11

末廣 昭 Akira Suehiro

学習院大学国際社会科学部

社研＋学習院セミナー 15 April 2020

コロナショックとアジア政治経済

危機の本質アジア通貨危機と

コロナショック

22

Part 1The Essence of

the Corona Virus Crisis

33

図表1 パンデミック宣言後の新型コロナ、1月から4月12日

図表1　新型コロナウィルスの感染者数：中国と中国以外の国の比較、2020年1月3日-4月12日

（出所）世界保健機関のサイト（https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports/）、「Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)」 の毎日の"Situation Report" より末廣昭作成。

72,52861,513

110,011

210,644

427,086

668,345

919,727

1,270,204

1,613,106

0

200,000

400,000

600,000

800,000

1,000,000

1,200,000

1,400,000

1,600,000

1月3日 1月10日 1月17日 1月24日 1月31日 2月7日 2月14日 2月21日 2月28日 3月6日 3月13日 3月20日 3月27日 4月3日 4月10日

中国 中国以外

3月16日、中国以外の国の合計数86,438人

が中国の感染者数を上回る

44

図表2 中国から欧州・北米、いずれは南米、アフリカへ

（注）「中国を除くアジア」には香港、マカオ、台湾を含める。

図表4-2　地域別の感染者数の推移、2020年2月～4月13日　（％）

98.3 97.290.6

71.5

47.7

34.227.2

22.017.5 13.8 11.4 8.1 6.6 5.3 4.6

0.1 0.6 2.5

13.4

30.5

43.6

48.550.3

53.253.7

53.751.8

50.248.1 47.0

0.0 0.1 0.1

0.62.1

6.3 8.912.5 14.7 18.0 20.3

25.2 28.230.7 32.0

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

中国 中国除くアジア 欧州

北米（米国、カナダ） ラ米・カリブ諸海 中東・北アフリカ

サハラ以南アフリカ

55

図表3 感染者1000人当たりの致死率、2020年4月13日現在

（出所）Johns Hopkins University CSSE リアルタイムデータより末廣昭作成。

図表3　感染者1000人当たりの致死率、2020年4月13日午前7時データ　（人）

127125

108103

88

65 64 62

62

55 47

45

40

37 36 24

2016 15

0

20

40

60

80

100

120

66

図表4 米国並みに検査したら、日本の感染者は10倍以上

項目 米国 韓国 日本

調査の月日 4月12日 4月9日 4月11日

①人口（1000人） 327,167 51,635 126,529

②コロナ検査人数 2,688,766 494,000 74,891

③報告の感染者数 530,006 10,423 5,149

④実際の死者数 18,586 204 94

⑤感染者/検査人数 197 21 69

⑥死者数/検査人数 7 0 1

掛け率⑦ （②/①） 8.22 8.22 8.22

掛け率⑧（③/②） 19.71 2.11 6.88

⑦米国並みの検査人数 2,688,766 424,440 1,040,068

⑧米国並みの感染者数 530,006 8,955 71,508

以下は1000人当たり

米国並みに検査を実施した場合の想定感染者数

図表4　人口、コロナ検査数、感染者数：米国、韓国、日本の比較

（出所）米国はジョンズホプキンズ大学CSSE リアルタイム、日本は厚生労働省の4月11日発表数字、韓国はネット情報より末廣が集計のうえ試算した。

77

1-1 コロナ危機で顕在化した3つの世界のリスク

１．グローバル化・人の国際移動への警鐘

⇒いったん感染症が発生すると短時間で危機が国境を越えて伝播する。

２．高齢化社会の進展への警鐘

⇒肺炎を併発する高齢者と致死率の高さ：イタリア（15％）と韓国（１％未満）の違い。

３．経済のサービス化への警鐘

⇒国間の人の移動制限・都市封鎖による経済活動の停止：とくに航空、観光、外食。

88

1-2 アジア通貨危機で顕在化した３つのリスク

１．ドル資金に依存した事業拡大

⇒２つのミスマッチ：ドル資金の現地通貨転換と短期資金の長期借り換え☞金融制度改革

２．銀行借入に依存した事業拡大

⇒野放図な銀行制度、ファミリービジネスの支配と企業ガバナンスの弱さ☞ガバナンス強化

３．政治とビジネスの癒着

⇒クローニー資本主義、開発志向国家の負の側面 ☞法と制度の整備

99

1-3 コロナ危機が示唆する３つの動き

１．サプライチェーン、アウトソーシング、外国人労働力導入の見直し:反グローバル化

２．福祉サービスの市場化の見直し：医療サービスの民営化への反省

３．経済のIT化とサービス化：逆に進む

⇒テレワーク、オンライン授業、宅配サービスの急増、製造業における現場主義の後退

1010

Part 2Lessons from

the Asian Currency

1997 Crisis

1111

2-1 アジア通貨危機からの教訓（１）

（１）背景と経緯

＊アジアでの不動産・株式ブーム→バブル経済

＊バブルの崩壊→為替の下落→ドル債務の急増→企業の債務危機

＊為替危機→金融危機→実物経済（ダメージはそれほどではなかった）

＊タイから韓国、インドネシアなどに波及＝アジア域内で危機が伝播、だが世界規模ではない

＊各国政府の対策の限界、IMF・世銀による救済措置と経済改革

1212

2-2 アジア通貨危機からの教訓（2）

（２）20世紀型アジア成長パターンの限界

⚫製造業＝モノづくり中心から、バブル経済をへて金融セクター中心の経済構造へ

⚫グローバル化に伴い、国間の国際分業から、企業単位の生産ネットワークへ

（３）アジア通貨危機後の対策

⚫金融制度改革：銀行の不良債権処理、銀行の再編統合と金融監督の強化

⚫企業ガバナンス改革：ファミリービジネス批判、社外重役の任命、国際規準の会計制度

1313

2-3 アジア通貨危機以降の世界経済の展開

＊21世紀に入って何が生じたのか？

⚫グローバル化のさらなる進展：運賃コストの低減、LCCの導入、ICTの発展

⚫国際労働力移動：ヒトの国境を越えた移動の増加と加速化

⚫経済のサービス化：観光産業、外食産業、芸能・イベント産業など

⚫GVC (Global Value Chain）にもとづく企業の立地戦略と生産ネットワークの拡充

1414

Part 3Lessons from

the Coronavirus

2019 Crisis

1515

3-1 新興アジア経済を支えてきた条件とコロナ

⚫生産ネットワークがアジア地域大に拡充

⇒2010年代に「中国プランスワン」や「タイプランスワン」などが進む

⚫アジア、日本などでは観光産業が外貨獲得・地方振興の重要な要因に

⚫労働力不足に対応するため外国人労働力依存の経済構造へ

⇒これらすべての条件が今回、瓦解する！

1616

3-2 世界でこれから何が起きるのか？

⚫アジア通貨危機と異なる経済崩壊の連鎖

⇒サービス経済の崩壊（事業閉鎖と失業）＋株価崩落⇒実物経済の生産縮小⇒最後に金融危機

⚫コロナ危機の地球規模への波及と長期化（1年以上？）

⇒欧州・北米から南米・南アジア、さらにサハラ以南

⚫巨額財政支出による企業救済や所得保障

⇒その後の債務圧力に既存の国際協力枠組み（IMF、G7など）で対処できるか？

1717

3-3 世界はこれからどこに向かうのか？

①「人を重視したモノ作りの時代」の終焉

⇒IT、AI、ロボットを活用した経済システムの普及

⇒リスク対応型のイノベーションの進展

②「管理なきグローバル化の時代」の終焉

⇒アウトソーシングの見直し、一定の自給体制？

⇒国際労働力移動の制限、自国労働力の再活用

③「アメリカの覇権の時代」の終焉

⇒アメリカ自身、国際機関の経済力の低下

➢①②③に対応できるのは中国（＋インド）か?

1818

Part 4統計と資料

1919

図表5 世界の貿易の拡大、1980-2019年 9.5倍

図表5　世界の貿易（輸出総額）の推移、1980-2019年　（10億ドル）

（出所）グローバルノート「移民人口」http://www.globalnote.jp/p-data-g/?dno=2190&post_no=3399 より末廣昭作成。2020年3月31日アクセス。原データはUNCTAD。

2,050 1,965

3,495

5,1766,452

10,502

15,30216,539

19,453

0

5,000

10,000

15,000

20,000

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2019

2020

図表6 進む国際労働力移動、1980-2019年 2.9倍

図表6　世界の移民人口の累計人口、1970-2019年　（100万人）

（出所）グローバルノート「移民人口」http://www.globalnote.jp/p-data-g/?dno=3060&post_no=3818 より末廣昭作成。2020年3月31日アクセス。原データは国連人口課。

78.4 82.793.7

104.6

153.0161.3

173.6

191.6

220.7

248.8

271.6

0.0

50.0

100.0

150.0

200.0

250.0

300.0

1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2019

2121

図表7 世界の観光産業の発展、1995-2018年 3.5倍

図表7　世界の国際観光収入の推移、1995－2018年　（10億ドル）

（出所）グローバルノート「国際観光収入」http://www.globalnote.jp/p-data-g/?dno=1050&post_no=1543 より末廣昭作成。2020年3月31日アクセス。現データはUNWTO.

400437 470

540

694

957 940

1,170 1,186

1,403

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1995 1998 2000 2003 2005 2008 2010 2013 2015 2018

2222

資料１ 『新型コロナと東アジア』：世界銀行とADBの報告書

2020年4月 世界銀行 2020年4月 アジア開発銀行

2323

図表8 新型コロナと東アジア：世銀とADBの経済予測

2017 2018 2019 2020 2020 2021 2021

実績 実績 暫定 Baseline Lower case Baseline Lower case

Thailand 4.0 4.1 2.4 -3.0 -5.0 4.0 3.0

Malaysia 5.7 4.7 4.3 -0.1 -4.6 6.4 4.1

Indonesia 5.1 5.2 5.0 2.1 -3.5 5.6 5.2

Developing Asia 6.5 6.3 5.8 2.1 -0.5 7.3 5.3

Philippines 6.7 6.2 5.9 3.0 -0.5 6.2 4.1

China 6.8 6.6 6.1 2.3 0.1 7.7 5.5

Cambodia 7.0 7.5 7.1 2.5 1.0 5.9 3.9

Vietnam 6.8 7.1 7.0 4.9 1.5 7.5 4.0

Myanmar 6.2 6.8 6.3 3.0 2.0 6.0 4.0

Lao PDR 6.9 6.3 4.8 3.6 2.2 5.8 3.7

（注）Baseline： 激しい経済成長率の低下と、しかしながら力強い経済回復を想定したシナリオ。

　Lower case：より深刻な経済成長の低下と緩やかな経済回復を想定したシナリオ。

（出所）World Bank, East Asia and Pacific in the Time of COVID-19 , The World Bank, April 2020, p.20より末廣昭作成。

国名

図表8　中国とASEAN諸国のコロナショック以後の経済予測、2017-2021年　（％）

2424

資料2 1918-19年、世界を席巻したスペイン風邪の本

2006年 藤原書店 2009年 みすず書房

2525

資料3 世界規模の感染症に関する記録

1921年 内務省衛生局 2018年 角川ソフィア文庫

2626

図表9 1918-21 年のスペイン風邪の日本の犠牲者は39万人

流　行 第１回 第2回 第3回 合計

期　間1918年8月から

1919年7月1919年10月から1920年7月

1920年8月から1921年7月

3年間

患者数 21,168,398 2,412,097 224,178 23,804,673

死者数 257,363 126,666 3,698 387,727

感染者1000人当たり死者 12.2 52.9 16.5 16.3

図表9　1918-1921年の世界規模の「スペイン風邪」：日本の状況

（出所）内務省『流行性感冒：「スペイン風邪」大流行の記録』（初版、1921年10月。復刻　平凡社東洋文庫778、2008年）、104頁より末廣昭作成。

（注）新型コロナウィルスの死亡率は、2020年4月2日現在、感染者数95万1901人に対して死者数が4万8284人なので、5.07人となる。