最適エネルギーマネジメントを 支援する取組み - fujitsu...kpiの変遷 (2 01...

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FUJITSU. 64, 6, p. 652-660 11, 2013652 あらまし 富士通グループでは,ICT製品やソリューションを活用してお客様や社会の環境負荷 の低減や環境効率の向上に貢献することを目的に社内で環境リファレンスモデルを構築 してきた。この活動は,「Green Reference for Tomorrow」をキーコンセプトにグループ 内の4拠点をそれぞれ研究開発・工場・オフィス・データセンターの代表的なモデル拠点 として選定し,開発したソリューションをこれらの拠点において社内実践することによ り様々なノウハウを蓄積するものである。エネルギーマネジメントは,本活動の骨格と なるソリューションであり,活動開始以降,社内での運用実績で得られた知見を生かし, 継続的な改善に取り組んでいる。 本稿では,富士通グループが取り組んでいる環境リファレンスモデルのうち,全拠点 共通の取組みのほか,研究開発・工場・オフィスの代表3拠点において,運用段階を経て 成果を創出している事例を紹介する。 Abstract Fujitsu has established an environmental reference model by using information and communications technology (ICT) products and solutions with the purpose of reducing the environmental impact on consumers and society and improving environmental efciency. Fujitsu has designated four facilities within the Group as model sites an R&D site, plant, ofce and data center based on the concept of Green Reference for Tomorrow.Various types of know-how are accumulated by putting the developed solutions into practice in these sites. Energy Managementis a core solution in this activity, and Fujitsu has strove to continuously improve it since the activity started by optimally using the knowledge it has obtained through operating in these facilities. This paper introduces some models for three representative sites (R&D site, plant and ofce) among the Groups environmental reference models. It mentions cases that have produced successful results after a certain operation period and describes the shared approaches implemented in all the model sites. 小沢哲三   川口清二   西島拓二   濱川雅之   石川鉄二 岡村 斉 最適エネルギーマネジメントを 支援する取組み Activities to Support Optimized Energy Management

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  • FUJITSU. 64, 6, p. 652-660 (11, 2013)652

    あ ら ま し

    富士通グループでは,ICT製品やソリューションを活用してお客様や社会の環境負荷の低減や環境効率の向上に貢献することを目的に社内で環境リファレンスモデルを構築

    してきた。この活動は,「Green Reference for Tomorrow」をキーコンセプトにグループ内の4拠点をそれぞれ研究開発・工場・オフィス・データセンターの代表的なモデル拠点として選定し,開発したソリューションをこれらの拠点において社内実践することによ

    り様々なノウハウを蓄積するものである。エネルギーマネジメントは,本活動の骨格と

    なるソリューションであり,活動開始以降,社内での運用実績で得られた知見を生かし,

    継続的な改善に取り組んでいる。

    本稿では,富士通グループが取り組んでいる環境リファレンスモデルのうち,全拠点

    共通の取組みのほか,研究開発・工場・オフィスの代表3拠点において,運用段階を経て成果を創出している事例を紹介する。

    Abstract

    Fujitsu has established an environmental reference model by using information and communications technology (ICT) products and solutions with the purpose of reducing the environmental impact on consumers and society and improving environmental efficiency. Fujitsu has designated four facilities within the Group as model sites ̶ an R&D site, plant, office and data center ̶ based on the concept of “Green Reference for Tomorrow.” Various types of know-how are accumulated by putting the developed solutions into practice in these sites. “Energy Management” is a core solution in this activity, and Fujitsu has strove to continuously improve it since the activity started by optimally using the knowledge it has obtained through operating in these facilities. This paper introduces some models for three representative sites (R&D site, plant and office) among the Group’s environmental reference models. It mentions cases that have produced successful results after a certain operation period and describes the shared approaches implemented in all the model sites.

    ● 小沢哲三   ● 川口清二   ● 西島拓二   ● 濱川雅之   ● 石川鉄二● 岡村 斉

    最適エネルギーマネジメントを支援する取組み

    Activities to Support Optimized Energy Management

  • FUJITSU. 64, 6 (11, 2013) 653

    最適エネルギーマネジメントを支援する取組み

    ステムとして「環境経営ダッシュボード」を構築し,2011年7月から運用を開始した。(1) 構築初期は,環境活動のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)としてCO2を設定・運用していたが,東日本大震災の発生以降,アウトプットのCO2を算定するインプット側の情報として電力・電力量に加え,電力コストをKPIとしてマネジメントすることが重要と判断し,これらの指標を加え,現在の運用に至っている(図-1)。また,エネルギー効率を評価する原単位指標の分母として社内の基幹システムから事業所の在籍人員数・延床面積・生産台数を取得し,KPIとして活用している。ここでは現在運用している環境経営ダッシュボードの主な機能を紹介する。● 電力をKPIとしたダッシュボード機能東日本大震災が発生した後の2011年夏季に電気事業法に基づく電力の使用制限が行われ,富士通グループの事業所においてもピーク電力を抑制する節電対策を実施した。この節電対策を実施するに当たり,契約電力500 kW以上の全国72事業所(当時)に環境経営ダッシュボードを導入し,1日の電力使用状況を30分単位で閲覧可能とした。電力データの収集は,下記の2パターンで実施した。一つは,既存の富士通ビル管理システムを導入している事業所を対象にしたもので,ビル管理システムで収集している受電電力および電力量をCSV形式のファイルとして出力し,FTPで可視化DBに転送・収集するパターンである。もう一つは,

    ま え が き

    富士通グループは,環境保全を経営の最重要事項の一つと位置づけ,「地球環境起点」による経営を事業方針に組み込んで事業活動を展開している。また,環境活動の理念を規定した「富士通グループ環境方針」では,その行動指針の中で優れたテクノロジー・ICTプロダクト・ソリューションによる総合的なサービスの提供を通じ,お客様や社会の環境負荷低減と環境効率の向上に貢献することを表明している。本稿では,この方針に基づいたエネルギーマネジメントに関わる取組みとして,新しい環境経営を実現するソリューション「環境経営ダッシュボード」について,全ての富士通グループの拠点での展開,および研究開発・工場・オフィスの代表拠点での取組みを紹介する。

    全拠点共通での取組み

    企業が環境活動を実施するに当たり,その活動を評価・確認し,継続的な改善を実施するために,様々な環境情報を収集・指標化し,活用している。富士通グループにおいても,環境経営を強化する上で社内の様々な活動主体が自律的な環境活動を実施するために,環境パフォーマンス集計システムや環境活動の基盤システムにより環境情報を収集してきた。これらの環境情報をワンストップでイントラWebにより閲覧・活用が可能な情報シ

    ま え が き

    全拠点共通での取組み

    社内各階層

    環境経営ダッシュボード

    KPIの変遷

    (2010.7)

    CO2

    CO2

    (2013.7)

    電力

    電力量

    人数・面積・生産台数

    コスト

    DWH:Data Warehouse

    共通DWH(データ収集,処理,KPI化)

    環境情報システム

    環境活動の基盤システム

    収集する環境情報

    エネルギー 廃棄物

    社内基幹システム

    生産管理 購買 人事

    経理 出張処理

    水質 化学物質土壌・地下水

    総務

    コンプライアンス

    ISO14001運用環境パフォーマンス集計

    環境会計 環境教育

    大気 コスト

    施設

    図-1 環境経営ダッシュボードとKPIの変遷

  • FUJITSU. 64, 6 (11, 2013)654

    最適エネルギーマネジメントを支援する取組み

    曲線は,予測対象日の需要パターンと類似する過去の需要パターンを複数抽出し,正規化合成することで予測した(図-2)。● 電力量・コストをKPIとしたダッシュボード機能東日本大震災の発生以降,原子力発電所の稼働が停止または一部にとどまり,化石燃料による発電割合の増加,燃料調整費の増加などによりエネルギーコストが増加している。富士通グループにおいても,エネルギーコストの増加が経営に影響を与えている。そこでエネルギーコストの情報を迅速かつ効率的な集計によりその結果を集約し活用するため,電力量とそのコスト情報の閲覧を可能とする機能の開発を行った。具体的には,富士通グループ全ての自社事業所の電力コストを電力量で除した電力単価情報(円/kWh)を常時閲覧可能とした。● CO2をKPIとしたダッシュボード機能富士通グループでは,2013年度から2015年度の活動期間を第7期環境行動計画としており,今期の目標を「事業所における温室効果ガス排出量を1990年度比20%以上削減する」と設定している。本目標を達成するため,温室効果ガス排出量の約85%以上を占めるCO2排出量について年間目標と当月目標・当月実績をWebから常時閲覧可能とし,CO2の抑制に活用している。ダッシュボード機能としての特徴である従来からの比較/分析機能,事業部門と事業所別のマネジメント支援機能,アラート機能に加え,以下の新規開発・機能強化を行った。

    他社製ビル管理システムを導入している事業所もしくはビル管理システムを導入していない事業所を対象にしたもので,受変電設備で使用している電力会社電力メーターの出力信号からデータを取得するための計測器を新たに設置し,社内LANもしくは携帯通信網を利用してデータ収集サーバに計測データを送信するパターンである。このシステムの導入により,個々の事業所においてピーク電力の目標達成状況をリアルタイムでマネジメントすることが可能となった。加えて富士通グループでは,電気事業法で規定された「共同使用制限スキーム」を活用した。本スキームの参加事業所全体での目標達成状況も把握できるようになり,節電対策を含めた省エネ活動に大きく貢献した。本システムは,運用実績を踏まえた継続的な改善を行っており,その事例の一つを紹介する。事業所ごとの節電対策を実施するに当たり,当日のピーク電力とそのピークに達する時刻を予測できれば,より効果的な節電対策を実施することが可能である。これらの背景から富士通研究所の協力を得て,ピーク電力と電力使用需要曲線の予測機能を開発し,環境経営ダッシュボードに組込みを行った。予測機能は,ピーク電力の予測モデルと需要曲線の予測モデルで構成される。ピーク電力は,過去の消費電力の実績値と観測外気温のデータを用い,対象事業所の午前6:00の外気温と午前9:00の消費電力から重回帰分析によって予測した。需要

    社内事業所

    ・・・A事業所

    X工場・・・

    需要曲線予測モデル

    電力実績データ

    気象データ気象情報

    ピーク予測モデル

    ピーク予測結果

    需要曲線予測結果

    クラウド

    A事業所の需要曲線 X工場の需要曲線

    図-2 ピーク電力と電力使用需要曲線の予測モデル

  • FUJITSU. 64, 6 (11, 2013) 655

    最適エネルギーマネジメントを支援する取組み

    (1) ドリルダウン機能環境経営ダッシュボード開発のコンセプトとしてグループ全体からそれを構成する事業所の情報へと俯

    ふか ん

    瞰的な情報からより詳細な情報へと情報をたどり閲覧することが可能なようにドリルダウン機能を開発した。例えば,CO2排出量の情報について全社情報から事業所情報,更には建屋情報へと必要な情報を入手することが可能である。また,後述するエネルギーマネジメント機能とも連携し,CO2排出量増減の原因調査などに活用している。(2) 原単位指標のマネジメント機能省エネ法において事業者はエネルギー消費原単位を年平均1%以上改善することが求められている。富士通グループでは,省エネ法対応システムで収集した国内自社事業所およびテナント事業所の合計約1000か所のエネルギー使用量を,人手を介さずに社内基幹システムの事業所ごとの人数・面積で除することにより,人数・面積あたりのエネルギー原単位を算定し,事業所ごとにエネルギー原単位の昇順・降順で比較することを可能とした。(3) アラート機能の視認性機能強化富士通グループでは,事業所ごとに月度の到達目標を定め,CO2排出量の削減に取り組んでおり,単月度の目標値と実績を比較し,目標値に対して100%以上であれば警告,95%以上100%未満であれば注意,95%未満であれば計画内の表示をダッシュボード上で表示している。従来は,事業所ごとの情報を表示して初めてこれらの達成状況が確認できたが,事業形態によってカテゴライズされたプルダウンリストからの選択により,トップページから達成状況を一目で確認できるように改善を行った。加えて地図上で事業のカテゴリごとに対象事業所を選択し,表示可能とするとともに事業所ごとの月度目標の達成状況(当月目標に対する進捗率の表示)を一目で把握することができる。● 今後の展開電力に関するダッシュボード機能については,スマートメーターの導入,再生可能エネルギーの導入拡大,蓄電技術の導入コスト低下などデマンドレスポンスをはじめとするスマートシティを支える様々な技術に展開が可能であり,事業所での運用と改善を踏まえ継続的に開発を行っていく。また,環境経営ダッシュボードとしては,現状の

    KPIがエネルギー関連の指標にとどまっているが,水・原材料・廃棄物などの資源効率のマネジメント指標としての活用を展開していく。

    研究開発拠点での取組み

    研究開発拠点のモデル工場である川崎工場での社内実践事例を紹介する。● エネルギーマネジメント機能の活用川崎工場は,富士通社内でエネルギー消費量の多い事業所の一つであり,その消費エネルギーの約90%が電力である。従来は,建屋単位や変電所単位でのエネルギー使用量の把握しかできていない状況であった。今回工場内で最もエネルギー消費量の大きい本館を対象に新たなエネルギー計測機器を設置する工事を実施した。更に,エネルギー消費状況をOA機器・空調・照明などの用途別と,フロア別や東西などのエリア別にリアルタイムで1時間ごとに把握することができるエネルギーマネジメント機能を開発した。その結果,情報のドリルダウンによるCO2排出量増減の原因調査を可能とし,社内の自律的な環境負荷低減活動,すなわちエネルギーの供給側と需要側との両輪の環境活動を実現した。● エネルギー分析事例本館のデータを分析した結果,電力使用量はデータセンターとして使用する「DCエリア」,一般従業員が使用する「執務エリア」,建物を維持させるための施設である「共用部」の三つがほぼ同じ割合であることが判明した。この割合は年間を通じてほぼ一定であることも同時に把握することができた。

    DCエリアでは,これまで様々なデータセンターで培ってきた熱シミュレーション技術の活用による空調効率の向上,共用部では受変電設備の運用改善や契約電力の変更,および蓄熱槽を活用したピークカット施策などのファシリティ運用改善により,年間約11%のエネルギー費削減を達成することができた。また,執務エリアでは,日々の省エネ活動や照明の一斉消灯のほかに以下で紹介するマイクログリッドによる実証実験を行った。マイクログリッドとは,小規模の電力ネットワークのことである。川崎工場では,太陽光発電と蓄電池を組み合わせ,1フロア約400人分の照明と

    研究開発拠点での取組み

  • FUJITSU. 64, 6 (11, 2013)656

    最適エネルギーマネジメントを支援する取組み

    施策効果の確認やエネルギー異常をリアルタイムで監視することで低エネルギーでの生産を実現する「生産エネルギー原単位管理ツール」を開発した。

    ● 生産エネルギー原単位の定義本ツールの特長は,ICTを活用し工場の総エネルギーを三つに分解し,ものづくりにかかる真のエネルギーを「生産比例分エネルギー」として可視化している点である(図-4)。従来は,工場全体の電力使用量を総量管理していたため,外気温が変動した場合など生産以外の要因の影響を受けやすく生産部門における省エネ効果が見え難かった。生産物一単位を生産するための基本的なエネルギーは下記の式で算出する。この値を生産エネルギー原単位と定義し,この値が小さければエネル

    200人分のOA機器の電力を対象に実証実験を行った。予測が困難な太陽光発電量を有効に活用すべく,スーパーコンピュータを用いて,東京地方の過去3年分の気象データなどから,太陽光パネルに当たる日射量の予測とそれに合わせた蓄電池の最適な運転シナリオを1万通り以上作成した。それらのデータと当日の太陽光発電量,フロアの電力使用量実績値と照らし合わせ,最も近い運転シナリオを選定するという「最適化シミュレーション」による蓄電池の運転制御(充電・放電)を実施した(図-3)。また,刻一刻と変化する日射量や使用電力量を常時把握し,1時間おきに最適な運転計画を更に修正することでシミュレーション効果を最大限に高めている。その結果,最も電力需要の大きい午後から夕方にかけてのピーク電力を平均で23%削減することに成功し,また電力会社から購入する電力コストを8%削減した。今後はこの結果をアグリゲータービジネスへの利活用やスマートコミュニティ事業での応用も検討している。

    工場での取組み

    富士通グループの生産活動におけるエネルギー使用割合はグループ全体の30~ 40%を占めるため,生産装置の低エネルギー化が主要な課題であった。今般,生産物一単位の生産エネルギーを可視化し,

    工場での取組み

    図-3 蓄電池運転計画最適化技術の全体構成

    大型シミュレーションシステム(オフライン)

    運転計画評価・最適化シミュレーション

    電力需給変動モデル構築

    過去データ積算電力ログ発電ログ

    リアルタイム制御システム(オンライン)

    PCS

    PCS

    電池残量

    発電量

    消費電力

    電力計

    制御パラメーター修正

    状況判断

    状態監視

    制御用計算機

    運転計画

    運用データ

    制御パラメーター+適用条件

    PCS:Power Conditioning Subsystem

    図-4 生産比例エネルギーの分割可視化

    外気影響・季節変動によるエネルギー

    ものづくりにかかる真のエネルギー

    ファシリティ関連のエネルギー

    生産量

    総量

    生産比例分エネルギー

    固定分エネルギー

    変動分エネルギー

    エネルギー

  • FUJITSU. 64, 6 (11, 2013) 657

    最適エネルギーマネジメントを支援する取組み

    生産ラインに本ツールを導入しトライアル実践中である。サーバ生産の主力ラインに37個の電力センサーを設置し,そのラインを構成する組立および試験・包装工程ごとに電力使用量をリアルタイム(10分間隔)に測定把握している。電力センサーはラインのレイアウト変更を考慮し無線式とした。生産情報は既存の生産管理システムからサーバ図番(機種)や生産台数・ライン稼働時間などを自動入手する。これらのデータから生産エネルギー原単位の可視化を実現している。また,これらの情報は,導入工場の管理部門や生産現場ではもちろんのこと,本社管理部門においても必要な情報を必要なときにワンストップで取得できる。

    図-6は,サーバの試験工程における生産台数と電力使用量の相関関係を解析した結果である。作業終了後や休日に電力の使用が確認されたが,これは製品の自動試験を実施するための装置に常時通電(待機電力)されているためであった。対策は,RUN状態を監視する通信センサーを設置し,製品の試験プログラム稼働と試験装置との同期を図ることで製品側の試験電力と待機電力のオンオフ機能を自動化した(図-7)。低エネルギー化は,対策前後においてライン全体の電力使用量の約26%削減を実現した。今後もICTを活用し生産量との相関分析を継続し,無駄なエネルギーを削減するとともに,同一機種でのエネルギー原単位のバラツキや機種ごとのあるべきエネルギー原単位を追求し,低エネルギー化を推進する。

    ギーを効率良く使用して生産していることになる。

    生産エネルギー原単位(kWh/台)=電力量(kWh)生産台数(台)

    リアルタイムな監視については,電力測定エネルギーマネジメントツールと生産台数の情報を基にデータベース化し可視化を実現している。生産量を横軸にした可視化事例を図-5に示す。本可視化ツールは,エネルギーの異常検出や対策の効果確認,新目標の決定などに活用可能である。例えば,組立て部品数やねじ取付け本数から標準工数を設定し,その上限を超える場合は対策のアラートをリアルタイムに発信し,対策の必要性を促すとともにその対策の効果確認も実施できる。また,ライン全体の効率改善を実施した場合など新目標の設定とその管理運用に活用できる。● 生産ライン事例富士通アイソテック(福島県伊達市)のサーバ

    エネルギー使用量

    ①異常検出と対策①異常検出と対策 従来生産性従来生産性

    目指す生産性目指す生産性

    ②省エネ効果確認②省エネ効果確認

    ③新目標決定③新目標決定

    生産量

    図-5 生産比例エネルギーの可視化と活用例

    図-6 待機電力の可視化結果

    夜間 18:00-07:00(13h) 休日 08:00-21:00(13h)

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    水曜 木曜 金曜 土曜 日曜

    【夜間・休日の電力使用量】折れ線: 電力量棒グラフ:生産台数

  • FUJITSU. 64, 6 (11, 2013)658

    最適エネルギーマネジメントを支援する取組み

    給気設定温度をリアルタイムに変更するカスケード制御を提案し実現した(図-8)。そして,2010年度比でオフィス棟をはじめ,別の棟の空調など設備動力の消費電力量を21%削減し,かつ空調用の都市ガス消費量を26%削減した。● 効率化指標の可視化への取組みこれまでオフィス拠点や研究開発拠点では,エネルギーの使用状況の評価において,効率性・生産性・快適性の面を検討してきたが今回は「人」に着眼し,各フロアで使用中のIPアドレス数(ネットワーク接続数)が人口動態に近似していることからこれを分母に取り,施設利用者一人あたりのエネルギー量としてリアルタイムに算出することを実現した。それらのデータを分析した事例を紹介する(図-9)。室内空調機に使用しているガス使用量の平日と休日を比較した結果,休日は総使用量では平日より減ってはいるものの,可視化した一人あたりのエネルギー量に着目してみると平日と比較して著しく大きいことが判明した。この状況は休日出勤している従業員が少数にもかかわらずエリア全体をカバーする空調機を運転していることが原因で効率の悪い空調運用になっていると言える。対策としては,エネルギーの集中化,すなわち「休日の勤務エリアの限定」などのワークスタイルの変革を管理部門と事業部門が共同で実践することにより解決できる。

    オフィスでの取組み

    オフィス拠点のモデルとした富士通ソリューションスクエアでの社内実践事例を紹介する。● エネルギーマネジメント機能の活用富士通ソリューションスクエアでも先述した研究開発拠点と同様にオフィス棟をモデルとした。この建屋では,特徴でもあるガス空調機のエネルギー量を計測し,電気・ガス併せて数百台のセンサーによりエネルギー消費状況を詳細に把握し,電気とガスのエネルギーのベストミックスを追求した。データ分析の結果,ほぼ6割近くが建物を維持させるための施設である共用部であり,中でも空調の使用量が大きな割合であることが判明した。● ファシリティ運用改善空調での省エネ施策といえば28℃設定の順守が注目されがちであるが,ここでは取得したデータを活用した空調設備自体,すなわちファシリティの運用改善について紹介する。オフィス棟の空調機は,各フロアに個別に設置されている室内空調機と換気用の空気を調整する外調機の二つに分類される。まず,外調機の運用状況を確認した結果,外調機のみで室内湿度の制御を図っていることが判明した。そこで外気の状態に併せた最適な外調機制御を実現すること,外調機と比較して効率の高い室内空調機を有効活用することの二つを目的に室内空気環境で外調機の

    オフィスでの取組み

    図-7 待機電力の削減効果

    試験中試験前 試験後

    待機電力待機電力

    製品試験電力製品

    サーバ稼働電力

    待機電力 待機電力

    対策前

    対策後試験終了後自動シャットダウン

    試験サーバ <RUN状態を監視>正常な通信状態かを監視するセンサーを設置

  • FUJITSU. 64, 6 (11, 2013) 659

    最適エネルギーマネジメントを支援する取組み

    ションのうち,今回紹介した内容を含めその一部については,お客様にも提供を開始している。そのコンセプトとしては,まず社内実践により自らが開発したソリューションを運用し,継続的に改善を加え,PDCAを回すことで自らが使えるソリューションであることを重要視し,開発を重ねてきた。今後も上記のコンセプトのもと,お客様や社会の環境負荷の低減と環境効率の向上を目指し,スマートな社会の実現に貢献していく。

    参 考 文 献

    (1) 小沢哲三ほか:自らの実践による環境リファレンスモデルの構築.FUJITSU,Vol.62,No.6,p.723-733(2011).

    む  す  び

    リファレンスモデルとして開発したソリュー

    む  す  び

    図-8 外調機のカスケード制御

    TIC: 温度指示調節計(Temperature indicating controller)T: 温度計(Thermometer) DP: 露点温度計(Dew point thermometer)

    追加した制御(点線部分)

    DP

    T

    TIC TIC

    外気

    排気

    外調機

    還気

    給気

    給気温度制御器

    還気露点温度制御器

    還気露点温度

    給気温度

    給気温度設定制御信号

    図-9 ネットワーク接続数を用いた分析

    人数

    ガス使用量

    金曜日 土曜日 日曜日

    ガス使用量人数

    休日は人が少ないにもかかわらずガス使用量が多い

  • FUJITSU. 64, 6 (11, 2013)660

    最適エネルギーマネジメントを支援する取組み

    小沢哲三(おざわ てつぞう)環境本部グリーンファシリティ統括部 所属現在,環境リファレンスモデルプロジェクトの責任者としてプロジェクト全体の総括に従事。

    川口清二(かわぐち せいじ)環境本部グリーンマネジメント統括部 所属現在,環境リファレンスモデルプロジェクトにおいて環境経営ダッシュボードの開発に従事。

    西島拓二(にしじま たくじ)環境本部グリーンファシリティ統括部 所属現在,環境リファレンスモデルプロジェクトにおいてエネルギーマネジメント機能の開発に従事。

    濱川雅之(はまかわ まさゆき)環境本部グリーンビジネスイノベーション統括部 所属現在,環境リファレンスモデルプロジェクトにおいてCIO(情報統括責任者)として関連システムの構築に従事。

    石川鉄二(いしかわ てつじ)環境本部グリーンマネジメント統括部 所属現在,環境リファレンスモデルプロジェクトにおいて生産エネルギー効率化システムの開発に従事。

    岡村 斉(おかむら ひとし)環境本部グリーンファシリティ統括部 所属現在,環境リファレンスモデルプロジェクトにおいてエネルギーマネジメント機能の開発に従事。

    著 者 紹 介