及ぼす影響

溶出液濃 度 は一定 で,そ れ ぞれ温度25.0±0,1℃,

37.0±0。1℃の条件で,PHを 7.50~9.05の範囲で変化さ

せた時の,PHと こ との関係を図8お よび図9に示 し

た。PHが 高いほど 五 は大きくなる傾向にある。 しか

し,五 の PHに よる影響 は低鎖長 のものでは大きい

が,あ る一定 の鎖長 G≒ 10以上)で は,PHに あまり

引コ引ローpH 905

‐本 ‐本 ヽPH 8 3 0

-PH■ 50

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1 9 8 1年7月

図 9 五 に及ぼす PHの 影響

温度37. 0±0. 1℃ 溶 出液 1.O X 1 0 ~ 4 M c a C 1 2●Oo l

MNaCI

影響されず,し かも 通 の値が一定化してくるという結

果を得た。

五 と温度との関係

図10は,溶 出液濃度は一定で,五 と五 との関係 を

温度 との関係においてみたものである。五 には,温 度

20.0±0。1℃~37.0±0。1℃の範囲における影響は認めら

れなかった

PH 7.40± 0。05,温 度37.0±0。1℃, すなわち生理的

条件下での種々のキレート剤の条件安定度定数の比較

P2'PS,P4な どの低鎖長結晶状ポリリン酸塩の,こ の

71(1075)

図10 五 と温度との関係

PH 7 . 5 0±0. 0 5 溶出液1.O X 1 0 ~ 4 M c a C 1 2 6 0・1

MNaCl

表 1 鎖 状ポリリン酸塩の条件安定度定数

(n=5, t=005)

PH■ 40主 005,温 度 3■0主 01℃

QLt t試 料溶績中の全配位子曇

QCa L:配 位子に結合 したCa量

( P = 9 )

m言

図11 鎖 状ポリリン酸塩の SCatchardプロット

PH 7.40±0.05 温度37.0± 0。1℃

●0「

β

Tの 溶出液濃度依存佳 ( P = 0 )

LigandOLt

×lo■m。leQ C 4 ~と

x 1 0 ~■o l e log K

PB

P 4

〔Ca〕。M

一r ×一

亡CaD。×

102X10~8 882

102X10~・

004X10~3 3●6

230X10~3

pH 740± 000 こ 度 370± 01℃

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72(1076) ビリルビン系石に対する直接溶解剤としてのキレート剤 日 消外会議 14巻 7号

条件下における Ca2■ に対する 10g Kを ⑥式より算出 表 2 鎖 状ポリリン酸塩の条件安定度定数

し,表 1に示した。それぞれの 10g Kャま,Pa=3.20土

0,01,Ps=4.17± 0.03,P4=4.14± 0.04(■=5,t=0.05)

であった。

P=5以 上の鎖状ポリリン酸塩については,SCatchard

プロットを行い 10g Kを 求めたが, 1例 として単一鎖

長 9(P=9)と した時の,溶 出液濃度の変化による 言

の変化を図11中の表に示 した。iの 値は溶出液中の遊離

ca2+濃 度 に 依 存 し ,溶 出 液 濃 度 が 大 き くな る に 従 い 増 比K:CFに 対して強く結合する都位の条件安定度定数

s i Ca・に対して強く結合する部位の数

加した.他 の鎖状ポリリン酸塩についても,全 く同様の

結果が得られた。 表 3 ヨ ンプレキサン型キレート剤などの条件安定 ヽ

この 予の濃度依存性を利用して, 言にCa〕。を縦軸に, 翌

Iを 横軸にプロットした (図11)。他の鎖状ポリツン酸

塩でも同様の結果であったが,結 合部位が一群だけの時

にみられるような直線としてはプロットされず, 2つ の

直線線分 を有 する曲線としてプロットされた。すなわ

ち,異 なった条件安定度定数を有する二種類の結合群が

存在することが分った。曲線の2つの直線線分のうち,

傾きが大きい線分の勾配の逆数であるKを 求めて 10g K

を概算し,10g K=4.8と ぃぅ値を得た。また,横 軸と

の交点より,Ca2■に対し強く結合する部位 の数に相当

するSを求め,約 2と いう値を得た.す なわち,鎖 長 9

Chain Length 1毎 K

P = 5

PH■ 40と 005 温 度 3■0主 01℃

Ligand Q岐10布de

QC支1。hole log K

EDTA-4Na 196± 00'

EDTA-2Na

NTA

DTPA 311

Na―C■rate

(ni5, t=005)

pH■ 40± 005,題 3■0± 01℃

O L t :貫 料薄液中の全配位子量

QCI―L:配位子に結合した全Ca i

PH 7.40± 0.05 温 度37.0± 0,1℃

Strong

A本 ___と,、__― ―一よ …………… ………… A― 一― ‐Weat

合欝澄京巻とし腎雷旨ほぷ 〔程鵬 種温檀 図 晋関寮

状ポリリン酸塩の条件安定度定数と鎖長と

不されてヽヽる.

他 の鎖状ポリリン酸塩 についても,同 様にして 10g 。

Kぉ ょび sを求め,そ れらの結果 を表2に まとめた

ca2■に対し強い結合部位の数は,P=5の 場合は 1個で 5

あるが,そ れ以上のものの数は複数個であり,鎖 長の増 4

爺と右象[楯 亀譜艦盆蔀糧嘱続 すガ;者。r量 と露官 官

3

個をひと組として,Ca2■ に対して強く結合する部位が 2

1個存在する。 1

表 1と表2の 結果より得られた,鎖 状ポリリン酸塩の oL、 肝弓汗____~訴 ~― ―~張

百戸一~市

鎖長と 1。gKと の関係 を,図12に示 した PH 7.40土

0,05,温度37.0±0,1℃における 10g Kは ,鎖 長が長く ± 0・04, EDTA‐2Na=4.62±0。05,M『 A=4.15± 0。04,

なるに従い増大するが,そ の増大の仕方は次第に緩やか DTPA=4.29± 0.09,クェン酸 Na=3.06± 0.01● ‐5,

になり,鎖 長が10付近以上では一定化してくる。この時 t=0・ 05)でぁった,こ の条件下では,ヨ ンプレキサン型

の 10g Kの 値 は5近傍 であり,こ の傾向 は鎖長 と品 キ レート剤の iOg Kに は,著 明な差は認められなかっ

との関係で得られた結果と一致する. た。これらの 10g Kは ,鎖 状ポリリン酸塩の 10g Kと

EDTAな どの コンプレキサン型キレート剤 およびク 比 較しても,差 は認められない。

エン酸 Naな どの,Ca2■ に対する 10g Kの 算出結果 考 察

は奏 3の 如くであった それ ぞれ,EDTA‐ 4Na=4.27 現 在,ビ 系石直接溶解剤として久次により開発され用

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1981年7月

いられているポリリン酸塩は,一 般にヘキサメタリン酸

Na(HMP‐ Na)と 呼 ばれている141 ところが, リン化

学における HMP‐ Naは 環状の構造を有している33).

縮合 リン酸塩は,そ の分子構造から分類すると,大 別

して鎖状ポリリン酸塩および環状ポリリン酸塩の二種類

に分類される211

縮合 リン酸塩と金属イオンとの錯体の安定度について

は,一 般的に同一の金属については鎖状ポリリン酸錯体

の方が対応する環状ポリリン酸錯体より安定であり,実

際に縮合 リン酸塩の中でキレート作用があるのは鎖状ポ

リリン酸塩であり,環 状ポリリン酸塩にはその作用はほ

とんどないとされている341

それでは,臨 床 に用いていた市販のいわゆる HMP‐

Naは 何であるか著者が分析したところによれば,平 均

鎖長 9~ 10の鎖状ポリリン酸塩であった。

そこで,今 後 はいわゆる HMP‐ Naと ぃぅ呼称 をや

め,鎖 状ポリリン酸キレート剤 (LPPC)と 呼ぶが, こ

れは本実験中鎖長9の 鎖状ポリリン酸塩のことである。

LPPCは 一定の統計的分布を持つ種々の鎖長の鎖状ポリ

リン酸塩の混合物であり,無 定形 (ガラス状)締 合 リン

酸塩の一種である211

鎖状ポリリン酸塩は,一 般式 Mn.2Pn03a■1で 表わさ

れる鎖状構造 を有し, 金属対 リンの比すなわち M2°/

PaOsの 比Rが 2≧ R>1の 範囲で理論上は無数に存在

する211 し

たがって,ま ずビ系石の直接胆石溶解剤とし

て臨床使用に適当な,鎖 状ポリリン酸塩の鎖長はどのく

らいが妥当であるか,ヽ わヽゆる LPPCで 適当であるか

という問題を検討するために,ゲ ルクロマトグラフィー

により,鎖 状ポリリン酸塩の鎖長の違いによるカルシウ

ム結合力の違いを調べた.

その結果,図 7~ 10に示されるように,鎖 状ポリリン

酸塩は一般に溶出液濃度や PHに よる依存性 が認めら

れるが,五■10以 上の鎖状ポリリン酸塩の 品 は,同 一

濃度の溶出液では一定化し,し かも PHに は殆 んど影

響されないという結果が得られた すなわち,溶 液の濃

度や PHが 一定ならば,五≒10以 上 の鎖状ポリリン酸

塩のカルシウム結合力は一定化する。また,図 7で 明ら

かなように,低 鎖長のものほど溶出液濃度による影響が

大 きい傾向にあるが,溶 出液濃度 が大きすぎる条件で

は,P2'PS,P4の 順に溶液の沈澱を生じ易くなるという

結果が得られた。

以上 のことは,図 12からも明らかである。PH 7.40,

温度37.0℃における 10g Kは ,鎖 長 の増大 とともに

73(1077)

大きくなるが,玉≒10以上では一定化する。すなわち,

五■10以上の鎖状ポリリン酸塩のカルシウム結合力は一

定で,低 鎖長のもののカルシウム結合力より大きい。こ

の条件下における 10g Kャま,低 鎖長のものほど小さい

ために早く飽和に達 し易く,沈 澱を生じてしまうものと

考えられる。低鎖長のものほど,溶 液濃度が大きくなる

と沈澱し易いということは,生 理的肝胆汁中の Ca2'濃

度が1・0×10~3~2.5x10-'M35)ぐ らいであることを考慮

すれば,P2'PS'P4な どは胆管内 に注入すると肝胆汁

と接触するだけで沈澱してしまう可能性を示している。

以上 の結果より,五 ≒10以 上の鎖状ポリリン酸は,

PHや 濃度に影響 を 受 けにくく,低 鎖長 のものに比較

し,カ ルシウム結合力が大きいということが分った.

今回実験 に用いた LPPCの 五 は9~ loであり,こ

の実験結果 は,生 理的条件下においては,LPPCヵ そヽ

れ以上の鎖長を持つ鎖状ポリリン酸塩と同様のキレート

効果を示し,し かも pHゃ 濃度により影響 を受けにく

い最低鎖長であることを示している。必要以上に長い鎖

長の鎖状ポリリン酸塩は,カ ルシウム結合力の点から考

えても不必要 と思われるので,LPPCは 臨床応用には

まず妥当な鎖長の鎖状ポリリン酸キレート剤と考えられ

る.

一般に鎖状ポリリン酸塩はその一分子中に2個 の末端

P04と (n-2)個 の中間 P04を 有する211ま た P048-

に H・ が結合する場合の生成定数は P2>P3>P4と 鎖長

が長 くなるに従い小さくなり,鎖 長が短いほどH・ と結

合し易い36).鎖長が短いほど単位容積当りの末端 P04

の比率が大きく,鎖 長が長くなるに従い中間 P04の 比

率が大きくなるので,低 鎖長 の鎖状ポリリン酸塩 ほど

PHや 溶出液濃度の影響が大きいのは,末 端 P04が PH

や溶出液濃度の影響を受け易いものと考えられる。換言

すれば,低 鎖長 ほど H・ と Ca2■ との間の競合反応が

大きいことを反映している。これに反 し鎖長が長くなる

と,中 間 P04の 比率が大きくなるために,末 端 P04は

存在するが全体の中の僅かな部分を占めるだけなのでほ

とんど無視でき,PHや 溶出液濃度の影響が少なくなる

と考 えられる。また 五≒10以 上よリカルシウム結合力

が一定化してくるのは,鎖 長が長くなるに従い,pHや

濃度により影響を受け易い末端 P04か らの構造的距離

が長くなるために,鎖 状ポリリン酸の構造に対する末端

P04の 影響 が及ばなくなるためではないかと考えられ

る.

ところが, 鎖状ポリリン酸塩 の SCatchardプロット

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74(1078)

の結果によると,鎖 状ポリリン酸塩 には,Ca2■に対し

て強く結合する部位が P04単 位約 5個 に 1個 の割合

で存在し,し かも Ca2■に対して弱く結合する部位の存

在も定性的に示されている。すなわち,鎖 状ポリリン酸

塩には異なった 10g Kを 有する二種類の結合群が存在

する。同様のことは,蛋 白質にも観察されている371弱

い結合部位 の 10g Kゃ sに関するさらに詳しい解析

は,他 の研究の成果に待つとして,以 上の事実は,鎖 状

ポリリン酸塩と Ca2■の結合は,単 に末端 P04 と 中

間 P04の カルシウム結合力の違いだけではなく,COnt

formationの違いがカルシウム結合力 に反映されている

と考えた方 が 良 いのではないかということを推測させ

る。

長鎖長 の結晶状縮合 リン酸 は,そ のX線 解析 による

と,ラ セン構造 を塁することが証明されている。31ま

た,長 鎖長 の鎖状 リン酸が水溶液中で加水分解 する時

は,環 状 リン酸を生じて分解することが知られている。

これらの事実より,鎖 状ポリリン酸は水溶液中でもラセ

ン構造を塁しているのではないかと推測されているが,

あくまでも推定の域を出ない.

しかし,今 回の結果は,鎖 状ポリリン酸は水溶液中で

もラセン構造をとると考えると,異 なった二種類の結合

群が存在することへの説明がつき易い。 す なわち,P04

四面体が約 5個 で一回りするラセン構造を呈し,そ の一

回りの間にPの 立体的位置とPか らの距離のために,強

い結合部位が 1個存在し,さ らに弱い結合部位も存在す

ると仮定すれば説明し易い.

最近 キレート剤 として最もポピュラーな EDTA‐4Na

が,ビ 系石の直接溶解剤として in Vitr。で検討され,

LPPCと その効果の面で比較されている301 ところが,

キレート剤が最高に Caを 結合することができる時の値

である安定度定数でもって比較がなされており,臨 床上

では,生 体に対する影響はもちろんであるが,キ レート

剤 が生理的な条件下でどれだけのキレート効果 を持つ

か,す なわち生理的 PH範 囲内 における条件安定度定

数が問題とされねばならない.

EDTAな どのヨンプレキサン型キレート剤や,ク エン

酸などの脂肪族カルボン酸についてみると,こ れらのキ

レート剤のカルシウム錯体の安定度定数は測定条件によ

り若子の差違は認められるが,お よそ EDTA=10.5940),

NTA=6.4041),DTPA‐ 10.7442),クェン酸=3,1643)とぃ

う値が知られている。

一方,長 鎖長の鎖状ポリリン酸については,そ の単離

ビリルピン系石に対する直接溶解剤としてのキレート剤 日 消外会議 14巻 7号

図13 カ ルシウムーEDTA錯 体 の安定度定数 と PHとの関係

4"

18

セ  Ю  8

的費

10 12 14

p H

の困難さの故にあまり研究は進んでいないが,P2や P3

を主として種々の方法でそれらの安定度定数が得られて

いる44)45).

文献によれば,鎖 状ポリリン酸の安定度定教は,P2=

5。4, P3=6.4,P4=5。 93, P5=5.85, P・ =6.00, P7=

6.00,P8=6.01で ぁる46).

EDTAゃ DTPAな どの安定度定数は,鎖 状ポリリン

酸のそれに比較し,は るかに大きい。EDTA‐4Naが ビ系

石の直接溶解剤として,そ の臨床応用を試みられようと

しているのも,こ のカルシウム錯体の安定度定数が,他

の物質に比べて大きいということに着目されたものであ

ろう。

しかし, 図 13`7)から明 らかなように, カル シ ウム‐

EDTA錯 体 の条件安定度定数は,至 適 PHに おける安

定度定数に比べてかなり低い。このように,あ る限定さ

れた特殊な条件下でキレート効果を論 じる場合は,安 定

度定数ではなく,種 々の副反応を考慮した条件安定度定

数が必要である。

本実験 にお いても, PH 7.40,温 度37℃という条件

では,表 1,2, 3に 示す如く,条 件安定度定数は,前

記した安定度定数に比較し,か なり低い値を示 した。し

かも,鎖 状ポリリン酸 とヨンプレキサン型キレート剤と

の間には,そ れらの Ca2■に対するキレート効果には著

明な差は認められなかった。本実験値が,各 試料物質の

安定度定数より,は るかに小さい値であるのは,生 理的

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1981年7月

条件に近づけたため,緩 衡液 として使用したトリスヘの

ca2■の配位や,PHが 低い (中性)た めの Ca2■とH■

との競合,こ れに加えて Ca2■と Na■ との競合などが

生じているためと考えられ,こ れらの種々の副反応の影

響を反映した値として,総 合的に表現されているためと

思われる。

したがって,ビ 系石の直接溶解剤としてキレート剤を

生体に応用する場合,キ レート剤が直接接触する胆汁中

では,胆 汁酸や脂質などの影響の他,ヒ ト肝胆汁の生理

的条件,特 に PHは 無視 できない重要な条件と考えら

れ,胆 汁内条件における条件安定度定数が必要 となって

くる。

PH 7.40,温 度37.0℃という生理的条件下では,鎖 状

ポリリン酸とコンプレキサン型キレート剤との間に,条

件安定度定数 の差 がほとんど認められないということ

は, ビ系石 の直接溶解剤 としては,LPPCも EDTA‐

4Naも 同二程度の効果を持つと考えられる。

LPPCの Ca2+キ レート効果を考える時,今 までに報

告されたこれらの毒性の結果を考慮すると16)48),LPPC

は現在のところ最も有効な直接溶解剤の 1つ と考えられ

る。

LPPCの 効果 が不確実 な一因として,そ の製造過程

における加熱滅菌操作により,ポ リリン酸がオル トリン

酸に加水分解されることが原因であることは,す でに報

告されている49).LPPCの有効性 をさらに増すために

は,今 まではビ系石がビリルビンカルシウムを主成分 と

する胆石であるという認識のために,単 にキレート効果

により Ca2+を 取 り込むと考えられてきた LPPCが ,

どのような機序4 ビ 系石のどの部分に作用して,溶 解

ないし崩壊をもたらすのかという問題が是非とも解決さ

れねばならない。

しかし,今 回実験に用いた全てのキレート剤の条件安

定度定数が,そ れらの安定度定数に比べてかなり低い値

で近似されることは,直 接胆石溶解剤としてのキレート

剤そのものの限界を示していると考えられる。

今後,さ らに有効なピ系石の直接溶解剤を開発するた

めには,ビ 系石をさらに詳しく分類 し,混 合物であるビ

系石の各組成に有効な直接溶解剤を開発し,多 剤併用に

よる有効性の増大を図る以外にないものと思われる。

結 橋

ゲルクロマトグラフィーを用いて,鎖 状ポリリン酸の

鎖長とカルシウムキレート効果の関係を明らかにすると

ともに,鎖 状ポリリン酸を含む種々のキレート剤の PH

75(1079)

7.4)温 度37℃における条件安定度定数を比較検討 した。

その結果,以 下の結論を得た。

1)平 均鎖長10付近の鎖状ポリリン酸は,PHや 濃度

により,キ レー ト効果が影響を受けにくい最低鎖長の鎖

状ポリリン酸である。

2)現 在, ビ系石の直接溶解剤 として臨床応用されて

いる LPPC(鎖 状ポ リリン酸キレー ト剤)の 平均鎖長は

9~ 10であ り,鎖 状ポリリン酸の中では最も妥当な物質

である。

3)LPPCそ の他の鎖状ポリリン酸 と EDTAな どの

コンプレキサン型キレー ト剤のキレー ト効果は,生 理的

条件下では差が認められず,ビ 系石の直接溶解剤 として

は同一程度の効果を持つ。

4)LPPCは ,カ ルシウムキレー ト効果 および 今ま

で報告された毒性の点から考えて,現 在のところ臨床応

用には最も妥当なキレー ト剤である.

5)実 験に用いた全てのキレー ト剤の条件安定度定数

が,そ れらの安定度定数に比べてかな り低い値で近似さ

れることは,直 接胆石溶解剤 としてのキレー ト剤そのも

のの限界を示 している.

本論文の要旨は,第 65回および第66回日本消化器病学

会総会において発表した。

稿を終るに臨み, ご校閲を賜わ りました恩師志村秀彦

教授および直接研究をご指導裁いた五十君裕玄講師に深

甚なる謝意を表わすとともに, ご協力を受けた教室員各

位に深謝する.

さらには,研 究生としてご指導戴いた九州大学理学部

分析化学大橋茂教授,与 座範政博土・宮島徹博士ならび

に教室諸兄に,深 甚なる謝意を表する。また,多 大のご

支援‐ ご 助言を戴いた久光製薬 (株)井 出博之博士,中

川晃博士を初め研究所の皆様のご働力を深謝する.

文 献

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