gps携帯による...

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1. はじめに 社団法人群馬県建設業協会に所属する会員企業 は,日頃から地域に密着した活動を展開し,ライ フラインの整備,防災工事,あるいは災害復旧工 事を通して地域社会への貢献を実践するととも に,防災に対するさまざまな知識やノウハウを蓄 積し,「地域に貢献する産業としての役割」を果 たしてきました。 しかしながら,長引く建設投資の減少や利益率 の低下により会員企業の経営環境は厳しく,地域 防災に取り組むための体力も低下している状況で あり,各地で災害時に対応する企業数は減少の一 途をたどっております。 このような大変厳しい状況にありながらも,平 成19年に群馬県西部地域を中心に甚大な被害をも たらした台風9号による大規模災害に対して,会 員企業は昼夜を問わず応急復旧活動を行いました が,災害が急激に同時多発したことから情報が錯 綜し,初動段階において状況把握に予想以上に時 間がかかってしまいました。幸い,人命が失われ るという最悪の事態は避けられたものの,数少な い道路が寸断され孤立集落が発生し,被災地区の 復旧には一刻の猶予も許されない状態でありまし た。 この経験が,図らずも「地域を守る」という使 命感を持つ建設企業として役割を再認識すること につながります。行政機関との連携をこれまで以 上にスムーズに行い,パトロールによって発見し た危険個所における予防措置と被災現場での復旧 作業に迅速に取り掛かるため,業界団体として初 めて本システムの導入を決定しました。 2. システム構築に至るまでの経緯 災害発生時における建設業協会の強みは,会員 企業が県内各地に拠点を持っていることであり, 周辺地域の風土を誰よりも深く把握していること にあります。また,国土交通省や群馬県等と災害 応急対策業務に関する協定を締結し,日頃から担 当区間のパトロールを行い,いざという時の出動 体制を整えています。 しかし,これまでの災害発生時における情報伝 達の手段は電話とFAXが主であり,現場の正確 な位置情報と被災の様子を瞬時に把握することは できず,時間的なロスがあることが先の災害にお いて浮かび上がっていました。 こうした課題を解決するため協会の役員で検討 していたところ,GPS機能を有する携帯電話で撮 影した画像を送信することにより,インターネッ ト画面上で位置情報が瞬時に確認できる,川田テ GPS携帯による 災害情報共有システムの構築 あら き たかひこ 社団法人群馬県建設業協会 企画係長 荒木 孝彦 防災対策~地域に貢献する建設業~ 特集 マネジメ 2009 9 17

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Page 1: GPS携帯による 災害情報共有システムの構築kenmane.kensetsu-plaza.com/bookpdf/136/fa_03.pdf · 2010. 10. 12. · クノシステムのASPサービス「basepage」の存

1. はじめに

社団法人群馬県建設業協会に所属する会員企業

は,日頃から地域に密着した活動を展開し,ライ

フラインの整備,防災工事,あるいは災害復旧工

事を通して地域社会への貢献を実践するととも

に,防災に対するさまざまな知識やノウハウを蓄

積し,「地域に貢献する産業としての役割」を果

たしてきました。

しかしながら,長引く建設投資の減少や利益率

の低下により会員企業の経営環境は厳しく,地域

防災に取り組むための体力も低下している状況で

あり,各地で災害時に対応する企業数は減少の一

途をたどっております。

このような大変厳しい状況にありながらも,平

成19年に群馬県西部地域を中心に甚大な被害をも

たらした台風9号による大規模災害に対して,会

員企業は昼夜を問わず応急復旧活動を行いました

が,災害が急激に同時多発したことから情報が錯

綜し,初動段階において状況把握に予想以上に時

間がかかってしまいました。幸い,人命が失われ

るという最悪の事態は避けられたものの,数少な

い道路が寸断され孤立集落が発生し,被災地区の

復旧には一刻の猶予も許されない状態でありまし

た。

この経験が,図らずも「地域を守る」という使

命感を持つ建設企業として役割を再認識すること

につながります。行政機関との連携をこれまで以

上にスムーズに行い,パトロールによって発見し

た危険個所における予防措置と被災現場での復旧

作業に迅速に取り掛かるため,業界団体として初

めて本システムの導入を決定しました。

2. システム構築に至るまでの経緯

災害発生時における建設業協会の強みは,会員

企業が県内各地に拠点を持っていることであり,

周辺地域の風土を誰よりも深く把握していること

にあります。また,国土交通省や群馬県等と災害

応急対策業務に関する協定を締結し,日頃から担

当区間のパトロールを行い,いざという時の出動

体制を整えています。

しかし,これまでの災害発生時における情報伝

達の手段は電話とFAXが主であり,現場の正確

な位置情報と被災の様子を瞬時に把握することは

できず,時間的なロスがあることが先の災害にお

いて浮かび上がっていました。

こうした課題を解決するため協会の役員で検討

していたところ,GPS機能を有する携帯電話で撮

影した画像を送信することにより,インターネッ

ト画面上で位置情報が瞬時に確認できる,川田テ

GPS携帯による災害情報共有システムの構築

あら き たかひこ

社団法人群馬県建設業協会 企画係長 荒木 孝彦

防災対策~地域に貢献する建設業~ 特集

建設マネジメント技術 2009年 9月号 17

Page 2: GPS携帯による 災害情報共有システムの構築kenmane.kensetsu-plaza.com/bookpdf/136/fa_03.pdf · 2010. 10. 12. · クノシステムのASPサービス「basepage」の存

クノシステムのASPサービス「basepage」の存

在を知り,このシステムを応用すれば,災害時の

情報伝達手段として有効に機能すると判断したこ

とから,共同で開発に取り掛かることになりまし

た。

平成20年6月20日に沼田支部で行われた防災訓

練の際,試行的に本システムを活用することにな

りました。各支部からも訓練に担当者が参加し,

さらに国土交通省や群馬県県土整備部の幹部職員

をはじめ,地元の市町村職員や,警察・消防関係

の方々にも参加していただき,実際に災害が起き

たことを想定して現場の写真を送信し,それをイ

ンターネット上で瞬時に把握する訓練を実施。参

加した関係機関の方々から,同システムの有効活

用に期待しているとの言葉をいただきました。

当日の訓練の様子とシステムの構築に関して

は,一般報道機関からも大きな関心が寄せられ,

多数の紙面で取り上げられたほか,地元のテレビ

放送局のニュース番組でも特集が組まれ,当会役

員が生出演しシステムの概要と建設業協会の役割

を説明しました。

その後,全県下でシステムを活用するにあた

り,その趣旨を周知するため,各支部を回っての

説明会を実施しました。このシステムは一部の企

業だけで運用してもその目的を達成することはで

きず,災害時の応急復旧作業に従事する会員企業

全社が取り組んでこそ,行政機関との協定に基づ

いた連携で効果を発揮するものであることを伝

え,導入への理解を求めました。

また,システム運用で必要となる携帯電話につ

表―1 災害発生時に伝達すべき事項

事項 内容 把握手段

いつ災害発生日時災害状況把握日時 対処日時

文字

どこで災害発生場所災害状況把握場所 対処場所

地図:紙地図,GIS,電子地図文字:住所

なにが災害をうけた構造物名災害をうけた構造物の情報

文字図面:既存図面 計算書

どのような対処かどのような状況か

現在の状況対処,復興の状況

写真 図面 文字

表―2 情報を確実に伝達,把握,指示を行うために求められるもの

�情報伝達,収集にあたり時間的,空間的な制約が少ない手段で情報が入手可能であること�最新の災害情報および災害に対する対処状況の情報を把握できること�災害情報,災害に対する対処状況の時刻による変化を把握できること�災害時の情報伝達網の崩壊に対して複数の情報伝達手段を有すること�大量に発生する情報に対して情報の信頼性を確保できること�広域,同時多発する災害に対して情報分類して情報収集し,発信できること�視覚的に把握しやすいこと

図―1 災害情報共有システム・イメージ図

特集 防災対策~地域に貢献する建設業~

18 建設マネジメント技術 2009年 9月号

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いては,GPS機能を有する携帯電話の会員企業に

おける所有率が低かったため,対応を協議した結

果,NTTドコモ群馬支店と連携することにな

り,GPS機能付携帯電話を各社に配備。操作方法

についての講習会を各支部で順次開催して,全県

下で活用できる体制を整えました。

3. 行政機関との連携

このシステムは,業界団体だけで運用すること

が目的ではなく,行政機関と情報の共有をしてこ

そ活きるものであります。

平成20年6月の沼田支部における災害訓練の

後,国土交通省関東地方整備局,群馬県県土整備

部との意見交換会を開催した際にもシステムを紹

介し,関東地方整備局長から,地域防災に対する

協会の取り組みに対して高い評価をいただくこと

ができました。

また,建設業協会の各支部は,群馬県の各土木

事務所と災害時の応急対策業務に関する細目協定

を締結し,日頃から細やかな体制を整えておりま

すが,本システムの活用について群馬県に要望し

たところ,その有用性が認められ,平成21年度の

協定締結更新時から,“目的を迅速かつ正確に達

成するため,乙(建設業協会)が所有する「GPS携

帯による災害情報共有システム」を有効に活用す

るものとする”と協定書に追加で明記され,本格

的に共同活用することになりました。

現在では,他県の建設業協会からもこの取り組

みに対する問い合わせが増えており,全国的な普

及についても,今後期待する声が高まると予想さ

れます。

4. 道路クリーン作戦におけるシステムの活用

群馬県建設業協会は,毎年5月30日(ゴミゼロ

の日)に県下一斉で道路清掃作業を行っておりま

すが,今年度(5月29日)は,本システムを清掃作

業に応用し,初めての大々的な実証運用を行いま

した。

作業を行う各企業の担当者がGPS携帯を持ち,

出発時,作業風景および回収したゴミをそれぞれ

撮影し,システムに送信。その様子を行政機関の

方々と共にモニターし,双方でシステムの有用性

を確認しました。また,現場の作業員も,撮影~

送信の手順を路上で実体験する大変良い機会とな

りました。

写真―1 沼田支部における訓練の様子 写真―2 携帯電話操作講習会(前橋)

図―2

防災対策~地域に貢献する建設業~ 特集

建設マネジメント技術 2009年 9月号 19

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5. 大雨警報に基づくパトロールと復旧作業の実施

平成21年8月9日に県内各地で大雨に伴う警報

が発令され,その後も台風9号が接近し災害が発

生する危険性が高まったことから,8月10日,災

害が予想される地域へのパトロール実施と,その

状況をシステムへ送信する旨を会員各社に通達し

ました。

群馬県の各土木事務所からの指示と併せ,パト

ロールや被災状況の確認を行った結果,数カ所で

倒木や土砂流出等の現場を発見。復旧前と復旧後

の写真をそれぞれシステムに送信し,情報の共有

を実際に行いました。

6. おわりに

近年は「ゲリラ豪雨」と呼ばれる,短期に想像

を超える雨量を観測する事態も全国各地で起きて

おり,群馬県も例外ではありません。突発的な災

害に対し,行政機関と速やかに情報を共有して,

一刻も早い復旧を目指すためにも,日頃からシス

テム操作の訓練を実施することが必要でありま

す。

また,大雨や地震による災害だけに限らず,道

路の陥没やガードレールの破損個所等を発見した

場合にも活用し,ライフラインを常に安全に保つ

ためのシステムに発展させたいと考えています。

こうした活動を続けることによって,地域に貢

献する産業として建設業の役割がさらに明確にな

り,一般県民の方々にもその必要性を広く実感し

てもらえるようになれば,災害大国である日本を

陰日向から支える建設業の「誇り」を取り戻せる

日が来るかもしれません。

図―3 位置情報と情報種類(破損・ゴミ・その他)の地図上のプロット画面

写真―3 クリーン作戦作業風景

図―4

特集 防災対策~地域に貢献する建設業~

20 建設マネジメント技術 2009年 9月号