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Page 1: 地域おこし協力隊 - 認定NPO法人 棚田 ... · 英田上山棚田団 仕組みづくりを地域の負担にならない 岡山県美作市上山 西口 和雄 ( 46歳)
Page 2: 地域おこし協力隊 - 認定NPO法人 棚田 ... · 英田上山棚田団 仕組みづくりを地域の負担にならない 岡山県美作市上山 西口 和雄 ( 46歳)

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棚田と

地域おこし協力隊

 みなさん、全国の「地方」といわれる地域に都会から入って、地域お

こしに奮闘する若者がいることを知っていますか。フジテレビのドラマ「遅

咲きのヒマワリ」」の主人公としても取りあげられ、今、注目されている

「地域おこし協力隊」。もちろん棚田地域にもその活躍は広がっています。

 今地域において何が必要か。都会人としてできること。そして、なぜ今

地方なのか? そんな彼らに熱い思いを語っていただきます!

地域おこし協力隊ってなに?

 

地域おこし協力隊は、人口減少や高齢化等が

著しい地方において、地域外の人材を積極的に

誘致し、定住・定着を図ることで、地方での貢

献や生活に魅力を感じる都市住民のニーズに応

えながら、地域力の維持・強化を図っていこう

とする取り組みです。地方自治体が都市住民を

受け入れ、協力隊員として委嘱し、1年~3年

の期間で、農林漁業の応援、水源保全・監視活動、

住民の生活支援などの地域協力活動に従事して

もらいながら地域への定住・定着を図っていき

ます。2009年3月から総務省により制度化

され、隊員を受け入れる地方自治体に対して、

1人あたり上限350万円が特別交付税として

交付されます。2011年には隊員数

413名

まで増え、147の自治体(3府県・144市

町村)で活躍しています。

募集地域は随時「地域おこし協力隊」のホームページ(http://www.iju-join.jp/chiikiokoshi/)でご覧になれます。

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棚田と地域おこし協力隊

現場から提言をし続ける

伝統的な米作りに感動

新潟県十日町市池谷

多田

朋孔(34歳)

静岡県松崎町石部

豊嶋

学(24歳)

 

富士常葉大学の学生ボランティアとして4年間石部棚田の保全活

動をしてきました。元々、米どころ新潟の兼業農家出身なので、あ

る程度の農業経験はありました。しかし、石部棚田の農作業は今ま

で経験した事のない作業の連続でした。鍬を使った伝統的な米作り

を今なお行っている石部棚田の保全活動にとても感動しました。

 

いつしか個人的にも石部へ訪れるようになり、棚田保全に協力し

たい、松崎町に住みたい、けど仕事がない、という状況になってい

ました。そんな時、地域おこし協力隊の募集があることを聞き、す

ぐに応募しました。採用していただいてからは、棚田保全活動や棚

田を活用したコンサートなどイベントの検討・実行などを行ってい

ます。任期終了が迫っているこれからは、自立に向けて、地域のコミュ

ニティ施設の設置・管理などを考えていきたいです。

 

棚田の保全は、町内外で出会った様々な人達の直接的または間接

的な協力があって成り立っています。これからもたくさんの方々の

力をお借りして棚田を守っていきたいと思います。

 

私が活動しているような中山間地では農業を行うにも条件が悪く、

若い人も少なく、いたとしても農業ではなく土建業または介護施設

で働いている方がほとんどです。こうした中、棚田を耕作し続ける

方々の年齢は徐々に高齢化しています。

 

棚田を耕作し続けられるようにするためには、中山間地で農業を

ベースとした取り組みをしながら生活が成り立つような、収入と支

出のバランスが取れる仕組みを作っていく事が不可欠だと思います。

そのような仕組みを作っていくために、一定期間人件費がかからない

人材を外部から募集出来る地域おこし協力隊のような制度は、上手

く使う事が出来れば非常に有効な制度であると思います。

 

ただ、受け入れる地元側にしっかりとした考えがないと、協力隊

員と地元でミスマッチが起こるケースもあります。その場合、折角

来た協力隊員が途中でやめてしまう事もあり、制度を上手く活用出

来ないという結果になります。

 

地域おこし協力隊の制度は現在3年目であり、まだまだ完成され

たものではありませんが、その分、受け入れ地域や隊員が自由に裁

量出来る部分も多いですし、総務省に現場からの提案を出す事も出

来ます。私としては隊員の任期が終了した後も今住んでいる池谷集

落に住み続けてこれまでの取り

組みを継続していく事を考えて

います。そして現場から国の政策

に対して色々と提言していく事

を通じて全国各地の棚田で担い

手が増えていくようにできれば

と考えています。

■石部棚田へ行こうよ!~静岡県松崎町石部棚田保全サイト  http://ishibu-tanada.com/

■池谷・入山ガイド「小さなムラをみんなで一緒に守って行こう!」 http://www.iketani.org/

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棚田と地域おこし協力隊

英田上山棚田団

地域の負担にならない

仕組みづくりを

岡山県美作市上山

西口 和雄(46歳)

高知県津野町貝ノ川地区

西森

路晃(30歳)

 

私は、臨時職員としてではなく、コンサル的にフリーに動くスタイ

ルながら、地域でがっつりと現場をこなす人財として村人と協力しな

がら活動しています。私がいる上山集楽では、100町歩8300枚

の棚田の再生をベースに1000町歩の里山再生、雲海温泉施設・キャ

ンプ場の活性化を行い、2013年4月を目処に一般社団法人上山集

楽協議会として村が営利組織となる新たなる一歩を踏み出します。そ

れと並行して隣接する市町村とも連携を図り、地域おこし協力隊の導

入志縁、適正人財の投入等様々な連携を図っています。

 

昨年度、全国の地域おこし協力隊をメインとした村楽LLPという

組織を立ちあげ、Facebook

を利用して日々各地域の連携強化を進め

ているところです。勿論ここでは総務省とも連携を図り産官学連携を

も視野に入れた動き方をしています。昨年、吉備人出版社から『愛だ!

上山棚田団〜限界集落なんて言わせない!〜』を出版していただき、

“ブックインとっとり地方出版文化功労賞奨励賞”を受賞しました。

 

来年度、私は任期三年を終了し、フューチャーセンター創設を新

たなる地域活性の起爆剤となる企みを企て中でして、これができれ

ば民間主導中山間地発!複合型インキュベーションセンターが誕生

することになります。

 

地域に入る!これこそがこれからの新しいライフスタイルだと確

信し、更なる縁脈創出に向けた取り組みに発展させていく所存です。

 

貝ノ川地区の棚田では過疎高齢化が進み棚田の維持が年々困難に

なってきています。棚田を守る為、地域の活性化を目指し今年度よ

りオーナー制度を導入する事となりました。私はホームページや資

料作り、連絡役等、地区の方が出来ない事務的な事をサポートし、

それと同時に今まで田んぼで米作りをした事が無かったのでオー

ナーさん達と一緒に地域の方々にいろいろ教わりながら米作りを体

験しました。水田作りから収穫までの間、数回にわたる作業日には

地区の方々とオーナーさんが一緒になって作業し、交流を通じて地

域が元気になったと思います。

 

今後さらに過疎高齢化が進む中、保全活動を続けていく為に地域

の方々の負担にならない仕組みを作り、オーナーさんと共に守って

いけたらと思います。現在、棚田に再々来てもらう為、フォトコン

テストの写真募集も始めました。貝ノ川の200枚以上からなる石

垣の棚田、この美しい日本の原風景と文化が後世に伝わっていく事

を願います。

■ RSK 放送メッセージという番組で特集を組んでいただきました! 活動内容がよくわかります。是非見てみてください!⇒ http://youtu.be/h6hInmKRVlk■上山集楽 http://ueyama.shu-raku.jp/ ■村楽 LLP http://sonraku-llp.net/ ■西口和雄 http://about.me/kattixoops、https://www.facebook.com/kattixoops

■津野町地域おこし協力隊 http://tsuno.main.jp/上:初めての米づくり下:フォトコンテストの企画も

上:村人とのショット下:俳優の伊勢谷友介さんにきていただいてイベントなどもおこなっています右:セグウェイで田圃の水管理をしています

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私は、臨時職員としてではなく、コンサル的にフリーに動くスタイ

ルながら、地域でがっつりと現場をこなす人財として村人と協力しな

がら活動しています。私がいる上山集楽では、100町歩8300枚

の棚田の再生をベースに1000町歩の里山再生、雲海温泉施設・キャ

ンプ場の活性化を行い、2013年4月を目処に一般社団法人上山集

楽協議会として村が営利組織となる新たなる一歩を踏み出します。そ

れと並行して隣接する市町村とも連携を図り、地域おこし協力隊の導

入志縁、適正人財の投入等様々な連携を図っています。

 

昨年度、全国の地域おこし協力隊をメインとした村楽LLPという

組織を立ちあげ、Facebook

を利用して日々各地域の連携強化を進め

ているところです。勿論ここでは総務省とも連携を図り産官学連携を

も視野に入れた動き方をしています。昨年、吉備人出版社から『愛だ!

上山棚田団〜限界集落なんて言わせない!〜』を出版していただき、

“ブックインとっとり地方出版文化功労賞奨励賞”を受賞しました。

 

来年度、私は任期三年を終了し、フューチャーセンター創設を新

たなる地域活性の起爆剤となる企みを企て中でして、これができれ

ば民間主導中山間地発!複合型インキュベーションセンターが誕生

することになります。

 

地域に入る!これこそがこれからの新しいライフスタイルだと確

信し、更なる縁脈創出に向けた取り組みに発展させていく所存です。

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穀倉地帯である会津盆地と標高

2000㍍級の高山が連なる飯豊

連峰の間、標高300㍍~700㍍

の山々に囲まれた福島県喜多方市

山都町北部には、無数の小さな棚

田が広がっています。それらの多

くは天水ではなく周辺の河川を水

源としています。田んぼと川を結

び付けているのが、地元では「堰せ

と呼ばれている山腹水路です。

 

山都町本も

木き

・早稲谷地区は、合わ

せて80戸ほどが立ち並ぶ小さな集

落です。そこでは代々田畑を耕し、

家畜を飼い、山菜やキノコの採取、

炭焼きなど山の恵みを利用しなが

ら暮らしてきました。この地区の

棚田に水を届けているのが「本も

木き

上うわ

堰ぜき

」です。地元に残る石碑から、

江戸時代中期の延享4年(1747

年)に約12年の歳月を掛けて完成

したことが判っています。以来農

民のたゆまぬ努力によって受け継

がれてきました。

 

本木上堰は飯豊連峰から流れて

くる早稲谷川上流部から取水し、

山中をまるで地図の等高線を描く

ように途中の小さな棚田を潤しな

がら、もっとも田んぼがまとまっ

ている本木地区大谷地まで続いて

います。取水口の標高が350㍍、

終点が290㍍で、全長は約6㌔。

その標高差はわずか60㍍。多く

は素掘りの土側溝で建設当時の姿

をよく残しています。見通しの全

く利かない深い山中で、これだけ

の精度の傾斜を精密な計測器や重

機も使わずに造った当時の土木技

術の高さに驚かされます。同時に

余りの山深さに、これまで人力だ

けによる維持管理を265年にわ

たって続けてきた農民のひたむき

さと苦労を感じることができます。

 

しかしこの伝統ある堰も、いま

存亡の危機を迎えています。その

原因は耕作者の高齢化と後継者不

足です。昭和43年にはこの堰に関

わる耕作農家は50軒、受益面積は

1365㌃ありました。しかしそ

ボランティアと共に堰の保全に取り組む

上:一番広い大谷地の棚田/下左:春の大谷地棚田/下右:ボランティアに送る「上堰米」

福島県喜多方市山都町本木・早稲谷地区

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の後は急激に減少し、今は農家が

13軒、受益面積は674㌃に半減

しています。今後これ以上耕作者

が減少すれば、堰の管理ができな

くなる可能性があります。堰が放

棄されてしまえば棚田への水の供

給は途絶え、耕作できなくなるだ

けではなく、棚田と里山が織りな

す美しい田園風景も、堰を守り続

けた伝統も消えてしまうのです。

 

そうなってしまう前にと、

2000年からある試みが行われ

ています。それは、毎年5月の連

休中に行われる「堰浚さ

い」という

もっとも過酷な共同作業を、都会

の人に手伝ってもらおうという取

り組みです。

 

この辺りは2㍍近い積雪に見舞

われるために、冬には堰に水を流

しません。そのためにこの間溜まっ

た土砂や落ち葉、倒木等を、春に

全てきれいに浚います。全行程(途

中には隧道等もあるので実際は5

㌔程)の側溝を、ひたすらフォー

クやスコップを使い手作業で浚っ

ていく仕事は決して楽なものでは

ありません。ましてかつては50軒

の農家が共同でやっていたことを、

残ったわずかな農家でやらなけれ

ばいけないのですから。その作業

に都会の助っ人を頼もうとい

うの

です。

 

当初、集落の共同作業に地域外の

人が加わることには様々な不安が

ありました。そもそもゴールデン

ウィークにこんな山奥までわざわ

ざ人が来てくれるのか、疑問を持

つ人もいました。ところがいざふた

を開けてみると、毎年多くの方が手

伝いに訪れ、リピーターも少なく

ありません。ただひたすら土砂や

落ち葉と格闘する作業にも関わら

ず、彼らは何に魅了されたのでしょ

うか。それは目前に広がる美しい田

園風景や豊かな自然、水、空気、そ

■ 棚田へのアクセス【公共交通】�JR磐越西線山都駅から6.5km、タ

クシーにて約10分【自�動�車】� 磐越道会津若松インターを降り、国

道121号線を北上、国道459号との交差点を左折し山都町方面へ。山都町相川地区のT字路を一ノ木方面へ。本木活性化施設が目印。インターから30km、車で約50分

■ お問い合わせ本木・早稲谷 堰と里山を守る会�事務局�浅見彰宏 TEL:0241-38-2985●メール� [email protected]●ブログ� http://white.ap.teacup.com/higurasi/

してそれらを守り続けてきた農家

の暮らしを、交流を通して垣間見、

体感できるからかもしれません。

 

13回目を迎えた2012年には

49名もの人がボランティアに来て

くれました。特筆すべきは、震災

後もボランティアの数が増え続け

ていることです。2009年から

は上堰米と銘打ち米の直売を開始

し、食べることでも堰を支えても

らっていて、販売量も順調に増え

ています。まさに、山間地の農業

に一緒に関わり続けたいという強

い結びつきが風評被害を乗り越え

たと言えるのではないでしょうか。

本木・早稲谷 堰と里山を守る会

事務局 浅見彰宏

左:上堰の全容(赤い線が水路)/中:新緑の本木上堰/右:ボランティアによる堰さらい

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 高知県津野町は、2005年2

月に葉山村と東津野村が合併して

できた県西部の町。貝の川は旧葉

山村中央、龍馬脱藩の道といわれ

る檮原街道から北へ1㌔ほど入っ

た山間の集落である。棚田学会理

事今井英輔さんを通じて貝の川が

棚田オーナー制を始めたことを知

り、早速訪ねることにした。

 2012年9月、高知から特急

あしずり3号に乗り、須崎で下車

すると、訪問を知らせておいた貝の

川棚田保存会代表大崎健夫さんが

役場職員岡崎光明さんを伴い待っ

ていた。大崎さんは津野町の町会

議員でもある。現地までは、公共

の交通機関であれば、須崎駅から

1日10便運行している檮原か杉の

川行きの高知高陵交通バスを利用、

津野町役場前で下車すればよい。

9

檮ゆす

原はら

街道沿いにある棚田

高知県津野町貝の川

�中なかしま

島�峰みねひろ

広(棚田博士)早稲田大学名誉教授。学術博士。NPO法人棚田ネットワーク代表。全国棚田( 千枚田 ) 連絡協議会理事、棚田サミット開催地選定委員会委員長。1933年宮崎県生まれ。早稲田大学教育学部地歴科卒。2004年まで早稲田大学教育学部教授。著書に『日本の棚田—保全への取組み』『百選の棚田を歩く』『続・百選の棚田を歩く』『棚田 その守り人』( 以上、古今書院 )。現在、百選外の棚田についての執筆準備のため全国行脚中。

石積みの棚田

その量感に圧倒される

 

岡崎さんが運転する車で貝の川

へ向かう。須崎の市街地から国道

197号、かつて津野山街道といわ

れていた檮原街道に入り、須崎で

土佐湾に流入する新荘川に沿って

遡る。幅200~300㍍の谷底

平野のなかを20分ほど走ると、役

場の庁舎がある永野の集落が見え

てくる。その集落の手前、道の右

側に「ようこそ棚田の里貝の川へ」

の看板がたつ三叉路を右折、すぐ

に新荘川の支流貝の川に沿って棚

田が現れ、貝の川集落に到着する。

棚田は、貝の川の左右両岸と谷頭

部分にあり、右岸と谷頭部分は傾

斜4分の1の急斜面に、左岸は谷

底の傾斜20分の1の緩斜面に分布

している。右岸の急斜地と谷頭部

分にある棚田は、対岸にある大崎

家の庭から眺めると、まるで石積

みの壁のように見える。右岸の石

積みは5列、各列15段~20段ずつ

になって並び、谷頭部分にも20段

ほどあり、その量感に圧倒される。

各段の石積みの高さは1~2・5

㍍、1・5㍍ほどのものが最も多い

ようだ。

 

集落最高所の展望所から見ると、

各棚田の形状と大きさがよくわか

る。形状は、全体としては等高線

状に波打ち、凹の部分と凸の部分

に分かれ、それぞれの棚田は幅数

㍍、長さ数十㍍の細長い形をして

いる。一枚は1~2㌃のものが多

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いが、そのなかの数枚は畝町直し

により4~5㌃の広さがあり、形

状も方形に近い。畝町直しは7~

8年前、旧葉山村の単独事業によ

るもので、事業費75㌫を村が負担、

25㌫の自己負担で行われたという。

多くの人が集うイベントに

成長したキャンドルまつり

 

棚田保存会代表大崎さんは69歳、

71歳の奥さんと2人だけの世帯。2

人の子供は高松市と高知市に住ん

でいるそうだ。須崎工業高校を卒業

後、高知市の造船所に勤務、父親

から農業を学ぶために52歳で退職、

故郷にUターン、専業農家になっ

た。その父親は6年前に83歳で亡

くなったのでタイミングとしては

よかったと思っていると仰しゃる。

 

所有する水田70㌃、26枚、ほか

に離農した農家の15㌃分を引き受

けている。このうち、18㌃、15枚

はウシとヤギの放牧地として利用、

残りは水稲と牧草の輪作を行って

いる。したがって、毎年作付けす

る水稲は25㌃ほどで、残りは舎飼

用の飼料としてエンバク、イタリ

アンを栽培しているという。機械

類はすべて父親が購入したもの、

中型乗用トラクター、乗用4条田

植機、家畜の餌にするワラが欲し

いためコンバインではなくバイン

ダー、脱穀機を所有している。

 

ウシは繁殖牛2頭を飼育、畜舎に

はそれぞれの名前と出生日、出産の

記録を書いたボードが貼り付けて

あった。「めぐみ」は出生地宮崎県、

出生日2007年5月13日、初産

2009年5月30日、2産2010

年6月6日、3産2011年9月6

日、人工授精2012年3月30日、

出産予定2013年1月10日。「あ

み」は出生地熊本県天草、出生日

2009年7月24日、初産2011

年10月6日、人工授精2012年

1月19日、出産予定2012年10

月29日とあった。2歳で子供を生

むウシの成長の早さにあらためて

感心する。生まれた子供は、オス

の方がメスよりも成長が早いため

5万円ほど高く売れるそうだ。昨

年は2頭の出産で76万円の収入が

あり、「これが私のボーナスだ」と

仰しゃる。大崎さんは、日本舞踊

坂東流のお師匠さんである奥さん

が週3回高知市や須崎市へ出稽古

に出かけるので、ほとんど一人で

農作業をしている。議員の出張で

家を空けるときにウシの世話をし

てもらうくらいだそうだ。議員は、

帰郷して2年目の1996年に葉

山村の村議になって2期、町村合

併で一旦離職、2009年津野町

の町議としてカムバック、現在3

期目を務めている。また、集落で

は第3期中山間地域等直接支払の

代表、集落の2大イベントである

貝の川棚田キャンドルまつりと棚

田オーナー制を仕切る世話人会の

代表でもあり、地域活性化のキー

パーソン的存在である。世話人は

大崎さんを含む七人の侍、大崎家

の前に全員集合して下さった。

 

七人の侍が最初に取り組んだイ

ベントは貝の川棚田キャンドルま

つり。集落を活性化させるために、

隣町の仁淀川町長者で2007年

に棚田を舞台にした「火祭り」キャ

ンドルナイトを始めたことを知り、

視察に出かけて学習。2009年に

実行委員会を立ち上げ、貝の川で

もキャンドルまつりを始めた。容

量2リットルのペットボトルを飼

葉用の押切りで半分に切断、キャッ

プの部分を底にして水を張り安定

させてローソクを立てたキャン

ドル3000本を4㍍間隔で畦に

セットした。初年度はボトルをコン

ビ二の屑物入れから集めるのに苦

労したが、2回目以降町内の天然

水工場から出る不良品を手に入れ

補充するようになって楽になった。

押切りの作業は、七人の侍が中心

になり、集落総出で行い、半日で

1:棚田全景/ 2:楽しげな棚田キャンドルまつり案内板/ 3:大崎さんは棚田を山羊の放牧地としても利用。年3 ~ 4回の草刈り作業もしなくてすむという

1

2

3

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 最長老は在木正男さん83歳、水田50㌃を若い者に負けずに耕作する長老。大崎正春さん80歳、水田20㌃を70歳まで土木作業で鍛えた身体で耕作。大崎茂さん79歳、水田20㌃を耕作するほかハウスでニラを栽培する専業農家。大崎勝司さん74歳、自家菜園の畑を所有、65歳まで長距離トラックの運転手。大崎光男さん73歳、水田20㌃を耕作、60歳まで須崎のパン工場職人。大崎徹男さん63歳、土木作業に従事しながら水田15㌃を耕作する兼業農家である。 このほかに、区長の大崎正さん47歳、須崎のサッシ工場に勤め、水田30 ㌃を耕作する兼業農家も顔を出していたが、正さんは七人の侍の予備軍とのこと。それにしても、最長老の在木さんを除き、すべて大崎姓。よく使われる屋号ではなくお互い正男さんとか正春さんと名で呼び合っているそうだ。七人の侍は、平均年齢74歳、そのうち6名は兼業を引退、時間に余裕を持ち、楽しんで農業に専念する元気な高齢者集団である。代表の大崎さんは、集落で何かをしようとする場合、最も頼りになるのがこの人たち、65歳を高齢者と呼ぶべきではないと仰しゃる。

世話人会 七人の侍

11

終えるそうだ。2011年には約

280名の小学生も参加して国道

沿いにまでキャンドルを広げ、その

数が4000本に増え、2000

人の客が訪れるイベントに成長し

たという。イベントは、出店する

町外と地元13店が売り上げの10㌫

を拠出する協力金、役場職員のカ

ンパ5万円、町内の企業や商店、

貝の川出身者の寄付などで運営費

が賄われており、各方面からの協

力をえながらも自立した集落のま

つりになっている。

貝の川の七人の侍は

棚田の守り人

 

2012年には、キャンドルま

つりで自信をえた七人の侍が棚田

保存会を立ち上げ、高齢者の放棄

田30㌃を利用して棚田オーナー制

をスタートさせた。貝の川のオー

ナー制は、私が分類した類型によれ

ば作業参加・交流型に当たり、都

市住民が面積1㌃当たり2万5千

円の会費を払って棚田を借り、地

元農家の指導を受けて4月田起こ

し・畦塗り、5月田植え、7月草

取り、10月稲刈りの農作業を体験、

マイ田圃で収穫されたヒノヒカリ

すべてを持ち帰ることができると

いうもの。初年度14名、17口のオー

ナーが応募、作業日にはオーナー

の家族、友人、同僚など40名前後

の来訪者があり、静かな集落に賑

わいをもたらしている。保存会に

は会費として35万円が振り込まれ

るので、耕耘機を持参して田づく

りの作業を行った人には5000

円、オーナーの指導を行った人に

は2000円の日当を支払うこと

にしているという。

貝の川地区の棚田へのアクセス

【公共交通】JR土讃線「須崎」下車、高知高陵交通バス「梼原」または「杉の川」行きで津野町役場下車すぐ

【自 動 車】高知自動車道須崎中央ICより国道197号線に入り約30分

 

これまで檮原街道の近くにあり

ながら、山間の忘れられたような

集落貝の川は、七人の侍たちが仕

掛けたイベントにより、今や町内

一の注目される集落になった。集

落には活気が生まれ、小規模高齢

者集落といった雰囲気は全く感じ

られない。ことに、七人の侍は意

気軒昂、百姓の技を持つ頼りにな

る存在である。黒澤明の「七人の

侍」は野盗集団から集落を守った

が、貝の川の七人の侍は高齢者が

放棄した棚田の守り人である。

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 舞台は見渡す限りの棚田に囲まれた

中国の農村地域。

 農村を出て北京で役人として働く男

は、10年ぶりの短い帰郷の折、初恋の女

性の変わり果てた姿を見かける…。甦る

若き日の思い出、そして後悔の念…10年

という月日のもたらす大きな環境と心

の変化を、雄大な中国の大自然の中に丁

寧に描き出している。尚、この映画は

2003年度東京国際映画祭にて最優

秀作品賞を受賞。また聾唖のキーマンを

演じた日本の俳優香川照之は同祭にて

最優秀男優賞を受賞している。

故ふるさと郷

の香り

 卒寿を迎えた著者の、中国地方の棚田に関する論考と、

集落を訪ねてお年寄りから丹念に聞き取った民俗事例がま

とめられている。取材日時には平成12年、14年などという

ものも多く、この地域は、この人々は今はどうなっている

だろうと考えると、胸のふさがる思いがする。

 取材はほとんどが広島県内。隣接する地域もあり、地図

が添えられていれば更に興味深いものになっただろう。

神田三亀男�著¥2000広島地域文化研究所2012年9月

中国山地山間棚田の民俗

2003 年/中国/カラー/DVD/ 109 分配給:�東京テアトル/ブロードメディア・スタジオ監督:�霍建起/原作:莫言

ⓒ『故郷の香り』製作委員会

 私は自然や里山風景が好きで、山登りや里山散歩によく出かけてい

ます。特に好きなのは長崎県の土谷棚田です。たまたまインターネッ

トで写真を見てその美しさに魅せられ、23年は一人旅、24年は火祭り

を姉と見に行ってきました。土谷棚田は一つ一つの棚田曲線が何とも

言えない連帯感を出し、背景の海とのコントラストがとても美しいと

思います。

 最近は自分で撮った、色々な棚田の写真を部屋に飾って楽しんでい

ます。私にとっては、あの世界的に有名なねずみのキャラクターより

も、棚田がとても気になるんです。

 24年の秋は土谷棚田以外にも、大浦、浜野浦、江里山の棚田を見

てきました。浜野浦は恋人の聖地に認定されていたのを知らずに一人

旅で行き、カップルに写真を撮ってもらっちゃいました。

 今後の目標は雪化粧した棚田を見に行くこ

とです。

 私の大好きな棚田風景は、守っている方々

の大変な労力があってのものだということを

忘れてはいけないと思っています。棚田ネット

ワークを通じ、何かお手伝いが出来たらと思

います。    (

東京都練馬区

内海

真実

上:佐賀県玄海町浜野浦下左:新潟県柏崎市高柳町の荻ノ島集落下右:土谷棚田の夕暮れ

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棚田保全団体共同出展企画

テーマ「棚田から考える、食と農」

 

エコプロダクツ展へは、主催者の企画に協

力して、あるいはNPOとして単独で、何

度か出展してきましたが、保存会の皆さんを

誘って共同出展というのは初めて。こういう

巨大な展示会の中に棚田のコーナーができる

と果たしてどうなるのか、保存会の皆さんは

もちろんのこと、私たち自身にもわからず、

夏ごろから、エコプロ展の主催者である日経

新聞の担当者とも相談しながらがら準備して

きました。失敗も成功もありましたが、やっ

てよかったと思います。次はきっと、もっと

うまくやれることでしょう。

出展レポート

■ NPO 法人恵那市坂折棚田保存会(岐阜県恵那市)■ NPO 法人大山千枚田保存会(千葉県鴨川市)■奥能登棚田ネットワーク協議会(石川県珠洲市)■椹平棚田保全活動推進委員会(山形県朝日町)■ NPO 法人十日町市地域おこし実行委員会(新潟県十日町市)■石部地区棚田保全推進委員会(静岡県松崎町)

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岩ノ作棚田の新年

「第6回かえるの卵を探そう!」参加者募集

新米を食べる会

保存会会長のお話を熱心に聞く参加者

刈り残しの稲を刈る

Project Reportプロジェクトレポート

 まだ稲が青かったので刈り残しておいた上段の棚田ビオトープの稲を、10月13日(土)に刈りました。ほんとうに小さい田んぼなのですぐに刈り取れました。これでひと段落ですが、冬には2〜3年毎におこなっている畦畔草地の火入れをする予定です。 棚田ビオトープを中心に坂折棚田全域で棚田を代表する生物のひとつであり、初春の水溜りに卵を産むヤマアカガエルの卵を探す「かえるの卵を探そう!」も早いもので6回になります。2013年3月24日(日)10:00から開催、現在、参加者を募集しております。詳細は企画イベント案内をご覧ください。

(相田 明)

 稲の穫り入れが終わった田んぼの周りで落ち葉を舞わせていた木々もすっかり葉を落とし、身が引き締まるような冷気の中で、岩の作棚田は新たな年を迎えようとしています。 棚田ネットワークは、2013年から新宿区立環境学習情報センターが主催する「新宿の環境学習応援団」に参加し、茂木プロジェクトがこの活動を担当することになりました。来る2月2日(土)、新宿区立戸山小学校で開催の“まちの先生見本市”で私たちの活動の一端を展示紹介します。このような活動で「子ども棚田ファン」を増やし、茂木プロジェクトの活性化につなげるべく、いろいろ作戦を練っているところです。会員の皆さま、ぜひ覗きに来てください。

(安井 一臣)

 10月16日にスタッフ二人と保存会の方とで脱穀してできたお米はなんと150kg! 粒も大きく素晴らしい出来でした。その新米を味わうべく11月11日にプロジェクト初年度の最後を締めくくる「新米を食べる会」を石部

棚田の交流棟で開催しました。地元物産のきびなごやしいたけ、さつま揚げなどを炭火で焼きながら、味わう新米は格別でした。そして、保存会会長の高橋周蔵さんに復田当初のお話、石部の現状、そしてこれからの夢を語っていただきました。来年も、より一層魅力あるプロジェクトにしていきたいと思いますので、皆様よろしくお願いします! (高桑 智雄)

お土産用にパッケージした新米

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〒 160-0023東京都新宿区西新宿 7-18-16トーシンハイム 704 号Tel / Fax 03-5386-4001e-mail: [email protected] URL: www.tanada.or.jp郵便振替口座:00100-7-151565

編集部から

 「旧暦棚田ごよみ」がつい

に発売されました。会の財

政を何とかしたいと数名の

メンバーが立ち上がり、売

れるカレンダーを作ろうと

始めたプロジェクトです。

青柳健二さんという素晴ら

しい写真家の協力、当会きっ

てのデザイナーのレイアウ

ト、営業戦略を練る若手ス

タッフ、そして旧暦という

時代のニーズを取り込んだ

プロジェクト・リーダー。

見事なチームワークで出来

た逸品です。実際ホントに

売れるのかという心配もあ

りましたが、現在順調な滑

り出しで、予約の時点で制

作費はまかなえる段階にき

ています。でも会の財政、

引いては棚田保全に貢献す

るにはこれからが勝負です。

みなさん、ぜひ周りの方に

紹介してください!

2013年1月号 Vol.86

発行棚田ネットワークNPO法人

[今月の表紙]福島県喜多方市山都町の山腹水路・本木上堰を歩く