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Page 1: 肩峰下インピンジメント症候群のMRI所見 - JST

肩 関 節21巻 第3号463-467,1997.

肩峰下インピンジメン ト症候群のMRI所 見

草加市立病院整形外科

杉 原 隆 之

東京医科歯科大学整形外科

田 中 誠

都立大久保病院放射線科

熊 谷 英 夫

MR Imaging for Subacromial Impingement Syndrome

by

SUGIHARA Takayuki

Department of Orthopaedic Surgery, Sohka City Hospital

TANAKA Makoto

Department of Orthopaedic Surgery, Tokyo Medical and Dental University

KUMAGAI Hideo

Department of Radiology, Tokyo Metropolitan Ohkubo Hospital

We evaluated the findings of MR imaging of patients with subacromial impingement syndrome.

We took MR images of 51 patients with subacromial impingement syndrome and examined their high

signal intensities of the subacromial bursa, the subdeltoid bursa, and the glenohumeral joint, their cys-

tic changes in the greater tuberosity, their high signal intensity in the rotator cuff, the acromiohumeral

interval, and the shapes of the acromion.

A high signal intensity of the subacromial bursa was found in 68.6%. A high signal intensity of the

subdeltoid bursa was found in 15.7%. A high signal intensity of the glenohumeral joint was found in

31.4%. Cystic changes in the greater tuberosity was found in 51.0%. A high signal intensity in the ro-

tator cuff (an incomplete tear of the rotator cuff) was found in 45.1%. The acromiohumeral interval

was 9.69mm (average). The shapes were flat type of the acromion 43.9%, smooth curve type 41.5%, and

anterior hook type 14.6%.

Statistically there is a close relation between the high signal intensities in the rotator cuff on the

bursal side and the cystic changes in the greater tuberosity.

The acromiohumeral interval of patients with subacromial impingement syndrome was within the

normal limit. Anterior hook type was the fewest of the three types. So "supraspinatus outlet impinge-

ment" (written by Neer) was thought to be few.

Key words:核 磁 気 共 鳴画 像(MRI),肩(Shoulder),

肩峰 下 イ ン ピ ンジ メ ン ト症 候 群(Subacromial impingement syndrome)

原稿受付 日1996年11月30日 受付

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Page 2: 肩峰下インピンジメント症候群のMRI所見 - JST

The Shoulder Joint, Vol.21, Na3, 463-467, 1997.

         は  じ  め  に

 MRIは 軟部組織 の描出 に優 れ,任 意の断面が得 られ

ることか ら,近 年整形外科領域 において非常 に有用 な検

査法 となってお り,肩 関節疾患の病態評価法 として利用

されて いる.こ れ まで腱板 病変 につ いてのMRI所 見

の報告 は散見 されるが,肩 峰下 インピンジメ ント症候群

に対する報告 は少ない.

 今回我 々は肩 峰下 インピ ンジメ ン ト症候群 のMRI

所見 を分析 し,病 態の検討 を行 ったので報告 する.

         対 象 と 方 法

 対象 は,1992年 か ら1996年 までに肩関節 のMRIを

施行 した肩峰下 インピンジメン ト症候群51例(51肩 関節)

で男性39例(39肩 関節),女 性12例(12肩 関節)で あ っ

た.年 齢 は19歳 か ら75歳 で,平 均年齢は47歳 であった.

 肩峰下イ ンピ ンジメ ン ト症候群 の診断 は,Neerの

impingement  signか つ キシロカイ ンテス ト(肩 峰下

滑液包内)が 陽性例 とし,関 節造影で腱板 の完全 断裂 を

認めた ものは除外 した.

 使用装置は,シ ー メンス社 製1.OTのMRI装 置 を用

いた.ス ピンエ コー法で,斜 位冠状面でのT1強 調画像,

T2強 調画像及 び斜位矢状面 でのT2強 調画像の撮像 を

行 った.

 得 られ たMRI画 像にて,① 肩峰下滑液包 の輝度変

化,② 三角筋下滑液包の輝度変化,③ 関節包内の輝度変

化,④ 大結節 の嚢包状変化,⑤ 腱板 内の輝度変化,⑥ 肩

峰と骨頭の最短距離,⑦ 肩峰の形状 について検討 した.

 肩峰下 ・三角筋下滑液包及び関節包 内の輝度変化 は,

斜位冠状面のT2強 調画像で検討 した,大 結節の嚢包状

変化 は.斜 位冠状面のT1及 びT 2強 調画像で検討 した.

腱板内の輝度変化 は,斜 位冠状 面のT2強 調画像で検討

した.肩 峰 と骨頭 の最短距離 は,斜 位矢状面のT2強 調

画像で測定 し,実 際 の値 に換算 した.肩 峰の形状は,斜

位矢状面のT2強 調画像にて, Biglianiの 分類n(1型:

Flat,皿 型:Smooth  curve,皿 型:Anterior  hook;

図1)に 従って検討 した.

  また,大 結節の嚢包状変化 と肩峰下滑液包 の高輝度変

化及び腱板内の高輝度変化,肩 峰の形状 と肩峰下滑液包

の高輝度変化及び腱板 内の高輝度変化 との間にそれぞれ

関連性が あるか どうかをみ るために,統 計学的方法 を用

い て検 討 した(Stat  viewに よ る カ イ2乗 検 定,

Fisherの 直接 法).さ らに,肩 峰下 滑液包及 び腱 板 内

       図1  Biglianiの 分類

の高輝度変化の有無によって肩峰 と骨頭の最 短距離 に有

意 な差があ るか どうか をUnpaired  t-testを 用い て検

討 した.

          結          果

 滑液包及 び関節包内のT2強 調画像での特徴的変化は,

その部の液体 と同輝度 の高輝度変化 であ った(図2).

図2  滑液包及び関節包のT2強 調画像での高輝度変化

  a)矢  印 肩峰下滑液包の高輝度変化

  b)矢 印① 肩峰下滑液包の高輝度変化

    矢 印② 三角筋下滑 液包 の高輝度変化    矢 印③ 関節包内の高輝度変化

肩峰下滑液 包の高輝度 変化 は35例(68.6%),三 角 筋下

滑液包の高輝 度変化 は8例(15.7%),関 節包 内の高輝

度変化は16例(31.4%)に 認めた(表1).

 大結節 の嚢包状変化は26例(51.0%)に 認め た.嚢 包

状変化は,T1強 調画像では明瞭な低輝 度変化 を示 し,

T2強 調 画像で は低輝度変化 と高輝度変化 の混在す る変

化か もしくは低輝 度変化のみ を認め た(図3).部 位で

は,後 方が24例(47.1%)と 圧倒 的に多 く,そ の他 で は

中央 に2例(3.9%)を 認めるのみであった.

 腱板内のT2強 調画像での特徴的変化 は,液 体 と同輝

度の高輝 度変化 か少 し輝度は低下するが周囲の腱板組織

と明瞭に区別で きる軽度の高輝度変化であ り,全 て棘上

筋内 に認め全層性 の もの はなか った(図4).腱 板 内の

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Page 3: 肩峰下インピンジメント症候群のMRI所見 - JST

肩 関節21巻 第3号463-467,1997.

図3大 結節 の嚢包状変化(矢 印)a)T1強 調画像

:低輝 度変化 を示す。b)T2強 調画像

低輝度変化と高輝度変化の混在する変化を示す。

図4腱 板内のT2強 調 画像 での高輝度変化(矢 印)a)滑 液包側の高輝 度変化

液体 より少 し輝 度は低下す るが周囲 の腱板 組織 と明瞭に区別で きる軽度 の高輝度変化 を滑

液包側に認める。大結節 の嚢 包状変化 も認める。

b)腱 内の高輝 度変化

:液 体 より少 し輝度 は低下す るが周囲の腱板 組

織 と明瞭に区別で きる軽度の 高輝度変化 を腱内 に認める。

c)関 節包側の高輝度変化

:液 体 と同輝 度の高輝度変化 を関節包側 に認 める。大結節 の嚢包状変化 も認める。

高輝度変化 は23例(45.1%)に 認 め,滑 液包側 が12例

(23.5%),腱 内が7例(13.7%),関 節 包 側 が4例

(7.9%)で あった(表1).

表1滑 液包 ・関節包内及び腱板内の高輝度変化の頻度

肩 峰 と骨 頭 の 最 短距 離 は平 均9.69±1.50mmで あ っ

た 。

肩 峰 の 形 状 で は 皿型:Anteriorhookが14.6%と 一

番 少 な く,1型:Flatは43.9%,ll型:Smoothcurve

は41.5%で あ っ た(図5,表2).

表2肩 峰 の 形 状別 頻 度(Biglianiの 分 類)

また統 計学 的検討で は,肩 峰下滑液包の高輝 度変化 と

大結節の嚢包状変化の間 に関連性 はなか った(カ イ2乗

検定:p=O.485),

腱板内の高輝度変化 と大結節 の嚢包状変化の間にも関

連性 はなかった(カ イ2乗 検定:p=O.0653).

部位別には,腱 板の滑液包側 の高輝度変化 と大結節の

嚢 包状 変化 の両者 を認めた症例 は10例,腱 板 の滑液包側

の高輝度 変化 を認め大結節の嚢包状変化 を認 めなか った

症例 は2例,腱 板の滑液包側 の高輝度変化を認 めず大結

節の嚢包状変化 を認めた症例は16例,両 者 とも認めなかっ

た症 例 は23例 であ り,両 者 の 間 には 関連 性 を認 め た

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Page 4: 肩峰下インピンジメント症候群のMRI所見 - JST

The Shoulder Joint, Vol.21, NO, 463-467, 1997.

   図5  肩 峰の形状(Biglianiの 分類)      :斜位矢状断

    a)1型:Flat    b)ll型:Smooth  curve

    c)In型:Anterior  hook

(Fisherの 直接法:p  =O.0188).腱 内の高輝度変化 と

大 結 節 の 嚢 包 状 変 化 の 間 に は 関 連 性 が な か っ た

(Fisherの 直接 法:p>O.999).腱 板の関節包側 の高輝

度変化 と大結節の嚢包状変化の間に も関連性 はなか った

(Fisherの 直接 法:p=0.350).

 肩峰の形状 と肩峰下滑液包の高輝度変化との 間に関連

性はなかった(カ イ2乗 検定:p=0.605).肩 峰の形状

と腱板 内の高輝度変化 との問 にも関連性 はなかった(カ

イ2乗 検定:p  =O。184).

 肩峰 と骨頭の最短距離 は,肩 峰下滑液包の高輝度変化

の有 無に よって有 意 な差 を認 め なかった(Unpaired

t-test:p=0.840).肩 峰 と骨 頭の最短距 離は,腱 板 内

の高輝度変化の有無に よって も有意な差を認 めなか った

(Unpaired  t-test:p=0.126).

          考          察

 Neerの 提唱2}以 来,肩 峰下 インピンジメン ト症候 群

に関する報告 は多いが,統 一 された診断基準 はないのが

現 状 で あ る.そ こ で 今 回 我 々 は,Neerの

impingement  signか つキシ ロカインテス ト(肩 峰下

滑液包内)が 陽性例 を肩峰下 インピンジメン ト症候群 と

し,関 節造影 で腱板 の完全断裂 を認めた ものは除外 した.

 滑液包及び関節包 のT2強 調画像 での高輝度変化は,

滑液及び関節 液の貯留 を反映 してお り,滑 液包 炎及 び関

節水腫 を示す とされ ている5).肩 峰下 イ ンピンジメ ン ト

症候 群では、肩峰下滑液包の高輝 度変化 が関節包 内のそ

れ よりも多 く認め られた.こ れは,肩 峰下 イン ピンジメ

ン ト症候 群の炎症 の中心部位が肩峰下滑 液包にあるとい

う今 までの知 見を裏付 けると思われる,三 角筋下 滑液包

の高輝度変化 すなわち三角筋下滑液包炎を認めたものは,

全て肩峰下滑 液包炎 を認めた.両 滑 液包 は連続 してい る

ことか ら,三 角筋下滑液包炎は肩峰下滑 液包炎の炎症が

さらに進んだ もの と考 えられ る.

 Rafiiら の報告4)によれば,腱 板 内のT2強 調 画像で

の高輝度変化 は断裂 であ り,変 性や炎症による もので は

ない とされている.し たが って、今回我 々が検討 した肩

峰下 インピンジメン ト症候群では腱板 の不 全断裂が約半

数(45.1%)に 認 め られた と考え られる.

 大結節 の嚢包状変化 につ いてMRIで の検討 を行 っ

た報告は少ない.今 回我々が検討 した肩 峰下 イ ンピンジ

メン ト症候 群において,大 結節の嚢包状 変化は51.0%に

認めた.こ れは,大 結節が肩峰 に衝 突す るために起 こっ

た変化 と推測 される.

 腱板 の滑液包側 の高輝度変化 と大結節 の嚢包状変化 と

の問 に関連性 を認 めたことか ら,両 者が因果関係 にあ る

のか もしくは両者 ともあ る病態の結果なのかは現段階で

ははっきりしないが,密 接 な関係 にある ことは確 かで あ

る.

 一方,肩 峰の形状 と肩峰下滑液包及び腱板 内の高輝度

変化 との間には関連性 を認めず,ま た肩峰 と骨頭 の最短

距離 は肩峰下滑液包及び腱板 内の高輝度変化の有無によっ

て有意 な差 を認めるこ とはなか った,肩 峰 と骨頭 の最短

距離の平均値 が レン トゲ ン写真 による計測値の正常値の

範 囲内であ るこ と,肩 峰の形状でAnterior  hookが

少 ない ことな どと併せ考 えると,肩 峰 と骨頭 の距離が小

さいこ とやAnterior  hookの 様 な肩 峰の形状 に よる

骨性因子が肩峰下 イ ンピ ンジメン ト症候群の原因 となる

ことは少ない ことを示 していると考え られる.即 ちこれ

まで肩峰下 インピンジメ ント症候群の病態は,Neerの

いう3〕"Supraspinatus  outlet impingement"の よ

うな鳥 口肩峰アーチ と骨頭 との間の空間が狭 くなるため

に起 こるとい ういわゆる"機 械的 なインピンジメ ント"

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Page 5: 肩峰下インピンジメント症候群のMRI所見 - JST

肩 関 節21巻 第3号463-467,1997.

と考 えられていたが,そ のような病態 はむ しろ少 ないと

思われ る.し たがって肩峰下 インピンジメ ン ト症候 群の

病態 としては,腱 板 の機 能低下 などによ り,上 肢挙上時

に骨頭が上昇する ことで肩峰と大結節が衝突する{`機 能

的なインピンジメ ン ト"が その本態 と考え られる.

今 回はMRIの 所 見のみか ら肩峰下 イ ンピンジメン

ト症候群の病態の検討 を行ったが,今 後 は術中所 見 も併

せて検討 してい きたい.

ま と め

1)肩 峰下 イ ンピンジメ ン ト症候群51例 のMRI所 見

を検討 した.

2)MRI上,腱 板 の滑液包側 の高輝度変 化 と大結節 の

嚢 包状変化 との間 には関連性 を認 めた.

3)肩 峰下 インピンジメン ト症候群 には,腱 板の不全断

裂が約半 数含 まれていた.

4)肩 峰の形状 と肩峰下滑液包及び腱板 内の高輝度変化

との澗 には関連性 を認めず,ま た肩峰 と骨頭の最短距

離は肩峰下滑液包及び腱板 内の高輝度変化の有無によっ

て有意な差 を認め なか った ことか ら,"機 械的 なイ ン

ピンジメ ン ト"は 少 ない と考え られた.

文 献

1 ) Bigliani LU, et al.: The morphology of the

acromion and its relationship to rotator cuff

tears. Orthop Trans 10 : 228, 1986.

2) Neer CS II : Anterior acromioplasty for the

chronic impingement syndrome in the shoulder

a preliminary report. J. Bone Joint Surg., 5

4—A : 41-50, 1972.

3) Neer CS II : Shoulder reconstruction, let ed.,

WB Saunders, Philadelphia, 41-142, 1990.

4) Rafii, M, Firooznia, H, Sherman, 0, et al.:

Rotator cuff lesions : Signal patterns at MR

imaging. Radiology, 177 : 817-823, 1990.

5) Sasaki, M. et al.: MR of the shoulder with a

0.2-T permanent-magnet unit., A. J. R. 154 :

777-778, 1990.

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