コミュニティを活性化する ソーシャルメディア活用の事例研究 · やsns...

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研究ノート コミュニティを活性化する ソーシャルメディア活用の事例研究 Case Study on Practical Use of Social Media which Activates Communities 小松 久美子,中野 秀男 Kumiko Komatsu, Hideo Nakano 要約 著者らは前稿及び前々稿で SNS の多くの問題点が Private SNS を使うことで解決できること を示した.本稿では,信頼のコミュニティがソーシャルメディアを活用することにより,作業効 率が向上し,交流が円滑になり,コミュニティが活性化される可能性について考察するための事 例紹介を行う.コミュニティは内部の情報共有と外部に向けた情報発信を必要とする場面でソー シャルメディアを利用すると考え,紹介事例の利点と問題点について述べる.その上でソーシャ ルメディアがコミュニティの活性化や実務の効率化に寄与するかどうかを検証する方法について 考察する. キーワード:ソーシャルメディア,SNS,コミュニティ Abstract In our previous reports, we explained that several problems on public SNSs are able to be solved by us- ing private SNS. In this report, we show case studies to consider the possibility of practical use of social media which activates communities of trust, improves working efficiency and promotes interaction of people. We think that communities use social media at the scenes of inward information sharing and the outward communication of information. We explain the advantages and problems of the case studies. Then we consider the methods to inspect how social media contribute to activate communities and im- prove their working efficiency. Keywords : Social media, SNS, Community 1.はじめに 著者らは前々稿で SNS を俯瞰した.合わせて Private SNS を説明し,その一つとして「Open- 人間科学部研究年報 平成 29 31

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Page 1: コミュニティを活性化する ソーシャルメディア活用の事例研究 · やsns の導入事例を紹介する.第4 章で,事例におけるソーシャルメディア活用の利点や問題

研究ノート

コミュニティを活性化するソーシャルメディア活用の事例研究

Case Study on Practical Use of Social Media which Activates Communities

小松 久美子,中野 秀男Kumiko Komatsu, Hideo Nakano

要約

著者らは前稿及び前々稿で SNS の多くの問題点が Private SNS を使うことで解決できること

を示した.本稿では,信頼のコミュニティがソーシャルメディアを活用することにより,作業効

率が向上し,交流が円滑になり,コミュニティが活性化される可能性について考察するための事

例紹介を行う.コミュニティは内部の情報共有と外部に向けた情報発信を必要とする場面でソー

シャルメディアを利用すると考え,紹介事例の利点と問題点について述べる.その上でソーシャ

ルメディアがコミュニティの活性化や実務の効率化に寄与するかどうかを検証する方法について

考察する.

キーワード:ソーシャルメディア,SNS,コミュニティ

Abstract

In our previous reports, we explained that several problems on public SNSs are able to be solved by us-

ing private SNS. In this report, we show case studies to consider the possibility of practical use of social

media which activates communities of trust, improves working efficiency and promotes interaction of

people. We think that communities use social media at the scenes of inward information sharing and the

outward communication of information. We explain the advantages and problems of the case studies.

Then we consider the methods to inspect how social media contribute to activate communities and im-

prove their working efficiency.

Keywords : Social media, SNS, Community

1.はじめに

著者らは前々稿で SNS を俯瞰した.合わせて Private SNS を説明し,その一つとして「Open-

人間科学部研究年報 平成 29年

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Page 2: コミュニティを活性化する ソーシャルメディア活用の事例研究 · やsns の導入事例を紹介する.第4 章で,事例におけるソーシャルメディア活用の利点や問題

PNE」を紹介した.続く前稿では SNS で起こる色々な不祥事などの問題点を列挙した上で,そ

れらの問題点の多くが Private SNS では解決または軽減されることを示した.

本稿では,ソーシャルメディア活用で作業効率が向上し,コミュニティが活性化されるという

ことを,複数のソーシャルメディアを導入し,組み合わせて使っている事例を用いて説明する.

一方で,多数の既存ソーシャルメディア導入による問題点も指摘する.

第 2章では,コミュニティを取り巻く環境とソーシャルメディアや SNS が発達した背景や現

状について述べる.第 3章で,本稿で取り上げるコミュニティで利用されたソーシャルメディア

や SNS の導入事例を紹介する.第 4章で,事例におけるソーシャルメディア活用の利点や問題

点について述べる.複数の既存ソーシャルメディア導入の有効性評価の必要性と評価方法につい

て考察する.

2.コミュニティとソーシャルメディア

2.1.ソーシャルメディアの種類

ソーシャルメディアには,表 1のようにさまざまな種類のサービスが存在する.この分類によ

れば,SNS はソーシャルメディアの一種である.

2.2.ソーシャルメディア利用の目的

コミュニティには,趣味の集まりやボランティア活動などさまざまな種類のものがあり,その

活動内容は多種多様である.

コミュニティには活動資金と活動場所が安定してあるわけではない.コミュニティは有志の集

まりであり,そのメンバーは生業のかたわらで活動していている.企業であれば,社員が常勤し

ていて資金があるが,コミュニティは人材や活動資金が限られている.また,コミュニティは,

会社のように社屋がないので,活動拠点が分散しているか拠点自体がないことも普通である.メ

ンバーが集まる時以外は,各自の居場所が活動場所となる.

表 1 ソーシャルメディアの種類と代表的なサービス例[1]

種類 サービス例

ブログ アメーバブログ,ココログ,Seesaa ブログ,ライブドアブログ

SNS(ソーシャルネットワーキングサービス) Facebook, Twitter, mixi, Instagram, LinkedIn

動画共有サイト YouTube,ニコニコ動画,ツイキャス,Vine

メッセージングアプリ LINE, WhatsApp, Viber, WeChat

情報共有サイト 価格コム,食べログ,クックパッド

ソーシャルブックマーク はてなブックマーク

(出典)総務省 平成 27年版 情報通信白書

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つまり,日頃のコミュニティの情報共有やメンバーの交流は,インターネットや電話など,遠

隔地をつなぐコミュニケーション手段のもとで行われることになる.全国各地,さらには,世界

各地のメンバーが情報共有や交流をするためには,あまり費用がかからないインターネットを介

した情報メディアが必要となる.そこで,インターネット上に提供される既存のソーシャルメデ

ィア,SNS などの無料ないしは安価なサービスが利用されることになる.電話においても,SNS

の無料通話が利用されている.

また,コミュニティの PR は,マスメディアを用いた広告は費用がかかりすぎるため,ウェブ

サイトやソーシャルメディアを用いた情報発信による広報が主な手段となる.

国内では,LINE, Facebook, Twitter, Google+,Instagram をはじめとする SNS の利用率が高い

[1].ただし,Twitter の基本は公開ツイートであり[2],公開性が高くブログに近い情報発信を

特徴としていて,個人やグループ間のコミュニケーションに用いられることは少ない.Instagram

も同様の性質を持つ SNS である.

コミュニティは一種のソサエティ,つまり人の集まる場である.ソーシャルメディアは人と人

をつなぐ情報ツールなので,コミュニティ単位やグループ単位の交流の場を形成するためにソー

シャルメディアや SNS が使われることになる.例えば,Facebook グループ,Facebook メッセン

ジャーのグループ,Google+,LINE におけるグループチャットなどがメンバー間のコミュニケ

ーションによく利用されている.

また,通信環境のモバイル化が進み,スマートフォンの普及も相まって,従来の PC の電子メ

ールによるコミュニケーションから SNS のアプリ利用にシフトしている[1].

このようにコミュニティの活動基盤はインターネットであり,各種ウェブサービスやソーシャ

ルメディアは業務の拠点となるツールであると言える.

2.3.活動フェーズ別ソーシャルメディアの利用目的

本節では,コミュニティの活動フェーズ別のソーシャルメディア利用目的について述べる.著

者らが参加しているコミュニティの場合,次のような 3つのフェーズが存在すると認識する.運

営スタッフの情報交換・情報共有,参加メンバーの情報共有・交流,そして,外部向け情報発信

といった 3つの局面である.それぞれのフェーズに適したソーシャルメディアがスタッフによっ

て導入され,活用されることになる.

2.3.1.運営スタッフの情報交換・情報共有

運営スタッフはコアメンバーであり,コミュニティを運営するために内部向けの情報交換・情

報共有などを支援するコラボレーションツールを使用する.例えば次のようなものがある.

・SNS のグループ…Facebook 秘密のグループ,Google+のサークル,Private SNS

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・グループチャット…LINE, Facebook メッセンジャー,チャットワーク

・SNS の通話機能…LINE, Facebook メッセンジャー,Skype

・ビデオ会議…Google ハングアウト,Skype, Zoom,チャットワーク

・メーリングリスト・同報メール…Gmail, FreeML

・グループウェア…サイボウズ Live, Slack, GitHub

・ファイル・情報共有…Dropbox,Yahoo! ボックス,Google ドライブ,Google ドキュメント,

Google スプレッドシート,Google カレンダー,Evernote, Wiki

・日程調整…伝助,Facebook グループのアンケート,Google カレンダー

2.3.2.参加メンバーの情報共有と交流

参加メンバーは,コミュニティにそれぞれの立場で参加する.積極的に活動する人から,交流

を目的とする人,情報収集のみ行う人などさまざまである.このような参加メンバーのニーズに

応えるため,次のようなソーシャルメディアの運用が考えられる.

・SNS のグループ…Facebook 非公開グループ,Private SNS, WordPress の SNS 用プラグイン

BuddyPress

・グループチャット…LINE, Facebook メッセンジャー,チャットワーク

・情報共有…Google カレンダー,Google フォト,Google フォーム,Wiki

・イベント告知・参加表明…こくちーず,TwiPla, Peatix

2.3.3.外部向け情報発信

インターネットに公開されるオウンドメディア,個人メディア,ソーシャルメディア,SNS

により,広報,PR,会員募集,イベント告知,資金調達など外部に向けた情報発信に使用され

る.

・オウンドメディア…ウェブサイト,WordPress や MovableType などの CMS

・個人メディア…ブログ

・SNS…Facebook ページ,Twitter, Instagram

・Private SNS…OpenPNE, BuddyPress(WordPress 用 SNS 作成プラグイン)

・動画配信…YouTube, Ustream(IBM Cloud Video),ニコニコ動画,Fresh!, Twitter Periscope

・イベント告知・参加表明…こくちーず,TwiPla, Peatix

・資金調達…ReadyFor(クラウドファンディング)

3.コミュニティのソーシャルメディア導入事例紹介

この章では,「鳥の一時預かりボランティア組織 BIRDSITTERS」という任意団体であるペッ

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ト関係のコミュニティのソーシャルメディア導入事例を紹介する.このコミュニティは,その名

の通り,鳥と飼い主のためのボランティア組織である.以下,フェーズ別に事例を紹介する.

3.1.運営スタッフの情報交換・情報共有

BIRDSITTERS は,2016年 5月 5日に設立された.コアメンバーによりコミュニティが運営さ

れていている.コアメンバーはスタッフ 3名とアドバイザー 2名で,北海道,関東,関西及びド

イツに居住する.著者も広報アドバイザーとして参加している.それぞれの活動拠点が離れてい

るので,メンバーが一堂に会することはないが,日頃の打ち合わせはソーシャルメディアを利用

して行われている.利用規約の制定,公式ウェブサイトの立ち上げ,SNS 戦略の検討,イベン

トの企画,パンフレットの製作などについての打ち合わせや連絡が頻繁に行われる.ウェブサイ

ト製作については外注先との連絡も必要となる.

3.1.1.文字系メディア及びファイル共有

メンバー間の連絡は,LINE, Facebook メッセンジャー,電子メールなど文字系メディアが主

な手段である.Google ドライブ,Google ドキュメント,Google スプレッドシートでファイル共

有を行う.Google カレンダーはいつどのような記事がソーシャルメディアに投稿されるかを共

有するためにコンテンツカレンダーとして導入する予定だったが,メンバーの作業が煩雑になる

ので使用にはいたらなかった.

3.1.2.グループウェア

ウェブサイト製作チームは,グループウェアとして Slack(https : //slack.com/)を用いた情報

共有を 2016年 6月 29日に開始した.Slack はウェブサイトのデザイナーチームの提案で導入さ

れた多機能なツールである.Slack ワークスペースに参加することでチームを編成し,作業の拠

点として利用することができる.ウェブサイト製作チームは,外注先のデザイナー及びプログラ

マ,コミュニティのスタッフ及びアドバイザーで構成される.このチームでは,Slack の文字チ

ャットによるメッセージとファイル共有機能を主に使用する.通知機能があり,自分宛のメッセ

ージ送られると電子メールでお知らせが届く.図 2に Slack ワークスペースの画面例を示す.

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3.1.3.ビデオ会議

ビデオ会議には,Google ハングアウト,Skype 及び Facebook ビデオ通話が用いられる.いず

れも最大 10人までのグループ通話ができる.顔を合わせて対話しながら文字チャットでメッセ

ージやファイルをやり取りすることができ,自分の画面を相手に見せる画面共有機能も備えてい

る.

ドイツに居住するメンバーとの打ち合わせには,ビデオ会議が有効である.主に Google ハン

グアウト(https : //hangouts.google.com/)を用いて 2016年 7月 4日から 2017年 6月 9日の間に

16回の SNS 戦略会議を行った.ハングアウトは PC,タブレット,スマートフォンに対応して

いるので,時間や場所を選ばずに参加できる.ただしドイツとの時差があるので,双方が対応可

能な時間帯を選んであらかじめ予定しておく必要がある.通話系メディアで音声と映像によるコ

ミュニケーションができ,同時に文字系メディアのチャットによるやり取りもできる.リアルタ

イムの映像で距離を感じさせないコミュニケーションができる.しかし,インターネットの通信

経路が長いため,安定した通信ができず音声や映像が途切れることがある.そのような時は文字

系チャットのやり取りが役立つ.音声を補完する形で使用されると同時に議事録としても活用で

きる.

図 2 Slack ワークスペース(PC 画面)

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3.2.参加メンバーの情報共有と交流

BIRDSITTERS の参加メンバーは,コミュニティにそれぞれの立場で参加する.バードシッタ

ーとして参加登録して積極的に活動する人から,イベントに参加して飼い主の交流を目的とする

人,鳥に関する情報収集を行う人などさまざまである.このような参加メンバーのニーズに応え

図 3 Google ハングアウトの映像(PC 画面)

図 4 Google ハングアウトの文字チャット(PC 画面)

コミュニティを活性化するソーシャルメディア活用の事例研究

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るため,次のようなソーシャルメディアを運用している.

・情報共有…Google フォト,Google ドライブ

・参加登録…Google フォーム

・Private SNS…WordPress の SNS 用プラグイン BuddyPress

説明会などのイベントに参加した人には,Google フォトでイベント当日の写真を共有した.

また,開発中の公式ウェブサイト運用開始までは,Google ドライブや Google フォームが暫定的

に使用されている.Google ドライブには,利用規約・プライバシーポリシー,面談時チェック

シート,シッター契約書などの文書が公開された.Google フォームでメンバー登録フォーム

(http : //goo.gl/CHviMH)が作成された.

BIRDSITTERS 専用の Private SNS が,公式ウェブサイトに BuddyPress プラグイン[3]が組

み込まれる形で開発されている.参加メンバーはウェブサイトから新規登録することによりアカ

ウントを取得し,SNS のコミュニティに参加することができる.この SNS では鳥を預かってく

れるバードシッター検索,預け主とバードシッターのマッチング,掲示板で情報共有や交流がで

きる仕組みを提供する.

3.3.外部向け情報発信

インターネットに公開される公式ウェブサイト,ブログ,ソーシャルメディア,SNS により,

広報,PR,会員募集,イベント告知,資金調達など,BIRDSITTERS から外部に向けた情報発信

が行われる.

・公式ウェブサイト http : //birdsitters.jp/

・アメーバブログ http : //ameblo.jp/birdsitters/

・Facebook ページ https : //www.facebook.com/BIRDSITTERS.PR/(図 5)

・Twitter https : //twitter.com/Birdsitters_PR/

・クラウドファンディング「Readyfor」 https : //readyfor.jp/projects/birdsitters

・イベント告知「こくちーず」 http : //kokucheese.com/main/host/BIRDSITTERS 事務局

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前節で述べた通り,公式ウェブサイトは Private SNS が組み込まれる形で運用される.この仕

組みを実現するプログラムは 2017年 9月時点で開発中であり,公式ウェブサイトが完成する

図 5 BIRDSITTERS Facebook ページ(PC 画面)

図 6 クラウドファンディングサイト「Readyfor」のプロジェクト(PC 画面)

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2017年 10月まで BIRDSITTERS の情報発信はアメーバブログ,Facebook ページ,Twitter を用

いて行われる.

BIRDSITTERS の設立資金はクラウドファンディングサイト「Readyfor」で賛同者が募られた.

このプロジェクトは目標金額の 30万円をはるかに超える支援総額 1,685,000円で成立した.資金

は BIRDSITTERS ロゴ製作,ウェブサイト構築,パンフレット製作,日本各地で説明会・交流会

を行うためのイベント開催費などに充当された.このクラウドファンディングを通じて BIRD-

SITTERS を広報することもできたと考えられる.図 6にそのプロジェクト画面を示す.

「こくちーず」はイベント・セミナー集客を支援する無料サービスである.BIRDSITTERS 説

明会・交流会の開催情報が掲載され,参加申し込みもこのサービスから行われた.

4.考察

4.1.導入事例の運用状況についての考察

前章で紹介した BIRDSITTERS のソーシャルメディア導入事例の利点と問題点について述べ

る.

著者らは,複数のソーシャルメディアを組み合わせて利用することにより,活動を効率的に

し,メンバーの交流を円滑にし,コミュニティを活性化させる可能性があると考える.それは,

コミュニティのメンバーが活動内容に応じたソーシャルメディアを選択し,利用していく中で,

活動や交流に必要な機能を実現していくからである.また,ソーシャルメディアは人と人をつな

ぐ情報ツールなので,離散的な拠点で異なる時間帯に活動するコミュニティメンバーの交流の場

を形成するためにソーシャルメディアが活用されることで,そこに業務の拠点ができ,作業効率

が向上し,そのコミュニティが活性化される可能性があると考える.

一方で複数のソーシャルメディア利用による問題点もある.やり取りする内容,目的,メンバ

ーによってツールが異なるため,その都度ツールを切り替える手間がかかる.個々のやり取りを

全体で共有しにくいという欠点もある.メンバーの利用環境や経歴はさまざまで,利用しやすい

ツールにも差が出る.例えば,PC の利用が効率的な場合もあれば,スマートフォンのアプリの

方が即時性において優れているのでよい場合もある.メンバーの利便性に合わせて導入していく

と,多数のソーシャルメディアのアカウントを持たなくてはならなくなる傾向にある.そうなる

と,利用者は常にスマートフォンや PC を操作し,新しいメッセージが入っていないかソーシャ

ルメディアを巡回してチェックすることになり,ソーシャル疲れ[4]と言われる状態に陥るこ

ともある.種類が多すぎることにより操作が煩雑になり,情報が一元化されず分散するなどのデ

メリットも考えられる.

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4.2.ソーシャルメディア導入の有効性評価方法の考察

前節で述べた紹介事例の利点と問題点をふまえて,この節では本節では複数の既存ソーシャル

メディア導入の有効性評価の必要性と評価方法について考察する.

前節での評価は著者の主観的なものであり,どのようなソーシャルメディアのあり方がコミュ

ニティを活性化する可能性があるかを探るためには,複数の利用者の評価を集計・分析する必要

があると考える.ソーシャルメディアがコミュニティの活性化や実務の効率化に寄与するかどう

かを検証する方法として,利用者アンケートの実施を検討する.このアンケートは,運営メンバ

ーと参加メンバーに分けて行う.

まず,運営メンバーがこのコミュニティで利用した各種ソーシャルメディアについて,実務の

効率,活動時間帯や使い勝手などについて尋ねるアンケートを実施する.

次に,参加メンバーが利用する Private SNS や各種ソーシャルメディアについて行う.アンケ

ートの項目として,利用環境,利用頻度,使いやすさなどについて尋ね,回答を集計・分析す

る.また,感想,要望,不便なところ,既存のソーシャルメディアで便利なところなどを聞かせ

てもらい,ソーシャルメディア導入の方向性の検討に反映する.

5.おわりに

本稿では,信頼のコミュニティにおけるソーシャルメディア・SNS 活用により,作業効率が

向上し,そのコミュニティが活性化される可能性について考察するための事例紹介を行い,コミ

ュニティの活性化や実務の効率化に関する検証方法について考察した.

今後は,複数のソーシャルメディア導入の有効性評価を行い,利点と問題点を明らかにしてい

く.評価結果を元に,コミュニティ活動におけるソーシャルメディアのあり方についても考察し

たい.どのようなソーシャルメディアがあればよいのか,既存のものにコミュニティに適したも

のがあるのか,それらの開発や改善についても考える.

謝辞

本稿の資料提供および公開の機会をくださった BIRDSITTERS 発起人である,シシイ家原弥生

様に感謝いたします.また,BIRDSITTERS の運営に携わったスタッフの徳永ゆかり様,齊田茜

様,医療アドバイザーの工藤慈様の多大なる貢献に感謝いたします.

参考文献[1]総務省情報通信政策研究所:“平成 28年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告

書”,http : //www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000064.html(2017年 9月 20日閲覧)[2]Twitter ヘルプセンター:“公開ツイートと非公開ツイートについて”,

https : //support.twitter.com/articles/243055(2017年 9月 20日閲覧)

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[3]WordPress.org:“BuddyPress-WordPress プラグイン”,https : //ja.wordpress.org/plugins/buddypress/(2017年 9月 20日閲覧)

[4]Weblio 実用日本語表現辞典:“ソーシャル疲れ”,http : //www.weblio.jp/content/ ソーシャル疲れ(2017年 9月 20日閲覧)

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