三井化学 次世代工場構築への道...工場管理 2019/10 67 スペシャルレポート...

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Vol.65 No.11 工場管理 66 自動車住宅からさまざまな生活用品など、学素材たちの日常のありとあらゆる分野でそ 機能発揮している。るものとしてはプ ラスチックが第一げられるが、につかない 力持ちの化学品数知れない。エレクト ロニクスにはかせない半導体もレジストなど学品なしには製造できない。 一方化学品高温高圧生産するものがなくない。可燃物危険品うケースもあ り、生産現場での安全対策より優先されるだ。2012 年瀬戸内海沿岸きたつの化学工 きな事故化学産業関係者震撼させた。 専門家による事故調査委員会報告け、当事 者企業現場重視安全対策をさまざまな角度じている。 そのとなるのが人材育成技術伝承だ。 一方で 2007 からまった団塊世代退職はほ 一巡し、中途入社め、生産現場では大幅若返っている。世代へ、安全安技術えていくと同時に、生産事業としての みを世代交代いていくことも化学企業 きな課題だ。モビリティ、ライフサイエンス、 環境中心成長市場へのシフトを可能にする加価値製品づくりも“”の要素して いる。 さらに次世代工場、スマート工場づくりを目指 し、IoTを使ったしい発想づく工場運営取組みも必須のテーマだ。産業活動になくてはな らない素材供給する化学企業、こうした合的課題にどうもうとしているのか。 2012 事故当事者であり、その現場でもあ 三井化学岩国大竹工場安全保安出発点 として、また生産活動面では世界拠点としてマザ 工場役割う。同工場取組みから化学産 る(写真)。 独自性発揮する化学製品群 ポリメチルペンテンポリマー(TPX)、ハイゼッ クスミリオン、ルーカント、ハイワックス。三井 化学るモビリティ、食品包装分野使われ 製品一部だ。岩国大竹工場主力製品でもあ る。TPX は耐熱性耐薬品性などにれる最軽量 樹脂。FPC の離型フィルムやゴムホースマンドレ ル、ラップフィルムなどに使われる。自社触媒 技術年産3,000 t を岩国大竹工場生産する。 三井化学同製品世界唯一製造販売企業でも ある。バッテリーのセパレーターや高強度繊維使われるハイゼックスミリオン、自動車用潤滑油 写真1 三井化学 岩国大竹工場全景 三井化学 次世代工場構築への道 (上) スペシャルレポート / 挑戦する化学メーカー

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Page 1: 三井化学 次世代工場構築への道...工場管理 2019/10 67 スペシャルレポート 挑戦する化学メーカー 三井化学 次世代工場構築への道(上)

Vol.65 No.11 工場管理66

 自動車、住宅からさまざまな生活用品など、化学素材は私たちの日常のありとあらゆる分野でその機能を発揮している。目に映るものとしてはプラスチックが第一に挙げられるが、目につかない縁の下の力持ちの化学品も数知れない。エレクトロニクスには欠かせない半導体もレジストなど化学品なしには製造できない。 一方で化学品は高温や高圧で生産するものが少なくない。可燃物や危険品を取り扱うケースもあり、生産現場での安全対策は何より優先される分野だ。2012年瀬戸内海沿岸で起きた3つの化学工場の大きな事故は化学産業関係者を震撼させた。専門家による事故調査委員会の報告を受け、当事者企業は現場重視の安全対策をさまざまな角度で講じている。 その核となるのが人材の育成、技術の伝承だ。一方で2007年から始まった団塊の世代の退職はほぼ一巡し、中途入社を含め、生産現場では働く世代が大幅に若返っている。若い世代へ、安全・保安技術を伝えていくと同時に、生産事業としての強みを世代交代の中で磨いていくことも化学企業の大きな課題だ。モビリティ、ライフサイエンス、環境を中心に成長市場へのシフトを可能にする付加価値の高い製品づくりも“人”の要素が増している。 さらに次世代工場、スマート工場づくりを目指し、IoTを使った新しい発想に基づく工場運営の取組みも必須のテーマだ。産業活動になくてはならない素材を供給する化学企業は今、こうした複合的な課題にどう取り組もうとしているのか。

 2012年の事故の当事者であり、その現場でもある三井化学の岩国大竹工場。安全・保安の出発点として、また生産活動面では世界拠点としてマザー工場の役割を担う。同工場の取組みから化学産業の今を見る(写真1)。

独自性発揮する化学製品群

 ポリメチルペンテンポリマー(TPX)、ハイゼックスミリオン、ルーカント、ハイワックス。三井化学が誇るモビリティ、食品・包装分野で使われる製品の一部だ。岩国大竹工場の主力製品でもある。TPXは耐熱性、耐薬品性などに優れる最軽量樹脂。FPCの離型フィルムやゴムホースマンドレル、ラップフィルムなどに使われる。自社の触媒技術で年産1万 3,000 tを岩国大竹工場で生産する。三井化学は同製品の世界唯一の製造販売企業でもある。バッテリーのセパレーターや高強度繊維に使われるハイゼックスミリオン、自動車用潤滑油

写真1 三井化学 岩国大竹工場全景

三井化学次世代工場構築への道 (上)

スペシャルレポート /挑戦する化学メーカー

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工場管理 2019/10 67

スペシャルレポート 挑戦する化学メーカー 三井化学 次世代工場構築への道(上)

や工業用潤滑油の添加剤に使われるルーカント、天然ワックスと比較し、熱・耐薬品性に優れ、樹脂の顔料分散剤や印刷インキの耐摩耗性向上剤として欠かせないハイワックス(ポリオレフィンワックス)は、いずれも自社技術がベースとなる。 三井化学は現在、モビリティ、ヘルスケア、フード&パッケージングを成長事業領域とし、新たなユーザー価値の創造を目指す。岩国大竹工場はこうした三井化学の事業戦略を自社技術の開発・量産の出発となる工場として生産事業の核をなす。また三井化学が基盤素材事業と位置付ける高純度テレフタル酸(PTA)、PTAを原料とするPET樹脂ではタイやインドネシアに展開する海外拠点のマザープラントとしての役割を果たす(写真2)。

日本の石油化学発祥の地

 岩国大竹工場の歴史は古い。三井化学の前身である三井石油化学が設立されたのは1955年。石田健初代社長が独マックス・プランク研究所のカール・チーグラー博士が開発したポリエチレン製法技術を当時の資本金2億 5,000万円を大きく上回る4億 3,200万円で導入、石油化学事業の礎を築く。3年後には岩国大竹工場が日本初の総合石油化学工場としてエチレンプラント、ポリエチレンプラント、さらには芳香族製品のフェノール、テレフタル酸の設備を完成、運転を開始する。58年には日本初の高密度ポリエチレンを工業化、さらに66年にはプロピレンの主力誘導品であるポリプロピレンの新触媒を開発するなど、日本の石油化学工業を引っ張ってきた。

 岩国大竹工場は山口県(和木町・岩国市)、広島県(大竹市)にまたがる(写真3)。岩国工場は用役・原料供給を受けるJXTGエネルギーと隣接、大竹工場はダイセル、日本製紙と隣接し、蒸気を中心に用役の融通や原料調達などを行っている。敷地面積 95万m2、2019年6月現在、製造部門約500名、研究部門約 120名、間接部門約 220名、合計約 840名が従事する。市原工場(千葉県)、大阪工場(大阪府)、名古屋工場(愛知県)、大牟田工場(福岡県)と並ぶ、三井化学の国内主力5工場の一角を占める。 同社の2018年度の連結売上高は1兆 4,829億円。国内売上高比率は約5割(55%)。工場従業員1人当たりの売上げは製造業の中でも化学産業は群を抜く。三井化学岩国大竹工場も同様だ。売上げの原資はプラントだ。プラント規模を問わず、原料、燃料がコストの大半を占める。人件費の比率は組立産業などに比べて低い。だが、そのプラントをいかに安定的に効率良く動かし続けるか、また、リスクをミニマイズし、プラントトラブルを未然に防ぐか、さらに開発製品の量産化をスムーズに立ち上げるか、全社収益を左右する要素は工場が握っている。人の育成、培われたノウハウの伝承が工場運営の根幹を成す。

研究開発と製造の一体化推進

 「岩国大竹工場はR&Dと一体になった機能製品、基盤素材製品の生産・技術の拠点として、安全文化と革新を追求する組織文化の醸成を継続し、保安防災、生産、技術の強化」を目指すと語るの

写真2 PTAプラント 写真3 岩国大竹工場は2県にまたがる