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-1- 2005年 仙台会場 教育カウンセラー養成講座 2005.1.9 【グレードアップ講座】 ピアサポート・ヘルピング -サイコエジュケーション(ソーシャルスキルやグループワークのトレーニングの活用)を通して- 柴田郡柴田町立東船岡小学校 校長 山田 幸文 1.ピアサポートとは ピア(仲間)サポートとは,子どもたちが他の子どもをサポートする活動である。 ピアサポートは,友達との関係,孤独,進路,性に関する悩みなどの %を子ども 80 同士で相談し解決しているという調査結果をもとに,カナダのスクールカウンセラーの 活動として生まれた。つまり,子どもたちが友達として,お互いの悩みをきちんと受け 止め,解決していく力をつけることができれば,不適応を示す子どもたちが少なくなる のではないかという考えである。 日本では,いじめを受けて悩む子,登校をしぶる子,友達関係をうまく結べない子に 対して,トレーニングを受けた子どもたちが仲間として援助していくピアサポート活動 が,教育関係者に注目され,早いスピードでの普及が進んでいる。 ピアサポートを始めよう ・ピアサポートとは,仲間(ピア)を,援助(サポート)する活動です。 そのために必要となる技能(スキル)を身に付けるためにトレーニング をします。カナダやアメリカ,イギリスで行われているもので,話の聴 き方や,問題が起こったときの解決の仕方などを楽しく学んでいきます。 次のような人を,お待ちしています。 こんな人を募集しています 《旅の道連れ人》 * ピアサポート活動に興味がある人 * 困っている友達の力になりたいという気持ちのある人 * 思いやりのある学級にしたいと思っている人 * 友達といい関係をつくっていきたい人 * 自分を変えてみたい,自分の心を見つめてみたい人 トレーニングメニューについては… 「ピアサポート」 森川澄男監修 (ほんの森出版) 「ピアヘルパー」 日本カウンセラー協会編 (図書文化) 参照

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Page 1: ピアサポート・ヘルピングtunakawa/higa/peersuport.pdf論とアドラーをはじめとする成長心理学をベースにしている。 基本的なプロセスは次のとおりである。

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2005年 仙台会場教育カウンセラー養成講座

2005.1.9【グレードアップ講座】

ピアサポート・ヘルピング-サイコエジュケーション(ソーシャルスキルやグループワークのトレーニングの活用)を通して-

柴田郡柴田町立東船岡小学校

校長 山 田 幸 文

1.ピアサポートとは

ピア(仲間)サポートとは,子どもたちが他の子どもをサポートする活動である。

ピアサポートは,友達との関係,孤独,進路,性に関する悩みなどの %を子ども80同士で相談し解決しているという調査結果をもとに,カナダのスクールカウンセラーの

活動として生まれた。つまり,子どもたちが友達として,お互いの悩みをきちんと受け

止め,解決していく力をつけることができれば,不適応を示す子どもたちが少なくなる

のではないかという考えである。

日本では,いじめを受けて悩む子,登校をしぶる子,友達関係をうまく結べない子に

対して,トレーニングを受けた子どもたちが仲間として援助していくピアサポート活動

が,教育関係者に注目され,早いスピードでの普及が進んでいる。

ピアサポートを始めよう

・ピアサポートとは,仲間(ピア)を,援助(サポート)する活動です。

そのために必要となる技能(スキル)を身に付けるためにトレーニング

をします。カナダやアメリカ,イギリスで行われているもので,話の聴

き方や,問題が起こったときの解決の仕方などを楽しく学んでいきます。

次のような人を,お待ちしています。

こんな人を募集しています 《旅の道連れ人》。

* ピアサポート活動に興味がある人

* 困っている友達の力になりたいという気持ちのある人

* 思いやりのある学級にしたいと思っている人

* 友達といい関係をつくっていきたい人

* 自分を変えてみたい,自分の心を見つめてみたい人

● トレーニングメニューについては…

「ピアサポート」 森川澄男監修 (ほんの森出版)

「ピアヘルパー」 日本カウンセラー協会編 (図書文化) 参照

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(1)心理教育的援助サービスとピアサポート活動

心理教育的援助サービス:学校教育において,一人一人の児童・生徒が出会う学

習面,心理・社会面,進路面,健康面における問題の

解決を援助し,成長することを促進すること。

3段階の援助 援助の基本 ピアサポートの活動例

促進的・予防的援 ・環境づくり (いじめ防止キャンペー1次的援助サービス 。

対象:すべての子ども 助。日々のかかわり ンなど)

と行事を通しての能 ・お兄さんお姉さん活動をする (オリ。

入学時の適応,学習 力の開発,集団への エンテーション,異年齢交流,縦割り

スキル,対人関係スキ 援助 活動など)

・仲間関係を活性化する。

・仲間を大切にしたグループ運営。

・子どもたちの関心事に対するガイダン

スを行う (学習・進路・悩み・健康)。

・協同学習を行う。

一部の子どもたちの ・仲間間で問題を解決する。2次的援助サービス

対象:一部の子ども 援助ニーズの早期発 ・個人の悩みの相談を受ける。

見と予防的かかわり ・個別の援助(仲間づくり,学習)を行

登校しぶり,学習意欲 う。

の低下など ・気になる子どもを見つけ,相談にのっ

たり,他の援助者につなげる。

チームによる援助, ・スーパーバイザーの指導のもとで,タ3次的援助サービス

対象:特定の子ども 個別教育計画の作成 ーゲットになる子どもの援助を行う。

と実施

LD,ADHD,非行

など

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(2)ピアサポート・トレーニングの効果

対 象 トレーニングの効果

・自尊感情の高まり

・思いやり行動の増加

トレーニングを受けた ・対人関係スキルの向上

子ども ・問題解決能力の向上

・リーダーの役割を担う

・人を信用する心が育つ

・自己の支えを形成する

・良好な友達関係を築く

他の子ども・学級 ・サポートしてくれる仲間の増加

・良好な友達関係

・子ども理解の深まり

トレーナー ・子どもの持つ力への信頼が高まる

(指導者) ・子どもとの信頼関係の形成

・援助チームの形成(教職員内やSCとの連携)

・援助ニーズの早期発見とチームによる個別援助

・心理教育的援助サービスの展開

・ 生きる力」の育成「

学 校 ・子どもの仲間づくりの新たな方向性への示唆

・不登校問題に対する取り組みの推進

・校内の思いやりや温かい雰囲気の醸成

(3)トレーニングを受けた子どもの感想

○ 自分も学校も友達も全てが嫌だったけど,トレーニングを受けて,大事なこと

に気付くチャンスをもらった。

○ ピアサポートは仲間を支えるためでもあるけど,自分を支えるためにもなった

○ 僕は理想のエゴグラムを目指して,人の話を 後まで聞くようになった。

○ トレーニングを受けて,いろいろなことを知ったけど,その中でも人との接し

方が変わったのが大きかったと思う。

○ 自分でも性格が変わったと気付いたし,まわりからも「性格が変わったなぁ」

と言われた。

○ 9月までにいろいろなトレーニングをし, 後にもう一度エゴグラムを書いて

みた。この数ヶ月でどれだけ変わったかということを確かめた。すると,5月に

書いたものより理想に近づき 「この数ヶ月でこんなにも変わるんだ」と本当に,

びっくりした。

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(4)ピアサポート・ヘルピングを進めるにあたって

近年,子どもたちの人間関係に弱さが目立ち,様々な問題の根幹に子どもたちの

社会性の未熟さが指摘されるなか,問題が起こってからの対処療法的な対策だけで

は問題の解決につながらないことが認識されるようになりました。

学校でも予防的・開発的な指導援助の重要性が叫ばれるようになっています。

国分康孝先生が主唱される「育てるカウンセリング」の考えや,その具体的な活

動の一つである構成的グループ・エンカウンターやソーシャル・スキル・トレーニ

ングやアサーション訓練など,グループによる体験的な活動を伴いながら,子ども

たちの人間関係能力を育て,生き生きとした学校生活をつくりだそうという活動が

着実に広がってきています。

2.サイコエジュケーション

サイコエジュケーションは,心理的なものの見方や行動の仕方を教えることであり,文

部科学省が提唱している「心の教育」そのものであると捉える。

つまり,集団に対して,心理的な考え方や行動の仕方を,能動的に教える方法である。

そのサイコエジュケーションを通して,普段から好ましい人間関係を醸成することが抜本

的解決策に結びつくと考える。好ましい人間関係を醸成するためには,ソーシャルスキル

・トレーニングやグループワーク・トレーニングなどが有効である。

, ,これらの手法を取り入れたサイコエジュケーションを実践することで 集団の機能回復

本音の交流ができる人間関係の回復,自己理解・他者理解の促進ができるものと考えた。

(1)心の教育とは

思考・感情・行動の3領域における反応の仕方が多様化することである。

例えば 「自分は冗談のつもりでも,それを言葉の暴力だと受け止める人が世の中に,

いるのだ」と気づくのが「思考における心の教育」である。あるいは,孤独感のとりこ

だった人が内観法を体験して,人生に好意の念をもち始めた場合,これは「感情におけ

る心の教育」である。さらに,また,断るすべを知らないために頼まれごとを引き受け

すぎて後悔ばかりしていた人が,相手を傷つけない上手な断り方を覚えたために快適な

人間関係がもてるようになった場合,これが「行動における心の教育」である。

これら3つの心の教育を行う方法をサイコエジュケーションという。

いまのところ,サイコエジュケーションの代表選手が,構成的グループエンカウンタ

ー,キャリアガイダンス,特別活動(グループワーク ,そしてスキル訓練(またはス)

キル教育)である。子どもにとって大事なスキル教育としては,スタディスキルとソー

シャルスキルが考えられる。

受容・共感・傾聴だけがカウンセリングではない。スキル教育は教師のできるカウン

セリングの中で特に大事なものである。思考や感情を伝えるすべ(スキル)がないと生

きるのが不便になるからである。また,スキルが身に付くと思考と感情が変化するから

である (国文康孝氏による)。

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(2)ソーシャルスキル(SST)とは

とは,日常の社会生活をうまく送るのに必要な技能のことをいう。大別social skillsすると,①状況判断(現実原則)のスキル,②対人関係のスキル,③自分個人を律する

。 , , ,スキルの3つがある 要は 様々な社会的場面において 現在のここでの状況を察知し

こうするとどうなるかといった予測のもとに,いかに他人に不快感を与えたり迷惑をか

, ,けたりせず 自分の感情をコントロールしながら適切な自己表現ができるかという能力

といえる。

(3)グループワーク・トレーニング(GWT)とは

学校での児童生徒の生活には,たくさんのグループ活動がある。グループで活動する

とき,私たち教師は「仲良くしなさい 「協力しなさい」とよく口にします。しかし,」

具体的にはどのようにすることが仲良く協力することなのか,そして,子どもたちはそ

のことが分かっているのかが疑問である。このことを体験的に学ぶプログラムがグルー

プワーク・トレーニングなのである。

GWTの理論と方法は,行動科学に基礎をおくラボラトリー・トレーニングの学習理

論とアドラーをはじめとする成長心理学をベースにしている。

基本的なプロセスは次のとおりである。

a.自分自身の態度,行動について,予想もしなかったデータ,これまで持っていた

自己像を崩壊させるようなデータに直面する。

b.自分自身に対するイメージが攪乱され,不安や恐れを感じる。

c.この不安を乗り越えるには,グループの中に,温かく支持的・許容的な雰囲気,

心理的安心感がなければならない。これをつくりだすのがファシリテーター(促

進者)いわゆる教師の役割である。

d.そのなかで,自分の態度,行動を点検し,またグループのメンバーからフィード

バックを受けて他人から見た自分の姿に気づく。

e.ありたい自分の姿をイメージしたり,モデルを見つけてその人と同一化し,自分

の中に新しい思考,感情反応,行動様式を統合する。

つまりGWTは,苦難苦行ではなく,できるだけリラックスした雰囲気の中で自分

に気づき,自ら態度,行動を変容させていくことを目的としているのである。

3 「ソーシャルスキル尺度 (河村茂雄法). 」

今の自分の行動に近い数字に○をつけてください。

4:いつもしている

数字には次のような意味があります。 3:ときどきしている

2:あまりしていない

1:ほとんどしていない

4-3-2-11.何か失敗したときに「ごめんなさい」と言っていますか ・・・・・・・・。

4-3-2-12.友達のまじめな話は,ひやかさないで聞いていますか ・・・・・・・・・。

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4-3-2-13.班活動で友達が一生懸命やって失敗したときは,許していますか ・・・・。

4-3-2-14.みんなで決めたことには,従っていますか ・・・・・・・・・・・・・・。

4-3-2-15.友達の秘密はだまっていますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

4-3-2-16.友達が何かうまくしたとき 「じょうずだね」とほめていますか ・・・・, 。

4-3-2-17.友達の気持ちを考えながら話をしていますか ・・・・・・・・・・・・・。

4-3-2-18.何か頼んだりするとき,相手に迷惑がかからないか考えていますか ・・・。

4-3-2-19.自分がしてもらいたいことを友達にしてあげていますか ・・・・・・・・。

10 4-3-2-1.みんなと同じくらい話をしていますか ・・・・・・・・・・・・・・・・。

11 4-3-2-1.うれしいときは,えがおやガッツポーズなどの身ぶりで気持ちをあらわしていますか。 ・

12 4-3-2-1.自分から友達を遊びにさそっていますか ・・・・・・・・・・・・・・・。

13 4-3-2-1.みんなのためになることは,自分でみつけて実行していますか ・・・・・。

14 4-3-2-1.友達の中心になって,何をして遊ぶかアイデアをだしていますか ・・・・。

15 4-3-2-1.自分だけ意見がちがっても,自分の意見を言っていますか ・・・・・・・。

16 4-3-2-1.何かをしてもらったときに「ありがとう」と言っていますか ・・・・・・。

17 4-3-2-1.友達が話しているときは,その話を 後まで聞いていますか ・・・・・・。

18 4-3-2-1.友達どうしでいて腹が立っても「カーッ」とした態度をとらないでいますか。 ・

19 4-3-2-1.係の自分の仕事は, 後までやりとげていますか ・・・・・・・・・・・。

20 4-3-2-1.友達との約束は,守っていますか ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

21 4-3-2-1.友達が元気のないとき,はげましていますか ・・・・・・・・・・・・・。

22 4-3-2-1.相手が傷つかないように話をしていますか ・・・・・・・・・・・・・・。

23 4-3-2-1.友達とけんかをしたときに,自分にも悪いところがないか考えますか ・・。

24 4-3-2-1.友達がなやみを話してきたら,じっくり聞いていますか ・・・・・・・・。

25 4-3-2-1.相手に聞こえるような声で話していますか ・・・・・・・・・・・・・・。

26 4-3-2-1.おもしろいときは,声を出して笑っていますか ・・・・・・・・・・・・。

27 4-3-2-1.はじめて会った人でも話をしていますか ・・・・・・・・・・・・・・・。

28 4-3-2-1.友達が楽しんでいるときに,もっと楽しくなるよう,もりあげていますか。 ・

29 4-3-2-1.係の仕事をするとき,何をどうやったらよいか意見を言っていますか ・・。

30 4-3-2-1.他の人に左右されないで,自分の考えで行動していますか ・・・・・・・。

質問番号 1 2 3 合計10 11 16 17 25 26 29 30得 ←配慮のスキル

点 ←かかわりのスキル

個人用集計表

配慮のスキル得点 かかわりのスキル得点

《 》 ,A:とても良好 67~ 43~ さんのレベルは

B:良好 63~66 40~42

C:平均的 55~62 33~39 配慮のスキルは ( )点

D:やや低い 50~54 30~32 かかわりのスキルは( )点

E:かなり低い ~49 ~29 です。

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【ポイント】

〈配慮スキル〉よりも〈かかわりスキル〉のレベルが高くなっている場合は,相手に

対する配慮よりもかかわりが過剰になっているわけだから,トラブルが生じる可能性

が高くなる。

一方,両方の得点が高い学級では,ルールが子どもたちにしっかりと共有され,そ

の上で交流が深まる。従ってよいリレーションが形成され,その結果,学級生活の満

足度も高くなる。

学級にルールを確立させるためには 〈配慮スキル〉から取り組み始めることがポ,

イントである。そして 〈配慮スキル〉のレベルに合わせて〈かかわりスキル〉を組,

み合わせ,同時に子どもたちに練習させる。

その際,子どもたちは〈かかわりスキル〉の方に関心がいきがちになるが 〈配慮,

〉 , 。スキル の意味と必要性を 初に十分説明することで 意識して取り組むようになる

4.自分の対人関係の特徴を知ろう

◎エゴグラムで,自分の対人関係の持ち方の特徴を知ろう。

◎今のまま大切にしていきたい自分と変わりたい自分をつかもう。

“心の中の5人家族”“心の中の5人家族”は,誰の心の中にもいて,様々な

状況に応じて様々な対応をする。

CP NP* ……厳しいお父さん

P* ……世話好きのお母さんNP CP

* ……知的なお兄さんA

* ……自由気ままなヤンチャ坊主FC

* ……いいたいことが言えないいい子ちゃんAC

これらそれぞれは,長所と短所をもっている。たと

えばCPの高い人は規則や規律を 重んじ,理想や目

A標に向かって進むという長所をもっているが,自分に

も他人にも厳しすぎて,人に対して支配的・威圧的に

なりやすい傾向をもつということになる。

このような“心の中の5人家族”すなわち心の中の

C5つの状態をグラフにしたのがエゴグラムである。

FC AC

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エゴグラムシート 氏名( )【 】以下の質問に,はい(○ ,どちらかというと…(△ ,いいえ(×)で答えてください。) )ただし,できるだけ○か×で答えるようにしてください。

1 間違ったことに対して,間違いだと 1 してみたい事がいっぱいあります。言わねば気がすみません。 2 くよくよ考える事は少ないです。

2 時間を守らないことは,すごく嫌で 3 何でも,すぐ面白くなる方です。す。 4 好奇心が強いです。

3 規則やルールはよく守る方です。 5 物事を明るく考える方です。4 人や自分をとがめることが多い方で 6 結構,茶目っ気があります。

す。 7 新しい事が好きです。5 “~すべきである “~ねばならな 8 楽しいことを空想する事が多いで”

い”と思いがちです。 す (将来への夢も多いです)。6 決めたことは 後まで守らねば気が 9 芸術的興味が豊かです。

すみません。 “すごい “わぁー “へぇー”な10 ” ”7 借りたお金は,期限前に返さないと どの感嘆詞をよく使います。

FC合計( )点気持ちが悪いです。8 約束を破ることはほとんどありませ

ん。9 不正なことに妥協しません。

無責任な人をみると許せません。101 人の気持ちになって,それに合わせCP合計( )点

てしまう事が多いです。2 人前に出るより,後ろの方に引っ込

1 思いやりがある方です。 んでいる方がいいです。2 どちらかというと人をほめる方で 3 欲しいものがあっても,つい遠慮し

す。 てしまいます。3 人の話をよ~く聞いてあげたいと思 4 相手の顔をうかがうことが多いで

います。 す。4 人の気持ちを理解してやる方です。 5 不愉快なことがあっても,ほとんど5 ちょっとした贈り物でもしたい方で 人に言わず,押さえてしまいます。

す。 6 人のご機嫌をとるような事がよくあ6 人の失敗には寛大な方です。 ります。7 人から親切だと言われます。 7 人の言うことに合わせる事が多いで8 自分の方からあたたかく挨拶する方 す。

です。 8 どちらかといえば,遠慮がちです。9 困っている人を見ると何とかしてあ 9 親や周囲の人にふりまわされる事が

げたいと思います。 多いです。子ども,目下をかわいがる方です。 自分が悪くもないのに,すぐ謝るく10 10

せがあります。NP合計( )点AC合計( )点

○を2点,△を1点,×を0点として,それぞれのグル1 何でも,何が中心問題か,考え直すープごとに合計を出し,下のグラフに折れ線グラフを書いことが多いです。てください。2 物事を分析して,事実にもとづいて

20考えるくせがあります。3 “なぜ”そうなのか理由を考えがち

です。, 。4 どちらかといえば 理論的な方です

5 新聞の論説などには関心がありま10す。

6 結末を予測して,それに対して準備しようとします。

7 感情が高ぶって,考えがまとまらないような事は少ないです。

08 わからぬときは,わかるまで追求しCP NP A FC ACたいです。

9 仕事や生活の記録をきちんととる方CP NP A FC AC 合 計です。

他の人ならどうするだろうかと,客10観視する事が多いです。

A 合計( )点

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【エゴグラムを読んでみよう】

「エゴ」は自我 「グラム」は図を意味し,心の指紋とも言われています。,

エゴグラムのパターンは,その人の癖のようなものです。

代表的な7つのパターン( 7つの生き癖 )を紹介します。「 」

①ヘ型……円満パターン(アベレージ)

NPを頂点とする「ヘ」型。一般に対人関係におけるトラブルが少なく,自他

共に肯定的な人と言われています。このパターンは“和”を重んじる日本人の平

均パターンとも言われています。自分を変えたいと思っている人はこの型をめざ

すといいでしょう。

②N型……献身パターン(ナイチンゲール)

NPを頂点としFCを底とする「N」型は,自己否定的で他人に依存的です。

この型の人はNPが高く,他者に対する配慮や温かみがありますが,ACが高い

ので言いたいことが言えず,心の中にためやすいのが特徴です。NPのかわりに

Aが高い人は,情報処理と人の世話が得意な人と言えます。

③逆N型……自己主張パターン(ドナルドダック)

CP,FCが高く,NP,ACが低い「逆N」型は,自己中心的な人で自己主

張タイプです。要するに責任の所在は他人にあり,自分は常に正しいという内省

の乏しい人でしょう。しかし,このパターンの人のもつ野望や欲望が,芸術や芸

能方面に向いたとき力を発揮します。よく言えば芸術肌ということです。

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④V型……葛藤パターン(ハムレット)

両端のCP,ACが高く全体が「V」型。CPが高いので“こうあるべきだ”

“~せねばならない”と自分や他人に完全さを要求しますが,ACも高いので,

それを口に出して言えず遠慮がちになります。つまり,責任感や使命感に縛られ

ている厳しい自分と,他人からの評価を気にする控えめな自分が,絶えず葛藤を

繰り返しているのが特徴です。しかし,高い目標に向かって頑張れるので高い評

価を得たりします。

⑤W型……苦悩パターン(ウェルテル)

両端のCP,ACの高さに加え,Aも高い点が特徴です。CO,ACの葛藤状

態はV型と同じですが,Aが高く,現実を吟味し,分析しようとする分,その悩

みは深刻になりがちです。責任感や判断力があり,作戦や計画を立てる力を発揮

します。情けに流されない強い面もあります。

⑥M型……明朗パターン(アイドル)

NP,FCの両者が高く,他はそれよりも低いことが特徴です。このパターン

, 。 ,は 明るく朗らかな若い女性によく見られます 他人に対する思い上がりがあり

好奇心旺盛で楽しいことが大好きな人間と言えます。盛り上げ役と呼ばれるよう

な明るい楽しい人です。

⑦右下がり型……頑固パターン(ボス)

CPを頂点にして右へ下がっている「右下がり」型の特徴は,なんと言っても

頑固なことです。ACが一番低く他の人の意見には耳を貸しません。他人のする

ことにカッカとくることが多く 「頭痛」や「高血圧」になりやすいと言われて,

。 , 。います しかし 親分肌やアネゴ肌の面が評価されると人の信頼を勝ちとります

【各自我状態( 心の中の5人家族 )を変えてみよう!】“ ”

◎目標をはっきりとさせよう

エゴグラム(今の自分)の上に 「こうありたい」と望む理想のエゴグラムを書いて,

みます。グラフの違いから,次にどの箇所を,どう変えたいのかを考えます。一般には

NPとFCを高くして,ACをそれより低くする方向に目標を定めるといいでしょう。

◎高い箇所を縮めるより,低い箇所を伸ばすようにしましょう

人生の諸問題にぶつかって, もその人らしい行動を起こすのは一番高い箇所です。

人格の主導権を握っている優位な自我状態を無理に縮めようとしても,実際にはなかな

かうまくいかないものです。むしろ低いところを伸ばすようなプログラムをつくるのが

。 , ,よいのです 心的エネルギーも体のエネルギーに似て だいたいその量は一定ですから

ある箇所を伸ばすと他の部分へのエネルギーの給付は減っていくものです。

それぞれの箇所を上げる具体的な方法については,次の表を参考にして,行動計画を

立てるのがよいでしょう。

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CPを高める

言 葉 態度・行動

・ 私は…と思う」とはっきり自分の考えを ・時間やお金にうるさくなる。「

述べる。 ・間違いについて,厳しく注意するように

・ …は好き 「…は嫌い」という練習をす する。「 」

る。 ・何かひとつ, 後まで譲らないでみる。

・決めたことは 後まできちんとやるよう ・生活の時間割を作り,守る。

にする。 ・ルールを大切にし,ルール違反を許さな

・自分はこれでいいのだろうかと,振り返 い。

る習慣をつける。

NPを高める

言 葉 態度・行動

・ そこがあなたのいいところだね 「よく ・プラスのストロークを与える。「 」

できたね 「いいね」と人をほめるように ・美しい,好ましい点をほめる。」

する。 ・個人的関心を示すように務める。

・相手の気持ちや感情を認める言葉を言う。 例:クラブ,勉強,趣味,家族の良い

例:内心は嫌だったんだよね。 面について

本当は泣きたいんだよね。 ・ちょっとした贈り物をする。

・○○さんが,あなたのことをほめていた ・落ち込んでいたら,励ましたり,なぐさ

よ。 めたりする。

・いいセンスしてるね。 ・あなたは私にとって,とても大切な人な

・ どうしたの? 「だいじょうぶ?」とい んだよと相手の存在を大切にする。「 」

う声をかける。

Aを高める

言 葉 態度・行動

・ もう少し,詳しく話してくれる?」と説 ・物事をよく考え,分析する。「

明を求める。 ・自律訓練法やイメージ呼吸法,全身弛緩

・感情が高ぶったり,分からない時は「も 法など,リラックスして冷静になる訓練

う少し,考えさせてください」と言う。 をする。

・相手の話の内容を「~ということですか」 ・言いたいことや,したいことを文章にし

とまとめたり,確かめたりする。 ていく。

・ 何が問題なのですか?」と聞いてみる。 ・同じ状態で,他の人ならどう考え,行動「

・5W1Hの質問をよく使う。 するかを考える。

( ) ・このままでいくとどうなるのか,先When , Where , Who , What , Why , Howを見 通し,今何をするのがいいかを考え

る。

・学級会の司会や議長を務め,人の意見を

しっかり整理していく。

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・日記をつける。

・忘れ物がないように,翌日の準備を前日

にすませておく。

FCを高める

言 葉 態度・行動

・ すごーい! 「やったあ! 「うれしい」 ・不愉快な気持ちを引きずらないようにす「 」 」

などの気持ちをそのまま表す言葉を使う る。

ようにする。 ・短い空想を楽しむ。

・友達との会話を楽しむ。 ・芸術(絵・詩・俳句・歌)を楽しむ。

, ( )・ユーモアのある話し方をしたり 冗談や ・娯楽 映画・ゲーム・スポーツ・テレビ

ギャグを言う。 を楽しむ。

・よく友達と遊ぶようにする。 ・楽しい気分にひたる。

ACを高める

言 葉 態度・行動

・ だいじょうぶ? 「すみません」という ・話の聞き手にまわる。「 」

心の声を言葉にして伝える。 ・相手の話にあいづちを打つ。

・ 気を悪くさせたかな」と尋ねてみる。 ・上手に甘えてみる。「

・ 私にこうしてほしいのですか 「あなた ・友達や大人の言うことを素直に聞くよう「 」

がどう思っているのか気にならんだけど」 にする。

と疑問に思ったことや,気になっている ・少し遠慮や妥協をしてみる。

ことを尋ねてみる。 ・相手を立てるようにする。

・相手の顔色をうかがってみる。

【交流分析の基本的考え方】

①人は誰でも“今ここ( ”に生きている。過去と他人は変えられない。here and now)

②人は誰でもかけがえのない貴重な存在である ( である)。 OK③人は誰でも考える能力をもつ。

④人は誰でも自分の行動の総責任者である (人は自分の運命を自分で決定し,その決。

定は変えることができる)

※ 常に私たちは,他人や環境から感じ“させられたり ,行動“させらりたり”する”

ことはないのです。ある人から発せられた言動はすべてその人の言動であって,決し

て「彼らしくない発言」や「彼女らしくない行動」というものは存在しないのです。

そして,なされた決定は,その人の主体性と責任において変更することが可能です。

人は自ら望めば変わることができるのです。

このように交流分析は,性善説に立脚し,ありのままの自分自身を発見しながら,

また感情や行動をセルフコントロールしながら,人生において自己実現を図ることを

目的としているのです。

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5.論理療法

(1)論理療法とは

①アメリカのアルバート・エリスによって提唱された,自己分析的な心理療法

②自分の行動や不快な感情をもったときに,そのとき自分が思っている思考を検討

することで自分の思考の変容を図る。

(2)ABC理論

【基本理念】

「人はものによって惑乱させられるのではなく,その受け取り方によって惑乱

させられるのだ」

( :あなたのいやな気分を引き起こす原因となった出来事や状況A Activating Event)

( :ビリーフB Beliefs)ビリーフとは,世の中に関するあなたの評価や解釈,ものごとの受け止め方とい

ってもよい。

, ( )ビリーフには 適切な・機能する・目標を達成させるもの ラショナルビリーフ

と不適切な・機能不全的な・目標達成を邪魔するもの(イラショナルビリーフ)

がある。

( :あなたが陥った感情やとった行動C Consequence)

( :イラショナルビリーフを見付けて,ラショナルビリーフに言い換えるD Disqute)

( ) 肯定的感情→なんとかできるrB rCラショナルビリーフ ›

いやだけど耐えられる

適応行動 とりあえずフォロー→

(出来事,状況) (論駁) 代替案を出すA Dろんばく

失敗から学ぶ

( ) 否定的感情→ひどく落ち込むiB iCイラショナルビリーフ ›

どうしようもない

耐えられない

不適応行動→閉息状態,回避

パニック

【自己嫌悪・自己否定】

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【誰もが陥りやすいイラショナルビリーフ】

① 人は誰からも愛され,常に受け入れられるようであらねばならぬ。

誰からも愛されるにこしたことはないが,周囲のすべてに好かれるとは限らない

し,まして,好かれなければならないことはない。

② 人は完全を期すべきで,失敗をしてはならない。

ことをなすに完全無欠であるにこしたことはないが,完璧な結果よりも,そのプ

, 。 。ロセスを大切にして 自分なりにベストを尽くせばよい 失敗から得るものもある

③ 思い通りにことが運ばないのは,致命的なことだ。

思い通りにならないのが人生だという現実を受け入れる。それでも人生を楽しむ

ことはできる。

④ 人を傷つけてはならない,人を傷つけるような人は責められるべきである。

社会で他人と共存する以上,誰も傷つけずに一生を終わることなどあり得ない。

傷つけまいと必死になるよりも,傷つけてしまったなら修復することに心を砕く

ことだ。

⑤ 危険で恐怖を起こさせるようなものに向かうと,不安で何もできなくなる。

我々は未知の不安を過剰に見積もる傾向がある。多くのことは,実際に経験する

と,予想していたよりもラクなはず。不安がることをやめて, 悪の状況を具体的

に考えて,対策をたててみる。

6.グループワーク・トレーニング(GWT)の実際

人間関係を学ぶ体験学習

グループに与えられた課題を解決する過程で,いろいろな葛藤(成長に応じて)を

体験し,以下のような「気付き」を得て,個人とグループとが互いに成長し合う体

験学習プログラムである。

・自分の長所(短所) ・他者の長所(短所)

・話し方・聞き方 ・話し合いの仕方

・情報の組み立て方 ・協力の仕方

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【GWTのねらい】

(1)自分及びメンバーに対して

・自分及びメンバーの感情,欲求,動機,意図,言動,態度,表情に気付く。

・その言動が周囲の人々に及ぼす影響に気付く。

・自分及びメンバーを肯定的に受け止める。

・自己主張と自己開示を適切に行う。

・メンバー全員と対話し,交わりを深める。

(2)グループに対して

・グループ・プロセスや集団心性に気付く。

・グループの中に自分の位置を見つけ,周囲の人々の期待に応える。

・グループのメンバーとして,適切で効果的な行動がとれる。

(3)組織・グループに対して

・組織とグループの問題に気付く。

・組織の中にあるグループの問題や,グループの中のサブ・グループの問題に気

付く。

・これらの問題を解決し,組織とグループの新しい規準,標準をつくり出す。

・組織やグループの一員として適切に役割を果たす。

【学級でGWTを指導するには】

, 。・教師が大人向けのGWTの体験を十分にし 教師自身がいろいろな気付きを得る

, 。 ,・子ども向けのGWTでも 教師自身が体験してみる そこで得た気付きを参考に

進め方での注意・必要なねらい・ふりかえりに仕方・観察の仕方・助言の仕方を

もとに指導にあたる。

・普段の子どもたちを十分に観察し,どんな「ねらい」で,いつ,どの財を行うの

かを考え,その上でGWTを実践する。実施記録・反省などもしっかり残し,気

付きが普段の生活に生かせるように支援していく。

* ねらいに合わせる【学校GWT財の選び方】

①グループ活動をすると,いつもあの子は黙っているなあ

「スイスイさかな 「みんなあつまれ」など„ 」

楽しんでいるうちに,話し出してしまう財

②どうも仲良くグループ活動ができない

「人間コピー 「お誕生日おめでとう」など„ 」

体験的に協力について学べる財

③どうも友達の意見をしっかり聞けない

「わたしたちのお店やさん 「ぼくらの先生 「色鉛筆を忘れちゃっ„ 」 」

た」

「なぞの宝島 「なぞのマラソンランナー」など」

よく聞いていないと完成しない財

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④いつも多数決で安易に決めてしまう

「ケーキを飾ろう!」「ユッタンランド探検記」「ぼくらのリーダー」など„

コンセンサスによる決め方を学ぶ財

⑤いつも友達のあげ足を取っている

「あなたにプレゼント 「他己紹介ビンゴ」など„ 」

友達のよいところを見付ける財

7.教師のためのソーシャルスキル

教師がいくら親しみやすい性格をもっていても,それが子どもたちに伝わらなくて

は,両者の関係は発展しない。

そこで教師のソーシャルスキルが大事になってくる。

ソーシャルスキルの力量差が,教師と子どもたちとの関係の良好さに,差を生じさ

せてしまう。子どもたちに〈教師の人間的魅力〉と〈教師役割の魅力〉を感じさせる

具体的な対応の仕方,ソーシャルスキルが求められる。

(1)現代の子どもたちの実態

① 精神的な弱さ

・傷つきやすさ

・つらいことを我慢するのが苦手

・自分に自信のない子が多い

② 幼児的な自己中心性

・個人としてのマナーが身に付いていない

・集団生活する上でのマナーが身に付いていない

・継続して努力しようとする意欲が低い

・おもしろいこと,楽しいことには飛びつく

・将来の見通しをもった上で現在の行動がなされていない

・自分の個人的な欲求が中心になる

・自分を認めてほしい

・体験が少ないため,机上の考え・知識がそのまま通じると考える向こう見ずな楽

観性がある

③ 対人関係が不得手

・人の気持ちを察することが苦手

・気の合う3,4人の仲間と常に群れていないと不安になる

・自分から対人関係を形成しようと試みる意欲が低い

(対人関係に距離をとることで,傷つくことを防衛しようとする)

・周りの人に同調する傾向が強い

・集団活動が苦手

・リーダーシップをとれる子どもが少ない

・10人前後の集団活動の要領がわからない

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④ 精神的に幼い

・異性交際は進んでいるが,精神面は弱い

・依存的である

・自分で選択ができないので,周りに流されやすい

・現状維持・今が楽しければという発想が起きやすい

・集団,社会の中での自分という意識が低い

A教諭

叱れば子どもたちがよくなろうと努力するのなら,しつこく

叱る。でも,今の子どもたちは頭から叱るとへそを曲げて,叱

った内容について努力しないばかりか,余計やらなくなる。

子どもをよくしてあげたいと思ったら,結果として,自分か

ら努力する方向に心を向けてあげないといけない。その方法を

工夫してあげないといけない。叱って入る指導は,今の子ども

たちにはほとんど通用しない。

やり方を変えないといけないと思う。自分はそのことを10

年前に痛感した。

現代の子どもたちの実態を素直に受け入れ,

目の前の子どもたちに合った対策を,

具体的に,地道に実践をする。

(2)ソーシャルスキルの実践のポイント

【教師の人間的魅力】

① 子どもの存在を尊重する

● 問題行動は注意するが,人間性を否定するような言動はしない。

● 相談された内容は,必要な場合以外は他人に他言しない。

● 子どもへの注意を,他の子どもの前でしない。

● 子どもの批判を,その子のいないところで,他の子どもたちにしない。

② 自分から子どもに話しかける

● 自分から名前を呼んで,あいさつする。

● 子どもの情報をメモし,あいさつのとき,一言添える。

● 子どもの変化に気付き,言葉にして相手に伝える。

● 自分の苦手な子ども,低い評価をつけている子どもにこそ,さりげなく,定

期的に言葉がけをする。いい面を言葉にして伝える。

③ 子どもが話しかけやすい雰囲気を意識して作る

● 休み時間や放課後など,くつろいで子どもとおしゃべりできる時間を設定す

る。

● 自己開示して,役割を超えた交流を楽しむ。

④ プラス志向のフィードバックをする

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● 感動したこと,おもしろかったことなどの感情を率直に表現する。

● 子どもの頑張りや,取り組んだ熱意に対して,小さいことでも言葉にしてほ

める。

⑤ ユーモアと遊び心をもつ

● 子どもと共有でき,自分も楽しい話題,趣味をもち,一緒に楽しむ。

● 子どもたちとよく冗談を言う。

【教師役割の魅力】

① あきっぽく,がまんできない

・取り組む前に,見通しや,やることの効果・意味を説明する。

・取り組ませる課題は,従来よりも短い時間で終了するように設定する。

・1単位時間をいくつかの内容で構成する。

・ 初は,簡単に結果がだせる課題から取り組ませ,徐々に結果を導くまでに時

間のかかるものに取り組ませるという具合に,持続力を身に付けさせる。

・取り組みの途中に討論などの時間を設けたり,ゲーム的要素を盛り込むなど,

単調にならないように工夫する。

② 傷つくこと,失敗することを恐れ,新しいことに取り組もうとしない

・新しい課題に取り組ませるときには,やり方をくわしく・具体的に説明する。

・新しい課題に取り組ませるときには,これならできそうだと思えるレベルから

取り組ませる。

・みんなで取り組むときに,人を傷つけるような言い方をしないように,事前に

しっかり確認する。

・取り組みのなかに,取り組んだ過程を評価しあう場面を設定する。

(結果だけでなく,取り組んだ過程も大事なことを理解させる)

・うまくできなかったときにどうするのかという対処策,または逃げ道を用意し

ておく。

・学習した結果が公にならない工夫をする。

・教師が失敗談をときどき話してあげる。

(小さな事で失敗しても,すぐには 悪の結果にはならないことを教える)

③ 欲求充足志向で,おもしろくないことはしない

・取り組む前に,課題のおもしろみを説明する。

・課題の導入に興味を引く内容を盛り込むようにする。

・ワンパターンの授業展開をしない。

・パソコンなどを活用し,興味をもてるような授業展開にする。

・学習にゲーム的要素を入れる。

・学習にグループ活動を取り入れる。

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④ 個人的にしつけられていない,集団生活のマナーを理解していない

・みんなで活動する際には, 低限のマナーを事前に必ず確認する。

・みんなで活動する際には,マナー違反しそうな内容について,事前に注意を促

しておく。

, , 。・知らないでマナー違反をしている子どもには 叱責しないで マナーを教える

・マナーについて常日頃説明し,意識性を高める。

・特に必要なマナーは,集団でスムーズに活動できるためのルールとして明確に

し,事前に守ることを約束させる。

・活動内容をふりかえさせるなかで,対人関係や集団生活のマナーやルールにつ

いても言及させる。

⑤ うぬぼれが強く,自己主張的である

・取り組みのなかに,少人数で自分の思いや考えを,話し合う場面を設定する。

・課題の 後に,個人の頑張りを認め合う場面を設定する。

・話し合いの場面のときに,話し方・聴き方の基本を,まず説明してから取り組

ませる。

・学習の 後に自己評価する場面を取り入れる。

⑥ 対人関係を自ら形成しようとする意欲と技術が低い

・活動のなかに,自然と人と関われる展開を意図的に盛り込む。

・グループ活動は少人数で行う。

・グループ編成にバリエーションをもたせる。

・グループで活動させるときには,一人一人の役割をみんなの前ではっきりさせ

る。

・グループでの討論などでは,話し方・聴き方のモデルを例としてあげておく。

・グループで楽しい体験を共有できるように,レクリェーション的な取り組みを

定期的に実施する。

⑦ 他人の気持ちを察することができない

・必要な場面で,教師が自分の気持ちを自己開示し,モデルを示す。

・トラブルが起こったときに,そのときの両者の感情について,みんなに説明す

る。

・気が付かないで他人を傷つけているときは,個人的にその内容を説明してあげ

る。

, 。・学級活動の時間などにソーシャルスキルを教え 人の心を察する視点を教える

・人の気持ちに配慮した行動がとれた子どもを,意識してみんなの前でほめる。

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⑧ 周りに流されやすい,ことの善悪よりも多数派につく

・グループ活動のときには,匿名性が発生するような規模にしない。

・係活動やグループ活動では,個人の役割,責任を事前に明確にしておく。

・グループ活動の取り組みのふりかえりを,節目ごとにこまめに行う。

・一人一人の考えや思いを発表し合う場面を設定し,不安定な雰囲気をつくらな

い。

⑨ しゃべる内容は大人だが,心はとても幼い

・グループ活動や集団の取り組みでは,心のレベルで課題を設定する。

(必要以上に無理をさせない)

・心のレベルに見合った,リレーション的要素のある取り組みを,活動に盛り込

む (等身大で感情を交流する体験を交流することで,等身大の自分を受け入。

れられるようにする)

・取り組んだ内容を認め合う場面を設定する (認められることで,等身大の自。

分に自信をもてるようにする)

⑩ 知識と生活面での具体的な行動が一致していない

・活動の成果を節目ごとにこまめにチェックし,目標の修正を柔軟にする。

・学習に体験や具体的な行動をともなった活動を,意識的に取り入れる。

・体験や活動をした後に,必ずその意味をふりかえさせる取り組みを設定する。

・集団生活の取り組みに際しては,やり方・マナーを事前に確認する。

・大きな目標に向かうために,小さな目標をいくつか設定して,一つ一つ取り組

ませるようにする。

・うまくいかなかったら,責任を追及するのではなく,対策を考えるように方向

付ける。

8.おわりに

「力のない愛は無力である」

「愛のない力は暴力である」

『ソーシャルスキルのない教育愛は無力である』

『教育愛のないソーシャルスキルは空しいものである』

*自分の地道な実践を認めてくれる仲間,つらさを受け止めてくれる仲間

*実践に活用でき,かつ刺激を与えてくれる研修をともにすることができる仲間

参考文献: 論理療法の理論と実際 (国分康孝著)「 」

「教師のためのソーシャルスキル (河村茂雄著)」

「自己成長エゴグラムのすべて (チーム医療)」

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