変化するコミュニケーション ーソーシャルメディアの畢生- ·...

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変化するコミュニケーション ーソーシャルメディアの畢生- 2006HPooI 安部真紀子 近年インターネットの普及が進むにつれ、情報通信産業も盛んになった。様々なメディ ア媒体で人々が関わることを促進する場が提供され、その場で流行や繋がりが生まれると いう現象が見られるようになった。ブログにネット掲示板、ミクシイやマイスペースなど のSNS (Social Network Service)、またはユーチューブやニコニコ動 ト、価格ドットコムやアットコスメなどのユーザーによる評価サイトがそれである。ユー ザーにより情報スペースが形成されるこのような場は"ソーシャルメディア"と呼ばれる 情報媒体によって可能になっている。このようなメディアは増加・多様化し、それによっ てもたらされるコミュニケーションスペースは増大しつつある。ソーシャルメディアの増 加の理由として、パソコンや携帯電話によるインターネット利用の普及がまずは挙げられ るが、本研究はそれ以外の理由の考察を目的とした。人々がネット上での交流し、ネット を利用しての現実世界の交友関係の拡張を図るようになるまでの経緯を追いながら、ソー シャルメディアの普及の原因を考察した。 まず、第1章ではインターネットやモバイルインターネットが普及していく社会動向に 関するデータを引用しつつ、ソーシャルメディアがどのように生まれ一般化したのかを考 察した。 2002年には25・1%であった個人世帯のブロードバンド普及率は2009年には6 にまで上昇した。これとともにSNSやレビューサイト等のソーシャルメディアの利用率 も上昇している。 第2章と第3章では第1章の考察を踏まえ、ソーシャルメディアの中でも八割以上のシ ェアを誇るmixiと、 2009年だけでユーザー数が10倍に膨れ上がったtwitterを挙げ ソーシャルメディアと比較をしながら、普及理由を考察した。 mixiはユーザーからユーザ へと累乗的にネットワークが広まることによって生まれる情報の量と、膨大なユーザーに よるコミュニケーションの多様性が圧倒的なものであることがその理由として考えられた。 一方、 Twitterはリアルタイム性と短い文章によるコミュニケーションを主体とした他のソ ーシャルメディアにはない緩さ、ソーシャルハブとしての機能性が理由として考えられた。 第4章ではこれまでの前例から、ネットコミュニケーション特有のリスクを挙げた。近 年インターネット上に安易に個人情報をインターネット上に掲示し、トラブルに巻き込ま れるケースが増えている。これは、相手が現実で交友関係が無い相手であってもsNSなど のコミュニティにおける集団連帯感から過度な信頼を寄せてしまうユーザーが多いためと 考えられた。加えて、そのような内輪的コミュニティに常駐することで自己意見が閉塞的 になってしまう可能性もある。情報の氾濫により、取捨選択と真偽の見極めが難しくなっ ていることもインターネットヨミュニティのリスクを増幅しでいる原因と考えられた。

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変化するコミュニケーションーソーシャルメディアの畢生-

2006HPooI 安部真紀子

近年インターネットの普及が進むにつれ、情報通信産業も盛んになった。様々なメディ

ア媒体で人々が関わることを促進する場が提供され、その場で流行や繋がりが生まれると

いう現象が見られるようになった。ブログにネット掲示板、ミクシイやマイスペースなど

のSNS (Social Network Service)、またはユーチューブやニコニコ動画などの動画サイ

ト、価格ドットコムやアットコスメなどのユーザーによる評価サイトがそれである。ユー

ザーにより情報スペースが形成されるこのような場は"ソーシャルメディア"と呼ばれる

情報媒体によって可能になっている。このようなメディアは増加・多様化し、それによっ

てもたらされるコミュニケーションスペースは増大しつつある。ソーシャルメディアの増

加の理由として、パソコンや携帯電話によるインターネット利用の普及がまずは挙げられ

るが、本研究はそれ以外の理由の考察を目的とした。人々がネット上での交流し、ネット

を利用しての現実世界の交友関係の拡張を図るようになるまでの経緯を追いながら、ソー

シャルメディアの普及の原因を考察した。

まず、第1章ではインターネットやモバイルインターネットが普及していく社会動向に

関するデータを引用しつつ、ソーシャルメディアがどのように生まれ一般化したのかを考

察した。 2002年には25・1%であった個人世帯のブロードバンド普及率は2009年には60%

にまで上昇した。これとともにSNSやレビューサイト等のソーシャルメディアの利用率

も上昇している。

第2章と第3章では第1章の考察を踏まえ、ソーシャルメディアの中でも八割以上のシ

ェアを誇るmixiと、 2009年だけでユーザー数が10倍に膨れ上がったtwitterを挙げ、他の

ソーシャルメディアと比較をしながら、普及理由を考察した。 mixiはユーザーからユーザ

へと累乗的にネットワークが広まることによって生まれる情報の量と、膨大なユーザーに

よるコミュニケーションの多様性が圧倒的なものであることがその理由として考えられた。

一方、 Twitterはリアルタイム性と短い文章によるコミュニケーションを主体とした他のソ

ーシャルメディアにはない緩さ、ソーシャルハブとしての機能性が理由として考えられた。

第4章ではこれまでの前例から、ネットコミュニケーション特有のリスクを挙げた。近

年インターネット上に安易に個人情報をインターネット上に掲示し、トラブルに巻き込ま

れるケースが増えている。これは、相手が現実で交友関係が無い相手であってもsNSなど

のコミュニティにおける集団連帯感から過度な信頼を寄せてしまうユーザーが多いためと

考えられた。加えて、そのような内輪的コミュニティに常駐することで自己意見が閉塞的

になってしまう可能性もある。情報の氾濫により、取捨選択と真偽の見極めが難しくなっ

ていることもインターネットヨミュニティのリスクを増幅しでいる原因と考えられた。

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ホスピタリティの変貌

-マニュアル化されたディズニーランドへ-

2007HPO21疋嶋美希

本研究の目的は、近年注目を集めている「ホスピタリティ」の変貌を社会背景と照らし合わし

ながら検証することであるoホスピタリティは近代以前から存在していたが、近年の「ホスピタ

リティ」はそのとらえ方が大きく違ってきている。まず第1章では、ホスピタリティの歴史や

文化や産業化、構成などについて取り上げ、ホスピタリティの概略を示した。

第2章は、なぜ「ホスピタリティ」が現代の社会に求められるようになったのかについて検討

した。その理由の一つとして挙げられるのは、経済発展により余暇が増大したことである。余暇

の増大によって、消費者の欲求が物だけで満足されなくなり、目に見えないサービスにも欲求が

向くようになったのである。その社会現象の一歩として、ジョージ・リッツァによる社会の「マ

クドナルド化」が考えられる。リッツァの「マクドナルド化」は、消費の領域における合理化と

いうものを、古典的な社会学者であるウェーバーの合理化論を基礎にして考察したものである。

本研究は、リッツァにもとづきながら、日本におけるマクドナルド化、そしてマクドナルド化の

利点や欠点、マクドナルド化が及ぼす影響について論じた。

第3章ではマクドナルド化によって、ホスピタリティがどう変化したかについて論じた。マク

ドナルド化のホスピタリティはスピードが求められる。マニュアル化され、その通り行えば厳し

い研修を行わなくても誰でもできるマニュアルである。しかしスピードを重視しすぎると、ホス

ピタリティの意味である「もてなしの心」が薄れてしまう問題がある0

第4章ではマニュアル化されたホスピタリティのあり方として、 「もてなしの心」の有無を感

じさず、人々を虜にしてしまうホスピタリティを行うディズニーパークを取り上げた。ディズニ

ーパークが世界中で人気になることによって、社会も「ディズニー化」する動きが見られるよう

になった。アラン・プライマンの『ディズニー化する社会』では、現代社会がディズニー・テー

マパーク化し、様々な社会制度や慣行に影響を与えてきた点に注目するとともに、ディズニーパ

ーク第-号の開園以前に発展してきたディズニー化の原理が論じられている。この原理をもとに

ディズニーパークの影響を考察した。

第5章では世界のあらゆるところでディズニー化が起きていることを、遊園地やレストラン、

モールの事例を取り上げた。ディズニー化されることで消費者の消費の仕方が大きく変化し、ビ

ジネス戦略としてもディズニーランドのホスピタリティが導入されている。

マクドナルド化、ディズニー化が広まり、同じような建物や場所が世界各地で見られるように

なっている。そのため互いから差別化し、オリジナルを志向する脱ディズニー化も見られるよう

になった。こうした脱ディズニー化という新しい社会現象をふまえ、今後ホスピタリティはどの

ように変化していくかを考察した。

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オタクの組織形成プロセス

ーアイドルオタクの派閥形成におけるインターネットの影響-

2007HI)022平林佑

本研究は個人の趣味晴好の多様化が強まり、時好と思考の「島宇宙化」指摘される現代社会

の集団形成において・インターネットのシステムの変化が与えた影響を考察したものである。その

際に、各個人が最も主体的に選択しうる集団である趣味集団の形成に焦点をあて、なかでもアイ

ドルオタクという一趣味集団を題材として扱った。

第1章では論を進めるために「アイドルとはなにか」「アイドルオタクとはどのような人たちか」に

ついて確認したoそこでアイドルオタクの気質は70年代後半から80年代にかけて変化し、アイド

ルへの愛そのものだけではなく・仲間とのコミュニケーションを目的としてオタク活動を行うものが

増えてきたことがわかった。

第2章ではインターネット上の「コミュニティ」の生成・成熟過程について先行研究を参考にしな

がら確認していった。その際に、インターネット利用の実態に応じて、メールやBBS、個人HPなど

非同期的利用が中心であった「個人HP時代」とSNSやIMなど同期的利用が盛んになってきた

rSNS時代」とを区分・さらに比較のためにインターネット利用が一般化する以前のコミュニティの

ありかたをr前ネット時代」として区分した3区分のコミュニティ形成について調べた。インターネット

におけるコミュニティは「前ネット時代」までに必要不可欠とされていた「地域性」が排除され、より

「共同性」に主眼がおかれることになった○しかし、コミュニティにはメンバ-が交流をおこなう場が

必要であり、 「個人HP時代」ではその場は個人が管理するHPであった。そのため、管理人を中心

としたコミュニティができ、発信者とフォロワ-いった一方通行的な関係が多かった.ところが技術

的な進歩によって「SNS時代」では、その交流の場の中心はSNSに変わった。これによって各個

人の発言力は均等化され、管理人といった特定の個人をハブとしたコミュニティ形成よりも、より

P2P的なコミュニティが形成されるようになった。

第3章では、 「前ネット時代」の「お二ヤン子クラブ」オタク、 「個人HP時代」の「モーヲタ」、 「SNS

時代」の「AKB48ヲタ」に関する現場での事例を取り上げ第2章の先行研究と比較し、論の整合

性について検証した。おニヤン子クラブのオタクは親衛隊の地域連合組織などに代表されるように、

コミュニティを築く上で「地域性」に大きな制約をうけていたが、それ以後のモーヲタ、 AKB48ヲタ

たちにとってそのような制約はあまり大きくなく、彼らは地域的にも活動内容的にも多様なメンバ

ーでコミュニティを形成していることがわかった。また、モーニング娘。のオタクたちは個人HPを主

な交流の場としており、現場でもそのコミュニティごとに行動する傾向が強かったのに対し、 AKB

48のオタクはSNSや現場での交流を中心としており、各個人の1対1の関係性から生まれた

P2P的な交流関係がコミュニティの基盤となっていることもわかった。

このような傾向を踏まえ、第4章ではこれまでの論をまとめ、違った趣味のコミュニティとのコミュ

ニケーションを図っていく方策として、共同性を重視してコラボレーションなどを推進していくことを

提唱した。

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リアル化するインターネットコミュニケーション

2007HPO91太EEl 千穂

表題「リアル化するインターネットコミュニケーション」には2つの意味がある。 1つ

は「現実世界」での交友関係をインターネットに持ち込むこと。もう1つはインターネッ

トの内部でのみ行われていたコミュニケーションを「現実世界」に広げていくこと。かつ

てインターネットはバーチャルリアリティ(仮想現実)と呼ばれており、インターネット

とリアル(現実)の間には境界があった。しかし今日、その境界は唆味なものになってい

る0本研究の目的は・このようにリアル化するインターネットコミュニケーションの特徴

を理解し、インターネットコミュニケーションを今後どのように活用していけばよいかを

示すことである。

まず第1章では、代表的なインターネットコミュニケーションツールの特徴について、

コミュニケーションの相手に注目してまとめた。インターネットコミュニケーションツー

ルには、特定の相手を対象としたパーソナル的なものと不特定多数を相手にしたマス的な

ものがある。ケータイの普及とともに広がったインターネットコミュニケーションは閉鎖

的で、ツールはパーソナル的に利用されることが多かった。しかし、ミクシイやツイッタ

-はユーザーの利用方法に反してマス化していった。結果、パーソナル的な意識のまま、

マス化されたツールを使う人が増えていった。

次に第2章では、コミュニケーション不全症候群、私的言語論、セルフジャーゴン、イ

ディオレクトといった概念をまとめ、既存の言葉を独特のニュアンスで用い、ごく仲間内

の情緒的な交流を目的とした言語として「自分方言」という言葉を提唱した。コミュニケ

ーション不全症候群の人は、自分の思いを他人に伝えようとしないため、自分方言を用い

て、自分と自分方言を理解できる人とのみ会話を行う。自分方言はかつて私的空間のみで

用いられる言語であったが、公の場においても私的言語を用いる者が増えてきている。

第3章では、以上の論を踏まえ、インターネットコミュニケーションツールを、マスー

パーソナルの軸と共通語一日分方言の軸から4つの象限に分け、各特徴をまとめた。この

うち、不特定多数を相手に自分方言が使われている第2象限(ツイッタ-など)では、 「『特

定の誰か』ではない誰か」がイコール「不特定多数」であるという認識がなかったため、

公の場であるという意識が薄かったのではないかと推測した。

最後に第4章では、インターネットコミュニケーションのリアル化についてまとめた。

「現実での交友関係を、インターネットに持ち込むこと」 「インターネット内部で行われて

いたコミュニケーションが、現実でも行われること」の2種類のリアル化について述べ、

インターネットコミュニケーションツールの各特性を理解し、それを活用することで、日

常生活にもよい影響を与えることのできるインターネットコミュニケーションを提案した。