テスト作成講座(3) · テストをはじめとして様々な学習評価を実施...
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中学校社会科のしおり 2016 ③
(1)3学期のテストの作成に向けて 定期テストは各教科の学習評価にとって重要な役割を担っています。しかし,どのような学力を評価するのか,評価の対象となる学力について明らかにしておかなければ適切なテストの作成は困難です。特に,3学期のテストは1年間の学習の成果をとらえ「生徒指導要録」に記載する際に重要な評価資料です。また,「生徒指導要録」に記載された学習成績は生徒の進路選択に大きく関わりますのでテストをはじめとして様々な学習評価を実施する際には十分な配慮が求められます。 学校の教育活動を通して育む資質・能力については「中学校学習指導要領」の総則の第1で次のように述べています。
基礎的・基本的な知識及び技能を確実に習得させ,これらを活用して課題を解決するために必要な思考力,判断力,表現力その他の能力をはぐくむとともに,主体的に学習に取り組む態度を養い,個性を生かす教育の充実に努めなければならない。
学校教育における教科等の指導に当たっては学習指導要領に示す目標・内容を拠り所としています。社会科の学習活動を通して生徒が身に付ける資質・能力については「中学校学習指導要領」の「第2節 社会」の「目標」と「内容」から読み取ることができます。 3学期のテストは1年間の学習の成果を総括するものですから,テスト作成に当たって今一度,当該分野の目標・内容によって育むべき資質・能力を確認しておきましょう。な
お,テストの作成には「中学校学習指導要領解説 社会編」の各分野の中項目の(内容の取扱い)の記述内容が参考になります。各項の解説には何のため,何を,どのように指導するかについて詳細に解説していますのでぜひ活用しましょう。 また,学習評価への取り組みについては「評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料(中学校 社会)」(国立教育政策研究所)の活用を勧めます。参考資料p.3には
学習指導要領に示す目標に照らしてその実現状況をみる評価を着実に実施し,生徒一人一人の進歩の状況や教科の目標の実現状況を的確に把握し,学習指導の改善に生かすことが重要であるとともに,学習指導要領に示す内容が確実に身に付いたかどうかの評価を行うことが重要である。
と学習評価の基本的な考え方が明示されています。3学期のテストは1・2学期のテストとは異なり1年間の学習の成果を総括するものです。教師自身が納得することはむろんですが,生徒・保護者からも信頼と納得の得られるテストとする工夫は教師としての責務です。
(2)地理的分野〈資源や産業の特色〉 3学期のテストですから,これまでの学習で身に付けた知識や概念,技能等を活用して地理的分野のねらいである地理的な見方や考え方に対する問いかけが必要です。作問例は,「(2)日本の様々な地域」の「イ 世界と比べた日本の地域的特色」のうち産業を扱っています。世界から見て我が国の産業の特色と
全国中学校地理教育研究会名誉会長(元教育課程審議会委員) 佐野金吾
定期テスト★ 作成講座
テスト作成講座(3)−1年間の学習を総括するテスト−
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中学校社会科のしおり 2016 ③
してとらえられる湾岸地域に集中している工業地帯を取り上げています。工業地帯という地理的な概念の理解と文章,地図,統計資料などの諸資料を読み取り,我が国の国土の特色を産業を通してとらえさせることをねらいとしています。問1は,我が国の主な工業地域に関する問いかけで,各工業地帯の特色について資料・地図を活用して答えさせる基本的な作問例ですが,文章資料を提示して統計資料と地図とを関連付ける指示は,生徒がす
でに習得している知識や概念・技能の活用を促し,思考力・判断力・表現力を評価しようとするものです。 問2は自動車産業を題材とし,我が国の産業の特色は海外とのかかわりによって成り立っていることを資料から考察させる作問例で,地理的な見方や考え方についての問いかけです。1年間の地理的分野の学習活動で身に付けた知識や概念,技能を活用し,思考力・判断力・表現力を評価しようと工夫しています。
日本の工業について,次の問いに答えよ。[問1] <資料1>は日本の主要な工業地帯の出荷品目と出荷額の資料である。次の(1)・(2)に答えよ。
(1)A 〜 Dにあてはまる工業地帯の名前を<語群>より選んで答えよ。またそれぞれの位置を<図>のア〜クより選んで答えよ。出荷額や下記<補足文章>を参照してもかまわない。
<語群>阪神 ・ 中京 ・ 瀬戸内 京浜 ・ 北九州 ・ 京葉 ・ 東海
<補足文章> 日本一の工業地帯は,日本最大の自動車会社の存在する愛知県周辺である。出荷額日本一で,自動車関連の機械工業が,ほかの地域を圧倒している。逆に歴史的に最も古い北九州の工業地帯は,現在では愛知周辺と比較しても出荷額は6分の1程度となっている。東京や横浜周辺の工業地帯は,かつて日本一だったなごりを残し,現在でも高い出荷額となっている。ここも愛知県周辺同様,自動車産業がさかんである。一方関西地域では,出荷額こそ愛知・東京に比べれば劣るものの,現在でも根強い工業生産が行われており,独自の技術をもつ中小企業の工場が多い。
地理的分野〈資源や産業の特色〉 作問者:H先生
出題意図・採点基準 対象は2学年です。この単元では学習指導要領の「日本の資源・エネルギーと産業に関する特色を大観」させること目的に指導しています。知識を身につけさせたうえで,単元内のグラフを読み取らせ,その特色を文章でまとめさせます。工夫した点は,知識を問う四大工業地帯の特色・位置の設問での,<補足文章>の追加です。これにより,知識だけでなく読図の技能を活用できるようにしました。記述問題は,「海外生産の利点」という条件を設定し,解答の方向性を定めました。
(2)これらのA 〜 Dの工業地帯は四大工業地帯とよばれ,<図>のXの範囲に分布している。この帯状に工業地帯が集中している地域の名前を答えよ。
[問2]<資料2>は日本の自動車メーカーの生産台数の推移である。次の(1)・
(2)に答えよ。(1)<資料2>より読み取れる内容について,次のア〜エのうち誤っているものを一つ選んで答えよ。 ア 1970年代以降,輸出用の自動車生産が増加した。 イ 国内用の自動車生産は現在も増加し続けている。 ウ 国内生産台数の最盛期は1970年の約2倍以上生産していた。
エ 国内用・輸出用の自動車生産台数の合計は,1980年代に1000万台をこえた。
(2)1985年以降,海外生産の量が大きくのびている。この理由について簡単に説明せよ。なお,海外で生産することに大きな利益がある点にふれて,説明すること。
アイ
ウ
エオカ
キ
X
ク
D
C
B
A 51兆1475億円出荷額
32兆8287億円
53兆174億円
8兆2491億円
機械:37.3%
34.8%
63.5%
金属12.5 化学:26.8 食品
11.6その他11.8電気:13.0
14.9 5.4 14.521.2 23.1 10.0 10.9
12.1 42.8 8.610.4 11.8 5.4 8.9
41.8%6.7 28.5 6.6
16.9 11.6 18.5 11.2
輸送:14.3 その他:10.0
<資料1>工業出荷額の内訳〈平成22年工業統計表〉
<図>
<資料2>
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中学校社会科のしおり 2016 ③
(3)歴史的分野〈国際連合と冷たい戦争〉 歴史の定期テストでは個別の歴史的事象の記憶の確認になりがちですが,3学期の定期テストでは1年間の学習の成果を総括した評価情報を得る工夫が重要です。歴史的分野の目標の(1)に「我が国の歴史の大きな流れを」理解する,とありますように3学期のテストは,この趣旨に沿った作問の開発が必要です。 作問例は現代につながる冷戦時代を取り上げていますが3学期のテストであることに配慮して都立高等学校の入試問題を参考にして
文章,地図,年表などの様々な資料を活用して歴史的な見方や考え方を評価できるよう工夫しています。入試問題では多様な資料を提示して歴史的事象を多面的・多角的に考察させることによって歴史的分野の学習で身に付けた歴史的事象に関する知識や概念,技能などを活用させる工夫が見られます。 歴史の授業では,日頃から教科書の記述内容の考察,図版等資料の読み取りについての話し合いなど多様な学習活動を取り入れ,歴史的な見方や考え方を育む工夫が重要です。
次の文章を読み,問いに答えよ。
第二次世界大戦後の世界は,アメリカを中心とする資本主義諸国と,ソ連を中心とする社会主義諸国とに分かれ,厳しく対立した。直接には戦火をまじえないこの対立は,「( W )」とよばれた。Xヨーロッパやアジアの国々では,資本主義諸国・社会主義諸国それぞれが支援する政府による対立が起き,各地で戦乱が起きた。 1980年代,ソ連の影響下にあった東ヨーロッパで民主化運動が高まり,その後Yアメリカとソ連の首脳会談(マルタ会談)により,( W )の終結が宣言された。
[問1] 空欄Wにあてはまる語句を漢字2字で答えよ。[問2]<表1>のア〜エの文章は下線部Xについて説明したもので,<図>のA 〜 Dのいずれかの地域のようすを表している。A 〜 Dにあてはまるのは,<表1>のア〜エのうちどれになるか,それぞれ選んで答えよ。
歴史的分野〈国際連合と冷たい戦争〉 作問者:H先生
出題意図・採点基準 対象は3学年で,「冷戦」がテーマの問題です。指導上では,「冷戦」は戦後日本の復興と関連させています。しかしこの問題では学年末ということもあり,世界地図と関連させたり,記述問題で地理の既習事項を引用したりするなど,「冷戦」をテーマに地理的分野との連携をふまえました。また序文や選択肢の文章を精読することで,選択問題の解答をしぼりこめるように工夫しました。また,形式を学校のある東京都立の入試問題と似せるなどの工夫もしました。
[問3]次の(1)・(2)に答えよ。(1)下線部Yについて,このできごとの起きた時期を<表2>のア〜エより一つ選んで答えよ。
(2)下線部Zについて,この組織は国家間の壁を低くして協力し合うことを目的としているが,具体的にこの組織に加盟していることで,国家間で可能になる点を一つ簡単に説明せよ。
<図>
<表2>
<表1> 資本主義・社会主義の対立のようす
ア
南北に分かれていたこの地では,アメリカが南側を支援していたが,民族解放をめざす勢力がこれに抵抗していた。この勢力が北側支援を受けて力を増すと,アメリカは激しい爆撃と地上軍を派遣。一方北側はソ連の支援を受けて抗戦した。世界中でこの争いの反戦運動が高まり,アメリカは1973年に軍隊を引きあげた。
イ
この地は日本の植民地支配から解放されたのち,北緯38度線を境にアメリカとソ連により南北に分断された。1948年には南北それぞれ国家として成立したが,1950年に北側が南側に攻めこみ,戦争状態となった。国連安全保障理事会は軍の派遣を決め,アメリカ軍を中心とする国連軍が南側を支援した。激しい戦闘の末,1953年に休戦協定が結ばれた。
ウ
この地は第二次世界大戦の敗戦後,西側をアメリカ・イギリス・フランスの3国が,東側をソ連が占領していた。その後1949年に,西側は資本主義国として,東側は社会主義国としてそれぞれ独立することになった。しかし1989年,現在のこの国の首都にて,対立の象徴である「壁」が取りはらわれたことにより,1990年に東側が西側に吸収されるという形で東西が統一された。
エ
この地の政府は国民党によりつくられたため国民政府とよばれ,もともと海をはさんだ隣国の政府だった。この政府は共産党との間で長い内戦を続けていた。第二次世界大戦中,両者は手を結んでいたが,第二次世界大戦後は共産党が独自に国家を成立させ,国民政府は海をわたり現在の地にのがれた。
年号 できごと
1965年 ベトナム戦争
1967年 ECの発足
1975年 サミットの開始
1979年 ソ連のアフガニスタンへの侵攻
1991年 ソ連の解体
1993年 Z EUの発足
ア
エ
ウ
イ
AB
C
D
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中学校社会科のしおり 2016 ③
(4)公民的分野〈国の支出と収入〉 公民的分野の3学期のテストでは,対立と合意,効率と公正などの見方や考え方を用いて諸事象をとらえ,社会的事象の理解に結び付く作問が重要ですが,そのためには社会的事象を具体的に表現する場面設定が必要です。そこで時間や紙面などに制約のあるテストでは社会的事象の一面を表現している様々な資
料を活用します。公立高等学校の入試問題でも多様な資料を活用して社会的事象を考察させ,知識や概念,技能を問う作問が多く見られます。作問例は統計など多様な資料の読み取りを通して現在の財政に関する知識・理解や技能について問いかけていますが,3学期のテストですから効率や公正の考え方によって考察し,表現させる作問の工夫が必要です。
次の各表を読み,問いに答えよ。[問1]<表1>・<表2>を参照し,次の(1)・(2)に答えよ。
(1)<表1>について,下線部A 〜 Dを説明した文章として,次のア〜エより正しいものをそれぞれ選んで答えよ。 ア 私たちが商品を購入するときに支払うことになる税金。現在の税率は8%。
イ 個人が仕事によって得た収入に課せられる税金。収入により税率が変動する。
ウ 外国から輸入される品物にかけられる税金。撤廃している地域もある。
エ 企業が仕事によって得た収入に課せられる税金。企業分類ごとに税率が変動する。
(2)<表2>は2013年度の日本の歳入の円グラフである。<表1>も参照し,次のア〜エの文章のうち,グラフについて説明したものとして誤っているものを一つ選んで答えよ。 ア 2013年の歳入は直接税の方が間接税より多い。 イ 2013年の直接税は全体の25%未満である。 ウ 2013年の間接税収入は約18.4兆円である。 エ 2013年の歳入は半分以上が税収ではない。
[問2]<表3>〜<表5>を参照し,次の(1)・(2)に答えよ。
(1)<表3>における「 X 費」にあてはまる語句を<表4>・<表5>を参照して漢字4字で答えよ。
公民的分野〈国の支出と収入〉 作問者:H先生
出題意図・採点基準 経済分野における,「国の支出・収入」についての問いです。学習指導要領解説の「租税の大まかな仕組みやその特徴」という知識をベースに,国民への影響を考えさせるよう指導しています。最初の問題では,各租税の名称と意味の正確な知識を問いますが,続く読図問題については技能の力のみで解答できるよう工夫しました。続く問題では,支出の中心となる社会保障関係費と,現代社会の諸問題の一つである少子高齢化を,読図を通して関連させるものにしました。
(2)<表3>について,社会保障費の一般歳出にしめる割合が,どのように変化したか説明せよ。なお,<表4>・<表5>を参照し,その変化の理由もふくめて説明すること。
<表4>社会保障制度の説明
<表5>平均寿命と合計特殊出生率〈日本国勢図会2014/2015 ほか〉
<表2>2013年度の日本の歳入〈財務省資料 ほか〉
<表3> 社会保障関係費の推移と内訳〈財務省資料〉
<表1>国税の種類国税
直接税
A 所得税間接税
C 消費税B 法人税 揮発油税相続税 酒税
D 関税
公衆衛生
国民の健康増進をはかり,感染症などの予防をめざす保障。予防接種や公害対策,廃棄物処理や下水道対策などで費用が使われる。
社会福祉
働くことが困難で,社会的に弱い立場の人々に対して,生活の保障や支援のサービスを行う社会保障。児童福祉や母子福祉,障がい者福祉や高齢者福祉などに費用が使われる。
公的扶助
収入が少なく,特別な事情により最低限度の生活を営めなくなった人たちに,生活費などを給付する社会保障。おもに生活保護費に使われ,ほかには住宅・教育・医療などの扶助に費用が使われる。
社会保険
加入者や国・事業主が社会保険料を積み立てておき,必要なとき給付を受ける保障。病院・薬局で使われる医療保険や老後のための年金保険,失業保険や労災保険などで費用が使われる。
総額92.6兆円
公債金46.3
税収以外収入7.2 関税等5.1 酒税1.4
揮発油税2.7
消費税10.7
相続税3.7
法人税9.1
所得税13.8%
X費Y費Z費
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