n01 下肢のしびれ(知覚障害)について ·...
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下肢のしびれ(知覚障害)について 文責 内科 大塚伸昭
N01
下肢の神経支配は第 12胸神経~第 4仙骨神経までが行う。
前回は上肢のしびれについて 2回にわたって解説した。今回は下肢のしびれ(知覚障害)について解説する。
上肢や下肢の運動障害に関しては今後あらためて解説する。
頸椎
胸椎
腰椎
仙椎
尾椎
前弯
後
弯
前弯
後
弯
胎児の脊椎は湾曲は1つだけ(1次湾曲)だが(図2)、成人では左図
1のように頸椎や腰椎は前弯、胸椎や尾椎は後弯となる。
このような脊椎の湾曲を生理的湾曲と呼ぶ。
胎児
生理的湾曲がある事で重い頭(約 5キロ)を支えたり、運動(跳躍や回転運動
など)の際のクッションの働きをする事ができる。
図1
図 2
図3 図4
胸椎の生理的湾曲(図3)が消失して直線
に近くなると(図4)腰痛などの原因とな
ることがある(ストレートバック症候群)
※ストレートバック症候群では脊椎が直線的になっ
て、心臓が圧迫される事があり、僧帽弁閉鎖不全
(僧帽弁逸脱)を起こすこともあるが、治療の必要
は無い。
胸椎は Thoracicで T
腰椎は Lumbarで L
仙椎は Sacralで S
第 12胸椎
第 1腰椎
第 5腰椎
第 1仙椎
第 12胸神経
第 1腰神経
大腿神経
腰神経は結合、離合して
神経叢を形成する。
①大腿神経は第2~4腰
神経の支配を受ける。
(S1)
(T12)
(L2)
(L3)
(L4)
①
(L1)
(S2)
坐骨神経
②坐骨神経は第 4,5腰椎
及び第 1~3仙骨神経の支
配を受ける。
右図は脊椎の神経が障害さ
れた時のデルマトーム
(皮膚分節知覚帯)を示す。
例えば、第 5腰神経(L5)
が障害されると、この部位
の知覚障害などを起こす。
右図もデルマトーム
を示す。
拡大
S5 S4 S3
S1
L5
臍の部分は第 10胸神経の
支配となる。
肛門は第 5仙骨神経支配
デルマトームは知覚に関する分布である。
筋肉の運動とは異なる。例えば肛門の開閉
に作用する肛門括約筋は第 2~4仙骨神経
に支配されているのでこの部位の障害では
肛門の開閉が上手くいかない。
②
腰部脊柱管狭窄症について
N02 坐骨神経痛について
坐骨神経痛の原因には腰椎ヘルニアや後述する腰部脊柱管狭窄症などがある。その他、
臀部の①梨状筋による圧迫などでも坐骨神経痛が起こる。 坐
骨
神
経
①梨状筋(りじょうきん)
腓
骨
神
経
脛
骨
神
経
② ③
坐骨神経は下肢の背側をまっすぐ下に降りるが、膝の上付近で
②腓骨神経と③脛骨神経の2つに分かれる(左図1)。
図1
S1
(第 1仙骨神経)
S2 (第2仙骨神経)
図2
腓骨神経と頸骨神経の走行部位はデルマトームの S1(第 1仙骨神経)
や S2(第 2仙骨神経)の知覚分布に類似している(右図 2)
したがって坐骨神経痛や腰椎ヘルニアなどによる第 1,2仙骨神経
障害では臀部から下肢の背側へと痛みやしびれが放散することが
多い。
※腓骨神経は筋肉の運動としては主に足、足趾の伸展に関与し、
脛骨神経は足、足趾の屈曲に関与する。また、坐骨神経は大腿の
伸展や膝の屈曲に関与する。
脊柱管狭窄は腰部だけでなく、頸部や胸部にも起こる。脊柱管狭窄に関する基礎的な解剖、症状が何故起こ
るのかなどについて解説する。
脊柱管とはどこの部分?
①
z
椎体
椎弓
後弓 横突起
図3
脊柱管
後関節突起
①
左図3は椎骨の水平断面だが、
脊髄の通る骨に囲まれた部分が
①脊柱管である。
図4
脊
柱
管 後縦靱帯
黄色靱帯
※椎体で囲まれた部分は椎孔
であるが、椎孔が縦に連なると
脊柱管と呼ばれる。
(椎孔)
右図4は脊椎の縦断面だが、脊髄
の通る脊柱管の前に②後縦靱帯
後ろに③黄色靱帯がある。
②
③
椎体
横突起
前縦靱帯
左図5は椎体の水平断面だが、脊柱管(椎孔)の前に後縦靱帯
脊柱管の後ろ側に黄色靱帯がある。
棘突起 図5
後縦靱帯
黄色靱帯 したがって、これらの靱帯が肥厚したり石灰化すると脊柱管が
狭窄する(後縦靱帯骨化症や黄色靱帯骨化症など)。
※その他、変形性脊椎症でも脊柱管が狭窄することがある。
変形性脊椎症は頸椎が変形すれば変形性頚椎症、腰椎が変形
すれば変形性腰椎症と個別に呼ばれることもある。
椎弓板
後縦靱帯骨化症(Ossification of Posterior Longitudinal Ligament;OPLL と略して呼ばれる事も
ある)は 1960年に日本が初めて報告した疾患で難病に指定されていて指定難病 69番である。
腰部脊柱管狭窄症について(続き)
椎体
椎間板
棘突起
黄色靱帯
椎弓板
黄色靱帯
後縦靱帯
棘間靱帯
棘間靱帯
棘突起
棘突起
① 後縦靱帯や②黄色靱帯の位置を再度左図に示す。
② 黄色靱帯は椎弓板の間にあり、脊柱管の後方にある。
黄色の靱帯なので黄色靱帯と呼ばれる。
①後縦靱帯は椎骨(椎体)の後ろにあり、脊柱管の前方にあ
る。
前
縦
靱
帯 ①
②
脊柱管狭窄の原因となる後縦靱帯骨化症について
骨化 後ろの 縦方向の 靱帯
左写真は頸部の後縦靱帯骨化症である。骨化は単純写真でも
確認できる事があり、成人の数%で骨化が見られるとの報告
もある。軽度の骨化では症状の無い事も多い。
棘突起
喉頭蓋
大後頭孔
第3頸椎
第7頸椎
第1胸椎
第1頸椎
(環椎)
第2頸椎
(軸椎) 骨化
後縦靱帯の骨化が第3頸椎~第1胸椎まで見られる。特に第3
~5頸椎の骨化が強く脊柱管が狭窄している。
後縦靱帯骨化症は 50才以上で症状が出現する人が多く男女比
は 2:1であり、男性の発症が多い。
第 7頸椎の棘突起は大きく、隆椎(りゅうつい)と呼ばれる。
太った人でも背中で触れる筈。
※後縦靱帯骨化症の患者さんは黄色靱帯骨化症が同時に見られる事もある。
後縦靱帯骨化症の治療
外固定装具(頚椎カラー)などの装着で経過を見ることもあるが、知覚、運動障害の強い場合は手術を行
う場合もある。進行性運動麻痺や耐えがたい疼痛などがある場合が手術適応となる。
手術術式は色々あるが多くの椎体の骨化があ
る場合には左図1のように後方の片側椎弓を
切除して除圧し、右図2のように椎弓を縫合
する片開き式脊柱管拡大術(後方除圧術)な
どがある。
図1
図 2
椎弓
縫合
(縫合では無くプレート固定
する場合もある)
※手術術式には、その他両側の椎弓を切除する両開き
式脊柱管拡大術(後方除圧)や、脊椎前方より椎間板
や骨棘を切除して移植骨で椎体を固定する前方除圧・
固定術などがある。
椎体
脊髄
骨棘形成も
ある
N03