オーストラリアの次期lngプロジェクトは 世界的競争に ......gorgon...

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31 石油・天然ガスレビュー アナリシス Lainie Kelly JOGMEC シドニー事務所 [email protected] オーストラリアの次期LNGプロジェクトは 世界的競争に勝ち残れるか? オーストラリア連邦政府産業観光資源省は、2007年4月に開催されたAPPEA(豪州石油生産探鉱協 会)の年次総会の場で、 例年どおり、所管する海域部分の新規探鉱開発鉱区の公開を行った。 2006年以来、政府関係者は、地球温暖化対策あるいは豪州経済の発展・維持のため、エネルギー資源 の輸出促進、とりわけLNGの役割に重きを置いた発言が目立った。また、2006年2月からオーストラ リア(以下、「豪州」 と呼ぶ)第2番目の北部準州ダーウィンLNGプロジェクトの出荷が開始され、次 のプロジェクトへの関心が高まっている。しかし、他のLNG輸出国との市場獲得競争や、液化プラン ト建設費の大幅な増加も課題となっている。それらの視点も踏まえ、本稿をまとめた。 (1)既存LNGプロジェクト 豪州には、二つの既存LNGプロジェクトがある。一 つは、1989年の操業開始以来約20年が経過した西オース トラリア州(Western Australia以下「WA州」と呼ぶ) の北西大陸棚プロジェクト(North West Shelf project) で、オペレーターは、Woodsideである。二つめは、 2006 年よりLNG出荷を開始した、北部準州(Northern Territory以下「NT」と呼ぶ)のダーウィンLNGプロジェ クト(Darwin LNG project)で、オペレーターは ConocoPhillipsである。両プロジェクトの概要を表1示した。 (2)新規LNGプロジェクト 豪州では、1970年代以降に発見されたが、経済性の面 から開発に至っていなかった油ガス田が多くあり、昨今 の原油価格の高騰、LNGの環境優位性等からの需要増 に対応し、開発・生産段階へと進むプロジェクトが多い。 このなかで、現在、検討が進められているLNGプロジェ クトを表2に示す。また、 図1には、既存・新規プロジェ クトの位置を示す。 以下、豪州の新規LNGプロジェクトに係る事項につ いて、まず簡単にコメントする。 ①豪州NT北方のティモール海海域には、東ティモール と豪州に跨 またが るグレーター・サンライズ・プロジェクト や、ダーウィンLNGプロジェクト拡張計画の原料ガ ス供給源とされるガス田がある。 1. 豪州LNGプロジェクトの概観 三宅 裕隆 JOGMEC シドニー事務所 [email protected] 名称 場所 液化能力(万トン/年) 事業参加者 出荷先 備考 北西大陸棚 WA州 1,190(4トレーン) Woodside他5社 日本、中国 2008年に440万トン増設後1,630万トン(5トレーン) ダーウィン NT 371(1トレーン) ConocoPhillips他5社 日本 許可能力1,000万トン 表1 NWSとダーウィンプロジェクトの現状 出所:各種情報・報道 Greater Sunrise BayuUndan Ichthys Browse North West Sheif Pluto Gorgon Scarborough 既存、新規LNGプロジェクト位置 図1 出所:Woodside Petroleumホームページ

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31 石油・天然ガスレビュー

TACT SYSTEM

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アナリシス

Lainie KellyJOGMEC シドニー事務所[email protected]

オーストラリアの次期LNGプロジェクトは世界的競争に勝ち残れるか? オーストラリア連邦政府産業観光資源省は、2007年4月に開催されたAPPEA(豪州石油生産探鉱協会)の年次総会の場で、 例年どおり、所管する海域部分の新規探鉱開発鉱区の公開を行った。 2006年以来、政府関係者は、地球温暖化対策あるいは豪州経済の発展・維持のため、エネルギー資源の輸出促進、とりわけLNGの役割に重きを置いた発言が目立った。また、2006年2月からオーストラリア(以下、「豪州」 と呼ぶ)第2番目の北部準州ダーウィンLNGプロジェクトの出荷が開始され、次のプロジェクトへの関心が高まっている。しかし、他のLNG輸出国との市場獲得競争や、液化プラント建設費の大幅な増加も課題となっている。それらの視点も踏まえ、本稿をまとめた。

(1)既存LNGプロジェクト

 豪州には、二つの既存LNGプロジェクトがある。一つは、1989年の操業開始以来約20年が経過した西オーストラリア州(Western Australia以下「WA州」と呼ぶ)の北西大陸棚プロジェクト(North West Shelf project)で、オペレーターは、Woodsideである。二つめは、 2006年よりLNG出荷を開始した、北部準州(Northern Territory以下「NT」と呼ぶ)のダーウィンLNGプロジェクト(Darwin LNG project)で、オペレーターはConocoPhillipsである。 両プロジェクトの概要を表1に示した。

(2)新規LNGプロジェクト

 豪州では、1970年代以降に発見されたが、経済性の面から開発に至っていなかった油ガス田が多くあり、昨今の原油価格の高騰、LNGの環境優位性等からの需要増に対応し、開発・生産段階へと進むプロジェクトが多い。このなかで、現在、検討が進められているLNGプロジェクトを表2に示す。また、図1には、既存・新規プロジェクトの位置を示す。 以下、豪州の新規LNGプロジェクトに係る事項につ

いて、まず簡単にコメントする。① 豪州NT北方のティモール海海域には、東ティモール

と豪州に跨またが

るグレーター・サンライズ・プロジェクトや、ダーウィンLNGプロジェクト拡張計画の原料ガス供給源とされるガス田がある。

1. 豪州LNGプロジェクトの概観

三宅 裕隆JOGMEC シドニー事務所[email protected]

名称 場所 液化能力(万トン/年) 事業参加者 出荷先 備考

北西大陸棚 WA州 1,190(4トレーン) Woodside他5社 日本、中国 2008年に440万トン増設後1,630万トン(5トレーン)

ダーウィン NT 371(1トレーン) ConocoPhillips他5社 日本 許可能力1,000万トン

表1 NWSとダーウィンプロジェクトの現状

出所:各種情報・報道

Greater SunriseBayuUndan

Ichthys

Browse

North West SheifPluto

Gorgon

Scarborough

既存、新規LNGプロジェクト位置図1

出所:Woodside Petroleumホームページ

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322007.7 Vol.41 No.4

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プロジェクト名 権益保有者、権益比率(%) 埋蔵量(兆cf) 液化能力(百万トン/年) 操業開始予定時期

Gorgon

Chevron* 50%

40 10 当初予定(2010年)に遅れShell 25%

ExxonMobil 25%

Pluto Woodside* 100% 4.1 5~6 2010年

Pilbara(Scarborough)

BHP Billiton 50%ExxonMobil* 50% 8 6 当初予定(2010年)に遅れ

IchthysInpex* 76%

9.5 6~12 2012年Total 24%

Browse

Woodside*

20.7 7~15 2012~2014年

BP

Chevron

Shell

BHP Billiton

Greater Sunrise Woodside* 33.44%他 8.4 5.3 検討中

計 90.7 39.3~54.3

*オペレーター出所:各種情報・報道

表2 検討中の新規LNGプロジェクト

② 豪州のこれらLNGプロジェクトの市場は、日本、韓国、中国、インドのアジア圏と需給逼

ひっ

迫ぱく

の米国である。 ③ 豪州の新規LNGプロジェクトは、 お互いが競争相手

であるとともに、海外のLNGプロジェクト、具体的にはカタール、アラブ首長国連邦、イエメン、オマーン、インドネシア、マレーシア、ブルネイ、ロシア(サハリン)、イランおよびパプアニューギニアと、需要家の確保を争うことになる。

④ 豪州は、信頼性の高いLNG供給国との評価を得ているが、近年は環境問題対応や政府の許認可取得等に際して、困難な問題が発生している。

⑤ 豪州内の天然ガス資源量の過半を占めるWA州政府が、生産ガスの州内供給義務(ガス田埋蔵量の15%相当)を政策としていることから、 当該政策の対象となるプロジェクトの場合、経済性を悪化させる事態が考えられ、投資判断に影響を及ぼす可能性がある。

⑥世界の石油ガス産業界では、2006年度中にLNGプロ

ジェクトの最終投資決定(FID:Final Investment Decision)がなかった。これは、プロジェクトコストの急激な上昇、熟練労働者・技術専門家および資機材の不足等が影響している。

2006 2007 2008 2010 2012 2014 2015

Existing & Potential LNG Capacity70

60

50

40

30

20

10

百万トン/年

Greater SunrisePilbaraGorgonBrowseIchthysPlutoDarwin Phase Ⅰ&ⅡNorth West Shelf 1 to 5

出所:JOGMECシドニー事務所

豪州内の既存、新規LNGプロジェクト液化能力の推移図2

(1)ゴーゴン/Gorgon LNG Project

①概要 Gorgon LNGプロジェクトは、WA州北西(Onslowの北)の沖合約200kmに位置するGreater Gorgonガス田群を開発するものであり、埋蔵量は約40兆cfと見込まれて

いる。 同プロジェクトを構成するガス田とその埋蔵量は、表3のとおりである。 なおChevronは、2006年7月にJanszガス田の北西12kmの試掘井(Chandon-1)で、 また同年11月には

2. 新規LNGプロジェクトの概要と課題

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33 石油・天然ガスレビュー

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オーストラリアの次期LNGプロジェクトは世界的競争に勝ち残れるか?

Barrow島の北西60kmの試掘井(Clio-1)で、新たにガス田を発見した。 また、同海域では2004年にDampierの北西沖合約170kmでWheatstoneガス田が発見され、Chevronが100%権益を保有している。

②LNG事業枠組みの設定 ChevronTexaco(現Chevron)、Shel l および ExxonMobilの3社は、2005年4月にGreater Gorgon地域におけるLNG事業化枠組みを定める基本協定を締結し、権益比率を表4のとおりとすることに合意した。 なお、BPはGreater Gorgon地域内の Geryon、Orthrus および Ioに一部権益を保有しているが、Gorgon LNGプロジェクトには参加していない。

③開発計画 ガスは、海底パイプラインでBarrow島に移送され、そこで液化される。第1フェーズでは、年間1,000万トンの規模を想定しており、Gorgonエリアのガス田 (1981年発見) 群とIo/Janszガス田(2000年発見)が原料ガスを供給する計画である。当該ガス田の生産ガスは、 二酸化

炭素含有量が14%と高いため、Barrow島では二酸化炭素の地下注入施設が設置され、 地球温暖化排出ガスの抑制を行う計画である。

④LNG販売計画 共同事業者の3社は、それぞれの権益シェアに基づいて販売先を確保する取り決めであることから、各社のLNG販売量は、Chevronが年500万トン、Shel lとExxonMobilが各年250万トンとなる。 Chevronは、 2005年にわが国の東京ガス、中部電力、大阪ガスの3社と、年計420万トンを供給する基本合意書を締結している。またChevronは、韓国のGS Caltexに2010年から20年間、年間25万トンを供給する基本合意書を締結している。 Shellは、メキシコに建設中のSempra/Shell Energia合弁であるCosta Azul LNG受入基地へ年間250万トンを供給すると発表している。 また、ExxonMobilは、インドのPetronetをはじめとする複数の需要家と販売契約を交渉中である。 なおGorgon LNGプロジェクトは、2003年9月に中国CNOOCとMOUを締結した。CNOOCが12.5%の権益を取得し、プロジェクトに参加するとともに同社に年間400万トンのLNGを供給することを計画したが、その後LNG販売環境が変化したことから、いまだに正式な契約には至っていない。CNOOCの事業参加は断念されたものと見られる。 現在までに締結されたHOA(Heads of Agreement:基本合意書)等販売契約の概要は表5のとおりである。

⑤環境問題 当該プロジェクトの液化プラント建設予定地であるBarrow島は、1911年にWA州において、高度の環境対策が要求されるクラスAの自然保護地区となった場所である。  2006年6月、WA州政府環境保護庁(Western Australia Environmental Protection Authority=EPA)

地域名 ガス田名 埋蔵量(兆cf)

Gorgon Area Gorgon, Spar, West Tryal Rocks, Chrysaor, Dionysus 17.5

Greater Gorgon AreaGeryon, Orthrus/Maenad, Urania, Eurytion 4.4

Io/Jansz 20

計 41.9

出所: Texaco Press Release 23/9/99, WA Oil & Gas Review 2006 pg 59, ChevronTexaco Press Release 16/7/03

表3 Greater Gorgon 埋蔵量

権益保有者 権益比率(%)

Chevron* 50

Shell 25

ExxonMobil 25*オペレーター

表4 Gorgon Joint Venture Partners

Indian Ocean

PlutoPluto

GorgonGorgon

Io/JanszIo/JanszScarboroughScarborough

North West ShelfNorth West Shelf

Barrow IslandBarrow Island

KaralthaKaraltha

Burrup PenisulaBurrup Penisula

AUSTRALIAAUSTRALIA

AUSTRALIAAUSTRALIA

出所:JOGMEC

新規LNGプロジェクトのガス田とパイプライン位置(点線は計画中)図3

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は、Barrow島での開発は、 ウミガメの生態や産卵に影響を与えるとして反対し、その報告書を環境関係の許認可に決定権を持つWA州政府環境相に提出した。しかし、WA州政府環境相は2006年12月、次に述べる環境保護対策実施を条件に、LNG事業を承認した。  それは、当初の環境保護対策費4,000万豪ドルとは別に、ウミガメや他の絶滅危

惧ぐ

種の保護対策費用として、新たに6,000万豪ドル超を拠出するという内容である。 一方、連邦政府環境相は、 Gorgonガス田からの二酸化炭素を地下に圧入するための事業支援として、連邦政府が6,000万豪ドルを拠出すると語っている。ちなみに、豪州政府が進める総額8億5,000万豪ドルの排出ガスの地下圧入プロジェクトは、世界でも最大規模であり、豪州の地球温暖化排出ガスを毎年300万トン削減できるといわれている。

⑥事業進捗状況 Gorgon共同事業者は、WA州政府の許認可取得に向け、集中的に詳細な検討を行っている。また、最終投資決定を前にして、連邦政府からの環境関係の許可取得を待っているところである。 なお、当初110億豪ドルと想定されていた建設費は、コストアップ等により現在では150億豪ドルと、約36%もの増加が見込まれている。Chevronは2007年4月にプロジェクト実施を決めているが、建設コスト上昇の問題が解決するまでは、2007年半ばに予定している最終投資決定を急がないと言明している。 最終投資決定が2008年第2四半期に行われた場合、最初のLNG出荷は2012年第2四半期と想定されている。しかし、コスト増への対応や二酸化炭素の地下圧入事業等の環境対策もあり、さらに遅れる可能性もある。

(2)プルート/Pluto LNG Development

①概要 Pluto LNGプロジェクトは、 WA州Kartathaの北西沖合約190kmのWA-350-P鉱区にあるPlutoガス田をガス供給源とする、Woodsideが100%権益を保有するプロジェクトである。同ガス田は、 2005年4月に発見され、埋蔵量ガス約4兆1,000億cf、コンデンセート4,200万バレルを見込んでいる。 また、 同鉱区内では、埋蔵量4,000億cfと小規模ではあるが、Xenaガス田が2006年9月に発見されている。

②開発計画 Woodsideが2005年8月に発表した開発計画では、ガス田から約200kmのBurrup半島に液化プラントを建設する。 第1フェーズでは、年間500万~600万トンの規模を想定している。 第1フェーズは、PlutoとXenaガス田のガスを利用するが、第2フェーズは、今後発見が期待されるガス田に加え、他鉱区のガス田のガスを想定している。 開発コスト(ガス田開発と液化プラント建設)は、60億~100億豪ドルと見込まれる。 同社は、基本設計(Front End Engineering and Design=FEED)を2007年末までに終了させ、最終投資決定も同時期に行い、2010年末のLNG出荷開始を目指している。

③LNG販売計画 販売先としては、東京ガス、関西電力と基本合意書

(HOA)を締結しており、内容を表6に示す。

④進捗状況等 液化プラントの建設予定地であるBurrup半島は、豪州の先住民であるアボリジニの洞窟壁画芸術が多数ある場

販売会社(販売量:万トン/年) 購入者(HOA締結時期) 購入量(年間) 契約期間 備 考

Chevron(500万トン)

東京ガス(2005年10月) 120万トン 2010年から25年間 東京ガスは権益取得を交渉中

中部電力(2005年11月) 150万トン 2010年から25年間 中部電力は権益取得を交渉中

大阪ガス(2005年12月) 150万トン 2010年から25年間 大阪ガスは権益取得を交渉中

GS Caltex 25万トン 2010年から20年間

Shell(250万トン)

インドGSPC(Gujarat State Petroleum Corporation) 50万トン~ 2010年から15~20年間 中長期のLNG供給について

基本合意済み,Hazira基地受け入れ

Sempra/Shell Costa Azul LNG 基地 ~250万トン Shellは、メキシコで建設中のCosta Azul基地でのLNG受け入れを発表

ExxonMobil(250万トン) Petronet LNG(インドのKochi基地) 250万トン 2007年4月にインドPetronetと交渉開始

出所:Gorgon Project HP、ExxonMobil HP 、Chevron HP

表5 Gorgon LNG 販売契約

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所として知られ、2004年には半島とその周辺域が国家遺産リストに登録されている。WA州政府遺産相が、施設建設地の開発に対し暫定承認を与えて2007年1月に造成工事に着手したが、Woodsideは、プロジェクト全体に対する環境関係の許認可取得を待っているところである。 作業の進

しん

捗ちょく

状況は、海洋と陸上施設の詳細設計がほぼ終了している。

(3)ブラウズ/Browse LNG Development

①概要 Browse LNGプロジェクトは、WA州Broome海岸の北西沖合約425kmにある三つの油・コンデンセート田から構成されている(図4)。Torosa、Brecknock、Callianceの各ガス田であり、埋蔵量は合計でガス約20兆

cf、コンデンセート約3億バレルと見込まれている。Torosaガス田は、INPEXの開発プロジェクトであるIchthysガス田から、わずか45kmの位置にある。 同プロジェクトは、Woodsideをオペレーターとしている。事業参加者と各ガス田の埋蔵量を表7、表8に示す。

②開発計画 LNG液化プラントは、年間700万~1,500万トンの生産規模を計画している。建設予定地は、WA州Kimberley海岸線に沿った陸上地域、あるいはTorosaガス田近くのScott Reefの洋上LNG液化プラントとして、検討が進められている。 建設費は、当初計画の700万トン規模で総額120億~140億豪ドルと見込んでいるが、陸上に液化施設を建設する場合には、洋上液化プラントに比べて数十億豪ドル

購入者 購入量(万トン/年) 契約期間 備 考

東京ガス 150~175 2010年から15年間(5年の延長オプション) 東京ガスは、LNG事業権益5%取得を交渉中

関西電力 175~200 2010年から15年間(5年の延長オプション) 関西電力は、LNG事業権益5%取得を交渉中

北東アジア(その他市場)

(注)上記以外の北東アジア需要家とも売買契約交渉中出所:Woodside HP

表6 販売先の概要

出所:Woodside

Browse LNGプロジェクト(Torosa、Brecknock、Callianceガス田位置)図4

(%)

事業者 Torosa (1971年発見)

Brecknock (1979年発見)

Calliance (2000年発見)

Woodside* 50 50 25

BP 16.67 16.67 20

Chevron 16.67 16.67 20

Shell 8.33 8.33 15

BHP Billiton 8.33 8.33 20

計 100 100 100

*オペレーター出所:各種情報・報道

表7 Browseガス田群のユニタイゼーション比率

ガス田名 ガス(兆cf) コンデンセート(百万バレル)

Torosa 11.5 121

Brecknock 5.3 109

Calliance 3.9 87

計 20.7 317

出所:各種情報・報道

表8 Browseガス田群の埋蔵量

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程度割安になるものと見込まれている。 しかし、洋上液化プラントの案は多くのインドネシア漁民が操業を許されている海域にあり、その対象海域から漁民を排除することに加え、Scott Reef海域の環境保護という難問がある。 設備概念設計を進め、2007年末までには建設地を決定したいとしている。

③進捗状況等 参加事業者は、2009年までに当該プロジェクトの最終投資決定を行い、2013~2014年のLNG出荷開始を目指している。 2007年中に、LNG液化トレーンとプラント施設規模を決める要素となる埋蔵量を確実なものとするための探鉱と評価作業を集中的に行う予定である。 また、洋上液化プラントと陸上液化プラント両案の検討が進められるとともに、環境認可を取得するための概念設計等が行われる。なお、販売関係の協定書等は、現在のところ締結されていない。

(4)ピルバラ/Pilbara LNG Project

①概要 Pilbara LNGプロジェクトは、WA州Onslowの北西沖合約280kmに位置するScarboroughガス田を主な生産源としている。 参加事業者は、Scarboroughガス田があるWA-1-R鉱区は、オペレーターを務めるExxonMobilとBHP Billitonがともに50%の権益を持ち、小規模なJupiterガス田があるWA-346-P鉱区は、 BHP Billitonが100%権益を持つ。  ScarboroughとJupiterガス田の合計埋蔵量は8兆cf以上と見込まれる。

②開発計画 BHP Billitonは、LNG液化プラントの建設予定地としてOnslow南西約4.5kmのPilbara地区を選定した。年間生産規模約600万トンで、 輸出先はアジア諸国または米国を予定している。BHP Bi l l i tonは、2004年以降Scarborough海域で3D震探作業、3坑の試探掘井を掘削し、事前検討作業を行ってきた。投資額は総額60億豪ドル、初期投資としてガス生産施設およびパイプライン敷

設せつ

に35億豪ドルが見積もられている。 なお、オペレーターのExxonMobilは、いまだ基本設計開始の発表をしていない。

③進捗状況等 BHP Billitonが輸出先として計画していた米国カリフォルニア州LNG受入基地(Cabrillo Port LNG Import Facility)では、著名人を中心に、環境への悪影響とテロの目標になるとの強い反対運動が起きていたが、2007年4月に同州土地委員会と沿岸委員会が、同社計画を否決した。5月には、環境保護を理由に同州知事も同計画を否決した。米国連邦法の下では、州知事の拒否権は最終的なものとされており、同計画の承認取得は不可能な状況となっている。 このため、他の輸出国としてアジア諸国がクローズアップされることになったが、BHP Billitonの2009~2010年に操業開始との従前の計画は、ほとんど不可能となった。

(5)イクシス/Ichthys LNG Project

①概要 Ichthysガス・コンデンセート田は、WA州北西海岸の沖合約250kmに位置するWA-285-P鉱区内のBrowseベースン(堆積盆)にある。当該ガス田は2000年に発見され、埋蔵量ガス約9兆5,000億cf、コンデンセート約3億1,200万バレルと見込まれている。オペレーターはINPEXで、2006年Totalに一部権益を譲渡した。表9に、参加事業者の権益比率を示す。

②開発計画 INPEXは、Ichthysガス田の生産ガスを、Kimberley海岸沖のMaret島に建設する液化プラントまで海底配管で移送し、処理するLNG事業として計画している。 液化プラントは、第1期として年600万トンの処理能力を予定している。なお、将来計画では年約1,200万トンとなっている。 第1期の建設費は、2007年4月に80億~100億豪ドルを見込むとの会社発表があったが、120億豪ドルとの見方もある。2008年中に最終投資決定を行った上で、2012年後半の操業開始を目指している。

③進捗状況 2006年5月に、連邦政府およびWA州政府あてに、ガス田開発に必要な環境関連の許認可申請を提出済みであり、現在、許可取得を待っている。申請書類には、環境影響

(%)

事業者 参加権益比率

INPEX Holdings* 76

Total 24*オペレーター

表9 権益保有者

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37 石油・天然ガスレビュー

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評価のための開発ガイドラインが含まれており、同社は、2008年初頭までに環境承認手続きを終えたいとしている。 なお、Ichthys LNGプロジェクトは、2006年に連邦政府によりMajor Project Facilitation(MPF)*1の指定を受けている。

(6) グレーター・サンライズ/Greater Sunrise

LNG Project

①概要 Greater Sunriseガス田は、NTダーウィン北西沖合約450kmのティモール海に位置している。同ガス田は、SunriseとTroubadourガス田の集合体として知られ、埋蔵量はガス約8兆cf、コンデンセート約3億バレルと見込まれている。同ガス田は、その一部が豪州と東ティモール政府が共同で管理する共同石油開発地域(Joint Petroleum Development Area=JPDA)内に入り、大部分は豪州の経済水域内にある。 参加事業者は、当該ガス田の探鉱費(評価費、市場調査費、技術経費と事業化調査費等を含む)に、既に総額2億5,000万豪ドルを支出している。 オペレーターのWoodsideは、 当該事業からの収益配分に関する豪州と東ティモール両政府の交渉が未解決であったため、 2004年にはプロジェクトを一時中断していた。事業化には、両政府の関係法制、税制面等に関する規定内容の最終確認が必要とされている。事業参加者は表10のとおりである。

②開発計画 開発計画には、次の四つのオプションがある。

a) 既存のダーウィンLNGプラントの拡張b) ダーウィン陸上での新規LNGプラントの建設c) 洋上LNG液化施設の建設(固定式あるいは浮遊式)d) 東ティモールにおける新規LNGプラントの建設 

 オペレーターのWoodsideは、東ティモールでの液化プラント建設案に対して、技術的には可能であるが経済的には不利であるとの見解を示している。 ③進捗状況等 Greater Sunrise LGNプロジェクトは、 2007年2月に東ティモール議会が「ティモール海境界線条約」(the Treaty on Certain Maritime Arrangements in the T imor Sea=CMATS)と、the In t e rna t i ona l Unitization Agreement (IUA)を批

准じゅん

したことにより、実現性が高まった。Woodsideは、CMATS条約の批准により当該プロジェクトに係る法規制の確実性を担保されたが、今後、最適な開発コンセプトや市場開拓、年度予算の確定等について合意に達することが必要としている。 また同社は、 技術データの見直しや新規評価井の掘削計画の検討を行っている。

(7) ダーウィンLNG拡張計画/Darwin LNG Expansion

 ダーウィン LNGプロジェクトは、ティモール海のBayu-Undanガス田をガス供給源としている。 ダーウィン市郊外のWickham Pointにある液化施設の能力は、現在1トレーンで年間371万トンであるが、 年間1,000万トンの規模までの建設許可を得ている。 オペレーターの ConocoPhillipsとパートナーの Santosは、 当該プロジェクトの拡張計画に向け、ガス埋蔵量の増加を目指して探鉱計画を進めている。  新たなガス供給源候補としては、Calditaガス田(2005年発見)、Barossaガス田(2006年発見)、Evans Shoalガス田(1998年発見)等が想定されている。

*1:豪州連邦政府によるMajor Project Facilitation(主要促進プロジェクト)の認定は、長期にわたり豪州経済発展に貢献する事業に対して行われる。認定により、Ichthys事業は、認定されていない他の事業に比べ、事業の推進に必要な連邦・州政府、関連地方当局の許認可を速やかに取得する支援を、豪州連邦政府対内投資促進局から受けることができる。

(%)

事業者 参加権益比率

Woodside Petroleum* 33.44

ConocoPhillips 30

Shell 26.56

大阪ガス 10

計 100*オペレーター

表10 Greater Sunrise権益保有者

(1)豪州と世界のLNG貿易

 豪州の2005/06年度(2005年7月~2006年6月)のLNG輸出は、輸出量1,240万トン、輸出額44億豪ドルで、日本へのLNG輸出国としてはマレーシアを抜いて第2

3. 豪州LNGプロジェクトを取り巻く環境

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位となった。豪州農業資源経済局によれば、LNG輸出は2006/07年度には前年比22%増の1,520万トンとなり、その後も着実に増加して2008/09年度は1,700万トン、2009/2010年度は1,900万トンと見込まれている。 また、APPEAの報告では、LNG輸出量は2008年2,000万トン、2017年5,000万トンとなり、カタール、ナイジェリアに次いで世界第3位のLNG輸出国になるとしている。 一方、 世界のLNG貿易量は、 民間石油会社の予想では2005年度の1億4,500万トンが、2015年度には約3倍の3億7,000万トンとされている。 豪州政府統計部局による天然ガス生産量、LNG輸出量及び輸出額の見込みを表11に示す。

(2)豪州のLNG輸出市場

 民間石油会社の2005年度の統計資料によれば、世界のガス消費の7%、ガス貿易の26%がLNGである。 1989年度から始まった豪州のLNG輸出は、日本、韓国向けであったが、2006年度にはWA州北西大陸棚LNGプロジェクトから中国広東省への輸出が開始された。これは中国にとっても初めてのLNG輸入であり、同国のエネルギー需要の急激な増加から、 今後の伸びが注目される。また、 豪州のLNG事業者の想定市場としては、他に米国とインドが挙げられる。 具体的には、Gorgon LNGプロジェクト事業者のShellは、インドのGujarat State Petroleum CorporationとHazira LNG受入基地への中長期のガス供給に関し基本

協定書(preliminary agreement)を締結し、同じくExxonMobilは、インドのPetronetと売買契約交渉中であることを公表している。 また、Woodsideは、米国西海岸にLNG受入基地を建設するOcean Way計画を進めているが、BHP Billitonの米国カリフォルニア州のCabrillo Port LNG受入基地計画は、2007年4月と5月に州政府等から不許可の決定が下されている。

(3)LNGプロジェクト事業化の課題

①競合国と事業 アジア太平洋地域のLNG貿易は、ガス生産国のマレーシア、ブルネイ、インドネシア、豪州および中東諸国から、消費国の日本、韓国、そして最近は中国へと流れている。 2007年4月開催のAPPEA年次総会では、以下のように報告された。豪州LNGプロジェクトは、現在あるいは将来ともにカタール、アラブ首長国連邦、イエメン、オマーン、インドネシア、マレーシア、ブルネイ、ロシア(サハリン)、イランおよびパプアニューギニアとの市場獲得競争に晒

さら

されている。特にカタールは、 豪州の約10倍のガス埋蔵量を有し、LNG輸出量は豪州の約2倍であり、その輸出先は、アジア太平洋と大西洋市場で競合している。 2006年にインドネシアを抜いて世界第1位のLNG輸出国になったカタールは、 さらに液化施設規模を、現在の年2,700万トンから2011年には年7,700万トンと3倍増

2006/07年度 2007/08年度 2008/09年度 2009/10年度 2010/11年度

生産量(10億m3) 45 50 56 60 63

輸出量(万トン) 1,500 1,500 1,700 1,900 1,900

輸出額(百万豪ドル) 5,231 5,269 6,066 6,414 6,507

(注)豪州の会計年度は、7月~6月であり、上記統計・見込みも同様出所:Australian Bureau of Agricultural and Resource Economics (ABARE), Australian Commodities

表11 豪州の天然ガス生産量、LNG輸出量及び輸出額の見込み

百万トン/年

出所:IEA(2006)

既存および計画中のLNGプロジェクト図5

インドネシア 1.5%全6.405兆立方フィートマレーシア 1.4%豪州 1.4%

イラン 16%

カタール 14%

サウジアラビアUAE

ロシア 26%

アルジェリアナイジェリア

米国その他

出所:BP統計(2007)

世界の天然ガス埋蔵量の比率(2006年)図6

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させる計画で、着々と建設工事を進めている。図5に、世界のLNG生産設備の既存、増設計画を示す。 豪州は、天然ガス埋蔵量では世界の1.4%を占めるに過ぎず、ロシア、イラン、カタールの3カ国で約56%を占めている。図6に、世界の天然ガス埋蔵量比率を示す。 図5から、約7,500万トンが建設中のプラント、約6,500万トンが設計中のプラント、約7,500万トンが計画中のプラントで、これらの合計2億1,500万トンが、近い将来のLNG貿易の増加量に相当することになる。

②建設費の高騰 豪州では近年、石油関連プロジェクトが建設費の高騰に直面している。例を挙げると、北西大陸棚LNGプロジェクトの第5トレーン(年440万トン)増設事業は、当初の20億豪ドルが24億豪ドル(20%増)になり、Roc OilのCliff Head石油開発プロジェクトは25%増の2億8,500万豪ドルになっている。 2007年2月、CERA(Cambridge Energy Research Associates)は、2006年10月までの過去2年間に石油・ガスプロジェクトの建設コストが、世界的に53%以上増加したと報告している。このなかで過去1年間に海洋掘削リグのレートが4倍になり、恒久的リグ施設は41%、エンジニアリング・プロジェクト管理費は23%、ヤード内製作費は22%上昇し、過去6年間の累計で、新規LNGプラントの建設費は3倍に大幅増加しているとのことである。 このコスト増加が、豪州のLNGプロジェクトの事業化にも影響し、Gorgon LNGプロジェクトのオペレーターのChevronは、コスト見直しを理由にして、2007年の年央に予定していた最終投資決定を延期している。

③熟練技術者の不足 豪州の石油ガス産業では、連邦政府による豪州の労働者保護を目的とした海外の専門家の受け入れ制限等もあ

り、熟練技術者、特に石油エンジニア、ジオロジスト、化学エンジニアが不足していると言われている。 LNGプロジェクトの建設、操業に係る専門技術者等の見込み数を表12に示す。建設段階では、ピーク時で日1,500人から3,000人の専門技術者、熟練工を必要とすることから、複数プロジェクトの建設が同時期に重なる場合、必要数を確保することは至難の業で、着工時期、工程に影響する可能性が大きい。

④豪州の国内事情(ア)西オーストラリア州の独自政策(州内供給義務) 豪州は、政治安定性、公平性、経済環境、市場の競争性および連邦政府地質調査所のデータ閲覧など、資源輸出国として非常に信頼性の高い国である。しかし、その評判を曇らせる事態が起こっている。 豪州は連邦制であり、資源開発の許認可等は、連邦政府と州政府が、資源の生産あるいは処理設備の所在によって、それぞれ主体的な権限を持っている。石油天然ガス開発については、連邦政府は陸岸から3海里以遠の海洋の地域、州政府は陸岸から3海里以内の海洋と陸上の地域を所管している。 WA州政府は2006年に、州内の将来的な需要増に対応する目的で、州所管地域の開発プロジェクトの生産物の15%相当量を州内に供給する義務を制度化している。同州は、豪州の天然ガス埋蔵量の約80%、生産量の66%を占めていること、州内供給ガスの価格が輸出価格に比較し安価であることが影響を大きくしている。豪州国内のガス埋蔵量、ガス供給価格を図7、図8に示す。 連邦政府および事業者は、この州内供給義務政策について、自由競争を旨とする豪州の基本方針に反する、外国投資家の信頼を損ね、将来のLNGプロジェクトの事業化に大きな影響を与えると、強く反対している。 しかし、WA州政府は、政策の継続であるとして、実施の意向は強く、BHP BillitonのPilbara LNGプロジェクト、WoodsideのPluto、Browse LNGプロジェクトへの影響が懸念される。 Woodsideは、既存プロジェクトに加え、2006年12月にPluto LNGプロジェクトに関し、事業化が可能との前提で、WA州政府と州内供給義務15%とする協定書を締結している。 各プロジェクトの対応について、以下に概要を記す。

・北西大陸棚プロジェクト:WA州と1979年に締結したState Agreementで、4兆7,000億cfの州内供給を規定。残りの供給量は、2兆cf。

・Gorgon LNGプロジェクト:WA州と2003年に締結し

(ピーク時:人/日)

LNGプロジェクト名 建設従事者数 操業従事者数

NWS拡張(第5トレーン) 1,500 20

Gorgon 3,000 600

Pilbara 2,400 125

Pluto 1,500 150

Browse 2,000 NA

Ichthys 2,000 500

出所:Prospect Magazine,会社HP

表12 建設・操業従事者数見込み

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たState Agreementで、1兆8,500億cfの供給を規定。ただし、経済性が損なわれる場合は供給せずとの条件。

・Pluto LNGプロジェクト:WA州と2006年12月締結のState Agreementで、15%の供給を規定。

・Browse LNGプロジェクト:最大15%の供給義務が課された場合の経済性の検証が必要。

・Pilbara LNGプロジェクト:GorgonとPluto LNGプロジェクトと同様の供給義務でも、事業化が可能の見通し。

・Ichthys LNGプロジェクト:WA州政府と適用内容等について協議中。

(イ)LNGプロジェクトの建設許認可手続き 事業実施に伴う環境問題、自然保護等の承認手続きが一つの関門になっている。 一つの石油・ガスプロジェクトで、連邦政府所管の海上地域および州政府所管の海上・陸上地域に関連し、許認可の取得が複雑になるケースがある。最近の小規模油田プロジェクトでは、22の許認可機関から163の許可を取得した事例もあった。 LNGプロジェクトでは、Gorgon LNGプロジェクトで、環境関係の許認可取得に苦労しており、また、Ichthys LNGプロジェクトでも、地域土地委員会から自然保護関連規則に抵触するとして反対がある模様である。

(注)Bonaparte Basin 22.92兆cfの内訳(西豪州政府1.43兆cf, 北豪州政府21.46兆cf)出所: Western Australian Oil & Gas Review 2006, Department of Industry and

Resources

豪州内の天然ガス資源量図7

豪州内の天然ガス価格2005年(ブレント原油価格との比較)図8

出所:Wood Mackenzie

(1)世界とアジア太平洋地域のLNG需給について

 世界のLNG需要は、2005年の1億4,500万トンから2015年の3億7,000万トンへと、10年間で2億2,500万トンの飛躍的な増加が見込まれている(第3章)。 これに対し、ガス生産国の新規LNGプラントの建設予定は、IEA資料(図5参照)によれば、建設中約7,500万トン、設計中約6,500万トン、計画中約7,500万トンの計2億1,500万トンとなっている。 数値的に見れば、10年スパンで考えた場合、需給はほぼ均衡することになる。しかし、実際の取引関係では、供給時期のマッチングや価格設定で、生産者と消費者間の折衝は熾

烈れつ

なものとなろう。

(2)価格競争力

 LNG基地の建設と維持管理コストが経済性検討の指標の一つとなり、LNG販売価格に反映する。各プロジェクト概要に建設費見込み額を記したが、近年、豪州では、コストアップを理由に事業化の最終投資決定が延期されている事業事例が多い。しかし、これは豪州のみならず世界的な傾向であり、世界のLNG産業でも2006年度には同様にめぼしい意思決定がなかった。 会社、政府関係機関、民間コンサルタントが発表する豪州内プロジェクト間の建設コストの想定額を単純に比較すると、次のとおりとなる(建設コストの最大値を用いて、設備能力を年間300万トンとした単位額を算出)。

4. まとめ

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オーストラリアの次期LNGプロジェクトは世界的競争に勝ち残れるか?

Browse(60億豪ドル)≒Ichthys(60億豪ドル)>Gorgon (50億豪ドル)≒Pluto(50億豪ドル)>Pilbara(30億豪ドル) 

 この数値比較からは、Pilbara LNGプロジェクトが最も価格競争力を有していることになる。

(3)販売先の確保

 GorgonとPlutoプロジェクトは、アジア・太平洋地域のLNG主要輸入国である日本の需要家と基本合意書等を締結し、販路を確保している。本邦法人がオペレーターを務めるIchthys LNGプロジェクトには、現時点で需要家と合意したとの情報はないが、日本のガス需要家が興味を示すと見られることから、販売先が決まっていないPilbara、Browse LNGプロジェクトに比較して優位にあると考えられる。Pilbaraプロジェクトについては、BHP Billitonが計画していた米国カリフォルニア州のLNG輸入基地計画が地元州政府等の反対でほぼ不可能となったことから、北東アジア圏がターゲットになるものと考えられる。

(4)操業開始時期

 各プロジェクトともに建設費の高騰、環境許認可の取得、販売計画の見直し等を理由に、当初予定の操業開始時期に遅延が見られるが、表13の操業開始時期が妥当と考える。

(5)許認可取得(環境問題等含む)

 Gorgon LNGプロジェクトは、WA州政府環境省の許可を取得し、また連邦政府からも環境対策技術に関する事業支援を受けている。同様にPluto LNGプロジェクトもWA州政府の開発承認許可がほぼ下りるものと考えられ、事業推進に対する大きな障害はないと考えられる。 Browse LNGプロジェクトは、液化施設を海上に建設した場合、建設費の相当な削減が図れるが、海上案は、環境保護に関して大きな課題がある。

 Pilbara LNGプロジェクトは、輸出先として検討していた米国カリフォルニア州は環境保護等の問題でLNG受入基地の建設見通しが立たないが、豪州側の液化施設基地については、大きな問題はないと考えられる。 Ichthys LNGプロジェクトについては、地元団体との間で若干の問題を抱えるが、WA州政府、連邦政府との間では大きな課題はないものと見られる。

(6)総括

 最終的に投資判断を行うための要件である、建設費、許認可取得、環境問題および販路の確保等を総合的に判断すると次のように考えられる。

①Pluto LNGプロジェクト:液化施設用地の造成工事に着手。建設労働者確保で先行しており、すべての項目で課題が少ないが、埋蔵量は少ない。

②Ichthys LNGプロジェクト:経済面と環境面に解決すべき課題が残るが、課題は小さい。

③Gorgon LNGプロジェクト:高含有二酸化炭素処理の環境対策に関連する経済面に解決すべき課題が残る。許認可取得で有利。

④Pilbara LNGプロジェクト:経済面で優位が見込まれるが販売先の確保が課題。

⑤Browse LNGプロジェクト:液化施設の建設位置により環境対策で大きな課題があり、関係する経済面と販売先確保も課題。

 昨今、事業コストの急激な上昇や、より厳しい環境対策が求められるなど、LNG液化事業を取り巻く事業環境は難しい局面にある。 しかし、豪州は東アジアのエネルギー大消費地に近く、同地域向けLNG輸出に有利な立場にある。また政治情勢、社会的環境等において安定しており、LNG輸出国としての評価が高い。豪州は既にLNG輸出国のトップグループのなかにいるが、今後の液化設備建設計画が目白押しで、東アジアのLNG需要家獲得でも先行していることから、将来はLNG大輸出国のカタールに次いで

優位な位置に就く可能性が高い。 2007年5月開催のAPECエネルギー担当大臣会合では、参加各国から原子力発電所の建設について積極的な発言があったが、これに関連し、将来的には原子力とLNGの競合もあり得るのではないかとの政府関係者の発言も注目された。 なお、2007年中の最終投資判断を予定しているプロジェクトもあり、程なく本稿で述べた内容の一部が確定することになろう。

プロジェクト名 当初予定時期 想定時期 備 考

Gorgon 2010年 2012~2014年 建設費高騰

Pluto 2010年 2010年 FID2007年中

Browse 2013~2014年 FID2009年中、環境問題

Pilbara 2009年10月 2012年 販売先、許認可

Ichthys 2012年 FID2008年後半、建設費

Greater Sunrise NA NA(2015年~)

出所:各種資料からJOGMECシドニー事務所推定

表13 操業開始時期

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【参考資料】 1 .Gorgon Project HP 2 .Chevron HP, ChevronTexaco Press Releases 3 .Wood Mackenzie 4 .Dow Jones News “ExxonMobil confi rms Gorgon LNG talks with India’s Petronet” 16/4/07 5 .Western Australia Department of Industry and Resources (DOIR) 6 .The West Australian, “ExxonMobil denies dragging its feet on Gorgon gas development”17/4/07 7 .Woodside HP 8 .WA Prospect Magazine, December 2006-February 2007 9 .Case Study-the Browse LNG development, Paul Moore, Woodside Energy Director of Development, APPEA

Conference, 17/4/0710.BHP Billiton Annual Report 200611.INPEX HP 12.Australian Department of Foreign Aff airs and Trade HP13.Dow Jones International News, “Australia’s Woodside FY Net A$1.43B”, 21/2/07, ABC News, “E Timor

approves Aust oil deal”, 20/2/0714.Petroleum Magazine, March 200715.Energy in Australia 2006, Australian Bureau of Agricultural Resource Economics (ABARE)16.Strategic Leaders’ Report, APPEA Conference, April 200717.BP Statistical Review 200618.How to Facilitate or Strangle an LNG Project, Robert Pritchard, Resources Law International19.WA Government Policy on Securing Domestic Gas Supplies, October 200620.The Hon Ian Macfarlane, MP, Minister for Industry, Tourism and Resources, Keynote address, APPEA

Conference, April 200721.Western Australia Oil & Gas Review 2006, DOIR22.APPEA Issues Paper, A Platform for Prosperity, May 200623.APPEA Submissions Paper on WA Government Policy on Securing Domestic Gas Supplies, April 200624.Australian Commodities, march quarter 2007, ABARE

執筆者紹介

三宅 裕隆(みやけ ひろたか)出生地:群馬県1976年東京都立大学工学部卒(現 首都大学東京)、同年旧石油開発公団入団石油・天然ガス開発関係は、旧石油公団で計画第二部(プロジェクト採択、会社管理)、天然ガス・新石油資源事業部(天然ガス地下貯蔵、GTL、メタンハイドレート調査)および華南石油開発㈱出向中国駐在経験あり。前職は、備蓄部門で石油・LPG備蓄基地の安全防災・環境保全を担当。2006年7月よりJOGMECシドニー事務所次長(石油・天然ガス担当) 妻、娘2人を残しわびしい単身生活中。趣味は、安全なドライブ、ゴルフ、自炊?。

Lainie Kelly(レイニー・ケリー)出生地:豪州シドニー、豪州国籍とイギリス国籍。シドニー大学文学部(日本語専攻)卒JETROシドニーに勤務2005年7月よりJOGMECシドニー調査員(石油・天然ガス担当)現在に至る。