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岐阜県教育委員会 医療的ケアにおける 事故を未然に防ぐための ハンドブック2

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Page 1: 医療的ケアにおける 事故を未然に防ぐための ... - …医療的ケアにおける 事故を未然に防ぐための ハンドブック 岐阜県教育委員会 2 【

岐阜県教育委員会

医療的ケアにおける

事故を未然に防ぐための

ハンドブック2

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【 は じ め に 】

現在、岐阜県内には、約300名の日常的・応急的に医療的ケアを必要とす

る児童生徒が学校生活を送っています。

医療的ケアの第1の目標は、障がいのある児童生徒たちによりよい教育を行

うことにあります。県では「岐阜県立特別支援学校における医療的ケア実施要

項」に則り、医療的ケア専門協議会をとおして、各特別支援学校と連絡・連携

を図りながら、学校における医療的ケアを適切に進めております。

学校における医療的ケアの実施は、「主治医や指導医の指示書」に基づくも

のの、病院での行為とは違い、十分な医療設備も整っていない状況、つまり必

要最低限の医療機器や医療環境の中で、医療的ケアを行っていただいており、

戸惑いや不安を感じながらの実施ではないかと推察しています。

昨年度、各学校から提出していただいたヒヤリハットを集積し、分析し、具

体的な場面を想定しながら脚色したものを『医療的ケアにおける事故を未然に

防ぐためのハンドブック』として編集しました。今年度、ヒヤリハット事例を

集約してみると、驚いたことに、昨年度と同じような事例が意外と多くありま

した。その背景として、ヒヤリハットが自分の身に起こるとは考えにくいもの

だということやどうしても起こりやすいミスがあるのだと思います。だからこ

そ、ヒヤリハット事例を見直し、そこから学ぶことが大切なのだと思います。

今年度も同様、『医療的ケアにおける事故を未然に防ぐためのハンドブック

2』を作成いたしました。これらを活用していただくことで、同じような出来

事を未然に防いだり、対処法を参考にしたりして、より安全で確実な医療的ケ

アの実施が県内で行えるようになるものと期待しております。

また、各学校でのヒヤリハットの報告の在り方を今一度、見直していただき、

重大事故を防止するだけでなく、よりよい医療的配慮の実践につながるものに

なることを願っております。

結びになりますが、このハンドブックを作成するにあたり、平成26年度医

療的ケア専門協議会の先生方に大変ご尽力をいただき、また、福富医院の福富

悌院長に丁寧なご指導ご助言いただきましたことを、深く感謝申し上げます。

平成27年1月 岐阜県教育委員会

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はじめに

1 吸引関係の事例

2 経管栄養関係の事例

3 酸素ボンベ関係の事例

4 薬関係の事例

5 その他の事例

ヒヤリハットの捉え方

おわりに

様式例:ヒヤリハット・インシデント報告書(個表)(集約表)

・・・・・・・・・・ 1

・・・・・・・・・・ 4

・・・・・・・・・・ 10

・・・・・・・・・・ 13

・・・・・・・・・・ 17

・・・・・・・・・・ 25

~ 目 次 ~

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口腔内・気道内の分泌物が多かったため、左鼻腔より吸引チューブを挿入し、強い陰

圧で吸引を行った。チューブを引き上げる途中、ごく少量の血液が同時に引けた。

吸引を中止し、血液の垂れ込みを防ぐた

めに、顔を横に向けた。SpO2モニター

で経過を観察した。口や鼻から出血してい

る様子はないか観察した。

吸引チューブが気道の通り道の粘膜を傷

つけ出血した。右鼻腔からのチューブ挿入は入りづらく、鼻出血が起きやすいと保護者

から聞いていたため、確実に気道にチューブを入れたいときは左鼻腔から挿入していた。

この日は、口腔内・気道内の分泌物が多く、頻回に吸引処置が必要であり、左鼻腔から

のチューブ挿入、吸引が繰り返し行われたため起きたと考えられる。

・チューブの滑りを良くするため、チューブを消毒綿で拭いたあと、再度、水で濡らす。

・吸引中に出血を確認したら、チューブの長さから、どの部位で出血が起きたかを推測

する。同一部位で頻回に出血が起きるようならば、右鼻腔からの挿入を検討する。

・強い陰圧により粘膜を傷つけることがあるので、圧を調節できるチューブの使用も検

討する。

1 吸引関係の事例 ~気道内の出血~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

○その子に合うタイプのチューブを選びましょう。

○強い陰圧によりチューブが粘膜に貼りついて出血させることもあるので、チューブ

の操作だけでなく、陰圧の強さにも注意しましょう。

○引き上げるときは、圧がかからないようにしましょう。

口腔・鼻腔用吸引チューブ

調節口付き吸引チューブ

-1-

ポイント! !

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トイレにて教員に着替えを促されて自分で服を脱ごうとした際、服が人工鼻に引っか

かり抜去した。気管カニューレを固定しているひもに緩みはなかった。

顔色、呼吸状態の観察、SpO2測定を行うと、呼吸

状態に変化はなく、SpO2値も良好だった。30分後

に保護者が来校し、気管カニューレの再挿入を行った。

挿入はスムーズだった。

※対応については、保護者及び主治医に確認を取り、

把握していた。

・人工鼻に服が引っかからないよう服の襟首の部分を持って頭を抜く脱ぎ方を指導して

いるが、職員間での着替えに対する指導方法の共通理解が不十分だった。

・下校時間が迫っていたため、慌てて着替えをさせてしまった。

・着替え方(方法とその方法で行う理由)について職員間で再度確認をした。

・着替えの際に、人工鼻が引っかかっていないことを確認して着替えを促すことを確認

した。

1 吸引関係の事例 ~気管カニューレの抜去~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

人工鼻

○着替えのとき、人工鼻が引っかかりやすい場合は、人工鼻を外して着替えをするな

ど、気管カニューレが抜去しないような工夫をしましょう。

-2-

ポイント! !

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教室で、唾液が排泄されるよう側臥位にして抱いて歌遊びをしていた。視線を合わせ

たかったので、仰向け姿勢にして言葉掛けをしていたところ、呼吸困難になった。

側臥位に戻して様子を見ていたが、スムーズに

呼吸ができなかったので、背中を叩いた。

呼吸がスムーズになると、顔色が戻った。すぐ

に看護講師が吸引すると、痰の固まりが引けた。

誤嚥性肺炎を防ぐために、基本的には側臥位で過ごし、唾液が口から排出されるよう

にしている児童である。日常的に、短時間なら仰臥位になることはあったが、呼吸困難

になったことは初めてだった。痰の固まりが咽頭に停滞しているときに仰向けにしたた

め、呼吸困難になったと思われる。側臥位にしてしばらく様子を見ていたことで、呼吸

困難の時間が長くなった。素早く、一般的な応急処置(背中を叩く)をするべきだった。

医療的ケア対象児で個別の支援が重視されるが、一般的な応急処置も再確認し、念頭

に置いて支援する。

1 吸引関係の事例 ~一時的な呼吸困難~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

応急処置(排痰法)

-3-

○痰が多い児童生徒に対して不用意に体位変換をすると、痰が詰まることがあるので

気をつけましょう。

ポイント! !

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エレンタール200ml を通常100ml/時間の速度で胃ろう注入している。速く注入

しないよう、速度を調整するために輸液ポンプを利用し、ポンプの画面に「100」と

いう数値が表示された状態で注入を開始した。ポンプのアラーム音が連続して鳴ったの

で、チューブの状態を確認した。異常が認められなかったため、注入を続けた。しばら

くして、イリゲーター内のエレンタールの残量がいつもより少ないことに気が付いたが、

すでに大半が注入されており、通常2時間かけて行うものを1時間以内で終了してしま

っていた。

注入後の状態に変化がないか、十分注意して見守った。

注入後、一時的に心拍数が上がることがあったため、

呼吸介助をしながら、心拍数を確認した。

これまでも輸液ポンプのアラームが鳴ることが時々

あったため重要視せず、カテーテルの不具合を確認した

だけで、イリゲーター内の残量の確認を行わなかった。

・アラームが鳴ったり、「おかしい」と気が付いたりしたら、複数の職員で確認する。

・胃ろう注入における注意事項をイリゲーターのスタンドに貼り、担当職員で確認でき

るようにした。

① ポンプの画面が「100ml/時間」を示しているかを確認する。

② 滴下筒を確認し、栄養剤が落ちているか確認する。

③ 正しい速度で注入されているか、イリゲーターの残量を確認する。

④ ポンプ画面で総注入量を確認する。

⑤ 30分ごとに残量を確認する。

⑥ 薬の注入や栄養剤の注入を開始するときは、声に出して周囲に伝える。

輸液ポンプ

2 経管栄養関係の事例 ~輸液ポンプの不具合~

~ 発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

-4-

○アラームが連続して鳴るときは、特に注意をしてみることが大切です。

ポイント! !

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給食時、注入を開始するためにクレンメを開けた直後、イリゲーターと延長チューブ

接続部分が外れ、栄養剤がもれた。

すぐに注入を止め、生徒の状態に異常がないこ

とを確認した。クレンメを開けた直後で注入が始

まっていなかったので、接続部位を確認して新し

い栄養剤を用意し、注入を再開した。

他の接続部位については接続を確認してから注入を開始するが、これまで外れたこと

がない部位だったため注意していなかった。

・接続部位は外れる可能性があることを再認識し、確認する。

・見守りの教員も接続部位をチェックする。

2 経管栄養関係の事例 ~延長チューブの接続~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

イリゲーター

-5-

○接続部位は外れる可能性があることを再認識し、確認しましょう。

○接続後もきちんと接続されているかダブルチェックをしましょう。

ポイント! !

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給食時、注入終了時刻になっても、注入終了を知らせるブザーが鳴らないため、注入

用ポンプを看護講師が確認したところ、注入量の設定がされていなかった。(通常は、

115ml/時間のスピードで100ml の注入を行う設定になっている)そのため、通常

より20~30ml 多い量の「OS1」を注入してしまった。

すぐに注入を終了し、生徒の状態に異常がない

ことを確認した。

保護者に連絡し、「午後2時と午後3時の注入

は通常通りの量で行い、家庭での注入で1日の総

注入量を調整する」ことを確認した。

・登校時に、注入用ポンプの設定を保護者と看護講師で確認している。この日は、登校

時の引継ぎの際、他の確認事項に気を取られて、設定を確認することを忘れてしまっ

た。

・注入途中に確認したが、いつもと同じという思い込みから設定の違いに気が付くこと

ができなかった。

・登校時に注入用ポンプの設定を保護者と看護講師で確認することを徹底する。

・保護者と一緒に確認できない場合は、看護講師2名で確認を行う。

・注入途中での確認を看護講師や見守りの教員が行う。

2 経管栄養関係の事例 ~注入用ポンプの確認~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

注入用ポンプ

-6-

○機械任せにするのではなく、予想される時間を把握しておきましょう。

ポイント! !

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経管栄養を午前11時40分から始めるために、午前11時30分ごろから準備をし

ていた。他の児童の様子を気にかけながら、教室のロッカーの上で必要物品を出し、哺

乳瓶に入れて温めておいたラコールをイリゲーターに入れようとしたところ、哺乳瓶を

倒してしまった。

保護者に連絡し、予備のラコールの使用許可

をもらい、不足分を補充し、通常より10分遅

れで経管栄養を開始した。

他の児童の様子を気にかけながらであったた

め、手元がおろそかになってしまった。

・経管栄養の準備を行っている時は、児童の観察は担任が行い、看護講師は準備に集中

する。

2 経管栄養関係の事例 ~経管栄養の準備~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

経管栄養

-7-

○作業場は、広いスペースを確保し、場所の配置を考えましょう。

ポイント! !

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給食時間にランチルームにて、胃ろうでエンシュア200cc を注入開始し、接続ル

ートを確認した。30分後、観察及びSpO2 値のチェックとともに再度接続ルートの

確認をすると、接続チューブの側孔のふたが開いており、エンシュアがもれていること

に気が付いた。この時点でエンシュアの残りは100cc であった。

一時注入を中断し、保護者へ連絡した。余りの

エンシュア50cc を追加注入という指示だったが、

注入準備の段階で余りを破棄していたため、ストッ

ク分のエンシュアを補充した。経過観察をすると状

態の変化はなく、SpO2値は安定していた。

午前中から筋緊張が強い状態であったため、手足

に引っかかって外れた可能性がある。

・頻回に状態を確認し、接続部を確認する。

・余りのエンシュアは、注入後まで破棄せず置いておく。

2 経管栄養関係の事例 ~胃ろうチューブのもれ~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

接続チューブ側管のふた

-8-

○チューブのふたは外れることがあるものと認識し、注意しましょう。

ポイント! !

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給食時、経鼻胃管からの注入終了直後、痰がらみの咳があり、それにより嘔吐が誘発

された。1回目に白色痰と唾液を、2回目に少量の栄養剤を、3回目に注入した栄養剤

の1/3程を嘔吐した。

看護講師、養護教諭、担任により生徒の状態観察を行った。

嘔吐直後のバイタルサインに異常はなく、喘鳴もなかった。

その後の呼吸状態は良好で、吐き気もみられなかったため、

安静を保ちつつ状態の観察を続けた。

担任より保護者に電話で状況の報告し、養護教諭より指導

医へ状況を報告し、指示を仰いだ。

生徒は、側弯・前傾姿勢であり、注入物の逆流のリスクが大きい。姿勢によって胃の

中の内容物が流れにくくなり溜まることがあるため、嘔吐したと考えられる。

・時間に余裕をもって早めに注入をスタートし、状況に合わせて慎重に注入する。

・指導医の指示の下、保護者との密な連絡と生徒の体調把握により、無理のないケアを

実施する。

・姿勢に配慮し、腹部を圧迫しないリラックスした姿勢をとる。

・とっさの嘔吐にすぐ対応できるように、ベースンやタオルなどを常備しておく。

2 経管栄養関係の事例 ~注入終了直後の嘔吐~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

経鼻胃管チューブ

-9-

○嘔吐は、注入時間、量、体位等、様々なことが原因で起こるので、それぞれに注意

しましょう。

ポイント! !

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登校時に酸素ボンベの開栓を確認したが、開栓されていると思い込み、引継ぎを終え

た。午前10時ごろ酸素が出ている音がしていないため、酸素ボンベとチューブの確認

をしたところ、チューブが鼻垢で汚れていた。洗浄した際に、酸素が開栓していないこ

とに気が付いた。

気が付いたとき、すぐに酸素を開栓した。

酸素ボンベが開栓しているか毎朝確認して

いるが、開いていると思い込んでいた。

酸素ボンベ確認時は、栓をしっかりひねって確認し、思い込みに注意する。

3 酸素ボンベ関係の事例 ~開栓の確認~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

酸素ボンベ

-10-

○いつも同じことを繰り返していると、思い込みが発生するので、常にダブルチェッ

クやチェック表を用いて確認するようにしましょう。

○酸素ボンベの確認では、次のチェックを行いましょう。

・開栓されているか。

・チューブは汚れていないか。ねじれたりせずに接続されているか。

・定められた量になっているか。

・酸素の残量は十分か。

ポイント! !

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下校時、酸素大ボンベの残量が9MPa で0.5Lで流していた。保護者に残り8時間

であると伝えたが、流量が0.25Lの場合で計算して伝えてしまった。

看護講師が間違いに気が付き、担任から保護者に伝えた。

酸素の流量計を見ず、0.25Lだと思い込んでいた。

・下校時、看護講師だけでなく、担任と保護者の複数で、酸素の残量(MPa)と流量

(L/分)を見て確認する。

・酸素の流量が1L・0.75L・0.5L・0.25Lの場合の残時間がわかるように表

を再作成し、色分けをして見間違えないようにする。

・酸素残量の表をラミネートしてボンベのかばんにつける。

3 酸素ボンベ関係の事例 ~ボンベ残時間計算ミス~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

-11-

○一人で判断するのではなく、複数で確認するようにしましょう。

流 量        圧 1 2 3 4 5

   1.0 L/分 (20分) 20分 40分

0.75 (約26分) 26分 53分

0.5 (40分) 40分 1時間 20分

0.25 (80分) 1時間20分 2時間40分流 量        圧 6 7 8 9 10

    1.0 L/分 1時間 1時間 20分 1時間 40分 2時間 2時間 20分

0.75 1時間 20分 1時間46分 2時間 13分 2時間40分 3時間6分

0.5 2時間 2時間 40分 3時間 20分 4時間 4時間 40分

0.25 4時間 5時間20分 6時間 40分 8時間 9時間20分流 量        圧 11 12 13 14 15

    1.0 L/分 2時間 40分 3時間 3時間 20分 3時間 40分 4時間

0.75 3時間33分 4時間 4時間26分 4時間 53分 5時間20分

0.5 5時間 20分 6時間 6時間 40分 7時間 20分 8時間

0.25 10時間40分 12時間 13時間20分 14時間40分 16時間

大 酸素ボンベ  赤ゾーンまでの残時間

ポイント! !

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給食後の昼休み、酸素吸入をしている児童が酸素チューブを外し、担任に手を引かれ

てトイレから戻ってきたとき、口唇の色が悪くなっていた。SpO2 値が58~62%

に低下しており、すぐに酸素吸入をした。意識レベルに問題はなく、酸素吸入後5分ほ

どで98%まで回復した。

気管内吸引を行い、すぐに酸素吸入をした。呼吸

数の増減、意識障害の有無、顔色や口唇色の確認、

上肢末梢冷感、冷や汗の有無など、状況把握をした。

口唇の色は悪かったが諸症状は認められず、5分

ほどでSpO2値が98%まで改善したため、引き

続き授業に参加した。

児童は、トイレへ行くときのみ、酸素を外すことにしていた。数日前、肺炎のために

1週間ほど入院し、体調を見ながら学校生活を送っていた。体力がなかなか回復せず、

SpO2 値の変動もあったため、活動の制限や酸素の増減などの対応をとっていた。ト

イレへ行く際も、酸素濃縮機からボンベへ切り替え、車椅子で移動するべきであった。

・児童の体力や体調が戻るまでは、酸素をつけ、車椅子を使用して移動する。

・児童は調子の悪さを感じにくいため、担任、教科担当、看護講師等がその日の状態を

把握し、共有しながら丁寧に様子を見ていく。

3 酸素ボンベ関係の事例 ~SpO2値の低下~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

酸素濃縮機

-12-

○酸素を外したときは、その時間をなるべく短くし、子どもの様子を細かく観察しま

しょう。

ポイント! !

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小学部児童が小学校との学校間交流のため、午前中、校外学習に出かけた。出発後、

養護教諭が坐薬を誰も持ち出していないことに気が付いた。

養護教諭が担任に連絡し、引率教員が坐薬を

取りに戻った。

看護講師や養護教諭が引率していくときは、

常々、薬剤などの持ち物には気を付けており、

長時間の外出では持ち物チェックを行ってい

る。今回は、保健室関係者が引率しない行事

であったため、薬を持参することを忘れてし

まった。

・校外学習の実施要項を保健室へ必ず提出する。

・実施要項の持ち物に薬剤等を入れる。

・坐薬等は当日の朝しか渡せないので、担任は保健室に薬を取りに行く。

・4月に確認済みであるが、再度、部会等で坐薬や薬が必要な児童生徒名を知らせ、担

任に確認する。

・坐薬保管用の冷蔵庫に坐薬持ち出しの必要がある児童生徒の一覧表を貼り、いつでも

確認できるようにする。

4 薬関係の事例 ~持ち出し忘れ~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

一覧表掲示

-13-

○薬の管理には、十分な校内体制や保護者との連絡体制の確立が必要です。

ポイント! !

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1泊2日の校外宿泊学習の2日目。児童は、付き添っていた母親と別れて学校に戻っ

た。看護講師が午前11時から注入を始めた。迎えの時間が近づき、看護講師が注入を

止めに来たとき、胃からのチューブが開放状態であることを見て異変に気が付いた。通

常は、午後1時に与薬して閉鎖するので、午後1時15分ごろは閉鎖状態のはずである。

看護講師は薬を預かっていなかったので、現地で母親が与薬を済ませていると思い、昼

の薬を与薬していなかった。その後、看護講師が栄養用リュックを確認すると、ポケッ

トから昼用の薬が見つかった。

○○・・・

予定より20分ほど遅れたが与薬した。体調に影響はなかった。

引率教員の1人が母親から昼の与薬を依頼されていたが、看護講師に伝えるのを忘れ

ていた。また、与薬はいつも看護講師が行っていることから任せきりになっており、与

薬をしたかどうかを教員が確認しなかった。

・校外学習など通常と違う日課になった場合は、注入や与薬の時間を複数で確認し、共

通理解する。

・母親からの連絡は、すぐに他の職員に伝えるようにする。

4 薬関係の事例 ~与薬の遅れ~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

-14-

○思い込みで済ませず、特に薬のことは確認するようにしましょう。

ポイント! !

Page 18: 医療的ケアにおける 事故を未然に防ぐための ... - …医療的ケアにおける 事故を未然に防ぐための ハンドブック 岐阜県教育委員会 2 【

ワンプッシュのエアロゾル吸入をしないまま

校外学習へ出かけた。

呼吸困難なく帰校でき、その後は定期の吸入を

施行し、体調に変化はなかった。

出発の時間に気をとられて、臨時に行う心の余裕がなかった。

・毎日、時間割やケアの時間を看護講師と担任とで確認しておく。

・行事の際には、前もってケアの時間の確認を行い、看護講師と担任とで連携を図る。

4 薬関係の事例 ~吸入忘れ~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

エアロゾルタイプの

気管支喘息吸入剤

-15-

○どんな薬でも、薬の効果を把握し、適切に使用することが大切です。

ポイント! !

Page 19: 医療的ケアにおける 事故を未然に防ぐための ... - …医療的ケアにおける 事故を未然に防ぐための ハンドブック 岐阜県教育委員会 2 【

吸入器を使用する生徒へ手渡す際、うまく渡せずに転がって吸入液がこぼれた。

改めて吸入液を補充し、吸入を施行した。

対象生徒と話をしながら吸入準備をして

いたため、気が散ってしまい手元に意識が

集中できなかった。

生徒に吸入容器をまっすぐ持つよう言葉かけをして、生徒が吸入器へ意識が集中で

きるようにする。

4 薬関係の事例 ~吸入液のこぼれ~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

吸入器

-16-

○細かい操作を必要とする場合は、一つ一つ手順を確実に行うようにしましょう。

○チューブがついているため倒れやすいものであることを認識し、注意しましょう。

ポイント! !

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2時間目(午前9時56分)の体育の時間、体育館でベンチに座って見学をしていた

ときにてんかん発作が起きた。前に倒れた際、生徒が持参していた水筒に右前歯を強打

し、折れた。

生徒を安全な姿勢にし、駆け付けた看護講師と養護教諭とで、保健室に運んだ。看護

講師は発作時の対応をした。養護教諭は折れた歯を拾い、受傷部の止血をした。

ベンチに1人で見学しており、発作時に生徒を支える

ことができなかった。生徒の近くに水筒が置いてあった。

・見学時はベンチや椅子ではなく、床に座るようにする。

・生徒の近くに硬いものを置かないようにする。

・生徒の緊急時にすぐに対応できるような教員の配置を考え、できるだけ生徒を1人に

しないようにする。

5 その他の事例 ~てんかん発作時のけが~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

てんかん発作

-17-

○常に、発作が起きたことを想定して、対応策を考えておきましょう。

ポイント! !

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授業中、てんかん発作が起こり、全身の緊張が高まって腕を振り上げた勢いで、車椅

子ごと後方へ転倒した。

すぐに近くにいた教員が生徒の状

態を確認した。

頭部や体に怪我はなかった。その

後も経過観察を続けたが、異常は見

られなかった。

転倒した車椅子を確認すると、後

部の転倒防止バーが通常の位置にな

かった。

この車椅子は、転倒防止バーが収

納式であり、この時は収納の状態になっていた。

・児童生徒が車椅子を使用する際には、必ず転倒防止バーの確認をする。

・車椅子の安全点検を常時行う。

・長期休業前には家庭へ持ち帰り、メンテナンスを依頼する。

再発防止に向けた対策・改善点

5 その他の事例 ~てんかん発作時の車椅子の転倒~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

使用時の状態

後ろ(外側)に出ている

収納式転倒防止バー

収納の状態

内側に入っている

-18-

○車椅子は様々なタイプがあり、転倒防止バーも数種類あるので、それぞれの構造や

転倒防止装置の扱い方を周知しておきましょう。

○車椅子の部品の意味を知っておきましょう。

ポイント! !

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2時間目、クラスのPHSから保健室の内線へ生徒の急変(てんかん発作の疑い)に

ついての連絡が入り、看護講師が取り次いだ。氏名(愛称で「Aちゃん」)を正確に聞

き取らずに電話を切り、「Bちゃん?(一文字違いの生徒の愛称)が発作です」と近く

にいた養護教諭に伝えた。養護教諭と看護講師とで教室へ向かうと違っていた。場所を

探していたところ、PHSに連絡が入って対象生徒が分かり、駆けつけた。到着したと

きには、1回目の発作が終わっていた。

生徒は初めてのてんかん発作であった。断続的に発作が出現し、SpO2 値及び心拍

数が不安定な状態で苦しそうだったため、救急搬送した。

愛称での伝達であり、情報伝達方法が正確ではなかった。また、看護講師は、児童生

徒と担任が結びつかなかった。緊急事態で看護講師も担任も緊張状態にあり、急がなく

てはという思いから、慌てた対応になってしまったと考える。てんかん発作の既往のな

い生徒であったため、「○○ちゃん」が誰なのか、他の職員も発作の既往のある児童生

徒の中から推測しようとした。

・電話を受けた際は落ち着いて、「対象者名」「連絡者名」「場所」を確認する。

・電話はすぐ切らず、近くにいる職員に伝え、情報を共有する。

・緊急事態には所属部、学年、フルネームで伝達する。

5 その他の事例 ~緊急時の伝達~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

-19-

○緊急時に備えて、連絡事項を確認しておく必要があります。

ポイント! !

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担当の看護講師から他の職員へ報告がされず、保護者の意向や指示書に基づいた対応

ができなかった。

終日ほとんど眠った状態で、時々、身体に緊張が入る生徒である。緊張が強いときや

心拍数が130回以上/分のとき、坐薬の挿入の指示が出ている。登校時はバイタルサ

インが安定していたため、学校において初めて体幹・下肢のコルセットを装着した。

午前11時45分にランチルームで全身に緊張が入るが、昼の栄養注入を開始した。

注入中、発汗や流涙等がみられたため、教員が抱っこして注入を続けた。

SpO2 値は安定していたが、心拍数は130~150回/分であった。午後12時

40分に注入が終了し、すぐに教室へ戻って下肢のコルセットを外すと、弛緩して脈拍

が落ち着いた。

指示書の内容や対処方法について、改めて保護者に確認をした。その後、教員から保

護者へ報告した際、「今日のような判断が難しい場合は、連絡してほしかった。指示書

を確認してほしい。コルセットが苦痛であれば、外しても構わない」と話された。

・状態の変化が見られたとき、看護講師から他の職員へ報告したり、相談したりして、

組織で対応するという意識が薄かった。

・生徒が初めて体幹・下肢のコルセットを装着し、いつもの状態と違ったため、対応に

戸惑うところがあった。

・いつもと状態が違うときは、他の職員に相談し、複数でみるようにする。

・判断に迷う時は、早めに保護者へ連絡する。

・関わる全ての者が指示書を再確認する。コルセットの装着については、職員みんなが

同じ認識をもてるよう情報を共有する。

5 その他の事例 ~情報共有の不備~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

-20-

○口頭指示では伝わらないことがあります。常に、指示書を確認するようにしましょう。

ポイント! !

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経管栄養の準備を行うため、児童が毎日持参している経管栄養の必要物品が入ったか

ばんを開けたところ、ラコールを入れるイリゲーターが入っていなかった。

保護者に連絡をし、学校に届けてもらっ

た。イリゲーターの到着を待って、経管栄

養を開始した。

・保護者は、イリゲーターを新しいものに交換するつもりで、昨日まで使用していたも

のをかばんから抜いていた。

・その日は、学校から連絡をしたとき、母親が外出中であり、学校到着まで通常10分

ほどのところ、30分以上かかった。

・朝の引き継ぎの時点でかばんの中を確認する。

・外出先が遠い場合、学校到着までに時間を要することになり、経管栄養の開始が大幅

に遅れてしまうことが考えられる。栄養に必要な物品一式の予備を学校に預かってお

く。

5 その他の事例 ~物品忘れ~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

経管栄養の必要物品

-21-

○物品を確認しやすいようなかばんにすることも一案です。

ポイント! !

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吸入に使用する物品の一部を学校から家庭へ返却し忘れた。家庭で物品がないことに

気が付いた保護者が学校へ取りに戻られた。

保護者へ返却し、その後の家庭での吸入

を無事に行うことができた。

最後に吸入を行ったあと、物品を洗浄した。洗浄後、部品をすぐにひとまとめにして

おかなったので置き忘れてしまった。

・ 細かい物品や複数ある物品は、トレーやかご等に入れて、個人別にまとめておく。

・ 洗浄する部品は、洗浄後、片付け忘れがないか点検して返却する。

5 その他の事例 ~物品の返却忘れ~

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

吸入に使用する物品

-22-

○持ち物については、ダブルチェックやチェック表を用いて確認するようにしましょう。

ポイント! !

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教室にて発作があり、ダイアップ坐薬4mg1本を挿入した。その後、ベッドでウト

ウトし始めたため、発作は落ち着いたと判断した。指示書や坐薬を片付けようとしたと

ころ、坐薬が挿入した1本しかなかったことに気が付いた。

指示内容は、「反応が無くなってから2分でダイアップ坐薬4mg1本を挿入し、坐薬

を挿入して20分経っても治まらないときはもう1本挿入する」であった。

その後、発作はなく、状態が落ち着いたため、2本目

の坐薬は必要なかった。担任から保護者に坐薬を持って

きていただくよう依頼し、予備を含めた4本を預かった。

・前回の発作時に坐薬を使用し、残り1本となったため、

担任から保護者に坐薬を持ってきていただくよう依頼

していた。しかし、その後、確認をしておらず、誰か

が受け取って補充しているだろうと思い込んでいた。

・坐薬の補充を担任から保護者へ口頭で依頼したため、確実に伝わらなかった。

・坐薬を使用したときは、坐薬を持ってきてもらうよう、連絡帳に記入して依頼する。

・指示書の内容や発作の頻度等を考慮して、坐薬の予備を預かる。

・坐薬を預かる全ての児童生徒の坐薬の数(必要数と現保有数)を保健室の冷蔵庫に掲

示をし、養護教諭、看護講師が坐薬の数を常に把握できるようにする。坐薬を使用し

たとき、補充したときには、対応した養護教諭が数を変更する。

・養護教諭は、月初めに坐薬の残数と掲示してある数が正しいか確認する。

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

5 その他の事例 ~坐薬の補充忘れ~

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○薬の管理には、十分な校内体制や保護者との連絡体制の確立が必要です。

ポイント! !

掲示(冷蔵庫)

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対象児童が導尿物品を準備していると導尿カテーテルが1本もないことに気が付い

た。看護講師が確認すると、導尿カテーテルが補充されていなかった。

担任が祖母に連絡し、祖母にカテーテルを届けていただき、

導尿を施行した。

・現在、児童は自己導尿ができるように物品の準備を自分で

行っており、看護講師が在庫の確認や把握をきちんとして

いなかった。

・数日前にカテーテルの本数が少ないことに気が付き、児童に親へ伝えられるか聞いた

ところ、自分で言えると言った。保護者に伝わっていると思い込み、担任から保護者

へ連絡していなかった。また、その後、補充されたかどうかの確認をしていなかった。

・カテーテルは残り5本になったときに、まず児童から保護者に伝達する。その後、持

参せず、残り3本になったときには担任から保護者に伝えるようにする。

・導尿が終わったあとに物品の残量を確認する。物品の残りが少ない場合は、導尿チェ

ックリストに記入することで看護師間の伝達を図る。

発生時の状況と経過

発生時の対応と処置

考えられる原因や背景

再発防止に向けた対策・改善点

5 その他の事例 ~導尿物品の補充忘れ~

カテーテル

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○薬の管理同様、医療的ケアに関わる物品の管理についても、十分な校内体制や保護

者との連絡体制の確立が必要です。

ポイント! !

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【ヒヤリハットの捉え方】

ヒヤリハット事例の分析は事故発生防止の対策作りには欠かせません。重大事故の発

生の前には、多くのヒヤリハットが潜んでいるとされていますが、結果として事故に至

らず、「ああよかった」とすぐに忘れがちになってしまいます。それを事故防止対策へ

とつなげることが大切です。ヒヤリハット事例の分析は、事故に至らなかった小さな問

題状況に対して予防対策をとり、事故を未然に防ぐためのものであり、ミスをした人を

責めるような始末書的な意味は全くないという認識をもつことが大切です。

蓄積すべきヒヤリハット事例には、

① 適切でないと考えられることが児童生徒に行われる前に気がついた事例

② 結果的には児童生徒に影響はなかったが適切ではなかったと考えられる事例

③ 適切ではない状況が起こったが、少しの対応ですぐに問題が解決した事例

等が入ります。

ヒヤリハットへの向きあい方として、

① ヒヤリハット事例を蓄積することの目的、意味・意義を十分に認識する。

② 誰でも起こりうることとして、ヒヤリハットに遭遇した人を責めない体質を学校

内に作る。=この次は自身にも起こりうることだと認識する。

③ 分析の結果、どのような予防対策をとりうるかを学校全体で検討し、学校のシス

テムとして検討する。

④ 所定の用紙に記入して蓄積し、起こりやすい傾向等を把握することで、事故を予

防する。

⑤ 1つの学校での発生は多くない可能性もあるので、医療的ケア専門協議会等で共

有する。

といったことがあげられます。

各学校でのヒヤリハットの報告の在り方を今一度、見直していただき、重大事故を防

止するだけでなく、よりよい医療的配慮の実践につなげていただきますようよろしくお

願いいたします。

《参考文献》日本小児看護学会:特別支援学校看護師のためのガイドライン(改訂版)2010

安全への意識の向上 ⇒ ヒヤリハット事例を蓄積する

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様式例:ヒヤリハット・インシデント報告書(個表)

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様式例:ヒヤリハット・インシデント報告書(集約表)

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【お わ り に】

岐阜県医療的ケア専門協議会オブザーバー

福富医院 院長 福富悌

特別支援学校における医療的ケアは、大切な役割を担った制度となってきま

した。岐阜県での医療的ケアは平成 10 年頃から一部の学校で試みが始まり、平

成 18 年から県下で本格的に運用されました。最初の頃は、看護師が学校で医療

を行うことの戸惑いや、保護者の期待に対する制度の内容の違い、さらに制度

そのものや学校の体制について多くの話し合いがされました。その後も重症心

身障害児の処置や、医師の指示の内容等から、要綱の見直しへと続きました。

このような話し合いの趣旨は、どのように医療的ケアの制度を特別支援学校で

運用していくかということでした。しかしながら、この医療的ケアを運用する

にあたり、基本として忘れてはいけないことは、児童生徒が安全に授業を受け

られることです。そのためには、児童生徒に対して指示に従ったことが適切に

行われることは勿論のこと、人工呼吸器や体に挿入されているチューブ等の管

理などが行われることが大切です。

誰しも業務はしっかりと行いたいと思って従事されていると思います。しか

しながら、ハインリッヒの法則で 1 つの重大事故の背後には 29 の軽微な事故が

あり、その背景には 300 の異常が存在すると言われているように、重大な事故

は起こさないようにいくら注意していても、気を引き締め業務への意識を高め

ていても無くなるわけではありません。そこで、大切なのは誰でもミスをする

ことがある、誰でも事故に遭遇することがあると、考え方を変えることです。

そのため、たとえ事故やミスに遭遇した時も自分の落ち度からでなく、自分で

なくても誰かが遭遇したとして、そのミスや事故が繰り返し発生しないように

多くの人に伝えることが大切です。さらに、その改善方法については、精神的

な意識改革ではなく、具体的な方法で解決することが必要です。そして、この

ような報告書は各学校で作られていると思いますが、これは医療的ケアにとっ

ても大切な資料だと考えられます。

そもそも医学そのものが経験によって発展してきました。かつての花岡青洲

も失敗の中から麻酔薬を見つけ、乳がんの手術も行いました。失敗を生かすこ

とに因って初めて技術の進歩が生まれてきます。

今回、岐阜県の医療的ケアにおける事例集が医療的ケア専門協議会の先生方

のご尽力によりできましたことは、医療的ケアが進歩する大きな礎となると思

います。今後とも医療的ケアが多くの皆様の役に立ち、特別支援学校の教育が

安全に行われていくことを願っています。

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