カンボジアの ローカル ngo の自立...桜美林大学 カンボジアの ローカルngo...

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桜美林大学 カンボジアの ローカル NGO の自立 ―カンボジアの子どもたちのために 先進国ドナーとカンボジアのローカル NGO できることとは― リベラルアーツ学群 4 年 国際協力専攻 齊藤理恵 指導教員名:牧田東一 提出日:2013 1 18

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桜美林大学

カンボジアの ローカル NGO の自立

―カンボジアの子どもたちのために

先進国ドナーとカンボジアのローカル NGO の

できることとは― リベラルアーツ学群 4 年 国際協力専攻

齊藤理恵 指導教員名:牧田東一 提出日:2013 年 1 月 18 日

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目次 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4 第1章 ローカル NGO と国際 NGO・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

第1節 ローカル NGO とは何か・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 第1項 ローカル NGO と国際 NGO・・・・・・・・・・・・・・・ 6 第2項 カンボジアのローカル NGO と国際 NGO・・・・・・・・・ 7 第3項 ローカル NGO の分類・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 第4項 ローカル NGO の資金源・・・・・・・・・・・・・・・・・7

第2節 国際 NGO とローカル NGO の関係・・・・・・・・・・・・・・・・8 第1項 ローカリゼーション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 第2項 パートナーシップ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

第2章 カンボジアの NGO・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 第1節 カンボジアの近代史・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 第2節 カンボジアにおける NGO の歴史・・・・・・・・・・・・・・・・・14

第1項 タイの国境で行われていた NGO 活動・・・・・・・・・・・14 第2項 カンボジア国内で行われていた NGO 活動・・・・・・・・・15 第3項 カンボジアにおける NGO 活動の変化・・・・・・・・・・・16

第3節 カンボジアにおける NGO の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・17 第1項 カンボジアにおける NGO の数と活動規模、活動分野・・・・17

第3章 カンボジアのローカル NGO と先進国ドナーの関係の現状・・・・・・・・・・19 第1節 能力強化とアカウンタビリティ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第1項 能力強化とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第2項 アカウンタビリティとは・・・・・・・・・・・・・・・・・

第2節 ローカル NGO、CCASVA・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第1項 CCASVA とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第2項 CCASVA の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第3項 CCASVA の組織としての能力、スタッフたちの能力・・・・ 第4項 CCASVA から見る、先進国ドナーとの関係性・・・・・・・

第3節 先進国ドナー、Save the Children Norway・・・・・・・・・・・・・ 第1項 Save the Children in Cambodia とは・・・・・・・・・・・・・・ 第2項 CCASVA を支援するに至った経緯・・・・・・・・・・・・・ 第3項 CCASVA への支援を打ち切るに至った経緯・・・・・・・・・ 第4項 Save the Children in Cambodia から見てのローカル NGO との

関係性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第4節 Friends の例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第1項 Friends とは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第2項 Friends の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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第3項 Friends 組織としての能力、スタッフたちの能力・・・・・ 第4項 Friends から見た、先進国ドナーとの関係性・・・・・・・・

第5節 CCASVA に必要なものは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第6節 先進国ドナーに求められていることとは・・・・・・・・・・・・・

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 参考 HP・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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はじめに

私たちが住むこの国際社会には、貧困、人権、子ども、環境、など多くの深刻な問題が

世界のさまざまな地域で起こっている。こういった問題に取り組む主体として、政府、国

際機関に並び、NGO1は大きな役割を担っていると考えてもよいであろう。 筆者は 2009 年の夏、国際協力研修という形でカンボジアを初めて訪れた。そこでは、カ

ンボジアで生まれた NGO、カンボジアのために働く海外の NGO(国際 NGO)を多数訪問し、

歴史的な遺産やその保存に関連する NGO も訪問した。またローカル NGO で 8 日間、実際

にボランティアをするという貴重な経験もした。 しかし、そこではカンボジアの現実を見せつけられた気がした。筆者がボランティアを

した NGO は、ストリートチルドレンの保護を行っている。そこは海外からの援助で成り立

っている NGO で、5 つあるドナーのうち 1 つのドナーが 2009 年の 12 月に支援を止める

ことから、11 月にはスタッフが 4 人解雇され、子どものシェルターとなっているセンター

に住んでいる何人かの子どもが、前に住んでいたスラムに返されてしまうという現状をス

タッフの方から聞いた。 筆者は、カンボジアにおいて先進国のドナーや NGO の存在がこんなにも大きく、また彼

らの動きがローカル NGO の活動自体に大きな影響を及ぼすというのを目の当たりにして

衝撃を受けた。彼らが行いたい活動も海外のドナーの都合で制限しなくてはいけないのだ。

しかし、それは同時に、このローカル NGO が自立しているのではなく、とても依存してい

るようにも映った。彼らの時間に対しての意識は筆者にとってとても甘く見え、筆者たち

学生は毎日驚くばかりであった。もちろん全員のスタッフがそういった行動をしているわ

けではないが、この問題に対して、彼ら自身もっと改善できるはずであるし、改善すべき

なのではないか、と筆者に考えさせた。この海外の援助に依存しがちな NGO スタッフの行

動、また、後ほど述べる NGO の依存体質は筆者がボランティアを行ったローカル NGO だ

けではなく、カンボジアではよくみられる光景のようだ。 しかし、この根本的な原因を考えてみると、先進国にも大きな責任があるのではないで

あろうか。下澤はこういった状況に関して、資金援助が先進国と途上国の NGO の間にある

力関係を生み出し、そこに従属的な関係ができていると述べている[下澤 2007:6-13]。資金

援助をする先進国の NGO はきちんと彼らの自立を考えながら彼らに資金を与えていたの

であろうか。ODA の悪い例で挙げられるように、多額の資金を丸ごと渡してそれをどうや

って使うか知っていたのだろうか。スタッフが自立できるような適切なトレーニングは行

っていたのだろうか。もし適切な支援や援助が行われていなかったとすれば、NGO が ODAに対して問題視していることが、先進国と途上国の NGO の間で同じように起きてしまって

いるのではないのか。結局、政府が行うような援助を NGO も行っているなら、NGO の意

味とは何なのであろうか。NGO という名を使って援助をする意味はないのではないか。

1 Non-Governmental Organization の略。日本語では「非政府組織」と訳される。

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また、カンボジアには、悲劇的で国際社会に翻弄された歴史もある。それも先進国の責

任として、今のカンボジアに残る悪影響の一つなのではないであろうか。 下澤はローカル NGO が依存してしまっている状況に対して、途上国の NGO は国内で資

金調達をすることでこの問題が、改善できると言及している[下澤 2008:13]が、国民の 80%を占める人々が農民であるカンボジアでは、これは難しいと筆者は考えている。また、ス

トリートチルドレン保護など、子どもに関する NGO なら、事業収入もなくさらに資金調達

は難しいのではないかと考える。しかし、自分たちの理念に基づき、自分たちが考え行っ

ている活動を進めるためにも、途上国 NGO はそういった従属的な関係から「自立」してい

く必要があると思う。そして、それを支えられるような援助を先進国の NGO、ドナーは行

っていくべきである。 同様に上記でも述べたが、異なる文化のもとで育ってきた日本人とカンボジア人の感覚

や生活環境、歴史的背景の違いも考慮する必要が大いにある。日本人をはじめ、多くの先

進国の人間は、自分たちの考える開発やアイディアが最善の方法であると考えがちだ。も

ちろん、それは多くの経験を積んできて、価値のあるものだとは思うが、それがほかの土

地でも応用できるとは限らない。今回のような場合、援助する側が日本人であっても、そ

の援助を受けるのはカンボジア人である。私たちがよいというものを彼らがよいと考える

わけではないし、彼らにとって最善の方法や目指している目標は異なる可能性もある。国

や地域によって文化は異なる。先進国もローカル NGO への対応などを、より柔軟に変えて

いく必要があるのではないではないか。 また同時に忘れてはいけないのは、ここで言われる被支援者はカンボジア人の子どもた

ちであって、カンボジアのNGOではない。カンボジアのローカルNGOにとっての利益とカ

ンボジア人のストリートチルドレンの子どもたちにとっての利益は異なってくることもあ

るであろう。今回はカンボジアのローカルNGOがカンボジア人の子どもたちの一番近くに

いる存在として、彼らの思いや望みを具体化するアクター2として、この論文を書きすすめ

ていきたいと思う。子どもたちの思いをよく知っている現地のローカルNGOだからこそ、

できることがあり、彼らにしか分からないことがある。それを先進国のNGOはどう支えて

いけるのかについて見ていきたい。 そこで、この論文では、支援を受ける子どもの一番近くにいるカンボジアのローカル

NGO が自立できるように、まずローカル NGO はどんな能力を身につける必要があるのか、

先進国のドナーはどういった援助を通してそれを助けられるのか、ローカル NGO と先進国

の NGO はどうやって良い関係を築き、協力していくことができるのか、そして、支援を受

ける子どもたちにとって本当に良い支援をするために、NGO 全体はどうあるべきなのかに

ついて研究していきたい。そして、この論文を通して、お世話になったカンボジアのロー

カル NGO がより自立し、ドナーの都合でプログラムに支障が出ることがなく活動ができる

ように、なにか提言をしたいと考えている。

2 主体の意。

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第 1 章では、ローカル NGO とは何か、ということを述べてから、ローカル NGO と国際

NGO の関係について論じていく。第 2 章では、何故カンボジアの NGO やカンボジアの人々

が援助に依存するようになってしまったかを解くために、カンボジアの援助の歴史とそれ

に伴う NGO の現状について見ていきたいと思う。第 3 章では、NGO が自立するために必

要だと考える、能力強化やアカウンタビリティについて述べることから始める。そして、

カンボジアのローカル NGO は具体的にどんな能力を伸ばすべきかと、先進国のドナーがそ

れを達成するためにどんな援助をしていくべきかについて言及する。具体的には、この章

では筆者がお世話になったNGOやそのNGOと関わりがあったドナーの方へのメールでの

インタビュー、また同じ子どもを支援する NGO 団体との比較によって、それを見ていこう

と思う。そして、どういった形をとれば、ローカル NGO がちゃんと自立できるか、そして、

子どもたちに必要な真の支援が行きとどくようになっていくのかについて考察するつもり

である。

第 1 章 ローカル NGO と国際 NGO

まず第 1 章では、ローカル NGO と国際 NGO それぞれを分けて考えていき、「ローカル

NGO」に主に焦点を置いて論じていくが、それに伴い国際 NGO の在り方も見ていく。ま

た、両者が持つ異なった特性の中で、どういった関係を持ちながら今に至り、どんな関係

性の在り方があるのかも見ていきたい。 第1節 ローカル NGO とは何か まず、ローカル NGO が何をするべきか考える前に、ローカル NGO とは一体何なのか、

どういった種類のものがあるのか、資金はどうなっているのかなど、ローカル NGO の基本

となる部分を抑えたい。その際、必要な部分には国際 NGO との比較も含めていき、ローカ

ル NGO がカンボジアではどういった位置づけにあるのかというものも同時に見ていきた

いと思う。

第1項 ローカル NGO と国際 NGO ローカル NGO とは、国際 NGO の対照としてよく使われる用語である。ローカル NGOは「ローカル」なので、途上国にも先進国にも存在する。しかし、今回はカンボジアの国

内にあるローカル NGO を見ていくので、「途上国に存在するローカル NGO」の意味に絞っ

て論じていく。 途上国のローカルNGOは、上記でも述べたように、国際NGOとの対義語としての意味で

利用される。途上国でローカルNGOができる由来は主に 3 つあるとされていて、①途上国

で自発的に設立されたもの 3、②もともと地域社会にあった組織を母体としているもの、③

3 カンボジアを例に挙げると、1991 年設立の人権 NGO「ADHOC」や、女性支援 NGO

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国際NGOなどの支援を受けて設立したもの、である[黒田 2004:43]。 それに対し国際 NGO は、母体を先進国におき、主に開発支援や緊急人道支援を行うもの

を指す。国際的なネットワークを組み、それぞれの地域に合った活動を展開している団体

も少なくない。代表的な NGO の設立の経緯を見てみると、飢餓や紛争で困った人々などに

対する緊急人道支援が最初にあり、そこから開発支援など、現在の支援体制に変わってい

っているものが多いようだ[黒田 2004:42]。

第2項 カンボジアのローカル NGO と国際 NGO 第 1 項は一般的に言われるローカル NGO と国際 NGO への理解であったが、ここでは、

カンボジアにおけるローカル NGO と国際 NGO の定義を述べていく。 カンボジアにおけるローカル NGO とは、カンボジアの NGO(Cambodian NGO, CNGO)と定義される。これはカンボジアで始まり、その本部とプロジェクトがカンボジア国内に

あるものであるとされている。政策決定は多数のカンボジア人メンバーによってなされる

[Khus 2000:13]。ローカル NGO の中でも、少なくとも 3 つの州で機能し、またオフィスを

持っているものは、規模の大きい NGO であって、National/province NGOs とも呼ばれて

いる[Khus 2000:14]。 カンボジアにおける国際 NGO とは、International NGO(IO)と呼ばれ、その定義とは、

外国で始まり、本部が外国にある、また政策決定はカンボジア国外でされるものである。

国際 NGO はカンボジアでプロジェクトを実行する形をとっている[Khus 2000:13]。カンボ

ジアで活動している国際 NGO の出身地域は、アメリカ、オーストラリア、イギリス、フラ

ンス、日本、イタリア、スイス、ベルギー、カナダ、オランダ、ニュージーランド、マレ

ーシア、ノルウェー、スウェーデン、香港、台湾、アイルランド、など多数である[Khus 2000:20]。

第3項 ローカル NGO の分類 カンボジアのローカル NGO は、本質的に民主主義/人権、開発、そして支援サービスと

いう 3 つのカテゴリーに分けることができる。 民主主義/人権のNGOは、人権、虐待、民主化促進のモニタリングを政策や他のアドボカ

シー活動を通して行っている。開発のNGOは、教育、人道的な活動、経済/収入に関する活

動、衛生教育、農村開発などの活動を行う。3 つ目の支援サービスを提供しているNGOと

いうのは、トレーニングと他の能力強化 4のエクササイズや活動など、団体の開発、アドボ

カシー、ネットワーク開発、そしてつながりを強めるための活動を行うNGOである[Khus 2000:14]。こういった分類は日本のNGOをはじめ、どこの国のNGOでも同じような分け方

になるであろう。

「Khemara(ケマラ)」などがそれにあたる 4 キャパシティー・ビルディング(Capacity Building)。第 3 章第 1 節第 1 項で詳しく説明。

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第4項 ローカル NGO の資金源

ローカルNGOをはじめ、カンボジアにあるローカルな団体への資金支援はほとんどが国

際NGOから来ている 5。それ以外の資金源としては、多国間援助、個人的な寄付金(donation)、一般的な収入などが挙げられている[Khus 2000:15]。これにより、カンボジアのローカル

NGOが国際NGOとは切っても切れない関係になることがよくわかる。

第2節 国際 NGO とローカル NGO の関係 第 1 節では、ローカル NGO について国際 NGO と比較し、ローカル NGO の特徴につい

て見てきた。また、ローカル NGO の資金の話になると、国際 NGO の存在なしに話を進め

ることが難しくなることがわかる。そこで第 2 節では、ローカル NGO と国際 NGO の間に

どういった関係があるのかを、ローカリゼーションとパートナーシップの 2 つの例をあげ

て論じていく。

第1項 ローカリゼーション ローカリゼーション(localization)という言葉は、団体によって使われ方も異なるのだが、

一般的には、「組織的な責任とマネージメント(経営)を海外に住んでいるものから現地の人

に移すこと」を指す[VBNK 5]。したがって、ローカリゼーションという概念は、国際 NGOと関わりのあるローカル NGO において考えられるものである。第 1 章第 1 節第 1 項の設

立の由来の分類から考えると、③国際 NGO などの支援を受けて設立したものがそれに当た

るであろう。

先進国ドナーがローカリゼーションでローカル NGO に望んでいること カンボジアの支援サービスNGOの一つであるVBNK6の報告書によると、ローカリゼーシ

ョンを望んでいるのは、①外国人と②国際的な団体(おそらく国際NGOを含む)、そして③

ドナーたちであるとしている[VBNK 5]。 それぞれローカリゼーションを望む理由を具体的に考え、述べていくと、①外国人は、

おそらくカンボジア人がカンボジアでの長い期間での開発を運営していくべきであると感

じている。それはカンボジアで起きる開発の問題や挑戦は、長い目で見たときに外国人よ

りもカンボジア人のほうがより効果的に解決できるだろうと考えられているからだ。②国

5 The 1998 Directory of Cambodian NGO-CCC 6 VBNK はカンボジア語では

��������������������������������������������������となる。英語にすると Facilitating learning and capacity development というい意味となり、「学びと能力開発の促進」という意味となる。 VBNK はカンボジアの能力開発を進める機関であり、学ぶ機会を与えて 10 年以上の実績も

ある。開発を行う時の効率と質、そして社会開発の中でのマネージメントを改善すること

を目的としている団体である。[VBNK HP(2013.1.14)]

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際的な団体は、操作的であることをやめ、またパートナー団体を通じてカンボジア人の普

段の仕事の習慣を取り戻すことを願っている。③ドナーたちは、自分たちの貴重な資源を

より有効に使ってほしいと感じている、もしくはもしドナーたちが外国人スタッフたちに

多くの給料を支払わなくて済むのであれば、より広範に分配することができると感じてい

るのである[VBNK 5]。 ローカリゼーションにおける課題 しかしながら、ローカリゼーションを行う過程で懸念される要因がいくつかある。それ

らは「人々(people)」、「組織(organization)」、そして「技術(skills)」である。その中でも一

番重要で、ローカリゼーションの鍵を握るのが「人々」である。もしスタッフや技術者に

関することが全て良く、それが比較的安易に解決されるとしても、もし人々に問題がある

ならば、どんなに良い技術的なまた機能的な要素が団体にあっても、必然的に困難にぶつ

かってしまうだろう[VBNK 9]。 人々(people) ローカリゼーションの多くの問題は他の途上国でも共通するものではあるのだが、いく

つかの問題はカンボジア特有のものであるようだ。例えば、信頼の欠如、選択肢の欠如、

そしてこの過去 30 年に起こった内戦などの出来事による、スタッフの家族の安全の再構築

の必要性(内戦など家族の危険性があったため、安全な国際 NGO のスタッフでいたがる)などが挙げられる。それに加えて、多くのカンボジア人は開発の分野で他の国での経験がな

いので、環境を創造することや理解することが難しい。 具体的にカンボジア人スタッフが直面するローカリゼーションの問題というのは、資金

損失 7、地位の損失、リーダーシップと外国人の経営の損失、保護の損失、英語力の問題、

プログラムを進める技術の損失、自信の欠如、個人の開発のための機会の損失、すべての

過程の管理力の損失である、とVBNKの報告書にある[VBNK 9:12]。 組織(Organization) ここでの問題は、ローカル NGO が「何がそのターゲットグループのための最善のサービ

スなのか」と「何が長期間で一番持続可能なのであろうか」という問いにたいてい一番良

い返答ができないということである[VBNK 12]。これを克服するためにいくつかの成功例

を見てみると、国際的な団体(国際 NGO)とのつながりや法的な地位、組織的なそして経営

構成、統治が鍵を握るとされている。 技術(Skills) 団体のスタッフとカンボジア人の経営者の正確な技術レベルの評価は、ローカリゼーシ

ョンにとって多くの基準となっている。より適切な評価というのは、プログラムを発展さ

せることと将来に組織的な成長と変化を経営するという可能性の技術と自信であるであろ

7 国際 NGO のほうがドナーからの信用を得やすいので、ローカル NGO が資金を得ること

は自然に難しくなる。

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う。そこで必要なのは専門的な技術と組織に関する技術 8(団体の上手な管理)である[VBNK 14-15]。 ローカリゼーションはすでに一部のカンボジアの地域で行われているのだが、まだ問題

も多く残っている。その問題を分析してみると、ローカリゼーションには共通の問題があ

ったようだ[VBNK 16]。それというのは、時間の足りなさ、不透明な統治構成、ディレク

ターの選択、不透明なミッションと任期、ディレクターの大きすぎる負担である。 その一方でローカリゼーションに成功しているNGOもある。そこから学べることと言う

のは、①コミュニティーの基礎にある開発の哲学 9を採用する、②大きな構造ではなく小さ

く考える、③ゆっくりいく、④専門家にならない、である[VBNK 18]。ここからわかるこ

とは、国際NGOが行うように開発援助を進めても、やり方や考え方がそこの土地に合って

いなければ意味がなく失敗してしまう。参加型開発の考え方で、その地域に合わせてロー

カリゼーションも行っていく必要があるのであろう。

第2項 パートナーシップ パートナーシップ 10という言葉は、政府や国際機関、NGOなどのアクター同士のパート

ナーシップとして使われることもあるし、NGO間でも地域のネットワークNGO同士のパー

トナーシップ、課題別に協力するNGO同士のパートナーシップなどさまざまである[重田 2005:239-240]。この論文の中では、国際NGOとローカルNGOの間でのパートナーシップ

について述べていく。 パートナーシップという言葉が NGO の間でよくつかわれるようになったのは、1980 年

代後半であるとされていて、それが強調されてきた背景には、NGO(特に開発に関する

NGO)が市民社会の重要なアクターという認識が強まってきたことがあるとされている。パ

ートナーシップという言葉の定義は「開発途上国におけるプロジェクトの実施に関して、

南北 NGO の間(ローカル NGO と国連や ODA 機関とのプロジェクトの場合もある)で役割

分担をし、決定権などの力関係においては対等であろうとする価値、姿勢、行動様式[下澤 2007:24-25]」である。そして、パートナーシップというのは、プロジェクトだけではなく、

パートナーである組織の在り方や成長にも注目していこうという考え方でもある。これは、

国際 NGO が途上国の人に支援をする際に、自分たちが行うより途上国の人が行ったほうが

効率的で、持続可能性がある、という意味を含んでいると筆者は考える。それに伴いオー

ナーシップ(主体性)、組織能力の向上、組織の透明性という、ローカル NGO の成長や主体

8 具体的に例を挙げると、戦略的な経営、組織的な文化の発展と保護、プログラムとプロ

ジェクトの経営、一般的な組織的な管理、ファウンドレイジング(資金調達)、財政的な管

理、チーム・ビルディング、外部とのねっロワークと関係がある。 9 Be there, live it, do it, don’t ‘know it all’ work through everything with the people involved 10 重田はパートナーシップを簡単に「協力関係づくり」と捉えている[重田 2005:240]。

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を意識する用語も頻繁に使われ始めるようになった。以上からパートナーシップを行う

NGO はどの分類の NGO も当てはまるであろう。 事例:カンボジアの女性支援 NGO Khemara(ケマラ) パートナーシップについての理解を深めるために、具体的に NGO を挙げてその利点と問

題点を見ていこうと思う。一つの事例からパートナーシップを一般化することは難しいが、

カンボジアにおいてパートナーシップがどういった結果を残すのかが分かりやすいので、

このような取り上げ方をしようと思う。 Khemara11とは Khemara は、1991 年にカンボジア人の女性ソクア・レイパーによって設立された。

Khemara はカンボジアで設立された最初のローカル NGO である。彼女はフランスとアメ

リカに留学していて、国連職員と結婚。ポル・ポト政権時も海外にいたため、カンボジアに

変えることができなくなってしまった[熊岡 1993:242]。1991 年のパリ和平協定調印を機に

カンボジアに帰国し、国際 NGO の友人のアドバイスもあり、Khemara の設立につながっ

たという。 発足当時の活動は、内戦で夫を亡くした女性など貧困家庭を対象に、マイクロクレジッ

ト(小規模融資)、女性の保健、働く女性のための子ども保育センター、女性の手作りによる

手工芸品の製作・販売を行うなどがあった[重田 2005:79]。彼女の精力的な活動が注目を浴

び、国連や国際 NGO などが Khemara に対して支援を行った。現在は代表も変わり、規模

も小さくなったが、ジェンダー教育、HIV/AIDS に対するセックスワーカーのエンパワー

メント教育、女性職業訓練、識字教育、子ども保育センター、傷ついた女性と子どもの能

力改善などのプログラムを実施している。 パートナーシップによる成果 Khemara の海外ドナー(国際 NGO)とのパートナーシップによる成果は2つある。1つは、

カンボジアでできた最初の NGO として 10 年間に多くの事業を行い、受益者にとっても有

意義であったことが挙げられる。これはドナーの資金提供・アドバイスがあってこそであ

った。また、ソクア・レイパーは ADHOC の代表、サライとともに 1992 年 12 月、ロンド

ンで行われた NGO フォーラムで、カンボジアで働く国際 NGO に対して①活動において、

できるだけクメール語(カンボジア語)で意思疎通をすることの大事さと、②自団体内のカン

ボジア人スタッフを単なる補助役と位置づけず、将来のリーダーとして育てることの大事

さを強調していた、という[熊岡 1993:244]。国際 NGO と同等の位置で働く、という姿勢

がパートナーシップの良い面として出てきているように筆者は感じる。 2 つ目に、現在でも海外のドナー(国際 NGO)を獲得して新しいプロジェクトを展開して

いる点である。これは、この 10 年間での Khemara のプロジェクトの多くが成功していた

11 カンボジア語では「カンボジアの人々」を意味する[熊岡 1993:242]

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ので、他のドナーの信頼を得たため、今でも新しいドナーが見つかるのではないであろう

か、と筆者は考える。 パートナーシップにおける課題 一見よく見えるパートナーシップにもやはり課題はある。Khemara の事例においては、

4 つあげられており、それは①海外ドナーが望む女性の自立と権利獲得としての結果が見え

てこないこと、②行政への移管、行政からの委託が達成できていないこと、③プログラム

の受益者負担が達成できていないこと、④財政規模、スタッフ数の縮小、⑤ローカル NGOの人材不足、が挙がっている[重田 2005:256-258]。ここで言及したいのが、①と③、④、

⑤である。 まず①はパートナーシップであるが故、海外のドナーが望んでいることをローカル NGO

は行わなくてはならないという点である。文献には書いていなかったため、事実が分から

ないが、もし、カンボジア人スタッフが海外ドナーが求めている結果を求めていないので

あれば、これは、ローカル NGO の意見も大切にしていく必要があるように思える。③は人

口の約 80%が農民であると言われているカンボジアにとっては難しい問題であると思うし

筆者がこの論文で疑問に思っている点でもある。④では、Khemara の財政が海外のドナー

のみに完全に頼りきっていて[重田 2005:257-258]、筆者も問題として取り上げたい点であ

る。⑤は、カンボジアでは英語ができる優秀な人材が少ないうえに、有能な人間は待遇の

いい国際機関や国際 NGO に転職してしまうことから、こういった現象がローカル NGO で

はよく起こるようで、ローカル NGO の死活問題ともなっている[重田 2005:258]。 第 1 章では、ローカル NGO と国際 NGO の関係について、ローカル NGO を中心に論じ

てきた。ローカル NGO が存在する意味は、国内の人々だけではなく、それを支えたいと願

っている国際 NGO から見てもとても貴重で大きい。しかし、ローカル NGO にはまだ多く

の問題、特に国際 NGO との間に多くの課題が残されていることもわかった。 第 2 章では、カンボジアの NGO に焦点を当ててみようと思う。カンボジアで NGO が発

展していった歴史やそうなっていった背景を見直すこと、また最近の NGO の状況を見るこ

とによって、カンボジアの NGO が持つ特徴の背景を見ていこうと思う。

第 2 章 カンボジアの NGO

第 2 章では、この論文で取り上げるカンボジアの NGO が、どういった時代背景を経て現

在の状態に至ったか、また今どのような状態にあるのかについて論じていく。途上国の人々

や NGO は、先進国による援助に依存してしまう傾向があるのはよくあることのように思え

るが、筆者はカンボジアの NGO、また人々が援助に依存しているのには、他国とは異なる

カンボジア特有の歴史からも影響を受けているのではないか、ということを前提に、カン

ボジアの NGO についてより詳しく述べていきたいと思う。

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第 1 節では、カンボジアの NGO について論じる時に把握しておく必要があると考えるカ

ンボジアの近代史について、第 2 節ではカンボジアにおける NGO の誕生と成長、そして第

3 節でカンボジアにおける NGO の現状といったように、カンボジアでの NGO の流れを追

っていこうと思う。

第1節 カンボジアの近代史 カンボジアについて何かを論じるときは、カンボジアの近代史を知らなくては何も語る

ことはできない、と筆者は考えている。そこで、カンボジアの NGO について述べる前にカ

ンボジアの近代史に少し触れておきたい。 シハヌーク時代(1953-1970 年) カンボジアは、19 世紀にフランスの植民地となった。そこから独立と再植民地化を何度

か繰り返し、1953 年 11 月にカンボジアは完全にフランスから独立した。植民地時代から

フランスによって 1941 年に 18 歳という若さで国王にされていて、当時まで国王だったシ

ハヌークは、1955 年になるとそれを自ら退位し、政治家として国家元首となった。この時

代は、多くのカンボジア人にとって平和で暮らしやすかった[熊岡 1993:30]。しかし、シハ

ヌークはカンボジア国内に戦乱を持ち込むことのないように、きわどい外交を行っていた。

王国の内側の人間であるのに、ソ連や中国、北ベトナム、南ベトナム解放戦線とも交流を

持ち、ベトナム戦争においては、解放戦線側への物資調達に便宜を図っていたのだ[熊岡 1993:30]。

こういった反米的政策や言動に米国は黙っているはずはなく、「シハヌークはずし」を策

謀し、カンボジアへの援助を停止してしまう。それに対しシハヌークは対米断交を宣言。

それによってシハヌークは1967年にカンボジア国内にいる親米派によって圧力をかけられ

た。それ以降、シハヌーク体制はシハヌークにとって執政しにくい状態になり、1970 年に

シハヌークがフランス、ソ連、中国への外遊中に、親米派のロン・ノル将軍がクーデター

を起こし、カンボジアは共和国になった[熊岡 2003:31-32]。

ロン・ノル時代(1970-1975 年) 米国によって支援されたロン・ノル政権は不安定で、シハヌークを支援していた農村部の

人たちは、反米反ロン・ノル統一戦線に加わるものも多かった[熊岡 2003:34]。同時にこの

時期は米軍によって激しい空爆が行われ、(自陣営への誤爆も多かったのだが)多くの一般民

衆や農民にも被害が及んだ。1973 年になると、内戦の激化でロン・ノル政権は首都のプノ

ンペンといくつかの県庁所在地の点を守るだけとなってしまい、国内避難民として約 200万人の人がプノンペンに逃げ込んで、さらに政情も不安定になっていった。生活も難しく

なっていき、兵士やその家族、農民や一般市民の不満がつのり、カンプチア民族統一戦線 12

12 シハヌークを「顔」としていたが、実質的な戦力はカンボジア共産党のポル・ポト派が握

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14

への支持は強くなり、1975 年 4 月にロン・ノルや一部の指導者は国外逃亡、4 月 17 日には

ポル・ポト軍がプノンペンに入城し、戦争は終結したように思われた[熊岡 1993:34-36]。 ポル・ポト時代(1975-79 年) カンプチア民族統一戦線はこの時点ですでに国家元首であるシハヌークに実権はなく、

ポル・ポト派が力を握っていた。そして人々をプノンペンから農村部へ追い出し、抵抗や抗

議をするもの、家族を捜したり、荷物を取りに戻ろうとしたりした人たちを射殺したとい

う[熊岡 1993:37]。ポル・ポト政権の軍隊はロン・ノル体制の軍人や公務員、知識人と呼ばれ

る人たちもまとめて集め殺し、原始的な共産主義を実現しようとしていた。そのため、市

場、貨幣、学校、病院を廃止し、宗教も否定して全国民を「サハコー13」と呼ばれる人民公

社に所属させて管理した。ここでの労働がとても厳しく、その上少ない食糧、不十分な医

療や医師のために、亡くなった人も多かった。政権の後期になると、政権の内部にスパイ

がいるのでは、ということで粛清も始まってポル・ポト政権は弱まっていった。そして 1979年 1 月 7 日にベトナムの支援を受けた「カンプチア民族救国統一戦線 14」がポル・ポト政

権を倒した[熊岡 1993:37-40]。 ヘン・サムリン(フン・セン)時代(1979-現在) ポル・ポト時代にポル・ポト政権の粛清から逃れた数 100 人の元カンボジア共産党中堅

幹部であったヘン・サムリン、チア・シム、フン・セン等はベトナム国内におり、「カンプ

チア民族救国統一戦線」を結成した。このグループは、現在の人民党にあたる人民革命党

を作ったが、これはベトナムの影響を大きく受けているもので、援助もソ連や東欧圏から

受けていた。冷戦が終結した 1989 年以降はベトナム政府の影響力は落ち、ヘン・サムリン

政権によって、カンボジアは歩み始めた。しかし、それによって国内に駐留していたベト

ナム軍が撤退してしまったので、農村部に残っていたポル・ポト派が領土の拡大をはかり、

ここでも 20 万人近い避難民が出たとされている[熊岡 1993:40-43]。 ここで把握しおかなくてはいけないことは、ヘン・サムリン政権誕生以来、国連におい

てカンボジア議席問題というものがあったということだ。1979-82 年まではヘン・サムリン

が政権をとっていたにもかかわらず、ポル・ポト派の「民主カンプチア」政権が、そして

1982-「パリ和平協定」まではポル・ポト派を含み、領土支配の実態がない「民主カンプチ

ア」3 派連合政権が国連議席を維持し、それらがカンボジアの正当な政府として取り扱われ

た[山田 2008:54]。ヘン・サムリン政権が幅広い国から国際的認知を受け入れられなかった

ことは、カンボジア国内への開発援助がなされなかったことにも大きくつながっていると

っていた 13 合作社。内容としては強制収容所であり、強制労働キャンプであった。家族は分けられ

て、不満を漏らす、または家族の死を悲しむ者などは多くの場合殺された。子どもと親も

物理的、精神的に切り離されて、ポル・ポト政権による洗脳教育を受けさせられた。 14 ヘン・サムリンのグループ

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熊岡は述べている[熊岡 1993:44]。 第2節 カンボジアにおける NGO の歴史 第 1 節でカンボジアの近代史を把握したうえで、1979 年以降、カンボジアにおける NGO 活動がどのように生まれたか、またどんな変化を追って今に至っているのかについて見て

いきたい。 第1項 タイの国境で行われていた NGO 活動 1979 年 10 月、タイ政府はカンボジアからの避難民を受け入れると表明して、国境を開

いた。タイは 1980 年の 1 月までというわずか 3~4 ヶ月の間しか国境を開けていなかった

のだが、その間、月に 18~20 万人ものカンボジア人がタイの国境を越えたとされている[吉田 1997:27-28]。同じころ、タイ政府は正式にカンボジア難民への国際援助を認め、タイで

の国連やNGOによる活動はしやすくなった[熊岡 1993:88]。ヘン・サムリン政権に対して

好意的でなかった米国を中心とした西側社会や国連は、タイにいる難民に支援をした。1985年の時点で、タイにおける難民救援調整委員会(CCSDPT)15には 60 以上の団体が参加して

いた。この調整委員会に加わらず活動している団体のことも考えると、タイ国内では 90 以

上の民間団体が活動していたのではないか、と考えられている[熊岡 1993:89]。 ちなみに、国際社会の当時の動きを見てみると、1982 年になると国連によって緊急事態

の終了が宣言されたのだが、同年に国連国境救援活動(UNBRO16)によって、難民には援助

の継続がなされていた。米国や西欧諸国の援助は主にUNBROを通してタイ国境付近の難民

に向けられていた[吉田 1997:28-29]。このため、NGO活動もタイ国境付近に集中していた。 第2項 カンボジア国内で行われていた NGO 活動 1979 年にタイが国境を開いたことをきっかけに、カンボジア国内に残る人々の悲惨な状

況も広く知られるようになり、第 1 項にあるように国際社会は人道支援を始めた。タイと

の国境沿いにいる難民への活動に対して、カンボジア国内での救援または復興活動は、そ

の必要性が叫ばれたのにもかかわらず、限られた団体しか入国していなかった。その理由

として①カンボジア政府が、ベトナム、ソ連側だったので、カンボジア政府が西欧諸国の

団体や国連に対して警戒心を抱いていたようで、短期ならともかく、長期の活動許可や入

国のビザが取りにくかった、②飛行機便やその他のカンボジアに入るための方法が物理的

に少なかった、③当時、「ベトナム=悪者」、「ヘン・サムリン政権=からかい政権」という

15 Committee for Coordination of Services to Displaced Persons in Thailand 16 事務所はバンコクで「カンプチアの人々への人道的援助のための国連事務総長の特別代

表」の包括的権限下にあった。主な仕事は、人道的プログラムへの資金、資材を動員し、

関係する国際機関や、その他の国際機関の活動の調整、その仕事に関係する政府や他の当

局との協議、カンプチア情勢にかかわりのあるすべての関係者間の対話と理解の促進であ

る。これは UNICEF の仕事を引き継ぐために創設されたのだ[ミシェリビエッチ 1992:155-156]。

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雰囲気があり、その中でカンボジアの活動をすることが各団体の自国内で支持され、継続

した資金獲得になるという可能性が少なかった、ということが挙げられている[熊岡 1993:88-89]。 そんな中、上記のように 1982 年に緊急事態の終了宣言によって、米国がカンボジアに対

する開発援助の禁止を西欧諸国に働き掛け、多くの西欧諸国がこれに同調した[吉田 1997:28]ことによって、状況はさらに困難になった。このとき、禁じられたのは「開発援助

17」であり、「人道的援助」とは区別されていた[ミシェリビエッチ 1992:110]。従って、

UNICEF,WFP,UNHCRは緊急救援を委託されている国連機関であったので、これらがプロ

ジェクトを行った。カンボジアはそれ以外にソ連、ベトナム、その他のコメコン諸国 18か

らの援助と各国NGOによる援助のみを頼りに復興に取り組まなくてはならなくなり、この

ような国際的な孤立状況は、約 10 年間も続いた。 それでも、1979 年からカンボジア国内での協力活動を目指し、活動する団体・人々がい

た。OXFAM(英)、CIDSE(開発と経済連帯/アイルランド)、AFSC(アメリカ・フレンド・サ

ービス委員会/米)、MCC(メノナイト中央委員会/米)、CWS(チャーチ・ワールド・サービス

/米)などがそうである。日本の NGO である JVC(日本国際ボランティアセンター)も 1980年末から OXFAM などの欧米の NGO を通して支援活動を行っていた。1985 年の時点で、

カンボジア国内で常駐し活動する NGO は 10 を少し超える程度であった。 そういったこともあり、タイにいたカンボジア難民とカンボジア国内の国民への援助も

偏っていた。金額にすると、1986 年の時点でカンボジア難民 1 人に対して 142 ドルが使わ

れ、カンボジア国内の国民 1 人あたりに 3 ドル(多国間機関から 1.5 ドル、NGO から 1.5)の援助しかなされなかったとされている[ミシェリビエッチ 1992:107]。 第3項 カンボジアにおける NGO の状況の変化 カンボジアの援助に変化が起きたのは 1991 年のパリ和平協定の調印である。このパリ和

平協定に基づいて実施された総選挙で樹立された新政府(フンシンペック党と人民党の連立

政権)が世界各国から承認されたため、出入国や滞在が 80 年代とは比較にならないほど簡単

になったのだ[吉田 1997:29]。またカンボジアに対する開発援助禁止の解除がされ、西欧諸

国からの 2 国間援助や多国間援助が急激に流入した。NGO の数も急激に増えた。1992 年

には国際 NGO、ローカル NGO を合わせて 62 団体であったのに、1994 年には 180 団体、

1996 年には 351 団体とすごい勢いで増えている(第 3 節の図①参照)。 カンボジアにこんなにも多くの援助が、特に西欧諸国から入ってきたのには、理由があ

る。それは、内戦やアメリカによる攻撃、ポル・ポト派による虐殺や強制労働など、悲劇

的で残虐な紛争の歴史を持つ国だからである。また、国際的な政治がカンボジアの紛争に

17 UNDP,WHO,ユネスコは開発にかかわる機関であるのでプロジェクトを実施できなかっ

た。 18 Council for Mutual Economic Assistance 経済相互援助会議。1949 年、ソ連の提唱によ

り、社会主義諸国間の経済協力機構として発足。1991 年解体。

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大きな影響を与えこと[Curtis 1998:71-72]もあり、その責任も感じていたのだろう。 しかし、政府がまだきちんと機能していない間に多くの NGO や国際機関の援助が入った

ことによって問題も起きた。無政府状態で多くの援助が入ってきたために、カンボジア政

府がそれらの機関や団体を管理することができず、それぞれの団体が自分たちの活動を正

式な調整なしに行っていた。よって 1980 年代にいくつかの NGO により国内で行われてい

た国家の再構築や農村部の開発モデルなどで得ていた経験も無視され拒否されてしまった

[Curtis 1998:73]。 ドナーによって効果的な調整が欠けているという非難があったのにもかかわらず、ドナ

ーたちは労力が重複することを避けて、あえて無秩序なプログラムや活動を作り直すこと

もせず、限られたことのみを行っていた。この効果的な調整に欠けていたということは、

ドナーの援助を途切れさせずに続けることとなり、政府にとって都合がよくなっていた。

しかし、ドナーからの援助は条件付きに変わる、他国への開発を優先させるなど、安定し

た援助ではないことも意味していた[Curtis 1998:74-75]。こういったことから、カンボジア

の国や人々が援助に依存する体質にしてしまったのは、国際社会が 1990 年代にカンボジア

の将来を考えず、その場を乗り越えるということだけを考えたことも一因であり、国際社

会にも責任があることがわかる。 第3節 カンボジアにおける NGO の現状 カンボジアの NGO は第 2 節のような流れを経て、今現在にいたる。第 3 節では、現在の

カンボジアの NGO の現状を見ていこうと思う。

第1項 カンボジアにおける NGO の数と活動規模、活動分野 カンボジアで働くNGOの数は、第 2 章第 2 節第 3 項でも少し述べたように急増している

(図 1 参照)。特に、ローカルNGO19の数はこの図 1 の 10 年間でも急激に伸びていることが

分かる。しかし、図 2 の活動規模を見てみよう。図 1 では 1994 年以降からローカルNGOが国際NGOを抜いて数を増やしているのに対し、活動規模で見てみるとローカルNGOが国

際NGOと大きく離れていることが分かる。一番活動資金が多い 2002 年の時点でも、国際

NGOの約 1/4 の規模で活動しているのだ。これによって国際NGOの力の大きさがよくわか

る。 では、次に図 3 でカンボジアにおける NGO の活動分野を見てみよう。カンボジアは人口

の 80%が農民と言われているように、多くの人々が農業に携わっているからか、農村開発

が NGO のプロジェクトの 1/5 を占めている。次に社会開発が来ていて、まだカンボジアに

は開発援助が必要だということもこのグラフから読み取ることができる。 図 1 カンボジアの NGO の数

19 第 2 章第 1 節で詳しく説明

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出所:カンボジア協力協議会、カンボジア NGO フォーラム、メディカム 『2002 年カンボ

ジア支援国会合への NGO 声明』(筆者による修正あり) 図 2 カンボジアの NGO の活動規模(100 万米ドル)

出所:図 1 と同じ(筆者による修正あり)

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図 3 分野別(セクター別)カンボジアの NGO のプロジェクト数

出所:図 1 と同じ。(筆者による修正あり) 第2章では、カンボジアの近代史、カンボジアのNGOの歴史と現状について見ていった。

悲しく苦しいポル・ポト時代の人々の状態や、そこまでの状態にカンボジアの人々や政府を

陥れていった原因が、多かれ少なかれ、欧米諸国にあることから来る責任感でか、多くの

国や NGO がカンボジアの人々を支援しようとしている姿を文献やデータから知ることが

できた。しかし、その大量の援助も無秩序に行われたことによって、今のカンボジアの人々、

またローカル NGO の援助に依存してしまう体質を作ってしまっているように筆者には思

えた。 第 3 章では、今までの第 1,2 章を通して学んだことが、実際 NGO が働く現場では、どの

ように当てはまっているのか、また現場ではどのようなことが起こっているのかを、いく

つかの NGO を例に挙げて見ていく。

第 3 章 カンボジアのローカル NGO と先進国ドナーの関係の現状

第 3 章では、最初に、ローカル NGO にも先進国のドナー(特に NGO)にも当てはまる、

能力強化(キャパシティ・ビルディング)についてと、その中でも大切であるとされるアカウ

ンタビリティについて少し述べようと思う。そこから、筆者が国際協力研修でカンボジア

を訪れた際、ボランティアをし、お世話になった NGO である CCASVA と、CCASVA を支

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援していた Save the Children Norway を例に挙げてカンボジアのローカル NGO と先進国

のドナーとの関係を見ていこうと思う。ここではカンボジアを訪れた際に見聞きしたこと、

感じたことを基に論文を進め、当時、深く聞くことのできなかった、ローカル NGO とドナ

ーとの間ではどういった関係があるのか、ローカル NGO は自団体強化のために、どんな工

夫をしているのかなどについても、メールでインタビューさせていただいたものを貴重な

資料として、論文を進めていく。また、この CCASVA と同じ分野で、同様に子どもの支援

をする NGO の Friends と比較してみて、どういった違いがあるのかなどについて見ていき

たい。 第 1 節では、能力強化とアカウンタビリティについて文献を使って紹介していこうと思

う。第 2 節では、筆者がメールを通して確認した CCASVA の現状について述べていく。第

3 節では、CCASVA に関わっていたドナーである Save the Children Norway(以下 SCN)へのメールでのインタビューを通して、CCASVA との関係性について、また支援を打ち切

った理由などについてまとめていく。第 4 節では、子どもを支援する NGO として大きな発

展を遂げている Friends についての調査結果を上げていく。そして、第 5 節では、SCN か

らのインタビューと CCASVA と Friends の比較をもとに、CCASVA には現地の人々と触

れ合うローカル NGO として、どういった役割があり、どんなことをしておく必要があるの

か、またどのようにしたらドナーとよい関係を持っていくことができるのかについて見て

いきたい。第 6 節では、SCN のインタビューをもとに、先進国ドナーに求められているこ

とを見出し、筆者の考えを述べていこうと思う。 第1節 能力強化とアカウンタビリティ この節では、特定のNGOの紹介やフィールドワークの結果について入る前に、知ってお

く必要があると筆者が考える概念について少し触れておきたいと思う。能力強化やアカウ

ンタビリティについて知っておくことによって、ローカルNGOと先進国ドナーがそれぞれ

でどんな能力を伸ばす必要があるのか、より理解しやすくなると筆者は考えている。また、

NGO同士の比較材料も提供することにもなるので簡単に説明しておこうと思う。また、こ

の章では、主にJANIC20の資料を主に参考資料として使用する。JANICは日本のNGOでは

あるが、そこで言われている原則は世界的に共通するものがあると筆者は考えているので、

貴重な資料として参考にさせていただく。

第1項 能力強化とは NGO の能力強化については、日本では、JANIC が力を入れて取り組んでいる団体の一

つに挙げられる。そこのホームページで言われている能力強化の対象というのは、国際協

力 NGO の活動を担う人材一人ひとりと、組織である。それらを強化していくことによって、

20国際協力 NGO センター(Japan NGO Center for International Cooperation)の略。日本

最大級のネットワーク型 NGO で、NGO を支援する NGO である。[JANIC HP(2013.1.17)]

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市民からの信頼に足る組織を作るサポートしているようだ [JANIC HP(2013.1.17)] 。よっ

て、能力強化について考えるときは、スタッフ個人の能力と NGO の組織としての能力の両

方を強化することが考えられる。 スタッフ個人の能力と言っても、その人がどういった仕事を任されているかによっても、

強化される能力は変わってくる。NGO のシェルターで看護師として働いているなら、看護

師としての能力を、学問を教える教師の役割があるなら、教師としての能力など、職業的

な能力がひとつあるであろう。また、組織を動かすディレクター、会計を担当する経理な

ら、組織の中での自分の役割の能力を強化する必要がある。そういった、個々に割り当て

られている役割の能力を強化することによって、NGO の組織全体の質も上がり、支援者で

ある子どもたちにもより良い支援を提供することができるのだと筆者は考える。 NGO の組織の強化というのは、NGO を運営していく上で必要な能力を伸ばしていくこ

とである。それは、ビジネス的観点やマーケティングスキルの向上とも相容れないところ

があるようだ [NGO マネジメント研修テキスト:2] 。筆者は、実際に NGO を組織として動

かしていくために必要な能力の強化であると考えている。具体的には、団体のミッション

やビジョンにもとづいた、①中長期的な目標設定や事業計画の策定、②資金調達(ファンド

レイジング)、③ボランティア・マネジメントを含む組織マネジメント④財源マネジメント

などが挙げられている [NGO マネジメント研修テキスト:2-3,21] 。 ②の資金調達については、既存の支援者に継続して支援してもらうことと、新規の支援

者を開拓するという主に 2 種類に分かれるようだ [NGO マネジメント研修テキスト:8,12] 。また③の組織マネジメントは、主に「スタッフやボランティアのモチベーションの管理

[NGO マネジメント研修テキスト:16]」であると述べられている。スタッフの一体感や、ス

タッフ一人ひとりの自律、ボランティアに効率よく働いてもらうこと、理事と事務局のコ

ミュニケーションなど、人の感情を良い方向に向けていくことを指しているようだ [NGOマネジメント研修テキスト:18-20] 。④の財源マネジメントは収入と支出に関するもので、

組織に合った収入構造について考えることなどが含まれている。[NGO マネジメント研修テ

キスト:21,26] こういった個人、また組織としての能力を強めることにより、NGO はより安定し、ロー

カル NGO も自立に向かうことができると筆者は考える。また、ローカル NGO が安定する

ことによって、支援者にも安定した支援を提供することができるのである。よって、NGOの能力強化は最終的に支援者に益をもたらす、と筆者は考える。

第2項 アカウンタビリティとは アカウンタビリティ(accountability)は日本語での適切な表現が難しいとされているので、

本文では、カタカナ表記を使う。JANIC の監修によって作られた『アカウンタビリティ ガ

イド』によると、アカウンタビリティとは、「(日本の)国際協力 NGO が社会から信頼され

る団体となるために必要なコミュニケーション[アカウンタビリティ ガイド:11]」である

としている。筆者はそれをより分かりやすくするために、この定義を踏まえて、アカウン

コメント : [ ]には、著者名、出版

年、ページを書く。

コメント : 同上

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22

タビリティとは、「相手との信頼関係を築くため、もしくは、保つために行う報告責任」と

いう認識を持って論文を進めていく。 NGO には、信頼関係を築く必要のあるアクターがさまざまなところにいる。NGO の活

動が他分野に及ぶことや国境を越えて行われるうえ、異なる立場の関係者と関わっていく

[アカウンタビリティ ガイド:12]ので、アクターと NGO、相互のニーズや期待をよく理解

し、また、アカウンタビリティを果たしていく必要がある。 具体的にどんなアクターがアカウンタビリティの対象になるのかというと、一つの考え

方として①団体内部、②ドナー、③社会[アカウンタビリティ ガイド:13]の 3 つになるで

あろうと言われている。 まず、①団体内部については、団体自体とボランティア間、また管理者と現地で働くス

タッフ間でのアカウンタビリティを指す。この団体内部でのアカウンタビリティは、主に

お互いがどのようなことを知りたいと思っているのか、何を必要としているのか、という

ことを掘り下げて理解していくことであるようだ [アカウンタビリティ ガイド:15] 。団

体内部では、作業が単純で、情報交換だけで数字やデータだけの行き違いになりがちなの

で、お互いに深く理解しようということや、きちんとした報告を上げるのを怠ってしまい

がちなのかと筆者は考える。よって、団体内部でもアカウンタビリティを果たすことは重

要な意味を持つようだ。 そして②のドナーは、NGO の資金調達に直接関係することが多いので、とても大切な要

素の一つである。NGO の収入源は主に自己財源、受託事業、補助金を含めた助成金事業の

3 つがあり、それらに関わるアクターは NGO の会員や寄付者、物品購入などのサービス利

用者や企業、また民間財団、政府機関・公的機関、地方行政など、幅も広い [アカウンタビ

リティ ガイド:16] 。よって、事業報告を行うことによって、アカウンタビリティを果た

すことができる。また、第 3 章第 4 節で出てくる Friends-International を見てみると、そ

の事業報告をホームページなどに載せて公開することによって、まだ、ドナーとしてその

NGO に関わっていない人々にもアカウンタビリティを果たすことができているので、自動

的に③の社会へのアカウンタビリティも果たしているように筆者には思える。 また、アカウンタビリティを果たす際に大切な要素として、不正や不適切な出来事があ

ったときにも、正しい判断を下し、正直にアクターたちに報告する、というものがある。

NGOに関わるアクターたちは、もちろん、完璧な活動や支援を望んではいるが、それがさ

まざまな理由で行われない時もある。しかし、不正や事故などが起きた時に、それを隠さ

れることの方が、NGOへの信頼を失う原因になりかねない。そこで、どんなときにも正直

でいて、それも報告しようという姿を見せるときに、アクターから本当の信頼を得ること

ができるのではないであろうか。実際に起こった事例で、特定非営利活動法人ラオスのこ

どもの件 21から、そのことについて知ることができる [アカウンタビリティ ガイド 35] 。

21 特定非営利活動法人ラオスのこどもでは、「不正ではないが不適当である」という判断か

ら、支援地であるラオス事務所で発生していた本の仕入れ先からのバックマージンなどの

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能力強化もアカウンタビリティも NGO の自立にとって大きな意味をなすもので、これを

応用しているかどうかによっても、NGO の発展や活動に大きな影響を及ぼすであろうと思

う。それを踏まえたうえで、第 3 章の残りの論文を見ていっていただきたい。 第2節 ローカル NGO、CCASVA ここでは、筆者がボランティアさせていただいたローカル NGO である CCASVA がどう

いう経緯でできた団体であるのかなどについての基本的な情報と、インタビューを通して

CCASVA が現在どういった状態であるのか、また、組織として、スタッフ一個人としての

能力はどんなものなのか、最後に先進国ドナーとの関係、また CCASVA のホームページや

スタッフの方とのメールでのインタビューを通して理解したことをまとめていこうと思う。 第1項 CCASVA とは

CCASVAとは、Cambodian Children Against Starvation and Violence Associationの頭

文字をとった略称で、日本語にすると「飢餓と暴力に反対するカンボジアの子どもの協会」

となる。団体名の通り、CCASVAはカンボジアの子どもたちのためNGOで、貧困や暴力に

遭う子どもの問題に取り組んでいる無党派、無宗教のローカルNGOである。この傷つきや

すい集団の必要に対処するため、CCASVAは 1996 年の 1 月にカンボジア人の学生ボランテ

ィアにより設立された。1996 年 9 月 23 日には、カンボジア王国の内政部が、公式にCCASVAを公認した(許可番号 889)。傷つきやすく、高いリスクを持つ子どもたちに対して働きかけ

ていて、プノンペンのストリートでの活動と、“子どもの成長のためのセンター22(CCD)”で主に活動を行っている [CCASVA HP(2012.12.3)] 。CCASVAは、ローカルNGOができ

た由来の分類 23としては、①の途上国で自発に設立されたものに当たるであろう。 CCASVAのビジョンは「『すべてのカンボジアの子どもたち、特にストリートにいて、働

いている子どもたちが質の高い教育を受け、彼らの人生の質、人間としての権利、目標や

希望を増し加えることを支える』ことを確実にすることである[CCASVA HP(2012.12.3)]」と述べている。また、CCASVAの使命は、「CCASVAは身体的、もしくは性的虐待、搾取、

またはトラフィッキング 24の高いリスク状態にあるとみなされたストリートにいる孤児や

傷付いている子どもたちを補助し、彼らと共に働くことを専門としている。私たちは予防、

リハビリテーション、教育、再統合のプログラムを通して、深刻な社会問題に対処するこ

とを託されている[CCASVA HP(2012.12.3)]。」 そういったビジョンと使命から、CCASVA では、Street Based Program というストリー

受領について一定の内部対応を行い、その出来事を支援者・会員・理事会へ報告した。し

かし、その結果、例年以上に会員や支援者が減るというようなマイナスな影響も確認でき

ず、逆に団体の中で議論をする雰囲気が高まることになった。ということだ。[アカウンタ

ビリティ ガイド 35] 22 Centre for Child Development(CCD)の和訳。子どもを保護している CCASVA のシェル

ターのことを指す 23第 1 章第 1 節第 1 項参照 24 人身売買

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24

トを基盤としたプログラムと Centre Based Program という危険な状態にいる子どもたち

をシェルターで保護し、そこで行うプログラムと大きく分けて 2 つに取り組んでいる。 Street Based Programでは主に 6 つのエリア 25で、応急手当や健康管理、教育や識字教

室、移動図書館、振る舞い教育、法的補助、学校へ戻るための紹介、職業訓練、小さなビ

ジネスを創作するときの補助、家族やコミュニティーへの再統合、ストリートチルドレン

のためのフォローアップやカウンセリングなどを行っている。そして、そこで地元の指導

者とCCASVAのスタッフによって“高いリスク状態 26”にいると判断されたストリートチ

ルドレンは、Centre Based Programが行われているCCDに行くことになる [CCASVA HP(2012.12.3)] 。筆者は研修でボランティアをさせていただいていた時、いくつかのエリ

アをスタッフの方と一緒に周らせていただいたが、あるPagodaに行ったときにそこにいた

子どもやおじいさんたちがCCASVAのことを「SVA27」と親しげに呼んでいた。CCASVAが集中しているエリアでは、馴染みがあるように見えた。

Center Based Program では、シェルターでの CCD の活動を主としている。そこに来る

子どもたちは、肉体的、もしくは性的虐待を受けていたり、物乞いをするように強制され

ていたり、危険な立地で働かされていたり、教育の機会から除かれてしまったり、栄養失

調、そして大きな病気にかかっているなど様々な状況に置かれている。よって、そこで食

べ物、安全、住む場所、緊急救助、健康管理、教育、識字、健康診断、子どもの権利の教

育、技術訓練などを子どもの必要に応じてセンターの中、もしくは外で行っている。それ

は彼らが精神的にも肉体的にも気にかけられて、愛や特別な注目を受け、彼らが自分自身

への信仰や自信を再び持つことできるように助けているのである [CCASVA HP(2012.12.3)] 。教育では、英語やパソコンの基礎、カンボジア伝統芸能のアプサラダン

スを学び、あとはみんなでともに食事をしたり遊んだりしている。

第2項 CCASVA の現状 ここでは、CCASVA の現状として、どれくらいのもしくはどんなドナーが CCASVA に

関わっているのか、支出、収入などについて見ていこうと思う。これは Friends との比較

にもなるので、以下にある第 4 節第 2 項も参照してほしい。ただ、CCASVA は、筆者がボ

ランティアをしていて 2009 年の夏に働き、筆者たちボランティアを担当していたスタッフ

が辞職、または人事異動していて、構成が変わっていることや、CCASVA の担当のスタッ

フの方と十分な連絡が取れなかったことで、情報が古く、不十分であることを理解してい

ただきたい。 CCASVA を支援しているドナー

25 Toul Tumpong, Olympic, Doeumko, Lucky market, Wat Sampeumeas and Sampeoumeas pagoda 26 子どもたちの両親が置かれている環境に住むことが危険すぎると判断された状態のこと 27 カンボジア語で「猿(monkey)」の意。

書式変更 : 蛍光ペン

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2009 年 8 月にCCASVAを訪れた時点で、CCASVAを支援している大きなドナーとして挙

がっていたのはSave the Children Norway(ノルウェー)、Terre des Hommes(オランダ)、COSECAM( EU28)、KHANA(EC29)、PSI30などである 31。 2013 年 1 月に筆者がメールで問い合わせた Save the Children in Cambodia のスタッフ

によると、Save the Children Norway は 2009 年に支援を終え、2010-2011 年 6 月までは

Save the Children Australia が支援とトレーニングをしていたようだ。Save the Childrenの CCASVA への詳しい支援については、第 3 章第 2 節第 3 項を参照してほしい。また、Save the Children in Cambodia の方によると、Save the Children がドナーとして支援した後は、

Plan International が支援しているということであったが、Plan International と直接連絡

を取って確認することができず、CCASVA からも返答がなかったので、実際のところは明

確ではない。 収入、支出 インタビューで聞きたいけど聞ききれないかも…

第3項 CCASVA の組織としての能力、スタッフたちの能力

第4項 CCASVA から見る、先進国ドナーとの関係性

第3節 先進国ドナー、Save the Children Norway この節では、筆者が CCASVA でボランティアをしていた当時、一番大きな支援をしてい

たと言われていた Save the Children Norway について述べて行く。CCASVA のスタッフ

は”Save the Children Norway”と呼んでいたので、そこに問い合わせたところ、実際にカ

ンボジアで担当していた団体名は Save the Children in Cambodia だった。よって、この

節の中でも両方の団体を使い分けて書いていく。基本的に信条は同じで、資金を出してい

るのが SCN で、その SCN からの資金を何のためにどこに使うのかの決定を下し、現地で

の調整を行うのが Save the Children in Cambodia である、というのが筆者の認識である。

よって団体概要のみ、Save the Children in Cambodia のホームページを使うことにする。

インタビューは SCN として答えてくださっているので、残りはそちらの表記を使用する。 この第 3 節では、ホームページからの引用やメールでのスタッフの方へのインタビュー

を通して学び、伺った Save the Children in Cambodia の団体の概要、CCASVA を支援す

28カンボジアの NGO を通しての支援 29 カンボジアの NGO を通しての支援 30 Population Services International 31 筆者のカンボジアでのボランティア時のメモ、また CCASVA の日本語用パンフレット参

削除 : 。

削除 : の

コメント : 名前が分かれば、書い

てください

削除 : の方からのお話

削除 : この後の

削除 : のお話

削除 : わせていただく

削除 : させていただく

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るに至った経緯や、逆に支援を打ち切るに至った経緯、そして、SCN から見て、ローカル

NGO との関係性をどう思うかについてなどをまとめていこうと思う。

第1項 Save the Children in Cambodia とは Save the Childrenは 1919 年にエグランタイン・ジェブという女性によってイギリスで設

立された子どものためのNGOである [セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンHP(2013.1.9)] 。「セーブ・ザ・チルドレンは。全ての子どもにとって、生きる・育つ・守られる・参加す

る『子どもの権利』が実現されている世界を目指[セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン

HP(2013.1.9)]」すことをビジョンとするNGOである。セーブ・ザ・チルドレンは、世界的

に活動しているNGOで、セーブ・ザ・チルドレンの名のもとに活動している組織は、現在

32世界に約 30 団体あり、それぞれ独立した組織としてパートナーを組んでいる。そして、

その大きなネットワークを生かし、約 120 ヶ国で活動をしている [セーブ・ザ・チルドレ

ン・ジャパンHP(2013.1.9)] 。Save the Children in Cambodiaはそのうちの一つの組織で

ある。 Save the Children in Cambodia は、政府や市民社会、そして適切な研究組織とパートナ

ーシップを組んでプログラムを行っている。具体的に行っていることとして、そのパート

ナーへ資料や技術サポート、長期間に及ぶ能力強化(キャパシティ・ビルディング)を行って

いる。そのパートナーには、日本で言う厚生省や文部科学省などの政府の省庁、またロー

カル NGO やメディア、パゴダのネットワークを含む地域コミュニティーを基盤とした組織

などが含まれている。このように、Save the Children in Cambodia が政府や地域社会と共

に働くのは、彼らの行っている開発が持続できるようにするためであるようだ [Save the Children in Cambodia(2013.1.9)] 。このような活動を、カンボジア国内の約 13 の州で行

っている [Save the Children in Cambodia (2013.1.9)] 。

第2項 CCASVA を支援するに至った経緯

第3項 CCASVA への支援を打ち切るに至った経緯 メールでインタビューとしたところ、CCASVAへの支援の打ち切りに対しても快く答え

てくださった。Save the Children in Cambodiaは 2009 年のCCASVAへの支援の打ち切り

に対して、大きく二つの理由を挙げている。一つ目は、Save the Children Norwayはプノ

ンペンを優先順位の高い地域から外すことを決定したということ、二つ目は、一時的なも

のか、長期にわたって住む場所を提供するものなのかに関わらず、シェルターへの支援を

止めるという決定をしたからである、ということであった。CCASVAはプノンペンを中心

に活動し、CCD33もあるので、この条件に当てはまり、支援を受けられなくなったという

32 2013 年 1 月現在 33 第 3 章第 1 節第 1 項を参照

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ことなのであろう。 SCN がこのような決定を下すのに至った経緯として、SCN が Village Safety Net Program というプログラムを中心の戦略としはじめたことがある。Village Safety Net Program とは、カンボジアのコミュニティー・ベースで子どもの保護をする、というもの

である。 また、2010-2011 年の間は、今までSCNとともに働いていたSave the Children Australia(以下SCA)が少額の助成金(grant)を提供していたようだ。それは、コミューン 34レ

ベルでそのネットワークを使って子どもたちを保護するメカニズムを作る、という能力を

CCASVAが身につけるための助成金(grant)で、SCAの言うところによると、そのメカニズ

ムは比較的うまく回っているようだ。しかし、SCAの資金援助の期間も終わり、Save the Childrenは 2011 年の 6 月には完全にCCASVAから手を離しているようだ。

第4項 Save the Children in Cambodia から見てのローカル NGO との関係性

第4節 Friends の例 この節では、同じカンボジアの子どもたちを対象に活動を行っているFriendsをCCASVAと同様に見て行こうと思う。筆者の中で、Friendsは大きく成長しているNGOで、子どもた

ちに必要な助けや技術を与えていると感じている。というのも、日本にいて、国際協力や

途上国を取り上げたテレビ番組で、カンボジアでのFriendsの働きや活動について取り上げ

られ、また、筆者がカンボジアに行く前に、カンボジアに旅行に行った友人からFriendsの活動の一環であるチャイルド・セーフ・ネットワーク 35について聞いたことがあったから

だ。そこで、Friendsについて少し詳しく見ていくことによって、第 5 節に繋がっていくよ

うにする。

第1項 Friends とは Friends は、1994 年 8 月 1 日にバーバラ・アダムス、マーク・ターゲセン、セバスチャ

ン・マロトと 3 人のカンボジア人によって設立された NGO である。バーバラとセバスチャ

ンはフランスから日本に行く途中でカンボジアに立ち寄り、そのレストランで見たストリ

ートチルドレンに驚くほど心打たれたのがきっかけで、そこで子どもたちの欲しいもの、

必要なものを満たすために、彼らのためのシェルターを作るにまで至った。設立当初はみ

な若く、希望に充ちあふれてはいたものの、運営がうまくいかず、子どもたちも立ち寄ら

なくなって苦しい日々を過ごしたようだ。そんな中、子どもたちと良く話をし、彼らにと

って何が必要なのかを見極めて行った。自分たちの思うことをさせるのではなく、彼らと

話すことによって、彼らの本当に必要なものを見出していき、活動を続けていった。苦労

34 カンボジアの行政単位 35 Tuktuk (カンボジアのタクシー) の運転手と協力して、子どもを様々な危険 (特に性的虐

待) から守る取り組みをする活動

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の日々は続いたが、2 年苦しんだ後、Save the Children Australia からの連絡によって、

本格的なドナーがつき、今に至っている [Friends-International HP(2012.11.27)] 。この

論文の第 1 章第 1 節第 1 項のローカル NGO の出来た由来の分類としては、①の途上国で

自発的に設立されたもの、と CCASVA と重なる部分はあるように見えるが、設立者たちの

中にカンボジア人以外の人がいることや、海外から立ち寄った際にカンボジアの状況を見

て、団体の設立に至った部分もあるので、国際 NGO の要素も強く持っているように思える。

しかし、その後は長くカンボジアを拠点として活動していたので、Friends- Internationalはローカル NGO として始まったと筆者は捉えている。

カンボジアの首都である、プノンペンに住む子どもや若者 36を支援する活動から始まっ

たFriendsは、今では、カンボジアにとどまらず、ラオス、タイ、ミャンマーなど、他国へ

活動領域を広げるまでになっている。なので、Little Friends, Friends, Mith Samlanh(カンボジア語で友だちの意。 ) と呼ばれていた活動 [Friends-International HP (2012.11.27.)]も、今はFriends-internationalとしてまとめて行われている。よって以下で

Friendsと指す言葉はFriends-internationalを指すものとする。カンボジア特定の活動など

を説明するときはそれを言及する。 Friendsのビジョンは「共に、私たちは過小評価されている都市部の子どもや若者を守り、

彼らと一緒に、彼らの将来を築くための革新的なものとわくわくする機会を作り上げる

37 [Friends-international HP(2012.12.3.)] 」 こ と で あ る 。 ま た 、 使 命 と し て は

「Friends-internationalは過小評価されている都市部の子どもたちや若者たちと、彼らの

家族とともに、また彼らのために働く社会企業である。そして彼らの将来を築きあげるた

めに以下のことを行う;保護、再統合、予防、改善、社会への影響力[Friends-international HP (2012.12.3.)]」と述べている。 Friendsは活動拠点が海外にもあることで、活動内容も幅広い。よって、今回はカンボジ

ア国内での活動にのみ焦点を当てようと思う。カンボジアではプノンペンとシェムリアッ

プに事務所があるので、そこを中心に活動が広げられていると考えてよいであろう。具体

的には、CYTI38、チャイルド・セイフ・ネットワーク、フレンズの社会事業 39などが挙げ

られる。 第2項 Friends の現状

ここでは、第 3 章第 2 節第 2 項の CCASVA の現状と比較できるように、同じ内容で

Friends を支援しているドナー、また Friends の収入、支出を見ていこうと思う。 36 Friends によるこの「子どもや若者」という人の定義は 0-24 歳までを指している 37 英語の原文「Together, we protect marginalized urban children and youth and with them create innovative and exciting opportunities to build their futures.」 38 子どもを守る活動、孤児の保護、麻薬使用の予防や復帰の活動などを行っている 39 シェムリアップで開かれているレストラン(TREE)の経営や雑貨の販売など。これによっ

て子どもたちの職業訓練を行い、またここでの収益をもとに活動を広げられるので、ドナ

ーからも独立しやすくなる、というメリットを持っている。

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Friends を支援しているドナー Friendsは今や 7 カ国 40で活動しているので、その活動を支えるドナーも多い。ホームペ

ージに載っているだけでも 61 の団体がドナーとして支援している [Friends-International HP(2013.1.16)] 。

Friends-International Cambodia にだけ焦点を絞ると、2011 年の財政明細書によると主

なドナーは 10 団体が挙げられている。その内訳は、フランス大使館 (仏 )、Skoll Foundation(米)、Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria(Global Fund)(スイス)、CLSA Chairman’s Trust(香港)、Albatros Foundation(中)、De Evert en Gisela Boudewijn Stichting、Charities Aid Foundation Australia(CAF/オーストラリア)、United Nations Children’s Fund(“UNICEF”) Cambodia 、 HAARP-Australian Agency for International Development(“AusAID”/ オ ー ス ト ラ リ ア ) 、 The Centre for Asian Philanthropy(CAP) である。しかし、さらに多くの団体も少額ながらもドナーとして

Friends-International Cambodia に関わっている [Friends-International Cambodia Financial Statement: Organization Information,9] 。

収入、支出 2011 年度の Friends-International Cambodia の収入はドナーからの寄付、個人の寄付、

また TREE などの職業訓練や社会事業を通しての収入、などから成っていて、それは

2,486,095 ドル(米ドル)になる。ドナーからの収入がやはり一番飛びぬけて多く、収入の約

80%に当たる。それに続く収入源は社会事業を通しての収入であり、それは個人からの寄付

を超えていた [Friends-International Cambodia Financial Statement:5] 。社会事業が上

手くいっているということは、テレビや評判として聞いてはいたが、まさか収入源の 2 番

目に来る程とは知らなかったので、筆者は驚いている。また、それと同時に社会事業の質

の良さもここに表れているのではないかと考えている。 支出は人件費、指導費、設備費、間接費、能力開発やモニタリング、評価などへの費用

として使われていて、2,445,425 ドルとなっている [Friends-International Cambodia Financial Statement:5] 。やはり人件費は一番高く、支出の約半分を占めていることが分

かる。 収入、支出についての詳細は図 4 を参照してほしい。 図 4 Friends-International Cambodia の 2011 年の収入と支出の明細

40 カンボジア、ラオス、タイ、インドネシア、フィリピン、ホンジュラス、エジプト

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書式変更 : 蛍光ペン

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コメント : [ ]は、著者、出版年、

ページです。それ以外の情報はす

べて参考文献リストに書きます。

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出所 :FRIENDS-INTERNATIONAL CAMBODIA Financial Statements for the year ended 31 December 2011

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第3項 Friends の組織としての能力、スタッフたちの能力

第4項 Friends から見た、先進国ドナーとの関係性

第5節 ローカル NGO、CCASVA に必要なものは

第6節 先進国ドナーに求められていることとは

おわりに

参考文献 Curtis, Grant (1998) Cambodia reborn? : the transition to democracy and development, Brookings Institution Press 藤岡美恵子・越田清和・中野憲志(2006)『国家・社会変革・NGO 政治への視線/NGO 運

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協力 NGO 市民社会に支えられる NGO への構想』日本評論社 ミシリビエッチ、エバ(1992)『NGO が見たカンプチア』JVC 重田康博(2005)『NGO の発展の軌跡』明石書店 下澤嶽(2007)『開発 NGO とパートナーシップ』コモンズ 山田裕史(2008)「第 4 章 カンボジア」広瀬佳一・小笠原高雪・上杉勇司『ユーラシアの紛

争と平和』明石書店 吉田幹正編(1997)『NGO の現在 国際協力活動の現状と課題』アジア経済研究所 参考資料 CCASVA(2009)CCASVA 紹介パンフレット日本語版 『FRIENDS-INTERNATIONAL CAMBODIA Financial Statements for the year ended 31 December 2011』Friends-International 外務省国際協力局民間援助連携室(2010)『アカウンタビリティ ガイド~計画的にアカウン

タビリティに取り組むために~』(特活)国際協力 NGO センター(JANIC)

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『NGO マネジメント研修テキスト‐NGO Management Simulation-』(2011)(特活)国際協

力 NGO センター(JANIC) 参考 HP CCASVA HP [Who we are(HISTORY OF CCASVA)](最終アクセス日 2012.12.3) http://www.ccasva.org/who-we-are/history-of-ccasva CCASVA HP [What we do(STREET-BASED PROGRAM)](最終アクセス日 2012.12.3) http://www.ccasva.org/what-we-do/ccasva-programs/street-based-program CCASVA HP [What we do(Centre-based(CCD))](最終アクセス日 2012.12.3) http://www.ccasva.org/what-we-do/ccasva-programs/centre-based-ccd Friends-International HP[Together, building futures](最終アクセス日 2012.12.3) http://www.friends-international.org/aboutus/visionmission.asp? Friends-International HP [HISTORY](最終アクセス日 2012.11.27) http://www.friends-international.org/aboutus/history_detail.asp?mainmenu=aboutus& Friends-International HP[Donors & Supporters](最終アクセス日 2013.1.16) http://www.friends-international.org/aboutus/supporters.asp?mm=au&sm=ds JANIC HP[JANIC とは](最終アクセス日 2013.1.17) http://www.janic.org/about/index.php JANIC HP[NGO 組織強化](最終アクセス日 2013.1.17) http://www.janic.org/activ/ngoability/index.php LICADHO HP(最終アクセス日 2010.1.27.) http://www.licadho-cambodia.org/ Save the Children in Cambodia[About Us](最終アクセス日 2013.1.9) http://www.savethechildrencambodia.org/index.php?option=com_content&view=article&id=53&Itemid=62 Save the Children in Cambodia[Where We Work and Our Partners](最終アクセス日

2013.1.9) http://www.savethechildrencambodia.org/index.php?option=com_content&view=article&id=45&Itemid=54 セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン[セーブ・ザ・チルドレンとは](最終アクセス日 2013.1.9) http://www.savechildren.or.jp/about_sc/index.html セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン[セーブ・ザ・チルドレンの歴史](最終アクセス日 2013.1.9) http://www.savechildren.or.jp/about_sc/history/index.html セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン[グローバルネットワーク](最終アクセス日 2013.1.9) http://www.savechildren.or.jp/about_sc/global_net.html VBNK [Home](最終アクセス日 2013.1.14) http://www.vbnk.org/index.php

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