地方創生に向けた私立大学の役割.大都市と地方の人材循環の推進...
TRANSCRIPT
地方創生に向けた私立大学の役割
─ わが国の永続的発展のために─
中間報告
総論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1頁
Ⅰ.地方創生における私立大学の役割・・・・・・・・・・・・・・・1頁
Ⅱ.私立大学が取り組む具体的展開策・・・・・・・・・・・・・・・2頁
Ⅲ.地方創生に向けた政府に対する具体的提言・・・・・・・・・・・4頁
資料集・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7頁
委員名簿・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10頁
平成27(2015)年11月
日本私立大学団体連合会
高等教育改革委員会
地方活性化(地域共創)問題に関する小委員会
- 1 -
地方創生に向けた私立大学の役割 ─ わが国の永続的発展のために─
総論
〇 今後50年にわたる大幅な人口減少社会の到来が予測される中、資源の乏しいわが
国が将来にわたって永続的な発展を実現するためには、人材の育成、すなわち教育が最
も重要であることは論を俟たない。わけても、急速な社会経済の変化や科学技術イノベ
ーションの進展等により、知識や技術の継続的な革新が必須となる21世紀においては、
高等教育による不断の人材育成がその成否のカギを握っているといえる。
〇 私立大学は、わが国の学部学生の約8割が学ぶ場であり、大学数の約8割を占め、そ
の約6割が地方に立地している。したがって、地域の特性に基づいた多様な価値の追求
によって地域を牽引するリーダー及び中間層の育成は、私立大学が果たしている重い役
割と公的責任のなかでも重要なものとなっている。地域社会における人材の育成や高等
教育の機会確保などを通して、私立大学には、地方創生政策がめざす地域振興を推進す
る責務がある。
〇 私立大学は、地方自治体との連携を中心としながら、コンソーシアムの結成などを含
む地域内の大学間連携、広域間連携、地域経済界との連携、学生間交流などを図りつつ、
地方創生及び再生・活性化、ひいては、わが国の再生・発展のため可能な限りの取り組
みを推進していく。
Ⅰ.地方創生における私立大学の役割
全国各地に展開する私立大学は、それぞれの建学の精神に基づき、地域の発展や活性
化等に貢献し、時代の変化や社会のニーズを踏まえた個性・特色ある教育研究の実践を
通じて、多様かつ重層的な人材を多数輩出してきた。具体的には、地方における若者の
高等教育への機会均等、地域社会の人材育成、地方自治体・地元企業等との協働による
地域産業の活性化、地域文化の維持・発展、そして地域住民への生涯学習の機会提供な
ど、地域の振興と住民生活の質向上において、大きな役割を果たしている。
1.人材の多様性の確保
今後、わが国が持続的に発展するためには、社会全体において多様な人材の育成と確
保が肝要であるが、それぞれの地域においても、地域社会の活力となる若年層が地域に
- 2 -
留まり、地域固有の文化・自然環境の中で成長し、地域社会のニーズに対応し得る人材
が各地で多様に確保されることが、わが国の調和ある発展をもたらすと同時に、地域社
会を振興・活性化する上で不可欠である。
私立大学が実践している教育研究活動は、各大学の建学の精神に応じて多様であるだ
けでなく、各地域を支える高等教育機関としても多様であり、そこで育成される人材の
多様性は、私立大学の社会的な役割を示すものとして極めて重要である。
2.大都市と地方の人材循環の推進
都市部に位置する大規模な私立大学への進学が、地方の若年人口の流出を促す一因と
なっていることは否定できない。一方、都市部の大規模な私立大学から地元企業や地方
自治体などへの就職を通して地元に還流する人材が存在し、それぞれの地域において重
要な役割を果たしてきたことも事実である。今後は、地方出身者の地元への還流のみな
らず、大都市圏出身者の地方への就職など、若年人材の地方への移動を積極的に促進し
ていく。
3.グローバルにもローカルにも活躍できる人材の育成
グローバル化への対応が求められているのは、大都市や大企業だけではなく、地方に
も地球規模で通用する特色ある事業を展開する企業がある。私立大学に求められている
「グローバル人材」とは、世界中のどこでも人びととコミュニケーションをとりながら、
多様なローカルの実情に応じた課題解決を推進できる人材であり、このような人材像は、
国内の各地方で求められている人材像とも一致する。大学での学びと、その後のグロー
バルな現場体験で育成された人材が、国内の地域活性化において活躍することも期待さ
れており、今後も私立大学はそのような人材の育成を担っていく。
Ⅱ.私立大学が取り組む具体的展開策
上記の基本的な考え方を踏まえ、「高等教育機関の中心的存在は私立大学である」とい
う自律的な責任において、私立大学は社会の負託に応え、わが国全体の持続的な発展に
寄与し、これを推進する責務がある。
地方活性化について私立大学が果たす役割の指針として当連合会がまとめた『私立大
学アクションプラン』(平成25年7月)の「地域共創:私立大学は、地域社会を振興・
活性化する」(Action4)の目標を継承するとともに、政府の「まち・ひと・しごと創生基
本方針2015」(平成27年6月30日)等を踏まえ、わが国の永続的発展のために、私立大
学が取り組む具体的展開策を以下に考究する。
- 3 -
1.地方における雇用機会の拡大
U・J・Iターン就職を含めて、大学卒業者の地方における就職支援を強化する。その
ために、地方に所在する大学と地元の自治体や経済界との連携を一層深めるとともに、
大都市に所在する大学を含む、大学と地方自治体や地方経済界との広域的・体系的な連
携を推進する。その際、地方でのインターンシップや実習、フィールドワークの機会を
組織的に展開する。
2.雇用創出に関するシンクタンクとしての役割の強化
地方の雇用創出に対して、私立大学はシンクタンクとしての役割を強化するとともに、
その取り組みや成果を学生の学びと成長にもつなげることを通して、雇用創出の促進と
教育効果の向上とを同時に追求する。
その際、学生の地方における活動の推進に対して、障壁となっている制度上の課題の
解消を促進する。例えば、「地方企業での長期インターンシップ」や「地域おこし協力
隊」などの活動を目的とする休学期間中の学費設定に当たっての配慮を拡充するなど、
大学の制度整備を進めるとともに、地方活性化推進のための規制緩和に当たっては、学
生の地域における実習活動の促進が一層強められるよう働きかける。
3.社会人の学び直し環境の整備・充実
社会人の学び直しの機会をさまざまな地域において豊富に提供していくため、個別の
大学の取り組みだけにとどまらず、ICT等を活用した広域間の連携を推進しながら、
個々の大学の特色を生かしつつ、相互補完的に学び直しの内容を幅広く提供する。
また、社会人の学び直しとして求められている以下のような目的に資する教育プログ
ラムの整備拡充を推進する。
・地方の活性化のために求められるスキルを身につける教育プログラム
・女性の労働市場への復帰を支援できる教育プログラム
・非正規雇用から正規雇用へのキャリアアップを支援できる教育プログラム
・ローカルなニーズとグローバルなニーズをつなぐスキルを身につけるための教育プログラム 等
4.組織的・体系的なネットワークの拡大
地方創生のために地方自治体を軸とした各地域における多主体間の連携・協力のプラ
ットフォームの構築を呼びかけ、大学間の連携組織や私立大学に関係する諸団体が、そ
のプラットフォームと大学をつなぐ媒介役としての役割を強化する。
- 4 -
5.大学が所在しない地域との連携・協力
大学が所在しない地域と私立大学との連携・協力の基盤強化を推進するとともに、私
立大学のグローバル化の取り組みにより推進される国際的なネットワークについて、地
方創生に生かすための連携へと展開する。
6.地域を支える人材の育成に向けた教育環境の整備
私立大学では、これまでもその教育の質転換と向上に努めてきたが、地方を支える人
材やグローカルにも対応できる人材の育成に向け、学生一人当たり教員の比率(ST比
率)の改善や、大学とフィールドを効果的につなぐコーディネータの整備をはじめとす
る教育環境の更なる整備に努める。
Ⅲ.地方創生に向けた政府に対する具体的提言
上記の地方創生に向けた考え方及び具体的施策等を踏まえ、政府に対して以下の各政
策を提言する。
提言1 私学助成における地方・中小規模大学を重視した施策の推進
1.私立大学等経常費補助金の補助率2分の1の実現
私立大学は、その人的・知的資源を活用して、地域の雇用創出や文化創造をはじめ、
観光・産業振興への貢献、地域の課題解決の促進など、地域創生の力強いエンジンとな
る。こうした私立大学の教育研究について一層の充実・強化を図るため、まずは基盤的
経費である私立大学等経常費補助金における補助率2分の1の速やかな実現を求める。
2.私学助成配分基準の撤廃
地方に立地する大学の「定員割れ」は、地方からの人口流出という都市と地方の構造
的な問題が大きく関係している。
これに起因する「定員割れ」によって、地方や中小規模の私立大学の私学助成が減額・
不交付となる現状は、地方創生政策に逆行しているといえる。現行の私学助成の配分に
おける「収容定員未充足の場合の経常費補助金の減額、特に充足率50%以下の場合の不
交付」となる基準の撤廃を求める。
- 5 -
3.私学助成における「社会貢献係数(仮称)」の導入
私立大学の地方創生に対する貢献をさらに“加速”させるため、例えば、若者を地方
に定着させるなど、地方ほど大学が立地することによる社会的・経済的意味が地方ほど
大きいとの認識から、私学助成(一般補助)の配分において、大学が立地する地域の人
口や年齢構成、市民・県民所得、県・市の進学率や就職率などの指標によって算出され
る「社会貢献係数(仮称)」を導入するなど、私学助成全体に大学の社会貢献度を反映
させる。
提言2 地方の若者への財政的支援
1.教育寮整備等への支援
地方で学生が安心して学び、また、広域間の大学連携による都市と地方の学生交流を
行うためには、複数大学による共同利用も含め、教育寮の整備など学習環境の充実が重
要であり、このための財政措置が必要である。
併せて、公営団地等の空き室等を活用した地域住民と学生との交流活動の萌芽も各地
で見られる。この更なる促進に向けた、運営面・財政面での地方自治体等の支援を期待
する。
2.新たな就学支援金制度創設及び教育に係る経費への公正な支援
都市部との経済格差が顕著な地方では、家庭の経済事情により若者の高等教育への進
学機会が奪われている。その格差の是正に向けては、大学生を対象とした新たな「就学
支援金」制度の創設や、所得連動返還型の無利子奨学金制度の速やかな改善・充実など、
ベストミックスの奨学金制度が整備されなければならない。
また、大学生一人当たりの政府補助金額には国私間に大きな隔たりが存在するが、国
公私いずれの大学生であっても、等しくわが国の未来を支える「人財」であることに違
いはない。よって、学生の教育に係る国の財政的支援経費については、設置形態の別に
かかわらず、等しく公平に支援されることが必要である。
特に国公私立大学間に厳然と存在する授業料格差は、学生のみならず社会人が必要と
する教育を受ける際の大きな障壁となっている。この格差是正に向けた国立大学法人運
営費交付金、地方交付税、私立大学等経常費補助金のあり方について速やかな検討が求
められる。
- 6 -
提言3 生涯学習社会の早期実現
地方の再生、すなわち、地方の生産性を高め、地方ならではの付加価値を生み出すた
めには、地方の人びとがそのライフサイクルの必要な時に、いつでも大学で教養や課題
解決の方法等について手厚い教育が受けられる仕組みが必要となる。社会経済環境の変
化が急速な現在、生涯にわたっていつでも学び直しの機会を得られることが、社会全体
の活力の維持のためには不可欠である。その学び直しの中心は大学であり、人生のさま
ざまな節目に大学があり、人びとの人生展開の拠点となる。このような生涯学習社会の
実現のために、キャリア中盤での学び直しを雇用制度に組み入れていくこと、横断的労
働市場の形成、学習成果の適切な社会的評価など、社会の仕組みの変化の後押しを求め
る。
提言4 高等教育のグランドデザインの構築
グローバル社会への対応、人口減少社会の到来、プライマリーバランスの均衡化など、
わが国が直面する多様な社会的課題の解決が希求される中で、同時に地方創生を成し遂
げていくためには、大学の機能・規模等について、これまでの「官から民へ」の国の政
策動向を踏まえた高等教育のグランドデザインを策定する必要がある。
高等教育のグランドデザインの構築に当たっては、①研究機能への特化や学部段階の
教育の縮小・再編など国立大学の機能・役割の根本に立ち返った再定義と分化や規模・
配置の適正化、②公立大学の存在意義の再検討と規模・配置の適正化を実現、③経済的
合理性を有するとともに、地域の特性に基づき、多様な価値追求によって地域を牽引す
るリーダー及び中間層を育成する私立大学を高等教育の基幹に据えた「高等教育のパラ
ダイムシフト(構造的大転換)」、が実現されなければならない。
なお、その際に大学の定員増に対する考え方や規模別・設置者別の大学設置基準の設
定などもあわせて検討される必要がある。
以 上
- 8 -
(出典)日本私立大学団体連合会:わが国の知識基盤社会を先導し、地域に貢献する私立大学・短期大学「資料編」 2
(出典)日本私立大学団体連合会:21世紀社会の持続的発展を支える私立大学「資料編」 3
- 10 -
委員名簿
高等教育改革委員会
委 員 長 黒 田 壽 二 金沢工業大学 学園長・総長
委 員 小 原 芳 明 玉 川 大 学 理事長・学長
金 尾 朗 昭和女子大学 副学長
鎌 田 薫 早稲田大学 総長
楠 見 晴 重 関 西 大 学 大学長
國 枝 マ リ 津田塾大学 大学長
小 出 忠 孝 愛知学院大学 学院長
佐 藤 東洋士 桜美林大学 理事長・総長
仙 波 憲 一 青 山 学 院 大学長
森 田 嘉 一 京都外国語大学 理事長・総長
森 本 正 夫 北海学園大学 理事長
吉 岡 知 哉 立 教 学 院 大学総長
地方活性化(地域共創)問題に関する小委員会
主 査 佐 藤 東洋士 桜美林大学 理事長・総長
専門委員 柏 木 正 博 大 正 大 学 専務理事
住 吉 廣 行 松 本 大 学 学長
谷 岡 一 郎 大阪商業大学 理事長・学長
鶴 衛 広島工業大学 理事長・総長・学長
廣 瀬 克 哉 法 政 大 学 常務理事・法学部教授
松 本 亮 三 東 海 大 学 観光学部長