ngo jbic より共同提示の議題 - jica - 国際協力機構...ngo...

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12 NGO-JBIC 定期協議会 議事録 (平成 16 12 2 14:0017:00 JBIC 本店開発金融研究所大会議室) 開会............................................................................................................................................. 1 NGOJBICより共同提示の議題................................................................................................... 1 議題 1 本協議会の今後のあり方について................................................................................. 1 議題 2 マイクロファイナンス事業におけるNGOの参加について............................................ 2 JBIC提示の議題 ............................................................................................................................. 7 議題 1 JBICにおけるHIVエイズ対策について ........................................................................ 7 議題 2 開発援助ファイナンスの新展開 .................................................................................. 10 NGO提示の議題 ........................................................................................................................... 12 議題 1 環境社会配慮における詳細設計の重要性について...................................................... 12 議題 2 非自発的住民移転を伴うプロジェクトへの配慮について ........................................... 16 議題 3 フィリピン上下水道の民間参入を促進するファンドの設立について ......................... 18 議題 4 気候変動抑制に貢献するための国際協力銀行の取り組みについて............................. 19 開会 (国際協力銀行(JBIC):NGO・地方公共団体連携担当審議役、伊藤博夫)今日は第 12 回にな る。先日フィリピンのある会合で NGO の話を聞く機会があった。 NGO の活動している地域 に日本の協力で道ができ、その結果、物流も広まり、地域も拓けて良かったと感じていた。 しかし、この地域は雨も多いので、路肩が流されてしまったりすることがある。フィリピン に住む日本の NGO からは、もし地域に参画の余地があって、こうした事態にすばやく対処 できるのであれば、長く使えるだろう、という意見を頂いた。 JBIC は日本の役割分担として、 開発途上国に向けて生活の基盤となる電気、水などの供給のために支援に携わっているが、 それらの効果を挙げていくには、その地域の人々のエンパワメント、オーナーシップという のが重要だと思う。こういったその土地の人が、事業を自分たちの生活を良くしていくもの だという思いを、どのように事業に取り込んで、より大きな効果をもたらすかということに、 より多くの人の知恵が必要だ。JBIC だけでなく、NGO、企業、あるいは地方公共団体も関 心を持って活動している。途上国がオーナーシップを持ってやっていくに際して、これらの 努力が合わされば、大変心強い支援になると思う。是非今日も参加者の知恵を合わせて、日 本の国際協力が喜ばれるもの、効果の挙がるものにしていけるよう、協議をしていきたい。 (以下、司会、世話役の紹介、参加者の自己紹介) NGO 等:コンサーベーション・インターナショナル、日比保史)それでは NGO-JBIC 共同提 示の議題から始めていきたい。 NGOJBIC より共同提示の議題 議題 1 本協議会の今後のあり方について 1

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第 12回 NGO-JBIC定期協議会 議事録 (平成 16年 12月 2日 14:00~17:00 JBIC本店開発金融研究所大会議室)

開会.............................................................................................................................................1

NGO-JBICより共同提示の議題...................................................................................................1 議題 1 本協議会の今後のあり方について.................................................................................1 議題 2 マイクロファイナンス事業におけるNGOの参加について............................................2

JBIC提示の議題 .............................................................................................................................7 議題 1 JBICにおけるHIVエイズ対策について ........................................................................7 議題 2 開発援助ファイナンスの新展開 ..................................................................................10

NGO提示の議題 ...........................................................................................................................12 議題 1 環境社会配慮における詳細設計の重要性について......................................................12 議題 2 非自発的住民移転を伴うプロジェクトへの配慮について ...........................................16 議題 3 フィリピン上下水道の民間参入を促進するファンドの設立について .........................18 議題 4 気候変動抑制に貢献するための国際協力銀行の取り組みについて.............................19

開会

(国際協力銀行(JBIC):NGO・地方公共団体連携担当審議役、伊藤博夫)今日は第 12 回になる。先日フィリピンのある会合で NGOの話を聞く機会があった。NGOの活動している地域に日本の協力で道ができ、その結果、物流も広まり、地域も拓けて良かったと感じていた。

しかし、この地域は雨も多いので、路肩が流されてしまったりすることがある。フィリピン

に住む日本の NGO からは、もし地域に参画の余地があって、こうした事態にすばやく対処できるのであれば、長く使えるだろう、という意見を頂いた。JBICは日本の役割分担として、開発途上国に向けて生活の基盤となる電気、水などの供給のために支援に携わっているが、

それらの効果を挙げていくには、その地域の人々のエンパワメント、オーナーシップという

のが重要だと思う。こういったその土地の人が、事業を自分たちの生活を良くしていくもの

だという思いを、どのように事業に取り込んで、より大きな効果をもたらすかということに、

より多くの人の知恵が必要だ。JBIC だけでなく、NGO、企業、あるいは地方公共団体も関心を持って活動している。途上国がオーナーシップを持ってやっていくに際して、これらの

努力が合わされば、大変心強い支援になると思う。是非今日も参加者の知恵を合わせて、日

本の国際協力が喜ばれるもの、効果の挙がるものにしていけるよう、協議をしていきたい。 (以下、司会、世話役の紹介、参加者の自己紹介) (NGO等:コンサーベーション・インターナショナル、日比保史)それでは NGO-JBIC共同提

示の議題から始めていきたい。 NGO-JBICより共同提示の議題 議題 1 本協議会の今後のあり方について

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(JBIC:伊藤)これまでの経緯を紹介したい。この協議会は 2001年に始まった。自由な雰囲気の元で意見交換を行ってきた。しかし傾向として、必ずしも多くの NGO の方々に参加頂くのが難しいかもしれないという意見が出てきた。そこで議題の取り上げかた、討議の仕方に

ついて、話し合いを持ってきた。第 11回定期協議会の際に、NGO側から協議会のあり方について、より多くの参加者を得られるよう、議論しようという具体的な提言がなされた。こ

の議論は基本的に世話役と意見交換をするという形で今日に至っている。11回の定期協議では、JBIC から提案した運営方法には 100 パーセントの賛成が得られず、継続して審議していこうということになった。定期協議会の活性化が必要だということについては合意してい

る。具体的には議題の選定、出席者の偏りなどの問題については定期協議会では解決できな

いので、政策提言型の話と事業推進型の話をバランスよくこの協議会の場で取り上げていこ

うということになった。そういった問題に対する解決の具体的な試みとして、今回の議題に

示されるように、NGO-JBIC共同提案としてマイクロファイナンス事業における NGOの参加がある。今回の形式を踏まえつつ、今後の審議を継続していこうと考えている。NGOからも説明をお願いしたい。

(NGO等:「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、古沢広祐)お手許の配布資料は本件に関する NGO 間での審議の経過を示したものである。内容にもあるように、これまで、協議の持ち方については試行錯誤があり、また例えば地方開催も当時はあったのに最近は開催さ

れていない。また JBIC からは、通常の意見交換会では時間が足りないという指摘がなされている。時間をどう有効に使っていくかということについて、NGO、JBIC 双方から要望と意見が出されている次第である。 具体的な提案として、回数や地方開催にあまり細かい条件をつけるべきではないとか、以

前の JBIC 提案のセミナー型と政策協議型を分けてしまうと、年間通しでは NGO の希望する政策協議の回数が減ってしまうなどの問題がある。また一方では、現在の時間の枠内では

十分協議ができないのではないかといった意見も出ている。この辺りを継続して審議してい

きたいところだ。今日も時間が足りないだろうと考えるので、メール等で意見を寄せていた

だく形でよりよいものにしていきたい。また、NGO側の世話人 3名でいろんな人の意見を聞くべく、12月 16日、18:30から NGO間の拡大の意見交換を行う予定にしており、参加を呼びかけたい。

議題 2 マイクロファイナンス事業における NGOの参加について

(提案者 アジア地域づくり研究会・いりあい・よりあい・まなびあいネットワーク(あいあい

ネット)、長畑誠) (JBIC:伊藤)事業をどう効果的に進めていくかを考える際に重要となるのが国連ミレニアム開発目標(MDGs)に謳われている貧困の削減である。それの大きなツールとして、マイクロファイナンス(MF)をどうやって効率よく使っていくかについての NGOのレポートが挙がっている。これを長畑氏から説明していただく。

(NGO等:長畑)あいあいネットは、コミュニティによる共有資源の管理、住民自治をテーマにした共同調査、経験交流のための活動をしている。 私は長い間シャプラニールという NGOにいたが、そのときにMFに関わった。また JBIC

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との関わりで言うなら、グラミン銀行に JBIC が融資をしたという関係で、そのインパクト調査もした。その後、国際協力 NGOセンター(JANIC)の調査研究員をしていたときに、インドネシアの貧困削減に関する効果的な持続的 MF調査を提案型案件形成調査として行ったので、今日はその話をしようと思う。JBICと NGOがざっくばらんに意見交換をするための基盤を提供できればと思う。 まず調査の背景だが、JANICが事務局となっている、「貧困半減 NGO協働ネットワーク」というアジアの NGO ネットワーク組織で MF の普及が方針のひとつになっており、また私自身MFの経験があったということで、2002年 7月くらいから動き出して、JBICと相談しながら、最終的には昨年の 6 月に契約を結んで、調査をし、報告書を作り、現地でフィードバックも行った。 枠組みとして二ヶ月間の調査で、インドネシアの中でもカリマンタン、南スラウェシ、西

チモール、それから比較のためにジャワ島という、統計上貧困の度合いの高いところを選ん

だ。日本人は 9 名ほど関わった。現地側はビナスワダヤという老舗で、インドネシアではおそらく最大級の NGOの協力を得た。チームとしては金融機関を訪問するチーム、NGO・政策チーム、および村調査チームに分かれた。村調査チームはひとつの村に 4日から 5日間ずつ滞在して、基本的に質問表を使った定量的調査と定性的な調査を合わせて、とくに現地の

人達も調査員として入った。 NGOならではの特徴として、現地 NGOとの協力で作れたこと、いろんな背景を持ったアクターが加われたこと、参加型調査ができたこと。ここは必ずしもうまくは行かなかったが、

できるだけ現地の人を主体にした調査をしようと心がけた。 次に簡単に調査結果を報告したい。まず、東部インドネシアが印象的だったのは、昔なが

らの自給自足的な経済の部分がかなり大きい。例えばお米だけでなく、とうもろこしなどを

かなり自給自足でやっている。あるいは地域によっては焼畑農業も続けているところもある。

食べていくという面では私が以前関わった南アジアと比べればかなり恵まれている。人口密

度が低いので、食べられなくて困ってしまうというケースはほとんどない。しかし近代化が

進むと、どこでも同じだと思うが、現金収入が必要になってくる。例えば学校、医療のため

に金がいるし、その他にもなにかモノを買いたくなる。そのため、現金需要のためにはたと

えばカリマンタンであればゴム樹液や果物を取って売るといった伝統的なやり方では間に合

わないといった問題が出てきている。ただしその一方で、東インドネシアでは自然資源は残

されているので、これが外部の資本によって搾取されるという可能性がある。またインドネ

シアの場合外部だけには限らない。分権化が進んで来ていることのマイナス面として、地域

のボスが勝手放題してしまうこともある。以前は中央政府が押さえつけて木を切らせなかっ

たのに、それが切られてしまったりする。そういったことを考えるなら、地域の人々自身が

自分たちで地域資源を有効活用していくということを考えていかなければならない。その意

味で住民組織としての自主的な活動が既にいくつか展開していることを事実として指摘して

おきたい。 私達の見た問題の一つとして、例えば油椰子プランテーション。山をいったん丸裸にして

しまって油椰子を植えるので、村の人たちにとってみれば、土地を一旦企業に売り払ってし

まい、そこで小作農として働くことになるわけだ。しかしこれでもここで働けている方がま

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だましと言える。現金収入という意味ではここで働くほうがまだ恵まれている。こうした流

れの中、自分達の木を植えて現金収入を細々と得て収入向上をしようとしているグループも

あるが、しかし大きな流れとしては現金経済が浸透してきて、自然が荒らされ、貧困が進ん

でいくと言えるだろう。 ではMFはどうか。実際インドネシアにはMFを扱う商業銀行がそもそも少ない。その中でインドネシア人民銀行という元政府系の銀行がやっているが、だいたい一口 2 万円というかなり小口のお金を貸し付けている。この銀行は支店が多いので、そこそこのカバー率には

なっているのだが、それでも村の人に話を聞いてみると 10人に 1人がこれを利用しているのみである。つまり商業銀行へのアクセスはかなり限定的である。その一方でクレジットユニ

オンというのがある。これが商業銀行とどう違うかと言うと、自分たちのお金を自分たちで

回している。それであれば農村部でもそれぞれがお金を出し合えばできるということで、キ

リスト教系の動きで、クリスチャンの多い地域、今回の調査地域であれば西カリマンタン等

がそうだ。逆に貯蓄貸付組合の場合はイスラム教の原理に従ったものなどが展開を始めてい

た。これらが商業銀行と比べてかなり高いアクセスを持っている。ただしそうは言っても農

村では伝統的な手段による貸し借りが一番多い。では高利貸しに借りてみんな困っているか

というと、必ずしもそうではない。例えば漁村には船の所有者(網元)がいて、船に乗る漁

民を管理する。その網元は利子は取らないが上前をはねる。しかし何か海で事故があったと

きには保障をするし、困ったことがあると助けてくれる。そういう意味で全くの搾取ではな

い。そういうインフォーマルな金融は依然としてある。こうした中で MF自身がそんなに広がっていないという状況はある。既存のMF機関のカバー率は約 10%以下。会員型MF期間は農村部でも健闘。ただ持続性の点では一部の商業銀行とクレジットユニオンが安定してい

る。会員型 MF機関の中でも政府が協同組合にお金を流し込むという形が他の途上国でもよくやられる。一応貸し付けの形を取るが、殆どの住民はそれをグラントだと思うのでだいた

いどこでも焦げ付いてしまう。同じことがここでも起こっている。とくにスハルト時代に協

同組合が単に政府からのお金を流し込む受け皿になってしまっていたので、その意味で協同

組合によるマイクロファイナンスは一般的に言ってあまり成功例は多くない。その中ではク

レジットユニオンはユニバーサルな基準で運営されているので信頼性が高く、安定度、持続

度も問題ない。一方、MF プロジェクトが多くのドナー・政府によって導入されているが、一部成功しているものがあるものの、ほとんどがバラまきに終わっている。 NGOに関してはどうだったか。ここ 5年くらい一部の NGOが直接MFを行っているが、規模が小さく持続性に欠けるものが多い。そういった中で多くの NGO はむしろ自助グループの育成、自助グループと MF 機関とをつなげるということをやっている。NGO は何よりも貧困層のエンパワメントや、きめ細かいサービス提供という形で貢献している。 その結果 JBIC へ提案したマイクロファイナンスのあり方として、4 点ある。まず、中心

になるのは住民グループや貯蓄貸付グループを育成すること。これがなければ貧困削減と言

っても少しも貧困層に届かない。そしてこうしたグループをフォーマルなユニオンやグルー

プに発展させていくこともあるし、それを MF機関とリンクさせていくという方法もあるだろ。あと最後に我々が提案したのは、貧困層というのを考えた場合、マイクロファイナンス

だけでは足りない。とくに東部インドネシアの場合、インフラが足りない。とくに道路への

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アクセスが非常に弱いのでそこをどうするかという問題がある。他にも教育、トレーニング

の普及、そして何よりもコミュニティ自身が開発プロジェクトにどう参画していくかという

ところを考えなければならない、ということを提言した。 JBICへの提言としては貧困層への能力育成、インフラ整備。ただしインフラ整備といっても上からのものであってはならない。それからマイクロファイナンスの促進というものを組

み合わせ、これを行うに当たっては地元の NGO を通じてやるべきだろうというのが我々の提言である。 では MF における NGO の役割とは何なのか。少なくともインドネシアの例から言えることは、遠隔地の貧困層へのアプローチが可能だということだ。また、住民組織化を通じたエ

ンパワメントを促進する可能性を持つということ。ただし、安易なローン先行型の活動は住

民主体の開発を阻害する恐れがある。多くの MF型のドナーが導入したプロジェクトでは、お金を受け取るだけのためにグループを作ってしまっており、つまりお金をどう増やすかと

いうことだけに関心が行ってしまう。しかしコミュニティの抱えている問題はそれだけでは

ない。その意味でローンだけを先に出してしまう活動は、そうしたコミュニティの抱える他

の問題を考えることを妨げることになってしまう。もし金融的な側面を考えるなら、自分た

ちでお金を積み立ててもらって、その中で何とかするという方法のほうが有効ではないかと

考える。ただ、これが発展してきたときには、ある程度大きな資金が必要となる。そうなっ

た場合はやはり専門のスタッフと持続性のあるフォーマルな金融機関とのリンケージを目指

すか、あるいは貯蓄貸付グループをフォーマルな機関に発展させていくところで JBIC 等がサポートをするということもありえるのではないかと考える。 最後に NGOの役割について。NGOの本来の役割は「金融」ではない。住民やコミュニティの包括的なエンパワメントの促進にある。金融はあくまでそのための手段である。そこで

餅は餅屋に任せよう。もちろん金融サービスに特化した NGO を否定はしないが、それのみでは難しいだろう。そういう意味で NGOの役割はある程度限定するべきだろう。

(JBIC:伊藤)長畑氏自身がバングラデシュでのシャプラニールの活動を通じて得た、地域に根付いたお金の使い方の経験が、今回のインドネシアの調査にも生かされたのだろう。長畑氏

の活動、MFに対する質問、コメントを伺いたい。 (NGO等:BHNテレコム支援協議会、木村)インドネシアのある地域でこれを行うとしたとき、どれくらいの規模ならやれるのか。1億円か、10億円か、あるいは 1000万でいいのか。

(NGO 等:長畑)貸し付ける金額だけで言うなら、インドネシアなら一回当たり、1 万円~10万円だ。これを何人に貸すかを考えれば金額を出すことができる。金融機関としてやるのな

ら、ランニングコストを利子から得なければならないから、そういう形で計算すれば、融資

すべき最低限の人数も出るだろう。しかしこうやって算出されたお金全てを日本が援助する

ということではない。なぜならインドネシア国内で資金を調達することも不可能ではないの

で、日本の援助でどこまで出す必要があるかというのは別の話。 (NGO等:古沢)2点質問がある。まず、参加型調査というとき、具体的にどういう内容の参加

のことを言っているのか。また NGO が関わることによって、従来のコンサルタントなどと比べてどういう違いが出たと考えられるかという点。次に、エンパワメントというのは難し

いキーワードだが、具体的にどういうものを考えているのか。教育、福祉、医療など、いろ

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んなエンパワメントのルートがあると思うが。 (NGO等:長畑)ひとつ目の質問についてだが、今回とくにターゲットにしたのは現地の NGOだ。確かに今回は上から、あるいは外から持ち込んでいるので厳密な意味での参加型ではな

い。しかし今回の調査は、実際現地の人が今後自分たちのものとして捉えてやっていくよう

にするためにはどうするか、という観点で行った。調査の設計などを日本の側で作ってしま

ったが、彼らにとっても意味のある調査にしようということで進めていった。彼らは調査員

ではなく、調査者だ、と説明してやってもらった。そこがおそらくコンサルタントと違うと

ころだ。あくまで現地の人が主体的に関われるものにというスタンスで臨んだ。次の質問に

ついてだが、エンパワメントと言うとき、JBICに対していう場合には、やはり小規模なインフラ整備は欠かせないと言わざるを得ない。ただ、本来のエンパワメントに一番必要な部分

は開発に住民自身が参加すること。つまり自分たちの開発を自分たちで考えて自分たちでや

っていく、それを後押しするのが NGO の役割だ。ただそれを JBIC の枠組みに位置づけるにはどうしたらいいだろうか。そこは今後の課題だ。

(NGO等:AMDA、鈴木俊介)3つほど質問させて頂きたい。まず、マイクロクレジットを実施する意義の一つとして貧困層に対する小規模資金のアクセスを向上させることが挙げられる

と思うが、実際農村に入ってみられて、プログラムが最貧困層にまで届いていたのか、とい

うこと。次に、貸し手にとって、融資コストはできるだけ下げたいと思うであろう。しかし

エンパワメントを伴ったプログラムの場合、ミニマリストアプローチの融資コストが 1 ドルのところを 3 ドルかける、ということが、他の地域と比較して、インドネシアのケースはどういう評価を得ているのだろうか。最後に、エンパワメントプロセスが進み、住民参加を基

礎とした開発事業も経験すると、組織としての結束力が増し、また管理能力も向上する。マ

イクロクレジットスキームも高いパフォーマンスを示すようになる。そこである地域の商業

銀行では、そうした組織力を担保として融資をする方法がインドなどでも散見されているが、

そうした例はインドネシアでも実際に見られたのか。 (NGO等:長畑)ひとつ目の質問について。彼らの持っている分類で言うところの最貧困層にフォーマルな MFはアクセスしていない。遠隔地だからだ。また、融資する金額も彼らが必要としているよりも大きい。そのため彼らはタンス預金を使うか高利貸しから借りるかしてい

る。東部インドネシアの農村の場合はまだまだそこまで現金経済が浸透していないとも言え

るのではないか。ふたつ目の質問について。どちらかと言うとインドネシアの NGO であれ民間であれ、ミニマムなアプローチが多い。金融なら金融に特化した形でやっていくという

ケースが増えてきている。そういうNGOとそうではないものとが分かれている。一部のNGOはエンパワメントに手間隙をかけて、そこから組織貸付をやるところもあるし、いろいろだ。

最後の質問について。唯一成功例として、農業庁と BRIという商業銀行が組んでやっているP4Kというプロジェクトがあって、これは農村で農民グループを作ってそこに貸し付けるものだ。そこではグループ自体の結束力を測った貸付で、うまくいっている。NGOが作った住民グループと商業銀行が結びついて、住民グループに商業銀行が貸し付ける、というやり方

もある。このやり方は我々も提案しているものだが、ひとつの例になるだろう。個人に貸し

付けるよりは、住民グループを作って、そこで結束力を高めてもらうというのが現実的だろ

う。

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(NGO等:2050、西内正彦)1万円、2万円と言うのが日本でいうのはどれくらいの貨幣価値があるか。ここには儀礼に使う、というようにあるが、例えば結婚式にいくらくらい出すのか。

(NGO 等:長畑)村の中での日雇いの場合、一日 1 ドル、多くて 2 ドルくらいだ。ただ、儀式などでは正確な数字は分からないが必ず 1万、2万くらい使っている。

(JBIC:伊藤)長畑氏が言いたかったのはMFを通じた地域住民の参加だろう。 引き続いて JBIC提示の議題を稲岡から説明いただく。

JBIC提示の議題 議題 1 JBICにおける HIVエイズ対策について

(提案者 JBIC:開発セクター部社会開発班専門調査員、稲岡恵美) (配布資料「JBICにおける HIVエイズ対策について」参照) (JBIC:稲岡)JBICにおけるHIVエイズ対策についてNGOとの連携という観点から話したい。今日は主に 3つ話したい。まずひとつは言うまでもないが、開発課題としての HIV/エイズの問題、次に JBIC における HIV/エイズ対策の事例を紹介、最後に HIV/エイズ対策におけるNGOとの連携について話したい。

HIV/エイズ対策というのはミレニアム開発目標の 6に明確に規定されており、国際社会が取り組むべき問題とされている。昨日の世界エイズデー関連行事でもこれが再認識された。

また JBIC の活動理念である「海外経済協力業務実施方針」の中の重点分野にある「地球規模問題への対応」の課題の一つとして HIV/エイズの問題を取り上げている。また JBICの「環境社会配慮ガイドライン」においても調査・検討すべき社会的関心事項として、円借款事業

が感染症の拡大に繋がらないよう配慮を行なうと規定している。 言うまでもないが、HIV/エイズは経済発展への大きな打撃になる。家計レベルでの貧困の助長だけでなく、国家レベルでも、エイズ対策によって国家財政、とくに保健医療支出が増

大し、国家の人材や労働力の喪失をもたらす。また、HIV/エイズは単に感染症という病気を治療すればよいというのでなく、発展途上国には、HIV感染を促進する背景がたくさんあり、それらへの対応を併せて行なう必要がある。それは例えば政治体制や内戦だとか、教育機会

の乏しさだとか、ジェンダー不平等、性に関する固有の文化である。 JBIC事業とエイズ対策との関係について説明したい。JBIC事業の多くは経済発展に資す

るためのインフラ整備であるが、その経済活動の活性化はそれと同時に国内・国外への人口

移動の増加をもたらす。また、案件の現場では、出稼ぎ・単身労働者の就労が増える。これ

らの移動労働者は HIV感染のリスクが高い集団と位置づけられている。それは、労働者が性的に活発な年齢層であり、同僚と住むことが多いこともあり、麻薬・性産業に接触する機会

が多いからである。また家族から離れて住むことや、保健サービスへのアクセスが限定され

るという事情もある。そうしたことから JBIC は案件の実施における労働者の健康問題に取り組んでいる。 簡単に事例を紹介したい。詳しくは JBIC のホームページにある円借款ニュースを見てい

ただきたい。今日は 1999 年に開始された、カンボジアのシハヌークビル港緊急リハビリ事業におけるエイズ対策を紹介したい。対象地域はカンボジア唯一の外港で、観光地でもある。

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人口の多くがここに集中しており、この地域の GDP の成長率が年 15%と、経済的にも非常に活発な地域だ。そのため、人口移動や社会活動の活性化による HIV感染の増加が懸念された。これは国際機関や現地の NGOから頂いた指摘に対応した経緯もある。 具体的には JBIC の案件実施支援調査というスキームの中でまず検討が始まった。この調

査は二つのフェーズに分かれるのだが、まず第 1フェーズでは現場で HIV感染の状況、予防知識どうなっているのか、本当にHIV/エイズ関連サービスへのアクセスがないのか、ということを調べた。その調査結果に基づいて計画を策定したあとに、第 2 フェーズでは、パイロットプロジェクトの形でエイズ対策を始めた。これは調査のスキームなので、それが終了し

た後、2003年 6月からは、政府の実施機関が、事業の入札書類にエイズ条項を設け、コントラクターの責任の下でエイズ対策を実施した。

HIV/エイズ対策の実施者は、案件の実施者であるシハヌークビル港湾公社や地域保健局が基本的に担う。ただし、港湾公社や地域保健局でさえ、現地のエイズ対策に関しては従来あ

まりにも協力ができていなかったという状況があり、現地でエイズ対策を行っている現地の

NGO、国際 NGOに実施を委託した。 この活動の対象となった集団として、労働者がいる。しかし労働者だけを教育すればよい

というわけではなく、彼らが接触する可能性のある性産業の従事者および周辺地域住民も活

動の対象となった。 具体的な活動内容だが、まず日本の援助側が問題意識を持っているだけでは、効果的・継

続的な活動とならないので、雇用者や関係者の問題意識を醸成することから始まった。例え

ば HIV/エイズに関する情報提供、教育を行った。これは自由で楽しい雰囲気の中で訴えるよう心がけた。単に我々が一方的に情報を提供するのではなく、活動を継続させていけるよう

に労働者の中にボランテイアでこの活動をしてもらえるスタッフの養成をした。実際にコン

ドームを労働者が購入できるような仕組みを整えた。また、実際に感染が分かった場合に解

雇やその他の差別を受けないような支援環境の確保、性感染症治療、カウンセリング、関係

者のエイズ対策実施能力強化を行った。 実施上の工夫としては、NGO との連携に努めたり、一方的な情報提供でなく、HIV 感染予防行動への変化を促進するよう心がけたりした。方針決定者、つまり地方当局や雇用者を

巻き込んだり、当事者の対策実施者を養成したり、また、ピア・エデュケーションにより精

神的障壁を低くすることにも努めた。 NGOによる実施の利点を紹介したい。地元の NGOは、従来から地域でエイズ対策の経験が豊かで、活動を進めていく上で有益である。様々なエイズ関連の労働者活動に関してのネ

ットワーク作りであるとか、港湾関係の機関と現地のエイズ対策を担う機関との分野を横断

した取り組みの実現であるとか、地元の文化慣習、言語を用いて、コミュニティ・住民を巻

込んだエンパワメントの促進であるとか、細やかなフォローアップ、持続させる仕組みを定

着させる働きかけといったものが挙げられよう。 HIV/エイズ対策に力を入れている現在進行中の案件としては、タイ・ラオスにおける第二メコン国際橋架橋事業や、ベトナムのカントー橋建設事業がある。また、2004年度案件においても積極的に形成中である。 今後の課題としては、地域での取り組みの継続性をどう確保するか、労働者向けの対策を

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現場だけでなく他地域でどう展開するか、またエイズ対策を独立で行うのではなく、あくま

でも労働者の健康安全管理の中でおこなっていくこと、保健およびインフラに関する政府機

関との連携をどう行っていくかといったものが挙げられる。 最後に、エイズ対策における NGO との連携案としては、エイズ対策に係る事前調査、実

施、評価、案件終了後のエイズ対策実施などが考えられよう。 (JBIC:伊藤)案件の形成の過程で、案件の社会的影響に関する懸念が出てくれば、稲岡(JBIC)が実施機関と対策の必要性について協議し、その上で対策を講ずるという手順が説明

された。また、エイズをひとつの事業として切り離してやるのではなく、案件を実施する上

で必要性の高いもの、という形の中で始めている。この実施において、NGOとの連携という可能性が大きく広がっていると考える。質問に移りたい。

(NGO等:木村)新聞その他によると、エイズはアフリカで多いと聞いている。この一番多いところでこの対策をやっていくべきではないのか。JBICとしてはそういう予定はあるのか。また、ウクライナが増えていると聞くが、このケースに当たるのだろうか。

(JBIC:稲岡)アジア地域から始まったのは、この地域に案件が多く、HIV/エイズの問題が指摘されたからだ。現在の発症率の高いところでは対策を始めていきたいので、アフリカも視野

に含めている。ウクライナについてだが、旧ロシア地域では麻薬の使用による、感染の増加

が非常に懸念されている。そういう意味では注目していかなければならない地域であると考

え調査実施を検討している。 (NGO 等:鈴木)HIV/エイズ関連事業の実施地域の選定は、実際に JBIC が融資事業を実施している地域との相関関係によるものだと理解している。ここでお伺いしたいのは、建設労働

者も含め、JBICの融資事業に携わった人員が、実際に HIVに感染し、その因果関係において JBIC 事業との関連性が問われたとき、どのように対応するのか、である。現地政府との取り決めも含め、そうした点に関するガイドラインはあるのか。

(JBIC:稲岡)ガイドラインは未作成の段階。案件本体のカウンターパートは保健機関ではないので、相手国保健省および地域保健局、地域にある NGO などと連携し、リファーする仕組みを作って実施している。

(NGO等:日本国際ボランティアセンター、高橋清貴)エイズ対策は、治療の部分が非常に大事であるがお金がかかるので、NGOだけで対処するのは難しい。そのため政府のきちんとした対応が不可欠である。今回も、JBICはカンボジア政府に対しをきちんとした対応を取るように、働きかけるべきではないだろうか。

(JBIC:稲岡)賛同する。エイズ対策を行う保健省への働きかけは、そこまで加えられていない。よって、実施機関が保健省に連絡するという形で働きかけができるよう検討しているところ

だ。 (JBIC:伊藤)エイズ予防に取り組んでいるが、世界中で 3900万人の感染者がいるという意味で、なすべきことはたくさんある。今後予防、発症したときのケアなどといったアプローチ

を検討していく必要があろう。 (JBIC:稲岡)カンボジアのケースでは、カウンセリングを伴う検査や性感染症の治療を活動に含めているが、これらは現地の保健局のサービスとは別に行なっているのではなく、連携の

下に行なっている。つまり、あくまでも暫定的な体制であって、現地の保健局を通じてのエ

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イズ対策実施能力強化を重要と考えている。エイズ対策活動をどの程度まで行なうかは、ど

の程度現地の保健機関がエイズ対策や治療にコミットしているかの実情に応じて対応を決め

ていきたいと思う。 (JBIC:伊藤)これは NGO等関係機関からの提言に基づいて始まったものだ。こうした提案に基づいて多くのことが行われている。資料の中ほどにあるが、JBICの提案型調査・発掘型案件形成調査という資料にあるように、平成 16年 6月に公示をおこない、90団体から応募いただいた。これに対し 28~9を採択し、実施していくことにした。許す限り提言されたものを活動に生かしていきたい。

議題 2 開発援助ファイナンスの新展開

(提案者 JBIC:開発業務部企画課調査役、生島靖久) (配布資料「開発援助ファイナンスの新展開」参照) (JBIC:生島)開発の主役は相手国であり、そこの人々というのは紛れもない事実。ただそうした開発支援に当たって、欧米諸国を含めて、どういう資金の提供を考えているのかという、

ある種マクロ的なレベルからの話を本日の主題としつつ、そういうマクロ的な状況をご紹介

することとしたい。 まず、開発に対する需要というマクロの話をすると、1日 1ドル未満で生活している人は、世界で 11 億人いる。これは 2001 年の数字で、1990 年から比べると 1 億人減っているが、MDGsは 1990年と比べて 2015年までに貧困層を半減するということなので、この数字をできるだけ減らしていくというのが基本的な方向となる。ただしMDGsというのは貧困削減だけではなく、ジェンダー、教育、医療、環境など、様々な目標から構成されているのだが、

その目標を達成するために必要なお金はどれくらいかというと、それは現在の ODA 水準、つまり 600億ドルから 700億ドルあるわけだが、これの 2倍程度の資金が必要との試算が世銀、国連から出されている。 それに対して、世界各国が ODA をどう増やしていくのかということだが、アメリカが右

肩上がりになっており、その一方日本は 2 位になっている。このままでいけば、早晩日本はフランス、イギリス、ドイツなどに抜かされるだろう。国際的な数値目標は GNIとの比較で0.7%目標というのがあり、これを何とかクリアしていこうとしている。しかしこうした ODA増額努力をしても、おそらくお金は足りないだろうと思われており、そこで各国はいろんな

アイデアを出そうとしている。例えば国際金融ファシリティー(IFF)という制度をイギリスが中心になって作ろうとしている。これは各国の拠出コミットメントをレバレッジに債券

を発行してお金を確保しようというアイデアだ。変わった例でいえば、グローバル宝くじを

作ってお金を集めようというものや、温室効果ガスの排出源に税金を課すなど。そういう形

で何とか財源を確保しようと努力している。 そうして集めた資金をどのように提供するのかという際に議論となるのは、グラントでや

るのか、あるいは借款でやるのかという点である。結論から言うと、それぞれに役割がある

ので、どう組み合わせるのかという話になってくる。そこで借款で出すことにどういう効果

があるのか。当然相手国は開発のために色々資金を調達しているのだが、ODAというのは全

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体からみれば極めて限られた資金である。例えば 1990 年代に開発途上国がインフラ整備を行うとき、70%が自国内からの資金だった。25%が民間で、ODAは 5%に過ぎなかった。当然 ODA を増やすとしても、いかに相手国のリソースを導入するかというのが極めて重要な視点である。グラフにもあるように、借款受入れにより相手国の歳入に正の効果をもたらし

ている。要は相手国が自分たちの資金でしっかり返済するという点から、歳入強化の取り組

みを行うことが重要だ。 また、欧米のドナーと話していて思うのは、贈与は確かに重要だが、それだけではいつま

でも贈与から卒業できない。贈与を中心にして取り組んでいても、徐々に借款に移行し、最

終的には民間の資金で行うという連続したプロセスが重要だ。 もうひとつ、安定性の面での議論を紹介したい。1990年代後半に起きたアジア通貨危機の

原因の一つは、短期の民間資金のやり取りの不安定性だったということがある。しかし所得

の低い国では必ずしもそうではない。例えばある国は自分たちの歳入の 30%が無償資金だったとする。この援助は出す側の事情によって出ない場合がある。そうなってしまった場合、

その 30%がまるまるなくなってしまうわけである。こういった不安定性が開発の効果を損なう可能性があるといえる。まさしく円借款の場合には、ひとつのプロジェクトを調達すると、

例えば 5 年といった期間にわたってお金を貸し付けることになるので、安定した開発資金源として機能しうる。かつてアジア諸国の発展を支えたときには、相手国が策定する中期開発

計画と歩調を合わせて円借款を供与することで、成長パフォーマンス、貧困削減パフォーマ

ンスに対して安定的に貢献してきた。 今後借款にどう取り組んでいくかという点に関しては前回一度話をしたのでざっと見るだ

けにしたい。ここでは成長を通じた貧困削減と、直接貧困層にアプローチするものとふた通

りある。我々が借款というものの役割を考えるとき、インフラストラクチャーがどうあるべ

きかというところに行き着く。インフラというのはひとことで言うとネットワークだろう。

例えば電力にしても、発電、送電、配電があってはじめて供給される。これはひとつのネッ

トワークと言える。上水にしても、取水、導水、浄水、配水、給水といったネットワークが

不可欠である。インフラ、サービスにはネットワーク整備が大前提。その際例えば発電所で

あれば民間でできるが、送電線は民間ではなかなか入りづらいような状況では、これらをネ

ットワークで見たとき、公的資金の役割がある。そこで適切な官民パートナーシップの必要

性がでてくるのである。 次に、インフラとMDGsの関係について。インフラがネットワークとして機能して、貧困層にきちっと届いているということがMDGsの実現にとって重要な役割になってくる。これは最近 DAC、国連、世銀などでも言われていることである。ここにあるように、例えば電気が供給されることで冷蔵庫が動きワクチンの保存が可能となることで医療サービスが改善す

るとか、家事労働が軽減されていく。そしてこれが教育の機会を増やしたりする。道路につ

いても舗装されることで、巡回医療なども含めて双方向のアクセスが改善される。このよう

にインフラによって MDGs に書かれている大切な目標にも取り組むことができるわけである。 では借款をどううまく使っていくかというところだが、アイデアのひとつ目として、無償

で実施することでリスクの高いものの実行可能性を確認しつつ、拡大部分を円借款で支援を

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行う。あるいは円借款による支援を通じて、プロジェクトの持続可能性を確保するコストリ

カバリーメカニズムを具備させるということも考えられる。アイデアのふたつ目として、イ

ンフラ事業で、基幹ネットワークを円借款で支援し、ネットワーク接続や孤立した部分を無

償で支援するとともに、共通する政策・制度部分を技協で支援する。あるいはアイデアの三つ

目として、小規模な円借款に、債務管理能力を含めた行政能力の向上に対する無償・技協に

よる支援を組み合わせる。アイデアの四つ目として、引き続き増大する開発ニーズに対応す

べく、オールジャパンとして公的資金協力と民間投資の組み合わせによる支援を行うことが

考えられる。 (JBIC:伊藤)市場のメカニズムがあるいっぽう、ノン・プロフィット、あるいは公的な役割があり、それらのバランスでやっていても手が届かないところを NGO がやる、といった話とも通ずるところがあると思う。質問に移りたい。

(NGO等:日比)円借款が最終的に民間資金を活用するものにつながっていくべきだという説明がされたが、例えば環境問題のように経済モデルに取り込めない、いわゆる外部経済化した

ところに問題があると思う。その辺は先ほどの話ではどこにはいるか。また、MDGsもネットワークだという話があったが、それは逆に言えば、ひとつやれば他のところにも影響が出

る、という意味にもなると思うがどうか。 (JBIC:生島)前者について。いわゆる、貸し付けという考えかた以上のものが援助の円借款にはあると思う。例えば身近な例で言えば、住宅ローンがある。これが 35年のローンであるなら、それは 35年間にわたって消費と貯蓄の交換を行っているということになる。そういう長い期間での資金のやり取りを先進国の人たちは無意識のうちにしている。他方で、開発途上

国の人々の中には「その日暮らし」ということで 1 日での消費と貯蓄の交換しかできない。そうした中で、借款というのは世代間のお金のやり取りを行っているわけである。そうする

と環境問題というのは確かに外部経済だが、世代を超えた問題がある。そう見たときにリタ

ーンが生まれる。そういうものを支えるものとして借款があるというように捉えることがで

きる。 後者については確かにそのとおり。MDGsは 8つあって、どれが原因でどれが結果かというのは分からない。その因果関係をたどれば確かにネットワークだろう。例えば最初の目標

は貧困削減だが、それを達成するためには当然、健康で文化的な生活を営むことが重要で、

そのためには教育や医療がなければならない。そういう意味でネットワークだろうと考える。

―――――――――――――――<休憩>――――――――――――――――― NGO提示の議題 議題 1 環境社会配慮における詳細設計の重要性について

(提案者:メコン・ウォッチ、JACSES、FoE Japan共同) (配布資料「環境社会配慮における詳細設計の重要性」参照) (NGO等:FoE Japan、清水規子)まず背景だが、これまで詳細設計は JBICの事業の環境社会配慮に非常に重要な意味を持ってきた。例えば、道路建設、灌漑用水路建設、洪水制御の堤

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防建設では、詳細設計後にルートの位置及び堤防の幅が確定するが、それによって影響を受

ける住民や影響の範囲が決まるからである。そこでまず、詳細設計をめぐる最近のいくつか

の動きを三団体それぞれ事例として紹介し、その後いくつか質問をしたい。 まず事例1は私から説明する。スリランカの南部ハイウェイ建設事業では、詳細設計後に

被影響住民の数が増加した。簡単に言うと、1999年の被影響世帯数が 816世帯とされていたが、詳細設計実施後の 2002年には被影響世帯数は 1315世帯とされた。このように、同事業では、詳細設計実施後に移転世帯数が大幅に増加してしまった。これに対する JBIC の見解は、詳細設計後にならないと正確な数が分からないから仕方がないというものだった。

(NGO 等:JACSES、石田恭子)JICA で環境社会配慮ガイドラインが今年 4 月に制定された。そのガイドラインを改定する委員会の中で、JBICと JICAが連携して行う詳細設計についての議論も行われた。そこにおいて、「“重要な環境社会配慮確認はあとで JICA の連携詳細設計でできるので、JBICがプロジェクトを行うという意思決定をするに際したとえ情報が不十分な場合でも、円借款の意思決定をしてしまう”という事態は避けなければならない」とい

うことが議論として挙がった。また、JICAのスタッフからも、環境社会配慮ではなくエンジニアリング部分の実施設計調査を行うことが詳細設計の基本ではないかという発言もあった。

実際この 4月に出来上がった JICAの環境社会配慮ガイドラインでは、「JICAは重大な影響が判明し適切な対応が困難と判断される場合は、外務省に対して調査の中止を提言する」と

いう強い姿勢が示されている。すなわちこうした重要な影響が判明し新たな環境社会配慮が

必要になるような場合は、いったん調査を打ち切ることになっている。 (NGO等:メコン・ウォッチ、松本悟)今の JICAの環境社会配慮ガイドラインを実質上最初に適用しているのが、カンボジアの第 2東西回廊と呼ばれる国道 1号線の改修工事だ。日本は無償資金協力を検討しており、事前の調査を JICA がやっている。プロジェクトとしては国道 1号線 50キロ余りを全天候型の四車線道路に改修するもので、約 1800戸の立ち退きが必要である。立ち退き問題に対して、JICA、外務省は、基本設計調査段階で把握した影響世帯の状況をもとに、詳細設計においてはできるだけ影響が小さくなるように細かいルートの確

定をする方針を打ち出している。すなわち、今ある粗い基本設計調査であれば、ある家が 1メートルくらいかかるくらいで立ち退きをさせるということになってしまう場合に、そのル

ートを 1 メートル内側にずらすように詳細設計の段階で何とかならないだろうか、ということである。カンボジアの土地に関する法制度上の問題もあって、それを乗り越えるためにそ

ういう工夫を詳細設計の段階でやろうということで出している。ここで議論したいのは詳細

設計にならないと正確な影響範囲がわからないということは、逆にフィージビリティ調査段

階で判明した環境社会影響を回避・軽減するために、詳細設計をうまく使うことも可能だ、

ということも表していると言えるのではないか。 (NGO等:清水)質問に移りたい。1点目は、道路、灌漑、治水以外のセクターでは、詳細設計によってどの程度設計に変更があり、結果としてどのような環境社会影響が新たに生じるこ

とがあるのか。2 点目は、現在の JBIC のガイドラインでは、詳細設計によって新たに生じた環境社会影響については、回避・最小化・軽減の方法が示されていないが、具体的にはど

のように対応しているのか。3点目は、詳細設計を実施する目的は、JICAの事例にあったように、フィージビリティ調査や環境アセスメントで明らかになった影響を回避・最小化・軽

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減することにあると理解しているが、JBICも同様の認識であるとの理解でよいか。4点目は、現在の JBICのガイドラインには詳細設計に関する記述がないので、JBICの詳細設計に対するスタンスが我々の方からは見えないので、これは大きな問題であると考える。そこで現段

階での詳細設計における環境社会配慮の方針と手続きについて、JBICの詳細設計に対するスタンスを明らかにするという意味でも、ガイドラインの FAQへの掲載を求める。

(JBIC:開発業務部次長、山田順一)質問に対して回答する前に、まず、詳細設計について説明したい。詳細設計はフィージビリティ調査の後に行うものであるが、両者の違いはその精度

にある。例えば、道路の案件であると、フィージビリティ調査は 5000 分の 1 のレベルで、詳細設計になると 1000 分の 1 のレベルで図面を作成する。詳細設計では地質についても100m 毎にボーリングによる地質調査を行う。詳細設計を行う第一の目的は基本的に入札書

類を作ることにある。例えば道路を作るときに、土木工事を行う施工業者を選定するための

国際競争入札をするが、入札に参加するゼネコンは、「ここの道路を作るのにコンクリート何

立米必要」といった量を見積もるといった過程を経て入札書類を策定していく。詳細設計は

こうしたもののためにある。 では質問の 1点目に対してお答えしたい。道路事業においては詳細設計時に 1~2m建設地

を動かすということはありえる。しかし全く異なる代替案のルートを通るということは詳細

設計では予想していない。水力発電所であれば、ボーリングの結果、地質情報等を判断した

上で構造物の位置や水路のルート等が若干変わることがある。火力発電の場合は、フィージ

ビリティ調査において発電出力や敷地面積などが確定し、設計概要もほぼ確定するため、詳

細設計の段階で建設場所が大きく変わるということは承知していない。港湾セクターに関し

ては、例えば浚渫土量が変わったり、港へのアクセス道路のルート変更が多少あったりする

ことはあるが、大きく位置が変ったりすることはない。 次に、質問の 2 点目についてだが、詳細設計が重要だということは我々も同じ認識だ。具体的にどのようにフォローするかということだが、基本的に本行の環境社会配慮ガイドライ

ンに基づいて、EIA を審査することになっている。例えば影響の及ぶ範囲を特定して、環境への影響について確認し、そこで留意事項があれば、モニタリング事項として借り入れ国側

と合意する。例えば道路で 1m、2m建設地が変わることで環境社会的に重要な影響を及ぼす場合などは、モニタリング事項について相手国と合意をするのが通常。相手国は詳細設計の

終了時や、建設工事実施中等、事業実施の各段階においてモニタリングを行い、JBICは借り入れ国を通じてそのフォローを行うことになっている。 質問の 3点目に関してだが、先程詳細設計の第一の目的は入札書類を作ることと説明した。ただし、そこで負の影響があればそれを最小化するということは我々と借入人との間の共通

認識なので、そういった必要が認められる場合は、JBICからプロジェクトの実施者に対して適切な対応を促すことになる。 次に質問 4 点目について、我々は、詳細設計における環境社会配慮の方針と手続きについて FAQへ掲載するということは考えていない。なぜかというと、ガイドライン中のモニタリングの条項においてカバーされていると考えているからだ。借入人を通じてモニタリング結

果の確認を行うということになっているので、我々としてはそこを通じてしっかりフォロー

していきたいと考えている。

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(NGO等:清水)JBICとしては詳細設計で負の影響を回避、最小化、軽減するということか。 (JBIC:山田)そういう可能性があればそれを追求する、ということだ。 (NGO 等:清水)FAQ への掲載をしていただけないということだが、モニタリングを十分しているので改めて FAQにおいて詳細設計について言及する必要はないということだろうか。つまり、あくまでもガイドラインのモニタリングの項目において詳細設計に関しても組み込ま

れているという解釈だろうか。 (JBIC:山田)もちろん我々は審査時に EIA の確認を通じて環境への影響を見るが、そこで留意事項が確認されれば、モニタリング事項として相手国と合意する。その合意に基づいて借

り入れ人を通じてモニタリングを行っているので、現在のガイドラインと照らし合わせて考

えれば JBICとしてはこれで十分だという立場だ。 (NGO等:松本)今の話を聞くと、南部ハイウェイの場合のようなことは考えられないということだと思うので、それは重要だ。ここでひとつ質問したい。JBIC の仕事として L/A に書いているかどうかでレバレッジが決まってくる。しかし今の話はむしろ詳細設計の段階になら

ないと分からなかったことに対してどう対応するか、という話が含まれている。したがって、

L/A なりサイドレターなりで相手国政府と約束したときに予測不可能であったものが詳細設計で出てこないのかどうか、そしてもしも出てきた場合に、改めて相手国政府と交渉して約

束事を作るのか、答えていただきたい。 (JBIC:山田)審査時点で確認された留意点があれば、基本的に L/A、サイドレター等の中に取

り込むことを一般的に行っている。しかし事業を開始してみないと分からないこと、例えば

工事を進めていくうちに遺跡が出てきた、などといった場合にはルート変更をする場合もあ

りえる。このように事業開始後にモニタリング事項が生じた場合、入札書類の承認、入札評

価結果の承認、契約の承認などといった、調達に至るまでの 5 つのステップで確認、同意を行うので、何かあればガイドラインに基づいて、問題点が解決するまで同意を行わない、あ

るいは条件付けで同意をするということもできるので、そういう形で対応している。 (NGO 等:日本リザルツ、宮川)JBIC に限らず、世銀等のプロジェクトを見たことがあるが、これは今の日本のマスメディアも悪いのだろうが、実施段階で悪いイメージが出てくるとこ

ろ、コストのかかるところは見せようとしない傾向がある。それで懸念が広まれば、他の案

件との競争に負けるかもしれないからだ。その地方を開発したい、という善意もあってのこ

とだろうが。 ところがどこの案件だったか忘れたが、世銀、アジ銀などの国際機関になると、日本のマ

スメディアが積極的にはたたかない。あるルートに関して代案を書いた。代案も考慮して、

最低の場合 800世帯の立ち退きがありうるということを前もって書いておいた。ということは、官側ももう少し計画の段階から柔軟な対応をするということを示すことは必ずしも悪く

ない。そういう柔軟な対応を行っていただきたい。それで NGO がぐずぐず言う場合もあるかもしれないが、そこは良いことをやっているのだと堂々としていれば良いだろう。

(JBIC:山田)案件形成の段階から住民に参加してもらい、いくつか選択肢を作り、何らかの形で住民に選んでもらうというのは今後重要だと考える。

(NGO等:清水)2点言いたい。先ほど誤解があったかもしれないが、私が南部ハイウェイに関して出した数字は、最終的なルートを比較したものであるということを強調したい。2 点目

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はこれに関連するが、通常 EIA、フィージビリティー調査(F/S)で出てくる被影響住民と詳細設計の被影響住民でどれだけ誤差があるのか。

(JBIC:山田)そういう統計は取っていない。 (NGO等:アジア太平洋資料センター、長瀬理英)F/Sと詳細設計であまり変更がないというの

に結構大きな驚きを覚えた。その理由は、F/S が行われてから詳細設計が行われるまでの間にある程度年数が経っていて、その間に当然そのプロジェクトの抱えている地域の社会的、

経済的、環境的変化があるのに、あまり変わらないというのはどういうことなのか。 それと、詳細設計になると精度がかなり高くなるのでF/Sとは大きく異なってくることがある。例えば住民移転の問題にしても、本来 F/S で住民移転計画を立てて、移転後の生活再建のための手当てをする費用も見積もり、きちんと経済財務分析を行うべきだが、F/S の段階ではまず行われることはない。詳細設計に行けば移転対象が増えるということもあろうし、

F/S では精査できなかった部分もかなり出てくると思う。その意味で詳細設計では大きく変更することがむしろ多いのではないか。

(JBIC:山田)1点目のコメントについてお答えしたい。変化がないというのはあくまでも技術面での話で、例えば設計ルートや構造物については F/S と詳細設計とを比べた場合、通常あまり大きな変化はないと言うこと。2点目のコメントに対してであるが、F/Sから詳細設計まで長期間を有し社会的経済的に大きな変更が生じる場合、IRR の見直しや、運用効果指標、例えば道路を作ったらそこに車が何台通ることになるかといったことについて詳細設計時に

算定し直すことはある。また、そういったものを土木工事が始まる前に中間レビューとして

確認することはある。 (NGO等:長瀬)移転計画などの精度の違いについてはどうか。 (JBIC:山田)国によるが、EIAの中に移転計画を含めているケースもある。 (NGO等:長瀬)それでもやはり FSのレベルと詳細設計のレベルとでは精度が格段に違うと思

うのだが。その違いに詳細設計でどう対応するのか。 (JBIC:山田)基本的には EIA に移転計画が含まれていれば当該計画も含めて審査することになっている。既に申し上げたとおり、詳細設計は主に入札書類を作るためのものであり、そ

の段階で計画にわずかな変更が生じた結果、移転住民の数が若干変わるかもしれないが、大

きな違いが生じるわけではないと承知している。南部ハイウェイ建設事業の件は個別案件の

特殊な事情があったものと思うが、背景の詳細については承知していない。 (JBIC:伊藤)国によって、変化に応じた調査を義務付けているところはある。実際は詳細設計あるいは実施直前に EIA を義務付けて、JBIC もそれに沿って検討をする。ただ、全ての国で段階を追ってルールを設けて実施しているわけではない。そのため実施が途上国側が定め

たルールに則って検討している。その際向こう側のルールが定まっていないこともある。い

ずれにしろ実施する側が当事者であるという認識に基づいて支援成り必要なアドバイスなり

を行っている。 議題 2 非自発的住民移転を伴うプロジェクトへの配慮について

(提案者:FoE Japan、神崎尚美) (配布資料「非自発的住民移転を伴うプロジェクトへの配慮について」参照)

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(NGO等:神崎)非自発的移転の問題はこれまで JBICだけでなく、国際的な金融機関でもよく取り上げられてきた。とくに移転後の生活手段の確保、あるいは生活手段の回復が非常

に難しいという実態がある。具体的にはフィリピンのダムプロジェクトでは、養豚プログラ

ムで飼っている豚のケアにお金がかかるため、結局持続可能ではなかったとか、あるいは農

業をしていた人が移転先で農業を営めず結局もと居住していた地域の近くに戻ってきて農業

を続けるというような事態があったと認識している。このような問題は将来にも起こりうる

可能性が非常に高く、今回は、これまでの個別プロジェクトでの経験を踏まえ、JBICが住民移転に関してどのような対応をしているのかについて、質問したい。例えば世銀では、私の

知るところでは住民移転計画の評価を行ったり、個々のプロジェクトの経験を国別開発戦略

に生かすということも行っていると聞く。 1つめの質問。これまで、移転後に生計手段・収入機会の回復ができてこなかったプロジ

ェクトがいくつもあるが、その理由について JBICの認識を尋ねたい。JBICのオペレーション上の問題があったかどうか、具体的な問題点をお聞きしたい。 次に、移転後の生活の回復がなされていないという個別の教訓を、今後の融資案件で起こ

さないようにするため、行内ではどのように問題を共有し、また、今後の融資案件のオペレ

ーションで活かしていく努力をしているのかお尋ねしたい。 最後に、新ガイドラインでは「生計手段・収入機会の回復」が規定されている。JBICとして、この点を確保するために、今後、どのような点に注意を払っていくのかをお尋ねしたい。

(JBIC:山田)まず、新ガイドラインでは移転住民の生計手段の喪失への対策、つまり、移転前の生活レベルを確保する必要があると考えており、その点については厳密に審査を行う。事

業実施段階におけるモニタリングにおいても、対象住民が生活手段を喪失することとなって

いないかについて確認する。ガイドライン上では、仮に住民や地元の NGO から指摘があった場合も、本行はそれを真摯に受け止めて、相手国に適切な対応を取るように促すこととな

っている。途上国で開発を行う場合、それに関わる損失は最低限にしなければならないとい

うことはよく認識しているし、コトパンジャンのような例からも教訓を導き出している。 (NGO等:神崎)発言の最後の部分についてもう少し聞きたい。例えばコトパンジャンのような教訓を生かすために、JBICが具体的にどういうことをしているのか。

(JBIC:山田)我々は L/A調印前に事業事前評価表を作成の上、公表している。事前評価表には過去の類似案件の評価結果と本事業への教訓に係る項目が含まれており、我々は過去の類似

案件の事後評価結果を 100%持っているので、事前評価表において類似案件で得られた教訓を新規案件にどのように活かすかといったことを確認することにしている。その内容につい

てはホームページで公表している。また、そういった結果は国別に作成している業務実施方

針にも役立てるようにしている。 (NGO等:清水)2点質問したい。1点目は、先ほど山田氏が、生計手段の対策のひとつとして

移転前の生活状況の確認をきちんとしなくてはいけないとおっしゃっていたが、例えばサン

ロケ・ダム事業ではそれがなされていなかった。現在では、全ての事業において移転前の住

民の生活状況の確認をきちんとしていると理解してよいか。2 点目だが、L/A 調印前の事前評価表は IFO(国際金融等業務)でも作成されているのか。住民移転に伴う問題は何も ODA案件だけではなく、IFOでも十分起こりうることである。

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(JBIC:山田)質問の 1点目について、新ガイドラインに沿って考えれば、移転前の生活状況も確認しなければ、移転後に改善または回復したかはわからない。ただし、個別事業において

どうかといったことについては全て承知している訳ではない。 (JBIC:金融業務部企画課課長、三宅真也)基本的には IFO では過去問題が生じ、解決が図らなければならないということがあり、教訓を得る機会だった。営業の現場でも相当きめ細か

くやっている。その中から是非教訓を導き出していきたいと考えている。 (NGO等:清水)ガイドラインに沿っているのかどうか、きちんと確認しておいて欲しい。 (JBIC:山田)承知した。 議題 3 フィリピン上下水道の民間参入を促進するファンドの設立について

(提案者:JACSES、田辺有輝) (配布資料「フィリピン上下水道の民間参入を促進するファンドの設立について」参照) (NGO 等:田辺)まず 10 月に、フィリピンの上下水道事業への民間企業参入を促すために、

USAID(米国国際開発庁)と共同で 100億円規模のファンドを設立するための覚書を締結することが報道された。これは 2002年のヨハネスブルクサミットや 2003年の第三回の世界水フォーラム等で政府が発表しているものの一環かと理解している。しかし、フィリピンの上下

水道事業における民間企業の参入におけるこれまでの問題例として、JBICが融資した「アンガット給水拡大事業」という民間委託事業がある。UTCEと日本 PFI協会がこのプロジェクトの評価を行っている。 短期的に給水率が上がったり、貧困が削減されたりしたということは評価できると思うが、

その一方で長期的に見て、給水事業に不可欠なメンテナンスや設備への投資等が実際の約束

通り行われていないということを見ても、民営化そのものが果たしてマニラの持続的な水ア

クセスを確保しているのかどうかはなかなか判断できないだろう。評価レポートでも果たし

て民営化が良かったのか悪かったのかということは判断しておらず、フィリピンにおける民

営化を今後進めていく上で重要な教訓について書かれていて、基本的に民営化を進めていく

という方向性で報告が書かれている。こういった不十分な評価に基づいてフィリピンでの水

道事業への民間参入を求めていくのはいかがなものかと考える。 そこで質問だが、1 つめは、案件事後調査に対する第三者からの指摘があった場合、それを新規案件の決定プロセスにどのように反映するのか。

2つめは、本ファンドが投資する上下水道事業の案件は、JBICの環境・社会配慮ガイドライン上ではどう位置づけられ、どのように情報公開されるのか。

3 つめは、上記で指摘したような現状を踏まえ、今後水道事業に民間を参入させるに当たって、どのような課題があると認識しているか。 最後に、上記で指摘したような現状を踏まえ、本ファンドの運用時に、どのような点を重

視するべきだと考えているか。 (JBIC:山田)我々の行っている事後評価では、必ず第三者が評価するか、第三者からの意見を得ている。従って類似の新規案件を実施する際には、第三者による評価を活かしながら実施

するという体制になっている。 2 点目については日経新聞の報道に基づき質問されているものと思うが、記事に言及され

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ていた 100 億円規模のファンドは、今後形成される新規事業のことである。USAID と締結したのは、フィリピンにおける水道セクターの新規案件を発掘するための調査をするという

覚書であり、新規案件が形成されれば新しいガイドラインに従った措置が取られることにな

る。 3 点目は水道事業の民営化についてということであるが、我々は単に水道事業の民営化を進めてフルコストリカバリーがされればそれで良いとは思っていない。例えば貧困層への配

慮という点ではある程度、政府が補助金を出す仕組みも必要であるといった点について世銀

とも話し合っている。世銀もそういった点については理解を示し始めていて、フルコストリ

カバリーを求めることが現実的でない場合は、そこまで追求しないような考え方となってき

ている。 4 点目のモニタリングの点について回答したい。勿論我々は新規案件が形成される場合はガイドラインに従ってモニタリングを行うということになる。ファンドの場合は、立ち上げ

段階でサブローンの内容が決まっていない場合もあり得る。その場合はガイドライン上、FIというカテゴリーが適用されることとなり、サブプロジェクトが決定される段階で EIAを確認の上モニタリングを行っていくということになる。フィリピンではEIAが公開されており、また、我々も通常円借款案件の EIAを公開対象とするよう相手国に働きかけているので、本件についても EIAを公開するという前提で考えている。

(NGO等:田辺)やはり評価をする際、評価者の選定で独立性を保持して欲しい。ガイドラインにも代替案も含めて検討するとされているので、代替案が検討できるような評価者の選定を

考慮して欲しい。 (JBIC:山田)そのように努力したい。ただ、NGO からも民営化であればどういうようなスキームが良いのか我々が参考とさせて頂けるような提案を頂きたい。反対のための反対を行う

だけではなく、NGOの方からも、例えば今日説明したような提案型調査や発掘型調査という形でご提案を頂ければ、我々もそれを参考として良いプロジェクトにしていきたいと思う。

(JBIC:伊藤)民営化ができればよいのだが、最終的にはしわ寄せは地域の人が受ける、ということに問題意識があるわけだ。それについては世銀も分かってきている。ただし、補完する

のはおそらく現地政府だろう。そうなると政府としては大変な財政負担になり、益々赤字が

増えて、マクロ的な信用をなくし、開発が遅れていく。その改善策を求めなければならない。

そのときにやはり市民社会の支援なりアドバイス、日本の場合はローカルな活動をしている

地方公共団体とタイアップして途上国にもそういったアドバイスをして力をつけていっても

らう、ということが日本のできる国際協力だろう。自治体と共にできることをやる。そうい

うことを政府としては提案を頂いて、我々もファイナンスをつけてやっていきたいと思うの

で、是非ご理解いただきたい。 議題 4 気候変動抑制に貢献するための国際協力銀行の取り組みについて

(提案者:グリーンピースジャパン、中島正明) (配布資料「気候変動抑制に貢献するための国際協力銀行の取り組みについて」参照) (NGO等:中島)現在、気候変動問題が大きな課題として上がってきている。「京都議定書」は、

来年の 2月 16日に発効する見込みとなっている。そして、日本国内外において同議定書の目

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標達成のための整備が急速に進められ、また京都議定書第一約束期間以後の将来の制度設計

においても、議論が活発化しているところである。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)や米海洋大気局(NOAA)などが、この傾向は今後さらに悪化するとしており、気候変動対策は待ったなしの状況だと思っている。 また、アジアの国々の排出が今後伸びていくといった中で、JBICは、エネルギー開発につ

いて自然エネルギーと省エネルギーを推進していこうといったポリシーはないのではないか

と思われている。12月 1日に設立された「日本温暖化ガス削減基金」も、あくまで CDM事業によって発生するクレジットである認証排出削減量(CER)の獲得という日本の削減を軽減するメカニズムを利用したものに過ぎず、全体的な排出量は減らない。 今後はこの基金以外にも温暖化問題に対処していくための方策があるのかどうかを伺いた

い。 (JBIC:三宅)我々も内外で非常に関心の高まってきた重大な問題だという認識を持っており、

今後の取り組みのため、そうした議論を積極的にフォローしているところだ。具体的には、

国連環境計画が主催した再生可能エネルギー促進のための公的輸出信用活用に関するワーク

ショップというものに参加したり、あるいはヨハネスブルグ・サミットにおいてワークショ

ップを開催したり、あるいは OECDの輸出信用アレンジメントに関する会合や DACといったところでも、日本政府を通じて、その重要性に関する認識を示しているところだ。 あと現在、業務運営評価制度というひとつの枠組みを持っており、その中で業務方針とい

うものを設けている。この業務方針の中では、地球規模問題の改善を掲げている。このよう

に銀行の方針としてやっていかなければいけない問題として位置付けている。 個別の業務でも、国際金融等業務の関係では、日本の事業者が海外で事業展開する際に利用

する投資金融の融資条件の優遇対象として、環境分野を設けていている。また、海外経済協

力業務では、ODA 大綱、ODA 中期政策を踏まえつつ、海外経済協力業務実施方針の重点分野の一つとして地球問題への対応を掲げている。実際の成果という点で意見、指摘はあろう

が、問題の重要性を認識しているので、引き続き積極的に取り組んでいきたいと考える。 (NGO等:中島)結果的に資源エネルギーの方に向けていないので、今後議論をしていって欲しい。

(JBIC:山田)結果として現れていないというが、昨年承諾した円借款について言えば、57%が環境案件だ。エジプトの風力発電とか、インドネシアの地熱発電とか、中国・インドにおけ

る植林事業など、わたしはやりすぎだと思うくらい結果に十分顕われていると見ている。 (NGO等:中島)そうは思わない。それに風力発電の方は ODAを使って CDMをやるという方向で進んでいて、それは問題だと思う。引き続き意見交換していきたい。

(JBIC:三宅)もちろん、十分か不十分かというところは認識の問題もあるが、事柄の重要性を考えればいくら積極的にやっていってもやりすぎるということはないということだろう。因

みに、国際金融等業務では、例えば地熱発電だとかといったプロジェクトについて取り上げ

たり、あるいは日本が持っている省エネ支援技術を活用するものなどを支援することも考え

ている。 (NGO等:神崎)自然エネルギー融資へのターゲット目標をしている国がある。JBICとしてそういう数値目標は予定しているか。

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(JBIC:三宅)そういった機関のその後の議論や成果について情報があれば教えて欲しい。しかしながら、いずれにしても、具体的な方策がないまま何らかの数値目標だけを設定しても、

あまり意味をなさないと思うので、やはり我々が現在具体的に持っている能力で何ができる

のかということを考えないといけないと思う。 (NGO等:日比)2点質問したい。投資される事業のポートフォリオをどう考えるのか。あるいはどういう手順で決定していくのか。新聞によると、別会社を作って、そこがファンドの管

理運営を実施すると聞くが、具体的にポートフォリオの構築を含めたファンドの意思決定や

ガバナンスは、どのような仕組みで行われ、また JBICとしてどのように関わるのか。 (JBIC:三宅)手元に資料を用意していないので詳細について言うことは控えたいが、指摘の通り、新会社は、JBICのみならず、日本政策投資銀行、それから民間の会社の共同出資で作るということなので、新会社の運営については、JBICとして主体的に関与しつつも、あくまで一出資者として関わっていくことになる。

(NGO等:日比)これをもって閉会にしたい。 (JBIC:伊藤)NGOの世話役の方々と NGO-JBIC定期協議会をどうしていくかということを考えてきた。なかなか結論は出ないが、内容については NGO、JBIC双方が作っていくものだ。そう意味でこれからもアイデアをもらって、こういった場を通じて理解と透明性と、共同を

強化していきたい。

―――――――――――――――<閉会>―――――――――――――――――

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