「古民家再生による地域おこし」のための調査研究...地域課題研究ゼミナール支援事業...

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地域課題研究ゼミナール支援事業 成果報告概要 1 「古民家再生による地域おこし」のための調査研究 指導教員:金沢工業大学 環境・建築学部 教授 明彦 参加学生:穂刈 英樹・内山 健・崎山 潤・中澤 俊・村井 徹・ 山村 崇紘・増田 岳・寺嶋 健一・田口 幸治 1.調査研究成果要約(200文字以内) 本調査研究は,白山市白峰地区の活性化のために古民家活用によ るまちづくりを行うものである。古民家を「雪だるまカフェ」と 命名し,まちづくりの拠点,来訪者の休憩所,観光の情報発信施 設など多目的に活用することによって地域おこしの拠点施設と して整備するための提案とその実施活動を行う。同時に,世界遺 産指定へのステップとして重要伝統的建造物群保存地区(重伝建 地区)を目指す白峰地区に対して,街並や景観整備の提案とその 実施を行う。 2.調査研究の目的 白山市白峰地区は,豊かな自然条件と歴史的背景に育まれた建物,文化,景観を有しており,白峰 村の時期には街並の整備や雪だるま祭りなどのイベント,地域の文化発掘など,さまざまなまちづ くり活動でもその名が知られていた。しかし,長期的な過疎化現象とともに,2005 年の白山市へ の合併による独自性の喪失,スキー場の休業など観光客の減少,などにより近年は衰退が懸念され ている。 本調査研究ではこのような近年の不利な状況を打破すべく,白峰地区の優れた地域資源を活かしつ つ地域の活性化を図っていくことを目標としている。その上で,住民の有志とともに古民家を活用 した拠点施設づくりを進め,その結果街並整備や地域全体の活性化へとつなげていくことを目的と している。 同時に,これに関わる研究室の学生が,古民家というわが国の優れた建築の伝統について深く学び, 白峰地区という歴史・自然の豊かな地区の特性を分析し,地元住民との交流を通してまちづくりの 楽しさや大切さを学んでいく生きた教材として活用していくことが求められる。これによって大学 と研究室が地域への貢献を果たすとともに,地域に根ざした教材づくりを進めていく上の一助とも していきたい。

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地域課題研究ゼミナール支援事業 成果報告概要

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「古民家再生による地域おこし」のための調査研究

指導教員:金沢工業大学 環境・建築学部 教授 谷 明彦 参加学生:穂刈 英樹・内山 健・崎山 潤・中澤 俊・村井 徹・

山村 崇紘・増田 岳・寺嶋 健一・田口 幸治 1.調査研究成果要約(200文字以内)

本調査研究は,白山市白峰地区の活性化のために古民家活用によ

るまちづくりを行うものである。古民家を「雪だるまカフェ」と

命名し,まちづくりの拠点,来訪者の休憩所,観光の情報発信施

設など多目的に活用することによって地域おこしの拠点施設と

して整備するための提案とその実施活動を行う。同時に,世界遺

産指定へのステップとして重要伝統的建造物群保存地区(重伝建

地区)を目指す白峰地区に対して,街並や景観整備の提案とその

実施を行う。 2.調査研究の目的

白山市白峰地区は,豊かな自然条件と歴史的背景に育まれた建物,文化,景観を有しており,白峰

村の時期には街並の整備や雪だるま祭りなどのイベント,地域の文化発掘など,さまざまなまちづ

くり活動でもその名が知られていた。しかし,長期的な過疎化現象とともに,2005 年の白山市への合併による独自性の喪失,スキー場の休業など観光客の減少,などにより近年は衰退が懸念され

ている。 本調査研究ではこのような近年の不利な状況を打破すべく,白峰地区の優れた地域資源を活かしつ

つ地域の活性化を図っていくことを目標としている。その上で,住民の有志とともに古民家を活用

した拠点施設づくりを進め,その結果街並整備や地域全体の活性化へとつなげていくことを目的と

している。 同時に,これに関わる研究室の学生が,古民家というわが国の優れた建築の伝統について深く学び,

白峰地区という歴史・自然の豊かな地区の特性を分析し,地元住民との交流を通してまちづくりの

楽しさや大切さを学んでいく生きた教材として活用していくことが求められる。これによって大学

と研究室が地域への貢献を果たすとともに,地域に根ざした教材づくりを進めていく上の一助とも

していきたい。

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3.調査研究の内容 1)調査研究の手順・方法

本調査研究は以下の手順と方法で行ったものである。 ①文献調査:白峰地区に関わる文献や中山間地の活性化事例調査などを広範に行い,地域特性

や資源などの把握を行う。 ②住民代表ヒアリング:住民の代表者に地域の課題や悩み,また本事業への期待などを聴取し,

提案に反映させていく。 ③来訪者調査:「金沢魅力探偵団(行政・大学・コンサル・市民からなる組織)」に白峰地区を

町歩きしてもらい,アンケートによって感想や意見を得る。 ④現地実測調査:メジャーやスラントルーラーを使用して実測調査を行い,地形図では把握で

きない細かな地形の起伏や建物の位置・形状・色彩などを把握し,模型製作に活かす。 ⑤雪だるまグッズ調査:雪だるまカフェに展示する雪だるまに関するグッズをインターネット

などによって網羅的に調査し,そのうち一部は購入する。 ⑥ライトアップ実験:クリスマスイベントとして,雪だるまカフェと街並をライトアップする

実験を行い,それに対する住民や来訪者の反応を得る。 2)調査研究スケジュール

本調査研究では以下の表に示すスケジュールで調査研究を進めた。

月 調査研究内容 4月 予備調査(白峰地区について) 5月 予備調査(見学会等) 6月 文献調査(白峰の資源,活性化事例、歴史) 7月 文献調査(6月と同様),住民代表と打ち合わせ 8月 文献調査(6月と同様),住民代表と打ち合わせ 9月 現地調査,模型製作

10月 具体的な提案事項の考案,金沢魅力探偵団の町歩き 11月 雪だるまカフェに模型搬入,住民代表と打ち合わせ,クリスマスイベント準

備, 12月 クリスマスイベント準備と実験の実施,報告書(概要版)作成

4.調査研究の成果

本調査研究では,以下の6つの成果をあげることが出来た。 1)来訪者調査や住民代表ヒアリング調査の結果分析

来訪者については,「金沢魅力探偵団」の見学会のときにアンケートを配布し,専門家や市民の

目から見た白峰地区の魅力や課題について把握を行った。その結果,探偵団には白峰地区は来

訪先としてすこぶる好評で,もっと宣伝すべきとの意見や,公開建築物や駐車場の整備が必要

との意見が出された。

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また,住民代表との意見交換は数回にわたって行われ,地元がなかなか盛り上がらない苦労や

合併によって動きにくくなった点,学生が参加することのメリットなどが聞かれた。また,若

者の減った地元には学生が頻繁におとづれて訪れて活動すること自体が街の活気につながる

との声も聞かれるなど,本調査研究を進めること自体が成果を生んでいることが分かった。 2)現地実測調査による地形や建物分布の把握,および地区模型の製作

今年度は,雪だるまカフェに展示することを目指して白峰の地区模型を製作した。そのために,

地形図で分からない起伏や建物の位置・形状・色,などを細かく調査し,出来るだけ現実の街

並に近い1:500の模型を制作した。白峰地区は南北に1km以上と細長いため,今年度は

南半分を製作した。来年度に北半分を製作して合体させる予定である。 作成した模型は 10月の工大祭で展示した後,10月末から雪だるまカフェに展示している。雪だるまカフェでは,飲み物や栃もちなどを用意するために待ち時間があり,その間模型を眺め

て地区の特性を知ってもらうための一助になると考えている。

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3)白峰地区の現状と歴史,地域資源の把握と拠点施設活用の長期戦略の確立 昨年より始まった,古民家(雪だるまカフェ)の活用に加えて,白峰地区の活性化のためには

どのような方策が求められるのかについて,上記調査分析に基づいて以下のようなさまざまな

提案を行った。これらの提案については,短期的に実施し成果を出しやすいものと長期的に行

うもの,あるいは他の重伝建地区の選定や他のまちづくり活動との連携が必要なものも含まれ

ている。これらの戦略については現在まとめている最中であり,最終報告に含める予定である。 4)雪だるまカフェの開業支援とカフェの内装・展示品・飾り付けの充実

雪だるまカフェを充実させるために,内装や展示品などで改善を提案し,実施した。まず,雰

囲気にふさわしいテーブル(松の一枚板)を安く譲り受け,奥座敷に置くとともに,雪だるま

に関連するグッズを日本だけでなく広く海外からも集め,展示することにしている。今年度は

予算の関係もあるため,出来るだけ品数を集めるよう努めた。

5)クリスマスライトアップの実施 白峰地区には夜の演出が欠けている。そこで,クリスマスイベントとしてライトアップの実験

をすることを提案し実施に移した。白山市内の NPO から行灯を借り受け,またクリスマスイルミネーションを用意して 12月 16日の週に実施した。これが好評であれば,また雪だるま祭

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りにも実験の継続を行い,ゆくゆくはイベントとしても定着させていく予定である。

6)今後さらに提案事項の実施 本調査研究では,提案事項のうち本年中に実施するものとそれ以降に実施するものとに分かれ

ている。年内に実施できないものについても,期間にこだわらずに実施していきたい。例とし

ては以下のものがあげられる。 ①インターネットによる情報発信:雪だるまカフェとしてホームページを立ち上げ,情報発信

をするとともに反響を集める。また,将来的には「まちの駅」にすることも考える。 ②雪だるまカフェで提供するメニューの充実:現在は飲み物と栃もちしかないメニューに,堅

豆腐やおこわなどの地元特産品などを発掘し加える。 ③ガイドマップの作成:現在のマップは白峰地区の魅力を十分に表現しきれていないため,白

峰10景などを選定し,楽しく歩けるマップを作成する。 ④雪だるまカフェの2階の活用:2階に宿泊も可能になるように,簡易宿泊所としての登録や

内部の整備を行う。 ⑤梯子の復元:白峰地区に古くからあった雪下ろしのための木製の梯子は,現在では数本残る

のみとなっている。これを復元して街並の特性を復活させる。 ⑥道路標識の改善:地区内には子供のためにとまれの標識が道路貼り付けてあるが汚くなって

いる。これを雪だるまをモチーフにしたデザインで一新する。 ⑦石垣のコケによる緑化:街並には,一部に擁壁や石垣など景観を阻害する壁面が存在してい

る。これをコケを用いて緑化することによって景観になじんだものとしていく。 ⑧加藤家(雪だるまカフェの古民家)の文化財として登録:加藤家は文化財としての価値があ

ると考えられるために県の登録文化財への登録を進める。 など。

5.調査研究に基づく提言

今回の調査研究では,地域の資源調査や住民代表のヒアリング,来訪者のアンケートなどにより白

峰地区の資源,魅力,課題などを分析することが出来た。このことから,現在これらの分析を反映

させた長期戦略を立てている。この長期戦略にもとづいて以下の事柄を提言する予定である。 1)長期的には世界遺産を目指すため,重伝建地区の選定や重要文化財の発掘・登録など街並,建

築,史跡,文化など多面的な遺産の発掘が必要となる。そのためには,いままで育ててきた街

並を大切に,地域の文化や生活を守っていくという態度が不可欠である。

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2)全国的に中産間の集落は人口減少と高齢化に悩まされている。白峰地区がまちづくりに成功し

て,少しでもこの流れに逆らって活性化すれば,全国的にも出るとして注目を浴びるであろう。

まちづくりを一過性のイベントに終わらせないことが重要である。 3)本事業で,大学と地域が一体となって地域の課題に取り組むことが可能になったことは大変す

ばらしいことである。地域は大学の知恵と学生のパワーを得ることが出来,大学は貴重な教材

と生きた経験を得ることが出来る。このような取り組みがいっそう広がることが望まれる。 4)反面,あまり経験のない大学による思いつきの提案や地域の実情を無視した提案,一過性のイ

ベントの仕掛けなど,が懸念される。課題と研究室の選別も重要である。 6.調査研究の自己評価

今年度行った提案とそれに基づいて実施した活動については,何回かメディアにも取り上げられた

り,また地元の人々や来訪者にもおおむね好評であり,十分な成果を上げられたと受け止めている。

また,その多くは一過性のものではなく今後継続的に白峰地区のまちづくりに役立っていくものと

考えられる。 まちづくりは,本来長期的視野にたって継続的に行っていくものである。その意味では,今年度は

事業への採択から実施するまでの期間が十分ではなくすべての項目にわたって成果を出すことは

難しかった。そのため,提案については今年度実施可能なものと今後行うものに分けて,短期的に

成果が見えやすいものに資源を集中させた。そのため,雪だるまカフェの家具(松のテーブル)や

内装,展示品(地区模型,雪だるまグッズ)の充実についてはかなりの成果を上げることが出来た。

その反面,街並整備や地元の名産品の発掘,インターネットの活用などについては現状では提案に

とどまっている。 今年度の地域ゼミナール事業としては年度末で成果とするが,状況が許すのであれば来年度も継続

的にまちづくり活動を支援していきたい。