『成功事例から探る徳島の活性化』’論/5卒論...1 はじめに...

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甲南大学 マネジメント創造学部 2013 年度 卒業研究プロジェクト 指導教員 佐藤治正 『成功事例から探る徳島の活性化』 11081026 大塚拓人

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Page 1: 『成功事例から探る徳島の活性化』’論/5卒論...1 はじめに 地方はおもしろい。私は地方と呼ばれる地域や離島を訪問し、素直にそう思った。18

甲南大学 マネジメント創造学部

2013 年度 卒業研究プロジェクト

指導教員 佐藤治正

『成功事例から探る徳島の活性化』

11081026 大塚拓人

Page 2: 『成功事例から探る徳島の活性化』’論/5卒論...1 はじめに 地方はおもしろい。私は地方と呼ばれる地域や離島を訪問し、素直にそう思った。18

~目次~

はじめに

1.地方の現状

1-1 地方財政

1-2 人口減少、少子高齢化

2.地方の活性化に向けて

2-1 政府の施策

2-1 自立の必要性

3.成功事例

3-1 島根県隠岐郡海士町

3-2 三重県伊賀市

3-3 高知県安芸郡馬路村

4.徳島について

4-1 徳島とは

4-2 財政状況、人口減少、少子高齢化について

4-3 とくしまサテライトオフィスプロジェクト

4-4 葉っぱビジネス

5.徳島の活性化

おわりに

参考文献

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1

はじめに

地方はおもしろい。私は地方と呼ばれる地域や離島を訪問し、素直にそう思った。18 年

間生きてきた故郷徳島県よりも小さな町の住民が、存続のために必死に活動しているので

ある。町が財政破綻寸前でも、たくさん人口が流出したとしても、町にあるものや自らに

できることを考え行動することで、地域が活性化させられる現実を学んだ。訪問するまで、

地域活性化といえば主に行政が行っているものであると考えていたが、行政の力だけでは

難しく、民間と共同で地域活性化は実現されていることに驚いた。また、徳島から関西に

出てきて、「徳島って何があるの」、「徳島って何が有名なの」と聞かれる機会が多くある。

人々は、地方に興味・関心があるように思えたが、地方について知らないことがわかった。

最近では、地方活性化の成功事例が出てくるようになる等、地方も努力を重ねているので

ある。

そこで、地域活性化が必要な地域の特徴や現状について深く調べ、地方活性化について

もっと知りたい、もっと地方のことをみんなに知ってもらいたいと思い、卒業論文として

地域活性化について書こうと考えた。

第 1 章では、地方財政、地方の人口減少や少子高齢化の問題について、2 章では政府が

地方活性化のためにどのような施策を行っているのかを述べていく。また、3 章では3つ

の地域活性化の例を挙げ、各地域の特徴について分析を行う。さらに、4 章では徳島の現

状を述べ、5 章では徳島の活性化について意見を述べる。

1.地方の現状について

1-1.地方財政

地方財政は厳しい状態にある。地方財政とは、日本全国約 3300 の地方公共団体の財政

図 1 国税と地方税の推移

出典:総務省(参考文献2)

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の総体で、地方公共団体のほとんどが財政力の弱い市町村である。図 1 を見ると、地方財

政全体の地方税1は平成 19 年度から減少している。地方税は地方財政の歳入の約 4 割を占

め、地方財政にとって重要な自主財源2の1つである。しかし、都道府県単位で見て自主財

源で歳出を賄えているのは東京都だけで、ほとんどの地方自治体が政府からの補助金で歳

出を賄っているのが現実である。政府の補助金は 2 種類ある。地方交付税交付金3と国庫支

出金4の2つだ。

地方交付税交付金は国庫支出金と異なり、使途が決められていないために地方自治体に

とってはとても貴重な財源である。図 2 を見ると、平成 19 年以降、地方交付税交付金は

年々増加していることがわかる。平成 25年度の地方交付税交付金の額は 8兆 4千億円で、

平成 25 年度の日本の国家予算の約 1 割が地方に支払われていることになる。地方交付税

交付金は地方自治体にとってはなくてはならないものであり、地方自治体は依存している。

地方財政において、自主財源が財源全体に占める割合は年々減少しており、平成 23 年度

は 59.4%である。さらには、生活保護負担金などの地方交付税交付金や国庫支出金が増え

ているため、地方財政において一般財源が占める割合は今後さらに上昇すると見られてい

る。各地方自治体はさらに補助金に依存しているのが現状で、自主財源を増やして自分た

ちの力だけで財政を運営していこうという思いが薄れている。

1地方自治体がかける税金で、道府県税と市町村税と分かれ、さらに一般的に経費にあてるため

の普通税と、特定の費用にあてるための目的税とに分かれる。 2地方公共団体の財源の政府に依存せず独自に調達できるもの。地方税、手数料・使用料・寄付

金など。 3日本の財政制度。 国が地方公共団体の財源の偏在を調整することを目的とした地方財政調整

制度。基準財政需要額-基準財政収入額で求められる 4 国が使途を特定して地方公共団体に交付する支出金の総称。国庫負担金、国庫補助金、

国庫委託金などがある。一般に国庫補助金ともいわれる。

図 2 地方交付税等総額の推移

出典:総務省(参考文献4)

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図 3 の島根県隠岐郡海士町の平成 21 年度における歳入を見ると、国からの補助金に依

存していることがわかる。歳入のうち約 70%が地方交付税交付金と国庫支出金で占められ、

自主財源はわずか 10%である。このように、日本の田舎では、十分な税収を得ることがで

きていないのが現実である。そのためにも、地方自治体は財政的に自立できるように、人

口増加、雇用の創出に努めるべきである。

これまでほとんどの地方自治体が地方交付税交付金をもらっていると述べてきたが、表

1 をみると全国約 3300 ある地方公共団体のうち地方交付税交付金を受け取っていない団

体が 55 存在する。地方交付税交付金をもらっていない都道府県は東京都だけで、55 の地

方交付税不交付団体のうち 54 は市町村である。地方交付税不交付団体として挙げられる

団体は、大きく 3 つの特徴に分けることができる。東京近郊の人口が集中している地域で

あること、大企業があること、原子力発電所や空港があることだ。人口が集中している地

域においてはたくさん住民税を得ることができ、大企業がある地域は法人税と住民税を得

ることができる。原子力発電所や空港が所在する地域には、国から有提供施設等所在市町

村助成交付金等が与えられる。そういった理由で、54 の団体は地方交付税無しで財政を運

表 1 地方交付税不交付団体一覧

出典:総務省(参考文献7)

図 3 島根県隠岐郡海士町の歳入の割合

出典:広報海士(参考文献6)

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営していけるのである。

平成 15 年からは、都市と地方の財政格差是正のため小泉内閣による三位一体改革がス

タートした。三位一体改革には 3 本の柱がある。国庫補助負担金5の廃止及び削減と地方交

付税の一体的な見直し、そして税源移譲6の 3 つである。税源移譲では、政府は税金を地方

に集めることで地方財政を改善しようと試みたが、現在でもほとんどの地方公共団体が自

主財源で賄えていない。図 3 を見ると、自主財源比率7が 50%を超える都道府県は 10 しか

ないことがわかる。政府も地方財政の改善に努めているが、地方財政の状況は厳しいもの

である。

1-2.人口減少、少子高齢化

昨今、日本全体で人口減少と少子高齢化が深刻な問題となっている。はじめに人口の減

少について述べる。図 4 を見ると、日本の総人口は平成 22 年 5 月現在、約 1 億 2700 万

人で、平成 12 年よりほぼ横ばいで推移してきた。しかし、国立社会保障人口問題研究所

は、平成 37 年には1億 2,000 万人を割り込むと推計しており、今後、人口減少がさらに

進行していくと考えられている。また、地方圏は都市圏より人口が減少している。図 4 か

らわかるように、昭和 45 年以降三大都市圏8および東京圏の人口の総人口に占める割合が

増加し続けている。一方で、三大都市圏以外の地域の割合は減少している。日本全体で人

5国の予算のうち地方で使うお金のことで、国庫補助金と国庫負担金の二つの支出金のこと 6 地方分権を推進するための三位一体改革の一環で、国税である所得税を減らし、地方税

の住民税を増やすことで 3 兆円の財源を地方に移した。 7地方公共団体が自主的に収入しうる財源(地方税・分担金及び負担金・使用料・手数料・

財産収入・寄付金・繰入金・繰越金・諸収入がこれに該当する。)の歳入総額に占める割合。

東京都 87.6%、大阪府 67.5% 8 日本の三大都市の都市圏である首都圏・中京圏・近畿圏の総称

図 4 人口・生産年齢人口割合等の推移

出典:総務省(参考文献9)

図 5 三大都市圏及び

東京圏の人口が総人口に占める割合

出典:総務省(参考文献10)

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口が減少しているにもかかわらず、三大都市圏および東京圏の人口が総人口に占める割合

が増加し、三大都市圏以外の地域の割合は減少しているため、地方の人口は減少している

のである。

次に少子高齢化9について述べる。日本において人口減少と共に少子高齢化は深刻な問題

となっている。少子高齢化の原因は2つ。合計特殊出生率の低下と、高齢者率の上昇であ

る。はじめに合計特殊出生率の低下について述べる。図 6 を見ると、昭和 50 年以降合計

特殊出生率は低下し続けてきた。平成 17 年には過去最低の 1.26 を記録したが、徐々に回

復し、平成 24 年には 1.41 となった。一方で、高齢者率10は上昇している。図 6 を見ると

平成 22 年には 23%に達し、今後も上昇し続けると見られている。また、平成 25 年には高

齢化率が 25.1%で 4 人に 1 人となり、平成 47 年には 33.4%で 3人に 1人となる。合計特

殊出生率は低下し、高齢化率が上昇により、日本はますます少子高齢化社会となっている。

特に、地方では高齢化率は高いのが現状である。

2.地方の活性化に向けて

2-1.政府の施策

地方の現状は厳しい。人口が減少し、学校や病院などの暮らしを支える施設が維持でき

なくなるなど、福祉サービスが低下している。さらには、コミュニティが無くなることに

より、地域間での交流が欠如している。さらには、若者は住みにくくなり、流出し、少子

高齢化が進んでいくのである。地方では、高齢者の割合が多く、福祉サービスにたくさん

お金を出している一方で、若者が少なく税収入が少ない。結果、政府からの補助金に頼ら

9 出生率の低下により子供の数が減ると同時に、平均寿命の伸びが原因で、人口全体に占

める子供の割合が減り、65歳以上の高齢者の割合が高まることをいいます 10 65 歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合。

図 6 合計特殊出生率の推移(1975~2011)

出典:日本のネタ帳(参考文献11)

図 7 高齢化の推移と将来推計

出典:内閣府 平成 24 年度版 高齢社会白書

(参考文献12)

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ざるを得ない状況になっている。

このような厳しい地方の現状を改善するために、政府は平成 17 年に地域再生法11を制定

し、それに基づいた地域再生制度12がスタートした。地域再生制度により、地域再生計画

を作成し、国の認定を受けることで、特別の措置を受けることができる。特別の措置は、

地域再生基盤強化交付金13の交付、補助対象財産の転用承認手続きの特例、課税の特例の

3つである。地域再生を行うに当たって、政府はこれまでのような政府主導の取り組みか

ら、地方が主導となって地域再生を進めていくやり方にシフトした。

地域再生計画の主体には、様々な団体や組織、個人がなることができる。図 8 を見れば

わかるように、地域再生計画の作成は地方公共団体でなければならないが、民間企業や

NPO、個人等が主体となることができる。地域住民の声に耳を傾け、意見を汲み取り地域

再生につなげることがこの仕組みの狙いとしている。地方公共団体が作成した地域再生計

画は内閣府地域活性化推進室14に申請され、審査される。審査基準は3つ。地域再生基本

方針15に適合するものであること、地域再生計画の実施が地域における地域再生の実現に

相当程度寄与するものであると認められること、円滑かつ確実に実施されることが見込ま

11 地方公共団体が行う自主的かつ自立的な取り組みによる地域経済の活性化、地域におけ

る雇用機会の創出その他の地域の活力の再生を総合的かつ効果的にする。 12地域再生制度は、急速な少子高齢化の進展、産業構造の変化など、社会経済情勢が大き

く変化している情勢の中、地域の活力を再生する目的で創設された制度です。 13 地域再生計画に基づき、地域の経済基盤強化や生活環境の整備などのために活用される。 14総合特区や構造改革特区、地域再生制度、環境未来都市等を推進することによって、地

域の自主的、自立的な地域活性化に向けた取組を支援する。 15地方公共団体が行う自主的かつ自立的な取組による地域経済の活性化、地域

における雇用機会の創出その他の地域の活力の再生(以下「地域再生」という。)

を総合的かつ効果的に推進するため、地域再生法(平成 17 年法律第 24 号。以

下「法」という。)第4条第1項に基づき、政府における施策の推進を図るため

の基本的な方針。

図 8 地域再生計画の提案募集・計画認定の仕組み

出典:地域再生本部 - 首相官邸(参考文献13)

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れることの 3 点である。支援措置の提案についても、地方公共団体や民間企業、個人や

NPO も行うことができる。内閣官房地域再生推進室が各省庁と調整し、支援措置が施行

される。平成 25 年 11 月までで合計 1648 件の地域再生計画が認定された。

地域再生計画のうちの一つが、新潟県岩船郡粟島浦村の「島全体が学びの場。学び方、

働き方、暮らし方を学ぶ場として、地域が変わる。~教育の島 粟島プロジェクト~」で

ある。1 島 1 村の粟島浦村は、新潟県の北西部に位置し、人口 350 人の漁業と観光業が主

要産業の村である。しかし、魚価16と観光客数がピーク時の半分以下まで落ち込み、担い

手が不足するとともに、就業者の高齢化が進んでいる。さらに、島に高校がないため子供

たちは中学卒業後に島外へ出ていき、雇用のない島には戻ってこない。結果、粟島浦村の

高齢化率は 50%となってしまった。粟島村は水産加工という新たな分野に進出することで

この状況から抜け出そうとした。水産加工の進出には 2 つの狙いがある。漁業への若者の

就業促進と、体験観光や野外キャンプ等の滞在型プログラムの提供である。これらの取り

組みにより、雇用の拡大と観光者数の増加を狙う。

地方再生制度と併せて地方再生のために設立されたのが構造改革特区制度17である。あ

らかじめ限定した地域において、取り組みの妨げとなる国の規制を緩和することで、地域

再生の実現を容易にすることが目的である。特徴としては、国からの財政的な支援がない

一方で、特例をつくることで成功事例を生もうとしている。

構造改革特区となっている自治体の一つが香川県内海町である。香川県内海町とは、瀬

戸内海に浮かぶ小豆島の東部に位置する町である。現在は、隣町と合併し、小豆島町へと

名前を変えている。特区制度開始時、内海町は高齢化率 30.9%で、高齢化の進む地域であ

った。また、耕作面積 155ha のうち 121ha が遊休農地や耕作放棄地となっている。内海

町では、小豆島の特産物であるオリーブを核として農業・食品産業・観光業等で活性化を

図っている。

構造改革特別特区の名称は小豆島・内海町オリーブ振興特区で、適用される特例措置は、

農地貸し付け方式による株式会社等の農業経営への参入の容認である。この特例措置によ

り二つのメリットが生まれる。1つ目が、オリーブの増産である。内海町では高齢化の進

展と後継者不足から農業従事者が減少している。一方で、食生活の多様化や消費者ニーズ

16 魚の価格を指すことはもちろんであるが,一般に,鯨,海藻,貝類等を含めた水産物の

価格をいう。魚価は流通段階によって,産地卸売価格、消費地卸売価格,仲卸価格,小売

価格などに分けられる。 17 地方公共団体等の自発的な立案により、地域の特性に応じた規制の特例を導入する特定

の区域を設けることで、経済社会の構造改革の推進及び地域の活性化を図る制度。

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の変化によりオリーブ加工品の需要が急増しているため、オリーブの絶対量が不足してい

るのである。規制緩和による農業従事者の増加でオリーブの増産を狙う。2 つ目は、遊休

農地や耕作放棄地の有効活用である。この特例措置で、株式会社の農業への新規参入を促

進し、それまで使われなかった遊休農地や耕作放棄地が活用され、耕作放棄地の利用とオ

リーブの増産が見込まれる。

構造改革特区により、オリーブ栽培面積は 1997 年の 30ha から 2007 年に 100ha へと

増加した。また、オリーブファームの生葉の使用量は、2002 年の 2000kg から 2007 年は

3345kg へ増加した。さらには、全国で 16 品目しか選ばれていない本物の本場にも小豆島

のオリーブが選ばれている。

平成 25 年 11 月までに 32 回募集し、合計 1212 件認定された。図 9 からわかるように

年々提案数は減少している。現在、アベノミクスの成長戦略として国家戦略特区を構想さ

れている。構造改革特区との違いは、目的である。構造改革特区の目的は、国民生活の向

上及び国民経済の発展である。一方、国家戦略特区の目的は、民間投資の喚起により日本

経済を停滞から再生へ導くことである。構造改革特区においては、地方に力点をおいたう

えで、国民生活の向上及び国民経済の発展を目指している。

2-2.地方再生モデル

地方では人口の減少の進展により、福祉サービスや教育の質が低下しつつある。また、

人口減少、雇用の減少によりますます地方税収入はますます減少する等、地方の現状はと

ても厳しい。そのような厳しい現状を助けるために、政府はお金を集め地方に助成金を分

配してきた。しかし、政府の財政も厳しい現状にあり、地方は補助金頼みの財政運営から

抜け出さなければいけないのである。

表 2 構造改革特区の提案数及び実現数(率)の推移

出典:構造改革特区推進会議「特区提案 1-11 次(事項)データ」及び

内閣官房「構造改革特区に関する当事務局と各府省庁のやりとり」資料

(参考文献13)

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図 9 を見ると、日本政府の財政の厳しさがわかる。平成 25 年度政府予算の収入では、

支出を賄うことができないのである。そのために、公債18を発行することで足りないお金

を補填しているのだ。公債残高は 750 兆円と見込まれており、日本の負債は増加し続けて

いる。一方で、地方も衰退していることから、補助金を分配しなければいけない。そこで、

政府は補助金を与えるだけの支援ではなく、自立支援型にシフトしている。

地方の自立を促進するためには成功事例を増やし、もっと広げていく必要がある。第 3

章では成功事例を 3 つ挙げていく。

3.事例研究

3-1.島根県隠岐郡海士町

島根県の北の沖合 60 ㌔に浮かぶ大小 180 の島からなる隠岐諸島。そのうちの一つであ

る中之島に位置する海士町は、総面積 33.5 ㎢、人口は 2360 人の小さな町で、主要産業は

農林水産業である。承久 3 年に後鳥羽上皇が流刑となり、たどり着いた町としても有名で、

昨年には島前高校魅力化プロジェクトで第 1 回プラチナ大賞にも選ばれた。現在日本で最

も注目されている地域活性化の成功事例である。

海士町は、はじめに地域活性化のために2つのことを行った。海士ブランドの構築と、

人材の育成である。海士ブランドの構築では、海士の特産品を作り、外貨獲得を狙った。

具体的には、いわがき春香、白イカ、隠岐の塩や隠岐牛である。外貨を獲得することによ

り、収入が得られるだけでなく、機械や工場への投資を促進し、さらに町内の雇用を拡大

しようとした。いわがき春香や白イカ流通における離島のハンディキャップを埋めるべく、

18国や地方公共団体が、資金調達のために行う債券の発行又は証書借入れによって負う金

銭債務又はこれに係る金銭債権をいう

出典:日興 AM ファンドアカデミーマーケットシリーズ

(参考文献16)

図 9 2013 年度政府予算

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海士町は 6 億円を投資して CAS システム19を導入した。結果、いわがき春香の売り上げは

1500 万円から 7500 万円に増加したのである。

人材の育成は、はじめに廃校寸前であった隠岐島前高校の学生数増加から始めた。その

ために、平成 21 年から学校の魅力化、隠岐國学習センターの創設に着手した。学校の魅

力化とは、地域起業家的人材の育成に向けた地域資源を活かした教育カリキュラムの導入

や、島留学制度と寮費と交通費一部負担等である。また、隠岐國学習センターとは、大手

企業で働いていた人を集め、高校生たちに夢や町の将来についてのディスカッション等で

人材を教育していく場である。これらの取り組みにより、現在、生徒数 160 名のうちの 4

割が島留学生、昨年は入学者数 59 人中 23 人が島留学生である。

海士ブランドの構築により、海士における雇用は拡大された。さらには、定住促進政策

により、平成 17 年には 44 世帯 96 人の若い U・I ターン者が移住してきた。U・I ターン

者の移住により人口は増加し、島に活気をもたらす。さらには、若者の増加により子供の

数が増加し、高校の活性化につながる。

3-2.三重県伊賀市

三重県伊賀市にはたくさん観光客が集まる伊賀の里モクモクファームがある。三重県伊

賀市は、三重県の北西部に位置する人口約 10 万人の町で、主な産業は稲作で他にも酪農・

畜産、洋ランの栽培も盛んである。伊賀の里モクモクファームでは、地元の銘柄豚である

「伊賀豚」をつかったウインナー作り体験やいちご摘み等の食農体験ができる他、レスト

ラン、直売所、宿泊施設、貸し農園等を設け、現在、年間の来場者数は 50 万人である。

設立前、二人の経営者は農協の職員で、それぞれ豚肉の営業、豚肉の家畜を担っていた。

自分たちが作った豚肉をスーパーや百貨店等の小売りに持っていくと、提示した額の半値

でしか売らないと言われた。国産のブランド豚や安い外国産の豚に負けるのである。そこ

で、これからは品質と味にこだわり、付加価値をつけて、独自のブランドを確立する必要

があると考えた。さらには、生産・加工・流通まで自分たちで行うことで、下請けになら

ない農業を目指した。はじめに、品質と味にこだわり、豚の調理方法や原料を工夫し始め

た。結果、少しずつファンが増加していき、売り上げが増加していった。さらには、モク

モクがウインナーやハムの原料として地元養豚農家の豚を使うために、地元養豚農家が豊

かになったのである。観光客が増加したため、地元の農家が育てた野菜を入り口ゲートの

19従来の冷凍技法による食品の凍結融解に伴う食味の低下を大幅に低減することを可能に

した冷凍技術。

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近で販売し、地元で生産した国産小麦を使ってパンや地元産の大麦が原料のビールを製

造・販売していった。野菜は、農家それぞれが価格を設定することができる。伊賀市全体

の農業の活性化にもつながった。

伊賀の里モクモクファームに観光客が年間 50 万人集まるようになった理由は3つ、「特

色ある商品を作ること」、「農業体験」、「ファン作り」だ。創業当初、バレンタインにハム

をあげようというキャッチフレーズでハムを販売することや、時代に合ったネーミングで

注目を集め、瞬く間に売れることとなった。現在では、伸ばすと 160 センチになるぐるぐ

るウインナーや、切ると中からスープが飛び出すウインナー等の商品を販売することで、

年間売り上げは 50 億円に上る。農業体験の元となったのが、ウインナー作り教室である。

自分で作ったウインナーが食べられるということで大好評であったため、農業体験ができ

るブースを増やしていった。すると、体験する、知る、学ぶ、食べる仕組みが好評で、大

盛況となった。さらに、モクモクネイチャークラブというクラブを作ることでさらに、会

員になった人がたくさん来るようになった。たくさん来てたくさん農業体験をすることで

様々な体験ができるようになる仕組みである。モクモクネイチャークラブの狙いは、ファ

ン作りである。経営者の二人は、消費者は仲間であると考え、自分たちの農業を理解して

くれる人を増やし、共感してくれる農業を目指している。結果、現在では 4 万 2 千人のフ

ァンを抱えているのである。

伊賀の里モクモクファームが盛況になったことにより伊賀市に人がたくさん集まった。

また、地元の農家はモクモクファームに商品を置き、売れるようになった。地元の農業も

恩恵を受け、外貨を獲得できるようになったのである。さらには、伊賀市では雇用が拡大

し、U・I ターン者が増加しているのである。経営者の二人は、モクモクファームのような

成功例が全国に 100 個できれば日本の農業が変わると考え、現在では全国にアドバイスを

するために回っている。

伊賀の里モクモクファームが成功した理由は、たくさんのファンが獲得できたことであ

る。二人の経営者は、消費者は仲間であり、共感してくれる農業を目指した。

3-3.高知県安芸郡馬路村

高知県と徳島県の県境に位置する馬路村が、柚子による地域活性化で全国的、世界的に

注目されている。柚子製品による売り上げは年間 30 億にも上り、さらには馬路温泉やマ

ラソンイベントの開催により、たくさんの観光客が集まるようになった。馬路村とは高知

県の市町村で 2 番目に少ない人口 936 人、面積が 165 ㎢のとても小さな村である。主要産

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業は林業と農業であるが、安価な外材が輸入され始めたことにより、林業は衰退していっ

た。

馬路村が「ゆずの村」として知れ渡るようになった理由は2つ、「ゆず製品のブランド化」、

「販売方法」である。はじめの柚子製品は、100%の天然柚子果汁である。少しずつ購入

され始めたが、長期間の保存が難しいことと利用方法がわからないことの 2 点の理由から、

売れ行きは落ち込んでいった。そこで、すっきりとした味ですぐに飲めるドリンクや料理

に使えるポン酢の開発を始めた。そこで誕生したのが「ごっくん馬路村」と「ゆずの村」

である。特に、「ごっくん馬路村」は、1 本 100 円でとても安い。また、ゆずとはちみつと

水が原料で、余計な添加物が入っていないのが特徴である。さらに、宣伝のためのパンフ

レットや CM には、村の住民がモデルとして登場させ、馬路村ののどかな山里のイメージ

を全国的に発信していった。結果、生産が間に合わないほど購入され、工場を創設し、雇

用も拡大され始めた。

販売方法はとても苦労した。当初は、東京や大阪で開かれる百貨店の物産展へ年間 15

回ほど足を運んでいた。しかし、物産展で販売してもお客さんは馬路村まで来なければ購

入できないのである。また、馬路村は村へのアクセスがとても不便なのである。そこで、

馬路村から離れていても柚子製品が購入できるように通信販売を始めた。現在では、販売

方法の割合の中で、インターネットによる通信販売、直売所での直販売が全体の 35%を占

めている。また、工場とコールセンターと配送センターを集約した施設を建設し、集荷・

広報・販売・クレーム対応まで一挙に受ける環境が整った。これにより、注文から宅配ま

でを円滑かつ迅速にできるようになった。

柚子製品が売れ始めたことにより、少しずつ馬路村のファンが生まれ始めた。四国の中

でも過疎地として知られた馬路村は、全国的に「ゆずで自立を遂げた村」として知られる

ようになり、視察者が増加し、馬路村にある温泉を目的に観光客が尋ねる。現在では、馬

路村ファンを登録した特別村民が 7000 人存在するのである。また、柚子製品のおかげで

雇用が拡大していった。結果、U・I ターン者が増加し、それに併せて村は、村内の結婚・

出産・入学・入村などに補助金を出している。

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3.徳島の現状

3-1.徳島県とは

徳島県は、人口が 76 万人、面積が 4200 ㎢で、四国地方の南東に位置する県である。山

と川と海に面しており、とても自然に恵まれている。特に「四国三郎」の 1 つである吉野

川は四国有数の大河であり、そのほかにも豊かな水量を持つ川に面しているため、水に恵

まれた県であると言える。図 10 を見ると、徳島の産業のうち最も生産額が多いのは製造

業で、次いでサービス業である。製造業は全体の 23%を占め、生産額は 6300 億円となっ

ている。図 11 を見ると、徳島県の出荷額が多い品目がわかる。出荷額の多い上位 3 品目

を生産している企業は、大塚製薬グループ20、日亜化学工業21、ジェイテクト22である。こ

の 3 社のうち、徳島に本社を置く企業は日亜化学工業のみである。平成 24 年度の日亜化

学工業の売上高は 2692 億円で、主要製品の LED23は世界でのシェアは 60%に上る。徳島

県の農業に目を向けると、すだち24の収穫量は日本の 98.4%である。また、徳島県で全国

区の知名度といえば阿波踊りである。阿波踊りとは、徳島県発祥の盆踊りであり、日本三

大盆踊りの 1 つである。毎年 8 月 12 日~15 日の開催日には、演舞場が建設され、全国か

ら約 135 万人の観光客が集まるのだ。また、平成 26 年には徳島県をホームタウンとする

20 医薬品、食料品の製造・販売をしている企業。本社は東京都千代田区神田司町にある。 21 発光ダイオードなどの電子デバイスや蛍光灯などに使われる蛍光体を扱う。以前はスト

レプトマイシンの製造にも携わっていた。 22 トヨタグループに属する機械・自動車部品製造会社 23順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子のことである。1962 年、ニック・ホロニ

アックにより発明された 24 ミカン科の常緑低木ないし中高木。徳島県原産の果物で、カボスやユコウと同じ香酸柑

橘類。名称の由来は食酢として使っていたことにちなんで、「酢の橘」から酢橘(すたちば

な)と名付けていたが、現代の一般的な呼称はスダチである。

図 10 徳島県内総生産額の構成比

出典:参考文献28

図 11 徳島県の出荷品目

出典:参考文献28

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プロサッカーチーム「徳島ヴォルティス」が、J リーグディビジョン 1 に昇格する。「徳島

ヴォルティス」の昇格により、徳島県へ 51 億円の経済効果をもたらすと考えられ、今後、

更なる徳島の活性化が期待されている。

3-2.財政、人口減少、少子高齢化

徳島の財政は政府からの補助金に依存している。徳島県の平成 24 年の歳入の総額は

4720 億円で、全国で 8 番目の少なさである。昭和 55 年以降増加していたが、2001 年以

降、徐々に減少している。図 10 を見ると、平成 24 年の徳島県の歳入のうち依存財源が約

60%、補助金だけでみると約 50%を占めている。また、県税25はわずか 14%となっており、

徳島県の財政は補助金に依存していることが分かる。さらに、徳島県の市町村の財政は厳

しい。例えば、勝浦郡上勝町である。上勝町は、徳島県の中央部に位置する人口約 2000

人の面積 109 ㎢の小さな町である。図 11 を見ると、歳入のうち依存財源が約 80%占め、

町税は約 5%である。さらに、上勝町では人口が年々減少し、高齢化率は約 50%と過疎と

少子高齢化が進む地域である。また、上勝町の歳出のうち総務費を除いて最も割合の高い

項目は、民生費である。人口が減少し少子高齢化が進む中で、今後さらに町税は減り続け、

民生費が増加すると見られている。

また、徳島県では人口が減少し、少子高齢化が進んでいる。はじめに人口減少について

述べる。平成 2 年には人口は約 80 万人でいたが、それ以降、徳島県の人口は減少し続け、

平成 25 年 12月には約 77万人まで減少した。さらに、65 歳以上の高齢者の割合は増加し、

平成 47 年には約 40%にまで達すると見られている。さらに、高齢者の割合の増加に併せ

25 地方税の一つ。県内に居住する者や事業所などに対して県が課する税。

図 12 平成 24 年度 徳島県の歳入

出典:平成24年度徳島県一般会計特別会計歳入歳出決算説明書

(参考文献31)

図 13 平成 24 年度 上勝

出典:広報「かみかつ」2013 年 11 月号

(考文献32)

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て、労働力人口は減少し続けている。出産、労働において重要な若者が減少することによ

り、徳島県はさらに人口減少や少子高齢化が深刻になっていくだろうと考えられている。

徳島県は、今後さらに政府からの補助金に依存していくと考えられる。現在、歳入が減

少し、歳入に占める自主財源の割合は低下している。また、人口は減少し、少子高齢化が

進んでいるため、若者の数が減少し続けていく。自主財源で最も多くの割合を占めるのは

県税で、県税の多くは個人が納める税金で人口の減少と少子高齢化は県税の減少につなが

るのである。結果、自主財源が減少し、補助金に依存しているのである。

3-3.とくしまサテライトオフィスプロジェクト

人口の減少と少子高齢化に歯止めをかけるため、徳島県は名西郡神山町の NPO 法人グ

リーンバレー26と協力し、「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」を進めている。こ

のプロジェクトの狙いは、都会の企業のサテライトオフィスを徳島に誘致することで自然

の中でリラックスしながら仕事をしてもらい、I ターン者に定住してもらうことである。

徳島県は、徳島のインターネット環境の良さに目を付けた。徳島県内のブロードバンド

普及率は 88.5%(全国 1 位)で、全国平均 55.8%に対しても高い水準にある。高いブロー

ドバンド普及率が実現できた理由は、デジタル放送への移行である。徳島県には民放テレ

ビ局が 1 社しか存在しないため、デジタル放送に移行すると近畿の放送が見られなくなる

のである。そのため、徳島県は約 1600 万円を投じて、「全県 CATV 網構想」を進め、ケー

ブルテレビ整備を行った。結果、地上デジタル放送に対応し、徳島県内広域にブロードバ

ンド基盤が整備された。結果、徳島県はブロードバンド普及率が 88.5%となり、「ひかり

の王国」と呼ばれるようになった。結果、現在では、14 の企業(IT・広告業界)が徳島の

田舎でサテライトオフィスを設立している。

14 の企業のメリットは2つ、「自然に囲まれて働けること」、「異なる価値観が得られる

こと」である。サテライトオフィスを誘致している神山町と美波町はそれぞれ自然に囲ま

れている。例えば、美波町では海に面しているため、海辺で仕事ができ、仕事の後にはサ

ーフィンをして楽しむことができる。また、地域の人と地域の外から来た人との間で交流

が生まれ、価値観を共有することができ、新しい発想が生まれる。具体的には、地元の魅

力発見、商品を客観的に見た感想等である。さらには、地元の子供たちは、県外や市街地

26徳島県西部の神山町に本拠を置く非営利活動法人(NPO)。地域経済の活性化・文化の促

進、神山での就職・起業の支援等を行う。最近では、神山に多数存在する古い空家を改築

して、I ターン者の誘致に努めている。

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に出なくても仕事があるため、人口の流出を食い止めることができる。

先の東日本大震災によって、首都圏に企業機能が集中する不安がうまれ、企業は非常時

に備えてリスク分散の模索を始めた。そのリスク分散の方法の 1 つが、地方でのサテライ

トオフィス設立である。地方に企業機能の一片を持つサテライトオフィスを設けることで、

首都圏の本社が大きな被害を受けたとしても、サテライトオフィスでは業務を遂行するこ

とができる。徳島県としては、インターネット環境と自然を生かし、たくさんのサテライ

トオフィス誘致をすることで、人口の減少と少子高齢化に歯止めをかけたい。

3-4.徳島県勝浦郡上勝町

過疎化と高齢化が進むただの田舎である徳島県勝浦郡上勝町27が、葉っぱビジネスによ

り全国から注目を浴びている。上勝町に住む平均年齢 70 歳のおばあちゃんがインターネ

ットを使って葉っぱの収穫から出荷まで行い、年間 1000 万円稼いでいるのだ。

上勝町は過疎化と少子高齢化が進む町で、みかん栽培が盛んであった。しかし、昭和 51

年 2 月の大寒波により町にあるほとんどのみかんの木は枯れ、さらには、オレンジの輸入

自由化が重なってみかん産業は衰退していった。町は壊滅状態に瀕したことで、代替とな

る産業の発展が急務であった。当時、農協で働いていた「株式会社いろどり」の現代表取

締役社長である横石知二さんが、「町に多く住む高齢者でもできる仕事はないか」と考えて

いたところ、町にたくさんある葉っぱに注目した。葉っぱは、料理を華やかに魅せるため

の飾り「妻物」として、料亭等で使われている。その葉っぱを収穫し、梱包し、全国の料

亭等に配送しているのである。

葉っぱビジネスの成功の理由はインターネットを駆使した情報収集と市場予測である。

おばあちゃんたちは日々インターネットでマーケティングを行っている。さらには、各農

家の売上高や売り上げ順位もわかるシステムにし、農家の意欲を刺激したのである。こう

した工夫により、葉っぱビジネスの売上高は 1994 年度に初めて 1 億円を突破し、2012 年

度には 2 億 2902 万円となった。現在、生産農家は 194 件にのぼる。

一方で後継者が不足している。「株式会社いろどり」で働く人の平均年齢は 70 歳。高齢

者の活き活きと働く姿を見て、I ターン者が増加している。また、平成 22 年度から内閣府

による地域密着型インターンシップ研修事業が始まり、全国各地から来た 236 人の研修生

が共同生活しながら「葉っぱビジネス」を体験した。平成 23 年には転入者が前年度から

27徳島県の西部に位置する勝浦郡上勝町。上勝町には四国で一番少ない約 2000 人が住む。

高齢化率 49.5%で、過疎化と高齢化が進む町である。

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16 人増の 72 人となり、平成 24 年には映画化され、さらに脚光を浴びることとなった。

5.徳島の再生

今章では、3 章で述べた成功事例をもとに徳島の再生方法を探っていく。3 つの成功事

例を見ると、共通して「ブランドの構築」、「ファン作り」に力を入れ、地域活性化におい

て重要であることがわかった。海士町では、いわがき、白いか、隠岐牛等、伊賀の里モク

モクファームでは伊賀豚を使ったウインナーやハム、馬路村ではゆず製品である。独自の

ブランドを構築することで外貨獲得をねらい、さらには設備投資を促し雇用の拡大へとつ

なげた。また、各地のブランド商品や体験、人との交流を通してたくさんのファンができ、

観光客数や I ターン者の増加、さらには外貨獲得につながった。

徳島には、すだちや鳴門金時、阿波踊り等、他県にはないブランドがある。しかし、こ

れまで PR や商品化等様々な努力をしてきたが、全国的に認知度が高いものは阿波踊りだ

けである。阿波踊りもまた、お盆の時期の 4 日間だけであるために、年間を通して魅力を

発信していけるものがないのである。そこで、1 年を通して全国に発信し続けられる徳島

の魅力をまるごとブランド化しようと考えた。これまでにも、滋賀県や海士町で地域の魅

力をまるごとブランド化し、地域活性化をねらった例はたくさんある。私は、「とくしまま

るごとブランド化」と名付け、3つのジャンルに分類した。「ICT28」、「農業」、「自然」の

3つである。ICT とは、「ひかりの国」と呼ばれる徳島のインターネット環境であり、農

業は上勝町の葉っぱビジネス、また、自然とは山・海・川に面した徳島の自然環境である。

さらに、とくしままるごとブランド化に人との交流の機会を加えることで、また来たい、

徳島に住みたいと思うファン作りを狙う。

ICT で交流機会の創造とは、とくしまサテライトオフィスプロジェクトである。平成 24

年から始まったとくしまサテライトオフィスプロジェクトでは、2 年間で 14 の企業が徳島

の田舎にサテライトオフィスをつくったのである。また、葉っぱビジネスでは 246 人イン

ターンシップ生が集まり、おばあちゃんの活き活きと働く姿を見て、I ターンを決めた人

がたくさんいる。さらに、徳島では「徳島グリーンツーリズム」という名前で、徳島の民

宿等に宿泊し、徳島で楽しむ究極の体験型田舎旅プログラムが存在する。

徳島に来て体験することで徳島を知ってもらい、人と交流することで徳島を好きになる

ことでファンになる。たくさん来てもらうことで外貨獲得、さらには I ターン者として定

住促進を狙う。

28 ICT とは、情報処理および情報通信、つまり、コンピュータやネットワークに関連する

諸分野における技術・産業・設備・サービスなどの総称である。

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おわりに

地方の現状は厳しいと考えていたが、予想以上であった。特に地方財政においては、地

方税で得られる収入が極端に少なく、政府の補助金に依存している地方自治体が多い。ま

た、今後、人口減少と少子高齢化が発展していくと考えられる中、少しでも早く自立する

必要がある。地方の活性化により日本全体に活力を与え、日本の活性化につなげるため、

今後は地域活性化の事例を増やしていくことが重要だ。また、徳島県は他県に比べて魅力

が少ないように感じる。今後、徳島の地域資源を活かしたブランドの誕生により、徳島の

活性化に期待していきたい。

本論文を執筆するにあたって、佐藤先生、卒業プロジェクトの仲間の存在がなければ書

くことができなかった。特に、佐藤先生には 13 回の校正を通して 2 つのことを学んだ。「簡

潔に、読み手を考えて書くこと」と「様々な視点で物事を見ること」である。自ら深く考

え書いた文章に対して、佐藤先生からお褒めの言葉をいただけたことは自信につながった。

今後、たくさん文章を書機会があるが、佐藤先生に言われたことを胸に刻み、読み手を惹

きつけられる文章を書けるように努めていきたい。

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≪参考文献≫

1. 山内道雄(2007)「離島発 生き残るための 10 の戦略」生活人新書

2. 平成 25 年度版地方経済白書

http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/hakusyo/chihou/25data/2013data/25czb01-03.h

tml

3. 総務省 地方再生制度

http://www.soumu.go.jp/iken/zaisei.html

4. 地方交付税等総額の推移

http://www.soumu.go.jp/main_content/000154471.pdf

5. 総務省―地方交付税

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/kouhu.html

6. 広報海士 平成 21 年度 町の予算

http://www.town.ama.shimane.jp/news/pdf/kouho0905-06-07.pdf

7. 平成 25 年度 不交付団体の状況

http://www.soumu.go.jp/main_content/000240073.pdf

8. 総務省 三位一体改革の全体像

http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/zeigenijou2_1.ht

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9. 厚生労働省「人口動態統計」

http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hokabunya/shakaihoshou/dl/07.pdf

10. 総務省 三大都市圏への人口集中と過疎化の進展

http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/html/nc112130.html

11. 日本のネタ帳 日本の合計特殊出生率の推移

http://jp.ecodb.net/country/trans/A05203.html

12. 内閣府 平成 24 年度版 高齢社会白書

http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2012/zenbun/pdf/1s1s_1.pdf

13. 地域再生法

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H17/H17HO024.html

14. 地域再生制度の概要

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiikisaisei/siryou/gaiyou.pdf

15. 首相官邸 地域再生本部

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiikisaisei/

16. 日興 AM ファンドアカデミーマーケットシリーズ

http://www.nikkoam.com/files/fund-academy/rakuyomi/pdf/raku130619_02.pdf#se

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17. 島全体が学びの場。学び方、働き方、暮らし方を学ぶ場として、地域が変わる。~教

育の島 粟島プロジェクト~

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiikisaisei/dai22nintei/plan/12.pdf

18. 内閣府 行政刷新 構造改革特区

http://www.cao.go.jp/gyouseisasshin/contents/06/special-zone-for-structural-reform

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19. 島根県隠岐郡海士町オフィシャルホームページ

http://www.town.ama.shimane.jp/

20. 小豆島・内海町オリーブ振興特区

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kouzou2/sankou/030425/51.pdf

21. ABI 株式会社アビー

http://www.abi-net.co.jp/

22. プラチナ構造ネットワーク プラチナ大賞

http://www.platinum-network.jp/pt-taishou/

23. 伊賀の里モクモク手作りファーム

http://www.moku-moku.com/

24. 平成 24 年年 4 月 26 日放送「カンブリア宮殿」

http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/20120426.html

25. 馬路村農協

http://www.yuzu.or.jp/

26. 中国四国農政局. 高知地域センター. 6次産業化のさきがけ馬路村農業協同組合の取り

組み

http://www.maff.go.jp/chushi/kohoshi/mag_newsletter/pdf/131220_n39.pdf

27. 地域の底力 馬路村

http://www.boj.or.jp/announcements/koho_nichigin/backnumber/data/nichigin33-4.

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pdf

28. 特集:地域の力―徳島に学ぶ地域活性化のヒント

http://www.j-smeca.jp/attach/article/article_2013_04_03-06.pdf

29. 大塚製薬グループ

http://www.otsuka.co.jp/

30. 日亜化学工業

http://www.nichia.co.jp/jp/about_nichia/index.html

31. 徳島県庁ホームページ

http://www.pref.tokushima.jp/

32. 広報「かみかつ」2013 年 11 月号

http://www.kamikatsu.jp/docs/2013110500016/files/2013kouhou11.pdf

33. 朝日新聞デジタル平成 26 年年 1 月 9 日付「徳島J1昇格ヴォルティスの経済効果は

51億円」

http://www.asahi.com/articles/ASG184F5ZG18PUTB00B.html

34. 徳島サテライトオフィオスプロモーションサイト

http://tokushima-workingstyles.com/home.html

35. 光ブロードバンド王国・徳島

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pdf/kondankai2_6_1.pdf

36. 株式会社いろどり

http://www.irodori.co.jp/

37. とくしまグリーンツーリズム

http://our.pref.tokushima.jp/green/