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登場人物どうしの関わりの変化について読もう「なまえつけてよ(光村・5年)」
附属山口小学校 国語科部 山本侑子
(1)授業の構想
① 本単元で求める子どもの姿
〇 春花と勇太の関わりがどのように変化しているのかを解決しようと、「人物像」「題名」
「視点」「変容点」などに着目しながら、春花と勇太の心情の変化について読んでいる(自
己の発揮)
〇 仲間と、春花と勇太の関わりがどのように変化しているのかについて話し合っている(か
かわり)
〇 学びの過程を振り返る中で、春花と勇太の心情の変化について、自分の考えの深まりを
自覚したり、学んだ読み方のよさに気付いたりしている(心の幹)
② 本単元で求める子どもの姿を実現するために
ア 単元の初めに、心に残ったことについて交流する際、春花と勇太の心の距離を黒板に
曲線状で表す。そうすることで、仲間の考えとの違い・重なりから、春花と勇太の関わり
の変化について追究する意欲を高めることができるようにする。
イ 春花と勇太の関わりの変化について話し合う際、学んだ読み方を生かしている子ども
を意図的に指名したり、発言を問い返したりする。そうすることで、「人物像」「題名」「視
点」「変容点」などに着目した読み方を生かしながら、春花と勇太の行動描写や会話文、
心情表現とをつないで、心情の変化を読むことができるようにする。
ウ 学習について振り返りを行う際は、学んだ読み方のよさに触れているものを全体の場
で紹介する。そうすることで、「人物像」「題名」「視点」「変容点」などに着目して読む
ことのよさに気付くことができるようにする。
③ 目標
○ 学んだ読み方を生かしながら、春花と勇太の行動描写や会話文、心情表現とをつない
で、春花と勇太の心情の変化を読むことができるようにする。
○ 学んだ読み方を生かして、春花と勇太の心情の変化を読むことの楽しさを味わうこと
ができるようにする。
(2)子どもの学びの実際 ※波線は資質・能力が発揮された子どもの姿、下線は前述の支援との対応を表す
本単元は、学んだ読み方を生かしながら、仲間と、春花
と勇太の心情の変化について読んでいく学習である。ここ
では「学んだ読み方を生かして追究の見通しをもった場面」
「学んだ読み方を生かしている場面」「学んだ読み方のよ
さを感じることにつながった場面」の中で見られた、子ど
もの学びの姿を記す。
① 勇太って、実はやさしいんだね![第1次の学び]
本単元の初めに、「感想を交流し、学習課題をつくろう」
とめあてを提示し、面白かったところ、心に残ったところ
指導計画(全4時間)
① 感想を交流し、学習課題を作る
第1次 学習課題を作る
第2次 登場人物の互いへの見方の変化について話し合う
① 春花の勇太への見方が変わった叙述について話し合う
第3次 登場人物の互いへの見方の変化から、後話をつくる
① 後話をつくる
② 勇太の春花への見方が変わった叙述について話し合う
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を問うた。以下は、感想の交流場面の一部である。
H児が勇太の人物像を読み取ろうとしていることを見取ったため、「勇太ってひどいの?」
と、H児の発言内容を全体に問い返した。【支援イ】すると、K児やM児の発言に見られるよ
うに、勇太の行動描写から、勇太の人物像を読み取ろうとする姿が広がっていった。さらに、
Y児が勇太だけではなく、春花に目を向けたことで、I児が春花の心情を読もうとする姿に
つながった。また、I児は、春花と勇太のやりとりから、春花の変容にも気付いていた。
そこで、「春花の勇太への見方が変容しているの?」と全体に問うた。【支援イ】すると、
子どもは、根拠となる叙述を示しながら、春花の勇太への思いが勇太に近付いていくことを
捉えていった。子どもが、春花の勇太への思いを距離感で捉えていることを見取ったため、
春花の勇太への心の距離をノートに曲線で表すよう促し、それを黒板で説明するよう促した。
【支援ア】すると、「そうそう!」「はじめは遠いでしょ」「そ
こから一気に近付く!」「う~ん、ちょっと違う」【かかわり】
などと仲間の考えと比べて聞きながら、自分の書いた春花
の勇太への心の距離を表す曲線を修正したり、自分の考え
を黒板上に曲線で表したりしていた。このようにして、子
どもは、仲間と感想を交流する中で、「人物像」「変容点」
などに着目しながら、春花と勇太の関わりの変化について
読んでいこうという追究の意欲を高めていったのである。
② お互いへの見方はどこで変わっているのかな?[第2次第1時の学び]
第2次第1時の導入場面では、A児の振り返りを紹介した。【支援ウ】A児は「変容点をは
っきりさせたいし、語り手のことも気になるので、次回が楽しみです」【心の幹】と、前単元
で学んだ「変容点」「視点」に着目した読み方を、今回の学習に生かそうとしていた。子ど
もは、春花の勇太への見方が一番変容したところについて話し合う中で、「子馬の折り紙を
もらったところで、春花はうれしくなった」と、子馬の折り紙をきっかけとして春花の勇太
への見方が変容したことを捉えていった。子どもが子馬の折り紙に着目し始めたことを見取
ったため、「子馬の折り紙の何がうれしかったの?」と問うた。すると、「中身がうれしか
った」「不格好だけどうれしかった」という声が聞こえてきた。そこで、「不格好な子馬の
H児 23ページの9行目に勇太が「もう行こう。」とひどい感じで最初は言ったんだけど。【自己の発揮】S児 あ!わかった!!すごい優しくなった!(つぶやき)教師 勇太ってひどいの?【支援イ】K児 勇太はひどいっていうか、親しくなるきっかけがつかめなかったって書いてあるじゃないですか。
だから、きつく言ったと思います。S児 いや、きついっていうか、慣れていないだけ。(つぶやき)教師 勇太ってどんな人?M児 人に思っていることをはっきり言えない人だと思います。馬の折り紙をあげたときも控えめな、い
や、ちょっと違うか、素直に物を言えない人だと思います。Y児 春花は勇太と一生懸命仲良しになりたいと思っていて、22ページの6行目に勇太のお母さんが「仲
良くしてやってね」って言って、その通りにしたいと春花は思っていましたよね。でも、勇太がひどい感じだから…。【自己の発揮】
I児 結局、両思いって感じだと思います。春花は、その態度(Y児などの発言した「ひどい感じ」を指す)だったら、仲良くなりたくないなと思っていたと思います。【かかわり】でも、26ページの4行目に、勇太が1回聞いたんですよ。「名前、なんてつけるんだ。」って。そこから、変わっていて、春花が折り紙をひっくり返してみると、ペンで何か書いてあるところで、「あ、やさしいんだ。」って思ったと思います。【自己の発揮】
心の距離を黒板に曲線で表す子ども
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折り紙がうれしかったの?」と問い返した。以下に、その後の話し合いの様子の一部を記す。
U児は、勇太からもらった子馬の折り紙を「励まし」と意
味付けている。また、T児は、U児の発言を受けて、なぜ不
格好なのに「励まし」になるのかという理由を、勇太の視点
から意味付けている。さらに、Y児は、春花の様子を関連付
けて読み、勇太の心情を読み取っている。このような話し合
いを経て、O児は、春花の変容を捉え、春花の視点から、子
馬の折り紙について意味付けた。以下に、O児の発言を記す。
O児は、「励まし」だけではなく、「らんぼうなくらいに元気のいい字がおどっている」
と、勇太の書いた文字からも、子馬の折り紙を意味付けしようとしていることが分かる。
さらに、次の時間、勇太の春花への見方について話し合う中で、N児が「子馬の折り紙を
渡すところや子馬の折り紙は、勇太の照れくささからきている」と発言した。以下は、終末
部分で書いたO児の振り返りである。
N児の発言を聞いたO児は、勇太の視点から、勇太の人物像を関連付けて読み、子馬の折
り紙の意味付けを深めている。このようにして、子どもは、子馬の折り紙に込められた勇太
の心情を読み取る中で、「なまえつけてよ」という題名の意味について考えていくようにな
ったのである。
③ 題名に注目して読むと、勇太の優しさがよく分かったね![第2次第2時の学び]
各授業の終末場面では、学習について振り返りを行う場を設けた。以下は、第2次第2時
の振り返りの一部である。
U児 春花は、不格好な馬がよかったんじゃなくて、不格好な馬だけどよかったんだと思います。理由は、
たぶん、春花は勇太からの励ましみたいなものと思ったんじゃないかなって思います。【自己の発揮】教師 「不格好な馬だけど、勇太からの励まし」って、どういうこと?【支援イ】T児 Uくんのことを、もうちょっと言うんですけど、まあ、不格好ということはあまり得意じゃなくて
もがんばって作ってくれたから、励ましになったかなあって思いました。【かかわり】Y児 えっと、馬は不格好だけど、春花が馬のところに名前を言いに行くところ、26ページに、本当は
名前をつけるはずだったけど、牧場のおばあさんから引き取られることになったって書いてありま
すよね。勇太は、せっかく名前を考えたのに、春花が何かかわいそうだなって思って、代わりに、
何か不格好な馬の折り紙を渡したと思います。【自己の発揮】
28ページの最後から2行目に、「らんぼうなくらいに元気のいい字がおどっている」ってありますよね。
なぜかというと、はじめは、春花は勇太の態度に対して、『なによ、その態度。』って思いましたよね。だ
けど、春花は、勇太が馬の折り紙で何か励ました感じがしたと思います。【自己の発揮】
わたしは、Nさんの意見に納得しました。なぜかというと、勇太の人物像から考えて、照れくささから、
ひらがなにしたという、勇太らしさが表れている感じだから、なぜ「なまえつけてよ」を平仮名にしたの
か、ちょっとだけど、分かった気がしました。【かかわり】
子馬の折り紙の意味付けを行うO児
H児 勇太は、一文字でも多く、感情を伝えたくて、平仮名にしたのじゃないかなと思います。題名がヒ
ントになっていると思うので、次の授業も、題名を見て、考えていきたいです。【心の幹】N児 「なまえつけてよ」は、今の私たちにぴったりなお話だと思いました。今まで読んだお話の中で、一
番、人物に寄り添った感じで読むことができたからです。【心の幹】E児 最後に話し合った、平仮名に込められた意味の意見で、Hさんの意見はなるほどなと思いました。
勇太は、春花にどうしても名前をつけてよという気持ちがあったから、漢字ではなく、平仮名にし
たということがよくわかったからです。【心の幹】
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H児は、題名に着目して読むことのよさに気付き、次の物語文の学習に生かそうとしてい
る。また、N児は、「視点」に着目した読み方を生かしたことで、登場人物に寄り添って読
むことができたと、自分の考えの深まりを自覚している。さらに、E児は、仲間と、学んだ
読み方を生かしながら読むことのよさを感じている。このように、学んだ読み方のよさに気
付くためには、子どもが学んだ読み方のよさを実感した上で、振り返りを行うことが大切で
ある。
3 実践を振り返って
これは、第1次で教材文に出会った際、題名になっている「なまえつけてよ」の言葉に「あ!
題名が出た!」と反応していたR児が第2次第2時に書いた振り返りである。この振り返りか
ら分かるように、大切なのは、題名に着目することではなく、題名に着目することで、登場人
物の心情を深く読み取ることができると自覚することである。振り返りは、学びを自覚するた
めのものである。だからこそ、振り返りの場を大切にするだけではなく、子どもが追究意欲を
高め、学んだ読み方のよさを実感できる授業展開をもっと工夫していく必要がある。具体的に
は、子どもの必要感が高まった段階での学んだ読み方を生かすことのできる発問や、子どもが
学んだ読み方を生かして考えを深められる問い返しなど、学んだ読み方のよさを感じるための
支援を模索し、実践していきたい。
わたしは、最初「題名が出た!」ってただ題名が出てきたから言っていたんだけど、最後は、ちゃんと
題名に、勇太の春花への気持ちがふくまれているのかなあと思いました。