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みずほ日本経済情報 20184月号 トピック スロートレード脱却の兆しに関する検証 足元の世界貿易の持ち直しには、景気回復や半導体ブーム などの短期循環要因が大きく寄与。トレンド要因の寄与は 小さく、スロートレード時代脱却と評価するのは早計 景気判断 景気は回復が一服。 輸出や生産活動は回復が一服しているものの、堅調な雇 用・所得情勢を背景に、消費は緩やかに回復している。

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Page 1: みずほ日本経済情報 - mizuho-ri.co.jp€¦ · 3. 四半期の値は、季節調整済みデータが公表されている月までの平均値。前期比・前期差は、その前四半期に対する変化率

みずほ日本経済情報

2018年4月号

◆ トピック

スロートレード脱却の兆しに関する検証

足元の世界貿易の持ち直しには、景気回復や半導体ブーム

などの短期循環要因が大きく寄与。トレンド要因の寄与は

小さく、スロートレード時代脱却と評価するのは早計

◆ 景気判断

景気は回復が一服。

輸出や生産活動は回復が一服しているものの、堅調な雇

用・所得情勢を背景に、消費は緩やかに回復している。

Page 2: みずほ日本経済情報 - mizuho-ri.co.jp€¦ · 3. 四半期の値は、季節調整済みデータが公表されている月までの平均値。前期比・前期差は、その前四半期に対する変化率

1 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

1.総 括

日本経済の現状と先行

日本経済は回復が一服している。輸出、生産活動の回復は一服しているも

のの、堅調な雇用・所得情勢を背景に、消費は緩やかに回復している。経済

の活動水準は潜在生産量を上回って推移している。

先行きの日本経済は、輸出の緩やかな回復や個人消費の底堅い推移などに

より、緩やかに回復するとみられる。経済活動の水準は、潜在生産量を上回

って推移するだろう。

トピック

「スロートレード脱却

の兆しに関する検証」

2008年の世界金融危機以降、世界貿易の伸び率は鈍化傾向にあり、「スロー

トレード時代」と呼ばれた。しかし、2017年の世界貿易は持ち直し基調を強

めた。事実、2017年の世界輸入数量指数は前年比+4.6%と、2011年(+4.2%)

以来、7年ぶりに+4%台の伸び率まで回復した。

その要因を探るために、世界輸入数量指数について、ウェーブレット解析

による周波数分析を行った(図表 1)。その結果、2017年は短期循環要因によ

る押し上げが顕著となっている点が特徴的だ。この背景には、世界的な景気

回復による設備投資の増加に加えて、半導体ブームが大きく寄与していると

みられる。実際、世界半導体売上高の周波数分析を行うと(図表 2)、2017年

は短期循環要因による押し上げの寄与率が約 91%と非常に大きい。IoT や自

動運転、データセンターなどの新たな用途拡大が寄与しているとみられる。

短期要因に目を奪われがちだが、一方で世界輸入数量指数のトレンド要因

をみると、プラス寄与は過去よりも小さくなっている。中国を中心とする新

興国の輸入代替の進展などの構造変化により、貿易を押し上げる効果がはく

落している可能性がある。

トレンド低下に加えて、短期循環要因の押し上げが大きいことから鑑みて、

今後の半導体売上高伸び率は徐々にピークアウトしていき、世界貿易を押し

上げる効果は縮小するだろう。

以上を踏まえると、足元の世界貿易の活況がスロートレード時代からの脱

却と評価するのは早計と言えそうだ。

図表 1 世界輸入数量の寄与度分解(年平均) 図表 2 世界半導体売上高の寄与度分解(年平均)

(注) ウェーブレット解析による周波数分析。

(資料)Datastreamより、みずほ総合研究所作成

(注) ウェーブレット解析による周波数分析。

(資料)Datastreamより、みずほ総合研究所作成

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

10

12

14

1997~2000

2001~2004

2005~2008

2009~2012

2013~2016

2017

短期循環(5年程度)

長期循環(6~11年)

トレンド

合計

(成長率、%)

(年)

▲ 10

▲ 5

0

5

10

15

20

25

1997~2000

2001~2004

2005~2008

2009~2012

2013~2016

2017

短期循環(5年程度)

長期循環(6~11年)

トレンド

合計

(成長率、%)

(年)

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2 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

図表 3 景気判断

(注) 1.矢印の向きは景気の方向性を示している。上向きが拡大局面、横向きが横ばい局面、下向きが後退局面を意味する。

2. 矢印の色は生産の水準感を示している。白は潜在生産量を上回る、紺は潜在生産量を下回る、白紺の縦縞は潜在生産量

程度の生産量を意味する。

3. 先行き判断は、3 カ月程度先の動きに関する判断を示している。

(資料) みずほ総合研究所

図表 4 景気の全体観を示す主要統計

(注) 1.全産業活動指数の産業別内訳のうち、鉱工業は鉱工業指数、第 3 次産業は第 3 次産業活動指数の値。

2. 実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。

3. 四半期の値は、季節調整済みデータが公表されている月までの平均値。前期比・前期差は、その前四半期に対する変化率。

(資料) 内閣府「景気動向指数」、「四半期別GDP速報」、経済産業省「全産業活動指数」、「鉱工業指数」、「第 3 次産業活動指数」

3月

(現状判断) (現状判断) (先行き判断)

経済活動の方向性 緩やかに回復している 回復が一服している 緩やかに回復する

経済活動の水準 潜在生産量を上回って推移している 潜在生産量を上回って推移している 潜在生産量を上回って推移する

海外経済 緩やかに回復している 緩やかに回復している 緩やかな回復を維持する

輸出 緩やかに回復している 回復が一服している 緩やかに回復する

輸入 増勢が一服している 増勢が一服している 緩やかに回復する

生産・サービス活動 回復が一服している 回復が一服している 緩やかに回復する

企業収益 回復が一服している 回復が一服している 緩やかに回復する

企業マインド 改善が一服している 改善が一服している 底堅く推移する

設備投資 持ち直しが一服している 持ち直しが一服している 緩やかに回復する

雇用者所得 回復傾向にある 回復傾向にある 底堅く推移する

消費者マインド 改善が一服している 改善が一服している 底堅く推移する

個人消費 緩やかに回復している 緩やかに回復している 底堅く推移する

住宅着工 減少している 減少している 緩やかに減少する

公的需要 弱含んでいる 下げ止まりつつある 底堅く推移する

国内企業物価 プラス幅が縮小している プラス幅が縮小している プラス幅が拡大する

消費者物価 プラス幅の拡大が一服している プラス幅が拡大している プラス幅が緩やかに拡大する

金融政策 金融緩和を進めている 金融緩和を進めている 現行の政策を維持する

企業部門

家計部門

政府・物価

4月

総括

対外部門

FY2015 FY2016 2017Q3 2017Q4 2018Q1 2017/10 2017/11 2017/12 2018/01 2018/02

景気動向指数 CI 先行指数 前期差、Pt - - - - - ▲ 0.3 1.5 ▲ 0.7 ▲ 1.2 0.2

CI 一致指数 前期差、Pt - - - - - 0.1 1.3 2.0 ▲ 4.8 0.7

CI 遅行指数 前期差、Pt - - - - - 1.4 0.3 0.2 0.5 0.4

DI 先行指数 % - - - - - 68.2 68.2 50.0 60.0 11.1

DI 一致指数 % - - - - - 66.7 61.1 88.9 50.0 28.6

DI 遅行指数 % - - - - - 100.0 88.9 88.9 62.5 75.0

全産業活動指数 全産業 前期比、% 0.9 0.6 ▲ 0.3 0.8 ▲ 1.1 0.2 1.0 0.6 ▲ 1.8 n.a.

鉱工業 前期比、% ▲ 0.9 1.1 0.4 1.8 ▲ 2.8 0.5 0.5 2.9 ▲ 6.8 4.1

第3次産業 前期比、% 1.4 0.4 ▲ 0.2 0.7 ▲ 0.2 0.1 1.1 0.0 ▲ 0.6 n.a.

建設業 前期比、% 1.1 2.2 ▲ 2.4 ▲ 2.8 1.2 ▲ 0.4 0.3 ▲ 0.8 1.7 n.a.

国民経済計算 実質GDP 前期比、% 1.4 1.2 0.6 0.4 n.a. - - - - -

前期比年率、% - - 2.4 1.6 n.a. - - - - -

民需 寄与度、%Pt 1.1 0.3 0.2 0.4 n.a. - - - - -

公需 寄与度、%Pt 0.3 0.1 ▲ 0.1 0.0 n.a. - - - - -

外需 寄与度、%Pt 0.1 0.8 0.5 0.0 n.a. - - - - -

名目GDP 年率、兆円 533.9 539.3 549.2 550.7 n.a. - - - - -

前期比、% 3.0 1.0 0.7 0.3 n.a. - - - - -

GDPデフレーター 前年比、% 1.5 ▲ 0.2 0.2 0.0 n.a. - - - - -

内需デフレーター 前年比、% 0.0 ▲ 0.4 0.6 0.6 n.a. - - - - -

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3 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

2.対外部門

海外経済 海外経済は緩やかに回復している。米国とユーロ圏の景況感は、製造業、

非製造業ともに前月から低下したが、いずれも高水準を維持している(図表 1)。

ユーロ圏は、寒波の影響に伴う物流の遅れなどが下押ししたようだ。中国は、

製造業、非製造業ともに上昇した。

今後の海外経済は、緩やかな回復を維持する見込みである。米国は減税の

効果もあって、個人消費や設備投資が下支えするだろう。ユーロ圏も、内需

を中心に底堅く推移するとみられる。中国経済は、構造改革の推進を背景に、

緩やかに減速すると見込まれる。ただし、米中の貿易摩擦懸念などにより、

先行きの不透明感が増大すれば、企業の設備投資姿勢の慎重化等を通じて世

界経済の下押し圧力となる可能性がある。

輸出 輸出は回復が一服している。2月の輸出数量指数(※)は、前月比▲1.5%

と 2カ月連続で低下した(図表 2)。米国向けが伸びた一方、春節の影響によ

り中国向けが大幅なマイナスとなったためである。1~2月を 10~12月期対比

でみても▲0.8%と減少しており、力強さに欠ける結果となった。

一般機械輸出の先行指標である機械受注・外需は底堅く推移しており、米

国の減税策や中国の自動化投資の継続等が資本財を中心に輸出の下支えとな

るだろう。先行きの輸出は、世界経済が回復傾向で推移することを受けて、

緩やかに回復するとみている。

インバウンド 2月の訪日外客数は、前年比+23.3%と前月(+9.0%)から伸び率が高ま

った(図表 3)。中華圏の旧正月(2月 16日から)休暇の後ずれ(昨年は 1月

28日から)による影響が大きく、中国や香港、台湾からの旅行者が持ち直し

た。1~2月累計では前年比+15.7%と増勢を維持している。先行きは、LC

Cなどの航空路線の新規就航・増便やクルーズ船の寄港増加、中国人に対す

るビザ発給要件の緩和が追い風となって、訪日外客数の増勢は続くだろう。

ただし、円高傾向が強まれば、NIEs等の旅行者数が下押しされるリスクには

留意が必要だ。

輸入 輸入は増勢が一服している。2月の輸入数量指数(※)は、春節の影響など

もあって、前月比+7.5%と大幅に上昇した。もっとも、1~2月を 10~12月

期対比でみると+0.4%と小幅な増加に留まっている。先行きは、国内の生産

活動の回復に伴い輸入も緩やかに回復していくだろう。

(※)みずほ総合研究所による季節調整値

経常収支 経常収支(季節調整値)は、黒字幅が縮小している。2月の経常黒字は、春

節の影響もあって貿易収支が2015年 9月以来のマイナスとなったことを主因

に、12.3兆円(年率換算値)と前月から大幅に縮小した(図表 4)。1~2月を

10~12月期対比でみても、経常黒字は 5兆円(年率換算値)縮小した。

先行きについては、第一次所得収支の大幅な黒字は続く一方、原油価格の

上昇に伴い、貿易黒字に下押し圧力がかかることから、経常黒字は高水準な

がらも縮小傾向で推移するとみている。

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4 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

図表 1 米欧中の景況感(製造業) 図表 2 輸出数量指数(地域別)

(注)指数が50以上で景況感の回復、50未満で景況感の悪化を示唆。

(資料)米サプライマネジメント協会、Markit、中国物流購買連合会より、

みずほ総合研究所作成

(注) みずほ総合研究所による季節調整値。

(資料) 財務省「貿易統計」より、みずほ総合研究所作成

図表 3 訪日外国人客数 図表 4 経常収支

(資料) 日本政府観光局より、みずほ総合研究所作成 (注)季節調整済年率換算値。

(資料)日本銀行「国際収支統計」より、みずほ総合研究所作成

図表 5 対外部門の主要統計

(注) 1.実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。

2.四半期の値は、季節調整済みデータが公表されている月までの平均値・合計値。前期比は、その前四半期に対する変化率。

3.輸出数量及び輸入数量はみずほ総合研究所による季節調整値。

(資料) 財務省「貿易統計」、日本銀行「実質輸出入」、「国際収支統計」、「外国為替相場」、日本政府観光局「訪日外客数」、観光庁「訪日外国人

消費動向調査」、米サプライマネジメント協会、Markit、中国物流購買連合会、CPB Netherlands Bureau for Economic Policy Analysis

45

50

55

60

65

15/1 15/7 16/1 16/7 17/1 17/7 18/1

米国製造業ISMユーロ圏製造業PMI中国製造業PMI

(年/月)

(指数)

75

80

85

90

95

100

105

110

115

14/1 14/7 15/1 15/7 16/1 16/7 17/1 17/7 18/1

世界 米国

EU アジア

(2010年=100)

(年/月)

▲ 100

1020304050607080

15/01 15/07 16/01 16/07 17/01 17/07 18/01

中国 NIEs

ASEAN 欧米豪諸国

その他 全体

(前年比、%)

(年/月)

▲ 30

▲ 20

▲ 10

0

10

20

30

14/1 14/7 15/1 15/7 16/1 16/7 17/1 17/7 18/1

第二次所得収支第一次所得収支サービス収支貿易収支

(年/月)

(兆円)

FY2016 FY2017 2017Q3 2017Q4 2018Q1 2017/11 2017/12 2018/01 2018/02 2018/03

海外経済 CPB生産指数 前期比、% 2.3 n.a 1.1 1.0 0.4 0.8 0.3 0.0 n.a. n.a.

米国 前期比、% ▲ 0.5 n.a ▲ 0.3 2.0 0.1 0.3 0.4 ▲ 0.3 n.a. n.a.

ユーロ圏 前期比、% 1.9 n.a 1.5 1.1 ▲ 0.9 1.7 0.1 ▲ 1.5 n.a. n.a.

アジア 前期比、% 4.9 n.a 1.5 0.7 2.2 0.9 ▲ 0.1 2.0 n.a. n.a.

製造業の業況

米国(ISM) DI - - - - - 58.2 59.3 59.1 60.8 59.3

ユーロ圏(PMI) DI - - - - - 60.1 60.6 59.6 58.6 56.6

中国(PMI)「国家統計局版」 DI - - - - - 51.8 51.6 51.3 50.3 51.5

実質実効為替レート 前年比、% 11.6 n.a ▲ 10.0 ▲ 8.0 ▲ 3.5 ▲ 8.8 ▲ 3.5 ▲ 3.8 ▲ 3.0 n.a.

輸出 輸出数量 前期比、% 2.4 n.a 1.5 2.0 ▲ 0.8 1.4 2.2 ▲ 2.0 ▲ 1.5 n.a.

米国向け 前期比、% ▲ 0.1 n.a 2.6 ▲ 0.9 ▲ 0.7 1.7 0.1 ▲ 3.9 5.3 n.a.

欧州向け 前期比、% 4.8 n.a ▲ 3.7 0.8 2.2 ▲ 2.0 2.5 1.8 ▲ 1.1 n.a.

アジア向け 前期比、% 3.0 n.a 2.1 3.5 ▲ 1.8 0.9 0.4 0.5 ▲ 5.7 n.a.

 うち中国向け 前期比、% 7.6 n.a 1.6 5.4 ▲ 3.6 2.3 0.3 3.6 ▲ 15.8 n.a.

実質輸出 前期比、% 4.0 n.a 2.0 2.3 1.4 5.2 ▲ 2.4 2.5 ▲ 2.1 n.a.

インバウンド 訪日外客数 前年比、% 16.2 n.a 18.8 23.6 n.a. 26.8 22.9 9.0 23.3 n.a.

訪日外国人旅行消費額 前年比、% 2.3 n.a 26.7 27.8 n.a. - - - - -

輸入 輸入数量 前期比、% 0.7 n.a ▲ 0.5 3.1 0.4 1.9 6.8 ▲ 7.9 7.5 n.a.

実質輸入 前期比、% ▲ 0.3 n.a ▲ 1.5 2.7 2.9 3.8 2.6 ▲ 3.1 6.3 n.a.

対外収支 経常収支 年率、兆円 21.0 n.a 22.8 23.3 18.3 22.4 20.1 24.3 12.3 n.a.

貿易・サービス収支 年率、兆円 4.4 n.a 5.2 5.5 0.8 4.9 2.8 5.2 ▲ 3.7 n.a.

第一次所得収支 年率、兆円 18.7 n.a 20.0 20.2 19.6 19.9 20.0 20.8 18.3 n.a.

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5 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

3.企業部門

生産・サービス活動

生産・サービス活動は回復が一服している。2 月の鉱工業生産は、前月比

+4.1%と上昇した(図表 1)。前月に大幅な減産となっていた輸送機械工業や

電子部品・デバイス工業などを中心に多くの業種で反動増となった。ただし、

1~2月を 10~12月期対比でみると▲2.9%と落ち込んでいる。

先行きは、緩やかに回復するとみている。予測指数から計算すると、1~3

月期の鉱工業生産は▲2.0%(補正値べース)と、8四半期ぶりのマイナスと

なる公算が大きい。しかし、3、4月の計画は、はん用・生産用・業務用機械

工業を中心に 2カ月連続の増産見通しであり、内外の設備投資の堅調な推移

を受けて、鉱工業生産は回復に向かうだろう。サービス活動は、世界経済の

回復や個人消費の底堅さを背景に、緩やかに回復する見込みだ。

企業収益 企業収益は回復が一服している。日銀短観(3月調査、以下同)では、2017

年度の経常利益計画(全規模・全業種)が、海外経済の回復や内需の底堅さ

を背景に前年比+7.1%と 12月調査から上方修正された。ただし、2017年度

下期でみると、経常利益計画は減益(▲5.5%)に転じる(上期:+21.6%)

見込みとなっている。

先行きの企業収益は緩やかに回復する見通しである。世界経済の持ち直し

が続くことや、サービス活動の回復が収益を押し上げるだろう。ただし、原

油価格や人件費の上昇に伴うコスト増により、収益が下振れするリスクがあ

る。また、2018年度の想定為替レートは 109.66円と、2017年度計画対比で 1

円円高に設定された(図表 2)ものの、足元の円高を十分に織り込めておらず、

収益の下振れ余地がある点にも留意が必要だ。

企業マインド

企業マインドは改善が一服している。日銀短観では、輸出や生産の回復一

服を受けて、大企業・製造業の業況判断DIが 8四半期ぶりに、大企業・非

製造業が 6四半期ぶりに低下した(図表 3)。一方、3月の景気ウォッチャー

の現状判断DIは 48.9と、前月から小幅に上昇した。

今後の企業マインドは、底堅く推移するだろう。世界経済の持ち直しがプ

ラス要因となる一方、原油価格や人件費上昇が重石となりそうだ。また、米

中の貿易摩擦懸念の高まり等によって、円高がさらに進展してマインドを冷

え込ませる可能性には留意すべきだろう。

設備投資

設備投資は持ち直しが一服している。2月の資本財総供給(除く輸送機器)

は前月比▲1.4%と 2カ月連続で低下した。

日銀短観では、2018年度の設備投資計画は前年比▲0.7%と、期初前の計画

としては強めの内容となった(図表 4)。また、先行指標である 2月の機械受

注(船舶、電力除く民需)も前月比+2.1%と、2カ月連続で増加しており、1

~3月期の内閣府見通しを大幅に上回る見込みだ。機械メーカーの供給制約が

重石となる可能性があるが、世界経済の持ち直しやオリンピック対応、人手

不足に伴う省力化・効率化に向けた投資意欲が旺盛であることを背景に、設

備投資は緩やかに回復するだろう。

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6 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

図表 1 鉱工業生産指数 図表 2 想定為替レート

(資料) 経済産業省「鉱工業指数」より、みずほ総合研究所作成 (資料)Datastream、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総

合研究所作成

図表 3 業況判断DI(大企業) 図表 4 設備投資計画(全規模全産業)

(資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研究所作成 (注)土地含む、ソフトウェア及び研究開発費除くベース。

(資料)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」より、みずほ総合研究所作成

図表 5 企業部門の主要統計

(注) 1.実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。

2.四半期の値は、季節調整済みデータが公表されている月までの平均値。前期比・前期差は、その前四半期に対する変化率。

(資料) 経済産業省「鉱工業指数」、「第3次産業活動指数」、「鉱工業総供給表」、「特定サービス産業動態統計調査」、財務省「法人企業統計」、日本銀行「全国企業

短期経済観測調査」、内閣府「景気ウォッチャー調査」、「機械受注統計調査報告」、国土交通省「建築着工統計調査報告」、内閣府「法人企業景気予測調査」

92

94

96

98

100

102

104

106

108

110

112

14/1 14/7 15/1 15/7 16/1 16/7 17/1 17/7 18/1 (年/月)

(2010年=100)

補正値

生産

計画

予測指数

100

105

110

115

120

16/10 17/1 17/4 17/7 17/10 18/1 18/4

2017年度想定レート

(12月調査:110.18円/ドル)

2018年度想定レート

(3月調査:109.66円/ドル)

2017年度想定レート

(3月調査:110.67円/ドル)

(年/月)

(円/ドル)

円安

円高

2016年度想定レート

(6月調査:108.29円/ドル)

▲ 60

▲ 50

▲ 40

▲ 30

▲ 20

▲ 10

0

10

20

30

06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18

(%Pt)先行き

大企業製造業

大企業非製造業

(年)

▲ 6

▲ 4

▲ 2

0

2

4

6

8

10

3月調査 6月調査 9月調査 12月調査 見込 実績

(前年比、%)

2017年度

2017年度(新ベース)

2015年度

2016年度

2018年度

FY2016 FY2017 2017Q3 2017Q4 2018Q1 2017/11 2017/12 2018/01 2018/02 2018/03

生産・サービス 鉱工業生産指数 前期比、% 1.1 n.a. 0.4 1.8 ▲ 2.9 0.5 2.9 ▲ 6.8 4.1 n.a.

活動 鉱工業出荷指数 前期比、% 0.8 n.a. 0.4 1.0 ▲ 2.1 2.3 2.9 ▲ 5.7 2.2 n.a.

鉱工業在庫指数 前期比、% ▲ 4.0 n.a. ▲ 2.8 2.3 ▲ 0.5 ▲ 0.8 ▲ 0.3 ▲ 0.5 0.9 n.a.

出荷・在庫バランス %Pt 4.8 n.a. 6.1 0.9 n.a. ▲ 0.7 2.1 0.5 ▲ 1.0 n.a.

製造工業設備稼働率指数 前期比、% 0.6 n.a. ▲ 0.2 1.2 ▲ 5.6 0.0 2.8 ▲ 7.3 n.a. n.a.

第3次産業活動指数 前期比、% 0.4 n.a. ▲ 0.2 0.6 ▲ 0.2 1.1 0.0 ▲ 0.6 n.a. n.a.

収益 経常利益 前年比、% 10.0 n.a. 5.5 0.9 n.a. - - - - -

前期比、% - - ▲ 2.0 ▲ 1.7 n.a. - - - - -

製造業 前年比、% 9.8 n.a. 44.0 2.5 n.a. - - - - -

非製造業 前年比、% 10.2 n.a. ▲ 9.5 ▲ 0.0 n.a. - - - - -

マインド 大企業業況判断DI %Pt - - 23 26 23 - - - - -

製造業 %Pt - - 22 26 24 - - - - -

非製造業 %Pt - - 23 25 23 - - - - -

景気ウォッチャー調査DI %Pt - - - - - 54.1 53.9 49.9 48.6 48.9

設備投資 名目設備投資(ソフトウェア除く) 前期比、% 2.7 n.a. 2.1 3.1 n.a. - - - - -

製造業 前期比、% 4.0 n.a. 3.8 7.7 n.a. - - - - -

非製造業 前期比、% 2.1 n.a. 1.2 0.6 n.a. - - - - -

資本財出荷(除く輸送機械) 前期比、% 1.6 n.a. ▲ 0.2 4.3 ▲ 2.3 3.7 3.8 ▲ 5.2 ▲ 1.3 n.a.

資本財総供給(除く輸送機械) 前期比、% 1.0 n.a. ▲ 0.7 1.2 ▲ 2.4 2.9 6.5 ▲ 6.5 ▲ 1.4 n.a.

機械受注(船舶・電力除く民需) 前期比、% 0.5 n.a. 2.8 0.3 4.3 5.5 ▲ 9.3 8.2 2.1 n.a.

建築物着工床面積(非居住用) 前期比、% 2.7 n.a. 3.3 ▲ 0.5 ▲ 2.6 ▲ 1.1 ▲ 12.3 4.7 4.4 n.a.

ソフトウェア受注額 前年比、% 1.1 n.a. 1.0 ▲ 1.7 n.a. ▲ 4.5 0.2 ▲ 3.5 ▲ 3.9 n.a.

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7 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

4.家計部門

雇用者所得 雇用者所得は回復傾向にある。2月の就業者数は、2カ月連続の大幅増(前

月差+51万人)を記録して過去最高を更新した。女性の自営業者や、非正規

雇用が大幅に増加した(図表 1)。労働参加率の上昇が就業者数の増加を上回

ったため、失業率は前月から小幅に上昇したものの低水準を維持した。また、

有効求人倍率は 5年 5カ月ぶりに低下したが、歴史的な高水準を維持してい

る。一方、生鮮食品などの物価上昇により、実質賃金は 3カ月連続の前年比

マイナスとなった。雇用者数の増加が実質賃金の下落を上回ったことで、実

質雇用者所得は、前年比+1.6%と前月(+0.9%)から伸びが高まった。

1~2月の雇用者数の急増の主因は非正規雇用であることから、現状のペー

スでの増加が続くとは考えにくい。他方で、日銀短観(3月調査)における雇

用人員判断DIは約 26年ぶりのマイナス幅となり、人手不足感は依然として

強く雇用者数の増加傾向は続くだろう。また、2018年の春季労使交渉(春闘)

の結果をみると、現段階(4/6時点で妥結済みの企業平均)での春季賃上げ

率は、大幅加速には至らなかったものの、昨年同時期と比べて上昇した(図

表 2)。これを受けて、所定内給与やボーナスなどの名目賃金は増加していく

見込みだ。生鮮食品価格の高騰も 3 月中旬以降は一服しており、今後の実質

雇用者所得は底堅く推移すると予想する。

消費者マインド 消費者マインドは改善が一服している。3月の消費者態度指数は前月から横

ばいだった。3月の調査時点では、生鮮食品価格の高騰はまだ続いており、下

押し要因となった可能性がある。今後については、ガソリンや生鮮食品価格

高騰の一服や雇用者所得の回復などを背景に、消費者マインドは底堅く推移

するとみている。

個人消費 個人消費は緩やかに回復している。2月の実質消費活動指数(旅行収支調整

済)は、前月急増したサービス消費の反動減が主因となり、2カ月ぶりに低下

した(図表 3)。もっとも、1~2月を 10~12月期対比でみると+0.3%と増加

傾向を維持している。足元(3月)では、好天に恵まれたことなどから大手百

貨店(既存店ベース)は 5社が増収となった。一方、3月の自動車販売台数は

小幅に低下しており、1~3月期は 2四半期連続の減少となった。

先行きは、雇用・所得環境やマインドの底堅さ、家電などの耐久財の買い

替え需要などを背景に、底堅く推移するとみている。

住宅着工 新設住宅着工戸数は減少している。2 月の着工戸数は、前月比+8.2%と 2

カ月ぶりのプラスとなった(図表 4)。貸家と分譲住宅が前月から増加した。

ただし、1~2月を 10~12月期対比でみれば▲6.0%と減少が続いている。

先行きも、マンションの在庫調整圧力や相続税対策の効果一巡、アパート

ローンの抑制などが下押し要因となるため、住宅着工戸数は緩やかに減少す

るだろう。

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8 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

図表 1 雇用者数の内訳 図表 2 春季賃上げ率(第 3回回答集計)

(注)みずほ総合研究所による季節調整値。

(資料)総務省「労働力調査」より、みずほ総合研究所作成

(資料)日本労働組合総連合会「2018春季生活闘争 第3回回答集計結果につい

て」より、みずほ総合研究所作成

図表 3 消費活動指数の推移 図表 4 住宅着工戸数の推移

(資料)日本銀行「消費活動指数」より、みずほ総合研究所作成 (資料)国土交通省「住宅着工統計」より、みずほ総合研究所作成

図表 5 家計部門の主要統計

(注) 1. 実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。

2. 消費総合指数は四半期系列、月次系列ごとに季節調整がかけられるため、月次平均と四半期値は一致しない。

3. 実質小売業販売額はみずほ総合研究所による計算値。新車販売台数はみずほ総合研究所による季節調整値。

4. 四半期の値は、季節調整済みデータが公表されている月までの平均値。前期比・前期差は、その前四半期に対する変化率。

(資料) 総務省「労働力調査」「家計調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況」「毎月勤労統計」、内閣府「消費動向調査」「消費総合指数」、経済産業省「商業動態統計」、

国土交通省「建築着工統計」、日本銀行「消費活動指数」、日本自動車販売協会連合会等

▲ 60

▲ 40

▲ 20

0

20

40

60

80

2016 2017 2018

正規の職員・男 非正規の職員・男

正規の職員・女 非正規の職員・女

合計

(前月差、万人)

(年)1.5

1.6

1.7

1.8

1.9

2.0

2.1

2.2

2.3

2.4

2.5

2002 04 06 08 10 12 14 16

(%)

(年)

▲ 1.0

▲ 0.5

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

16/07 16/10 17/01 17/04 17/07 17/10 18/01(年/月)

サービス 耐久財

非耐久財 消費活動指数

(旅行収支調整済)

(前月比、%)

15

20

25

30

35

40

45

13 14 15 16 17 18

貸家

持家

分譲住宅

(年)

80

85

90

95

100

105

110

13 14 15 16 17 18

総戸数

(年)

(年率、万戸) (年率、万戸)

FY2016 FY2017 2017Q3 2017Q4 2018Q1 2017/11 2017/12 2018/01 2018/02 2018/03

雇用・所得 完全失業率 % 3.0 n.a. 2.8 2.7 2.5 2.7 2.7 2.4 2.5 n.a.

就業者数 前期差、万人 65 n.a. 23 3 70 11 ▲ 2 42 51 n.a.

有効求人倍率 倍 1.40 n.a. 1.52 1.57 1.59 1.56 1.59 1.59 1.58 n.a.

新規求人数 前期比、% 5.3 n.a. 1.9 2.4 ▲ 4.3 1.5 2.5 ▲ 7.9 3.6 n.a.

所定外労働時間 前期比、% ▲ 0.7 n.a. ▲ 0.2 0.3 ▲ 1.3 0.6 ▲ 0.8 ▲ 1.7 1.4 n.a.

名目賃金 前年比、% 0.4 n.a. 0.2 0.7 n.a. 0.9 0.9 1.2 1.3 n.a.

実質賃金 前年比、% 0.5 n.a. ▲ 0.5 ▲ 0.2 n.a. 0.1 ▲ 0.3 ▲ 0.6 ▲ 0.5 n.a.

名目雇用者所得(雇用者数×名目賃金) 前年比、% 1.8 n.a. 1.8 1.8 n.a. 2.4 1.6 2.7 3.4 n.a.

実質雇用者所得(雇用者数×実質賃金) 前年比、% 1.9 n.a. 1.0 0.9 n.a. 1.6 0.4 0.9 1.6 n.a.

マインド 消費者態度指数 % - - - - - 44.6 44.6 44.6 44.3 44.3

個人消費 消費総合指数 前期比、% 0.1 n.a. ▲ 0.7 0.5 ▲ 0.1 1.5 ▲ 1.0 ▲ 0.2 0.5 n.a.

消費活動指数(実質・旅行収支調整済) 前期比、% 0.4 n.a. ▲ 0.6 0.2 0.3 0.8 ▲ 0.5 0.5 ▲ 0.2 n.a.

実質消費支出(二人以上の全世帯) 前期比、% ▲ 1.3 n.a. ▲ 0.3 ▲ 0.6 1.3 1.4 ▲ 1.6 2.7 ▲ 1.5 n.a.

実質小売業販売額 前期比、% ▲ 0.1 n.a. ▲ 0.6 0.2 ▲ 1.3 1.2 ▲ 0.4 ▲ 1.5 0.0 n.a.

新車販売台数(乗用車) 年率、万台 424.3 435.0 432.6 426.7 425.5 427.2 434.1 426.1 425.6 424.7

住宅着工 合計 年率、万戸 97.4 n.a. 95.5 94.8 89.1 96.2 93.6 85.6 92.6 n.a.

持家 年率、万戸 29.2 n.a. 28.0 27.9 27.9 27.9 28.0 28.4 27.4 n.a.

貸家 年率、万戸 42.7 n.a. 41.8 40.4 39.8 42.1 38.0 38.4 41.1 n.a.

分譲住宅 年率、万戸 24.9 n.a. 25.3 25.1 21.3 26.1 24.9 20.6 22.1 n.a.

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9 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

5.政府部門・物価

公的需要 公的需要は下げ止まりつつある。1月の公共工事出来高は 2カ月連続で増加

した(図表 1)。先行指標である 3 月の公共工事請負金額は、4 カ月ぶりに増

加に転じたものの、1~3 月期でみると前期比▲5.7%となっている。29 年度

補正予算による公共事業が 4~6月期以降に進捗することが見込まれるが、当

面は公共投資の大幅な増加は見込みにくいだろう。政府消費は社会保障給付

の拡大で増加することから、公的需要全体では底堅く推移する見通しだ。

経済政策 平成 30年度税制改正関連法が 3月に成立した。この中で、2013年度に導入

されていた所得拡大促進税制が改正された。本税制の狙いは、賃上げに積極

的な企業の税負担を軽減することで、持続的な賃上げを促すことにある。し

かし、改正前の所得拡大促進税制による賃上げ効果を試算すると、2016年度

でわずか 0.2%程度(2012 年度対比)と限定的だ。今般の改正内容を見ると

(図表 2)、賃上げ要件が厳格化されたうえに、国内設備投資の要件も加わっ

たことで、改正前と比べて適用のハードルはさらに高まっている。税額控除

の適用を受けるために賃上げを行う企業が大幅に増加するとは考えにくく、

本税制だけで十分な賃上げを期待するのは困難だろう。規制緩和の促進等の

取り組みを合わせて実施し、企業の期待成長率を高めることも必要だ。

国内企業物価 国内企業物価は前年比プラス幅が縮小している。3月は前年比+2.1%と、5

カ月連続でプラス幅が縮小した。電力・都市ガス・水道の伸びが鈍化したほ

か、石油・石炭製品や非鉄金属なども押し下げ要因となった。足元では原油

価格が上昇していることから、今後、国内企業物価指数の前年比プラス幅は

拡大するだろう。

消費者物価 消費者物価はプラス幅が拡大している。2月の全国コアCPI(生鮮食品を

除く)は、前年比+1.0%と 3カ月ぶりにプラス幅が拡大した。ガソリン価格

の上昇により、エネルギー価格が押し上げ要因となった。エネルギー以外で

は、値下げが加速していた前年の裏が出たことから携帯電話機の伸びが拡大

したほか、春節や平昌五輪などを背景に宿泊費や外国パック旅行費が押し上

げに寄与した形だ(図表 3)。3~4月のガソリン価格の伸びはいったん縮小す

るものの、原油価格の上昇を背景にその後は再び伸び率が高まることから、

全国コアCPIのプラス幅は緩やかに拡大する見通しだ。また、生鮮食品及

びエネルギーを除くCPIの伸びも緩やかに上昇すると見込んでいる。足元

では外食などのサービスの寄与度が高まってきており(図表 4)、今後、人件

費の上昇などを背景に価格転嫁が一定程度進展するだろう。

金融政策 日銀は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」に即して、現状程度の金

利水準を維持すべく金融緩和を進めている。3月に開催された金融政策決定会

合では、「強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが必要との判断に変わり

はない」などの意見が出たほか、4月 9日の黒田総裁の再任記者会見でも、「2%

の物価安定目標を実現するために必要な措置を採っていくことに変わりはな

い」といった発言がみられた。日銀は現行の政策を維持する見通しだ。

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10 みずほ日本経済情報(2018 年 4 月号)

図表 1 公共工事出来高・請負金額の推移 図表 2 所得拡大促進税制の効果

(注) みずほ総合研究所による季節調整値。

(資料) 国土交通省「建設総合統計」、保証事業会社3社「公共工事前払金保証統計」

より、みずほ総合研究所作成

(資料)財務省資料より、みずほ総合研究所作成

図表 3 消費者物価指数 図表 4 消費者物価指数の寄与度分解

(生鮮食品及びエネルギーを除く)

(資料)総務省「消費者物価指数」より、みずほ総合研究所作成 (資料)総務省「消費者物価指数」より、みずほ総合研究所作成

図表 5 政府部門・物価の主要統計

(注) 1.四半期の値は、季節調整済みデータが公表されている月までの平均値。前期比・前期差は、その前四半期に対する変化率。

2. 公共工事出来高、公共工事請負金額はみずほ総合研究所による季節調整値。

3. 公共工事出来高は2017年4月より新推計値に変更された。既公表系列と新公表系列を接続させるため、新推計値に基づく2016年度の参考数値と、既公表

値の比率により2017年4月以降の系列の水準を調整している。

4. 物価指数は実数データより変化率を計算しているため、公表値と一致しないことがある。

(資料) 国土交通省「建設総合統計」、保証事業会社「公共工事前払金保証統計」、財務省「租税及び印紙収入、収入額調」、日本銀行「企業物価指数」

「日本銀行国際商品指数」、総務省「消費者物価指数」より、みずほ総合研究所作成

0.9

1.0

1.1

1.2

1.3

1.4

1.5

1.6

1.5

1.6

1.7

1.8

1.9

2

15/1 15/7 16/1 16/7 17/1 17/7 18/1

公共工事出来高

公共工事請負金額(右目盛)

(兆円)

(年/月)

(兆円)

1月

旧制度 新制度(2018年度税制改正大綱)

賃上げ要件

・給与等支給増加割合が2012年度対比で2013年度2%、2014年度2%、2015年度3%、2016年度4%、2017年度5%以上(中小企業は3%以上)・給与等支給額が前期の給与等支給額以上・平均給与等支給額が前年度を上回ること(2017年度は大企業は前年度対比で2%以上増加)

・平均給与等支給額増加率が前年度対比で3%以上(中小企業は1.5%以上)

その他の要件・国内設備投資額が減価償却費の90%以上(大企業)

税額控除額

・2012年度対比で給与等支給増加額の10%

※上限は当期の法人税額の10%(中小企業者等は20%)

※2017年度は給与等支給増加額に対して上乗せ措置あり

・前年度対比で給与等支給増加額の15%

※教育訓練費の増加率が20%以上であるときは、給与等支給増加額の20%

※中小企業は、平均給与等支給額の増加率が2.5%以上等の要件を満たすときは、給与等支給増加額の25%

※上限は当期の法人税額の20%

▲ 0.6

▲ 0.4

▲ 0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

15/04 15/10 16/04 16/10 17/04 17/10

(前年比、%)

(年/月)

生鮮食品を

除く総合

生鮮食品及び

エネルギーを

除く総合

食料(酒類

を除く)及び

エネルギーを

除く総合 ▲ 0.4

▲ 0.2

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

16/01 16/04 16/07 16/10 17/01 17/04 17/07 17/10 18/01

家賃

サービス(家賃除く)

財(生鮮・エネルギー除く)

生鮮食品及びエネルギーを除く総合

(前年比、%)

(年/月)

FY2016 FY2017 2017Q3 2017Q4 2018Q1 2017/11 2017/12 2018/01 2018/02 2018/03

公的需要 公共工事出来高 前期比、% ▲ 4.5 n.a. ▲ 3.1 ▲ 2.1 1.0 ▲ 0.1 0.1 0.9 n.a. n.a.

公共工事請負金額 前期比、% 4.1 ▲ 4.3 ▲ 10.9 1.6 ▲ 5.7 7.8 ▲ 5.0 ▲ 3.3 ▲ 5.1 5.9

税収 一般会計租税・印紙収入 兆円 - - - - - 7.6 3.5 5.4 4.8 n.a.

会計年度累計、兆円 55.5 n.a. - - - 28.1 31.6 37.0 41.8 n.a.

同・前年比、% ▲ 1.5 n.a. - - - 5.1 5.1 6.4 7.2 n.a.

対外交易環境 対外交易条件 前年比、% 3.9 ▲ 4.4 ▲ 3.9 ▲ 4.2 ▲ 3.0 ▲ 3.2 ▲ 4.6 ▲ 3.2 ▲ 3.4 ▲ 2.3

輸出物価 前年比、% ▲ 6.9 4.8 8.3 6.2 0.7 6.9 2.4 1.7 0.8 ▲ 0.5

輸入物価 前年比、% ▲ 10.6 9.6 12.8 11.0 3.8 10.4 7.3 5.0 4.4 1.8

国内企業物価 総平均 前年比、% ▲ 2.4 2.7 2.8 3.3 2.5 3.5 3.0 2.7 2.6 2.1

企業向け 総平均 前年比、% 0.4 n.a. 0.7 0.8 n.a. 0.8 0.8 0.7 0.6 n.a.

サービス価格 (消費増税の影響を除く) 前年比、% 0.4 n.a. 0.7 0.7 n.a. 0.8 0.7 0.7 0.6 n.a.

国際運輸を除く 前年比、% 0.5 n.a. 0.6 0.7 n.a. 0.7 0.7 0.7 0.6 n.a.

消費者物価 総合 前年比、% ▲ 0.1 n.a. 0.6 0.6 n.a. 0.6 1.0 1.4 1.5 n.a.

生鮮食品を除く 前年比、% ▲ 0.3 n.a. 0.6 0.9 n.a. 0.9 0.9 0.9 1.0 n.a.

生鮮食品及びエネルギーを除く 前年比、% 0.3 n.a. 0.2 0.3 n.a. 0.3 0.3 0.4 0.5 n.a.

酒類を除く食料・エネルギーを除く 前年比、% 0.2 n.a. 0.0 0.1 n.a. 0.1 0.1 0.1 0.3 n.a.

都区部・総合 前年比、% ▲ 0.2 0.5 0.4 0.4 1.2 0.3 1.0 1.3 1.4 1.0

都区部・生鮮食品を除く 前年比、% ▲ 0.4 0.4 0.4 0.7 0.8 0.6 0.8 0.7 0.9 0.8

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2018年 4月 16日 発行

[執筆担当]

宮嶋貴之(総括、家計、インバウンド)

03-3591-1434 [email protected]

大野晴香(外需)

03-3591-1243 [email protected]

酒井才介(政府)

03-3591-1241 [email protected]

平良友祐(物価)

03-3591-1306 [email protected]

坂本明日香(企業)

03-3591-1435 [email protected]

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