グアテマラ・ニカラグア資料集 - apc征服以前...

グアテマラ・ニカラグア資料集 主催: 日本ラテンアメリカ協力ネットワーク http://www.jca.apc.org/recom/ E-mail [email protected] 立教大学ラテンアメリカ研究所(電話:03-3985-2578 FAX:0279) http://www.rikkyo.ne.jp/grp/late-ken/index.html E-mail [email protected] 後援: 開発と権利のための行動センター 先住民族の10年市民連絡会  日本カトリック正義と平和協議会 市民外交センター アジア太平洋資料センター グアテマラ概要 歴史と現在 コナビグア 日本の援助 ニカラグア概要 現代史 大西洋岸地域(コスタ) 日本の援助   FIMI と先住民族女性の状況 国連先住民族の権利宣言 ……02 ……03 ……06 ……08 ……10 ……11 ……14 ……16 ……17 ……18 「先住民族サミット」アイヌモシリ 2008 報告会

Upload: others

Post on 18-Mar-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

グアテマラ・ニカラグア資料集

主催: 日本ラテンアメリカ協力ネットワーク

     http://www.jca.apc.org/recom/ E-mail [email protected]

    立教大学ラテンアメリカ研究所(電話:03-3985-2578 FAX:0279)

     http://www.rikkyo.ne.jp/grp/late-ken/index.html E-mail [email protected]

後援: 開発と権利のための行動センター 先住民族の10年市民連絡会 

    日本カトリック正義と平和協議会 市民外交センター アジア太平洋資料センター

グアテマラ概要  歴史と現在  コナビグア  日本の援助ニカラグア概要  現代史  大西洋岸地域(コスタ)  日本の援助       FIMI と先住民族女性の状況国連先住民族の権利宣言

……02

……03

……06

……08

……10

……11

……14

……16

……17

……18

「先住民族サミット」アイヌモシリ 2008 報告会

Page 2: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

グアテマラ

◆面積: 10万9000k㎡ ( 四国と北海道をあわせたよりやや大きい )

◆人口: 1295 万人(2004 年) *年間増加率 2.27%

◆首都:グアテマラ・シティ

◆一人あたりGN I:2,130 ドル (2005 年 )

◆通貨:ケツァル (quetzal) 約$1=Q7.5

◆宗教:カトリック、プロテスタント、マヤの伝統宗教

◆ 15歳以上の識字率:69.1%(非先住民 79.6%、先住民 52.3%)

◆貧困者:総人口の 56.2%(内 15.7% が絶対的貧困層)

 非先住民は 41.8%(内 7.9% が絶対的貧困層)

 先住民は 77.3%(内 27.2% が絶対的貧困層) (2005 年)

◆平均余命:69.38 才 (2006 年予想 )

◆5才未満児死亡率:1000 人あたり 45人 (2006 年予想 )

◆気候:海岸熱帯地帯は熱帯性、高原地帯は温帯性。雨季と乾期がある。

◆最も高い山:タフムルコ火山 4,211 m

◆輸出:コーヒー、砂糖、バナナ、野菜、果物、カルダモンなど

◆地形と土地利用:国土は大きく三つの地域に分けられます。ペテン県を中心とした北部低地、中央から西部にかけ

て広がる高地、そして太平洋に向けての傾斜地です。北部低地は、人口が少なく熱帯雨林地域ですが破壊が急速に

進んでいます。中央部から西部にかけて広がる高地には総人口の半分以上が住んでいます。特に西部高地は先住民

族が多く住み、小規模な集落が点在しています。ここでは自給用のトウモロコシをはじめ、小麦やじゃがいも、野

菜などの他、モモやリンゴなど日本で見られる野菜を栽培することもできます。近年では輸出用の野菜栽培が急速

に広がっています。太平洋への傾斜地域は火山によって作られた肥沃な土地で、コーヒーのプランテーションが行

われています。ほとんどは大規模経営で、収穫期には高地から先住民の人々が季節労働者としてやってきます。

-2-

Page 3: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

征服以前

 現在グアテマラが位置する地域には、16

世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ

文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

たい第一期が4-6世紀ごろ、第二期が10

-12世紀ごろに開花したといわれていま

す。マヤの遺跡に残されている建築、彫刻、

絵画、陶芸などからは、高いレベルの技術が

存在していたことが想像されます。グアテマ

ラ北部ペテン州の熱帯雨林に残るティカル遺

跡は、メキシコのパレンケやホンデュラスの

コパンなどの遺跡と並び、マヤ文明を代表す

る遺跡の一つです。しかし10世紀にはいる

とこの大都市は突然放棄され、マヤ文明の中

心はユカタン半島北部(メキシコ)へ移されました。それがスペイン人によって再び発見されたのは17世紀末のこ

とです。広大なペテン県の熱帯雨林には、まだいくつものマヤの都が発見されずに埋もれていると言われ、最近カン

クエンなど大きな遺跡が発掘されています。

植民地時代

 1521年にアステカ王国(メキシコ)がスペイン人コルテスの軍勢に滅ぼされたのに続き、1524年にはコル

テスに派遣されたアルバラ-ドの率いる軍によりマヤ民族は征服されました。都市は破壊され、土地は奪われ、植民

地時代が始まりました。高地などスペイン人による植民地化が及ばなかった地域で生き延びた人達もいましたが、征

服後の先住民族人口は、スペイン人が持ち込んだ病気、重労働、栄養失調などにより激減しました。

 1543年にはグアテマラ総督領の首都がおかれ、グアテマラは中米におけるスペイン植民地の拠点となりました。

先住民族の労働力を利用するためにエンコミエンダ制がとられ、本国の王室から一定地域の支配を委託された植民者

達が、「先住民族を保護しキリスト教化する」代わりに、租税と労役を徴収することが許されました。この制度は濫

用され、先住民族を奴隷化するものでした。

独立と自由主義改革

 1821年、グアテマラはスペイン本国からの独立を宣言します。しかし、それは幅広い民衆運動の結果というよ

りも、クリオ-ジョ(植民地生まれのスペイン人)の権益保持のためで、搾取され続ける先住民族の生活に変化をも

たらすものではありませんでした。

 独立後のグアテマラ経済に大きな変革をもたらしたのは、1871年に発足したフスト・ルフィ-ノ・バリオス政

権により始められた自由主義改革でした。輸出産業としてコ-ヒ-が導入され、大農園が形成されました。その際、

先住民族は共有地を奪われ、大農園での奴隷的労働を強いられました。共同体にもとづく先住民族の文化は破壊され、

征服当時から続けられてきた少数者への土地集中はさらに加速されました。

 20世紀に入ると、輸出産業としてバナナのプランテ-ションが形成され、ユナイテッド・フル-ツ・カンパニ-

(U.F.C )に代表される米国の権益が確立されました。これは後に経済的、政治的、そして軍事的にも米国の干渉を

許す結果となりました。

民主的改革

 1944 年、若手改革派軍人・都市中産階級・学生などによってホルヘ・ウビコ独裁政権が倒されました。翌年、民

主的手続きによって改革派のフアン・ホセ・アルバロが大統領に選出され、グアテマラは民主化の時代を迎えました。

グアテマラの歴史と現在

ティカル遺跡

-3-

Page 4: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

次期大統領に選出されたハコボ・アル

ベンスは1952年に農地改革法を成

立させ、小農の創出をめざした土地利

用の効率化が進められました。またこ

の10年間の民主化の時代には、政党

や労働組合、農民組合などが結成され

ており、教会の農村部における活動も

行われました。それらの活動は、後の

軍事政権に反対する70年代の民衆運

動にもつながっていきました。

弾圧の時代――内戦へ

 アルベンス政権の農地改革は、グア

テマラに広大な土地を所有する U.F.C

の利益と衝突するものでした。そこで1954年、アルベンス政権を国際共産主義の手先とみなす米国CIA(中央

情報局)の支援を受けて、アルマス大佐がク-デタ-を起こし政権を握りました。以来1985年まで、グアテマラ

では軍事政権が続きます。これに対し、1960 年には改革派の若手将校が中心となって反政府ゲリラが組織され、内

戦が始まりました。

 一方、ゲリラとは別に、農村部で土地改革や生活改善を求めて、先住民族が中心となった組織づくりも行われまし

た。しかし、こうした人々もゲリラの仲間と見なされ、70年代末から 80年代にかけての政府軍による弾圧・虐殺

の対象となりました。1978年のパンソスにおける農民虐殺、1980年の農民組織CUCのメンバ-によるスペ

イン大使館占拠に対する焼き討ちなどを経て、1981年から82年にかけて弾圧はピ-クに達します。ゲリラをそ

の支持基盤(人々)ごと殲滅する皆殺し作戦「焦土作戦」が軍により展開されたのです。440 にのぼる村が焼き払

われて地図上から消滅し、住民がむごたらしく殺害されました。このグアテマラの内戦では 20万人以上の人々が殺

されたり、「失踪」させられたりしたのです。多くの連れ合いを殺された女性、孤児も生まれました。弾圧を逃れて

百万人以上の人々が故郷の村を離れ、都市部や隣国へ、あるいは山の中へと逃れたのです。

弾圧の後、農村部では軍が対ゲリラを名目にほぼすべての男性を「自警団」に組織し、支配しました。そこでは密

告の恐怖がはびこり、村人同士の信頼関係が破壊され、自由に集会を行うことすら出来ませんでした。

和平交渉

1986年に民政移管が実現しましたが、軍部の政治に対する影響力は依然として存続し、人権侵害は続きました。

「焦土作戦」でゲリラは力を失い、政府軍は軍事的には勝利したと言えますが、軍による人権侵害が世界に知られる

ようになると、国際社会はグアテマラ政府を非難し、和平を実現するように圧力をかけ始めました。これにより政府・

軍はゲリラ勢力との和平交渉に応じざるを得なくなりました。こうして人権、社会経済、先住民族の権利などテーマ

別に11の和平協定が調印され、最終的に 1996 年 12 月、グアテマラの内戦は終結したのです。

内戦終結から12年~現在のグアテマラ

 1996 年に内戦が終結してから今年で 12年になります。和平協定は 11の協定から構成され、その内容は民主化

と人権擁護、先住民族の権利の保障、ガバナンス強化、社会経済的改革など幅広いものでした。

 まず、協定の履行状況や人権状況をモニターするための国連和平検証団MINUGUA(1994-2004)が、派遣され

たほか、内戦中の人権侵害を調査した国連支援の真相究明委員会の調査(「グアテマラ・沈黙の記憶」1999 年)、そ

れに先立つカトリック教会による真相究明および内戦の傷を癒すための活動「歴史的記憶の回復プロジェクト」によ

る調査(「グアテマラ・二度と再び」1998 年)で、36年に及ぶ内戦がグアテマラの人々と社会のいろいろな分野に

どのような被害をもたらしたか、が明らかにされ、このような悲劇を繰り返さないために何をなすべきかの勧告もお

こわなれました。

 が、この 12年の和平協定の履行状況がどうなっているかと見ると、厳しい現状が浮き彫りになります。協定に調

印したアルバロ・アルスー大統領以降、いずれの政権も協定の履行を熱心に推進したとは言えません。現在のアルバ

「トウモロコシは、グアテマラの人々の食の基本

-4-

Page 5: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

ロ・コロン大統領も今年 1月に就任してから、めだった政策を行っていません。

 2004 年に活動を終えたMINUGUA の最終報告書では、18%の項目が完全履行、58%が一部のみ履行、24%が未

履行となっています。成果としては自警団の解体、初等教育の拡大、二言語教育などがあげられるものの、先住民族

の権利の保障や土地問題など重要な問題の解決は進展していません。協定履行のためのいくつもの政府機関が作られ

ましたが、そのほとんどは予算がつかない、あるいは汚職で非効率的な運営など、有名無実となっています。

 MINUGUA は、履行が進まない理由として、実行性に欠ける政策、不十分な経済成長、伝統的な経済構造が障害と

なっている、などをあげています。徴税率を上げ、軍事費を削減し、社会福祉支出を増額するのが和平協定の精神で

した。だが徴税率は、協定の目標値である 12%に達せず、歳入が伸びていません。そのために協定を履行するため

の財源が確保できないという問題があります。軍事費は、協定では軍事費の上限は GDP の 0.66% であるとされてい

るにもかかわらず、その額を突破しており、そのために社会投資、教育や司法関連、和平協定関連支出の予算が削減

される結果となっています。つまり、グアテマラの人々にとって、日々の生活の変化はごくわずかであり、先住民族

は社会的にも最も低い階層におかれ続けています。

 

  現在のグアテマラの人々、特に先住民族が直面している問題は次のようなものです。

 先住民族の権利 先住民族の権利とアイデンティティーに関する協定からはすでに13年がたっていますが、先住民族の権利は十分に守られておらず、差別撤廃のための取り組みも遅々としており、政府には問題を解決

しようという積極的な意志がみられません。

 鉱山開発問題 ここ数年、カナダや米国の鉱山会社がグアテマラで金やニッケルなどの採掘を行っています。これらの鉱山は先住民族が居住している地域にあり、先住民族コミュニティの反対を無視した形でグアテマラ

政府が採掘権を譲渡しています。グアテマラ政府は先住民族の土地での開発については先住民族の同意を得な

ければならないとさだめているILO 169 号条約も批准していますが、これを無視しています。これらの鉱山

開発により、先住民族にとって神聖な意味を持つ彼らの土地を汚すだけではなく、環境も破壊されます。

 土地問題 和平協定により「農地銀行」が設立され、土地なし農民に土地購入資金を融資するという制度ができました。しかし、適正な土地価格決定を行うメカニズムも社会的基盤もないところで、大土地所有者に有

利な不透明な土地価格設定や汚職の問題、農業不適地の購入と売却、土地購入後の融資や技術支援の欠如、な

どから、農民の土地へのアクセスを確保するという政策は破綻しています。農民の生活基盤の安定のために、

新しい農業政策、農地政策が必要とされています。

 食糧危機 2001年のコーヒー価格の暴落によってコーヒー危機が起こり、プランテーションでの労働で生計を立てている人々が深刻な影響を受けました。そして、2005 年 10 月にはハリケーン・スタンがグアテマ

ラを襲い、サンティアゴ・アティトランをはじめ多くの地域で土砂崩れ、川の氾濫が起こり、人命が失われた

だけではなく、住居が破壊されたり、農作物を失ったほか、橋や道路などのインフラにも大きな被害が出ました。

もともと貧しい農村部の大多数の人々は、もとより蓄えもなく、農作物がやられれば、たちまちその日から食

べるものがなくなります。ハリケーンだけでなく、ここ数年は異常気象が続き異例の寒さになったり、雨が多かっ

たり、と農作物に影響が出ています。また、石油価格の上昇などで物価も上がっており、ますます人々の生活

を圧迫しています。

 治安の悪化と不処罰 組織犯罪はほとんどの場合麻薬密輸・軍関係者と一体になっており、グアテマラの場合は政府諸機関や警察にも入り込んでその影響力を及ぼしていると言われています。犯罪が起こってもそれが

調査され責任者の処罰まで行き着くケースは多くありません。警察や検察、司法が機能していないのです。また、

グアテマラでは教育の機会が少なく、そしてよい条件で仕事を得る機会がないために、農村部や都市部貧困層

の多くの若者がマラスと呼ばれる暴力組織に取り込まれています。

-5-

Page 6: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

創設から和平協定 

  コナビグアは、グアテマラで軍の弾圧により夫や家族を

奪われたマヤ先住民族の女性たちが中心になって、1988 年

に組織された団体です。特に弾圧のひどかったキチェ県、チ

マルテナンゴ県、ウェウェテナンゴ県、ソロラ県などの農村

部から、「何もできない」と周囲から思われ、自分たち自身

もそう思い込まされてきた先住民族の女性たちが集まり、軍

や国に対して弾圧をやめるよう声を上げ始めたのです。

 「私たち自身が声を上げなければ問題は何も変わらない。

社会の大きな問題を変えるためには、皆の力をあわせなけれ

ばならない」として、恐怖により沈黙させられてきた女性た

ち同士が連帯し、家族や地域住民の生命と尊厳を尊重させる

ための闘争を始めました。彼女たちの抱える問題にまったく

目を向けてこなかった政府や社会に、先住民族として、女性

として、農村部の貧しい者として、また内戦の被害者・寡婦

として、彼女たちもグアテマラ社会の大切な構成員であるこ

とを認識させ、国内外の関心を呼び起こしたのです。

 コナビグアは、女性たちの緊急の問題を解決するため、次

のような要求を掲げて活動を始めました。

自警団の解体と、あらゆる弾圧の停止  1986 年の民政移管後も、農村部では相変わらず軍や各村の自警団による殺害や強制失踪が続き、いつ自分や家

族が犠牲になるか誰にもわからない恐怖に支配されていました。この沈黙を破り、首都や各地で大規模で平和的

なデモや集会を行うなどして弾圧の状況を国内外に告発し、自警団の解体と弾圧の停止を政府や軍に繰り返し要

求しました。

強制徴兵の撤廃  自分の息子たちが、夫を殺害した軍隊に強制的に徴兵されて人殺しを強いられるのは、とても我慢できること

ではありません。誘拐まがいの強制徴兵の実態を告発するとともに、良心的兵役拒否権を認める法案への署名集

めキャンペーンを展開し、国会などに働きかけました。この過程で、徴兵の対象となる青年たちの運動体もコナ

ビグアの中で育ちました。

人権侵害の責任者に対する法的責任追及  弾圧の中で人権侵害に直接手を染めた者も、これを命令した者も、その責任を追及されていません。同じ村に

住む軍コミッショナーや自警団員が自分の家族を殺害したことを知っていても、報復を恐れて告発できないので

す。そうした中で、女性たちの告発で裁判に持ち込み勝訴した先駆的なケースもあります。

犠牲者の遺骨を取り戻すための秘密墓地発掘 多くの犠牲者の遺体が山中に埋められたり、谷間に投げ捨てられました。こうした「秘密墓地」に、愛する者

の遺体が打ち棄てられたままになっていることは遺族にとって耐えられないことです。遺骨を取り戻し正式に埋

葬したいという強い願いを受けて、法的に必要な手続きを踏み、法人類学者など発掘の専門家の協力を得て、秘

密墓地の発掘を始めました。遺族が望む場合には、この結果を証拠に加害者を裁判にかける可能性を開きます。

CONAVIGUA Coordinadora Nacional de Viudas de Guatemalaコナビグア 連れあいを奪われた女性たちの会

       

この子の親も軍に殺された

-6-

Page 7: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

被害者に対する補償 夫を殺害されて小さな子どもたちと残された女性たちは、一家の稼ぎ手を失った上、悲しみや恐怖から病気に

なったり、不当に土地を取り上げられたり、あるいは村から逃げ出さざるを得なくなるなどして、さらに貧困な

生活を強いられました。こうした女性や孤児に対する補償を、国家の責任として求めています。

 こうした活動の基盤は、リーダーが村を訪問し、家庭や村の中に閉じ込められてきた女性たちを集めて話し合うこ

とでした。一人の問題が他の地域の多くの女性たちにも共通することを知り、自分たちの取るべき行動を考えました。

「子どもたちには自分たちと同じ苦しみを繰り返させたくない」という強い思いに支えられた一人一人の行動により、

運動が作られてきたのです。

しかし、軍部はコナビグアをあからさまにゲリラ扱いしました。ゲリラだと言われることは、暗殺予告に等しかった

のです。実際に捕らえられて拷問を受けたり、殺害されたメンバーもいます。活動に参加することでさらに脅迫され、

危険に身をさらしながらも、女性たちは行動することで道を開いてきました。

 そして、グアテマラ国内でさえ知られていなかった農村部での弾圧の状況を告発し、平和に暮らす正当な権利を求

めて行動するコナビグアの女性たちと連帯する動きが、国内外で広がりました。国際社会からグアテマラ政府に対し

て人権状況の改善を求める圧力もあり、政府とゲリラの和平交渉が進みました。この交渉の場に、コナビグアは他の

市民セクターとともに多くの提案を上げ、先住民族女性や内戦被害者の問題を解決するための合意事項も盛り込ませ

させました。最終和平協定に至る前に、自警団が解体され、強制徴兵も停止されるなど、多くの成果が得られました。

グアテマラ社会の民主化を進める上で、コナビグアは大きな貢献をしてきたのです。

和平協定後

 1996 年 12 月に最終和平協定が締結されましたが、この調印がただちに平和を意味するわけではありません。内

戦の要因である社会問題を是正し、被害者に補償を行い、社会の和解を達成するため、テーマ別にいくつもの協定が

締結されました。また、国連の支援による真相究明委員会が作られ、調査を行い、勧告がなされました。平和を築く

ためには、まず、これらの協定が履行されなければなりません。 

コナビグアは、この大切な段階において、政府に問題解決を要求するだけではなく、独自に提案することで様々なス

ペースに参加し、和平合意履行を促進できるよう、女性たちのエンパワーにさらに力を入れてきました。

先住民族女性の政治参加 政党や個人の利益を追求する「政治家」ではなく、自分たちの声を代表する地方自治体首長や国会議員を選

ぶため、多くの女性たちが初めて選挙人登録をし、投票所に向かいました。自治体の役員に立候補し当選した

女性もいます。コナビグア創設当初から共同代表を務めてきたロサリーナ・トゥユクさんは、1996 年から 4

年間国会議員を務め、先住民族女性として初めて国会の副議長を務めました。民族衣装に身を包み、生まれた

ばかりの赤ちゃんに議場で母乳を飲ませながら発言するロサリーナさんを、周囲の政治家たちは差別的に批判

しましたが、先住民族女性・内戦被害者の声を届けるため、彼女は議会内外で積極的に活動しました。また、

政策への影響力を高めるため、政府機関や国際機関との協議の場で発言するリーダーたちも増えてきました。

女性リーダー育成 村の開発委員会から政府との協議まで、様々なレベルで参加できるリーダーの育成に力を注いでいます。学

校に一度も通ったことがなく、スペイン語を話せない、男性たちと議論することなどなかった女性たちにとって、

簡単なことではありません。通常の村のミーティングや研修などで自分たちの正当な権利や社会のしくみにつ

いて知り、問題を分析して議論することを繰り返します。そんな中から、不正に対して抗議したり、自分の意

見を持って様々な場で参加できる女性たちが育っていきます。

内戦の被害者に対する補償 内戦の被害者に国家の責任として補償を行う委員会が、2004 年に設立されました。経済的補償だけでなく、

内戦の傷を癒し、破壊された社会を和解に導く基盤を取り戻すことを目標としており、ロサリーナさんは政府

の任命で委員長を務めています。様々な政治的・経済的利害や、政府の無関心により難航していますが、コナ

ビグアでは被害者の意見や必要性を反映させた公正な補償が実施されるよう働きかけています。情報の届かな

い農村部では、リーダーたちが住民に補償プログラムの正しい情報を提供したり、女性たちが補償の対象とし

-7-

Page 8: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

て認定されるよう手続きに同行しています。

差別の撤廃 先住民族の特に女性に対する社会の差別は根深く、多くの場合、差別する側もされる側も、これを差別とし

て意識していません。まず女性たち自身が差別を認識し、相手に抗議したり当局に告発できるよう、意識化に

努めると同時に、差別の現状を広く告発して社会全体の意識化を進めなければなりません。また、二言語教育や、

裁判などで先住民言語の通訳をつけるなど、制度的な改革も必要です。

 これらのほか、秘密墓地発掘は様々な地域で要望が高まっており、今もコナビグアの活動の大きな柱となっていま

す。また、これまでの発掘の結果を証拠として、大量虐殺の責任者である当時の大統領や軍高官を国際裁判にかける

取り組みも進めています。

 

 自ら行動することで少しずつ状況を変えてきたという経験は、女性たち一人一人に大きな変化を与えています。ひ

とつの行動が次の行動への勇気になり、ひとりの勇気がさらに多くの女性たちの勇気を育ててきたのです。

 コナビグアには現在、グアテマラ国内11県の 400以上のコミュニティで1万人以上のメンバーが参加しています。

バスも車もなく、情報も届かない、社会から隔離されたような地域も多く、組織強化プロモーターたちは各村を訪問

して、女性たちを横につなぎ強化していくために、日々地道な活動を続けています。

 外務省ホームページの 07 年度版国別データブックは、グアテマラには6つの構造的な問題があると指摘する。具体的には次の通りだ。①国内の各勢力の分裂・対立(先住民と非先住民、農村と都市部)②内戦の後遺症(人間不信、国家や政府・治安当局不信)③人権問題④ガバナンスの欠如⑤汚職問題⑥先住民問題、とする。04 年の人間開発指数は中米5カ国中最下位で、富の偏在が著しく、貧富の格差が極めて大きい。 和平協定については、履行期限は 00 年度末までだったが、諸協定のうち特に「先住民のアイデンティティー及び諸権利に係る協定」の進捗が大幅に遅れ、履行期限は 04 年度末まで延長された。しかし、07 年7月の時点でも完全履行の目処は立っていない。 日本はグアテマラへのODAの意義について、①長年にわたり日本と友好的な外交関係があり、国連の安保理改革などで日本の立場に支持を表明している②和平の定着、先住民族と非先住民族、地方の農村部と都市部の間の格差是正を日本が支援することはODA大綱の重点課題である「平和構築」「貧困削減」に該当する③グアテマラを含む中米は北南米を結ぶ地理的・戦略的な位置を占め、地域の安定と発展は国際社会にも重要。人口も4700万人強あり、日本にとって一層重要なパートナーとなり得る。その中米5カ国で人口とGNIが最大のグアテマラには、中米の地域統合、経済発展に向けた強いリーダーシップを期待できる||としている。 以上から日本は、教育、保健・医療及び農業の普及・改善、インフラの整備、治安の改善について技術協力及び草の根・人間の安全保障無償資金協力を中心とすることがグアテマラへのODAの基本方針としている。06年7月にはグアテマラ政府と現地ODA政策協議を行い、最重点分野を「農村開発」、開発課題を「地方生活の改善」とし、「持続的経済開発」「民主化の定着」を継続して重点分野とすることで合意。07 年7月にはグアテマラ外務省、大統領府企画庁、財務省との間で実務者レベルの対グアテマラ経済協力方針会議を開き、その踏襲を確認している。 日本は 95 ~ 00 年の6年間、グアテマラへの援助額が米国を上回る第1位だった。だが、01 年に米国と逆転して2位となり、05 年にはスペイン、米国に次ぐ3位となっている。06 年度のODA実績は無償資金協力28.89 億円、技術協力8.22 億円。06 年度までの援助実績は円借款 268.36 億円、無償資金協力 398.61 億円、技術協力 2360.98 億円。 グアテマラに対しては主要ドナー8カ国(日本、米国、オランダ、独、スペイン、カナダ、スウェーデン、ノルウェー)と主要国際機関(UNDP、IMF、世銀、IDB、EUなど)が「G 13」と呼ばれるドナーグループを構成。半年ごとに持ち回り制の議長で、日本は 06 年4月から6カ月間務めた。 なお、民主化や和平に直接関わる支援は次のページの通り。

日本のグアテマラ支援について(外務省HPなどからまとめ)

-8-

Page 9: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

在グアテマラ日本国大使館 2007 年 2 月 1 日

別紙 1

1. 民主化・復興開発、並びにガバナビリティ及び司法強化のた

めの支援 No. 案件名 年度 適用スキーム

供与額(ドル換算

額)

1 民主化支援(総選挙)(OAS 経由) 1995 10.00 百万円(0.10百万ドル)

2

復興開発支援(UNDP 経由)(帰還民・

国内避難民への緊急支援、身分特定調

査、再定住のための土地取得及び所有

権の合法化)

緊急無償 237.00 百万円(2.44

百万ドル)

3 司法制度近代化計画(世銀経由(開発

政策・人材育成基金))

1996

80.51 百万円(0.83百万ドル)

4 1997 64.20 百万円(0.60百万ドル)

5

グアテマラ難民支援計画(国連難民高

等弁務官事務所(UNHCR)経由)

国際機関を通

じた援助 53.10 百万円(0.45

百万ドル)

6 復興開発支援(UNDP 経由) 緊急無償 88.50 百万円(0.75百万ドル)

7 土地基金(FONTIERRAS)支援(土地

購入による国内避難民の再定住支援)

(UNDP 経由)

1998

94.40 百万円(0.80百万ドル)

8 地雷犠牲者支援プロジェクト(UNICEF経由)

国際機関を通

じた援助 24.00 百万円(0.20

百万ドル)

9 先住民慣習法と地方自治に関する研

究・教育研究 6.00 百万円(0.05 百

万ドル)

10 大統領決選投票における市民参加キャ

ンペーン計画(対 TSE)

草の根・人間

の安全保障無

償 9.96 百万円(0.08 百

万ドル)

11 民主化支援(総選挙)(OAS 経由)

1999

緊急無償 7.20 百万円(0.06 百

万ドル)

12 国家文民警察学校機材整備計画 2002 一般プロジェ

クト無償 189.00 百万円(1.55

百万ドル)

13 民主化支援(総選挙)(OAS 経由) 緊急無償 10.98 百万円(0.09百万ドル)

14 マヤ先住民に対する選挙情報普及計画

(対 TSE) 9.93 百万円(0.08 百

万ドル)

15 自覚ある投票のための市民キャンペー

ン計画(リゴベルタ・メンチュー・ト

ゥム財団)

5.29 百万円(0.04 百

万ドル)

16 人権擁護のための無線通信網整備計画

(対 PDH)

2003 草の根・人間

の安全保障無

償 9.18 百万円(0.08 百

万ドル)

17 中米 3 ヶ国における女性・未成年女性支

援(UNIFEM 及び UNOPS 経由) 2005 国際機関を通

じた援助 164.99 百万円(1.54

百万ドル)

18 熱帯低気圧スタン災害復興支援計画 2006 防災・災害復

興支援無償 834.00 百万円(7.51

百万ドル)

31

レイミツ
取り消し線
Page 10: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

ニカラグア

◆面積: 129,541 平方km (北海道と九州を合わせた広さ)

◆人口: 約 550 万人

(大半はメスティソと呼ばれるニカラグアを征服したスペイ

ン人と先住民族との混血、 先住民族は約 49万人)

◆首都: マナグア

◆一人当たり GNI: 1,000 ドル (2006 年 )

◆通貨: コルドバ (1 ドルは19コルドバ )

◆宗教: カトリック、プロテスタント

◆ 15歳以上の識字率: 67.5%

◆貧困者: 61% (81%)

◆平均余命:72歳

◆ 5歳未満時死亡率: 1000 人あたり 36人

◆輸出: コーヒー、バナナ、牛肉、サトウキビなど

-10-

   

1989年、国営農場でのコーヒー収穫ボランティア

Page 11: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

革命以前

  政治が不安定だったニカラグアを「安定」するために米国は海兵隊を使って干渉した (1909年から27年 )。

その干渉から独立するための闘いを開始したのがアウグスト・セサル・サンディーノ将軍でした。1933 年に

は海兵隊をニカラグアから撤退させることに成功し、国民的英雄となりました。が、その後国家警備隊長で

あったアナスタシオ・ソモサ・ガルシア将軍に暗殺され (1936 年 ) ます。その後ソモサは大統領になり、以

来 1979 年まで間ソモサ一族が独裁をしき、テロと恐怖政治を行います。が、これに抵抗しソモサ独裁を打倒

するための運動も生まれました。

サンディニスタ革命

 1979 年 7月 19 日、サンディニスタ民族解放戦線 FSLN による多数者の論理・歴史の新しい主体をかかげ

た革命が勝利し、42年にわたってニカラグアを支配してきたソモサ独裁体制に終止符が打たれました。サン

ディニスタ革命政権は、反ソモサの広範な社会セクターの人々の圧倒的な支持と参加を得て出発しました。

 新政府は国有部門、協同組合部門、民間部門を組み合わせた混合経済、政治的多元主義と参加民主主義、国

際的非同盟主義を柱に新国家建設に乗り出しました。

ソモサ一派の資産接収、基幹産業の国有化、土地改革を行い、教育と医療を無料にしました。大規模な識字運

動やワクチン・キャンペーンを展開し、教育 ( 非識字率は 50%から 13%に引き下げた ) と保健の分野で目覚

しい成果をあげました。けれども、革命当時の国庫がほとんど空だったこと、GDP の 71%にも達していた対

外債務、レーガン政権になってからの米国による軍事的・経済的な介入による圧迫などで、革命政府は誕生直

後から多くの困難に直面しました。

 一方、民衆が歴史の主体となって社会変革を行うという、この中米の小国の革命はラテンアメリカのみなら

ず、世界の人々の注目を集め、宗教者や知識人、民衆組織など幅広い社会層からの連帯を実現しました。

コントラ内戦と 1980 年代

 自国の「裏庭」と位置づけている中米での影響力を維持するためと、「共産主義」革命がラテンアメリカ各

地に飛び火することを恐れた米国のレーガン政権は、ニカラグアを「民主化する」という名目でさまざまな

形の介入を行いました。ニカラグアへの経済制裁を強める一方、コントラ(反革命勢力)への支援を行い、

1982 年から内戦が本格化しました。

  コントラはサンディニスタ革命をつぶそうとする米国の多額の軍事援助なしには成立し得なかったもので

すが、多くのニカラグア人 ( 特に農民 ) がコントラに入って戦ったことも事実です。これらの人々の多くはイ

デオロギーとは無関係な動機で銃をとりました。サンディニスタ政権によって進められた協同組合に参加しな

かったために融資が得られず、経済的な不満を持った人、家族や友人に誘われて、あるいはコントラと疑われ

て身の危険を感じた、という人までさまざまです。サンディニスタ革命で経済的に恩恵を受けなかったのは中

小の自作農でした。政府は農地改革を行った際、小規模自作農の育成ではなく、集団化、協同組合化を重視し

ました。けれども、ある程度の土地を持っていたり、数人から数十人を雇っていたような生産者は協同組合へ

の加入を嫌い、貧農でもなかったので融資も受けられず、また基本作物の価格統制によりプライベート・マー

ケットよりも安い価格で産品を売らなければならないなど、不満を募らせました。これらの人たちはコミュニ

ティーの中で指導的な立場にいた人が多く、他の農民への影響力もあったので、彼らがどちらの側につくか、

は戦略的にも重要でした。

 また、土地を持たない多くの貧農が「土地はそれを耕すものの手に!」というサンディニスタ革命を強力に

支持したわけですが、革命が成就すると、協同組合に加入されられ、夢に見ていた自分の土地を持てないこと

が多く、革命に幻滅した人も多かったのでした。

 内戦が激化し、FSLN 政権は対コントラの防衛費を優先せざるを得なくなり、戦時経済体制を導入しました。

85年から 87年には国防費が国家予算の半分近くを占めるにいたっほどでした。このため、生産投資や社会

福祉も後退し、インフレが増大し、生活必需品不足が起こりました。83年には強制徴兵制となり、これに対

ニカラグア現代史 サンディニスタ革命以降

-11-

Page 12: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

-12-

する国民の不満も大きくなっていきました。

 1988 年には、経済安定のための「ショック療法」が導入され、通貨切り下げ、市場メカニズムの導入、公

共支出の削減などが実施されました。このために 1万人を超える公務員が職を失い、革命の支持基盤であっ

た農村部と都市貧困層の人々の生活が打撃を受けました。

1990 年選挙での FSLN 政権撤退およびチャモロ政権の誕生

 1987 年には中米各国大統領による中米和平協定(エスキプラスⅡ)で、FSLN 政府とコントラとの和平交

渉の枠組みが定められ、内戦終結と 1990 年の選挙のプロセスが開始されました。

 多数の小さな政党に分裂していた半サンディニスタ勢力は、米国の圧力と資金援助により、保守政党から共

産党を含む 14の政党が国民野党連合UNOを形成しました。

 そして 1990 年 2月に総選挙が行われました。大方の予想に反して、UNOの候補ビオレタ・デ・チャモロ

が 55%を得票し、FSLN のダニエル・オルテガを破り当選しました。議会も 92 議席中 51 議席を UNOが占

めました。これにより政権は FSLN から UNOへと移行しました。これにより内戦は終結し、ニカラグア史上

初めて平和裏に政権交代が行われました。

チャモロ政権以降 構造調整政策とそのインパクト

 チャモロ政権下、1991 年より構造調整政策

SAP が導入されます。これによりインフレは収

まったものの、民営化、医療や教育など社会サー

ビスの縮小などにより、貧富の差が拡大し、貧

困層が増大しました。

 医療費は 1980 年代半ばの 2 億ドルから 8

千万ドルに削減され、乳幼児死亡率が上昇。義

務教育も有料になりました。融資の条件が厳し

くなり、金利も上がったので、多くの農民が種

子や肥料を買えなくなり、農村部での貧困が深

刻化しました。そのため、せっかく革命の土地

改革で土地を得た人もそれを手放さなければな

らない、ということも起こりました。都市部で

も小規模生産者への融資が厳しくなり、また最

初の一年で行われた急激な輸入関税の引き下げ(80%から 30%へ)によって、輸入品が大量に流入し国内産

業が打撃を受け、工場の閉鎖と、多くの失業者を生みました。失業率は 60%を超え、貧困率は 70%にも達し

(40%が極貧層)ました。このほか、犯罪の増加、銃による強盗、女性や子どもへの家庭内暴力の増加、麻薬

の流入、公務員の汚職などの問題が起こりました。

 チャモロの次に政権に就いたのは、立憲自由党 PLC のアルノルド・アレマン (1997 年 ) です。前政権から

構造調整政策をそのまま引継ぎ、さらに身内を重用し、大規模な汚職を行ったので、貧富の差はさらに拡大し

ました。

 FSLN は 1990 年の政権交代時に党幹部が国営企業や民営化された企業を所有したり幹部になるなどの利益

追求(ピニャータ)を行い、オルテガが党内で大きな権力を持つようになり党の運営も不透明、非民主的にな

り、オルテガを批判するグループはサンディニスタ刷新運動MRS を作って FSLN から分離しました。

 さらに、FSLN のオルテガと密約を結び二大政党に有利になる選挙法の改正などを行いました。

ダニエル・オルテガ、再び大統領に

 これまで 3回出馬し落選したオルテガでしたが、2006 年の大統領選ではついに当選しました。これはアレ

マンとの密約で選挙法を改正し、当選に必要な得票数を低くしたことと、保守が分裂し、ボラーニョスが PLC

から分かれて新政党全国自由同盟 ALNを作ったために、半サンディニスタの票が割れてしまったことなどに

よるものです。

コーヒー豆の選別 マタガルパ

Page 13: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

-13-

 2007 年 1月に就任したオルテガは、市民の権力が最高の権力であり、直接民主主義こそが最高の民主主義

形態である、として市民参加審議会(Consejos de Participacion Ciudadana, CPC)を創設し、事実上議会の上

に置きました。そしてこの CPC の総責任者に妻のロサリオ・ムリージョを任命しました。ムリージョはすで

に大統領の広報責任者、FSLN の党広報担当でもあり、政府と党の決定は彼女を通して行われ、オルテガと共

に大きな政治権力を持つようになりました。意思決定のプロセスは秘密で、重要な決定について国民も議会も

最後まで知らされず、権力は大統領夫妻に集中している、と言われています。

 IMF を糾弾するなど激しいディスコースとは裏腹に、オルテガ政権の経済政策は実際にはこれまでの政権を

踏襲しており、とりわけ国民、特に貧困層の生活がよくなっているわけではありません。教育と医療の無料化

を行いましたが、予算がないために絵に描いた餅で終わっています。他に貧困対策と言えるような対策はなさ

れておらず、失業率も減っていません。しかも、オルテガ就任以後国内外の投資は減っています。

エネルギー危機

 石油価格の高騰で諸物価が上がり、人々の生活をさらに圧迫しています。オルテガ政権はベネズエラのチャ

ベス政権と協定を結び石油を安く輸入するなど経済援助を受けていますが、その援助の金額も内容も公表され

ておらず、何にいくらが使われているのか不明なままです。少なくとも現時点ではこの支援が公共に使われて

いる気配はありません。

 今年 5月には、ガソリン、ジーゼルの価格据え置きとそのための補助金を要求する公共交通機関職員の大

規模場ストライキが起こりました。このストは 12日間続き、ニカラグア中の交通が麻痺しました。野党時代

には FSLN がこのようなストを組織したものですが、与党となった現在、交渉には非常に消極的で、一部では

警察にストの弾圧があったと人権団体から報告が出ています。最終的にオルテガがガソリンとジーゼルの価格

を下げると約束してストは一旦終わりました。が、補助金をどこから捻出するかがあいまいだったのと、政府

によるガソリン流通の統制不測で、一律の値下げはなく、逆に市場が混乱し石油のブラックマーケットができ

てしまったという事態をもたらしています。

今年 11月の自治体選挙と小政党の排除

 他にもオルテガ(とその側近)を巡る観光地の土地取得や電力発電施設にかかわる疑惑などがあり、オルテ

ガの支持率はどんどん下がっています。オルテガに投票したサンディニスタの多くが彼に幻滅しており、おり

しも今年 11月にはオルテガ政権の試金石ともなる地方選挙が行われます。オルテガ /FSLN に失望した人たち

の票がサンディニスタ刷新運動MRS に流れるかもしれない、と言われていたやさきに、選挙法廷がいきなり

書類不備を理由にMRS の政党としての法人格を剥奪するという暴挙に出ました。それから保守系の小政党で

ある保守党、さらに小さい大西洋岸地域の二つの政党も党としての存在を抹消されました。これにより11月

の地方選は実質 FSLN と PLC の2政党で票を分け合うという事態になりそうです。

Page 14: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

二つのニカラグア

 ニカラグアは小さな国ですが、その地理

的条件や歴史、文化により二つの地域に分

かれます。一つは太平洋岸地域で、もう一

つは大西洋岸地域 ( カリブ海岸地域以下コ

スタ ) です。太平洋岸地域は、スペイン人

により侵略されて以来スペインの殖民地と

なり、言葉はスペイン語、宗教はカトリッ

ク教でした。一方、コスタ地域はスペイン

人の支配が届かず、イギリスが大きな影響

力を持ちモスキティア王国という傀儡政権

を作って事実上英国の保護領としました。

そして英語がかなり普及し、宗教的にはモラビア教会 ( プロテスタントの一派 ) が影響力を持ちました。

 この二つの地域は全土がニカラグア国として統一されてからも地理的にアクセスが困難であるという理由で

近年まで交流が少なく、コスタの人々は太平洋岸側のことを「ニカラグア」、そこの人々のことを「スペイン人」

と呼んでいたほどでした。

 

コスタに住む先住民族

 コスタ地域はニカラグア全体の半分以上 ( 51% ) の面積を占め、豊かな森林資源、鉱物資源、海産資源に

恵まれています。「中米の肺」と呼ばれる中米最大の森林ボサワスもコスタ地域にあります。そして、この地

域の大部分は先住民族の共有地でもあります。ミスキート (17 万人 )、スム-マヤグナ(1万 5千人)、ラマ ( 千

人弱 ) という先住民族の他に、クレオール、ガリフナというアフリカ系のエスニック集団 ( 約 4万人 )、そし

て混血のメスティソの人々が住んでいます。

 ニカラグアは中南米の中でも最貧国の一つですが、太平洋岸とコスタを比べると、太平洋岸の貧困層が

61%なのに比べて、コスタの貧困率は 81%とさらに高く、失業率は 90%にも達します。識字率や上水道の

普及率、学校や医療施設の割合も、コスタは全国水準を大きく下回っています。

サンディニスタ革命と内戦

 サンディニスタ政権は、コスタ地域で

も教育や医療の無料化などいろいろな進

歩的な改革を行いました。けれどもこれ

らの改革は同時に、サンディニスタによ

る地域文化、習慣への無知・無理解とと

もに、コスタの各民族を解放すべき対象

としてみる温情主義、この地域を国家発

展プログラムに統合すべきであるという

統合主義があったのです。とりわけ農地

改革は、先住民族の伝統的な共同体によ

る土地所有形態を無視して行われたため、

多くのミスキート人の政府への不信を深

め、反サンディニスタに追いやることになりました。

 コントラ内戦がエスカレートし、コスタ北部はホンジュラスと国境になっているココ川一帯にあるミスキー

トやマヤグナのコミュニティが戦場になり、同じ民族が敵味方に分断され殺しあうという悲劇が起こったので

す。

大西洋岸地域 ( コスタ )

-14-

  

コスタ独特の高床式の家々

ホンジュラスとの国境に流れるリオココ沿いのジャングルにあったミスキート民族の反政府ゲリラ「ヤタマ」の軍事教練学校。竹筒で訓練していた

Page 15: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

自治―多民族・多文化・多言語社会を目指して

 このような中で内戦の終結を目指し、民族和解のための努力が人々の中から起こりました。そして、外から

の大きな権力に翻弄される悲劇を繰り返さないために、コスタ地域の自治を求める要求も起こりました。その

結果、1987 年に自治憲章が定められ、北部自治地域(RAAN)と南部自治地域(RAAS)の二つの自治地域が

できたのです。政治的な権利、徴税、地域資源の管理・運用についての権利などの経済的な権利、法的な権利、

文化保護の権利が認められています。自治地域は自治政府と議会を持ちます。地元で人材を育成するための自

治大学も作られました。自治憲章が制定された同じ年にヤタマ(YATAMA、ミスキート語で「母なる大地の

子どもたち」という言葉の頭文字)というミスキート政治団体が結成されました。また、その後の憲法改正で、

先住民族の諸権利の認知、共有地の認知、二言語・通文化教育の確立などが盛り込まれました。

自治の現実

 しかしながら、これらの諸権利が自治憲章に明記され

ていることと、それが実現していることの間には大きな

へだたりがあります。たとえば、基本である先住民族の

共有地の権利は認められているものの、その権利の行

使に関する細則が定められていないという問題がありま

す。中央政府はコミュニティの頭越しに外国企業に伐採

権や利用権を譲渡しており、それに対して打つ手がない

状態なのです。高級木材であるマホガニーなどの木は外

国企業により伐採され続けています。自治を推進するために

財源がないこと、人材も不足しており、貧困も原因して地域政府や自治体の汚職なども後を絶ちません。

共有地と資源の消失、環境の悪化

 森林の伐採やハリケーンの被害の他に、太平洋岸からメスティソが先住民共有地に浸入し、森林を伐採して

農地にしていることも森林消失のもう一つの原因です。森林消失により、先住民族の生活基盤が脅かされ、生

態系の破壊と生物多様性の減少も起こっています。先住民族の共有地の権利を守るために共有地・領土の測量

や登記も進められていますが、まだ不十分です。

ハリケーンの被害

 コスタ地域はハリケーンの通り道です。地球温暖化のために、毎年ハリケーンの発生率が上がり、勢力も大

きくなっています。昨年 8月にコスタを襲ったハリケーン・フェリックスはすさまじい被害を地域にもたら

しました。150 万ヘクタールに及ぶ広大な地域が荒らされ、377 の先住民族コミュニティ、コスタの住民 30

万人のうち 20万人が被災したのです。屋根は飛ばされ、家は倒れ、畑の収穫もほとんどが失われました。農

具や漁のための舟、漁具なども水に持っていかれました。災害の復興には300億ドルかかると言われています。

ハリケーンで倒壊した樹木は、ニカラグアの木材需要を今後 120 年間にわたって供給できる量に匹敵すると

いう計算もあるほどです。

 オルテガ政府はハリケーンの緊急援助を全て軍と中央政府経由にし、党利党略による分配を行い、NGOを

排除しました。一方地域行政 ( ヤタマ ) は無能力、非能率、汚職で、緊急援助とその後の復興支援ではたいし

たことができず、これも住民の失望と怒りをかいました。

伐採権の譲渡

 ハリケーンの後、倒壊した木は貴重な木材資源なので、それを無駄にせずに運び出して売る、というアイ

ディアが生まれましたが、それがいつのまにか、リオココ沿いのミスキートコミュニティに彼らの共有地で今

後30年間におよぶ伐採権を譲渡させる、と変わっていきました。FSLNが背後についたヤタマによるもの

-15-

    コスタの内陸部シウナにある金鉱山

Page 16: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

日本のニカラグア支援について(外務省HPなどからまとめ)

 外務省ホームページの 07 年度版国別データブックは、ニカラグアについて、中南米の最貧国の1つで基礎的社会インフラが整備されていない地域が多く、電気や水道普及への需要は大きい▽ハリケーン・地震といった自然災害も多い上に内戦の傷跡も依然として見られる、と指摘。ニカラグアの経済発展と民主主義の定着を支援することはODA大綱の重点課題である「貧困削減」や「平和の構築」の観点からも意義が大きいとしている。また、ニカラグアを含む中米諸国は中米域内統合を加速しており、日本はメキシコ南部及び中米諸国の開発計画「プエブラ・パナマ計画」支援など、中米統合に資する広域的な支援の実施を柱の一つとする。 ニカラグアは日本と友好関係があり、日本は内戦後の平和構築、民主主義の安定において、またハリケーン・ミッチで強力な支援をするなど、主要ドナー国として対ニカラグア支援をしてきた。その立場から、新政権による内政、経済、外交政策の展開に関心があり、見直しが行われる国家開発計画の内容、援助協調に対する新政権の姿勢にも注目するとしている。 具体的な援助の重点分野としては、①「農業・農村開発」。零細農業や、中小農家に対する生産活動への支援。農業基盤整備、農民組織の育成、維持管理技術移転など②「保健・医療」。子供の健康、母子保健、感染症対策など③「教育」。初等教育での就学率の改善、教育の質の向上④「道路・交通インフラ整備」。基礎的経済インフラ⑤「民主化支援」。政治・経済の安定のための支援、制度改革、ガバナンスの向上など⑥「防災」。治水、砂防、河川流域管理など。 06 年度のニカラグアへの無償資金協力は 13.83 億円で、ボアコ病院建設計画や国道7号線主要橋梁架け替えなどを実施。技術協力は 9.90 億円で、保健医療、畜産、林業などの分野で行った。06 年度までの実績は円借款 210.79 億円、債務免除 129.11 億円、無償資金協力 631.41 億円、技術協力 158.68 億円。国別の支援規模では、99 年に2位、00 年に1位、01 年に3位、02 年に4位。05 年にはまた4位に浮上した。

です。これに抗議する住民は脅迫を受け、実際に危害を加えられる事件も起こっています。北海道での先住民

族サミットに参加したロス・カニンガムさんはワスパンでワンキ・タグニというNGOの代表をしていますが、

反対派住民の運動を組織しようとしたために度重なる死の脅迫を受け、避難を余儀なくされました。

自治体選挙の延期

 ヤタマの要請により、選挙管法廷は今年11月に予定されているビルウィ、ワスパン、プリンサポルカのR

AAN三つの自治体(すべてヤタマの市長)での選挙を来年 2月まで延期することを決定しました。昨年の

ハリケーンの復興が進まず、圏外に避難したした人々が投票できないため、選挙を行う状態にない、というの

がその理由です。けれども他の地域でもハリケーンの被害を受けたところはたくさんあり状況は似たり寄った

りです。この三つの自治体で選挙を行いたくない本当の理由は、ヤタマの杜撰で腐敗した自治体運営に人々の

不満が高まっており、選挙を行えば負けるからだろうと、と言われています。ビルウィではこれに住民が反対

して暴動も起き、治安が不安定になっています。

 このようにコスタの状況は非常に悪いのですが、そんな中で先住民族の権利、共有地、そして共有の財産を

守り、自治を推進しようと努力を続けているコミュニティの人々やNGOも存在します。ワンキ・タグニもそ

のひとつで、ミスキート女性を中心に先住民族女性の権利と発展を含めたコミュニティの発展のために活動を

続けているのです。

-16-

Page 17: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

-17-

先住民族女性フォーラム FIMI 1995年に中国北京で開催された第四回世界女性会議は、世界の先住民族女性が集い、先住民族の要求と

は異なる先住民族女性としての要求をまとめるスペースが開かれた最初の会議のひとつでした。北京会議で、

先住民族女性は独自の宣言を行い、先住民族女性としてのアイデンティティと権利のための闘いを明確にした

のです。そして北京会議での成果をもとに国際社会における活動を続けるために「先住民族女性フォーラム」

が1999年設立されました。

 翌2000年、ニューヨークで行われた北京+5女性会議では最初の先住民族女性フォーラムを組織した他、

多くの国連の会議に参加し、さらに2005年には第二回先住民族女性フォーラムを開催しました。

 先住民族女性組織は性と生殖に関する権利、通文化と二言語を重視した保健と教育、政治的経済的参加、天

然資源と土地の利用へのアクセス、マイクロクレジットの享受、生産活動の技能研修などの権利を回復するた

めの活動を行っているほか、先住民族領土内での自治政府や自治体にどのように参加していくかを展開してき

ました。

 先住民族としての闘いと先住民族女性の権利のための闘いは切り離すことができません。彼女たちの民族へ

の差別と社会的な排除がある限り、先住民族女性独自の権利が認められることは不可能であり、先住民族女性

としての権利を認めさせることは彼女たちが属する民族の権利を認めさせることと結びついているのです。

 しかしながら、先住民族運動の中でも性差別は存在します。男性と女性が共に参加する先住民族組織の活動

の経験では、女性たちは責任ある仕事をまかされることが少なく、女性として尊重されるために闘ってこなけ

ればなりませんでした。そして女性たちの普段の努力により、このような状況は少しずつ変わってきています。

何人かの男性指導者は女性独自の視点を尊重するようになっています。今日、女性市長や女性議員も出ていま

す。エクアドルでは先住民族女性が外務省長官に任命されました。また、国連の場では先住民族常設パネルの

議長は女性(北海道先住民族サミットにも参加したビクトリア・タウリさん)です。

 FIMI の活動には、以下の三つの柱があります。

 1.国際社会において先住民族女性が声を上げ、それを広げてゆくこと 先住民族女性の主張や要求を訴えるために、国連の場や、地域での会議などの開催を支援します。また

国連先住民族に関する常設フォーラムの勧告が実施されているかどうかのモニターを行い、先住民族女性

の権利についてメディアや集会などを通じて広く宣伝します。また、北京会議で作られた行動綱領のフォ

ローアップの活動にも参加しています。

 2.地域における先住民族女性の組織を強化すること FIMI に参加する組織・個人に公共政策において有効に参加していくための情報を提供します。またジェ

ンダーと先住民族コミュニティが直面している具体的な問題を共有し議論するためのスペースを提供しま

す。また、人権と先住民族の権利、女性の権利について分析し意見交換する場を提供します。

 3.先住民族女性と非先住民族女性の運動をつなげること フェミニズム運動は、女性が社会に参加するうえで多くの成果をあげてきました。が、そのフェミニズ

ム運動の中でも偏見や女性の間の溝が存在します。文化的社会的な違いを無視して女性の解放の形は一つ

である、とする考え方も存在します。最大の課題は、先住民族女性の展望も包含されたフェミニストとし

ての多様なアイデンティティを創造することです。女性の中にも社会的、経済的な格差があるということ

を認めるだけでなく、長い植民地支配によってもたらされた民族による格差があることも認めなければな

らないのです。FIMI はフェミニズム運動がこの女性の間の文化的、民族的、経済的多様性の視点を取り

込むように活動します。

Page 18: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

先住民族の権利に関する国際連合宣言(仮訳)国連総会第 61会期 2007 年 9月 13 日採択(国連文書 A/RES/61/295 付属文書)

 総会は、国際連合憲章の目的および原則、ならびに憲章に従い国家が負っている義務の履行における信義誠実に導かれ、

 すべての民族が異なることへの権利、自らを異なると考える権利、および異なる者として尊重される権利を有することを承認するとともに、先住民族が他のすべての民族と平等であることを確認し、

すべての民族が、人類の共同遺産を成す文明および文化の多様性ならびに豊かさに貢献することもまた確認し、

 民族的出自または人種的、宗教的、民族的ならびに文化的な差異を根拠として民族または個人の優越を基盤としたり、主唱するすべての教義、政策、慣行は、人種差別主義であり、科学的に誤りであり、法的に無効であり、道義的に非難すべきであり、社会的に不正であることをさらに確認し、

 先住民族は、彼/女らの権利の行使において、いかなる種類の差別からも自由であるべきことをまた再確認し、

 先住民族は、とりわけ、彼/女らの植民地化と彼/女らの土地、領域および資源の奪取の結果、歴史的な不正義によって苦しみ、したがって特に、彼/女ら自身のニーズ(必要性)と利益に従った発展に対する彼/女らの権利を彼/女らが行使することを妨げられてきたことを懸念し、

 先住民族の政治的、経済的および社会的構造と、彼/女らの文化、精神的伝統、歴史および哲学に由来する彼/女らの生得の権利、特に土地、領域および資源に対する彼/女らの権利を尊重し促進させる緊急の必要性を認識し、

 条約や協定、その他の国家との建設的取決めで認められた先住民族の権利を尊重し促進する緊急の必要性をさらに認識し、

 先住民族が、政治的、経済的、社会的および文化的向上のために、そしてあらゆる形態の差別と抑圧に、それが起こる至る所で終止符を打つために、自らを組織しつつあるという事実を歓迎し、

 先住民族とその土地、領域および資源に影響を及ぼす開発に対する先住民族による統制は、彼/女らが、自らの制度、文化および伝統を維持しかつ強化すること、そして彼/女らの願望とニーズ(必要性)に従った発展を促進することを可能にすると確信し、 先住民族の知識、文化および伝統的慣行の尊重は、持続可能で衡平な発展と環境の適切な管理に寄与することもまた認識し、

 先住民族の土地および領域の非軍事化の、世界の諸国と諸民族の間の平和、経済的・社会的進歩と発展、理解、そして友好関係に対する貢献を強調し、

 先住民族の家族と共同体が、子どもの権利と両立させつつ、彼/女らの子どもの養育、訓練、教育および福利について共同の責任を有する権利を特に認識し、

 国家と先住民族との間の条約、協定および建設的な取決めによって認められている権利は、状況によって、国際的な関心と利益、責任、性格の問題であることを考慮し、

 条約や協定、その他の建設的な取決め、ならびにそれらが示す関係は、先住民族と国家の間のより強固なパートナーシップの基礎であることもまた考慮し、

 国際連合憲章、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、そして市民的及び政治的権利に関する国際規約、ならびにウィーン宣言および行動計画が、すべての民族の自決の権利ならびにその権利に基づき、彼/女らが自らの政治的地位を自由に決定し、自らの経済的、社会的および文化的発展を自由に追求することの基本的な重要性を確認していることを是認し、

 本宣言中のいかなる規定も、どの民族に対しても、国際法に従って行使されるところの、その自決の権利を否認するために利用されてはならないことを心に銘記し、

 本宣言で先住民族の権利を承認することが、正義と民主主義、人権の尊重、非差別と信義誠実の原則に基づき、国家と先住民族の間の調和的および協力的な関係の向上につながることを確信し、

 国家に対し、先住民族に適用される国際法文書の下での、特に人権に関連する文書に関するすべての義務を、関係する民族との協議と協力に従って、遵守しかつ効果的に履行することを奨励し、

-18-

Page 19: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

 国際連合が先住民族の権利の促進と保護において演じるべき重要かつ継続する役割を有することを強調し、

 本宣言が、先住民族の権利と自由の承認、促進および保護への、そしてこの分野における国際連合システムの関連する活動を展開するにあたっての、更なる重要な一歩前進であることを信じ、

 先住民族である個人は、差別なしに、国際法で認められたすべての人権に対する権利を有すること、およびその民族としての存立や福祉、統合的発展にとって欠かすことのできない集団としての権利を保有していることを認識かつ再確認し、

 先住民族の状況が、地域や国によって異なること、ならびに国および地域的な特性の重要性と、多様な歴史的および文化的背景が考慮されるべきであることもまた認識し、

 以下の、先住民族の権利に関する国際連合宣言を、パートナーシップと相互尊重の精神の下で、達成を目指すべき基準として厳粛に宣言する。

第 1条 先住民族は、集団または個人として、国際連合憲章、世界人権宣言および国際人権法に認められたすべての人権と基本的自由の十分な享受に対する権利を有する。

第 2条 先住民族および個人は、自由であり、かつ他のすべての民族および個人と平等であり、さらに、自らの権利の行使において、いかなる種類の差別からも、特に彼/女らの先住民族としての出自あるいはアイデンティティ(帰属意識)に基づく差別からも自由である権利を有する。

第 3条 先住民族は、自決の権利を有する。この権利に基づき、先住民族は、自らの政治的地位を自由に決定し、ならびにその経済的、社会的および文化的発展を自由に追求する。

第 4条 先住民族は、彼/女らの自決権の行使において、このような自治機能の財源を確保するための方法と手段を含めて、彼/女らの内部的および地方的問題に関連する事柄における自律あるいは自治に対する権利を有する。

第 5条 先住民族は、国家の政治的、経済的、社会的および文化的生活に、彼/女らがそう選択すれば、完全に参加する権利を保持する一方、彼/女らの独自の政治的、法的、経済的、社会的および文化的制度を維持しかつ強化する権利を有する。

第 6条 すべての先住民族である個人は、国籍/民族籍に対する権利を有する。

第 7条 1. 先住民族である個人は、生命、身体および精神的一体性、自由ならびに安全に対する権利を有する。 2. 先住民族は、独自の民族として自由、平和および安全のうちに生活する集団的権利を有し、集団からの別の集団への子ども  の強制的引き離しを含む、ジェノサイド(集団虐殺)行為または他のあらゆる暴力行為にさらされてはならない。

第 8条 1. 先住民族およびその個人は、強制的な同化または文化の破壊にさらされない権利を有する。 2.  国家は以下の行為について防止し、是正するための効果的な措置をとる:  (a) 独自の民族としての彼/女らの一体性、彼/女らの文化的価値観あるいは民族的アイデンティティ(帰属意識)を剥奪   する目的または効果をもつあらゆる行為。  (b) 彼/女らからその土地、領域または資源を収奪する目的または効果をもつあらゆる行為。  (c) 彼/女らの権利を侵害したり損なう目的または効果をもつあらゆる形態の強制的な住民移転。  (d) あらゆる形態の強制的な同化または統合。  (e) 彼/女らに対する人種的または民族的差別を助長または扇動する意図をもつあらゆる形態のプロパガンダ(宣伝)。

第 9条 先住民族およびその個人は、関係する共同体または民族の伝統と慣習に従って、先住民族の共同体または民族に属する権利を有する。いかなる種類の不利益もかかる権利の行使から生じてはならない。

第 10条 先住民族は、彼/女らの土地または領域から強制的に移動させられない。関係する先住民族の自由で事前の情報に基づく合意なしに、また正当で公正な補償に関する合意、そして可能な場合は、帰還の選択肢のある合意の後でなければ、いかなる転住も行わ

-19-

Page 20: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

れない。

第 11条 1. 先住民族は、彼/女らの文化的伝統と慣習を実践しかつ再活性化する権利を有する。これには、考古学的および歴史的な遺跡、  加工品、意匠、儀式、技術、視覚芸術および舞台芸術、そして文学のような過去、現在および未来にわたる彼/女らの文化的  表現を維持し、保護し、かつ発展させる権利が含まれる。 2. 国家は、彼/女らの自由で事前の情報に基づく合意なしに、また彼/女らの法律、伝統および慣習に違反して奪取された彼  /女らの文化的、知的、宗教的および霊的(スピリチュアル)な財産に関して、先住民族と連携して策定された効果的な仕組  みを通じた、原状回復を含む救済を与える。

第 12条 1.  先住民族は、彼/女らの精神的および宗教的伝統、慣習、そして儀式を表現し、実践し、発展させ、教育する権利を有し、  彼/女らの宗教的および文化的な遺跡を維持し、保護し、そして私的にそこに立ち入る権利を有し、儀式用具を使用し管理す  る権利を有し、遺骸/遺骨の返還に対する権利を有する。 2. 国家は、関係する先住民族と連携して公平で透明性のある効果的措置を通じて、儀式用具と遺骸/遺骨のアクセスおよび/  または返還を可能にするよう努める。

第 13条 1. 先住民族は、彼/女らの歴史、言語、口承伝統、哲学、表記方法および文学を再活性化し、使用し、発展させ、そして未来  の世代に伝達する権利を有し、ならびに彼/女ら独自の共同体名、地名、そして人名を選定しかつ保持する権利を有する。 2. 国家は、この権利が保護されることを確保するために、必要な場合には通訳の提供または他の適切な手段によって、政治的、  法的、行政的な手続きにおいて、先住民族が理解できかつ理解され得ることを確保するために、効果的措置をとる。第 14条 1. 先住民族は彼/女らの文化的な教育法および学習法に適した方法で、彼/女ら独自の言語で教育を提供する教育制度および  施設を設立し、管理する権利を有する。 2. 先住民族である個人、特に子どもは、国家によるあらゆる段階と形態の教育を、差別されずに受ける権利を有する。 3. 国家は、先住民族と連携して、彼/女らの共同体の外に居住する者を含め先住民族である個人、特に子どもが、可能な場合  に、彼/女ら独自の文化および言語による教育に対してアクセスできるよう、効果的措置をとる。

第 15条 1. 先住民族は、教育および公共情報に適切に反映されるべき彼/女らの文化、伝統、歴史および願望の尊厳ならびに多様性に  対する権利を有する。 2.  国家は、関係する先住民族と連携および協力して、偏見と闘い、差別を除去し、先住民族および社会の他のすべての成員  の間での寛容、理解および良好な関係を促進するために、効果的措置をとる。

第 16条 1.  先住民族は、彼/女ら自身のメディアを彼/女ら自身の言語で設立し、差別されずにあらゆる形態の非先住民族メディア へアクセスする権利を有する。 2.  国家は、国有のメディアが先住民族の文化的多様性を正当に反映することを確保するため、効果的措置をとる。国家は、   完全な表現の自由の確保を損なうことなく、民間のメディアが先住民族の文化的多様性を十分に反映することを奨励すべきで  ある。

第 17条 1.   先住民族である個人および先住民族は、適用される国際および国内労働法の下で確立されたすべての権利を全面的に享受  する権利を有する。 2.   国家は、先住民族の子どもたちを経済的搾取から保護され、および危険性があり、もしくは子どもの教育を阻害したり、   子どもの健康もしくは肉体的または精神的、霊的(スピリチュアル)、道徳的もしくは社会的な発達に対して有害であると思  われるようないかなる労働にも従事しないよう保護するため、彼/女らが特に弱い存在であることと、彼/女らのエンパワメ  ント(力づけ)のために教育が重要であることを考慮に入れつつ、先住民族と連携および協力し特別な措置をとる。 3.  先住民族である個人は、労働や、特に雇用、または給与のいかなる差別的条件にも従わせられない権利を有する。

第 18条 先住民族は、彼/女らの権利に影響を及ぼす事柄における意思決定に、彼/女ら自身の手続きに従い自ら選んだ代表を通じて参加し、先住民族固有の意思決定制度を維持しかつ発展させる権利を有する。

第 19条 国家は、先住民族に影響を及ぼし得る立法的または行政的措置を採択し実施する前に、彼/女らの自由で事前の情報に基づく合意を得るため、その代表機関を通じて、当該の先住民族と誠実に協議し協力する。

第 20条 1. 先住民族は、彼/女らの政治的、経済的および社会的制度または機関を維持しかつ発展させる権利、生存および発展の独自

-20-

Page 21: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

 の手段の享受が確保される権利、ならびに彼/女らのすべての伝統的その他の経済活動に自由に従事する権利を有する。2. 自らの生存および発展の手段を剥奪された先住民族は、公正かつ公平な救済を得る権利を有する。

第 21条 1. 先住民族は、特に、教育、雇用、職業訓練および再訓練、住宅、衛生、健康、ならびに社会保障の分野を含めて、自らの経  済的および社会的条件の改善に対する権利を差別なく有する。 2. 国家は、彼/女らの経済的および社会的条件の継続した改善を確保すべく効果的な措置および、適切な場合は、特別な措置  をとる。先住民族の高齢者、女性、青年、子ども、および障害のある人々の権利と特別なニーズ(必要性)に特別な注意が払  われる。

第 22条 1. この宣言の実行にあたって、先住民族の高齢者、女性、青年、子ども、そして障害のある人々の権利と特別なニーズ(必要  性)に特別の注意が払われる。 2. 国家は、先住民族と連携して、先住民族の女性と子どもがあらゆる形態の暴力と差別に対する完全な保護ならびに保障を享  受することを確保するために措置をとる。

第 23条 先住民族は、発展に対する彼/女らの権利を行使するための優先事項および戦略を決定し、発展させる権利を有する。特に、先住民族は、彼/女らに影響を及ぼす健康、住宅、その他の経済的および社会的計画を展開し決定することに積極的に関わる権利を有し、可能な限り、彼/女ら自身の制度を通じてそのような計画を管理する権利を有する。

第 24条 1.   先住民族は、必要不可欠な医療用の動植物および鉱物の保存を含む、彼/女らの伝統医療および保健の実践を維持する権  利を有する。先住民族である個人は、また、社会的および保健サービスをいかなる差別もなく利用する権利を有する。 2.  先住民族である個人は、到達し得る最高水準の身体的および精神的健康を享受する平等な権利を有する。国家はこの権利  の完全な実現を漸進的に達成するため、必要な措置をとる。

第 25条 先住民族は、彼/女らが伝統的に所有もしくはその他の方法で占有または使用してきた土地、領域、水域および沿岸海域、その他の資源との彼/女らの独特な精神的つながりを維持し、強化する権利を有し、これに関する未来の世代に対する彼/女らの責任を保持する権利を有する。

第 26条 1.   先住民族は、彼/女らが伝統的に所有し、占有し、またはその他の方法で使用し、もしくは取得してきた土地や領域、資  源に対する権利を有する。 2.   先住民族は、彼/女らが、伝統的な所有権もしくはその他の伝統的な占有または使用により所有し、あるいはその他の方 法で取得した土地や領域、資源を所有し、使用し、開発し、管理する権利を有する。 3.   国家は、これらの土地と領域、資源に対する法的承認および保護を与える。そのような承認は、関係する先住民族の慣習、  伝統、および土地保有制度を十分に尊重してなされる。

第 27条 国家は、関係する先住民族と連携して、伝統的に所有もしくは他の方法で占有または使用されたものを含む先住民族の土地と領域、資源に関する権利を承認し裁定するために、公平、独立、中立で公開された透明性のある手続きを、先住民族の法律や慣習、および土地保有制度を十分に尊重しながら設立し、かつ実施する。先住民族はこの手続きに参加する権利を有する。

第 28条 1. 先住民族は、彼/女らが伝統的に所有し、または占有もしくは使用してきた土地、領域およ  び資源であって、彼/女ら  の自由で事前の情報に基づいた合意なくして没収、収奪、占有、使用され、または損害を与えられたものに対して、原状回復  を含む手段により、またはそれが可能でなければ正当、公正かつ衡平な補償の手段により救済を受ける権利を有する。 2. 関係する民族による自由な別段の合意がなければ、補償は、質、規模および法的地位において同等の土地、領域および資源  の形態、または金銭的な賠償、もしくはその他の適切な救済の形をとらねばならない。

第 29条 1. 先住民族は、彼/女らの土地、領域および資源の環境ならびに生産能力の保全および保護に対する権利を有する。国家は、  そのような保全および保護のための先住民族のための支援計画を差別なく作成し実行する。 2. 国家は、先住民族の土地および領域において彼/女らの自由で事前の情報に基づく合意なしに、有害物質のいかなる貯蔵お  よび廃棄が行われないことを確保するための効果的な措置をとる。 3.  国家はまた、必要な場合に、そのような物質によって影響を受ける民族によって策定されかつ実施される、先住民族の健  康を監視し、維持し、そして回復するための計画が適切に実施されることを確保するための効果的な措置をとる。

-21-

Page 22: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

第 30条 1. 関連する公共の利益によって正当化されるか、もしくは当該の先住民族による自由な合意または要請のある場合を除いて、  先住民族の土地または領域で軍事活動は行われない。 2. 国家は、彼/女らの土地や領域を軍事活動で使用する前に、適切な手続き、特に彼/女らの代表機関を通じて、当該民族と  効果的な協議を行う。

第 31条 1. 先住民族は、人的・遺伝的資源、種子、薬、動物相・植物相の特性についての知識、口承伝統、文学、意匠、スポーツおよ  び伝統的競技、ならびに視覚芸術および舞台芸術を含む、自らの文化遺産および伝統的文化表現ならびに科学、技術、および  文化的表現を保持し、管理し、保護し、発展させる権利を有する。先住民族はまた、このような文化遺産、伝統的知識、伝統  的文化表現に関する自らの知的財産を保持し、管理し、保護し、発展させる権利を有する。 2. 国家は、先住民族と連携して、これらの権利の行使を承認しかつ保護するために効果的な措置をとる。

第 32条 1. 先住民族は、彼/女らの土地または領域およびその他の資源の開発または使用のための優先事項および戦略を決定し、発展  させる権利を有する。 2. 国家は、特に、鉱物、水または他の資源の開発、利用または採掘に関連して、彼/女らの土地、領域および他の資源に影響 を及ぼすいかなる事業の承認にも先立ち、彼/女ら自身の代表機関を通じ、彼/女らの自由で情報に基づく合意を得るため、当 該先住民族と誠実に協議かつ協力する。 3. 国家は、そのようないかなる活動についての公正かつ公平な救済のための効果的仕組みを提供し、環境的、経済的、社会的、  文化的または霊的(スピリチュアル)な負の影響を軽減するために適切な措置をとる。

第 33条 1. 先住民族は、彼/女らの慣習および伝統に従って、彼/女らのアイデンティティ(帰属意識)もしくは構成員を決定する集  団としての権利を有する。このことは、先住民族である個人が、彼/女らの住む国家の市民権を取得する権利を害しない。 2. 先住民族は、彼/女ら自身の手続きに従って、彼/女らの組織の構造を決定しかつその構成員を選出する権利を有する。

第 34条 先住民族は、国際的に承認された人権基準に従って、彼/女らの組織構造および彼/女らの独自の慣習、精神性、伝統、手続き、慣行、および存在する場合には司法制度または慣習を促進し、発展させ、かつ維持する権利を有する。

第 35条 先住民族は、自らの共同体に対する個人の責任を決定する権利を有する。

第 36条 1. 先住民族、特に国境によって分断されている先住民族は、霊的(スピリチュアル)、文化的、政治的、経済的および社会的  な目的のための活動を含めて、国境を越えて他の民族だけでなく自民族の構成員との接触、関係および協力を維持しかつ発展  させる権利を有する。 2. 国家は、先住民族と協議および協力し、この権利の行使を助長し、この権利の実施を確保するための効果的な措置をとる。

第 37条 1. 先住民族は、国家またはその継承者と締結した条約、協定および他の建設的取決めを承認し、遵守させ、実施させる権利を  有し、また国家にそのような条約、協定および他の建設的取決めを遵守し、かつ尊重させる権利を有する。 2. この宣言のいかなる規定も、条約や協定、建設的な取決めに含まれている先住民族の権利を縮小または撤廃するものと解さ  れてはならない。

第 38条 国家は、本宣言の目的を遂行するために、先住民族と協議および協力して、立法措置を含む適切な措置をとる。

第 39条 先住民族は、本宣言に掲げる権利の享受のために、国家からおよび国際協力を通じての資金的および技術的な援助を利用する権利を有する。

第 40条 先住民族は、国家もしくはその他の主体との紛争および争議の解決のための相互に公正かつ公平な手続きを利用し、迅速な決定を受ける権利を有し、また彼/女らの個人的および集団的権利のすべての侵害に対する効果的な救済を受ける権利を有する。そのような決定には、当該先住民族の慣習、伝統、規則、法制度および国際人権を十分に考慮しなければならない。

第 41条 国際連合システムの機関および専門機関ならびにその他の政府間機関は、特に、資金協力および技術援助の動員を通じて、本宣言の条項の完全実現に寄与するものとする。先住民族に影響を及ぼす問題に関して、彼/女らの参加を確保する方法と手段を確立

-22-

Page 23: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

する。

第 42条 国際連合および先住民族問題に関する常設フォーラムを含む国連機関、各国に駐在するものを含めた専門機関ならびに国家は、本宣言の条項の尊重および完全適用を促進し、この宣言のフォローアップ(あとあとまで責任をもって見届け、措置を講ずること)を行う。

第 43条 本宣言で認められている権利は、世界の先住民族の生存、尊厳および福利のための最低限度の基準をなす。

第 44条 ここに承認されているすべての権利と自由は、男性と女性の先住民族である個人に等しく保障される。

第 45条 本宣言中のいかなる規定も、先住民族が現在所有している、もしくは将来取得し得る権利を縮小あるいは消滅させると解釈されてはならない。第 46条 1. 本宣言のいかなる規定も、いずれかの国家、集団あるいは個人が、国際連合憲章に反する活動に従事したり、またはそのよ  うな行為を行う権利を有することを意味するものと解釈されてはならず、もしくは、主権独立国家の領土保全または政治的統  一を全体的または部分的に、分断しあるいは害するいかなる行為を認めまたは奨励するものと解釈されてはならない。 2. 本宣言で明言された権利の行使にあたっては、すべての者の人権と基本的自由が尊重される。本宣言に定める権利の行使は、  法律によって定められかつ国際人権上の義務に従った制限にのみ従う。そのような制限は無差別のものであり、他者の権利と  自由への相応の承認と尊重を確保する目的であって、民主的な社会の公正でかつもっとも切実な要求に合致するためだけに厳  密に必要なものでなければならない。 3. 本宣言に定められている条項は、人権、平等、非差別、よき統治、および良心の尊重の原則に従って解釈される。

【市民外交センター仮訳暫定版 2007 年 12 月 15日】

本仮訳は、手島武雅氏(市民外交センター)による「先住民族の権利に関する国際連合宣言(案)訳」(1994 年国連差別防止・少数者保護小委員会<通称:人権小委員会>において合意。国連文書 E/CN.4/Sub.2/1994/2/Add.1)を土台とし、北海道ウタリ協会が作成した「先住民族の権利に関する国際連合宣言仮訳」(2006 年 6月人権理事会採択)を参考にして作成したものです。北海道ウタリ協会に記して謝意を表します。

-23-

Page 24: グアテマラ・ニカラグア資料集 - APC征服以前 現在グアテマラが位置する地域には、16 世紀にスペイン人に征服される以前は、マヤ 文明が栄えていました。古代マヤ文明はだい

 日本ラテンアメリカ協力ネットワーク ( レコム ) は、中南米、カリブ地域において社会的、経済的に困難な状況におかれている人々、そしてそれをはねかえすために運動をしている人々とのネットワークを築き、相互理解を深めると共に、直接あるいは間接的に支援することを目的としています。同時に活動のなかで、自分たちの生きる「日本」という社会と世界を見つめ直すことにより、新たな価値観、社会を構築していくことの重要性も忘れることはできないと考えています。 1992 年に設立されてからこれまで、ラテンアメリカ・カリブの人々に対し、直接・間接に支援活動を展開してきました。特に中米グアテマラに対してはレコム設立当初から、日本の人々に現状を伝えるスピーキング・ツアー、現地の政府などに人権擁護を訴えるはがきキャンペーン、意見広告、コミュニティ強化のための研修事業、地域住民参加型の持続的開発プロジェクトなどの協力を続けてきています。

レコムの活動1. 人々の動きを伝えるために☞中南米情報誌「そんりさ」: 年 6回発行。ラテンアメリカのニュースや時事分析をビビッドに伝えます。音楽や映画評も。☞スピーキング・ツアーや講演会 :他の団体とも協力して、ラテンアメリカの民衆運動のリーダーや人権活動家などを日本に招いています。グアテマラからは、先住民族女性組織コナビグア ( 連れあいを奪われた女性たちの会 )、先住民族農民組織コニック ( グアテマラ先住民族農民全国調整委員会 )、先住民族人権擁護組織デフェンソリア・マヤ(マヤの権利を守る会)の代表や、環境保全に取り組むサンティアゴ・アティトラン市の市長らを、ニカラグアからは女性組織やカリブ自治地域大学の代表を、さらにハイチの人権活動家もお迎えしました。☞Webページの公開:http://www.jca.apc.org/recom ☞公開講座の開催☞グアテマラやニカラグアに関する資料集を発行

2. 現地を知るためにスタディツアー「人々と出会う旅」の実施など。これまでにグアテマラやニカラグアなど多数の「旅」を実施しました。

3. つながりを広く深くするために国内外で関心を抱く人々のネットワーク作り・強化を行っています。

4. 支えるために☞人権状況の改善を求める活動:グアテマラの人権状況を国際社会が監視していることを示すため、現地新聞に意見広告を掲載したり、グアテマラ政府への抗議ハガキの送付などを行っています。 ☞災害などの緊急支援:1998 年にハリケーン・ミッチで大被害が出たニカラグアに、2005 年にはハリケーン・スタン被害を受けたグアテマラに、緊急支援を送りました。☞民衆運動の支援:前述のコナビグアやコニックなどを支援しています。ニカラグアでは、大西洋岸自治地域における自治プロセス支援の一環として地域自治大学の支援を行いました。☞プロジェクト支援:グアテマラ・イサバル県での農業技術普及チームや、アティトラン湖の環境プロジェクト、女性参加のための研修プロジェクトなどを支援してきました。

 こうした活動はレコム会員の「意志」と「参加」によって支えられいます。皆さんがそれぞれの生きる場所から、それぞれのスタイルで中南米そしてカリブの人々とつながってくれることを期待します。まずはここから……

1. レコムの活動に参加してみよう!会報誌「そんりさ」の発送作業を2ヶ月に1回、関西と東京で交代で行っています。新しい出会いと終了後の交流を楽しみませんか? ラテンアメリカ関連の書籍・ビデオも豊富に集めており、閲覧が可能です。(貸出は会員のみ)

2. 会員 ( もしくはそんりさ購読者 ) になろう!3. 寄付をしよう!  当会運営資金のカンパ、グアテマラ基金への寄付4. 人々と出会う旅へ参加してみよう!

 そして、ラテンアメリカの現地で自らプロジェクトを立ち上げることもできるかもしれません……。

日本ラテンアメリカ協力ネットワーク ( レコム )Red de Cooperación Mutua entre Japón y America Latina(RECOM)

会員、購読者募集 ☆会員 年 8000 円(学生 5000 円)  …会の運営、総会での投票、『そんりさ』購読 , 資料閲覧・貸出 ☆賛助会員 年 1万円(一口)  …資料閲覧・貸し出し、『そんりさ』購読、総会への参加 ☆『そんりさ』購読者 年 4000 円  …『そんりさ』の購読、メーリングリスト参加運営資金のカンパ、会費の振込はこちらまで ☆郵便振替口座: 00110-7-567396  日本ラテンアメリカ協力ネットワーク

レコムが支援するグアテマラの団体へのカンパ 郵便振替  口座名 「グアテマラ基金」       口座番号 00100-6-664427寄付金の全額を海外の事業に振り向けています。領収書の発行は省略させて頂いていますが、必要な方はその旨お書き添えください。

日本ラテンアメリカ協力ネットワーク(レコム)Red de Cooperación Mutua entre Japón y America Latina〒 781-1611 高知県吾川郡仁淀川町岩丸 900 栗田方Tel/Fax [email protected]://www.jca.apc.org/recom/

-24-