ヘマトキシリンと色だし液の隠された関係 · 1%までの7...

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【目的】ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色は、病理診断 において最も基本的で重要な染色法である。しかし施設ご との染色性には差異があり、病理染色において最も精度管 理の難しい染色法の一つである。そこで今回、基礎的な検 証として、進行性ヘマトキシリンであるマイヤー及びリリ ーマイヤーヘマトキシリン(武藤化学、以後マイヤー及び リリーマイヤー)を用いて、ヘマトキシリンの特性と色だ し効果について検証を行った。【材料および方法】0.011%までの 7 段階に濃度調整したアンモニア水と炭酸リチウ ム水溶液を用い、それぞれの pH を測定した。次に、それ 5ml につきマイヤー及びリリーマイヤーを 5μl 入れ、水 道水及び蒸留水を対照に、色の変化の観察と吸光度を測定 した。【結果および考察】溶液の pH 10.5 付近でヘマト キシリンの肉眼的な色調は、アンモニア水では青紫色から 橙色に、炭酸リチウム水溶液では、赤紫色から橙色に変化 がみられた。これより、ヘマトキシリンは、高アルカリに なるほど青色に発色する色素でないことが判明した。 pH7.221 の水道水におけるヘマトキシリンの極大吸収波長 は、570 から 575nm(紫)を示した。この際のマイヤーで の吸光度は 0.177、リリーマイヤーでは 0.441 であった。 pH7.493 の蒸留水における極大吸収波長は、560nm(赤紫か ら紫)を示した。この際のマイヤーでの吸光度は 0.225、リ リーマイヤーでは 0.448 であった。これより、ヘマトキシ リンの青色発色は、溶液の pH 以外にも他の要因が存在す ることが示唆された。また、溶液および pH とヘマトキシ リンの極大吸収波長と吸光度の関係は、アンモニア水では、 0.02%(pH10.291)で極大吸収波長 580nm(紫から青)を 示し、マイヤーでの吸光度は 0.126、リリーマイヤーでは 0.397 であった。炭酸リチウム水溶液は pH10.464 で極大吸 収波長 570 から 575nm(紫)を示し、マイヤーでは吸光度 0.183、リリーマイヤーでは 0.418 であった。これらの結果 より、色だし溶液の種類により、ヘマトキシリンが最大限 に発色される色調および強度に差がみられる結果が得られ た。【結語】ヘマトキシリンは必ずしも pH 依存性に色調 が変化せず、色だし溶液により、至適な条件の存在する可 能性が示唆された。0744-22-3051 (内 4303千陽 1) 、龍見 重信 1) 、渡邊 拓也 1) 、鈴木 久恵 1) 、竹内 真央 1) 、田中 京子 1) 、西川 1) 、田中 1) 奈良県立医科大学附属病院 1) 77

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Page 1: ヘマトキシリンと色だし液の隠された関係 · 1%までの7 段階に濃度調整したアンモニア水と炭酸リチウ ム水溶液を用い、それぞれのpH

【目的】ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色は、病理診断において最も基本的で重要な染色法である。しかし施設ご

との染色性には差異があり、病理染色において最も精度管

理の難しい染色法の一つである。そこで今回、基礎的な検

証として、進行性ヘマトキシリンであるマイヤー及びリリ

ーマイヤーヘマトキシリン(武藤化学、以後マイヤー及び

リリーマイヤー)を用いて、ヘマトキシリンの特性と色だ

し効果について検証を行った。【材料および方法】0.01~1%までの 7段階に濃度調整したアンモニア水と炭酸リチウム水溶液を用い、それぞれの pHを測定した。次に、それら 5mlにつきマイヤー及びリリーマイヤーを 5µl入れ、水道水及び蒸留水を対照に、色の変化の観察と吸光度を測定

した。【結果および考察】溶液の pHが 10.5付近でヘマトキシリンの肉眼的な色調は、アンモニア水では青紫色から

橙色に、炭酸リチウム水溶液では、赤紫色から橙色に変化

がみられた。これより、ヘマトキシリンは、高アルカリに

なるほど青色に発色する色素でないことが判明した。

pH7.221の水道水におけるヘマトキシリンの極大吸収波長

は、570から 575nm(紫)を示した。この際のマイヤーでの吸光度は 0.177、リリーマイヤーでは 0.441であった。pH7.493の蒸留水における極大吸収波長は、560nm(赤紫から紫)を示した。この際のマイヤーでの吸光度は 0.225、リリーマイヤーでは 0.448であった。これより、ヘマトキシリンの青色発色は、溶液の pH以外にも他の要因が存在することが示唆された。また、溶液および pH とヘマトキシリンの極大吸収波長と吸光度の関係は、アンモニア水では、

0.02%(pH10.291)で極大吸収波長 580nm(紫から青)を示し、マイヤーでの吸光度は 0.126、リリーマイヤーでは0.397であった。炭酸リチウム水溶液は pH10.464で極大吸収波長 570から 575nm(紫)を示し、マイヤーでは吸光度0.183、リリーマイヤーでは 0.418であった。これらの結果より、色だし溶液の種類により、ヘマトキシリンが最大限

に発色される色調および強度に差がみられる結果が得られ

た。【結語】ヘマトキシリンは必ずしも pH依存性に色調が変化せず、色だし溶液により、至適な条件の存在する可

能性が示唆された。0744-22-3051 (内 4303)

ヘマトキシリンと色だし液の隠された関係

◎東 千陽 1)、龍見 重信 1)、渡邊 拓也 1)、鈴木 久恵 1)、竹内 真央 1)、田中 京子 1)、西川 武 1)、田中 忍 1)

奈良県立医科大学附属病院 1)

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【目的】アミロイド染色は、アミロイドーシスにおける組

織内アミロイドを証明する染色法として不可欠な染色法で

あり、ダイレクト・ファースト・スカーレット(以下

DFS)染色を行なっている施設も少なくない。しかしDFS試薬は Lot間差が知られており、その精度管理は困難である。我々は以前に、DFS染色における染色性の安定化を目的に、DFS染色液の作製過程の検討を行った結果、濾過を行なわないことで安定した染色結果が得られることを

報告した。DFS染色の染色性向上にはナトリウム塩の存在が重要であると言われている。そこで今回、濾過を行わな

い試薬調整法を基に、試薬調整時に添加するナトリウム塩

の種類による染色性の差異について検討を行なった。

【材料および方法】AAアミロイド腎および ALアミロイド腎解剖標本の 5µm厚パラフィン薄切切片を使用した。DFS試薬は DFS 4BS(武藤化学)を使用した。DFS染色液は、20%アルコールに DFS 0.2g溶解後、塩化ナトリウム0.8gを添加する調整法を対照に、ナトリウム塩未添加、硫酸ナトリウム、および炭酸ナトリウムを用いて、染色性の

比較を行った。DFS染色は DFS染色液 60℃60分後、マイヤーヘマトキシリン(武藤化学)10分の手順で行った。また、消化法は、新染色法のすべてに従った。

【結果および考察】塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウム

添加の染色性は、アミロイド陽性部位では DFS染色の良好な染色性が得られ、偏光顕微鏡下の観察ではアップルグリ

ーン色を呈していた。消化試験において、AAアミロイドは消化され、ALアミロイドの消化は見られず、偏光顕微鏡下の観察ではアップルグリーン色を呈した。ナトリウム塩

未添加では染色性の減衰が見られるものの、偏光顕微鏡下

の観察によりアップルグリーン色が確認された。しかし、

炭酸ナトリウム添加では、染色性の低下がみられた。これ

らより、ナトリウム塩の添加は DFS染色の染色性向上に寄与するが、添加するナトリウム塩により染色性の差違が認

められるため、ナトリウム塩の種類には注意が必要である

ことが示唆された。本検討に加え、ナトリウム塩の添加量

についても検討を加え報告する。0744-22-3051 (内 4303)

安定したDFS染色の染色性を得るための試薬調整法

-添加ナトリウム塩の影響-

◎渡邊 拓也 1)、西川 武 1)、東 千陽 1)、龍見 重信 1)、鈴木 久恵 1)、竹内 真央 1)、田中 京子 1)、田中 忍 1)

奈良県立医科大学附属病院 1)

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【はじめに】

プログラム細胞死リガンド 1(PD-L1)とは、細胞上に発現する膜貫通型蛋白質である。

通常正常細胞では、細胞傷害性T細胞などの免疫細胞上に

発現するプログラム細胞死1(PD-1)と結合すること

でT細胞を不活性化し正常組織へのダメージを抑制してい

る。しかし、腫瘍細胞上でもPD-L1は発現し、T細胞

がそれを認識することで不活性化される。それにより腫瘍

の細胞死が抑制され、増殖する。キイトルーダーは腫瘍細

胞と活性化したT細胞間のPD-1/PD-L1相互作用をブロックする抗PD-1がん免疫治療薬である。当社では、

2月よりキイトルーダーでの治療適応を診断するためのPD-L1IHC(22C3)を導入したため発表する。

【検討】

2017年 2月~5月までの間、当社・病理検査室で行ったPD-L1検査において、組織型が判明している症例は

189件であった。その組織型の内訳を検討した。

【結果】

PD-L1発現の組織型別の割合は、腺癌で高発現 29.1%(37件)、低発現 34.6%(44件)、非発現 36.2%(46件)、計 127件、扁平上皮癌で高発現 35.4%(17件)、低発現37.5%(18件)、非発現 27.1%(13件)、計 48件その他の非小細胞肺癌では高発現 7.1%(1件)、低発現 50.0%(7件)、非発現 42.9%(6件)、計 14件となった。

【まとめ】

キイトルーダーの治療適応となるのは、PD-L1高発現

の非小細胞肺癌、またはPD-L1低発現で既治療の非小

細胞肺癌である。今後キイトルーダーは肺癌以外にも適応

拡大が予想されるため、引き続き検討を行いたい。

連絡先:079-268-1101

PD-L1(22C3)検査における検討報告

◎田中 ひとみ 1)、川嶋 雅也 1)、小林 真 1)

株式会社 兵庫県臨床検査研究所 1)

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【目的】免疫チェックポイント阻害剤は次世代の抗がん剤

として対象臓器に依らず臨床応用が期待されている。肺非

小細胞癌では,バイオマーカーとして PD-L1の免疫染色(IHC)がコンパニオン診断薬となっており,判定には TPS (tumor proportion score)が用いられる(PD-L1陽性腫瘍細胞/腫瘍細胞)。だが,組織球や角化物など偽陽性細胞が混じる材料では判定が困難なことがある。本検討では,腫瘍細胞に

陽性となる TTF-1あるいは p40の IHCを追加で行うことが,PD-L1の TPSを算出するうえで有用か否かを検討した。【対象と方法】対象は 2017年 4月~6月に当院にて PD-L1の IHCオーダーのあった生検材料 38例。IHCは PD-L1 (22C3)の抗体を用い,自動免疫染色装置で行った(外注)。TPSの判定はコンパニオン診断に基づき以下のように設定した:0 = 1%以下, 1 = 1-25%, 2 = 26-49%, 3 = 50-75%, 4 = 76-100%。観察は外注先病理医と院内病理医の3名で独立に判定した。また同切片において腺癌に特異的な TTF-1(8G7G3/1)と扁平上皮癌に特異的な p40 (ACR3030)の IHCを行った。観察順番は,1) HEを観察,2)

PD-L1を観察,3) TPSを算定,4) TTF-1/p40を観察,とし,4) が 3)の判定を左右する場合を IHC (TTF-1/p40)有用と判定した。

【結果】全生検 38例の組織型の内訳は,腺癌 19例,扁平上皮癌 17例,神経内分泌癌 2例であり,TPSの 3病理医の完全一致症例は 18例(47.3%)であった。またペンブロリズマブが first lineで使用可能か否かの判定としては 89.4%の症例が一致した。TTF-1/p40の IHCが有用と考えられたのは 5例(13.1%)であり,その内容は線維化巣内に腫瘍細胞がまばらに見られた症例,腫瘍細胞が紡錘型であった症例,

規定判定細胞が 100未満とされていた症例,などであった。【結語】PD-L1の TPS判定において病理医間一致率は高くなかった。IHC(TTF-1/p40)が有用であった症例は多くはないが,腫瘍細胞量が少ない場合や間質に埋もれてしまうよ

うな症例では有用であった。腫瘍細胞の判定が困難な症例

では,IHC(TTF-1/p40)を追加で行うことで,より正確なTPSが導き出せる可能性がある。連絡先-075-751-3491

肺非小細胞癌での PD-L1の判定における追加 TTF-1/p40免疫染色の有用性について

◎上島 千幸 1)、中島 直樹 1)、吉澤 明彦 1)

京都大学医学部附属病院 1)

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[目的] 膠原線維の染め分けを目的とする染色で一般的に使用されている方法としてアザン染色やマッソン・トリク

ローム染色がある。しかし、アザン染色はマッソン・トリ

クローム染色に比べ時間がかかることが知られている。そ

こで染色時間の幅が広く、決まった時間が定められていな

いアゾカルミン Gの染色方法を工夫することで染色時間の短縮を図ることを目的として検討を行った。

[方法] 材料は肝臓の手術症例。アゾカルミンGによる染色を溶融器:60℃・ 60分の後、室温:30分放置する方法(兵庫医科大学病院病理部法)を対照として、温浴槽および超音波を当てた場合の2つの方法について染色性の比較検

討を行った。

検討する 2つの方法については染色温度と染色時間にそれぞれ変化をもたせて行った(60分・ 45分・ 30分・ 15分の4パターン)。[結果] 温浴槽で行った場合が最も速くよく染まっていた。温浴槽:45分染色した場合と対照を比べてみても大差はなかった。超音波:60分は温浴槽:15分の場合よりも色が薄

かった。また超音波:60分の場合は明らかな組織の断裂が観察された。

[考察] 今回の検討より、染色時間を短縮するためには染色液の温度を高めることが最も重要であり、温浴槽を用い

ることで対照に比べて半分の時間でアゾカルミン Gの染色が行えることが分かった。

3つの方法の中では超音波を当てて行った場合の染色性が最も悪かったが、これは室温で染色を行ったためであると

考えられる。また溶融器と温浴槽での染色性の違いについ

ては空気よりも水のほうが熱伝導率がよいため染色液の温

度も温浴槽で行った場合が上がりやすく、温浴槽での染色

がより効果的に行われるものであると考えられる。結果、

アゾカルミン Gの染色の染色時間を短縮するには、温浴槽で実施することが有効であると考えられる。

アザン染色における染色時間短縮の検討

◎金森 詩音 1)、佐藤 元 2)、石田 誠実 2)、中西 昂弘 2)、鳥居 洋祐 2)、中村 純子 2)、鳥居 良貴 2)

大阪医療技術学園専門学校 1)、兵庫医科大学病院 2)

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【はじめに】 

 薄切切片の伸展操作は病理標本作製における必須の工程

である.しかし,伸展の温度や時間など,施設や技術者に

よってその手技は多様であり,薄切技術と同様に標準化さ

れていないのが現状である.切片の伸展条件が各種染色に

与える影響については少数の報告があるのみで,十分に検

討されているとはいい難い.今回,我々はアルシアン青染

色を対象として,伸展時間が染色性に与える影響について

検討を行ったので報告する.

【対象と方法】

 当院で外科的切除された胸膜の悪性中皮腫症例,顎下腺

の腺様嚢胞癌症例,胃の印環細胞癌症例を対象とした.

10%中性緩衝ホルマリン液で固定後,型通りにパラフィンブロックを作製し,厚さ 4μmで切片の薄切を行った.伸展温度を 50℃に設定し,伸展時間を 1,5,10,15,20,30,60分として伸展を行い,それぞれアルシアン青染色を行った.伸展時間 1分の標本を対照として,各伸展時間おけるアルシアン青染色の染色性について比較した.

【結果】

 悪性中皮腫症例と腺様嚢胞癌症例では伸展時間が長くな

るにつれてアルシアン青染色の染色性が低下する傾向がみ

られ,伸展時間 30分では伸展時間 1分と比較して大幅な染色性の低下がみられた.印環細胞癌症例では,腫瘍細胞の

細胞質に存在する粘液の染色性に大きな違いはみられなか

った.

【考察】

 アルシアン青染色の染色対象である酸性粘液多糖類は水

溶性の物質として知られている.今回の検討では,伸展時

間が長い標本においては組織の染色性の低下とともにスラ

イドガラスの一部がアルシアン青に染色される現象がみら

れた.このことから,組織中に存在する酸性粘液多糖類が

伸展操作中に溶出している可能性が示唆された.印環細胞

癌の腫瘍細胞中の粘液では大きな染色性の低下がみられな

かったことから,間質由来の酸性粘液多糖類でより生じや

すい現象である可能性が考えられた.

切片伸展時間がアルシアン青染色の染色性に与える影響についての検討

◎森藤 哲史 1)、塚本 龍子 1)、今川 奈央子 1)、山田 寛 1)、伊藤 智雄 2)

国立大学法人 神戸大学医学部附属病院 病理部 1)、国立大学法人 神戸大学医学部附属病院 病理診断科 2)

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【目的】リンタングステン酸ヘマトキシリン(PTAH)染色は、線維素、横紋筋内横紋および神経膠線維の証明に用

いられる。その染色過程には媒染剤として重クロム酸カリ

ウムを使用する。クロム酸は強力な酸化作用を有し、極め

て強い毒性を持ち、発癌性物質としても扱われている。

我々は重クロム酸カリウムの代用として、飽和ピクリン酸

を使用し PTAH染色を行ったところ、良好な染色結果が得られることを報告した。今回、安定的な染色性を得るため

追加検討を行ったので報告する。【方法】腎臓、心臓およ

び脳の解剖症例を使用した。重クロム酸カリウム水溶液

60℃1時間、0.5%過マンガン酸カリウム水溶液室温 5分、2%シュウ酸水溶液室温 1分、PTAH液(武藤化学)線維素2時間、横紋筋内横紋 3時間ならびに神経膠線維 24時間のプロトコールを対照とした。重クロム酸カリウム水溶液の

代用として飽和ピクリン酸水溶液、過マンガン酸カリウム

水溶液の代用としてルゴール液(グラム・ハッカー染色液

Ⅱ(武藤化学))、シュウ酸水溶液の代用として写真用酸

性硬膜定着液(武藤化学)を用い、反応温度、反応時間お

よび染色手順による PTAH染色の染色性について検討した。【結果および考察】PTAH液 60℃90分(標本を染色液に浸漬後、60℃のパラフィン溶融器に移行してから 90分)後室温 30分のプロトコールでは、線維素や神経膠線維に対する染色性が得られた一方で、横紋筋内横紋に対する染色性の

再現性は得られなかった。しかし、飽和ピクリン酸水溶液

37℃15分の媒染後、PTAH液 60℃90分(標本を染色液に浸漬後、60℃のパラフィン溶融器に移行してから 90分)後室温 30分の変法 PTAH染色プロトコールでは、PTAH液の染色時間の変更なく、線維素、横紋筋内横紋および神経膠線

維が青色、膠原線維が赤色に良好に染色された。また、

PTAH液 60℃90分の工程において、あらかじめ 60℃に加温しておいた PTAH液に標本を浸漬した場合、青色の染色が得られない、ないし著しく低下した。本変法 PTAH染色は、①クロム酸を用いない、②染色工程の短縮、③染色時間の一定化を特徴とし、従来法よりも有用であると考えられる

が、PTAH液の長時間加温は染色性の低下を導くことが判明した。0744-22-3051 (内 4303)

変法リンタングステン酸ヘマトキシリン染色

-温度変化による染色性への影響-

◎龍見 重信 1)、西川 武 1)、東 千陽 1)、渡邊 拓也 1)、鈴木 久恵 1)、竹内 真央 1)、田中 京子 1)、田中 忍 1)

奈良県立医科大学附属病院 1)

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【目的】Liquid-based cytology(LBC)では,複数枚の標本を作製できるため各種抗体を用いた免疫染色が実施可能と

なる.しかし,一口に LBCと言っても様々な方法があり,それぞれ異なる固定液を採用している.今回我々は,

SurePath法(BD社)と ThinPrep法(ホロジック社)の固定液を使用して,それぞれの免疫染色結果を比較検討した.

【方法】今回,検討した固定液は,SurePath法で用いられる CytoRich Red(CR Red)と CytoRich Blue(CR Blue),ThinPrep法の PreservCyt(PreCyt),従来法の 95%エタノール(エタノール),セルブロックで使用される 15%中性ホルマリン(ホルマリン)の 5種類である.ヒト膀胱癌細胞株 T-24を上記の各種固定液で固定後,SurePath法にて塗抹を行った.これら標本に CK20,高分子サイトケラチン(HMWCK),p53,Ki67の各種抗体を用いた免疫染色を実施して比較を行った.p53と Ki67については加熱による抗原賦活を行った.また,固定時間が免疫染色に与える影

響を調べるために,それぞれの固定液に浸けた当日と 1か月後の標本を作製し経時変化の検討も行った.

【結果】固定当日における各種固定液の免疫染色結果は,

CK20でホルマリンの陽性率が著しく高く,p53でエタノールの陽性率が低いこと,Ki67で CR Redの陽性率が低いことが明らかになった.固定時間の影響に関して,CK20とHMWCKでは,アルコールベースの固定液(CR Red,CR Blue,PreCyt,エタノール)において経時的に陽性率が増加した.ホルマリンでは,HMWCKで経時的に陽性率が増加したものの CK20では陽性率が低下した.p53では,いずれの固定液においても経時的に陽性率が低下した.

Ki67においては,CR Blue,PreCyt,ホルマリンで陽性率の低下を認めたものの,CR Redはほぼ同等,エタノールでは陽性率の増加を認めた.

【結語】LBCの固定液ごとに免疫染色の結果が異なること,長時間固定することで免疫染色の結果が変化することが明

らかになった.そのため,LBC標本を用いて免疫染色を実施する際には,それぞれの固定液の特性を認識しておく必

要がある.

連絡先:078-796-4591

各種 LBC固定液における免疫染色結果の比較検討

◎猪口 彩 1)、徳原 康哲 2)、大﨑 博之 3)、木地 優花里 1)

神戸大学 医学部 保健学科 1)、愛媛県立医療技術大学 2)、神戸大学大学院 3)

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【はじめに】

セルブロックは液状検体を使用したパラフィンブロック標

本であり、細胞診標本と違い、多数の染色標本作製や半永

久的に保管可能など多くのメリットがある。また近年、保

険点数として 860点が加算されるようになり、遺伝子解析の可能性とともに益々の需要増加が予想される。

今回、10種類の固定液、①10%ホルマリン液、②20%ホルマリン液、③50%ホルマリン液、④10%緩衝ホルマリン液、⑤迅速固定液、⑥ブアン液、⑦アルテフィックス液、⑧ユ

フィックス液、⑨マスクドホルム液、⑩95%エタノール液を用いて作製したセルブロックにおいて、HE染色および各種染色を行い、染色性や見え方などを比較検討したのでこ

れを報告する。

【方法】

1. 胸水、腹水、心嚢液等、液状検体を準備2. 遠心し上澄を捨て、沈査を作製3. 沈査に、10%ホルマリン液、20%ホルマリン液、50%ホルマリン液、10%緩衝ホルマリン液、迅速固定液、ブ

アン液、アルテフィックス液、ユフィックス液、マス

クドホルム液、95%エタノール液の各固定液を静かに重層

4. Overnightで固定後、自動包埋装置 VIP6にかけてパラフィン包埋

5. 薄節後、HE、特殊染色、免疫染色を施行6. 各固定液で作製した標本について、細胞の大きさ、クロマチンの性状、免疫染色の染色態度などを比較検討

した

【まとめ】

固定液の種類によっては、染色の減弱やクロマチンの見え

方の違いなど見受けられた。

免疫染色では、膜抗原、細胞質抗原、核抗原などの染色を

行った際、核抗原は染まらないが、細胞質抗原では問題な

かったなどの結果も見られた。

使用する固定液によっては、HE染色や特殊染色の見え方の違い、免疫染色の染色性の違いなどが現れることを考えな

がら、用いることが大切であると考えられた。

セルブロック作製における固定液の影響についての検討

◎山田 寛 1)、森藤 哲史 1)、今川 奈央子 1)、廣尾 真奈 1)、塚本 龍子 1)

国立大学法人 神戸大学医学部附属病院 1)

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【はじめに】Cryptococcus属菌は、菌体周囲がゼラチン様莢膜に覆われた酵母様真菌であり、髄膜炎などの播種性の

感染症を起こす場合がある。今回、多発形質細胞腫の治療

中に皮膚、肺、および十二指腸から Cryptococcus neoformansを認めた播種性クリプトコックス症を経験したので報告する。【症例】2年前に当院整形外科で椎体腫瘍

から多発形質細胞腫と診断され、Th5と L3に放射線治療施

行後 Ld療法を 9コース施行したが、1か月前に治療効果判

定の PETにおいて十二指腸上行脚に FDG集積、右下葉に多

発結節影と FDG集積が認められた。また同時期に顔面や頚

部に掻痒を伴う結節が出現し、その後増大し中央部に潰瘍

が出現した。このため形質細胞腫の十二指腸や肺・皮膚へ

の浸潤、肺真菌症を疑い、精査加療目的で呼吸器内科を紹

介受診した。受診時に採取した皮膚生検病理標本ではアル

シアン青染色、ムチカルミン染色に陽性の莢膜を有する酵

母様真菌を認め、血中のクリプトコックス抗原が上昇して

いたため播種性クリプトコックス症を疑い感染症内科へ紹

介、入院となった。入院時に施行した上部消化管内視鏡の

十二指腸生検病理標本でも Cryptococcus属菌を疑う菌体を認めた。入院時の血液、喀痰、髄液培養において

Cryptococcus属菌の発育を認めなかったが、第 4病日に採

取した喀痰と気管支鏡検査での気管支擦過物より酵母様真

菌の発育を認め、VITEK MSにて C. neoformansと同定された。そこで皮膚・十二指腸のホルマリン固定パラフィン切

片(FFPE)の ITS領域の遺伝子解析を実施したところ、十

二指腸標本から C. neoformansが同定された。多発形質細胞腫に関連する異常は、病理検査、骨髄検査において認め

なかった。治療は、臨床的に髄膜炎を伴わないことから入

院時より FLCZ 400mg が投与された。以後、呼吸器症状や皮

膚症状の増悪や中枢神経症状を認めず、炎症反応も低下し

たことから第 19病日に退院、FLCZを経口薬に変更し外来

で経過観察することとなった。

【考察】Cryptococcus属菌は肺や皮膚から感染し病巣を形成するとされているが、十二指腸病変はまれであり既報の

ほとんどは HIV患者である。播種性クリプトコックス症の

原因菌のほとんどは C. neoformansであるが、稀にCryptococcus gattiiによる例が存在する。病理組織標本で Cryptococcus属菌が疑われるが、培養検査が行われなかった、または検出できなかった場合に,FFPEの ITS領域の

遺伝子解析が有用である可能性がある。

連絡先:0744−22−3051(内線 1230)

十二指腸生検の FFPE の遺伝子解析が有用であった播種性クリプトコックス症の一例

◎李 相太 1)、竹内 真央 1)、宇井 孝爾 1)、大西 雅人 1)、問本 佳予子 1)、西川 武 1)、薮内 博史 1)、田中 忍 1)

奈良県立医科大学附属病院 1)

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Page 11: ヘマトキシリンと色だし液の隠された関係 · 1%までの7 段階に濃度調整したアンモニア水と炭酸リチウ ム水溶液を用い、それぞれのpH

【はじめに】

 食餌性イレウスは食物が原因で起こる比較的まれなイ

レウスです。原因食物は、椎茸、ゴボウ、筍、餅、昆布、

コンニャク、梅種子、などが報告されています。また患

者自身の精神疾患・咀嚼機能・消化器機能の問題も要因

と考えられています。

 今回、小腸穿孔を来たし緊急手術となった際、小腸内

に異物が見られ、主治医よりその異物の特定を依頼され

ました。そこで当検査室にて可能な方法でその特定を試

みましたので報告します。

【症例】

 70歳代女性。急な腹痛、嘔吐、下痢、により救急外

来受診。来院後の排便時に新鮮血を認める。腹部 CTにてフリーエアを認め、消化管穿孔の診断にて緊急手術施行。

回腸末端から約10cm口側の腸間膜側に軟骨様の異物

による穿孔を認めた。

【異物の検索方法】

 摘出された小腸内異物をホルマリン固定し、パラフィ

ンブロックを作製。異物の外観等より考えられる食物を

準備し、異物と同様にホルマリン固定し、パラフィンブ

ロックを作製。院内で可能な染色を行い、異物の同定を

試みた。

【結果】

 検索する中で、包埋操作までは大きな違いが見られな

かった。しかしパラフィンブロック薄切時、当院ではお

湯に浮かべて伸展しスライドガラスに貼り付けているが、

異物と準備した餅はお湯に浮かべた時点で広がり切片が

破れた。HE染色でも食物間で組織構造に違いが認められたが、ルゴール染色でその差が最も顕著だった。

【結語】

 比較的まれな食餌性イレウス症例の原因食物検索を試

みました。異物の外観や触感などと患者さんへの聞き取

りで原因食物の推測もある程度は可能ですが、顕微鏡的

な観察を加えることで、より正確な推定が可能になるこ

とを経験しました。

            市立長浜病院 中央検査技術科              0749-68-2300(代)

小腸穿孔を来した食餌性イレウスの原因食物検索を試みた 1例

◎宮元 伸篤 1)、新川 由基 1)、岡本 明子 1)、西野 万由美 1)、古賀 一也 1)

市立長浜病院 中央検査技術科 1)

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Page 12: ヘマトキシリンと色だし液の隠された関係 · 1%までの7 段階に濃度調整したアンモニア水と炭酸リチウ ム水溶液を用い、それぞれのpH

【はじめに】滑膜肉腫(synovial sarcoma)は若年成人の四肢近傍の軟部組織に好発する悪性軟部組織腫瘍である

が、胸膜や肺などの実質臓器に非常に稀に発生する事が

ある。今回我々は CTガイド下胸膜生検にて異型細胞が認められたが、確定診断には至らず、手術切除検体の遺伝

子検索にて胸膜原発滑膜肉腫が確定した症例を経験した

ので報告する。

【臨床像】患者は 50代男性。高血圧と橋本病にて加療中。201X年 5月息切れと咳嗽を自覚し、近医を受診した。胸部 X線にて左胸水を指摘され、本院受診となった。胸部CTにて内部が不均一で造影増強効果のある嚢胞状腫瘤と左胸膜肥厚、左胸水が認められた。6月に胸水穿刺と BF、CTガイド下胸膜生検が施行され、CTガイド下胸膜生検にて異型細胞が認められたが、確定診断には至らなかっ

た。7月に開胸下左下葉切除、リンパ節廓清術が施行された。

【組織所見】腫瘍は最大径が 12cmであり、大部分が壊死と出血で占められていた。肥厚した胸膜内には腫瘍が認

められたが、肺実質内への浸潤は指摘されなかった。ま

た、免疫組織化学的に AE1/AE3,CAM5.2,vimentin,CD99,CD56,bcl-2陽性、S100弱陽性であった。上皮性と非上皮性マーカーが陽性であることより滑膜肉腫が疑われた。

遺伝子検査(RT-PCR)を行い、SYT-SSX1融合遺伝子を確認し、確定診断を得ることができた。

【細胞所見】CTガイド下胸膜生検、手術切除検体共に壊死を伴う N/C比の高い類円形の小型異型細胞がシート状や流れ様配列を形成し増殖していた。また、一部では紡錘

形の異型細胞が束状に配列し増殖していた。

【考察】滑膜肉腫は病理組織像が多彩である為、診断は

容易ではなく、様々な癌腫との鑑別が必要である。また、

本疾患の診断には紡錘形細胞の出現に着目する事、多種

の免疫染色を実施する事が重要である。滑膜肉腫は高確

率で細胞遺伝学的に特徴的な SYT-SSX1または SYT-SSX2融合遺伝子が認められ、遺伝子診断が非常に有用である

と考える。

連絡先:06-6853-2001(内線:7204)

CTガイド下胸膜生検にて疑われた胸膜原発滑膜肉腫の一例

◎山田 寛 1)、幸高 真美 1)、大江 則彰 1)

独立行政法人 国立病院機構 刀根山病院 1)

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