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1「オプティマム」vol.11
参加型福祉研究センター情報紙「オプティマム」optimum
「 市 民 が つ く る 公 共 」コミュ ニ テ ィ ・ オ プ テ ィ マ ム 福 祉 を
地 域 に ひ ろ げ る
2ー34-5678
参加型福祉研究センター 〒 231-0006 横浜市中区南仲通 4-39 石橋ビル4F 参加型システム研究所内
オプティマム参加型福祉研究センター共同代表 小川泰子
vol.11
「オプティマム」VOL.11 目次 オルタナティブ eye 社会的・経済的困難を抱える人々への非営利・協同セクターの役割・・・・・・・・・・・・ フューチャーセッション 生きづらさを抱える人たちとともに生きる・ともに働く・・・・・・・・・・・・・ My Issue 市民にも専門職にも「対話」の達人が必要 佐塚玲子氏・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 地域活動情報 社会福祉法人いきいき福祉会「共生型コミュニティひだまり」・・・・・・・・・・・・・・・・ 参加型福祉研究センターからのお知らせ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
非営利・協同セクターに「いのち」をつなぐ覚悟があるのか
書店の店頭を見ていると、全て自分事と思って片っ端に購入したくなる気持ちと全て他人事と思って無責任に読んでみようかとミーハーな自分、そんないい加減な自分に気づき落ち込んだ年末年始。店頭に平積みされているのは、占い・運勢、政治、経済・投資、ファッション、IS、アメリカ大統領選、グルメ、ミシュラン旅行、健康、スポーツ、絵画、日曜大工、資格取得等々。団塊世代と団塊ジュニアの興味をどこまでも消費の貪欲さとして追求させ、「三本の矢」効果を出版会社が煽っているかのようだ。 世界の株式市場は中国経済に揺さぶられながら、拝金主義と戦争産業に集約されてきている。一方、地球規模の環境問題と気候変動に人間を含むあらゆる生命体の存続が危ぶまれ、世界環境会議を開催してもその結果責任の当事者性が無く、改善どころか悪化の一途を辿っている。小さな命が世界中で悲鳴を上げている。 SOS も出せない社会的・経済的困難を抱える人間が世界中に増えている。「格差社会」問題はあらゆる国に蔓延し、根を張り、世界を覆う伝染病の如く人々の命を奪っていく。そして、「世界の警察」と豪語していた “NO1. アメリカ ” は、
「我々は世界の警察ではない。もはやその力はない」とオバマ大統領が世界に向けて言い放ち、その一方で中東への戦略なき戦争関与で、アメリカはじめ世界各国は①人種差別、②弱肉強食、③軍事強国、④拝金主義、⑤多様性を許さない独裁化へと舵をきっている。
このような地球規模の困難時代に生きる私たちに一体何が出来るのだろうか!? 問題の解決が見いだせないで苦しんでいる地球・市民の思いが若い世代の新たな行動へとつながってきた。 “ もうあきらめました ” という市民運動家の声を最近耳にするが、それは許されない。
高度経済成長時代というある意味「余力」があった時代にあって大勢を批判することは真の市民の活動でも「市民運動」でもない。今のような時代を創らないための市民としての良識を持った活動だったはず。だから今こそ市民一人ひとりの判断が求められ、価値がある。
「市民」の共通認識は地球規模にあっても、“ 命より価値のあるものなど存在しない” である。 命の価値を尊ぶからこそ政治や経済を健全に機能させなければならない。政治家、投資家のために多くの命があるのではない。人間の欲を満たすために自然環境があるのではない。すべての命をつなぐために循環システムをもっているのである。 これらのことに強くこだわってきたのが非営利・協同セクターに集う「市民」である。 今こそ協同組合や NPO は自分たちのミッションをもう一度認識し、今の時代状況をしっかりとらえて、その役割を果たさなければならない。 残念ながら協同組合や NPO 関係者と話していて思うのは、今なお高度経済成長時代の中での自分たちの役割しか発想にないように思えることが多い。もはや行政を批判し、政治家を批判し、あるいは大勢に追随しているようでは「非営利・協同」の存在価値はない。おおくの「市民」はそのことに気づいている。しかし、いつの間にか非営利・協同セクターはそうした社会変化に疎くなり、何周も遅れた時代錯誤の中で事業や運動をしているのではないだろうか。そうした自己批判を含め、もう一度「市民とは何か」「参加型福祉とは何か」「オルタナティブとは」を考える。 「非営利・協同セクター」は本当に地球の命を守る覚悟があるのだろうか?
「オプティマム」vol.112
社会的・経済的困難を抱える人々への非営利・協同セクターの役割
オルタナティブ eye 近未来の社会を展望する
就労支援に取り組む(特非 )ワーカーズ・コレクティブ協会の活動
専務理事 岡田百合子
失業したとたんに困窮になる、病気や怪我をして働けなくなって困窮になる、受験・就職の失敗をきっかけにメンタル面が不安定になる、家族に問題を抱えている、両親がいないなどの理由で働くのが困難なために困窮になる・・・協会に相談に来る人は様々な課題を抱えています。 「働く」ことができない人は社会からすっぽり落ち、孤立・孤独です。効率中心の生産性の高い労働が評価される社会についていけない若者達は、時間をかけて学び経験する場が必要です。困窮者は今すぐ働かなければ生きていけないのに病気を抱えたり家族の問題があったりしてすぐに働く状況にありません。就労支援は生活支援とセットなのです。 ワーカーズ・コレクティブ協会は、「共に働く・暮らす」をキーワードに 2006 年から障がいがある人、ひきもりだった若者たちのワーカーズ・コレクティブでの実習コーディネート事業を行ってきました。2009 年には協会の事業として惣菜・弁当や「コミュニティキッチンぽらん」を瀬谷区に展開し(2015 年 3 月閉所)実習や働いた人合わせて 17 人
の若者たちが、その後一般就労したり、ワーカーズ・コレクティブ協会メンバーになるなどして巣だっていきました 当協会のコーディネートは、働くことを前提にするのではなくその人の課題を実習現場で発見し解決への糸口をみつけること、その糸口を協会のネットワークで社会につなぎ、対象者の社会的な自立にむけた時間をかけた長期の支援です。 リーマンショック以降、生活困窮の若者から、生活保護受給者へと就労支援の対象が広がり、2013 年から生活困窮者支援として就労準備支援事業を横浜市より受託、本格的に困窮者支援がスタートしました。 ワーカーズ・コレクティブの働き場は、地域や人とつながる場でもあり様々なことを学び合う場でもあります。ワーカーズ・コレクティブは、問題を共有し共に考える働き場として今の日本が抱える問題解決には欠かせない存在となっています。協会はワーカーズ・コレクティブのような民主的な運営とメンバーシップによる働き場をもっと地域に増やし、制度提言を進め「共に働く・暮らせる」社会をめざしています。
●惣菜ワーカーズになった Tさん T さんは同級生の作る集団になじめず学校に行けなくなった、中学生の時だ。簿記資格をとったが就職面接では
「今のまますぐに就職するのは無理」と言われ、気持ちは焦るがひとりでは前に進めず社会参加のきっかけがつかめない。テレビで「若者サポートステーション」の存在を知ったことが、ワーカーズ・コレクティブ協会の就労支援につながり、「惣菜ワーカーズにんじん」へやってきたのは 33歳の頃。
ワーカーズは大変じゃないですか?と聞いてみた。「いいえ。雇用の仕事場では受け身で言われたとおり働くけど、ワーカーズはそういうわけにはいかない。責任や役割があってそれぞれが役割を果たさないと回っていかない。みんなが経営者。ちゃんとやらないと利益も分配金も出ない、でもただ働いているより勉強になるし楽しい。」 受け入れる側はどうだろうか。先輩ワーカーズの S さん
就労準備の場としてのワーカーズ・コレクティブ・協同組合の可能性
格差そして貧困の拡大が新しいかつ深刻な課題となって久しい。市場労働の低コスト志向がさらに進み、2015 年非正規雇用者数が初めて全体の4割を超えた。生活保護受給者が 162 万世帯、同時に生活保護基準の引き下げが実施され、貧困・格差の拡大への危惧が高まっている。生活困窮者自立支援制度施行は、困窮からの脱却をめざし、自立相談、就労準備など支援の枠組みは評価もあるが、必須事業・任意事業の区分や伴走型支援の家計相談支援の実施体制や貸付が不十分など課題はまだ大きい。 これらの情勢に非営利・協同セクターが注目される。神奈川ではいま困窮問題を市民による社会的経済連帯(非営利・協同セクターの連帯)の枠組みで進める研究会(社会的経済連帯によるマイクロクレジット研究会)が回を重ねる。そしてすでに就労支援の実践や就労の場としてワーカーズ・コレクティブや社会的協同組合に向けた実践があり、新たな可能性を提起している。オルタナティブ eye とフューチャーセッションは、非営利・協同セクターの取り組みを取り上げた。
「共に働く」~ワーカーズ・コレクティブと協同組合の現場から~
「オプティマム」vol.11 3
オルタナティブ eye
就労準備の場としてのワーカーズ・コレクティブ・協同組合の可能性 はいう。「自分ひとりではできないことは周りに助けてもらうしかない。迷惑をかけるのではないかと思わず、甘えさせてもらうことも必要。そして「にんじん」だけを居場所にせず、ステップアップも応援している。」
※ワーカーズ・コレクティブは、1982 年協同労働で運営する雇用されない新しい働き方として誕生。惣菜ワーカーズは、主婦としてのキャリアを積んだ女性たちが、安全にこだわり、仕入れ・レシピ・メニューも自分たちで考えて惣菜やお弁当をつくり、自分たちで経営している。
●生協のバックヤードで働くMさん M さんが生活クラブ生協のセンターバックヤードで週 4日 2 時間の実習をはじめて、5 か月になる。実習内容は組合員への配達に使う折り畳みコンテナやリサイクルビンをデリバリーセンターへ戻すための整理・分類・点検・準備だ。配送を終えた職員の業務だったが、就労準備支援の利用者として M さんが通ってくれることで、職員は他の仕事をこなすようになった。就労準備支援は、就労体験が乏しく直ちに求職活動を行うことが困難な人々に、実習活動等を支援することで、社会参加や就労につなげようという狙いがある。横浜市からワーカーズ・コレクティブ協会が受託し、利用者と協力事業所をコーディネートする。 M さんは 34 歳。ものを作ることが好きで大工という技術を持っている。大工はグループワークだが M さんは、コミュニケーションがやや苦手。数十万円もする道具が盗難にあうなどダメージが重なり退職。さらに別のアルバイト先では上司に「もっと早くやれないの」と強い言葉をぶつけられ気持ちが落ち込んだ。 M さんの協力事業所であるセンターではどうだったのだろう。U センター長は、配送未経験者がバックヤードの仕事を短期間で覚えられるか、不安はあったという。M さんは週 3 日というペースで仕事や職場にも慣れ、週 4 日に回数を増やし、職場のみんなから「頼りにされる存在」になっている。M さん自身もみんなから受け入れられ、感謝されていることを感じており、自分のペースでできる仕事が合っていると思っている。就労準備支援事業の利用期間は最大 1 年間だ。
●介護現場で働く Tさん Tさんがワーカーズ・コレクティブが運営する高齢者デイサービスの実習に来たのは 3 年前。事務職として働いていたが、職を辞する際に職場との関係性で辛い思いをした経験を持つ。仕事を探したが上手くいかず、「自分に自信
が持てるようになりたい。」と週 4 日 3 時間の実習をスタートした。しかし介護の現場はおろか、人と接して仕事をするという経験も乏しく、デイサービスを利用する高齢者にどのように関わって良いのか、指示をもらわないと動けなかったり、スタッフとのコミュニケーションでもスムーズにいかないことも多く、しばらくは戸惑いが大きかったという。 そんなTさんであったが、徐々に経験を積んで介護の仕事にも慣れてきた。周りのスタッフがTさんを受け入れて見守る体制もあり、実習後にはワーカーズ・コレクティブのメンバーとなった。その後初任者研修を受け、現在では常勤として週 4 回のデイサービスのスタッフ、週 1 回はホームヘルプにも取り組んでいる。利用者からも好感を持たれ、今やスタッフの一員として欠くことのできない存在となっている。最初は指示を待っていたが、今では仕事に対する積極性、困ったときには自らヘルプを出せるようになるなど、自分自身が変わったと思えているという。そして単にお金を得るだけでない、働く場として良い場に巡り合えたとも感じている。 福祉の現場では専門的な知識や対応についても求められることが多い。介護に携わることに本人が意欲を持って臨めば、実習の一つひとつの経験がその後の職や本人のやる気にもつながっていくという良い実例であろう。
●取材を終えて 引きこもりや就労先でのつらい経験から就労しにくくなった彼らが、心豊かに働き、暮らしていく働き方が、コストパフォーマンス重視の職場にあるとは考えにくい。現在神奈川では、協同労働のワーカーズ・コレクティブや生協が多様な人々の実習や人々の実習や就労を受け入れ、共に働く社会への窓口となっている。継続して働くことを可能とするには、社会貢献としてだけではなく、共に働くwin-win の関係性が重要だ。今回話を聞いた職場でも、彼らの存在が自らを振り返ったり、空気を和らげるなどの良い効果を生み出す。しかし一般就労の現場は、効率重視、多面的業務で人の面倒を見るゆとりがないところも多く、就労準備から一般就労へのステップは厳しい。一般就労のみをゴールとせず、例えば福祉と就労をあわせもつなど、多様な就労の場が地域にあることが重要であり、今後さらにその開発が求められるのではないか。 それにはいまだ法律がないワーカーズ・コレクティブの社会的地位を確立するためのワーカーズ・コレクティブ法の整備や、共に働く場の社会的事業所支援制度、そして社会的協同組合などの社会制度改革が必要だ。
(城田喜子・荻原妙子 )
「オプティマム」vol.114
生活困難の人たちがどう社会と関わっていくか。精神や知的障がいのある方、引きこもりの方々の社会との接点を作り出している実践を取材してきた。今回の二か所は、共に農業に関連している。作業や植物を育て、収穫を通して、自分のやっていることが見えていることが大事だ。そして、地域に自分たちがやっていることを見せて、
地域の人たちの参加の場をつくる、そんな仕掛けをしている例である。
フューチャーセッション●立場を超えたつながりが未来をつくる フューチャーセッション●立場を超えたつながりが未来をつくる
している。小麦畑では秋は種まき、1 月には麦ふみ、5 月のドライフラワー作り、6 月の収穫と季節ごとにイベントを開催し、地域の人々とのつながる場となっている。昨年秋の種まきには子どもたちも含め 25 人の近隣の人たちが参加した。「仕事は継続することが大事。仕事とは単に賃金を得るだけではなく、人と人とのやり取りが生まれる場であり、誰かの役に立てるということを実感する。だからこそ社会との接点の少ない障害を持つ人たちにとって、この接点をどのようにつくって広げていくかということを考えていかないといけない。」と萩原氏は語った。
( 城田喜子 )
「笑天」(しょうてん)「生きづらさを抱える人たちが農業のワーカーズに」? そんな情報を得て神奈川県生協連主催の学習会に行った。就労の場がなく生きづらさを抱える人々が遊休農地・高齢化に悩む農地で協同労働をおこなう。サポートする労働者協同組合ワーカーズコープ※ 1 と株式会社報徳農場※ 2 をつないだのは、農と福祉をつなぐまちづくりへの思いだった。農業を通じて仲間作りを応援する地域の居場所”「笑天」NPO ワーカーズコープがいま取り組む “ 農業を通じて仲間作りを応援する地域の居場所 ”「笑天」を訪ねた。笑天は足柄上郡5町に住み暮らす「失業で生活に困窮する社会参加が苦手」なひとびとに働きかけ、農業を通じて社会参加をサポート、具体的には農の実習、健康生活相談、仲間作り、就労相談を通じて社会参加を支援する自治体事業「開成町
ファール・ニエンテ
横浜市営地下鉄下飯田駅前。草木に囲まれた三角屋根の瀟洒な建物、小麦畑の石窯ベーカリー&食堂ファール ニエンテがある。自家製小麦を使ったピッツアと生パスタ、80 種類を超えるパンが楽しめる地域でも人気のスポットだが、ここは社会福祉法人開く会が運営母体となって 2014 年 11 月に開設した、主に知的障害のある人たちの支援を行う障害福祉サービス事業所である。ファール ニエンテ(Far niente)とはイタリア語で「何もしない」ということを意味する。誰もが互いを認め、そこにただいることのできる空間をめざそうという意志を込めて施設長の萩原達也さんが命名した。 障害福祉サービス事業所としてのファール ニエンテは雇用契約を結び、パンの製造販売、ピザとパスタを中心とした料理の提供を仕事とする就労継続支援 A 型事業。農業とガーデン管理の仕事を行う就労継続支援 B 型事業、パン屋さんやレストラン、農業への就労を目指す就労移行支援事業の 3 つの事業を行っている。ここは 27 人の障がい者、福祉職員やパンやピザを焼く職人などが共に働く場となっている。レストラン奥には大事なコンセプトでもある溶岩を切り出して作ったパン焼きの石窯があり、取材当日も 20 数年にもわたってパンをつくる障がいを持つ人が働いていた。 一見まちのおしゃれなレストランであるが、実は福祉事業所としての細かい仕掛けが随所にある。敷地内の 100 種類 300 本を超す樹木と草花は、敢えて人の手を必要とする植物を選ぶことによって、仕事をつくり、作業を通して地域の人とのつながりをつくることまでも意識
生きづらさを抱える人たちとともに生きる・ともに働く
施設長の萩原達也氏
石窯と大人気の焼き立てピザ
横浜市泉区和泉町 1011-1℡ 045-392-3225
ベーカリー&レストラン
足柄上郡開成町延沢 1407-18℡ 0465-43-7984
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フューチャーセッション●立場を超えたつながりが未来をつくる フューチャーセッション●立場を超えたつながりが未来をつくる
自立支援事業所」。16 人が登録し現在 7 人が通う。居場所は平日 9 時〜 18 時開所。2 〜 4 時間農業研修がある。6 名が男性で 18 歳から 64 歳。高校中退や人間関係で引きこもり、社会参加・就労参加がしづらく全員が生活保護を受けている。農福連携のみちのり 「笑天」所長の鳴海美和子さんはワーカーズコープ県央エリアスタッフ、困窮者・生活保護者の自立就労支援プロジェクトリーダーとして活動するうち、地域資源・遊休農地を使って困窮者の就労支援ができないかと考えた。農と障がい者など福祉の結びつきが地域を元気にする「農福連携」が地域再生の新たなキイとし登場してきていた。そこで報徳農場を訪問。当初は「怪しい人」と思われたらしい。毎週西湘エリアに通い、思いを伝え地域の協力者のネットワークを作り、信頼を得、政策提案、事業受託まで 2 年かかった。資金作り 資金は緊急雇用創出の基金による「地域人づくり人材事業」に応募。プロポーザルの競争相手は農業法人だ。農業法人は農業としての成果を出す必要があり、スピードの速い作業計画だった。福祉から出発するワーカーズコープの計画は就労になじまない研修者に合わせゆっくり作られて
ことを当事者からリアルに感じさせてくれました。 奥田さんからは、生活クラブ運動グループは社会の問題を解決するために様々な事業を行っており、その資源をつなぎ組合員や市民への社会的包摂をつくること。配達やデポーでの組合員の様子からアウトリーチもできる。組合員が生活困窮に陥る手前の活動を豊富につくれるのが生協の役割だ。とお話を頂き、具体化に向けたロードマップを一歩ずつ踏み出す機会となりました。
いる。そこが評価された。2014 年 12 月に研修と居場所になる「笑天」を開所。
自主事業ならルールは自分たちで決められる 「笑天」の課題は、①自治体受託事業である限り足柄上郡5 町の住民限定、②地域人づくり人材事業は 2015 年度で終了、③農福連携の実現。地域ニーズはずっと地域に通ってきた中でつかんでいる。町の多くの人に会い協力者の地域ネットワークもできた。自治体事業は終了しても、広く出資を求め資本を作り、自主事業として継続したい。「自主事業ならルールは自分たちできめられる。近隣の自治体からの希望者も受け入れられる」。農福連携は農と福の対等互恵の関係で成り立つ。仕事にするためには売れる野菜を作りたいが立ち位置は福祉。ゆったりした農業で農と福の対等互恵にチャレンジしたい。実現に向けて報徳農場と真剣なやりとりを続けているという。報徳農場は 2016 年 4 月ワーカーズコープに一体になった「報徳ワーカーズ」(仮称)として農地を守り農業生産を行い、子どもたちの農業体験、就労支援などに取り組むという。 ( 荻原妙子)※労働者協同組合ワーカーズコープは「仕事おこし・まちづくり」の協同組合としてフードバンク、若者自立塾、若者の就労支援、学童・中学生の居場所、高齢者ディ、子育て事業、若者・生活困窮者自立支援公共施設の管理運営等を全国で展開している事業体。
ソーシャル・インクルーシブな地域社会づくりへ「SOSが言える」生活クラブへ!!
生活クラブ神奈川理事長 五十嵐仁美
生活クラブでは、2020 年までの第10次中期計画を策定する中で、理事会の基にPJを設置して基本構想をまとめました。基本構想を組合員リーダー、運動グループの皆さんと共有する場として1月 16 日に、北九州を中心に 20年に渡りホームレスの支援を行っている認定NPO法人抱撲理事長の奥田知志氏と「生笑一座」( いきわらいいちざ)による講演を行いました。 「生笑一座」のメンバーになれる条件は、ホームレスの経験がある人と一度は死にたいと思ったことのある人。ホームレスの経験談を中心に「ホームレスが産まれる社会的背景」や「ホームレスも人間としての心がある」という
県内の非営利・協同 11 の団体が構成する「市民活動エンパワメント連絡会」より、参加団体の活動やお知らせを掲載します。
生活困窮者の社会的自立をサポートし市民活動のエンパワメントを促進する連絡会より
「オプティマム」vol.116
社会」を構築する義務と責任が私達市民にも課せられていると思う。公的サービスの限界は、地域とのつながりを維持すること 今年度の介護保険改正によって、介護予防・日常生活総合支援事業が、自治体ごとに始まっている。私達、よこはま地域福祉研究センターでも、神奈川県内 16 か所で、地域の高齢者を支える「生活支援サービス」の担い手を養成する研修企画・実施に携わっている。この研修企画の段階で、身近な地域の住民を支える人や活動のイメージを持てるよう、これまで 10 年以上関わりをもった市民活動者や団体の取り組みを映像にすることを試みた。 介護保険制度が施行された後、私はデイサービスや在宅介護支援センターの相談員を務めながら、要介護高齢者やその家族にとって公的サービスに限界があることを感じていた。公的サービスが最も弱いと感じるのは、要介護高齢者の生活者としての人や地域との繋がりを維持することや、生きがいを持つことなどを助長することだ。支えあいによる豊かな取り組みがあった 介護保険制度の施行前より、住民同士の支えあいによる豊かな取り組みがあった。 温かな手作りのお弁当を届けて、ちょっとした立ち話をして低栄養の防止と見守りを併せた配食サービス。神社の社務所の縁側に集まり、たき火をみながらおしゃべりをする交流サロン。通院と買い物に付き添い、帰りにランチを一緒にするおしゃべりのお出かけサポート。要介護者や家族に寄り添い、思い思いのアイディアで、地域の特性に合わせた、お互いさまの気持ちをもって展開する取り組みだ。映像を制作するために、久しぶりにお目にかかった地域活動の皆さんは元気だった。82 歳の元民生委員さんが、一人暮らしの住民の
My Issue
2014 年度、生活クラブ生協と社会福祉法人いきいき福祉会は共同研究で「市民がつくるオルタナティブな地域包括ケアシステムの形成に向けた「基本ビジョン」~ 2025 年を見据えた参加型福祉戦略~をまとめました。団塊の世代が 75 歳以上となることによって想定される、いわゆる「2025 年問題」は私たち自身が参加し、地域の課題を解決していくことでしか乗り越えられないということが「基本ビジョン」の大きな柱です。( ※「オプティマム」VOL..6 に要約を掲載しました。)
「オプティマム」では、各界で活躍されている方々に「基本ビジョン」についてのご意見やご提案を寄稿していただくことにしました。5 回目は、地域福祉の専門家、NPO 法人よこはま地域福祉研究センター長 佐塚玲子さんです。
「基本ビジョン」への
わたしの意見 ・ 提案
市民にも専門職にも「対話」の達人が必要
<佐塚玲子氏プロフィール>1960年生 慶應義塾大学卒 神奈川県立福祉保健大学院修了 社会福祉法人でソーシャルワーカーとしての勤務を経て横浜市内中間支援団体で、福祉専門職の人材養成事業の企画実施を担当 2012 年NPO法人よこはま地域福祉研究センター設立「顔の見える関係からはじめる・はじまる」をスローガンに地域福祉推進を目指す ● 2014 年~神奈川県社会福祉審議会委員● 2015 年~神奈川県地域福祉保健計画策定委員● 2006 年~横浜YMCA中央学院 作業療法科講師
介護保険制度への期待があった 2000 年(平成 12 年)、介護保険制度が施行された年、私は、横浜市内のデイサービスで、ケアワーカーとして勤務していた。それまで 500 円を連絡帳の中に入れて通ってきたお年寄りたちが、要介護認定を受け、改めてデイサービスと契約して利用する。また、利用者には、それぞれ担当の介護支援専門員が、生活課題の分析やサービスニーズを把握しケアプランの作成や介護サービスの調整・管理もするようになる。現場は活気があった。併設の在宅介護支援センターも含め、相談員や介護支援専門員など専門職員が増え、「介護」の専門性が高まり、システム化が進むことを感じた。 介護保険制度施行から 15 年が経過した。社会的介護はより一層、要介護高齢者やその家族にとって不可欠なものになった。実際、要介護認定者数は、平成 24 年の時点で 2.44倍の 533 万人に。介護給付費も、初年度 3.6 兆円が、10 兆円にとどく勢いで増加している。そして、同時に保険料も全国平均 2,911 円から 5,000 円台に増額しなければならなくなった。1960 年代、65 歳以上の高齢者を 9 人の市民で支えていた時代は「胴上げ型」、2012 年には 2.4 人で支える「騎馬戦型」に、そして、2050 年には 1.2 人で支える「肩車型」へと変わっていくことが予測されている。家族介護が困難であることは多くの人が実感しているが、社会全体の構造で考えても大変厳しい状況なのだ。
持続可能な地域社会を 「持続可能な社会保障」というフレーズをよく聞くようになったが、これらの数字を見るとき、果たして持続できるのか?と多くの人が不安を感じることだろう。 しかし、今の時代を生きる私たちは、この現実から目を背けることはできない。次世代を生きる子供や孫のためにも、安心して、生き生きと暮らすことのできる「持続可能な地域
佐塚玲子氏(特定非営利活動法人よこはま地域福祉研究センター 副理事長 ・ センター長)
「オプティマム」vol.11 7
地域活動情報
囲が限られてくる高齢者住民には厳しい条件となっています。高齢化・少子化に対応する「住まい」を 労働力を集中させるために用意する「住まい」と高齢化・少子化に対応する「住まい」は全く求められる機能が違うものです。 ラポールグループではそれらを 13 年以上前に考え、UR団地での参加型福祉の展開を考えてきました。是非、一度大和市上和田団地の「共生型コミュニティひだまり」にお出かけください。コミュニティ・オプティマムのソーシャルワークの重要性を実感していただけると思います。
高齢化と孤立化が進む” ニュータウン団地群” ラポールグループの「住まい方事業」の一つとして、2004 年からスタートしたラポール上和田事業(デイサービスとたまり場事業)は、2012 年度末にデイサービスを撤退し、まさに、UR 団地の未来予想に向かって介護保険制度事業ではなく、日常生活支援事業と予防介護に向けて、2014 年度より「共生型コミュニティひだまり」を拠点としてラポール版地域包括ケアシステムの構築に向けて動き出しました。 日本の高度経済成長時代を支える「住宅政策」として全国に建てられたニュータウン団地群は、高齢化する住民の住まいとして建物面からも、消費生活の面からも、行動範
社会福祉法人いきいき福祉会ラポールグループ住まい方事業・UR バージョン
「共生型コミュニティひだまり」~だれでもふらっと立ち寄れる地域の居場所~
2014 年度高齢化率 ( 大和市データ )神奈川県 大和市 上和田団地
高齢化率 22.8% 21.9% 41.3%
一番遠い棟からバスや徒歩でコーヒーを飲みに来られる 90 代 団地住民のマジシャンがマジックを披露
井戸端会議や趣味サークル活動の場、折り紙の会やペン習字教室が自然に発足
放課後の子供たちが集まります
「ひだまりつながり隊」 団地自治会との協働事業で「ひだまりつながり隊」が住民の生活を見守る。住民ボランティアによる参加型支援を実施●買い物支援●日常生活支援●安否確認●つながりチェック(見回り)
ために朝食サービスを提供しているのには驚いたが、笑顔が素晴らしい。少子高齢化・人口減少社会の希望 少子高齢化・人口減少社会において、私たちが明るい希望を持つには何が必要なのか。 社会的介護は、15 年の間に、複雑多様な個別ケースへの対応力を確実に向上させたと思う。しかし、制度・政策や専門家のみに委ねるわけにはいかない時代だ。
私達市民も、自らが暮らす地域に目を向けよう。身近な生活者同士が対話をし、どんな支え合いができるのか、無理をせず、できることを始めてみることはできないものだろうか。 小さな営みが、人や組織のつながりが、明日の地域社会を必ず支えることになるだろう。対話は、「話す×聴く」どちらが0でも0になってしまう。繋がりをつくるのに欠かすことができないのが対話だとすれば、市民にも専門職にも対話の達人が必要だ。(さつかれいこ)
社会福祉法人いきいき福祉会 専務理事 小川泰子
「オプティマム」vol.118
「オプティマム」vol.10< 1,600 部> 2015 年 12 月 25 日発行発行者:参加型福祉研究センター
〒 231-0006 横浜市中区南仲通 4-39石橋ビル 4 F 参加型システム研究所内Tel045-222-8720 Fax045-222-8721
e-mail:[email protected]://www.sanka-fukushi.org
親が親でなく、友が友でなく、師が師でなく、私が私でない、変わらないものはない峠越えに遭遇する人生の秋。人生下り坂万歳とは言うものの、下り坂はひたすら前のめりだ。老いが足下を掬う。初めて分け入る路が続く。○「たすけてと言える先」をどれだけ多く所有できるかが、参加型福祉で目指す「自立」ではないかと気づくのも、峠を越え下り、初めてわかったことだ。雲を追って峠を登るときには見えない思いがけないことが待っている。○そしてあるときは違う目も開く。日本地図をひっくり返して見ると日本は大陸の端に弧を描き細く大陸にへばりつく岩。日本海は湖か内海。この岩の連なりに住む人々が、時に大陸の文化を受け、大陸に武器を持って進出もし、技術革新の先進を誇ることもあった。しかし岩から逃れられない私たちが、至近距離の隣人と共に生きる宿命は変わらない。「びっくりぽんや」。O
参加型福祉研究センターからのお知らせ
参加型福祉まちづくりフォーラム2015開催のご案内申込み・問合せ:参加型福祉研究センター Tel045-222-8720 Fax045-222-8721
ともに生きるコミュニティを参加型で生み出していこう!~困ったときに 「たすけて」 と言える人 ・場所がありますか?~
2015 年、社会保障制度は「自助」を基本とするものに大きく転換しました。今後爆発的に高まるであろう地域の生活福祉ニーズは、だれにとっても他人事とはいえないものです。人と人のつながりが薄れ、家族や地域の問題解決力が弱くなってきている中で、これからの時代ほどコミュニティ・オプティマム ( 地域最適 ) 福祉が求められているときはないかもしれません。いつでもそこに行けば誰かがいる、気軽に話ができる、困ったときに相談できる参加型福祉の拠点が豊富にあるということが、どんなときでも安心して暮らせる地域コミュニティには不可欠です。 今回の参加型福祉まちづくりフォーラムは、これまでの 30 年に及ぶ「参加型福祉」の実績を踏まえ、非営利・協同セクターとして、地域の課題にどう取組むのか、解決へ向けた方向性や計画の共有と、課題検討の場としたいと思います。
●日時 :2016 年 3 月 19 日(土) 13:30 ~ 16:30 ●場所 : 横浜技能文化会館多目的ホール (横浜市中区万代町 2-4-7)
●主催 :( 特非 ) 参加型システム研究所 参加型福祉研究センター
◆プログラム◆ 13:30 開会
基調講演 「〝参加” のしくみづくりに市民、事業者、 行政が協働して取り組む」 講師:東内京一氏(埼玉県和光市保健福祉部長) 14:40トークセッション 「地域に住み暮らす人たちの生活力・地域力をエンパワ メントし、ともに生きるコミュニティをつくる」 ■スピーカー 生活クラブ生協、移動サービス、食事サービス、家事介護 サービスの各ワーカーズ・コレクティブ ( 特非 )ワーカーズ・コレクティブ協会、( 社福 )いきいき 福祉会 ■コメンテーター 東内京一氏 ■コーディネーター 石毛鍈子氏(社会福祉学者。「市民 がつくる政策調査会」代表理事) 【討議テーマ】 ①コミュニティ・オプティマム福祉の拡充に向けた 生活支援サービスの課題と展望 ②参加型福祉が進める 24 時間 365 日の在宅生活 のサポート体制を描く 16:10 会員団体から次期中期計画、 次年度方針に基づく発表 16:30 閉会
参加費無料
東内京一氏 ( 埼玉県和光市保健福祉部長 )
和光市にて地域性を重視した介護保険事業を運営し、『地域包括ケアシステム 和光方式」を確立。2009 年4 月厚生労働省老健局総務課課長補佐に就任。地域包括ケアシステムを念頭に置く介護保険法等の改正や地域包括支援センター機能強化業務等に従事。2011 年 10 月より和光市に帰庁。
埼玉県和光市は、 首都圏のベットタウンに位置する人口 8 万人、 高齢化率は 16.4%。 2003 年から総合事業をスタートさせ、 2015 年 4 月に新総合事業に移行。 今後、 高齢化率が大きく上昇すると予測されているが、 「介護度が軽くなることや自立になることが幸せ」 という意識が、 高齢者やその家族及び地域住民に浸透してきている。介護サービス以外にも介護サービス“卒業”後の様々な受け皿としてパソコン、英会話、ヨガ、運動教室、囲碁クラブ、料理教室など、10数種類の豊富なメニューが用意されている。それらは、支援方針の決定、地域住民や専門職からなるケアチームの編成などが行われる「コミュニティケア会議」での 個別のニーズに合わせたきめ細かい取組みがもとになっており、家族、住民等関係者、各専門職、行政の協働による地域のネットワークが形成されている。
コーディネーター 石毛 鍈子氏
(「市民がつくる政策調査会」代表理事)
社会福祉学者。個別で多様な地域の生活ニーズを市民相互の関係で実現し、コミュニティの中でより豊かな生活福祉の実現をめざすという「コミュニティ・オプティマム福祉」( 造語 ) の発案者。
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