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2005年5月 第26号 23 財政支援と援助効果向上-東アジアの経験から (Budget Support and Aid Effectiveness, Experience in East Asia) 開発業務部 部長 荒川 博人 開発業務部業務課 調査役 若林  仁 要 旨 Abstract 昨今の援助効果向上にむけてのドナー側、パートナー国側の努力、アフリカ支援の動き、特に、援 助の有効性をめぐる議論などを踏まえ、特にMDGsの達成に向けて、これまでの事例(タンザニア、 ガーナ、ベトナム等)を踏まえて、(一般)財政支援という援助モダリティが多大な関心を集めてお り、ドナー、パートナー国間での議論となっている。本稿は、我が国の東アジア(特にベトナム)で の援助協調や調和化の取組みを紹介し、こうした議論に、特に今後のアフリカ支援の観点から示唆を 導き出すことを目的としている。 (一般)財政支援を含む援助モダリティの議論は、特にアフリカでの援助環境を背景として、オ フ・バジェット/スタンドアローン/in-kind型の極めて分散した、かつ小規模のプロジェクト支援の あり方を改善することを主眼としている。一方、我が国の東アジアでの経験は、プロジェクト支援と プログラム支援を有機的に連携させることで、パートナー国のオーナーシップを醸成しつつ、単に援 助にとどまらず、他の直接投資や民間資金とも連携しつつ、援助効果を向上させてゆく取組みが特徴 である。特に、プロジェクト・レベルで蓄積された経験を踏まえ、いかに公共支出システム全体を改 善していくか、いかにプロジェクト・レベルのグッド・プラクティスを公共支出システム全体に反復 (replicate)していくか、というパートナー国のキャパシティ開発支援という側面が重要である。 援助効果向上に単一のモデルはなく、パートナー国の地域特性、援助依存度等の初期条件を踏まえ た上で、財政システムの改善を様々な援助モダリティの有機的活用を通じた相乗効果醸成のために実 施していくことが重要である。その際、開発援助が援助依存型経済から市場型経済への移行プロセス への支援であることを念頭に、成長(growth)の側面に留意する必要がある。 本稿は、2005年5月6-7日にケープタウン(南ア)で開催された世銀主催Practioner’ s Forum on Budget Support(財政支援 実務者会議)における事前配布資料として参加者に配布されたものの和文訳である。同会議には筆者(荒川)及び開発業務部業務 課高橋志行調査役(当時)が参加し、筆者(荒川)は本稿の内容につきプレゼンテーションを行った。同会議の結果は、以下の URLよりアクセス可能。 http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/PROJECTS/0,,contentMDK:20506393pagePK:41367piPK:51533theSitePK:40 941,00.html In light of efforts to enhance aid effectiveness by both donor and partner countries, and attempts to enhance aid to Africa particularly for the achievement of MDGs, taking into consideration the previous cases (such as in Tanzania, Ghana, and Vietnam), (general) budget support has attracted great attention as a new aid modality, and further efforts to enhance aid effectiveness have been the focus of talks between donor and partner countries. The purpose of this article is to introduce efforts by Japan in East Asia (especially in Vietnam) as examples of such attempts to elicit the practical and policy implications. The aim of discussions on aid modalities is geared towards improving the off-budget/stand- alone/in-kind type project assistance which have been provided to African countries. The experience

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2005年5月 第26号 23

財政支援と援助効果向上-東アジアの経験から*

(Budget Support and Aid Effectiveness, Experience in East Asia)

開発業務部 部長 荒川 博人開発業務部業務課 調査役 若林  仁

要 旨

Abstract

昨今の援助効果向上にむけてのドナー側、パートナー国側の努力、アフリカ支援の動き、特に、援

助の有効性をめぐる議論などを踏まえ、特にMDGsの達成に向けて、これまでの事例(タンザニア、

ガーナ、ベトナム等)を踏まえて、(一般)財政支援という援助モダリティが多大な関心を集めてお

り、ドナー、パートナー国間での議論となっている。本稿は、我が国の東アジア(特にベトナム)で

の援助協調や調和化の取組みを紹介し、こうした議論に、特に今後のアフリカ支援の観点から示唆を

導き出すことを目的としている。

(一般)財政支援を含む援助モダリティの議論は、特にアフリカでの援助環境を背景として、オ

フ・バジェット/スタンドアローン/in-kind型の極めて分散した、かつ小規模のプロジェクト支援の

あり方を改善することを主眼としている。一方、我が国の東アジアでの経験は、プロジェクト支援と

プログラム支援を有機的に連携させることで、パートナー国のオーナーシップを醸成しつつ、単に援

助にとどまらず、他の直接投資や民間資金とも連携しつつ、援助効果を向上させてゆく取組みが特徴

である。特に、プロジェクト・レベルで蓄積された経験を踏まえ、いかに公共支出システム全体を改

善していくか、いかにプロジェクト・レベルのグッド・プラクティスを公共支出システム全体に反復

(replicate)していくか、というパートナー国のキャパシティ開発支援という側面が重要である。

援助効果向上に単一のモデルはなく、パートナー国の地域特性、援助依存度等の初期条件を踏まえ

た上で、財政システムの改善を様々な援助モダリティの有機的活用を通じた相乗効果醸成のために実

施していくことが重要である。その際、開発援助が援助依存型経済から市場型経済への移行プロセス

への支援であることを念頭に、成長(growth)の側面に留意する必要がある。

* 本稿は、2005年5月6-7日にケープタウン(南ア)で開催された世銀主催Practioner’s Forum on Budget Support(財政支援

実務者会議)における事前配布資料として参加者に配布されたものの和文訳である。同会議には筆者(荒川)及び開発業務部業務

課高橋志行調査役(当時)が参加し、筆者(荒川)は本稿の内容につきプレゼンテーションを行った。同会議の結果は、以下の

URLよりアクセス可能。

http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/PROJECTS/0,,contentMDK:20506393̃pagePK:41367̃piPK:51533̃theSitePK:40

941,00.html

In light of efforts to enhance aid effectiveness by both donor and partner countries, and attempts to

enhance aid to Africa particularly for the achievement of MDGs, taking into consideration the previous

cases (such as in Tanzania, Ghana, and Vietnam), (general) budget support has attracted great

attention as a new aid modality, and further efforts to enhance aid effectiveness have been the focus of

talks between donor and partner countries. The purpose of this article is to introduce efforts by Japan

in East Asia (especially in Vietnam) as examples of such attempts to elicit the practical and policy

implications.

The aim of discussions on aid modalities is geared towards improving the off-budget/stand-

alone/in-kind type project assistance which have been provided to African countries. The experience

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24 開発金融研究所報

ローマ宣言(2003年2月)からパリ宣言

(2005年3月)にいたる援助効果向上にむけての

ドナー側、パートナー側の努力、アフリカ支援の

動き、特に、援助の有効性をめぐる議論などを踏

まえ、これまで、特にMDGsの達成に向けて、

(一般)財政支援という援助モダリティが多大な

関心を集めてきている。また、(一般)財政支援

については、これまでのケース(タンザニア、ガ

ーナ、ベトナム等)を踏まえて、更なる援助効果

向上へ向けての改善が、ドナー、パートナー間で

の議論となっている状況にある。

こうした援助効果向上に向けた取組みにおける

ドナー側の基本認識を象徴的に示したものとし

て、以下のステートメントを引用する(OECD

[2005a])。

‘… Today there are more than 60,000 aid

projects underway in the developing world,

often with different administrative procedures

set up by the donors. 85% of these projects

cost less than $1 million. This places a heavy

burden on poor countries that lack the

administrative capacity to handle these

demands, and does not help them build their

own systems. So when the project ends, the

results are often not sustained.

A conservative estimate for a typical

African country is that this way of delivering

aid translates into thousands of new reports

and more than a thousand new annual

missions to appraise, monitor and evaluate.

Each mission asks to meet with key officials,

and each will ask the government to comment

on its reports. Strong evidence supports that

these donor-driven approaches are one of the

reasons development assistance has been

under-performing. …’

(仮訳)

「現在、開発途上国において実施されている援

助プロジェクトは60,000件を超えるが、しばしば

ドナーが定めた異なる実施手続によって行われて

いる。この多数のプロジェクトの85%は事業費が

100万ドルを下回っている。貧しい国々は、こう

した需要に対応するだけの実施能力を欠いてお

り、重い負担となっているばかりでなく、開発途

上国自身の実施システム構築を妨げるものであ

る。従って、事業が完成しても、その結果が持続

することが少ない。

典型的なアフリカの国において、こうした形態

の援助を供与することは、少なく見ても数千のレ

ポート作成作業、および審査・監理・評価を目的

とする1,000以上ものミッション受入を意味する。

各ミッションは担当者との面会を要請し、援助受

in East Asia shows that attempts were made to enhance aid effectiveness by linking various project

assistance, fostering ownership of partner countries, and not merely offering aid but collaborating to

enhance foreign direct investments and private funds. The process has been implemented from the

viewpoint of assisting the capacity development of partner countries, such as how to improve the

overall public expenditure system and to replicate the best practices learned under ODA projects.

No single model exists for enhancing aid effectiveness. A major premise is that aid should be

based on such initial conditions as differences in individual local characteristics, historical

politics/economics/social structure, donor structure, and the historical reality of aid acceptance. Based

on these, it is important to improve the budget expenditure system, which enables efficient distribution

of aid funds throughout the entire flow, to foment synergy through effective use of aid modalities

rather than for the sake of argument on the choice of specific aid modalities. Also, considering the fact

that development is a transitory (not linear) process from an aid dependent economy to a market

oriented economy, the development process must put an emphasis on 'growth' aspects.

はじめに

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2005年5月 第26号 25

入国政府に対してドナー側のレポートへのコメン

トを求める。こうしたドナー主導のアプローチが

開発援助の効果が発現しない理由の一つであるこ

とは実証されている。」

このステートメントは、特にアフリカでの援助

環境を背景として、パートナー国政府への予算移

転を伴わないオフ・バジェット/スタンドアロ

ーン/in-kind型の極めて分散した、かつ小規模

のプロジェクト支援の特徴を捉えているものと考

えられる。

他方、東アジアの経済発展プロセスおよび同地

域に対する開発援助プロセスにおいては、こうし

た認識が、必ずしもそのまま当て嵌まるものとは

いえないであろう。特に、アフリカでの経験と、

東アジアでの経験を比較しつつ踏まえると、一定

の前提のもとに、プロジェクト支援とプログラム

支援を有機的に連携させることで、パートナー国

のオーナーシップを醸成しつつ、単に援助にとど

まらず、他の直接投資や民間資金とも連携しつつ、

援助効果を向上させてゆく、という動きがみられ

る。

本稿は、そうした動きの具体的事例として、日

本政府/JBICによる東アジア(殊にベトナム)

での取り組みを紹介し、実務上および政策上のイ

ンプリケーションを導き出すことを目的としてい

る。以下、本稿に述べる東アジアでの日本政府/

JBICによる財政支援や援助効果向上への取り組

みは、ODAプロジェクト支援を通じた国内シス

テム運用のキャパシティ強化・普及化と、プログ

ラム支援(財政支援やPRSC等)を通じた政策フ

ックの両方向からのアプローチにより、パートナ

ー国政府のオーナーシップを尊重しつつ、ドナー

コミュニティとの調和化プロセスを進展させた開

発モデルを提供するものと考える。

本稿の議論を行うにあたって、用語の定義を明

確にしておく必要がある。まず、DACでは、二

国間援助プログラムの特徴を図表1のように整理

している(OECD/DAC[2004])。

また、OECD/DACでは、具体的なODA援助

方式については、図表2のように整理している

(OECD[1992])。

このような援助方式の整理・分類をJBICの円

第1章 援助モダリティの整理とJBIC支援ツールの位置づけ

図表1 DACによる二国間援助プログラムの特徴

プロジェクト支援

セクター支援 あるいはセクターワイド・アプローチ(SWAps)

プログラム支援

注)筆者仮訳

注)筆者仮訳

複雑な全体像の中より対応可能な問題点を特定し、地域開発に必要な資金供与を行うもの。より貧困削減に貢献するためには、プロジェクト支援は、より上位の開発計画に位置づけられ、貧困層の重層的な問題に取り組むとともに、貧困層が持続可能な生計を達成できるようその生活能力を強化するものであることが理想的。パートナー国政府主導での個別セクター政策および支出プログラムに貢献するもの。必要に応じて、資金ディスバースや会計処理において共通の(common)管理・報告手続きを活用する。セクター・プログラムの場合は援助管理における異なったアプローチを意味し、より緩やかな改革、パートナーシップ形成プロセスを容認する。特定のプロジェクト活動にリンクせず、開発目的一般(国際収支支援や一般財政支援等)のためにパートナー国に対し実施される資金的貢献を指す。しばしば、マクロ経済や特定セクターにおける政策改革の促進と関連付けられる。

図表2 DACによるODA援助方式

プロジェクト支援

プログラム支援

一般プログラム支援

セクタープログラム支援プログラム食糧支援債務救済

特定セクターへの充当を規定しない、開発途上国の開発目的のためのプログラム支援(例:国際収支支援、一般財政支援、商品借款)(参考:世銀による構造調整融資(SAL))特定の経済・社会セクター(例:農業、教育、社会開発、運輸)を対象とするプログラム支援

*1 http://www.jbic.go.jp/japanese/oec/yenloan/kind/index.php

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26 開発金融研究所報

借款支援に当て嵌めた場合、図表3のように整理

できる。JBIC円借款の支援ツールは、パートナ

ー国側の開発ニーズに応じて多様化してきてお

り、様々なツールが存在している*1。更に、借款

供与に加えて技術協力(T/A)ファシリティも

持っている。このように、JBICの円借款は、パ

ートナー国側のニーズに応じて必要とされる支援

ツールを活用してきており、プロジェクト支援

(援助)のみならず、セクター支援もプログラム

支援も実施してきているのである。

また、譲許性の高いODAの借款形態による支

援は、援助効果向上の観点からは、図表4のよ

うな有効性が強調される(生島(2004))。こうし

た特長が、プロジェクト援助においても、その実

施段階においてパートナー国側における政策的レ

バレッジを効かせる役割を持つのであり、プログ

ラム援助と同等の開発効果を持ちうるのである。

さてここで、特に財政支援(一般財政支援、セ

クター財政支援)に焦点を当てて、アフリカと東

アジアでの財政支援の役割や意義の相違を整理し

ておきたい。

日本政府/JBIC/JICAも参加している「一般

財政支援共同評価」においては、財政支援の特徴

は、関係政府・機関間で、以下のとおり整理を行

っている(DFID[2005])。

出所)筆者作成

注)筆者仮訳

出所)生島(2004)に基づき筆者作成

図表3 DAC援助方式の分類とJBIC円借款支援

OECD/DAC分類 JBIC円借款の種類*2

プロジェクト支援

プログラム支援

債務救済

プロジェクト借款エンジニアリング・サービス(E/S)借款開発金融借款(ツーステップローン)

構造調整借款(SAL)商品借款セクタープログラム借款(SPL)

図表4 借款の有効性

持続性

連続性

安定性

自律性・オーナーシップ

相手国にとっては資金の借入を行うことで、少しでもコストリカバリーを図ろうというインセンティブ付与の契機となる。開発は経済・社会の変容を伴う連続したプロセス(continuous process)であり、ODAローンには、援助依存型(100%無償型)から市場依存型(100%民間資金型)への転換プロセスを支援する役割がある。ODAローンは複数年に亘るコミットメントがなされることから借入国政府における安定した開発資金源として機能し、援助資金のボラティリティや予測可能性の問題を回避できる。借款の場合には、対象プロジェクトがオン・バジェットになることが通常であり、相手国の案件選定のスクリーニングが厳格になる。

*2 http://www.jbic.go.jp/japanese/oec/yenloan/kind/index.php

第2章 開発援助における財政支援の役割の諸相

➢ パートナー国政府に直接供与され、パー

トナー国政府側の予算配分、調達・会計

システムを活用し、特定のプロジェクト

活動にリンクしないという点。あらゆる

「財政支援」は外貨資金の一括送金を伴う。

相違点は、イヤマークの程度や政策対

話・コンディショナリティのレベルや焦

点に現れる。

➢「セクター財政支援」は特定のセクター

にイヤマークされ、当該セクターに関連

したコンディショナリティが付与される

点で「一般財政支援」と区別される。「セ

クター財政支援」の場合には、通常の政

府会計に比してセクター毎の報告が追加

される可能性があるが、貸付実行方法は

「一般財政支援」同様、政府支出手続に基

づく。

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2005年5月 第26号 27

財政支援への関心の高まりや、上述の支援目的、

期待される役割に関する議論は、1990年代後半

以降の援助の役割や効果に関する諸議論に根ざし

ているといえる。そうした背景を踏まえた財政支

また、財政支援に期待される役割・プラクティ

スについては、OECD/DACにおいて以下のと

おり整理を行っている(OECD/DAC[2005])。

➢ 財政支援はパートナー国政府のオーナー

シップを強化する

✧ 財政支援の態様で流用可能性のある

資金を供与する場合には、ドナーは

パートナー国の開発政策や優先課題

を包括的に支援すべきである。

✧ このようなアプローチを取る場合、

パートナー国とドナーの間で予算目

標(および関連する資金配分)につ

き協議する必要があるが、持続的な

政策運営は究極的には強固な政治的

コミットメントが不可欠である。

✧ 従って、そうしたコミットメントが

ない場合に、財政支援を通じた政治

的なレバレッジを働かせようとすべ

きではない。

➢ 財政支援はパートナー国政府の公共財政

管理システムのパフォーマンスおよび透

明性強化を支援する

✧ 各ドナーは、財政支援による資金が

どのように使用されるかという観点

から、公共財政管理システムの強化

に対する関心を持つことになる。

✧ ドナーは、開発的側面および財政管

理的側面双方から、財政支援資金の

一部をパートナー国の法制度や市民

社会全体を含む公共財政管理システ

ムの改善に活用すべきである。

➢ 財政支援実施に伴う取引費用が最小化さ

れる

✧ パートナー国のカントリー・システ

ムを通じて財政支援を供与すること

は取引費用を軽減する一つの方法で

ある。

✧ 財政支援を行うことに伴う追加的機

会費用(例:複数の、あるいは大規

模な公共財政管理アセスメントに伴

うもの)は最小化されるべき。

✧ 財政支援は援助資金の予測性を強化

しボラティリティを削減する形で提

供されるべき

✧ パートナー国の財政当局は、予算計

画策定の際に、財政支援の規模、貸

付実行のタイミング、実行の条件に

つき信頼に足る予測を行う必要があ

る。

✧ 予測可能性は、短期的な援助資金の

実行や中期的な将来の援助フローを

把握する上で、パートナー国の財政

当局にとり重要である。

✧ 高い援助予測可能性と低いボラティ

リティは、マクロ経済安定化策の遂

行、中期支出枠組み(Medium Term

Expenditure Framework: MTEF)の立

案・実施、政策優先度に応じた戦略

的資金配分、最も効率的な融資戦略

の合理的選択に資するものである。

✧ しかし、実績によれば、財政支援の

コミットメントとディスバースのタ

イミングや規模は実際には様々な形

態が存在している。これはパートナ

ー国側の対応に起因する部分もあろ

うが、ドナーは横並びの対応を執る

べく対応すべき。

*3 例えば、以下が挙げられよう:ア)良い政策環境下では援助は効果的、オーナーシップ重視、援助の選択的実施(World

Bank[1998]等)、イ)債務救済への取組みと貧困削減へのフォーカス、HIPCイニシアティブとPRSPのリンク(HIPC資金のpro-

poor支出への計上)、MDGs、ウ)特定の政策条件踏襲への懐疑、国毎の環境への配慮、改革プロセス重視、エ)援助モダリティ

の問題(脆弱な政府システムをバイパスした援助は、更なる政府の弱体化、援助の取引費用増大をもたらす →援助調和化、

SWAps、PBAs)、オ)援助増額の議論(Monterrey Consensus)

注)筆者仮訳

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28 開発金融研究所報

援導入の目的は、援助資金のパートナー国予算へ

の移転(transfer)にあるといえる。*3しかし、

より大きな問題は、財政支援があらゆる国に対す

る万能薬として機能しうるか否か、という点であ

ろう。そこで、財政支援の異なる役割を比較する

ために、大野・二井矢(2005)を参考にタンザ

ニアおよびベトナムにおける取組みを見ることと

する。

(タンザニア)

タンザニアは、まず援助依存度が非常に高い

(対GDP比で約14%、政府投資の80%以上;2003

年)。またHIPCイニシアティブに基づく債務救済

の適用を受けており、国家財政運営における効率

的な援助資金管理が極めて重要な課題となってい

る。反面、開発資金源の担い手としての民間部門

のシェアは相対的に小さい。タンザニアにおいて、

かつての援助はスタンドアローン・オフバジェッ

ト・‘in-kind’型援助が太宗を占めていた。しか

し、国家戦略としてPRSPを導入して以来、タン

ザニア政府のアプローチは、(i)PRSPにおける

優先課題に基づく援助の供与、(ii)ドナー手続の

政府システムへの調和化(iii)プログラム援助、

特に一般財政支援を通じた援助受入、というもの

である。

タンザニアでの取り組みは、ドナー-パートナ

ー国間パートナーシップのモデル事例として取上

げられることが多い。同国における一般財政支援

の特徴は、資金を移転するツールとして、重要分

野である社会セクターでの取り組み(SWAp)

と一体となって、政府の予算執行そのものを支援

する手段であるという点にある。

(ベトナム)

一方、東アジアの事例としてベトナムを見てみ

ると異なる特徴が見出せる。援助依存度は低く

(政府支出比で約18%、対GDP比で約5%、政府

投資額の約15%;2003年)、またHIPCイニシア

ティブ適用国ではない。ベトナム経済において民

間セクター金融は重要な役割を担っており、民間

セクター開発は市場経済化に向けた最優先課題と

なっている。開発予算の管轄は特定の役所に一元

化されており、ベトナム政府の強いオーナーシッ

プにより開発計画策定、外国直接投資促進、援助

協調が推進されているといえる。ベトナム政府に

よる全援助受入額の約75%を世界銀行、アジア

開発銀行、日本(JBIC)からの借款が占めてい

る上、案件規模が大きいこと、また、ドナー間の

手続き調和化が進展していることから取引費用は

比較的小さい。こうしたベトナムの経済開発プロ

セスの特徴は、プロジェクト援助が中心となって

おり、財政支援は、成長志向の構造改革プロセス

の実現に向けて、個別のプロジェクト援助レベル

の成果を普及・浸透させていくための補完的手段

として存在しているという点である。

このように、タンザニアとベトナムのケースを

比較すると、援助依存度の違いに起因する外国援

助のマネジメントの問題を含む両国における開発

課題の位置づけの相違から、財政支援の役割や意

義が異なっていることが示されているといえよ

う。特に、ベトナム政府の包括的貧困削減成長戦

略(Comprehensive Poverty Reduction and

Growth Strategy: CPRGS)は成長志向のもので

あり(大野(2002))、財政支援はそうした成長志

向の開発課題・プログラムを補完しているという

点は重要である*4。

それでは、財政支援を含む多様な援助モダリテ

ィの活用を、パートナー国政府の開発課題の中で

どのように効率的かつ効果的に位置づけていくこ

とが出来るであろうか。そうした援助モダリティ

と開発課題との関係性を整理するツールとして、

大野・二井矢(2005)は「優先的な開発課題に

関するマトリックス」(Development Policy

Matrix: DPM)を構築している(図表5)。DPM

は、政府の活動領域として横軸にマクロ・レベル

(マクロ経済運営や予算策定など)とセクター及

び地方政府レベルを、縦軸として政策立案や全体

の制度設計の局面(上流)と実施局面(下流)を

対置し、特定のプロジェクト・プログラムの特徴

を示すことが出来るものである(大野・二井矢

(2005))。

*4 ガーナとベトナムの比較においても、前者は公共財政管理に焦点が当てられており、同様の論点が指摘される。(Ozeki(2004))

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2005年5月 第26号 29

本セクションでは、ベトナムとフィリピンにお

ける援助協調・調和化の取組みおよび成果を整理

するとともに(ADB,JBIC,World Bank[2005])、

ベトナムにおけるJBIC支援についてDPMを活用

して整理を試みる。

1.ベトナムベトナムのCPRGS策定プロセスへの日本政

府/JBICの取組みのうち、援助効果向上および

調和化に向けた取組みを列挙すれば以下のように

なる(図表6)。

図表6にある5Banksの取組みは、当初は、資

金管理やセーフガード・ポリシーの調和化(5

Banksの各システムをベトナムのカントリー・シ

ステムに統合)が、まずプロジェクト・レベルで

図れるのではないか、との想定の下に始まったも

のである。

こうした5Banksの取組みのうち、個別プロジ

ェクトの実施面での取組みが、その後の政策・制

度面の改革プロセスに影響力を持った具体例とし

て、プロジェクト・レベルでの調達制度の改善が

挙げられる。ドナー側は、ベトナム政府のイニシ

アティブによる調達改革を尊重し、現行の枠組み

(調達政令第88/66号)をベースに作成された国

内競争入札(LCB)標準書類の採用を条件つき

で受け入れた。これと並行して、ベトナム政府の

調達制度そのものに起因するLCB標準書類の問

題点については、ベトナム政府が進めている調達

法令(New Procurement Ordinance)の策定プ

ロセスの中で、引き続き(中期的な視点から)改

善を求めていくというアプローチを採用したので

ある。また、国際協力機構(JICA)は技術協力

を通じて、公共支出管理におけるキャパシティ・

ビルディングに大きな効果をもたらした点も指摘

出所)大野・二井矢(2005)

優先的な開発課題に関するマトリックス

上流= 政策・制度

下流= 実施

セクターと 地方官庁 

・(セクターに固有の)適切  な政策・制度の確立

① ②

④ ③

・実施能力の強化(例:財政  管理、成果モニタリング)

・マクロ経済安定の確保 ・セクター間の適切な予算配分  (例:PRSPプライオリティと  の整合性) ・政府の中核機能の確立(例:予  算制度、公務員制度)

・SALのコンディショナリ  ティに対する批判 ・Fungibilityの認識

パラレル・システムや 取引費用に対する批判

・公共サービスの向上  (量と質) ・実施能力の強化(事業  運営・技術面)

マクロ政策 主管官庁

図表5 優先的な開発課題に関するマトリックス

第3章 東アジア(ベトナム、フィリピン)における援助協調・調和化の取組み

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30 開発金融研究所報

される。これは、ドナー間の調和化プロセスに加

えてオールジャパン体制による協調の取組みの成

果といえるものである。

2.フィリピンフィリピンにおける援助効果向上および調和化

に向けた取組みを列挙すれば以下のとおりである

(図表7)。

3.成果および教訓上記のベトナムやフィリピンにおける取組みか

ら得られる成果として、以下の2点が指摘されよ

う。

(1)プロジェクト・レベルでの実施経験が、国レ

ベルでのキャパシティ・ビルディングや包括

的なカントリー・システム制度構築に結びつ

けられる。

(2)ODAプロジェクトの実施において、カント

出所)JBIC

出所)JBIC

図表6 ベトナムでの援助協調・調和化の取組み

2002年5月以前・国際的な議論とは別に、共同ポートフォリオ・パフォーマンス・レビュー会合(Joint Portfolio Performance Review: JPPR)を通じて、ベトナム側より調和化の要請がなされた。2002年5月(中間CG)~2003年2月(ローマ宣言)・世銀からの働きかけで、3Banks(世銀、アジア開発銀行(ADB)、JBIC)で調達、資金管理、環境の3分野での調和化アクションプランを合意。2003年2月(ローマ宣言)~2003年12月(調和化行動計画)・2003年5月にAFD、KfWが合流し、5Banks体制に移行。JPPR開催。・この時期にベトナム全体を包含する調和化イニシアティブが発展。ベトナム政府からは調和化と援助モダリティの議論が提示された(財政支援・SWApsへの移行等)。2003年12月~2005年2月・Group on Aid Effectiveness(GAE)を設置。・新たな援助モダリティは行政コストも低く、ディスバースも早く、全てを解決する(プロジェクトものはコストばかり大きい)という議論に対しJBIC(日本政府)として反論。・5Banksの経験(例えば調達)を踏まえ、JBICは、ドナー間の調和化、あるいはODA案件関連の調和化だけでは物事は解決せず、むしろ、パートナー国政府により整備されてきた公共投資制度の改善の必要性が高い(また、改善されれば、ドナーもパートナー国側の制度を活用できる)との主張を展開。世銀が提示したcountry system活用の議論とキャパシティ・ビルディングの重要性を指摘する議論が融合された。・「開発資金全体のマネジメント改善が必要」であり、また、「country systemの活用はキャパシティ・ビルディングなしには成功しない」との認識に基づき、ベトナム政府とドナー間で相互理解が醸成されていった。・これを踏まえ、ベトナム政府は、国内事業実施における二大重要項目を以下のとおり設定した。

ア)調達システムの強化を通じたキャパシティ・ビルディングイ)公共財政管理(PFM)の強化を通じたMTEF策定、PFM強化事業の実施、ODA事業に係る報告体制の一元化

・PRSC3支援に係る日本政府/JBICの取組みの特徴公共支出管理とビジネス・投資環境整備を重視。PRSC3の政策マトリックスに日本の提案が反映された。ビジネス・投資環境整備については、2003年4月の「日越共同イニシアティブ行動計画」の内容が反映された。ビジネス・投資環境整備は、外資参入規制、基本法制や行政の不備、裾野産業の不足といった投資環境の未整備がネックとなり外資参入が進んでいないという問題意識が前提にある。公共支出管理:個別のインフラ開発を適切に進め、公共投資の効率性を高めるために、投資予算と経常予算の整合性強化、公共投資事業の適切な審査・評価の枠組み確立を期する内容が含まれた。CPRGSの「大規模インフラが貧困削減に果たす役割」に関する章は、日本政府/JBICからの提案により追加された。

図表7 フィリピンでの援助協調・調和化の取組み

・援助協調および調和化への取組みは2002年以降強化されており、継続中。・個別プロジェクトを通じた公共調達システムの強化への取組み

調達手続調和化プログラムの立ち上げに向けて2年以上の政策対話実施国内競争入札(資機材、役務)における共通標準入札書類の採用を実現

・個別プロジェクトを通じた資金管理体制強化への取組み3Banks(世銀、ADB、JBIC)のイニシアティブにより下記書類ドラフトの調和化を推進①民間会計監査のTOR②会計監査人の選定基準に係る質問事項③実施機関の選定基準に係る質問事項④実施機関による資金管理報告書

・新しい政府会計システム稼動に伴う会計検査委員会への支援

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2005年5月 第26号 31

リー・システム活用を標準化していくことで、

財政支援における借入国側の制度改善へのイ

ンセンティブを付与することが出来る。

上記の成果は、調和化を通じた援助効果向上に

ついて以下の4つの教訓を与えてくれる。

(1)短期間での成果(アウトカム)発現の重要性

➢ 短期的には、tangibleであり、かつパー

トナー国・ドナー側双方に貢献するアウ

トカムを早期に出すことが、調和化に向

けたドナー・パートナー双方のモメンタ

ム確保の観点から重要。

➢ このために、まず、ドナー側が、ドナー

間での方針・手続きが不必要に相違する

部分について調和化を進めること、また、

ドナー側・パートナー国側双方が、簡素

化・調和化が容易であり、かつ取引費用

削減効果が大きい部分について、調和

化・簡素化を早期に進めることが重要。

(2)調和化のコスト

➢ 調和化は、パートナー・ドナー側双方の

多くの関係者の調整が必要であるため、

パートナー国の行政コストが拡大する傾

向がある。このため、いかに効率的に調

和化作業を進めるか(調和化作業自体の

費用対効果の向上)が重要。

(3)調和化の対象分野

➢ 調和化やパートナー国の取引費用削減の

観点から手続簡素化が求められている一

方で、国際的なスタンダードを満足させ

る様々なセーフガード・ポリシー導入や

透明性確保も求められている。これらの

要求をいかに両立させるかがドナーにと

っての課題。

➢ 現実問題として、両立を容易に達成でき

る分野は限られている。

(4)パートナー国のカントリー・システムとの整

合性

➢ ODAについてのみ調和化を進め、ODA

には国内事業よりも高いスタンダードを

特例的に適用し、それを制度化すること

は、パートナー国側にとっても必ずしも

持続可能なものとはいえない。

➢ ODAのみにおける調和化はODA事業の

効果向上・手続きコスト削減をもたらし

得る一方で、国内事業とODA事業間の

遵守事項・手続きの相違を固定化し、結

果としてパートナー国の行政コストの増

大に繋がる可能性がある。

また、日本政府/JBICにおけるモダリティ選

択プロセスやJBIC型支援モデルにおける取引費

用削減の観点から上記の調和化への取組みを考え

る場合、まず、援助効果向上に係る問題意識とし

て、ア)国毎のオーナーシップとリーダーシップ

尊重した国別アプローチ、イ)モダリティの多様

性の尊重、ウ)能力開発・市民社会参画の重要性、

エ)特定のモダリティの優位性、特定国における

モダリティのあり方が焦点ではない、という4点

は極めて重要である(大野・二井矢(2005))。

更に、DPMを適用したベトナムの事例研究

(図表8)からは、プロジェクト借款とPRSCは

補完的な関係であり、制度環境・枠組みの改善を

図るPRSCと、個別プロジェクトでミクロ・レベ

ルのreplicabilityを図るプロジェクト借款は、大

きな方向性は同一で補完的な関係にある

(complementarity)ことが見出せる。ベトナム

における調和化のプロセスは、この補完性強化に

資する方向で成果を導き出したといえるのではな

いか。

この点、JBICが実施するようなプロジェクト

の規模が相対的に大きいものであるが故に取引費

用が増大するとの見方もあろうが、圧縮可能な取

引コストと、当該プロジェクトのマネジメントの

ための固有の事務コストは相容れないものであ

る。夫々最小化すべきものではあるが、上述の

JBIC円借款の有効性の考え方も踏まえれば、後

者のコストは、パートナー国政府側のキャパシテ

ィ向上に資するものであることから、有益な投資

コストとして捉えられるべきものである。勿論、

JBICが実施するプロジェクトにおいてあらゆる

行政コストを最小化することは一般論として重要

視されている。

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32 開発金融研究所報

一方、タンザニアにおいては、図表9のように、

一般財政支援とプール型支援が主流であり、プロ

ジェクトはかかる枠組みの下で比較優位を示し、

かつオン・バジェット化することにより予算への

アラインメント強化が図られることを示してい

る。

出所)大野・二井矢(2005)

●GBSは政府収入の16%。プール型援助も合わせた新しいモダリティは予算計上済援助の58%(2003)。

●PRBSには11ドナーが参画。コンディショナリティはPRSPの優先7セクターへの予算の重点配分等予算サイクルを中心とする。 ●それをPFMの観点から13ドナー合同の技術支援が補完。

●セクターの観点からSWApが補完。基礎教育では予算の受皿として開発・経常双方の予算を全国の公立学校に交付する制度を確立。12ドナーによる支援のほとんどは新モダリティによる。

政策・制度

PRSC /PRBS

公共財政 管理改革

セクター 地方

実施

SWAp

マクロ ① ②

④ ③

図表9 タンザニア-一般財政支援(PRSC/PRBS)と初等教育SWAp(PEDP)

1.結論

(1)プロジェクト・レベルから国レベルへ

東アジア(ベトナム、フィリピン)の経験から

の教訓は、以下の二点に集約されよう。

ア)ODA事業の手続き簡素化と、透明性向上に

向けた国際基準の導入という対立する要請に

対して、バランスの取れた対応が不可欠

イ)パートナー国政府のオーナーシップは最大限

尊重されるべき

換言すれば、JBICによるODAローン支援を通

じたプロジェクト・レベルの実施経験が、国レベ

出所)大野・二井矢(2005)

●援助モダリティの構成(2003)は、投資プロジェクト(54%)、プログラム/財政支援(18%)、技術支援(28%)。 ●PRSCI~IIIには世銀への協調融資の形で複数ドナーが参画。コンディショナリティは従来の構造調製融資を引継ぐ構造改革アジェンダに加え(特に民活促進をにらんで)、各セクターで抽出された問題点等。

●PFM支援等、予算制度全体の改革よりも、ドナー側のエントリーポイントとして主要な支援対象である投資プロジェクト(大規模インフラ整備等)の実施経験から抽出された問題点(例えば道路整備における投資と維持管理予算の連携確保)の個別・具体的な改革を対象。 ●最近の動きとしてDBS推進ドナーによる基礎教育、あるいは特定受益者を対象としたプログラムに対するDBSの準備が進行中。

民活促進/制度改革

政策・制度

PRSC

セクター 地方

実施

インフラ整備

プロジェクト

マクロ ① ②

④ ③

図表8 ベトナム-一般財政支援(PRSC)と運輸インフラプロジェクト

第4章 結論およびアフリカ支援への示唆

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2005年5月 第26号 33

ルのキャパシティ・ビルディングや包括的なカン

トリー・システム構築に結び付けられるというこ

とである。また、ODAプロジェクトの実施を通

じてカントリー・システムの採用を標準化してい

くことで、財政支援におけるパートナー国政府の

制度改善へのインセンティブを自ずから付与して

いるといえるのである。それは即ち、上記ア)、

イ)を実践していることに他ならない。

東アジアにおける調和化プロセスは、ODAプ

ロジェクトの効率化やディスバースメントの迅速

化のみを追求するものではない。ODAプロジェ

クトの実施を通じて蓄積された経験を踏まえ、い

かに公共支出システム全体を改善していくか、い

かにODAプロジェクトにおけるグッド・プラク

ティスを公共支出システム全体に反復されていく

か、というパートナー国のキャパシティ開発支援

という観点から行われてきているものということ

が出来る。

こうした事例から見て取れるように、「良いプ

ロジェクト」とは、パートナー国政府のオーナー

シップを尊重することを大前提として、当該国の

開発計画に依拠し、当該国内事業と整合性を保ち、

資本コストのみならず維持管理コストもパートナ

ー国予算にオン・バジェット化されており、キャ

パシティ・ビルディングによる制度開発への支援

が反復されていく効果を持つもの、と言い表せる。

こうした「良いプロジェクト」から期待される効

果は、上述のDACの整理に基づく財政支援によ

り期待される4つの効果と同様であるともいえよ

う。こうした「良いプロジェクト」を支援するに

あたっては、財政支援であっても有効なツールと

して適当な場合もあると考えられる。従って、財

政支援に期待される役割とJBIC支援モダリティ

(プロジェクト支援やプログラム支援)を比較す

れば、図表10のように纏められる。

ODAのディスバースメント(=ドナーからパ

ートナー国への資源の移転の迅速化)は、援助効

果向上のための十分条件ではない。パートナー国

に移転されたODA資金は、パートナー国の公共

支出システムを通じてサービスに転換され、受益

国にデリバーされるものである以上、パートナー

国への資金トランスファーを円滑化するよりは、

むしろ、パートナー国の公共支出システム全体の

効率化が重要性を持つといえる。

中長期視点に立てば、パートナー国の人的資

源・制度面の強化を支援し、その結果として、ド

ナーが、そのODA支援において、パートナー国

のカントリー・システムを活用できる範囲を拡大

していくことが追及されるべきであろう。そのプ

ロセスの速度は、パートナー国が、自らのオーナ

ーシップにより、その行政キャパシティや社会的

な受容力に合わせて、適切なペースで実施すべき

である。

(2)プロジェクトおよびプログラム援助の

カスタマイゼーション

また、援助効果向上には単一のモデルは存在し

ない。当該パートナー国・セクターの個々の地域

特性や歴史的な政治経済・社会構造の相違、ドナ

ー構成の相違や援助受け入れの歴史的実態の相違

といった初期条件を踏まえることが大前提であ

る。その上で、援助資金フロー全体の効率的配分

といった財政システムの改善を、特定援助モダリ

ティの選択の議論としてではなく、様々な援助モ

財政支援に期待される役割東アジアにおけるJBIC支援の態様

(プロジェクトローン、プログラムローン)●オン・バジェット化されている、パートナー国のオーナーシップがある

●パートナー国の政策や実績へのアラインメントがある

●パートナー国の公共財政管理システムのパフォーマンスと説明責任を強化する

●取引費用の削減効果がある●援助の予測可能性がある

Yes(担当官庁の一本化、比較的少数の主 要ドナーの存在)

Yes(PRSP支援、Programmatic Approachの採用、カントリー・システム活用)

Yes(ドナー間の調和化、カントリー・システム活用)

Yes(ドナー間の調和化、カントリー・システム活用)Yes(複数年に亘るコミットメントと貸付実行)

出所)筆者作成

図表10 財政支援に期待される役割とJBIC援助モダリティの整合性

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34 開発金融研究所報

ダリティの有機的な活用を通じた相乗効果の醸成

のために実施していくことが重要である。

2.アフリカ支援への示唆-未来へ向けて東アジアにおける援助効果向上、調和化への取

組みと経験から、今後のアフリカ支援に対してど

のような示唆が与えられるであろうか。

(1)援助モダリティの優先順位づけやカスタマ

イゼーションは、各援助モダリティの相互補完性

を勘案しながら、パートナー国の優先的な開発ア

ジェンダに即して実践されるべきである。アフリ

カ支援の文脈において、財政支援等の個別援助モ

ダリティの意義・妥当性は、国別アプローチの中

で、パートナー国政府とドナーコミュニティとの

間で醸成されてきた援助環境や、パートナー国の

政治・経済・社会にかかる基層構造、地域特性を

踏まえた上で判断される必要がある。また、開発

プロセスは、パートナー国の経済・社会の変容を

伴う連続したプロセスであると同時に、中長期的

な取組となる。このため、開発成果を重視した取

組みの成果が発現するためには時間がかかること

を考慮する必要がある。このため、相手国の開発

ニーズの変化等を踏まえた中長期的視野に基づい

た対応が不可欠であろう。

(2)資金移転メカニズムの確立は必須条件では

あるが、援助効果発現には不十分である。包括的

に公共支出システム(即ち、計画システム、調達

システム、資本支出と経常支出の統合、事業評価

と選択、予算管理、個別プロジェクト管理)を改

善する方策が求められる。これを達成するには、

PRSC支援、ポートフォリオ・パフォーマンス・

レビュー、調達手続の調和化といった様々な枠組

みを活用した実績が大いに参考となろう。

(3)開発とは援助依存型経済から市場経済への

移行(非線形な)プロセスである。援助の究極の

目的が、パートナー国が援助依存型経済から民間

セクター依存型経済(援助からの卒業)へと移行

を支援することであるという視点は重要である。

この点は、財政支援と援助モダリティの議論にも

関連する。パートナー国における優先的な開発課

題が公共支出を主とする活動(基礎教育や保健セ

クターなど政府自身がサービス・プロバイダーで

ある場合)か、あるいは民間活動が中心で政府の

役割は民間活力を引き出すことにあるかによって

援助モダリティの考え方の出発点が異なることに

留意する必要がある。実際、pro-poor growthは

民間セクター開発を通じた成長促進、即ち、農

業・産業・ビジネスの開発であり、公的セクター

の取組みと民間アクター(企業や農家)の取組み

の双方が重要となってくるのである。民間セクタ

ー開発を通じた経済成長の重要性について強調し

すぎることはない(大野・二井矢[2005])。さら

に、アフリカにおいて生産性を回復しMDGsおよ

び貧困撲滅を達成するためには、ネットワークイ

ンフラの構築、農業開発、民間セクター開発、投

資環境整備が喫緊の課題となっているのである。

これに関連し、今後のアフリカ支援における

「良いプロジェクト」の整理の仕方として、世銀

IDAにおけるアフリカ支援モデル(図表11)は示

唆に富むと考えられる(World Bank[2004])。

特に、かつての構造調整融資(SAL)支援にお

ける画一的な基準の適用に係る過去の反省を踏ま

えつつ、パートナー国の政策・制度環境(=オー

ナーシップ)に依拠した多様な援助モダリティの

重層的な活用を前提としている点は検討に値する

のではないだろうか。勿論、この枠組みがそれ自

体で完結したものであるともいえない。ここに、

民間セクター育成・投資環境整備の観点を十分踏

まえて、効率的な援助環境を構築した上で「良い

プロジェクト」を形成・支援していく段階を加え

る必要がある。また、個々の援助モダリティ毎の

ウェイトも国に応じて当然に変化してくると思わ

れる。

先に例示したタンザニアの場合には、日本政府

(およびJICA)は、PRBSへの資金供与、その執

行をさせるPRSP体制づくりへの参画、農業セク

ターでのSWApの進行状況に応じた取組みを組

み合わせて支援を行い、現在「第2世代」PRBS

の策定過程にある。そこでの論点の一つとして、

第1世代における社会セクター偏重型のPRBSか

ら、第2世代においては成長志向のPRBSへと移

行・脱皮する可能性が指摘される。図5で分析す

れば、タンザニアの位置づけはPRBSの進化に伴

い、更に右方向へシフトすることになるが、その

鍵となるのが成長志向という点である。こうした

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2005年5月 第26号 35

移行プロセスにおいて、上記の東アジアでの事例

との類似性が見出せると思われる。また、図表

11のモデルを批判的に分析すれば、開発課題が成

長志向なものに移行することに伴い、財政支援の

役割・位置づけを見直していく必要性も大きくな

っていくであろう。

(5)最後に、具体的な援助効果を発現するため

には十分な時間と辛抱が不可欠である。下記のコ

メントはあるパートナー国の政策担当者によるも

のであるが(Ung[2005])、いみじくも、援助効

果実現に向けたあらゆる努力のエッセンスを捉え

ているものといえよう。

“Since the reforms of the country system

would have significant effect not only on

ODA-related stakeholders but on a full range

of others as well, the recipient government's

strong ownership and leadership is essential.

Reforms may take a long time, but their

impact would be much greater than any

impact gained from establishing a dual

system. Respecting the Government's

ownership and self-determination, a patient

approach is necessary in implementing or

supporting these capacity developments.”

(仮訳)

「国のシステムの改革は、ODA関係者のみならず、

その他諸々の関係者に対しても重大な影響を及ぼ

すものであり、そのゆえに、借入国政府の強いオ

ーナーシップとリーダーシップが不可欠である。

改革には時間がかかるかもしれないが、二重のシ

ステムを構築した場合よりも、より大きなインパ

クトが得られる。こうしたキャパシティ開発の実

施・支援においては、借入国政府のオーナーシッ

プと決意を尊重した、辛抱強いアプローチが求め

られるのである。」

出所)World Bank

HIV/AIDS MAP

PRSCEconomic Policy

Health

Education

Other

TACapacity Building Facility

CDD & Social Funds (includes responses to shocks)

Projects (infrastructure, agriculture, rural, etc.)

Adjustment (shocks only)

Economic TA Economic Capacity Bldg

Health Projects Health SWAp

Education Projects Education SWAp

Other (PSD, finance, etc.)

LOW IDA Rating HIGH

図表11 IDAのEmerging Partnership Model

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36 開発金融研究所報

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