機関誌kiis150号 特集「オープンデータ」

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0 0 2015 2015 INSTITUTE OF   MATION SYSTEMS dustrial Renovation KANSAI INSTITUTE OF   INFORMATION SYSTEMS & Industrial Renovation 一般財団法人 関西情報センター KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial Renovation  KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial Renovatio n  n  n  特集:「オープンデータ」

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Page 1: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

VOL.VOL.15015015015020152015

KANSAI INSTITUTE OF    INFORMATION SYSTEMS  & Industrial Renovation

KANSAI INSTITUTE OF   INFORMATION SYSTEMS& Industrial Renovation

KANSAI INSTITUTE OF   INFORMATION SYSTEMS & Industrial Renovation

一般財団法人 関西情報センター

KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial Renovation KANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial RenovatioKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial RenovatioKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial RenovatioKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial RenovatioKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial RenovatioKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial RenovatioKANSAI INSTITUTE OF INFORMATION SYSTEMS & Industrial Renovation n n n 

DIC 136s

特集:「オープンデータ」

Page 2: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

定価¥5 0 0(送料込)(ただし、一般財団法人関西情報センター会員については、年間購読料は年間会費に含まれております。)

◇ごあいさつ 一般財団法人関西情報センター 会長  森下 俊三 …………1

◇ 特集「オープンデータ」 ………………………………………………………………………………………2

 □「経済産業省のオープンデータの取組」 ……………………………………………………………………3

経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室

 □「福井県のオープンデータの取組」 …………………………………………………………………………9

福井県 総合政策部 政策統計・情報課

 □「リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動」 …………………………………………… 16

リンクト・オープン・データ・イニシアティブ 理事  小出 誠二、高橋  徹

 □「オープンデータの拓く新たな社会」 …………………………………………………………………… 24

NTTコミュニケーションズ 国際大学 GLOCOM客員研究員  林  雅之

◇KIIS事業紹介

 □ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告

   -スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは- …………………………… 32

 □「オープンデータ・ビッグデータ利用推進フォーラム」  …………………………………………… 52

◇賛助会員企業のご紹介

  株式会社スリーエース …………………………………………………………………………………… 57

  株式会社岡村製作所 ……………………………………………………………………………………… 59

KIIS Vol. 150 目    次

本誌は、当財団のホームページでもご覧いただけます。http://www.kiis.or.jp/content/info/magazine.html

KIIS Vol.150 ISSN 0912-8727平成27年 1 月発行人 田中 行男発行所 一般財団法人 関西情報センター    〒530-0001 大阪市北区梅田1丁目3番1-800号 大阪駅前第1ビル8F TEL. 06-6346-2441

Page 3: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

ご あ い さ つ一般財団法人関西情報センター

                                    会長 森下 俊三

 新年あけましておめでとうございます。

本年も変わらぬご支援の程よろしくお願い

申し上げます。さて、経済状況は好景気と

は言えないまでも、比較的安定した状況が

続いており、2014年度上半期の ICT 投資

指標は、ようやく微増に転じたようです。

 ICT の世界での新しいトレンドとして

は、新しい眼鏡型や時計型のウェアラブル

デバイスが製品として登場し、これらのデ

バイスを利用した新サービスの模索がなさ

れているところです。かつては、眼鏡とい

うモノは近視や遠視を補助する機能(コト)

と一体化して存在していました。時計とい

うモノも時間を知るという機能(コト)と

対になって存在していました。それぞれ一

体であったはずの「モノ」と「コト」は、

新しいテクノロジーの導入とインターネッ

ト接続によりコト(機能)の分離が始まり、

新しいコト(機能)の追加・融合によりさ

らに新しいモノが生み出され、社会に大き

なイノベーションをもたらす原動力になっ

ています。これが、まさに IoT や IoE と言

われているトレンドです。

 一方、IoT、IoE のトレンドの中で、い

ろいろなモノからインターネットへ流れる

データが注目されています。オープンデー

タ、ビッグデータは世界最先端国家創造宣

言の中でも重要な施策として取り上げら

れ、新産業・新サービスの創出や地域経済

の活性化のための手段として注目されてい

ます。当財団においても引き続き「オープ

ンデータ・ビッグデータの利用推進」を重

要テーマとしてとりあげていく予定です。

 また、ますます巧妙化が進むサイバー犯

罪への対応も喫緊の課題です。当財団では、

プライバシーマークの普及・啓発や情報セ

キュリティに関する人材育成セミナーなど

の事業を引き続き実施し、この課題につい

ても積極的かつ継続的に取り組んでまいり

ます。

 一方、少子高齢化社会の進展という社会

課題に対しては、ヘルスケア分野での ICT

のさらなる活用や地域再生・地域創生にも

ICT をどう生かしていくかということを検

討してまいります。さらに、大規模自然災

害に対する備えとしての災害情報共有シス

テムの在り方についても引き続き検討して

まいります。

 当財団は、このような時代の流れを迅速

かつ的確にとらえ、賛助会員の皆様や地域

の皆様に情報の提供を行い、問題解決に向

けたコミュニティの形成や提言を実施して

まいります。

 賛助会員の皆様方をはじめとする関係各

位におかれましても、引き続きご理解・ご

協力のほどお願い申し上げます。

 皆様にとりまして、この2015年が素晴ら

しい年になりますようお祈り申し上げ、新

年のごあいさつとさせていただきます。

Page 4: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

2

特集「オープンデータ」

 今回の機関誌の特集テーマは、「オープンデータ」

です。

 平成26年 6 月に閣議決定された世界最先端 IT 国家

創造宣言の改定版の中で、目指すべき社会・姿として

「革新的な新産業・新サービスの創出及び全産業の成

長を促進する社会」が 1 番目に挙げられ、その最初に

「官民が保有する多岐にわたる膨大なデータは、全く

新しい知の源泉であり、経営資源である。」と明記さ

れています。これは、官民が持つオープンデータを整

備し、流通、利用させることにより新たな産業やサー

ビスの創出に繋げようとするものです。

 国の取り組みとしては、総務省が中心となってオー

プンデータ流通推進コンソーシアムが立上げられ、官

民共同でオープンデータの整備と利用の推進について

議論されていましたが、その発展形として「一般社団

法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構

(略称:VLED)」へ議論の場が移行しました。また、

経済産業省の関連では、オープンデータを活用したビ

ジネス創出を支援する「Knowledge Connector(β版)」

というプロジェクトも開始されました。政府全体の

データカタログサイトとしては、「DATA.GO.JP」や

経済産業省のデータカタログサイト「OPNEDATA

METI」の運用が始まっています。

 地方自治体では、福井県の鯖江市、千葉県の千葉市

などがオープンデータへの取り組みの先進事例とし

て取り上げられ、自治体の保有する様々なデータが

WEB サイトを通じて公表されつつあります。さらに、

それらのデータを利用するアプリケーションの開発の

場として「ハッカソン」というイベントも各地で開催

されています。

 民間の団体としては、OKFJ(オープン・ナレッジ・

ファウンデーション・ジャパン)や WEB 上でのマ

シンリーダブルな環境の整備を目指す LODI(リンク

ト・オープン・データ・イニシアティブ)などが立ち

上がっています。

 当財団でも、平成26年の 9 月から、オープンデー

タ・ビッグデータ利用推進フォーラムを立ち上げ、関

西地域でのオープンデータ・ビッグデータ現状分析調

査、利用推進のための最新動向セミナーの開催、デー

タアナリストの人材育成などに取り組んでいます。

機会がございましたらご参加下さい。オープンデー

タ・ビッグデータ関連団体のリンク集も用意してい

ますので是非ご参照下さい。(http://kilins.kiis.or.jp/

contents/OpendataBigdata/index.html)

 さて、今回の特集では、国の事例として経済産業省

様に「経済産業省のオープンデータの取組」として

寄稿いただきました。また、府県レベルとして先進的

な取り組みを進めておられる福井県様にも「福井県の

オープンデータの取組」として寄稿いただきました。

 また、民間の団体としては LODI(リンクト・オー

プン・データ・イニシアティブ)様に「LODI の活動

について」をご執筆いただきました。さらに国際大学

GLOCOM の客員研究員でもあられる NTT コミュニ

ケーションの林様には、「オープンデータの拓く新た

な社会」というタイトルで、民間側から見たオープン

データの未来についてご執筆いただきました。

皆様の御参考になれば幸いです。

総務企画グループ(田中(真))

Page 5: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

3

1.総論

 経済産業省は、これまで、情報政策・オープンガバ

メント推進の一環として、オープンデータの実践に積

極的に取り組んでいるところです。

 東日本大震災の直後には、国民に対して、迅速かつ

一元的な情報提供の重要性が特に高まったことから、

電力需給を公開するサイトである「節電 .go.jp」(平成

23年 7 月)や、それまでばらばらに提供されていた国

や自治体の被災地支援制度情報をワンストップで検索

できる「復旧・復興支援制度データベース」(平成24

年 1 月)の公開などを行いました。平成24年 7 月には、

経済産業省が自ら実践するオープンデータの基本方針

である「DATA METI 構想」を公表し、政府機関の

先陣を切って取組を推進してきました。

 その後、オープンデータは、政府の IT 総合戦略本

部において、政府全体が取り組むべき施策として位置

づけられ、国、地方自治体、独立行政法人など、それ

ぞれの機関において取組を進めているところです。

 その結果、 政府全体のデータカタログサイト

「DATA.GO.JP」が本格稼働するとともに、オープン

データを積極的に公開する地方自治体の数も増えてき

ており、データの提供側の取組は、徐々に進展しつつ

あると言えます。また、民間企業や NPO などの団体

を中心として、アイディアソン、ハッカソン、コンテ

ストなどのイベントが頻繁に開催され、オープンデー

タを活用するアイディアやアプリケーションが多数開

発されるなど、我が国のオープンデータの機運は確実

に高まってきている状況です。

 本稿では、経済産業省がこれまで行ってきたオープ

ンデータの取組をまとめるとともに、現在取り組んで

いる施策の状況について紹介します。

2.経済産業省におけるこれまでの取組

 前述のとおり、経済産業省では「DATA METI 構

想」という基本方針の下で施策を実行してきており、

ここでは、オープンデータの取組を、①保有データの

提供、②技術や制度の検討、③データポータルサイト

の構築、④ユースケースの創成と共有、⑤住民や事業

者による利活用、⑥ニーズや課題の把握の 6 段階のサ

イクルに整理しています。以下に、これまでの主な成

果を紹介します。

①保有データの提供

 経済産業省では、オープンデータを実践するにあた

り、まず、経済産業省本省、地方経済産業局、所管

する独立行政法人のホームページ公開データの棚卸し

を実施し、政策分野やデータの形式別にどれくらいの

データが存在しているかの特定を行いました。

 結果、調査の時点で、総計10,736件のデータが存在

しており、そのうち本省が4,545件、地方局が2,125件、

独立行政法人が4,066件のデータを保有していること

を確認しました。

 この棚卸し結果は、③で紹介するデータポータルサ

イトの構築において、どのデータを優先的にオープン

データとして整備するかの、重要な検討材料として活

用しました。

②技術や制度の検討

 オープンデータを支える技術的な基盤として、経済

産業省では、複数の情報を連携させる際に不可欠な、

語彙や文字といった「情報共有基盤」の整備に取り組

んでいます。

 情報共有基盤は、既存の制度やシステムの連携を高

める上で、関係者間で情報の連携を行うための共通

の辞書を作る取組です。世界的には、米国や欧州など

で共通辞書が開発されており、我が国においても、平

経済産業省のオープンデータの取組

経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室

Page 6: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

経済産業省のオープンデータの取組

4

成23年度から検討を開始し、「共通語彙基盤(IMI :

Infrastructure for Multi-Layer Interoperability)」とし

て、平成27年度中に、分野毎の語彙構造を格納する

データベースを構築する予定です。

 こうした共通の辞書を構築していくことで、オープ

ンデータにとっても、複数の行政機関から公開された

データをマッシュアップして新たな付加価値を生み出

すことが容易になるといった大きなメリットがありま

す(これにより可能となるサービスの詳細は、3. ③を

参照下さい)。

③データポータルサイトの構築

 経済産業省では、オープンデータ専用のデータ公

開サイト(データポータルサイト)を自ら運用し知

見を蓄積するため、2013年 1 月に、国内の政府機関

としては初めて、データポータルサイト「Open Data

METI」を立ち上げました。

 「Open Data METI」は、経済産業省関連のデータを

メタデータにより横断的に検索できるサイトであり、

立ち上げ当初に白書や統計データを中心にオープン

データ化を行って以来、電子行政オープンデータ推進

のためのロードマップ重点 5 分野(白書、防災・減災、

地理空間情報、人の移動、予算・調達)のデータや、

関連する独立行政法人のデータ等を追加し、平成26年

11月現在で約2,330データセットの公開を行っていま

す。

 「Open Data METI」の運用を通じて得られた知見や

ノウハウは、政府全体のオープンデータ政策を検討す

る会議体である「オープンデータ実務者会議」などに

フィードバックするとともに、その後、本年10月に

本格稼働を開始した政府全体のデータカタログサイト

「DATA.GO.JP」の検討に当たっての提言を行いました。

④ユースケースの創成と共有

 以上のような、「オープンデータを提供する側の取

組」の実践に加え、経済産業省では、「オープンデー

タを活用する側の支援」にも同時に取り組んでおり、

平成24年度以降、ビジネスの創出に向けた事業や、ア

イディアソンやアプリケーションコンテストの開催な

どを行っています。

■経済産業省自身の保有データを対象にデータ公開の環境整備を図り、実際に公開 を進め、政府全体の取組に役立つモデルを示すとともに、公開データを利活用し たビジネスが展開する社会基盤を整えていくことで、オープンデータによる経済 活性化の促進を図る。

IT戦略本部及び各府省庁への展開

1.保有データの提供

2.技術や制度の検討

3.データポータルサイトの構築

6.ニーズや課題の把握

5.住民や事業者による利活用

4.ユースケースの創成と共有

提供可能なデータから順次提供

得られたノウハウのフィードバックによるデータ供給システムの改善

利活用を促す技術(機械可読、API、LOD化)や制度の提供

実施事業等で得られた知見やノウハウをフィードバック

技術・制度上の課題を抽出

公共データの利用に関するニーズや課題をフィードバック

政府全体の課題を提示

モデルケースの提示

ユースケースや活動支援の紹介

ニーズ調査の実施やコミュニティの活動

利活用しやすいデータ公開環境の提供

DATA METI 構想とは

Page 7: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

経済産業省のオープンデータの取組

5

 経済産業省が実施した調査事業では、民間側のニー

ズの高い分野として、観光、防災、インフラ、マーケ

ティングなど、主に自治体が保有している地域に密着

したデータがあげられました。経済産業省では、オー

プンデータを活用したビジネスを創出していく観点か

ら、自治体のオープンデータ化の支援や、地域のデー

タを活用したビジネスモデルの確立に取り組んできま

した。最近の取組において創出を目指すビジネスにつ

いては、3. において具体的に示します。

⑤住民や事業者による利活用

 現在、民間企業や NPO 等の団体により開催されて

いるアイディアソン、ハッカソン、コンテストに共通

する課題として、優れたアプリが開発されても、政府

機関や自治体毎にデータの形式等が異なるなど、横の

展開が難しく、他地域への展開があまり進んでいない

ということがあげられます。経済産業省は、広域レベ

ルでのオープンデータの取組を進めることや、民間企

業と自治体との協働を促すことを通じて、この課題を

解決していくことを目指しています。

 経済産業省が過去に開催したオープンデータのアプ

リケーションコンテストでは、自治体と協働し、新た

なデータを提供してもらうことを条件とすることで、

民間企業と自治体が共同で取り組むことのできる体制

を、試行的に整えてきました。

⑥ニーズや課題の把握

 公共データに関する国民からのニーズは多岐にわた

るため、オープンデータの分野においては、特に、行

政として国民の生の声を拾い続けることが重要である

と考えています。

 経済産業省では、ユーザー同士の情報交換の場とし

て、Open DATA METI にユーザーコミュニティの機

能を実装しているほか、平成24年度以降、国民と行政

が直接政策の方向性について意見交換を行う場である

アイディアボックスを、オープンデータや電子行政を

共通語彙基盤の効果

共通語彙基盤を導入することにより、地域・組織・部門・業種・業務の壁を越えた横断的な情報連携やオープンデータ利活用が可能になると期待される。

駅情報

病院情報(通常時) 運行情報

自治体A

災害拠点病院情報

駅情報

病院情報(通常時)

自治体B 公共交通機関

情報連携・情報提供時の課題 共通語彙基盤の導入

情報提供主体や種別・役割ごとに表現形式やデータ形式が異なり一元的な情報活用が困難

駅情報

病院情報(通常時) 運行情報

自治体A

災害拠点病院情報

駅情報

病院情報(通常時)

自治体B 公共交通機関

×

×

×

××

バラバラの形式

統一の形式

共通語彙基盤(統一ルール)

同一施設の情報を(種別・役割によらず)一元的・横断的に活用可能

アプリを作りづらい!

情報が見づらい! アプリの横展

開が可能!色々比較しやすい!

Page 8: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

経済産業省のオープンデータの取組

6

テーマとして数度にわたり実施しています。

3.最近の経済産業省の施策

 以上の取組を踏まえ、経済産業省では現在、オープ

ンデータを活用したビジネスの創出に特に力を入れて

います。

 欧米など、先進的にオープンデータに取り組んでい

る国においては、オープンデータと民間データを融合

した規模の大きなビジネスが生まれてきている一方、

我が国のオープンデータのビジネスは発展途上であ

り、アプリケーションの開発も公共性の高い部門など

に限定されています。

 この状況を打破し、今後の新たなビジネスの創出や

サービスの高付加価値化を実現するために、当省が取

り組んでいる主な施策について以下に説明します。

①ビジネス化を加速させる新たな主体の巻き込み・

マッチング

 オープンデータを活用するハッカソンやコンテスト

等のイベントの成果は、ビジネス化に向けて大きな可

能性を秘めている一方、それらのイベントの成果は集

約されておらず、議論が毎回ゼロからスタートするこ

とも頻繁にあり、効果的・継続的なアイディア出しや

アプリ作成が難しい状態にあります。また、創出され

たアイディアやアプリがビジネスとして成立するまで

には至っておらず、アイディアやアプリを創出した人

材とビジネス化を支援する人材とのマッチングが求め

られています。

 このため、経済産業省では、一般社団法人リンク

データの協力のもと、全国的に行われているオープン

データを活用したイベントの成果を集約し、一元的な

検索を可能にするとともに、アイディアやアプリを創

出した人材とビジネスパートナーとのマッチングを支

援する「Knowledge Connector(β版)」を構築し、平

成26年11月 7 日から公開しています。

 「Knowledge Connector(β版)」の主な機能として

は、①アイディア・アプリ情報登録 / 検索機能(過去

に実施されたイベント等で創出されたアイディア・ア

プリの情報を登録し、検索する機能)、②利用者登録

/ コンタクト機能(ビジネスしたい人や課題を解決し

たい人、支援できる人(アプリ開発者、投資家等)な

どの利用者のプロフィールや、ビジネス化に向けたア

イディア・課題等を登録し、利用者同士でのコンタク

トを可能とする機能)を実装しています。

 さらに、今後、実際のマッチングの機会を提供する

ため、経済産業省の主催により、オープンデータを活

用するビジネスのマッチングイベントやビジネスプラ

ンのコンテストを開催する予定であり、「Knowledge

Connector(β版)」を通じた取組と連動して、優秀な

アイディアやアプリのビジネス展開をハンズオンで支

援していく予定です。

②地域におけるオープンデータ産業の確立

 前述のとおり、地方自治体においても、オープン

データ活用の取組が進展してきている一方、オープン

データの活用を通じた、公共サービスの高度化・地域

課題の解決や、地域における産業創出の成果は、まだ

モデルとして定着してきていません。

 経済産業省では、地域におけるオープンデータを活

用したビジネスモデルの確立に向け、事業の中で松

江市との連携関係を構築し、自治体からデータを開放

し、それを実際の公共サービスの高度化やビジネス創

出につなげていく取組を実践しています。

 今年度の事業では、民間事業者が、松江市や公的機

関が提供するオープンデータを利活用しやすい形式

(csv 形式、RDF 形式、共通語彙基盤形式、API の提

供等)に加工し、地域の IT 企業等に提供するビジネ

スモデルを確立します。このビジネスモデルは、昨年

度に当省が実施した実証事業において、ビジネスとし

て成立する可能性を検証したもので、今年度の取組で

はそのビジネスモデルの具体化を行っています。

 具体的な地域課題の解決や産業創出に向けては、松

江市とともに、地域課題の解決に資するアプリケー

ションのアイディアを募集するコンテストを開催しま

す。本事業のコンテストは、松江市側が解決を望む地

域課題とともに、オープンデータを提供し、その後の

アプリケーション開発を前提としており、最優秀賞に

選定されたアイディアは、事業内で実際に開発を行い

Page 9: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

経済産業省のオープンデータの取組

7

ます。開発したアプリケーションは実際に市民に利用

してもらうことで、オープンデータを活用した行政

サービスのアウトソーシングとしての効果を検証する

予定です。

 本事業を通して、オープンデータに取り組む自治体

が、民間企業や地域の IT 事業者との連携関係を構築

することにより、行政サービスの一部を民間サービス

で代替して提供し、行政コストの低減と地域課題の課

題を同時に達成するという、一連のサービスモデルを

確立することを目指しています。

③自治体オープンデータの共通語彙対応

 前述のとおり、経済産業省では、独立行政法人情報

処理推進機構と協力し、異なる行政機関のオープン

データや民間データを連携して活用しやすくする環境

を整えることを目的とし、「共通語彙基盤」やそれを

活用するためのツール類の構築を行っています。

 共通語彙基盤は、様々な行政機関の情報交換やオー

プンデータに活用されることによってその効果を発揮

します。そのため、構築した共通語彙基盤が自治体等

の行政機関に、いかに浸透し、活用されるかが重要で

す。

Knowledge Connector(β版)

Page 10: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

経済産業省のオープンデータの取組

8

 今後、異なる行政機関のオープンデータを連携して

活用するニーズ、つまり、広域レベルでオープンデー

タを統合するニーズとして期待が集まっている分野と

しては、2020年の東京オリンピック・パラリンピック

に向けた、防災・観光などの行政情報の提供があげら

れます。訪日外国人に向けた行政情報の提供に当たっ

ては、複数の自治体が保有するデータを、共通語彙基

盤の導入により互いに連携可能とするとともに、整備

した語彙について多言語化(翻訳)を行い、利用者の

母国語に合わせた情報提供を可能とする必要がありま

す。行政サービスで用いる情報の多言語化は、一般的

に高コストであり、また、品質管理が難しいことから、

多くの自治体にとって課題となっています。

 経済産業省では、共通語彙基盤により構造化した行

政情報を、地域の教育機関等と連携して多言語化を行

うソリューションの確立を目指しており、今後、全国

の自治体等において、外国人向けサービスを足掛かり

の一つとして、共通語彙基盤が展開していくことを期

待しています。

経済産業省商務情報政策局情報プロジェクト室E-mail:[email protected] DATA METI http://datameti.go.jp/

ビジネスモデルの構築

Matsueオープンデータバンク

利用

提供

登録登録

アプリ

活用

企業 市民松江市アプリ開発者

地域課題解決へつながるよう協力地域課題を解決するサービス例)子育て世代向け情報配信  助成制度配信  民間サービスとのコレボレーション

オープンデータ登録・管理サイト

RDF準拠XML、Excel

SPARQL Endpoint

オープンデータ検索・取得

松江市におけるオープンデータ実証事業

Page 11: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

9

1.はじめに

 「福井県」と聞いて何を思い浮かべますか。「幸福度

日本一」、「学力・体力トップクラス」、「越前がに」、「恐

竜」、「永平寺」…。全国から見れば地味なイメージを

持たれがちな福井県が、平成25年12月26日木曜日午

後 1 時、県ホームページ上に「福井県オープンデータ

ライブラリ」を開設することにより、オープンデータ

の取組を始めました。そして、今では、オープンデー

タの先進県と認めてもらえるようになりました。本県

が、「何のためにこのような取組を始めたのか」、そし

て「どこへ向かおうとしているのか」をこれから説明

させていただきます。

2.オープンデータとは

 オープンデータとは何なのでしょうか? 有川浩原

作、榮倉奈々・岡田准一主演の映画「図書館戦争」を

ご覧になりましたか。そのラストの方で、週刊「世相」

という雑誌が新聞のように号外を配布するシーンがあ

ります。その号外には「複写可」と記載されており、

その号外の画像がメールやフェイスブックによりどん

どん広がっていく様子が出てきました。実はこれが広

い意味でのオープンデータなのです。

 オープンデータとは「データ、特に公共データを、

営利・非営利を問わず、誰もが自由に再利用を可能な

形で公開すること」です。例えば、本県ホームページ

のサイトポリシーの「著作権について」には、次のよ

うな記載があります。「このサイトにおけるコンテン

ツの著作権は、福井県に帰属します。著作権法上認め

られた場合を除いては、無断での複製・転用はできま

せん。個々の写真・文章等の二次利用をご希望の方は、

それぞれのページの担当課にご相談ください。」。つま

り、本県ホームページ上の文章やデータ等をそれぞれ

福井県のオープンデータの取組

福井県 総合政策部 政策統計・情報課

県トップページ右下にバナーを設置

福井県トップページと「福井県オープンデータライブラリ」のバナー

Page 12: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

福井県のオープンデータの取組

10

のページの担当課の承諾なしで使用しようとする場合

は、著作権法に抵触する可能性があるということです。

 これに対し、オープンデータは公共データを公共財

として商用も含め自由に活用してもらおうというもの

です。

 日本では、平成24年 7 月に「電子行政オープンデー

タ戦略」が政府の高度情報通信ネットワーク社会推進

戦略本部(IT 総合戦略本部)で決定されました。そ

の中では、「公共データは国民共有の財産であるとい

う認識の下、公共データの活用を促進するための取組

に速やかに着手し、それを広く展開することにより、

国民生活の向上、企業活性化等を図り、我が国の社会

経済全体の発展に寄与することが重要」と述べられる

とともに、公共データの活用を促進する意義・目的お

よび公共データの活用の取組を進めるための基本原則

が記載されています。

 意義・目的とは次の 3 つです。まず「透明性・信頼

性の向上」です。これは、公共データが二次利用可能

な形で提供されることで、国民が政府の政策等につい

て十分な分析・判断を行うことが可能になり、行政の

透明性が向上し、国民の行政への信頼性が高まるとい

うことです。 2 つ目は「国民参加・官民協働の推進」

です。これは、公共データの官民共有が進むことによ

り、官民協働の公共サービスや民間サービスが創出さ

れるということです。 3 つ目は「経済の活性化・行政

の効率化」です。これは、公共データの提供により、

新ビジネスの創出や企業活動の効率化等が促され、国

全体の経済活性化が図られるとともに、行政でも公共

データの分析等により業務の効率化・高度化が図られ

るということです。

 また、オープンデータに取り組むための基本的な方

向性は、「①政府自ら積極的に公共データを公開する

こと」、「②機械判読可能な形式で公開すること」、「③

営利目的、非営利目的を問わず活用を促進すること」、

「④取組可能な公共データから速やかに公開等の具体

的な取組に着手し、成果を着実に蓄積すること」の 4

つとなっています。

 アメリカ合衆国やヨーロッパでは、オープンデータ

の取組が更に進んでいます。オバマ大統領は政権公

約として「オープンガバメント」、「オープンデータ」

を掲げました。さらに、就任からわずか 4 か月後の

2009(平成21)年 5 月には政府のデータカタログサ

イト「DATA.GO」を立ち上げ、注目を集めることと

なります。

3.何から始めたのか

 それでは、なぜ本県がオープンデータの取組を始め

ることになったのでしょうか。

 国内の自治体で最初にオープンデータを始めたの

は、福井県鯖江市で平成24年 1 月からです。翌25年

2 月には、この鯖江市の先進的な取組を福井県市町

情報主管課長会議の場で県および市町の課長に紹介し

てもらいました。その後、この取組に刺激を受け、坂

井市、越前市、敦賀市、福井市の順にオープンデータ

の取組が開始されました。これらの市では、オープン

データの公開後、それを活用した Web アプリが作成

されましたが、これらのアプリはいずれも当該自治体

の区域でしか使うことができません。例えば、鯖江市

では現在地から一番近い AED を探すアプリがあり、

これを福井市で使っても、鯖江市の AED の場所しか

表示できません。通常、鯖江市民が日常生活で市境を

意識して市内のみを活動範囲とするなどということは

ありませんから、この問題点を解消するためには、鯖

江市とその周辺自治体のデータも含む、より広域の

データが必要になります。データが広域になればなる

ほど、アプリを活用できる区域も広がり、利用者に

とって便利になります。そして、便利になるだけでな

く、アプリ作成者にとっては、ビジネスチャンスも広

がることとなります。鯖江市のデータのみのアプリは

鯖江市のみが市場となりますが、日本全国のデータが

使えるアプリは日本全国を市場とすることができ、さ

らに利用者が増えていくことにより、広告収入を得る

可能性が広がるからです。

 そこで、せめて県内全域だけでも 1 つのアプリでカ

バーできないか。そのためには県として何をすればよ

いのか。これがわたしたちの出発点となりました。

 各自治体がバラバラな内容・形式でデータを出して

も、アプリ作成者にとって不便で非効率です。また、

Page 13: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

福井県のオープンデータの取組

11

内容や形式を自分で検討しオープンデータを始めなさ

いというのでは、まだ取組を始めていない自治体には

高いハードルを設定することとなってしまいます。こ

れらの課題をまとめて解消するための策として考え

ついたのが、県と県内全自治体が話し合ってオープン

データの内容・形式を統一することです。こうするこ

とで、アプリ作成者や利用者により便利なデータを公

開することができ、オープンデータを始めていない自

治体でもスタートを切りやすくなると考えました。

 この考えに基づき、本県では平成25年度の 9 月補正

予算で「公共データ民間利活用推進事業」という事業

を創出しました。この事業の柱は 3 つです。

  1 つ目は、オープンデータの公開です。公開を目指

すデータは、本県が所管するデータ(県単独データ)

のみならず、前述のように県および県内全市町共同

データの公開を目指すものです。

  2 つ目は、公開するオープンデータを活用するデモ

アプリの作成・公開です。県が突然「オープンデータ

始めました!」と言っても、県民には何が始まったの

か分かりにくいでしょうし、何を目指した施策なのか

も分かりにくいでしょう。このため、目に見えて分か

りやすいデモアプリを作成し、オープンデータにより

生活が便利になることを感じてもらうことを目指した

ものです。

  3 つ目は、公開するオープンデータを活用したアプ

リコンテストの実施です。コンテストを行うことで県

内の IT 企業の活性化を図ることが目的でした。

 さらにこのコンテストにはいくつもの効用がありま

した。まず、コンテストに興味を持った方が、「福井

県オープンデータライブラリ」を見ることにより、本

県のオープンデータの取組開始を広く PR できたこと

です。

 また、IT 企業からは、このコンテストがアプリを

作成するきっかけとなったということを後で聞きまし

た。そして、応募作品に使われたデータを調べること

で、どのようなオープンデータが使われやすいのかと

いうことを実際に確かめることができ、その後のデー

タの出し方を工夫することもできました。

 このように、コンテストにはいくつもの相乗効果が

あり、また、何年にもわたって行えば、そのコンテス

トへの応募を目指し、あらかじめアプリ作成に取り組

む方も出て来られることと思います。そして、将来的

にはビジネスにつながるアプリも生まれて来ることで

しょう。

4.「オープンデータ始めました!」

 まず 1 つ目の柱のオープンデータの公開です。本県

のオープンデータの取組は極力無理のかからない「ス

モールスタート」から始まりました。特殊な能力を必

要としない、職員誰もが対応可能なオープンデータの

推進こそが、この取組を息切れさせず、長続きさせる

ことができると考えたからです。

 そこで大事なのが庁内の対応です。オープンデータ

とは何か、どのように進め、何が起こるのかを職員に

理解してもらうため、各部局からメンバーを集め、勉

強会を開くことから始めました。われわれ政策統計・

情報課の職員がオープンデータについて学び、他のメ

ンバーに伝えることからのスタートでした。

 また、データ所管所属がなるべく抵抗感を持たない

方法で事業を進めていくため、あえて統一的なルール

作りは行わず、どのデータを公開するかは、データ所

管所属の判断に委ねることとしました。「既にホーム

ページ上で公開しているデータならば、オープンデー

タとして公開しても問題はないのではないか」という

説明も行いました。

 さらに、提出されるデータの形式も、データ所管所

属に委ねました。データ形式を指定すると、それが出

せない理由となり、提出されるデータの数が限られた

ものになることが懸念されたためです。

 結果、庁内からはわれわれの予想を上回る69のデー

タが提出されました。なお、データを機械判読可能な

形式に変換する作業は、われわれ政策統計・情報課の

職員が行いましたが、特別なノウハウがなくてもパソ

コンで容易に変換できる CSV 形式を採用したため、

それほど多くの手間はかかりませんでした。

 ちなみに、オープンデータを掲載するサイトも、外

部に新たなサイトを作るのではなく、通常の本県ホー

ムページと同様に CMS で作成しました。

Page 14: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

福井県のオープンデータの取組

12

 次は、県および県内全市町共同データの公開に向け

た作業です。これには、既存の「福井県電子自治体推

進協議会」を活用しました。これは、県および県内全

市町の情報主管課長による協議会で、電子申請の共同

利用等を推進するため平成17年度に設立されたもの

で、既に「電子申請部会」等の 3 つの部会が存在し

ていました。そこにオープンデータを推進するための

「公共データ民間活用推進部会」を新設し、当該部会

で協議し、合意できたデータは、県および県内全市町

で内容・形式を合わせて公開することとしました。こ

の第 1 弾として県有・市町有の「公共施設情報」を

県・県内17市町共同のオープンデータとして公開する

こととなりました。

 次に 2 つ目の柱であるデモアプリの作成です。オー

プンデータの活用のされ方として最も分かりやすいの

はアプリではないでしょうか。そのため、デモアプリ

の作成にあたってもいくつか工夫をしました。まず、

アプリ形式はパソコン、タブレット端末などから見る

ことができる Web アプリとしました。使用するデー

タについても、「公共施設情報」、「おでかけふくい(イ

ベント情報)」、「『若狭路ご膳』登録メニュー提供店」、

「おいしい福井県産そば使用店認証店」といった県民

になじみやすいものを選びました。かつ、民間の知恵

や力を活用するため、公募型プロポーザルを行い業者

を選定しました。その結果、生み出されたのが Web

アプリ「福井オープンイベントナビ」です。このアプ

福井県オープンイベントナビ

福井県のオープンデータ「イベント情報」「施設情報」「おいしい福井県産そば使用店認証店」「『若狭路ご膳』登録メニュー提供店」を利用し、いろんな情報が地図上でまとめて見ることができる観光用アプリケーション

GPS 情報による現在地周辺の画面

現在地周辺の福井県産そば使用認証店を選んだ画像

Page 15: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

福井県のオープンデータの取組

13

リは、アプリ作成者、特に学生のみなさんの参考にな

ればと考え、オープンソースとして公開しています。

 最後に 3 つ目はアプリコンテストです。スマート

フォンにダウンロードして使用するアプリではなく、

より作成しやすい Web アプリを対象とした「福井県

Web アプリケーションコンテスト」の募集要項を「福

井県オープンデータライブラリ」の開設と同時に公表

しました。

 どのくらいのレベルの作品がどのくらいの数が集ま

るのか、正直、応募受付期間終了 1 週間前まではどき

どきでした。しかし、最終的には、県内・県外から広

く21作品(県内12、県外 9 )の応募があり、またレ

ベルの高い作品が多かったので関係者一同、胸をなで

下ろしました。アプリ完成までいかなかったものやア

イデアだけで終ってしまったもの、コンテストと聞い

てデータを見たけれどもそこで終ってしまったものな

ど、21作品をいわば「氷山の一角」と考えると、水面

下には大きな PR 効果が隠れているものと考えていま

す。応募作品のレベルについても、オープンデータ関

係者の方から、「レベルの高い物が集まった。」という、

うれしい評価もいただきました。

 これら本県のオープンデータの取組は、関係者のみ

なさんから高い評価をいただき、「Linked Open Data

チャレンジ Japan 2013」で審査員特別賞である「オー

プンデータ推進賞」を受賞することができました。

5.オープンデータの今後

 オープンデータに取り組み始めて 2 年目の今年、

われわれはいくつもの課題に直面しています。先日、

総務省のオープンデータ担当の方とお話した時もその

ことが話題となりました。「オープンデータの活用が

広がっていかない。」「アプリが生まれない。」「オープ

ンデータを使った有効なビジネスモデルを生み出せな

い。」「福井県が直面している悩みが、そのまま国の悩

みです。福井県は日本のトップランナーです。」「まだ

日本ではオープンデータの取組の確かな成功例はあり

ません。それを作り出すのがわれわれの役目なので

す。」「悩むよりは、もがいてみる。」「様々な機会を利

用して、福井県の取組をアピールする。そのアピール

が新たな繋がりを生み、それらを通じて、次へのス

テップを生み出せないか。」

 オープンデータを始めるのは、至って簡単です。

著作権フリーのデータを 1 つでも公開すれば、「オー

プンデータ始めました!」と言うことができるのです

から。大事なのは、その後です。データを出すことは

簡単ですが、古いデータでは使ってもらえません。そ

のためデータの鮮度を確保する必要があります。デー

タの数が増えていけば、鮮度の管理も大変になります

し、利用者が探しやすいカタログサイトの作り方にも

工夫が必要になります。これらの課題への対応を、本

県も検討している最中です。

 いずれオープンデータが当たり前になる世の中が

きっときます。そうなれば、行政の仕事の進め方も変

わり、オープンデータ化を前提とした資料作成、シス

テム設計等が行われることになるでしょう。 Web の

広がりを見てください。ほんの十数年前まではイン

福井県 Web アプリケーションコンテスト最優秀賞受賞作品 ふくいツアーアテンダント

「海」「山」「近所」の 3 カテゴリから百景のスポットを地図上に表示するアプリ。詳細ページから「食べる」「お土産」をクリックするとそのスポットの周囲のグルメ情報、ショップ情報が地図上に表示されるアプリ。

メインメニュー画面

Page 16: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

福井県のオープンデータの取組

14

ターネットは一部の人たちだけのものでした。しかし、

今やインターネットのない生活など想像できないくら

いに普及しています。今後、オープンデータもそのよ

うになっていくかもしれません。そのような時期が到

来するまで、息切れすることのないよう、なるべく手

間を掛けないオープンデータ推進の工夫が必要となっ

てきます。

 先程、「スモールスタート」について触れましたが、

オープンデータは効果の把握が難しい事業です。オー

プンデータを始めたからと言って、すぐにたくさんの

アプリが出来るわけではありません。そのアプリがど

のくらい使われているかも作成者しか分かりません。

ましてや、ビジネスモデルとなるアプリが生み出され

るのは、まだ先のことではないでしょうか。

 本県は「どのようなオープンデータを出せば、ど

のような活用がされるか」「このデータを出すのは、

こう活用して欲しいから」このようなことを考えて、

データを公開している訳ではありません。われわれの

役目は、データの「八百屋」のようなものだと思って

います。注力するのは、なるべく多くの新鮮な野菜

(データ)を揃えることです。野菜の鮮度が大切なよ

うに、データも鮮度が大切です。また、調理法を考え

た品揃えは極力行わない。「八百屋」がこんな料理を

作ってもらおうと思って野菜を揃えるのは決して健全

なこととは思えません。アプリ作成者やデータサイエ

ンティストに自由に料理の腕をふるってもらうために

福井県 Web アプリケーションコンテスト優秀賞受賞作品 防災福井

地図上に雨量や河川の水位、ライブカメラを重ねて表示し、現地へ行くことなくリモートで確認できるアプリ

ポータル画面

福井県 Web アプリケーションコンテスト優秀賞受賞作品ふくいず絶景版

福井の絶景を見ての 4 択のクイズアプリ。正答数により演出が変わるというやり込み要素も備えている

スタート画面

Page 17: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

福井県のオープンデータの取組

15

は、料理方法を前提にしない品揃えが大切だと思いま

す。

 ただし、「料理人」との対話は必要ですし、要望も

聞かせてもらわなければなりません。現在、県内の

IT 事業者によるオープンデータ推進団体の立ち上げ

の動きがあると聞いています。このような団体ができ

れば、「料理人」と「八百屋」の新たな対話ができる

のではないかと楽しみにしています。

 従来、行政は、作りたいアプリのアイデアを出し、

データを準備し、アプリ作成者に委託することで、ア

プリを作成してきました。今後、オープンデータが浸

透すれば、行政はオープンデータを出すだけとなりま

す。それを活用し、アイデアを出し、アプリを作成す

るのは民間の方々です。そして、多くのみなさんがそ

のアプリを使い、生活の利便性を向上させることにな

るのです。

 このような情報発信の転換を起こすためには、子ど

もたちに対するプログラミング教育や IT 産業の振興

等、様々な施策との組み合わせや横の連携も必要とな

ります。今後、これらを担当する部署や人々と協力し、

本県のオープンデータと取組方法を全国に広げていく

ことを考えています。

 我が国のオープンデータの取組のユニークな例とし

ては、漫画家の佐藤秀峰氏が「ブラックジャックに

よろしく」をオープンデータにしたことが知られてい

ます。今後は、アプリの作成のみならず、印刷物等と

しての活用も視野に入れ、画像やパンフレット等の解

説文もオープンデータとし、機械判読可能に限らない

オープンデータの推進にも力を注いでいきたいと考え

ています。オープンデータ画像を使ったガイドブック

や写真集、また包み紙なども面白いのではないでしょ

うか。

 福井県は、このようにオープンデータの冒険を始め

ました。この冒険はこれからも続きます。今後も、様々

な試行錯誤が必要となるでしょう。また、思いもよら

ないような出来事が起こるでしょう。冒険には仲間が

必要です。この文章を読んでくださっているみなさん、

是非仲間になってください。みんなで知恵を出し合っ

て一緒に進んでいきましょう。今後のオープンデータ

の発展のためには、データの広域化、標準化が必要と

なってくることでしょう。そのためにも、多くのみな

さんに連携していただきたいのです。

 現在、本県のオープンデータの活用例はアプリしか

ありませんが、これからもオープンデータを推進して

いきますので、本県のオープンデータの展開に注目し

ていただくとともに、どんどんご意見をいただければ

と思っております。今後とも、福井県のオープンデー

タをよろしくお願いいたします。

〒910-8580 福井市大手3丁目17番1号福井県総合政策部政策統計・情報課

IT推進グループ電話:0776-20-0270E-mail:[email protected]福井県オープンデータライブラリ

http://www.pref.fukui.lg.jp/doc/toukei-jouhou/opendata/index.html

Page 18: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

16

1.はじめに

 特定非営利法人リンクト・オープン・データ・イニ

シアティブ(以下 LODI)1は、リンクト・オープン・

データ(以下 LOD)の国内での普及促進を目的とし

て、2012年 8 月に国立情報学研究所武田英明教授を

中心に結成された NPO である。今から 2 年半前の

NPO 結成時には予想もしなかったほどに現在国内の

オープンデータの動きは進んできており、その設立の

タイミングのよさに我々自身が驚くとともに、今後

益々大きくなるであろう LODI の社会的責任に身の引

き締まる思いをしているところである。

 本稿では、LODI のこれまでの活動とともに、短い

期間ではあるがこれまでの活動から見えてきた諸事情

も紹介して、LOD に対するご理解を得るための一助

としたい。第一に世間ではビッグデータとしばしば並

び称されるオープンデータではあるが、両者は明ら

かに異なるものであること、第二にリンクトデータ

(LD)とオープンデータ(OD)は社会的運動として

は深い関係があるが、技術的には全く別ものであるこ

と、第三にリレーショナル DB やオブジェクト指向な

ど従来ソフトウェア技術と LOD との違いと技術的優

位性など、これらの理解を得たうえで、LOD の将来

の社会的インパクトについて議論し、今後の展望につ

なげたい。

 現在、一部の大手および進んだ中小の IT ベンダー

はすでに LOD のビジネス化を図っているところであ

るが、これまで LOD が主に公共系において展開され

てきたため、製造業・サービス業を含む一般の民間企

業が LOD に対してどう向き合えばよいかは、大方の

ところで戸惑っているところであろう。読者諸氏にお

かれては、本稿を通じて LOD への心構えが得られれ

ばと願う次第である。

1 http://linkedopendata.jp/

2.LOD とはなにか

 リンクト・オープン・データ(LOD)は文字通り、

リンクトデータ(LD)とオープンデータ(OD)を合

わせた造語である。 LOD について語るとき、ファイ

ブ・スター2と呼ばれる LOD の発展スキームがよく引

用される。ここで、星 1 〜 3(脚注 2 参照)は各々オー

プンデータとして重ねあわされるスキームであり、

星 4 と 5 がリンクトデータのスキームである。 LD と

OD は応用分野において重なるところがあり、星 3 の

上に星 4 と 5 が重ねあわされるが、正確には応用目標

としても技術としても別物であり得る。すなわちリン

クトではないオープンデータもあれば、オープンでは

ないリンクトデータもある。 LOD の詳細な説明は他

稿やウェブ上の資料にゆずるが、ここでは参考資料と

して、オープンデータについてはオープンデータ流通

推進コンソーシアム3による「オープンデータガイド」

4を、リンクトデータについては我々 NPO 構成員の多

くが邦訳に関与した「Linked Data -Web をグローバ

ルなデータ空間にする仕組み」5を挙げておく。いずれ

も短時間で隅から隅までを読み通すことは難しいが、

拾い読みするだけでも、十分に有用である。前者から

は CC ライセンスや機械可読なデータの公開の仕方

を知ることができ、後者では自前のデータをリンクト

データとして世界に公開するとともに、他者のリンク

トデータと連携させる方法を知ることができる。

 オープンデータはビッグデータではない。ビッグ

データとは大量の生データから価値ある情報を引き出

す技術であるが、大量であるがゆえに統計情報や要約

では従来顧みられなかったロングテール部分のデータ

に注目して、それを生かすことができるところに新し

2 http://5stardata.info/ja/3 http://www.opendata.gr.jp/4 http://www.opendata.gr.jp/news/1407/140731_000866.php5 http://linkedopendata.jp/?p=241

リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動

リンクト・オープン・データ・イニシアティブ 理事 小出 誠二、高橋  徹

Page 19: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動

17

い特徴がある。一方、しばしばオープンデータはビッ

グデータであるとは言え、数百から数千のスモール

データでもオープンとすることに価値があれば、オー

プンデータと成り得る。ビッグデータではデータの所

有者が目的意識的にデータを利用するが、オープン

データは究極的には価値創造を目的とするとは言え、

しばしば価値創造の主体はデータの所有者とは異なる

他者であり、オープンにすることによってデータの潜

在的価値を社会やコミュニティに還元することが直接

の目的である。したがって、本来公共のものであるべ

き中央政府、地方自治体、公共団体施設などのデータ

と相性がよい。オープンデータがビジネス展開の種に

なることはあり得るが、ビジネスに直接結びつかない

ことがオープンデータの価値を減ずるものではない。

リンクト・クローズド・データについては後述する。

3.LOD 国内外の状況

 LOD はウェブの提唱者である Tim Berners-Lee が

2006年ごろから「次世代のウェブ」として提唱し推

進6してきたものである。今日では日本も含め、世界

の主要な国々で中央・地方の政府系のオープンデータ

(Open Government)の動きが活発7である。その一般

的な歴史的経緯と現状報告については他稿に譲り、

ここでは我々 LODI 独自の目からみた日本における

LOD について振り返ってみたい。ちなみに、鍵括弧

部分は筆者の私的なブログにおける一年を振り返って

の翌年正月元旦記事のタイトルである。

・2010年「今度の LOD は本物 ?(2011年元旦)」

 LOD の上位分野であるセマンティックウェブは、

日本の一部の人工知能研究者ら8やセマンティック

ウェブ委員会9などのそれまでの尽力にもかかわら

ず、研究者コミュニティの範囲を超えることはなかっ

た。ところが2010年セマンティックウェブの下位分

6 http://www.ted.com/talks/tim_berners_lee_on_the_next_web?language=ja

7 http://www.slideshare.net/takeda/dimensions-of-open-data-activities-in-japan-policy-technology-and-community

8 http://sigswo.org/9 http://s-web.sfc.keio.ac.jp/

野である LOD が国内でも立ち上がってきて、研究

者にとってその勢いは将来に期待を持たせるもので

あった。Tim Berners-Lee による提唱から 4 年遅れで

LOD の波頭がまずは日本の研究者に押し寄せたこと

になる。このとき国立情報学研究所ではすでに図書情

報、美術品、生物種名などを対象に、LOD 研究を進

める LODAC プロジェクト10を展開していた。

・2011年「新しい時代の予感(2012年元旦)」

 2011年は LOD が研究者コミュニティを超えて社会

的な広がりを見せた。 Facebook に Linked Open Data

Japan グループができ、最初から100名弱のメンバー

が集まった。国立情報学研究所の武田グループはそ

の必要性を見て、現在もベストの LOD 教科書である

「Linked Data -Web をグローバルなデータ空間にす

る仕組み」(前掲)の翻訳作業を開始した。

・2012年「来ました LOD 元年(2013年元旦)」

 2012年 8 月に LODI が結成されるが、直後に日本

で初の LOD の公式プロジェクト、経産省のオープン

データ・カタログサイト11が開始され、日立コンサル

ティングとともにこのサイト立ち上げに貢献した。こ

の年、我々の予想をはるかに上まわって、オープン

データの動きが中央政府、地方政府をはじめとして熱

をおびてくる。産官学共同でオープンデータを推進す

るオープンデータ流通推進コンソーシアム12が発足す

るのもこの年である。

・2013年「LOD 2 年です(2014年元旦)」

 日本政府全体のオープンデータ・カタログサイトが

予告より数次の遅れをもってでも2013年内には立ち

上がる。この年は、それまで関東に比べて遅れ気味で

あった関西での動きが熱を持った年となった。また横

浜市金沢区では LOD 技術により子育てに関するロー

カルな情報を提供する金沢育ナビ13が立ちあがって

10 http://www.slideshare.net/takeda/lodac11 http://datameti.go.jp/12 http://www.opendata.gr.jp/13 http://kirakana.city.yokohama.lg.jp/

Page 20: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動

18

LOD 先進例として全国的に有名になる。

・2014年「LOD 着実な発展」

 特に我々LODIとして特筆すべきは、2014年始めに、

英国政府の支援を受けてオープンデータを推進するグ

ローバルな組織であるOpen Data Institute14のシティ・

ノードとして大阪市と共同して大阪 ODI15が結成され

たことである。これはソウルと並んで、アジアで初の

ODI ノードである。関西ではこの年も引き続き LOD

のハッカソンなどが多く展開されてきている。

 本節の最後に日本におけるオープンデータの広がり

を感じさせるものとして、LOD チャレンジ実行委員

会による LOD チャレンジへの年度ごとの参加作品数

の変化16を脚注に掲げ、インターナショナル・オープ

ンデータ・デイ(IODD)に参加都市数の変化を下表

に掲げる。なお、2015年は 2 月21日に参加都市数100

を目標に開かれる予定である。17

日本に於けるインターナショナル・オープンデータ・デイの広がり

年月日 参加都市 都市数

2013/2/23 青森、会津若松、千葉、東京、名

古屋、鯖江、福岡

8

2014/2/22 旭川、札幌、青森、滝沢、仙台、

会津若松、前橋、須坂、上田、千

葉、流山、東京1、東京2、東京3、

二子玉川、川崎、横浜、藤沢、静岡、

湖西、金沢、(鯖江、越前、福井)、

岐阜、名古屋、大阪、京都、丹波、

松江、徳島、北九州、飯塚、佐賀

32

4.自主事業の紹介

 LODI 発足当初掲げられた事業は以下のとおりであ

る。

・Linked Open Data 並びにオープンデータに関す

る調査研究事業

14 http://theodi.org/about-us15 http://theodi.org/nodes/osaka16 http://www.slideshare.net/fullscreen/

lodjapan/20141114-41444220/917 http://i.impressrd.jp/e/2014/11/15/1265

・講座やシンポジウムの開催

・Linked Open Data 並びにオープンデータへの取

り組み支援

・オープンデータへの取り組み評価

・コンテストの開催

 発足当初には自主的な調査研究実施や、講座やシン

ポジウムの開催などが主なものと想定されていたが、

日本でこれほど急速にオープンデータが立ち上がると

は想像もしていなくて、実際には官民からの委託業務

への対応に追われて自主的な調査研究や講座が十分で

はなかったという反省がある。創業年の下期には経

産省によるオープンデータ・カタログサイト(ベータ

版)の立ち上げを支援し、翌年2013年にはそのオー

プンデータを用いたアイデアソン18やヴィジュアライ

ズソンの実施に協力した。これらでは単にオープン

データ・カタログサイトの立ち上げに留まらず、政

府統計データのリンクトデータ化19や、有価証券報告

書等の電子化国際標準である XBRL20による EDINET

データ21について業界トップ50社のリンクトデータ化

を行った。また2014年には内閣官房による日本政府

全体のオープンデータサイトの試用版から本格版への

移行に日立グループ下で協力した。

 これまでも地方自治体、ハッカソン等々で LOD 普

及活動はしていたが、当初想定していた講座開催を自

主事業として行ったのが、LODI 理事を講師として横

浜で行った日本初の LOD 連続講座22である。受講者

の中にはこれを終了して現在この方面で活躍中の技術

者が複数名いる。

 その他、企業へのコンサルティング、地方自治体の

オープンデータへの取り組み支援、各種ハッカソンへ

の協力、コンテスト開催への協力、各種関連文献翻訳

公開など、この 2 年半の間の活動は上記以外にも多く

あるが、さしつかえない範囲で主なものを以下に列挙

する。

18 https://www.facebook.com/events/255060791308527/?ref=2219 https://kaigi.org/jsai/webprogram/2013/pdf/728.pdf20 http://www.tse.or.jp/rules/td/xbrl/about.html21 http://disclosure.edinet-fsa.go.jp/22 http://linkedopendata.jp/?cat=17

Page 21: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動

19

・鯖江市 データシティさばえへの技術支援

・iOS アプリ「さばえぶらり」の開発支援

・横浜オープンデータポータルへの技術支援

・総務省統計センター 標準地域コードのスキーマ

設計支援

・第14〜16回図書館総合展での展示

・LOD チャレンジ2012〜2014の後援

・Linked Open Data ハッカソン in 関西(第 1 回〜

第 3 回)

・オープンデータ京都勉強会の主催

・インターナショナル・オープンデータ・デイ in

横浜、東京、流山、大阪、京都

・CKAN 日本コミュニティミートアップ

・横浜、京都、まちあるきオープンデータソン

5.関西での活動の紹介

 ここで上記と多少重なるところもあるが、KIIS 読

者諸氏には特に興味があるであろう、関西地区でのこ

れまでと今後の LOD 活動について、述べる。

 2013年のインターナショナル・オープンデータ・

デイ(IODD)にわずか遅れて、2013年 4 月20日、京

都リサーチパーク町家スタジオにて、第 1 回オープ

ンデータ京都勉強会を開催した。これが国際会議など

の学術イベントをのぞいて、関西地域における最初の

オープンデータ・イベントではないかと思われる。

 2013年 IODD の福岡を除く西日本では、当時、オー

プンデータコミュニティの形成ができておらず、関西

の都市の IODD への参加は残念ながらひとつもなかっ

た。その状況に危機感を抱いた関西在住の LODI メ

ンバーにより、翌2014年の IODD に向けたコミュニ

ティ作りをめざし、京都では 4 月と 6 月に計 2 回の

「オープンデータ京都勉強会」を催した。また 7 月に

は、梅田に新しくできたばかりの複合商業施設「グラ

ンフロント大阪」内に大阪市が設けたグローバルイノ

ベーション発信拠点である「大阪イノベーションハブ

(OIH)」にて、第 1 回「オープンデータとソーシャ

ルデザイン研究会」を開催した。

 このようにオープンデータの勉強会スタイルから始

まった関西における LODI の活動であるが、その後、

京都と大阪では異なるコミュニティ形成の経緯をたど

ることとなった。

 京都では、 2 回の「オープンデータ京都勉強会」が

成功をおさめた後、勉強会の企画者や参加者の有志に

より「オープンデータ京都実践会」という任意団体が

結成され、市民による自発的なオープンデータ活動の

流れが生まれた。「オープンデータ京都実践会」には

LODI のメンバー以外に、IT 技術者やオープンソー

スコミュニティ関係者、地理情報システム(GIS)コ

ミュニティ関係者、まちづくり活動関係者、図書館関

係者などが参加して、「市民により地域のオープンデー

タを作成する」実践的な活動を志向している。

 この「オープンデータ京都実践会」を中心として

2014年の「インターナショナル・オープンデータ・

デイ in 京都」は開催された。そこでは「まち歩きオー

プンデータソン」と称して、地域のボランティアガ

イドの案内によるまち歩き組み合わせて「Wikipedia

TOWN」「Open Street Map マッピングパーティー」「デ

ジタル古地図まち歩き」の 3 つのオープンデータ活動

が行われた。 Wikipedia TOWN とは、オープンなオ

ンライン百科事典である Wikipedia や、同じくオープ

ンなメディアファイルデータベースである Wikimedia

Commons への投稿・編集の方法を学び、実際にまち

歩きで得られた知識を参考文献に基づいて Wikipedia

を編集したり、撮影した写真を Wikimedia Commons

に投稿したりするという活動である。マッピングパー

ティーは、オープンな地理情報データサービスである

Open Street Map のデータ作成方法を学び、まち歩き

を通じてそのデータ作成をみんなで行う活動である。

デジタル古地図まち歩きは、著作権の切れたオープン

データである古地図の画像でスマートフォンアプリを

作成し、昔と現在のまち並みを比較しながらまち歩き

を行う活動である。 Wikipedia TOWN を中心とした

「まち歩きオープンデータソン」は前年の「インター

ナショナル・オープンデータ・デイ in 横浜」にて国

内で初めて実施されたのに続き、関西で初めて開催さ

れたものであったが、プレイベントを含めて 2 日間で

83人の参加者があり好評を得て、その後も実践会によ

り継続的に開催されている。「まち歩きオープンデー

Page 22: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動

20

タソン」では、京都府立総合資料館所蔵の古地図の画

像を用いたり、京都府立図書館により会場の提供を受

けたり、京都市岡崎魅力づくり推進協議会よりまち歩

きガイド企画の支援を受けたりといった、行政サービ

スとの連携によりイベントを開催しているが、あくま

で主体は実践会によるボランタリーな市民の活動であ

る点が、後述の大阪での取組みと対照的である。現在、

地域の市民コミュニティを中心とした「まち歩きオー

プンデータソン」は奈良や福岡や長野などでも計画さ

れており、こうした活動により多くのオープンデータ

が作成されるだけでなく、Wikipedia や Open Street

Map といった著名なオープンデータサービスの編集が

できる市民が多く誕生している。

 このように京都では、行政を主体とした大規模な

オープンデータ実証実験と別の流れとしての、市民コ

ミュニティ主体のオープンデータ活動に LODI は協

力している。それに対して大阪では、グローバルイノ

ベーション創出を目的とした「大阪イノベーションハ

ブ(OIH)」を中心とする大阪市の取組みとの密接な

連携のもとでオープンデータ活動を行っている。

 LODI は OIH における最初のオープンデータの勉

強会(前述)の開催の後、OIH を開設した大阪市や

LOD チャレンジ実行委員会の関西支部などと共同で

「Linked Open Data ハッカソン in 関西」(第 1 回〜

第 3 回)を開催し、広く関西圏の技術者や学生や行政

関係者、そして何よりも大阪市職員の参加によるオー

プンデータに関する座学やアイデアソン・ハッカソ

ンなどのワークショップを企画して、オープデータに

関する意識や知識の向上をはかってきた。その結果、

大阪市職員の中でイノベーション創出に対するオープ

ンデータの取組みの重要性への認識が深まり、大阪市

ホームページでの CC BY ライセンスによる、国内の

政令指定都市として初のオープデータ提供が実現し、

大阪市都市計画局の主催による「インターナショナ

ル・オープンデータ・デイ in 大阪」(LODI は運営団

体のひとつとして参加)が開催されることになった。

大阪市より提供されたオープンデータはコミュニティ

によって LOD 化されて、ハッカソンイベントにおけ

るアプリサービスのためのデータとして活用されるこ

ととなる。またこの大阪市のオープンデータを LOD

化したものは、「LOD チャレンジ2013」におけるデー

タセット部門において「チャレンジデー賞」を受賞す

る。その後も「WEB イノベーションハッカソン」など、

2014年度もオープンデータ関連のイベントを継続的

に大阪市都市計画局とともに開催しており、また生野

区や都島区など大阪市の区単位でもオープンデータに

関する独自の事業がなされるなど、大阪市では行政が

主体的にオープンデータへの取組みを展開する流れが

進展を見せてきている。

 こうしたオープンデータを活用したイノベーション

創出に取り組む OIH の活動は国際的にも評価され、

ソウルとともにアジア初の Open Data Institute(ODI)

のシティ・ノードに認定されている。この ODI Osaka

City Node は LODI との連携により運営を行っていく

予定である。今後 OIH では、市民主体の勉強会やオー

プンデータ・イベントの開催に留まらず、ODI Open

Data Certification の日本語での提供やスタートアッ

プ支援など、オープンデータによるビジネス創出の支

援を行っていく。 LODI では、こうした国際連携の動

きとともに、関西各地で市民コミュニティや自治体の

オープンデータ活動の支援を行っている。

6.民間企業への呼びかけ

 関西情報センターのミッションは、ICT 技術を通じ

て関西地域の産業発展と地域活性化に寄与することと

理解しているが、IT ベンダー以外の会員諸氏にとっ

ては、「LOD は関係ない、なぜならばウチにはオープ

ンにするようなデータはないから」と思われるむきも

あるやと懸念する。先に述べたように、オープンデー

タとリンクトデータは技術として別物であり、LD 技

術は、社内用語統一、分散データベースの統合、ヘテ

ロなデータ統合などに有効である。我々は、現在多く

の企業でメールやウェブが社内で必須のものとなって

いるように、将来はリンクトデータ技術が一般企業で

も必須のものになると考えている。本節では民間企業

の ICT 部門担当者を想定して、オープン性の議論は

他稿に譲り、従来ソフトウェア技術との相違点につい

て、また LOD の優位性と注意点について述べる。多

Page 23: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動

21

少技術的な話になることをお許し願いたい。

・ウェブ技術 + 意味のメタデータ = リンクトデータ

 Tim Berners-Leeが主張するように23、現在のウェブ

が「文書のウェブ」であるのに対して、LD は「デー

タのウェブ」である。すなわち非常に多くのデータに

直接 HTTP アドレスが付与され、そのデータについ

てデータ生成日時とか管理者などのようなメタデータ

のみならず、意味のメタデータを付与する。ここで意

味のメタデータというのは、より本質的なデータ間の

関係のことである。これには因果関係、包含関係、上

下関係、クラス・インスタンス関係など、とにかくモ

ノ、イベント、抽象概念、クラス、場所、人名、その

他ありとあらゆる事物の間のすべての考えられる関係

が含まれる(もちろん網羅的な事物や関係が必須であ

るというわけではない。実際に必要とされるものだけ

を示せばよい。)。したがって、LD は形而上学のほか

ソフトウェア技術としては関係データベース(RDB)、

オブジェクト指向プログラミング、UML クラス図

(およびオブジェクト図)などに近い関係がある。た

だ、それらとの違いを強調すればウェブ技術が必須で

あり、誤解を恐れずに極端に簡単化すると、リンクト

データは UML クラス図(あるいはオブジェクト図)

をウェブ上に実装したものと捉えることもできる。た

だし、UML クラス図における「関係」という関係は

リンクトデータでは意味がなく、どんな関係かを明示

しなければならない。

・構造化データから非構造化データへ

 データの関係を記述するために従来 RDB が用いら

れてきたが、RDB 化するためにはデータ間の関係を

整理して表形式に表現し、さらに効率よいデータベー

スを構築するためには正規化という処置が必須であ

る。一方で、正規化されたデータを要求に応じて利用

するために、ビューとかジョインなどが必要になり、

実際には何をインデックスにするのか、どう正規化す

るのか、どのように対象をとらえて RDB スキーマと

23 http://www.w3.org/DesignIssues/LinkedData.html

してモデル化するのかに技術者が頭を悩ますことにな

る。 RDB における数学的モデルが Codd による関係

モデルであるのに対して、LD におけるモデルは RDF

グラフである。 RDF モデルでは、二つのデータエン

ティティとそれらの間の関係のみに注目する。関係モ

デルにおける n 項関係は 2 項関係に分解される。デー

タの 2 項関係のみに注目するとはいえ、関係の全体は

A-B 関係と B-C 関係を集めれば A-B-C 関係が得られ

るように、全体としてグラフ構造になり、その RDF

グラフを数学的に支えるものとして RDF 意味論が

W 3 C により明細化されている。これも誤解を恐れず

極端に簡単化すると、RDB の表をバラバラにして、

データとデータの関係のみを取り出したものが RDF

グラフであり、LD であると捉えることができる。

 RDF グラフでは、RDB のように正規化とかイン

デックス選択などに頭を悩ますことはない。ものごと

の関係をノードとエッジで構成されるグラフに描くこ

とができさえすればよい。その代り、RDF グラフを

テキスト化すると表形式よりもどうしても記述量が多

くなる。関係データベース管理システム(RDBMS)

に代わるものとして、LD では RDF ストアなるもの

が利用される。いわゆる NoSQL システムの一種であ

るが、今日では実用に耐えるものが複数あり、すでに

多くのサイトで利用されている。

 LD は RDB やクラス設計に対するパラダイムシフ

トであり、従来のソフトウェア技術者が、RDB スキー

マから RDF グラフへ、オブジェクト指向におけるク

ラス設計から LD への頭の切り替えに戸惑いやすいこ

とが、我々のこれまでの経験から分かっている。

・データからメタデータ語彙・オントロジーへ

 データ間の関係を記述するのに必須なのは、そのた

めの語彙である。 LD において標準的に用いられる何

種類かの語彙が、W 3 C その他からすでに発行されて

いるが、日本政府でも共通語彙基盤事業24において、

オープンデータの注釈用メタデータとして役立つ日本

語語彙の整備が進められつつあり25、それに関連した

24 https://www.ipa.go.jp/osc/kyoutsugoikiban25 http://www.slideshare.net/hiramoto/140606-35899251

Page 24: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動

22

関係記述のための RDF 語彙化26も企図されている。

 大企業において事業部間での用語の違いや、合併時

の両会社における用語の違いなどは問題としてよく知

られているが、政府内での語彙の標準化が進めば、そ

れに合わせて企業内標準語彙の整備も徐々に進んでい

くと思われる。すでに前述の XBRL では、有価証券

報告書で用いられる用語が整備され EDINET タクソ

ノミ27として利用されている。エンタープライズ語彙

の整備に直接的に利用可能でかつその成果を享受でき

るのが LD 技術である。また、語彙の次にくるのは語

彙間の関係を体系的に整備したオントロジーであり、

これにつながるものとしてもセマンティックウェブの

下位分野である LD は将来有望な技術である。

・LD を支える技術

 世界の事物の関係をウェブ上に表現するために、

LD では以下のような技術が用いられる。

1)IRI と名前空間

 先に述べたように、データ関係を記述するための

用語やメタデータとしての用語には http で始まる

IRI が付与される。ある分野ごとの用語のまとまり

は語彙と呼ばれるが、IRI 名前空間がこの一つの語

彙に対応するものとなる。他人に理解可能なリンク

を付与するためには、他人に理解可能な標準的語彙

を利用することが望ましいが、自社独自の語彙を用

いるためには自社のドメイン名を含む IRI を各用語

ごとに定義することになる。

2)HTTP プロトコル

 HTTP プロトコルはウェブにおける汎用的な情

報アクセスの仕組みである。 HTTP と IRI による

グローバルに一意なアドレス発行とそれを同定する

HTTP アドレス探索の仕組みが、現在のウェブペー

ジと同様に、データを世界に公開しそれらを外部か

ら利用することを可能にする。

26 http://imi.ipa.go.jp/ns/core/210/Core210_schema_rdf.zip27 http://www.fsa.go.jp/search/20130821.html

3)参照可能な IRI

 IRI 参照可能とは、HTTP プロトコルにおいて

IRI で同定されるデータの RDF 記述について何ら

かの形式で返答が得られることである。ウェブの

IRI からウェブページが参照できるように、データ

の IRI からそのデータに関する RDF 記述が参照で

きなければならない。

4)コンテンツ・ネゴシエーション

 LD では人間だけでなくエージェント(計算機ソ

フトウェア)がデータを利用する社会を描いてい

る。参照可能な IRI から返される RDF 記述は、ク

ライアントが人であれば目視にて理解可能なよう

に、エージェントであればエージェントが理解可能

な形式で返答されなければならない。この仕組みを

コンテンツ・ネゴシエーションと呼ぶ。

5)RDF ストアと SPARQL

 少数のデータでは IRI アクセスに対して同定され

るデータを含む RDF 記述をファイルとして返すこ

ともできるが、実際には何十万何百万のデータと

なることが多い。そのような場合には RDF データ

は RDF ストアに保存され、RDF ストアへのクエ

リが行われてその回答からクライアントに適切な形

式の回答が生成されて返答される。 RDB における

SQL と同様に、RDF ストアに対するクエリ用言語

が W 3 C で決められており、SPARQL と呼ばれて

いる。

 以上駆け足で LD 技術のポイントを見てきたが、

RDF ストア以外はいずれも従来のウェブ技術を利用

あるいは発展させたものである。

 LOD 実践として最初は既存の構造化データや半構

造化データを RDF 化するのが適切であるが、その場

合でもクラス語彙や関係語彙の選択や設定には特殊

なスキルが必要である。あるいは入手可能な既存の

RDF データを参考に類似の分野を選び、RDF 化の経

験を積むというのがよいかも知れない。 LODI ではす

でにいくつもの RDF 化の経験やコンサルティングの

経験がある。 LODI の社会的使命は LOD 技術の普及

Page 25: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動

23

であることから、関心のある向きは遠慮なくなんなり

とご相談いただきたい。

7.LOD の今後の展望

 LOD で用いられる RDF、RDF スキーマ、ウェブ

オントロジー記述言語 OWL は、古くは人工知能や知

識工学に起源を持つ新しい技術であり、古いスピリッ

トが新しいウェブという革袋を得て、装いも新たに生

まれたものと見ることもできる。TCP/IP プロトコル

に支えられた LAN の時代から、現在は HTTP プロト

コルに支えられたウェブの時代になり、現在 Google

に代表される検索技術に支えられた検索と情報爆発の

時代となった。そして今 RDF に支えられた LOD の

時代が来ようとしている。いずれも過去の技術に支

えられて、その上に情報からデータへ、データから知

識へと高度化していくことが見て取れる。さらに次に

は LOD に支えられた知識社会が生まれるものと予想

される。一年前の我々のキーワードは「生データは産

業の米」であった。これは当然のことながら「鉄は産

業の米」と「半導体は産業の米」を下敷きにしている

が、将来は文字通り「知識は産業の米」となるだろう。

LOD はその過渡期に生まれた知識産業のインフラス

トラクチュア技術である。

小出 誠二

LODI 理事、国立情報学研究所特任研究員、博士(情報学)。民間会社(重工業)にてエキスパートシステムや宇宙ロボットなどの人工知能応用システムの開発に従事。 ICT 国家プロジェクトにも参画。退職後現職。在職中からセマンティックウェブ研究に従事。

高橋  徹

LODI 理事・関西支部長、ODI Osaka リーダーシップチームメンバー、国際電気通信基礎技術研究所研究員、㈱ ATR Creative チーフプロデューサ、博士(工学)。文化的・社会的な場を主なフィールドとして、ICT 技術の活用について研究とビジネスと両面から活動を行う。また、Web アーキテクチャーやオープンデータに関心を持ち、現在は行政・文化施設・地域コミュニティにおけるオープンデータ化に関する活動に取り組む。

Page 26: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

24

 今、オープンデータの取組が国内外で注目を集めて

いる。オープンデータに関する国内外の取組を紹介す

るとともに、オープンデータを活用したビジネスの可

能性について解説する。

1.オープンデータとは何か

 オープンデータとは、政府や独立行政法人、自治体

などの地方公共団体が保有する公共性の高い機会判読

可能(マシン・リーダブル)な公共データを、企業や

個人が商用利用も含む自由に編集・加工、再配布など

ができ、かつオープンライセンスで提供するデータだ。

 オープンデータの定義は、The Open Knowledge

Foundation(OKFN)が策定した「Open Definition

Version 2.0」が広く参照されている。

Open Definitionhttp://opendefinition.org/

原則としてのオープンデータなど 5 原則が示された「オープンデータ憲章」

 オープンデータが国内外で推進となる契機となった

のが、2013年 6 月に開催された G 8 サミットの首脳

宣言に盛り込まれた「オープンデータ憲章」だ。

 「オープンデータ憲章」では、具体的な取り組み内

容などについて、 5 つの原則が示されている。

原則 1 :原則としてのオープンデータ

 データによっては、公表出来ないという合理的な理

由があることを認識しつつ、この憲章で示されている

ように、政府のデータすべてが、原則として公表され

るという期待を醸成する。

原則 2 :質と量

 時宜を得た、包括的且つ正確な質の高いオープン

データを公表する。

 データの情報は、多言語に訳される必要はないが、

平易且つ明確な言語で記述されることを確保する。

データが、強みや弱みや分析の限界など、その特性が

わかるように説明されることを確保する。可能な限り

早急に公表する。

原則 3 :すべての者が利用できる

 幅広い用途のために、誰もが入手可能なオープンな

形式でデータを公表する。可能な限り多くのデータを

公表する。

原則 4 :ガバナンス改善のためのデータの公表

 オープンデータの恩恵を世界中の誰もが享受出来る

ように、技術的専門性や経験を共有する。データの収

集、基準及び公表プロセスに関して透明性を確保する。

原則 5 :イノベーションのためのデータの公表

 オープンデータ・リテラシーを高め、オープンデー

タに携わる人々を育成する。将来世代のデータイノ

ベーターの能力を強化する。

  5 つの原則の中で、イノベーションのためにオー

プンデータを活用するというのがポイントであり、法

人、地球観測、教育、エネルギー、地理空間、統計な

どハイバリューデータ(価値の高いデータ)が14分野

選定されている。

 G 8 各国からは「オープンデータ憲章アクションプ

ラン」が示され、日本においては、「オープンライセ

ンスの下、オープンフォーマットで機械判読可能な

データを利用可能とする」取組を、2013年秋ないし

2014年度から順次拡大することをコミットした。オー

プンデータを推進にあたっては、データの粒度を合わ

せた世界各国の連携が重要になっている。

オープンデータの拓く新たな社会

NTT コミュニケーションズ 国際大学 GLOCOM 客員研究員 林  雅之

Page 27: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

オープンデータの拓く新たな社会

25

2.先行する米国のオープンデータ政策と「Data.gov」

 オープンデータでは、米国の取組が先行している。

データの民主化を掲げるオバマ政権においてのオープ

ンデータ推進の代表的な取組が「Data.gov」だ。

Data.govhttp://www.data.gov/

 米連邦政府は2009年 5 月、政府や自治体などが保

有する統計データなど二次利用可能で機械判読に適し

た形式で公開する「Data.gov」を開設し、世界各国の

政府や自治体などにも広がる大きな動きとなっている。

 「Data.gov」は、行政の透明化だけでなく、政府や

民間事業者によるアプリ開発やサービス提供による生

活水準の向上や経済活性化や産業育成につながる活用

が進められている。

 「Data.gov」 から提供されるデータは、①生データ

(Raw Data)、②分析ツール(Tool)、③地理データ(Geo

Data)の 3 つとなっている。

 2009年 5 月の開設当時は47のデータでスタートし

たが、2014年11月現在では13万を超えるデータセッ

トが公開されている。

 データのカテゴリでは、航空、大気環境、自動車の

安全性、犯罪、薬品の安全性、教育、労働市場、ヘル

スケア、栄養、肥満、労働安全など46分野が対象となっ

ている。

 2014年11月現在で、政府が提供する API は約400、

民間事業者の開発するアプリケーションが、ビジネ

ス、コミュニティサービス、教育、エネルギーなどで

約350、スマートフォンやタブレット向けのモバイル

アプリケーションは130を超えている。

 米連邦政府は2013年 5 月 9 日には、「Open Data

Policy」を公表し、各省庁に対して公開するデータの

管理の徹底、公開するデータの優先順位の明確化、情

報保護の強化、データ公開における役割と情報管理責

任者の明確化などを求めるなど、オープンデータのガ

バナンスの強化に向けた取組も行っている。

3.オープンデータのビジネスを支援するイギリスの「Open Data Institute(ODI)」

 イギリスでは、オープンデータを活用して、スター

トアップ企業による新たなビジネス創出を政府などが

支援する取組を進めている。

 オープンデータを活用した新たなビジネスを展開し

ていくには、スタートアップ企業などがサービス開発

のための資金調達が必要となるケースが多い。そのた

め、イギリス政府ではオープンデータを活用しビジネ

スを展開するスタートアップ企業を支援する団体を創

設し、市場を活性化させるための取組を強化している。

 イギリス政府では2011年11月、オープンデータを

活用したビジネスを本格的に支援するオープンデータ

研究所「Open Data Institute(ODI)」を設立し、2012

年12月より正式に始動している。

Open Data Institutehttp://www.theodi.org/

 ODI では、オープンデータに関する技術やサービス

の開発に取り組み、新たなビジネスを創造するスター

トアップ企業の支援や人材開発を目指している。

 オープンデータを利用するスタートアップ企業のイ

ンキュベーターとしての機能を持ち、収益獲得が可能

なビジネスモデル事例を開発し、オープンデータのた

めのインパクト分析手法とビジネスモデル開発による

イノベーションの促進を目的としている。

 ODI では、設立後の 5 年間、政府より1000万ポン

Page 28: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

オープンデータの拓く新たな社会

26

ドを拠出し、最初の 1 年間で 4 つのスタートアップ企

業を支援し、 4 年間で12のスタートアップの育成を目

指している。

 ODI は国内だけでなく、これまでフランス、イタリ

ア、米国、UAE、そして日本(大阪)など世界各都

市に拠点を設立し、各国でスタートアップ支援を行っ

ている。

4.日本政府のオープンデータの取組

 日本は、オープンデータの推進において、世界の先

進国と比べてデータの公開や制度面などでの遅れが

指摘されているが、他の先進国の水準に追い付くため

に、さまざまな取組を進めている。

 政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部

(IT 総合戦略本部)は2012年 7 月 4 日、オープンガ

バメントを確立するため「電子行政オープンデータ戦

略」を策定した。「電子行政オープンデータ戦略」では、

「透明性・信頼性の向上」、「国民参加・官民協働の推

進」、「経済の活性化・行政の効率化」の 3 つ基本方針

としている。

 オープンデータを活用した国民参加や官民協働の機

会を通じて、社会課題の解決への対応や、新たなビジ

ネスの創出による経済活性化へつなげていく。

 2013年 6 月14日に閣議決定した『「世界最先端 IT

国家創造」宣言』では、2014年度および2015年度の

2 年間をオープンデータ推進のための集中取り組み期

間と位置付け、2015年度末には、ほかの先進国と同

水準の公開内容の実現を目指している。

 政府の IT 総合戦略本部では「電子行政オープン

データ実務者会議」を開催し、オープンデータ戦略の

基本方針を検討するとともに、公共データ活用のため

に必要なルールなどの整備、データカタログの整備、

データ形式・構造などの標準化の推進及びデータ提供

機関の支援などについて検討や、今後実施すべき施策

の検討およびロードマップの策定などを行っている。

 2014年 6 月には『「世界最先端 IT 国家創造」宣言』

を改訂し、地方公共団体の取組の推進が追記され、「自

治体オープンデータ推進ガイドライン(仮称)」策定

の検討が進められている。

5.政府横断でデータ検索が可能な「データカタログサイト」の開設

 日本政府は2013年12月20日、各府省の21機関が保

有する約9400種類のデータを各データのタイトルや

作成者、内容やデータ形式、作成日などの情報で横断

的に検索できる「データカタログサイト」の試行版を

開設した。政府が著作権を保有しているデータについ

ては、Creative Commons License を適用している。

データカタログサイトhttp://www.data.go.jp/

 政府は2014年度から「データカタログサイト」の

本格運用を実施し、2014年度および2015年度の 2 年

間をオープンデータ推進のための集中取り組み期間と

位置付けている。

 「データカタログサイト」では、「白書」「防災・減

災情報」「地理空間情報」「人の移動に関する情報」「予

算・決算・調達情報(入札結果など)」の 5 分野を重

点分野とし、公開や二次利用などに問題がないデータ

から優先して掲載している。

 2014年10月 1 日からは、「データカタログサイト」

の本格版に移行し、12,000を超えるデータセットを公

開し、英語対応の強化やトップページに集合検索機能

を追加するなど、機能の充実を図っている。

6.自治体におけるオープンデータの取り組み状況

 自治体においては、福井県鯖江市や神奈川県横浜

市、福岡県福岡市、静岡県など、オープンデータにお

いて先進的な取組を行っている。しかしながら、IT

総合戦略本部のオープンデータ実務者会議で公開され

た資料によると、2014年 9 月時点で、全国で1800弱

の自治体に対して、オープンデータ公開済みの自治体

はわずか44にとどまっており、取り組み中および検討

中の自治体を含めても200強という状況だ。

 総務省が2013年 7 月に公表した「平成25年版情報

通信白書」によると、自治体にとっては、保有する情

報をオープンデータとして公開することの自治体側の

利用イメージやメリットなどが明確になっていないと

いう結果が出ている。

Page 29: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

オープンデータの拓く新たな社会

27

 オープンデータの取組を進める上で、優先順位の高

い課題となっているのは、「具体的な利用イメージや

ニーズの明確化」(60.1%)、「提供側の効果・メリッ

トの具体化」(51.4%)といった活用のイメージやデー

タを公開することのメリットが感じられないという結

果がいずれも 5 割を超えている。

 自治体におけるオープンデータ推進においては、政

府が各自治体に対してデータを公開する目的やメリッ

トを示し、推進のための仕組みづくりが重要となって

いる。

7.オープンデータを活用したシビックハックの取組

 「Code for America」や「Code for Japan」に代表さ

れるように、地域の課題を解決するために市民がオー

プンデータを活用し、行政と連携してサービスを開発

する「シビックハック」の取組が世界や日本各地で広

がりをみせている。

 米国で2009年から始まった「Code for America」は

地域・市民のための技術分野における強力なブランド

組織として、また民間のスキルを行政の問題解決に役

立てるプラットフォームとして、大きな支持を得てい

る。

 主な活動には、政府や自治体が、開発者などを 1 年

間の期間限定の行政職員として雇用し、都市の課題を

行政の担当者と分析し、課題解決や行政サービスの向

上につながる Web サービスを開発する取組がある。

 「Code for America」は、ティム・オライリーやマー

ク ・ ザッカーバーグらが参加を呼び掛け、選抜された

20名の行政職員はフェローと呼ばれ、2011年 1 月よ

りフィラデルフィア市、ボストン市、シアトル市の 3

都市に派遣され、21のサービスやアプリを開発し、地

方の行政サービスの改善や効率化に貢献している。

 フィラデルフィア市をベースに「Code for America」

を通じて行政サービスを開発していた Mark Head 氏

は、フィラデルフィア市の初代 CDO(Chief Data

Officer)に就任し、市のオープンデータポリシーにも

とづきオープンデータ政策を推進している。

 日本では、2013年11月に正式に「Code for Japan」

を設立し、「Code for Kanazawa」や「Code for Sabae」

や「Code for Namie」など日本各地で設立の動きが広

がっており、2014年11月時点で公式では日本国内18

地域で活動を行っている。

 「Code for Kanazawa」では、金沢市との情報交換を

定期的に行い、地域課題解決のために最初に開発した

アプリが「5374(ゴミナシ).jp」だ。「5374(ゴミナ

シ).jp」は、地区を設定すれば、一画面でどのゴミを

いつ捨てればいいか分かるように表示され、新しく金

沢市に住むようになったときでもすぐにゴミの出し方

がわかる。

5374(ゴミナシ).jphttp://5374.jp/

 このアプリは、github でソースコードが公開されて

おり、石川県野々市市や沖縄県石垣市など、2014年

11月時点で50を超える地域で利用されている。

8.オープンデータを活用したビジネスの可能性

オープンデータによるデータの活用と公開

 政府や自治体がオープンデータを積極的な公開によ

り、行政の見える化や行政サービスの向上、市民と行

政との新しい協働が期待されている。世界各国の政府

や自治体でもオープンデータの活用を推進し、各国に

おける課題をデータとして可視化することで、世界の

課題解決のための一助にもなっている。

 民間事業者においては、オープンデータを活用する

ことにより、膨大なデータ収集の手間が省け、自社

のコアコンピタンスを活かした付加価値の高いアプリ

ケーションの開発やサービス作りに注力できるといっ

たメリットがある。これにより、新たなビジネス機会

の創出や、客観的なデータ指標による地域や社会の課

題解決など、データ活用による付加価値創造型ビジネ

スへの転換が重要となっている。

 また、民間企業の中には自社が保有するデータを公

開するところもあり、政府や自治体が提供する情報

と、民間企業の持つ膨大な情報がオープンデータとし

て公開されれば、社会全体の効率化や問題解決、経済

活性化などさまざまな波及効果が期待される。

Page 30: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

オープンデータの拓く新たな社会

28

オープンデータによる経済効果

 オープンデータのビジネス活用に伴い、さまざまな

経済効果が期待されている。

 米国では、1980年代に当時のレーガン大統領が

GPS データをオープンデータとして公開したことか

ら、位置情報を表示するモバイルアプリケーションの

「FourSquare 」やカーナビゲーションサービスなど

の新しい産業が生まれ、年間で900億ドルの位置情報

サービス市場を生み出した。

出所:How to Kick-Start Innovation with Free Data 2013.3

 海洋情報のオープンデータによる公開では、新たな

気象サービス産業が創出され、400社約4,000名の雇用

が生まれ、年間約 4 〜 7 億ドルの産業規模となってい

る。

出所:VALUE OF A WEATHER-READY NATION 2011.10

 欧州では、EU 圏内のオープンデータを活用した市

場規模を320億ユーロ(約4.7兆円)、経済波及効果は

約1400億ユーロ(約20兆円)と算出している。国内

総生産(GDP)比で日本に置き換えると市場規模は

100億ユーロ(約1.5兆円)、経済波及効果は毎年400億

ユーロ(約5.9兆円)程度のインパクトがあると推定

されており、オープンデータを通じて付加価値を提供

することで、ビジネス創出と大規模な経済波及効果が

期待されている。

 G20におけるオープンデータの経済効果は教育、輸

送、個人消費など、 5 年間で13兆ドル(約1500兆円)

にも達し、G20が掲げる GDP の 2 % 成長という目標

を達成するために、オープンデータの貢献度は55% に

も上ると予測している。

出所:Open for Business: How Open Data Can Help Achieve the G20 Growth Target 2014.6

 マッキンゼーの試算では、教育、交通、コンシュー

マ製品、電力、資源、医療、金融などの分野で最大で

500兆円を見込んでいる。

出所:McKinsey Global Institute Open data: Unlocking innovation and performance with liquid information

9.オープンデータビジネスの鍵となるデータドリブンのエコシステム

 オープンデータを活用したビジネスが本格化する

には、データを提供する事業者(Data Provider)、仲

介する事業者(Data Broker)、サービス化する事業者

(Service Provider)など、さまざまな事業者が連携し、

利用者などが相互にメリットを得られ収益を生み出す

ための、データドリブンのエコシステムが不可欠にな

る。海外では、すでにこうしたエコシステムが構築さ

れつつあり、ユニークな業種・サービスも登場しつつ

ある。

・データを公開する「Data Provider」

 まずは、データを公開する政府や自治体などが利用

価値の高い情報を機会判読可能で二次利用可能なオー

プンデータカタログとして公開することが大前提とな

る。

・オープンデータ化を支援する「Aggregator」

 データカタログのポータルサイトの構築にあたって

コンサルやツールなどを提供し支援する動きもある。

 Spikes Cavell 社は政府や自治体などに支出に関す

るデータを公開するためのツールの提供や、オープン

データを公開するにあたって法令遵守などのコンサル

ティングなどの業務を行っている。

 日本では、日立製作所が2014年 7 月から、公共機

関におけるオープンデータの推進を計画策定から運用

までを支援する「オープンデータソリューション」の

提供を開始している。

 今後、政府や自治体などの公共機関のオープンデー

タ化の動きが進む中で、政府や自治体のオープンデー

タ化の推進を支援するコンサルティングビジネスの

ニーズは高まっていくだろう。

・オープンデータの活用をひろげる「Community」

 オープンデータの活用を推進するための団体やコ

ミュニティの役割も重要だ。2014年 2 月22日に、世界

各地で市民がオープンデータを活用する「International

Page 31: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

オープンデータの拓く新たな社会

29

Open Data Day 2014」が世界110都市以上で開催さ

れた。日本では、Open Knowledge Foundation Japan

(OKFJ)の主催によって「International Open Data

Day in Japan」開催され、青森、会津若松、鯖江、東京、

千葉、横浜、名古屋、福岡など33の地域が参加した。

 市民参加型の開発コミュニティは、前述した Code

for Japan をはじめ、Code for Kanazawa や Code for

SABAE など拡がりを見せている。全国各地でオープ

ンデータに関する情報交換や推進を目的とした組織や

コミュニティによるアイディアソンやハッカソンなど

が開催されており、オープンデータ活用の輪が広がっ

ている。

・オープンデータを複数組み合わせて付加価値データ

を提供する「Data Broker」

 政府や自治体などが公開するデータ仲介し、運用管

理やデータに付加価値をつけ利用者向けに有料サービ

スとしてデータを提供するデータマーケットプレイス

として収益を獲得する事業者も出てきている。

 海外では、データマーケット社が政府や自治体など

の公共機関だけでなく、民間企業からの世界の経済や

社会、自然、産業など何百万のデータと何千ものデー

タセットを提供している。調査会社や金融機関、研究

機関なども本データマーケットプレイス上でデータを

公開することも可能だ。

 オープン・コーポレイツは、シェアライク・ライセ

ンスによる世界最大のオープンな企業情報データベー

スを運営しており、95ヶ国・地域の8000万企業情報

を提供している。

 日本では、ウイングアーク1st が2014年12月 1 日よ

り、政府や自治体が公開するオープンデータや民間企

業の各種統計データ、マーケティング・ターゲット選

定やマーケティング効果測定に有益なデータを取りま

とめて、顧客の情報活用を支援する第三者データ提供

サービス「3rd Party Data Gallery」の提供を開始し

ている。

 Data Broker を通じ、付加価値の高いデータを組み

合わせた有償サービスの提供モデルや、基本サービス

は無償で提供しユーザを増やして付加サービスで課金

するフリーミアムのモデルなどで収益獲得できるモデ

ルが構築できれば、データの流通市場が生まれ、オー

プンデータを活用したビジネスの流れも一気に加速す

ることになるだろう。

Community

Data Provider(Data Holder)

データを保有し、第三者に提供する事業者

Data Broker(Portal)(Data Management Platform)Data Provider間のサービス提供や契約締結の仲介者、データマーケット

プレイスやDMPの提供者

DataMarket, BlueKai,Data.gov,データカタログサイト

MotionBoard,Socrata,CKAN,AWS,Cloudn等

Data Integratorデータを活用したデータ分析による意思決定支援を行う事業者(データサイエンティスト等)

Developersデータセットにアクセスする

ためのAPI開発

Service Providerデータを活用した新サービス、アプリケーション、分析等

Data Service Enablerオープンデータ、ビッグデータを活用したプラットフォーム環境を構築するための必要なIT製品、分析ソフトウェア、クラウドサービスの提供者

JR東日本(Suicaデータ)TSUTAYA(購買データ)ドコモ(行動履歴)トヨタ自動車(プローブ情報)

スシロー(売上分析)楽天(購買向上)DeNA(ゲーム分析)花王(マーケティング)大阪ガス(業務改善)東芝(生産効率化)マスターカード(トレンドデータをユーザーに)

政府・自治体(オープンデータ)

自社データ利用

大学・研究機関ベンチャーファンド

農業 交通 不動産

エリアマーケティング

データを活用したサービス(分析結果等)の利用者および組織に

属する管理者、利用者

Data Consumer

オープンデータ化支援Aggregator

オープンデータのエコシステムのイメージ

Page 32: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

オープンデータの拓く新たな社会

30

・オープンデータのプラットフォーム基盤となる

「Data Service Enabler」

 オープンデータの普及とともに、オープンデータを

持続的なサービスとして提供するための、データカタ

ログのポータルの整備や、API 連携によるサービス提

供などのニーズが高まってくる。

 海外では、Socrata 社がデータポータル構築のため

のデータベース機能や地図連携などの機能をクラウ

ドサービスとして提供している。 Socrata 社は「Open

Data API」を実装し、API 経由でデータを取得しサー

ビス提供することも可能だ。また、「Socrata Open

Data Server, Community Edition」をオープンソース

としてリリースしており、Open Data Server に独自

機能を加えてサービス提供ができる。

 Socrata 社のサービスは米連邦政府の「Data.gov」

やニューヨーク市、シカゴ市、サンフランシスコ市な

どの多くの政府や自治体などの公共機関で利用されて

おり、データポータルの基盤としては高いシェアを獲

得している。

 Socrata 社のサービスは、 マイクロソフト社が

2013年 7 月に発表した「CityNext 計画」により、

CityNext パートナーとなっている Socrata 社と連携

し、世界の政府や自治体がデータポータルサイトを構

築する際には、マイクロソフト社のクラウドサービス

「Windows Azure」を利用している。

 日本においては、総務省などが2011年に設立した

「クラウドテストベッドコンソーシアム」により、約

80社の会員企業が「政府統計データベース(e-Stat)」

などのオープンデータを活用したアプリケーション

開発のためのクラウド基盤として、NTT コミュニ

ケーションズのクラウドサービス「Biz ホスティング

Cloudn」(呼称:クラウド・エヌ)を利用した。

 民間事業者と自治体との連携の取組では、jig.jp が

2014年 6 月、福井県鯖江市などの自治体に対して、

Excel や CSV などのデータを Linked-RDF に変換

するクラウドサービス「オープンデータ・プラット

フォーム」の提供を開始している。 jig.jp は、データ

の共通化のプラットフォームを提供することで、アプ

リケーション開発者にとって開発しやすい環境を生み

出し、ビジネスとしての拡大を見込んでいる。

・オープンデータを活用したサービスをユーザに提供

する「Service Provider」

 オープンデータの提供環境が整い公開されるデータ

が充実すると、農業、不動産、エリアマーケティング

などさまざまな分野でオープンデータを活用したサー

ビスが活気を帯びてくる。

 米国の The Climate Corporation は、グーグルの元

従業員が設立し、データ解析の専門家であるデータサ

イエンティストが10数名担当し、データ分析・予測に

より、悪天候などによってトウモロコシや大豆などの

農作物の収穫がばらつきやすい農業の所得を年間の収

入を補償する保険商品「Total Weather Insurance」を

開発し、顧客ごとにカスタマイズして提供している。

 The Climate Corporation では、国立気象サービス

(National Weather Service)がアルタイムに提供す

る250万ヶ所の気象測定データと、農務省が提供する

過去60年の収穫量データと、1,500億ヶ所の2.5平方マ

イル単位で取得した14テラバイトにもなる土壌の水分

量を毎日計測する Soil Moisture Tracker からの土壌

データを活用している。

 The Climate Corporation で は、Farm-Level

Optimizer という技術を採用し、作物、場所、土壌の

タイプが異なるそれぞれの生産者に対し、収穫量を左

右する気象条件を動的に判定し、地域や作物ごとの収

穫被害発生確率を10兆にも上る気象シミュレーション

ポイントを生成し、保険価格の決定や独自技術でリス

ク分析や予測を行っている。

 これらのデータ解析には、Amazon Web Service の

クラウドサービスを使用し、50テラバイトを超える

データ処理を行っている。

 The Climate Corporation がこれらのデータを活用

し、ビジネスを拡大している背景には、保険の申し込

みからリスク分析と判定、保険金などの支払を自動化

し、データ活用による保険商品の顧客ごとのカスタマ

イズによるロイヤリティを高めているためだ。

The Climate Corporationhttp://www.climate.com/

Page 33: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

オープンデータの拓く新たな社会

31

 不動産サイト Zillow は、政府の統計、国勢調査、

住宅金融公庫などのオープンデータを活用し、不動産

価格を査定し、中流階級の住宅購入を支援している。

Zillow は、全米で 1 億1000万件のデータを保有し、

その多くはオープンデータを活用し独自のモデルで査

定した不動産価格の情報を提供している。

 米連邦政府のホワイトハウスのページには「The

American Dream, Aided By Open Government Data」

というタイトルで掲載し、政府も統計データなど積極

的にデータ公開などによる支援を行っており、政府の

支援も信頼性向上と住宅購入の後押しにつながってい

る。

 Zillow は、オープンデータ活用による膨大な不動産

データの公開と、不動産取引の透明化による満足度を

高めることで、提供者と購入者との間の不動産取引の

透明性を高め、提供者と購入者の双方の満足度を高め

ることに成功している。

 その結果、不動産取引量を増やし不動産取引のプ

ラットフォームとしての集客力を高め、サイトに不動

産業者や住宅ローン会社、物件オーナーなどの広告を

掲載することで、広告掲載料により収益を獲得してい

る。

Zillowhttp://www.zillow.com/

 日本では、自社が保有するデータとオープンデータ

を活用してマーケティングに活用する動きが出てきて

いる。

 大日本印刷は、国勢調査データと「DNP オリジナ

ル家計調査データ」を活用した地域の特性を可視化す

るエリアクラスターサービス「エリアダッシュ」を提

供している。年代・世帯年収・職業等の各種デモグラ

フィックデータを活用し、地域に住む人の特性を60の

クラスターに分類・抽出したエリアマーケティング分

析し、地域特有の消費行動や狭域商圏の分析などがで

きる。

 江戸後期より茶づくりに携わるお茶屋の伊藤久右衛

門は、通販サイトのアクセスログや約200万件の販売

データ、約60万件の会員属性などを分析することで、

顧客属性ごとの販売傾向や、商品間の併売率、キャン

ペーンの効果などを測定している。さらに、世帯人

数、持ち家状況、昼間の自宅滞在時間といったいくつ

かのオープンデータである統計データをメッシュ分析

して、折込チラシの配布地域を決め、折込チラシによ

る実店舗への集客率を高めている。

10. オープンデータのビジネスに向けた課題

 オープンデータの活用による市場創出と経済活性化

は、多くの可能性を秘めているものの、ビジネスとし

て収益化できている事例は必ずしも多くはない。オー

プンデータはすべての利用者に公平に与えられるデー

タだからこそ、知恵を出して差別化できるサービスを

展開し、さまざまな事業者との連携によるオープン

データによるデータドリブンのエコシステムを形成

し、持続的な収益モデルの構築に向けた取組が重要と

なっていくだろう。

〒108-8118 東京都港区芝浦3-4-1グランパークタワー21FNTT コミュニケーションズ株式会社クラウドサービス部 クラウド・エバンジェリスト林  雅之(はやし まさゆき)

国際大学 GLOCOM 客員研究員。一般社団法人クラウド利用促進機構 (CUPA) アドバイザー。主な著書に『クラウド・ビジネス入門』(創元社)、『オープンデータ超入門』(インプレス R&D)、『オープンクラウド入門』(インプレス R&D)など。

Page 34: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

32

KIIS 事業紹介

IT シンポジウム「インフォテック2014」の開催報告−スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

一般財団法人 関西情報センター 事業推進グループ

 当財団は、10月 6 日(月)大阪国際会議場(グランキューブ大阪)にて IT シンポジウムを開催致しました。スマー

トフォンやタブレット端末に代表されるスマートデバイスは、ウエアラブル・デバイスや、自動車をはじめ各種設

備へと広がり始めており、市場の急速な拡大が期待できますが、ウイルスや不正アプリなどによる情報漏洩等のリ

スクは増大してきています。このような中、スマートデバイス活用による新たなビジネス戦略について、講演やパ

ネルディスカッションを実施しました。

 参加者は台風の直後にも関わらず170名にご参加いただき、基調講演、招待講演、パネルディスカッション、交

流会のいずれにおいても活発な意見交換が行われました。以下では、シンポジウムの概要をご報告いたします。

基調講演

「スマートデバイスによるイノベーション創出の課題

と可能性」

  塚本 昌彦 氏

(神戸大学大学院工学研究科 教授)

1.スマートデバイスによるイノベーション創出の課題と可能性

 私はモバイルやユビキタス、ウェアラブルという分

野の研究をしており、その一環としてヘッドマウント

ディスプレイを2001年から普段の生活の中で装着し

ています。ここ 1 年ぐらい急にブームになっている

ウェアラブルは、デバイスが小さくなって、高機能・

高性能になっていくというところが重要です。スマー

トフォン(スマホ)やタブレットはあっという間に世

界中に広まりました。ただ、スマホは国内ではある程

度飽和状態で、逆に今年になって出てきたのが、ス

マートウォッチ、スマートグラスなどのウェアラブル

デバイスです。ポケット型のモバイルコンピューター

がさらに小さくなると、身に付けて利用するようにな

るだろうということは10年以上前から分かっており、

それが進むのが遅かったと私は感じています。今、ア

メリカと韓国が中心になってウェアラブルデバイスを

非常に強力に進めていますが、日本が新しいものを出

さないから、10年遅れてようやくアメリカから出てき

たのです。これは非常に残念なことですが、ここで新

しいものを創り出していくという形にシステムを作り

直していかないといけません。特にウェアラブルに関

しては、リスクの少ない形で継続して取り組んでいく

ことが重要です。

 スマートテレビ、スマート家電、スマートホーム、

HEMS などは、10年ぐらい前からいろいろ企業が取

り組もうとしているものの、なかなかうまくいってい

ません。これも使い方が難しいのでしょう。徐々に環

境と使い方を作っていくことが重要です。

 最近では、IoT(Internet of Things)や M2M(machine

to machine)という言葉が出てきました。小さくなっ

たコンピュータがものにくっついてコンピュータや

ネットワークを利用するということです。また、今ま

では高速のインフラが張り巡らされて、人は部屋の中

に閉じこもっていても膨大なネット空間で情報を集め

て実世界の活動に代わる活動ができたのですが、サイ

バーフィジカルは、実空間と架空の空間がつながって

Page 35: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

33

いくというものです。これは私の強い主張ですが、い

つでもどこでもコンピュータの作り出す架空の空間に

入り込んでいくという、ここ20年のインターネット発

展の在り方は、人類として方向を誤っていると思いま

す。みんなでいるときにスマホで他の人と別のことを

するのではなく、みんなといるときにスマホでその人

たちと何かをするというのが本質的だと思います。

 それから、センサネットワークも非常にはやってお

り、実世界のいろいろな情報、人、物、場所をセン

シングすることで、今まで架空の空間でしかなかった

ネット空間が実世界に根差した形で広がっていきま

す。われわれの実世界の活動を支援してくれるという

ことがスマートデバイスの重要な方向性です。その道

筋を作っていくことこそイノベーションであり、今求

められていることです。これは生活のスタイルを変え

ることになると思うので、創造力が必要だと思います。

2.スマートフォン・タブレットの浸透

 総務省の資料によると、スマホ・タブレットはここ

5 〜 6 年で台数がどんどん伸びており、ほとんど全て

の人が携帯電話を持ち、スマホの割合が半分を超えて

います。スマホの使い方はさらに広がり、新興国へも

広がっていくと思いますが、もっと重要なのはウェア

ラブル、ユビキタスのデバイスで、次の新しいデバイ

スが 4 〜 5 年で伸びてくる可能性が十分あります。

 われわれ日本人は、変化の予見が不十分だったため

に大変な目に遭うということを、これまで歴史の中で

何度も経験しています。予見能力を高め、ウェアラブ

ル、ユビキタスが来たときのことを積極的に考える必

要があります。失敗のリスクを考えた上で、人と違う

ことをやっていくことは可能なはずです。

 日本のスマホは、数年前までは稼ぎ頭だったので

すが、ここ数年で急に悪くなってきています。中国

のスマホ市場では、2014年の第二四半期の時点で、

低価格のスマホで打って出たシャオミがサムスンを

抜き、あっという間にマーケットを取っています。日

本の企業はコスト競争で太刀打ちできません。一方

グーグルは、Android One という、 1 万円程度の低価

格の Android 端末を発表しました。狙いは明らかに50

億人の非スマホユーザーです。ただ、日本では特に

iPhone が人気です。低価格のものが広まる中で、高

価格のものもブランドとして戦っています。

3.モバイルデバイスによるイノベーションと課題

 基本的にスマホ・タブレット市場は既に成熟して新

興国での低価格競争に移っており、ポケット型デバイ

スとしては完成形になっていると思います。ただ、ア

プリ、サービスはまだまだ発展の余地があり、ビジネ

スの上では狙い目です。教育用や業務用、動画ビジネ

ス、ゲーム、ショッピングなどで新しいサービス、ビ

ジネスの形態を入れていくべきです。それから、共有

やアーカイブをする、情報処理を加えて付加情報を見

るなど、情報活用がしやすいという意味で、スマホが

紙(新聞、書籍、ノート)を数年で追い抜いていくと

考えられます。その中で、PC の代替ではなくモバイ

ルならではのものを提供するのが、これからのアプリ、

サービスの方向性だと思います。ただし、手持ち型に

は限界があるため、ウェアラブル、ユビキタスという

ことが、より求められるようになっていくでしょう。

4.最近の注目はスマートウォッチ

 アップルは iPhone6、6Plus と共にウォッチを発表

しました。これはポケット型デバイスの限界を打ち

破る新しい可能性を秘めた、次世代のウェアラブルデ

バイスです。また、サムスンは Tizen というウォッチ

を開発しており、それとは別にアクティビティトラッ

カーという分野も立ち上がっています。これはリスト

バンド型活動量計です。ウォッチが今年、非常に注目

を浴びています。

 Apple Watch は、リューズ(クラウン)をデジタル

入力のデバイスとして使っていることが一つの特徴で

す。マグネット・電磁誘導で充電し、マイクとスピー

カーも付いています。 2015年初頭より販売予定で、

エントリーモデルが349ドル(約 4 万円)です。角丸

四角の Retina ディスプレイで、丸みを帯びたデザイ

ンです。発表から発売までの期間がやや長いのもアッ

プルとしては異例です。また、月産約300万台を想定

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ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

34

しているとの噂ですが、これは今までのウェアラブル

デバイスとしては破格の数です。

 一方、Android Wear のウォッチも今年 3 月にグー

グルが発表し、 6 月から順次、発売されています。

Android スマホと連携し、アプリケーションを共通化

しているのがポイントです。また、製造社が全てアジ

ア勢であることも特徴的です。

 Tizen はドコモなど日本企業も参画して推進されて

きたスマホ用のオープンソースプラットフォームです

が、これまで対応スマホはドコモなどからは出ていま

せんでした。それがサムスンから急にウォッチという

形で出てきたのは驚きでもありますが、おそらくオー

プンソースのプラットフォームという点が功を奏し

て、既に1000以上のアプリケーションがあるそうで

す。アプリケーションを蓄積する上では良い戦略だっ

たのかもしれません。

 それから、最新のスマートウォッチは、CPU のク

ロック、メモリ、ストレージといったスペックがほぼ

一緒になっています。これは、去年 1 年間ほどのラン

ニング期間を経て、ウォッチの使い方がかなり決まっ

てきたことを表していると思います。例えば Android

Wear の場合、ウォッチの 1 番の使い方はスマホとの

連携、 2 番目が音声の入出力(主に入力)です。 3

番目はランチャーで、いろいろな腕時計のアプリを選

んで使えるというものです。時間に関係するもの(ア

ラートなど)、場所に関係するもの、その両者を組み

合わせた健康に関連するものなどが、ウォッチのキ

ラーアプリケーションと考えられています。ただ、一

番の問題はバッテリで、どのスマートウォッチも普通

に使うと丸 1 日半ぐらいというスペックです。スマホ

部品を流用しているので、さらに先にいこうと思った

ら、センサーと組み合わせる、スマホ連携の部分での

電池消費を抑えた専用のICを開発する、あるいはバッ

テリを改善するといったことが必要になるでしょう。

 Jawbone UP や Fitbit、ナイキの Fuelband などのア

クティビティトラッカー(リストバンド型活動量計)

はアメリカ発で、ここ 3 年で急激に市場ができまし

た。加速度やジャイロを搭載し、活動量を測定して

WEB 上で管理するというものです。バッテリは 1 〜

2 週間持つものが多いのですが、やはりスマホ用部品

を 2 〜 3 個、IC を 2 〜 3 個搭載しているものが多い

です。世界で100種類ぐらいあり、日本でもソニー、

ドコモ、東芝、エレコムなどが参入しています。問

題は、故障や破損、付け忘れなどでデータが空くこと

です。それが契機となって使用をやめてしまうことも

多いのです。アクティビティトラッカーは、共通のプ

ラットフォームがないということが重要な課題だと思

います。

 昔からあるスポーツ用のウォッチも最近非常に進化

していますし、老舗のウォッチメーカーのウォッチに

Bluetooth の機能を入れてスマホ連携する Bluetooth

ウォッチもはやっています。また、紫外線を測定す

る、脈波の波形を認証に使うなど、専用のウォッチも

一つの流れを作っていますが、Apple Watch が起爆剤

となって汎用のものが専用の市場に食い込んでいくこ

とが重要な方向性だと思います。アップルはデザイン

やファッション性を重視しているようなので、割と早

い段階でニューバージョンを出してくる可能性が高い

と考えています。そのときに丸型や曲面のディスプレ

イも出てくる、あるいは、センサーが増えることも考

えられます。

5.HMD

 HMD は眼鏡型デバイスです。今、私が付けている

のが、最近話題になっているウエストユニティスの

Inforod です。Google Glass よりも随分スタイリッシュ

で、機能的にもいろいろ考えられているのですが、従

来、民生用でも業務用でも乗り越えられなかった多く

のハードルを一気に乗り越えて HMD を急にメジャー

にしたのが Google Glass です。それに続いて Vuzix や

Recon などの小型・単眼のヘッドマウントディスプレ

イが出ています。 2015年にはいよいよ日本からもヘッ

ドマウントディスプレイがたくさん出てきそうです。

 ただ、去年チューリッヒであった ISWC2013では、

参加者700名のうち30〜40人が Google Glass を付けて

いたのですが、先日シアトルであった ISWC2014で

は 4 〜 5 人でした。アプリが増えても、アプリを使う

とバッテリが持たないという逆説的な課題があります

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ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

35

し、カメラが付いているので、町中でのトラブルも多

いです。しかし、産業用のトライアルは水面下でかな

り増えているようです。バッテリは外部の補助バッテ

リを付けると 1 日持つので、産業用の場合にはクリア

しやすいようです。

 アクションカメラは GoPro という会社がここ 4 〜

5 年で市場開拓したもので、特にエクストリームス

ポーツなどを一人称視点で広視野角・高解像度で記録

するというものです。実は既に市場が成熟しているの

ですが、モニターを付けて HMD と組み合わせて使う

のがいいのではないでしょうか。ウェアラブルカメラ

とヘッドマウントディスプレイは、もちろん組み合わ

せたら強力なのですが、問題も大きいので、別々に立

ち上げていくのが正解だったと思っています。

 Google Glass の国内販売は、いろいろと問題がある

ようですが、一番ちゃんと使って、しかも使い道も含

めて広めていくのは日本ではないかと思います。また、

Google Glassはスマホ連携、Android Wear搭載などで、

さらに展開していくはずです。日本企業も頑張ってい

るので、いずれ新しいサービスが展開されるでしょう。

6.その他のウェアラブル

 今、旬なのはウォッチでしょう。また、ウォッチが

さらに小型化した指輪型では、センサー、表示、振動、

あるいは HMD への入力も考えられます。 LED を入

れて光るものなど、アクセサリー的な指輪も重要です。

 イヤホン型では、補聴器のノイズキャンセリングな

どの機能が非常に進化しています。また帽子型は、割

と重いものを入れても大丈夫です。

 それから、靴型は、アップルもグーグルもマイクロ

ソフトも狙っています。重さに対する許容度が高く、

振動がデメリットではあるのですが、逆にそれで発電

できるという大きなポテンシャルがあります。また、

糖尿病で血流悪化の一番の初期症状は足の指先に見ら

れることから、足の指先のセンシングは有効だとも聞

きます。さらに、サニタリー(消臭)のニーズも大き

いです。

 また、バックル部分にデバイスを仕込む余地の大き

いベルトも重要です。外向きには他の人に対するディ

スプレイとして使えますが、内向きに何かセンサーを

仕込めば、お腹の様子が分かるのではないでしょうか。

 それから、最近よくあるのはセンサーを仕込んだ服

や電飾服です。私の研究室の卒業生が会社を立ち上げ

て、今 EXILE の電飾服を作っていますが、研究室か

ら産業の役に立つものが出たのは初めてです。もう一

つが冷暖房服です。服の中で空調をすることで、温度、

湿度管理をすると同時に、臭くならないようにするこ

とも可能かもしれません。

 眼鏡と腕時計に関しては、専用デバイスが伸びてい

く中で、汎用デバイスが一部の機能を食っていくとい

う形の争いが始まっています。

7.日本企業の現状と今後の展開

 日本企業は 2 〜 3 年前から頑張り出しているとこ

ろがたくさんあり、行政でも、鯖江、福井県、鳥取県、

神戸市、福岡市・福岡県などがウェアラブルで名乗り

を上げています。ウェアラブルデバイスは現場で使う

というのが最も重大な使い方なので、観光や農業他、

地域産業との関連性を密接に持たせれば、新たな産業

振興ができると思います。ソリューション系では、イ

ンフラとデバイスとソフトウェアとシステムとサービ

スが一緒になっていろいろな取り組みをしていくべき

です。

 まずはファッションイノベーションです。ウェア

ラブルデバイスを入れた新しいファッションが立ち

上がってくる可能性があります。次にサービスイノ

ベーションです。交通、ショッピング、行政のサー

ビスその他が、今まで以上にどこでも受けられる形

HMD

• 2011年11月エプソンMoverio発売(両眼シースルー)

• 2012年4月Google Glass発表(小型単眼シースルー)、2013年デベロッパ向けに発売

• 2013年には小型単眼タイプがいくつか発表・発売された。Google Glassの影響?– Vuzix M100(小型単眼)– Recon JET/Snow 2(小型単眼)

• 2014年は日本企業からシースルータイプがいくつか出てきている。– エプソン Moverio新バージョン(両眼

シースルー)– ウエストユニティス Inforod(超小

型・単眼)– ソニー(両眼シースルー)– 東芝(片眼シースルー) ソニーSmartEyeglass

http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201409/14-090/

ソニーSmartEyeglasshttp://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/201409/14-090/

ウエストユニティス Inforodhttp://www.westunitis.co.jp/web/inforod.aspx

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ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

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になるでしょう。それから、業務支援イノベーショ

ンです。現場で動き回りながらコンピュータを使う

ことが可能になります。ただ、ウェアラブルに関し

ては、使いこなせるようになるのに時間がかかるの

で、早く取り掛かることと、継続していくことが非

常に大事だと思います。

 課題としては、安全性(注意の散漫、転倒時の危険、

体漏電流、皮膚刺激、温度)、防水・防塵、耐久性、バッ

テリの持ち、ファッション性、プライバシー、悪用と

いったことがあります。例えば大学入試でウェアラブ

ルデバイスを持ち込んでカンニングをするといった問

題については、至急対策が必要だと思います。

 物がインターネットにつながることで、ここ10年

でスマートテレビ、スマートエアコン、スマート冷蔵

庫、スマートアイロン、スマートドライヤー、スマー

トコップ、スマートスプーン・フォーク、体重計等ヘ

ルス機器、スマートタップ、スポーツ用品が出てきて

います。以前は冗談みたいに思われていたものも、リ

アルなビジネスになっています。

 スマートキッチン、タンスや引き出し、ソファ、ト

イレ、風呂、また家全体、町全体の照明機器や配電盤

もスマート化が進み、ここ10年で家電研究が非常に増

えています。ホームサーバーで集中的に管理するもの

が多いですが、分散型も増えています。ただ、コスト

とベネフィットが合うようにする何かが必要であり、

例えばペットがいる家をスマートホームにするなど、

切り口を固定してやっていくことが重要です。

 また、ロボティクスは急速に進化しており、テレプ

レゼンスロボットや飛行型コンピュータがはやってい

ます。また、掃除ロボット「ルンバ」がカメラを付け

ましたが、携帯電話が通話以外の機能をどんどん載せ

て汎用のコンピュータとなったように、掃除ロボット

もいろいろな付加機能が載って、動くホームサーバー

になるのではないでしょうか。

 その他、ソフトバンクの Pepper をはじめ、小型の

自走ロボットがクラウドファンディングで出てきてい

ます。グーグルが異様に力を入れているので、ロボッ

トの会社を立ち上げてグーグルに買ってもらって大金

持ちになるという戦略も考えられます。また、国内企

業の二足歩行ロボットの民生利用・業務利用をもっと

進めてはどうかと考えています。

 ユビキタスに関してはセンシングと制御が大事です

が、多数のデバイスとの連携がまだあまり考えられて

いません。洗濯や料理、トイレの仕方を根本的に変え

なければいけなくなるので、創造力が必要です。また、

充電方法、耐久性、発火・漏電等の危険性、コスト、

盗難、悪用、プライバシーに課題があります。

8.まとめ

 人に装着するウェアラブルと、物や場所に埋め込む

ユビキタスで、暮らしと仕事に創造的変革が起こる

可能性があります。便利、快適、安全、安心、豊かで

楽しいという切り口から、われわれの日常生活や実空

間での仕事が変わっていくでしょう。日本企業の躍進

に期待したいと思います。また、実践が大事なので、

ぜひやり始めて継続していただきたいと思います。同

時に、いろいろな企業がいろいろな役割を担いながら

総合的にやっていくエコシステムの形成が重要です。

われわれもエコシステム形成につながる活動として、

NPO ウェアラブルコンピュータ研究開発機構、日本

ウェアラブルデバイスユーザー会などで取り組みを

行っているところです。

招待講演1

「スマートデバイスの進化と企業におけるモバイル

活用の変化」

  藤吉 栄二 氏

(株式会社野村総合研究所 IT 基盤イノベーション

事業本部 基盤ソリューション企画部上級研究員)

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1.企業モバイルとしてのスマートフォン / タブレット

 弊社はいわゆる IT 事業であり、システムソリュー

ションが売上の 8 割、コンサルティングが 2 割を占め

る会社です。私の仕事は IT ナビゲーション活動といっ

て、新しい IT の 5 年先の技術動向と企業における活

用を調査・分析しています。毎年、国内企業の IT 活

用についてアンケート調査を行っているのですが、そ

れによると、2013年の段階で、スマホとタブレット

はともに国内の約 3 割の企業が「業務の中で使って

いる」と回答していました。今年度の調査ではそれが

40%を超えています。スマホ・タブレットの企業への

導入は普及期に入っていると考えています。

 その使い方を、アメリカ、中国、イギリス、ドイツ、

日本で比べてみると、スマートフォンやタブレットを

メールやスケジュールの閲覧といった、コミュニケー

ション目的に使うといったことが、国を問わず広く見

られます。しかし、例えば業務ファイルの閲覧、営業

日報の記入、契約書作成、電子申請などでは、モバイ

ルの使いこなしは日本は他の国に比べると若干後れて

います。これはここ 2 〜 3 年、変わらない状況です。

 コミュニケーション以外の活用で成果を上げる企業

も登場しています。たとえば、大成建設はそれまで

IT を持ち込めなかった建築の現場に IT を持ち込み、

作業の進捗管理をすることで、戻り作業が減り、効率

化が実現しました。また、生保では明治安田生命が、

PC とタブレットをセットにして 1 台 2 役で済ませる

ものを導入しています。タブレットでもキーボードと

ディスプレイが分かれるタイプのもので、屋外営業に

はディスプレイの部分を持っていって、タッチ操作で

お客さまに見せながら対話をして、オフィスに戻って

くるとキーボードを付けてパソコンとして使います。

端末の数を減らすことで初期導入コストを削減する狙

いがあると思います。この会社が面白いのは、タブ

レットの導入に際して、例えば顧客満足度を47〜50%

を超えるようにする、ペーパーレスを進めるなど、い

わゆる KPI(成果指標)を掲げている点です。これは、

端末の導入、あるいは今後の利活用で悩んでいらっ

しゃる企業の活動のアプローチの一つになるのではな

いでしょうか。

2.企業活用を支える技術の進化

 2010〜2013年の調査で、日本の企業は、モバイル

(スマホ、タブレット)を導入する際、セキュリティ

に対して非常に敏感であるという結果が出ています。

一時期の Android のマルウェアの問題、端末紛失によ

る情報漏えい、また最近では教育会社の情報の持ち出

しといった事件がありましたが、こういったことに対

するリスク意識が日本は突出して高いです。逆に、セ

キュリティ意識の高さゆえに、使う範囲を限定して、

そこにとどまってしまっているという見方もできると

思います。それを特徴づけるのが、社内システムの

連携、例えば会社のファイルサーバーへの接続、業

務系・基幹系システムへの接続に関する課題意識が下

がっているということです。これは、使い方を限定し

ているので、それは検討しないという裏返しとも解釈

できるかと思います。企業がスマートデバイスに対し

て、どのように端末や情報を管理していくか。この後

にウェアラブルという時代が来るときに、同じような

ことが起こるでしょう。今、スマートフォンの MDM

(モバイルデバイス管理)のガイドラインが出ていま

すが、次のテーマはウェアラブルでしょう。

 スマートデバイスを会社につなぐ場合と、端末とし

て使う場合、つまり企業ネットワークへの接続とエン

ドポイントのセキュリティという観点で、どのような

技術があるかを考えてみましょう。ネットワーク系の

技術では、不正アクセス防止やリモートアクセスのた

めの VPN(バーチャル・プライベート・ネットワー

ク)などがありますが、エンドポイントのセキュリ

ティでは、最近だと MAM(モバイルアプリケーショ

ン管理)、MCM(モバイルコンテンツ管理)といった

キーワードも出てきています。スマートデバイスを導

入している企業へのアンケートの結果、日本、アメリ

カ、中国、欧州とも、端末の認証やウィルス対策は結

構高いですが、日本は他国に比べてデータの暗号化の

利用は低いです。これは、セキュリティファーストで

企業ネットワークにつないでもメール、カレンダーぐ

らいしか見ていないからでしょう。

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ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

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 それから、日本は MDM 導入の割合が非常に高い

のが特徴的です。各研究会から MDM の導入管理の

ためのガイドラインが出されており、日本の企業で

も MDM という言葉が一般化されたのではないかと思

います。しかしながら、今後は MDM よりも MAM の

方が重要になると私は思っています。なぜなら、今後

はスマートデバイスで利用する業務アプリケーション

やデータが増えるからです。さらに、MDM ではあら

ゆる端末の情報を収集できるため、社員のプライバ

シーを侵害する可能性があります。会社として守る

べき対象は、社員であり、会社の資産である業務の

アプリケーション、データです。そこを重点的に制御

する機能として MAM が出てくるかと思います。米国

ではデュアル・ペルソナと紹介されることもあるよう

に、個人用の顔と業務用の顔の二つを作ることができ

るのが MAM です。海外では大手の IT ベンダーなど

がソリューションとして提供し始めており、日本での

導入も始まっています。弊社も海外企業と提携して、

MAM の提供を始めました。

3.新たなモバイル:ウェアラブルへの期待と課題

 現在、ウェアラブルが注目を集めています。これ

までの IT トレンドでは、具体的なスマホブームはア

メリカでは2008年、日本では2009年、そして iPhone

を 3 〜 4 割の企業が使うようになるまでに約 5 年か

かっています。タブレットも同様です。したがって、

ウェアラブルも誰もが普及したと思えるようになるに

は発売から 4 〜 5 年かかるかもしれません。ただ、弊

社は、ウェアラブル端末は国内で2018年頃には400万

台規模で普及するのではないかという強気の予測をし

ています。

 どこの調査会社も、ウェアラブル端末はこれから普

及すると予測しています。普及が見込まれる背景の

一つとして、ユビキタスネットワークの実現がありま

す。たとえばテザリングによってインターネットへ

の常時接続、すなわち「always on」が可能になりな

りました。また、今年は Bluetooth4.0の低消費電力版

(BLE)が登場しました。もう一つの背景は、マー

ケティングを行う企業の注目を集めていることです。

実際、B to C のサービスとしては、アメリカのスター

バックスでスマートウォッチが決済ツールとして使わ

れ始めています。また、イギリスの航空会社ヴァージ

ンアトランティックでは、アッパークラスのお客さま

をご案内するときに Google Glass を使うというトラ

イアルを行って世間的に注目を集めています。

 Google Glass に代表される眼鏡型のウェアラブル端

末の実用化にはハードルがあります。Google Glass に

は写真を撮る機能も付いているので、Google Glass で

撮影される相手へのプライバシーへの配慮が不可欠で

す。グーグルは、個人に関わる情報は収集・蓄積して

はならないという注意事項を挙げています。この辺り

は、これから普及させるためには解決しなくてはいけ

ない課題です。

4.企業におけるコンシューマー IT の役割

 産消逆転によって、企業の IT 環境にコンシューマ

(消費者)の IT が浸透しています。産消逆転とは、

消費者側でITの進化が進んでしまう状況を示します。

スマートデバイス(スマホ、タブレット)や、これか

ら出てくるウェアラブルも、恐らく消費者側で先に普

及するでしょう。それを企業としてどう使うかという

ことを検討していかなくてはいけないと思います。企

業においては、場所や時間を問わずに IT を使いたい、

業務改革をしたいといったニーズがあってスマホ、タ

ブレットを導入しているのが現状です。メール、スケ

ジュール以上の、より高度な使い方を目指していると

思います。弊社は今年に入って JAL 様と共に、屋外

での点検業務で Google Glass を使う実証実験を行っ

たのですが、写真を撮ったり、書類を見ながら荷物の

配置を検討したりする際にハンズフリーでできるた

め、ウェアラブルは有効だということが検証できまし

た。

 スマホ、タブレットと同様に、ウェアラブルが企業

の中に入ってくる状況は避けて通れません。こうあり

たいというゴールを目指す中で、新しいデバイスがど

う使えるかを検証する POC(概念検証)の仕掛けも

重要になってくるでしょう。

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招待講演2

「ビッグデータを活用した、安全で快適なモビリ

ティー社会を目指した取り組み」

  今井 武 氏

(本田技研工業株式会社 役員待遇参事

 グローバルテレマティクス部)

1.ビッグデータを活用した、Honda テレマティクス概要

 カーナビが登場して、2000年前後にテレマティク

スができてきたことで、情報によって効率よく快適に

移動ができるようになりました。これからは人と車と

社会がつながって、かつビッグデータを活用すること

によって安全で快適なモビリティー社会ができていき

ます。私どもは、渋滞をなくしたい、事故をなくし

たい、災害から身を守りたい、そして楽しいモビリ

ティー社会、車の社会を作っていきたいと考えて、気

象のビッグデータやさまざまなドライブ情報、何より

も車のデータそのものを活用してドライブに必要な情

報を加工編集してサービスをする「インターナビ」を

2002年に立ち上げました。現在、会員数は230万人で

す。特にフローティングカー交通情報システムを自動

車メーカーとして世界で初めて実用化し、そこから得

られるビッグデータがさまざまな分野に活用できるこ

とを証明してきました。この領域では住友電工様の開

発協力を得ています。

 フローティングカーデータ交通情報システムは、

VICS のないところでも車がセンサーになって情報を

取り入れ、最適ルートを案内するもので、2003年に

始めました。私どもはカーナビにリンクアップフリー

という 3 G の通信モジュールを標準装備し、毎月150

億レコードもの情報を得て、普通のカーナビにはでき

ないようなルートを提供しています。

 一方、2003年から防災ナビゲーションにも取り組ん

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でおり、豪雨や凍結の予測、地震や津波に関する警報

を出しています。また、北海道では毎年約10人もの人

がホワイトアウトで亡くなることから、ホワイトアウ

ト予測情報試験の運用も開始しました。ホワイトアウ

ト警報が出る場合にカーナビおよびスマホへ警告を行

い、万が一ホワイトアウトに遭ってしまった場合には

最終通信地を家族へメールで通知するというものです。

2.ビッグデータの社会への活用

 大規模災害発生時には、道路情報はライフライン

上、極めて重要です。東日本大震災の際には、住友電

工の多大な協力を得て、会員車両データから徹夜で

KMZ ファイルを作り、通行実績マップを生成して翌

朝10時半に公開しました。これを Google クライシス

レスポンスや行政の方々、京都大学の防災の先生、自

衛隊などに使っていただきました。これによって通れ

る道が分かり、陸前高田や南三陸に入ることができた

と聞いています。その後、トヨタ、日産、パイオニア

を含めた民間データと、道路管理者の通行止めデータ

を統合して活用したのが、官民連携によるデータ活用

の最初の事例だと思います。また、今年 2 月の山梨の

豪雪の際にもこういったデータを活用しました。現在

では、KMZ ファイルは震度 6 の地震があると自動生

成するようになっており、道路情報もワンタッチでス

マホで見られるようになっています。

 また、フローティングカーデータから急ブレーキポ

イントを抽出し、道路行政側に提供しています。それ

を基に改善を行って事故防止に取り組んでいる埼玉県

の事例があります。現在、私どもは safetymap.jp とい

う形でこの情報を公開しています。

3.ビッグデータを活用した研究中のテーマ

 今、私が研究しているテーマの 1 点目は、発災時

にいかにドライバーを助けることができるかというこ

とです。石巻の松原地区では、 1 本しかない女川に通

じる道で11km もの渋滞があり、そこを津波が襲って

200人以上の方が亡くなっています。車も14万台が流

され、 2 万人弱の方が行方不明もしくは死亡し、その

6%が車の中だったということです。データの分析を

して今後につなげるため、震災後、東日本大震災ビッ

グデータワークショップを、グーグル・ジャパン、ツ

イッター・ジャパンの呼び掛けで行ってきました。

  2 点目としては、東北大学の交通工学の桑原先生と

研究会を立ち上げました。そこで行った一つ目が、石

巻の交通渋滞の完全シミュレーションです。その結果、

現在、石巻の復興都市計画では、避難道路の追加と車

線拡幅、橋の増設が行われることになっています。

<ビデオ上映>

 もう一つが、津波の完全シミュレーションです。被

害を抑えるにはビッグデータをリアルタイムにモニタ

リングして情報として伝える技術が必要です。これを、

情報通信研究機構(NICT)の協力を得て、2020年の

実用化を目指して研究を進めています。

<ビデオ上映>

 また、山梨の豪雪のときに、道路状況が行政や報道

に伝わっていれば、あんなに苦労することはなかった

と思うのです。そこで、そのような情報提供に協力し

ようと取り組みを行っています。

<ビデオ上映>

 これからは、ビッグデータを持っている人は、有事

のときは、PDF ではなく、センサーデータなど、い

わゆるリアルタイムのデータを公開して一つのプラッ

トフォームに乗せ、必要な人が必要な形で取り出せる

ようにしていくべきだと思います。

 私どもは、社会貢献という形で全国に無料でこの

サービスを提供していますが、インターナビの装着率

は高く、お客さまに選んでいただいていると感じてい

ます。お客さまや社会の共感や感動が得られる、また

存在を期待される企業を目指して、このような取り組

みを行っています。

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ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

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4.つながるモビリティー社会を目指して

 昨年、安倍首相が世界最先端の ICT 国家をつくる

という宣言をして、各省庁がいろいろな施策を出し始

め、自動車メーカーも動いています。2020年に向けて、

モビリティーにおける、ICT、IoT の注目すべき分野

は五つあると思います。

 一つ目は G 空間です。位置情報を基にしたビジネ

スは、2020年には現在の 3 倍の62兆円規模になる見

込みです。総務省の予算も付き始め、各企業が持つ

位置情報付きのデータを流通させる G 空間プラット

フォームを作る動き、災害関係の情報をタイムリーに

配信する動き、そしてシティーモデルという形で、IT

農業などいろいろな分野でプラットフォームのデータ

を利活用する動きがあり、ビッグデータが流通する時

代になると考えています。

 二つ目は準天頂衛星です。2018年には 4 機体制にす

ることが閣議決定され、既に 1 機、打ち上がっていま

す。この利活用を今われわれが担当しており、ゼンリ

ン、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共に、タイを

皮切りに ASEAN 地域の高精度地図を作り、プローブ

データでアップデートしていく試みをしています。こ

の地図を政府に無償提供することで、それが土木や建

設、農業をはじめ、さまざまな産業の基盤になります。

 三つ目は V-Low マルチメディア放送です。この認

可が下り、九州・沖縄地区で今年度スタートして、

2018年までに全国に普及する予定です。これは放送

と通信の融合ができる新しいメディアで、例えば地震

や大雨の情報を放送した後、ロードサービス会社にリ

ンク出来る、あるいはラジオ放送でイベントやレスト

ランの情報が流れると、そのチケットやクーポンをス

マホでダウンロードできるといったことになるのでは

ないかと期待しています。

 四つ目はウェアラブル端末です。車のビッグデータ

と生体センサーとしてのウェアラブル端末を融合す

ると、何かもっと面白いことができるのではないかと

思っています。

 五つ目がコネクテッド・カーです。これも大変な

ビッグビジネスになるでしょう。車(Vehicle)とい

ろいろなものがつながる V to X ということです。カー

シェア、自動運転、セキュリティ、予測広告などの分

他言語の観光情報や、オリンピックの情報の提供と合わせ日本を訪れる海外のお客様に、おもてなしサービスの提供

商用施設での情報提供観光情報提供

自治体/公官庁大使館での情報提供

WiFiによる情報伝播を行う情報基盤万が一の災害時は、クルマが情報を伝達する

Copyright Honda Motor Co., Ltd.

学校、公共施設での情報提供

WiFi/通信ユニット

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野で、相当たくさんのプレーヤーがいます。

 先日パイオニアが発表したアップルの「CarPlay」

は、これに対応したアプリを入れて車につなげると、

カーナビも音楽も全てアップルになるというもので

す。これについて自動車メーカーは 5 社が取り組みを

始めています。われわれもその一社です。

 最後に、われわれが目指す「Wi-Fi でいつでもどこ

でも誰とでもつながるモビリティー社会」の世界、そ

して、今日都知事に見ていただこうと用意してきた映

像をご覧いただいて終わりにしたいと思います。

<ビデオ上映>

招待講演3

「JSSE MDM セキュリティガイドラインの概要―

スマートデバイスの端末管理に向けて―」

  関 德男 氏

(日本電気株式会社 スマートデバイスビジネス

本部 エキスパート、

日本スマートフォンセキュリティ協会(JSSEC)

技術部会 デバイスワーキンググループ)

 日本スマートフォンセキュリティ協会(JSSEC)

は、国内では、モバイルをビジネスに使うためのセ

キュリティに関する唯一のオフィシャルな団体です。

私は技術部会に所属しており、JSSEC では MDM

(Mobile Device Management)のタスクフォースを設

立しました。本日は、2014年 4 月に公開した利用・

運用ガイドラインを中心にお話しします。

1.MDM について

 MDM には実は正式な解釈をする言葉がないのです

が、共通するキーワードとして、アプリケーション

セキュリティ、ネットワークセキュリティ、脆弱性、

基本セキュリティ、組み込みのセキュリティなどがあ

ります。フルディスク暗号化を考えると、どうしても

組み込みの概念が入ってきてしまうので、スマートデ

バイスの世界でセキュリティを語る場合、組み込みセ

キュリティの部分とどうすみ分けて運用を考えるかが

なかなか難しいところです。ただ、モバイルセキュリ

ティと言っても、セキュリティの基本は同じで、持ち

込まれているアーキテクチャーや方法論が少し違うと

いうことです。スマートフォンやタブレットは、ネッ

トワークに何らかの形でつないでいないと全く意味を

なさないものですが、カメラや Bluetooth をはじめと

する便利な機能があることで、ビジネス用途で考える

と逆にセキュリティリスクもあります。そのリスクを

抑えるために MDM という概念が存在します。

 歴史的に振り返ってみると、MDM はネットワーク

セキュリティの中でも携帯電話の世界で提唱されて

いた方法論です。全世界の電話会社が加盟するオープ

ンモバイルアソシエイツ(OMA)という組織体があ

り、携帯電話の管理の仕方や通信の仕組みの共通化を

図ってきています。ガラケーの時代から、通信のアー

キテクチャーに対しては OMA の基準ガイドラインに

沿ったプロトコル設計をしています。 MDM は、もと

もとは企業ユースではなく、キャリア通信会社が電

話料を払わない人には VoIP 機能をカットするといっ

た目的から始まったものです。ガラケーの時代になる

と SMS カートリッジ方式が一般的でしたが、最近は

Android や iOS の出現により、やり方がもっと広範囲

になってきました。

 ユニファイドコミュニケーションということが叫

ばれた時代に、シームレスな環境で Web サイトを経

由して、コミュニケーションツールとして進化した

のが、今で言う Twitter や Gmail などです。しかし、

MDM のニーズがぐっと上がったのは、モバイルデ

バイスが企業活動に普及した段階だと言われていま

す。実際には CRM や SFA の世界に入ってくると、

Android 用のアプリケーションで保存したとしても、

その中には取引先企業の固有の情報を持たさないこと

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ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

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には機能しないアプリケーションも多数あります。そ

のようなデータの管理が、MDM の目的になってくる

だろうと思います。

 MDM を作っているベンダーをいろいろ調べると、

機能がばらばらなのですが、これは違っていていいの

だと私は思います。使う目的、使うデータによって、

セキュリティのあるべき姿は異なります。自分の会社

に合ったものという目線が重要になります。

 そういう意味では、各社ばらばらの機能で MDM を

定義した上であるべき論を語れという、非常に難しい

お題を 3 年ほど前に頂き、メンバーでいろいろ議論し

ながら「MDM 導入・運用検討ガイド」という冊子を

作りました。

2.MDM 導入・運用検討ガイド

 MDM は、その提供形態や通信方式によってやり方

は千差万別であり、OS の違いによってエージェント

のアプリの挙動が大きく異なります。製品やサービス

の傾向は、プロフィールに依存するところが大きいの

ですが、その特性がだいぶ異なります。

 まず、MDM はクラウド型とオンプレミス型の二つ

に大別されます。最近ではほとんどがクラウドサービ

ス型になってきています。ただ、公共機関や銀行など、

外部のクラウドサービスに依存せずに自力で運営する

ことに必然性がある組織体では、今でもオンプレミス

型が必要です。オンプレミス型は、比較的単一の特定

組織向けの構築形態が主流になっているかと思

います。

 通信方式は、MDM が始まった頃は SMS プッ

シュ方式がほとんどでした。OMA2.1か2.2ぐら

いのバージョンの頃に SMS カートリッジ方式

は国際規格化されていくのですが、日本だけは

独自の文化をドコモが作り、似たようなものを

今度は KDDI が作って、どんどんガラパゴス化

が進みました。しかし、今ではガラケー専用に

作った SMS プッシュ方式はほとんど見なくな

りました。電話着信方式は SMS と全く同じで

す。それから OS ベンダーのプッシュ型には、

大きく分けてアップルとグーグルの二つのアー

キテクチャーがあります。最近一番多いのはポーリン

グ方式です。会話形式の双方向のものが中心になって

きています。

 iOS と Android が混在している企業が非常に多いの

ですが、MDM 目線で見るとどう違うのかとよく聞か

れます。MDM は、ほとんどのベンダーが iOS 対応だ

と言っていますが、実はアップル社指定の APNs と

いう MDM の標準実装をする API は拡張することが

できないのです。ところがグーグルの場合は通信方式

に対する規制があるだけですから、MDM ベンダーが

好きなようにアレンジしています。その分グーグルは、

セキュリティのすごく深い部分まで手を付けるという

傾向があります。

 MDM サービスの提供元は、 キャリア通信会社

(NTT ドコモ、KDDI、ソフトバンク等)、セキュリ

ティベンダー(マカフィー、トレンドマイクロ等)、

ソリューションベンダー(オプティム、ヴェクタント

等)の三つに大きく分けられます。特にソリューショ

ンベンダーは小さなベンチャーが急成長を遂げてお

り、セキュリティ性にたけたものを出しています。

3.導入に当たって

 MDM 導入を企業が検討する上で、ともすると機能

比較論に陥ってしまうのですが、会社が買い与えた端

末なのかどうか、社内のスタッフが何の目的で使う端

末を管理したいのかという目線が非常に重要です。例

1

参考:総合的なBYOD管理

安全な業務接続安全な業務接続

システム運用担当者の負荷軽減システム運用担当者の負荷軽減

効率的なセキュリティ管理

安全なリモートアクセス安全なリモートアクセス

キャリア網(3G/WiMAX)

広域無線LANサービス

社内無線LAN

従業員

ファイルサーバ

グループウェア

社内ポータル

各種業務システム

効率的なセキュリティ管理

検疫サーバ

シンクラ接続

モバイルデバイス管理(MDM)

無線LAN VPN装置

<社内システム>

スマートモバイル基盤環境

LCMサービス

キッティング・導入・配布・廃棄

運用管理ヘルプデスクアセスメント

端末管理、資産管理、ライフサイクル管理、セキュリティ管理を総合的に行う。

インシデント管理 リモートロック/ワイプ、遠隔ポリシ設定アプリ管理、端末監視、資産管理など

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ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

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えばスマートフォンのカメラ機能は利用禁止にするこ

ともできますが、外回りをしている人が行った先の工

事現場の写真をアップロードするには、カメラがオン

でなければいけません。一方、工場の中の工員にはカ

メラ機能は不要で、むしろそれを使って機密情報とな

るような新しい生産ラインの製品を撮ってアップロー

ドされては困ります。同じ会社でも、使う目的によっ

てデバイスの制御が変わってくるので、その辺のルー

ル整備と利用シーンを想定したポリシーづくりが非

常に重要です。それから、デジタル証明書の扱い、

MDM エージェントのインストールはキッティングベ

ンダーに頼むべきか、社員にさせるべきかなど、いろ

いろなことを考える必要があります。

 また、アクティベーションの仕方はそれぞれ違いま

す。キャリアの MDM の場合は、実際には社員の使っ

ている SIM ダイヤル番号を基にポリシー適用をする

というサービスなので非常に簡単です。クラウドサー

ビスの場合は、サービスベンダーに対して全ての端

末をリスト化してセキュリティポリシーのプロファ

イルを決め、クラウドサービスベンダーにその情報

を Excel などで渡して一括でサーバー側にインポート

し、端末には指定のアプリケーションをインストール

してもらいます。そして、MDM サービスとその端末

の間のデバイス認証を成立させるという仕組みになり

ます。オンプレミス型はもっと複雑で、特定の機関が

特定のアプリケーションサービスを管理するためのプ

ログラムを端末用に用意して、一台一台に据え付けて

いくという考え方です。セキュリティポリシーも、そ

の企業がどのような端末の使わせ方をしたいかという

ことに依存してアレンジします。だから、このオンプ

レミス型の MDM が一番セキュリティ強度が高く、オ

リジナリティーを含めてカスタマイズさせることがで

きるのです。

 MDM で SI ビジネスをしようという方の一番の収

益源となるのはオンプレミス型です。再販やサービス

をすることでモバイルデバイスを売りたいと思ってい

る方は、手離れが良く、自分たちの責任がないクラウ

ドサービスがいいということになります。

4.運用における留意点

 平常時においては、ホワイトリスト方式が実用的で

ある、バージョン管理をする、ヘルプデスクの機能を

用意する、プロファイルは一元管理して一斉配信させ

る、廃棄時には MDM 側から強制的にワイプをかけて

工場出荷時に戻すといった留意点があります。

 また、異常時運用に関しては、最近の MDM は、な

くした場合に MDM 側から強制的にロック解除パス

ワードを変更させることができます。オートハンドリ

ングでフルパスの三十数けたのロック解除パスワー

ドを強制させると、唯一 MDM にログインできる人が

ロック解除のボタンを押さない限りはロック解除で

きない状態になります。 MDM ではピンコードによる

ロック解除が一般的になっており、MDM のサービス

ベンダーがそれをパスワード方式に置き換えるという

のが最近の傾向です。それは、MDM でロック解除パ

スワードを使って社員がロック解除する場合と、社内

の RAS サーバーを経由して社内システムにログイン

する場合の認証パスワードとポリシーを合わせたいと

いうニーズがあるからです。 MDM サービスが始まっ

た頃は、ピンコード(数字の羅列)だけでロック解除

させるのが一般的だったのですが、最近では非常に複

雑になっています。 MDM といっても、端末管理の方

法論だけでなく、社内システムとの連鎖が重要視され

る傾向にあります。

 リモートワイプも、最近では工場出荷状態に戻して

しまう、アプリケーションもアンインストールさせる

のが一般的です。遠隔サポートは、操作者の画面がク

ラウド側の管理者画面にも出ているというのが一般的

な保守のやり方です。管理者画面から端末自体をコン

トロールしてインストールさせたり、セキュリティパ

ラメーターを変更させたりするには、プラットフォー

ム証明が必要になってきます。これはまだ数社しか対

応できていないので、まだまだ未開拓の分野だと思っ

ています。

 MDMは、ますますスマートデバイスの普及に伴い、

企業運営には重要なセキュリティ要素となります。ス

マートデバイスの運用管理に MDM 導入を検討の際は

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ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

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JSSEC の MDM セキュリティ運用カイドをご参考に

して頂ければと存じます。

 また、本日はウエアラブルデバイスの普及に向けた

先進的な事例が紹介されていますが、企業利用用途で

のセキュリティ観点での運用にも同様にセキュリティ

要素を配慮した運用が重要と思います。しかし、現段

階ではウエアラブルデバイスの企業利用が定着化して

おらず一般論とすべき標準的な実装方式は未だ定着さ

れていない状況と認識できます。

 このような状況で JSSEC では、ウエアラブルデバ

イスに関するセキュリティ運用のガイドラインについ

て研究するワーキンググループの設置を検討しており

ます。

パネルディスカッション

「スマートデバイスの発展がもたらす

ビジネスイノベーションとは」

  ファシリテータ:尾上 孝雄 氏

(大阪大学 理事補佐 大学院情報科学研究科 

教授)

1.パネル紹介

パネル 1

「ジェスチャースマートグラス MIRAMA」杉本 礼彦 氏

(株式会社ブリリアントサービス 代表取締役)

 私どもはジェスチャー入力のウェアラブル端末を

作った会社ですが、日本ウェアラブルデバイスユー

ザー会というコミュニティを塚本教授と一緒に立ち上

げて勉強会を精力的に行うなど、コミュニティ活動に

も積極的に取り組んでいます。弊社は、「しゃべって

コンシェル」や、関西テレビ「ジャルやるっ!」で使

われている iBeacon のソフト、データ蓄積・活用技術

を特徴とした LED 植物工場「farmCube」の開発、そ

して IVI(In Vehicle Infotainment)にも取り組んでい

ます。もう一つが、電脳メガネ「MIRAMA」で、こ

れは現実に対して情報を加える、あるいは視線共有と

の組み合わせによる利用などが考えられます。ウェア

ラブルは今後、ファッションとの融合があるのではな

いかと思います。

<ビデオ上映>

 スペインの MWC(Mobile World Congress)で今年

2 月に MIRAMA を出したときには、海外で大きな反

応がありました。将来的には小型化していこうと思っ

ていますが、バッテリが一番の問題です。バッテリ性

能の進化は、同じ大きさだとすると20年で 2 倍です。

ところが半導体は 1 年半で 2 倍になりますので、バッ

テリの進化よりは半導体の進化を待った方がよいよう

です。また、ウェアラブルの半導体は間違いなく出て

くるでしょう。

 私たちは、少ない台数でも MIRAMA を世界で販売

したいという強い思いを持っています。そういう若い

人の勢いを止めずに会社で後押ししていただくことで、

日本がもっと元気になり、ウェアラブルやビッグデー

タ等、新しいことで強くなっていくと考えています。

ARをジェスチャーでコントロールというのがどんなユーザー体験なのかを研究するために、既存製品を組み合わせてプロトタイプとデモアプリケーションを開発しました。

その後、展示やテレビ取材を経て、他社様から研究用途に買いたいという要望が多かった為、SDK等を加えて販売を予定しています。

プロトタイプ

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パネル 2

「ワイヤレス M2M とスマートデバイスへの期待」木下 泰三 氏

(株式会社日立製作所 情報・通信システム社

通信ネットワーク事業部 事業主管) 

 私は2004年頃に日立の社内で「ワイヤレスインフォ

ベンチャーカンパニー」を立ち上げ、M2M の事業に

チャレンジしています。人間に持たせるスマートデバ

イスが70億個なのに対して、物に持たせるスマートセ

ンサーは700億個なので、これに非常に期待していま

す。総務省の市場予測では、2015年が8000億円で、

2020年までに更に1.2兆円くらいまで伸びるとのこと

です。増加のほとんどが無線でスマートデバイスを

使った IoT と言えるでしょう。

 M2M の場合、スマートデバイスをゲートウエイや

センサーに使うということが始まっています。タブ

レットでは、4 G も WiFi も Bluetooth も付いており、

多少サーバー的なことをしようという動きが出ていま

す。スマホはアタッチメントといろいろなセンサーを

付ければ、そのままセンサーノードになります。H2M

の場合は、ウェアラ

ブルですのでスマー

トデバイスを人間が

持ち、これがセンサー

にもゲートウエイに

もなるので、そのま

ま広域ネットワーク

でクラウドに持って

いけるでしょう。

 ワイヤレスの世界

で言うと、近々、ミ

リ 波 通 信 に 移 っ て

いくでしょう。 60G

の PAN の 世 界 で、

ブロードコムなどが

手がけていますが、

10Gbps といったデー

タレートが走るということです。今、センサーネット

の世界では ZigBee が割とメジャーです。ウルトラワ

イドバンドなどもあり、デバイスが今後どんどん変

わっていくことに一つ期待しています。

 それから、私たちは社会インフラ(環境、防災、災

害都市、スマートシティ、農業、道路、橋梁、鉄道)

の保全に傾注しています。車の場合、ムービングリー

ダ、プローブカーにもスマートデバイスを使っていま

す。また、病院は位置情報とセンサー情報の大きなイ

ンドアの市場となっています。

 センサーネット M2M のビジネスから見たスマー

トデバイスの課題としては、無線のインターフェー

スの変化や、センサーのカスタマイズ、ワイヤレス

M2M の標準化などがあります。今、ワールドワイド

の OneM2M というユニークスタンダードができよう

としています。技術以外では、オープンデータやプラ

イバシーの問題があります。さらに、今、非常に攻め

ているのがオールシーン・アライアンス(ASA)と

いう、一種のセマンティックの P2P(peer to peer)

のコネクションです。スマートデバイスはコスト面で

も汎用性の面でも非常に大事であり、課題は多いので

すが、大いに期待しているところです。

OT IT

1

人の健康行動支援

通話ログ

電力メーター カーナビ

SNS

監視映像

環境・気象データ

設備監視

動画・画像・音声

物流トレース

運行情報ICカード利用

人の移動

業務データ

診断画像・電子カルテ

メール・文書

Big Data

社会インフラ保全

センサ情報収集センサ情報収集

フィードバック

制御・運用制御・運用 把握・分析・予測把握・分析・予測

IO: Intelligent Operations3-2.

GPS

(生産管理・在庫管理等)

設備監視

運転自動化

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パネル 3

「スマートデバイスの進化と企業における モバイル活用の変化」

藤吉 栄二 氏

(株式会社野村総合研究所 IT 基盤イノベー

ション事業本部 基盤ソリューション企画部

上級研究員)

招待講演 1 の概略紹介

パネル 4

「ビッグデータを活用した、安全で快適な モビリティー社会を目指した取り組み」

今井 武 氏

(本田技研工業株式会社 役員待遇参事

 グローバルテレマティクス部)

招待講演 2 の概略紹介

2.ディスカッション

(以下敬称略)

1)スマートデバイスの進展と今後の技術動向

(尾上) まずはデバイスとして、あるいは製品とし

てのビジネス面での可能性についてお聞きしたいと思

います。スマートデバイス自体の開発は今後どう進ん

でいくでしょうか。また、どうすればそれでもうけて

いけるでしょうか。

(藤吉) ウェアラブルデバイスを、一つの大企業が

大きなお金を投資して独占的に作るというモデルは、

サービスも含めて今後は難しくなると思います。国内、

海外の動向も見ながら、マーケティングの視点も含め

てデバイス開発することが非常に重要です。

 海外では既に、キックスターターやインディーゴー

ゴーなど、規模は小さいのですが、アイディアに投資

してもらって新しいデバイスを開発する環境ができて

います。また、「Airbnb」や「Uber」のように、法の

すき間に対して起こる新しいイノベーションもありま

す。スマートデバイスが、スマートフォン、タブレッ

ト、さらにウェアラブルへと向かうなか、日本のみな

らず世界中の大手メーカーやベンチャーがこの分野に

参入しています。そんななか、端末開発で独占的な地

位を確保することはますます困難になるでしょう。

(杉本) 『私が靴を愛するワケ』という映画には、「私

の機嫌は、ヒールの高さに比例する」という副題が付

いていて、男の人は強く見せたいからシークレット

ブーツを履くけれども、女の人は、かわいいから履く

のだということを言っています。「かわいい」「格好良

い」は、苦痛を乗り越えさせるのです。我慢が必要で

も、それ以上にかわいかったら付けるというのはウェ

アラブルのヒントだと思います。

(尾上) その辺が、若手技術者を生かせということ

につながってくるのだと思います。

 木下さんには、実際の製品開発のことも含めてお話

し願います。

(木下) 70億人に対して、スマートセンサーは10

倍の700億個と言いましたが、最近では「Trillion

Sensors Summit」、つまり 1 兆個と言われています。

健康・医療が堅い市場ですが、工場でも意外と使われ

ており、ここにも市場性があります。ただ、電池が技

術的にまだまだで、1000A を 1 cm 角くらいに詰め込

んだ電池を開発してほしいと思っています。

(尾上) 今井様、モビリティーという面での今後の

話、あるいは、実際にライフスタイルが大きく変わっ

ていくと思うのですが、その辺はどうでしょうか。

(今井) 私が入社したときは、車はエンジンの性能

や馬力で勝負していましたが、これからは新しいデバ

イスと車が結び付くことによって面白いことができる

と思います。モビリティーをいかに魅力あるものにし

ていくかということを考えています。

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2)ワークスタイルやライフスタイルはどう変革され

るか?

(尾上) ワークスタイルとライフスタイルのどちら

をターゲットにしていくべきかに関しては、消費者

とビジネス応用では考えることがだいぶ変わってきま

す。どういうところを尺度に考えていけばいいでしょ

うか。

(藤吉) 難しい問題ですが、自分の会社がどうした

いかということが非常に大事だと思います。今の IT

の業界では、グーグルやアマゾンも含めてコンシュー

マーの世界で新しい技術が起こっています。われわれ

SI は、その情報を使って付加価値を提案できる可能

性があります。われわれの会社はビジネス向けですの

で、そこでベネフィットを生みたいと考えており、ア

プローチの道具としては使えるものを使う、ただし使

い方は新しいことをしましょうということで取り組ん

でいます。

(尾上) ビッグデータを社会に還元するだけではお

金がもうかりません。その貴重なデータを、どこを

ターゲットに、どう提供していくと、どんなことが起

こるとお考えですか。

(今井) こういうデータそのものを社内あるいはビ

ジネスにどう生かすかということは実はあまり考えて

きていないのですが、例えば、渋滞する道でどのよう

に販売店や駐車場を配置したらよいかということが提

案できるかもしれません。また、車自体の使われ方か

ら、そろそろ故障するからこの部品を用意して販売店

に来ていただくなど、幾つかのことをしていかなけれ

ばいけないと思っています。

(尾上) 杉本様の方は、エンタープライズ系に近い

ものも開発されていると思うのですが、スマートデバ

イスとしてはどのようなところに活用できそうですか。

(杉本) 特に医療で言うと、MIRAMA は両手が空く

ので機材を触らずに操作ができるということがありま

す。コンシューマーで言うと、やはりファッションの

ところです。また、CERO という団体がコンピュー

ターゲームのレーティングをしています。 CERO-A

はエロもグロもないゲームなのでスーパーのレジの横

で売っていいのですが、CERO-Z だと隅っこで売ら

なければなりません。実は日本ウェアラブルデバイ

スユーザー会でも今そういう規定を作っています。下

世話な話ですが、ウェアラブルデバイスを禁止して倫

理規定を作り、お金を払って試験を受けたら認証のス

テッカーを貼るというようにすればもうかるのではな

いでしょうか。

(関) Bluetooth の電波自体がポジショニングの情

報を持っていますので、集合体としてビーコンネッ

トワークの世界に入ってくると、デバイスの位置が

キャッチアップできます。日本はその辺の基準づくり

が不十分で、電波法の技適審査における Bluetooth の

基準の議論がやっと始まったところです。アメリカで

は範例的にルールが作られますが、日本ではルールあ

りきで認める、認めないが決まります。その辺の文化

の違いがあります。

(杉本) Google Glass も電波法を通っていません。

私どもはアメリカ法人があるのでアメリカではアプリ

の開発ができるのですが、そこまでしないといけない

となると、日本は産業的にもどんどん遅れるので、電

波法の特区を作ってほしいです。

(関) 業界団体がウェアラブルに方向感がありつつ

も手をこまねいてしまう理由が、ビジネスに乗せる

ための仕組みが未整備だということです。基準を作る

団体に対して、もう少しガイドラインをしっかりしま

しょうとみんなで言わなければ駄目なのです。実際、

今、ネットワークセキュリティ協会や電子情報技術産

業協会(JEITA)、シスコなどがそういうアプローチ

をかけています。サイバーセキュリティ戦略法が今の

国会を通過して予算が付けば、来年くらいにはその辺

のルール整備が進むのではないかと期待しています。

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(尾上) 木下さんからは H2M と M2M というお話が

ありました。数が出るというのは分かったのですが、

どちらがやりやすいのでしょうか。

(木下) その前に今のお話の続きで、アメリカでは

IoT、IT を使った病院は巨大市場ですが、日本はほぼ

ゼロです。その理由の一つが倫理的な問題、もう一つ

が電波法です。ただ、オリンピックに向けて、とにか

く日本の不出来あるいは不便な状況は全て解消しよう

という動きが見えていますので、あとは 5 〜 6 年待っ

てください。

 ご質問に戻ると、なかなか H2M の世界は難しいと

思っていますが、私どもは、例えば電車の架線事故

を IoT でリアルタイムで見ようということで JR と共

同研究を行い、スマートデバイス化を進めています。

M2M の世界だと、チャンスは相当たくさん転がって

いるという感じを持っています。

(尾上) プライバシー保護は、気にする人は気にす

るし、気にならない人は気にならないものですが、技

術的に完全にプライバシープロテクテッドなものを作

るのか、どうすればいいのでしょうか。

(藤吉) プライバシーに関しては、基本的には利用

シーンも含めて相手に告知することが前提ですが、実

験、先行導入を踏まえて、ウェアラブルならではのプ

ライバシーの課題を蓄積しないといけないと思ってい

ます。

(木下) また病院の話になるのですが、アメリカと

日本で最も違うのは、日本は全てを患者のデータと捉

えるのに対して、アメリカは、人間に付けるセンサー

デバイスを売っている人のデータであり、病院のデー

タであると捉えるということです。また、私たちの製

品「エアロケーション」に位置情報を入れたところ、

社員から思い切りクレームが来て結局外したという

ケースもあります。プライバシーに関してはさまざま

ですが、日本はやはり乗り越えるのはなかなか厳しい

と感じています。

(今井) 会員サービスにおいてはもちろん個人情報

は全てクリアしていますが、オープン化の際にはルー

ル化が必要です。オプトイン、オプトアウトの話がど

うしても出てきて、リアルタイムにデータをオープン

にするというところが一番の課題だと思っています。

(杉本) プライバシーも、盗撮というレベルの話に

なると 3 割くらいは技術で防げると思います。ただ、

完璧な防御のシステムなんて絶対に作れません。でき

るけれどもしては駄目ですよという運用も必要だと、

過去の事例を見ていても思います。

3)2020年東京オリンピックの頃を目指すとすると?

(尾上) 法整備等がうまくいってほしいという希望

的推測も含めて、2020年にどういうところを目指し

ていくのがいいのか、何が有望なのか、一言ずつ頂け

ればと思います。

(藤吉) その頃の日本はもう少子高齢化が進み、超

熟社会が訪れてきますので、安心・安全、医療や介護

などでウェアラブルは使う余地はあるかと思います。

また、こういうものを使って海外に対するビジネスも

何かしらしてほしいと思っています。

(今井) 私は、つながるモビリティーで、かつもの

すごく思いやりがある世界を作りたいと思っていま

す。外国人から見ると、日本は非常にいい国なのです

が、やはり災害が怖いので、何かあってもケアできる

という世界を作りたいと思っています。それから、車

が WiFi でつながり、情報発信局になることが今の法

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規制で大丈夫なのかということをクリアにしないとい

けないと思っています。

(杉本) ウェアラブルで AR ができるので、東京オ

リンピックの競技場で100m 走をしているのを、別の

競技場でディスプレイを通して見ると、そのトラッ

クを走っているように見える、しかもそれが有料で

できればすごく面白いと思っていますが、これはま

だ妄想のレベルです。分かりやすいものでは、見た

まま翻訳というか、メニューを見たら日本語がハン

グルになったり英語になったりというものがあるだ

ろうと思います。

(木下) やりたいことの一つは脅威に対する対策

で、一番はテロです。皆さんが持っているスマートデ

バイスや首都圏内の100万台のカメラをつないだビッ

グデータで犯人を捜すということをしたいです。ま

た、看板をスマホのカメラで写して英語に訳してナビ

ゲーションに役立てるなど、映像関係のビッグデータ

をやりたいです。もう一つは、総務省が「サクサク

JAPAN Project」という、海外から日本に着いたらど

こでも WiFi で、ID やパスワードなしでつなげると

いうことを進めているので、銀行の決済と交通の決済

とサクサク WiFi の全部をスマートデバイスで一気通

貫でやりたいという夢を持っています。

質疑応答

(尾上)それでは、参加者の方々から頂いたご質問を

ご紹介します。

(Q 1 )今井様へのご質問で、交通情報提供におい

て、なぜ業界をリードし続けられるのか、また、イン

ターナビの普及拡大に伴い通信コストが増大すると思

うが、その対処策はあるかというものです。

(今井) まず、誰もやってこなかった領域で開発を

進めてきたこと、先進創造というホンダの DNA があ

り、お客さまや社会のニーズをいつも考えて、それに

対して即断即決でいろいろなことができたということ

があります。特徴はやはり防災系で、リスクがありま

すが、大きく役に立つのだったらやるべきだというこ

とで、早くから力を入れています。

 それから、インターナビの通信費は確かに高くて、

この事業だけで考えたら完全に赤字なのですが、メー

カーとしてお客さまとつながり続けていきたいという

営業ニーズがあるので、営業でもいろいろ考えてくれ

ています。

(Q 2 )他に、スマートフォンからウェアラブルなデ

バイスに変わった時に出る顕著な変革点、また、法案

と法整備についてのご質問がありました。

(Q 3 )文字変換についてのアーキテクチャー、ソフ

ト、その市場性には期待感があるものの、その辺りは

まだ全然顕在化されていない感じがします。そういう

商材など、キャッチアップされている情報がありまし

たらぜひ教えてください。

(杉本)オムロンソフトがスマートフォンでカメラ

を使って AR で翻訳するソフトはもう発表されていま

す。 NTT ドコモは眼鏡型でそれを去年の CEATEC

に展示しています。 MIRAMA も実は、とあるソフト

ウェアをエンジンオンにすると翻訳できます。ただ、

そこもバッテリの問題で、得られる快感に合わない

です。眼鏡も実は Google Glass の片眼のものだと AR

になりません。これは光学的に相当難しいのです。で

すから、ウェアラブルでの見たまま翻訳については、

いろいろなところが悩んでいるようです。

(木下) 技術的には多分できると思います。弊社の

場合で言うと文字認識という研究ジャンルが数十年

前からあり、郵便物の手書き文字をそこそこ認識す

るという技術はあります。また、石碑に彫ってある

文字を認識するものや、頓智ドットの「エアタグ」

もあります。いろいろなところに書かれている文字

とおぼしきものを直すのは、もちろん100%は無理で

しょうが、助けにはなるという技術は十分あると思っ

ています。

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ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告 −スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは−

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(Q 4 )インドア用途で、例えば完全バーチャルスク

リーンのようなものにもウェアラブルというのはある

のではないかと思うのですが、どう思われますか。

(杉本) オキュラスリフトがまさにそうだと思うの

ですが、今年の「東京ゲームショウ」がこれを使った

ゲームの展示ばかりでした。ゲームに没頭させるとい

うところで没入型のウェアラブル端末に大きな可能性

を感じている人は、特にゲーム業界では多いです。

(木下) 工場では、防護型の大きい眼鏡を付けて作

業をしている方が多いので、そこに作業をするライ

ンのものを認識して指示を出したり、機械のマニュア

ルを出したりという用途ではよく使われていますし、

RFID や QR コードと組み合わせたデバイスが先進的

な工場から入りつつあります。最近の話題では、アメ

リカでは GE がインダストリアル・インターネット・

コンソーシアム(IIC)、ドイツではシーメンスを中心

に「インダストリー4.0」ということで第 4 次産業革

命を言っています。今までは工場の中の IT 化だった

のが、今度は工場間をクラウドでつなごうということ

です。日本も工場に関しては負けていられないので、

そういう世界でウェアラブルデバイスをぜひ使ってい

きたいです。

まとめ

(尾上) 今日のパネル討論では、 4 人の方々にいろ

いろな視点からさまざまなお話を頂きました。

 一つは、デバイスの進展という面で 1 社開発はなか

なか難しいのではないかという話がありました。そこ

で海外ではキックスターターなどの取り組みがあり、

同業他社や異業種のアライアンスも有効に働いていく

だろうという話でした。分野としては医療、安全・安

心、農業、運輸、防災、ファッションなどで活用で

き、OneM2M やオールシーン・アライアンスなどと

の技術的な動きがあるということでした。また、許認

可の壁があってなかなか踏み出せないところがある一

方で、それを逆手に取って認定制度を作ってしまおう

という元気な発想もあるようです。

 プライバシーに関しては、技術で解決できるものと

できないものがあり、基本的には告知することだとい

う話が出ました。取得したデータ自体のオーナーシッ

プはどこにあるのかという話では、割り切ってやって

いるケースもあるでしょう。こういうものをビジネス

応用した方がいいという方の多くは、取得データやプ

ライバシーのところがある程度担保されていて安心で

きるところがあるのかなと思いました。

 2020年のオリンピックの頃の話では、超熟社会と

いうことで、安全・安心が一つのキーワードになり、

日本だけでなく海外との連携や海外からの訪問者のサ

ポートが必要になってきます。ウェアラブルだとやは

り AR 技術という話が出てくるので、多言語対応や、

テレビ中継よりももっと臨場感が出るようなサービス

とかで提供できるのではないか。一方でテロリスト対

策も、フィジカルなものとサイバーなものの両方必要

です。利便性で言うと、「サクサク WiFi」にデビット

カードと交通カードをプラスしたようなものをうまく

使って海外からの訪問者をサポートできるのではない

かということです。

 最後に、「かわいい」「格好良い」が、ものを売っ

ていくキーワードになっていくかもしれないという

話が出ました。これはわれわれの世代を狙っても駄

目で、若手を生かすことや、関西に元気な会社が幾

つかあること、また塚本先生のおかげでそういう土

壌があることが、ポジティブなお話だったのではな

いかと思います。

 ぜひ今日のパネル討論の内容を持ち帰り、今後のビ

ジネスに生かしていただければと思います。ありがと

うございました。

Page 54: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

52

1.活動概要

 オープンデータ・ビッグデータを取り巻く課題と、

それらに対する本フォーラムでの取組内容①〜⑤およ

び関連事業⑥を説明します。

① 利活用セミナー

ビッグデータの活用事例やパーソナルデータを取り巻

く動向など、最新情報に関するセミナーを開催します。

② テクニカルセミナー

データ分析手法やツールの利用方法などデータ分析

の実践に関するセミナーを開催します。

 平成25年 6 月に政府が宣言した世界最先端 IT 国家創造宣言の中では、「オープンデータ・ビッグデータの活用の

推進」が重要な施策として取り上げられ、また国の実証実験プロジェクトや自治体におけるオープンデータの試行

なども始まっており、こうした動きを契機に民間においてもデータ活用を既存事業への応用、新ビジネスの活性化

などに繋げていく必要があります。今後、オープンデータ・ビッグデータの健全な流通のためのプラットフォーム

の構築は、地域においても不可欠でありますが、その「利活用の壁」となっているパーソナルデータをしっかり保

護した流通促進の仕組み作りと、データの利活用のデザイン、分析、加工・流通を担う人材の育成が急務となって

います。

 この状況の中で、関西の中立的機関である KIIS として、オープンデータ・ビッグデータの利用・流通を推進する

プラットフォームの構築、人材育成を主たる目的として「オープンデータ/ビッグデータ利用推進フォーラム」の

設立・運営を始めました。

②テクニカルセミナー

③データサイエンティストの会

④シンポジウム

⑤コーディネーション活動

⑥関連事業e-Kansaiレポート

データ分析事例・利用事例の研究

データ分析人材の育成

オープンデータの民間利用

パーソナルデータの安全な利用

データ流通プラットフォームの構築

①オープンデータ・ビッグデータ利活用セミナー

図1 オープンデータ・ビッグデータ利用推進フォーラム

オープンデータ・ビッグデータ利用推進フォーラム

KIIS 事業紹介

総務企画グループ・事業推進グループ

Page 55: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

オープンデータ・ビッグデータ利用推進フォーラム

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③ 「データサイエンティストの会」

データアナリストやデータキュレータを目指す人の

ための分析技術の向上等の機会としてデータサイエ

ンティストの会を開催します。

④ オープンデータ・ビッグデータ利用推進シンポジウ

ム(KIIS ビジネスイノベーションセミナーとして

開催)

有識者講演やフォーラムの活動状況報告を行います。

⑤ コーディネーション活動(実証実験型)

データの利用しやすい環境を整備し、流通に向けた

実証実験の準備検討中です。

⑥関連事業:e-Kansai レポート

関西地域における情報化の実態を調査し、これまで

の経年実施した結果と合わせ、政策支援・ビジネス

展開のためのレポートにおいて、2014年度は、オー

プンデータ・ビッグデータ活用実態をテーマに取り

上げています。

2.オープンデータ・ビッグデータ流通プラットフォームを目指して

 上記の活動により、データの利用流通を促進するプ

ラットフォーム(図 2 )の構築運用を目指し、デー

タ保有提供企業・国自治体と利用企業の間において、

データコーディネーション機能として、データ所在案

内・実証実験・パーソナルデータの安全確保・データ

加工分析・分析人材育成に関する各種の支援活動を行

う考えです。

2. 活動報告:オープンデータ・ビッグデータ利活用セミナー

 データ利活用の普及促進を目的にしたセミナーをベ

ンダ企業協賛のもとで 3 回の予定で企画し、その第 1

回、第 2 回を以下のように主催実施しました。

2.1. 第1回

開催日時 平成26年 9 月19日(金)13:30〜17:00

会  場 AP ホール(AP 大阪駅前梅田 1 丁目)

参 加 者 95名

プログラム

13:30〜13:40(10分)

【開会あいさつ】一般財団法人関西情報センター 

専務理事 田中 行男

13:40〜14:40(60分)

【講演①】組織の壁を越えたデータ利活用による新

オープンデータ・ビッグデータの利用企業

・自治体や企業が保有する様々なデータを利用して、自社の経営効率化のために利用する。

・安全なパーソナルデータを利用するために中立機関に評価を受ける。

・データアナリストの育成のためにコミュニティに参加する。

データコーディネーション機能

データポータルサイト(所在案内)

ビッグデータの集積・利用(実証実験)

パーソナルデータの安全性の確保

ビッグデータの加工・分析

オープンデータ/ビッグデータ分析人材の育成

オープンデータ・ビッグデータの利用・流通促進のために各種支援を実施する。

ビッグデータの保有・提供企業

国・自治体のオープンデータ化の支援

ビッグデータの利用に関するコンサルティングやアナリスト企業の紹介を行う。ビッグデータやオープンデータを編集・加工して、企業が必要とする形態で提供する。

国や自治体の保有するオープンデータの所在案内や活用法のアドバイス、加工を支援する。

流通用データへの加工

個人識別性の排除

利用データのマッチング

データ流通市場の開拓

新サービスの開発、サービスの向上

アナリスト・キュレータの育成

ビッグデータの集積・利用

データ資産の価値向上

地域住民へのサービスの向上

パーソナルデータの安全性の担保

ビッグデータ利用に対する元データ提供者の

不安の解消

図2 データ流通プラットフォームとコーディネーション機能

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オープンデータ・ビッグデータ利用推進フォーラム

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事業・新サービス創出に向けて

〜データ駆動型(ドリブン)イノベーション創出

戦略協議会の活動から〜

経済産業省 商務情報政策局 情報経済課

課長補佐 利としみつ

光 秀ひでふさ

方 氏

14:40〜15:40(60分)

【講演②】データ・ジャケット:データ市場創造の

ための技術

〜データの価値発見からビジネス創出へ〜

東京大学 工学系研究科 システム創成学専

攻・技術経営学専攻

大澤幸生研究室 早は

矢や

仕し

晃てる

章あき

15:50〜16:50(60分)

【講演③】ビジネス課題とデータから見る、ビッグ

データ活用

〜30社超の事例で知るベストプラクティス〜

日経ビッグデータ 副編集長 市いちしま

嶋 洋ようへい

平 氏

16:50〜17:00(10分)

【事務局より】今後の活動について

  一般財団法人関西情報センター

理事 深野 二郎

*短期間の募集ながら多数の参加者となり、すべて

の講演で「大変参考になった」「参考になった」

を合わせて 9 割以上となり、満足度は極めて高

かった。ビッグデータへ取組は「重要である」と

の認識であるが、今後の取組課題・予定との回答

でした。

当日の様子

2.2. 第2回

開催日時 平成26年11月 5 日(水)14:00〜16:30

会  場 大阪大学中之島センター 703講義室

参 加 者 57名

プログラム

14:00〜14:05( 5 分)

【開会】一般財団法人関西情報センター

14:10〜15:10(60分)

【講演①】データ利用環境の変化と期待

一般財団法人日本情報経済社会推進協会

(JIPDEC)

電子情報利活用研究部 部長 坂さかした

下 哲て つ や

也 氏

15:25〜16:25(60分)

【講演②】パーソナルデータ収集の多様化と問題点

株式会社国際社会経済研究所 情報社会研究部

主幹研究員 東あずま

  富とみひこ

彦 氏

*参加者の感想は、いずれの講演も「大変参考に

なった」「参考になった」を合わせて95% となり、

満足度は極めて高く、パーソナルデータの問題に

ついての関心が非常に高いことを表しています。

当日の様子

2.3. 協賛企業(順不同)

 次の企業にご協賛をいただいています。

インフォテリア株式会社、株式会社 NTT データ/株

式会社 NTT データ関西、日本電気株式会社、株式会

社日立製作所、富士通株式会社

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オープンデータ・ビッグデータ利用推進フォーラム

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3.活動報告:テクニカルセミナー

 セミナーのねらい:実績の集計や明細確認などの定

型的なデータ分析ではなく、施策案の事前評価や、未

知の要因の洗い出し・検証など、「最終的に知りたい

数字や、必要な情報から改めて考えねばならないデー

タ分析」に焦点を当て、データから誤った判断を下さ

ないよう、また、他人の分析結果の報告を鵜呑みにし

ないよう、正しいデータ分析を行う考え方と方法につ

いて学ぶ狙いで開催しました。

開催日時 平成26年10月23日(木)〜24日(金)

9:30〜18:00

会  場 一般財団法人関西情報センター

第 1 会議室

主  催 一般財団法人関西情報センター

協  力 株式会社オージス総研

講  師 大阪ガス株式会社 情報通信部

企画管理チーム兼ビジネスアナリシス

センター 副課長 河かわむら

村 真しんいち

一 氏

株式会社オージス総研 ソリューション

開発本部 データアナリシス部 第三チーム

西にしわき

腋 清きよゆき

行 氏

参 加 者 10名

当日の様子

*参加者は予定より少数であったが、基礎的な知識

から丁寧にレクチャーしてもらえてよかったとい

う意見が多く、歯ごたえのある内容で、日常の業

務にノウハウを活用できるとの回答が占めました。

4.今後の展開

4.1. H26年度スケジュール(表1)

 利活用セミナーは、 1 月に第 3 回を予定していま

す。また、本年度の本フォーラムの活動総括として 3

月にシンポジウムを開催予定です。ここで、e-Kansai

レポートの調査や、来年度に予定している異なる分野

のデータ組合せやデータ流通による実証実験の準備等

のコーディネーション活動の状況報告も行う予定です。

10 11 12 1 2 3

利活用セミナー9/19 11/5

テクニカルセミナー 10/23,24

データサイエンティストの会

シンポジウム

実証実験に向けた準備活動(コーディネーション活動)

(e-Kansaiレポートにおける調査)

9

表1 H26年度スケジュール

4.2. 今後の活動

 H27年度は、データサイエンティストの会を立ち上

げ普及促進のための利活用セミナーや人材育成のため

のテクニカルセミナーの企画検討の主体としても活動

を期待し、またフォーラムの中核であるコーディネー

ション活動として実証実験を具体化し取り組み、図 3

の例 1 、例 2 に示すような統合利用によるメリットを

実証すべく進めていきます。

【フォーラムへの参加】

 セミナー、シンポジウムへの参加者募集は、イベン

ト毎に実施しますので、メルマガや当財団の HP 等で

参加募集の案内がございましたら、是非ともお申込み

をお願いいたします。また、プラットフォーム実現の

ために関係機関・支援企業と調整を図りながら、実証

実験のための準備活動を予定しています。

【協賛企業】

 当フォーラムにご関心のあるベンダー企業様につき

ましては、是非とも協賛企業としてご協力いただきま

すことをお願いいたします。

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オープンデータ・ビッグデータ利用推進フォーラム

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【お問合せ・お申込みの連絡先】

 当フォーラムへのお問い合わせ・お申込みは、以下

の連絡先にお願いします。

〒530-0001 大阪市北区梅田 1 丁目 3 番 1 −800号

一般財団法人 関西情報センター 事業推進グループ

TEL (06)6346-2641  FAX (06)6346-2443

e-mail:[email protected]

フォーラムに関する情報は、KIIS ホームページ

URL http://www.kiis.or.jp/

および、KIIS facebook

https://www.facebook.com/KIIS.OR.JP

で提供しています。              

 

図3 安全で安心なデータの統合利用によるビジネスの変革・創造、サービスの高度化

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株式会社スリーエース

 この度、賛助会員として入会させて頂きました、株

式会社スリーエース(代表取締役 井上太市郎)でご

ざいます。私どもは京都に本社をおきますコンピュー

タのソフト会社で、昭和56年 8 月に賃貸アパートの一

室からスタートしました。創業当時、コンピュータに

おけるソフトウェアには、「形のないもの=お金を出

して買う必要のないもの」という認識が一般的であり

ました。しかし弊社は当時よりコンピュータのソフト

ウェアの可能性を信じ、質の高い価値あるソフトウェ

アの開発を主な業務として取り組んで参りました。

社名『スリーエース』の由来

 私どもは、

System Integration…お客様が望まれているシステム

や条件を充分理解・分析し、的確なシステ

ムを提案。

Software… システムを構築する上で必要となる、質の

高いソフトウェアの開発。

Service… システムを維持管理する上で必要とされ

る情報の提供や、高い専門知識を持った技

術者の提供。

という、 3 つの S…SSS(スリーエス)をもじり、

業界のエースを目指すという思いを込めて3ACE(ス

リーエース)と名づけ、今後もこの社名に恥じないソ

フトウェアを開発して参ります。当初は業務システム

の開発からスタートしましたが、他社に先駆けてス

マートフォン向けアプリ開発にも着手し、今では基幹

システムからデジタルコンテンツに至るまで、顧客

ニーズに応じた最適な提案・開発・運用支援を行って

おります。販売管理・財務などの基幹システムをはじ

め、WEB サイトの構築やスマホアプリ開発など、ス

キルと希望に応じた開発環境をご提供します。

【業務内容】

システムインテグレーション

 お客様の情報システムの企画、設計、開発、構築、

導入、保守、運用までワンストップでご提供しており

ます。製造業、自治体、アパレル、住宅メーカーなど

多数の業務経験と開発実績がございます。

システムエンジニアリングサービス

 お客様の必要な時に、お客様の必要なスキルを持っ

た最適なエンジニアをご提供します。

スマートデバイス向けアプリ制作

 日本で初めて iPhone が販売された際、ソフトバン

ク様から iPhone 向けのアプリ開発のお話しを頂いた

のをきっかけにスマートデバイス向けアプリの開発に

着手しました。また平成24年には、京都市様が認定

していますオスカー賞をスマートフォン向けアプリで

頂きました。今では、Android 向けのアプリも含め、

BtoB や BtoC、BtoBtoC の場にご提供を行っており

ます。

Web コンテンツ制作

 『ユーザー目線に立った、使い勝手のよいサイト制

作』をコンセプトに、デザインの良さや内容の分か

りやすさだけではなく、ユーザー側から見て“目的の

ページを探しやすい”サイト制作を中心に取り組んで

います。 今後は、ますます普及を進めるスマートフォ

ンに対応すべく、HTML5、JavaScript、CSS3などを

活用して、デバイスや環境に依存しないスマートフォ

ン対応の Web アプリやサイト制作のご提案にも、力

を入れていきます。

賛助会員企業のご紹介

Page 60: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

賛助会員企業のご紹介

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幼児教育関連事業

 保育士に特化した地域密着型の派遣事業です。園長

先生・主任先生方とのお付き合いの中で、各園の保育

のご方針に合う人材派遣を心掛けてまいりました。き

め細かいサポート体制で、より質の高いスタッフをご

準備いたします。

 私たちは、「世の為、人の為」という社是にのっとり、

情報を有効活用するコンピュータのシステムと、多く

の人々が関わってうごく人の組織というシステムを融

合させ、あらたな文化創造のために努力して参ります。

【企業情報】

会社名 株式会社スリーエース

設立日 昭和56年(1981年) 8 月 4 日

代表者 代表取締役 井上 太市郎

所在地 [本社]

〒600-8088

京都府京都市下京区万寿寺通高倉東入官

社殿町199番地

TEL:075-341-5263 FAX:075-341-5270

[東京オフィス]

〒103-0013

東京都中央区日本橋人形町 3 丁目 7 −13

日本橋センチュリープラザ506

TEL:03-3662-5332

URL http://www.3ace-net.co.jp

資本金 3,450万円

社員数 62名(平成26年11月28日現在)

加盟団体 京都市ベンチャービジネスクラブ

京都コンピューターシステム事業協同組合

近畿情報システム産業協議会

(一社)京都府情報産業協会

システム制御情報学会/ITコンソーシ

アム京都

取引銀行 三井住友銀行 京都支店

京都信用金庫 本店

京都銀行 本店/滋賀銀行 京都支店

会社資格 ・中小企業経営革新支援法 認定企業

・一般労働者派遣事業 般26-300099

・有料職業紹介事業  26- ユ -300089

・プライバシーマーク 第 20001153号

【主な開発実績】

駐車場運営事業者向け駐車場管理システム

公益財団法人向け予算管理システム

各種団体向け会員管理システム

し尿処理施設向け収集管理システム

アパレル業界向け販売管理システム

景品発行ソフト

建設発生土受入管理システム

ガソリンスタンド向け販売管理システム

(iOS・Android 向けアプリ)

飲食店向けオーダリング& POS システム

FTP クライアント&ドキュメント Viewer アプリ

音楽配信アプリ

名刺 Viewer アプリ

ドキュメント共有アプリ

飲食店向け注文アプリ

電化製品メーカー様向けカタログアプリ

サッカー検定アプリ

京都検定アプリ

写真デコレーションアプリ

土木構造物の点検業務支援アプリ

入出庫支援アプリ

営業支援カタログアプリ

ほか

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株式会社岡村製作所

1.沿革

 株式会社岡村製作所(以下オカムラ)は1945年、

創業者を中心に設立の主旨に賛同した人たちが資金、

技術、労働力を提供し合って「協同の工業・岡村製作

所」としてスタートを切りました。その創業の精神は、

「創造、協力、節約、貯蓄、奉仕」の 5 つの言葉から

なる社是として今日に受け継がれています。

2.基本情報

本社所在地 横浜市西区北幸 1 丁目 4 番 1 号天理ビル19階045(319)3401(代表)

創業 昭和20年10月[1945年]

資本金 18,670百万円[2014年 3 月31日現在]

事業内容 スチール家具全般の製造・販売産業機械その他の製造・販売金属製建具取付工事の請負建築業に関わる付帯工事・設計・製造・販売商品陳列機器その他の製造・販売各種セキュリティ機器に関わる付帯工事・設計・販売事務所の環境向上と事務・生産効率向上に関する情報の提供とこれに関連する機器の製造・販売

事業所 追浜/高畠/つくば/富士/御殿場/中井/鶴見

従業員 2,834名 [2014年 3 月31日現在]

支店 全国95支店[2014年 3 月現在]

関係会社 株式会社関西岡村製作所株式会社オカムラ物流株式会社オカムラ サポート アンド サービス 他31社

3.事業紹介

 オカムラは創業以来、「よい品は結局おトクです」

をモットーにグローバルな観点から時代の変化を先取

りし、お客様のニーズを的確にとらえたクオリティの

高い製品とサービスの提供をめざしています。オフィ

ス周辺環境をはじめさまざまな事業を展開させてきた

ことから、あらゆる分野の知識・技術を活かした「総

合力」を強みとし、質の高い環境整備に努めています。

・オフィス環境

さまざまな仕事を行うワーカーが集まるオフィスで

は、それぞれにとって働きやすい環境を自由に選

択して利用できるようになっていることが望まれま

す。オカムラはオフィス家具の販売というハード面

だけではなく、個々の特性や状況に応じてすべての

人の能力を最大限に引き出す環境づくりというソフ

ト面でもご提案を行っています。

エルゴノミックメッシュチェア「コンテッサ」

・パブリック

教育関連施設、公共施設内の什器をはじめ、施設全

体の環境づくりにも関わっています。学校教室、図

書館、劇場、ミュージアム、スタジアムなど、その

施設環境は多岐にわたります。

・ヘルスケア

IT 化の進展や医療制度の改定、災害や医療事故に

対するリスクマネジメントなど、医療施設や高齢

賛助会員企業のご紹介

Page 62: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

賛助会員企業のご紹介

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者施設を取り巻く環境はめまぐるしく変化していま

す。総合力を活かした空間提案と高度な技術に基づ

いた什器の提供により、最適な空間づくりをサポー

トいたします。

・ラボラトリー

大学をはじめ、公的機関の研究所、企業の研究開発

部門など、研究施設は最先端の知的創造空間といえ

ます。知的生産性の高い環境をめざして、実験室と

研究オフィス、それらをつなぐコミュニケーション

エリアなど、研究施設全体の空間づくりをサポート

します。

・セキュリティ

各種プロテクター、入退室管理システム、文書・物

品管理システム、監視カメラシステム、防水・防潮

設備など豊富な品揃えで、金融機関、オフィスビル

をはじめ、産業、医療、原子力施設など、あらゆる

分野の安心と安全をご提供します。

・テレコム

ICTを利用したオフィス環境の整備は、知を共有し、

創造性を高めていくために重要な要素の一つです。

オカムラはオフィスの家具・内装はもちろん、情

報化リニューアル、新築・移転時のネットワーク・

インフラ整備をコンサルティングから工事監理まで

トータルにサポートします。

AV 会議システム

・建材

オフィス空間のコミュニケーションとプライバシー

の両立に欠かせないパーティションをはじめ、ホテ

ル、ホールの移動間仕切やトイレブースなど、さま

ざまな環境に適した製品をご提供します。

・インテリア

オカムラはさまざまな製品開発のノウハウを活か

し、安心で安全な学習家具づくりを行っています。

また、働き方が多様化する SOHO ワーカーの環境

整備まで、住空間におけるワークスタイルの研究・

開発に取り組み、世代を超えたインテリアシーンの

提案を続けています。

・商環境

社会環境、市場の激変に伴い、小売業は常に新しい

店舗づくりを求められます。オカムラは小売業を取

り巻く環境の変化をいち早く捉え、提案から設計施

工まで、店舗づくりをトータルにサポート。陳列什

器、冷凍冷蔵ショーケース、各種専用什器など、売

り場からバックヤード、物流システムまで幅広い品

揃えでさまざまなニーズにお応えします。

・物流システム

ロジスティクスの合理化を追求しつづけるオカムラ

は、実践を通して常に新しい物流システム機器を開

発しご提供しています。より「早く」「正確に」「安

全な」物流作業を実現し、経営メリットを生み出す

ための物流システム改善のご提案から、ソフトウェ

アの開発、機器導入、運用支援、アフターサービス

までトータルにお手伝いします。

・流体変速機

日本初のトルクコンバータを製造し、その後独自の

研究開発から生まれた製品は、幅広い分野でその成

果が認められています。特に産業車輌、荷役機械、

建設機械等の産業界においては、安全で快適な走行

と作業性能によって高い評価を得ています。

フォークリフト搭載のトルクコンバータ

Page 63: 機関誌KIIS150号 特集「オープンデータ」

定価¥5 0 0(送料込)(ただし、一般財団法人関西情報センター会員については、年間購読料は年間会費に含まれております。)

◇ごあいさつ 一般財団法人関西情報センター 会長  森下 俊三 …………1

◇ 特集「オープンデータ」 ………………………………………………………………………………………2

 □「経済産業省のオープンデータの取組」 ……………………………………………………………………3

経済産業省 商務情報政策局 情報プロジェクト室

 □「福井県のオープンデータの取組」 …………………………………………………………………………9

福井県 総合政策部 政策統計・情報課

 □「リンクト・オープン・データ・イニシアティブの活動」 …………………………………………… 16

リンクト・オープン・データ・イニシアティブ 理事  小出 誠二、高橋  徹

 □「オープンデータの拓く新たな社会」 …………………………………………………………………… 24

NTTコミュニケーションズ 国際大学 GLOCOM客員研究員  林  雅之

◇KIIS事業紹介

 □ITシンポジウム「インフォテック2014」の開催報告

   -スマートデバイスの発展がもたらすビジネスイノベーションとは- …………………………… 32

 □「オープンデータ・ビッグデータ利用推進フォーラム」  …………………………………………… 52

◇賛助会員企業のご紹介

  株式会社スリーエース …………………………………………………………………………………… 57

  株式会社岡村製作所 ……………………………………………………………………………………… 59

KIIS Vol. 150 目    次

本誌は、当財団のホームページでもご覧いただけます。http://www.kiis.or.jp/content/info/magazine.html

KIIS Vol.150 ISSN 0912-8727平成27年 1 月発行人 田中 行男発行所 一般財団法人 関西情報センター    〒530-0001 大阪市北区梅田1丁目3番1-800号 大阪駅前第1ビル8F TEL. 06-6346-2441