(最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消...

22
- 106 (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消費のサービス化~) 所得が伸び悩む中、家計消費(個人消費)は比較的底堅く推移してきている。これは、 見方を変えれば、所得がそれほど伸びなくても、家計消費は落ち込みにくくなっているとい うことであり、つまり、景気の下支えをすると言われている「ラチェット効果」が強まってきてい るためとも考えられる。本稿ではこうした問題意識から、消費の決定要因の変化を、過去 (1980 年代、1990 年代)と最近(2000 年代)を比べて考察してみることとする。 また、併せて、近年、百貨店やスーパーといった従来の小売業(流通業)の販売が不振 と言われているが、これは単純に「品物」が売れていないことだけを意味するとも思えない ので、その背景を探るべくいわゆる「消費のサービス化」やインターネットショッピングなどに みられる比較的新しい消費形態(販売側にとっては新チャネル)についても、最近の消費 の特徴として触れることとしたい。 (1) 家計消費と可処分所得の関係の年代別変化の考察 まず、大まかな傾向をつかむために、昭和55年1~3月期から平成16年1~3月期に おける実質家計消費と実質可処分所得の前年同期比伸び率を年代別にプロットし、傾 向線を引いてみると、どの年代の決定係数も低いため、断定することはできないが、ここ から推測出来ることは、1980 年代、1990 年代、そして 2000 年代と、最近になるほど、 1)傾向線の傾斜が緩やかになってきており、つまり、消費に対する所得の影響力が弱 まってきていることと、2)同時に決定係数や t 値も小さくなってきていることから、消費を 可処分所得だけで単純に説明するのは難しくなりつつある、ということである(第Ⅱ-1 -11図)。 また、各期間における消費と所得の伸び率の関係をみても、「消費の伸び率/所得の 伸び率」の単純平均、並びに、それらの相関関係をとると、最近年代になるほど、それぞ れの数値が低下してきており、消費と所得の関連性が薄れつつあることが考えられる (第Ⅱ-1-5表)。

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Page 1: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

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(最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消費のサービス化~)

所得が伸び悩む中、家計消費(個人消費)は比較的底堅く推移してきている。これは、

見方を変えれば、所得がそれほど伸びなくても、家計消費は落ち込みにくくなっているとい

うことであり、つまり、景気の下支えをすると言われている「ラチェット効果」が強まってきてい

るためとも考えられる。本稿ではこうした問題意識から、消費の決定要因の変化を、過去

(1980 年代、1990 年代)と最近(2000 年代)を比べて考察してみることとする。

また、併せて、近年、百貨店やスーパーといった従来の小売業(流通業)の販売が不振

と言われているが、これは単純に「品物」が売れていないことだけを意味するとも思えない

ので、その背景を探るべくいわゆる「消費のサービス化」やインターネットショッピングなどに

みられる比較的新しい消費形態(販売側にとっては新チャネル)についても、最近の消費

の特徴として触れることとしたい。

(1) 家計消費と可処分所得の関係の年代別変化の考察

まず、大まかな傾向をつかむために、昭和55年1~3月期から平成16年1~3月期に

おける実質家計消費と実質可処分所得の前年同期比伸び率を年代別にプロットし、傾

向線を引いてみると、どの年代の決定係数も低いため、断定することはできないが、ここ

から推測出来ることは、1980 年代、1990 年代、そして 2000 年代と、最近になるほど、

1)傾向線の傾斜が緩やかになってきており、つまり、消費に対する所得の影響力が弱

まってきていることと、2)同時に決定係数や t 値も小さくなってきていることから、消費を

可処分所得だけで単純に説明するのは難しくなりつつある、ということである(第Ⅱ-1

-11図)。

また、各期間における消費と所得の伸び率の関係をみても、「消費の伸び率/所得の

伸び率」の単純平均、並びに、それらの相関関係をとると、最近年代になるほど、それぞ

れの数値が低下してきており、消費と所得の関連性が薄れつつあることが考えられる

(第Ⅱ-1-5表)。

Page 2: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

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第Ⅱ-1-11図 実質家計消費(除く、帰属家賃)と実質可処分所得の伸び率の関係

(前年同期比)

y = 0.3932x + 2.3754 (2.94) (5.24)

R2 = 0.2025 y = 0.317x + 1.3716 (2.64) (3.96)

R2 = 0.155

y = 0.0704x + 1.1626   (0.66) (6.10)

R2 = 0.0282

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

▲ 4 ▲ 2 0 2 4 6 8

実質可処分所得・前年同期比(%)

実質家計消費・前年同期比

(%

昭和55~平成元年(1980年代)

2~11年(1990年代)

12~15年(2000年代)

昭和55年~平成元年(1980年代)

12~15年(2000年代)

2~11年(1990年代)

(注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

2.回帰式における括弧内の数値は、t 値を表している。

3.「12~15年(2000 年代)」には、16年1~3月期のデータまで含めている。

資料:「国民経済計算」(内閣府)

第Ⅱ-1-5表 各期間における実質家計消費(除く、帰属家賃)と実質可処分所得の

伸び率の関係(前年同期比)

「消費の伸び率/所得の伸び率」の期間平均

消費の伸び率と所得の伸び率の相関関係

昭和55~平成元年(1980年代) 1.6 0.450

2~11年(1990年代) ▲ 0.3 0.394

12~15年(2000年代) ▲ 0.5 0.168

(注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

2.「12~15年(2000 年代)」には、16年1~3月期のデータまで含めている。

資料:「国民経済計算」(内閣府)

1)傾斜が緩やかになり、かつ、2)消費の伸びと可

処分所得の伸びの関係が薄まっている。

Page 3: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

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(2)説明変数として所得以外に金融資産を加えた消費関数の推計の考察

次に、説明変数として所得以外に金融資産注)を加えて、消費関数を推計してみる。

所得を説明変数として利用する際、「国民経済計算」(内閣府)では、現段階では

データの制約上、可処分所得のデータは16年1~3月期までしか得られず、直近の動

向を把握することが出来ないことから、便宜上、可処分所得データの代わりに、雇用者

報酬を用いることとした。なお、実質値については、昭和55年1~3月期~平成5年10

~12月期は固定基準年方式(1995 暦年基準)、6年(1994 年)1~3月期以降は連鎖方

式が正式系列として内閣府より公表されていることから、こちらを採用した。

また、金融資産データとしては、データの制約上から、昭和55年1~3月期から平成

9年7~9月期までは、63SNA ベースによる「資金循環統計」(日本銀行)の「個人」の金

融資産合計額(ストック、以下同様)を、9年10~12月期以降は、93SNA ベースによる

同統計の「家計」の金融資産合計額を用いた。なお、両系列の接続にあたっては、9年

10~12月期(93SNA ベース)の金融資産合計額を同じく9年10~12月期(63SNA

ベース)で除したものを接続指数として採用している。

こうして得られた雇用者報酬と金融資産(前期末)データを用いて消費関数を推定し

てみると、すべての変数が上方トレンドを持っていることもあるが、自由度修正済決定係

数(以下、決定係数)が 0.955 と比較的高いものが得られた(第Ⅱ-1-12図)。

注)消費関数における金融資産は、ライフサイクル仮説における「生涯所得」や、恒常所得仮説におけ

る「恒常所得」の代理変数とも考えられる。つまり、ライフサイクル仮説によれば、「個人の消費行動

は今期の所得によって決められるというよりも、その個人が一生の間に消費することの出来る所得の

総額(『生涯所得』)の大きさによって決められる」とし、恒常所得仮説では、「人々の消費決定が変

動所得部分を含む現在の所得に依存してなされるのではなく、むしろ、将来の自己の所得稼得能

力をも考慮した『恒常所得』の水準に支配される」というものであるが、データの制約上、「金融資

産」を「生涯所得」や「恒常所得」の代理変数と考えることも出来ると思われる。

Page 4: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 109 -

第Ⅱ-1-12図 実質家計消費(除く、帰属家賃)とその推定結果の推移(季節調整済)

40

45

50

55

60

65

Ⅰ└

Ⅱ60

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ61

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ62

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ63

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ元

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ2

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ3

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ4

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ5

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ6

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ7

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ8

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ9

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ10

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ11

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

(兆円)

実質家計消費(除く、帰属家賃)

推定結果(雇用者報酬の関係、金融資産(前期末))

消費税導入消費税率UP

駆け込み

(注)1.実質家計消費とその推定結果は X-12-ARIMA の X-11 デフォルトにより独自に季節調整して

いる。

2.網掛けは景気後退期を示す(以下の図もすべて同様)。

3.金融資産は、消費者物価指数(除く、帰属家賃)にて実質化している。

4.推定に用いた関数は以下による(計測期間:昭和55年1~3月期より平成16年10~12月期)。

また、単位はすべて 10 億円に統一している。

推定結果注)

C = 0.213 Y + 0.017 F(-1) + 20627.71

(8.863) (18.918) (23.581)

AdjR2 = 0.955 D.W.=1.941 ( )内は t 値。

C:実質家計消費支出 Y:実質雇用者報酬 F:実質金融資産

AdjR2:自由度修正済決定係数 D.W.:ダービン・ワトソン値

資料:「国民経済計算」(内閣府)、「資金循環統計」(日本銀行)、「消費者物価指数」(総務省)

注)参考までに、対数線形を用いて、消費の所得弾力性、消費の金融資産弾力性を同期間で推計し

てみると、下記のとおり。

わずかであるが所得弾力性(0.248)よりも、金融資産弾力性(0.319)の方が大きいことが分かる。

log C = 0.248 log Y + 0.319 log F(-1) + 3.695

(9.665) (21.063) (23.147)

AdjR2 = 0.966 D.W.=2.208 ( )内は t 値。

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- 110 -

この推定結果を受け、その要因分解を行った。実質家計消費(実額)と推計結果を比

較すると、乖離もところどころあるが、直近の16年1~3月期以降をみると、推定結果の

要因分解からは、同期間の家計消費の増加の要因は、雇用者報酬に比べて金融資産

によるところの方が大きいように見受けられる。言い換えれば、前期末の金融資産増に

よる今期の家計消費への影響度は、今期の所得増によるそれへの影響度より大きくなっ

ているということであり、つまり、今期の消費は今期の所得の増減だけに左右されにくく

なっているということでもある(第Ⅱ-1-13図)。

第Ⅱ-1-13図 実質家計消費(除く、帰属家賃)の要因分解(前年同期比)

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

(%)

Ⅰ└

Ⅱ60

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ61

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ62

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ63

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ元

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ2

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ3

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ4

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ5

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ6

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ7

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ8

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ9

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ10

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ11

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

推定実質金融資産要因

推定実質雇用者報酬要因

推定実質家計消費(除く、帰属家賃)

(参考)実質家計消費(実額)

資料:「国民経済計算」(内閣府)

9年10~12月期以降の家計の金融資産の推移をみてみると、家計の金融資産全体

のうち約半分を占める現金・預金と同約 3 割を占める保険・年金準備金はわずかではあ

るが上昇傾向、同約 1 割を占める株式・出資金は、株価に影響されるため一進一退し

ており、その影響によって、家計の金融資産全体が変動している。また、12年12月末

(1990 年末)の家計の金融資産と直近の16年9月末のそれの内訳を比べてみると、現

金・預金の割合が上昇し、株式・出資金の割合が減少していることが分かり、現在、家計

は金融資産を現金・預金の形で保有する傾向も見受けられる(第Ⅱ-1-14図、第Ⅱ

-1-15図)。

直近だけで言えば、相対的に金

融資産要因によるところが大きい

ように見受けられる。

Page 6: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 111 -

第Ⅱ-1-14図 家計の金融資産ストックの推移(名目値)

1200

1250

1300

1350

1400

1450

1500

Ⅳ9年┘

Ⅰ└

Ⅱ10

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ11

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

(兆円)

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

(兆円)

家計金融資産合計 現金・預金(右目盛) 株式・出資金(右目盛) 保険・年金準備金(右目盛) その他(右目盛)

(注)「その他」には株式以外の証券、金融派生商品、預け金、未収・未払金、対外証券投資、その

他が含まれる。

資料:「資金循環統計」(日本銀行)

第Ⅱ-1-15図 家計の金融資産ストック残高の割合 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

12年12月末(1990年末)

16年9月末

現金・預金 株式・出資金 保険・年金準備金 その他

53.1%

55.0%

9.2%

8.0%

27.7%

28.1%

10.0%

8.9%

資料:「資金循環統計」(日本銀行)

家計における金融資産を要因分解してみると、15年7~9月期以降、前年同期比で

増加してきているものの、その上昇幅は縮小しつつあり、また家計の金融資産は、主とし

て株式・出資金の増減に影響を受けていることが分かる(第Ⅱ-1-16図)。

現金・預金は

緩やかながら

増加傾向。

現金・預金の

割合拡大

金融資産は、

専 ら 株 式 ・ 出

資金の変動に

左右される。

Page 7: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

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0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

昭和55

56 57 58 59 60 61 62 63 平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15年

(10億円)

0

2

4

6

8

10

12

(%)

配当金計(当期末)

配当率(当期末)(右目盛)

第Ⅱ-1-16図 家計における金融資産ストックの要因分解(前年同期比、名目値)

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

10

(%)

Ⅳ10年┘

Ⅰ└

Ⅱ11

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

その他

保険・年金準備金

株式・出資金

現金・預金

家計金融資産合計

資料:「資金循環統計」(日本銀行)

金融資産の変動に大きく影響を与える株式について着目してみると、東証株価指数

(TOPIX)は、15年7~9月期以降から上昇傾向を示しており、また配当金と配当率は、

両者とも14年、15年と増加していることから、こうしたことが最近の金融資産が消費に与

える影響が相対的に強まってきている一因とも考えられる(第Ⅱ-1-17図)。

第Ⅱ-1-17図 東証株価指数と配当金・配当率の推移

① 東証株価指数の推移 ② 配当金・配当率(全産業・全規模)

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

1600

1800

Ⅳ10年┘

Ⅰ└

Ⅱ11

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

東証株価指数(TOPIX)

資料:「東証株価指数(TOPIX)」、「法人企業統計調査」(財務省)

(3)消費の所得弾力性・金融資産弾力性の比較とその考察

次に、各年代の消費と所得(雇用者報酬)並びに消費と金融資産の関係を比較する

ことにより最近の消費の特徴を考察する。

年代を、1980 年代(昭和55~平成元年)、1990 年代(2~11年)、2000 年代(12~

16年)に分けて、消費の所得弾力性と金融資産弾力性について考察してみると、2000

年代(12~16年)は、決定係数や t 値といった統計量が悪いため幅を持ってみる必要

があるが、所得弾力性、金融資産弾力性のいずれも、他の年代に比べ、1)傾きが緩や

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- 113 -

かになり、2)決定係数や t 値が低いことが特徴として挙げられる。このことは、所得や金

融資産が増えても、過去に比べて、消費に与える影響が少なくなってきているということ

であり、言い方を変えれば、所得や金融資産が減少しても、過去に比べて、消費に与え

る影響は少ない、ということである(第Ⅱ-1-18図)。

第Ⅱ-1-18図 各年代の消費の所得弾力性と金融資産弾力性(前年同期比)

①消費の所得弾力性

y = 0.5487x + 1.5561 (2.56) (1.95)

R2 = 0.1619

y = 0.5923x + 0.3576 (4.59) (0.96)

R2 = 0.3565

y = 0.0586x + 0.484 (0.37) (2.30)

R2 = 0.008

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

10

▲ 3 ▲ 2 ▲ 1 0 1 2 3 4 5 6 7

実質雇用者報酬・前年同期比(%)

実質家計消費・前年同期比

(%

昭和55年~平成元年(1980年代)

平成2~11年(1990年代)

平成12~16年(2000年代)

12年~16年(2000年代)

昭和55~平成元年(1980年代)

2~11年(1990年代)

②消費の金融資産弾力性

y = 0.2701x + 1.0944 (2.22) (0.98)

R2 = 0.1264

y = 0.4222x + 0.1947 (3.56) (0.41)

R2 = 0.2498

y = 0.0741x + 0.4428 (1.18) (1.97)

R2 = 0.072

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

10

▲ 4 ▲ 2 0 2 4 6 8 10 12 14

実質金融資産・前年同期比(%)

実質家計消費・前年同期比

(%

昭和55~平成元年(1980年代)

平成2~11年(1990年代)

平成12~16年(2000年代)

12年~16年(2000年代)

昭和55~平成元年(1980年代)

2~11年(1990年代)

(注)1.回帰式における括弧内の数値は、t 値を表している。

2.①図の12~16年(2000 年代)のうち、16年1~3月期の数値については、消費と雇用者報酬

の関係が明らかに不自然と思われるものであったため、プロットから外し傾向線を引いている。

資料:「国民経済計算」(内閣府)、「資金循環統計」(日本銀行)

Page 9: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 114 -

(4)ラチェット効果の年代別変化の考察

景気が拡大し収入の伸びが加速しても、消費者は、収入の伸びほどには支出を拡大

せず、逆に景気が悪化したときには支出は収入ほどには落ち込まず、景気を下支えす

るという、こうした消費行動は景気変動に歯止めをかける効果があるため「ラチェット(=

歯止め)効果」注)と呼ばれている。

「家計調査」(総務省)を利用して、年代別に 1970 年(昭和45年)以降の可処分所得

と平均消費性向のデータをプロットし各年代の傾向線をみてみると、今回も決定係数が

低いため幅を持ってみる必要があるものの、12~16年(2000 年代)は、他のどの年代

に比べても、可処分所得に対する弾力性が高い。つまり、ラチェット効果が、過去に比

べて高まっているものと考えられる(第Ⅱ-1-19図)。

第Ⅱ-1-19図 実質可処分所得と平均消費性向の関係

y = -0.2295x + 0.3696 (-3.95) (1.48)

R2 = 0.3141

y = -0.354x + 0.2951   (-4.74)  (1.71)

R2 = 0.3712

y = -0.2662x - 0.3167 (-2.38)  (-1.51)

R2 = 0.1296

y = -0.5965x + 0.2386   (-3.42) (0.57)

R2 = 0.3934

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

▲ 10 ▲ 8 ▲ 6 ▲ 4 ▲ 2 0 2 4 6 8 10 12実質可処分所得・前年同期比(%)

平均消費性向・前年同期差

(%

昭和46~54年(1970年代)

昭和55~平成元年(1980年代)

2~11年(1990年代)

12~16年(2000年代)

12~16年(2000年代)

2~11年(1990年代)

昭和45~54年(1970年代)

昭和55~平成元年(1980年代)

(注)1.可処分所得は、消費者物価指数(除く、帰属家賃)にて実質化している。

2.月別データを四半期データにまとめてプロットを行った。

3.回帰式における括弧内の数値は、t 値を表している。

資料:「家計調査」(総務省)

注)ラチェット効果が働く要因としては、消費者が景気の変動を一時的な現象とみなし従来の行動パ

ターンをあまり変えないため、あるいは、従来の生活習慣を変更することは容易ではなく消費行動

はあまり変わらないため、と考えられている。

Page 10: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 115 -

(5)消費のサービス化の進展の考察

「国民経済計算」(内閣府)から、家計における形態別最終消費支出(財・サービス支

出注))の割合の推移をみてみると、耐久財がほぼ一定、半耐久財、非耐久財が減少傾

向にある一方、サービス支出の割合が増加傾向にあり、データの制約上、直近の15、

16年度の割合は分からないものの、過去のトレンドから考えて、現在もこの傾向が続い

ていると推測される(第Ⅱ-1-20図)。

第Ⅱ-1-20図 家計の形態別最終消費支出の構成割合(名目値)

0%

20%

40%

60%

80%

100%

昭和55

56 57 58 59 60 61 62 63 平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14年度耐久財 半耐久財 非耐久財 サービス

44%

36%

13%

6%

57%

26%

9%

8%

資料:「国民経済計算」(内閣府)

注)財・サービス支出の基本的な考え方は下記のとおり。

区分 基本的な考え方 例

耐久財家計が取得購入する財(商品)のうち、予想耐久年数が1年以上、かつ、比較的高額なもの。

家庭用耐久財(例:冷蔵庫、エアコン、たんす)、ベッド、自動車、自転車、通信機器(例:携帯、PHS)、教養娯楽用耐久財(除く、修理代)(例:テレビ、パソコン) など

半耐久財家計が取得購入する財(商品)のうち、予想耐久年数が1年以上だが、耐久財ほど高額ではないもの。

布団、家事雑貨(例:茶碗、なべ・やかん等)、被服及び履物(除く、被服関連サービス)、自動車等部品、運動用具類、テレビゲーム(含む、ソフト) など

非耐久財家計が取得購入する財(商品)のうち、予想耐久年数が1年未満のもの。

食料(除く、外食)、光熱費(例:電気、ガス、上下水道)、家事用消耗品(例:ポリ袋・ラップ、ティッシュペーパー)、医薬品、ガソリン、教科書・学習参考書、新聞 など

サービス 上記以外。

外食、家賃地代、工事その他サービス(例:外壁・塀等工事費、火災保険料)、家事サービス、被服関連サービス(例:仕立代、洗濯代)、保健医療サービス(例:医科診療代等)、交通(例:鉄道運賃、タクシー代)、自動車整備費、通信(例:郵便料、固定・移動電話通信料、運送料)、授業料、教養娯楽用品修理代、教養娯楽サービス(例:宿泊料、パック旅行費、月謝類、放送受信料、入場・観覧・ゲーム代、映画・演劇等入場料、スポーツ観覧料、インターネット接続料)、入浴料、理髪料、冠婚葬祭費、損害保険料 など

サービス支出

の割合が拡大

している。

Page 11: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 116 -

参考として、個人消費支出総額が日本の約 3 倍注)の米国の個人消費の状況をみて

みると、日本と同様に、消費のサービス化が進んでいることが分かる。このことから、市場

が成熟化すれば消費のサービス化は必然的に進むものと考えられることから、我が国も

同様の推移をたどることが考えられる(第Ⅱ-1-21図)。

第Ⅱ-1-21図 米国の個人消費の推移

① 米国の形態別個人消費支出の推移

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004年

(10億ドル)

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

9000(10億ドル)

個人消費合計(右目盛)

耐久財

非耐久財

サービス

② 米国の形態別個人消費支出割合の推移

12% 12% 12% 12%

40%

28% 28% 29%

48%

59% 59% 59%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004年

耐久財 非耐久財 サービス

資料:米国商務省 National Income and Products Accounts(NIPA)

注)ここでは、日本の個人消費として、平成 15 年(2003 年)の名目家計最終消費支出(含む、帰属家

賃 ) の 約 276 兆 円 と 、 同 じ く 2003 年 に お け る 米 国 の 個 人 消 費 ( Personal consumption

expenditures)7.76 兆ドルを為替レート 1USD=110 円で換算し、比較した(米国 854 兆円÷日本

276 兆円≒3.1)。

米国も日 本と同様

にサービス 化が進

んでいる。

Page 12: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 117 -

次に我が国の家計消費支出を要因分解し、9年度以降をみてみると、耐久消費財は

12年度を除き減少する一方、サービス支出は一貫して上昇傾向を示している。つまり、

特に至近年になるほど、家計消費はサービス支出によって下支えされていると考えられ

る(第Ⅱ-1-22図)。

第Ⅱ-1-22図 家計最終消費支出の形態別要因分解(前年比、名目値)

▲ 2

▲ 1

0

1

2

3

4

5

6

7

8(%)

昭和56

57 58 59 60 61 62 63 平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14年度

サービス

非耐久財

半耐久財

耐久財

国内家計最終消費支出

資料:「国民経済計算」(内閣府)

ここで可処分所得と財・サービス支出の関係をプロットし傾向線を引いてみると、決定

係数が低いので断定は出来ないものの、可処分所得に対するサービス支出弾力性

(0.62)は、非耐久財のそれ(0.55)よりは高いものの、半耐久財のそれ(0.93)より低く、ま

た耐久財のそれ(1.28)と比べると約半分という結果になった。

つまり、家計消費支出の約 6 割(14年)という大きなプレゼンスを有するサービス支出

は、可処分所得が増えても、同じ比率で増やされることはないが、逆に、可処分所得が

減っても、同じ比率で減らされることはないということであり、その結果、所得が伸び悩ん

でいても、家計消費支出の大幅な減少につながらないものと考えられる(第Ⅱ-1-23

図)。

サービス消費は

堅調。

Page 13: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 118 -

第Ⅱ-1-23図 可処分所得の財・サービス支出弾力性(前年同期比、名目値)

y = 1.2783x + 0.9285 (5.60) (0.90)

R2 = 0.2652

y = 0.9251x - 0.9036 (8.32) (1.80)

R2 = 0.4431

y = 0.5503x + 0.4462 (8.77) (1.57)

R2 = 0.469

y = 0.6208x + 2.7796 (10.27) (10.16)

R2 = 0.5481

▲ 20

▲ 15

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20

25

30

▲ 6 ▲ 4 ▲ 2 0 2 4 6 8 10 12可処分所得・前年同期比(%)

財・サー

ビス支出・前年同期比

(%

耐久財

半耐久財

非耐久財

サービス

サービス

耐久財

半耐久財

非耐久財

(注)1.期間は昭和55年1~3月期から平成15年1~3月期までとし、四半期ごとにプロットした。

2.回帰式における括弧内の数値は、t 値を表している。

資料:「国民経済計算」(内閣府)

サービス支出の中身について、家計調査(総務省)を用いて各項目の伸びをみてみ

ると、最近では、「通信」「保健医療」に関するサービス支出の伸びが著しいことが分かる

とともに、昭和60年より下回っているものは「被服及び履物」に関するサービス支出だけ

であり、その他の項目はすべて昭和60年を上回っている(第Ⅱ-1-24図)。

第Ⅱ-1-24図 サービス支出の項目別推移(全世帯、名目値、昭和60年=100)

60

80

100

120

140

160

180

200

昭和60

61 62 63 平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16年

食料 住居 家具・家事用品 被服及び履物 保健医療

交通 通信 教 育 教養娯楽 諸雑費

通信

保健医療

教養娯楽

住居

諸雑費

被服及び履物

(注)1.各項目に含まれているサービス支出の推移を示したものである(例えば、ここでの「食料」とは、

同項目でサービス支出として計上される「外食」を意味している)。

2.本来なら、サービス支出の各項目を実質化するべきであるが、デフレータの制約上、名目値と

している。

資料:「家計調査」(総務省)

Page 14: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 119 -

しかしながら、60年を100とした単純な伸びをみただけでは、過去の水準が低けれ

ば、当該項目の支出額自体は小さくても、それだけ最近の水準が大きく出やすくなる

ことから、サービス支出の要因分析を行うことで、サービス支出に対する影響度の大き

さを比べてみる。昭和60年~平成11年(1980 年代、1990 年代)では、サービス支出

のみの「住居」「教養娯楽」などがサービス支出全体の伸びに大きく貢献していたが、

12年~16年においては同「通信」「諸雑費」などがサービス支出全体の伸びに貢献

している(第Ⅱ-1-25図、第Ⅱ-1-6表)。

第Ⅱ-1-25図 サービス支出の要因分解(全世帯、名目値、前年同期比)

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

(%)

昭和61

62 63 平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16年

食料 住居 家具・家事用品 被服及び履物 保健医療 交通

通信 教 育 教養娯楽 諸雑費 サービス支出合計

(注)各項目は、すべて各項目における「サービス支出」を表していることに留意されたい。

資料:「家計調査」(総務省)

第Ⅱ-1-6表 サービス支出の伸び率に対する各項目の寄与度(期間平均)

順位 昭和60~平成11年伸び率寄与度(%ポイント) 12~16年

伸び率寄与度(%ポイント)

1 住居 0.6 通信 0.52 教養娯楽 0.5 諸雑費 0.23 交通 0.3 保健医療 0.14 教 育 0.3 教 育 0.05 諸雑費 0.2 交通 0.06 食料 0.2 家具・家事用品 ▲ 0.07 通信 0.2 被服及び履物 ▲ 0.18 保健医療 0.2 教養娯楽 ▲ 0.19 家具・家事用品 0.0 食料 ▲ 0.210 被服及び履物 ▲ 0.0 住居 ▲ 0.5

資料:「家計調査」(総務省)

ここで、前掲第Ⅱ-1-6表において、昭和60~平成11年(1980、1990 年代)の寄

与度上位 2 位の「住居」「教養娯楽」、12~16年(2000 年代)の同「通信」「諸雑費」に

Page 15: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 120 -

ついて、その内訳をみてみる。

「住居」は、専ら家賃地代(民営家賃など)に左右され、この家賃地代は9年まで増加

傾向であったが、10年以降は減少傾向を示している。これは持家率の上昇に伴い、民

営家賃などの家賃地代が減少したためと思われる。「教養娯楽」については、前掲第Ⅱ

-1-25図では、16年こそサービス支出全体の伸びに大きく寄与しているが、その約 4

割(16年)を占める旅行が12年以降減少傾向であることが教養娯楽全体の伸び悩みに

つながっていると思われる。しかしながら、その一方で、入場・観覧・ゲーム代(スポーツ

施設使用料、映画・演劇等入場料など)や放送受信料(ケーブルテレビなど)、インター

ネット接続料は金額自体、それほど大きくはないが、徐々に増加しつつある。

「通信」についてみてみると、最近は移動電話通信料によって「通信」全体の金額が

増加している。データの制約から、移動電話通信料の項目は、11年からの計上となって

いるが、固定電話通信料をみてみると、それまでほぼ一定だったのが、7年より増加しつ

つあること、また携帯電話の普及時期と重なることから、「通信」は7年から一貫して移動

電話通信料によって増加してきていることが考えられる。また「諸雑費」については、専ら

損害保険料によって増加している(第Ⅱ-1-26図)。

第Ⅱ-1-26図 サービス支出の内訳(名目値) ① 住居

0

50000

100000

150000

200000

250000

300000

昭和60

61 62 63 平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16年

(円)

60

62

64

66

68

70

72

74

76

78

80(%)

住居合計

家賃地代

工事その他のサービス

(参考)持家率(右目盛)

家賃地代

(参考)持家率

Page 16: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 121 -

② 教養娯楽

0

20000

40000

60000

80000

100000

120000

昭和60

61 62 63 平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16年

(円)

0

50000

100000

150000

200000

250000(円)

教養娯楽サービス合計(右目盛) 旅行 月謝類

放送受信料 入場・観覧・ゲーム代 諸会費

教養娯楽賃借料 インターネット接続料 その他

旅行

入場・観覧・ゲーム料

放送受信料

インターネット接続料

③ 通信

0

20000

40000

60000

80000

100000

120000

140000

昭和60

61 62 63 平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16年

(円)

通信合計

郵便料

固定電話通信料

移動電話通信料

運送料

移動電話通信料

④ 諸雑費

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

70000

昭和60

61 62 63 平成元

2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16年

(円)

0

20000

40000

60000

80000

100000

120000

140000

160000

180000

(円)

諸雑費合計(右目盛)

入浴料

理髪料(パーマ、カット、セット含む)

他の理美容代

信仰・祭祀費

冠婚葬祭

損害保険料

その他

損害保険料

資料:「家計調査」(総務省)

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- 122 -

(6)インターネットショッピングを始めとした比較的新しい消費形態の顕在化

「品物」の購入先が、従来の百貨店・スーパーから、コンビニへ、そして最近はイン

ターネットショッピングによる購入が堅調と言われているなど、「便利」かつ「いつでも、ど

こでも」という消費の傾向がより顕在化しつつあるのではないかと推測される。こうした中

で、特に注目されるのは、通信販売やインターネットや携帯端末を使ったショッピングな

どの比較的新しい消費形態(販売側にとっては新チャネル)である。

データの制約上、直近16年度のデータは得られないが、消費者向け電子商取引注1)

の市場規模をみてみると、調査が開始された10年度と比べ15年度の市場規模は約 69

倍、同期間の年平均成長率 133%と、この市場は急激に成長しており、15年度時点に

おける小売業全販売額の約 3.4%注2)を占めるまでに至っている(第Ⅱ-1-27図)。

第Ⅱ-1-27図 消費者向け電子商取引の市場規模の推移

64.5

336

824

1484

2685

4424

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

3500

4000

4500

5000

平成10 11 12 13 14 15年度

(10億円)

0

1

2

3

4

(%)

消費者向け電子商取引の市場規模

小売業全体に占める消費者向け電子商取引額の割合(右目盛)

資料:「平成15年度電子商取引に関する実態・市場規模調査(情報経済アウトルック 2004)」

また、15年度の項目別構成比をみてみると、自動車と不動産の占める割合が全体の

約 3 分の 1 を占めてしまっていることから、それらを除いた各項目別売上高の推移をみ

てみると「各種サービス分野」(例:ゴルフ場、レストランなどの予約サービス、公営競技

のインターネット投票額)、「旅行」、「エンタテイメント」(例:「着メロ」といった携帯電話向

けコンテンツサービス)などが特に好調であることが分かる(第Ⅱ-1-28図、第Ⅱ-1

-29図)。

注1)ここでの電子商取引の定義は「商取引をインターネット技術を利用した電子的媒体を通して行うこ

と」である。

注2)15年度における小売業販売額は 128.9 兆円であることから、消費者向け電子商取引 4.4 兆円÷

128.9 兆円≒3.4%。

小売業全体の約

3.4%を占める。

Page 18: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 123 -

第Ⅱ-1-28図 消費者向け電子商取引の項目別構成比(15年度)

5%

11%

8%

3%

4%

5%

6%

13%

20%

6%

5%

14%

PC及び関連製品

旅行

エンタテイメント

書籍・音楽

衣料・アクセサリー

食品・飲料

趣味・雑貨・家具

自動車

不動産

その他物品

金融(銀行・証券・生損保等)

各種サービス

市場規模4兆4,240億円

資料:「平成15年度電子商取引に関する実態・市場規模調査(情報経済アウトルック 2004)」

第Ⅱ-1-29図 消費者向け電子商取引の項目別売上高の推移(除く、自動車・不動産)

0

100

200

300

400

500

600

700

平成10 11 12 13 14 15年度

(10億円)

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

(10億円)

市場規模(除く、自動車・不動産)(右目盛)

PC及び関連製品

旅行

エンタテイメント

書籍・音楽

衣料・アクセサリー

食品・飲料

趣味・雑貨・家具

その他物品(含む、ギフト商品)

金融(銀行・証券・生損保等)

各種サービス

各種サービス

旅行

エンタテイメント

書籍・音楽

衣料・アクセサリー

(注)「各種サービス」については、15年度に新たに公営競技のインターネット投票額が加わったことに

より前年に比べ急激に売上高が伸びている。

資料:「平成15年度電子商取引に関する実態・市場規模調査(情報経済アウトルック 2004)」

インターネットショッピング以外の比較的新しい消費形態の代表例としては通信販売

が挙げられる。通信販売額の市場規模は着実に増加しており、11年4~6月期以降の

個別の売上高の推移をみてみると、「雑貨」を中心に総じて増加基調であることが分かる

(第Ⅱ-1-30図、第Ⅱ-1-31図)。

Page 19: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

- 124 -

第Ⅱ-1-30図 通信販売売上高の推移(名目値)

1000

1200

1400

1600

1800

2000

2200

2400

2600

2800

3000

平成6 7 8 9 10 11 12 13 14 15年度

(10億円)

約2.8兆円

資料:「第 22 回通信販売企業実態調査報告書」((社)日本通信販売協会)

第Ⅱ-1-31図 通信販売売上高の推移(実質値、季節調整済)

0

20

40

60

80

100

120

140

160

Ⅱ11

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ12

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ13

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

(10億円)

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

(10億円)

総売上高(右目盛)

衣料品

家庭用品

雑貨

食料品

通信教育・サービス

その他

(注)1.通信販売の総売上高並びに各項目売上高は、X-12-ARIMA の X-11 デフォルトにより独自に

季節調整している。

2.通信販売の総売上高並びに各項目売上高は、消費者物価指数(除く、帰属家賃)にて実質化

している。

3.この売上高は、社団法人日本通信販売協会が、同協会の有力通販企業などを対象として集

計したものであり、すべての通信販売企業による売上高を合計したものではないことに留意され

たい。

4.ここでの「雑貨」とは、服飾雑貨・アクセサリー・靴・鞄、宝石・貴金属・時計・メガネ、カメラ・光学

機器、日曜大工・園芸用品、スポーツ・レジャー用品、自転車・バイク・乗り物関連、趣味用品

(囲碁・華茶・人形・手芸・工作用品)、娯楽用品(玩具・ゲーム用品)、CD・テープ、美術工芸

品・骨董品、美容・健康・医療器具、化粧品・医薬品、印鑑、書籍・教育機器・文房具・事務用

品を指す。

資料:(社)日本通信販売協会、「消費者物価指数」(総務省)

雑貨が特に好調。

Page 20: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

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商業統計調査から、小売業を販売形態別に要因分析を行ってみると、データの制約

から昭和63年調査以降となるが、過去の調査ですべてプラスとなったものは、「通信・カ

タログ販売」のみであり、前回の14年調査において、唯一プラスの寄与となったのも「通

信・カタログ販売」である。また、「通信・カタログ販売」の業態別注)販売額の要因分析を

行ってみると14年調査では特に専門店と中心店による割合が増加していることが分かる

(第Ⅱ-1-32図、第Ⅱ-1-33図)。

第Ⅱ-1-32図 小売業の販売形態別要因分解(実質値、前回比)

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15(%)

平成3 6 9 14年

その他

自動販売機による販売

通信・カタログ販売

訪問販売

店頭販売

小売計

(注)小売業の販売額並びに各販売形態別の販売額は、消費者物価指数(除く、帰属家賃)にて実質

化している。

資料:「商業統計調査」、「消費者物価指数」(総務省)

(注)下記は「商業統計調査」における業態分類表をもとに、「専門スーパー」「専門店」「中心店」「コンビ

ニ」の 4 業態を、縦軸に中心となる取扱商品の割合(%)、横軸に売場面積(㎡)をとり図示したもの。

ただし、厳密な定義については「商業統計調査」における業態分類表を参照されたい。

(%)

(90%以上、非セルフ) 専門スーパー

(30㎡以上、250㎡未満、セルフ)

0 (㎡)

専門店

コンビニ

(250㎡&70%以上、セルフ)

(50%以上、非セルフ)

中心店

30 250

70

90

50

「通信・カタログ販売」

は、+0.4%の寄与度。

Page 21: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

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第Ⅱ-1-33図 「通信・カタログ販売」の業態別要因分解(実質値、前回比)

▲ 10

0

10

20

30

40

50

(%)

平成3 6 9 14年

その他小売店

中心店

専門店

その他のスーパー

ドラッグストア

コンビニエンスストア

専門スーパー

総合スーパー

百貨店

通信・カタログ販売合計

(注)「通信・カタログ販売」の販売額、並びに各業態別の販売額は、消費者物価指数(除く、帰属家

賃)にて実質化している。

資料:「商業統計調査」、「消費者物価指数」(総務省)

家計消費状況調査(総務省)によれば、1 世帯当たりの消費支出総額は一進一退の

推移を示しているが、インターネットを利用した支出総額は14年4~6月期以降、ほぼ

一貫して増加基調であり、消費支出総額のうちインターネットを利用した支出総額が占

める割合は、14年1~3月期と16年10~12月期を比べると、決して大きくないものの、

0.28 から 0.59%と着実に増えている(第Ⅱ-1-34図)。

第Ⅱ-1-34図 インターネットを利用した支出総額の推移

(名目値、1 世帯当たり平均月額)

340000

345000

350000

355000

360000

365000

370000

375000

380000

Ⅰ└

Ⅱ14

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ15

Ⅲ年

Ⅳ┘

Ⅰ└

Ⅱ16

Ⅲ年

Ⅳ┘

(円)

0

500

1000

1500

2000

2500

(円)

消費支出総額

インターネットを利用した支出総額(右目盛)

(注)1.「インターネットを利用した支出総額」とは、インターネット上で商品・サービスの注文や予約を

した場合の支出総額のことを指す。

2.ここでは、世帯数として「全世帯(二人以上、農林漁家世帯含む)」を用いている。なお、全世

帯とは勤労者世帯と勤労者以外の世帯を指す。

資料:「家計消費状況調査」(総務省)

インターネットを利用した支出総額は、消費支出総額

にかかわりなく、ほぼ一貫して上昇している。

「中心店」「専門店」

の伸びが大きい。

Page 22: (最近の消費の特徴~所得と消費の関係の変化と消 …...12~15年(2000年代) 0.5 0.168 (注)1.可処分所得は、家計最終消費支出のデフレータを用いて実質化している。

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また、15年におけるインターネットショッピングを利用している割合を年代別にみると、

インターネットショッピングを利用した割合は、この 30 歳代が約 20%と最も大きい。つま

り 30 歳代の 5 人に 1 人はインターネットショッピングを利用したことがあることから、今後、

このようなインターネットショッピングに比較的抵抗を感じない同世代が年を経るに連れ、

利用者層の拡大が見込まれることから、インターネットショッピングの市場も一層拡大す

るものと思われる(第Ⅱ-1-35図)。 第Ⅱ-1-35図 年代別の集計世帯数とインターネットショッピングを利用した割合(15年)

16.2

22.1

17.2

12.2

6.2

2.5

0

5

10

15

20

25

~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70歳~

(%)

インターネットショッピングを利用した割合(総世帯)

(注)ここでは、世帯数として「総世帯(二人以上の世帯と単身世帯を合わせたもの)」を用いている。

資料:「家計消費状況調査」(総務省)

以上をまとめると、最近の消費の特徴としては、過去(1980 年代、1990 年代)に比べ、

所得の消費弾力性は小さくなり、所得が増えてもそれほど消費は増えないものの、逆に

所得が落ち込んだとしても、極端に消費が落ち込むことはないということが挙げられ、こう

した背景には、最近年代では「ラチェット効果」が大きくなったことが考えられる。

また、「消費のサービス化」はますます進展しており、最近の消費は、サービス消費に

よって下支えされている。また、サービス支出の中でも、携帯電話の普及に伴い、特に

「通信」の支出が大きくなってきている。

その他、最近、インターネットショッピングなどの新しい消費形態(販売側の新チャネ

ル)は、小売全体の売り上げに占める割合はまだ小さいものの、着実に顕在化しつつあ

り、その将来的なポテンシャルも大きいと考えられる。

30 歳代の約 2 割が利用。