最近の先天性股関節脱臼 ー予防・診断・治療ー ·...

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あいち小児保健医療総合センター 整形外科 服部 あいち小児センター あいち小児センター 研修会( 研修会( 2006 2006 9 9 10 10 最近の先天性股関節脱臼 ー予防・診断・治療ー

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Page 1: 最近の先天性股関節脱臼 ー予防・診断・治療ー · 最近の日本の先天股脱発生頻度 • 日本の発生率は1970年以前は出生数の約1~2% であった。その後に出生後予防活動が普及

あいち小児保健医療総合センター

      整形外科    服部 義

あいち小児センターあいち小児センター研修会(研修会(20062006・・99・・1010))

最近の先天性股関節脱臼ー予防・診断・治療ー

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先天性股関節脱臼ー原因と予防ー

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 出生時に何らかの脱臼準備状態にある股関節が出生後の要因が加わって股関節脱臼に進展すると考えられている。

Congenital Dislocation of the Hip (CDH)

Developmental Dislocation (Dysplasia) of the Hip (DDH)

概念

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病因

 1遺伝的要因    家族歴、骨盤、大腿骨の形態

 2関節弛緩性    女児に多い(エストロゲン)

 3出生前要因 

    骨盤位に股関節脱臼が多い。 

 4出生後の環境要因

    脱臼誘発筋(膝屈筋群 腸腰筋)の過緊張 

    オムツの問題(過去の巻きオムツなど)                  

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下肢伸展強制による脱臼発生機構

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出生直後からの予防を

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疫学

• 国や人種により差がある

• 一般的に寒冷地に多く、温暖な地に少ない

• 発生率 カナダインディアン18.6%

       ユーゴスラビア 7.5%       ナボハインディアン2%

       アメリカデトロイト1%

       アフリカ 0%

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最近の日本の先天股脱発生頻度

• 日本の発生率は1970年以前は出生数の約1~2%

であった。その後に出生後予防活動が普及し、発生率は約0.1~0.5%となった。また出生率の低下も

あり、先天股脱は激減したといわれていた。

• しかし全国的にも最近発生率が増加傾向にあり、また健診などでの見逃し例(遅発見例)が多くなってきているといわれている。

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名古屋大学入院牽引症例(1964-2002) 449関節

0

5

10

15

20

25

30

19641964 19701970 19801980 19901990 20002000

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先天性股関節脱臼ー診断ー

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        乳児期  

床から °以上の角度が開排制限陽性とする。

男児の両側同程度の開排制限は脱臼ではなく、内転筋拘縮が多い

脱臼でも開排制限のないことがまれだがある。

女児の左右差に注意(向き癖の反対側の開排制限がほとんど)

股関節開排制限

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脚長差坐骨結節と大転子の関係

乳児期所見

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幼児期幼児期

処女歩行の遅延処女歩行の遅延

片側脱臼片側脱臼      跛行と跛行とTrendelenburgTrendelenburg徴候徴候

両側脱臼    腰椎の前彎の増強による    いわゆる出っ尻歩行

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従来からもっとも多く行われてきた

 画像診断。

新生児期は骨頭、臼蓋の骨化が少なく診断価値はない。

乳児期(生後 ヶ月ごろ)以後の診断に用

いる。

先天股脱の 線診断

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先天股脱の超音波診断

• 1980年 オーストリアのGrafにより手技、診断法

が確立され、現在ではヨーロッパを中心に、広く普及している。

• 被爆がないこと、軟骨成分が多い新生児期から診断できることが大きな利点である。

• 骨性成分が多くなる1歳以上の診断には不向きである。

• 画像の撮像や評価には少しのトレーニングが必要

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先天性股関節脱臼 ー治療ー

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新生児期先天股脱の治療

• 客観的診断が困難

• クリックの自然消失があるように、自然治癒の可能性がある

• 骨頭の脆弱性があり整復時ペルテス様変形が生じた場合重症化する

• 生後3から4ヵ月の乳児期まで待機してから治療を開始するという意見も多い。

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新生児期先天股脱の治療

乳児期まで待機することによる 次的障害を

考え、超音波診断で診断を確定し、早期に治療を開始する考え方もある。

      新生児  

       など

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乳児期先天股脱の治療

  チェコスロバキアのPavlikが報告(1957)

  日本には1960年に鈴木によって紹介導入

  当時の徒手整復後ギプス固定のLorenz法にかわ

  り、骨頭変形が少ないということで全世界に普及し

  た。

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リーメンビューゲル( 装具

骨頭の位置異常のある亜脱臼、脱臼に適応。臼蓋形成不全に対しての効果は

  疑問視されている。単なる開排制限には使用しない。適応月齢はさまざまな意見があるが

  ヶ月から ヶ月が最も良い適応と思われる

外来通院で治療可能

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法での整復率とペルテス様変形率

整復率

      乳児期   70%から80%

ペルテス様変形率

      軽症例を含めると10%から15%

      重症例は2から5%

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先天股脱治療の最終目標

成長終了した 成人となった)時点で、生

涯痛みの心配のない股関節にすること。

整復は治療の第一歩に過ぎず、整復後の股関節の成長に注意し、必要であれば、適切な時期 5歳ごろ)に補正手術が

必要なこともある。

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先天股脱をめぐる最近の問題点

健診について

しっかりお願いします・・・

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  アンケート調査

• 1991年1月より2002年1月までに名古屋大学

整形外科で生後7ヶ月以降に初めて先天性股関節脱臼と診断されて、入院牽引治療した37例にアンケート調査

• 37例中30例で回収可能

  回収率 81%

年長治療開始例(見逃し例)の検討年長治療開始例(見逃し例)の検討

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調査項目

• 健診受診歴

• 健診施行者

• いつ、だれが異常所見に気がついたか

• 最終的にはどこで診断されたか

• 診断確定までの他医療機関受診歴

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最終診断時年齢

33YY~~

2Y 2Y ~~ 3Y3Y

1Y6M 1Y6M ~~ 2Y2Y

1Y 1Y ~~ 1Y6M1Y6M

6M 6M ~~ 1Y1Y

0 2 4 6 8 10 120 2 4 6 8 10 12

平均平均11才才77ヶ月(ヶ月(77ヶ月~ヶ月~55才才55ヶ月)ヶ月)

近医にて近医にて健診にて健診にて

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診断確定前の他医受診歴

00      11      22

22YY~~

1Y6M1Y6M~~2Y2Y

1Y1Y~~1Y6M1Y6M

6M6M~~1Y1Y

~~6M6M

小児科小児科

整形外科整形外科

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3歳以後まで診断されなかった5例 

・ 家族の問題 2例

  異常にきずいていたが医療機関受診せず

  近くの整体に3歳7ヶ月まで通院

・ 医療機関の問題 3例

  1歳4ヶ月時 近医療機関へ xpなしで異常なし

  1歳6ヶ月と2歳に近医療機関 xpなしで異常なし

  1歳、1歳6カ月、2歳、さまざまな医療機関へ相談 

     xpなしで異常なし 5歳まで診断されず     

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皆様に望むこと

• 先天股脱は減少はしているものの、決してなくなったわけではない!!今後も発生予防に注意を!!

• 早期発見、早期治療にまさる名医はいない!!

• 一時の見逃しはその児の一生に関わる!!

• 疑わしい例は遠慮なく画像診断を 

             被爆のない超音波診断で