北海道の高速道と一般道の並行ルートにおける冬期交通事故...

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10 寒地土木研究所月報 №808 2020年8月 本稿では、北海道の高速自動車国道(高速道)と一般国道(一般道)が並行する区間のルート(並行ルート)を 対象に、冬期の道路交通状況と気象状況に係る交通事故リスク要因の回帰分析をおこない、並行ルート間の冬期の 交通事故リスクと交通量転換との関係を考察した結果について報告する。本分析では、一般化線形モデル(GLM) を適用して冬期の人身・物損事故件数を道路交通状況と気象状況に係るリスク要因に回帰させることにより、実務 的にも特定しやすいリスク要因を明らかにした。分析対象は、札幌市内と新千歳空港を結ぶ道央・札樽自動車道と 国道36号の並行ルートで、冬期2か年である。 結果、(1)一般道ルートの人身事故リスクはポアソン分布、その物損事故リスクは負の二項分布に従い、高速道 ルートの人身事故リスクはゼロ過剰ポアソン分布、その物損事故リスクは負の二項分布に従うこと、(2)一般道ル ートの人身事故リスクと信号交差点密度・降雪量、その物損事故リスクとキロ当たり交通量・信号交差点密度・最 高気温・積雪深・降雪量が相関し、高速道ルートの人身事故リスクとキロ当たり交通量、その物損事故リスクとキ ロ当たり交通量・降雪量・発生月が相関することが判明した。 《キーワード:冬期交通事故リスク;並行ルート;リスク要因;一般化線形モデル》 This article reports on both the results of analyzing risk factors on winter traffic accident risk in parallel routes of toll expressway and national highway in Hokkaido and the results of examining the relationship between the winter traffic accident risk and the traffic demand shift in the parallel routes. The aim of this analysis is to determine the risk factors, which are not only statistically significant but also practically useful in prediction, by regressing the number of traffic accidents causing injury and death or property damage to both road traffic conditions and meteorological conditions in winter, by use of generalized linear models (GLM). We target two winter seasons (181 days) in the parallel routes composed of Do-o and Sasson Expressways and National Highway No. 36 in Central Hokkaido. Our results are follows. (1) In the No. 36 route, the winter traffic accident risk causing injury and death and the risk causing property damage are determined by Poisson distribution and negative binomial distribution, respectively. In the Do-o and Sasson route, those risks are determined by zero-inflated Poisson distribution and negative binomial distribution, respectively. (2) In the No. 36 route, the risk causing injury and death correlates with signalized intersection density and snowfall, and the risk causing property damage correlates with traffic volume per kilometer, signalized intersection density, maximum temperature, snow depth and snowfall. In the Do-o and Sasson route, the risk causing injury and death correlates with traffic volume per kilometer, and the risk causing property damage correlates with traffic volume per kilometer, snowfall and month. 《Keywords:Winter Traffic Accident Risk;Parallel Routes;Risk Factor;Generalized Linear Models》 報 文 北海道の高速道と一般道の並行ルートにおける冬期交通事故リスクとその要因 Winter Traffic Accident Risk and its Factors in Parallel Routes of Toll Expressway and National Highway in Hokkaido 四辻 裕文  星 卓見  平澤 匡介  佐藤 昌哉 YOTSUTSUJI Hirofumi, HOSHI Takumi, HIRASAWA Masayuki and SATO Masaya

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Page 1: 北海道の高速道と一般道の並行ルートにおける冬期交通事故 ......図-1に示す。)の冬期2か年を対象に、一 般化線形モデル(generalized

10 寒地土木研究所月報 №808 2020年8月

本稿では、北海道の高速自動車国道(高速道)と一般国道(一般道)が並行する区間のルート(並行ルート)を対象に、冬期の道路交通状況と気象状況に係る交通事故リスク要因の回帰分析をおこない、並行ルート間の冬期の交通事故リスクと交通量転換との関係を考察した結果について報告する。本分析では、一般化線形モデル(GLM)を適用して冬期の人身・物損事故件数を道路交通状況と気象状況に係るリスク要因に回帰させることにより、実務的にも特定しやすいリスク要因を明らかにした。分析対象は、札幌市内と新千歳空港を結ぶ道央・札樽自動車道と国道36号の並行ルートで、冬期2か年である。

結果、(1)一般道ルートの人身事故リスクはポアソン分布、その物損事故リスクは負の二項分布に従い、高速道ルートの人身事故リスクはゼロ過剰ポアソン分布、その物損事故リスクは負の二項分布に従うこと、(2)一般道ルートの人身事故リスクと信号交差点密度・降雪量、その物損事故リスクとキロ当たり交通量・信号交差点密度・最高気温・積雪深・降雪量が相関し、高速道ルートの人身事故リスクとキロ当たり交通量、その物損事故リスクとキロ当たり交通量・降雪量・発生月が相関することが判明した。

《キーワード:冬期交通事故リスク;並行ルート;リスク要因;一般化線形モデル》

This article reports on both the results of analyzing risk factors on winter traffic accident risk in parallel routes of toll expressway and national highway in Hokkaido and the results of examining the relationship between the winter traffic accident risk and the traffic demand shift in the parallel routes. The aim of this analysis is to determine the risk factors, which are not only statistically significant but also practically useful in prediction, by regressing the number of traffic accidents causing injury and death or property damage to both road traffic conditions and meteorological conditions in winter, by use of generalized linear models (GLM). We target two winter seasons (181 days) in the parallel routes composed of Do-o and Sasson Expressways and National Highway No. 36 in Central Hokkaido.

Our results are follows. (1) In the No. 36 route, the winter traffic accident risk causing injury and death and the risk causing property damage are determined by Poisson distribution and negative binomial distribution, respectively. In the Do-o and Sasson route, those risks are determined by zero-inflated Poisson distribution and negative binomial distribution, respectively. (2) In the No. 36 route, the risk causing injury and death correlates with signalized intersection density and snowfall, and the risk causing property damage correlates with traffic volume per kilometer, signalized intersection density, maximum temperature, snow depth and snowfall. In the Do-o and Sasson route, the risk causing injury and death correlates with traffic volume per kilometer, and the risk causing property damage correlates with traffic volume per kilometer, snowfall and month.

《Keywords:Winter Traffic Accident Risk;Parallel Routes;Risk Factor;Generalized Linear Models》

報 文

北海道の高速道と一般道の並行ルートにおける冬期交通事故リスクとその要因

Winter Traffic Accident Risk and its Factors in Parallel Routes of Toll Expressway and National Highway in Hokkaido

四辻 裕文  星 卓見  平澤 匡介  佐藤 昌哉

YOTSUTSUJI Hirofumi, HOSHI Takumi, HIRASAWA Masayuki and SATO Masaya

Page 2: 北海道の高速道と一般道の並行ルートにおける冬期交通事故 ......図-1に示す。)の冬期2か年を対象に、一 般化線形モデル(generalized

寒地土木研究所月報 №808 2020年8月 11

1.はじめに

積雪寒冷地域において冬期道路交通事故対策を効率的・効果的に実施するうえで、リスクマネジメントの考え方は有益である。近年、交通事故リスクマネジメントの手法として、交通事故リスク情報を活用した交通需要マネジメントが注目されており1)、これまでに、新潟都市圏2)、阪神都市圏3)、松山都市圏4)の各々で、実証実験がおこなわれてきた。札幌都市圏を含む北海道でも、同様のリスクマネジメントの実施が期待される。その際、北海道と北陸・近畿・四国とでは冬期の道路交通状況や気象状況の様相が異なるので、北海道での冬期の交通事故リスク情報にはどのような内容が適しているのかを検討しておく必要がある。

そこで、本研究では、「冬期の交通事故リスク情報提供による高リスク路線から低リスク路線への交通量転換」に着目し、高速自動車国道(「高速道」と略す。)と一般国道(「一般道」と略す。)が並行する区間のルート(「並行ルート」と略す。)を対象に、冬期の交通事故リスク要因の回帰分析をおこない、並行ルート間の冬期の交通事故リスクと交通量転換との関係を考察することを目的とする。

具体的には、道央・札樽自動車道と国道36号の並行ルート(図-1に示す。)の冬期2か年を対象に、一般化線形モデル(generalized linear modelsの和訳。

「GLM」と略す。)を用いて冬期の人身・物損事故件数を道路交通状況と気象状況に係る交通事故リスク要因に回帰させることにより並行ルートの冬期交通事故リスク推計モデルを構築し、このモデルから推計した交通事故リスクと交通量転換との関係についてシミュレーションを通じて考察するというものである。

2.なぜ事故リスクの分析に統計モデルを用いるのか

本章では、事故リスクの分析にGLMという統計モデルを使う理由について説明する。

2.1 事故率について

事故リスクとは別に、事故率(accident rate)という用語がある。まず、事故率について説明しておく。

道路での交通事故の発生には様々な状況が影響して

いる。そのため、道路交通事故のデータは、状況の相

違を反映した指標で基準化されるほうが望ましい。そ

のように基準化されたデータが事故率である。例え

ば、自動車走行台キロで基準化された事故件数、免許

人口で基準化された事故死傷者数、等が挙げられる。

ところで、交通事故は工学的には確率的な事象とみなされるので、交通事故の頻度(出現度数)や生起確率を診る必要がある。事故率を用いた事故分析に際しても、自動車走行台キロ当たりの事故件数の頻度や生起確率、免許人口当たりの事故死傷者数の頻度や生起確率、等を用いて診断する必要がある。

2.2 事故リスクの定義

本研究では、リスク学5)や日本産業規格6)の定義を踏まえ、事故リスクを「事故の起こりやすさと事故による被害の程度との組合せ」と定義する。「事故の起こりやすさ」とは、事故率あるいは事故件数や事故死傷者数等の母集団を特徴付ける確率分布のことを指す。

ただし、上記のように定義する一方で、実用的には、事故による被害の程度を人身・物損事故による死亡・重傷のように区分したうえで、区分ごとにみた事故の起こりやすさを、便宜上、事故リスクという。

2.3 統計モデルを使う理由

一般に、交通事故は稀な事象とみなされる。交通事故のデータは、あくまでもある母集団から抽出された

図-1 分析対象である高速道と一般道の並行ルート

札幌市

千歳市

北広島市

恵庭市

札幌北IC

新千歳空港IC 空港

道央道

札樽道

道央道

国道36号

国道36号

Googleマップ

苫小牧市並行ルート(一般道)(JR札幌駅周辺~新千歳空港周辺)39.382km (国道36号KP0~KP39.382)並行ルート(高速道)(札幌北IC~新千歳空港IC)42.939km (道央道KP0~KP35.400、札樽道KP0~KP7.539)

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12 寒地土木研究所月報 №808 2020年8月

標本の値であり、しかも稀にしか観測されないものであると考えられる。このような考え方に従うならば、稀にしか観測されない事故の標本を要約して記述するよりも、むしろ事故率あるいは事故件数や事故死傷者数等の母集団を特徴付ける確率分布(事故リスク)を推測して記述するほうが望ましい。母集団を特徴付ける確率分布は、未知であり、統計的仮説に基づき特徴付けるしかない。したがって、事故リスクの分析には統計的仮説に従う母集団のモデル化が必要になる。ここでいうモデル化とは、事故リスク(母集団の確率分布)と事故リスク要因(その分布を特徴付ける要因)との関係を表す統計モデルを構築することを意味する。なお、上記の事故リスク要因は、ハザードと呼ばれることもある。

以上が、統計モデルを使う理由である。

2.4 実用的な取り扱い方

事故率は実数であるが、事故件数や事故死傷者数はカウントデータ(0以上の整数)である。稀な事象のカウントデータを生む母集団は、ポアソン分布、負の二項分布、等で特徴付けられる。これらの分布に従う母集団の分析に使われる統計モデルが、ポアソン回帰モデル、負の二項回帰モデルといったGLMである。なお、GLMの中には連続型分布を扱えるモデルもある。

事故リスクの分析にこれらの回帰モデルを適用するには、目的変数がカウントデータである必要がある。実用的には、事故率それ自体をカウントデータに変換してから目的変数のデータとする、若しくは、目的変数を事故件数としたうえで説明変数に走行台キロ(対数変換した値)を含める、若しくは、目的変数を事故件数として推定したうえで推定値を走行台キロで割るといったテクニックが使われることが多い。

3.事故リスクの分析に用いる一般化線形モデル

本章では、GLMの中で事故リスク分析への適用例が多いポアソン回帰モデルと負の二項回帰モデルを定義し、ゼロ過剰データへの対応についても説明する。

3.1 一般化線形モデルの定義

GLMは、重回帰モデルの拡張版である7)。重回帰モデルでは、正規分布に従う目的変数

を左辺に、説明変数 とその係数 の一次式

び誤差

を右辺に置いた回帰モデル

を構築する。データ

� � ���,⋯ ,�� ,⋯ ,���

�� � ����,⋯ , ���,⋯ , ����

、・・・、

�� � ����,⋯ , ���,⋯ , ����

�� � ����,⋯ , ���,⋯ , ����

を使って、最小二乗法で係数 を推定する。

が正規分布に従うならば、

も正規分布に従う。一般に、

は期待値

E

が0の正規分布に従うと仮定される。この仮定に因り、

の期待値

E

は、

となる。 を用いて、

の推定値

を算

定する。一方、重回帰モデルの拡張版であるGLMでは、

が正規分布以外の分布に従う場合を扱う。

の確率分布が分布パラメータ

(平均や分散が代表的である。)

をもつとする。

の確率関数(

が連続型分布ならば確率密度関数、離散型ならば確率質量関数となる。)を

の条件付き関数

|

とおく。GLMでは、

の関数で表し、

と定める。関数

の逆関数

を「リンク関数」と呼ぶ。このとき、

の生起確率

P

は、次

式で表される。

P |

(1)

式(1)がGLMの定義である。式(1)の

の推定には、最尤法を適用する。データ

� � ���,⋯ ,�� ,⋯ ,���

�� � ����,⋯ , ���,⋯ , ����

�� � ����,⋯ , ���,⋯ , ����

、・・・、

�� � ����,⋯ , ���,⋯ , ����

を使って、次式の対数尤度

を最大化する

を推定する。

���� � ∑ log�����|���� � ����� � �� ������������ (2)

GLMにおいて、リンク関数

が対数関数、目的変数

がポアソン分布に従うモデルをポアソン回帰モデル(「POモデル」と略す。)と呼び、

が対数関数、

が負の二項分布に従うモデルを負の二項回帰モデル(「NBモデル」と略す。)と呼ぶ。ポアソン分布は、平均と分散が等しい(「等分散性」と呼ぶ。)という性質をもつ。一方、負の二項分布は、平均よりも分散が大きくなる(「過分散性」と呼ぶ。)という性質をもつ。

3.2 ポアソン回帰モデル(POモデル)

が平均

、分散

を分布パラメータにもつポアソ

ン分布に従うとする。POモデルのリンク関数

は対数関数なので、関数

は指数関数になる。

このとき、POモデルは、次式で定義される。

exp

(3)

P ! exp

(4)

を事故件数とした場合、式(4)より事故が起きな

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寒地土木研究所月報 №808 2020年8月 13

いリスク

P 0

と1件以上起きるリスク

P 0

は各々、

P 0 exp

P 0 1 exp

なる。

3.3 負の二項回帰モデル(NBモデル)

NBモデルは、POモデルの拡張版である8)。

が平均

、分散

/

(ただし、

0 1

)を分布パラメータにもつ負の二項分布に従うとする。平均1、分散

1/

を分布パラメータにもつガンマ分布に従う誤差

を導入する。式(3)に

log

を加えることで過分散性

を考慮すると、次式が成り立つ。

exp log

(5)

 式(4)の

に置き換えて

P

P |

に置き換えると、式(5)より、次式が導かれる。

P | ! exp (6)

このとき、NBモデルは、 P��� � � P��|��d� より、次式で定義される。

Γ

はガンマ関数である。

P ! (7)

式(3)を式(7)に代入して最尤法を適用し、

を同時に推定する。

を事故件数とした場合、式(7)より事故が起きないリスク

P 0

と1件以上起きるリスク

P 0

は各々、

P 0 /

P 0 1 /

P 0 1 /

となる。

3.4 ゼロ過剰について

事故データの中には、0の値が多くカウントされるものがある。0の値を多く含むカウントデータの分析には、ゼロ過剰(zero-inflated)回帰モデル、若しくは、ゼロ切断(hurdle)回帰モデルを適用する。厳密にはこれらはGLMには属さず、GLMを混合した応用版である。

以下、ゼロ過剰回帰モデルのうち、ゼロ過剰ポアソン回帰モデル(「ZIPOモデル」と略す。)とゼロ過剰負の二項回帰モデル(「ZINBモデル」と略す。)を定義する。

3.5 ゼロ過剰ポアソン回帰モデル(ZIPOモデル)

ZIPOモデルのアイディアは、まず、母集団がゼロ過剰か否かを判定するため、0の値の起こりやすさと1以上の値の起こりやすさの比をロジスティック回帰モデルで推計し、次に、各々の起こりやすさをPOモデ

ルで推計するというものである9)。

をゼロ過剰ポアソン分布に従う事故件数とする。

の母集団から0件という標本が抽出される確率を

、1件以上という標本が抽出される確率を

1

とおく。

は未知数である。式(4)より、事故件数0件の確率は

exp

件の確率は

/ ! exp

である。このとき、

P 0

は、“

の母集団から0件という標本が抽出される確率”、又は、“

の母集団から1件以上という標本が抽出される確率”と“ポアソン分布で0件となる確率”の同時確率のいずれかになる。

P

は、“

の母集団から1件以上という標本が抽出される確率”と“ポアソン分布で

件となる確率”の同時確率になる。

以上より、ZIPOモデルは、次式で定義される。式(8)がポアソン回帰部分を、式(9)がロジスティック回帰部分を表している。

exp

(8) exp (9)

P1 exp 0

1 ! exp 1 (10)

の推定に対してEMアルゴリズムに基づく最尤法を適用し、

と を同時に推定する。ポアソン分布では平均

と分散

は等しくなるのに

対し、ゼロ過剰ポアソン分布では平均

1

と分散

1 1

は等しくならない。

3.6 ゼロ過剰負の二項回帰モデル(ZINBモデル)

ZINBモデルは、次式で定義される。ただし、式中の

は、式(8)(9)と同じく定義される。

P1 0

1 ! 1 (11)

ZIPOモデルと同様、EMアルゴリズムに基づく最尤法を適用し、

と を同時に推定する。

4.分析の方法

本章では、分析対象の区間と時期、分析対象のリスク要因、分析の手順、使用したソフトウェアとデータの特徴を示す。

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14 寒地土木研究所月報 №808 2020年8月

4.1 分析対象の区間と時期

分析対象の区間は、図-1に示す道央自動車道(KP0~KP35.400)・札樽自動車道(KP0~KP7.539)と国道36号(KP0~KP39.382)とが並行する区間である。分析の際には、並行する区間の高速道ルートと一般道ルートを道路交通センサスの交通調査基本区間番号に対応する区間(「センサス区間」と呼ぶ。)に分割する。

分析対象の時期は、2014年度・2015年度の12月・1月・2月からなる冬期2か年(合計181日)である。冬期2か年という短期を扱うので、季節変動やトレンドが事故リスクに及ぼす影響は無視できる。

4.2 分析対象のリスク要因

本分析では、事故率として、自動車走行台キロ当たりの事故件数に着目する。したがって、事故リスクは、台キロ当たり事故件数の母集団の確率分布になる。

本稿で事故リスク要因を特定するのは、それを基に推定した事故リスク値を事故リスク情報の構築に役立てるためである。情報発信者の実務的な使い勝手からすると、できるだけ少なく、かつ、予見しやすい事故リスク要因が特定されたほうがよい。

そこで、本分析では、事故リスク要因を道路交通状況と気象状況に係るものに限定する(表-1、表-2)。その他の事故リスク要因の影響は、短期的にはモデルの誤差項に含まれる。道路交通状況に係る事故リスク要因は、キロ当たり交通量(台/12h/km)、旅行速度

(km/h)、信号交差点密度(箇所/km)、無信号交差点密度(箇所/km)の中から、気象状況に係る事故リスク要因は、平均気温(℃)、最高気温(℃)、最低気温(℃)、積雪深(cm)、降雪量(cm)の中から、それぞれ統計的な基準に従う最適な組合せを特定する。

4.3 分析の手順

リンク関数(例えば式(3)の両辺の対数をとった関数となる。)の左辺にはlog(事故件数)を置き、右辺には、表-1、表-2のリスク要因の他に、log(台キロ)を置く。log(事故件数)とlog(台キロ)の差は、log(事故率)になる。事故件数の母集団の確率分布を推計した後で、その事故件数を事故率に変換し、事故率の母集団の確率分布(事故リスク)を求めることにする。

また、高速道ルートと一般道ルートに対して、道路交通状況に係る事故リスク要因(表-1)の回帰モデルと、気象状況に係る事故リスク要因(表-2)の回帰モデルを別々に構築する。道路交通状況に係る事故リスク要因が並行ルートの事故リスクに及ぼす影響を

考えたとき、道路交通状況がセンサス区間ごとに異なるので、事故件数はルート単位でなくセンサス区間単位のほうがよい。他方、気象状況に係る事故リスク要因が並行ルートの事故リスクに及ぼす影響を考えたとき、大域的な影響が大きいので、こちらの件数のほうはルート単位のほうがよい。これが別々に構築する理由である。

分析の手順は、以下の通りとする。①POモデル、NBモデル、ZIPOモデル、ZINBモデル

の各々について、道路交通状況に係る事故リスク要因の回帰分析、並びに、気象状況に係る事故リスク要因の回帰分析をステップワイズでおこなう。

②各々の回帰モデルに対して、AIC(データへの当てはまりと説明変数の数とのバランスからみて説明変数の最適な組合せを判定する指標)が最小になる事故リスク要因の組合せを特定する。

③POとNBの両モデルに対して、過分散検定(平均と分散の差がゼロであるという帰無仮説を検定する。)をおこなう。等分散性が棄却されたならば、NBモデルを採用する。

④POとZIPOの両モデル、若しくは、NBとZINBの両モデルに対して、ゼロ過剰検定(両モデルの有意差は無いという帰無仮説を検定する。)をおこなう。有意差無しが棄却されたならば、ZIPOモデル又はZINBモデルを採用する。

4.4 使用したソフトウェアとデータの特徴

POモデルの推定にはRのパッケージstatsのglm関数を、NBモデルの推定にはパッケージMASSのglm.nb関数を、ZIPOモデルとZINBモデルの推定にはパッケージpsclのzeroinfl関数を使用した10)。リンク関数の右

表-1 道路交通状況に係る事故リスク要因(抜粋)

表-2 気象状況に係る事故リスク要因(抜粋)

路線名 交通調査基本区間番号 年⽉ 人身事故件数(件/⽉)

物損事故件数(件/⽉)

⽉平均交通量

(台/12時間)

⽉平均旅⾏速度(km/h)

交差点密度信号あり

(箇所/km)

交差点密度信号なし

(箇所/km)

一般国道36号 1300360010 201412 0 8 11,113 15.66 10.0 3.6

一般国道36号 1300360010 201501 1 24 10,178 20.50 10.0 3.6

一般国道36号 1300360010 201502 0 2 10,811 13.53 10.0 3.6

一般国道36号 1300360010 201512 0 11 10,932 15.14 10.0 3.6

一般国道36号 1300360010 201601 0 5 10,444 19.00 10.0 3.6

一般国道36号 1300360010 201602 0 3 10,725 19.05 10.0 3.6

一般国道36号 1300360020 201412 0 12 26,419 25.53 10.0 3.6

一般国道36号 1300360020 201501 1 12 24,195 32.76 10.0 3.6

一般国道36号 1300360020 201502 4 10 25,700 25.47 10.0 3.6

一般国道36号 1300360020 201512 0 18 25,989 21.20 10.0 3.6

一般国道 ⾼速道路人身事故件数(件/日)

物損事故件数(件/日)

人身事故件数(件/日)

物損事故件数(件/日)

平均気温(℃)

最⾼気温(℃)

最低気温(℃)

最深積雪(cm)

降雪量合計(cm)

2014/12/1 1 2 0 2 8.1 11.4 6.2 0 0

2014/12/2 2 4 0 0 -0.9 7.5 -3.4 0 0

2014/12/3 1 4 0 2 -1.9 0.1 -4.0 0 0

2014/12/4 0 3 0 1 -3.8 1.4 -9.5 0 0

2014/12/5 0 2 0 1 -4.6 -0.1 -9.3 0 0

2014/12/6 0 3 0 13 -7.0 -1.4 -12.0 0 0

2014/12/7 2 20 2 11 -7.6 0.1 -13.6 7 7

2014/12/8 0 11 0 1 -7.4 -0.5 -14.6 5 3

気象データ年⽉日

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寒地土木研究所月報 №808 2020年8月 15

辺には、対数変換された台キロのoffset項(回帰係数を1に固定した項を指す。)を加えた。また、過分散検定にはパッケージAERのdispersiontest関数を、ゼロ過剰検定にはパッケージpsclのvuong関数を使用した。

データの特徴として要約統計量を整理すると、表-

3のようになった。冬期の一般道ルートでは、高速道ルートに比べて、日当たり人身事故件数が平均で約7倍、日当たり物損事故件数が平均で約2.5倍発生していた。

また、対象時期の181日のうち、日当たり事故件数がカウントされた延べ日数を調べると、図-2、図-3

のようになった。人身事故の場合、高速道では0件がカウントされたのは延べ165日に、一般道では0件がカウントされたのは延べ90日になった。物損事故の場合、高速道では0件がカウントされたのは延べ42日に、一般道では4件がカウントされたのは延べ32日になった。高速道では、人身事故も物損事故も発生しなかった日数が全日数の中で最も大きな割合を占めた。他方、一般道では、人身事故が無かった日数が最も大きな割合を占めたのに対し、物損事故のほうは4件発生した日数が最も大きな割合を占めた。

5.分析の結果

本章では、POモデル、NBモデル、ZIPOモデル、ZINBモデルの各モデルに対する回帰係数の推定結果を示し、各モデルの中から冬期交通事故リスク推計モデルとして採用されたものを示す。

5.1 採用されたモデル

分析の手順に従って特定された事故リスク要因の組合せ、及び、その回帰係数の推定値を表-4~表-7に示す。表-4と表-5は道路交通状況に係る人身と物損の事故リスク要因を、表-6と表-7は気象状況に係る人身と物損の事故リスク要因を表す。各表で、推定値の右肩に付いた「*」は5%有意、「**」は1%有意、「***」は0.1%有意の値であることを意味し、事故リスクとの相関が認められた事故リスク要因の回帰係数であることを表す。括弧内の数値は標準誤差SEを表す。

表-4をみると、まず、過分散検定で、一般道と高速道の別に関わらず等分散性が棄却されなかったので、POモデルが採用された。次に、ゼロ過剰検定で、一般道ではPOとZIPOの両モデルで有意差無しが棄却されなかったので、POモデルが採用された。高速道ではそれが棄却されたので、ZIPOモデルが採用された。

表-5をみると、まず、過分散検定で、一般道と高速道の別に関わらず等分散性が棄却されたので、NBモデルが採用された。次に、ゼロ過剰検定で、一般道と高速道の別に関わらずNBとZINBの両モデルで有意差無しが棄却されなかったので、NBモデルが採用された。

表-6をみると、表-4と同様、一般道ではPOモデルが、高速道ではZIPOモデルが採用された。

表-7をみると、表-5と同様、一般道と高速道の別に関わらずNBモデルが採用された。

5.2 モデルの精度

表-8、表-9の分割表を用いて、冬期交通事故リスク推計モデルの予測精度を検証する。

表-8をみると、高速道の道路交通状況による人身事故リスクと物損事故リスクの推計モデルについては、「0件となる確率が50%以上あると予測して実際には0件であった事象」、かつ、「1件以上起きる確率が50%以上あると予測して実際には1件以上あった事象」が全事象に占める割合(「全予測の的中率」と呼ぶ。)は各々94%と65%であった。同様に、気象状況による人身事故リスクと物損事故リスクの推計モデルについ

表-3 要約統計量

並行ルート内の

冬期 181 日 総数

(件)

最大値

(件/日)

平均値

(件/日)

標準偏差

(件/日)

人身

事故

高速道 19 2 0.1 0.4一般道 128 5 0.7 0.9

物損

事故

高速道 450 13 2.5 2.6 一般道 1,137 32 6.3 6.2

図-2 冬期交通事故件数ごとの発生日数(高速道)

図-3 冬期交通事故件数ごとの発生日数(一般道)

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16 寒地土木研究所月報 №808 2020年8月

ては、全予測の的中率は各々98%と66%であった。また、一般道の道路交通状況による人身事故リスク

と物損事故リスクの推計モデルについては、全予測の的中率は各々50%と55%であり、気象状況による人身事故リスクと物損事故リスクの推計モデルについては、全予測の的中率は各々56%と66%であった。

本稿で扱った道路交通状況と気象状況に係る事故リスク要因の組合せに対して、例えば事故リスクが懸念される当日の路面状況といった事故リスク要因をさらに加えれば、当然モデルの予測精度は向上するだろう。

だが、なるべく少ない組合せの、かつ、実務的に特定しやすい事故リスク要因の組合せを用いて冬期交通事故リスクを予測するという目的からすると、5割以上という予測精度は必ずしも悪くないと考えられる。

6.考察

6.1 事故リスク要因について

表-4と表-6の人身事故リスク要因をみると、冬期の並行ルートのうち、一般道では、POモデルに基づ

表-4 道路交通状況に係る事故リスク要因の推定結果(人身事故リスクの場合)

事故リスク要因 一般道 高速道 PO NB ZIPO ZINB PO NB ZIPO ZINB

キロ当たり交通量 0.117 (1.214)

0.946 (1.113)

0.130 (1.269)

0.194 (1.313)

0.018*** (0.004)

0.019*** (0.006)

0.019*** (0.002)

0.019*** (0.001)

旅行速度 - - - - - - 0.009 (0.063)

0.006 (0.072)

信号交差点密度 -0.215*** (0.080)

-0.214*(0.084)

-0.169(0.103)

-0.165(0.121) - - - -

無信号交差点密度 - - - - - - - - 12 月ダミー - - - - - - - - 1 月ダミー - - - - - - - -

定数項 0.359 (1.280)

0.352 (1.323)

0.286 (1.385)

0.116 (1.514)

-3.193*** (1.004)

-3.203*** (1.006)

-3.113*** (1.001)

-3.145*** (1.001)

信号交差点密度 0.202 (0.185)

0.328 (0.452)

旅行速度 0.015 (0.113)

0.006 (0.124)

定数項 -2.725*(1.283)

-4.464(4.723)

-1.568(9.526)

-1.731(10.462)

logθ - 1.259 (0.737) - 1.644

(1.179) - 2.050 (3.330) - 0.135

(0.136) AIC 373.4 370.6 373.3 374.1 113.9 115.4 116.6 120.6過分散検定 1.245 [PO] -0.158 [PO] ゼロ過剰検定 1.278 [PO] 2.842** [ZIPO]

事故リスク要因 一般道 高速道 PO NB ZIPO ZINB PO NB ZIPO ZINB

キロ当たり交通量 0.278 (0.182)

0.421* (0.195)

0.865* (0.195)

0.813* (0.409)

0.085*** (0.237)

0.041** (0.017)

0.041** (0.017)

0.045* (0.018)

旅行速度 - - - - 0.013 (0.006)

0.012 (0.007)

0.014* (0.007)

0.014* (0.007)

信号交差点密度 -0.128*** (0.017)

-0.121*** (0.033)

-0.133*** (0.018)

-0.127*** (0.032) - - - -

無信号交差点密度 - - - - - - - -

12 月ダミー 0.639*** (0.084)

0.587*** (0.149)

0.651*** (0.085)

0.585*** (0.144)

0.829*** (0.127)

0.855*** (0.153)

0.836*** (0.128)

0.842*** (0.133)

1 月ダミー 0.853*** (0.081)

0.863*** (0.146)

0.844*** (0.082)

0.869*** (0.142)

0.433*** (0.131)

0.414** (0.157)

0.473*** (0.132)

0.471*** (0.136)

定数項 0.904 (0.228)

0.572 (0.449)

0.951 (0.231)

0.835 (0.428)

0.296 (0.676)

0.288 (0.754)

0.161*** (0.684)

1.161 (0.700)

信号交差点密度 -2.194**(0.822)

-2.820**(0.955)

旅行速度 0.802 (0.612)

0.802 (0.612)

定数項 0.802 (0.856)

0.965 (0.914)

-82.958(62.063)

-82.974(61.990)

logθ - -1.029* (0.491) - -1.202***

(0.182) - -1.541 (1.988) - -4.409

(2.839) AIC 1078.3 899.7 1043.8 888.5 491.4 489.3 476.4 478.3 過分散検定 4.358*** [NB] 4.052* [NB] ゼロ過剰検定 0.621 [NB] 0.588 [NB]

表-5 道路交通状況に係る事故リスク要因の推定結果(物損事故リスクの場合)

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寒地土木研究所月報 №808 2020年8月 17

いてキロ当たり交通量、信号交差点密度、降雪量が特定された。特に、信号交差点密度と降雪量は、一般道での人身事故リスクとの相関が認められた。また、高速道では、ZIPOモデルに基づいてキロ当たり交通量、旅行速度、降雪量が特定された。特に、キロ当たり交通量は、高速道での人身事故リスクとの相関が認められた。

表-5と表-7の物損事故リスク要因をみると、一般道では、NBモデルに基づいてキロ当たり交通量、信号交差点密度、12月ダミー*1、1月ダミー、最高気温、

積雪深、降雪量が特定された。いずれも、一般道での物損事故リスクとの相関が認められた。また、高速道では、NBモデルに基づいてキロ当たり交通量、旅行速度、降雪量、月ダミーが特定された。特に、キロ当たり交通量と降雪量と月ダミーは、高速道での物損事故リスクとの相関が認められた。

事故リスク要因 一般道 高速道 PO NB ZIPO ZINB PO NB ZIPO ZINB

平均気温 - - - - - - - - 最高気温 - - - - - - - - 最低気温 - - - - - - - - 積雪深 - - - - - - - -

降雪量 0.044** (0.015)

0.044** (0.015)

0.041** (0.015)

0.041** (0.015)

0.070 (0.040)

0.054 (0.044)

0.064 (0.049)

0.054 (0.046)

12 月ダミー - - - - - - - - 1 月ダミー - - - - - - - -

定数項 -0.546*** (0.117)

-0.546*** (0.118)

-0.500*** (0.117)

-0.500*** (0.118)

-2.612*** (0.482)

-2.501*** (0.340)

-1.529*(0.660)

-2.501*** (0.345)

積雪深 -13.330(20.230)

-15.220(28.490)

0.024 (0.021)

1.331 (1.021)

最低気温 -9.970(13.590)

-11.390(18.230) - -

定数項 -75.910(99.610)

-86.750(128.270)

-2.074(1.218)

-9.819(15.788)

logθ - 3.526 (5.099) - 4.826

(15.825) - 0.821 (0.889) - 0.821

(0.935) AIC 401.6 403.6 400.2 402.2 130.2 129.6 129.8 133.6過分散検定 -0.292 [PO] 1.121 [PO]ゼロ過剰検定 0.458 [PO] 1.327* [ZIPO]

事故リスク要因 一般道 高速道 PO NB ZIPO ZINB PO NB ZIPO ZINB

平均気温 - - - - - - - -

最高気温 -0.060*** (0.010)

-0.055*** (0.017)

-0.062*** (0.010)

-0.067*** (0.016) - - - -

最低気温 - - - - - - -

積雪深 0.024*** (0.002)

0.026*** (0.005)

0.023*** (0.002)

0.025*** (0.005) - - - -

降雪量 0.032*** (0.005)

0.044*** (0.010)

0.031*** (0.005)

0.043*** (0.011)

0.048*** (0.008)

0.058*** (0.014)

0.057*** (0.009)

0.063*** (0.015)

12 月ダミー 1.593*** (0.126)

1.652*** (0.222)

1.591*** (0.128)

1.660*** (0.219)

0.748*** (0.124)

0.794*** (0.183)

0.657*** (0.141)

0.804*** (0.180)

1 月ダミー 0.848*** (0.083)

0.939*** (0.142)

0.854*** (0.083)

0.938*** (0.140)

0.315* (0.132)

0.355 (0.188)

0.306* (0.146)

0.396* (0.185)

定数項 0.093 (0.127)

-1.575*** (0.227)

0.151 (0.129)

-0.060*** (0.231)

0.293** (0.111)

-0.616*** (0.157)

0.455*** (0.137)

0.189 (0.160)

積雪深 -0.076(0.060)

-0.123(0.175)

0.012 (0.013)

2.399 (4.962)

定数項 -2.404*** (0.713)

-3.373(1.800)

-2.048*** (0.463)

-162.464(334.588)

logθ - 0.198 (0.605) - 1.241***

(0.176) - 0.691 (0.872) - 0.769***

(0.217) AIC 1139.7 960.8 1126.7 964.3 805.9 733.7 768.3 728.9 過分散検定 4.719*** [NB] 3.666*** [NB]ゼロ過剰検定 0.331 [NB] 0.256 [NB]

表-6 気象状況に係る事故リスク要因の推定結果(人身事故リスクの場合)

表-7 気象状況に係る事故リスク要因の推定結果(物損事故リスクの場合)

*1 ダミーとは、質的データを量的データへと変換するダミー変数を指す。例えば、12月ダミーは、事故発生が12月ならば1を、1月ならば0を代入する説明変数のことである。

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18 寒地土木研究所月報 №808 2020年8月

6.2 事故リスクと交通量転換との関係について

並行ルート間で一般道から高速道へと交通量転換をした場合の冬期交通事故リスクのシミュレーションをおこなった。シミュレーションの与条件は、高速道と一般道の交通量の初期値を各々15000、33000(台/12h)とし、一般道から高速道へ2000(台/12h)ずつ転換するというものである。道路交通状況に係る事故リスク要因に基づくモデルを用いるものとし、交通量以外の与条件は、1月、高速道の旅行速度100(km/h)、一般道の信号交差点密度8(箇所/km)である。

図-4に示すのはシミュレーション結果の一例であるが、シミュレーションを通じて、例えば、与条件の下で一般道の交通量を27000(台/12h)以下まで減らせば、物損事故が1件以上起きるリスクを50%以下に抑えることができるといったことが推測可能となり、高リスク路線から低リスク路線への交通量転換の評価に冬期交通事故リスク推計モデルを役立てることができる。

7.おわりに

本稿では、北海道の冬期における高速道と一般道の並行ルートを対象に、道路交通状況と気象状況に係る交通事故リスク要因を分析し、そのリスク要因に基づく当該リスクを並行ルート間で比較検討した結果について報告した。本研究の成果を要約すると、以下のようになる。・並行ルートの高速道と一般道では、人身事故が(ゼ

ロ過剰)ポアソン回帰モデルに、物損事故が負の二項回帰モデルに従うということを示し、人身事故リスクと物損事故リスクのメカニズムが異なるということを統計的に明らかにした。

・統計的に有意なだけでなく、なるべく少なく、かつ、実務的にも特定しやすい事故リスク要因の組合せをもつ冬期交通事故リスク推計モデルを構築し、その予測精度も示した。本研究の成果は、冬期の交通事故リスク情報提供に

よる交通量転換という冬期交通事故対策に関して、北海道において提供すべき交通事故リスク情報の検討に役立つものと考えられる。

謝辞:分析に際しては、北海道警察本部交通部交通企画課と寒地土木研究所との共同研究に基づき北海道警察からご提供頂いた交通事故データを使用した。

表-8 分割表(高速道の場合)

道路交通状況に係る要因 0 0 的中率

人身事故 P 0 50% 99 7 93% P 0 50% 0 8 100%感度、特異度 100% 47% 94%

物損事故 P 0 50% 12 29 29% P 0 50% 11 62 85%感度、特異度 52% 68% 65%

気象状況に係る要因 0 0 的中率

人身事故 P 0 50% 164 3 98% P 0 50% 1 13 93% 感度、特異度 99% 81% 98%

物損事故 P 0 50% 26 46 36% P 0 50% 16 93 85% 感度、特異度 62% 67% 66%

道路交通状況に係る要因 0 0 的中率

人身事故 P 0 50% 45 39 53% P 0 50% 40 32 44%感度、特異度 53% 45% 50%

物損事故 P 0 50% 5 63 7% P 0 50% 8 80 91%感度、特異度 39% 56% 55%

気象状況に係る要因 0 0 的中率

人身事故 P 0 50% 69 58 54% P 0 50% 21 33 61% 感度、特異度 77% 36% 56%

物損事故 P 0 50% 5 59 8% P 0 50% 3 114 97%感度、特異度 63% 66% 66%

表-9 分割表(一般道の場合)

図-4 交通量転換による事故リスクのシミュレーション

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寒地土木研究所月報 №808 2020年8月 19

四辻 裕文YOTSUTSUJI Hirofumi

寒地土木研究所寒地道路研究グループ寒地交通チーム研究員博士(工学)技術士(建設)

平澤 匡介HIRASAWA Masayuki

寒地土木研究所寒地道路研究グループ寒地交通チーム総括主任研究員博士(工学)技術士(建設)

星 卓見HOSHI Takumi

寒地土木研究所寒地道路研究グループ寒地交通チーム

(現 寒地保全技術研究グループ  寒地道路保全チーム)主任研究員技術士(建設)

佐藤 昌哉SATO Masaya

寒地土木研究所寒地道路研究グループ寒地交通チーム上席研究員

参考文献

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