mezlocillinに 関する基礎的臨床的研究 東京大学医科...

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114 CHEMOTHERAPY JAN. 1979 Mezlocillinに 関する基礎的臨床的研究 真 下 啓 明*・ 国 井 乙 彦 ・深 谷 一太 ・清 水 純 孝 ・小 森 谷 武美 ・岩田滉一郎 東京大学医科学研究所内科 *現東京厚生年金病院 BAYf1353は バ イ エ ル 社 で 開 発 さ れ た 新 しい半合成 ペ ニ シ リ ン剤 でMezlocillinと 呼ばれる 。本物質の抗菌 力は諸種 グラム陰性桿菌に対 し てAmpicillin(ABPC) Carbenicillin(CBPC)よ り優 れ る こ とが 多 く,と くに 緑膿菌に対して意義が大きいといわれる。久 し くす ぐれ た抗生物質の開発のみられなかった ドイ ツ よ り の 発 表 で あ る点 も注 目 され る。 そ の構 造 式 はFig.1の よ うであ Fig. 1 Chemical structure of Mezlocillin り,い わ ゆ るUreidopenicillinの 一員である。私共のと ころ で 本物 質 につ い て行 った 検 討 成績 に つ い て 報 告 す る。 方法ならびに成績 1.感 受 性 検 査 臨床分離各種 グラム陰性桿菌の本物質に対する感受性を 日本化学療法学会標準法1)によ り測定 した。 ブイ ヨンー 夜 培 養 原液 接 種 時 の 成績 はTable1のよ うで,緑 膿 菌 に 対 してMIC値 は25~>400μg/mlと 広範囲に分布 した。100倍 希 釈 液 接 種 時 の成 績 はTable2のよ うで あ り,すべ て の被 検 株 に対 して本 物 質 のMICは50μg/ml 以 下 に低 下 し,接 種 菌 量 の 影 響 を か な り うけ 易 い こ とが 知 られ た。 本物 質 とCBPCのMIC値 の間の相関を原液接種時 についてみ るとFig.2のよ うであ り,100倍 希釈液接種 時についてみ る とFig.3のよ うで あ っ た。 本 物 質 が CBPCよ りす ぐれ た 抗 菌 力 を 有 す る こ とが,と くに接 種 菌 量 の 少 な い とき著 明 とな る こ とが 知 られ る。 本 物 質 とTicarcillin(TIPC)のMIC値 の相 関 を原 液 接 種 時 に つ い てみ る とFig.4,100倍 希釈液接種時で み るとFig.5のよ うであ り,CBPCと比較 した場合と 類 似 して,原 液 接 種 時 大 き い本 物 質 のMIC値 を 示 した 株 も,100倍 希釈 液 接 種 時 には 著 し く小 さいMIC値 な る もの が 多 く,明 瞭 に 本 物 質 のTIPCに 優 る抗 菌力 が 示 され た。 本物質 とT-1220のMIC値との相 関を,原 液接種時 に つ い て み る とFig.6,100倍 希釈液接種時でみると Table 1 Sensitivity of clinical isolates to Mezlocillin in original culture * NIHJ

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114 CHEMOTHERAPY JAN. 1979

Mezlocillinに 関す る基 礎的 臨床 的研 究

真 下 啓 明*・ 国 井 乙 彦 ・深 谷 一太 ・清 水 純 孝 ・小 森 谷 武美 ・岩 田 滉 一 郎

東京大学医科学研究所内科*現東京厚生年金病院

ま え が き

BAYf1353は バ イ エ ル社 で開 発 され た新 しい半 合成

ペ ニ シ リ ン剤 でMezlocillinと 呼 ば れ る。 本 物 質 の 抗 菌

力 は 諸 種 グラ ム陰 性桿 菌 に対 してAmpicillin(ABPC)

Carbenicillin(CBPC)よ り優 れ る こ とが 多 く,と くに

緑 膿 菌 に 対 して 意 義 が大 き い といわ れ る。 久 し くす ぐれ

た 抗 生 物 質 の 開 発 の み られ なか った ドイ ツ よ りの発 表 で

あ る点 も注 目 され る。 そ の構 造 式 はFig.1の よ うであ

Fig. 1 Chemical structure of Mezlocillin

り,い わゆるUreidopenicillinの 一員である。私共の と

ころで本物 質につ いて行 った検討成績 に つ い て報 告 す

る。

方法な らびに成績

1.感 受性検査

臨床分離各種 グラム陰性桿菌の本物 質に対す る感受性を

日本化学療法学会標準法1)に よ り測定 した。 ブイ ヨンー

夜培養 原液接種時の成績 はTable1の よ うで,緑 膿菌

に対 してMIC値 は25~>400μg/mlと 広範囲に分布

した。100倍 希釈液接種時の成績 はTable2の よ うであ

り,す べ ての被検株に対 して本物質 のMICは50μg/ml

以下に低 下 し,接 種菌量の影響をかな りうけ易 いことが

知 られた。

本物 質 とCBPCのMIC値 の間の相関を原液接種時

についてみ るとFig.2の よ うであ り,100倍 希釈液接種

時についてみ る とFig.3の よ うで あ っ た。 本 物 質 が

CBPCよ りす ぐれた抗菌力を有す ることが,と くに接

種菌量の少ない とき著 明とな ることが知 られ る。

本物質 とTicarcillin(TIPC)のMIC値 の相関を原

液接種時についてみ る とFig.4,100倍 希釈液接種時 で

み るとFig.5の よ うであ り,CBPCと 比較 した場合と

類似 して,原 液接種時大 きい本物質のMIC値 を示 した

株 も,100倍 希釈液接種時 には著 しく小 さいMIC値 と

な るものが多 く,明 瞭に本物質のTIPCに 優 る抗菌力

が示 された。

本物質 とT-1220のMIC値 との相 関を,原 液接種時

についてみる とFig.6,100倍 希 釈 液 接 種 時 でみ る と

Table 1 Sensitivity of clinical isolates to Mezlocillin in original culture

* NIHJ

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VOL.27 S-1 CHEMOTHERAPY 115

Table 2 Sensitivity of clinical isolates to Mezlocillin in 100 fold diluted culture

* NIHJ

Fig. 2 Correlogram between MICs of Mezlocillin

and CBPC in original culture

Fig. 3 Correlogram between MICs of Mezlocillin

and CBPC in 100 fold diluted culture

Fig.7の よ うであ り,両 老のMIC値 は ともに接種菌量

の影響を大き くうけ,100倍 希釈 液 接 種 では50μg/ml

以下の範 囲に被検株全部が収 るよ うにな った。緑膿菌 で

はT-1220の 方が抗菌 力がやや強 く,プ ロテウス,エ ン

テ ロパ クター,セ ラチア,ク レブジエラでは少数株では

あ るが逆 に本物 質の方 が抗菌 力がす ぐれて いるものが多

くみ られ るよ うであ る。

緑膿菌 に対す る抗菌力についてみる と,一 般的に いっ

てPC904が もっ ともす ぐれ,次 いでT-1220,Mezlo-

cillin,TIPC,CBPCの 順 とな ることが示され た。Fig.8

は臨床材料 分離緑膿 菌36株 のこれ ら5種 抗生物 質に対 す

る感受性値 を累積 百分率 であらわ した もの であ り,ブ イ

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116 CHEMOTHERAPY JAN. 1979

Fig. 4 Correlogram between MICs of Mezlocillin

and Ticarcillin in original culture

Fig. 5 Correlogram between MICs of Mezlocillin

and Ticarcillin in 100 fold diluted culture

Fig. 6 Correlogram between MICs of Mezlocillin

and T-1220 in original culture

Fig. 7 Correlogram between MICs of Mezlocillin

and T-1220 in 100 fold diluted culture

ヨンー夜培養 原液塗抹時の成績を示す。Fig.9は 同 し

く100倍希釈液接種時 の成績を示す。両者 の間 では 順 序

の変更 がみ られ るが,そ れ の何れが臨床的に意義深 いか

は不 明であ る。

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VOL.27 S-1 CHEMOTHERAPY 117

Fig. 8 Antibiotic susceptibility patterns of 36 strains of

clinical isolates of P. aeruginosa tested using orig-

inal culture

Fig. 9 Antibiotic susceptibility patterns of 36 strains of clinical

isolates of P. aeruginosa tested using 100 fold diluted culture

2.血 中 濃 度 ・尿 中排 泄

本物 質 の濃 度 測 定 用標 準 曲線 の 作 製 に つ い て,M

luteus ATCC 9341,E.coli Kp, B.subtilis ATCC

6633,P.aeruginosa 10490を 用 い,pH7.0M/15燐

酸 緩 衝 液 に て 薬 剤 を 希釈 し,HI寒 天 を 用 い,試 験 菌 は

B.subtilisを 除 き,ブ イ ヨ ン一 夜 培 養 を1%に な る よ う

に 加 え,B.subtilisは 常 法 に従 っ て添 加 した 。 そ の成 績

はFig.10の よ うで,M.luteusで もっ と も阻 止 円 が 大

き く,以 下E.coli,B.subtilis,P.aeruginosaの 順 で あ

った。B.subtilisで は や や 阻 止 円 径 が 小 さ か っ た が,

0.4μg/mlま で 測 定 可能 で あ り,十 分 使 用 に 耐 え る もの

と考 え られ た 。

試 験 菌 と してB.subtilisを 用 い,薬 剤 の 系 列 希釈 を

100%・10%コ ンセ ー ラ,10%モ ニ トロール,pH7.0燐

酸 緩 衝 液,pH6.0同 液 の5種 類 に て行 った と きの標 準

曲 線 を ま とめ て,Fig.11に 示す 。 各 々 の曲 線 は 著 し く

接 近 して お り希釈 液 の 影響 は少 な い も の と思 わ れ た 。

健 康 成 人 男 子3名 に対 して 本剤 とABPC2gをcross

over法 に てone shot静 注 した とき の血 中濃 度 を,pH

7.0燐 酸 緩 衝 液 希 釈 の標 準 曲 線 に て 測 定 した成 績 をFig.

12に 示 す。 な おABPCの 濃 度 測 定 も本 剤 に 準 じて 行 っ

Fig. 10 Mezlocillin standard curves

Comparison of test strains

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118 CHEMOTHERAPY JAN. 1979

た。Mezlocillinで はABPCを 上 回 る血 中濃 度 の推 移

を示 した。 す なわ ち 平均 血 中濃 度 はMezlocillmで は15

分 後190,30分137,1時 間54,2時 間16,4時 間2.6μg

/mlを 示 した の に 対 し,ABPCで は15分 後118,30分

82,1時 間40,2時 間14,4時 間2.5μg/mlで あ った。

半 減 期 はMezlocillinで は34分,ABPCで は40分 で あ

った 。

また 別 の 健 康 成 人 男 子3名 に対 し,本 剤 とABPCを

cross over法 に て2gを250mlの 生理 食 塩 液 に 溶 解

し,1時 間 か け て 点 滴 静注 した ときの 血 中 濃 度 をFig.

13に 示 す 。 ピ ー ク値 は点 滴 終 了時 に み られ た 。one shot

静注 の さ い と同 様 にMezlocillinの 方 がABPCよ り高

濃 度 で推 移 した 。 平 均 血 中 濃度 はMezlocillinで は 開始

30分 後64,終 了 時90,終 了30分 後51,1時 間 後31,3時

Fig. 12 Serum level of Mezlocillin after 2 g oneshot i. v. injection comparing with that ofABPC

間後4.5μg/mlで あ った。ABPCで は 開始30分 後57,

終 了時80,終 了30分 後40,1時 間 後26,3時 間 後2.9μg

/mlで あ った 。 半 減 期 はMezlocillinで38分,ABPC

て40分 で あ った。

尿 中 排 泄 に つ い て の成 績 で はMezlocillinの 点 滴 静注

につ いて はTable3の よ うで4時 間 まで の 回収 率 の平

均 は50.0%,0~2,2~4時 間尿 の尿 中 濃 度 は7,267,

3,900μg/mlで あ った 。one shot静 注 時 の0~2,2

Fig. 11 Mezlocillin standard curves

Comparison of diluents

Fig. 13 Serum level of Mezlocillin in 2 g drip in-

fusion for 60 min. comparing with that of

ABPC

~4時 間 尿 の 尿 中濃 度 はTable4の よ うで,そ れ ぞれ

7,067,3,733μg/mlで あ った。ABPCの 点 滴 静 注 時 の

成 績 はTable5の よ うで4時 間 ま で の 回収 率77.5%,

0~2,2~4時 間 尿 の尿 中 濃 度 は8,067,1,030μg/ml

で あ った 。one shot静 注 時 の成 績 はTable6の よ うで

4時 間 まで の尿 中回 収 率71.4%,0~2,2~4時 間 の

尿 中 濃 度 は5,717,1,817μg/mlで あ った。

な おABPCは ドイ ツ製 の もの を使 用 した 。

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VOL.27 S-1 CHEMOTHERAPY 119

Table 3 Urinary recovery and level of Mezlocillin

in 2 g drip infusion

Table 4 Urinary level of Mezlocillin after 2 gone shot i. v. injection

Table 5 Urinary recovery and level of ABPC

in 2 g drip infusion

Table 6 Urinary recovery and level of ABPC

after 2 g one shot i. v. injection

3.臨 床例

急性 白血病 にエ ソテ ロパ クターに よる敗血症 を併発 し

た1例,肺 せ んい症 と緑膿菌感染のある慢性気管支炎を

有す る1例,脳 炎患者 で気管切開 口か らの喀痰 に緑膿菌

をみ とめる1例 の計3例 に使用 した。 第1例 ではSiso-

micin,Chloramphenicol(CP),ST合 剤 との併用 であ

ったが有効,第2,3例 では緑膿菌の減 少をみ とめず無

効 と判定 され た。副作用はみ とめ られ なかった。以下各

症例につ いて略述す る。

(1)YK例39歳 男子 白血病+敗 血症(Fig.14)

急性骨髄 性白血病 にてプ レ ドニ ゾロン30mg投 与を続

行中発熱をみ,51年11月21日 の血液 培 養 よ りE.aero-

gmesを 証 明 した。 この とき白血球数 は45/mm3と 激減

していた。Fig.14の よ うにMezlocillinとSisomicin

の併用を始 め,一 旦Mezlocillinを 中止 したが発熱が

続 くので再投与 し,さ らにCPを 追 加 した。血液培養は

11月26日 の時点 で陰性 とな り12月1日 か らは発熱 もみ ら

れな くなった。 分離 されたエ ンテ ロバ クターはMezlo-

cillinのMICが 原液接種で>200μg/ml,100倍 希釈液

接種 で12.5μg/mlで あ った。Sisomicinと の併用 であ

り,本 菌 はGentamicinデ ィス クに感性 であった ので,

両者の作用 が ともに働いた と考え られるがSisOmicin単

独での効 果はみ られな いことか ら有効例 と考 え られた。

(2)KK例69歳 男子 慢性 気管支炎+肺 せ んい症

(Fig.15)

プレ ドニ ゾロン15mg,RFP,INH,抗 緑膿菌 グロブ

リンを使用中 の例 であ るが,喀 痰 中の緑 膿菌検出が続 く

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120 CHEMOTHERAPY JAN. 1979

Fig. 14 Case 1 Y. K. 39 yr M AML, Sepsis (E. aerogenes)

*MIC to Mezlocillin: 0×>200,100×12.5μg/ml

Fig. 15 Case 2 K. K. 69 yr M Lung fibrosis, chronic bronchitis, old lung

tuberculosis

*,**both:MICO×400,100×50μ9/ml

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VOL.27S-1 CHEMOTHERAPY 121

Fig. 16 Case 3 K. W. 58 yr M Encephalitis ?

* MIC to Mezlocillin: 0 ƒÊ 100ƒÊg/ml, 100 •~ 12.5ƒÊg/ml

のでMezlocillinを51年8月4日 か ら図のよ うに使用 し

た。 しか し緑膿菌 は続 けて検 出され,喀 疾量その他全 身

症状 にも変化をみなか った。無効 と判定 された。分離緑

膿菌におけ るMezlocillinのMICは 原液接種400μg/

ml,100倍 希釈液接種50μg/mlで あ り,喀 痰中への薬

剤移行が十分達成され ていなかったものと思われ る。

(3)KW例53歳 男子 脳炎(Fig.16)

脳炎 で入院 し,意 識 障害 ・発熱 を呈 した患者 で,気 管

切開 ・尿道 留置 カテーテルが設 置され ている。気管切開

口よ り分泌 され る喀疾 か ら緑膿菌 の検 出が続 くので,51

年8月26日 か らMezlocillinの 治療を開始 し,途 中か ら

Sisomicinの 併用 を行 った。 しか し喀痰 よ りの緑膿菌の

検出が続いた。発熱 の程度 に も影響 はなか った。経過中

下血があ り赤血球 数の減 少がみ られた が,と くに本剤投

与に よると決めえなか った。 またGOT34,GPT58と

一過性に軽 度上昇をみ とめたが投与継続中再び低下を示

した。 また尿糖 の一過 性出現 もみ られ た。 この患者 よ り

分離の緑膿菌におけ る本剤のMICは 原液接種で100μg

/ml,100倍 希釈液接種 で12.5μg/mlを 示 した。

考 察

Mezlocillinは ドイ ツか ら久 々に登場 した広域ペ ニ シ

リン剤であ り,こ の種 の薬剤 の乏 しい彼 の国 では高 い評

価 が与え られてい ようがわ が国 に導入 された とき,独 自

の評価に如何に耐え るかは保証 されな いと考え られ る。

本剤はひろ くグラム陰性桿菌 の各菌種に対 して よい抗

菌力を有 し,一 般 的にいってABPC,CBPC,Sulbeni-

cillin(SBPC)よ り抗菌力がす ぐれ,ABPC耐 性菌に も

抗菌力を有 してい る2)。またわが国で試 用途 中のTIPC

より緑膿菌な どでは抗菌力がす ぐれ ていることも認め ら

れ た。 しか し国産 の双壁 と も 目され るT-1220とPC

904の2剤 よ りやや劣 ることも確か ら しく,私 共の緑膿

菌 に関す る集計の比較で も同様 の傾 向が 認 め られ て い

る。

UreidoPC剤 に共通 した現象 の ようである が 本 剤 も

接種菌量 のMICに お よぼす影響 が大 であ り,原 液接種

時 と100倍希釈液接種時のMIC値 はかな りの開きをみ

せた。臨床使用第1例 はSisomicinの 併用がされ てお り

不確か な点 も残 され るが,原 液 接種時 のMICが200μg

/ml以 上,100倍 希釈液接種時 のMIC12.5μg/mlと い

う数値 か らみ ると,到 達可能濃度か ら考え,100倍 希釈

液 接種時 のMICの 方が この例においては臨床効果 とよ

りよく結びつ くとい う印象 であ った。無効の2例 では と

もに喀痰 中に検 出された緑膿菌を対象 として投与 した も

のであるが,喀 痰 中へ本剤 は第3例 の100倍 希釈 液 接 種

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122 CHEMOTHERAPY JAN.1979

時 のMICで あ る12.5μg/mlの レベルまで も出現 しえ

なか ったのではないか と想定 され る。

本剤 それ 自体は抗菌力 もかな りの ものを有 し,吸 収 ・

排泄 の動態 も従来 のペ ニシ リン系物 質 と匹敵 し,使 用時

の副作用 にも特別 のものは知 られていないか ら,広 域半

合成 ペ ニシリン剤 の一員 としての存在価値 は十分 あると

考え られ る。ABPCと のcross over試 験 で,半 減期

が僅かに短 いのに拘 らず,血 中濃度 が本剤 の方がやや高

値 を示 したこ とは,ABPCに 比 し,本 剤 の方が体内 で

安定 であるこ とを示唆 してい るのではないか と考 えられ

る。一方 尿中回収率がABPCよ り低値 を示す のは,そ

の分 だけ胆汁 ・腸液 など別の経路を介す る排泄率が大 き

いためであろ う。

結 論

新 しい半 合成 ペニ シリン剤 であ るMezlocillinに つ い

て2,3の 検討 を行 い,次 の成績をえた。

1.臨 床分離 グラム陰性桿菌 のMezlocillinに 対す る

感受性 を測定 した。MIC値 は接種 菌量の影響をかな り

うけた。CBPC,TIPC,T1220のMIC値 との相 関を

検討 した ところ,本 剤 は一般的 にいってTIPC,CBPC

よ りす ぐれた抗菌力を有 していた。

2.健 康成人に対 しMezlocillinとABPCを2g宛

cross over法 によ りone shot静 注お よび点滴静注 し

て血中濃度 ・尿中排泄 を比較 した。血中濃度は本剤の方

が高 目に推移 した。一 方尿中回収 率はABPCの 方が高

値を示 した。

3.臨 床的には急性 白血病 にエ ンテ ロバ クターに よる

敗血症を併発 した1例,肺 せんい症 と緑膿菌感染 のある

慢性気管支炎合併の1例,脳 炎 で気管切開 口か らの喀痰

に緑膿菌をみ とめ る1例 の計3例 に使用 し,第1例 で有

効,第2,3例 で無効 であ った。 第1,2例 では副作用

はなか った。 第3例 で下血 ・GPT-過 性上昇 ・尿糖-

過性出現をみたが本剤 の関与 の有無は不 明であった。

文 献

1) 日本化学療法学会: 最 小発育阻止濃度 (MIC) 測定

法。Chemotherapy 23 (8): 1~2, 1975

2) BODEY, G. P. & T. PAN: Mezlocillin: In vitro

studies of a new broad-spectrum penicillin.

Antimicrob. Agents Chemotherapy 11: 74•`79,

1977

EXPERIMENTAL AND CLINICAL STUDIES ON MEZLOCILLIN

KEIMEI MASHIMO*, OTOHIKO KUNII, KAZUFUTO FUKAYA, YOSHITAKA SHIMIZU,

TAKEMI KOMORIYA, and KOICHIRO IWATA

Department of Internal Medicine, Institute of Medical Science, University of Tokyo

*Recent address: Tokyo Welfare Pension Hospital

1. The determination of susceptibility of clinical isolates of gram-negative bacilli against mezlocillinrevealed that MIC values were considerably influenced by inoculum size.

In comparison with carbenicillin (CBPC), ticarcillin (TIPC) and T-1220, mezlocillin was more activethan CBPC and TIPC in general.

2. Two grams of mezlocillin and ampicillin (ABPC) were administered to two groups of healthyvolunteers in crossover fashion in one shot intravenous injection or drip infusion in order to compare eachserum level and urinary recovery.

The serum level of mezlocillin exceeded that of ABPC, but urinary recovery was lower with mezlocillin.3. A total of three cases were treated with mezlocillin: One of acute leukemia accompanied by sepsis

due to Enterobacter, one of lung fibrosis complicated by chronic bronchitis due to P. aeruginosa, and oneof encephalitis whose sputum from the orifice of tracheostomy contained P. aeruginosa. The results wereevaluated as follows: effective in the first case, but poor in the remaining two cases.

In the third case, melena, transient elevation of GPT and the appearance of sugar in urine were observed.However, it was uncertain whether these symptoms were caused by treatment with mezlocillin.