streptcoccus pneumoniae, haemophilus infiuenzae,...
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368 CHEMOTHERAPY JULY 1979
Cefuroximeの 臨 床 的 検 討
可 部順 三郎 ・末 原 幹 久 ・石 橋 弘 義 ・渡 辺 哲 造
国立病院医療 セソター呼吸器科
英国Glaxo(グ ラクソ)社 で開発 され た新 しい セアァロスポ リン系抗生物質Cefuroximeを 呼吸
器感染症9例,尿 路感染症1例 に投 与 した。 投与量は1日1.5~3.0gで,2~3回 に分割 し,6
~27周 間使用 した。
対激 とな った呼吸器感染症の内訳は,急 性肺炎4例,び まん性汎細気管支炎2例,間 質性肺炎に
伴 う急性気道感染1例,肺 化膿症2例 で,著 効2例,有 効5例,無 効2例 であった。
Klebsiellaに よる慢性膀胱 炎の1例 では,本 剤投与後Pseudomonasaeru8inosaが 優勢に証明
され るようにな り,無 効であ った。
Streptcoccus pneumoniae, Haemophilus infiuenzae, E. coli, Klebsiella, Enterobacter,
Proteusな どに強い抗菌力を有す る本剤は,近 年 の呼吸器感染症 の起炎菌が これ らの菌で占められ
ている場 合が多い ことを考えると,呼 吸器感染症 全般にわた ってす ぐれ た効果が期待で きる。
副作用 として本剤に よる発熱 と思われ る1例 を経験 した。
Cefuroximeは 英国Glaxo社 で開発 された新しいセフ
ァロスポ リソ系抗生物質で,β-ラ クタマーゼに対 して抵
抗 性を有 し,Haemophilusな どに対する抗 菌 力がす ぐ
れているとされ る1),2)。われ われは,本 剤を呼吸器感染症
9例,尿 路感染症1例 に使用 し,そ の臨 床効果,副 作用
の検討を行 なった。
I,対 象お よび投与方法
投与の対象 とな った呼吸器感染症の内訳は急性肺炎4
例(う ち1例 は急性胆嚢炎合併),び まん性汎細気 管 支
炎2例,間 質性肺炎に伴 う急性感染症1例,肺 化膿症2
例 で,尿 路感染症 の1例 は留置 カテーテルに伴 う慢性膀
胱 炎であ った。
投与量は0.759あ るいは1.59を1日2~3回,1日
量計1.5~3.0gと し,6~27日 間,筋 注,静 注,点 滴
注射に よ り総量10.5~819に 及んだ。
II.効 果 判 定
効果判定は臨 床的効果 と細菌学 的効果 に分け て判定 し
た。
肺炎における臨床効果の判定は次の ような基準で行な
った。
著効(昔):投 与7日 以内に(1)胸部X線 像の明 らかな改
善,(2)体 温の平熱化,(3)白 血球の正常化,(4)自 覚症状の
消失を認め,(5)そ の後 の経過が順調で間もな く治癒にい
た った もの。
有効(十):投 与7日 目の胸部X線 像におい て改善はみ
られたが,上 記(2)(3)(4)の3項目の一つあるいはすベての
改善 に7日 以上 を要 した もの。
無効(一):投 与7日 目の胸部X線 像で改善 のみ られな
い もの,ま たは改善 しても(2)(3)(4)の項 目の正常化が投与
後2週 間以内にみられ なか った もの。
判定不能:投 与期 間が判定には不充分 と考えられるも
の。
その他の呼吸器感 染症 においては これに準じ,胸 部X
線像,発 熱,咳 蹴,喀 疾 などの自覚症状,白 血球数,赤
沈値,CRPな どの他覚所見に よ り,尿 路感染症では,
自覚症状や尿中白血球 などの尿所見 より判定 した。
また,別 途に起炎菌 の消長を観察 しなが ら細菌学的効
果 も判定 した。
III.臨 床 成 績
呼吸器感染症9例 に対す るCefuroximeの 臨 床効果
は,急 性肺炎4例 中著効2例,有 効1例,無 効1例,び
まん性汎細気管支炎2例 中有効2例,急 性呼吸器感染有
効1例,肺 化膿症2例 中有効1例,無 効1例 で,尿 路感
染症 の1例 は無効であ った。 これ ら の症例の一覧表を
Table 1に 示す。
細菌学的効果については,起 炎菌 と認め られる菌を検
出できたのは症例4のKlebsiella pmumoniae,症 例6
お よび症例8のHaemophilus,症 例10のKlebsiella
のみで,症 例4は 菌消失せず,症 例6と8で は菌は消失
したが症例8でKlebsiellaが 新 たに出現 した。症例10
ではKlebsiellaが 消失 し た か わ り にPseudomonas
aeruginosaの 出現をみた。
次 に代表的な症例について述べる。
症 例1急 性肺炎。23歳,女 性。
発熱,咳 蹴,胸 痛 をもって発病,胸 部X線 像で左上肺
野の肺炎様陰影(Fig1)を 認め本剤0.7591日2回 筋
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Fig.1
Fig.2
Fig.3
Fig.4
Fig.5
Fig.6
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Fig.7
注投与した。2日 目よ り解 熱,自 覚 症状 軽 減,1週 間 後
のX線 像 も顕著 に改 善 し(Fig.2),2週 間 後に は ほ とん
ど消失(Fig.3)し た。 本症 例 は寒冷 凝集 反応 が256倍
から512倍 まで上 昇 した が,マ イ コプ ラズマCF抗 体 は
8倍 までであった。
症例2急 性肺炎。44歳,男 性。
激しい胸痛,右 季 肋部痛 を 以て 発病,胸 部X線 写 真上
右肺の肺炎像,葉 間 胸膜炎 を認 め,季 肋 部 の圧 痛,抵 抗
など局所所見 よ り肺 炎,胸 膜炎 に急 性胆 嚢 炎を 合併 した
ものと診断 された。 本 剤1.5gを 点 滴 と静注 で1日 計
3.0g6目 間投与 し,解 熱,胸 部X線 像 お よび 季 肋部局
所所見の軽減をみた。 糖尿 病 も認 め られ,イ ン ス リン注
射を併用した。
症例3肺 嚢胞感 染を伴 う急 性肺 炎。45歳,女 性。
昭和43年 頃 よ り肺 結核 の治 療 を受 け ていた が,陳 旧
性結核病巣の周囲が大 きな嚢胞 とな り,呼 吸不 全,肺 性
心の徴候が次第に進 行 して きた。 最 近 発熱,呼 吸 困難 の
増強がみられ,胸 部X線 写 真を 撮影 した と ころ肺嚢 胞 や
周囲の肺野に浸潤を認 めた(Fig.4)。 白血 球7,700,動
脈血液ガス分 圧はPo2 36.3mmHg, Pco2 70.3mm Hg,
pH7.367, B.E. 9.7mEq/1で あ った。 本 剤1.59静 注
1日2回 投与 に より速 やか に解 熱,白 血 球 数正常 化,X
線像の軽快(Fig.5)を み,血 液 ガス 分 圧 もPo2 67.8
mrnHg,Pco2 59.5mmHg, pH7.318, B.E, 1.4mEq/1
と改善した。 この 後嚢胞 の破 裂 に よる 自然気 胸 を起 こし,
呼吸困難の一時的増 悪 をみ たが,感 染症状 は 再燃 しなか
った。
症例6び まん性汎 細気 管 支炎。59歳,女 性。
昭和50年 のは じめ頃 よ り咳 嗽,喀 痰 多 く,50年9月
~51年3月 第1回 入 院。 退 院 後 しばら くよか った が,
最近,ま た喀痰 が増量 し,喘 鳴,息 切 れ が強 く,呼 吸 困
難が増強 して きたため52年4月8日 入院。 胸部X線 写
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真 上 両 肺 野 に び ま ん性 の 斑 点状 ~ 小結 節 状 陰 影 を 認 め た
(Fig6)。
肺 機 能 検 査,気 管 支 造 影 所 見 よ り前 国 入 院 時 ぴ まん 性
汎 細 気 管 支 炎 と診 断 され て い る。 今 回 は 動 脈 血 ガ ス分 圧
Po262.2mHg,Pco2 47.0mmHg,pH7,398,B,E.
3.0mEq/1と 悪 化 し て お り,白 血 球 数18,000、 赤 沈1時
閥43mm,喀 疾 は1日 量50~90m1で 粘 液 膿 性 で あ る。
培 饗 に よ りHaemophilus sp,を 検 出。4月14圓 よ り
本 剤1.59点 滴1回 と0.759筋 注2回 とに わ け て1日
3.09量 を 投 与参5日 目頃 よ り喀 疾量 は1日10~15m1
と著減 しひ 白 血 球 数7,300,赤 沈1時 間25mmと 軽快
し,喀 疾 中 のHaEmoPHilus消 失,胸 部X線 像 も改善
し,斑 点 状 陰 影 が か な り減 少 した(Fig.7)。
症 例10慢 性 膀胱 炎。78歳,女 性 。
肺 癌 手 術 後 意 識 障害 のた め 尿 道 に カ テ ー テ ルを 留 置
し,慢 性 膀 胱 炎 を来 た し,し ば しば血 尿 をみ る。 尿 沈 渣
に 多 数 の白 血 球,赤 血球 を混 じ,培 養 に よ りKlebsiella
(8.9×108/魚1)と 少 数 のPseudomonas aruginosaを
検 出 した。 糖 尿病 の合 併 に対 して イン ス リンを 使 用 し
た。 本 剤0.7591日2回 筋 注,1週 後 尿 の外 観 は か な り
きれ い に な り,蛋 白300m9/ml→0,沈 渣 赤 血 球 は 著減
した が 自血 球 は 却 っ て増 加 し,培 養 に よ りPseudomonas
aeruginosa(2.8×1010/ml)を 証 明 した。
IV.副 作 用
本剤 投 与 の 前 後 に 一般 血 液 検 査,検 尿,GOT,GPT,
Al-Pase,総 ビ リル ピン 量,BUN,ク レ アチ ニ ン,血 清
電解 質 等 の検 査 を 施行 した(Table 2)。
症 例7は,強 皮 症 に伴 う間 質 性 肺 炎 を基 礎 疾 患 と し,
急 性気 道 感 染 症 に よ り,咳 蹴,喀 疾 の増 悪 ・発 熱 を 来 た
し白血 球 数 も14,000と 増 加 した 。本 剤1.5gを 午 前 中
1回 静 注,0.75gを 午後1回 筋 注 し間 も な く解 熱,一
般 症状 も軽 快 した が,投 与12日 目37.8℃ の 発 熱,13
日 目39.2℃ とな り,薬 物 ア レル ギ ー に よ る 発 熱 が疑
わ れた ので 中 止 した と ころ,14日 目38.7℃,15日 目
38.1℃,16日 鼠37.2℃ と 自然 に 消裾 した 。 白血 球 数 は
10,300か ら12,000と な り,好 酸球 は2%か ら4%と
それ 程 増 加 しな か ったが,GOTが56rnμ/mlか ら99
mμ/mlと 上 昇 した 。GPTは24mU/mlか ら30mU/ml
へ と軽 度 の変 動 に と どま った 。 この 症例 は以 前 ミノマ ィ
シ ン投 与 に よ って も発熱 を きた した こ とが あ り,今 回 も
薬 物 ア レ ルギ ーに よる発 熱 が 疑 わ れ た。 このほ か に は発
疹,肝 機 能 障 害,腎 機能 障 害 な ど副 作用 と思 わ れ る異常
を認 め た 例 は な か った。
V.考 察
Cefuroximeは 新 しい 注 射 用 セ ブ 学 ロスポ リソ系 抗生
物 質 で,Cephamycinで は ない が 側鎖 に メ トキ シ基 を 有
し.β-ラ クタ マ ーゼ に 対 す る抵 抗 力が 増 強 され てい る。
した が って 本剤 は,,E.coli,Klebsiellaの セ フ アロス
ポ リン耐 性株 やCitrobacter,Proteus,Enterobacter
に も抗 菌 力 を示 す 。 またStreptococcus pneumoniae,
Haemophilus influezae,Neisseria gomrrhoeaeに
対 して も強 い抗 菌 力 を 有 して い る1)。
呼 吸 器感 染症 の 治 療 に あ た っ て特 に 注 意 しなけ れほな
らな い の は,起 炎 菌 と してStreptococus pneumoniae,
Haemophilus influemae,Klebsiellaを 検 出す る頻度
が 高 い こ とで あ る。 第26回 日本 化 学療 法学 会総 会新薬
シ ソポ ジ ウム"Cefuroxime"で 発 表 され た集 計2,に よる
と,全 国 のCefurozime研 究 会 参 加 施設 か ら集め られた
159症 例 の呼 吸 器 感 染 症 の うち,起 炎 菌 の判 明 したもの
を 検 出 頻 度 の高 い も のか ら順 に あ げ る と,KJebsiella
15例(他 に 混 合 感 染 を伴 った もの2例),Streptococcus
pneumonne 13例,Haemophilus inflluenzae 7例(他
に 混 合感 染 を伴 った もの7例),5taphylococcus aureus
7例,Enterobacter 5例(混 合感 染4例)で あ る。 今
回,わ れ わ れ がCefuroximeを 使 用 した呼 吸 器感 染症9
例 中,起 炎菌 を 明 らか に し得 た症 例 は3例 であ るが,そ
れ ら もHaemophilus influenzae(2例)とKlebsiella
で あ っ た。 した が って これ らの菌 に 強 い抗 菌 力を有す る
本 剤 は,呼 吸 器 感 染 症 の 治療 に新 しい強 力 な 手段 を提供
した とい うこ とが で き よ う。 特 に従 来 の セ ブ7ロ スポ リ
ン系 薬剤 が,Haemophilus influenzaeに 対す る抗菌力
が 弱 く,Klebsiellaに 対 して も充 分 とい えな い例 が多か
った 欠点 を考 え る と大 きな進 歩 で あ る といえ る。 同シソ
ポ ジ ウム の集 計 で も,起 炎 菌 別臨 床 効 果 は,著 効+有 効
を 合 わせ た有 効 率 はStaphylococus aureus 71.4%,
Streptococcus pneumoniae 76.9%, Haemophilus
influenzae 85.7%,Klebsiella 53.3%と,Klebsielta
に対する成績はやや落ち るがほぼ抗菌力か ら期待できる
す ぐれた成績をお さめ てお り,菌 の消失率もほぼ同様で
あった。 われわれ の症例で も,Klebsiellaが 起炎菌と思
われた症例に対 してはCefumximeの 効果は充分でな
か ったが,Haemophilus influenzaeに 対 してはよい成
績をお さめてお り,呼 吸器感染9例 中著効 と有効 の合
計が7例 にのぼ った。 これは菌が検出で きなか った症例
において も,一 般的 な起炎菌の頻度か ら考えておそらく
Streptococcus pneumoniae, Haemophilus infiuen-
zae,Klebsiellaな どが原因 とな っていたのではなか ろ
うか と推定 され,こ れ らの菌に対す る抗菌 力の優れた本
剤 の使用は呼吸器感染症 におい て充分効果が期待できる
とい えよ う。
用量についてはわれわれ は1.5~3.09を1日 量とし
て,1日2~3回 に分割,6~27日 間投与 した。新薬シ
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ンポジウムの報 告におい て も1日 量1.5~3.0gと す る
ものが大多数を しめてお り,こ の 量が ほぼ 妥 当で あ ろ う
と考えられる。
副作用で1例,Cefuroximeに よ るdrug feverと 考
えられる症例を経験 した。 同 シ ンポ ジ ウムの 合計635例
の使用例中,副 作用 は15例 で,発 熱 はわ れ われ の報 告
1例 のみである。本例 の発熱 が果 た してCefuroximeに
よるものであったか ど うかに つい ては 現在 確 認す る方法
を有しないが,今 後 とも この よ うな症 例 の出現 に 注意 を
は らう必要があろう。報告された副作用は,い ずれも軽
微で一過性の ものであ り,Cefumximcは 強 力で安全な
抗生物質であるとい 弘ことができる。
文 献
1) O'CALLAGIIAN, C. H. ; R. B. SYKES, a M. RYAN,R. D. FOORD & P. W. MUGGLETON Cefuroxime-a new cephalosporin antibiotic, J. Antibiot.
24: 29~37, 1976
2) 第26回 日 本化 学療 法 学会 総会 新薬 シ ソポ ジ ウ
ムIII. Cefuroxime. 東京, 1978
CLINICAL STUDY OF CEFUROXIME
JUNZABURO KABE, MIKIHISA SUEHARA, HIROYOSHI ISHIBASHI
and TETSUZO WATANABE
Department of Chest Medicine, National Medical Center Hospital
A clinical study of cefuroxime, a new cephalosporin antibiotic, was carried out with the following
results.
Nine cases of various respiratory infections (including 4 cases of pneumonia, 2 cases of diffuse
panbronchiolitis, one case of interstitial pneumonia with acute respiratory tract infection and 2 cases
of lung abscess) and one case of chronic cystitis were treated by intramuscular, intravenous injection
or drip infusion with 1, 500•`3, 000mg of cefuroxime divided into 2•`3 times daily, for 6•`27days.
The clinical response on the patients with respiratory tract infection was excellent in 2 (acute
pneumonia), good in 5 (1 of pneumonia, 2 of diffuse panbronchiolitis, 1 of acute respiratory tract
infection and 1 of lung abscess) and poor in 2 (pneumonia and abscess). The result on a patient with
chronic cystitis due to Klebsiella and Pseudomonas infection was unsatisfactory. Side effects were
observed in a female patient . S-GOT was elevated from 56 to 99 mu/ml, and fever developed on 12th
day of the treatment which continued until the cessation of the drug. Then both S-GOT level and
temperature returned to normal rapidly.