ネイチャー・テクノロジーのビジネス化への課題 ·...

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ネイチャー・テクノロジー ジネス ネイチャー・テクノロジー バックキャスト思考で生み出されたライフスタイルの中にどのようなビ ジネスの種を見つけることができるか…(パネルディスカッション) 大学大学院 大学大学院 「しいらしかたち ジネスNT によるトライアル」 「トンボに学 20 ってくれる パネルディスカッションライフスタイルを く モノづくり TEPIA ネイチャー・テクノロジー シンポジ ム「ネイチャー・テ クノロジー ジネス ―バックキャスト によるラ イフスタイルから ジネスを る」を いた。 いたライフスタイルか ら、 ジネス について えた。 コーディネータ ある 大学大学院 大学 演したほ か、 によるパネルディ スカッションを った。 伊東氏 木村氏 亀田氏 2012年 平成24年 10月10日 水曜日

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Page 1: ネイチャー・テクノロジーのビジネス化への課題 · 「ネイチャー・テクノロジクノロジー創出システムがてデザインし直す。一連のテーを通し、テクノロジーとしテイナブル」というフィルタしに行く。見つけたら「サスジーを抽出し、自然の中に探

ネイチャー・テクノロジーのビジネス化への課題�バックキャスト思考によるライフスタイルからビジネスを考える

ネイチャー・テクノロジー研究会

環境制約下における豊かさを考える

バックキャスト思考で生み出されたライフスタイルの中にどのようなビジネスの種を見つけることができるか…(パネルディスカッション)

パネリスト

  東北大学大学院 准教授

 

古川 柳蔵氏

  電通ソーシャル・ソリューシ

 ョン局ソーシャル・コンサル

 ティング部 部長

 

伊東 美穂氏

  積水ハウス総合住宅研究所長

 

木村 文雄氏

 

コーディネーター

 

 大日本印刷ソーシャルイノベ

 ーション研究所所長

 

亀田 和宏氏

新価値観はかる物差しを

東北大学大学院環境科学研究科教授石田秀輝氏東北大学大学院環境科学研究科准教授古川柳蔵氏「新しい暮らしのかたちとビジネスNT研究会によるトライアル」 「トンボに学ぶ風力発電機毎日20時間回ってくれる発電機」

 エネルギーや資源の限界は

目に見えている。私たちは新

しい価値観に基づく豊かさを

追求すべきであり、新しいテ

クノロジーや企業経営を考え

ていくべきではないか。

 持続可能で豊かな暮らし方

には二つの要素がある。一つ

は地球のことを考えたモノづ

くりと暮らし方。もうひとつ

は人のことを考えたモノづく

りと暮らし方。両方が同時に

成立しないと持続可能な社会

はつくれない。

 しかし、現実は我々が豊か

さを求め、企業が努力するほ

ど地球環境が劣化する「エコ

ジレンマ」の状況が生まれて

いる。エコ商材があふれてい

るのに、家庭のエネルギー消

費量は増え、環境負荷が上が

っている。エコ商材が消費の

免罪符になっているのに加

え、エコ商材の最適な使い方

が説明されていないからだ。

 そこで物の考え方を変える

しかない。「バックキャス

ト」という思考回路だ。環境

制約のリスクが頂点に達する

2030年の地球環境をベー

スにして、豊かなライフスタ

イルと必要なテクノロジーを

考える。大事なことは厳しい

環境制約でもワクワク・ドキ

ドキ心豊かに暮らせるライフ

スタイルを考えて描くこと

だ。

 その中から必要なテクノロ

ジーを抽出し、自然の中に探

しに行く。見つけたら「サス

テイナブル」というフィルタ

ーを通し、テクノロジーとし

てデザインし直す。一連のテ

クノロジー創出システムが

「ネイチャー・テクノロジ

ー」となる。

 新しい暮らし方とテクノロ

ジーの例として、小さな風の

発電機を紹介したい。庭先で

くるくる回る小さな風力発電

機で電気をつくってため、子

どもたちがゲームで遊んだ

り、隣近所のおばあさんに電

気をプレゼントしたりする、

そんなライフスタイルを描

く。

 そこには弱い風でも回る風

力発電機が必要だ。自然の中

から探すとトンボを見つける

ことができた。トンボは昆虫

の中で最も低速に滑空でき、

ほんの少しの風でも浮力に変

えられる。すなわち、トンボ

の羽で微風でも回る風力発電

機ができる。

 実際、直径

ぐらいの

風力発電機ができた。風速

で回り始めて同

電気を起こす。電気の量は微

々たるものでほんの数ワット

だ。効率が悪いかもしれな

い。しかし、子どもたちが何

に電気を使おうかと考えなが

ら、ワクワクして発電機を眺

めている姿を想像できる。

 私たちは今までテクノロジ

ーをみると、テクノロジーだ

けをはかる物差しで見てい

た。しかし、これからはライ

フスタイルに与える新しい価

値観をはかる物差しが重要で

はないか。効率からみるとム

ダと思われていたモノが、愛

らしいモノとして出てくるか

もしれない。バックキャスト

によるライフスタイルから、

新しいテクノロジーのアイデ

アが生まれる。

パネルディスカッションライフスタイルを描く

 モノづくり日本会議は9月日、東京・北青山のTEPIAでネイチャー・テクノロジー研究会のシンポジウム「ネイチャー・テクノロジーのビジネス化への課題―バックキャスト思考によるライフスタイルからビジネスを考える」を開いた。環境問題の制約を

前提に描いたライフスタイルから、ビジネス化への道筋について考えた。同研究会コーディネーターである東北大学大学院環境科学研究科の石田秀輝教授と、同大学院の古川柳蔵准教授が講演したほか、企業関係者によるパネルディスカッションを行った。

自然の「技」とマッチング

 現在「

歳ヒアリング」と

いう手法を使ってライフスタ

イルを研究している。戦前に

歳になった大正

年生まれ

の高齢者は今

歳で、自然と

ともに生きてきた昔の暮らし

について聞いている。今から

は想像できないほど自然とと

もに共生するための知恵や技

術、仕組みがみつかる。そこ

から持続可能な社会がどうい

う条件で作り上げられている

のかを探っている。

 ライフスタイルを変えると

どうなるか。例えば、日本の

一般家庭では1日あたり

時の電気を使ってい

る。ライフスタイルを変える

だけで

%節電できる。洗濯

物を乾燥機を使わずに日干し

したり掃除機の代わりにほう

きを使ったり、家族が個別の

部屋で過ごすのではなく、一

つの部屋に集まって家族だん

らんで過ごしたりなど、簡単

なライフスタイルを少し変え

ることで節電でき環境負荷が

下がる。

 さらに、環境負荷を下げる

取り組みとして、自然エネル

ギーを活用する方法がある。

太陽光発電は通常、直流を交

流に変えるため変換ロスが生

じる。そこで、直流をそのま

まリチウムイオン電池にた

め、直流で駆動する発光ダイ

オード

LED

照明に使用

できるようにする。実際に東

北大学で技術開発を進めてい

る。

 電池は必要最低限の大きさ

にしてかつ自然エネルギーを

最大限に活用するようにし、

足りなくなったら交流の電気

でバックアップする仕組みに

している。この仕組みと先ほ

どのライフスタイルを少し変

える取り組みだけで、1日あ

たりの電気使用量を

%節電

できるようになる。

 さらにライフスタイルを変

革するため「共用電池」とい

う新しいライフスタイルを描

いた。自然エネルギーを電池

にためて、近所で貸し借り融

通しあうスタイルだ。これは

コミュニティーづくりであ

り、地域の循環型社会の構築

につながる。ポータブル電池

という発想も生まれ、電気の

使用量をさらに削減できると

みている。

 ネイチャー・テクノロジー

研究会の有志と、バックキャ

スティングを使ってライフス

タイルを描いている。良いラ

イフスタイルを使って、自然

の中にあるテクノロジーとの

マッチングを実現したいと考

えている。

伊東氏

木村氏亀田氏

全体最適の意識必要

知恵を結集商品開発

 亀田 ライフスタイルのデザイ

ンには、気付きのような発見力が

求められます。

 伊東 私たちは戦後、成長や成

功を通じて、豊かさや幸せを実感

してきた。そこに環境制約の問題

を突きつけられると「環境負荷が

低い」イコール「幸せ度が低い」

といった意識に陥る。ところが環

境負荷が低くても幸せ度が高い、

といった体験は過去の記憶の中に

ぽつぽつある。それを浮き彫りに

することがライフスタイルデザイ

ンで大切ではないか。

 木村 私の場合は昔の住宅か

ら、その良さを思い出すことがカ

ギだと思っている。具体例として

東京・国立にある実験住宅を紹介

したい。そこには縁側を設けた。

縁側は暑さ寒さの断熱効果だけで

はなく、自然を身近に感じる豊か

な空間であることがわかる。玄関

に設けると、近所の人が立ち寄っ

て話をするコミュニティーの場に

もなる。

 亀田 なぜ、そのような発想に

至ったのですか。

 木村 実験住宅の見学者が「こ

れがいい」と思う機能を調べるた

め、アンケートをした。

%の方

が「縁側がいい」と支持してくれ

た。年配者だけではなく学生も

だ。おそらく日本人に備わってい

る自然観のようなものがDNAと

してあるのではないか。

 古川 昔の人の知恵には多くの

蓄積があり、昔の暮らしに学ぶと

いう企業の姿勢はすばらしいと思

う。親が子どもに繰り返し自然観

を伝えていくことが重要だ。

 亀田 自然からエッセンスを取

り出してライフスタイルを描くこ

とは、業種によって難易度が異な

ります。そこで自然などから学ん

だことを関連づける力が必要で

す。

 伊東 オランダの家電メーカー

はアフリカの低所得者層向けの商

品開発で工夫している。さまざま

な職種の人を現地に派遣して生活

させ、課題を解決するような商品

やアイデアを考えるやり方をとっ

ている。技術、デザインなどいろ

いろな機能を持った人たちがチー

ムを組み、ライフスタイルや商品

を開発することが重要ではない

か。

 木村 マズローの欲求段階説を

もとに、生活者のニーズを五つに

分けてみた。「エコロジー」、

「健康・UD」、「コミュニティ

ー」、「防犯・防災」、「ライフ

スタイル」とあるが、これらをバ

ランスよく取り組むのがいいと思

う。ただ、軸足をどこに置くかが

重要で、低環境負荷で全体を押さ

えるイメージを持っている。

 亀田 ライフスタイルのソリュ

ーションを考える場合、越えられ

ない壁が出てきます。いい知恵は

ありますか。また、活動を実現す

るために必要なことは何ですか。

 伊東 やはりチームを組むこと

だと思う。いろいろな人の知恵を

集めて一つにする仕組みは有効に

働くのではないか。

 木村 環境やライフスタイルの

考え方も、部分最適ではなく全体

最適を意識する必要がある。ま

た、生活者や企業がネイチャー・

テクノロジーの考え方を「知らな

いとまずい」と思うような雰囲気

づくりも大切だ。

 古川 チームを組むというのは

有効だ。自分だけでは限界があ

り、他の人から新しい考えや刺激

が得られる。蓄積も重要だ。ライ

フスタイルデザインを継続して行

っていくと、自然とライフスタイ

ルが突然つながる状況が訪れると

思う。

( )    2012年 平成24年 10月10日 水曜日